●かんべえの不規則発言



2003年7月




<7月1日>(火)

○こういうところが自民党らしいというのでしょうか。自民党総裁選挙は「純ちゃんで決まり」(石原都知事)から後が続かない。でも、解散も近いことだから、この際、選挙運動だと割り切って、思い切り派手な出来レースをやればいいじゃないか、と。一転して豊富な対抗馬が出てきそうな雲行きになってきました。カメさんはもちろん、リベラル派のベテランとか、某政策新人類とか。あいにく聖子ちゃんは出ないとか。「20人の推薦人」が集まらないようなら、頼みに来れば貸してやろうという奇特な人もいるらしい。

○先週号で書いた通り、とにかく自民党はちゃんとした政策論争をすることが重要で、そのためには「純ちゃん対カメさん」じゃ物足りない。なにしろこの2人では、「構造改革対財政支出」と軸が単純すぎて深まらない。そこをリベラル派のベテランが靖国神社参拝問題でからみ、某政策新人類が金融と産業再生で攻める、という構図になれば、もちょっと論争が立体的になってくるではないか。

○「誰が勝つか分からない」という戦いにはならなくても、とにかく自民党内で経済、外交などで論争の軸ができる。4人も候補者が出ると面白くなるでしょう。ぼ〜っと見ていると、またまた忘れられていくぞ民主党。ご用心。

○民主党といえば、例の合流問題がお流れになったとき、「町内会とマフィアが合併できるかぁ」という声があったそうな。片や議論百出で何も決まらない町内会、片や親分が右といえば全員が右を向くマフィア。一緒になったら、「団結した1割は残りの9割を支配する」という冷徹なナチスの原理が出現していただろう。つまり小沢一郎の思う壷、ということだ。ま、見送って正解だったんじゃないでしょうかね。

○ところで本日、7月1日をもって下記の物価が改定される。

 ・たばこ1箱あたり10−30円値上げ
 ・日本マクドナルドが価格改定。59円ハンバーガーは80円に値上げ
 ・日本航空システム、全日空が国内線普通運賃を約11%値上げ
 ・本州四国連絡橋公団が通行料金を10%値下げ

○「これでますます景気が悪くなる」と見るのが一般的だろう。ところが本日発表の日銀短観は、景況感が2期ぶりの改善となっている。いったいどっちが本当なのか。景気は頭打ちして下降に向かうのか、それとも踊り場にいるだけで、しぶとく上昇に向かうのか。

○かんべえ、景気は失速していないと見る。5月までの日本経済は、イラク戦争とSARSのリスクに脅えていた。それでも1−3月期のGDPはプラス成長で、個人消費もプラスだった。6月になってこれらの重しが消えたら、とりあえず株価が上昇した。あとは消費も上向くのが道理というものだ。「雇用に不安があり、可処分所得も伸びない中で、消費だけが伸びるということはあり得ない」てな声が聞こえてきそうだが、見ててご覧、きっと外れるから。私は知っている。エコノミストの多数派はいつも間違うのだ。

○わずか2ヶ月半前に、こんな文章が書かれていた。

「株価の崩壊が始まった。白昼夢が終わりつつある。・・・・後は依然250兆円残っている株式価値が毀損しつづけ、経済と国民生活に甚大な影響を与えることを傍観するのみである」(4月25日)

「怒り、そして場合によってはだまされたという気持ちや全般的な失望感が市場のセンチメントを支配している。・・・・潜在的な危機が危機と断定されるまで、市場の底入れは難しいと思われる」(4月24日)

○いずれも外資系のストラテジストによるもの。4月下旬には、こういう議論がもっともらしく聞こえた。今読むと、異和感がある。6月以後の市場は、行き過ぎた悲観を修正しているのだと思う。その先に「名目で2.5%成長」路線が待っているようには見えないが、奈落の底に落ちるようには思えない。なんとなれば、人間、生きていくためにはお金を使う。そしてお金は、この国にはけっしてないわけじゃないのである。


<7月2日>(水)

○盛大に株価が上げているところを見ると、やっぱり強気正解という感じですね。「ルック@マーケット」の残党+復活希望組も、こんなページができていよいよ活気づいています。

http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Studio/1171/

○慎重、かつ正統派エコノミストであるこの人も、昨日をもって弱気から中立へと転換されました。この論文にはぜひご注目いただきたい。なにしろ「もはやデフレではない?」という仮説ですから。

http://www.tsukasaki.net/report/report0307.html

○光りあるところに影がある。株式市場が活況を呈する陰で、債券市場は動揺を隠せないところでしょう。ひとつだけ確かなことは、何かが変わりつつあるということ。先に待ち受けているのが天国か滝壷かは分かりませんが、とりあえず閉塞状況に風穴が開きつつある。悪い話ではないはずです。


<7月3日>(木)

○先日からかんべえがこだわっている、「お前の話はつまらん!」という金鳥のCMは、こういう設定になっています。

●出演は、劇団民藝の大御所・大滝秀治さんと、独特の芸風でドラマにCMに活躍中の岸部一徳さん。2人の役柄は大滝さんが妻に先立たれた老年の男やもめ、岸部さんが離婚の結果実家に戻った中年のサラリーマンです。舞台はお墓参りに来たお寺の境内と、岸部さんが出社する前の玄関先に決めました。

○実はこのCMには、こんなストーリーが隠されていたのです。題して金鳥小説「父子水」(おやこみず)全5回。通して読むと感動ものです。

http://www.kincho.co.jp/tama/oyakomizu/index.html @〜D

○このCMは、高齢化した日本社会をさりげなく切り取っている名作ですね。リストラされた中年男と、その父の会話のなんと哀愁に満ちていることでしょう。

深夜、玄関の戸をガタガタと鳴らして父が戻ってきた。四十代の頃は毎夜一升の酒を欠かさなかった父だが、今は近所の「さつき」という小料理屋で二合の酒を傾けるのが愉しみになっている。時の流れとは不思議なものだ。いまやキンチョールは水性になり、父の酒量は私より少なくなっている。

○とくにこの最終回のご両人の顔がとてもいい。なんて年輪なんでしょう。

http://www.kincho.co.jp/tama/oyakomizu/05.html


<7月4日>(金)

○読売新聞の金曜夕刊コラム「気鋭・新鋭」の取材を受けました。記者の方は、宮崎哲弥さんの書評を見て、『アメリカの論理』を手に取ったとのこと。私のような42歳の者が新鋭はいかがなものでしょうか、と申し上げると、いえいえ芸術家は20代でも行けちゃいますですが、論壇系の方は40代でやっとお声がかかります、とのこと。論壇系ねえ。

○企業エコノミストが本を書きました、という話だけならそれで終わるんだけど、こんな風にネット上で情報発信をしていて、どんな経緯で始めたかとか、それと会社の業務はどう絡んでいて、この先はどうなるのか、などという話をしていると、やっぱりワシャ相当に変わったことをしておるのかなあ、と思う。

○取材の終りに、記者の方が重要なカミングアウトをした。「実は私、阪神ファンなんです」。おおお、やっぱり読売の記者でも、探せばいるのである。そういえば私の両親は双方とも重度の阪神ファンであるが、子供の頃から家で取っているのはいつも読売新聞だった。

○ちょっと風邪気味。でも月曜にはこんな(↓)仕事もあるので、週末のうちにちゃんと直しましょう。ではオヤスミナサイ。

http://www.nasu-net.or.jp/~yoshimi/2003/030707party.html


<7月5日〜6日>(土〜日)

○二日間ひたすら寝まくって、やっと回復してきました。それでもまだ喉が痛い。のろがひらいひょ〜。

○特に風邪を引きやすいということはないんだけど、喉が痛くなるのはしょっちゅうである。こまめにうがいをすればいい、ということは百も承知だし、できればイソジンを使った方がいいってことも知っている。でも長続きしない。寝ながらウイスキーをストレートで飲む、というのも悪いに決まっている。いけませんねえ。

○喉が痛くなったときに、頼りにするのがヴィックスドロップである。それもオレンジに限る。でも、昨日行ったマツモトキヨシではオレンジが1個しかなくて、しょうがないからオレンジとレモンを1個ずつ買ってきた。

○あるとき海外で喉が痛くなり、ドラッグストアでVicksなるドロップを買い求めてみたところ、日本のそれとは似ても似つかぬ味であった。てっきりグローバル商品かと思っていたのに、やはり日本の製品の方がきめが細かいのである。でもって、「やっぱり日本のじゃなきゃ嫌」と思ったのであった。

○あらためて箱を見ると、発売元大正製薬、輸入元マックスファクターとある。製造元がどこかは書いてない。まあ、別にどこでもいいんだけども、今度、オレンジのヴィックスを買い置きしておこう。


<7月7日>(月)

○「渡辺喜美“脱”経済非常事態セミナー」に出てまいりました。赤坂プリンス、800席立ち見付きの壇上に立ちますと、なかなかに壮観なものでございます。自分の知り合いが大勢見つかるのはいいのだけれど、あ、あれはテレビでよく見るエコノミストじゃないかとか、あ、うちの会社の人間がいるじゃないかとか、あああ、あの人には見られたくなかったな〜という人まで、見つかったりするので、精神衛生上はよろしくありませぬ。

○今日も株は買われ、日経平均は1万円近くまで上昇した。でも、これは国際情勢が急に安定したお陰のボーナスのようなもので、ここで喜んでしまってはいけない。こういうときこそ、長年の問題に決着をつけて、脱非常事態を急ぐべきではないか、てなことを申し上げたのだけど、そこはかんべえのことですから、「アメリカ中心の幕藩体制構築」とか、「大量破壊兵器の破棄はグローバルな刀狩り」などという暴論も飛び出すわけです。さて、どんな風に聞かれていたのやら。

○セミナー後の懇親会が見物でありました。渡辺先生、冒頭のご挨拶でボルテージを一段と上げて、この経済右肩下がりの非常時に、総理大臣になるまで30年もかかるようなシステムをそのままにしておいてはイケナイ!と強く訴える。後に続く挨拶では、「これは秋には総裁選に出られるのでは」(某閣僚)、「その際には事務局を務めさせていただきたい」(某政策新人類)、「その辺を見渡すとすぐに20人くらい集まりそう」(某若手代議士)、「総裁選を面白くするために是非立ってもらいたい」(某女性代議士)などと発言がエスカレートしていく。

○言質を残したわけではないのだけれど、流れができたようでもある。こういうところが政治の世界の玄妙なところで、虚にして実、実にして虚とでもいうんでしょうか。明日の新聞がどう書くのか、ちょっと楽しみです。


<7月8日>(火)

○右端は渡辺喜美衆議院議員。左端は田中均外務審議官、のように見えますけど、実はかんべえです。(昨日の写真)




○打って変わって今宵は産業再生をテーマにした勉強会に参加。久々にミクロの話にどっぷり漬かってきました。

○不良債権処理、というのは貸し手の側の論理であって、借り手である企業の側から考えると、単に過剰債務を落とす(Financial Turnaround)だけじゃなくて、ちゃんと儲かるようにする(Business Turnaround)ことが必要になる。後者は見過ごされがちだけど、この苦しい経営環境下にあっては、ヒトも戦略も新たに用意しなければ、本当の意味での企業再生にはつながらない。そうでなくてもバブル崩壊後、多くの企業が債務の返済を優先し続けたために、設備投資の不足や現場のレベルダウンが生じている。いわば企業が「塩漬け」になっているようなものだ。

○企業の再生可能性とは、「この会社のビジネスは成立するか」という点にかかっている。ゴーン改革が始まったときに、日産の再生可能性はどれくらいだったか、というと、おそらく答えは「分からない」だっただろう。そのくらい難しい問題であって、そうそう「企業の生死を裁く閻魔大王」になれる人はいないのだ。だからNon Performing Loanの市場はあるけれども、Sub Performing Loanは買い手が少なくて時価がつかない。そしてそういう企業をどれだけ救えるかが、これから先の大きな問題である。単なる不良債権処理では済まない。

○具体的な作業となると、問題は山ほどあるわけだが、ひとつだけ救いがあるようだ。この10年ほどでずいぶんルールが変わり、M&Aなどがずいぶんやりやすくなった。そして人々の意識も変わってきて、なりふりかまわぬようになってきた。「人々が共有する予想が制度である」という。終身雇用というルールはないけれども、人々が「終身雇用は当然だ」と思っていたらそれが制度になる。しかし企業に対する期待値が下がって、そういう予想が失われれば、制度は変わるというわけ。

○シニカルに聞こえるかもしれないが、小泉政権は国民の反発を買わずに、上手に日本の制度を変えた(期待値を下げた)、という評価が可能かもしれない。


<7月9日>(水)

○このところ連日午後5時からが忙しくて、そろそろしんどい。今宵は新宿のパークタワーへ出没。ということは、お台場こと湾岸副都心(笑)から新宿副都心に移動しなければならない。新宿駅南口に降り立ってみたら、あらあらここは何処?私は誰? 目指すビルはどこじゃいな、とひとしきり悩みましたな。どうも遠いところは苦手でござんす。用が済んだらとっとと退散。

○ところでこんなオッズを発見しました。元ネタはここ。http://www.americasline.com/pres.html

ODDS TO BE ELECTED PRESIDENT OF THE UNITED STATES IN 2004

Thursday, July 3, 2003

By DAVID SCOTT(Senior Analyst /Americasline.com)

Name Party Title Odds
George W. Bush (R) President 3/5
John Kerry (D) Massachusetts Senator 4/1
Howard Dean (D) Former Vermont Governor 10/1
Dick Gephardt (D) Missouri Congressman 12/1
Joe Lieberman (D) Connecticut Senator 15/1
John Edwards (D) North Carolina Senator 15/1
Bob Graham (D) Florida Senator 15/1
Carol Moseley-Braun (D) Former Illinois Senator 250/1
Dennis Kucinich (D) Ohio Congressman 250/1
Ralph Nader (G) Consumer advocate 500/1
Al Sharpton (D) Civil rights activist 1000/1


○大本命、ブッシュの単勝オッズは0.6と買えない馬券になってしまっている。Pew Research Centerの調査によると、66%の有権者が「2004年はブッシュが勝つ」と答えているそうで、これはまあ妥当な格付けなんでしょう。追う側の先頭にいるのはケリー上院議員、そしてディーン前ヴァーモント州知事だが、それぞれ4倍と10倍という中穴以上の馬券になってしまっている。これが上海馬券王であれば、15倍以下の候補者に◎をつけるんでしょうな。

○あと出馬の可能性がありそうなのは、退役将軍のクラーク氏、それにヒラリーといったところでしょう。とかく候補者が乱立し、党内一本化に時間がかかるのは、伝統的な民主党の悪い癖です。早いとこ、候補者を絞った方が有利だと思うんですが、それがままならぬところは自民党総裁選挙と似てますな。


<7月10日>(木)

○「2度目の平壌会談」がある、といった報道がしばらく前の日経新聞に出ていました。その後、後追い記事は出ていませんが、実現するかどうかはさておいて、首相周辺でそういうことを目指す動きがあるのでしょう。これ、ちょっと不気味だなあと思います。

○9月17日の日朝首脳会談の一周年近くに、再び小泉さんが訪朝するとします。でもって金正日と握手し、ジェンキンズさんやヘギョンさん、あるいは拉致被害者の家族などを連れて帰ってくる。たちどころに日本は大騒ぎ。拍手喝采。その直後に行われる総裁選や総選挙も大勝利ということになる。自民党の反小泉勢力も、野党も為すすべなしといった感じでしょう。

○ただし先方も、単なる「ベタ降り」でそうするわけではなくて、核開発や経済協力での見返りを要求して来るでしょう。結果として日米韓の足並みは乱れる。韓国ばかりか日本も勝手なことをするのなら、アメリカとしても「そんなの知るか」と投げやりになってしまう。どうせテポドンはアメリカまでは届かないし。と、北朝鮮包囲網は崩れてしまう。

○そして年末、核実験を成功させて、「もう恐いものはなくなった」と笑う金正日。慌てふためく日米韓の首脳。――考え過ぎかもしれないけど、選挙のために外交を使うのは止めましょうね。コワイから。


<7月11日>(金)

○今週号の"From the Editor"で「自民党食堂、再び」という駄文を書いたら、すかさず某政治ジャーナリストから、

> 「横須賀カレー」には、結局大甘シェフの「平塚丼」が挑むことに
> なるでしょう−−。

とのメールをいただきました。それって長い間冷蔵庫に入って、すっかり賞味期限が切れてしまった「小田原かまぼこ」のことじゃないでしょうか。早く息子さんに代替わりされた方がいいように思いますが。ひょっとすると神奈川県決戦、かもしれませんね。


<7月12〜13日>(土〜日)

○へー、これは驚き。@googleを開ける。A"Weapons of Mass Destructions"を入力し、B"I'm feeling lucky"ボタンを押す。すると、こんな文章が出てきます。ほれ、御覧じろ。

http://www.coxar.pwp.blueyonder.co.uk/


These Weapons of Mass Destruction cannot be displayed

The weapons you are looking for are currently unavailable. The country might be experiencing technical difficulties, or you may need to adjust your weapons inspectors mandate.

Please try the following:

  • Click the refresh.gif (82 bytes) Regime change button, or try again later.
  • If you are George Bush and typed the country's name in the address bar, make sure that it is spelled correctly. (IRAQ).
  • To check your weapons inspector settings, click the UN menu, and then click Weapons Inspector Options. On the Security Council tab, click Consensus. The settings should match those provided by your government or NATO.
  • If the Security Council has enabled it, The United States of America can examine your country and automatically discover Weapons of Mass Destruction.
    If you would like to use the CIA to try and discover them,
    click Detect Settings Detect weapons
  • Some countries require 128 thousand troops to liberate them. Click the Panic menu and then click About US foreign policy to determine what regime they will install.
  • If you are an Old European Country trying to protect your interests, make sure your options are left wide open as long as possible. Click the Tools menu, and then click on League of Nations. On the Advanced tab, scroll to the Head in the Sand section and check settings for your exports to Iraq.
  • Click the Bomb button if you are Donald Rumsfeld.


○"I'm Feeling Lucky"ボタンを押すと、 検索結果の最高位にあがったウェブページが開くようになっています。だから「溜池通信」や「かんべえ」を入れると、このHPが開くようになっています。「大量破壊兵器」を入れると、上のページが開くというのは、人気があるってことなんでしょうね。

○同工異曲をもうひとつご紹介しておきましょう。
googleを開けて、「横浜が勝てません」という言葉を入れて、I'm feeling luckyボタンを押してみてください。「相手チームによっては初めから勝てないチームがあります」とか、「別の親会社を表示する」などという、ファンも落涙するような文句が出てきます。この手の隠し技はほかにもいっぱいありそう。


<7月14日>(月)

○今朝の日本テレビの運勢で、天秤座が最悪と言っていたのを小耳に挟んでいたのですが、なるほどチグハグな一日とあいなりました。いえ、本当は自分が悪いだけなんです。12時に帰宅して、XX社のゲラチェックをやろうとして、自宅のFAX(これがクセモノ)の印刷に失敗したのも、ひとえに悪いのは自分なのです。ぐすん。Nさん、ゴメンナサイ。

「ルック後いどばた会議」で、こんなネタが流れておりました。題して「株式市場は美人投票」。


グロース投資家
将来美人になりそうな人に投票する

パッシブ投資家
体の大きい順に投票する

バリュー投資家
美人ではないが貯金のある人に投票する

ハゲタカ投資家
多額の保険金が掛けられていて今にも死にそうな人に投票する

ボトムアップ投資家
まずコンプライアンスに抵触するほど極端なブスを除外する
残った候補者全員に入念な面接を行う
両親に会って中期的な教育方針を聞きだす
実家の見学もする

デイトレーダー
エッチできれば誰でもいい


○平均的日本人に投資する「ETF投資家」とか、誰も見向きもしないような株ばかり狙う「オタク投資家」とか、海外株を買う「洋モノ投資家」とか、あるいは全然買わずに能書きだけたれている「美人評論家」とか、ほかにもいろいろできそうですね。

○さて、株式市場を見渡して、「心底、惚れられる株」はどれでしょうか。「そんなもん、ない」ということであれば、このブームも短命に終わることでしょう。意外と見落としている大きなテーマがあるような気もするのですけどね。


<7月15日>(火)

ジェトロのホームページで面白い調査を発見しました。題して「アジア進出日系企業のSARSの影響に関するアンケート調査」(6月17日)。有効回答数1974社というから、母集団の数も申し分ない。全文は下記を参照。

http://www.jetro.go.jp/re/j/sars/sars-june.pdf

○この調査は、まさにSARSが沈静化しつつあった6月1〜7日に行われた。かんべえが知ってる範囲でも、この時期までの企業は、アジアに出張に行ってはイケナイとか、出張から帰ったら出社に及ばずとか、中国のお客さんが日本に来たいといってるけど、どうやってあきらめさせようかとか、とにかくてんてこ舞いしていた。

○この調査ではSARSの影響を聞かれ、「61.2%の企業がマイナス」と答えている。特に中国、香港、シンガポール、台湾の順で影響が大となっている。ここまでは当然。では具体的にどんなマイナスがあるかというと、「商談が滞っている」(66.6%)や「新規事業計画が滞っている」(33.1%)など、それほど深刻な事態ではない。本当に深刻な答えである「生産が滞っている」は5.4%、「物流が滞っている」は11.7%。つまり、SARSで人の流れは止まったが、モノの流れはほとんど止まっていなかったのだ。

○もうひとつ面白いと感じたのは、「中国への投資計画」について、6割は計画通り実施し、4割が「中止しないが延期した」と答えていること。みんなSARSで困ったなあ、と思ってはいたが、それで中国市場への進出をあきらめた企業はほとんどなかった。おそらく、現在はこれらの企業は「行け行けドンドン」モードになっているだろう。

○「SARSで対中投資が止まる」「アジアのSCM(サプライチェーンマネジメント)が動かなくなる」みたいな記事は、某日経新聞などで飽きるほど読んだが、案の定、実態はこんなものだった。そして日本企業のアジアでの活動は、迅速に復旧しているはずである。要するに「結果オーライ」ということだが、これも景気にとって大きなプラス要因のひとつにカウントしていいと思う。


<7月16日>(水)

○外資系プライベートバンカー来たる。よもやま話。最近のオーナー経営者の間では、「そろそろ引退したいけど、会社を引き継げる人間がいない」という悩みが多いのだそうだ。カリスマ経営者が引退すると、会社の株価自体が下がってしまう。だから辞めたいけど辞められない、というお気の毒である。たしかにカリスマ経営者の噂はよく聞くが、名補佐役の話はとんと聞かない。この辺が新興ベンチャー企業の悩みといったところでしょうか。

○日本経済の問題は、マクロでは不良債権だけど、ミクロではマネジメントの欠如ということになる。ゴーンさんや星野監督が現れると、急に組織が生まれ変わったりする。次なる問題は後継者をどうやって育てるか。こればっかりは、目をつぶって若手に実地訓練を積ませるしかないのだけれど、それができる組織はかならずしも多くはない。

○夜は岡崎研究所の経済・金融部会。株は買われて、債券は売られている。金融機関にとっては、株と債券を相殺すると、どっちかというとプラス面が多いらしい。それももっともな話で、債券ばかり買われて「日本経済詰んじゃった論」になるのは本意ではない。実体経済が明るくなることを歓迎するのが当然というものだ。

○その点で気になるのは、最近のハイテク企業の強さ。インテルの好決算に見られるように、ちょっと雰囲気が変わって来た。これはすごい話であって、アメリカ経済の問題点はハイテクバブルの崩壊なんだから、それが改善するということは問題の根元が解消するということ。喩えていえば、90年代の日本において不動産価格が上がり始めるようなものである。ということは、グローバルデフレなんて言ってる場合じゃない。こういうポジティブ・サプライズの可能性は、ほとんど織り込まれていないはずである。

○6月以来の株高は、ほとんどが国際情勢の転換(安定化)で説明できる、というのがかねてからの筆者の持論(本誌6月13日号)。ただしこの先を考えると、国際情勢が市場に影響を与えることはあんまりなさそうだ。北朝鮮の核開発がどうだとか、イラクで米兵が何人死んだとか、中東の雲行きがどうだとか、おそらく大事には至らない。この際、地政学的リスクは忘れることにして、米国の国内政治(大統領選挙)と日本の政局(自民党総裁選)に視点を移すのが得策だと思う。

○ということで、自民党総裁選については、昨日の夕刊フジでこの人が興味深い寄稿をしている。

http://www.nasu-net.or.jp/~yoshimi/mas/huji47.html

○やっぱりお皿20枚はしんどいか。でも、そこを何とかしないと、「横須賀カレー対広島風お好み焼きはカレーの圧勝」で終わってしまう。それじゃツライと思うぞ。


<7月17日>(木)

○中央大学の研究会で多摩キャンパスへ。お台場からゆりかもめで東京駅へ出て、中央線で一路立川駅へ。そこからモノレールに乗り換えて約17分。電車賃を全部足すと310+620+320=1250円になる。けっして狭くない東京都を横断している感あり。気がつくと、この辺はこの人の選挙区であったような。長島さん、昨日はパーティーに行かなくてゴメンネ。

○「イラク戦争反対」などという立て看板のあるキャンパスで、ネオコンとは何ぞやみたいな話をする。参加者は多くないけど、かなり濃密な意見交換があって、それが3時間も続く。現役学生も3人くらいいたな。あんまり話はできなかったけど、たまにはこういうのも悪くない。

○帰りがまた長躯。立川から西国分寺に出て、そこから武蔵野線でぐるりと回って新松戸へ。そこから柏着。大遠征をした感じだな。


<7月18日>(金)

岡本呻也氏が呼びかけたパーティーに出かける。特段の大義名分はないとのことで、会場の入り口には単に「岡本様」とだけある。これだけで大勢人が集まってくるんだから、幹事の実力たるや大変なものである。実際、見ていると幹事自ら、こまめに人と人を引き合わせていて、こういう気配りがしみじみ偉い。それでも本人は「大赤字」と言っていた。お中元のようなものでしょうか。

○会場にちょっと遅れて田中裕士氏が登場。昨日、奥方に男の双子が誕生とのこと。祝着至極。最近、職場の多忙と上からの若干の圧力もあってか、サイトの更新はしばらく止まっている。これを機会に子育て日記でもなんでもいいから、復活を強く希望。同感の方は、ぜひ田中氏にメールを送って圧力をかけられたし。

○さて、以下は3連休の暇つぶしにいかがでしょう。

http://www.matazone.co.uk/yes-we-have-no-weapons-of-mass-destruction-game.html

○大量破壊兵器を使った神経衰弱ですが、ピッタリ合うとブッシュとブレアが大はしゃぎしてくれるという点がミソ。このネタを送っていただいたのは、最近ちょっとご無沙汰していたノルウェーの賢人さんでした。ども。


<7月19日>(土)

○辻元清美前衆議院議員逮捕。総選挙が近づいている時期なので、嫌でも政治的な意図が気になるところです。

○正直、これで社民党は壊滅かもしれません。でも、惜しくはないよね。辻元が、というよりは五島秘書はあの党の元締めみたいな人ですから、秘書給与流用は党ぐるみであったということがハッキリしている。貧乏な政党だから、秘書給与という公的資金に手をつけざるを得なかったんだ、という事情は分かりますけど、辻元をもう一度担ごうとしたあたり、どうみても反省しているようには見えません。

○社民党は、出自が野党第一党であるということもあって、世論調査をすると視力検査程度の数字しか取れないくせに、NHKの日曜討論に呼んでもらえたり、三宅坂に立派な政党事務所を持っていたり、変に恵まれた政党です。日本に左派政党が2つは不要だと思うし、フェミニスト政党として生き残りを目指すという意見もあるらしいのに、そうなるのは潔しとしない古い支持者も多いようです。なんとかミッションを変えて再生を図れればいいんでしょうが、過去があり過ぎるがために生まれ変われない大企業のなれの果て、といった印象をぬぐえません。

○ところで政治的な意図、ということに関しては、社民党は本筋じゃなくて、敵は本能寺ではないかという気がします。同じ罪状を持つところの、田中真紀子さんに、「出るなよ」というメッセージを送っているのではないかと。マキコさんの後釜を狙っていた新潟県議が、今年春の地方選挙では再選されたとか。ということは、やっぱりご本人は総選挙に出る気があるのでしょう。それは自民党としては困る。そういう狙いがあるのだとしたら、これは妙手というものですね。


<7月20〜21日>(日〜月)

○連休は町内会のお祭りがあるんですが、準備をやった日曜の夜に発熱。そういえば2週間前も風邪だったけれど、休みのたびに寝込んでいるような気がする。いかんっす。

○しょうがないので、お祭り当日の今日はおとなしくしております。発熱のせいで脳細胞が死滅したと見えて、あんまり頭には入らないのだけど、こんなときでもと読書しているところ。

●野口悠紀雄『デフレとラブストーリーの経済法則』(ダイヤモンド社)

○週刊ダイヤモンドで連載中のエッセイの単行本化。野口氏は大蔵省出身の正統派経済学者のわりに、いつも発言が少数派に属していて私は好きだ。『超整理法』で大ベストセラーを当ててしまったため、胡散臭い人だと思っている人も少なくないようだが、たとえば竹中平蔵や中谷巌のような論文も書かない商売人とは断じて別物である。

○しかもこの人、本業以外の知識が豊富であるために、『ロード・オブ・ザ・リング』の邦訳に文句を言ったり、宇宙の広大さに思いを馳せてみたり、「最後まで残るラブストーリーの条件は年齢の差だ」と発見したり、縦横無尽なのである。この辺のぶっ飛び加減は、ダイヤモンド誌の連載よりも、最近の日経夕刊「明日への話題」でよく表れていると思う。

○さて、野口先生は日本経済の前途には非常に悲観的である。日本経済の問題点とは、日本企業が儲からなくなっていることに尽きるという。ここを何とかしない限り、不良債権処理をいくらしても終わらないし、デフレも止まらない。そして政策のタイムホライズンはどんどん短縮しているから、やることなすこと変になっている。おっしゃる通りだし、不良債権問題=企業のマネジメント力不足、というのはおそらく正しい。それでも、現場レベルの日本企業の競争力は、まだまだ捨てたものではないと思う。

○さる人いわく。ゴーン氏はブラジルから日本にやって来て、日産の工場を見てビックリしただろう。「ここには泥棒もいなければ、嘘吐きもいないじゃないか!」。そんなの当たり前のことだけれど、「日産の再生に必要なものはすべて揃っていた」という言葉に嘘はないだろう。

●北岡伸一『清沢洌』(中公新書)

○戦前の言論人で、石橋湛山と並ぶ自由主義者、清沢洌(きよし)の評伝。とくに外交評論を得意とし、日米関係への深い洞察を有していた。アメリカにおいては、大統領と議会の空白を生める形で、世論が外交を支配するようになる。ときとしてそれが移民排斥といった極端な行動を招く、といった指摘は、今日にも通じるものがある。また当時の日本経済にとって、満州からもたらされる利益はそれほど大きくはなく、むしろ米国との貿易の方が重要であり、米国との対立はあり得ない道だ、と説いた点も今日から考えると卓見である。在野にあってこういう視点を貫いていた人も、日本にはいたのである。

○リベラルであること、というと、アメリカ英語に毒された者にとっては、つい「大きな政府」「左派」といったニュアンスが浮かぶ。しかしリベラルという言葉本来の意味は、「自分で決める」「自由」であって、戦前の社会で「自由主義者」であることはそれなりに勇気の要ることであった。何のことはない、実は今でも「自由」に生きようとすることは、この国ではけっして容易なことではなくて、本当の意味でリベラルな人はそんなに多くはない。若くしてアメリカ西海岸に移民し、筆一本で行きぬいた清沢洌にとっては、それ以外の生き方は思いもよらなかったのであろう。

○どうも日本社会というのは、こういう人を大事にしない癖があるように思える。いかんですね。

●ジョージ・F・ケナン『アメリカ外交50年』(岩波現代文庫)

○1900年から半世紀間のアメリカ外交を、かの外交戦略家が語った論文集である。ちょうど98pまで読んだところで、「民主主義国は怒って戦争する」という有名な文句が登場した。この後、対ソ封じ込めの話などが登場する。

○ケナンの目を通してみたアメリカ外交は、なるほど失敗の連続である。米西戦争は不要な戦いであったし、門戸開放宣言は実質を伴わなかった。対アジア外交で日本を必要以上に挑発したのも遺憾であった。極東から日本の勢力を追い落とすことに成功した結果、「今日われわれは、ほとんど半世紀にわたって朝鮮および満州方面で日本が直面し、かつ担って来た問題と責任とを引き継いだのである」とある。そういうことに気づいていたアメリカ人がいるというのも、すごい話ではないか。

○まして、二度の世界大戦の犠牲はあまりにも甚大である。まあ、人間とは、社会とは、歴史とはそういうものだと言ってしまえばそれまでなのだが、冷徹な現実主義者の視点で語る20世紀前半の世界は興味が尽きない。それにしても、権力政治の側にいるように見える人が、民主主義の暴走を心から恐れているという不思議。

○ふと空恐ろしくなるのは、それでは現在の対テロ戦争はどうか。「どの間違いも、ある意味ではそれ以前に行われたすべての間違いの産物である」。あわわわ。


<7月22日>(火)

○こんな本が出ました。昨年の12月16日付の当欄でちょこっと噂を流しておりました、田中光二氏の新作小説です。

田中 光二『帝国アメリカ消失』 カッパ・ノベルス(838円+税)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334075266/ref=sr_aps_b_/249-3067493-3759553

○ある日突然、地球上からアメリカ合衆国が消えてしまう。物理的になくなったわけではないが、霧のようなものがかかって、外界からはまったく連絡が取れなくなってしまう。そのとき世界はどうなるか。とりあえずドルは暴落ですよね、とか、世界中で戦争や暴動が起きそうですね、というところは見当がつく。その先はどう展開するか。イラクの復興は?石油価格は?国際関係は?それから日米安保条約は?

○最初、田中光二氏と編集者のお二人に会い、このシチュエーションに関する相談を受けたときに、やはり凡人たるかんべえはこう尋ねてしまいました。「あの、アメリカが消えるというのは、どうしてそうなるんでしょうか?」。田中先生、少しも騒がず、「いえ、それは説明するつもりはありませんから」。――なるほど作家というものはすごい。思考の幅が全然違うのである。このときに受けた刺激がもとで、その翌日にはこんな「馬鹿話」を思いついてしまったほどです。が、まあ、それは別の話。

○完成した長編ポリティカル・シミュレーション『帝国アメリカ消失』では、イラク戦争終結直後に「それ」が発生する。このとき、偶然ロンドンにいた「チェイス副大統領」は、本国との通信が途絶したことを知らされる。この日から彼は、本土以外のアメリカを一身に背負って戦うことを運命づけられる。本土以外、ということはアラスカとハワイ、そして在外米軍や在外アメリカ人などが含まれる。鬼の居ぬ間に、と真っ先に北朝鮮の金正日が動き出す。中国軍部もこれぞ台湾制圧の好機だと見なす。国際情勢は混乱の極みに達する。

○わがままな帝国、アメリカに「天罰」が下るかのような設定なので、この小説は世の反米派たちの鬱憤を晴らすかもしれない。その一方で、後半ではアメリカン・スピリッツはどっこい死んじゃいない、という部分もある。アメリカが好きな人も嫌いな人も、「アメリカがなくなった世界」というものを、一度想像してみるといいかもしれません。

○"Think Unthinkable."が安全保障論の基本、といいます。本当に「思いもよらないこと」を思いつけるというのは一種の才能で、「良い問いは答えよりも重要である」(リチャード・ベルマン)という言葉を思い出します。


<7月23日>(水)

○フセインの二人の息子、ウダイとクサイが殺されたようですが、それにしてもイラクの復興は大変な様子。ちょっと心配になってきました。

CSISのHPを見ると、"Iraq's Post-Conflict Reconstruction"というレポートが掲載されています。これはハムレ所長など5人が6月27日から7月7日にかけて、イラクを訪問したフィールドワークをまとめたもの。国防総省の招聘により(ハムレ所長はペンタゴンOB)、現地の11都市と2つの港湾を視察し、250人への取材を行っています。イラク関連情報では、従来からCSISが独走状態であったことは、拙著『アメリカの論理』でも紹介しておりますが、そういう意味ではこのレポートも要注意です。

○このレポート、とにかく「こりゃマズイ」というトーンで書かれている。"Rebuilding Iraq is an enormous task."で始まり、"The enormity of the task ahead must not be underestimated."で終わる。全体で14Pのボリュームなのに、提言が7か条もあるのは異様な感じがする。言ってる内容はごく当たり前のことばかり。「公共の安全を確立せよ」とか、「イラク人の参加は重要だ」「とにかく経済活動の再開を」「地方分権を」などである。イラク暫定占領当局(CPA)への評価が低いのは驚くほどで、「CPAはイラク人とのコミュニケーションが足りないだけでなく、CPA内部のコミュニケーションも十分でない」とある。

○かんべえはイラクのことは門外漢ですが、ひょっとすると単純な問題が見逃されているような気がします。イラクは社会主義国で統制経済でした。ガソリンでも医薬品でも、戦前は安い値段で入手できた。それが敗戦後は自然な成り行きで、一種の市場経済に移行している。こういうとき、物価は高騰するものである。生活苦から、社会は不安になる。ちょうどソ連崩壊直後のロシアのような状態になっているのではないでしょうか。

○戦前には40万人もいたイラク人兵士たちは、家に戻っていてすることもない。武器はそこらじゅうにあるわけだから、いっちょ仕返しにいったろか、ということになる。こりゃもう治安が良くなるはずがありません。日本が占領されたときには、軍と内務省以外の官僚機構は手付かずだったし、国家統制型経済はそのままだった。だから配給も続いたし、傾斜生産で経済復興なんてことができた。結果として、混乱が非常に小さくて済んだ。もちろん天皇制の存在は大きいが、経済機構の安定という要素は見逃せない。

○イラク復興においても、統制型のシステムを壊してしまったという点が響いていると思う。レポートの中でもこんな指摘がある。

イラクの破綻した統制型経済構造の後で、一夜にして理想的な経済が誕生することはない。短期の公共事業を大きな規模に積み上げて、使用可能な労働力をしかるべき量で動員する必要がある。同時にCPAは多数の元国有企業を活動させなければならない。それらの多くは競争力がなく、いずれは民営化やリストラが必要かもしれないが、今はできるだけ多くの人々を仕事に戻すべきときである。

○イラクの民主化を戦争目的にしていたら、市場経済化の方がどんどん先に進んでしまった。イラク国民の側にはそんな心の準備はないから、どんどん生活は苦しくなる。アメリカよ、どうしてくれるんだ、ということになる。どうもこの辺に「バカの壁」、もとい、不幸なボタンの掛け違いがあるような気がする。

○と、ここまで書いたところで、横目で見ていた阪神Xヤクルト戦で阪神がサヨナラ勝ち。沖原のヒットで3連勝。いやはや強いなあ。チーム勝率が7割を越えているというのは、羽生竜王・名人の生涯勝率みたいなものだから、「この前負けたのはいつだっけ」といった感じになる。わがタイガースはそれくらい強い。というわけでM38。それにしてもルーキー久保田、久々に生意気なタイプの投手で私は好きだ。以上、最後のパラグラフは文字通りの蛇足。


<7月24日>(木)

○参議院議員会館に足を踏み入れたら、「今日はお泊りセット持ってる?」「さあ、2日でも3日でも来てみろってんだ」などという会話が交わされている。ベテラン秘書いわく、「不信任案出して、否決されたら問責決議案ラッシュで、未明までやるみたいですよ」。そういえば国会の会期も残り少ない。徹夜しないと格好がつかないのかも。そのくせ、イラク特措法の委員会は同時進行で粛々と進められていて、本気でつぶすつもりはないんでしょう。野党のアリバイ工作ってことなのかな。そういえば、国会外の抗議行動も非常に低調でした。

○その野党は民自合流ということのようで、「町内会とマフィアの合併」が実現する見込み。事務所どうするんでしょうね。いっそのこと、落ち目の社民党も誘い込んで、全員で三宅坂の旧日本社会党ビルに転がり込むというのはどうでしょう。ゲンの悪い建物なんで、生涯野党暮らしが板につきそうですが。

○「小沢一郎の主張は一貫しています」てなことを、自由党は宣伝文句に使っていたし、事実、そのように信じているファンも相当数いるらしい。本当のところ、彼が言ってる内容はしょっちゅう変わっている。彼が新進党を解党した理由や、自自連立を解消した理由を覚えている有権者はどれだけいるだろうか?一貫しているのは、「じっとしていられない」ことだけだと思う。

○93年からこの方、小沢一郎は動くたびに勢力を減らし続けて来た。かつては「小沢票」だけで全国650万票も取ったというカリスマも今は衰え、どう見ても次の展望は開けてこない。今回は節を曲げて民主党の軍門に下るわけだが、その理由は「小沢チルドレンを一人でも多く救うためだろう」と言ってた人がいた。意外と情が厚いなという気もするが、少なくとも彼は「政策の人」ではないことが確認された。

○「安全保障政策に期待して自由党支持」と言っていた人たちは、これで自民党支持に向かわざるを得ないでしょう。今日の午後、虎ノ門で「北東アジアの海洋・安全保障について」というシンポジウムをやっていました。北朝鮮の核開発問題について、有益な意見交換をやっていましたが、政治家の姿はほとんど見なかった。そういう政治情勢なんでしょうけど、そんなことでいいのかなあ。


<7月25日>(金)

○噂の「ウダイとクサイの死亡写真」は、ここで見ることができます。まず、以下のURLを開けてください。

http://www.cnn.com/2003/WORLD/meast/07/24/sprj.irq.sons/index.html

ページの中にある、"U.S. GOVERNMENT PHOTOS"というコラムの中にある下記の文句をクリックすると、ジャバスクリプトが立ち上がるようになっています。

Gallery: Photos released by the United States as evidence of the deaths of Uday and Qusay Hussein  (These images are very graphic and difficult to view and are not recommended for children and some adults. Viewer discretion is advised.)

○ご感想は?といわれても特段ありませんね。ま、そんなもんかな、ってところです。

○ところで仮に、ウダイとクサイが両手を上げて降参してきたら、米軍はどうしたでしょうか。捕縛して、さて、それからどうしたものか。裁判にでもかけたいところだが、その場合はどこで誰が裁くのだろうか。結論として、「えい、やっちまえ」となったかもしれませんな。


<7月26〜27日>(土〜日)

○今週末は柏祭りだが、例年、このときは雨が多い。今週末は土曜日はかろうじて降らず、日曜は久々の快晴。ようやく梅雨明けか。それにしても今年は涼しい。エアコンをつけた日は何日あっただろう。先日、赤坂の和喜に行ったら、親父さんが「初サンマ」を出してくれた。今年は昨年とは打って変わって、相当な冷夏になるのかもしれない。

○個人的には冷夏は歓迎である。何よりすごしやすい。電力不足に悩んでいた東京電力もほっと一息といったところだろう。ちなみに東電の本社ビルは、節電のし過ぎで真っ暗だそうだ。冷夏というと、大騒ぎになった1993年から今年はちょうど10年。今年の冬には「米がない」という騒ぎになっているかも。

○さて、久々に時間のある日曜日、目的を決めずに外に出て、えいやっと映画館に飛び込んで『ターミネーター3』を見る。もちろん期待していたわけじゃないが、それにしてもこの映画はヒドイ。この年になると、さすがに映画料金1800円が痛いということはないけれど、貴重な休日の2時間を失ったショックは小さくない。どのくらいヒドイかというと、『スターウォーズ、クローンの逆襲』と同じくらいヒドイ。シュワちゃんよ、こんな救いのない映画を作っておいて、州知事になろうなどというのはいかがなものか。

○思えば初作の『ターミネーター』(1984)は、B級SF映画の傑作であった。それはもう同時期の『ブレードランナー』や『エイリアン』、『宇宙からの物体X』に匹敵するレベルである。これらの作品群は、『スターウォーズ』(1977)というSF映画の成功に反発するかのように作られた。SFとしての『ターミネーター』のネタは、「ロボットが人間を支配している未来」という陳腐なもので、この辺が80年代ならではである。しかも低予算のために、未来シーンはお粗末極まりないものであった。

○『ターミネーター』の成功は、いろんな偶然が重なっている。ただのマッチョマンだったシュワルツネッガーは、「無慈悲なサイボーグ」という役どころを得たことで、演技力不足と英語の下手さを武器に変えてしまった。なにげないセリフだった"I'll be back."は、彼の決めセリフとなり、以後のほとんど全作品に使われるようになる。どう見ても美人ではないリンダ・ハミルトンは、ただのウェイトレスが戦士に成長していく過程を十分な説得力で演じた。そして音楽もカッコよかった。監督のジェームズ・キャメロンは上昇軌道に乗り、シュワルツネッガーは「勝ちパターン」を掴んだ。これはもうSF映画の『ロッキー』のようなものである。

○1991年に『ターミネーター2』が作られる。潤沢な資金を使ったSF娯楽大作であった。タイム・パラドックスさえ気にしなければ、これはこれで楽しめる映画である。悪役のターミネーターは「T−1000」と呼ばれていたが、これは当時全米で売れまくった東芝のラップトップの名前にちなんでいたらしい。日本製のコンピュータチップが騒がれた頃で、同時期には『ライジングサン』などが作られていた。ともあれ、「ロボット=半導体」であったというところに時代を感じますな。

○さて、この話を21世紀の今日に続けようとしたら、「ネットが意思を持つようになって、人間を支配する」という話にしなければならない。しかも1997年にやって来るはずだった「審判の日」は無事に過ぎたことになっている。『ターミネーター3』においては、そこをいろいろ工夫して話を続けている。それでも、『マトリックス』(1999)を見た後のお客は目が肥えているので、今さらということになってしまう。『タイタニック』(1997)で一山当てたジェームズ・キャメロンは、もうこのシリーズには興味を失っていたようだが、それは正しい判断であったように思える。あまりにも時間が空き過ぎてしまったのだ。

○そんなわけで、第1作と第2作の頃をしみじみ回顧してしまうという『ターミネーター3』でした。そうそう、今回の悪玉ターミネーターは「美女タイプ」で、これがほとんど唯一に近い救いになっているのだけれど、「これが10年前のシャロン・ストーンであれば」などと考えてしまった。彼女は『トータル・リコール』(1990)の中で、シュワルツネッガーと格闘シーンを演じているのである。


<7月28日>(月)

○朝は5時起き。7時55分発の全日空機に乗り、佐賀空港に到着。内外情勢調査会の講師を昼は鹿島市、夜は佐賀市で行う。今夜は宿泊し、明日は唐津市でもう1回務めて、博多経由で帰宅予定。

○先日から「佐賀県に出張」というと、周囲がニヤニヤ笑い出すのである。福岡や長崎はいざ知らず、佐賀で2日間というと「何しに行くの?」と聞かれてしまう。これはもう何といっても『佐賀県』(byはにわ)の影響があるとしか考えられない。さすがに知らないでは済まされないと思い、一昨日、わざわざ1000円出してCDを買っておいた。「S・A・G・A・さが これが悲しい性」だなんて、いくらギャグでも、そこまで言うか普通。

○現地で聞いたところ、「登下校する子供たちは歩きなのにヘルメット」とか、「バス停の名前が山下さん家前」というのはさすがに事実誤認だそうである。そりゃまあ、そうだろう。それじゃ、この歌を大いに迷惑がっているかというと、そうでもないらしくて、「昔、NHKの『おしん』で意地悪な姑さんが佐賀県出身という設定だったときに受けたダメージに比べれば、ずいぶんマシ」なんだそうだ。実際、この歌のお陰で、佐賀県の認知度は大いに高まったはずである。それにしても、佐賀県が全国的に注目されたのは『おしん』(たしか1983年)以来というのはちょっとスゴイ。

○「佐賀は何もないけんねえ」という言葉は、実際によく聞かれるセリフらしい。吉野ケ里遺跡、有田焼&伊万里焼、葉隠れ、有明海の干拓などなど、いろいろあるにはあっても、個性豊かな九州各県に比べると地味に見えるのはある程度仕方あるまい。江戸時代の鍋島藩は、周囲を雄藩に囲まれて、とにかく目立たないようにすることが大方針だったという。歌の文句にある「佐賀の人間、とってもネガティブラー」とあるのは、この辺の県民性を物語っているのだろう。

○ところでこの「目立たない」という自虐的な感覚は、富山県出身のかんべえにはとってもよく分かるのである。そう、富山も佐賀と同じくらい地味な県である。「富山っていいところだそうですねえ」といったセリフはよく聞くのだけれど、言ってる人は実は内心で、「えーっと、あれは石川県の右だっけ、左だっけ」などと考えていたりするから油断がならないのだ。(今、迷った人はすぐに日本地図を出して確認するように!)

○などと、佐賀と富山の共通点を挙げると結構見つかることに気づいた。平野が広いこと、農業がさかんなこと、家が広いこと、人間が保守的なこと、それから空港の駐車料金がタダになっていることなど。さらにいえば、両方とも生活水準が周囲の県よりやや高目であるところも。目立たない人というものは、得てしてしっかり者なのですよ。


<7月29日>(火)

○本日の佐賀県は雨。佐賀市から唐津市へ出て、雨煙る玄界灘を右手に見ながら、最後のお勤め。

○唐津といえば唐津焼である。これがなかなかに渋いいい味をしている。唐津焼は陶器で、有田と伊万里は磁器なんだそうだ。最近の市町村合併により、有田市と伊万里市の間でも合併の動きがあるんだとか。こうなると新しい名前が何になるか、大いに揉めそうだ。どちらも偉大なブランドであるから、これに限っては「有田伊万里市」でもしょうがないかもしれぬ。「大陶磁器市」、というのではやっぱりまずかろうなあ。

○玄界灘に浮かぶ沖合いの島に、「宝当神社」なるものがあって、宝くじが当たりますようにという参拝客が遠方からもやって来るのだそうだ。そのうちに、本当に当たってお礼参りに来る客もいたりして、かなりの賑わいであるという。そりゃま大勢客が来るようになれば、それだけ当たる人が出る確率も上がるわけで、これをもって霊験あらたかということではないだろう。それとも、やはり当てようと真剣に願うものに運命は微笑むのであろうか。

○そこから筑肥線に乗って博多駅に出ると、ここはまあ打って変わって大都会である。土産物屋を覗いても、めんたい、からすみ、ラーメンなどなど、なんと種類が多いこと。ふと気がつくと、赤くて長細い妙なマスコットを売っている。見れば「博多名物からしめんたい君」だそうだ。なんちゅうもんを作るんだろう。この際、新しいポケモンの種類に入れてもらってはどうか。

○地元におけるダイエーホークスの人気は相当なものらしい。会社の元同期で、現在は家業の会社を継いでいる現地のS氏によると、先日も対西武戦を見に行こうと思ったら、当日券はないといわれたとか。ダイエー福岡ドームの集客数は、今や東京ドームに次いで第2位である。(今年は甲子園が逆転すると思うが)。S氏いわく、「今年の日本シリーズは楽しみやねえ」。巨人相手よりも阪神相手の方が面白そうだという。同感である。近鉄や西武相手よりも、ダイエー相手の方がいいですな。


<7月30日>(水)

○やや旧聞に属するのですが、26日土曜日の新聞紙上で、読売新聞が「10月10日解散」と書き、産経新聞は「秋の解散遠のく」と書いた。どっちが正しいのか、秋の政治日程はどうなるのか。その辺の話は、佐賀での講演でもお話しして来たのですが、この話、産経の勝ちじゃないかと思っています。

●衆院解散、秋風やむ? 補正予算/テロ特措法改正案/民由合併
 自民内、しぼむ10月説 首相、明言回避…判断は総裁選後

 民主・自由両党の合併合意など、一年以内に迫った衆院解散・総選挙に向けた動きが激しさを増す中、自民党内では一時有力視されていた「十月解散・十一月総選挙」説が下火になりつつある。秋の臨時国会などの政治日程が窮屈なことと民由両党の合併によるブームへの懸念が下火の理由。一方、解散権を持つ小泉純一郎首相自身はこれまで解散時期を明言しておらず、九月二十日の自民党総裁選の結果をみて判断する構えだ。

(産経7月26日)

●総裁選直後に大幅改造・10月10日解散…首相固める

 小泉首相(自民党総裁)は、9月20日の自民党総裁選で再選されることを前提に、再選後ただちに内閣改造・党役員人事を断行し、10月10日に衆院解散、11月9日に衆院選を実施する政治日程を固めた。複数の首相周辺と自民党幹部が25日、明らかにした。(中略)首相に近い自民党幹部は25日、「民主、自由両党の合流が実現したとしても、首相は秋の政治日程を大きく変えるつもりはない」と語った。

(読売7月26日) 

○あらためて秋の政治日程をまとめてみよう。

9月20日(土) 自民党総裁選挙
9月21日(日) 内閣改造、当役員人事
9月22日(月)閣議
9月26日(金)臨時国会召集〜所信表明演説、代表質問など。

10月上旬 テロ特措法延長?
10月7-8日  ASEAN+3首脳会談(バリ)
10月10日(金) 衆院解散
10月20-21日  APEC首脳会議(バンコク)
10月26日 (日)衆議院統一補欠選挙投票日(→取り止めへ)
10月28日 (火)衆院選公示

11月 1日(土) テロ対策特別措置法期限切れ
11月 9日(日) 衆院選挙投票日(*補選を吸収)
11月14日(金) 7‐9月期GDP速報値発表

12月 税制改正、年金改革案の取りまとめ、2004年度予算案決定、道路公団民営化に関する法案決定など

○なぜ、解散や投票日をピンポイントで予想できるかといえば、簡単なことで「お日柄」を考慮すると自然とこうなるのである。上記の日程であれば、解散は「大安吉日」、衆院選公示と投票日はいずれも「先勝」となる。それだけではなく、@邪魔な統一補欠選挙をなくすことができる、A12月のさまざまな日程に食い込まない、B予算編成に使われる7−9月期GDPが出る前に決着する、などのメリットがある。

○その一方で、上記のスケジュールは針の穴を通すような過酷な日程である。テロ特措法の延長が、10月9日までに終わることを前提にしているが、本当にそんなことができるのか。ひとつ間違えば全体が崩れてしまう。

○それ以上に、この時期に集中している外交日程が気になる。10月上旬に予定されている「ASEAN+3」会合においては、かならず日中韓首脳会談が行われる。この時期に日中韓の首脳が集まって、北朝鮮について触れないわけがない。そしてまた10月下旬にはAPECがあるから、ここでも日米首脳会談や米中首脳会談が行われる。そんなわけで10月の外交日程は、北朝鮮を刺激しないはずがないのである。

○その可能性は低いと思うが、仮にこの時期に北が核実験に踏み切ったりしようものなら、たちどころに政治は休戦。経済も非常時モードに逆戻り。解散などとんでもない、ということになる。そこまでは行かなくても、また「言うだけ番長」が存在感をアピールしようとするだろう。そうなると、少なくとも選挙ムードには水が差される。そんなわけで、上記の秋の政治日程は、なかなかに実現が難しそうに思える。意外と衆参同時選挙になるんじゃないだろうか。


<7月31日>(木)

○本日発売の週刊文春に、次期衆議院選挙の当落予想が出ている。民主党若手の友人たちを見ると、意外と△マーク(有力)がついている人が多い。現職の大谷信盛氏(大阪9区)はともかく、チャレンジャーである近藤洋介氏(山形2区)と長島昭久氏(東京21区)も善戦している。今回の自由党との合流は、彼らにとってはおそらく追い風でしょう。

○もちろんケチをつけようと思えば、いくらでもつけられる。先の通常国会においては、内閣提出の121法案中25件において、両党の賛否は食い違っている。産業再生法、構造改革特区法、大学の独立法人化法、国民年金法、住宅金融公庫法などである。「これを野合といわずして何というか?」といえばまさしくその通り。他方、小沢一郎が言っている通り、「とにかく政権を取ることが先だ」というのも、政治の現実においては仕方のないところであろう。

○週刊文春の当落予想では、自民党が218議席(▲25)、民主党が173議席(+59)となる。与野党逆転にまでは至らないが、自民党大敗ということになる。しみじみ感じるのだが、「反自民」を唱えることくらい、簡単かつ効果的な戦法はない。世の中で自民党を支持している人たちはいいとこ3割まで。おそらく、「自民党は悪い」と思っている人の方が多いだろう。その一方で、「反小泉」を唱えることは、簡単でもないし効果的でもない。なんとなれば、首相自身が「反自民」であり、そのことを上手に切り札にしているからだ。

○今の選挙でキャスティングボートを握っているのは、有権者全体の約半分を占める無党派層である。そのうちざっと半分は「反自民」である。現在はこの「反自民・無党派層」が小泉政権を支持している。だからこそ、内閣支持率は5割を越えているし、自民党は与党でいられる。仮に自民党総裁選挙で小泉さんが負けて、普通の自民党議員が新総裁になってしまえば、次の選挙で確実に自民党は負ける。それが分かっているからこそ、小泉さんは強気でいられるし、反小泉勢力も本気になり切れない。

○野党の側としては、小泉政権を否定することは、みずからが自民党内の抵抗勢力と同じように見えてしまうことを意味する。経済政策をめぐる民主党の小泉批判なども、ひとつ間違えばその危険がある。そもそも民主党は、細川政権以来の伝統で「構造改革」を主張して来たのではなかったか。民主党が「景気回復優先への政策転換を」などと言ったら最後、「なーんだ、カメイさんと同じじゃん」ということになる。だから「高速道路無料化論」のように、細かい議論に逃げている。

○小泉さんの側に立って考えれば、仮に自民党総裁選挙で負けたところで、「自分はあくまで首相の座に止まる」という手がある。その上で解散に打って出れば、自民党は割れる。民主党も割れて、その先は政界再編あるのみ。可能性は低いけれども、いっそのことそうなってくれた方が、日本の政治が分かりやすくなっていいかもしれない。

○もっとも、なお不透明な国際情勢やブッシュ政権との関係を考えると、今ここで小泉政権が終わってもらっちゃ困る。小泉首相は心許ないところもあるけれども、「土壇場では思い切りハンドルを右に切れる」指導者であり、そういう人じゃないと「9・11」後の世界では務まらないという現実がある。悪いけど、民主党には政権を渡したくないな。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki