<1月2日>(土)
○明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
○この年末年始は越後湯沢で過ごしておりました。テレビ見たり温泉入ったりという優雅な正月を目指したところ、この二日間というもの、雪がひっきなりなしに降り続けで、窓の外の景色は唖然とするほどでありました。一晩ごとに1メートルくらい積もっていたんじゃないかなあ。ワシもいちおう富山出身なので、多少の積雪には慣れているつもりなのですが、直江兼続殿の生地にはまーったくかなわないのであります。
○そんな中でも、スキー客は多かったです。よくまあ、あんな状態でやってられるなあ、と暖かい部屋の中から感心してました。都会にいると、もう誰もスキーをやらなくなったのか、などと勘違いをしてしまいますが、ちゃんと固定ファンがいるのであります。昔やった者としては、ちょっとうらやましい感じでした。
○もうひとつ感心したのは、あれだけの積雪の中でちゃんとクルマが動いていること。日本製のクルマは、あんなドカ雪の中でも問題なく動くようにできているのですね。この信頼度はスゴイと思います。最近は、これからはハイブリッド車だ、電気自動車だという声が多いですが、降雪地帯ではやはりガソリン車ということになるのでしょう。
○国境の長いトンネルを抜けると、雪国であった。夜の底が白くなった、と言えば、誰でも知っている川端康成『雪国』の冒頭であります。この季節はまさにその通りで、群馬県から新潟県に入った瞬間に景色が変わります。トンネルを逆に抜けると、雪の世界から関東の青空に突入します。同じ日本で、なぜこんなに違うのか。田中角栄の原風景を見た思いがしました。
○ところでワシは『雪国』をキチンと読んでいない。たしか妻子と財産がある薄情な男が、田舎の純真な芸者さんをもてあそぶというケシカラン物語であったのではなかったかと思う。まあ、所詮は古い時代の話であるし、そんなことを言い出したら大半の日本文学は成立しないので、これを機会に謙虚に読み返してみるといいかもしれない。ワシも今年で50代になるので、若いときとは少しは違う感慨を得るかもしれないので。
<1月3日>(日)
○ということで、『雪国』を通して読んでみた。なんなんだこの世界は。はっきりしない男と健気な女、それに割って入るミステリアスな女。といって、三角関係というほどのこともなく、ほとんど事件らしい事件もなく物語は推移する。最後の火事のシーンはさすがに美しい。そしてフランス映画のように唐突に終わる。
○西洋式のストーリーテリングやキャラクター作りに慣れ親しんだ頭には、一瞬理解不能に思える筋立て。とはいうものの、このグダグダ感こそが男と女の本質。この平板な単調さこそが日本文学の神髄。三つ葉を浮かべた上品なおすましといった味わいである。思えばこの国は、平安朝の昔からこういう美意識を変に研ぎ澄ましてきたのであります。ま、これがノーベル文学賞に値したかどうかは、まことに微妙なところなのでありますが。
○お正月の阿呆なテレビを散々見てしまった後では、こういう読書も悪くないです。新潮文庫で買うと何と今どき税込み380円。デフレじゃないよ、定価だよ。さあ、明日から仕事だ。
<1月4日>(月)
○初出社。いろいろご挨拶してみると、なるほどどこへ行っても明るい話は少ない。笑ってしまったのは、企業経営者の間でこんな会話がやりとりされているのだそうだ。
「そんなに怖れることはない。どんな不況だって、3年は続かないじゃないか」
「でも、今の政権は10年続くかもしれない」
○言われてみれば、景気の「二番底」なんて企業にとってそんなに怖くはないのである。今までにくぐり抜けてきた危機に比べれば、この先の景気の腰折れくらいどうってことはない。「GDPのマイナス二桁成長」みたいなことは、さすがに二度はないだろうし。
○不況で会社がおかしくなるのはガマンできるし、手の打ちようもある。が、わけの分からん政治家のお陰で会社がつぶれるとしたら、そもそも浮かばれないではないか。
○今の政権がもうちょっと学習して賢くなるか、どこかで連立の組み換えが行なわれて中道化するか、あるいは経済政策はもうあきらめるとして、せめて外交だけでもしっかりしてくれるか。それもダメなら、やっぱり暗くなりますわなあ。
<1月5日>(火)
○この本はちょっと宣伝する値打ちがありそうですね。
青木高夫「ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか?」(ディスカヴァー携書)。
○上手なタイトルなので、すぐにピンと来る人が多いと思います。つまり、あれだ。「スポーツでもF1でも、日本が強くなるとルールを変えられてしまうのは、なぜなんだ?」という、多くの日本人が抱く不満についてです。
○「国際ルール変更の裏側にジャパン・バッシングあり」、という意見は俗耳に入りやすいものです。が、実はルールというものに対する見解の差異が原因であったり、単なる思い過ごしであることが少なくありません。さらに最近は、「だったら、日本ももっとルール作りに参画せよ」という声も聞くようになりました。では、本当のところどうなのか。本書は、非常に妥当な線で論陣を張っていると思います。
○著者の青木さんは本田技研工業で国際畑を歩んできた人で、何度か国際会議でご一緒したことがあります。日本企業のことを外国語で説明する、というのはまことにシンドイ仕事ですから、こういう人の経験談はとにかく黙って聞いてみる値打ちがあると思いますよ。
<1月6日>(水)
○愛知県の知多市商工会のお招きで、新春経済講演会の講師を務める。名古屋からセントレア行きの名鉄電車に乗って約30分。知多半島の北西部に位置し、発電所や製油所が立ち並ぶ工業地帯である。愛知用水があるために農業も盛んなのだそうだ。
○当地を訪れるのは初めて。聴衆は、地元の経営者の方80人ほどであり、もちろん知り合いなど一人も居ないはず、と思って見渡したら、見覚えのある顔がこちらを向いてニヤリ。あれ?アイツ、何でこんなところにいるんだろう。「当面の内外情勢と日本経済の行方」というお話をしながら、しばし考えてハタと思い当たった。
○そうなのだ。ここは前衆議院議員、伊藤忠彦氏の選挙区だったのだ。たまたま彼が電通に居た頃から知っているのだけれども、県議を経て2005年に衆議院議員に初当選。小泉チルドレンの一人であったのだが、昨年の総選挙で一敗地にまみれた。というか、愛知県で生き残った自民党議員は大村秀章氏だけだそうなので、他は推して知るべしという感じである。
○講演が終わってから伊藤氏と握手。あいにく電車の時間が迫っていたので、慌しくその場を去ることとなりましたが、また今度、ゆっくりと。
○愛知県はもともと民主党が強い。鳩山政権でも、直嶋経済産業大臣、古川内閣府副大臣、大塚金融副大臣などの経済政策のキーマンを輩出している。だから地元経済界では、ある種の「オーナーシップ感覚」があるのだけれども、「それにしても、もうちょっと何とかならんのか」的な思いが強まっているようだ。
○今日は藤井財務大臣が辞意表明。普通、医者がダメだといっても「俺は元気だ」と言い張るのが政治家というものであろうに、これから予算審議という直前に財務大臣が、記者会見で「自分は病気だ」と言って辞めるのは、相当に奇妙な事態といえる。もちろん今回の予算編成の経緯を振り返ってみれば、藤井氏が「やってられねえ」と思うのも無理はない。
○ここでふと思い出すのは、2007年10月7日の「サンプロ」が取り上げた「自由党の政党助成金問題」である。自由党は、2003年に民主党に合流した際、政党助成金を含む13億円を政治団体に寄付している。本来であれば、国に返還しなければならないカネであり、藤井氏は当時の自由党幹事長で、資金管理責任者だった。そのことを予算委員会で追及されるのを怖れてのことだとしたら、東京地検の小沢包囲網はかなり本気だということになる。
○でも、それって何の法律で裁くのかが分からない。そもそも政党助成金を含む政治改革四法案は、1994年に細川政権が作ったもの。要は小沢さんが自分で作ったようなものだから、それに関する「裏技」は百も承知のはず。この勝負、どうなるんだろう。いずれにせよ、年明けしてから一気に政治の流れが加速している感があります。
<1月7日>(木)
○2010年が始まってちょうど1週間。個人的にはもうヘトヘトな感じなんですが、しょーもない話を一点。
「なぜ三遊亭楽太郎は”腹黒”と呼ばれるようになったのか」
○たまたま正月に泊まったNASPAニューオータニに来ていた落語家(三遊亭一門の真打ち)が、「ウチの師匠の楽太郎はホントに腹黒で」というネタで受けを拾っていたので、ついつい気になりまして。で、ウィキペディアで調べたら、ちゃんと答えが書いてあった。さすがです。
三遊亭楽太郎 *「大喜利(笑点)」の項目から
他のメンバーはもちろん司会者に対しても暴言を吐く腹黒イメージを確立している。歌丸との対決の構図は歌丸が司会者に就任してからさらにエスカレートしており、両隣の昇太・たい平を「ブラック団(当初はヤングチーム)」として巻き込んでいる。たい平は楽太郎のペースに乗ってくるが、昇太の方は乗り気ではない。
加入当初のキャラクターは三波に媚を振る風見鶏役だったが、それに対して歌丸が「腹黒」・「腰巾着」などと楽太郎を罵ったことで腹黒のイメージを定着させた。小圓遊の死去後は、言われっ放しだった楽太郎が歌丸罵倒ネタにシフトしたことにより罵倒合戦へと発展した(これはネタに困っていた楽太郎に歌丸本人が「俺のことでもいいから」とアドバイスしたためである)。
歌丸に関しては、当初は禿ネタが中心で、2000年代以降は死去ネタ等へシフトしていたが(他には、歌丸の恐妻・冨士子夫人ネタがある)、歌丸司会就任後からはジジイネタや入院ネタ等とレパートリーが増えている。なお、1996年からは、アナウンサー大喜利で司会を務めることがあり、勝利チームの商品として、歌丸罵倒ネタに関わる商品を出すこともある。「座布団が一枚も無い事だから罵倒ネタを連発しても没収されない」というパターンもある。
5代目圓楽に関しての罵倒ネタをすると、歌丸が「(この事を)後で圓楽さんに電話しておくから」などと付け加えたりする。
他のメンバーより時事ネタを多用し、知的な話(政治、経済、社会)を長々と言う持ちネタもある。挨拶では次のこん平が「私にはそういう難しいことはよくわかりませんが」と返すのも定番であった。他のメンバーが答えに詰まったとき、問題の締めとして最近の社会問題ネタを話し、座布団を貰うことも多い。ただし、「脱北ネタ」は獲得出来る場合と没収される場合とがある。
2010年より6代目圓楽を襲名することから、「馬圓楽」(5代目)・「黒圓楽」(楽太郎)・「白圓楽」(好楽)が定番ネタのひとつになっている。また、他にも歌丸が楽太郎を指名する際、「悪太郎」といい間違えたことから(本当に間違えたのか、わざとかは不明)、「三遊亭圓楽よりも、三遊亭悪太郎のほうがいいんじゃねぇか?」と発言している。更に、歌丸罵倒の際には「山田君、悪太郎のを全部持っていきなさい!」と使ったりすることもあった。また、「襲名後に圓生を継いで圓楽を捨てる」、「楽太郎の名前を好楽に襲名させる」というネタもある。
6代目襲名が明らかになる以前から、圓楽襲名を狙っている、圓楽襲名に備えてサインの練習をしている、好楽と襲名争いをしているなど、5代目圓楽が笑点の司会者だったころから「6代目圓楽襲名」をネタとしていたが、現実に6代目圓楽を襲名することになったことから、ネタの方向性が変化したため、現在の形となっている。
現メンバーの中ではこれまで、自身の家族のネタをされたことは皆無に近い。
○いやー、深いですねえ。全体の記述の量が半端ではない。さすがは人気番組、微に入り細にわたる解説には頭が下がります。勉強になりました。
○ウィキペディアは本当にすごいです。先日も戦国大名に関する記述を読んでいて、昨年のNHK大河ドラマ『天地人』の主人公である直江兼続の項目のノート欄で、「上杉景勝と男色関係であったかどうか」に関する熾烈な論争があるのを発見しました。どうやら特殊なご関係の方が、深い思い入れで書いていると思しき論を、歴史研究者が真っ向から否定していく過程がまことに面白い。絶好の暇つぶしと申せましょう。
<1月9日>(土)
○昨日、発表された米国の12月雇用統計は、非農業部門雇用者増減数が▲8.5万人、失業率が10.0%(変動ナシ)でした。このところ米国経済について強いデータが続いていたので、ひそかに「そろそろ雇用者数がプラスになったりして」などと考えておりましたので、これはちょっと意外感がありました。早速、市場ではドル売りの材料になったようですね。
○雇用統計は、おそらく数ある経済指標の中でももっともインパクトが強いもののひとつでしょう。データが公表される瞬間に、為替や株価が大きく動くことがめずらしくありません。今回の発表では過去に遡っての修正も行なわれて、11月分がプラス4000人となりました。実に2007年12月以来のプラスとなります。これをもって、「やはり趨勢的には改善している」と結論することもできるし、「まだまだ先行きは楽観できない」ともいえる。
○とにかくこのデータは扱いにくいので、「今度の雇用統計はどう見てますか?」などと聞かれると困ります。しょうがないから、「ポジティブサプライズとネガティブサプライズの両方があり得ます」などというズルイ答え方をしますけど。逆に言えば、この数値が読みにくいからこそ、毎回大きなインパクトがあるのではないかと思います。
○たまたま今日、米労働省の公表データをしげしげと眺めていて、ふと当たり前のことに気がつきました。アメリカのNonfarm
Employmentというのは、1億3000万人もいるのである。だったら1万人なんて単位は、誤差の範囲内ではないか。季節調整のやり方次第で、どうとでも変わり得る。あんまり一喜一憂するようなデータではないんじゃないか。
○喩えていえば、競馬の世界における「馬体重」みたいなものではないか。ご存じない方のために申し上げますと、出走の2時間くらい前になると、各馬が前回のレースに比べて何キロ増、何キロ減というデータが発表されます。お馬さんが秋に痩せたり、春に急に太ったりするのは危険な兆候なので、これは競馬ファンにとっては重要な判断材料です。
○しかしながら、そもそもお馬さんは500キロ前後の重さである。5キロ以内の増減は、あまり気にするようなことではないはずです。人間の身体だって、短い期間で1キロくらいは普通に変わるでしょ。実際、日本以外の国では馬体重は発表していないようですし。
○いつだって、データは少ないよりも多い方がいい。でも情報が多過ぎると、かえって先が読みにくくなる。大騒ぎされるような情報は、意外とたいした意味はないのかもしれない。ご用心。
<1月10日>(日)
○今日は柏市の消防出初式に行ってまいりました。もう何年も町会の防犯部長を務めておりますが、出るのは今年が初めて。場所は市立松葉中学校。自転車をこいで30分。遠いのでやや消耗。グラウンドの入り口で署名し、ウーロン茶1本を受け取って、所定の席へ。なんだか運動会みたいだけど、来賓席には地元選出の国会議員、県会議員、市会議員、警察署長などのお歴々が並んでいる。
○午前9時半の開会宣言とともに、7階建てくらいの高さのハシゴ車から人が降りてきて、同時に「みんなで築こう災害のない街ふるさと柏」という垂れ幕が下りてくる。おお、やるではないか。ちなみに式次第はこんな感じである。
1.開会
2.消防隊入場
3.人員報告
4.国旗掲揚
5.消防殉職者に対する黙祷
6.市長式辞
7.消防団長訓示
8.表彰
9.来賓祝辞
10.受賞者謝辞
11.消防隊退場
12.演技
(1)梯子乗り演技
(2)小隊訓練演技
(3)柏市立柏高等学校吹奏楽部演奏
(4)柏さくら幼稚園演技
(5)消防躁法演技
13.閉会
○「出初式」といえば、江戸の町火消しの格好をした人たちが行なう梯子乗り演技を思い浮かべると思います。でもこの会は、柏市消防局にとって「年に一度の晴れ舞台」なのですね。つまり行進に表彰、訓練など、きびきびした消防団員の姿を、柏市民の前で見てもらう。そうやって信頼醸成をするとともに、団員の士気を高揚する。梯子乗りはそのためのアトラクションなのですね。
○ちなみに今日の梯子乗り演技を演じたのは、柏若鳶会の皆さん。三間三尺の青竹に14段の梯子桟を取り付け、12本の鳶口で支える。新人からベテランまで、入れ替わり立ち代り登って演技をするのだが、それぞれの技に「肝つぶし」「吹流し」「下り富士」「腹亀」「膝八双」などの名前がついている。なんだか相撲の決まり手みたいで、つくづく江戸時代の日本は奇妙なことに熱中していたものである。
○が、趣味や酔狂でやっていたわけではない。江戸の町火消したちは、半鐘が鳴ると出動したのだが、当時のことゆえにどこで火事が起きているかがすぐには分からない。そのために梯子を立てて、人が登って火事の方向を見定める必要があったのだそうだ。なるほどね。
○消防の仕事というのは、昔からプロフェッショナルとボランティアの両方が必要であるらしい。今の消防制度というのも、各市町村の傘下にプロである消防本部があり、民間人による消防団が置かれている。ウチの町会の防犯部というのも、その末端を担っているらしい。出初式に行って、ひとつ勉強になりました。
<1月11日>(月)
○宣伝でございます。明日、こんなパネルディスカッションに出ます。
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010010501000519.html
●12日に日米パネル討論 「同盟深化」の道筋探る
「日米同盟の深化」をどう実現するのか―。共同通信社と同社加盟社論説研究会、米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院(SAIS)ライシャワー東アジア研究所は、12日に都内で「新政権と明日の日米関係」をテーマにパネル討論会を開催する。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題などできしむ同盟関係。日米安保条約改定から半世紀を迎えた両国関係の、将来に向けた道筋を探る。
討論会では武正公一外務副大臣が「日米安保条約改定50周年を迎えて」と題し基調講演。長島昭久防衛政務官をはじめ、自民党国際局長の河野太郎衆院議員、双日総合研究所の吉崎達彦副所長に、米側からSAISのケント・カルダー東アジア研究所長、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・オースリン日本研究部長がパネリストとして意見を交わす。
米軍再編に関する日米合意を「見直しの方向で臨む」と公約した鳩山政権の発足後、日米関係は迷走。特に鳩山由紀夫首相が普天間移設問題の決着を先送りしたことに米政府は不信感を募らせており、今年は両国関係の在り方が根底から問われる年となる。(共同)
2010/01/05 16:21 【共同通信】
○そういえば、明日は日米外相会談だったりして。でも、今さら何を話せばいいのかねえ。
<1月12日>(火)
○ネット上で、こんなジョークが流れているそうです。
日本には謎の鳥がいる。その正体はよく分からない。
中国から見れば、その鳥は「カモ」に見える。
アメリカから見れば、その鳥は「チキン」に見える。
日本国内では、その鳥は「サギ」だと思われている。
でも鳥自身は、自分のことを「ハト」だと言い張っている。
○このジョーク、今日の日米パネルの冒頭でぶちかましてやろうと内心、企んでいたのですが、聴衆の中に各国大使館の関係者があまりにも多かったので、最終的にご遠慮いたしました。だってこれ、英語にできないもの。実は今日の同時通訳はお馴染みの長井鞠子さんだったので、長井さんがこのネタをどんな風に訳されるか、ちょっと試してみたくもあったのですが・・・・。
○今思いつきましたが、上記にこんな落ちを付け加える手もありますね。
個人的な意見だが、私はあの鳥は日本の「ガン」だと思う。
○うーん、ますます通訳泣かせのジョークですね、これは。
○でまあ、不肖かんべえは「日米関係に対する自民党ビューと民主党ビュー」だとか、「日本外交のA案とB案」みたいな話をしてきました(元ネタはこの辺をご参照)。パワーポイントの資料を使ったところ、終わった後に何人かの人から「あれは面白いから後で送ってくれ」と頼まれました。せっかくなので、ここで掲示しておきましょう。
●Japan-U.S.:New
Governments and New Relation
○さらには、「英語の論文はないのか」というお問い合わせもいただきました。そんな面倒なこと、どうか勘弁してください。アイデアへの権利を主張するつもりはありませんので、どうぞご自由にご利用ください。とりあえず経済同友会さんでは、「日本外交のC案」(Cool
Japan)を検討しているそうですけど。
<1月13日>(水)
○訃報が二件。
○一橋大学名誉教授、小島清先生が1月7日に胃潰瘍のため逝去。享年89歳。在学中に国際貿易論の授業を取りましたが、ほとんど出席はしませんでした。授業を選んだのは純粋に、先生が大甘の採点をされるという噂を聞きつけてのことでした。卒業後にたまたま総合商社業界に職を得て、たまたま調査部門に異動し、必要に迫られていろいろ学習するうちに、雁行形態理論を知って感心しました。こういうのも広い意味での学恩といってよろしいでしょうか。
○それから幾星霜。今や日本経済はエレクトロニクスで韓国の攻勢に遭い、半導体では台湾の助けを借り、電気自動車では中国に負けるかも知れず、まことに心もとない限り。しかるに小島先生は国際経済学における先頭の雁よろしく、他の群れを従えて悠々と飛翔されてゆかれました。合掌。
○千葉トヨペット株式会社社長、勝又基夫氏が昨年12月20日に逝去。トヨタ勝又グループの総帥、と言った方が通りがよいかもしれません。享年66歳。近親者のみにて密葬。来週、お別れの会が行なわれるとの案内あり。三原先生のご配慮により、何度かご同席させていただきました。
○オーナー社長というものは、無条件にカッコいいものだと思います。社業を傾かせるような人は論外ですが、うまく行っている経営者には自信もあるし、魅力もあるし、知恵もある。話を聞くと、シンプルだけどあっと驚くような思慮ぶかい、ユニークな見解を披露してくれる。よく働き、よく学び、よく遊び、人を育てる。勝又さんは、そんなカッコいい経営者の典型であったと思います。合掌。
○最後にちょっと明るい話題を。NY在住の金融ジャーナリストのお知りあいがブログを始めました。My Big Appleと言います。NYのナイトライフ関連の情報を特に希望しますぞ。
<1月14日>(木)
○ひろぎん経済研究所さんのお招きで福山市へ。あらためて確認してみると、2007年と2009年は広島市で、2008年と2010年は福山市で講演をさせていただいております。まことにありがたいことで、どんな商売でもそうですが、リピート・オーダーをいただくことこそが繁栄への道であります。
○で、2008年に当地に来た際には、福山城をじっくり見る機会に恵まれました。数ある日本のお城の中でも、これ以上、JRの駅に近い城はありますまい。ほとんど城の敷地内に駅があると言ってもいいくらいです。先週末の「龍馬伝」にチラッと出ていた老中・阿部正弘は、ここの城主でした。幕末には井伊直弼、小栗上野介など、実力者老中が輩出しますが、彼もまたその一人で、日米和親条約を締結した人です。(追記:小栗は老中になっておりません。親切な読者からご指摘がありました)
○で、今回は是非、仕事が終わったら「鞆の浦」に行ってやろう、と企んでおりました。そうしたら、なんと2年前にも聞きに着てくれた聴衆の方から、「鞆へご案内しましょうか」とのお申し出をいただきました。願ったり適ったり。ご厚意に甘えて、行ってまいりました。
○鞆の浦は、宮崎アニメ『崖の上のポニョ』で一躍勇名を馳せた町であります。宮崎駿氏は、社員旅行で訪れたこの地が気に入って、一軒家を借りて2ヶ月逗留し、あの世界観を生み出したとのこと。確かに歩いてみると、現地の風景は「まんまポニョ」であります。主人公のお母さんが、古い建物が並ぶ路地を軽自動車で疾走するシーン、商船高校の練習船が島の間を縫って航行するシーンなど、いくつも思い出します。
○鞆の浦はとにかく歴史が古い町です。古くは万葉集に詠われ、瀬戸内海を通る船がここで泊まり、交通の要所でありました。なぜそうなったのかというと、ウィキペディアが下記のように説明してくれている。
瀬戸内海の海流は満潮時に豊後水道や紀伊水道から瀬戸内海に流れ込み瀬戸内海のほぼ中央に位置する鞆の浦沖でぶつかり、逆に干潮時には鞆の浦沖を境にして東西に分かれて流れ出してゆく。つまり鞆の浦を境にして潮の流れが逆転する。「地乗り」と呼ばれる陸地を目印とした沿岸航海が主流の時代に、沼隈半島沖の瀬戸内海を横断するには鞆の浦で潮流が変わるのを待たなければならなかった。このような地理的条件から大伴旅人などによる万葉集に詠まれるように、古代より潮待ちの港と知られていた。また、鞆は魏志倭人伝に書かれる「投馬国」の推定地のひとつともなっている。
○要は近畿と九州をつなぐ瀬戸内海ルートの中間地点だったわけです。それだけに、歴史上の人物が多くこの地を通過した。瀬戸内海の絶景を見て感銘を受けた人もいれば、希望と失望を胸に抱いて通過した人もいた。
○面白いのが室町時代の足利氏のケースです。初代・足利尊氏は戦いに勝って京に上る途中、この地で光厳天皇から新田義貞追討の院宣を賜った。つまりこの地から飛躍して天下を取った。そして15代将軍・足利義昭は織田信長により京を追放された後、毛利氏などの支援のもと鞆に拠点を移し、信長打倒の機会を窺った。ゆえに幕末の歴史家頼山陽は、「足利(室町幕府)は鞆で興り鞆で滅びた」と喩えたのだそうです。
○時代を下ると、ここはまた坂本龍馬の「いろは丸事件」の現場でもあります。海援隊の蒸気帆船「いろは丸」は、紀州藩の明光丸に衝突されて沈没してしまう。この日本史上初の海難事件において、龍馬は万国公法を盾に取り、天下の大藩を相手に堂々の交渉を展開し、紀州藩から賠償金をせしめます。今ではなんと沈没した「いろは丸」は潜水調査もされており、「いろは丸展示館」も出来ております。
○ということで、龍馬もまたこの景色を見た歴史上の人物の一人なのでした。そんな思いで周囲を見渡すと、なんだか亀山社中跡の周辺に似ていなくもない。長崎のような坂はないけれども、狭い路地が続いている港町というところが、いかにも龍馬が似合いそうな景色である。そして「いろは丸事件」のわずか半年後に、龍馬は暗殺されてしまうのであります。
○さて、現代の鞆の浦を賑わせているのは、「架橋問題」であります。観光地としては興味の尽きない場所なのですが、江戸の面影を残しているだけに、今住んでいる人たちにとしてはなかなかに不便なところもあり、埋め立てを行なって橋を架け、交通渋滞を解消しようという動きがある。これに対する反対運動もあって、ちょうど広島県知事が替わったこともあり、なおも対立が続いているという。
○架橋問題の現場には、江戸時代から灯台の役割を果たしてきた常夜灯が建っている。が、その向こう側には、壁に墨痕と「生活権優先」と書かれている。大事なのは景観か、人々の暮らしか。何とも悩ましい。
○お土産に、「維新語録・龍馬めくり」を買ってきました。その1日目のセリフがカッコいい。「君は男ぶりがよいから女が惚れる。僕は男ぶりは悪いが、やっぱり女が惚れる」。まっこと、龍馬だね。一度でいいから、ワシもこんなことを言ってみたいぜよ。
<1月15日>(金)
○石川議員が逮捕だそうで。週明けになると通常国会が召集されるので、東京地検が本気であるなら今週末には動かねばならなかった。小沢氏に対する在宅起訴もあるかもしれません。それにしても早い。ホントに今年はまだ2週間しかたっていないんでしょうか。
○これに対する世論の反応が興味深いと思います。昨年夏の選挙結果があるので、有権者の間には現政権に対してある種の「オーナーシップ感覚」が生じている。つまり「選んだからには責任がある」「もう少し我慢をして様子を見なければ」ということ。これは民主主義としては望ましいことだと思います。
○その一方で、「自分たちが選んだのは鳩山政権であって、小沢幹事長ではない」「昨年末の天皇に対する発言はいただけない」などという思いもある。さて、明日はどっちなのか。
○昨日の講演では、「海外経済と日本経済と国内政治。実は国内政治以外の不透明性は、それほど高くはないんじゃないですか」と話してみました。先が見えない2010年の年頭ですが、やはり政治の行方が五里霧中です。
<1月17日>(日)
○またまた大相撲見物に行ってきました。ああいうのは、癖になりますなあ。帰り道、やはりご家族で来ていた新聞記者のAさんとバッタリ会いましたが、互いに顔を見合わせて、「面白いものですねえ」。
○本日は中日。一敗力士が9人も揃って、これは盛り上がります。把瑠都と日馬富士は一敗同士の取り組み。苦しい構えでしたが、把瑠都の右手が日馬富士のまわしに届いた瞬間、場内は歓声に包まれました。後は堂々の寄り。昨日、初めての金星をゲットした把瑠都、何か掴んだのかもしれません。
○白眉は、稀勢の里対白鵬の一番でしたな。いったんは上手を取って土俵際まで詰め寄った稀勢の里でしたが、案の定、そこからが白鵬の強さ。急がずに押し返していきました。稀勢の里、優勢を築いてからの詰めが課題です。
○最後は朝青龍対垣添。とにかく勝負に辛い朝青龍。最後の押し出しの一撃には何の遠慮もありません。白鵬が相撲の中身にこだわる「相撲の鬼」なら、朝青龍は「勝負の鬼」。こういうライバル関係は長持ちするものです。この二人を脅かす力士は、なかなか出てこないかもしれませんね。
○両横綱にかかった懸賞は大変な数でした。膨大な数の垂れ幕が土俵に上がり、すべての宣伝文句が連呼される。この迫力は、テレビで見ていては伝わりませんぞ。
●稀勢の里―白鵬
味ひとすじお茶づけ海苔の永谷園、さけ茶づけの永谷園、梅干茶づけの永谷園、たらこ茶づけの永谷園、
大相撲を応援しますタマホーム、いえづくりまちづくりタマホーム、味の決め手は伯方の塩、
ハローキティ相撲コラボ展開中、技と心の新日鉄エンジニアリング、自然の恵みをお届けする つぼ八
おいしさできたてのマクドナルド、二十四時間・マクドナルド、100%ビーフ・マクドナルド、
ビッグマック・マクドナルド、100%ビーフ・マクドナルド、便秘にイチジク浣腸、羽田空港へ便利な京急の電車バス、
羽田空港へ行きも帰りも京急電車、ボイラの総合メーカー
IHI、ボイラの総合名ーカー IHI、
介護のめいとケア、しじみエキス肝助のしじみちゃん本舗、いつもまじめな関彰商事、
食前一杯 永源寺桑の里の糖煎坊、健康一杯
永源寺桑の里の糖煎坊、流し台はクリナップ、
あったかお風呂はクリナップ、洗面化粧台はクリナップ、レストラン厨房はクリナップ、リフォームするならクリナップ
●朝青龍―垣添
味ひとすじお茶づけ海苔の永谷園、さけ茶づけの永谷園、梅干茶づけの永谷園、医療機械のパワーヘルス、
発明特許のパワーヘルス、マイナスイオンのパワーヘルス、健康で長生きする為パワーヘルス、
医療機械のパワーヘルス、食べる前にのむ大正漢方胃腸薬、胃のもたれ痛みに大正漢方胃腸薬、
イエス!イエス!イエス!高須クリニック、イエス!イエス!イエス!高須クリニック、イエス!イエス!イエス!高須クリニック、
暮し爽快ルノンの空気を洗う壁紙、日本の和室を彩るルノンの襖紙、ごはんと共にカルシウム骨太家族、
おいしさできたてのマクドナルド、二十四時間・マクドナルド、100%ビーフ・マクドナルド、
ビッグマック・マクドナルド、100%ビーフ・マクドナルド、便秘にイチジク浣腸、便秘にイチジク浣腸、
栄養機能食品のナチュラリープラス、沖釣り専門紙・つり丸、夢を形に
金型製造企業のいわき、
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○スポンサーのちょっとした違いは、なぜ生じるのか。ちょっと聞いてみたい気がします。
<1月18日>(月)
○年が明けてから、中国に対する風当たりが急速に強くなってきた。当初は気のせいかと思っていたんだけど、グーグルの件が飛び出して、いよいよ決定的な流れになってきたと思う。Financial
Timesのこの記事が面白い。
●Google is not alone in calling China's bluff 中国政府に挑むグーグルは例外にあらず(1月14日付)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2562 (ご安心ください、邦訳されてます)
○記事によれば、@グーグルの反乱のみならず、A鉄鉱石価格交渉が中国の頭越しに行なわれていること、B米国が台湾への武器輸出を決めたこと、という中国叩き3点セットがあるという。考えてみれば、昨年の中国は図に乗ってやり過ぎた感があり、特にコペンハーゲンのCOP15での態度は顰蹙ものだった。しかるに、「支援が必要な途上国の顔と、敬意を払うことを他国に求める新興大国の顔とを使い分けることは、ますます難しくなってきている」という。
○これまで「中国さまさま」ということで、何を言われても下手に出ていた先進国側、特に米国が、だんだんキレそうになってきた。今年は中間選挙もあるしね。一時は「G2」だとか「米中蜜月」などと言われておりましたが、政治の世界はやはり"Never say never."が鉄則です。
○その米国は、明日はマサチューセッツ州の上院補欠選挙が予定されている。なにせリベラルな州であるし、テッド・ケネディの後釜選挙であるから、民主党候補のMartha
Coakleyが悠々セーフと思われていた。ところが直前の世論調査によれば、共和党のScott
Brownが意外に善戦している。おなじみCook Political Reportは、この土壇場に来て見通しを"Lean
Democrat"(民主党やや有利)から"Toss
up"(形勢不明)に変更した。これは天下の一大事となる。
○というのも、民主党がこの1議席を失うと、上院の60議席の壁が崩れてしまう。つまり、あとわずかまでこぎつけた医療保険改革法案が、これで流産してしまうかもしれないのだ。民主党は「医療保険改革を守るために投票を」と呼びかけ、共和党は「あんな法案をつぶすために投票を」と呼びかけている。補欠選挙は投票率が低いので、ひょっとするとひょっとしてしまうかもしれない。
○もちろん、選挙に負けたところで民主党側にはいろんな手段が残されている。選挙の無効を訴えてとことん粘る(その間に法案を通してしまう)とか、新しい上院議員の就任を民主党の知事が認めないとか。要は泥仕合入りの可能性がでてきた。最後の手段は、昨年12月24日に上院が通した案を、下院が丸呑みして通してしまうというウルトラCがある。その場合は、上下院の調整が不要になりますからな。
○日本の政局もヒドイもんですが、アメリカもなかなかです。あらためて心に刻みましょう。"Never say never."
<1月19日>(火)
○日米安保条約の締結から50周年。ああ、そうか、ワシは今年の誕生日で50歳になるのか。と考えるとちょっと欝である。ひょっとすると、畏れ多くも皇太子殿下も同様であろうか。
○最近、アメリカの知日派の間で囁かれているのは、「鳩山は普天間の問題を5月になったら決めるといっている。どういうマジックで、5月になると決められるんだ?」である。そりゃ仰るとおり。今決められない問題が、5月になると展望が開けるというのはどういう理由なのか。日本人でも分からない。やはり宇宙人なのか。
○善意に解釈すれば、6月には日米安保条約の発効から50周年になるので、そのときまでにはということなのかもしれない。あるいは6月にはカナダでG8サミットとG20があるので、そこで行なわれるであろう日米首脳会談に間に合わせる腹なのか。しかるに5月になると、「どうせだから参院選の後にしよう」となりそうな気がする。
○さらに言えば、小沢幹事長が機能不全になった状態で、民主党は普天間問題を決断できるのだろうか。というより、今みたいに内閣支持率が落ちていく状態では、鳩山政権に大きな決断は何も出来ないだろう。
○とりあえず今国会は、二次補正だけはサッサと成立させて、後は審議が空転するのを生ぬるく見守るのが吉ではあるまいか。JALだってとうとう倒産させちゃったし(そのくせ労組には手をつけないし)、この政権には下手に仕事をさせない方がいいのかもしれぬ。
<1月20日>(水)
○日経BP社さんの講演会で名古屋へ。なんだか、しょっちゅう愛知県に来ているみたいだが、今月は2度目だし(知多市)、去年は3回来ているし(全部名古屋)、2008年も3回(名古屋市、豊田市、西尾市)、本当に多い。よほど相性がいいらしい。
○考えてみれば、自分が講演のたびに言ってることは似たような内容で、@日本経済は貿易立国です、A大事なことはコツコツものづくり、B日米関係は重要です、という繰り返しである。こういうメッセージが受けるのが愛知県の経営者なのだと考えれば、なるほどそうなのかもしれない。
○講演会が終わって、タクシーに乗った瞬間に双日総研、多田社長からケータイに電話。「おーい、マサチューセッツ州、共和党が勝っちゃったよ」。あらららら。本当に"Never say never."になっちゃった。上院補欠選挙で生じた大波乱。日本でいうならば、岩手県で行なわれた補欠選挙で自民党が勝つようなものである。
○思えば今回の問題は、徹頭徹尾マサチューセッツ州が鍵を握っていた。テッド・ケネディ上院議員がキーマンで、彼が8月に死んだことで立法化に弾みがつき、でもその後継者を決めるためにごたつき、なおかつ補欠選挙で波乱が起きてしまった。ケネディ一門が半世紀以上にわたって支配してきた議席が、こともあろうに共和党に渡る。いくつもの伏線があって、民意に流れができ、傲慢さが報いを受けるという劇的な幕切れである。
○新幹線の車中で調べたら、なんと5ポイント差の勝利であった。これでは民意は明らかであって、ようやくまとまりかけた医療保険改革には重大な疑義ありということになった。野球の試合で言えば、8回裏に満塁ホームランが飛び出して、ゲームが振り出しに戻ったようなもの。まだ9回表の攻撃が残されているが、戦い方は難しい。オバマ政権としても、姑息な手段で逃げ切りを図るわけにはいかないだろう。共和党議員を切り崩して、超党派の合意を目指すことができればいいのだが。
○いずれにせよ、オバマ政権の発足1周年の日に訪れたとんでもない洗礼である。来週27日に予定されている一般教書演説では、いったい何を語ればいいのか。そして2年目のオバマは、どんな戦略で何を目指すべきなのか。そして11月2日の中間選挙はどうなるのか。
○夜は中央公論の座談会。お相手は松尾文夫さん、渡部恒雄さんで、二人ともアメリカから戻った直後。思わず話が盛り上がる。不謹慎なことを言うけれども、こういう瞬間があるから政治って面白い。
<1月22日>(金)
○昨日、今日で聞いたちょっといい話を備忘録として。
○某オーナー企業の御曹司が、親父の会社に入れてもらった当初の頃の話。名刺の肩書きは「研修生」だった。これでは誰も話を聞いてくれない。そこで「これでは経験を積むことにならないから、もうちょっと重みをつけてくれないか」と親父に頼んでみたが、即座に却下された。父曰く、「誰にも相手にされないことが、いい経験なんじゃないか」。
――「父の愛」にはいろんな形があるというお話。御曹司、今では立派に父の後を継いでおられます。不肖かんべえも二人の娘がおりますが、「いい父」であるためにどうしたらいいか、悩ましいことが多々あります。
○保守主義とは何か。保守の本質とは「謙虚」であることと、古くからあるものを大切にすること。近頃、「我こそは真正保守」などという輩が論壇誌で喧嘩をしていたりするが、そんなイデオロギー色が強い人は保守主義者のはずがない。
――みずからも謙虚な保守主義者でありたいと思いますが、だとしたら政治の世界における保守とは、あまり魅力的なものではありませんな。例えば、谷垣さんはとっても謙虚な人だと思いますが・・・・。
○オバマ外交というものは、理想主義の衣をまとった現実主義外交。やっていることはブッシュ政権とさほど変わらない。二つの政権は、実は連続性が強いのではないか。
――確かにブッシュ政権の最後の2年間は、はっきり現実路線でしたからね。ところで、ワシの目には麻生首相と鳩山首相も、その空気の読めなさにおいて類似性が強いように思えて仕方がないのですが。
<1月24日>(日)
○経団連の次期会長が住友化学ですか。そういう手がありましたか。この問題、「どうするんだろう」と心配しておりましたが、まあとにかくキレイに決まってよかった。
○経団連の会長を勤める会社というと、普通は新日鉄とか東京電力とか、「天下国家」を意識した会社が常連となる。が、どちらも「CO2削減」の問題があるので、今の政権ではほとんど引き受けられない。財界総本山として鳩山政権と連携できる会社、というと一気に条件が狭まってしまうのだ。
○今の政権にちゃんとコンタクトできるのは、財界広しといえどもパナソニックかトヨタ自動車しか見当たらない。要は官房長官と経済産業相の出身母体というわけ。でも、松下幸之助翁が受けなかったポストを後輩が受けるわけにはいかないだろうし、トヨタも来期の黒字がはっきり見えているわけではないので難しい。
○さらに有力候補の東芝には、「日商会頭との兼務」という問題があった。となると、他にはあまり持っていくところがない。三菱商事が先週くらいに早々と次期社長を発表したときには、「ウチに期待しないでくださいよ」という声が聞こえたような気がしましたな。NHKの大河ドラマに岩崎弥太郎が出てるんだから、いいんじゃないかと思いましたが。
○ということで、住友化学というチョイスになった。経団連はこれまで財閥系企業の会長起用を避けてきた歴史がある。でも、日経連と合併した時点でその辺のことは変わったと考えていいのではないかと思う。日経連には三菱マテリアルなどの財閥系企業の会長が出ているし。要は時代は変わったということです。
○なにしろ政権交代が今まであまりなかったものだから、「財界よりも労組に近い政権」というものに経済界全体が戸惑っている。(ちなみに細川政権は、当時の経済4団体との関係が深かった)。「財界総本山」としてはやりにくい時期だと思いますが、頑張ってほしいです。
<1月25日>(月)
○このたび、国際大学の信田先生が「アメリカの外交政策」(ミネルヴァ書房)という教科書を編纂したので、先日、国際文化会館で公開セミナーがあったのですね。執筆者各位から、いろいろな話を伺って、たいへん勉強になったのですが、とくに感心したことを記録しておきます。
○2月になると(遅れるかもしれないけど)、国防総省は「QDR」を発表する予定だそうです。日本で言えば中期防衛計画みたいなもので、ペンタゴンが今、どんなことを考えているかがこの資料の中に詰まっている。前回、2006年2月に発表されたQDRは、「対中強硬姿勢」が話題になったものです。それからもう4年。で、今度の2010年版QDRには画期的なことがあるらしい。
○それは、この仕事に携わっている責任者が、「次官」〜「次官補」〜「次官補代理」〜「担当」までの4人全員が女性であるとのこと。惑星直列のようにめずらしい現象だと思いますが、とにかくペンタゴンが男社会だと考えたら大間違いということになる。実は防衛計画を策定するのはきわめてConceptualな仕事なので、女性に向いているのかもしれません。
○そういえばアメリカでは、国務長官も過去4代のうち3人が女性である。歴代の国務長官で白人男性を探すと、ウォーレン・クリストファー(1993〜1996)まで遡る必要がある。それからマデリーン・オルブライト(1997〜2000)、コリン・パウエル(2001〜2004)、コンドリーザ・ライス(2005〜2008)、ヒラリー・クリントン(2009〜)と続いている。
○こういう話をしていると、「アメリカってつくづくすごいねえ」という話になるのですが、ところでちょい待て、これだけ男女平等になっているアメリカ社会において、ほとんど唯一、聖域のように残されている男社会があるのではないか。・・・・それはなんと、金融界だと思うのですね。
○アメリカの財務長官は、未だに白人男性以外が誕生したことがない。中央銀行総裁も同様。ウォール街だって、並み居るトップのほとんどは男性であります。HPとか、ペプシコとか、製造業では女性のトップが誕生しているのですが、金融界はなんでそんなことになるんでしょう。
○こう言うと語弊がありますが、その理由は「男の方が本質的にギャンブラーだから」かもしれません。ここはひとつ本件について、ぐっちーさんや、小幡先生の意見を聞いてみたいですな。
○さて、オバマ大統領は突如として金融規制を提唱し、「強欲と戦う」とまで言い出した。もちろん、ウォール街は天地がひっくり返ったような大騒ぎ。株価も大いに動揺しておりますが、いっそのこと「金融界のトップを強制的に女性に替えてみる」というアイデアはいかがでしょう。
<1月26日>(火)
○以前に紹介した鳥のジョーク、その後、ますます進化を遂げているようです。面白いものですねえ。
日本には謎の鳥がいる。その正体はよく分からない。
中国から見れば、その鳥は「カモ」に見える。
アメリカから見れば、その鳥は「チキン」に見える。
ヨーロッパから見れば、その鳥は「アホウドリ」に見える。
日本国内では、その鳥は「サギ」だと思われている。
でも鳥自身は、自分のことを「ハト」だと言い張っている。
誰かが、あの鳥は「ガン」かもしれないと言った。
でも私は「ガン」ではなく、金色に着飾った「カナリヤ」だと思っている。
・・・暗いトンネルの中、カナリヤの後をついて行く者たちの命運や如何に!!
<1月27日>(水)
●つぶやきその1:
○週末に自民党大会が行なわれて、来賓の野村監督から「負けに不思議の負けナシ」という講演があった話は聞いてましたが、新綱領が決まったというのは、ご存じない方が多いんじゃないでしょうか。
○これも党再生を目指すひとつの試みなんでしょうが、個人的には「小さな政府とプロビジネス政治」を盛り込んでいただきたかったです。それから、『月刊 自由民主』を休刊にしてしまったのも惜しまれますね。情報発信のための紙媒体は、是非残しておいた方がいいと思うのですが。
●つぶやきその2:
○ハイチ支援のために、"We are the world"がリメイクされる、というニュースが流れている。PKOの派遣も結構だが、そういうのも良いではないか、と思う。きっとマイケル・ジャクソンも草葉の陰で応援してくれると思う。
○変な話だが、マイケルが死ななかったら、そういう話は出なかったかもしれない。彼が死んで、"This
is it."などが出回って、「なーんだ、彼ってアーチストとして一流だったんじゃないか」という当たり前のことに皆が気がついて、評価が急上昇したのであろう。近年は、もっぱら奇行ばかりが有名でありましたからね。
○そういう意味では、最近の貴乃花も同様でありますな。勝ち目もないのに協会の理事に立候補するとか、変な話ばかりが出回ってますけど、現役時代の彼は掛け値なしの「相撲の鬼」でありました。皆もう、忘れてると思うけど、彼の土俵入りはまことに立派でありましたよ。
●つぶやきその3:
○カツマーいわく「努力すれば幸せになります」vs.カヤマいわく「努力して幸せになれますか?」
○なんという不毛な議論でありましょうか。幸せとは、努力する日々の中にこそある。努力しない人生とは、あがりを目指さない麻雀みたいなものです。ただ牌をツモって切るだけでは、ちっとも面白くないじゃありませんか。あがれる、あがれないは時の運。あがれなかったときのために、あらかじめ予防線を張るような若者には、どうかならないでください。
<1月28日>(木)
○オバマ大統領の一般教書演説。とっても長かった。1時間15分はあったんじゃないだろうか。会社でC-SPANのサイトで聞いていたら、お昼休みに食い込んでしまった。NHK衛星第一の生放送も、12時までしか枠が取ってなかったけど、いったいどうしたんだろう。ここにも書いてある通り、一般教書は50分台というのが「吉例」です。
○ついでにオバマ大統領のネクタイについて。赤のネクタイはこれまた「吉例」ですが、今日のはストライプが入っていた点が少しめずらしい。通常は無地の赤、というのが大統領の「勝負ネクタイ」とされています。少しだけ変化を求めてきたのでありましょう。
○アドリブで笑いを取ったのも、今まではあまりなかった趣向でありましたな。途中、共和党側の拍手があまりに少ないので、「もうちょっと拍手があると思った」みたいなことを言っていました。発言を中断して「表情」で注目を集めるなど、オバマの雄弁術は進化を遂げています。
○本来であれば、内容についても詳しく分析すべきなんだろうけど、あまりその気にならんのです。聞いた人たちは、いい演説だったと言うでしょう。でも、それで物事が前進するわけではない。政権支持率もさほど変わらないだろう。共和党の議員を味方につけることも出来ない。
○オバマは負けパターンに入っていると思う。それは中間選挙に負けて、たいした業績を残すことはできず、2012年に再選されずに、1期だけの大統領で終わるという筋書きである。このまま彼が、自分の得意なことだけやっていたら、きっとそうなる。マサチューセッツ州のメッセージは、まだ彼の心には届いていないのかな、と感じました。
<1月29日>(金)
○日銀の白川総裁の講演会を聞きに行く。ホテルニューオータニの鶴の間が満杯。1000人は超えてたね。いつもながら、あれだけの人数に洋食のコースを30分でサーブしてしまう日本のホテルって、どういうノウハウを備えているんだろう。
○講演内容はさほどのサプライズはなし。焦点の「デフレ」については、こんな感じでしたな。
日本の物価上昇率はなぜ長期にわたって低いのか。@合理化や規制緩和による内外価格差の縮小、A賃金の持続的低下が続いている、B将来の成長期待が低下しているから、などの理由がある。量的緩和で物価が上がらないことは日米の事例が証明済み。物価は体温のようなもの。病気で体温が下がっているからといって、体温を上げても病気は治らない。魔法の杖はない・・・・。
○講演後、質問に立ったのは、藤原元副総裁。いくら主催者が時事通信社だからといって、そりゃないだろう。サクラとは言わないまでも、お手盛りもいいところじゃないか、と思ったが、藤原氏、意外と意地の悪い質問をされていた。
Q:新成長戦略をどう評価するか。
A:生産性を上げて成長力を上げるという基本認識を共有する。大切なのは具体論で、今年6月にまとめられると聞いている。
――さすがに「どこの阿呆がこんなもん書いたんだ」などとは仰いませんでしたな。
Q:日銀はコミュニケーションが重要である。
A:記者会見ではどうしても細かな専門的な質問が多くなり、結果として普通の人には届かなくなる傾向がある。ただしコミュニケーションは言葉だけではない。言葉と行動が一体になってこそ信頼が生まれる。
――さすがは筋金入りです。最近のオバマさんにもそういう面がありますが、言葉だけでは人は動きません。
○ところで今日の講演会では、「白川総裁が退場した瞬間に、メディアの報道解禁」というルールでした。その場に居た記者さんたちは、講演会終了後に記事を送信するという約束です。本石町日記さんはたぶん会場にいたと思いますが、ツィッターはどうなんでしょうか。
<1月31日>(日)
○鳩山政権が発足して以来、「プロビジネス政治の重要性」ということをしばしば痛感します。当欄でも"Pro-Business"ということに言及する機会が増えているのですが、その意味するところがなかなか通じない、というのも悩ましいところです。端的に言ってしまうと、「プロビジネス」という言葉は、大企業優遇や政財癒着を連想させるんですね。そうではなくて、一般教書演説でオバマが言ったような、「雇用を作るのは企業である」というのが本当の意味なのだと思います。
"Now, the true engine of job creation
in this country will always be America’s businesses. But
government can create the conditions necessary for businesses to
expand and hire more workers."
○この部分を聞いた瞬間に、かんべえが思い出したのはカルヴィン・クーリッジ大統領(第30代、共和党)の言葉であります。アメリカの何たるかを伝える大変有名なフレーズです。
"The bussiness of America is business."(アメリカの本分はビジネスである)
○この名文句を吐いた後を、彼はこう続けています。"Of course the accumulation of wealth
cannot be justified as the chief end of existence." (当然のことながら、富を蓄えることが生きることの目的であってはならない)。――つまりアメリカ人たるものは、額に汗して働くべきであるが、だからといってカネのことばかり考えてはいかん、というわけです。
○いわばアメリカ版の「プロテスタンティズムと資本主義の精神」を言い表しているのが、「アメリカの本分はビジネスである」という金言なのです。小さな村に育ったクーリッジは、アメリカの原風景そのままの朴訥たる人物であり、あの国特有のピューリタニズム精神を体現したようなところがありました。
○これと同じような精神が、日本人のDNAにも脈々と流れていると思うんですね。要は、「ニッポン人なら仕事だろ!」「でもカネのために働くのはいくない」という教えであって、これが日本流のプロ・ビジネス精神だと思うのであります。
○およそ日本社会の原風景というものは、真夏に草むしりをするお百姓さんであり、指差し確認をする車掌さんであり、愛想のいい食堂の女将さんであり、丁寧に道具を手入れする大工さんであり、満員電車で日経新聞を読むサラリーマンであろうと思うのです。間違っても、パチンコしながら「早く子ども手当てが出ないかなあ」なんて考える大人であってはいけないと思うのであります。
○とまあ、それはさておいて、クーリッジは歴代でも目立たない大統領でした。第40代大統領のレーガンが、執務室にその肖像画をかけるまでは特に。彼の治世は「黄金の1920年代」であり、自由放任主義の政策の下でアメリカ経済は急成長していました。お陰で税金を減らしつつ、国の借金を減らすことが出来た。彼はまた、「必要以上の税を集めるのは合法的強盗である」との言葉も残している。まさしく中国の古典でいう「帝力なんぞ我にあらんや」の世界である。
○クーリッジといえばいつも出てくるのは、「無口なカル」のエピソードである。とにかく口数が少なく、たまに口を開いても二言三言である。某日、酔狂な人物が、「いやー、私は大統領から、3語以上の言葉を発させることができるかって賭けをしましてね」と語りかけたところ、"You
Lose."と返されてしまったという。
○その一方で、彼は「史上初めてラジオで大統領就任演説を行なった男」であり、それがまた出色の出来だった、というのが面白い。要するに言葉は惜しむほどに値打ちが出てくる。多弁は言葉のインフレを招きます。オバマ大統領は、今こそクーリッジのひそみに倣うべし、と思うのであります。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki