●かんべえの不規則発言



2012年4月






<4月1日>(日)

『スーパーチューズデー』という映画が今週末に封切られたので見に行く。あー、映画館に行くのは久しぶりだなあ。

○で、結論。「今すぐ映画館に急げ。でないとこの映画、すぐに終わっちゃうよ!」でありました。封切り2日目でしたが、MOVIX柏の葉は閑散とした入りでした。あたしゃ仕事のうちだと思って見に行ってますので、「金返せ〜」とは申しません。というか、楽しめる点もたくさんございます。すなわち大統領選オタクとして、以下のようなイチャモンをつけることができるわけです。ということで、以下はネタバレにご注意を!


(1)「スーパーチューズデー」というから、南部諸州の予備選挙かと思ったら、オハイオ州予備選挙を舞台とする物語であった(今年のオハイオ州は、たまたま、3月6日=Super Tuesdayだったけどね)。実は原題は"The Ides of March"(=3月15日、つまり英雄シーザーが暗殺された日)なんですが、さらに元になった戯曲の題名は"Farragat North"(=ワシントンの地下鉄の駅名。いわゆる「Kストリート」の最寄り駅)だったりする。要はこの邦題、米大統領選に詳しくない日本の視聴者向けに用意されたものなんですねえ。

(2)で、民主党のオハイオ州予備選が、大統領を決める事実上の天下分け目になる、という設定なんですが、FDRの頃ならともかく、21世紀の選挙戦でそりゃあないでしょう。今年のダメダメな共和党でさえ、秋には一発逆転がありうるのが大統領選というもの。選挙の年の春の時点で、閣僚ポストの空手形が飛び交う、なんてことは普通はないのであります。

(3)さらにジョージ・クルーニー扮する大統領候補が、あり得ないくらいにリベラルなんです。カリフォルニア州大統領を決めるならともかく、あれじゃオハイオや南部ではけっして勝てないでしょう。無神論者だという設定も過激ですが、「ガソリン車の製造を禁止する」という演説もいかがなものかと。オハイオは、ホンダも含めて自動車関連企業が多いんですけど。とまあ、ここはハリウッドの世界ということで大目に見ることにします。

(4)オハイオ州はいつも本選で注目を集めるので、Bellweather Statesなどと言われますが、予備選で注目を集めることは滅多にありません。そこでオハイオ州のローカル・ポリティクスが出てくるのかと思ったら、まったく出てこない。そもそも舞台になっているのがクリーブランドなのか、コロンバスなのか、シンシナティなのか、デイトンなのかの言及もない。オハイオ州は多極分散型なので、選挙戦を行なう側にはアリ地獄のような難しさがあるんです。が、その辺は無視。実際の撮影はミシガン州で行なわれたみたいです。

(5)で、選挙参謀同士の葛藤とか、メディア・コントロールとか、代議員確保のための工作とか、美人のインターンとか、身の下スキャンダルとか、ありそうな話は全部出てきます。この辺は現実の方がずっと先行していますので、(まことに残念なことに)驚くような話はまったくありません。とくにジョン・エドワーズの事件があったあとでは・・・。


○米大統領選の話はさておいて、物語としても今ひとつでありましたな。主人公の選挙参謀がなぜこの世界を志したのか、候補者や上司とはどんな経緯があったのか、など物語の縦軸が充分に描かれていないので、後半の主人公の「怒り」がうまく伝わってこない。ジョージ・クルーニーのファンの方には申し訳ないですが、あんまりいい作品とは申せませんな。


<追記> けなしてばかりでは悪いので、気に入った劇中のセリフをご紹介。ベテラン選挙参謀の言葉から。

「この碌でもない政治の世界においては、忠誠心だけが唯一通用する通貨だ」


<4月2日>(月)

○さる3月30日、田中防衛大臣は「弾道ミサイル等に対する破壊措置の実施に関する自衛隊行動命令」を発出しました。国際海事機関からの通報によれば、今年4月12日から16日の毎日7時から12時までの間に、北朝鮮が「人工衛星」と称するミサイルが発射されるとのこと。これを受けて我等が自衛隊は、日米間で緊密な連携を図りつつ、自衛隊法第82条の3第3項の規定により、破壊措置を実施するものであります。

○金日成主席の生誕百周年が4月15日にありますので、かの国ではこれに即したイベントが数多く予定されているそうです。その中でも、「人工衛星と称するミサイル」の打ち上げは、新たな指導者である金正恩氏の重要な「業績」となるのでありましょう。周辺国としては迷惑千万な話でありまして、いつものことながら付き合いきれませんねえ。

○なんで日本が大騒ぎしなきゃいかんのか。ミサイルが落下するのは、「韓国南部の全羅道西方沖合い」および「フィリピン・ルソン島の当方沖合い」と目されている。その通りに行けばいいのだけど、途中で沖縄当たりに落ちられた日には大変なので、PAC-3部隊を那覇、知念、宮古島、石垣島に配置したり、イージス艦を日本海に1隻、東シナ海に2隻展開したりしなきゃいかんのです。願わくば、打ち上げが失敗してくれればいいんですけどねえ。

○勢いあまって、野田首相は4月14日に予定していた新宿御苑での「桜を見る会」を中止してしまいました。これは行き過ぎというもので、そもそも防衛大臣が命令を発出した時点において、弾道ミサイル対策は航空総隊司令官の指揮下に入っております。いちいち内閣総理大臣の指示を仰がなければいけないような事態ではないはずなのです。まあ、もっともこれが菅首相であれば、「俺にPAC-3を撃たせろ」くらいのことは言い出しかねませんが。

○むしろ北朝鮮のミサイルが打ち上がる瞬間に、わが国首相はのどかに新宿御苑の八重桜を愛でながら、各界の紳士淑女たちに対し、「ご心配なく。こういうときのために、自衛隊がありますから」などと語りかけつつ、泰然自若とワインでも傾けていてほしいものであります。野田さんの場合、昨年12月19日正午に、「金正日死す」の報に接して、新橋の演説会場から慌てて官邸に引き返したトラウマがあるから、大事をとったのでありましょうけれども。

○実を言うと、ワシはいちおう「桜を見る会」の招待客の1人なので、ちょっと惜しいなと思っているのである。麻生さんのときに初めて呼んでもらい、鳩山さんのときは雨だったから欠席した(つまり、ワシは鳩山さんにとって「雨天の友」ではなかった)。そして去年は中止だった。今年は行きたかったなあ。

○まあ、桜自体は今週後半には、都内のどこでも見られることと思いますが。


<4月3日>(火)

○昼過ぎから急に熱っぽくなったので、午後2時に職場を早退。この季節に風邪というのも変な話だが、今週は今年に入ってから初めて講演のない週なので、気が抜けてしまっているのである。

○そういえば今朝の「くにまるジャパン」でも、伊藤佳子アナが「今日は午後から暴風雨が来ますよ〜」と警告していた。案の定、強風のために常磐線は少し遅れたが、早く帰っておいて正解であった。夜はたいへんな大嵐である。

○今回の「春の嵐」に対しては、企業側の対応が妙に手際がよかったと思う。会社が「早く帰宅しろ」とうるさく言ってくれると、社員も気が楽である。考えてみれば首都圏では、昨年の「3/11」に9月の台風、そして今回と、半年ごとに「帰宅難民」が発生している。これでは鉄道会社も含めて、対応が手慣れてくるのも当然というもの。

○とはいえ、なんだか妙にリスク過敏になっているような気もする。例の南海トラフの被害想定など、地震学者の自己保身に過ぎないと思うのだが、世の中にはかなり本気で心配している人がいるようだ。歴史上、起きたことがないような地震の心配をしても、意味がないと思うんだがなあ。


<4月4日>(水)

○日銀の審議委員の人事がえらいことになっている。古いアメリカ人の知り合いが、不意に「お前はどう思う?」というメールを送ってきて、「ん?渡辺さんと河野龍太郎さんで決まりなんじゃないの?」というアホのような返事を送ってしまったが、両方ともダメになるらしい。相手は今はヘッジファンドに勤めているらしいのだが、我ながらまったくの役立たずの返事であった。

○河野さんは非常にまともなエコノミストで、業界内の評判もいい。私から見れば、リフレ論に対しても充分に理解がある人だと思う。ところが自民党がダメ出しをしてしまった。これでは2008年の民主党のやり方と変わらない。というか、政策の中身に口を出している分だけ劣化コピーといえる。日銀の審議委員というのは、本質的に楽しい仕事ではないのだから、こんなことを続けていると、まともな人は誰も引き受けなくなってしまうのではないか。既に少なからぬ経済学者が、「こんなことに巻き込まれるのは御免被る」というモードである。

○こんなことを続けていると、結果的に日銀プロパーの意見がますます強くなる。結果的に、政府から見て日銀がコントロールしにくくなるのではないだろうか。実際に2008年の時点では、普通に武藤さんを日銀総裁にしておいた方が、今の白川総裁よりも政府のいうことを聞いてくれたのではないかと思う。

○で、もう一人の伊藤忠相談役、渡辺康平氏がさらにお気の毒なのである。3月23日に、日経がこの人事を「抜いた」(ちなみにネット上では、この記事はもう消されている)。で、2008年にゴタゴタがあった際に、「事前に漏れた人事はダメ」という合意が与野党間にできたのだそうだ。つまり「日経に抜かれたからつぶされた」人事なのである。そんな記事、載せるなよ。とりあえず、しばらく日経さんは伊藤忠商事にはお出入り禁止でしょう。こんな話、日経にはきっと出ないと思うぞ。

○ということで、野党とマスコミが寄ってたかって人材を潰している図式である。ところが消費税の審議を控えているので、与党はじっと耐えるしかない。こんなことをしていると、ホントにこの国はダメになっちゃうよ。


<4月5日>(木)

○すいません、少し風邪が良くなって来たので、3日分まとめて更新しています。

○4月3日のウィスコンシン州、メリーランド州、ワシントンDCでの共和党予備選で、ロムニーが3連勝。党内有力者によるEndorsementも増えてきて、やっと勝ちが見えてきた観あり。

○獲得した選挙人の数は、現時点で以下の通り。全部で1144人分を確保すれば勝利が確定する。ロムニーはもう半分は確保しています。

Romney 655
Santorum 272.
Newt Gingrich 140
Ron Paul 67

○次なる焦点は4月24日で、ニューヨーク(95)、ペンシルバニア(72)、コネチカット(28)、ロードアイランド(19)、デラウエア(17)の5州で予備選挙が行なわれる。ペンシルバニアはサントラムの地元なので、ここで負けるようならゲームセットであろう。が、ブルーカラーに愛されないロムニーとしては、製造業の多いこの州で勝つのが難しい。ちなみに"Coming Apart"の中で出てくるNew Lower Classの町「フィッシュタウン」は、フィラデルフィアに実在するらしい。

○ただし共和党内部では、「3月まではモタモタしていたけど、4月になったら団結しなきゃ」という機運も少しずつ芽生え始めているようでもある。いやホント、そうでないといけませんって。


<4月8日>(日)

○天気もよく、桜も満開の週末。両日ともに、ご縁のある会合に参加しておりました。

○土曜日は六本木へ。昔、一緒に働いていて、現在はロンドン在住のアメリカ人が、本を書いて、今度東京でMeetupをするから来てくれという。アマゾンでチラ見してみたら、どうやらスピリチュアル系である。敬して遠ざかるべきかと思ったが、懐かしいので出かけていく。案の定、話にはついていけなかったけれども、本人は昔と変わっていなかったし、懐かしい知り合いにも大勢会えたので、大正解でした。

○ひとつ学習したこと。英語でも"Spiritual"というものがある。ただしその中身は、「幸せとは何か」を真面目に考えるものであって、多少の味付けとして東洋的思想が織り込んであるらしい。こんな感じである。日本における「スピリチュアル」とは、霊能士やら前世の因縁やら独特の要素が出てくるので、どうやらガラパゴス的な進化を遂げている模様。

○日曜日は池袋へ。知り合いが出ているキッズミュージカルへ。出し物は『ピノッキオの大冒険』。アマチュア劇団、それも子供中心の公演とタカをくくっていたら、なんと2時間を超える堂々たるミュージカルであった。

○ここでひとつ学習したこと。「ピノッキオ」の物語は子供の頃に読んだ通りですが、ひとつだけ変更されている点があります。さて、以下のうちどれでしょう?

(1)「嘘をつくと鼻が高くなる」設定が、「顔が赤くなる」に変更された。(身体上的差別排除の観点から)

(2)遊び呆けていると「ロバ」になる、という設定が「ゾウ」になる、に変更された。(民主党支持者の主張による)

(3)ゼペット爺さんと一緒に「鯨」に呑み込まれる設定が、「サメ」に変更された。(鯨擁護の観点から)

○それにしても、ディズニーはくだらないことをやるもんですなあ、というのがヒントであります。


<追記> これ、もちろん正解は(3)なんですが、原作がサメだったものをディズニーが鯨にして、最近になってまた元に戻っているというのが真相のようですね。あたしゃ絶対に鯨でないと納得できないと感じたんですけど。やはり子供のときに読んだイメージがいちばん強いんですよ。


<4月9日>(月)

このニュースは面白いですね。今日の時点ではベタ記事ですが、今週末にはトップ記事になるかもしれません。


●イラン巡る6か国交渉 トルコ開催 4月9日 8時55分

核開発問題を巡って欧米諸国がイランへの制裁を強めるなか、イランと欧米など関係6か国による交渉が、今月14日にトルコのイスタンブールで再開されることになりました。

これは、イランと欧米やロシア・中国の関係6か国による交渉の調整役を務めているEU=ヨーロッパ連合のアシュトン上級代表の報道官が、8日、NHKに対して明らかにしたものです。

それによりますと、イランと関係6か国の交渉は、今月14日にトルコのイスタンブールで再開することで、関係国が合意したということです。
イランと関係6か国の交渉は、去年1月に同じイスタンブールで開かれて以来、中断されてきましたが、核開発の動きを加速させるイランに対して、欧米諸国が制裁を強化して緊張が高まるなか、1年3か月ぶりに再開されることになります。

今回の交渉再開について、EUの報道官は「具体的な進展に向けて環境が整うことを期待する」と述べ、交渉が数日間にわたる可能性を示唆しています。

交渉の開催地を巡っては、イランと関係の深いシリアのアサド政権に対して、トルコが欧米諸国とともに退陣を求めたことに、イランが反発し、調整が難航していました。


○P5+1によるイランとの協議が今週末に再開されるわけですが、場所がやっとトルコに決まったという点にご注目。たまたま今日出た菅原出さんのレポートに、この間の経緯について触れてあるんですが、以前からトルコが仲介役を申し出ていたのだけれど、イラン側がイラクでやりたい、トルコはシリアに厳しいから、などとゴネていた。先週、イランを訪問してハメネイ師やアフマディネジャド大統領と会談していたエルドアン首相が、それを聞いてブチ切れてしまった。それがやっとイラン側の腰が座り、イスタンブール開催で落着したらしい。

○察するにイランとしては、大きな貿易相手国であるトルコは粗略には出来ない。特に今のようにキツイ経済制裁を受けているときは、「地続きの国」はありがた〜いものなのでしょう(理由は分かるよね)。で、エルドアン首相は先の核安全サミットでソウルを訪問し、オバマ大統領と2時間会談している。おそらくその場でメッセージを受け取ったのだろう。その内容は、たぶん「核開発はいいけど、核保有はダメよ」的なものなのではないか。この問題のボタンのかけ違いの発端はそこなので。

○P5+1とイランの交渉の日時と場所がセットされたことで、一歩前進したとはいえ、それでイスラエルが「今年はこれくらいにしておいてやろう」と言うかどうかは別問題である。ということで、今週末に向けてまだまだ腹の探りあいが続くのでしょう。

○これが外交というものであります。鳩ぽっぽさん、学習してくださいまし。


<4月10日>(火)

(1)ということで、イラン核開発問題の山場は今週末4月14日のイスタンブール会議ということになります。P5+1とイランの協議において、イランがどういう形で譲歩するか。嫌なことをやるときは、「俺は本当はイヤなんだけど、○○さんの顔を立てて、降りることにしてやるわ」という図式を作らなければならない。トルコに花を持たせる、という手もありますが、できれば「アメリカが頭を下げてきたから」とイランが国内向けに説明できる形を作ることが望ましい。

ここから先は単なる憶測ですが、オバマのイラン訪問、あるいはクリントン元大統領のイラン訪問、という形があるかもしれない。その見返りにイランが核濃縮を停止する、あるいは査察を受け入れる。1994年の北朝鮮危機の際の応用ですね。イスラエルはそれをしぶしぶ承認する。この問題を外交的に解決できるとしたら、おそらくこれに近い形になるのではないでしょうか。

繰り返しますけれども、鳩山さんのイラン訪問はまったく蚊帳の外の動きです。忘れましょう。というより、早く忘れたい。残念ながら日本国民は、鳩山さんと菅さんが「元総理」であるという事実から、永遠に逃れられないのですけれども。

(2)次に北朝鮮のミサイル発射については、これも4月14日が山場になると思います。公式声明では、「ロケット」の打ち上げは4月12日から16日の間ということになっている。金日成生誕百周年は4月15日。この前日が撃ち頃でしょう。明日11日は雨の予報である。ということは、12日はできれば様子を見たい。ところでこの件については、この文章が非常に参考になります。

(3)国内政局の山場はいつか。これは簡単で、小沢一郎さんの判決が出る4月26日でしょう。それ以前には、与野党ともに動けない。逆に言えば、有罪か無罪かが分かった瞬間に政局は動き出すでしょう。翌週の大型連休に大勢が決するでしょうね。大した根拠があるわけじゃないですが、さる筋から、「55%対45%」という観測を聞きましたな。永田町関係者は無罪というけど、法曹関係者の間では有罪説が強い。ビミョーなところです。

(4)花見の山場は、都内ではおそらく今宵ということになるのでしょう。明日は強風を伴う雨だそうですから。とは言うものの、「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」との言葉もある。雨の後の散り行く桜も、風情のあるものであります。散る桜、残る桜も散る桜。期間限定であるところに桜の価値がある。もちろん高尾山か利根川の向こう側に行けば、今週末でも充分間に合うでしょう。つまり山場を過ぎても、延長戦は可能であります。


<4月11日>(水)

○共和党予備選が、事実上終わってしまいました。サントラム候補が突然、戦線離脱(Suspend)を宣言しちゃいましたので。4月5日付の当欄でも述べたように、4月24日には、彼の地元、ペンシルバニア州も含む5州で予備選が予定されていて、そこまでは戦いを続けるものだと思ってました。ところがここを見ると、ペンシルバニアでもほとんど両者は首の皮一枚の戦いになっている。かつては大差でリードしていたんですけどね。サントラム陣営としては、「地元で負けた」という傷を残したくない、という考慮は当然あったはずです。

○また、共和党予備選の場合、「2位で終わる」ことの意味は小さくありません。これで2012年の共和党候補は、ロムニーにほぼ確定ですが、ロムニーがオバマに負けた場合に、「2012年に2位だった」サントラムは、次回の2016年のレースではごく自然に重きをなすことになります。おそらく撤退の直接の理由は、3歳のお嬢さんが入院されたことなのでしょう。ただし、「家族とともに過ごす時間を大切にしたい」というのは、アメリカ社会においては撤退や辞任の際の決まり文句であることも、否定できない事実であります。

○とはいえ、思ったより早い終幕に少し拍子抜けしてしまいました。ギングリッチやポールはまだ戦線に残るらしいです。でも、「誰が勝つか」への関心は、もはや失われてしまったことでしょう。

○東京新聞論説主幹の清水美和さんが亡くなられました。すい臓がんでした。がん治療を始められてからも、月に1回程度のわりで中国情勢を伺う機会がありました。最後にお話をしたのは、中国情勢に関する講師をお願いしたい、というお電話ででした。最終的に日時が合わなくて断念したのですが、こうなったらせめて一言、何か聞いておけばよかったと悔やまれてなりません。

朝に道を聞けば、夕べに死すも可なり。論語に出てくるこの言葉が、ちょっと身近に思えました。合掌。


<4月12日>(木)

○たまたま元『サンプロ』のスタッフと話をしていて、「政治番組が面白くなくなりましたねえ」という方向に。それはなぜかというと、「政治家の言葉が軽くなったから」ではないかと。

○見ている側が、「この場の一言で、明日の政治が変わるかもしれない」と思っていたからこそ、かつては日曜の政治討論番組が注目を集めた。それこそ霞ヶ関は一言一句を聞き漏らさないようにしていたし、各国大使館は克明なメモを取って本国に送ったかもしれません。そういう緊張感は、既に失われて久しいような気がします。

○何しろ今では、政治家の発言は訂正でも撤回でも何でもありですから。かといって、その分、気の利いた面白いことを言ってくれるわけでもない。他方、聞いていて腰砕けになるような阿呆なコメントは、以前と変わらずに多い。これではコンテンツとしての魅力も減じることになる。

○そんななかにあって、この人のセリフは光りますね。

「人が替われば、処分も組織の統制の仕方も変わる。それはいろいろじゃないですか」。

(処分が軽いとの指摘に対し)「それは副総裁にきいてください」

「これが自民党の良さなんでしょうね。注意の中にも何とも言えない温かみがありましたよ。前向きにこれからも頑張っていきます」

○以上、郵政法案に造反して反対票を投じた進次郎クンのコメントでありました。でも、彼はテレビには出てくれないんですよね。永田町的には、彼はそういうところが謙虚でよろしい、という評価になるのですが。


<4月13日>(金)

○日本の新聞を見ると、「北朝鮮のミサイル失敗」とある。CNNなどを見ると、「N.Korea's Rocket Fails」とある。総じて西側メディアは北朝鮮の言い分を受け入れて、「ロケット」と呼んでいる。ざっと見たところで、「ミサイル」と呼んでいたのはWSJのマイケル・オースリンの論説記事あたりか。

○韓国の新聞も「ロケット」。中国は「衛星」もしくは「ロケット」。たまたま見たTaipei Timesの見出しは「ミサイル」でしたな。総じて安保関係者とタカ派が「ミサイル」で、外交関係者とハト派が「ロケット」。日本はこの問題ではタカ派に属することになります。

(どうも鳩山さんの存在のせいで、昨今の日本では「ハト派」は肩身が狭くなったのではないか。まあ、ワシの知ったことではないが)

○そもそもロケットとミサイルの違いとは何なのか。「誘導装置のあるなし」など、技術的な点もあるらしいのですが、一番分かりやすいのは「積荷が何か」でありましょう。衛星などの平和目的のものを積むならロケット、爆薬を積むならミサイル、特に核兵器を積んだら核ミサイルということになります。

○日本政府は公式文書の中でも、「『人工衛星』と称するミサイル」とハッキリと呼んでいた。そりゃま、ホントに衛星なのなら、南に向かっては打ちませんわなあ。ただし、その辺は全て呑み込んだ上で、「ロケットなんでしょ。アンタがそう言ってるんだから、そう呼んどいてあげる」という西側メディアの優しさも、底意地の悪さではいい勝負なのかもしれません。

○対米合意からミサイルの打ち上げに至る筋書きは、おそらく故・金正日が敷いた路線だったのでありましょう。彼は全権を掌握していたから、「失敗しても構わん」というギャンブルが出来た。問題は、金日成生誕百周年を祝う4月15日のはるか手前で、彼が死んでしまったことでした。「ミサイル打ち上げが失敗した場合はどうするか」というプランBは、ひょっとしたら遺言に書いてないのかもしれません。

○金正恩にとっては、これから先がツライ。自分でシナリオを書かなければならない。難しいね。


<4月15日>(日)

○例年よりも遅かった桜は、とうとう散り始めています。利根川の向こうでは、まだ賑やかな感じでしたが。桜前線は北上中です。

○ウチの車庫には、今年もツバメが戻ってきました。ピーピーと、とてもにぎやか。これでまたクルマが汚れるけれども、めでたいから笑って許しましょう。

○富山に来ました。こちらは今週末が満開。松川沿いは渋滞しているから行けません、と運転手さんに言われてしまいました。日本列島、至るところ桜ありです。


<4月16日>(月)

○今日の富山市、松川沿いの桜並木は満開であります。ただし今年は、さすがに開花時期が遅い。例年は4月第1週の「ちんどんコンクール」と開花が重なるのが吉例である。「ちんどんコンクール」は今年で58回目を迎える名物であるが、さすがに全国のちんどん屋さんたちは高齢化が進んでおり、年に1度、富山市に集まってお互いの無事を確認しあう「お達者クラブ」になりつつある、との声も。

○例年に比べて厳冬だったこともあって、今年は川の雪解け水が冷たい。そのために、この時期の富山湾につきもののホタルイカも、今年は不漁になるのではないかと言われている。まあ、そういう年もありますということで。ホタルイカは、酢味噌で食べるのが一般的であるけれども、最近ではてんぷらが流行っているとのこと。なるほど、言われてみれば今までなぜなかったんだろう。だってイカのてんぷらはごく普遍的ではありませんか。

○今日から富山空港に台北・桃園空港との直行便が就航した。当面は週2便で、これで富山空港の国際線はソウル、北京〜大連、上海に続く4本目となる。台湾びいきの1人としては慶賀の至りである。こんな風に富山空港が国際化を目指すのは、2年後には北陸新幹線が開通して、東京と2時間で結ばれてしまうことが背景にある。その場合、羽田〜富山便は相当に減らされることになる見込みなので、空港を何とかしようという危機感が強いのである。

○その北陸新幹線は、富山駅の前後の高架線が徐々に姿を現しつつある。とはいえ、ここに線路を敷き、電力を通し、通信系統を通さないことには新幹線は走れない。喩えていえば、骨組だけできて、まだ血管も神経もつながっていないような状況か。やっぱり後2年はかかるんですなあ。

○富山県内の魚津市では、昨日が市長選と市議選の公示日だったのだが、市長は現職以外に立候補者がなく、市議も18人の定員ピッタリの候補者が立ったもので、どちらも無投票当選という結果になった。ちょっと「目が点」の事態である。まあ、選挙費用が浮くというメリットはあるだろうけれども、これでは公約もマニフェストも政策論争も成立しない。これって民主主義の危機ではないのかなあ。


<4月18日>(水)

○某所で勉強会。テーマは経常収支。

A氏(大学教授):別に黒字がよくて赤字が悪いわけではありません。日本の経常黒字は、内需の弱さの表れでもある。経常収支が赤字になったとしても、大騒ぎする必要はない。それとは別の問題として、財政赤字はちゃんと減らさなければなりません。

B氏(金融エコノミスト):お説通りなのですが、マーケット的には「日本が経常赤字になったら大変だ」と受け止めているので、その場合は日本国債が叩き売られるかもしれません。ただしシミュレーションをしてみると、なかなか経常赤字にはならないですねえ。

C氏(商社エコノミスト):I/Sバランス論やマクロのモデルはさておいて、貿易関連の生データを見ている限りでは、日本が経常赤字になるという筋書きは、どうしても思い浮かばないのですが。

○もちろん「C」が不肖かんべえであります。各方面からの見方がバランスしていて、面白い議論だったと思います。

○そういえば明日は3月の貿易収支が発表ですね。果たして年度末の輸出ドライブは、どんな感じだったのでしょうか。


<4月20日>(金)

○ひょんなことから、今朝は岡崎久彦さんの話を聞きに行きました。と言っても、不肖かんべえはNPO法人岡崎研究所の理事兼特別研究員でありますので、お話を聴く機会は実は少なくない。それでも、あらたまって少人数の客席に座って、1時間半も話を聞くという機会は得難いものでありましたな。「駆け出しの噺家が、自分の師匠の高座を客席で聴いている」的な気恥ずかしさがありましたけど。

○ところがこの師匠の高座がすごいのである。ご高齢な上に、メモも何も見ないで語っているので、ところどころ日付があやしかったり、固有名詞がすぐには出てこなかったりする。たぶん大学教授だったら、許されないレベルの荒っぽさである。にもかかわらず、あまりに内容が面白いので、聴き手は静まり返って熱心にメモを取るばかりである。イラン情勢を語り、北朝鮮を語り、中国の内紛を語ったところで時間切れになりました。いやー、これが朝食会でなくて、ビール片手の放談会であれば、ますます話が冴えわたったことでありましょう。

○国際情勢判断だとか、インテリジェンスだからと言って、何かおどろおどろしい情報源や人脈が出てくるわけではない。基本は世界各地の新聞情報である。それらを丹念に読んで、歴史上の出来事と結びつけながら、全体像を浮かび上がらせるという名人芸である。しかも人間観察や文化論や軍事技術の話が交錯する。これはもう人間国宝の域ではないか。と言っても、それを評価できる人など、滅多に居るわけもないのがこの世界である。

○以前、岡崎さんがこんなことを言っておられるのを聞いた覚えがある。「情報の仕事っていうのは面白いね。これだけ長くやってて飽きないんだもの。これでお金をもらっちゃ、悪いくらいだよ」。ひょっとすると、この仕事が健康の秘訣なのかもしれませんな。


<4月21日>(土)

○そういえば、来週はこれがあったんだっけ。

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<4月23日>(月)

○フランス大統領選挙に関するトリビアを少々。

●過去に現職大統領が出馬して負けたのは、1981年にジスカールデスタンがミッテランに負けた1回だけである。ちなみにこの二人は、その前の1974年にも大接戦を演じており、1981年選挙には「次点バネ効果」が働いたようである。

――ということは、今度の選挙で現職のサルコジが負けそうだというのは、「よっぽどのこと」がフランスで起きているんでしょうな。あるいは「反サルコジ機運」がとても強いと解すべきでしょうか。

●第5共和政下において、社会党から大統領になったのはミッテランだけである。

――1995年以降、社会党は政権に就く機会がなかった。そしてオランドさんには閣僚経験などは皆無。

●過去の決選投票においては、唯一2002年以外は、すべて「50%台対40%台」の渋い差で終わっている。ちなみに2002年は、シラク対ルペンの戦いでした。このときはさすがに82.2%対17.8%という大差でありました。

――ということは、5月6日に行なわれるサルコジ対オランドもきっと僅差の戦いでしょう。(追記:それにしても今回、ルペン党首が18%取ったってのは、どえらいことですな)


<4月24日>(火)

○これはちょっと意外な数字ではないですかね。問い:「2011年度の輸入実績のうち、LNGの輸入量は前年比で何割増しだったでしょうか?」

○調べるのは簡単です。財務省のHPに、平成23年度分の速報値(PDF)があります。この4p目に「主要商品別輸入」がありますから。

○この資料を見ると、LNG輸入数量は8318万トン。前年比17.9%増です。原発が止まっている分、LNGをガンガン買ったはずなんですが、量的な増加分は2割以下なんです。意外とたいしたことはないですね。ところが金額で見ると5.4兆円で前年比52.2%増。つまり5割増しでした。量の増加よりも値段の上昇の方が効いた、ということになります。

○LNG価格は石油価格に連動するので、昨年は値段が上昇したことは間違いありません。ちなみに「原油および粗油」は数量で▲2.4%、価格で21.9%増の11.9兆円でした。特に昨年の場合は、夏場にあわせてLNGをスポット市場で慌てて買い付けたので、その分高値掴みをすることになったのでしょう。足元を見られたわけですから、これは仕方ありません。

○ただしそのことはちゃんと分かっていますから、これから買う分については長期契約の分が増えるはずです。値段はそれだけ下がることでしょう。アメリカではシェールガス革命のお陰で、天然ガス価格が下がっていることもある。ということで、量は増えるかもしれないけど、金額は前年比で下落する、てなことになるのではないかと。

○それより何より、今年の石油価格がどう動くかが問題です。さしあたってはイラン問題。4月14日のP5+1の会議がうまく行ったらしい、てな報道がワシントンポストであったのですが、その割りには下がりませんなあ。


<4月25日>(水)

○昨日のワシントンポスト紙に、JAによる「反TPP広告」が表4フルページ、カラーで掲載されました。閉鎖された工場の写真をバックに、以下のようなメッセージが寄せられている。


Don't let the TPP rob your future.

The stringent Trans-Pacific Partnership(TPP) free trade agreement would destroy jobs, lower living standards, increase economic inequality and hand the future to multinational corporations. It is exactly the wrong solution for America and the world.

Join millions of Japanese citizens who dispute the TPP, including a majority of the Diet, 80% of local legislatures and 11.67 million citizens who signed a petition opposing it.

Say No to the TPP.


○そしたら、さっそく今日のWSJ紙が、記事として取り上げている。せっかくですから、日本語版でご紹介しておきましょう。


●日本の農業関係者、米ワシントンポスト紙にTPP反対広告を掲載

環太平洋経済連携協定(TPP)に反対する日本の農業関係者らは24日付の米ワシントンポスト紙にTPP反対を訴える広告を出した。フェンスが施錠された工場の写真の下に大きく「Don’t let the TPP rob your future.(TPPにあなたの未来を奪わせるな)」と書かれた広告は同紙フロントセクションの裏面に掲載された。

米ワシントンポスト紙に掲載されたTPP反対を訴える広告米国の読者にとっては奇妙なメッセージだったにちがいない。広告にはTPPの内容が提示されておらず、TPPがどう米国人の「仕事を奪う」ことになるのか、その説明がないからだ。記者はアジアを担当しない同僚に感想を聞いてみた。反応は「これは何のこと?何を意味しているのかわからない」だった。

これはTPPを巡る日米の温度差を表わしている。日本ではTPPが新聞、雑誌、テレビ番組で大きく取り上げられ、家庭で使われる言葉になっている。野田佳彦首相はTPPへの参加を最優先事項としており、来週の訪米時にはオバマ大統領とTPPについて話し合う予定だ。反対論者は、TPPへの参加は日本経済を全体としては好転させる可能性があるとする一方、日本の保護政策下にある農業部門の一段の市場開放が求められると予想されるため、結果、広告キャンペーンとなった。

一方の米国では、TPPはまったくと言っていいほど報道されておらず、ほとんど知られていない。

広告を掲載した全国農業協同組合中央会率いるグループは米国事情についてやや混乱しているようだ。同グループは日本のメディアに対し、ワシントンポストは67万部の発行部数があると伝えていたが、悲しいことに、同紙ははるか昔にその発行部数を減らしていたのだ。米発行部数監査事務所(ABC)によると、昨年9月の時点で、同紙の発行部数は50万7000だった。



○英語の表題は"Lost in Translation"。日本を舞台にした映画の題名から借りてきました。要するに、「分かってねえなあ」という冷やかし記事です。最後のパラグラフでは、同業他紙に対する皮肉もチクリ。「ワシントンポストじゃなくて、弊紙に掲載してくれりゃいいのに」ということなんでしょうか。まあ、広告の使命は目立つことですから、こんな風に取り上げられること自体は成功というべきでしょう。

○とはいえ、これでアメリカで反TPP運動が盛り上がるとも思えない。私見ながら、この広告のメッセージを正しく伝えようと思ったら、"Don't let the TPP rob our future."として、日米の反グローバル派の結集を呼びかけるべきでありましょう。JAさんとしては、「TPPはアメリカの陰謀」であると真剣に考えておられるのかもしれませんが。


<4月26日>(木)

○「推論有罪」か、「灰色無罪」か。どっちもありそうだなー、と思っておりましたが、結局は後者でありました。答えが出てみれば、妥当な判断だったんじゃないでしょうか。正直なところ、前者であれば、これを契機にいろんなことが動き始めて、日本が「決められない政治」から抜けられるかもしれないなぁ、という変な意味の誘惑がありました。ただし、それでは司法制度への信頼を損なうことになりかねず、長い目で見れば弊害の方が大きかったでしょう。

○そもそも政治資金規正法という法律は、所詮は政治家ではなく、会計責任者を取り締まるものなんで、最初から無理筋の起訴だったのでありましょう。なにしろ検察自身が「こりゃダメだ」と思っていたわけですから。それを起訴に持ち込んでしまった検察審査会という制度は、果たして妥当だったのか。いろいろ考えさせられるケースでありました。

○「法律ではなく、社会が人を裁く」「法曹のプロだけではなく、普通の市民の感覚を判決に取り入れる」といった一連の司法改革が目指している方向は、必ずしも間違っているわけではないでしょう。刑事事件における裁判員制度も、それなりに定着しつつある。ただし、まだまだ不慣れな制度が、いきなり政局に影響するどえらい案件に使われてしまったのは、いろんな意味で不幸なことだったのではないかと思います。

○それはさておいて、「決められない政治」はまだまだ続きます。野田首相の訪米から5月の大型連休の間に、少しは突破口が見えてくるでしょうか。


<4月27日>(金)

○考えてみたら、消費税法案が国会に提出されたのは3月30日のことである。その後、まったく審議が進まなかったのは、要するに永田町の関係者がこぞって「4月26日になるまで待ちましょう」モードであったからにほかならない。で、昨日「小沢氏無罪」の判決が出たら、今日から何か動くのかと思ったら、「5月11日までは政治休戦でしょう」とのこと。その日が控訴の期限日であるからなんだそうだ。ということで、議員の皆さんはそれまでの大型連休で外遊オッケーということになる。結構ですなあ。

○思い起こせば、民主党常任幹事会(2/22)で決まった小沢さんの党員資格停止処分は、「当該事件の判決確定まで」となっていた。判決が確定するには、控訴がないことを確認しなきゃいけません。だからそれまでは動けない。だったら、控訴が行われた場合はどうなるのか。その場合、誰が控訴するんでしょうか。検察審査会が起訴を決めたケースでは、その辺の手続きがよく分かりません。だって初めてのケースなんだもの。ここから先は、民主党さんに聞いてくださいまし。答えはきっと「決められない」でありましょう。

○もっとも昨日の「小沢さん無罪、バンザ〜イ」という雰囲気は、一夜明けたら急速に萎みつつある模様です。さる小沢ガールズの場合は、無罪判決に大喜びしている映像が昨夕のテレビに流れたところ、ご当人の後援会から苦情が殺到して、「あの絵は流さないで〜」とTV局に泣きついたそうであります。そうかと思えば、昨晩は都内某所で「祝勝会」をやっている小沢派議員が居たりして、それって顰蹙じゃないのかと思います。

○この週末には世論調査も行なわれるでしょうが、ひとつ気になるのはテレビ番組がどの程度、小沢問題を取り上げるのか、ということです。実はあんまり多くはないのではないでしょうか。だって小沢さんじゃ、視聴率が上がらないから。ということで、今日のところは「小沢氏無罪で政局混乱」という報道が多かったですが、意外とたいしたことにはならない、というのが不肖かんべえの見立てであります。

○今宵はM2Jプレミアムナイツで、「国際政治が為替トレンドを決める」てなお話をしてまいりました。国内政治についても、上記のような内容について少々お話しております。ご参考まで。

○ついでに明日はテレビ東京の「マネーの羅針盤」なる番組に出演してきます。うーむ、大型連休でもよく働くのであります。


<4月29日>(日)

○遺伝学者はショウジョウバエを使って実験を行なう。寿命が短いから、すぐに実験の結果が出せるからである。経営学者のクリスチャン・クリステンセンは、ハードディスク業界を研究対象に選んで、名著『イノベーターのジレンマ』を著した。技術進化のサイクルが早いから、経営戦略の成功不成功がすぐに分かるからである。人間が有限な時間の中で、何物かを本気で観察しようと思ったら、かならず自分よりも短命なものを選ばなければならない。

○競走馬もそうである。3歳でデビューし、4歳で古馬と呼ばれる。そして数年間を競走馬として過ごし、成功を収めたごく一握りだけが繁殖馬となる。そして競馬ファンは、サラブレッドの血統やら配合やらを材料に、ああでもない、こうでもないと論じて時間を潰す。そして競走馬の中に人生を発見する。それもこれも、人間の方が馬より長命であるからだ。幸いなるかな。

○何が言いたいのかというと、今日の天皇賞(春)のことである。私も半世紀ほど生きてきたから、「天才の誕生と挫折」の例をいくつも知っている。オルフェーヴルの三冠馬達成、有馬記念勝利、そして阪神大賞典から今日のレースまで、つぶさに見てきた。だってファンなんだもの。今日の勝負は、負けるべくしての負けであろう。復活があるかどうかは知らないが、とにかく今日は挫折の章であった。

○競馬専門紙はこぞって書いていた。「オルフェの敵はオルフェ自身」であると。でも、それがどんなに大変なことなのか、本気で自分に勝とうとしたことのない者には永遠に理解できないのであろう。なぜならそれは、周囲にしかるべきライバルが存在せず、なおかつ頂点を目指す者にしか体験できない辛さであるからだ。そして筆者を含めてほとんどの人間は、そんな辛さを知らずに生涯を終えるのである。

○そういえば、こんな言葉がありましたな。「人生こそが競馬の比喩なのだ」(@寺山修司)


<4月30日>(月)

○オバゼキ先生が競馬の血統について、長編のエントリーを書いている。おそらく昨日のレースの余波が残っているのであろう。当方もオルフェーヴルのまさかの不振に、内心引き摺るものがあるので、もう少しだけ書いておきたい。

○期待の有望株に対して、周囲が寄ってたかって介入して、せっかくの芽を潰してしまうというのは、この世の中ではよくあることである。ここでふと、遠い昔に読んだヘルマン・ヘッセの『車輪の下』なんぞを思い出したりするのであるが、「周囲の期待」というのは善男善女のピュアな想いが根底にあるので、受ける側としては対応が難しい。「応援よろしくお願いしま〜す!」などと、ニコニコしているのが良策であるが、早咲きの才能というものは得てしてその辺が上手くない。かくして若きハンスは疲弊してしまい、ついには押しつぶされてしまうのである。

○若き天才の周囲には、だいたいが碌でもない連中が集まってくる。オルフェーヴルに対して、凱旋門賞へ行け、折り合いをつけろ、メンコをつけてみろ、なるべく後ろから行け、などと要らぬお節介を焼く。天才でなければ、そんな面倒とは無縁で居られるのだが、天才は往々にして周囲にとってのメシの種となる。ゆえに一山当ててやろう的な人も集まってくるので、ついつい玉石混交となる。

○これが人間であれば、付き合う相手を選ぶことができる。天才が天才として生涯をまっとうするためには、そこの部分が一番大事ではないかと思う。功なり名遂げた人は、晩年になって皆同じように、「周囲の皆さんのお陰です」と言う。それは当人が周囲を取捨選択した結果であると考えるべきだろう。

○気の毒なことに、競走馬は厩舎や騎手を選べない。これでオルフェーヴルがやる気をなくし、4歳以降は駄馬で終わるというのも、満更あり得ない話ではないだろう。苦節何年、丈夫で長持ち、大器晩成タイプであった父、ステイゴールドの真逆になってしまうけれども。

○ただし天才というものは、ピンチになってから真価が発揮されることも少なくない。ファンとしては、もちろんそっちを期待したい。願わくば再び、オルフェーブルのたてがみが金色に光り輝く瞬間を見てみたい。ついでもって言えば、池添騎手の破顔一笑の勝利インタビューも。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki