●かんべえの不規則発言



2022年9月






<9月1日>(木)

〇本日はとっても久しぶりに外務省の飯倉公館へ。すぐ近くの麻布台ですごいビルが建設中ですなあ。森ビル、とっても派手です。

〇本日のテーマは「マイク・マンスフィールド財団の第26期研修員の歓迎会」。アメリカの国家公務員を1年間、日本に送り込んで研修させるというプログラムである。本日も訪日したばかりの10人の研修生が、「日本語で」挨拶をされていました。

〇弊社でも、いろんな方をインターンとして受け入れたことがあります。その昔、当社のLNG部のブリーフィングを受けたエネルギー省の職員は、「どうやったらアメリカにLNGの輸入基地を作れるか」を研究しておられました。まだ、シェールガス開発が軌道に乗っていない時期だったから、まさかアメリカがLNGの輸出国になるとは考えていなかったのである。

〇このマンスフィールド・プログラムとは、もともとは30年前に林芳正さんがウィリアム・ロス上院議員のスタッフをやっていた時代に、書いた法案が成立して30年の長きにわたって続いているもの。本日は外務大臣として歓迎挨拶をされていました。「この財団の立ち上げ時期には、自分は『日本側の父(Father)』と言われていたのですが、最近は『お爺さん』と呼ばれてしまいます」とのことでした。

〇続いてあいさつに立ったのはラウム・エマニュエル大使。マンスフィールド上院議員がいかに偉大な政治家であったかについて縷々紹介し、日米関係は"The most important relationship."であると述べた瞬間に、一同の間から"Bar Non"という声が洩れました。いやあ、懐かしい。久しぶりに聞いたぜ、そのセリフ。

〇とはいうものの、不肖かんべえ、そもそも「立食パーティー」というものが久しぶりで、当初20分くらいはわれながら「借りてきた猫」モード。これはほかの人も同様だった様子で、だんだん打ち解けてくると、次から次へと「いやあ、お久しぶり」の会話で盛り上がる。なんかこう、スイッチが入った感じ。コロナ前はこういう楽しい会をしょっちゅうやってたんですよねえ。忘れかけていた方ともお話しできて、初めての方ともお話しできて、いやあ楽しい、たのしい。

〇お会いした人の中には、「この週末からアメリカに出張します」という方が大勢いらっしゃいました。その秘密は来週9月7日から、日本に入国時のPCR検査が不要になること。つまり9月5日や6日に帰ってくると、現地にてPCR検査費用で×万円がかかるのみならず、下手をすれば「陽性でしたからあと10日間アメリカ滞在の刑」に服する必要があった。9月7日以降に帰れば、その辺のリスクが消えるから。

〇なるほど、そういう理屈であったか。世の中はどんどんアフター・コロナに向けて動き出しているのだな、ということを感じた次第です。


<9月2日>(金)

〇小谷賢『日本インテリジェンス史』(中公新書)を読む。いやあ、これはいい本です。

〇内調、警察、外務省、防衛省、それに公安調査庁という5つの組織が、日本のインテリジェンス・コミュニティを形成している。本書はその「通史」であります。この分野における唯一の先行研究には、リチャード・サミュエルズの『特務』がある、なんてもちろん知らんかったわい。

〇戦後の占領期に始まって、内調はどうしてできたかとか、通信傍受はどうやって始まったかとか、「へえ〜!」という話が多過ぎ。しかもベレンコ中尉の亡命やら大韓航空機撃墜事件とか、誰でも知っている事件が絡んでくる。しかも不甲斐ない話が一杯。昔の日本の組織は、なぜあそこまで縦割りの弊害が強かったのか。まあ、米軍の暗号を陸軍は解読していたが、海軍には教えてやらなかった、という戦前よりかは幾分マシかもしれんのだが。

〇戦後の日本は「スパイ天国」などと呼ばれつつ、何度も情けない思いをしてきた。しかも、「情報が回らない、上がらない、洩れる」というのがインテリジェンス・コミュニティの実態だった。それでもまあ、われわれ安全保障はアメリカさんのいう通りにしていればいいんだから、ということでどこか安穏とした日々であった。ここだけの話、後藤田さんなんかも、「警察さえよければそれでいい」人だったみたいだし。

〇1990年代になると、さすがにそれでは拙いということになってきた。そこであれこれ苦闘を続けるわけだが、第2次安倍内閣におけるインテリジェンス改革は、ほとんどブレークスルーであると言っていい。これも通史だからこそ見えてくる話である。

〇特に2014年に「特定秘密保護法」を成立させたことが、改革のターニングポイントとなっている。あのとき、反対していた人たちって、今はどうしているんだろう? そうだ、翌年には平和安保法制にも反対して、その後は「モリ・カケ・桜」を追及して、それでも安倍さんが辞めたのはコロナ問題で、そして今は安倍国葬に敗退しているわけね。

〇でも、その安倍さんはもうこの世には居ないから、いよいよ国葬後は彼らが思いを持っていく場所がなくなるのね。お気の毒様です。「安倍ロス」は右よりも左の方が重いのかもしれません。知らんけど。


<9月4日>(日)

〇NY帰りの秋山信将先生が、「向こうのラーメンは高かった。一杯30ドルもした」と力説するものだから、ついつい行きたくなってしまったではないか。

〇「ラーメン激戦区」と呼ばれる柏市であるが、まずはご当地出身の「王道家」が取手から帰ってきてくれたので、連日のように行列ができている。暑いのによく並ぶよねえ。後は「麺屋こうじ」とか「こってりらーめん誉」、南柏の「麺ぽーかろう」あたりが定番であろうか。駅からすぐ歩ける場所、ということで本日のチョイスは「AKEBI」であった。

〇特製ラーメンにビールもつけて1450円である。ふふふ、今のレートならば10ドル少々である。秋山先生によれば、NYではビール代は別、さらにチップを払う必要があって、これは心理的な障壁が高そうだ。なんだかマクドナルドでチップを請求されているような気がしてしまう。

〇AKEBIは煮干しなどの魚介系スープで、すいすいと行けてしまうので、ハッと気が付くとドンブリの底が見えてしまうという困ったスープである。ちなみにNYのラーメン屋はとんこつ系が中心であるとのこと。いろんな味のラーメンを食べ比べるとなれば、やはりこれは日本で試すよりほかにありますまい。

〇秋山先生、NPT再検討会議のために1か月近く滞在されていて、最近のアメリカの物価高と円の弱さを実感されたとのことである。日本国内に居る者としては、今のうちに「安い日本」をエンジョイしておきたいものである。10月1日過ぎると、またいろいろ値上げが来るんだろうなあ。


<9月5日>(月)

〇今日はアメリカではレイバーデイの祝日。9月の第1月曜日を過ぎると、いよいよ11月8日の中間選挙に向けて最終盤シーズンということになる。競馬でいえば第4コーナーを回ったところで、あとはゴールを目指して一直線ということになる。ここまで溜めていた足を一気に解き放ち、目指すはラストスパートである。

〇となると、それまでとは戦略も変えなければならない。この点は特に共和党候補者が気を付けるべきことである。予備選が終わるまでは、「われこそは純正MAGA(Make America Great Again)候補ですよ」と共和党支持者にアピールして、指名を確実なものにしなければならない。そして候補者になってしまったら、今度はレイバーデイ後には無党派層に焦点を充てなければならない。トランプさんとは距離を取った方がいい。

〇これをうまくやったのが、ちょうど1年前にヴァージニア州知事選挙で勝利したグレン・ヤンキン候補であった。その勝利の方程式は、「ヤンキン定跡」と呼ぶにふさわしい。すなわち、かねてからトランプさんの覚えを愛でたくしておいて、予備選段階ではエンドースメントを受けるのだけれども、ご本人を選挙区に呼んだりは絶対にしない。それによって得られる票よりも、失われる票の方が多いから。それに熱烈なMAGA有権者が民主党候補に投票することはあり得ないのだから、彼らのことはほっといていいのである。

〇その上でヤンキン候補が選んだのは、「教育問題で攻勢に出る」ことであった。「クリティカル・レイス・セオリー」が本当に公立教育の現場で行われていたのかと言うと、そこは結構怪しいのであるが、これは中道派の白人票を味方につけるには絶好の切り口であった。逆に民主党のベテラン政治家、テリー・マコーリフ候補は、「教育現場で何を教えるかなんて、そもそも親が口を出すべきことではない」(ええっ?コロナで学校はやっていないのに?)と口走って自爆したのであった。

〇ということで、昨日までは「トランプ命」と忠誠を尽くしてきた共和党候補者たちは、今日からは手のひらを返して無党派票を取りに行かねばならない。え?トランプ?そんな人、あたしゃ知りませんがなあ、みたいに振舞う方が賢明なのである。だってゲームのルールが変わるのだから。

〇ところがそのことを理解できていない人が1人だけいる。それはドナルド・トランプその人である。彼は選挙戦が大好きだ。皆の前で壇上に立ち、MAGA候補を応援して拍手喝采を浴び、それで選挙資金が増えるのが嬉しくてしょうがない。ゆえにトランプさんはこの9月3日にも、激戦州であるペンシルベニア州に乗り込んで、州知事候補と上院議員候補を応援している。候補者はもちろん、きわめつけのMAGA候補である。

〇大局的に見れば、これは悪手である。共和党にとっての最善手は、この中間選挙を「ジョー・バイデン大統領に対する信任投票」にすることである。そうなれば、全米的には「このインフレを何とかしろ!」ということになって、ごく自然に野党に票が集まる。ところがこんな風にトランプさんが「悪目立ち」をしていると、何だかこの中間選挙が「トランプ前大統領への信任投票」みたいになってしまう。

〇そんな風に考えてみると、民主党は当初から非常によく練られた作戦を狙っていたのかもしれない。8月8日にFBIがフロリダのマー・ア・ラゴ邸宅に家宅捜索で乗り込んだのも、トランプさん本人やMAGA支持者の怒りに火をつけるためだったのではないか。しかるに一部共和党支持者が暴走をし始めると、無党派層は当然のことながら「引く」。共和党穏健派も距離を置こうとする。当初からそれが狙いだったのだとしたら、これはかなりの高等作戦と言えましょう。

〇実際にはバイデンさんのやっていることは、見ていてとっても心配になることが多いのですが、以上はそんな解釈もあり得るというお話でした。ちなみに以下は、たまたま今日、ナベさんが教えてくれたネタなんですが、これってとってもええ話じゃないですか。敵を減らして味方を増やす。これぞ国対族!という政治手法です。


●インフレ抑制法にサインしたペンを、ジョー・バイデンはジョー・マンチンに笑顔で渡す


<9月6日>(火)

〇先日、お受けしたご質問に、「アメリカはなぜあれだけ経済がすごいのに、政治はあんなに幼稚なんでしょうか?」というものがあった。まことにいい質問である。受けた側が困ってしまうくらいに。

〇アメリカはやっぱりすごい国なのである。コロナのワクチンを1年以内に作って量産してしまうとか、コロナの翌年に5.7%成長を成し遂げてしまうとか、2000万人をクビにしたけどそれが2年後には労働市場に復帰できてしまうとか。今はインフレで苦しんでいるけれども、これも何とかしてしまうのだろう。仮に景気後退やスタグフレーションがあるとしても、たぶんそんなに長期にはわたらないのだと思う。

〇他方、アメリカ政治はトンデモナイことになっている。この点については、「あれはトランプ支持者が悪いだけだ」と言う人が日本では少なくないのだが、誰でも考えるようなお手軽な答えが真実であったためしがない。トランプ支持者は普通に善良な人たちであって、どうかすると知的で誠実な人であることも少なくない。

〇いつも思い起こすのは、いつもネタ元にさせてもらっているelectoral-vote.comの中で、P.M. in Currituck, NC,という人がいたのである。誇り高きトランプ支持者で、その人が2020年大統領選挙の直後にこんなことを言っていた。


As a native blue-collar Pennsylvanian, I highly resent many in the Democratic Party who display this elitist, snobbish mentality. They speak to us like we are idiots, and are extremely condescending. (Due to this, I have found NPR--probably the only intelligent radio broadcast outlet in the country--almost unlistenable.) We're not stupid; we are proud of the life we built for ourselves, and are thoughtful individuals. We aren't racist, ignorant, or yokels. We just think differently, and never think we're better than someone else.

Trump never talks down to people like us, and that is why so many people from my part of Pennsylvania (Luzerne County) voted for him in 2016 (and did so again in 2020). If the Democrats want our votes back, they should start talking to us like we are human beings, and listen to us?like Slotkin does. I am sorry I am not a constituent of hers. If I were, I would wholeheartedly support her, because she "gets" people like us.



〇この発言に対し、もちろんリベラル派からは猛攻撃があったのだが、それに対する受け答えも堂にいったもので、どう考えてもこの「ノースカロライナ州、カリタックのPM氏」は、知的で誠実な人物なのであった。でも、そういう人たちがトランプ支持に回るという政治状況があって、今のアメリカ社会の分断がある。

〇最近になって、渡辺靖教授から岩波新書『アメリカとは何か』をご恵投いただいたのだが、本書のはしがきにはこの「カリタックのPM氏」の話が延々と引用されている。そうか、やっぱり気にしていた人は居たのね!と嬉しくなってしまったが、この問題はやっぱり深いのだ。

〇ということで、アメリカは政治はダメダメだけど経済はすごいのよ、というと、それって中国も同じかなあ、と思えてくる。誰がどう考えたって「ゼロ・コロナ政策」はマズいっしょ。今度は74都市でロックダウンだそうです。これって自分で自分の首を絞めているとしか思えない。でも、中国経済はたいしたものであって、デジタル化の進み具合などははるかにわが国を超えている。というか、もうちょっとなんとかならんのか日本のDXは。

〇それらに比べると、経済は相変わらずパッとしないけど、国葬に統一教会問題ごときで騒いでいるわが国の政治はまことに平和というものです。今日は五輪汚職から銀座のクラブ事情まで、とってもディープなお話をいっぱい聞いてしまってお腹がいっぱいな状態なんですが、この国は多少は貧乏になりつつあるかもしれないけど、基本は平和です。それはあきれるほどに。


<9月7日>(水)

〇本日は内外情勢調査会の青梅支部で講演会を務める。会場は東京都昭島市のフォレストイン昭和館である。

〇「昭和」というからレトロな場所かというと、実はそんなことはないのである。この名前は年号ではなく、昭島市「昭和町」(しょうわちょう)から来ている。この地名、かつては神奈川県にもまたがる大きな町であって、発足したのは1928年(昭和3年)である。その時は「昭和村」であり、1941年に「昭和町」(しょうわまち)となった。さらに1954年には、拝島村と合併して昭島市となる。昭和町(しょうわまち)はここに消滅するのであるが、新たに昭島市昭和町(しょうわちょう)という地名が残ったのである。

〇近くには昭島市営昭和公園がある。さらにその近くには、ケタ違いに大きい「国営昭和記念公園」がある。こちらは昭和天皇在位50周年を記念して、米軍から返還された旧立川飛行場の跡地180ヘクタールに建設されたもの。こちらは文字通り、年号の「昭和」から来ている。中には昭和天皇記念館もござりまするぞ。

〇不肖かんべえは、フォレストイン昭和館は2017年の新春講演会に呼ばれて以来である。その時は確か、「昭島市といえば長島昭久さんの選挙区だよな。なにか長島さんの話をこじつけなければ」などと余計なことを考えた記憶がある。その長島さんも今は自民党に移り、選挙区も東京18区(武蔵野市、小金井市、府中市)にお国替えとなってしまった。それがさらに、今後の「10増10減」で線引きが変わることになる。

〇とまあ、しみじみ昭和は遠くなりにけり、ということになる。今はなんたって令和だからね。とはいうものの、昭和の知恵はまだまだ重要であって、温故知新は世の習い。てなことを、本日は米中間選挙の観測にからめて申し上げました。政治の本質は変わらんのですよ。とまあ、昭和生まれのワシ的にはそう考えたいものである。


<9月8日>(木)

〇本日は8月分の景気ウォッチャー調査が発表になっている。もともと好きなデータなのだが、最近ではほとんど「コロナ連動型」になってしまい、感染が増えれば悲観的になり、逆に減れば過度に楽観的になる。結果としてDIのグラフがギザギザ型になってしまい、このデータ、もう役に立たんな、と思うこともしばしばである。

〇それでもコメント欄を見ていると、やっぱり珠玉のような指摘が見つかるのである。これなんぞは読んで、「儲けた!」という感がありますな。


・今年は天候に恵まれていて、今のところ、ヴィンテージイヤーが期待できる。また、円安に振れており、輸入ワインの価格がかなり値上がりしているので、国産ワインには有利に働く。秋からの需要が望まれる(甲信越=食料品製造業)。


〇察するところ、これは甲府のワイナリーさんでしょう。そうですか、2022年物はヴィンテージになるらしい。そして円安は国産ワイン業界としては大歓迎であると。食品業界は皆さん円安で泣いているのかと思ったら、ちゃんとニコニコしている人も居る。こういうところが、いかにも経済の経済らしいところであります。

〇国産ワイン業界は気の毒な立場であって、大手のサントリーやメルシャンは輸入ワインで稼いでいるので、彼らの利益はついつい見過ごされてしまうのです。ニュージーランドワインもかなり高くなったので、そろそろ国産ワインを試してみるのも良いかもしれません。


<9月9日>(金)

〇エリザベス二世が崩御されました。なんまんだぶ、なんまんだぶ。

2015年にロイヤルアスコットを見に行った際に、ホンモノの女王陛下が会場に姿を現したときは驚きました。ロイヤルアスコットは4日連続開催なので、「まあ、たぶん最終日くらいにはお出ましになるのだろう」と思っていたら、ワシが行った2日目にもご降臨されていた。「王室主催のレース」というのは、まさにそういうことであったのか、と頓悟した瞬間であった。

〇女王がお出ましになったときの、周囲の紳士淑女たちの歓迎ぶりが圧巻でした。椅子の上に乗って手を振るお調子者も居ましたなあ。王室がいかに英国民の中に浸透しているかを実感させられた瞬間でした。

〇そしてチャールズ王が誕生へ。チャールズということは3世でありますな。

〇チャールズ1世(1600−1649)は清教徒革命に遭って処刑されている。チャールズ2世(1630−1685)は亡命したり、王政復古したり、議会と対立したり、いろいろ苦労をされた方である。「チャールズ3世」を名乗るとは、アンタ、ええ度胸されてますなあ、てな気がする。

慶応大学の鶴岡路人教授によれば、フィリップ、アーサー、ジョージなどの選択も可能だったようだが、チャールズの一択であった由。余計なことながら、チャールズではなくてリチャード3世の場合はシェイクスピアになるので、これはこれで難儀な王様ということになる。ちなみにこれがルパンであった場合は・・・(以下略)

〇ともあれ、チャールズ王の前途に祝福がありますように。


<9月10日>(土)

〇本日掲載された東洋経済オンラインの駄文であります。


「日本が『円安貧乏』から脱却する3つの地道な方法」


〇円安貧乏から脱却するためには、@輸出をちゃんと伸ばす(せめてコロナのワクチンくらいは国産にしよう)、A化石燃料をこれ以上使わないようにしよう(脱・炭素のためにもいいことです)、Bインバウンドの回復を(今の円安はバーゲンセールだよなあ)の3つが必要だと申し述べました。

〇もっともネット上の読者というものは、「地道な方法」が知りたいのではなくて、単に怒りを発散する対象を求めているようなところがある。「そうか、やっぱり自民党と日銀が悪いんだな!」みたいな不毛な答えを求めているのだとしたら、あんまり相手にしたい手合いではありませぬな。

〇競馬予想はセントウルステークスではなくて、京成杯オータムハンディキャップの方を選びました。とはいうものの、明日の午後3時台には中山俊宏さんを偲ぶ会に出ているので、さすがに実況中継を見るわけにはいかないんだよなあ。

〇ハッと今見たら、ベレヌスが一番人気になっているではないか。いくら1枠1番の好枠に入ったからと言って、それは困るぞ。人気薄を狙ったつもりだったのに。

(→後記:ベレヌス、スタートは良かったのに岩田親父騎乗のディープブリランテに先を越され、さらにファルコニアに前を塞がれてしまっては勝ち目なく、5着に終わりました。西村ジョッキーの若さか、あるいは斥量の57キロが響いたのか・・・。ともあれ無念の結果である。ぐすん)


<9月11日>(日)

〇本日は国際文化会館にて、中山俊宏さんを偲ぶ会である。前半がシンポジウムで後半がレセプション。150人以上来ていましたかね。

〇小生の場合、中山さんと最初に会ったのは、たぶん2001年頃に国問研の研究員をされていた頃であった。当方はさる研究会の委員で、中山さんはその会担当の事務方であった。シンクタンクの下っ端というのは、お弁当の手配をしたり、議事録を作ったり、何かと辛い仕事なのである。特に当時の国問研はいかにもブラックな感じの職場で、「こき使われちゃって大変だなあ」などと同情したものである。

(厳重な注:現在の国問研は、そんなことはないはずである。今日は佐々江理事長が来ておられましたし・・・。)

〇若い頃の中山さんには、きっと将来への不安もあったことと思う。それでも本人はそこから3つの大学の教授を務め、その間にブルッキングスとウィルソンセンターの研究員も務めて、文字通り世界を股にかけて様々な業績を残してこられた。要するに、わが国におけるシンクタンク黎明期における第一世代のスターであった。

〇残念なことに55歳の若さで亡くなられましたが、もう少しすればシンクタンクの代表を務める中山さんや、あるいはどこかの国で民間人大使を務める中山さんを見ることができたかもしれません。もちろんパブリック・インテレクチャルズとしても、長らく第一線で活躍されたに違いない。

〇その一方で、シンクタンクの仕事を長く続けるためには、経済的な地盤はもちろんのこと、精神の自由みたいなものが欠かせない。中山さんは華麗に駆け抜けたように見えるけれども、きっとその過程ではいろんな葛藤を抱えていたものと推察する。どんな世界でもそうなんだけど、第一世代ってのは大変なんだよ。・・・・ワシは単に横で見てただけだけど、そんな風に思うんだなあ。

〇ということで、本日は大勢の方と語り合う。先週のマンスフィールド財団に引き続き、久々2度目のレセプションである。考えてみれば、これもシンクタンク業界に特有の文化だよねえ。今日は「コロナ後初めて」とか、「リアルで会うのは初めて」みたいな人といっぱいお話ししました。ああ、楽しかったなあ。

〇そうそう、シンクタンクの世界というのは、ネットワーキングの世界でもあるんだよね。中山さんはいろんな業界を渡り歩いてこられたから、今日は産官学メディアなどのさまざまな人が来ていました。こういう目に見えない財産をアセットに変えていく、というのもシンクタンクにとっては大事なことなのでありまして。

〇本日の会合の「引き出物」は、意外なことに「とらやの羊羹」でした。故人はこれが好物で、濃い目のエスプレッソと共に味わっておられたとのこと。不肖かんべえも甘いものは嫌いじゃないので、明日からちょっとずついただきます。


<9月13日>(火)

〇ウクライナ戦線がかなり様変わりの模様。果たして何が起きているのだろうか。


「ウクライナ軍に実は児玉源太郎が居るというのは本当だろうか?」

「いやいや、そんなことはない。その代わりに、ロシア軍には牟田口廉也が十人くらい居るらしい」


〇どっちでもいいです。昔から「退却するロシア軍に注意」と言います。とりあえず戦術核の利用だけは勘弁してください。


<9月14日>(水)

〇9月19日のエリザベス女王の国葬には、天皇皇后両陛下が参列されるとのこと。まずはよかった。

〇日英の皇室の長い歴史を思えばそれは当然のことといえましょう。特に今上陛下とチャールズ3世はともに皇太子時代が長かったから、われわれ庶民には想像もつかないようないろんな感情の交錯があったはずである。


「まさかお前が先になるとは思わなかったぜ」

「まあな。お互いにお妃では苦労しているな」


〇いやいや、これは幻聴でござりまする。そうに違いありませぬ。

〇ここを間違って岸田さんが行こうものなら、たぶん弔問の序列は100番目くらいにされてしまったことでしょう。国家元首とそうでないものにはそれくらいの差がありまする。およそ冠婚葬祭というものは「序列」をうるさくいうものでありまして、それは民主主義という観点からいえばたぶんにうっとおしいことではあるのですが、わが国にも皇室があるのですから、ここはそっちの流儀に従うのが吉というものです。


<9月15日>(木)

〇本日発表の8月貿易統計は衝撃的でしたね。輸出が8.1兆円、輸入が10.9兆円、貿易収支が2.8兆円。ちなみに2021年度の赤字が年間で5.4兆円ですから、単月の2.8兆円は衝撃的です。

〇過去最大は2014年1月の2兆7950億円で、今年8月は2兆8173億円ですから、こっちが上であります。季節調整値でいくと、「2か月連続の2兆円越え」となって、これも史上初めてであります。

〇とまあ、その辺のお話を明日のモーサテでご紹介いたします。いやはや、凄い時代になったものであります。


<9月16日>(金)

〇うーむ、今週はいろいろあったのう。それでも予定の仕事が、全部締め切り内に片付いたし、今のところはボロも出ていないようなので、とりあえずは良しとしておこう。

〇次に控えている締め切りは、3連休明けである。まだ何も準備していないけど、3日間のうちにはなんとかなるだろう。そういえば週末の競馬をまったく予習しておらんぞ。せっかく中山競馬をやっているというのに、この指定席予約を取るのが実に大変なのである。何とかならんのか。

〇この世の中、どんなに楽しいこともいつかは終わるし、どんなに辛いこともいつかは終わる。ゆえに今を大事にして生きていかねばならぬ。そして仕事のご褒美は次の仕事なのである。今週もいろんなオファーを頂戴し、いくつかは引き受けて、いくつかはお断りしたような。とりあえず金曜日の夜に感謝である。

〇冷えたビールがなくなったので、さっきから八海山をやり始めたところである。TGIF。


<9月19日>(月)

〇せっかくの3連休なれど、たいしたこともなく過ごしてしまったような。台風が来ていると脅かされていることもあったし、実際に昨日の中山競馬場や今日の中京競馬場は凄い雨模様で、なるほどこれでは当たるものも当たらない。馬券王先生に言わせれば、こんな日はケンするに如かず。自信のある時だけ出動するのが真のギャンブラーであるとのこと。

〇そうはいっても、昨晩は予約を入れてしまっていた手前、都心までTボーンステーキを食いに出かけたのであった。こういう贅沢ができること、今も出てくればちゃんと食えることに感謝しなければばなるまい。

〇ということで、自分なりにリフレッシュしたはずなので、明日も元気に出勤できるはずである。明日の台風は北陸を抜けるとのこと。どうか大事に至りませぬように。首都圏の交通は麻痺しているかもしれんが、そのくらいは気合でなんとかしてしまおう。

〇ぼちぼちエリザベス女王の国葬が始まる。来週火曜日は安倍さんの国葬だけど、なにしろ相手は70年間も在位された国家元首なのだから、変に比較してはいかんのだろうなあ。それにこれは日本でいえば大喪の礼なのですから。


<9月20日>(火)

〇英国の国葬に対する報道量はすごかったですな。エリザベス2世はもちろん世界史の中の巨星でありますから、どこの国でも関心が高いのは当然であります。なにより英国民が参列のために20時間以上も行列した、という当たりに、女王崩御のマグニチュードの深さを感じるところです。

〇それと同時に感じるのは、日本人はやっぱり英国が好きなんですな。英国発のものといえば、シェイクスピアでもシャーロック・ホームズでもジェームズ・ボンドでもハリー・ポッターでもいいのだが――考えてみれば、英国人作家のキャラクター創造力はもの凄いですな――、どの作品についても日本には、おそらく超一線級の専門家、もしくは評論家がいるはずだ。あるいはサッカーやラグビー、テニスや競馬といったスポーツでもいい。これらの競技も、質量ともに途方もないファンがたぶんこの国にはいる。

〇さらに日本にはスコッチウイスキーもファンが多く、最近ではとうとう本場に迫るようなウイスキーを作れるようになってしまったらしい。どう考えても体型的に合わないはずの紳士服まで、英国流は人気がありますし。こうしてみると、わが国の「英国びいき」はそこら中にあるし、まことに根が深い。

〇やっぱり英国発の文化というのは「プッシュ型」なので、わかりやすいし、あっという間に世界に拡散してしまうのですな。そこへ行くと日本発の文化というのは「プル型」なので、なかなか全世界には広がらない代わりに、説明しなくても向こうから勝手に嵌ってくれる、という「オタク族」ができやすい。アニメなどのサブカルチャーや、日本酒やラーメンでもなんでもいいのですが、数は少なくても「私は日本が大好き!」という人たちを作ってしまう能力にかけては、この国はもう少し自信をもって良いのではないかと思う。

〇そしてこの点については、英国人はアーネスト・サトウの時代から、「信じられないほど日本を深く理解してしまった外国人」ができやすいという特色がある。たぶん英国全体としては、日本のイメージはかならずしも良くはないのかもしれないが、ごくたまに途方もない日本びいきが存在する。日英間には何らかの磁力が働いているのだが、それはたぶんに非対称形をしているのかもしれない。

〇ユーラシア大陸の東の端と西の端の島国は、長い歴史を持つ皇室を有することでも共通している。それもたぶん重要なファクターなのでしょう。ということで、日英の不思議なご縁のようなものを感じた国葬でありました。


<9月21日>(水)

〇ワシも詳しいことは知らんのだけれども、ハルキウ(=ロシア名ハリコフ)が陥落してウクライナ戦争の情勢が変わった、というのを聞くと、第2次世界大戦における独ソ戦の天王山、「ハリコフ攻防戦」第1次〜第4次の故事がどうしても重なる。やっぱり戦略的要地というものは、時代が変わっても変わらないものなのだろうか。戦争を決するのは人智や戦意やリーダーシップなどはなく、所詮は地理であり、地形であるのかもしれない。今度、小泉悠先生のご意見を賜りたいものである。

〇で、ハルキウを失った後のSCO(上海協力機構会議)で、中国とインドに冷たくされたプーチン大統領は、いよいよ手詰まりになったようである。ちなみに中ロ首脳会談については、JDさんの分析がいつもながら唸らせるものがありました。中国とインドは、意外と気脈を通じているのかもしれませぬな。この際、お互いにロシアの石油を買い叩いて、いい目を見させてもらいましょうや、てなことで。

〇ここへ来て、原油価格も100ドルを割ってピークアウトしたっぽい。そして天然ガスはみずから欧州向けの元栓を締めてしまった。さすがのロシアのエネルギー収入も、これから先は減じていく理屈である。となればロシアは、「オフランプ=出口政策」を求めなければならない。プーチン大統領は、当初から「ドンバス解放」を戦争の大義として掲げていた。だったらそこで住民投票を行って、「初期の目標は達成された」と言い張る選択肢がありますな。投票は23日から27日にかけてだそうです。急いでますな。

〇その上で「部分的動員令で30万人招集」という手に打って出た。典型的な戦力の逐次投入であり、「特別軍事作戦」がうまく行っていないことを自分で認めたようなものである。ついでに核使用の脅しもついている。これから先は、加速度的に事態が進むんじゃないだろうか。とりあえず国内の反応が気になるところです。アメリカによるウクライナ向け武器&諜報供与もエスカレートしていくことでしょう。できれば冬将軍が来る前に、片を付けてもらいたいものである。

〇ロシアにとって辛いのは、西側との対話ルートをみずから断ってしまっていること。普通であれば、最後の手段として永世中立国スイスを頼る手があるのだが、スイスが対ロ制裁に参加したことで、ロシアがみずから背中を向けてしまった。ということで、「ジュネーブで秘密交渉」という手はもう使えない。だからといって、トルコにスイスの代わりは務まりますまい。エルドアン親父は確かに面白い人だけど、西側諸国は信頼してませんからな。

〇さて、話は変わって明日は世紀のFOMC会合であります。いかにも為替が大きく揺れそうであります。あ、そうか。この日のために先週、当局は「レートチェック」を行っていたのか。明日、145円を超えて円安が進むようならば、いきなり介入爆弾が破裂するかもしれませぬ。最後は「衆寡敵せず」になろうとも、投機筋に対して「ワシらは許さんぞ!」という姿勢は示さねばならないから。

〇なんだかんだいって、アメリカを中心に世界は動いているのだなあ。いかに政治がぐちゃぐちゃで、お馬鹿なことがいっぱい行われていようとも。


<9月22日>(木)

〇昨日行われた世紀のFOMC会合、利上げ幅は予想通りの0.75%でしたが、ターミナルレートが4%台後半だと分かって市場はビックリ仰天。これではドル高・円安になりますわなあ。日米金利差はこの先、どこまで開くことやら。

〇ということで、今日は当局が円買い介入を実施しました。なんとプラザ合意から37年目の9月22日、というのもまことに因果なめぐり合わせです。昨日の当欄でも書いたことですが、先週のレートチェックはこの日のための布石だったのでしょうなあ。

〇そこで気になるのは、この後の日銀は介入効果を不胎化するのかどうかということ。だって中央銀行さんが円を買ってドルを売ったということは、その分だけ金融緩和の効果を台無しにしたことを意味します。だから今日買った円は、後でこっそり売るべきである。ところがその場合は再び円安を招くことになる。黒田さん、そこんとこどうよ?とこの先、誰かがツッコむはずである。

(後記:日経のSさんが記者会見で突っ込んだところ、黒田さんの答えは「YCCだから関係ない」だったそうです。いや、そりゃあ金利はともかく、量からいったら矛盾してるでしょ。まあ、いいですけど)

〇この辺の理屈の面白さを共有できる人たちに申し上げたいと思います。なるべくリフレ派を苛めないようにしてあげてください。彼らはウクライナ領内に取り残されたロシア軍みたいなものですから。こういうときは、Benign Neglect(慇懃なる無視)が正しい礼儀作法であろうかと存じます。

〇とりあえず当局としては、「たとえこの先が1ドル150円になると分かっていても、これを機会に円売りで儲けようというケシカラン奴らをワシらは許さんぞ!」という意思表示が必要だったのだと拝察いたします。今日のところは、所期の目的は立派に果たされました。なにしろ投機筋というのは、相手変われど主変わらずの連中でありますから。

〇財務省内で語り伝えられている為替介入の鉄則は、「介入するからには負けてはならん」(元は税金なんだから)である。円高介入の際は外為特会の米国債が増えることになるから、そこで差損が生じる恐れがある。しかるに円安介入であれば、過去に積み上げた外為特会をちょっとだけ減らすだけなので、政府としてはそれほど腹は痛まない。

〇何しろ外為特会は、8月末時点で1.29兆ドルもあります。1ドル140円で計算しても180兆円。今後の米国の利上げに伴って、米国債の値段はこれから確実に下がっていくはずだから、もちょっと売ってもいいくらいじゃないでしょうか。それにこんなときに使わないと、「いざというときのバッファー」としての意味がないというものです。


<9月23日>(金)

〇幼い頃から齢50歳まで、両目1.5で眼鏡要らずだった不肖かんべえは、今や老眼鏡がなければまるで役に立たない人間になっております。そうなると老眼鏡というのは安いものでして、度数1.0のものをテキトーに買いまくって、書斎やらリビングやらいろんな場所に置いておくことになります。

〇ところが安いこともあって、すぐに壊したり無くしたりもする。とうとう今般、5500円という破格に高い老眼鏡を買いまして、これは会社のデスク専用ということにいたしました。移動時用の老眼鏡、というのも買いましたから、これだけ揃えておけばいざというときに、「ああっ、ないっ!」と慌てることはないはずであります。

〇これまで眼鏡ライフとは完全に無縁でありましたから、「どれが自分に似合うか」などということはあまり考えたことがありませぬ。とはいえ、今後の人生において老眼鏡が不要になることも考えにくいので、嫌々ながらでも付き合っていかざるを得ないのでありましょう。昔はねえ、どんな遠くからでも暗いところでも、細かい字まで良く見えたんですけどねえ。


<9月24日>(土)

〇諸般の事情により、富山市に来ております。日本海泡でも天候はやはり荒れ模様。それでも夕焼けが奇麗だったので、たぶん明日は好天になるのではないかと。

〇今宵は上海馬券王先生と合流。いろいろあって、福岡市から戻られたとのこと。再来週にはスプリンターズステークスも予定されており、果たしてどんな予想になることやら。その前に明日の産経賞オールカマーの予想を考えるべきであろう。山崎兄はテーオーロイヤルですか。

〇それにしても富山の海の幸は幸いなるかな。ぶりも白えびも甘エビものどぐろもサバもサワラも、とにかくいっぱい食ってしまったぞ。日本酒も存分に過ごしてしまったぞ。まあ、たまにはいいよね。呑めるうちに呑んでおきましょう。


<9月25日>(日)

〇連休の最終日になってやっと晴れてくれたので、ちゃんと墓参りに行ってきました。いやね、あれは雨の日に無理して行くものじゃないですよ。でないと、せっかくのお花やお線香が気の毒じゃあないですか。

〇以下はそれとはまったく無関係なお話。ゼレンスキー大統領が「ロシアを国連安保理から排除せよ」と言っていたけど、どうやったらそんなことができるのか。拒否権を持っているメンバーを排除しようとしたら、当然、拒否権を使われてしまいます。そりゃあ無駄なご相談というものですよね。

〇とはいえ、何事にも蛇の道というものはあるものです。国連憲章23条をもう1回読んでみると、ロシアを排除する方法が浮かび上がってくるのであります。


Article 23

The Security Council shall consist of fifteen Members of the United Nations. The Republic of China, France, the Union of Soviet Socialist Republics, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the United States of America shall be permanent members of the Security Council. The General Assembly shall elect ten other Members of the United Nations to be non-permanent members of the Security Council, due regard being specially paid, in the first instance to the contribution of Members of the United Nations to the maintenance of international peace and security and to the other purposes of the Organization, and also to equitable geographical distribution.

The non-permanent members of the Security Council shall be elected for a term of two years. In the first election of the non-permanent members after the increase of the membership of the Security Council from eleven to fifteen, two of the four additional members shall be chosen for a term of one year. A retiring member shall not be eligible for immediate re-election.

Each member of the Security Council shall have one representative.



〇パーマネントメンバーとして指定されている5か国の中には、ロシア連邦は入っていませんよね。代わりにあるのは「ソビエト社会主義共和国連邦」です。今の国連はこれをロシアに読み替えて、ロシアに常任理事国としての地位を認めている。本来ならば、1991年にソ連が分裂した時に、国連憲章をちゃんと改正しておくべきだったのです。でも、国連はそれをやってないのです。

〇そこであらためて、「ロシアはソ連ではないから、これを常任理事国とは認めない」という議論を提起すればいいのです。これに対して、15か国の安保理メンバー国のうち9か国がこれに賛成すれば、ロシアを安保理から追放できる可能性が生じます。この場合、他の4つの常任理事国がすべて賛成に回ることが必要になりますが。

〇しかるにここでもう一度、23条を読み返す必要があるのです。あああっ、そうなんです。常任理事国として認められているのは、Republic of China(中華民国)であって、People's Republic of China(中華人民共和国)ではないのです。これまた不作為の罪でありまして、1971年の台湾追放の際も、国連憲章は書き換えられていないのです。それくらい憲章を書き換えるのは大変なことなんです。ちょっとでも変えようとすると、あれもこれもという話になって手が付けられなくなってしまうのです。

〇仮に、「お前はソ連じゃねーじゃん」という理屈でロシアが常任理事国失格であるとすると、中国もまた、いつ何時、同じ憂き目にあうかわからない。ということで、この議題が提示されたら、たぶん中国は反対に回るでしょう。つまり中国が拒否権を発動することになる。

〇いやもう、いっそのこと中国とロシアを両方とも国連から排除できれば、どれだけ世の中がすっきりすることか、なんてことを考えたくなるかもしれませんが、そこまでいくともう国連は国連でなくなってしまう。国連は素晴らしい組織ではなくて、ありのままの人間社会の縮図なんです。だから国連に対して、変な期待を持つのは止めましょう。あそこは理想主義の墓場みたいなところなんです。


<9月26日>(月)

〇週末の間に世界中の株価がドドーンと下げて、今日は日本株もちょこっと下げて、先週の「世紀のFOMC」の消火に追われておりまする。

〇気が付けば為替の方も、ドル円レートは144円台に戻っているわけで、こうなると「また145円台に挑戦か」「そのとき介入は再びあるのか」てな話が出てきます。「財務省は145円を防衛ラインとしている」てな声も聞こえてきますけど、そんなことを当てにしちゃあいけません。

〇通貨当局としても、自分たちの介入で相場が動かせる、などとうぬぼれているわけではないはず。彼らは見込みがあるとき、確実に勝てるときだけ前に出てくる。先週、介入を実施したのは、「てめえら、俺が動かない思っているだろう!」と市場を一喝する狙いがあったから。あれで損害を出した投機筋は少なくないはずなので、当局から見ればそれが成果ということになる。いいんですよ、ああいう連中は昔から同じ人たちなので。

〇逆に先週時点で、「為替介入なんて、絶対にないですよ」と言っていたストラテジスト連中が、今になって「単独介入は合理化できない」などと非難がましくなっているのは、「予想を外した照れ隠し」と考えればよろしい。まあ、よくある話ですがな。

〇彼らから見れば意外なことに、日本の単独介入はアメリカ財務省さまのお怒りを買っていない。そりゃそうですよ。世界中がドル高(による自国通貨安)に対応するために汲々しているのだから。韓国ウォンの対ドルレートをご覧あれ。エライことになっておりまする。

〇今のところ特に売り込まれているのは英ポンドで、「女王陛下逝去とトラス新政権の減税政策」が狙い撃ちされている感あり。学校などのイジメも同じ構図ですけど、いじめられっ子が下手な抵抗をすると、それまでイジメに参加していなかった子どもたちまでが参戦することがあるので、こういう時の対応は要注意です。

〇日本はまだそこまで悪目立ちしていない。「悪い円安」だなんて、あんまり自虐的になるのは止めましょう。


<9月27日>(火)

〇本日は安倍元総理国葬と同じ時間帯に、日本国際貿易促進協会(国貿促)「日中国交正常化50周年記念シンポジウム」でパネリストを務める。なんというか、「非国民!」と罵られそうな感じがマゾヒスティックな快感だったりして。

〇基調講演は寺島実郎さんである。大変、ご無沙汰いたしております。その昔、三井物産の常務執行役員だった寺島氏と、双日子会社の副所長であった不肖かんべえがともに日本貿易会では運営委員であった、というのはわれながらジョークのような気がいたします。まして今日の会場はフォーシーズンズホテル東京大手町、つまりは三井物産ビルの中でありましたから。

〇久々に聞く寺島節は、身体に染入る感がありました。「米中の貿易量は日中の3.1倍」とか、「中国からのコンテナ船は日本海を抜けて西海岸に向かう(その方が2日早いから)」とか、「全世界7700万人のオーバーシーズ・チャイニーズのうち3300万人はASEANにいる」など、ファクトがいちいち腑に落ちました。

〇パネルディスカッションのモデレーターは、これまたご無沙汰してます伊藤洋一師匠である。ああ、あいも変わらぬ司会の専制ぶり、無茶振りが快感であります。それにしても伊藤さん、お元気ですなあ。今では知らない人の方が多いと思いますが、この「溜池通信」は今から20数年前、伊藤師匠のサイトを模して立ち上げたものであります。

〇パネリストの一人だが、実は裏方でコーディネーターを務めていたのが東京財団の柯隆さんである。中国大使館の人が聞きに来ているというのに、あいかわらずきわどい発言もあれば、お座敷芸のようなジョークも繰り出す。でも、日中関係についてはいちばんのステークホルダーである。

〇今回、初めてお目にかかったのが科学ジャーナリストの倉澤治雄さん。宇宙開発からEVまで、中国経済はここまで来ている、というお話を興味深く伺いました。特に今回読んだこの本は面白かったです。

〇ということで、終わってホッといたしました。本日感じたこと、発言したことなどはまた別の機会にご披露いたしたく。


<9月28日>(水)

〇昨日のシンポジウムが紹介されております。ご参考まで。


●中国の貿易シェア、30年で4倍に=対中切り離しと逆行―「日中経済とグローバル供給網」シンポ (2022/09/28 16:00 ニコニコニュース)


〇今日は秋らしいいい気候でした。お昼に日比谷公園の松本楼にて、テラス席でランチしたらとてもいい気分でした。下戸のN君が一緒でなければ、昼間から一杯注文してしまっていたかも。暑くなく寒くもなく、この季節は何よりのごちそうであります。雨はもうたくさん!

〇夕刻から商社代理店会というところで、米中間選挙についてリモートで一席ぶつ。選挙に関する内容なので、いつも通りずぶずぶにオタクな内容なのであるが、わりと好評をいただいたようであった。やっぱり面白いんですよ、アメリカの選挙は。

〇これもお得意ネタでありますので、これから11月8日の投票日にかけて、あるいはその後もたぶん「ワシは負けたと認めないぞ!」みたいな人も出てくるだろうから(トランプ支持者に多い)、その後もしばらくはこの手の仕事が増えそうです。

〇そのためには蓄積を増やしていかなければなりませんな。つまりはオタク度を上げるということであります。


<9月30日>(金)

〇先週から書いたもの一覧。


●新潮フォーサイト 失業者2000万人を2年で解消:アメリカ経済「大退職時代」の「隠れた財産」(9月30日公開)


●電気新聞 時論ウェーブ  露の安保理追放は可能か (10月6日公開予定)


●東洋経済オンライン 日本は中国企業と付き合うのをもうやめるべきか〜日中国交正常化50年、通商国家日本の生きる道 (10月1日公開予定)


●溜池通信  強過ぎるドルと弱過ぎる円 (9月30日公開)


〇これだけ書くとさすがに疲れるのだけれど、終わった後の爽快感というものもありますので、これがあるからモノ書きは辞められない。

〇夜はBSフジ「プライムニュースの夕べ」でホテルオークラへ。このパーティー、コロナで何回も延期になって、おそらくは2019年3月以来ではありますまいか。こうやって復活してみると、立食パーティーというのは楽しいもんですなあ。津上俊哉さんとか三浦瑠璃さんとか松川るいさんとか、「これから朝生」という方もいらっしゃいましたな。お疲れさまです。

〇とっても久しぶりにオバゼキ先生とリアルで会う。メールやメッセンジャーではしょっちゅうやりあっているのに、会ってみたらやはり人間は別物である。そういえば今週末は秋のG1戦線初戦のスプリンターズ・ステークス。さて、どうなりますか。

〇久しぶりのオークラのパーティー飯が妙に旨くて、ついつい取り過ぎて食い過ぎる。ケーキにまで手が回らなかったが、今日のところはこれくらいにしておいてやるわ。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki