●かんべえの不規則発言



2024年4月






<4月1日>(月)

〇映画『オッペンハイマー』を見てきました。3時間の長尺を感じさせない面白い映画でした。しかしまあセリフは多いし、登場人物は多いし、テーマは重たいし、消化吸収するのに疲れる映画です。よくまあ、こんな映画がアカデミー賞を取りましたな。もう1回見てもいいかな、と感じています。

〇ここでの感想は、一点だけにとどめておきましょう。それは「トランプ前大統領が、『大統領には免責特権が必要だ』と言い出した理由は、この映画に登場するトルーマンを見たからだったのか!」 

〇さて、大統領特権に関する最高裁の口頭弁論は、今月下旬から始まるはず。米大統領選ネタは、このところイースター休暇もあって下火になっておりますが、今月中旬にはNYで「口止め料事件」の公判も始まるし、またまたトランプ騒ぎが始まるでしょうな。


<4月2日>(火)

〇本日はかねて予約してある胃カメラ検査へ。

〇いや、別に自覚症状があったわけじゃないのです。単に『ヤバい日本経済』の共著者である山崎さんとぐっちーさんという同世代人が、いずれも食道がんで亡くなられたので、これは「ゲンが悪過ぎる!」と思っただけなんです。食道がんは見つかりにくいそうなので。

〇胃カメラを呑むのは、ピロリ菌の退治をした2015年の秋以来である。あんまり愉快な経験じゃないですが、せいぜい5〜6分の辛抱だし、診療費も4000円くらいです。それで診察してもらった結果は、「食道から十二指腸までまったく問題なし」でありました。ホッとしました。

〇逆に、「これはいけませんねえ〜」と言われたら、そのときは早期発見ができたということで、あの二人に感謝しなければならないところでした。とにかく検査はしておいて損はないです。後で長患いをするよりは、よっぽど本人的にもマシだし、日本全体の医療費負担も減りますから。

〇ときどき、「高齢者医療費負担を思い切り引き上げて、病院の待合室をサロンにしている年寄りどもを追い払うべし」みたいなことを言う人が居ます。が、その程度では、日本の医療保険制度は崩れません。それよりも、長期入院と延命治療が問題なのですから。できれば高齢者は毎週、元気に病院に通って、健康でいてもらう方がずっといいのです。

〇さて、山崎さんと山口さん、今ごろはあの世でスコッチとワインを傾けつつ、競馬談義などしているかもしれませぬ。それは結構なことながら、「そろそろかんべえも、こっちに呼んでやろう」などと思われてはかなわない。まだまだそっちには行かないからねっ!桜花賞も皐月賞も、こっちでやるんだからねっ!

〇というわけで、昨晩は我慢したビールを今宵は飲んでおります。しかしこの後にウイスキーに進む場合は、ちゃんと水で割ることにしたいと思います。


<4月3日>(水)

〇最近になって思いついたこと。今の世界を揺るがす重要概念は、「自国肯定感」なのではないだろうか?

〇もちろんそんな言葉は存在しない。自己肯定感(Self-esteem)の「おのれ」を「国」に換えただけなんだけども、この概念が実は重要になっているのだと思う。

〇アメリカは本来、自国肯定感が強過ぎる国であった。だから「米国例外主義」(American Exceptionalism)などと呼ばれたものである。すなわち移民が作った人工国家であるアメリカは、「世界をおのれに似せた形に作り変えたい」(介入主義)という願望と、「汚れた世界から離れて閉じこもりたい」(孤立主義)という2つの矛盾する願望の間で揺れ動いてきた。どっちにしても他国から見ると迷惑な話なんだけれども、経済でも軍事でも金融でも圧倒的な力を持つ国だけあって、周りはハイハイと従うしかなかったのである。

〇ところがこの20年ほどでアメリカの自国肯定感は急落した。それも2つの要因によってである。ひとつは高齢者(右派)で、仕事をリタイアして初めて「なんだ、この国の内部は全然ダメじゃないか」と気づいたという怒りである。そして彼らはドナルド・トランプに一筋の光を見出している。「アメリカ・ファースト」という考え方は、岡目八目的に言わせてもらえば「貧すれば鈍する」選択だと思うのだが、あまりにも早い変化なので迷惑極まりない。

〇もうひとつはミレニアルやZ世代(左派)であって、彼らは物心ついた時から「この国は碌なことがない」と身に沁みている。アメリカの輝かしい時期の記憶が全くなくて、「9/11」「イラク戦争」「国際金融危機」など、辛いことばかりを知っている。そうなるとやはり他国に介入どころではなくて、「どこの国にでもある医療保険制度や家族休暇制度をちゃんと入れてくれ!」ということになる。彼らのヒーローはバーニー・サンダースである。

〇左右両極がそんな風になってしまうと、例えばウクライナ支援は非常に難しくなってしまう。「外国を助けるカネがあるんだったら国内で使え!」と言われてしまうからだ。いや、真面目な話、ウクライナ支援予算はいつになったら成立するのでしょうか。議会のイースター休暇が明けたら、ちゃんとやってくれるんでしょうか。心配です。

〇日本という国は、もともと自国肯定感が非常に低い国である。下手をすれば「自虐史観」になってしまうし、高度成長期もしきりに「この国はダメだ、ダメだ」と言い続けてきた。それが低成長時代に入ったら、今度は「外国人に褒めてもらいたくて仕方がない国」になってしまい、「インバウンド万歳」みたいなテレビ番組がいっぱいできているのだが、基本にあるのは劣等感の裏返しである。「日本は素晴らしい国なのだ」と言いたがる人たちも、深層心理は似たようなものと拝察いたします。

〇中国という国は、そうでなくても自国肯定感が強い国であったが、驚異的な経済成長を遂げてから、ますます増長してしまった。日本やASEANは何するものぞと思っているし、ロシアなんぞは既に格下になってしまった。かつては憧れであったアメリカも、トランプが出た後は「上から目線」で見るようになった。「あんな風になるのだから民主主義なんて、やっちゃダメなんだよな」と。しかるにここへ来て限界に来ている感もある。

〇もっとも中国人民は利に聡いので、「このままじゃ自分の資産が危ない」と敏感に感じ取っている。そりゃそうだ。正直な経済データを発表したら怒られる、などという国の株なんてコワくて買えませんがな。かくして「消費は減らす、投資も怖い、しょうがないから貯金する」という負のスパイラルに入っている。それで経済がデフレ気味、というのは「失われた×年」に突入する典型的なパターンではないか。なんでも最近の中国では、宝くじが売れているのだとか。

〇似たような話はいくらでも展開できる。ロシアは自国肯定感が低くて、それを一生懸命糊塗している。だからこそウクライナに攻め込んだのではないか? あるいはインドは元来、自国肯定感が強い国だったが、モディ政権下でますます爆発して、止められなくなっているのではないか? こういう視点で現下の国際情勢を見直してみると、いろいろと発見が多いような気がしています。


<4月4〜5日>(木〜金)

〇そうでなくても忙しいさなかに、いつものメンツの間で「4月に京都に行って、『都をどり』を観よう」などという酔狂な企画が成立したのである。だから会社を休んで行ってまいりましたですよ。ああ、われながら何をやっているのやら。

〇行ってみたら、京都は東京より一足先に桜が咲いている。さらに京都駅近辺は、パッと見で道行く人の7割が外国人観光客である。それらが皆さん、大きな荷物をゴロゴロ転がしている。さらに祇園のあたりに行きますと、和服をちゃんと着こなした女性が中国語をしゃべっていたりする。地元の方々は、どうやってこの状況に耐えておられるのか。

〇さらに桜の季節の京都は、宿代がバカ高である。アパホテルが一泊2万円である。それではちょっと悔しいので、天然温泉付き、豪華朝食付きのドーミーインを試してみました。これは正解でありまして、サウナに水風呂までついておりました。さらに朝飯は海鮮丼がお勧めです。

〇ちなみにアパホテルの料金は、当日の夕方にかけてさらに上昇し、夜が深まってくると今度は下がってくる。まるで夕方のスーパーマーケットにおける魚売り場のごとし。まことにダイナミックなプライシングでありまして、社会的ニーズを果たしているのかもしれませぬ。

〇というわけで、昨晩はお仲間一同でディープな祇園をハシゴしつつ、深更に至ったのである。酔いが回ってくると、「ディープ・ギオン」という言葉が脳内で乱反射されるようになる。すると今度は、「われわれは一人の英雄を失った。これは敗北を意味するのか。否、始まりなのだ!」という銀河万丈氏の名調子が蘇ってくる。大丈夫か、俺。「ディープ・ギオン!」

〇さらに格調高いわが友人たちの間では、「祇園をエルサレムに持っていくべきだ」(ギオニズム)などという議論が、大真面目で語られていたりする。イエス・キリストが歩いたという道を、舞妓さんや芸妓さんたちがそぞろ歩きするのは、なかなかにシュールな光景ではないだろうか。

〇「祇園と先斗町と宮川町では、踊りの流儀がそれぞれ違うので、舞妓さんは相互に行き来ができない。それが新橋に行くと、移動の自由が生じる」という話も興味深かった。ネパール人が経営する日本のインド料理屋で、インド人とパキスタン人が仲良く働いているような世界なのだろうか。いやもう、京都はまったくディープすぎます。

〇真面目な話で記憶に残っているところでは、某県知事の失言問題にかこつけて、「シンクタンク業界が、知的な世界とはとても思えない」(実はドスコイ系の作業が多い)とワシが言ったら、ナベさんがすかさず、「シンクタンク業界は、人間関係も大事ですからねえ」と返してくれたことである。そうなのだ。人情と愛嬌も欠かせない。知性が不要とは言わんけど。

〇それにしても某県知事さんはホントに元学者だったのだろうか。あんまり知性がある人には見えませんけれども。さらに言えば、人情や愛嬌も感じられない。よくまあ3回も再選されましたなあ。

〇ということで、慌ただしく帰ってきて本日締め切りの溜池通信はなんとか出せたけど、ほかの仕事は終わってないものが多々あって、方々に不義理を重ねている。のみならずメールのお返事もかなり溜めている。やっぱり京都は怖いところどすえ。


<4月6日>(土)

〇今年は遅れて、いきなり桜が満開。と言っても肌寒い天候なので、ご近所のふるさと公園を軽く散歩する程度にとどめました。

〇お花見客もいらっしゃいましたねえ。いや、私も嫌いじゃあないんですけど、ダウンジャケットを着こんでまでするもんじゃないですよね。

〇それに桜というのは空が青いときに初めて映えるもので、今日みたいな曇天ではせっかくのソメイヨシノも今ひとつなんですよねえ。大堀川の散歩は止めときました。

〇せっかく満開になったけれども、お天気は選べない。これで明日以降も雨が続いて、いきなり散ってしまうかもしれないんだけど、まあ、それが桜というものなのでありまして。

〇たぶんこの列島において、ずっと昔から繰り返されてきたことなのでありましょう。紀貫之や兼好法師も、きっとこの時期になると気を揉んでいたのではないかなあ。


<4月7日>(日)

〇昨晩は「新プロジェクトX」を見てしまいましたですよ。なんだやっぱり平成・令和でも、この国にはちゃんと「努力と友情と勝利」の物語があって、そこにはいい表情をした「名もなき人たち」がいる。なかなかに眼福でござったな。あれに出てきた半田さん、どこかで見かけたら、嬉しくなっていきなり肩とか叩いてしまうかもしれん。

〇鳶さんやプレス工がちゃんと描かれているのも「さすが」である。日本経済が世界に誇れるのは、この国のホワイトカラーではなくてブルーカラーである。そしてこの国には、ちゃんとした「職人さん」に対するリスペクトがある。腕のいい寿司職人さんは、テレビに出ている大学教授よりも尊敬されるべきなのである。

〇まあ、テレビというメディア自体が落日の存在であるとか、若い人は見てないよとか、女性のドラマがないとか(そんなもん、あったらとっくにNHKが取り上げてるわ)、まあ、いろいろ言う人はいるだろうけれども、ワシ的には満足である。そもそもNHKじゃなきゃ、スカイツリーを作っている最中の映像なんて残ってまへんがな。

〇他方でちょっと思うのは、2001年当時に「プロジェクトX」を作っていた人たちは、「新しいドキュメンタリー番組を作ろう!」という試み自体が、「プロジェクトX」的であったはず。今回は昔のフォーマットを復活させて、今の時代に適合させられるかどうかが勝負、という試みである。ちょっと守りに入った作り方だったかな、と思う。

〇いっそのこと、主題歌の中島みゆきとナレーションの田口トモロヲのどっちかを切って、新しいフォーマットに踏み出すべきだったのではないか。そうでないと、作り手たちが「挑戦者たち」になれないんじゃないか・・・てなことは、たぶん社内でいっぱい議論した末の結論だったことと拝察いたします。

〇まあ、「ブラタモリ」の後の枠でやってるんだから、視聴者からとやかく言われるのは当然のことでしょうな。胃が痛い思いをしない仕事なんて、そもそも仕事と呼ぶに値しない。とまあ、昭和世代のワシはそれが当たり前だと思っているのだが、若い人たちにはこれが通じないのだろうな。


<4月8日>(月)

〇「いーちゃん」こと今井先生が亡くなられた。享年81歳。ウチの娘が保育所時代にお世話になったのはもう30年も前のことなので、年に不足はないのだけれども、当時お世話になった「〇〇ちゃんパパ」や「××ちゃんママ」たちが大勢集まって、直葬をお見送りした。

〇「いーちゃん」は私が今までに出会った人の中でも、5本の指に入る立派なリーダーだったと思う。リーダーというものは、大組織に限ったものではない。小さな無認可の保育所であるからこそ、ちゃんとした人が施設長をやっていないと、保育士たちが空中分解してしまうし、親たちも不安になってしまう。あの頃はおカネの苦労も多かったしね。

〇その点、「いーちゃん」は腹が座っていて、信念があって、度胸があって、言動がブレなくて、しかも温かみがあった。子どもを預ける際に、「ああ、この人ならきっと大丈夫」と思えたのは、とてもラッキーなことだった。彼女がどこでどうやって、あんな人格的迫力を身に着けたのかは、ずっと謎のままであった。

〇保育所主催のバザーの前日には、「雨はね、降らないから大丈夫」とよく言っていた。そんなこと言ったって、雨は降るときには降る。確か1回だけ酷い雨に遭ったはずだ。それでもほとんどは見事に晴れた。今朝も予報は雨だったけど、柏市内はちゃんと晴れた。さすがは「晴れ女」の「いーちゃん」であった。


<4月9日>(火)

〇このところ毎月のレギュラーとなっているニッポン放送へ。

〇そもそも飯田浩司さんが、「阪神ファンで競馬ファン」というのが反則技である。放送中以外は、「今週末の皐月賞は坂井瑠星君に要注意ですよ」とか、「青柳は外角をストライクに取ってもらえないと全然ダメですねえ」みたいな話をしている。こんなことでいいのだろうか。

〇コメンテーター陣も、ワシが昔から知っている人ばかり。なんというか、アウェイ感がまったくない。不思議だ。ワシは2年前までは文化放送の人だったのだが。

〇よかったらradicoで聞いてみそ。今朝の放送であれば、7時マタギのところが良いと思います。PART2


<4月10日>(水)

〇本日は神戸製鋼の社友会へ。「米大統領選挙のゆくえと日米関係」みたいなお題で、バイデン対トランプの戦いやら、足下の岸田首相訪米についてお話しする。

〇神戸製鋼所東京支社の最寄り駅は大崎駅である。山手線大崎駅で降りて、大崎ゲートシティを抜けて、桜の名所・目黒川を越えたところでたどり着く。はて、ワシはこの道をこれまで何回通ったことか。

〇数えてみたら、神鋼社友会さんに初めて呼ばれたのは2009年6月で、その後、コロナ下における完全リモート方式の講演会1回を含めてこれが本日が7回目のようである。いやまあ、長いことご贔屓にしていただいております。

〇せっかくの機会なので、「日本製鉄のUSスチール買収提案を、業界内ではどんな風に観ているのか」と尋ねてみた。あんまりハッキリした答えは返ってこなかったのであるが、考えてみたらまったくタイプの違う会社なのである。

〇神戸製鋼さんは、製鉄会社としてはかなりユニークである。高炉メーカーではあるものの、非鉄など素材産業があって、コベルコクレーンなどの機械部門があって、発電事業もやっている。そして今でも本社は神戸市にある。

〇要は量を追うのではなく、ニッチの世界でしぶとく生き延びるタイプの会社なのである。そうか、そういうところが鈴木商店のDNAなのか、とはたと思いつく。歴史ってしみじみ面白い。


<4月11日>(木)

〇今宵はあらめずらしや、「WBS」に出演しました。考えてみたら、ワシが以前にWBSに出たのって、とっても昔のことでありまして、テレビ東京が神谷町にあった時代のことである。それこそ小谷真生子さんがキャスターであった。いやもう、あの頃とは全く別の番組ですがな。

「モーサテ」「WBS」の違いはどこにあるのか。「モーサテ」は朝が早いので、午前5時にスタジオに入ると45分後には番組が始まってしまう。だから四の五の言っていられない。事前の準備に従って、テキパキとやらねばならない。朝イチで仰天ニュースが飛び込んできたりすると大変だけれども、そのときはもう勢いでやっちゃうしかない。

〇ところが「WBS」は午後10時からなので、午後8時にスタジオ入りしてからが長いのである。相内キャスターとダべりながら、「今日は何を取り上げますか?」「質問、どう聞いたらいいですか?」などと、ゆっくりその日のトークを決めることができる。「出物」と呼ばれるビジュアル物も、その場の雑談をもとに作ってくれるプロがいる。ありがたいです。

〇さらに今宵のように、午後9時半に米生産者物価指数(PPI)が公表、みたいなことがある。おいおい、ここで強い数字が出て、円安が154円台に突入したらどうしよう? ということに気づいて、しばし局内がバタバタする。蓋を開けてみたら、PPIはどうということがない数字が出て、為替はむしろ152円台に突入。豊島晋作キャスターいわく。「準備しているときに、それは来ない。準備していないときに、それは来る」。至言なり。

〇さらに「モーサテ」を見ているのは、「プロの人たち」である。要は金融界や経営者や個人投資家といった「うるさ方」である。しかも彼らは朝の珈琲を飲みながら、スッキリした頭で番組を見ている。従って、視聴者に対する手加減は不要である。「Fedは・・・」「FOMCは・・・」でよろしい。いちいち「米連邦制度理事会は・・・」などと言い換えていたら、確実にダサいと思われる。

〇ところが「WBS」は、プロだけでなくていろんな人たちが見ている。しかも夜であるから、どうかするとお酒も入っている(ワシなんか平日の午後10時台は確実にそうだ)。だから親切設計でなければならない。「CPI」でさえ、ちゃんと「消費者物価指数」と言い換える。「実質賃金は23か月連続のマイナスで・・・」みたいな難しい言い方をしてはいかんのである。

〇さて、不肖かんべえは「モーサテ」は来週水曜日の登場となります。はてさて、何を取り上げたらいいものか。おいおい考えなければなりませぬ。


<4月13日>(土)

〇岸田首相の訪米では、ずいぶんとお得な感じがあって、日本の戦略的な価値が上がっているんだなあ、と感じています。マイクロソフト社が日本に29億ドルを投資する、てなニュースも、AIの研究開発拠点を作るのなら、一昔前ならきっと中国だったのでしょうな。今はとてもじゃないが無理な相談です。

〇つくづく経済安全保障が、日本経済にとっては追い風になっている。日本という国は、「野心がギラギラとしていない国」である。言ってみれば、民主主義陣営における「ミスター・ナイスガイ」(確かに岸田さんはそんな風に見える)みたいなところがあって、「あそこなら安全だろう」「騙したりしないだろう」「そもそもチョロい連中だ」と思われているからであろう。

〇もっともこういうメリットは、ほとんど日本人自身には感知されてなくて、いやもう日本経済はこれからはイバラの道だ、と悲観的である。その辺の事情は、今週の東洋経済オンラインに書いた通りなのでありまして。


●サラリーマンよ、昭和の一社懸命はもうやめよう〜「物価と賃金の好循環」へのいちばんの近道とは


〇今の世界経済には「シン・保護主義」みたいなものが跋扈している。半導体開発に政府がおカネを出すとか、気候変動対策投資を優遇するとか、サプライチェーンを安全な国に限ろう、といった動きが常識化している。ここから先は、「すべての製品に関税をかける」というトランピズムまではほんの一息で、思えば自由貿易主義なんて遠い昔のことになったものである。

〇困ったことに、こうなった原因のかなりの部分は中国にあるのだが、その中国経済は今やデフレの渕に沈みかけている。だったら減税するなり給付金を配るなりして、家計部門にお金を注ぎこんで需要を喚起すべきなのだが、習近平氏の考えはそれとは違う。「新質生産力」なるテクノ・ユートピア思想で不況を吹き飛ばそう、としている。しかし産業部門にカネを投入したりしたら、ますます過剰生産力になってデフレを輸出することになってしまう。

〇先日、訪中したイエレン財務長官は、今のアメリカではほとんど例外的に親中派のエコノミストだが、その彼女も「過剰生産問題」で釘を刺さなければならないような状態である。この分では米中摩擦は改善しないだろうし、バイデン政権の「シン・保護主義」路線も変わらないだろう。

〇そして昨日は、USスチール社の臨時株主総会が行われ、日本製鉄による買収提案を承認した。そりゃあ経済原理から言ったら、42ドルの株を55ドルで買ってくれるのだから当然ですわな。買収提案の資料はこちらをご参照。しかるに今年は米大統領選挙の年なのである。

〇「シン・保護主義」で受益している日本国としては、こっちの件では損をすることになりそうだ。いわばトレードオフと言うのだろうか。岸田首相も、この件については多くを語らない。それもそのはずで、これが原因でバイデン大統領がペンシルベニア州を落として落選、なんてことになると困るのである。"Trump 2.0"の片棒を担いでしまうので。

〇世の中を覆いつつある「シン・保護主義」に対して、「それでもオープンエコノミーを守っていきましょう」というのは、誰かが言わねばならないことなのではないか。真面目な話、「中国経済とは完全にデカップルせよ!」と言われてもできっこないのだから。この「シン・保護主義の時代」をいかに生き延びていくか。かなり大きな問題と言わざるを得ないのである。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki