●かんべえの不規則発言



2024年4月






<4月1日>(月)

〇映画『オッペンハイマー』を見てきました。3時間の長尺を感じさせない面白い映画でした。しかしまあセリフは多いし、登場人物は多いし、テーマは重たいし、消化吸収するのに疲れる映画です。よくまあ、こんな映画がアカデミー賞を取りましたな。もう1回見てもいいかな、と感じています。

〇ここでの感想は、一点だけにとどめておきましょう。それは「トランプ前大統領が、『大統領には免責特権が必要だ』と言い出した理由は、この映画に登場するトルーマンを見たからだったのか!」 

〇さて、大統領特権に関する最高裁の口頭弁論は、今月下旬から始まるはず。米大統領選ネタは、このところイースター休暇もあって下火になっておりますが、今月中旬にはNYで「口止め料事件」の公判も始まるし、またまたトランプ騒ぎが始まるでしょうな。


<4月2日>(火)

〇本日はかねて予約してある胃カメラ検査へ。

〇いや、別に自覚症状があったわけじゃないのです。単に『ヤバい日本経済』の共著者である山崎さんとぐっちーさんという同世代人が、いずれも食道がんで亡くなられたので、これは「ゲンが悪過ぎる!」と思っただけなんです。食道がんは見つかりにくいそうなので。

〇胃カメラを呑むのは、ピロリ菌の退治をした2015年の秋以来である。あんまり愉快な経験じゃないですが、せいぜい5〜6分の辛抱だし、診療費も4000円くらいです。それで診察してもらった結果は、「食道から十二指腸までまったく問題なし」でありました。ホッとしました。

〇逆に、「これはいけませんねえ〜」と言われたら、そのときは早期発見ができたということで、あの二人に感謝しなければならないところでした。とにかく検査はしておいて損はないです。後で長患いをするよりは、よっぽど本人的にもマシだし、日本全体の医療費負担も減りますから。

〇ときどき、「高齢者医療費負担を思い切り引き上げて、病院の待合室をサロンにしている年寄りどもを追い払うべし」みたいなことを言う人が居ます。が、その程度では、日本の医療保険制度は崩れません。それよりも、長期入院と延命治療が問題なのですから。できれば高齢者は毎週、元気に病院に通って、健康でいてもらう方がずっといいのです。

〇さて、山崎さんと山口さん、今ごろはあの世でスコッチとワインを傾けつつ、競馬談義などしているかもしれませぬ。それは結構なことながら、「そろそろかんべえも、こっちに呼んでやろう」などと思われてはかなわない。まだまだそっちには行かないからねっ!桜花賞も皐月賞も、こっちでやるんだからねっ!

〇というわけで、昨晩は我慢したビールを今宵は飲んでおります。しかしこの後にウイスキーに進む場合は、ちゃんと水で割ることにしたいと思います。


<4月3日>(水)

〇最近になって思いついたこと。今の世界を揺るがす重要概念は、「自国肯定感」なのではないだろうか?

〇もちろんそんな言葉は存在しない。自己肯定感(Self-esteem)の「おのれ」を「国」に換えただけなんだけども、この概念が実は重要になっているのだと思う。

〇アメリカは本来、自国肯定感が強過ぎる国であった。だから「米国例外主義」(American Exceptionalism)などと呼ばれたものである。すなわち移民が作った人工国家であるアメリカは、「世界をおのれに似せた形に作り変えたい」(介入主義)という願望と、「汚れた世界から離れて閉じこもりたい」(孤立主義)という2つの矛盾する願望の間で揺れ動いてきた。どっちにしても他国から見ると迷惑な話なんだけれども、経済でも軍事でも金融でも圧倒的な力を持つ国だけあって、周りはハイハイと従うしかなかったのである。

〇ところがこの20年ほどでアメリカの自国肯定感は急落した。それも2つの要因によってである。ひとつは高齢者(右派)で、仕事をリタイアして初めて「なんだ、この国の内部は全然ダメじゃないか」と気づいたという怒りである。そして彼らはドナルド・トランプに一筋の光を見出している。「アメリカ・ファースト」という考え方は、岡目八目的に言わせてもらえば「貧すれば鈍する」選択だと思うのだが、あまりにも早い変化なので迷惑極まりない。

〇もうひとつはミレニアルやZ世代(左派)であって、彼らは物心ついた時から「この国は碌なことがない」と身に沁みている。アメリカの輝かしい時期の記憶が全くなくて、「9/11」「イラク戦争」「国際金融危機」など、辛いことばかりを知っている。そうなるとやはり他国に介入どころではなくて、「どこの国にでもある医療保険制度や家族休暇制度をちゃんと入れてくれ!」ということになる。彼らのヒーローはバーニー・サンダースである。

〇左右両極がそんな風になってしまうと、例えばウクライナ支援は非常に難しくなってしまう。「外国を助けるカネがあるんだったら国内で使え!」と言われてしまうからだ。いや、真面目な話、ウクライナ支援予算はいつになったら成立するのでしょうか。議会のイースター休暇が明けたら、ちゃんとやってくれるんでしょうか。心配です。

〇日本という国は、もともと自国肯定感が非常に低い国である。下手をすれば「自虐史観」になってしまうし、高度成長期もしきりに「この国はダメだ、ダメだ」と言い続けてきた。それが低成長時代に入ったら、今度は「外国人に褒めてもらいたくて仕方がない国」になってしまい、「インバウンド万歳」みたいなテレビ番組がいっぱいできているのだが、基本にあるのは劣等感の裏返しである。「日本は素晴らしい国なのだ」と言いたがる人たちも、深層心理は似たようなものと拝察いたします。

〇中国という国は、そうでなくても自国肯定感が強い国であったが、驚異的な経済成長を遂げてから、ますます増長してしまった。日本やASEANは何するものぞと思っているし、ロシアなんぞは既に格下になってしまった。かつては憧れであったアメリカも、トランプが出た後は「上から目線」で見るようになった。「あんな風になるのだから民主主義なんて、やっちゃダメなんだよな」と。しかるにここへ来て限界に来ている感もある。

〇もっとも中国人民は利に聡いので、「このままじゃ自分の資産が危ない」と敏感に感じ取っている。そりゃそうだ。正直な経済データを発表したら怒られる、などという国の株なんてコワくて買えませんがな。かくして「消費は減らす、投資も怖い、しょうがないから貯金する」という負のスパイラルに入っている。それで経済がデフレ気味、というのは「失われた×年」に突入する典型的なパターンではないか。なんでも最近の中国では、宝くじが売れているのだとか。

〇似たような話はいくらでも展開できる。ロシアは自国肯定感が低くて、それを一生懸命糊塗している。だからこそウクライナに攻め込んだのではないか? あるいはインドは元来、自国肯定感が強い国だったが、モディ政権下でますます爆発して、止められなくなっているのではないか? こういう視点で現下の国際情勢を見直してみると、いろいろと発見が多いような気がしています。


<4月4〜5日>(木〜金)

〇そうでなくても忙しいさなかに、いつものメンツの間で「4月に京都に行って、『都をどり』を観よう」などという酔狂な企画が成立したのである。だから会社を休んで行ってまいりましたですよ。ああ、われながら何をやっているのやら。

〇行ってみたら、京都は東京より一足先に桜が咲いている。さらに京都駅近辺は、パッと見で道行く人の7割が外国人観光客である。それらが皆さん、大きな荷物をゴロゴロ転がしている。さらに祇園のあたりに行きますと、和服をちゃんと着こなした女性が中国語をしゃべっていたりする。地元の方々は、どうやってこの状況に耐えておられるのか。

〇さらに桜の季節の京都は、宿代がバカ高である。アパホテルが一泊2万円である。それではちょっと悔しいので、天然温泉付き、豪華朝食付きのドーミーインを試してみました。これは正解でありまして、サウナに水風呂までついておりました。さらに朝飯は海鮮丼がお勧めです。

〇ちなみにアパホテルの料金は、当日の夕方にかけてさらに上昇し、夜が深まってくると今度は下がってくる。まるで夕方のスーパーマーケットにおける魚売り場のごとし。まことにダイナミックなプライシングでありまして、社会的ニーズを果たしているのかもしれませぬ。

〇というわけで、昨晩はお仲間一同でディープな祇園をハシゴしつつ、深更に至ったのである。酔いが回ってくると、「ディープ・ギオン」という言葉が脳内で乱反射されるようになる。すると今度は、「われわれは一人の英雄を失った。これは敗北を意味するのか。否、始まりなのだ!」という銀河万丈氏の名調子が蘇ってくる。大丈夫か、俺。「ディープ・ギオン!」

〇さらに格調高いわが友人たちの間では、「祇園をエルサレムに持っていくべきだ」(ギオニズム)などという議論が、大真面目で語られていたりする。イエス・キリストが歩いたという道を、舞妓さんや芸妓さんたちがそぞろ歩きするのは、なかなかにシュールな光景ではないだろうか。

〇「祇園と先斗町と宮川町では、踊りの流儀がそれぞれ違うので、舞妓さんは相互に行き来ができない。それが新橋に行くと、移動の自由が生じる」という話も興味深かった。ネパール人が経営する日本のインド料理屋で、インド人とパキスタン人が仲良く働いているような世界なのだろうか。いやもう、京都はまったくディープすぎます。

〇真面目な話で記憶に残っているところでは、某県知事の失言問題にかこつけて、「シンクタンク業界が、知的な世界とはとても思えない」(実はドスコイ系の作業が多い)とワシが言ったら、ナベさんがすかさず、「シンクタンク業界は、人間関係も大事ですからねえ」と返してくれたことである。そうなのだ。人情と愛嬌も欠かせない。知性が不要とは言わんけど。

〇それにしても某県知事さんはホントに元学者だったのだろうか。あんまり知性がある人には見えませんけれども。さらに言えば、人情や愛嬌も感じられない。よくまあ3回も再選されましたなあ。

〇ということで、慌ただしく帰ってきて本日締め切りの溜池通信はなんとか出せたけど、ほかの仕事は終わってないものが多々あって、方々に不義理を重ねている。のみならずメールのお返事もかなり溜めている。やっぱり京都は怖いところどすえ。


<4月6日>(土)

〇今年は遅れて、いきなり桜が満開。と言っても肌寒い天候なので、ご近所のふるさと公園を軽く散歩する程度にとどめました。

〇お花見客もいらっしゃいましたねえ。いや、私も嫌いじゃあないんですけど、ダウンジャケットを着こんでまでするもんじゃないですよね。

〇それに桜というのは空が青いときに初めて映えるもので、今日みたいな曇天ではせっかくのソメイヨシノも今ひとつなんですよねえ。大堀川の散歩は止めときました。

〇せっかく満開になったけれども、お天気は選べない。これで明日以降も雨が続いて、いきなり散ってしまうかもしれないんだけど、まあ、それが桜というものなのでありまして。

〇たぶんこの列島において、ずっと昔から繰り返されてきたことなのでありましょう。紀貫之や兼好法師も、きっとこの時期になると気を揉んでいたのではないかなあ。


<4月7日>(日)

〇昨晩は「新プロジェクトX」を見てしまいましたですよ。なんだやっぱり平成・令和でも、この国にはちゃんと「努力と友情と勝利」の物語があって、そこにはいい表情をした「名もなき人たち」がいる。なかなかに眼福でござったな。あれに出てきた半田さん、どこかで見かけたら、嬉しくなっていきなり肩とか叩いてしまうかもしれん。

〇鳶さんやプレス工がちゃんと描かれているのも「さすが」である。日本経済が世界に誇れるのは、この国のホワイトカラーではなくてブルーカラーである。そしてこの国には、ちゃんとした「職人さん」に対するリスペクトがある。腕のいい寿司職人さんは、テレビに出ている大学教授よりも尊敬されるべきなのである。

〇まあ、テレビというメディア自体が落日の存在であるとか、若い人は見てないよとか、女性のドラマがないとか(そんなもん、あったらとっくにNHKが取り上げてるわ)、まあ、いろいろ言う人はいるだろうけれども、ワシ的には満足である。そもそもNHKじゃなきゃ、スカイツリーを作っている最中の映像なんて残ってまへんがな。

〇他方でちょっと思うのは、2001年当時に「プロジェクトX」を作っていた人たちは、「新しいドキュメンタリー番組を作ろう!」という試み自体が、「プロジェクトX」的であったはず。今回は昔のフォーマットを復活させて、今の時代に適合させられるかどうかが勝負、という試みである。ちょっと守りに入った作り方だったかな、と思う。

〇いっそのこと、主題歌の中島みゆきとナレーションの田口トモロヲのどっちかを切って、新しいフォーマットに踏み出すべきだったのではないか。そうでないと、作り手たちが「挑戦者たち」になれないんじゃないか・・・てなことは、たぶん社内でいっぱい議論した末の結論だったことと拝察いたします。

〇まあ、「ブラタモリ」の後の枠でやってるんだから、視聴者からとやかく言われるのは当然のことでしょうな。胃が痛い思いをしない仕事なんて、そもそも仕事と呼ぶに値しない。とまあ、昭和世代のワシはそれが当たり前だと思っているのだが、若い人たちにはこれが通じないのだろうな。


<4月8日>(月)

〇「いーちゃん」こと今井先生が亡くなられた。享年81歳。ウチの娘が保育所時代にお世話になったのはもう30年も前のことなので、年に不足はないのだけれども、当時お世話になった「〇〇ちゃんパパ」や「××ちゃんママ」たちが大勢集まって、直葬をお見送りした。

〇「いーちゃん」は私が今までに出会った人の中でも、5本の指に入る立派なリーダーだったと思う。リーダーというものは、大組織に限ったものではない。小さな無認可の保育所であるからこそ、ちゃんとした人が施設長をやっていないと、保育士たちが空中分解してしまうし、親たちも不安になってしまう。あの頃はおカネの苦労も多かったしね。

〇その点、「いーちゃん」は腹が座っていて、信念があって、度胸があって、言動がブレなくて、しかも温かみがあった。子どもを預ける際に、「ああ、この人ならきっと大丈夫」と思えたのは、とてもラッキーなことだった。彼女がどこでどうやって、あんな人格的迫力を身に着けたのかは、ずっと謎のままであった。

〇保育所主催のバザーの前日には、「雨はね、降らないから大丈夫」とよく言っていた。そんなこと言ったって、雨は降るときには降る。確か1回だけ酷い雨に遭ったはずだ。それでもほとんどは見事に晴れた。今朝も予報は雨だったけど、柏市内はちゃんと晴れた。さすがは「晴れ女」の「いーちゃん」であった。


<4月9日>(火)

〇このところ毎月のレギュラーとなっているニッポン放送へ。

〇そもそも飯田浩司さんが、「阪神ファンで競馬ファン」というのが反則技である。放送中以外は、「今週末の皐月賞は坂井瑠星君に要注意ですよ」とか、「青柳は外角をストライクに取ってもらえないと全然ダメですねえ」みたいな話をしている。こんなことでいいのだろうか。

〇コメンテーター陣も、ワシが昔から知っている人ばかり。なんというか、アウェイ感がまったくない。不思議だ。ワシは2年前までは文化放送の人だったのだが。

〇よかったらradicoで聞いてみそ。今朝の放送であれば、7時マタギのところが良いと思います。PART2


<4月10日>(水)

〇本日は神戸製鋼の社友会へ。「米大統領選挙のゆくえと日米関係」みたいなお題で、バイデン対トランプの戦いやら、足下の岸田首相訪米についてお話しする。

〇神戸製鋼所東京支社の最寄り駅は大崎駅である。山手線大崎駅で降りて、大崎ゲートシティを抜けて、桜の名所・目黒川を越えたところでたどり着く。はて、ワシはこの道をこれまで何回通ったことか。

〇数えてみたら、神鋼社友会さんに初めて呼ばれたのは2009年6月で、その後、コロナ下における完全リモート方式の講演会1回を含めてこれが本日が7回目のようである。いやまあ、長いことご贔屓にしていただいております。

〇せっかくの機会なので、「日本製鉄のUSスチール買収提案を、業界内ではどんな風に観ているのか」と尋ねてみた。あんまりハッキリした答えは返ってこなかったのであるが、考えてみたらまったくタイプの違う会社なのである。

〇神戸製鋼さんは、製鉄会社としてはかなりユニークである。高炉メーカーではあるものの、非鉄など素材産業があって、コベルコクレーンなどの機械部門があって、発電事業もやっている。そして今でも本社は神戸市にある。

〇要は量を追うのではなく、ニッチの世界でしぶとく生き延びるタイプの会社なのである。そうか、そういうところが鈴木商店のDNAなのか、とはたと思いつく。歴史ってしみじみ面白い。


<4月11日>(木)

〇今宵はあらめずらしや、「WBS」に出演しました。考えてみたら、ワシが以前にWBSに出たのって、とっても昔のことでありまして、テレビ東京が神谷町にあった時代のことである。それこそ小谷真生子さんがキャスターであった。いやもう、あの頃とは全く別の番組ですがな。

「モーサテ」「WBS」の違いはどこにあるのか。「モーサテ」は朝が早いので、午前5時にスタジオに入ると45分後には番組が始まってしまう。だから四の五の言っていられない。事前の準備に従って、テキパキとやらねばならない。朝イチで仰天ニュースが飛び込んできたりすると大変だけれども、そのときはもう勢いでやっちゃうしかない。

〇ところが「WBS」は午後10時からなので、午後8時にスタジオ入りしてからが長いのである。相内キャスターとダべりながら、「今日は何を取り上げますか?」「質問、どう聞いたらいいですか?」などと、ゆっくりその日のトークを決めることができる。「出物」と呼ばれるビジュアル物も、その場の雑談をもとに作ってくれるプロがいる。ありがたいです。

〇さらに今宵のように、午後9時半に米生産者物価指数(PPI)が公表、みたいなことがある。おいおい、ここで強い数字が出て、円安が154円台に突入したらどうしよう? ということに気づいて、しばし局内がバタバタする。蓋を開けてみたら、PPIはどうということがない数字が出て、為替はむしろ152円台に突入。豊島晋作キャスターいわく。「準備しているときに、それは来ない。準備していないときに、それは来る」。至言なり。

〇さらに「モーサテ」を見ているのは、「プロの人たち」である。要は金融界や経営者や個人投資家といった「うるさ方」である。しかも彼らは朝の珈琲を飲みながら、スッキリした頭で番組を見ている。従って、視聴者に対する手加減は不要である。「Fedは・・・」「FOMCは・・・」でよろしい。いちいち「米連邦制度理事会は・・・」などと言い換えていたら、確実にダサいと思われる。

〇ところが「WBS」は、プロだけでなくていろんな人たちが見ている。しかも夜であるから、どうかするとお酒も入っている(ワシなんか平日の午後10時台は確実にそうだ)。だから親切設計でなければならない。「CPI」でさえ、ちゃんと「消費者物価指数」と言い換える。「実質賃金は23か月連続のマイナスで・・・」みたいな難しい言い方をしてはいかんのである。

〇さて、不肖かんべえは「モーサテ」は来週水曜日の登場となります。はてさて、何を取り上げたらいいものか。おいおい考えなければなりませぬ。


<4月13日>(土)

〇岸田首相の訪米では、ずいぶんとお得な感じがあって、日本の戦略的な価値が上がっているんだなあ、と感じています。マイクロソフト社が日本に29億ドルを投資する、てなニュースも、AIの研究開発拠点を作るのなら、一昔前ならきっと中国だったのでしょうな。今はとてもじゃないが無理な相談です。

〇つくづく経済安全保障が、日本経済にとっては追い風になっている。日本という国は、「野心がギラギラとしていない国」である。言ってみれば、民主主義陣営における「ミスター・ナイスガイ」(確かに岸田さんはそんな風に見える)みたいなところがあって、「あそこなら安全だろう」「騙したりしないだろう」「そもそもチョロい連中だ」と思われているからであろう。

〇もっともこういうメリットは、ほとんど日本人自身には感知されてなくて、いやもう日本経済はこれからはイバラの道だ、と悲観的である。その辺の事情は、今週の東洋経済オンラインに書いた通りなのでありまして。


●サラリーマンよ、昭和の一社懸命はもうやめよう〜「物価と賃金の好循環」へのいちばんの近道とは


〇今の世界経済には「シン・保護主義」みたいなものが跋扈している。半導体開発に政府がおカネを出すとか、気候変動対策投資を優遇するとか、サプライチェーンを安全な国に限ろう、といった動きが常識化している。ここから先は、「すべての製品に関税をかける」というトランピズムまではほんの一息で、思えば自由貿易主義なんて遠い昔のことになったものである。

〇困ったことに、こうなった原因のかなりの部分は中国にあるのだが、その中国経済は今やデフレの渕に沈みかけている。だったら減税するなり給付金を配るなりして、家計部門にお金を注ぎこんで需要を喚起すべきなのだが、習近平氏の考えはそれとは違う。「新質生産力」なるテクノ・ユートピア思想で不況を吹き飛ばそう、としている。しかし産業部門にカネを投入したりしたら、ますます過剰生産力になってデフレを輸出することになってしまう。

〇先日、訪中したイエレン財務長官は、今のアメリカではほとんど例外的に親中派のエコノミストだが、その彼女も「過剰生産問題」で釘を刺さなければならないような状態である。この分では米中摩擦は改善しないだろうし、バイデン政権の「シン・保護主義」路線も変わらないだろう。

〇そして昨日は、USスチール社の臨時株主総会が行われ、日本製鉄による買収提案を承認した。そりゃあ経済原理から言ったら、42ドルの株を55ドルで買ってくれるのだから当然ですわな。買収提案の資料はこちらをご参照。しかるに今年は米大統領選挙の年なのである。

〇「シン・保護主義」で受益している日本国としては、こっちの件では損をすることになりそうだ。いわばトレードオフと言うのだろうか。岸田首相も、この件については多くを語らない。それもそのはずで、これが原因でバイデン大統領がペンシルベニア州を落として落選、なんてことになると困るのである。"Trump 2.0"の片棒を担いでしまうので。

〇世の中を覆いつつある「シン・保護主義」に対して、「それでもオープンエコノミーを守っていきましょう」というのは、誰かが言わねばならないことなのではないか。真面目な話、「中国経済とは完全にデカップルせよ!」と言われてもできっこないのだから。この「シン・保護主義の時代」をいかに生き延びていくか。かなり大きな問題と言わざるを得ないのである。


<4月14日>(日)

〇本日は競馬仲間6人にて福島競馬場を訪れて、その後は福島駅近くの天ぷら屋さんを訪れ、飯坂温泉の野天風呂に浸かってきたところです。いや、皐月賞は取れなかったし、馬券的には沈んだ一日であったけれども、友人たちと共にワイワイ過ごせた結構な一日であります。

〇水原一平氏もギャンブル友達が居れば、おそらくは深みにはまらなくて済んだのではないでしょうか。依存症はすばらしきかな。競馬仲間と共に過ごす時間は値千金。競馬の話をしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。そして野天風呂には月が出て、桜の花びらが浮いている。

〇きっと山崎氏とぐっちーさんの霊も来てたんじゃないかなあ。ということで夜は更けてまいります。


<4月15日>(月)

〇昨晩は福島に泊まっていたので、今朝のNHK第一「マイあさ!」、月曜6時台後半のマイBiz「経済のイマ、物価と賃金の好循環 何が必要か」の電話インタビューは、飯坂温泉の伊勢屋さんの誰も居ないロビーからお送りしたのであります。終わった後は、もちろんゆっくりと朝風呂に浸かるのである。わはは。

〇こう言っては失礼ながら、伊勢屋さんは飯坂温泉の「ピンキリ」で言えば、キリに近い方ではないかと思う。ただしこちらはメシは他で食った後であるし、いまどき野郎ばかり6人が和室で雑魚寝という昭和なスタイルであるから、別に気にしないのである。そしてお値段は破格に安く、一同の満足度はまことに高かったのである。

〇というか、大人の遠足というか、競馬の「旅打ち」ができる仲間がいるというのは、こういうご時勢にはなんとも贅沢なことである。2012年の七夕賞に、たった一人で「福島競馬通い」を始めたときには、まさかこんな風に発展するとは思ってもいませんでした。コロナによる中断もあったしね。

〇まあ、しかし福島競馬は難解で、なかなか勝たせてはくれません。昨日の福島民報杯(高橋さん言うところの「社杯」)なんて、あらかじめ答えを教えてもらっていても当てられそうな気がしない。今週末には福島牝馬ステークス(G3)なんかもあるのですが、ううむ、これも難解だ。

〇それでも桜の季節の福島市はまことに良いところでした。さて、次の旅打ちはどこに参ろうか。円安のせいで海外旅行は贅沢になりましたが、国内旅行はいいですぞ。どこへ行っても旨いもの安いもの、人情に触れることができまする。

→後記:あらためて数えてみたら、ワシの福島競馬場通いは2012年7月の第1回から通算で今回が10回目でありました。これはちょっと自慢していいんじゃないだろうか。関東在住の競馬ファンで、「福島競馬場に10回行ったことがある人」はそんなに居ないと思うぞ。ここまでくると、当初の「震災からの復興を見届ける・・・」などという動機はどこかへ行ってしまって、単に楽しいから通っているだけである。最初は一人だけの旅でありましたが、今では一緒に行く仲間もいれば、案内をしてくれる友人がいて、現地には馴染みの店も何軒かある。まことにありがたいことであります)


<4月16日>(火)

〇本日は中部経済倶楽部の講師で名古屋市へ。「米大統領選挙の行方を読む」という演題ではあるのだが、そこはまあ自然と、先週の「岸田首相訪米の収支決算」みたいな話になるのである。

〇長い日米関係の歴史においても、今回は画期的な訪米であったと思います。なにしろ日本国首相が米連邦議会合同演説において、「日本はShoulder to Shoulderでアメリカと共に立ち上がっている」と言ってしまうのだから。「9/11」のときには「ショー・ザ・フラッグ」と言われ、「イラク戦争」のときには「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と催促されて、しぶしぶ自衛隊が中東に出て行ったあの日本が、今やアメリカの背中を押すまでになっている。

〇それはいわば当然のことであって、だって台湾有事の時にアメリカが来てくれなかったら困るから。「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という岸田首相お得意のフレーズは、一定のアメリカ人にはちゃんと「刺さる」のである。だからそのためには日本も少し前のめり気味に貢献しなければならない。実際に22年末の防衛3文書では長年の防衛政策を大転換したし、防衛予算も2027年にはGDP比2%になるのだから。

〇いやいや、そこまでの覚悟は日本国民の大多数がまだ持っていないぞ。総理大臣にそういう危ういことを言わせちゃいかんのではないか・・・。そういう意見も確かにあるだろう。特に過去に日本外交を背負ったOBたちの間には、「そこまで言って委員会」的な感覚があるように感じます。

〇とはいうものの、それはアメリカが自信満々であった昔(自国肯定感がフルであった頃)のことであって、当時は日本がもたもたしていると、全部アメリカが押し切ってくれた。日本政府もいちいち理詰めで国民の了解を得るよりは、「アメリカさまがそう言っているから仕方がないんですぅ・・・」という説明をすることを好んでいた。実際に昔はこの「ガイアツ」がよく効いたのです。めんどくさいことは、「アメリカのご意向」で済ませてきた。

〇ところが今のアメリカはそんなに強気ではない。とくにオバマ大統領以降は、「そもそも日本はどうしたいのだ?」と素で聞かれたりする。仕方がないから、今では日本側である程度お膳立てを考えて、「ここまではわれわれがやりますから、この先はやってくださいねっ!」みたいに動かねばならない。この辺は日本外交における「断層」があるのではないかと思う。

〇とまあ、そこまで詳しい話はできないのですが、明日の「モーサテ」では「岸田総理訪米の収支決算」をテーマにお話しする予定です。


<4月17日>(水)

〇新スタジオでの「モーサテ」に登場。池谷さん、片渕さん、中垣さんと3人のキャスターがいて、もう一人のゲストは尾河真樹さん。以前はゲストの登場は6時40分までだったが、新年度からは番組終了の7時5分まで残ることになる。池谷さんはどこでツッコミを入れてくるかわからない。いいっすねえ、この雰囲気。

〇尾河さんも私も、昔のテレ東の神谷町時代を覚えている世代なので、なんだか昔の自由奔放な「モーサテ」が戻ってきたようでいいよね、てなことで意見が一致する。そういえばワシはこの番組は、今月で勤続15年目となる。

〇夜は田原総一朗さんの90歳お誕生日会に駆けつける。「小泉純一郎と菅直人、反原発派の元首相が仲良く登場」みたいな面白い構図があっちにもこっちにも。昔、よくお世話になったテレ朝の方々とも久しぶりにご挨拶する。

〇そうか、ワシはいつの間にかテレ朝系からテレ東系に移行していたのか。やってる本人は意外と気づいていないものなのである。そのあともう一軒、会合をハシゴ。

〇ということで、一日がとっても長いです。こういう日は、移動中はとにかく寝ている。こういうことができる東京都内はまことにありがたい。


<4月18日>(木)

〇今宵の阪神タイガースは佐藤輝明のサヨナラヒットで巨人相手に連勝!さすがは阪神打線のゴールドシップ。たとえ3三振でも、守護神・大勢を打ち崩したのは殊勲大であります。

〇これでタイガースは5割復帰。先発の西勇が頑張って、森下がいいところで打ってくれて、桐敷もいいところで押さえてくれました。後は大山の打棒に火が付くのを待つだけです。

〇これで明日からは首位・中日と甲子園で3連戦。ドラゴンズファンの上海馬券王先生やTAROさんには悪いですが、そうそういい思いはさせませぬぞ。待っておれ、わはははは。


<4月21日>(日)

〇柏シアターにて「ノスタルジア 4kリマスター版」を観る。いやあ、タルコフスキー監督作品ですよ。懐かしいねえ。

〇この映画を見たのはちょうど40年前。ワシは日商岩井の入社1年目で、初任給手取り10万円の身の上であった。同期の連中は早くも忙しく残業させられているのに、広報室に配属されたワシはあんまり仕事はなく、「もう帰っていいよ」と言われ、かといって金曜日の独身寮には晩飯の用意もなかったので、仕方がないから一人で六本木に行って、封切りになったばかりのこの映画を観た。

〇まだロシアがソ連だった時代である。『惑星ソラリス』や『ストーカー』を作って、既に「巨匠」と呼ばれていたタルちゃんは、「表現の自由」を求めてイタリアにわたってこの映画を作った。タルちゃんはその後、実際に亡命を宣言するのだが、じきにゴルバチョフが登場するので、彼の亡命は不問に付されることになる。結局、帰国することはなく、1986年にパリで亡くなった。享年54歳。

〇この映画、とにかく「雨漏りする家の中のシーン」――こんな風に言ってしまうとぶち壊しなんだが――が強烈な印象に残る。当時、小林麻美の『雨音はショパンの調べ』という曲がヒットし、そのビデオクリップ(当時はそれ自体がめずらしかった)も高い評価を受けたのであるが、今見ると『ノスタルジア』の「まんまパクリ」である。映像の詩人と呼ばれたタルちゃんは、世界中で幾多の模倣を生んだのである。

〇この映画を作っている時点で、タルちゃんは既に亡命を決意している。そうなると二度とソ連の土は踏めなくなってしまうし、家族はおそらくひどい目に遭うだろう。でも、そこはタルちゃんは芸術家だし、ロシアの正統派インテリゲンちゃんなので、本当に亡命してしまう。その過程で生じる「望郷」の念を、映画作品に昇華させようとしたのであろう。そういう意味では「私小説」風な映画である。ゆえに主人公の振る舞いは、まるで太宰治のように身勝手に思えるところがある。

〇今見ると、「古臭い前衛映画じゃのう」という思いは禁じ得ない。それでもタルちゃん一流の映像美は、まさしく本作において頂点に達したのではないだろうか。タルちゃんはこの2年後に『サクリファイス』を作って、それが遺作になる。でも個人的な好みで言わせてもらえば、やっぱり『ソラリス』や『ストーカー』の方がいいですよ。

〇ともあれ40年前の作品である。自分が23歳だったときに観た映画に再会するというのは、それ自体が「ノスタルジア」である。柏シアター、まことにありがたし。それにしても今のウクライナ戦争を見たら、タルちゃんは何と言って嘆くのだろうか。ちなみに彼のお父さんはウクライナの詩人だったそうだから、そのこと自体がひとつの作品のモチーフになりそうである。

〇さて、そういう映画を撮るウクライナ、もしくはロシアの映画監督はこの後、果たして登場するのであろうか?


<4月22日>(月)

〇本日は内外情勢調査会葛飾支部の仕事で金町駅へ。

〇いつも通勤で使う常磐線(千代田線)沿線だが、ここで降りる用事は滅多にない。お隣の亀有駅は、まだしも降りたところに『こち亀』の両津巡査の銅像があったり、ラーメンの人気店があったりするので、まだしも接点があるのだが、そういう意味では地味な駅である。

〇そこで思い出すのは、何年か前にアベノミクスについての取材を受けたドイツ人記者のことである。一通りの取材が終わったところで、「ところでお前はどこに住んでいるのだ」と聞くのである。「柏だ」というと、「なぜそんなところにいるのだ。俺が住んでいる金町は素晴らしいところだぞ」と、しきりに力説するのである。

〇いやまあ、水元公園があるとか、京成線の駅があるとか、一通りのことは知っているし、いかにも下町らしい住みやすさがあることは認めるが、なぜそこまで金町に肩入れするかはよくわからない。ともあれ、彼はドイツの新聞社の記者として日本に赴任し、金町に惹かれてその住人となり、契約が切れた後もフリーのジャーナリストとして、日本から記事を発信し続けているとのことであった。

〇テレビ東京の「Youは何しにニッポンへ」で取り上げたら、さぞかし深い話が聞けるのではないかと思う。本日お会いした金町在住の地元経営者の皆様にそのドイツ人記者の話をしたら、「信じられない」「どこがそんなに気に入ったのか」といった素朴な反応が返ってきた。ううむ。

〇そういえばその後、FCCJ(外国人記者クラブ)の他の記者と話をした際に、「ドイツ人の面白い記者がいますよね」といったら、「ああ、あいつだな、金町に住んでいる」という反応があったことを考えると、そこそこ有名人であるらしい。今も日本に居るのだろうか。コロナを契機にドイツに帰っていたらちょっと残念な気がする。

〇この国には、なぜか奇妙に外国人を惹きつけるものがあるらしい、というお話しでした。


<4月24日>(水)

〇今年は日本がOECDに加盟して40周年であり、しかも議長国を務めるということもあって、5月2−3日に予定されている閣僚理事会には日本から岸田首相が参加して記念演説をするらしい。ゆえにパリに飛んで、その後は南米に外遊というのが、日本国首相のゴールデンウィークの過ごし方となりそうだ。

〇OECD加盟は1964年のことである。この年に日本はアジアで初となる東京五輪を開催し、東海道新幹線が開通して首都高が完成し、IMF8条国に移行し、堂々、世界のお金持ち国の一角を占めたのである。まことに晴れがましい年であった。

〇ところが当時の日本国は、世界のGDPの4%を占めるに過ぎなかった。西ドイツを抜いて、自由主義圏第2位の経済大国となったのはそれから4年後のことである。高度成長期にあったとは言え、まだまだの存在であったのだ。

〇その後、日本経済は世界経済の17%台(1993年〜95年)を占めるに至るのだが、元の木阿弥というか、その他大勢の国々が急成長を遂げたことの論理的帰結というか、今では再び「世界の4%」に回帰している。はて、このことをいかに受け止めるべきなのか。

〇アンガス・マディソン教授の研究によれば、世界経済の超長期GDPを推計すると、もともと日本経済は1000年頃からずっと「3〜4%」が相場であったらしい。そういう意味では、今はもともとの人口サイズに見合った規模に戻ってきたのかもしれない。

〇ただし「世界の17%」を占めていた時期に比べると、「今の4%」の方が幸せなのではないかという気もする。もともとそんなに自国肯定感が強い柄でもないし。もちろん経済には「規模がモノを言う」面がある。しかるに今となっては、「たかだか4%だが、しかしそれがどうした」という国家像を描くことが、この国の未来像を考える際の王道ではないかと思う。

〇ところで読者諸兄はご存じのとおり、日本経済にとって重要な年は得てして阪神タイガースが優勝する。1964年もそうであった。次の転機はプラザ合意の1985年に到来する。そしておそらく、2023年が日本経済「底打ちの年」として記憶されるのではないだろうか。

〇その阪神タイガースについて、『挫折と覚醒の阪神ドラフト20年史』(小関順二/草思社)という本が出た。惹句は以下の通り。


「ドラフトでチームが変わる」をみごとに証明してみせた阪神タイガース。
低迷を続けていたチームはいつ、どのようにして変貌を遂げたのか?
ドラフト研究の第一人者が、2000年以降の苦難のチーム編成と各年度のドラフトにおける
指名傾向を振り返りながら、球団の進化のプロセスを解き明かす。
阪神の歩みとともに、チームを「強くする指名」「弱体化を招く指名」の傾向も浮き彫りになる
プロ野球ファン必読の一冊!


〇なぜ「失敗ドラフト」を繰り返してきたタイガースが、ここへきて急に上手になったのか。本書は金本知憲監督の誕生が契機であったとする。そういえば現在の4番打者、大山を1位で指名したのは2016年、金本監督就任の年であった。あまりにもあっけない謎解きであるが、言われてみればまことにごもっとも。

〇「ドラフトをちゃんとやれば、チームはかならず強くなる」というのは、「企業を強くするのは人事次第」と同じ真理であろう。そんなことはもちろん知っているけど、問題はどうやってやるのかなんだ、と言いたくなるところである。不思議なもので人事はめぐりあわせであって、好循環も悪循環も長く続くのである。タイガースはたまたまここへ来て好循環が続いている。日本経済も、できればそういう風であってもらいたいものである。


<4月25日>(木)

〇今週末の統一補欠選挙まであと3日。今日になって、こんな噂が聞こえてきた。


(1)島根1区:2009年の政権交代選挙でさえ、民主党が勝てなかった選挙区。そもそも自民党以外が勝ったことがない。そんな選挙区に地殻変動が起きつつある。この結果が出た瞬間に、他県では衝撃が走るのではないか。立憲民主党の泉代表は今日も島根県入り。

(2)東京15区:典型的な都市型選挙区で、2代続けて現職が不祥事で、9人も候補者が立ってしまったからもうわけわかんない。風次第でどういう結果になっても不思議はない。だから応援に行くのもあほらしい。ほっとけ、ほっとけ。

(3)長崎3区:立民が勝っても維新が勝っても大勢に影響なく、しかも次の総選挙では消えてしまう選挙区。ここも応援に行ってもあんまり意味がない。


〇週明けになると、永田町の景色が文字通り変わっているのかも。やはりコロナの3年間を経て、「次の総選挙はリセットスイッチが入る」のかもしれない。はてさて、どういうことになるのやら。


<4月27日>(土)

〇昨晩は経済同友会の会員懇親会へ。

〇この日が定時総会で、長年にわたって事務局長を務められた岡野さんが退任。お疲れさまでした。筆者が同友会の職員だった30年前には、お互いにこき使われる身の上で、「よっちゃん、何とかしてよ〜」と何度も言われたことを思い出す。

〇そうかと思えば、あの頃、よく速水代表幹事に取材していた日経の菅野記者が、今春には論説委員長にご就任。昔からよく知っている人たちが、偉くなったり「お疲れさま」であったり。自分自身はどうかといえば、この20年くらいまったく同じ立場で、同じ仕事を飽きずにやっている。

〇ちなみに今週の仕事はこれ。


●34年ぶりの円安をなんとか止める方法はないのか


〇30年前の日本経済では、円安ではなくて円高が問題とされていて、「円高論者」の代表幹事がしばしば非難の矢面に立たされていたものである。まあ、なんというかベクトルが逆になっただけで、こういう時の反応はまったく変わりませんな、この国は。

〇「アメリカ人は株価、ドイツ人は物価、日本人は為替」になると、ヒステリックになるのだそうです。昨日の日銀記者会見では、植田総裁に向かって「円安でハワイに行った人たちが可哀そう・・・」などというお馬鹿な質問をした記者がいたけれども、ANAのゴールデンウィークのハワイ便予約は過去最高だそうです。

〇とりあえずこの問題で日銀を苛めてもまったく意味がない。その一方で、昔の日銀には福井さんとか雨宮さんといった政治感覚がゆたかな人が居て、絶妙なバランスを保っていたのだけれども、今の体制ではそういう古だぬきが存在しませんから、植田総裁の答弁が「木鼻」に聞こえたりするのでありましょう。どっちがいいのかはよくわかりませぬ。


<4月28日>(日)

〇案の定というか、やっぱりねというか、本日の統一補欠選挙は3選挙区ともに午後8時「ゼロ打ち」で、全部立憲民主党の勝ちとなりました。

〇現職の議員さんたちは、ご自身の身体で「世間の風」を敏感に受け止めるものなので、立会演説会をしている時の聴衆の反応とか、政策パンフを受け取ってくれる人の数とかで、最近の変化をビビッドに感じていたようです。先日お会いした立憲民主党の政治家さんは、「このまま政権交代まで行ったらどうしましょ?」という心配をする人までいたくらいです。

〇逆に自民党にとっては逆風です。そもそも衆院島根1区という選挙区は、2009年の政権交代選挙のときも細田さんが20p差で勝った選挙区です。ここで自民党が負けたということは、それこそ「次の総選挙はどの県なら勝てるんだ?」ということになる。たぶん山口県とか富山県とか、限られた保守王国だけでしょうなあ。

〇しかもこの先の展開は極めて悪い。既に永田町はGWモードに入っていて、岸田首相は5月1−2日にはパリで行われるOECD閣僚会議に出席する。それが終わったらブラジルとパラグアイに向かう。これに対してどんな反応が出るかは想像に難くない。他の閣僚たちも同様ですからね。


「自民党の政治家は外遊三昧」→「円安もあの人たちには関係ない」→「庶民は外国旅行など高根の花」→「許すまじ自民党!」


〇普通だったら首相が留守の間に、自民党内でクーデターが発生するパターンです。ところがですな、ここでクーデターを起こして、「自民党初の女性党首」などを担ぎ上げるのはいいけれども、その場合はすぐに選挙に打って出なければならない。それはやっぱり怖いので、今の自民党にはそういう活力はないのだと思います。せいぜい敗戦の責任を取って、茂木幹事長が辞表を提出するくらいでしょう。地殻変動は起きないし、岸田政権はまだ続くのだと思います。

〇野党の側も出方が難しい。仮に立憲民主党が日本維新の会と組めば、1年半以内に訪れる次の総選挙において、ほぼ確実に政権が取れるでしょう。ところがそうはいかない。維新の会は「野党第一党を目指す」という変な政党ですし、立民の中には「維新だけは嫌!」という人が少なくない。みんなの党とか、いろいろ経験している人がいるからね。

〇強いて言えば野田佳彦さんを首相候補にして、その下で立民と維新と国民と都ファの4党が結集するという手がなくはない。ただし誰がそういう裏方仕事ができるかというと、はなはだ心もとないですな。ともあれ、「ああ、やっぱりな、そうなるよねえ」という思いを禁じえません。6月解散はかな〜り難しくなりました。


<4月29日>(月)

〇今回の統一補欠選挙では、日本維新の会も敗者と言っていいでしょう。あの政党には根源的な矛盾があって、それは「大阪で人気を得るためにはアンチ東京でなければならない」が、「アンチ東京では大阪以外では勝てない」(せいぜい兵庫や奈良まで。京都になるともう難しい)ということ。過去にも何度か、「オールジャパン進出」を目指しては失敗している。

〇ワシ自身が「関西系商社」で長らく過ごしてきたので、ずっと気がつかなかったのだけれども、実はこの国には「関西人(弁)が嫌い」という人がかなりの比率で存在する。そしてそういうことに対して、関西人は無自覚である。維新の会が関東で浸透できないのは、そういう文化的な障壁が大きいと思うのだが、これはもう致し方のないことであろう。

〇だったら大阪維新の会として、ローカル政党として生きていくのもひとつの道筋であろうが、彼らは「反リベラル」「反知性主義」でもあるので、野党結集には後ろ向きなのである。何かの時に自民党の片棒を担ぐのはいいけれども、今みたいに民意が全面的に自民党を拒否しているときには出方が難しい。

〇ついでに言うと、彼らは「自分たちはちゃんとした政党ではない」ということに意義を見出しているので、政党間の協議のちゃぶ台返しなどを何とも思っていない。あまりにトラックレコードが悪いので、「維新との政策協議など考えたくもない」という声が少なくない。とにかく困った人たちなのである。

〇となると、統一補選で「3連勝」した立憲民主党が頑張るしかないのだが、彼らに政権を取る準備があるようには思われない。個々の議員さんたちとしては、今のまま野党第一党の立場でいる方が居心地が良くて、そのためには日本共産党との共闘が欠かせない。しかるに共産党と連立したままで政権奪取というわけにもいかないだろう。

〇もうひとつ、彼らが政権に就いていた2012年までと今では、安全保障の枠組みがかなり変わっている。旧民主党の方々はNSCの使い方とかがわかってないはずなので、政権交代が起きた場合はそのことも大きなリスクとなる。というか、考えたくないよなあ、そういう事態。

〇何より外資の対日認識がすっかり変わり、「日本は買いだ!」となって約半年、こんなことでせっかくのモメンタムが失われるのはまことに惜しい。ただし今の有権者の間には、「3年間のコロナ禍を経たリセット願望」と、「物価上昇に対する怒り」があまりにも根深いので、自民党はかなり深く罰せられなければならない様子。

〇こうなると例によって、9月の自民党総裁選挙で何か上手い出口戦略が見つかるか、ということに懸かってくる。この後の数か月はまことに悩ましいことになりそうです。


<4月30日>(火)

〇以下は「4月の月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」に出ていた興味深い数字である。


●昨年の賃上げは、「高卒で高め、大卒で安め」だった。ホワイトカラーよりもブルーカラーの賃上げが優先された様子で、その判断はたぶん正しいのであろう。産業別にみると、建設業など「ガテン系」の仕事で賃上げ率が高い。逆に言えば、30代40代の大卒社員はあまり賃上げの恩恵に浴しておらず、賃上げでは「後回し」にされている。

●日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳だが、最頻値では男性が88歳、女性が93歳となる。驚くべき長寿国である。なおかつ、日本の高齢者は労働参加率が高い。65歳から74歳の年代でも、「男性の2人に1人、女性の3人に1人」が仕事を持っている。これは世界的に見ても希な数値である。

●個人消費は全般に低調。それでも百貨店の高額品消費は伸びている。これはインバウンドが多いから当たり前だが、家計調査でも身の回り品消費が伸びている。つまり日本人もちゃんと高額消費を始めつつある。


〇いかにも「日本人的だなあ」と思うのは、皆さん、「円安で海外旅行など高根の花になった」などと言いつつ、GWの海外旅行は結構な水準となっているのである(2018年を100とすると、今年は84)。

〇要するにコロナ下の「強制貯蓄」が1年遅れで個人消費に向かい、株高の追い風も受けているということなのだろう。まったく素直じゃない人たちなのである。まあ、下手なことを口にして周囲のやっかみを買いたくない、と考えれば、それはまことに合理的な行動と言えるのですが。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki