●かんべえの不規則発言



2007年11月





<11月2日>(金)

〇先月行われた第17回中国共産党大会の結果について、いろんな分析記事が出始めましたが、今まで見た中では最新号の『選択』に出ていた「中枢分裂の危機孕む中国共産党」という記事がいちばん面白いですね。もちろん焦点は、最高指導部である政治局常務委員の人事をどう読み解くかです。

〇簡単に紹介すると、胡錦濤が後継者にと目した李克強(52歳)が「共青団系」、上海閥が送り込んだ習近平(54歳)が「太子党」のそれぞれ代表で、これから胡錦濤が引退する5年後に向けて、両者の衝突が始まりますよ、という観測記事です。察するに、昨年9月に陳良宇を汚職容疑でバッサリ切った反動が来て、今回の人事では上海閥が頑張ってしまったらしい。このまま行くと、5年後には「習近平党書記・国家主席、李克強首相」てなことになるのかもしれない。もっとも胡錦濤は、簡単にはあきらめないでしょうけれども。

〇共産党内の対立は、企業に置き換えると分かりやすいですね。「共青団系」は職能部門で、「上海閥」は営業部門です。前者は理屈っぽくて愛社精神が強く、後者は実力主義で個々人の我が強い。つまり、「会社の方針が分かっているのか」(成長よりも安定重視、環境問題も重要だ)と言う人たちと、「誰が会社を食わせていると思ってるんだ」(経済成長を犠牲にすることはできない)と言う人たちの対立です。こういう戦争は、「理」があるのは前者ですが、「利」があるのは後者なので、得てしてそっちの方に分があるものです。

〇これは以前に、東京新聞の清水美和さんから聞いた話ですが、「中国の権力に二重構造なし」なのだそうです。何事につけても、上にお伺いを立てなければならない国なので、「両雄並び立つ」みたいなことになると、下々の者たちが困ってしまう。だから、ポスト胡錦濤に有力候補が2人いる、てな状態はなるべく早く解消してもらわねばならない。つまり、両者の衝突は不可避だということになる。

〇ほかでは、「二人を競わせて実績を考慮して決めるだろう」という観測もよく見かけるのですが、中国共産党のことゆえ信賞必罰、成果主義だなんて、そんなに甘いものではないでしょう。引っかきあり、噛み付きあり、何でもありの権力闘争が水面下で行われる、と見るのが自然ではないでしょうか。


<11月3日>(土)

♪1万年と2千年前から愛してる
♪8000年過ぎた頃からもっと恋しくなった
♪1億と2000年あとも愛してる
♪君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない

(創聖のアクエリオン)




「あなたと合体したい」(福田康夫)



〇えー、小沢サンもまんざら気がない様子でもなかったようですが、やぱし合体は止めといた方がいいと思います。どちらの側にとっても良くないです。何より大連立なんてしちゃうと、次の選挙で有権者が困るじゃないですか。小選挙区でどっちに入れればいいんですか。政権に対する不満を示すには、社民党や共産党に入れるしかなくなるっていうことです。

〇政治討論番組だって困ってしまいます。(ちなみに明日のサンプロは、年に1度の駅伝中継のためにお休みです。どうでもいいか、そんなこと)。政権の対立軸が溶解してしまいますから、そもそも討論が成立しなくなる。それこそ国対委員長同士を呼んで、「あんたたち、いったいどうするつもりなの?」と聞くしかなくなる。

〇このままでは、物事が決まらないって? そんなことは知ってます。だったら、決めなきゃいいんです。民主主義なんですから。本当に大事なことなら合意はできますって。昔、沖縄の基地問題で保保連合を組んだときみたいに、是々非々でやっていけばいいんです。大連立だけは止めましょうよ。

〇いや、大連立の後のガラガラポンに期待しているんです、という人もいるかもしれません。政界再編で、政治をスッキリ分かりやすくしてほしいということで、その気持ちは分からないわけではありません。「加藤紘一を民主党にやるから、代わりに前原と長島を寄越せ」みたいな話は、床屋政談ではよくありますものね。でも、本当にそれをやっていくと、ピカピカの家とボロ屋ができてしまうので、「政権交代可能な二大政党制」からかえって遠ざかってしまう。よくないです。

〇アメリカの二大政党だって、それぞれ政策の幅はあるんだから、自民党と民主党は今くらいでも充分やっていけるはず。結局、辛抱強くやっていくほかにない。それを放り出して「大連立」に懸想したとなると、これはちょっと我慢が足りないんじゃないでしょうか。まあ、福田さんも小沢さんも、短気な方らしいし。

〇それにしても福田さん、意外な大技をかけてきましたね。「訪米前のアリバイ作り」、という読み筋もあるでしょうが、万一、向こう側が乗ってきたときのことを考えると、かなりの度胸です。中曽根さんやナベツネさんがけしかけたとか、与謝野さんが小沢さんと囲碁を打ったのが怪しいとか、その辺の背後関係はじょじょに明らかになるでしょう。とりあえず合体がなくてよかった、よかった。


<11月4日>(日)

〇あらら、小沢サン辞めちゃった。日曜夕方の辞任会見とはめずらしいですな。まだ正式な辞任ではないようですが、今年は本当に永田町激震の年という感じです。

〇それにしてもこの辞め方、しみじみ安倍さんに似てますね。(1)党に帰れば、連立が受け入れられると考えたところがとっても「KY」。(2)マスコミに対して逆ギレ。(3)「自分がいるとマイナスになる」という物言い。(4)次の代表が誰になるか、まったく考えてない。(5)たぶん自分が悪いことをしたとも、まったく思っていない。・・・・要するに自爆モードということであります。

〇とはいえ、多少なりとも彼の過去を知る者であれば、意外感はさほどないでしょう。これが「小沢流」というものであります。思い切り良く勝負をかけて、うまく行きかけたところで我慢ができなくなリ、自分からぶち壊してしまう。あきらめの早さ、拗ねやすさ、子供っぽいワガママさなど、正直なところ、「またですか」という感じであります。

〇民主党の代表はこれで何代目でしょうか。最大野党の党首は、「首相を目指す人」でなければならないのに、これだけ軽いと呪われたポストのようなものです。それだけに、次を引き受ける人は大変です。なにしろ小沢さんの次の代表が誰であれ、福田首相による「あなたと合体したい攻撃」がやって来る。これは怖いぞ。

〇仮に右派の代表を立てれば、文字通り連立に取り込まれてしまうかもしれない。「XXさんが言ってダメだったことでも、〇〇さんが言えばOKになる」というのはよくある話であって、そもそも2003年の民主党と自由党の合流だって、鳩山代表でダメで菅代表で実現した経緯がある。そうなりゃ左派は分裂して、一気に弱体化ということだって考えられる。

〇逆に左派の代表を立てれば、党内の保守派議員が分裂して自民党に駆け込んでしまうかもしれない。そうなれば、自民党にとっては参議院が過半数を回復した時点でお仕事終了となる。雪斎どのが言っていた「小沢自由党旗揚げで自自公連立へ」というシナリオも現実味を帯びてくる。誰を立てても大変です。

〇ということは、福田さんの「あなたと合体したい攻撃」は大成功だったということになる。福田さんも変な人で、野党にこの手の荒業をかけるときは、本来であれば幹事長や官房長官あたりが意を挺して動いてくれるものだけれど、政界でのお友達が少ないせいか、自分で「大将同士の戦い」に持ち込んだ。危険極まりない攻撃であるけれども、こんな風に民主党が大荒れになってくると、とりあえずは「結果オーライ」ということになる。

〇もっとも、これで公明党は自民党に対して不信感を持ったはずだし、「大将同士の決戦」が将来的には遺恨となるかもしれない。大技は決まった後が要注意です。


<11月5日>(月)

〇こんな替え歌が届きました。どこで採取したかは厳秘であります。

"防衛省版どんぐりころころ"

1. ギワクがぞろぞろ もうイヤさん
  小池にはまって さあ大変
  山洋がでてきて こんにちは
  坊ちゃん 一緒にあそびましょ

2.ギワクがぞろぞろ もうイヤさん
  ゴルフにはまって さあ大変
  偽名を使えば 大丈夫
  奥さん 一緒に遊びましょ

3.ギワクがぞろぞろ もうイヤさん
  違反がばれて さあ大変
  国会呼ばれて 謝って
  皆さん マネしていけません



〇「もうイヤさん」が「もーりやさん」というのは、ちょっと苦しい。「・・・みたいな。」さんであれば、どんな風に処理したでしょうか。ふーん、その筋では「山田洋行」のことを「ヤマヨウ」と呼んでいるのか、など、いろいろ勉強になります。

〇それでも、「小池にはまって さあ大変」というところは絶品でありますね。ちなみに第2代防衛大臣は、当サイトの愛読者だと聞いております。


<11月6日>(火)

〇昨日あんなことを書いたら、さっそく「・・・みたいな。」さんからお返事が来てしまった。

>ご指名(?)でもございますので、思案してみました。
>原曲と撥音(ん)を揃えつつ、「ころころ」の音感を残しながら替えるとなりますと、

>権力どろどろ 首領(ドン)守屋

>てな感じでいかがでしょうか。
>最後のところは「百合子」の方がいい音感になるのですが、次のフレーズへの
>続き方がおかしくなってしまいますので、やはり「守屋」になりますね。

〇なるほど、プロの発想はそう来ますか。それにしても、「・・・みたいな。」さん、500曲達成、おめでとうございます。

    ◆    ◆   ◆

〇北朝鮮から帰ってきたA氏から電話。非常に悲憤慷慨されている。

「ひどいんですよ。彼らこんなことを言うんです。『日本は政治が安定しなくて困っているでしょう。ご同情申し上げます』って」。

それを聞いて、思わずこんな言葉が浮かんでしまった。

「それはつまり、『同情するから、カネをくれ』ってことでしょうか」

    ◆    ◆   ◆

〇北朝鮮に同情されてしまうというのも情けないが、首相と野党第一党党首が、仕事の途中でポストを放り出すようでは、あまり反論できないのがくやしいところである。小沢さんは辞意撤回ですか。うーん、それにしては、ほんの数日のことで、失ったものは大きい。

〇民主党には衆院選挙の空白区がたくさん残っている。そういう場所で、「是非、民主党から出てみないか」と口説かれている候補者は、少なくないはずだ。今度の事件で、彼らは二の足を踏むことになるだろう。なにしろ「選挙の神様」と呼ばれる代表が、「民主党が勝てるはずがない」とのたまったのだから。

    ◆    ◆   ◆

〇かんべえの家の近所のコンビニの冷蔵庫から、プレミアムビールと黒ビールが消えた。代わりに新しい発泡酒や第三のビールが入っている。やっぱり個人消費は冷え込んできたのだろうか。桐一葉、落ちて天下の秋を知る。


<11月7日>(水)

〇このところ、かんべえは老眼気味である。小さい頃から両目1.5を続けていただけに、これはもう避けられない運命なのだけど、仕事をしていく上ではツライ条件である。特に最近は、長い文章を読むとすぐイヤになってしまうので、「我慢して、赤線を引きながら必要な文書を読む」ことが難しくなっている。実際に世の中には、サービス精神皆無の下手な文章が多過ぎて、読者に我慢をさせなてくれないこともめずらしくないのである。

〇たまたま今朝、読んでいた『日米同盟というリアリズム』(信田智人/千倉書房)は、非常に面白かっただけでなく、久しぶりに内容がスッと頭に入る文章だったのでホッとした。その反面、これは自分の友人が書いた、自分の得意分野の本であったからかも知れぬと思うと、急に不安に駆られたりもする。ともあれ年をとるとともに、自分の読書のストライクゾーンが狭くなっていることは、警戒すべきではないかと思う。

〇本を読むというのは、とっても大事なことである。その昔、江戸時代の日本には読書人階級というものがあった。つまり本を読むのが仕事というインテリ層がこの国の中には存在できた。これはかなりめずらしいことだと思う。まず、国全体の生産力が高くなければ、そんな有閑階級は生存を許されない。そして武士階級というものがなかったなら、そういう知的土壌は誕生しなかった。さらに知識人同士で相互に連絡があり、本を貸し借りできるようなネットワークがなければ、読書人階級というものは成立しない。江戸時代というのは、そういう階層を持つことができた、世界的に見ても幸運な時代であった。

〇例えば日本陸軍の祖、大村益次郎は、周防の村医者に過ぎなかったけれども、本を読むだけで人体解剖ができるだけの知識を獲得し、さらには当時の欧州の最先端の軍事学を習得し、しまいには砲術の弾道を計算する微積分までをも理解した。なおかつ、「こういうものが面白くなるようでは、実際の砲弾は撃てなくなる」などと机上の空論を戒めるような世間知も有していた。こういう読書人階級がいなかったら、明治維新はできなかったはずである。

〇活字離れだとか、ゆとり教育による知的水準の低下だとか、教育に関する哀しい話が多い昨今ではあるが、この国のこういう文化的伝統は今も脈々と流れているような気がする。重要なことは、活字の知識を現実に応用することであり、知的好奇心を失わないことであり、紙の上にあるPotential ExperienceをActual Experienceに換える想像力である。「オタク文化」などというのも、その典型ではないだろうか。そのことは、今日の日本におけるネット社会の成立にも、大きく寄与しているはずである。

    ◆    ◆   ◆

〇ところで今宵のニュースを見ていて思ったのですが、本日、小沢さんが党内で謝ったことは逆効果になったんじゃないでしょうか。組織が落ち目になっているときは、カリスマ・リーダーの没落はとっても早いですぞ。民主党は、代表が「もういっぺんや―めた」と言い出すときの準備をしておいたほうがいいと思います。


<11月8日>(木)

〇今日、2箇所で聞いた話ですが、最近のワシントンでこんなことがあったのですと。

ディナーの席で、外交専門家が10人集まった。「この中でイラン攻撃があると思う人?」と言って手を挙げさせたら、なんと8人が手を挙げた。手を挙げなかった2人は、スコウクロフトとブレジンスキーであった。

〇手を挙げた8人は、もちろんこの2人よりは無名の方々であったようですが、スコウクロフトとブレジンスキーは「イラク戦争で外した人」ですから、これはマイナスの指標であるかもしれません。さあ、ホントになったらどうしましょ。かんべえは、「イラン攻撃なんて、ない、ない」と言い続けてきた方ですから、ちょっと焦りました。

〇先月下旬に発表されたイラン向け金融制裁の内容が、結構、シャレにならないものであるだけに、この噂はちょいと気になるところです。その反面、現在はトルコ関連などでは米国外交がどんどん巻き返しに出ているところで、「ブッシュが中東外交で勝負に出るときは、イラン攻撃説が流れる」という法則が発動されたものと見ることもできる。台湾に対して中国が、「反国家分裂法の適用だあ」と言って脅しをかけるようなもので、やっぱり本気じゃないと思うんですけれども。

〇心配になったので、「米国がイラン攻撃に踏み切るときは、どんなシグナルがあるでしょうか?」と拓殖大学の川上高司先生に聞いてみたところ、「そうですね、まずは大反対しているファロン司令官の首が飛ぶでしょう」とのこと。ああ、それは分かりやすい。イラク戦争のときのシンセキ陸軍参謀総長と同じでありますね。

〇つまり、「ブッシュは何をやるか分からない」ので怖いのだけど、「ブッシュがどんなことをするか」は前例がたくさんあるので、予想のすべがないわけではない。ブッシュ政権の任期は、まだ1年以上ありますからね。


<追記> その後、読者からいただいたご指摘によると、

「ワシントンでの18人の会議があり、ブレジンスキー、スコウクロフト、ブット元パキスタン首相も出席した」
「ブレジンスキーはイラン攻撃がある、スコウクロフトはない、と考えている」
「イラン攻撃がある、としたのは16人、ないとしたのは、2人(スコウクロフト含め)」

というのが正確な情報であるようです。ソースは下記の通り。親切な情報提供に深謝申し上げます。

http://www.salon.com/opinion/feature/2007/09/19/iran/ 



<11月9日>(金)

〇午前は岡崎研究所で、再来週に行われる「日米安保対話」の打ち合わせ会。北京と上海を回ってくる予定でありますが、ふと気がつくと2年前の訪中時に比べて、双方のボルテージがあんまり高くない。考えてみれば、2年前に比べると日中関係が安定しているので、「いざ決戦」という感じではなくなっている。といっても、物見遊山モードになることはないでしょうけれども。

〇午後は東京商工会議所で、来週、お台場で行われる「日本ニュージーランド経済人会議」の結団式。日豪FTA交渉が行われる一方で、日本政府が相手にしてくれないニュージーランド側の危機感はいよいよ強い。だって「ASEAN+6」の16カ国のうちで、日本がまったくFTA交渉を行っていないのは、中国とニュージーランドだけなのだ。

〇日NZ間の貿易は、「有税農林水産物」が占める比率が48%もある。だから門前払いにされてしまうのだが、NZという国の規模を考えれば、国中の乳製品や牛肉や林産物が日本に押し寄せてきたところで、全体の価格に与える影響は限定的であろう。なんとかなりませんかねえ。

〇夜は老経営者との懇談。年寄りは夜が早いだろうと思っていたら、ごく自然に二次会へ。そこでは歌ありバイオリン演奏ありという世界に突入し、結局12時近くまで飲み続ける。赤坂ナイトライフにこれだけ没入したのも久しぶりであったような。それにしても、ピカドンを見てしまった世代は、本当にお元気であります。

〇明日は下記のようなイベントに参加します。さて、どんな話になりますやら。

http://www.financialjapan.co.jp/summit/2007/09/071110_000.html 



<11月11日>(日)

〇土曜日、『第四回FJ資産運用サミット2007』で、武者陵司さんと対談してきました。司会なし、打ち合わせなしのぶっつけ本番だったわりには、1時間で世界から日本までいろんな話題を網羅できたと思います。それにしても天気が悪いのに、大勢来ておられましたね。しかもこの手のセミナーにしては客層が若い。それだけ個人投資家が育ってきているのでありましょう。

〇冒頭の講演で木村剛氏が語るには、今の日本は「コンプライアンス不況」に向かっているのではないかと。実際の被害が出ているわけでもないのに、あれもダメ、これもダメと自縄自縛状態。「姉歯ショック」で建築基準法が改正されたら、国内住宅建設がガタガタになっているとか、「食品不正問題」では、赤福から吉兆までお詫びのオンパレードであるとか、「金融商品取引法」が始まったら変な義務ばかり増えて面倒くさいとか。言われてみれば、そういうことって本当に増えましたな。

〇似たようなケースでいくと、「個人情報保護法」なんぞも多くの面で国民生活にデメリットを与えている。しかもこの後は、恐怖の「内部統制」が始まります。ベンチャー業界では、「今時、上場したがっているバカがいる」などと言われるほど、上場企業の負担が大きくなる。従業員数が1000人を越えるような企業でないと、あれだけの作業量はこなせないでしょうからね。このままで行くと、日本では「新しい大企業」が生まれなくなっちゃうんじゃないでしょうか。

〇SOx法なんて、米国企業だって大真面目にやってるわけじゃないのであります。このままだとISOみたいになるんじゃないでしょうか。言い出しっぺの欧州企業はほとんどやっていないのに、日本国内では田舎の工場にいっても「ISO9001取得」なんて看板が出ていたりする。つくづく日本人は、ルールに慣れるのは得意だけど、ルールを作るのは下手。世論におもねって作ったルールが、現実に適合しなくて困っている、お陰で商売ができません、というケースがあまりにも多いです。


<11月12日>(月)

〇小ネタです。韓国には「ノムヒョンスロプタ」(盧武鉉する)という新語があるんだそうで。意味は「期待させておいて、裏切る」ということだそうです。まあ、実感でしょうな。日本でも「アベる」(突然、仕事を投げ出す)、「オザワる」(突然、仕事を投げ出して暴言を吐いてから、やっぱり撤回する)という用語ができました。政治家の行動は迷惑をかける範囲が広いだけに、得てして新語ができちゃったりするのでありますな。

〇来月に迫った韓国大統領選挙では、李会昌氏が突然、出馬を表明し、保守票の分裂の懸念があるようです。これで「イーフェチャンする」(お邪魔虫)なんて言葉ができたりしてね。そもそも韓国では「1年前の世論調査で支持率1位だった候補は当選できない」「選挙の直前に候補者が大連合したり、全国を揺るがす大事件が起きる」というジンクスがあるそうですから、現状を素直に受け止めてはいけないのでしょう。

〇ウオッカが当日朝になって出走回避、という昨日のエリザベス女王杯は、まさしく競馬ファンにとっては「そんなのアリかよ〜」という世界でありましたが、なんだかその手の意外性に反応しなくなりつつあるような気がする今日この頃であります。


<11月13日>(火)

〇ちょっと言いにくいことを申し上げます。「裏金、30年で5億円以上」という例のニュースについてです。

軍需専門商社「山田洋行」の米国子会社「ヤマダインターナショナルコーポレーション」による裏金作りが約30年前から続けられ、これまでの総額が5億円以上に上っていたことが関係者の話でわかった。東京地検特捜部は、業務上横領容疑などで逮捕した山田洋行元専務の宮崎元伸容疑者(69)=日本ミライズ前社長=が防衛省の装備品受注をめぐり、裏金の一部を守屋武昌・前防衛事務次官(63)側に提供した事実はないかなどを含め、使途の全容解明を急いでいる模様だ。

〇単純に計算すると、裏金は年間で2000万円以下となります。それだけのカネで、いったいどんなスゴイ裏工作ができたというのでしょうか。接待というものは、実際にやってみれば分かりますが、相手だけでなくて自分の分も払わなきゃいけませんから、ちょっと贅沢するとすぐに結構な金額になってしまいます。果たして、守屋次官にキャッシュを渡すほどの余裕があったかどうか。

〇もうひとつ、30年という期間も引っかかります。今から30年前といえば、ロッキード事件(1976年)やダグラス・グラマン事件(1978年)の頃であります。当時の航空機や防衛産業の裏金といったら、ちょいと桁が違いますがな。って、そんなこと、ワシが言うのは立場上、あんまりよろしくもないのでありますけどね。間違いなくいえるのは、当時はこの手の商戦において、巨額の裏金が動いていた。政治家にカネが流れていたり、右翼の大物が出てきたり、怪しげなフィクサーが登場したり、それはなかなかに壮観な図柄でした。

〇しかしそれから30年が経過し、コンプライアンスがやかましくなった今日の上場企業としては、裏金を使わなければできないような仕事からは即、撤退すべしというのが常識になりました。そりゃま、ほかに儲かる仕事がないのなら別ですけど、企業が不祥事によって被るダメージがこれだけ大きくなった時代に、敢えてそんなリスクを負わなきゃいけない理由が見つかりません。要するに、30年ですっかりこの業界は変わってしまったのです。

〇強いて言うならば、そういう時代になったからこそ、「ゴルフと麻雀と焼肉」で防衛関連の仕事が取れたのかもしれません。むしろ個人的には、なぜ山田洋行がGEの代理店契約を取れたかが気になりますね。普通のやり方では、不可能なことではないかと思いますが。裏金が使われたとしたら、むしろそっちの方かもしれませんぞ。

〇というわけで、「30年で5億円以上」という言い方は、報道機関としては「山田洋行はこんなに悪い」ということを言いたかったのかもしれませんが、かなりピンぼけな印象を受けざるを得ません。もちろんピンぼけなのは、報道よりもそういう情報をリークする検察関係者の方こそ深刻であります。まあ、わが国の法曹関係者は、経済のことがまるで分かっていないというのは、M&A関連などでのたび重なる迷判決で立証済みでありますけどもね。


<11月14日>(水)

岡崎研究所の初代事務局長、小川彰さんの七回忌へ。亡くなられたのが2001年11月11日だったので、もうそんなに経ってしまったか、と思う。享年47歳というと、今のかんべえと同じ年であるから、ちょっとドキッとする。

〇かんべえは、小川さんにはとてもお世話になった。たくさん飲み食いさせてもらい、いろんな楽しい会合に呼んでもらい、面白い人に会わせてもらい、国際会議に出させてもらい、それを遠慮していたら背中を押してもらい、個人的な相談にも乗ってもらい、どうかすると「お車代」まで受け取っていた。それだけしてもらって、恩返しは何もしていない。仮に人間関係のご恩を数値化できたとしたら、かんべえのバランスシートの右肩には「小川彰さま」という巨額の負債が計上され、左側にはそれに見合った分だけ、人脈やら暗黙知やら度胸やらが資産として乗っかることになるだろう。

〇もちろん恩返しの機会は永遠に失われているので、後は自分より若い世代に対し、自分が受けたようなチャンスを提供するくらいしかない。とはいうものの、小川さんがまったく相手に恩を着せず、上手に周囲を盛り上げていたようなことは、簡単に真似のできるものではない。せいぜい長く生きて、そういう機会を増やすことくらいしかないだろう。

〇今宵、ホテル・グランドヒル市ヶ谷に大勢集まった中には、来週、一緒に日中安保対話で北京〜上海に出かける人たちがいる。小川さんと出会わなかったら、この人たちと仲良くなることもなかっただろうし、中国側の学者たちとはすれ違うことさえなかっただろう。日中の対話の窓口を作ったのも、小川さんだった。そういう遺産を受け継いで、日米や日韓や日台の対話が続いている。

〇ところで明日は第34回の日本ニュージーランド経済人会議。会場はお台場のホテル日航東京。いやあ、なんか懐かしい。


<11月15日>(木)

〇日本ニュージーランド経済人会議(Japan New Zealand Business Council)とは、しみじみ長い付き合いである。たしか1996年から続けて参加していて、お休みしたのは1回だけだと思う。ということは、今年が11回目か。今日も出てみると、知ってる人がとても多いし、あまり会社単位で張り合うようなギスギスしたところもないし、皆さん、心の底からこの会議を楽しんでいるように見える。ニュージーランドというのは、台湾と同じように、人間の気質が良くて、何となく応援したくなる国である。

〇ところがFTA問題では、ニュージーランド側には「どうして相手にしてくれないの」という日本に対する強い不満がある。仮に日豪FTAが成立し、自分たちが取り残された場合は、非常にまずいことになる。そこでニュージーランド政府は、このところ日本での自己アピールを強化している。日本側から見ていて、まことに申し訳ないという気になってしまう。

〇FTA問題についても、日本の事情を非常に良くご存知の方がいる。ランチの席で議論していたら、「農家が反対するんだろ? だったら直接補償制度を作ればいいじゃないか」と指摘されたのに驚いてしまった。実はそれって、FTA推進の切り札として、政策オタクの間では「いざというときの落しどころ」とされてきた手口なのだ。ところが先の参院選において、小沢・民主党が農家に対する人気取りで「直接補償制度」を言い出してしまったので、与党側としては使いにくくなってしまった。まことに痛い話なのである。

〇今日の会議で知ったのだが、ニュージーランドの名産物として「ポスト・キウイ」の期待が高まっているのが、カシスであるとのこと。カシス(Cassis)はフランス語なので、英語ではブラック・カレント(Black Currant)という。ブルーベリーやラズベリーに比べると、ポリフェノールやアントシアニンの含有量が多いので、健康食品(特に目に良い)としての期待が高まっている。そこで「日本カシス協会」というものを産官学で作って、これから大いに宣伝しましょう、ということになっている。日本側の中心は明治製菓さんだそうです。そこんとこ、ひとつよろしく。

〇毎度、話題になるNZ観光では、日本人客の減少が問題になっている。以前は年間16万人くらいだったのに、2006年はとうとう13.6万人になってしまった。それでも好感度調査(Most desired Destinations)では全体で8位(1位から順に、ハワイ、豪州、イタリア、フランス、韓国、スイス、カナダの順)である。国内運賃が高いとか、いろいろ問題があるのだよなあ。そんな中で健闘しているのが、一都市滞在型のパッケージツァーと、レンタカーでニュージーを回るツァーなんだそうだ。日本人観光客は、バタバタと多くの都市を回るのが得意パターンなのだが、ちょっとずつ好みが変わってきているらしい。

〇ひとつビックリしたのが、日本人が旅行の予約をする際の手法は、2006年にはインターネットが38.0%と第1位になったのだそうだ。旅行代理店は2位で30.5%、そして郵送と電話が17.1%と並ぶ。2001年には5%以下だったそうだから、ここ数年のネットの進化たるやすさまじい。こんな時代になってしまうと、代理店は大変ですな。

〇それからNZとは直接関係ないのだけれど、日本の映画産業に関する話が面白かった。日本における映画産業の市場規模は、ザックリ2000億円程度。これを制作者と配給会社と劇場で分けるので、なかなか儲からない構造になっている。そこでDVDやテレビ放映権やキャラクター商売が必要になってくるのだが、全国の興行形態は、下記のようになっている。

全国のスクリーン数:3200
1軒当たりの平均座席数:200
1日の平均上映回数:4回
1人当たりの平均料金:1200円

〇そこで1年365日上映するとすれば、3200 X 200 X 4 X 365 X 1200=1,121,280,000,000→なんと1.1兆円になる。もしも全国の映画館が連日、満員御礼となるならば、映画産業は1兆円となるわけだ。それが2000億円にとどまっているということは、劇場の入りは平均2割に過ぎないということになる。ま、そんなもんでしょう。ということは、仮に映画館の客の入りを10%上げることができれば、1000億円の興行収入が増える計算になる。察するにシネコンブームにより、スクリーン数が随分増えたのでしょうな。

〇最後にニュージーランドのPRをいたしましょう。今週末(11月17日、18日)には六本木ヒルズ・アリーナで"New Zealand Paradise Week"が開催されます。かんべえのお薦めは、今日の晩餐会で演奏してくれたパーカッション奏者の「ストライク」です。17日の17時20分、18日の14時15分に登場する予定。これはなかなかの迫力でしたぞ。


<11月16日>(金)

〇日本NZ経済人会議の2日目。FTAに関するパネルディスカッションが目玉でした。聞いていてしみじみ感じましたが、FTA政策はその国にとって外交戦略そのものですね。

〇とはいえ、日本とニュージーランドの間でのFTAは簡単ではない。そこで日本側としては、いろんな答え方がある。

(1)二国間なんかよりも、ASEAN+6でEPAをやりましょう。

(2)なにしろ政治状況があんな感じですから。

(3)日豪FTAだって、きっとうまくいきませんよ。

(4)産業界としてはFTAに賛成なんですが・・・・・。

〇なかなか誠実な答え方というものは難しいものです。つまり、われわれはFree Tradeには賛成だけど、Free Trade Agreementはあきらめて頂戴、てなことを言っているわけですから。

〇これに対するNZ側の言い方も微妙にお上手でした。「できることから、両国関係を緊密化しましょう」「まずは相互にパートナーシップフォーラムを開きましょう」「対日関係がトップ・プライオリティです」「日本の農業も、これからは期待ができるんじゃないですか?」などでした。敢えて「ためにする議論」を仕掛けて、「取れるだけ取ってやれ」というのが大陸風の交渉スタイルだとしたら、島国の人たちは「この程度ならできるだろう」というラインの少し手前で踏みとどまるようです。

〇ところで今日、聞いた話では、乳産品価格はこの1年で国際価格が倍になったのだという。これだけ上がれば、北海道の酪農にも競争力が出てくるかもしれません。ちょうど林産物の世界において、国内の林業農家が復活しつつある様子とちょっと似ている。韓国では「日韓FTAを結ぶと、北海道の肉や乳製品が来る!」という恐怖があるのだそうです。

〇さて、明後日からは中国に飛びます。頭の中を北京モードに切り替える必要がありますね。


<11月18日>(日)

〇今日の夕方の飛行機で中国に行ってきます。北京に3日、上海に3日の予定。岡崎研究所の一行で、それぞれ「中国社会科学院日本研究所」と「上海国際問題研究所」と毎年恒例の「日中安保対話」をしてきます。

〇昨年と2年前の会議資料を読み返してみたら、ずいぶん剣呑なやり取りをやっている。特に2年前の訪中時(11/15-22)には、反日デモの後だっただけに、双方ともてぐすねを引いているようなところがあり、相当に手きびしい応酬があった。昨年(10/30-31)はかなり和らいでいたとはいえ、北朝鮮の核実験の後だったので、これまた丁丁発止という感じでありました。

〇ところが今回の日中対話は、今ひとつ盛り上がるものがないのですな。おそらく先方はさらにボルテージが低いんじゃないだろうか。「え?日本? だって福田政権なんでしょ? 何の心配もないじゃない」てな具合に思われているかもしれません。まあ、日中友好は結構なことでありますけれども、日中の「戦略的互恵」は結構、難しいですぞ。

〇個人的には、この夏以降の国際金融不安で中国経済がどうなるのかという点が気になっています。当然ですよね。それでは行ってまいります。


<11月19日>(月)

〇「この季節は寒いぞ」「空気が悪いぞ」「水が悪いから気をつけろ」などといった無数の警告を受け、いっぱい着込んで、成田空港で1リットルのミネラルウォーターを買い込み、さあ出発である。成田から北京までは約4時間。ただし時差マイナス1時間。その昔、遣唐使たちが命懸けで渡った距離を、今なら飛行機であっけなく着いてしまう。

〇北京の空港は、2年前に比べてバージョンアップされている。五輪開催を控えて、種々の宝物はもとより花まで飾ってある。空港前の広告塔の数も随分と増えたような気がする。外に出てみると、事前に脅されたほどには空気が悪いわけではない。夜には月がくっきりと見える。交通規制が効果をあげているのかと思ったら、単に風が強いからであるらしい。その証拠に、後でしっかりと交通渋滞に巻き込まれることになる。

〇2年前と同じホテルにチェックインする。ところが2年前には確かにできたはずの、部屋からのダイヤルアップによるローミング接続がなぜかできない。しばしインターネット断ちが確定である。その代わり、ケータイには日本からの電話がバシバシかかってくる。音も非常にクリアで、これで国際電話とは思えないほど。

〇さて、本日朝から始まった会議だが、相手は中国社会科学院の日本研究所である。中国政府直属のシンクタンクなので、いわば中国におけるPolicy Intellectuals集団。「給料が安い」という不満はときどき聞くが、中国社会においてはまごうことなきエリート集団である。とはいうものの、建物はその昔、中華民国の臨時政府が置かれたとかいう、とってもクラシックなもので、この季節においてはなかなかに寒々しい。風で戸がガタガタ言うなかで、日中対話の始まりである。日本研究所の皆さんは、留学経験も豊富で日本語が上手な学者が多いので、通訳が必要であるような、不要であるような、とっても微妙な間合い。

〇めずらしいことに、今回の冒頭のセッションは経済問題であった。しょっぱなに不肖かんべえが、"Sovereign Wealth Funds"の話をしたところ、この話題はとっても関心が高かった。すでに1兆4000億ドルにまで膨れ上がった中国の外貨準備を運用するために、去る9月29日に「中国投資公司」が立ち上げられた。運用資金が2000億ドルというから、サブプライム問題に揺れる現下の国際金融界としては、無視できないフレッシュマネーの登場である。

〇中国版のSWF(国富ファンド、日経新聞的には政府系ファンド)は、あまりに増えすぎてしまった外貨準備の運用に困り、「とにかくやってみろ」的な感覚で始まったというのが実態であるらしい。SWFはその本質からいって、(1)透明性、(2)規制者の不在、(3)運用の期限、(4)投資目的などで特殊性がある、てなことを申し上げると、「国家が資金運用することは、そもそも市場を歪める」といった意見が中国側から出たのには驚きました。エコノミストとしてはまことに正常な感覚であるといえましょう。

〇面白かったのが、米国の有力プライベート・エクイティ・ファンド、「ブラックストーン・グループ」への出資をめぐる見解だった。今年の春に中国が出資を決めた時点で、当地では「なぜ日本がカネを出さない案件に投資するのか」という反論があったのだそうだ。いやあ、「日本では、またも中国にやられたか、という反応がもっぱらでしたよ」、と教えると、「ああ、いつものことですねえ」という反響あり。実際には、その後のブラックストーン・グループの株価は低迷しており、中国にとっては最初の投資30億ドルは含み損となっている。他方、ブラックストーンは中国への投資の足がかりを掴んだわけで、得をしたのはやっぱりアメリカでしたということになる。

〇SWFを立ち上げたことで、中国はアメリカの防衛産業の株を買うとか、重要な資源の利権を買収するといった可能性が生じた。ところが、そういう戦略的な使い方をするほどには、投資運用のノウハウや管理体制が整っておらず、いつも通り「走りながら考える」様子であった。それでも、来月行われるSED-3(米中戦略対話)においては、おそらく本件がアメリカ側の最大の懸念事項となっているはずなので、またまた米中摩擦の火種ができたなあ、という感あり。

〇SWFの話をしていると、グローバル・インバランスの問題から、人民元の切り上げをどうするか、はたまた現在の中国におけるバブル的な景気は今後どうなるかなど、主要な関心事の論点がほぼ出つくしてしまう。結局、経済問題に関しては日中の意見はほとんど一致してしまうことが良く分かりました。というか、中国側の経済学者がとっても「まとも」である、少なくともマルクス経済学の残滓は皆無である、ということが確認できました。

〇午後のセッションはいよいよ安全保障問題で、中国海軍が空母を持つことの是非、北朝鮮問題などが論点であった。こちらでは、中国軍人さんによる「日本の歴史認識がどうのこうの」というお決まりのお説教もあったりして、長広舌を我慢しなければならない局面もあったのだけど、貴重な本音が窺えるセッションであった。要するにいつもの「日中安保対話」らしい応酬でありました。

〇夜は吉例の宴会。先月のソウル会議でご一緒したメンバーの多い卓に入ったこともあって、円卓は「カンペイ」の嵐。酔った勢いで、「日中は戦略的互恵関係じゃなくて、戦略的誤解関係」なんて駄洒落で盛り上がってしまう。なんと呼ぶのか分からない、中国の銘酒をガンガン行っちゃいました。ああ、最近はこういうのが多いよなあ。今年はまだ成人病検診も受けてないのに・・・・。


<11月20日>(火)

〇中国社会科学院を相手とする日中対話は今日が二日目。本日の目玉商品は「台湾問題」である。来年3月に総統選挙を控えているだけに、この問題は火の粉がパチパチというか、とっても香ばしい感じ。

「台湾独立に対しては武力行使も辞せず」という、いつも通りの原則論が出てくるけれども、「今度の総統選では、ほぼ確実に公民投票が成立しますけど、それでもいいんですか?」という日本側の問いに対する答えは最後まで出ませんでした。公民投票は現状維持の変更である、と言っていた手前、かなり困っているんじゃないだろうか。中国側の「ひとつの中国」原則の論拠は、カイロ宣言やポツダム宣言に由来するのだけれど、民主主義体制が直接投票で「独立だ」「国連加盟だ」と決めてしまえば、そんな昔の文書はいっぺんに吹っ飛んでしまうのが国際社会というものである。

〇思い切り簡略化すると、中国側の論旨はこんな感じである。「台湾独立を認めた瞬間に、中国の政権は吹っ飛んでしまう」→「チベットもウイグルも独立を目指してしまう」→「だから中国として、台湾独立に対する武力行使は避けられない」→「台湾有事は日本も避けたいだろう」→「われわれも両岸問題に対する平和的解決を望んでいる」→「だから日本も台湾の現状維持に協力せよ」・・・・その割りに、台湾の政治情勢に対する関心は高くなくて、察するに台湾の2300万人の意思などどうでもよくて、大陸の13億人の民意の方が重いのでありましょう。台湾人にとってはきわめて迷惑なことであるでしょうけれども。

〇会議はお昼で終了。午後は当地で某金融機関の所長を勤める旧知のS氏を訪ねてみる。親中派エコノミストのS氏にSWFの話をすると、「中国はわれわれから見ると、あまりにも準備が整わない段階で踏み出します。でも、失敗から急速に学んで成長します」とのコメントあり。なるほど、そう言われてみればそんな気もする。ほんの数年前までの中国は、株式市場も企業のガバナンスもムチャクチャであったけれども、今では世界中の資金を集めつつあるのだから。中国版SWFも、今の段階ではともかく、急速な進化を遂げるのかもしれない。なにしろ10%成長の国であるから、多少の失敗をしたところでいくらでも取り戻せるのである。

〇そういう意味では、長期低迷期に懲りて非常に臆病になってしまっている日本企業は、かなり情けない存在であるかもしれない。例えば今回のサブプライム問題だって、優良資産をバーゲンプライスで買い叩くチャンスなのだから、仮に村上ファンドなんぞが元気で生き残っていたら、欧米資産を買い叩くハゲタカファンドなんぞを組成して勝負をかけていたんじゃないだろうか。せっかく育ってきた「元気印」をみんなで叩いてダメにしてしまうのは、日本社会の良くないところだと思います。

〇さて、現下の中国経済の最大の不安はインフレの進行でありましょう。すでに物価上昇率は、食品価格を中心に庶民生活に影響を与えつつある。これを本気になって抑えようと思ったら、経済成長率も自動的に下がってしまうので、最終的には社会の不安を醸成してしまう。インフレを起こさず、しかも国際社会との調和を保ち、人民元の切り上げベースもじょじょに執り行う、というのは、かなりのNarrow Pathであることは間違いないでしょう。

〇ところでS氏のオフィスは、多くの外資系企業を有する北京の最先端を行く巨大ビルの中にあった。周囲では多くのビルが建設中であり、まさに新しい北京を象徴するような一角である。ビルの1階はもちろん、スターバックスがある。昨日来のコーヒー禁断症状を解消するために入ってみたところ、ラテのトールサイズが17元であった。1元15円で計算すると255円であるから、別に異とするには当たらない。しかるに周囲は、CNNニュースから抜け出してきたような欧米人ばかりで、聞こえてくる会話のほとんどは英語である。ここってホントに北京なの? ラテのトールサイズ17元は、現地実勢価格では1700円くらいの感覚なんじゃないだろうか。

〇ちなみに岡崎研究所ご一行様は、夜はホテル近所の餃子屋さんに入り、料理を山ほど注文してビールも飲んで、6人合計で160元(約2400円)でありました。一人頭にすると、スタバのコーヒー代とあんまり変わらない。その後は、オヤジ3名といつも中国で面倒を見てくれる王雅丹さんと4人で北京のナイトライフに繰り出すと、こちらはバンド付きのバーでワインを2本空けて860元(1万2900円)でありました。贅沢をしているのか、それともお買い得ツァーをしているのか、だんだん分からなくなってしまうところが、毎度のことながら中国経済の奥が深いところである。


<11月21日>(水)

〇今日の北京の空は、スモッグがたち込めている。風が止ると、とたんにこんな感じである。視界はいいとこ3キロくらいだろうか。これでは飛行機が飛ぶかどうか、ちょっと心配である。というか、来年の五輪開催は大丈夫なんだろうか。開催直前から工場を止めるんじゃないかとか、いろんな噂が飛び交っているらしい。

〇もちろん飛行機はちゃんと飛んでくれて、無事に上海に着いたのだけれども、ほんの1日になんとまあ大勢の人を見かけたことでしょうか。それも全員が働いている。高速道路で切符を切っている人もいれば、空港で荷物を運んでいる人もいれば、外国人客相手に英語でランチをサーブしている店員もいる。ランチしながら、ケータイでああだこうだとしゃべっている青年実業家風情もいたりする。こんな風に、13億人の人民に雇用を供給することが、この国の経済政策の出発点になっていて、そのための高度成長、そのための輸出主導、そのための外資導入、となってくる。

〇この高度成長のサイクルが崩れるとしたら、どんな図式となるのか。ひとつはインフレでしょうね。過去にもあったように、思い切った景気引き締めが必要になって、成長率が減速して雇用の創造にブレーキがかかるというシナリオ。もうひとつは、株安であるかもしれません。飛行機の中で『中国の不良債権問題 高成長と非効率のはざまで』(柯隆/日本経済新聞社)を読んでおりましたが、この国のアキレス腱はやはり金融にあり、という気がします。

〇さて、2年前も同じだったのだけど、上海に着いたらとっても気分が明るくなってしまった。やはりワシには北京よりもこっちが合っている。蟹は食べられるし、ホテルからはちゃんとインターネットに接続できるし。お陰で3日ぶりにHPの更新もできる。この間、日本のニュースもまったく分からなかったのである。明日は上海国際問題研究所との対話が始まります。


<11月22日>(木)

〇今年の日中対話でもっとも感じるのは、「中国側の変化の早さ」です。10%成長を続けている国だけあって、経済もさることながら、政治の変化もとにかく早い。連日のように会議を繰り返していて、「歴史認識」が出たのが1回だけ、「靖国参拝」はゼロ。前回訪中時の2005年には、日中関係は「とにかく意地でも動かない」という感じだったのですが、そんな固定観念を持っていると、どんどん裏切られてしまいます。なにしろ日本側は経済成長率も低いし、意識の変化も遅いものですから。

〇おそらく近いうちに、中国は「日本の国連常任理事国入りを支持する」と言い出すんじゃないかと思います。もちろん、見返りにはいっぱい条件を提示するでしょうけれども。日本側としては、そのときに慌てないように、心の準備をしておくべきでしょうね。この上海では、わずか2年前に「入常阻止」で反日デモが起きたわけですが、それが対日外交カードに化けてしまうかもしれない。同様に、「日本は集団的自衛権を認めることにしました」と言っても、「ふーん、それで?」と肩透かしをくらうかもしれません。

〇中国側に立って考えてみれば、日本が日米同盟を強化しようが、集団的自衛権を認めようが、それは現状追認に近いことなので、新たなコストが生じるわけではない。「入常」だって、実現可能性は限りなくゼロに近いのだから、「言うだけはタダ」と割り切ってしまえば、カードとして効果的に使える可能性がある。最近の日中関係では、「戦略的互恵」とか「Win-Win関係」といった言葉がよく使われますが、言葉の裏側にはこの手の「割り切りの早さ」と「したたかさ」があるのではないかと思います。日中関係が改善に向かうのは結構なことですが、相手のペースに合わせるのはなかなか大変ですぞ。

〇台湾問題についても、中国側は思い切り譲歩しているのですね。少なくとも、当人たちはそう思っている。胡錦濤総書記は、党大会の活動報告で「台湾海峡の平和協議」を打ち出した。もう「統一」とは言わない。「ひとつの中国」の枠内なら、ナンボでも話はする用意がある。善意と柔軟さをアピールしているのだが、台湾の国内政治情勢を考えれば、これが最善の選択となる。(もちろんその裏側では、中国は台湾が外交的に孤立するような仕掛けを忘れていない)

〇なんといっても、国民党が「統一」を言わなくなったことが大きい。そのことによって、民進党は「唯一の台湾独立派」という「セールスポイント」を失いつつある。そして馬英九は、優柔不断で「統一」を言い出すようなタマではない。「ライトグリーン」の台湾有権者にとっては、そのことが馬英九の「セールスポイント」になりうるのだ。こんな風に、「誰が台湾を代表するか」という競争をやっているうちに、「誰がひとつの中国を代表するか」はどうでも良くなってしまった。かくして「ひとつの中国」というフィクションは効力を失いつつある。

〇そうなると、中国側にできることは少ない。せいぜいアメリカ経由で圧力をかけてもらうことぐらいだ。日本にもお願いに来るだろう。が、アメリカが言おうが日本が言おうが、公民投票の成立を止める手段はない。そして中国が盛んに口にする「武力行使」は、所詮はブラフにならざるを得ない。ここだけは、中国が本当に困っていることなんじゃないかと思う。

〇日中対話は明日も続きます。


<11月23日>(金)

〇人口が1000万人を超える都市は、地球上にいくつあるのだろうか。かんべえは正解を知らないのだけれど、「1000万人以上の人口を養うことができる土地」は、それほど多くないのではないかと思う。多くの人々の生活を支えるためには、まず水と食料を調達できなければならないし、都市インフラも整備しなければならない。そして何より、雇用を確保しなければならない。そのためには相当な産業がなければならず、産業が集積されるためには、それなりの時間が必要となる。そうした諸条件を充たせる場所は、地球上にもそんなに多くはないはずなのである。

〇中国最大の都市、上海の人口は現在、「2000万人くらい」だという。(戸籍制度がなくなった今の中国では、都市部への人口流入が多いので、正確な数字がよく分からない)。ところが2000万人を養うこの大都会は、不思議なほどに歴史が浅い。ダウンタウンからクルマで1時間弱行ったところにある「松江」と呼ばれる地域が、もともとの上海であったのだそうだ。中国史の中に上海が登場するようになるのは、近代になってからである。幸運なことに、この街は太平天国の乱でも日中戦争でも、大きな被害を受けることがなかった。

〇上海が飛躍的な進化を遂げるようになるのは、ご存知「租界」ができてからである。つまりは外国人の力を借りて急成長した街である。上海の魅力なり魔力というものは、異文化の混入によるところが大きいのだろう。(ちなみに、その辺の魅力については、この本が余すところなく伝えています)。黄浦江から見える旧市街の美しさは、1920年代に「アジアのパリ」と呼ばれた当時の面影を残している。もっとも当地の高齢者の間には、「また昔のように植民地化されてしまった。ケシカラン」と言って怒っている人もいるのだそうだ。

〇ところで上海の源流というべき「松江」には、現在では大学が誘致されてキャンパスの集積地となっている。本日午前で日中安保対話を終えた不肖かんべえは、当地の経済学者、陳子雷先生に引っ張られて、松江にある上海対外貿易学院で講義を行ってまいりました。まあ、当方が日本語でしゃべれば陳先生が通訳してくれるので、そんなに難しい話ではないのでありますが、中国の若い学生たちの前で話すのはなんだかワクワク、ドキドキしちゃいましたぞ。

〇国際金融情勢やらSWFやらについて30分ほど話して、その後で45分くらい質問を受け付けました。「バブル」に関する質問が多かったですね。100人ほど集まってくれた学生に向かって、「この中で株をやってる人?」と聞いたら20本くらい手が上がりました。「絶対にやりたくない人」も5人くらいいましたな。まあ、妥当な線でありましょう。

〇経済におけるバブルは、そんなに悪いものではありません。というよりも、バブルの生成と崩壊は市場経済にはつきものの現象であって、「バブルはつぶさねばならない」などと考えるべきではないと思います。たまたま日本の1990年代の体験がひどすぎたために、イメージが悪くなっておりますが、本来はどこででも起き得る話なのですから。日本のバブル崩壊は、経済の成熟化の過程で発生したこと+政策の失敗を伴ったことが事態を悪化させたわけで、中国のように若い経済であれば立ち直りも早いはずだし、むしろ今のうちに体験しておいた方がいいかもしれません。

〇思うに経済におけるバブルの発生には、明らかに良い面もあります。

(1)都市を発展させる。ニューヨークの摩天楼の原型ができたのは、1920年代のバブル時代であった。エンパイアステートビルが完成したのは大恐慌の後であったために、当時はThe Empty State Buildingと揶揄されたそうだ。建築物に限らず、歴史に残る文化は得てして経済がバブル化したときにできている。今の上海なんぞは、その典型例といっていいだろう。

(2)経営者や投資家が貴重な教訓を得る。バブル崩壊の怖さというものは、身に沁みて体験しないことにはわからないものです。それを通過することによって、ディシプリンが定着してモラルハザードの怖さが学習できる。日本の金融機関の行動様式は、バブル崩壊によって初めて変わることができた。中国の国有企業についても、同様なことが当てはまるかもしれない。

(3)間違った資源配分を是正することができる。経済が順調なままであると、不採算事業への投資が止まらなくなる。得てしてそういう後ろ向きの決断は、非常事態になって初めて着手することができる。

〇だから、それほど怖れる必要はないと思うのですが、個人の立場で考えれば、バブル崩壊はやっぱり痛いですよね。実際に中国政府も、「マクロコントロール」によって、過熱気味の景気を引き締めようとしている。が、あんまり効果が上がっていない。1990年代の引き締めは効果があったのに、現在はダメだというのは以下のような理由があるからだと思う。

(a)地方分権が進んで、地方政府が中央の言うことを聞かなくなったから。

(b)グローバル化が進んで、海外の資金がいろんなルートで入ってくるようになったから。

(c)90年代の担当者は怖い顔の朱鎔基首相だったけど、現在は優しい顔の温家宝首相であるから。

〇質問者の一人が、「政府はバブルを恐れるけれども、個人にとってはハッピーである」と言っていました。それはまさしくその通りで、今現在、上海で暮らしている若い人たちにとっては実感のこもった発言だと思います。彼らには未来がある。いやあ、本音を言うとねえ、おじさんは君たちが羨ましくてしょうがないんだよ。キラキラと輝いて見える彼らは、これからどんな風に成長していくのでしょうか。

〇夜は黄浦江の遊覧船に乗せてもらい、満月の下で"Hotel California"なんぞが流れる中で、ライトアップされた旧市街を眺める。ここは是非、上海馬券王先生の意見を聞きたいところなのですが、まことに残念なことに急に決まった出張のために、入れ替わりに東京へ行ってしまった。せめてジャパンカップの予想だけはしっかりお願いしたいところです。メイショウサムソンかウオッカか。個人的にはドリームパスポートにも惹かれるものがあります。

〇さて、明日はとうとう帰国でありますが、考えてみれば首都圏3000万人の人口を養っている関東平野というのは、地球上でも有数の恵まれた土地だといえるでしょう。水も食料もあって、雇用も産業も揃っていて、交通網などのインフラも整備されていて、なおかつ自然環境もそれほど悪化していない。ミシュランの三ツ星レストランだって、8つもあるんだそうですから。


<11月24日>(土)

〇日本に帰ってきました。書き残したことなどを、ちょっとずつ追加してみたいと思います。

〇日中安保対話の中では、「朝鮮半島問題」がひとつのテーマでありました。上海の会議で中国側の報告者の中に、1975年生まれの若い学者がおりまして、北朝鮮の核放棄はあり得るとか、金正日は改革開放に向かうとか、多国間の枠組みが重要であるとか、妙にリベラルな意見を述べるのです。欧州あたりの学会での報告ならばともかく、さすがに日中の会議では孤立気味で、「お前はユートピア的だとよく言われるのですが・・・」などと弁解したりして、どうやら中国国内でもしょっちゅう批判されているらしい。

〇かんべえは朝鮮半島問題については、どっちの言い分が正しいのかサッパリ検討がつかないので、口をさしはさむつもりはなかったのですが、中国側の若い学者が堂々と少数意見を述べているのに、ちょっとした感慨を覚えました。というのは、少なくとも社会科学系統の学問においては、中国の学者の意見はあきれるほど似通っていて、若者が先輩たちに異を唱えるなどというシーンを滅多に見たことがないからです。

〇例えば北京での会議の席上、中国側の軍人さんが「防衛費の透明性について」長々と意味のない説明をしたことがありました。すかさず日本側の金田元海将が、「今のとまったく同じ説明を、シャングリラ会議でお宅の国防部長が言うのを聞きましたよ」とコメントすると、さすがに動揺していました。共産党体制においては、「自分の上司がどういう考えであるか」が重要なので、偉い人が話を始めると、日本側よりも中国側の参加者の方が必死にメモをとっていたりします。かくして、上から下まで似たような意見で染まってしまうのです。

〇さすがに経済分野は、それなりの自由度が与えられているようで、例えば人民元レートの問題などでは、経済学者同士で活発な議論が行われているようです。その一方で、学生相手に講義をした際に「私は株をやっていますけど、バブルが崩壊すると思うと心配でたまりません。どうしたらいいか、教えてください」というお馬鹿な質問が出た。まあ、そんなのはご愛嬌だと思ったのですが、司会を務めた陳先生は苦い顔で、「あれは中国の教育の失敗です。いつも先生が正しい答えを持っていると思っているんです」と言っていたのにハッとしました。

〇もちろん市場経済においては、「正しい答え」なんてものはありません。誰かが「もう高い」と思って株を売るときは、「まだ上がる」と思う人が買ってくれるから売買が成立するわけで、市場が正常に機能するためには、多様な意見の持ち主が集まることが必要なのです。「バブルは崩壊する」と予言する人がいたら、即座に裏読みして「逆張り」する投資家が出てこなければならない。そういう意味では、中国における今の投資ブームは、「自分の意見」を持つ個人を育てているかもしれないのです。

〇話は戻って、中国の若き朝鮮半島専門家に向かい、かんべえはこんな風に語りかけました。「私は門外漢だから、誰が言うことが正しいかは分からないけれども、あなたが少数派の意見を言っていることは、とてもいいことだと思いますよ。あそこにいる武貞教授は、北朝鮮問題のベテラン・ウォッチャーとして有名ですけど、10年前は少数派だったんですから」。

〇10年前の北朝鮮は、明日にも崩壊するかのような報道が相次いでいました。(SAPIOなんて、いったい何回崩壊させたんでしょう?) そんな中で、「金正日はしっかりした指導者です。今の体制は21世紀になっても続いているかもしれません」と言い続けていたのが武貞先生でした。当時、それを聞いて笑い飛ばした人たちを、かんべえは大勢覚えております。

〇多数派が間違っていて、少数派こそが正しかったということは、この世の中ではけっして少なくありません。中国においても、少しずつ「少数派」が育つようであってほしいものだと思います。


<11月25日>(日)

〇中国にいる間、「日本のバブルの経験を聞きたい」という声をしばしば聞きました。実際、特に上海では「買った家の値段が3倍になった」だとか、「もう今からでは買える家がない」とか、「美術品や骨董品が高値になっている」などと、昔どこかで聞いたような話をたびたび耳にしましたから。

〇日本の経験を当てはめるならば、本当の意味でのバブル崩壊は株価下落の2〜3年後にやってくるはずです。でもって、株価の下落は今まさに始まった感がある。その辺は、以下のグラフをご参照いただくとよく分かると思います。

●上海総合指数:http://stock.searchina.ne.jp/data/chart.cgi?span=90&asi=1&code=SSEC 

●SSE Composite Index: http://finance.yahoo.com/q/bc?s=000001.SS

〇上海の総合株価指数(SSEC)は、今年2月27日に3,048.83Pで開けて、2,771.79Pで引けた。1日で9%も下げたということで、NY市場までつられて下げて、世界同時株安が起きた。これを「上海ショック」とか「227事件」などと呼んで騒いだわけだが、海外の動揺を無視するかのように、SSECはその後も上昇を続けた。3月19日にはあっさりと3000P台を回復。あれよあれよという間に倍になり、10月15日から17日にかけては終値で6000Pを超えた。つまり半年で倍になった。

〇ところが先週末の時点では、5000Pギリギリまで下落している。罫線の形を見るからに、この先の調整は長引きそうである。@政府による景気引き締め策、A資源価格高騰の影響、B今後予想される対米輸出の減少、そしてCサブプライム危機に伴う海外資金の退潮、といった諸般の情勢を考えても、結論は変わらない。「いつか来る」といわれてきたその日が、今こそ到来したのだとしたら、はて、政策はどうすべきでありましょうや。

〇おそらく正解は「何もしない」でありましょう。11月23日でも書いた通り、伸び盛りの経済にとってバブルの生成と崩壊はそんなにめずらしいことではない。実体経済の強さを考えれば、復活も早いはず。問題はその間に、間違った政策が取られてしまうリスクであって、その可能性はあんまり低くないと思います。金利を上げすぎるとか、為替レートを急激に上げるとか、公的資金で株を買い支えるとか、不動産向け貸し出しの総量規制をやってしまうとか。それって全部、日本がやってしまったことですけどね。「日本に学ぶ」必要は大有りということだと思います。

〇さて、明日は久々の出社となります。月曜日の株価にも注目したいところですね。


<11月26日>(月)

佐藤空将のブログで、日中安保対話が紹介されています。元広報室長だけあって、佐藤さんのメモは非常に正確で詳細なので、今後のエントリーが楽しみです。かんべえの記述とあわせてお読みいただくと、チャイナウォッチがより立体的になるかと存じます。

○せっかくですので、佐藤さん以外の岡崎研究所ご一行様をご紹介しておきましょう。今回のツァーは、こんな顔ぶれでした。

○団長は岡崎研究所副理事長の川村提督。海に関する研究と国際交流に挺身する薩摩男児。日米台三極対話でも日本代表を務めています。

○海外出張の数では誰もかなわない金田海将。キチンと整理された小さなカバンひとつで、世界のどこへでも。日中の艦船相互訪問が実現し、今週末に晴海ふ頭に中国の軍艦が寄港するのはこの人のお陰です。

○朝鮮半島問題の専門家、武貞主任研究官。先月のソウル出張に続いてご一緒いたしました。尊敬する先輩なのに、ついつい「話がくどい」とか「親父ギャグが多い」とか言って、イジメてしまうのは何故でしょう。

○評論家の潮匡人さん。かんべえと同じ年なので、「老眼が進んだ」みたいな話でつい共感してしまう。昨今の守屋前次官問題については、ひょっとすると日本でいちばん詳しい人かもしれません。

○岡崎研究所主任研究員の鈴木邦子さん。前東大特任助教授で、最近は桜チャンネルのキャスターとしてもご活躍中。先日の小川彰さんの七回忌では司会を担当しました。

○そしていつも岡崎研究所の対中プロジェクトでは、通訳からツァーガイドまでお世話になっている王雅丹さん。こういう本の翻訳者でもあります。中国関連の仕事がございましたら、いつでもご用命ください。

○以上7人は気心の知れた仲間でありまして、始終ワイワイガヤガヤやりながら珍道中を繰り返しております。これが日中安保対話の隠れた楽しみでもあります。


<11月27日>(火)

○創聖のアクエリオンのCMが変わっちゃいましたね。よっぽど好評であったと見えて、悪乗りモードです。でも音楽も変わってしまったし、女の子も「羽なし」になってしまった。あれじゃつまんないよね。やっぱし「1万年と2000年」を聞きたいです。最近は英語版もありまっせ。

http://www.youtube.com/watch?v=41Wr5NMp8eg&feature=related 


○オーケストラ版もいい仕事してます。

http://www.youtube.com/watch?v=0vp76bRm4HQ&feature=related 


○ということで、「あなたと合体したい」は今年の流行語大賞にしてもよろしんじゃないでしょうか。受賞者はもちろん、福田首相ということで。

○ちなみに以下は今日、脱力さんと交わした短い会話。


かんべえ 「こないだ朝日のbeで書いてらしたナベツネ批判、まったく同感なんですけど、なんで朝日新聞は自分で批判せずに、脱力さんに書かせるんでしょうね?」

脱力さん 「読売との大連立を考えてるからじゃないですか?」


○そういえば、朝日は靖国問題では読売と「パーシャル連立」をしていたし、今度はネット版を3社で「ヴァーチャル連立」にするそうだし。この際、合体してはいかがでしょう。


<11月28日>(水)

○昼間に銀座の数寄屋橋を通りかかったら、あっと驚く大行列が出来ていた。「ここから30分待ち」などという看板が出ていて、ほとんど万国博覧会状態。何かと思ったら、年末ジャンボ宝くじの売り出しでありました。毎度のことですが、西銀座デパートチャンスセンターの売り場がいちばん人気があるんですよね。

○これだけ大勢が宝くじを買いに来たら、かる〜く1ユニットは売れちゃうでしょう。ということは、その中から確実に3億円が出るということになる。3ユニット売れれば、3億円が3本出ることになる。かくして、「あそこは3億円がよく出る」と誰もが思うので、ますます遠方から人が集まってくる。そんな風にして、「伝説」は確かなものになっていくのでしょう。でも当たる確率は、どこで買っても同じだと思うんですけど。

○夜は長島昭久さんのパーティーへ。石破防衛相とのディスカッションが予定されていましたが、さすがに成立しませんでした。なにしろ前防衛次官が逮捕でありますから。しかしまあ、なんちゅう変なことをやってるんでしょうかねえ、この国は。もうちょっと政策の話もしましょうや。と、思われたかどうか、今宵の長島さんはとっても熱かったです。


<11月29日>(木)

○以下は株式新聞社さんの「勝ちどき通信」から。

> 年末恒例の「10大サプライス」や「びっくり10大予想」。
> JPモルガンが先陣を切ってきた。
> (1)32年ぶりに自己資本比率が低下
> (2)日本株アウトパフォーム
> (3)米国が利上げ再開
> (4)中国が変動相場制に移行
> (5)日本が京都議定書から離脱
> (6)福井日銀総裁続投
> (7)55年体制復活
> (8)時価総額御三家(銀行・自動車・電機)の覚醒
> (9)2月に桜開花
> (10)円キャリーの逆流
> さてこれからが楽しみとなってくる。

○2008年の予想はとっても難しい。上の10項目を見ていて、例えば(1)(6)(9)当たりは、あんまりサプライズじゃないような気がするぞ。それからこんなのも出てました。

> ある国内大手のレポートは「2008年のテーマ」。
> 羅列してみると「北京オリンピック・米大統領選・京都議定書・洞爺湖サミット・排ガス規制・
> 電気自動車・燃料電池・新型太陽電池・有機EL・白色LED・次世代高速無線・
> タスポ(たばこカード)・地下鉄副都心線・特定検診、特定保険指導・後発医薬品・衆院選挙・為替相場」
>
> 確かに折々のテーマとして彩りを添えるに違いないが、どれも目新しさがなくインパクトには欠けるようである。
> 今年前半のような不動産、春からの原発のようなテーマが潜んでいるはずだが・・・。

○あ、そうそう、これもチェックしておかなければ。今年の新語・流行語大賞の候補は以下の通りです。週明けの12月3日発表だそうです。

KY(空気が読めない)  産む機械  事務所費  ナントカ還元水  しょうがない  お友達内閣  背水の陣内閣  共生  マダム・スシ  そのまんまショック  (宮崎を)どげんかせんといかん  宮崎のセールスマン  身体検査  姫の虎退治  (消えた)年金  オグシオ  ハニカミ王子  かわいがり  サミング  国民の期待に応えられました  そんなの関係ねぇ  オッパッピー  どんだけぇ〜  欧米か!  ビクトリー/ビリーズブートキャンプ  千の風になって  がばい(旋風)  おしりかじり虫  別に・・・  干物女  格差婚  鈍感力  赤ちゃんポスト  1円○○(1円パチンコ、1円携帯)  鉄子  ミンチ偽装(偽装食肉)  猛暑日  ふるさと納税  モンスターペアレント  闇サイト  ネットカフェ難民  デトックス  カワユス/ギザカワユス  コンプライアンス  金属ドロ  チャイナショック/チャイナフリー  大食い(メガ○○)  フードファイター  ワーキングプア  (核施設の)無能力化  もてぷよ  不都合な真実  大人かわいい  ハケン  工場萌え  炎上  Dice−K  奪回  ハンカチ世代  (一連の)ルー語 

○ということで、そろそろ2007年の総括や2008年の予想を考えなければなりません。そういう季節になりましたね。そういえば、今週末には喪中欠礼の宛名書きをしなければ。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki