●かんべえの不規則発言



2018年11月






<11月1日>(木)

○広島からの客人が訪れて、こんなことを言うのである。

「いやもう、かつては札仙広福と言ってましたが、最近は福岡にはかないません。あらゆる指標で負けています」

「そんなこと言って、今夜の試合は負けられないじゃないですか」

「いや、それは別です。ちゃんと勝って、2勝2敗にして広島に戻らないと・・・」

○今年の広島は西日本豪雨の被害を浴びて、マツダさんも貿易戦争がちょっと心配なんだけど、とにかくカープが強い。そうそう、サンフレッチェもいいところにいる。

○今年の日本シリーズ、「西日本シリーズ」などと言われていますけど、中身の締まったいい試合をしていますな。ついつい今宵は11時過ぎまで見てしまいましたがな。しかしホークスはホントに地元で負けませんなあ。やっぱり福岡市が最強なのか・・・。この週末は広島の反撃を見たいものであります。


<11月2日>(金)

○今朝の日経新聞に、アーサー・クローバー氏が出ていました。先月、彼が訪日した際に収録したのでしょう。米中新冷戦のことを取り上げていて、アメリカと中国の両方を均等に観察している数少ない論者だと思います。

○実は10月16日に当方が取材した内容は、明日の東洋経済オンラインで登場する予定です。中国研究家の津上俊哉さんとペアで質問しておりますので、たぶんこっちの方が面白いと思います。ご期待を乞う。

○もう一点、この問題について掘り下げているのが、今週月曜日の日経「核心」の記事、「米国、技術を関所で死守」というもの。CFIUSと輸出管理法を、「入り鉄砲に出女」と評したのは流石の滝田洋一編集委員です。

○てなことで、米中新冷戦に関するネタは当分、尽きそうにありません。めでたいのやら、めでたくないのやら。


<11月3日>(土)

○仕事が大分片付いたので、ゆっくり朝寝、ついでに昼寝。いやあ、我ながら寝るねる。

○木曜日は仕事しながら見ていた日本シリーズ、今宵はゆっくりとビール飲みながら見物。ソフトバンクホークス、強し。あの広島カープがまったく歯が立たない。いや、もちろんこれは西武ライオンズとのクライマックスシリーズを苦しみながら勝ち抜いたことで、勢いがついているのであって、そこを簡単に勝たせてしまったセ・リーグとの差があるのかもしれない。とはいえ、このチームはホントに隙がない。

○特にキャッチャー甲斐の強肩はすごかった。子どものころから野球を見てきて、あんなに早い二塁送球は見たことがない。ゴルゴ13は0.17秒で銃を抜くことになっているが、甲斐捕手の投球は1.7秒なのだそうだ。いや、いいものを見させてもらった。MVPはまったく納得である。こんな風に守備を楽しめる野球は面白い。剛速球やホームランの数を競う野球は、所詮それまでのこと。

○ということで、「西日本シリーズ」に大満足なのであった。どうにもパ・リーグの方が強いのである。やはりこれは指名代打制の効果なのであろうか。


<11月4日>(日)

○今日は町内会の秋季掃除。ドブさらいはなくて、草むしりが中心なので春よりは楽である。新しく越してきた人も加わって楽しい集団作業。またの名を同調圧力とも言うが、その効力たるや絶大である。あっという間に草が刈られて町内がキレイになる。

○ご近所で建設されていたアパートで、工事が中断されていることが判明。いったい何があったのやら。だからアパマン経営なんて、気やすく手を出すものじゃないですよ。若者が減る国でワンルーム作って、誰が借りてくれるのか。などとブツブツ言いながら草むしり。

○午後からはご苦労さん会で芋煮会。昼間からワインを飲んでへべれけになる。どれくらい酔ったかというと、せっかくアルゼンチン共和国杯(G2)でパフォーマプロミスが勝ったというのに、馬券を買ってあげられなかったくらいである。単勝4.8倍であったか。無念である。


<11月5日>(月)

○今朝はモーサテへ。明日に控えた米中間選挙についてお話しする。本日のところは「上院は共和党+下院は民主党=ねじれ議会」という予想で決め打ちしております。もっともそうはならない確率だってあるわけで、外れるかもしれません。2年前がそうだったもんなあ。大勢判明の水曜午後にはどんなことになっていますやら。

○今日のニュースで面白かったのは、「モーサテジャーナル」で、「アマゾンの第2本社は、バージニア州クリスタルシティーが最有力」との情報。これはまことに納得でありまして、ワシントンDCに直結していて、地下鉄が通っていて、すぐ近くにレーガン空港があって、ペンタゴンにも近い。なおかつ、オフィスや住居スペースも足りている。

○これはもうAI時代の地政学といえましょう。AI時代には、企業はなるべくデータに近い場所に居る方がいい。そうだとすると、首都に近い方がいい。AI時代は一極集中を加速するんじゃないだろうか。

○さて、今週は中間選挙ウィークの始まりである。今週は「ゆうがたサテライト」にも出ますし、「朝まで生テレビ」にも登場しますぞ。ということで、まとめて3日分更新でした。


<11月6日>(火)

○いよいよ中間選挙の当日を迎えました。本日の日本時間午後8時から、既に投票は始まっております。明日の夕方には大勢は判明していることでしょう。

○実を言いますと、アメリカの選挙予測における3大機関ともいうべき「クックポリティカルレポート」「サバトのクリスタルボール」「ファイブサーティエイト」の3つが、すべて同じ結果を示しているのです。すなわち「下院は民主党が取るけれども、上院は共和党がキープする」

○それって昨日のモーサテで不肖かんべえが語ったのと同じ予想なんですが、こうなるとむしろ怖くなってくる。2年前の大統領選挙と同じく、全員が揃って間違えるんじゃないかと・・・・。今日になって、ポリティコさんも同じ予想を書いているじゃありませんか。それじゃあ、ますます不安になってまいります。

○さらに今週のThe Economist誌です。今週のカバーストーリーは、"America Divided --Why the Mid-terms matter"という記事です。アメリカは分裂してしまっている。だから今回の中間選挙では、せめて民主党が下院を取ってくれ。それは共和党にとってもいいことなんだ!という心の叫びのような内容になっています。

○そりゃあ、そうですわな。共和党が上下両院ともにキープしてしまったら、ますますトランプさんが増長して誰も止められなくなってしまう。共和党内に逆らう人が居なくなるのです。そしてそれ以上に、民主党の自信喪失が深刻になりそうです。だってこの状況で勝てなかったら、2020年はどうするのか。最終盤に来て、今までは党内若手に遠慮していたオバマ前大統領が、「もう見てられない」とばかりに全面に出てきている。民主党の人材難は深刻です。

○たまたま今日読んだ『リベラル再生宣言』(マーク・リラ/早川書房)が面白かった。これは良心的なリベラル派による「おいおいおい、このままじゃいかんぞ!」という警告の書である。リベラルの敵はトランプではなく、内部にあり。簡単に言ってしまうと、ここ数十年のリベラル派がいかに「意識高い系」で「上から目線」で、内部に壁を作っては自滅してきたかというお話である。特にアイデンティティ・ポリティクスに救いはない、という指摘はまったく同感です。

○できれば明日は皆の予想通りの結果になって、胸をなでおろしたいところであります。共和党が下院も取っちゃったら事態は深刻で、ブルーウェイブはどこへ行ったんだ!責任者出てこい!全員でこの本(The Once and Future Liberal --After Identity Politics")を読んで反省しなさいっ!ということになってしまうのではないか。

○どうでもいいことなんですが、この本の解説はちょっとひどいと思う。解説者が自分のことばかり書いて、かるーく全体の要旨をまとめて、「最後に、マーク・リラについて簡単に紹介しておこう」と著者の説明は9行で済ませている。おいおい、せめて前著の『難破する精神』との関連くらいちょこっと述べてくださいよ。簡単に入手できるんだからさあ。

○とまあ、日本とアメリカのリベラル派がどうなろうが、ワシ的にはどうだっていいことなのでありますけどね。さて、明日はどんな結果になるのでしょう。


<11月7日>(水)

○昨日は世紀の中間選挙の直前、「もしも『ねじれ』なかったらどうしよう!」と焦ったのでありますが、めでたく選挙結果はねじれることになりました。選挙結果は下記の通りです。

下院:民主党219議席、共和党193議席、未定23議席。民主党が過半数の218を超えましたので、多数派となることが確定しました。慶賀に絶えず。民主党議員の中には、「初のソマリア人女性」(Ilhan Omar=ミネソタ第5区)、「初のイスラム教徒女性」(Rasida Tlaib=ミシガン州13区)、「史上最年少の女性議員」(Alexandria Ocasio-Cortez=ニューヨーク州第14区)、「史上初のレズビアン・ネイティブ・アメリカン」(Sharice Davids=カンザス州第3区)、「史上初のゲイ男性」(Chris Pappas=ニューハンプシャー州第1区)、「初のネイティブ・アメリカン女性」(Deb Haaland=ニューメキシコ州第1区)などの初物尽くしが入っています。アメリカならではの多様性といえましょう。

上院:共和党が52議席、民主党が45議席、中間派が2議席(バーモント州のバーニー・サンダースとメイン州のアンガス・キング。いずれも民主党と共同会派)という結果になりました。残り3議席はフロリダ州、モンタナ州、アリゾナ州で、3つとも共和党になる可能性が大。結果として共和党55対民主党45議席となり、共和党が4つも議席を伸ばすことになる。以前から何度も言っております通り、トランプ政権にとって今回の中間選挙は、「上院さえ負けなければ後はかすり傷」であります。そういう意味では、トランプ大統領が"Tremendous success tonight. Thank you to all!"とツィートしたのもむべなるかなでしょう。

知事:民主党がメイン州、ミシガン州、ウィスコンシン州、カンザス州、イリノイ州、ニューメキシコ州、ネバダ州と民主党が7つも議席を伸ばしました。とはいえ、共和党は2020年選挙を考えると死活的に重要なフロリダ州、オハイオ州の知事をゲットしています。この勝負、どちらが勝ったかは微妙なところでしょう。これで知事さんは共和党が25州、民主党が22州、残りの3つはコネチカット州(たぶん民主党)と、ジョージア州とアラスカ州(たぶん共和党)ということになります。

○以下は今回の中間選挙に対する若干の私見であります。

(1)ブルーウェーブは「さざ波」に終わった。ツナミは起きなかった。民主党陣営としては、「スター誕生」とはいかなかった。誰にヒーローインタビューをしたらいいのか分からない。強いて言えば、テキサス州上院選でテッド・クルーズを3p差に追い詰めたベト・ラルーク前下院議員が殊勲賞でしょう。今後の彼にどんなポストを与えるべきか、民主党はここは知恵を絞らなければなりません。

(2)トランプさんはやっぱり強かった。選挙戦の最終盤で乗りこんでいったフロリダ州、インディアナ州、ミズーリ州などで、共和党はこぞっていい成績を収めている。これは共和党の現職議員全体が、大統領に対して頭が上がらなくなることを意味しています。せいぜい、ユタ州で勝ち上がったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事くらいでしょうかねえ、大統領に逆らう覇気がある人と言えば。

(3)テイラー・スウィフト効果は限定的だった。これはCNNの出口調査を見ると、若者(18歳から29歳)が全体に占める比率は13%に過ぎなかった。逆に50歳以上の比率は56%にも達する。日本と同じで、若者は投票しないのである。その若者は3人に2人が民主党に投票して、高齢者はほぼ半々の結果に終わったのだが、結果としてみると共和党を利したということになる。マイノリティの投票率も、高くはなかった。白人が72%で非白人は28%。これじゃあ民主党は伸びませんわなあ。ちなみにテイラー・スウィフトさんの地元はどうだったかというと、テネシー州ナッシュビルの地元下院議員は再選されたけど、上院議員も知事も共和党となりました。やっぱりテネシー州は保守的なのであります。

(4)何が共和党を利したかと言うと、やっぱり景気が良かったことが大きい。これもCNNの出口調査では、「景気はどうですか?」(Condition of national economy)という問いに対して、Good 68%、Poor 31%なのである。やっぱりアメリカ経済は景気がいいのである。これじゃあ野党は伸びませんわなあ。とにかく景気が善かったら、「現在の高関税政策はいかがなものか!」という批判は起きにくい。

(5)景気が良い、ということは、本来は副次的な争点であるところの銃規制や信仰の問題がクローズアップされる契機となったのだろう。さらに言えば、教育差や年収の差も選挙結果に大きく影響していることが窺える。トランプ政権は「高収入で低学歴な人々」と相性がいいらしい。

○こうしてみると、新しい芽はちょっとずつ育っているような気がする。それでも全体として言えばトランプさんの勝利。この辺がとりあえずの総括と言うことになります。


<11月8日>(木)

○考えてみたら今年の中間選挙、最大の事件は「予想が当たったこと」でありましょう。「クックポリティカルレポート」から不肖・当溜池通信まで、「上院は共和党、下院は民主党」という予測がちゃんと当たった。つまり世論調査は再び信用に足る指標となった。2年前はひどかったからなあ。

○それも不思議なことではなくて、この2年間でわれわれは「トランプ大統領」に慣れた。もしくは慣れつつある。CNNの記者をホワイトハウスから「出禁」にしちゃうとか、そんな無茶なこと(ある人たちは「愉快、痛快」と思っているだろう)をしてしまう大統領が居る、という現実にである。

○以前であれば、「トランプ支持」は滅多に口に出せないことであった。世を憚る影の姿であった。今は堂々と口にすることができる。それどころか、支持者たちは近くでトランプ集会があると朝から出かけて行って、何時間でも立ったままで待っている。政治家の話を聞くために行列して待つ、なんてこと、日本で考えられますか? ワシは小泉進次郎の演説会で1時間待ったことがある。まあ、その辺が限界ですわなあ。すごいのはこの人気が、2015年くらいからずっと続いていて飽きられていないということである。

○トランプ氏が政治的天才であることを伝える簡単なデータがある。今回の中間選挙の直前3日間、彼がどこを訪れたかである。

11月3日(土) モンタナ州、フロリダ州

11月4日(日) ジョージア州、テネシー州

11月5日(月) オハイオ州、インディアナ州、ミズーリ州

○7つの州を回って、無駄玉が極端に少ない。上院議員だけで言えば4勝2敗、さらに知事選では4勝0敗。テネシー州、ジョージア州で勝ち、しかもフロリダ州とオハイオ州という2020年向けの重要拠点をゲットしている(未確定部分を含む)。それも結構、僅差の戦いが多い。トランプさんは、「自分が応援に行けば負けない」という感触を得たんじゃないだろうか。

○選挙を応援してもらった側には恩義ができる。これはもう共和党内は大統領に逆らいにくくなった。高揚した気分になるのは無理もないでしょう。


<11月9日>(金)

○今度の中間選挙を民主党側から見ると、「郊外で健闘した」ことが朗報と言える。これが下院での約30議席増に貢献している。以前から、「都市部は民主党、地方は共和党」という図式があったので、郊外で支持を増やすことの意義は大きい。

○よく「アメリカ大統領選挙の動向は『ママ』が決める」と言われる。歴代の選挙においては、「サッカーママ」とか「セキュリティーママ」といった言葉が生み出され、彼女たちがスイングボーターとなってきた。おそらくそういうママさんの多くは郊外に住んでいる。今回の中間選挙では、トランプ大統領の数々のセクハラ発言やカバノー判事承認のことがあったので、彼女らは文字通り「怒れるママさん」になったのではないだろうか。

○CNNの出口調査を見ると、今回投票した女性の59%が民主党、39%が共和党に入れている。これが男性だとそれぞれ48%、51%なので、有意に差が出ている。もっともこの傾向は以前からあって、2016年大統領選挙では女性の54%がヒラリー、42%がトランプに、2012年選挙ではオバマに55%、ロムニーに44%に投票している。単純な比較はできないが、今回の「女性の約6割は民主党」という数字が意味するものは重い。

○逆に民主党にとって惜しかったのは、「スター候補者が紙一重で負けちゃったこと」であろう。テキサス州のベト・オルークだけじゃなくて、フロリダ州知事を目指したアンドリュー・ギラムだとか、ジョージア州知事を目指したステイシー・エイブラムスだとか、勝てば見出しが取れるようなタマはたくさんいたのである。だから、ヒーローインタビューしたくなるような初当選議員が居ない。それがちょっとツライ。

○と思ったら、いつもチェックしているパディーパワーの「2020年の民主党候補」のオッズがこんなことになっている。おお、なんとベト君、いきなり2位浮上!

Sen. Elizabeth Warren (MA) 4/1 (5.0倍) 1949.6.22(69歳)
Rep. Beto O'Rourke (TX) 5/1 (6.0倍) 1972.9.26(46歳)
Fr. VP Joe Biden (DE) 5/1 (6.0倍) 1942.11.20(75歳)
Sen. Kamala Harris (CA) 11/2 (6.5倍) 1964.10.20(54歳)
Sen. Bernie Sanders (VT) 10/1 (11.0倍) 1941.9.8(77歳)
Sen. Amy Klobuchar (MN) 14/1 (15.0倍) 1960.5.25(58歳)


○つい意地悪な気持ちになって、右側に年齢をつけておきました。民主党の有望株は高齢者が多いんだよなあ。でもまあ、こんな形でスター誕生があり得るというのは、アメリカ政治らしくていいところだと思います。

○ところでひとつトリビアをご紹介。テキサス州の下院議員で、上院選に挑戦して敗れたけれども、最後は大統領になった人がいます。それはジョージ・H・W・ブッシュ(お父さんブッシュ)。出馬の際には、テキサス州の大先輩であるリンドン・ジョンソン元大統領のところへ相談に行った、という逸話が残っています。

○1970年、お父さんブッシュはテキサス州の現職上院議員だったロイド・ベンツェンに破れます。その後、共和党全国委員会委員長、国連大使、中国大使(当時はまだ米中連絡事務所長)、CIA長官などの要職を務めます。それで1981年からレーガン政権の副大統領。つまり浪人時代を上手に過ごして大統領への切符を手に入れた。民主党は、ベト君にどんなポストを提供できるのか。気になるところです。


<11月10日>(土)

○今週末に封切られた「ボヘミアン・ラプソディー」をさっそく見てきました。今ではクイーンを語るときに、「伝説のロックバンド」と言われてしまうんですなあ。ワシ的には今でも高校時代に聴き始めて、多くの曲が脳内の海馬に落ちていて、今でも何かの拍子に耳元で止まらなくなってしまう。で、本日は久々にその世界に浸ってまいりました。

○クイーンというバンドは、1970年代の日本市場では「見た目重視」というくくりで、当初はベイシティローラーズやキッスと一緒に「御三家」扱いされていた。今から思えばご冗談のような話だが、その音楽性の高さは変なタブーのない日本ではすぐに認められた。「キラー・クイーン」はカッコ良かったし、「ラブ・オブ・マイライフ」は胸にしみた。「ボヘミアン・ラプソディー」はあまりにも画期的で、初めて聞いたときは何事が起きたかと思った。そして「ウイ・ウィル・ロック・ユー」や「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」を知らない人はいないだろう。

○ファンとしてはいろいろ複雑なところはあって、あの曲もこの曲も(特に初期のもの)取り上げてほしかった、などという思いは残る。それでもこういう記録が残ることは素直にありがたい。最近ではフレディ・マーキュリーは「そっくりさん」やパロディばかりが横行しているんだもの。

○映画を見てしみじみ感じたのだが、1980年代にゲイであることがどれだけ罪深いことであったか、AIDSがどんなに怖い病気であったかなどは、21世紀の今の若い人に説明することは容易じゃないでしょう。そういう意味では、過去を語り伝えていくことは難しい。でもまあ、関心を持ってもらえるだけでもいい。

○いやあ、あいつら、とうとう歴史になってしまったんですねえ。馬券王先生、早く見に、聞きに行ってくださいまし。まあ、それとは別にエリザベス女王杯の方もよろしくお願いします。


<11月12日>(月)

○明日は「二の酉」で、酉の市がにぎわいそうです。それはいいんですが、深夜にハロウインのときの渋谷のような混乱は浅草では起きないですよね。酉の市はご近所のお馴染みさんが中心ですから、グローバルに人を呼び寄せるということはないと思いたい。もっとも今の世の中ですから、誰かがSNSで宣伝しちゃうと人が溢れてしまうのかも。まったく変な世の中であります。

○たまたま今日、お昼に入ったお店にでっかい「浅草、鷲神社」の熊手が置いてあったものだから、つい余計なことを考えてしまったぜ。あれは、どうみても1万円以下ではなかったような。商売繁盛を目指すからには、「今年は小さいのでいいです」と言うわけにはいきません。毎年、規模拡大を目指さなければなりません。

○今年は11月1日(木)、11月13日(火)、そして25日(日)が酉の日となります。今年は「三の酉」もあるのですな。こういう年は火事にご用心、というのは迷信かと思ったら、カリフォルニアですでに起きておりました。くれぐれもご用心を。あ、そういえば今年も「火の用心」をやらなきゃいけないんだな。


<11月13日>(火)

○最近、片山さつき大臣(地方創生担当)と並んで、世間の顰蹙を買っている桜田義孝大臣(五輪担当)は、当柏市の選出であります。

○当選回数は7回と多いですが、自民党にはありがちな地元建設業→市議→県議コースの代議士さんですので、国会での答弁能力に不安があるのは想定の範囲内であります。昔だったら、全然問題はなかったはずなんです。もっとも、蓮舫さんのことを何度も「レンポウさん」と呼んだのはいただけません。彼女は仮にも最大野党の党首だった人なんですから。

○もちろん桜田さん本人はとっても「いい人」でありまして、どれくらいいい人かと言うと、うちの町内会の夏祭りなどには毎年顔を出してくれます。じゃあ、お付き合いだけ欠かさないタイプの人なのかと言うと、過去10年くらいの間に不肖かんべえがいろんな場所で3回以上名刺交換をして、そのたびに「柏市在住です」と言っているのに、毎回フレッシュな反応をしてくれる人です。どう考えても、悪い人じゃありませんよね。ですから、過去には何度もこの人に投票しております。

○それでは、なぜ桜田氏が今回の安倍内閣で大臣に登用されたかと言うと、もちろん派閥の推薦などもあったのでしょうが、たぶんお隣の流山市選出の斎藤健さんが当選3回で農水大臣になってしまったので、千葉県内の「バランス感覚」が働いたのではないかと思います。自民党は究極の日本型組織ですから、こういうのも一概に悪いこととは言えません。かつての民主党でも、この手の情実人事は結構ありましたしね。完全に情実を排してしまうと、それこそ日本共産党みたいな人事になってしまいますから。

○そこで野党は、せっせと大臣いじめに精を出しているようなんですが、そんなことで安倍内閣が倒れるとも考えられず、マスコミに話題を提供して、小さな得点を挙げる一方で、今臨時国会における絶好の暇つぶしになっているんじゃないでしょうか。そういうことを国会論戦だと思っちゃいけないと思うんですけどねえ。

○念のために申し添えますと、もうちょっとマシな選択肢があれば、ワシも有権者としてそっちを選ぶのでありますが。やむなし、でありますな。


<11月14日>(水)

○警戒警報です。2025年の万博開催地は、日本対ロシア、いや大阪対エカテリンブルクが大激戦になっているとのこと。答えは1週間後の11月23日、パリのBIE総会で決まりますが、ここで負けたら、関西経済の一大事であります。呑気に日ロ首脳会談なんてやってる場合じゃありませんがな。ワシが個人的に楽しみにしている大坂夢洲のIR=カジノ施設も建たなくなるかもしれません。

○7-9月期のGDPは予想通りマイナス成長だったし、貿易戦争は気になるし、株価も不安定だし、来年は消費増税があるし、これはますます日本経済が心配になってきましたぞ。その前にとにかく大阪ガンバレ!と申し上げたい。


<11月15日>(木)

○本日は広島市へ。と言っても、日帰りだから、都合8時間も新幹線に乗っていたことになる。さすがに消耗。あんまり広島を楽しむ時間もなかったので、車中のランチはカキフライ弁当にいたしました。

○気になっていたのは、広島のマツダ工場は7月の豪雨災害から復旧しているはずなのに、工場がフル稼働していないんじゃないかと言うこと。普通だったら夏場に生産が止まった分を、取り戻すはずですよね。そうなっていないのは、貿易戦争や自動車関税を恐れてのことなんじゃないか、との推測が成り立ちます。ところが実態は、周辺にある部品工場の復旧が遅れているから、が理由なのだとか。それならそれで納得、であります。

○本日の仕事は建設機械メーカーさんで、ここも来年の計画は強気継続のようでした。やっぱり中国の需要が大きいので、それが昨年くらいから良くなっている。問題はこれから先で、「米中新冷戦」みたいなことになると需要の腰折れが心配になってくる。いや、それはそうでしょう。トランプさん、皆があなたの一挙手一投足を見守っておるのです。

○最近の講演会では、「最近はインバウンドが増えたことを皆で喜んでいるけれども、日本人のアウトバウンドが増えていないのは問題」という話をよく紹介します。日本の経営者は海外出張はするけれども、遊びの旅行をしない。なんだか貧乏性になっているんじゃないですか、という話をすると、ハッとする人がいらっしゃるようです。

○ところが会場には古い友人のK氏が居て、フランスまで行ってボルドーワインを飲み歩いて、昨日帰ったところだという。会社経営をしながらソムリエの資格を取っちゃうような人なんですけど、世の中にはここまでする人もいるのであります。そうですか、『神の雫』はそろそろ最終章に突入するのですか。日頃、インターネットでNZワインを買ってちびちび飲んでいる身には、あまりにも隔絶した世界なのでありました。

○帰りに広島駅の土産物売り場を覗いたら、最近は「もみじまんじゅう」もお洒落になっているんですなあ。つい買っちゃいましたよ。広島カープの日本シリーズは残念でしたが、「あんなに強いチームになってくれて嬉しいよ」との地元の声を聴きました。なにしろ3年連続のセ・リーグ優勝ですからね。バイバイ広島。この次はきっと泊りがけで、と思うのでありました。


<11月17日>(土)

○溜池通信のニューズレターは、ときどきBLOGOSにアップされます。これは勝手に取り上げられるもので、いちいち書き手に許可を求めたりはしません。こちらも基本、リンクは勝手にどうぞ、という方針です。

○その際に元のタイトルとは別に、編集部がつける見出しがとっても面白い。こちらが思ってもいないような「新解釈」をつけてくれるんです。最新号では、「保守派の反発招いたテイラー発言」となる。思わず「そこですか?」と言いたくなりますな。しかもテイラー・スウィフトさんのビジュアルもつけてしまう。なるほど、ネット空間はこんな工夫で客を釣るわけであります。

○今みたいにネット上に「タダの記事」が増えてくると、とにかくスマホを持っている読者の目を引くことが大事になってくる。でも、なんだか虚しい競争ですな。こんな形で記事を拾い読みする読者って、どの程度、中身を理解してくれるんでしょうか。ヒット数を競っていると、この手の「煽り」がどんどん増えて、結果的に「誤読」が増えるだけなんじゃないかと思います。

○溜池通信は幸いなことに、昔ながらの良質な読者を持っているので、こういうのを気にせずにいることができます。他方、「ネット媒体は、活字媒体のように書き手を育てられるのか」というのがちょっと気になります。


<11月18日>(日)

○ああ、もう仕事したくないっ、という気分の週末なんですが、この週末はポートモレスビーでAPEC首脳会議が行われている。そして17日のCEOサミットでは、ペンス副大統領が案の定、習近平国家主席が居る前で、えらく刺激的な演説をしているじゃありませんか。いやもう気分は米中新冷戦、といった感じであります。

○そのペンス演説の全文は既にホワイトハウスのHPに掲載済みです。特に以下の部分は強烈な皮肉ですな。


Not long after our War of Independence, my nation’s first President, George Washington, warned of the dangers that could undermine all that we had achieved: debt and foreign interference. And so today, let me say to all the nations across this wider region, and the world: Do not accept foreign debt that could compromise your sovereignty.  Protect your interests.  Preserve your independence.  And, just like America, always put your country first.  (Applause.)

Know that the United States offers a better option.  We don't drown our partners in a sea of debt.  We don't coerce or compromise your independence.  The United States deals openly, fairly.  We do not offer a constricting belt or a one-way road.  When you partner with us, we partner with you, and we all prosper.


○アメリカの初代ワシントン大統領が警告していたように、借金と外国の介入だけは気をつけなければいけない。お宅の国の主権を脅かすような借款はいけませんぞ。アメリカを見習って、お宅も「自国ファースト」であるべきです。アメリカの提案は、相手を借金漬けにしたり、独立を脅かしたりはしません。オープンかつ公正です。「締め付けるようなベルトや一方通行のロード」を提案することはありません。共存共栄あるのみです。

○言うまでもなく、中国の「一帯一路」に対する強烈なあてつけであります。「一帯一路」の英語は、以前は直訳して"One Belt, One Road"と言っていたのです。それに対しては、「おいおい、すべての道は北京に通じるというのか?」てなツッコミがあったらしくて、最近では"The Belt and Road"となっています。ペンス演説は、それをさらにいじって、"Constricting belt and one-way road"といるわけです。

○中国側の切り返しが待たれるところなんですが、習近平さんもアドリブは効かないタイプ。本当なら丁丁発止を期待したいところなんですが。


<11月19日>(月)

○これを忘れておった。毎年恒例、新語・流行語大賞の候補策が出そろっている。吉例と言うことで、今年の傾向と対策を考えてみたいと思います。


No.01 あおり運転

No.02 悪質タックル

No.03 eスポーツ

No.04 (大迫)半端ないって

No.05 おっさんずラブ

No.06 GAFA(ガーファ)

No.07 仮想通貨/ダークウェブ

No.08 金足農旋風

No.09 カメ止め

No.10 君たちはどう生きるか

No.11 筋肉は裏切らない

No.12 グレイヘア

No.13 計画運休

No.14 高プロ(高度プロフェッショナル制度)

No.15 ご飯論法

No.16 災害級の暑さ

No.17 時短ハラスメント(ジタハラ)

No.18 首相案件

No.19 翔タイム

No.20 スーパーボランティア

No.21 そだねー

No.22 ダサかっこいい/U.S.A.

No.23 TikTok

No.24 なおみ節

No.25 奈良判定

No.26 ひょっこりはん

No.27 ブラックアウト

No.28 ボーっと生きてんじゃねえよ!

No.29 #MeToo

No.30 もぐもぐタイム


○近年の流行語大賞は、「政治枠」や「お笑い芸人枠」や「テレビCM枠」が今一つの出来栄えで、その分、「スポーツ枠」が圧倒的な存在になっている。ということで、大本命はNo21の「そだねー」じゃないかと思います。だって年の瀬に、もう一回見たいじゃないですか、彼女たちの姿を。No.04「半端ないって」も有力ですが、これは大迫選手本人が言っているわけじゃない、というところが弱みとなります。ちなみにNo19「翔タイム」やNo24「なおみ節」は、大谷翔平や大坂なおみが表彰式に来てくれるか、という点に若干の不安があるので、評価を一段下げたいと思います。

○「新語・流行語大賞」は、基本的に「反政府」の味付けがありますので、いくら審査員から鳥越俊太郎さんが居なくなったからと言って、「ご飯論法」「首相案件」はどっちかが来そうな気がします。去年も「忖度」が年間大賞になりましたからねえ。昔は政治家が「毒まんじゅう」とか「中二階」とか、味のある流行語の発信地になってくれたんですが、

○個人的に、是非これを入れてほしいと思うのは、「ボーッと生きてんじゃねえよ!」であります。『チコちゃんに叱れらる!』は、NHKの近年まれに見るヒットでありますよね。ああいう暴言を吐いて、全然嫌味がないというのがとってもすばらしい。

○この賞は存外、真面目なところがありますので、「あおり運転」「ブラックアウト」といったところも外せないんじゃないかと思います。個人的には「GAFA」や「仮想通貨」は身近な言葉ですが、こういうのはたぶん入らない。それから社会を啓もうするような言葉として、「グレイヘア」「#MeToo」は、審査員の立場になってみると「入れなきゃいけない」という心理になるんじゃないかという気がします。

○それから年末にこのリストを見るとありがちなことに、「ひょっこりはん」って何?俺知らねえぞ!みたいなことが起きます。だってホント知らんのだもの。来年には確実に忘れられている一発屋系の芸人さんだと思われます。そういえば「駄目よ〜ダメダメ」の人って、今はどうしているんでしょう。

○などと、今年を振り返る会話が楽しめます。いやはや、2018年もすっかり押し迫りましたねえ。


<11月21日>(水)

○ジャーナリストT氏がぼそっと言っていた。

「日本企業にはリーダーシップがないと言って、ゴーンさんを持ち上げていた人たちが居て、

今度は日本企業にはガバナンスがないと言って、ゴーンさんをけなしている人たちが居る。

よくよく見たら同じ人だったりして、嫌な世の中ですなあ」。


○御意、でござりまする。

○かつて「芙蓉グループ」というものが存在した。富士銀行を中心に、日本鋼管、日産自動車、日立製作所、丸紅といった企業が属していた。他所の企業グループにおいては、「アイツら、今どきなんてウェットな商売をしているんだろう。ああいうのを『不要グループ』と言うんだよな」などという悪口を言っていたくらいである。

○こういう系列取引が壊れたのは、「ゴーンショック」のお蔭である。逆に言えば、日産は経営危機になってからも、こういうしがらみをなかなか断ち切ることができなかった。今じゃ世間の常識が変わって、系列企業から他所よりも高い値段で原料や部品を買ってたら、株主代表訴訟を起こされてしまいますよね。でも、日本企業って、昔はそんな感じだったんです。若い人は覚えておいてくださいまし。

○ということで、大恩あるカルロス・ゴーン氏ではあるのですが、あまりにも長い年月が流れて、ご本人の公私混同が目立ってくると、感謝の念も薄れてくる。これはもう仕方がないことといえましょう。

○なによりルノー社との利益相反が気になってくる。たしかに1999年にルノーが8000億円を投資して、ゴーンさんを派遣してくれなかったら日産はあそこで潰れていたかもしれない。でも、ルノーさんには毎年配当だけで1000億円も払っているんだし、今じゃ時価総額もこっちの方が2倍あるんだから、もうそろそろいいじゃん。勘弁してよ・・・とまあ、そういうことで今回の社内クーデターが発生したのではないかと推察するものであります。

○クーデターというものは、ひとつの理由だけで起きるものではありません。本能寺の変を例にとりましょう。明智光秀が謀反に及ぶには、いろんな心理的経緯があったものと思われます。

@怨恨説:信長殿にはずいぶんハラスメントを受けているが、それでも取り立ててもらった御恩があるから逆らえない。

A野望説:でもまあ、自分ももともと天下に志がなかったわけではない。世が世なら俺も、という思いは常にあった。

B危機説:筆頭家老格の佐久間信盛殿が追放されたりして、このままだと自分もやられちゃうかもしれない、と思い詰めるようになる。

Cチャンス到来:中国の毛利攻めに向かう信長殿が、ごくわずかな手勢だけを引き連れて京都に宿泊するというチャンスが到来した。よしっ、わが敵は備中に非ず、本能寺にあり!

○おそらく今回も、上記と似たような経路があったのではないでしょうか。

@ゴーン会長の公私混同は社内ではもともと知られていた。とはいえ、これまでの功績に比べれば小さなものである。外国で社宅を買うくらい、安いものではありませんか。

Aところがルノー会長としてのゴーンさんは、3社の経営統合を真面目に考えているらしい。おいおいおい、ウチだって昔はトヨタと覇を競った会社だぞ。最近は結構、新車も当たってるんだし。

Bどうやらゴーンさんはルノー会長としての任期延長と引き換えに、マクロン大統領から因果を言い含められたらしい。2022年でにかたをつけるんだぞ、と。おいおい、ルノーごときの傘下に入ってたまるものか。

C困り果てていたところに、今年6月から「司法取引」という制度が仕えるようになった。しめた、この手があったか!皆の者、協力しないと東京地検様がお前らをお縄にしてしまうぞよ。

○とまあ、こんな成り行きであったのではないかと考える次第であります。

○一方で、「ルノー=日産自動車=三菱自動車連合」に輝かしい未来が待ち受けていたようにも思えないので、筆者としてはこのクーデターは正解だったんじゃないかなあ、という気がしております。結論として「やっちゃえ、日産」。そろそろルノーの軛を脱していい時期だと思いますよ。

○だいたいフランスなんてあなた、経済がダメダメなところを政治で取り返してやろうなどという痛い国であります。取り柄と言えばワインくらいで、後はサッカーが少し強いことくらいでしょ。あの人たちと組んだら最後、天下は取れませんぜ。・・・と、ここまで書くと、明日の朝くらいBNPパリバかソシエテ・ジェネラル方面からお叱りの電話が来てしまいそうですが、まあ、いっか。だってワシ、もともとクルマはトヨタが贔屓なんだし。


<11月23日>(金)

○そういえば、これを宣伝していなかった。来週木曜日に迫っておりますが、まだ若干席があると聞きました。

http://www.nikkeicho.or.jp/symposium20181129/ 

http://www.nikkeicho.or.jp/wp/wp-content/uploads/tisei_tirashi1.pdf 


名  称   シンポジウム(第159回日経調セミナー)

「地政学リスクの時代と日本経済」

開催日時  2018年11 月29 日(木)14 時00 分〜16 時30 分(13時30分開場)
会  場  ステーションコンファレンス東京 pdf  501

 東京都千代田区丸の内1−7−12 サピアタワー5F 東京駅日本橋口直結

定  員  180名 (定員に達した後にお申し込みいただいた場合のみ、ご連絡いたします)
参 加 費  無料
問 合 先  「地政学リスク委員会」事務局(担当:竹内、小林)

TEL:03-3442-9400 FAX:03-3442-9403   Email:cjeri@nikkeicho.or.jp


○ご覧の通り(自分のことは棚に上げて)豪華メンバーであります。

伊藤 さゆり 氏(ニッセイ基礎研究所経済研究部 主席研究員)
神谷 万丈 氏(防衛大学校総合安全保障研究科 教授)
川島 真 氏(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
柴田 拓美 氏(日興アセットマネジメント 代表取締役社長兼CEO)
田中 浩一郎 氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授)
古矢 旬 氏(北海道大学 名誉教授)
吉崎 達彦氏(双日総合研究所 チーフエコノミスト)

○そろそろ2019年の予想をたてなければ、とお考えの方には、絶好の機会となることと存じます。お申し込みは日経調のホームページからどうぞ。


<11月24日>(土)

○BIE総会ではめでたく大阪・関西が2025年万博の開催地に選ばれたようです。いや、ホッとしました。事前に「某国がおカネをばらまいている」(BIEの経費を滞納している国に肩代わりを申し出ている)とか、「アゼルバイジャンとロシアは2位3位連合を組むから、決勝になったら日本に勝ち目はない」などなど、いろんな噂が飛び交っておりましたので。

○当方は今朝起きてから、このビデオをチラ見した程度なんですが、日本のプレゼンは良かったですな。前半はSDGsがどうたらとか、いわばタテマエを言っているわけなんですが、後半の「大阪いいとこでっせ」という部分になると俄然面白くなる。とくにこの桂三輝(サンシャイン)という噺家が、英語で立て板に水とばかりにまくしたてる部分が凄い。4:.17:10あたりにあります。

○その後に出てくるスペイン生まれのゲームクリエイターが、身ひとつで東京から大阪に移住した時に、「だいじょうぶやで、兄ちゃん」(It's gonna be OK.)と言われた、という話もいかにも大阪らしい。大阪はいい意味で個人主義で、実力主義の風土があります。歴代の阪神タイガースの外人選手を見ていると、そういうの多いですからね。

○ところでふと思いついたのですが、今年の漢字に「大」はどうでしょう。今年、スポーツで活躍した選手は「ハンパない大迫」「翔タイムの大谷」「なおみ節の大坂」など、名前に「大」がつく人が多い。それでもって大阪は、今年前半に地震に遭ったけれども、最後は万博誘致を決めて大団円になった、ということで。

○まあ、ワシの予測はマニアックなので、たぶん当たりません。きっと「災」とか「暑」とか、以前にも使われたことがある漢字が無難に選ばれるんじゃないかと思います。ともあれ、大阪おめでとう。これからが楽しみです。


<11月25日>(日)

○台湾の統一地方選挙、すごい結果が出たようですね。とにかく高雄市で国民党が勝った、というのが信じられない。民進党が金城湯池を落としたということです。勝った韓国瑜候補は、「韓流ブーム」と呼ばれているとか。これはもう地殻変動でありますな。蔡英文総統は「党総裁を辞任」というカードを切りました。メルケル首相と同じパターンですが、2020年の再選に黄色信号点灯と言ったところでしょう。

○それから台北市では無所属の候補、柯文哲氏が勝ったとのこと。陳水扁も馬英九も台北市長から総統になっていますから、これは「スター誕生」でしょう。欧州などに見られる脱・二大政党の流れは、台湾にも来ているのかもしれません。台湾の民主主義は歴史は浅いですが、成熟度は高いですので。少なくとも韓国よりはずっと上だと思います。

○2016年の総統選挙を見に行ったときには、「国民党はもう嫌だから、今度は民進党にチャンスを与えてみるか」といった有権者の醒めた民意を感じたものです。かつて島全体を、ブルー(国民党)とグリーン(民進党)で二分した熱気はもう見られない。でも、蔡英文総統の誕生を喜んでいる人たちは大勢いた。

○それから2年で、かくも状況が変わるとは。うーん、とっても気になります。


<11月26日>(月)

○新幹線とか、待合室とか、いろんなところで読んでおります。「中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年」(白川方明)。掛け値なしにいい本だと思います。758pもあって4500円もしますけどね。分厚い割りには、手に持つと意外と軽いです。それから、背表紙に「中央銀行」という4文字のタイトルが横書きで入る本、というのは空前絶後ではないでしょうか。

○第1に同時代の経済史として面白い。バブルとその崩壊に何を考えたか、ゼロ金利解除は正しかったか、リーマンショックや欧州債務危機をどう見ていたか、などがストレートに綴られています。欧米の中央銀行家たちとの会話も紹介されている。白川さんはきわめてオーセンティックなエコノミストですから、いちいち納得するところが多かったです。それから文章も読みやすい。

○ひとつ気づいたのは、白川さんは日本経済がバブルを崩壊させたことよりも、バブルを作ってしまったことの方をより強く反省している。つまりFRB ViewよりもBIS Viewですな。そのバブルをもたらした超低金利政策は、80年代後半の日本が超物価安定局面であったから、なかなか変えることができなかった。どうやら若い頃にそんな原体験をしているから、「物価目標2%」が最後まで「腹落ち」しなかったのですな。なるほど。

○第2に2008年から2012年にかけての日銀総裁時代の回顧録として有益です。ここもまったく正直ベースで、東日本大震災に関する部分など「おいおい、それ書いちゃって大丈夫なの?」ということまで入っています。当時の日銀が受けた非難に対しても、正直に感想を書いている。リフレ派の山本幸三議員が何度も出てくるので笑っちゃいます。ただし恨みがましい感じではない。とにかく、ここまで詳しく内情を明かしてくれた日銀総裁は居なかったと思います。

○もっとも日銀総裁としての白川さんの仕事は、かならずしも褒められたものではなかったでしょう。金融界の中での正論にこだわって、政治やメディアの荒波に翻弄されてしまった。対応策を小出しにして、かえって日銀への風当たりを強くした。金融政策が政治問題になった責任の一端は、日銀自身にあったわけですから。トランプ政権がオバマ時代の結果であるように、黒田緩和は白川時代に対するアンチテーゼであったと思います。

○第3に本書に書かれなかったことが興味深い。白川さんが総裁に選ばれた経緯(ねじれ国会によるドタバタ)や、黒田緩和5年間の評価などは一切触れられていない。率直な感想を言わせてもらうと、日銀の白川時代は民主党政権と同一視されてしまったんじゃないか。だから民主党下野とほぼ同じタイミングで全否定され、そのままアベノミクス時代に突入した。2008年から12年までは、「この国になかったことにしたい過去」になってしまった。

○とはいえ、2013年から量的緩和を6年も続けてみると、やっぱり白川さんの言っていたことは正しかったね、ということが増えてくる。他方、黒田現総裁も今では物価が2%なくてもデフレでなければいいじゃないか、みたいな感じになっていて、要は白でもなければ黒でもない時代を迎えつつある。つまりは灰色の金融政策。長い日銀の歴史の中において、意外と2人は似たような評価を受けることになるのかもしれません。

○本書の中で印象に残ったメッセージは、「ナラティブの威力」です。わかりやすく、感情に強く訴えるナラティブができてしまうと、それに逆らった政策を行うことはまことに難しくなる。「失われた10年」とか「円高は国難」みたいな言葉は、日本銀行にとって重圧であったことは想像に難くない。「日本企業の六重苦」も相当に難渋されたようで、その辺の記述はさすがに「泣き」が入ったものになっている。

○もっとも現代政治においては、特にSNS時代の昨今においては、人々の感情を揺り動かすナラティブを生み出すことこそが勝負になっていて、理論やロジックに基づいた冷静な政策論議がされにくくなっている。思い起こせば2012年の衆院選挙では、うちの近所の人たちまでもが「最近の日銀は問題だよね」と言っていた。そんな風になってしまったらお終いなのです。

○白川氏はバブルの反省を語る部分において、「時代の空気はあまりにも強力であった」(p70)とも述懐している。いつだって、この国はそんな風だ。とはいえ、何事もそれを前提に考えて行かねばならない。少なくとも責任ある立場にいる人は。


<11月27日>(火)

○風邪をこじらせてしまって、ひどい声になってしまいました。少し話すとすぐに咳き込んでしまいます。今朝の文化放送はハラハラものでした。でも明日はテレビ収録で、明後日は日経調シンポジウムです。間に合いますかねえ。

○本日は日本国際問題研究所のシンポジウムに出かけました。パネリストが壇上の椅子に座るだけで、配布資料もパワポもなし、という清々しい最近の欧米スタイル。やっぱりプロジェクターなんて用意しちゃダメですよ。パネリストは久保文明先生、安井明彦さん、舟津奈緒子さん、そしてモデレーターは佐々江大使でした。

○いくつか感心したコメントをメモしておきましょう。

(中間選挙に対する評価)

*アメリカの中間選挙は、議会制民主主義の日本とは違って「政局」にはならない(久保)

*今回の中間選挙は内向き。通商問題はテーマにならず。出口調査の項目にもならなかった(安井)

*共和党の変質が目立つ。宗教保守層は見事に取り込んだが、それ以外の勢力は集結できていない(舟津)

(今後の政策について)

*与野党の分断が激しいが、財政に関しては似ているところもある。結論として財政赤字は増えやすくなる(安井)

*トランプ大統領のツイートをつなげていくと、なんらかの「体系」が見える気もする(佐々江)

*USMCAやKORUSを見ていると、「この程度の変更でいいのか」と感じる。トランプは既存の通商秩序を完全に壊すつもりはないのでは(久保)

*ペンス副大統領の対中政策演説は、今のアメリカでは王道をゆく考え方(舟津)

(2020年選挙について)

*野党にいい候補者が見当たらないと言うけれども、大統領選は最後は必ず五分五分になるもの(久保)

*現職は有利。再選されないのは、不況か党分裂のときだけだ。それよりも民主党はいったい何をしたいのだろう?(安井)

*今回の中間選挙で、民主党がTX(オルーク)、GA(エイブラムス)、FL(ギラン)と南部で接戦に持ち込んだ意義は大きい(舟津)

(その他)

*為替条項はTPP12にもサイドレターで入っていた。それがUSMCAでは本条に入った。が、大騒ぎするようなことではない(佐々江)

*トランプ氏の強みは勉強しないこと。そして支持者と同じ目線、同じレベルで考えることができること。それで選挙に勝てることを示したこと(久保)


○もうひとつ、久保先生が「トランプには北部戦略がある」と言っていたことを興味深く感じました。今日の共和党の地盤は、1970年代にニクソンが作った「南部戦略」に端を発しています。トランプはそれを五大湖沿岸のラストベルトに新たな地盤を築こうとしている。ところが今回の中間選挙では、ミシガン、ウィスコンシンなどで民主党が接戦を制している。このことをどう見るべきか。

○私見ながら3つの可能性があると思います。@民主党の反撃が奏功している、Aトランプ支持者が寝ていただけで、2020年には戻ってくるから問題ない、B景気が悪い地域だから、いつも与党が不利になる傾向があるだけ(最近の東北地方で与党が勝てなくなっているのと同じ)――さあ、どれでしょう?


<11月28日>(水)

○今宵は東洋経済オンラインの「レギュラー執筆者感謝の夕べ」。どうやら全体で300人くらいの書き手が居るらしいのだが、そのうち200人以上が参集していた由。会場のパレスホテルが盛況でございました。

○まことにめでたいことに、山崎、山口、吉崎の3人で回している「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が、「東洋経済オンラインアワード2018」の表彰を受けました。題して「ロングランヒット賞」。考えてみれば、ワシが最初に寄稿したのは2012年のジャパンカップのときであった。今からちょうど6年前ということになる。「無事これ名馬」という言葉もあることゆえ、ロングランは自慢していいんじゃないかと思います。賞状の文言は以下の通り。


連載「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」で、日々変化する世界のマーケットについてわかりやすく解説。
ときに裏を読み、今後を読み解くコンテンツとして多くの読者ファンを獲得。
競馬予想も織り交ぜることで金融エンターテインメントの分野を確立されました。
その功績をたたえここに表彰します。


○これだけ長く続いているのは、ほとんど編集F氏のお蔭だと思います。なにしろ3人の執筆者以上の競馬ファンで、春には中山、秋には府中で競馬会を呼びかけてくれる。さらに7月には福島競馬にも行ったりするので、結果として3人ともF氏の期待だけは裏切るわけにはいかない。競馬のご縁が長寿連載の秘訣、ということになる。

○2012年11月に東洋経済オンラインがリニューアルした時には、月間PVは500万件だったのだそうだ。それが今では2億件になっているとのこと。この間のネット読者の広がりもすごいが、40倍の成長を示した媒体はあんまりないだろう。あまり意識してはいなかったけれども、たまたまネット媒体の勃興期にめぐり合わせることができたということのようである。


<11月30日>(金)

○今宵は生島企画室30周年パーティーでホテルニューオータニへ。生島企画室は、アナウンサーの生島ヒロシさんが弟さんと一緒にやっている会社で、タレントさんや俳優さん、アナウンサーなど数十人を擁するプロダクションです。平成元年に始めた会社が、山あり谷ありを乗り越えて今年で30年。

○生島ヒロシさんとは、マーケット番組やTBSラジオなどで長いお付き合いです。いやあ、今日はホント、すごい集まりでしたな。司会は徳光さんだし、あっちを向いてもこっちを向いても有名人が居る。実は元阪神タイガースの田淵幸一さんなんかも生島企画室所属で、今日は間近で見てしまったな。個人的には、来客の高須クリニック&西原理恵子さんに惹かれるものがありました。

○それから菅義偉官房長官が遅れて登場。なんと生島さんとは、法政大学の同級生だったのだそうです。お二人とも東北出身の苦労人でありまして、「人生波瀾万丈伝」を地で行くような展開であります。政治家もいっぱい来てました。とりあえず斎藤健さんとは握手。それから深谷隆司先生が、とっても見事な挨拶をされてました。

○とにかくすごいパーティーだったのですが、当方は途中で失礼してBSテレ東「日経プラス10」へ。今宵のお題は米中貿易摩擦。と言っても、訳が分からない話なので、訳が分からない話をする。それでいいのだ。

○驚いたことに、この番組は今日でスタジオがお終いなのだそうだ。来週からは4K対応になるから。そういえば、来週月曜はワシは「モーサテ」の出番なのである。こっちもお題はG20と米中なのだが、月曜朝までには全容が分かっていることを切に希望す。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki