<2月1日>(火)
〇思えば今年の年明けは比較的のどかな日々であったのであります。年末に駆け足で帰省した際には、氷見ブリはまことに美味でありました。年明け後ものどかに過ごしましたし、箱根駅伝は面白かったのであります。
〇ところがその後はすっかり「まん防」の世の中になりまして、今ではこんなことになっております。
●第1グループ:広島県、山口県、沖縄県→2月20日まで
●第2グループ:首都圏の1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)+9県(群馬、新潟、岐阜、愛知、三重、香川、長崎、熊本、宮崎)→2月13日まで
●第3グループ:2府1道(大阪、京都、北海道)+15県(青森、山形、福島、茨城、栃木、石川、長野、静岡、兵庫、島根、岡山、福岡、佐賀、大分、鹿児島)→2月20日まで
〇まだマンボウになっていないのは以下の13県しかありません。ああ、わが郷里を含めてなんて影の薄いメンツでありましょうか・・・。
岩手、秋田、宮城、山梨、富山、福井、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、徳島、愛媛、高知
〇さて、マンボウは緊急事態宣言に姿を変えるのでしょうか。それとも意外と早くピークアウトして今月末には平和が戻ってくるのでしょうか。
〇・・・それが全く見当がつかない、というのがコロナ下の日常でありまして、こんなときに一喜一憂しても始まりませぬ。まあ、のんびり行きましょう。考えても仕方ありませぬ。
〇そういえば石原慎太郎さんが亡くなられた由。御年89歳とのこと。昭和一桁世代というのは、よくも悪くもあんな感じのサムライが居たものです。一度だけ、如水会館でご本人にお目にかかったことがあります。「お別れの会」もきっとあそこだろうなあ。合掌。
<2月2日>(水)
〇なんと和歌山県もマンボウ申請であります。どこまで続くぬかるみぞ。それでも今は、オミクロン株感染の上昇終盤期にあると信じるものであります。もうちょっとの辛抱ですよ。
〇一昨日、柏市から接種券が届いた。意外と早いものである。試しに今日、担当部局に電話してみた。電話がつながるかなあ、と心配していたのだが、5回鳴った後にちゃんと出てくれた。その場で3日後の集団接種が決まった。なんなんだ、このあっけなさは。
〇ブースター接種は皆さん、控えめなのでありましょう。しかしタダなんだから、受けない手はないですよ。自治体としても、ワクチンを余らせてはもったいないじゃないですか。不肖かんべえはモデルナ3連荘となりますが、それはまったく構わんのである。
〇それはともかく、今週中に来週分の締め切りをひとつでも片付けておきたい。「3度目の副反応はツラいぞ」と脅す人が周囲に少なくないからである。土曜日に接種して、とりあえず日曜日は「おうちで競馬」だな。そして月曜日は在宅勤務です。
<2月3日>(木)
〇今月号の『選択』は面白かったなあ。
〇特に「三菱商事『洋上風力総取り』の裏事情〜『安値落札』に恨み骨髄の面々」は勉強になりました。再エネ関連企業に「クリーン」なイメージを持っている方は少なくないと思いますが、結構、魑魅魍魎なんでございますよ。いきなり株価が3分の1になった会社もあったりして、まことにコワーイ世界であります。
〇この雑誌、20代の頃からの付き合いですが、自社の記事が取り上げられたときなんぞは、広報室は朝から大変でありました。その後は切れ味も鈍ってきて、最近はいかにも大新聞を早期退職した不平分子が作る雑誌、みたいな印象もままあるのですが、ときどきハッと思わせられる記事があるので自宅購読を続けています。
〇その昔、企業広報誌の編集長だった時代に、この雑誌の創業者である飯塚昭男氏のところへ原稿執筆の依頼に行ったことがあります。今ではすっかり忘れ去られていると思いますけど、当時の日本中の企業経営者が恐れをなしていた人物でありました。まあ、そこへのこのこと出かけて行ったんです。
〇そして、「企業経営者に見る恐怖の研究」というお題で書いてください、と申し入れたんですよ。そしたら、「私には君の編集意図がさっぱりわからあああん!」と叱られてしまった。いや、その、今の私が感じている恐怖のことを書いてくれたらいいんだけどなあ、と脂汗を流したものでした。楽しい若気の至りでありました。
〇1980年代の後半、日本企業がまだとっても元気で、世の中がバブルに浮かれていた頃の記憶です。あれからもう40年以上。思えば長い付き合いなのでありました。
<2月4日>(金)
〇新任のラウム・エマニュエル駐日大使が今日は岸田首相と面談したようです。この人については、以下のリンクが参考になるかと存じます。有料サイトもありますが、まあ、その辺はご容赦を。
●米新駐日大使のエマニュエル氏 すご腕の異名と素顔 専門家が明かす 毎日新聞
2021/12/18
――バイデン大統領によるエマニュエル氏の駐日大使指名は、日本重視の表れだと考えてよい。米国の大使はかねがね四つの特徴に分けられる。一つ目は、大使の大統領へのアクセス。二つ目は議会内や党内での発言力。三つ目はビジネス界や非政界とのパイプで、四つ目は赴任する国の知識や現地への浸透度だ。
●31代目の駐日米大使 ラーム・エマニュエルさん (日本経済新聞 2022年2月3日
5:00)
――政治家である。過去半世紀の駐日米大使11人を振り返ると、連邦議会の上下両院議員の経験者が4人いたが、それと同じ系譜という意味ではない。目標を実現するためならば、いかなる手段を取ることも辞さないタイプということだ。しかも、満面の笑みを浮かべて。
●エマニュエル駐日大使の人物像:シカゴ政治の文脈から(渡辺 将人 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)
笹川平和財団 2022/2/3
――ここにエマニュエルイズムが完成した。感情に支配されない。勝ち馬に乗る。その予想の正しさはエマニュエルの成功がエビデンスである。「私が支援することに決めた候補ですよ」。これだけで殺し文句だ。政界の資金集めは将来への投資への呼び込みであり、候補者の得意先への営業であるが、真実味が鍵になる。戦歴と勝者を選ぶスタンスが、献金筋の信頼を獲得した。
〇シカゴ政界で鍛えられた、というのが鍵のようです。人呼んでプラグマチック・リベラル。これまで2年半も駐日大使は空席でありましたが、これから先は、日本外交が「ランボー」を頼る機会は多くなりそうです。
<2月5日>(土)
〇ブースター接種、受けてまいりました。柏市の中央体育館です。職員の方が大勢出ている割りには、さほど混んではいなかった印象でした。16時20分の予約だったのに、16時5分には入れちゃいましたので。
〇あっという間に終了。16時28分まで会場にいてください、と言われたので、iPadで今日の府中の最終レースを見ておりました。どうでもいいことだが、今日は早春ステークスはとれたのであった。
〇何ともないので、夜は防犯活動へ。終わったころになってから、左腕が痛み始めた。ワクチンが仕事を始めたからでしょう。さて、明日はゴロゴロしていよう。
<2月6日>(日)
〇ということで、本日は何もする予定がない。渡辺努先生の『物価とは何か』(講談社選書メチエ)は購入してあるのだが、たぶん今読んでも頭に入らない。五輪中継を見てみるも、いまひとつ萌えない。やはりお休みの日は中央競馬に限るのである。
〇午前中はさっぱりだったのだが、頭がボーッとしているのが良いのか、午後になって当たり始める。いやはや、久々に浮きましたぞ。メインの東京新聞杯も、狙った通りイルーシヴパンサーが来てくれたではないか。ワクチン接種効果おそるべし。
〇ところで先週金曜日は、A級順位戦の第8局であった。この日で斎藤慎太郎八段が豊島将之九段を破って、最終局を待たずに名人挑戦を決めた。これで2期連続の挑戦となる。このところ藤井聡太竜王・四冠に負けてばかりの渡辺名人だが、さいたろう八段に対しては強いんだよな。
〇そして同じ日に、羽生善治九段が永瀬拓矢王座に敗れて2勝6敗となり、山崎隆之八段(1勝7敗)とともにB級1組への陥落が決まった。これで藤井四冠が来期、A級に上がってくると羽生さんとすれ違うことになる。惜しまれますけれども、しみじみ将棋界の勢力図が塗り替わりつつあることを実感します。
〇かくして3月3日に予定されている順位戦第9局は、「将棋界の一番長い日」ではなく、単なる消化試合となってしまった。その一方で、3月9日のB級1組最終戦が注目を集めそうだ。藤井竜王は9勝2敗で、最終局は佐々木勇気七段と対戦する。
〇金曜日に行われた5つの対局の中では、佐藤康光九段が菅井竜也八段を破った将棋が面白く感じましたな。終盤では何度も逆転していて、いや、こういうのが見たいんだよなあ、と思う。最近はAIによる序盤戦研究が進み過ぎて、中盤過ぎたら大差がついてしまい、逆転がない将棋が多くなっている。
〇さて、本日は棋王戦五番勝負の第1局もやっていて、渡辺棋王に対して永瀬王座が挑戦している。さっきからアベマTVで見始めたが、この第1局は渡辺棋王が勝ちそうだな。まあ、久しぶりに強い渡辺名人を見るのも悪くはない気がするけど。
<2月7日>(月)
〇今朝のモーサテで「カルビーの株価が下がっている」と報じていた。なにせマックのポテトが入荷されないくらいだから、原料のジャガイモの手当てができないのだろう、インフレおそるべし、と思って聞いていたが、実態はもうちょっと複雑なようである。
〇マクドナルドの「マックフライポテト」のMとLサイズが販売停止になったのは、北米産のジャガイモの輸入が遅延しているからである。これはジャガイモが不作なためではなく、港湾の能力不足やコンテナ不足、さらには大雪などの悪天候が問題であるらしい。今後も西海岸における港湾の労使問題などがあるので、原料供給の復旧には時間がかかるとのこと。つまりはサプライチェーンに問題がある。
〇しかもマックのポテトの原料は「ラセットバーバンク」という特殊な種類であって、普通のジャガイモより巨大サイズなのである。それを切って揚げるから美味い。これは日本で育てても、あのサイズには成長しない。ということで余人をもって換え難し。結論として、マックのポテト不足問題は長引きそうなのである。
〇これに比べて、カルビーのポテトチップスは国産ジャガイモを原料としている。こちらは昨年の天候不順により、被害を受けている。ゆえに今年夏の北海道産が出回るまでは、原料不足が続くとのこと。カルビーは、1割程度の値上げを余儀なくされるそうである。
〇なるほどこれは深刻な事態である。これが海運や商社みたいなB2Bビジネスであれば、海外のインフレも恐れることはない。「しょうがないんです、これが国際価格なんですから!」と言えば、海上運賃でも資源価格でも需要家は泣く泣く支払ってくれる。お陰でどちらも好決算となっている。
〇ところがその点、B2Cビジネスはツラい。なにしろポテトチップスである。消費者は、「ホントはこんなもの食べちゃいけないのにな〜」と後ろめたい思いをしながら、ついついスーパーでは惰性で買い物かごに入れてしまう。そしてテレビで北京冬季五輪を見ながら、袋を開けるとあっという間に食べつくしてしまう。ポテトチップスとはそういう罪深い食べ物である。
〇これが10%値上げになると聞けば、消費者は「いかんいかん、こんなもの買っちゃいかん」と理性が惰性に勝ってしまう。かくしてポテトチップの売り上げは落ちることになる。カルビーとしては踏んだり蹴ったりで、消費者相手に不要不急のものを売る商売の難しいところである。
〇似たような話でいうと、日清食品のカップヌードルが5〜12%値上げになって、6月からは希望小売価格214円になるとのこと。個人的にはカップヌードルは、いいとこ170円くらいまでの商品だと思っていたが、200円を超えるとなると尋常ではない。だってあなた、幸楽苑の中華そばが440円ですぞ。職人さんが作ってくれるラーメン(たとえそれが化学調味料の味であるにせよ)の半額とは、ちょっと贅沢過ぎやしませんか。
〇カップヌードルもまた、本質的に罪深い食品なのである。後ろめたい思いをしながら、夜中にこっそりと食べるものである。そういえば若い頃には、徹夜マージャンのたびにカップヌードルのカレー味を食べたものである。腹が減っていたからというより、それが勝利へのジンクスだったから、である。
〇いかんいかん、こんなことを書いていたら、ポテチやカップヌードルや幸楽苑の中華そばが恋しくなってきた。それにしてもこのポテトショック、つくづく物価というものの不思議さを感じさせる事件であります。
<2月8日>(火)
〇本日は景気ウォッチャー調査の1月調査結果が発表されました。
〇昨年12月が割りと良い数字だったので、この1か月の落ち込みはかなり激しいものがあります。現状判断DIは57.5から37.9へ▲19.6pとなりました。過去に何度も繰り返されてきたパターンで、コロナ時代におけるDIのグラフはギザギザが目立ちます。他方で先行き判断指数は、50.3から42.5へと▲7.8pと、こちらはそれほどではない。まあ、オミクロン株のピークアウトは早いだろう、という読みがあるようです。
〇景気判断理由、いわゆるコメントでは、「新型コロナウイルスオミクロン株」という言葉がいっぱい出ています。それに伴ってどんな文言が続いているか、ちょっと抜き書きしてみます。
*小学校などの休校が相次いでいる。昼食需要として冷凍食品、カップ麺、菓子パンなどが急に売れ出した(北海道=スーパー:判断〇)。
*特に年配層の来客数が明らかに減少した。レストランの予約キャンセルなど、消費減退の具体的な動きが発生している(近畿=百貨店:判断□)。
*せっかく盛り返した旅客の動きも減少に転じている。イベントの中止も徐々に発表されている(北関東=百貨店:判断▲)。
*その割には週末の夜もそれほど変わりなく客が来店してくれていた。やはり蔓延防止等重点措置が適用されてからは、週末の予約も立て続けにキャンセルとなり、予約数がゼロとなってしまったので、また飲食店は厳しい状態になっている(南関東=一般レストラン:判断×)。
*定期業務の延期や従業員の感染による管理業務の減少により、売り上げが減少している。燃料費や資材価格の値上げによる経費増も続いており、現役額が拡大している(北関東=不動産業:判断▲)
*再度緊急事態宣言が発出されれば、当面景気の回復は見込めない(九州=コンビニ:判断▲)
*感染状況は早めに落ち着くと考えられるため、今後の経済活動の再開に期待が持てる(北海道=その他サービス業:判断〇)
〇いかにもなあ、といった文言が続きます。それにしても、小学校が休校になるとカップ麺が売れる、というのは面白いですね。
〇北海道のことですから、売れているのはきっと「やきそば弁当」でありましょう。ちなみに「ペヤングソース焼きそば」が売れているのは東日本だけ。愛知県から西では「日清焼きそばUFO」の独壇場となります。そのほか、北東北では「焼きそばバゴーン」、四国ではところにより「一平ちゃん」が人気です。
〇日本という国はとことん地域性が豊かにできています。セブンイレブンのそばつゆは全国で5〜6種類ある、そうでないと売れない、という変な国なんです。ところ変われば品変わる。コロナへの反応も結構違う。首都圏だけ見ていると、勘違いが募るばかりであります。
<2月9日>(水)
〇今日は大阪へ。ホントは和歌山商工会議所さんでリアルの新春講演会の予定だったんですが、こういう世の中なのでリモート方式に変更に。梅田にある貸しスタジオから中継しました。まあ、なんとかなったようなのでホッとするところです。
〇ちなみに往復の新幹線はガラガラであった。行きの車中では牛タン弁当を食べ、帰りは中之島ビーフサンドである。ほかに楽しみがないからとはいえ、行きも帰りも「牛」というチョイスはわれながら能がない。そしてもちろん、今日も「551」の豚まんを土産に買っている。
〇和歌山県と言えば、ワシはまだ高野山に登ったことがない。南紀白浜も熊野古道も潮岬も行ったことがない。これでも全国各地、47都道府県をくまなく訪れている方だと思うのだが、コロナの世の中になるとなかなか出歩くことができないので、こういう道楽も難しいものである。まだ行っていなくて、個人的な「宿題」になっている場所はどれくらいあるだろうか。
*伊勢神宮(三重県)〜ここも行ったことがない。
*酒田市(山形県)〜今井宗久記念館が以前からの宿題。
*会津若松市(福島県)〜不思議なことにまだ行ってない。
*平戸市(長崎県)〜以前から興味があるのだが果たせていない。
*網走市(北海道)〜ゴールデンカムイの舞台となった網走監獄は行っておかねば。
*城之崎温泉(兵庫県)〜敦賀から小浜、舞鶴を通って丹後半島を抜けて豊岡市へ、というのをいつかやってみたい。天橋立は行ったことあり。
*延岡市(宮崎県)〜単純に行ったことがない。何があるのかはよく知らない。
*石垣島(沖縄県)〜離島の専門家、山田吉彦先生のお勧め。
〇いや、何もブラタモリみたいに日本全国をしらみつぶしにしたいわけではないのである。なにかこう引き寄せられるツボみたいなものがあって、そういうところに初めて行ったときに、なにかひらめくものがあるはずなのだ。幸いなことにまだまだネタは豊富にあるはずである。
<2月10日>(木)
〇今日は降雪予報もあり、在宅勤務である。
〇朝からゆっくり時間をかけて、今日が締め切りの原稿を書くのだが、もっとバタバタと書いているときに比べて、納得のいく出来になるかと言えばそうでもないのである。逆に言えば、秒読みに追われて指したのが意外にも妙手であって、みたいなことは結構あるものだ。仕事は忙しい人に頼め、というのは真理なのである。
〇夕方になってメールで原稿を送って、「なんか出し切っていないなあ・・・」と反省するのだが、世の中常に100点満点というわけにはいかない。そして完成度と納期が重なる場合は、納期を優先しなければならないのが、プロの仕事というものである。
〇終わってから男子フィギュアの今日の結果を見て、なるほどなあ、と思う。メダルに届かなかった羽生結弦の方が全力を出し切っている。メダルに届いた側はむしろ余裕がある。負けた勝負の方が記憶に残る、というのは世の常なのでありましょう。
〇ということで、なんとなく敗北感を引きずる一日であった。これを糧として、また違う原稿を書きましょう。
<2月11日>(金)
〇朝、家の周囲に積もった雪を片づけて一息。ふと、テレビをつければそこには真剣勝負が行われている。昨年夏の東京五輪と同様の状況である。いや〜時差がないのはありがたいですな。
〇スノーボード・ハーフパイプを見ていると、アナウンサーが何度も「トリプル・コーク・フォーティーン・フォーティ!」と絶叫する。いや、そんな長い役の名前を言われてもワシらわからんがな。平野歩夢のエアーの高さはさすがにわかるが、いったいどういう回転をしているのだか。とりあえず「トリプルコーク1440」とはこういう意味なんだそうだ。
「そうですね。コークというのは、後方宙返りのことなんですが、トリプルコークで3回の後方宙返りということになります。1440というのは、縦に3回、回った時点で360度×3と、最後の横の1回転を足して、1440ということになりますね。3Dって言われています。」
〇想像を絶する話である。長野五輪の年に生まれた平野歩夢は、既に銀メダルを2回取っている。今年はこの競技の絶対王者だったショーン・ホワイト(35歳)がさすがに4位になって、というとなんだか男子フィギュアの羽生結弦に重なって見える。そしたら平野が金メダルである。おめでとうございます。
〇そうかと思うと、女子カーリングではロコ・ソラーレが第2戦で強豪・カナダを破っている。まったく相変わらずのきゃぴきゃぴした調子で、お前ら4年前から年取ってないんじゃないのか、と変なツッコミを入れたくなる。本日は藤澤五月のショットが冴えまくりであった。見ているだけで癒されます。真剣勝負のように見えないところが好い。
〇さて、今宵は一杯気分でスキージャンプ男子ラージヒルを見ておる。小林陵侑選手のジャンプやいかに。「個人2冠」だなどと欲深なことを考えてはいかん。ビッグジャンプが出ればそれでよし。佳い勝負がみられますように。
〇こんな調子では、王将戦の第4局をチェックする余裕がない。封じ手の局面では、渡辺名人の方がちょっといいように思ったが、それで油断できないのが藤井竜王・四冠である。まあ、明日の朝になったてからゆっくり見よう。ここは2日制対局のありがたみである。
<2月12日>(土)
〇8大タイトルのうち、四冠王と三冠王の戦いであったということは、棋界のナンバーワンとナンバーツーの戦いであったはず。それがこんなワンサイドゲームになってしまうとは。
〇本日行われた王将戦第4局2日目は、藤井竜王・四冠が4対ゼロで渡辺王将を破って5つ目のタイトルを奪取しました。19歳での五冠王はもちろん初めて。渡辺名人はご自分のブログでこんな風に書いています。
1日目を終えて、やや良しで持ち時間5時間という条件はなかなか得られないので、それでも勝てないのではどうにもならなかったですね。悪くしたのが▲88銀と▲86銀のところまで遡るとは思わず、藤井竜王はそこを指摘していたので、いやあ、というか。棋聖戦で負けてからは再戦を意識してやってきたので、それでも1つも勝てなかったのは残念です。
〇棋聖戦で三タテを食らった後に王将戦で四タテ負けなのですから、かなりのショックだったことでしょう。それにしても将棋界の第1人者と第2人者の間にこれだけ棋力の差があるのでは、「エンタメ」としての将棋界の将来が心配です。
〇藤井将棋はとにかく「間違えてくれない」。野球でいえば、逆転負けがないのです。序盤で小刻みにリードを作って、中盤以降は悪手がない。それでいて終盤の「詰むや詰まざるや」になると第一人者なのである。
〇藤井五冠がタイトル保持者であり続ける限り、今後のタイトル戦は「逆転のない将棋」になってしまう。今はまだ「藤井君は恐ろしい子」ということで世間の注目を集めているけれども、このままいくと将棋というゲーム自体が飽きられてしまうのではないか。
〇「AIの方が人間よりも強い」ことが明らかになったのは2015年ごろのこと。その後も将棋はなんとか人気を保っているのだけれども、偶然性がほとんど介在しない競技って皆が見てくれるんでしょうか。スーパースターが居ればそれでいい、というものではないような気がするなあ。
<2月13日>(日)
〇ロシアによるウクライナ侵攻の可能性をどう見るべきなのか。多くのロシア専門家が、「プーチンの頭の中を覗かなければわからない」と、いささか投げやりなモードになっている。そりゃあそうでしょう。
〇私見ながら今のプーチンさんは、西側相手の外交を楽しんでいる。フランスのマクロン大統領を長テーブルの端っこに座らせたあたり、独特のユーモア感覚も健在のようである。西側諸国を手玉に取るのは、快感この上ないことでしょう。なにしろ彼らとは権力者としてのキャリアが違いますから。
〇特にバイデン大統領は完全になめられている。政権発足当時に、新STARTを無条件で延長したのが間違いの始まり。ロシア人は高飛車に出る相手を警戒し、下手でに出る人を軽蔑するもの。日本の北方領土交渉の歴史は、その証拠でありますな。昨年6月のジュネーブでの米ロ会談では、「こいつ、弱いな」と見透かされてしまった。プーチンがウクライナに関する論文を発表したのはその翌月です。
〇ロシアとウクライナは歴史的に一体だ、とプーチンは言う。ウクライナにとっては、迷惑千万なことでありましょう。ロシアとウクライナの関係は、いわばドメスチック・バイオレンス(DV)の兄弟みたいなもの。兄は恒常的に弟を苛める。そうかと思うと、突如として小遣いをくれたりする。相互に依存しているのがDV家族というものであって、余人は介入すべきではない。もちろんNATOも、ウクライナを加盟させるなんて御免こうむりたいというのが当初のホンネであった。
〇ところが兄は弟イジメが過ぎてしまい、2014年にロシアはクリミア半島を取り上げてしまった。ウクライナ東部のドンバスでは、親ロシア派との間でドンパチが始まってしまった。ここまでやられたら、さすがに弟も本気になる。今のウクライナでは、「NATO加盟を否定する政治家は選挙で落とされる」までになってしまった。これは、そこまで追い込んだロシアが悪い。
〇ところがプーチンはそうは思っていないようである。ひょっとするとボケてしまって、陰謀論を本気で信じているのかもしれない。個人的には、プーチンは永遠に冷徹なリアリストで、悪逆非道で狡猾な政治家であってほしい。とはいえ、長年にわたってイエスマンに囲まれていたら、賢い人でも阿呆になるのが世の習い。習近平さんも、気を付けてくださいよ。
〇何より、ロシア人は「力の信奉者」だったはず。それが「NATOの東方拡大は西側の約束違反だ」「これ以上の拡大をしないことを約束せよ」などと言い出すのは、悪いものでも食べたんじゃないでしょうかね。昔のプーチンさんだったら、そんな泣き言は言わなかったはず。
〇1990年代にNATOが加盟国を増やしたのは、東欧諸国がそれを望んだからであり、当時のロシアが弱くてそれを止められなかったからである。1998年にはルーブル危機まで起こしましたからね。コソボ紛争も、アメリカのABM条約撤退も、イラク戦争も、さぞかし悔しかったことでしょう。でも、弱者に発言権はないのである。
〇21世紀に入ってから、石油高のおかげでロシアは盛り返した。とはいえ、それは「寒いサウジアラビア」みたいなものである。核大国であり、原子力技術があり、宇宙開発も得意だけれども、それはソ連時代の教育の遺産であって、将来の繁栄を保証するものではない。最近では中国との連携も武器になっている。が、それだって将来的には中国の風下に立たされそうである。
〇おそらく今はロシアが自己主張する最後のチャンスなのではないか。それを分かって攻勢に出ているのだとしたら、プーチンはあいかわらず冷徹な指導者と言える。どこかのタイミングでさりげなく兵を引いて、「誰がウクライナに侵攻するなどと言ったのだ?」と平然としてもらいたい。それでこそわれらがプーチン。西側の指導者とは役者が違うのである。
〇それでもプーチンがボケている可能性は否定できない。小泉悠先生曰く、「戦争にテンプレートはない」。危うい火遊びが、大火事に至らないと誰が言えようか。結局、われわれはハラハラしながら、事態の行く末を見守るしかないのであろう。それは一層の石油価格上昇にもつながりかねず、なかなかにブルーな展開なのであるが。
<2月14日>(月)
〇ウクライナ情勢について、以前から気になっているのが「放言」で辞任したドイツ海軍の司令官のことです。ソースはBBCの1月23日付けニュースから。
ドイツ海軍のカイ=アヒム・シェーンバッハ司令官が22日夜、ウクライナ情勢に関する発言が物議を醸したことの責任をとり、辞任した。
シェーンバッハ中将は今月21日、インド・ニューデリー訪問中に現地の防衛シンクタンクで講演した際、ロシアがウクライナを侵攻しようとしているなど、ばかげた発想だと発言。ロシアのプーチン大統領は、西側から対等に扱われたいだけだとも述べていた。
中将は、「(プーチン大統領が)本当に求めているのは敬意で、それを与えるのは簡単なことだし、おそらくあの人は敬意を払うに値する」とも発言。
中将はさらに、ロシアが2014年に併合したクリミア半島について、「あそこはもう失われた、もう二度と戻ってこない」と述べた。
〇こんなこと言ったら、ウクライナ政府が怒るのは当たり前であって、シェーンバッハ中将は辞任もやむなしでしょう。とはいえ、この辺がドイツ人のフツーの見方なんだろうな、という気はする。ドイツとロシア、その昔は熾烈極まりない『独ソ戦〜絶滅戦争の惨禍』を闘った間柄なのに、いかんせんロシアには甘いのである。もっともドイツ軍は、ウクライナでも散々ひどいことをやっているので、その恨みも十分に買っているものと拝察する。
〇日本に入ってくる英字情報は、米英発のものがどうしても多くなる。だから「おいおい、プーチンはやっぱり本気だぜ」みたいなワシントン情報が、無条件で受け入れられてしまうことが多い。それらを鵜呑みにすると、得てして事故のもととなりますので、ちゃんと別筋の情報もとって中和した方がいいと思います。でも、ドイツ発の情報ってなかなか手に入らないんだよねえ。難しいところです。
<2月15日>(火)
〇ワシントン帰りの方から聞いた話。
「ワシントン郊外もベセスダ周辺はメリーランド州(MD)なので、周囲は普通にマスクをしている。これがヴァージニア州(VA)側に行くと、だーれもマスクをしていないことがある」
〇すごくよくわかる気がする。察するにVA州側でも、ロズリンやペンタゴンシティーまでは皆がマスクしているけど、アレクサンドリアから先に行くともう全然してない、って感じなんじゃないだろうか。DC内はもちろんマスク有りで、要はマスクの有無が南部と北部の境界線になっているのではないか。
〇ワシントンDCは、南部と北部の境界線上に位置している。もともとは首都をどこに置くかで揉めて、最後はVA州とMD州が互いに正方形の土地を切り分けて、その上につくられた人工都市である。お互いに良い土地は提供したくなかったので、ポトマック河口の湿地帯の上に首都が作られた。だからワシントンは、夏場はむちゃくちゃ蒸し暑い土地なのである。
〇今やDC内では北部も南部も関係ないのであるが、少し離れて郊外に行くにつれて人柄や風土が変わってくる。それにしたってよそ者にはハッキリとは分からないのだけれども、「マスクは公衆衛生上の義務」と感じる北部と、「マスクは個人の選択」と考える南部の間で、目に見える形の対立軸ができちゃったのではないだろうか。
〇昨年11月のヴァージニア州知事選挙で、「ブルーステーツになったはずのVA州で共和党候補が勝った!」などとお伝えしたんですけど、実はコロナのせいでVA州は「南部返り」していたのかもしれない。そうだとすると、南部で共和党が勝つのは当たり前ですわな。だって皆さん、マスクが嫌いなんだから。
〇それから最近は、「コロナや物価高で住みにくくなったニューヨーク市を脱出する人たちは、フロリダ州を目指す」のだそうです。これもマスクが関係していそうですが、近年、フロリダがどんどんレッドステーツ化しているのも、それが関係しているのかも。だから「ミニ・トランプ」と呼ばれるデサンティス州知事の人気があるわけか。
〇マスクの有無が、どんどんアメリカ社会の分断を広げているというお話でありました。日本は皆さん、マスクに抵抗が少ないのはありがたいことであります。これも小学校の学校給食のお陰でありましょうか。
<2月16日>(水)
〇モーサテに出演する日は、だいたい午前4時にお出迎えのタクシーが自宅に来ます。今日来てくれた運転手さんは少しだけ高齢の方で、「こんな時間から仕事だなんて、大変ですねえ」としきりに同情してくれるのである。それはアンタも同じでしょ?と言いたくなるところではありますが、こうやって仕事ができるということ事態が結構なことではありませぬか。
〇てなことでテレ東に到着すると、今日はシティグループの高島さんとご一緒である。なぜかこの番組ではご一緒することが多いのだが、当日のお相手はスタジオについてから分かることが多い。にもかかわらず、今日はちゃんと話の中身もシンクロしていて、FRBの利上げ、原油価格の行方、米国政治情勢など、あたかも二重らせんのような感じでした。
〇本日、「プロの眼」でお話した内容は、一昨日の溜池通信本誌とかぶるわけですが、テレビで伝える場合はやっぱり文法が違っていて、そうなると「出物」(グラフや表などのビジュアル類)が大事になりますね。相内キャスターとの打ち合わせや段取りも大事であります。
〇ひとつだけ問題なのは、最近の「モーサテ」はコロナ対応のために別室からの放送となるわけなんですが、この部屋の椅子が固くて痛いの。お尻が痛くなるんです。まあ、この次出るときには、普通にスタジオからの中継になっていると思いますけど。
<2月17日>(木)
〇昨夜は深夜にふと目が覚めて、ハッとした瞬間に足をつってしまった。
〇いや、もう、痛いのなんの。暗闇の中でふくらはぎを抱えて悶絶することしばし。苦しみながら何度か寝返りをうったのちに、ようやく睡魔が訪れたのであった。
〇このところ歩く距離が短かったのであろうか。ちょっと反省である。とりあえず日々のスクワットと腹筋は欠かさぬようにしなければ。腕立てはさすがに疲れてきました。
〇それでも8時間以上寝ているのは、健康な証拠なのかもしれない。夜中にトイレに起きないで済んだ夜は、なんだか得したような気になるのである。
(→後記:ご親切な読者から、こむら返りの特効薬をお知らせいただきました。とりあえずリンクを貼っておき、いよいよ深刻になったら手配することにいたします。ご厚意に深謝申し上げます)。
<2月18日>(金)
〇昨日発表された1月の貿易統計は少々驚くべきものでした。
〇「輸入が3か月連続で8兆円を超えるって、いつ以来のことなんだ?」と呻いてしまいましたが、もちろんそんなことは史上初めてのことなのです。今と同じくらい原油価格が上がりまくった2014年1月に8.0兆円という記録があるだけで、8.3兆円(11月)、8.4兆円(12月)、8.5兆円(1月)と3か月連続で続くなんてことは、今までになかったことなのであります。
〇ちなみに2014年1月の石油価格は1バレル100ドルを超えていました。今よりも高かったのです。為替は1ドル105円くらいでしたけどね。「原油価格が上がったから貿易赤字が増えている」とよく言われますが、それだけじゃあないんですよね。
〇最近、講演会などでよく使うネタですが、これを言うとよく驚かれます。
「2020年度の日本の輸入品目の第2位は何かご存じですか?1位は原油(4.06兆円)、それは常識ですよね。2位は何か。LNG(3.15兆円)とかじゃないんですよ。医薬品(3.22兆円)です」
〇ちなみに第4位は通信機(3.05兆円)で、日本は既に製品輸入大国になっているのです。これが2014年当時との違いです。「日本は原料を輸入して製品を輸出する加工貿易の国」というのは、かろうじて真実だと言っていいでしょうが、今ではハイテク製品も輸入しているのです。以下、5位に衣類・同付属品(2.71兆円)、6位に電算機類(2.56兆円)、7位に半導体等電子部品(2.55兆円)と続きます。
〇それが今年になりますと、医薬品にはコロナ用ワクチンが1兆円くらい追加されます。だから2021暦年の輸入額を見ると、医薬品は4.18兆円となっています。LNGの値段が上がったから(4.27兆円)、第3位に落ちていますけどね。
〇つまり製品輸入大国となった今の日本では、化石燃料価格の高騰はそのまま貿易赤字拡大につながるのです。1月の貿易赤字は2.19兆円でした。幸いなことに、2014年当時に比べるといまは輸出が好調なんですが、貿易構造がずいぶん変わってしまっている、ということは覚えておかなければなりません。
〇あらためて2021暦年の輸入トップ10は以下のとおりです。ずいぶんの様変わりだと思います。
@原油および粗油 6.93兆円
ALNG 4.27兆円
B医薬品 4.18兆円
C半導体等電子部品 3.35兆円
D通信機 3.32兆円
E衣類・同付属品 2.83兆円
F非鉄金属 2.83兆円
G石炭 2.73兆円
H電算機類 2.39兆円
I石油製品 2.14兆円
<2月20日>(日)
〇とある原稿を書いている最中に見つけたデータ。面白いので備忘録として。ソースはQuinnipiac大の世論調査から。
TREND: In your opinion, what is the most
urgent issue facing the country today: COVID-19, inflation,
unemployment, climate change, health care, racial inequality,
immigration, foreign policy, election laws, the Supreme Court, or
crime?
REGISTERED VOTERS (Feb
16 2022)
*COVID-19(コロナ) 8
*Inflation (インフレ) 27
*Unemployment(雇用) 2
*Climate change(気候変動) 9
*Health care(医療) 6
*Racial inequality(人種) 7
*Immigration (移民) 13
*Foreign policy(外交) 4
*Election laws(選挙法改革) 9
*Supreme Court(最高裁) 1
*Crime (犯罪・治安) 7
*SOMETHING ELSE(それ以外) 4
*DK/NA(わからない) 2
〇今のアメリカ人に「この国の最重要課題は何か?」と聞くと、「インフレ」が27%で圧倒的である。2位は「移民」で13%。それ以降はほぼ横一線で、「気候変動」9%、「選挙法改革」9%、「コロナ」8%、「人種問題」7%、「犯罪・治安」7%、「医療」6%などが続く。
〇日本で同様な設問を行ったら、「コロナ」がかなり大きくなるだろうが、アメリカでの順位は5番目なのである。おいおい、93万人も死んでいるんだぞ。あんたたち、もっと大騒ぎすべきじゃないのか。
〇「外交は票にならない」というのは案の定ですな。それから「最高裁判事」への関心は思ったほど高くはない。
〇さて、バイデン大統領は来週3月1日の一般教書演説の準備をしていることでしょう。これなどは格好のデータと言えましょう。とにかくインフレ抑制が第一。ところが民主党支持者は「気候変動」や「選挙法改革」や「人種問題」を重視している。他方、共和党支持者は「不法移民」や「犯罪・治安」などを重視している。どうやったらスタンディングオベーションが得られるか。
〇ふっ、カーリング女子決勝が負けちゃったから、今日は仕事モードだぜ。ふんっ!
<2月21日>(月)
〇昨日でオリンピックが終わったら、NHKは夜19:30PMから『鶴瓶の家族に乾杯!』を放映するのである。腹が立つけれども、ほかに見るべき番組もない。先週までとのあまりの落差に落涙せんばかりである。ああ、なんということぞ。それでも同じ時間帯で、土曜夜の『ブラタモリ』だけは見るべき価値があると考えるものである。
〇しょうがないから、ウクライナ情勢について、先日から腹ふくるる思いでいたことを書いてみることにしよう。ワシは少々、プーチンという人を過大評価していた。彼が偉大なる戦略家であれば、この週末でサッと軍を引いていただろうと想像する。なぜならロシアは、既に多くの戦略目標を達成しているからである。
〇まず世界に冠たる米軍なるものは、幕末における「旗本三千騎」と同じような存在であることが判明した。どんなに精強な軍隊であって、年間7000億ドルの予算がついていても、総司令官にそれを使う気がないのであれば無用の長物である。よくも悪くもバイデンさんはそういう人であるし、今の米国内の世論はそういう地合いである。
〇聞けば最近の米軍においては、ある程度から上に出世するためには修士号や博士号が必要になるらしい。それじゃあもう、コリン・パウエルみたいな人は二度と出てこないことになる。なんというか今のアメリカは、「大学栄えて国滅ぶ」みたいな状況である。かの国の衰退をもたらす元凶は「メリットクラシー」であり、これは「能力主義」と訳してはいけない。「学歴偏重主義」と訳すべきである。
〇その点、ロシアの兵隊さんたちは、今でも「やんちゃ盛り」な屈強な者どもで構成されているから、大統領閣下の命令一下、ちゃんと戦闘に参加して犠牲を払う用意ができている。NATO軍など何するものぞ。今回のウクライナ危機は、そのことを明らかにしてしまった。つまり豊かな国の軍隊は、貧しい国の軍隊による脅しに耐えられない。「前代未聞の経済制裁をするぞ」などという脅しは、ロシアにはあまり効いていない。そんなのはリッチな国の人たちが恐れることだから。
〇ちなみに「ロシアをSWIFTから外す」という制裁手段は、よく"Nuclear
Option"と言われるけれども、まさしくその言葉通りである。それをやったら最後、欧州はロシアから天然ガスを買えなくなるだろうし、ウォール街も被害を被むるだろうし、世界におけるドルの地位も低下することになる。マネーの世界の住人たちは、本気にしていないと思いますよ。「こういう手もありますよ」(でも、本気になっちゃダメですよ)というのがNuclear
Optionです。
〇もうひとつ、ロシアにとって大いなる成功は、「米中2大国」時代の到来を遠ざけたことである。今年の年初くらいまでは、「とりあえずロシアのことは、もう考えなくてもいいよねえ」という雰囲気が全世界的にあった。今ではそんなことを言える人はどこにも居ないだろう。2017年に北朝鮮がやろうとしたことを、核大国で常任理事国のロシアがやったのである。名目GDPでは韓国以下の存在なのに。
〇つまり「米軍やNATO軍は無力だが、ロシア軍はAvailableである」ということを、ただの軍事演習だけであからさまにしてしまった。これは途方もない成果というべきです。とりあえずプーチンが大統領であり続ける限り、西側諸国はロシアを恐れ続けなければならなくなった。このことはロシア国内におけるプーチンの地位を不動のものにすることでしょう。
〇これだけの成果を得たにもかかわらず、プーチンは兵を引かなかった。ひとつには、バイデン大統領が打ち出した「インテリジェンスぶちまけ作戦」という奇想天外な反撃が効いたのかもしれない。アメリカやイギリスがとっておきの諜報成果を公表することで、ロシアが引くに引けない状態を作ってしまった。合衆国大統領が「ロシア軍はキエフ攻略を目指している」とまで言うんですもの、「いや、ウチの狙いは東部のドンバスだけなんですけど・・・」とは言えなくなりますわなあ。
〇これはインテリジェンスの歴史上、前代未聞の事態であります。「戦争だけはしたくない」というバイデンが採った究極の反撃策で、確かにこれで抑止力になるのなら、アメリカとしては儲けものだろう。もっともそのことにより、アメリカの諜報活動に対する信頼度が薄れ、貴重なヒューミントの命が危うくなったりするので、これはつくづく危うい手段である。おそらく世界中の国際政治学者たちが、「こんなに面白い実験が見られるなんて!」とワクワクしていることでしょう。
〇ところが、――たぶんこっちの方が真実だと思うのだが――プーチンは戦略家というよりも戦術家であった。これだけ大きな成果を得たことに対して自覚がないのである。むしろ「ウクライナのあの野郎め、今度こそはただじゃおかない」という「下町のヤンキー」みたいな行動原理で動いている。ゼレンスキーみたいな小童を許せるか、眼にものを言わせてやる、あるいは、ドンバスの併合みたいな「目に見える成果」がないと、俺も手ぶらじゃ帰れないじゃないか、といった次元の低いことを考えている気配がある。
〇彼はやっぱり「地政学の人」なのでありましょう。特殊勢力圏とか利益圏とか、そういう時代遅れの発想の方がしっくりくるのである。これはロシアの外交・軍事思想そのものにも根源がある。旧ソ連時代には、「主権制限論」なんてものがありました。これは「社会主義の理想を実現するために、東欧諸国はモスクワの犠牲になれ」という身勝手な議論だったけれども、まだしもブレジネフの時代は理屈があった。社会主義は対面を重んじるからね。
〇その点、プーチンは「NATOは約束を破った」などとおっしゃる。そんな書面はどこにもないんですけど、とか、アンタだって国益のためなら平気で約束を破るでしょう、という反論は棚に上げてのことである。そんな理屈を真に受けちゃいけない。そしてそんな場面で、たじろぐような相手を見下すのがロシアの伝統というものです。
〇しみじみ心配なのは、今の西側諸国ではかかる挑戦に断固として反撃するガッツの持ち主が居なさそうなことである。ブリンケンやサリバンの顔を見ているだけで心配になってしまう。あいつら、頭はいいんだろうけど、腹はできてなさそうだもんなあ。これもまた、メリットクラシーの弊害だと思うんですけどね。
<2月22日>(火)
〇今日は2022年2月22日。2がいっぱい並ぶ日で、にゃんにゃん「猫の日」なんだそうですな。
〇2月22日はアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンの誕生日で、これを祝してアメリカでは2月の第3月曜日がPresident
Dayの祝日となっている。ということで、昨日のNY市場はお休みであって、今日はウクライナ情勢を東京市場がもろ被りとなりました。日経平均は今日は461円の下げですか。明日は天皇誕生日でお休み。日本は気分を変えたいところであります。
〇プレジデントデーということで、今週は連邦議会もお休みです。バイデンさんとしては、ここで来週3月1日の一般教書演説に向けて、いろいろと「仕込み」をしたいところなんですが、しばらくはそれどころじゃなさそうです。しかしここまでいいようにあしらわれて、米ロ首脳会談はホントにやるんですかね?
〇バイデンさんは、「2月中に新しい最高裁判事を指名する」とも言っておりました。初の黒人女性を選ぶとのことですが、いったいどうなるのでしょうか。2月はもう6日しかないですぞ。それから本来ならば、BBB法案の再起動を仕掛けたいところでもあるのですが。
〇ということで、バイデン大統領にとっては試練の日々が続きます。使えるカードは経済制裁のみ。これではプーチンさんは止められませんわなあ。
<2月23日>(水)
〇年初からいろいろあった「2022年の大予測」が早くも的中したり外れたりしている。
●FT執筆陣が占う2022年の世界
Q:ロシアはウクライナに侵攻するか?
A:しない。
大規模な侵攻にはロシア側に多数の死傷者が出るリスクがあるうえ、言い逃れやもっともらしく否認できることを好むウラジーミル・プーチン氏のスタンスにも反するだろう。
プーチン氏は侵攻に踏み切らなくても自分の目的の多くを達成できる。
ウクライナを不安定にしたり、諸外国にウクライナへの軍事援助を思いとどまらせたり、北大西洋条約機構(NATO)を脅したり、ウクライナ東部ドンバス地方での戦闘終結交渉でさらに多くの譲歩を迫ったりすればよいのだ。
ただ、ロシア政府が事態をさらにエスカレートさせる可能性もある。
ドンバスでの戦闘を激化させたり、ウクライナのほかの地方でトラブルの発生や襲撃を促したりするかもしれない。
エスカレートさせる能力はクレムリンが有する最大の資産だ。
By Ben Hall
●ユーラシアグループ「Top
Risks 2022」
リスク No. 5 ロシア
米国とロシアの関係は極めてギリギリの不安定な状態にある。昨年、ウクライナ周辺で
の段階的な軍備増強として始まった動きは、今や、欧州の安全保障構造を再構築すると
いうロシアのより大きな要求へと変化している。これに選挙妨害やサイバー工作の懸念
が加わり、ロシアは国際的な危機を引き起こす寸前である。
プーチン大統領は、NATOの東方拡大に反対するロシアの意向に対応するよう欧米に強
要している。ウクライナとの協定のあり方、ロシアと西側諸国との関係におけるゲーム
のルールという2つの問題で影響力を得るために、ウクライナとの国境に約8万人の軍
隊を集結させたのである。プーチンは自分の信用を賭けている。もし米国主導の西側諸
国から譲歩を得られないなら、ウクライナで何らかの軍事作戦を行うか、他の場所で劇
的な行動を起こす可能性がある。
妥協が可能な分野に焦点を当てれば、外交によって軍事的な対立を回避することはでき
るだろう。ウクライナが NATOに加盟する見込みはないが、米国とNATO同盟国はそれを
公言するつもりもないだろう。しかし、双方はその旨の暗黙の了解に達する可能性があ
る。また、ウクライナへの武器供与の制限やロシア国境付近での軍事演習など、他の問
題についても合意は可能だろう。
しかし、まだ予断を許さない状況だ。上記のような問題が合意されたとしても、プーチ
ンを満足させるには十分ではないかもしれない。プーチンがウクライナに直接侵攻すれ
ば、少なくともロシア国債の流通市場における米国民取引の禁止にロシアは直面し、
NATO軍は前線基地をロシア国境に近づけ、ソ連崩壊以来の緊張を高める事態になるだ
ろう。
プーチンには、そこまで大規模ではないにしても、欧米の同盟に大きな問題をもたらす
別の選択肢もある。ウクライナがドンバス地域でロシア系民族に対する大量虐殺を行っ
ているという(虚偽の)主張に自ら対応して、プーチンは占領地に軍隊を送り込み、そ
の軍隊を守るために占領地を正式に併合し、ついでにウクライナ領土内に小さな緩衝地
帯を追加で奪う可能性もある。このようなシナリオの場合、欧州諸国はその結果生じる
あらゆる経済的影響(そしてこの冬のエネルギー不足)を考慮した上でも、米国との同
盟関係を維持するだろうか。これは想像し難い。欧州との連携が成立しなければ、この
出来事はバイデン政権にとって恥ずべき失敗となり、米欧関係に深い溝を作ることにな
るだろう。
(以下略)
〇競馬でもよくあることですが、レースが終わってから予想を読み返してみると、勉強になることが多いです。いや、もちろん予想が外れたから読むのであるが、上記はFTとユーラシアグループの作品なので、なるほどよくできている。ただし、年初の時点で上記を読んでいたからといって、今日の事態が予測できるわけではない。国際政治は競馬と同じように難しい。
<2月24日>(木)
〇昔から不思議なくらい、イラク戦争が始まった日とか、アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選したときとか、ワシはきまってマーケット番組に呼ばれて、「株はどうなる、為替はどうなる」という話をしている。今日もロシア軍のウクライナ侵攻の当日、「酒匂、川口のゴールデンアワー」に出演しておりました。この番組、出演が決まったのは確か昨年末で、どうやってこんな日をピンポイントで選んでくれたんだろう?
〇とはいうものの、こういう日のマーケット番組はまことに面白い。本日の発見は、@豪州ドルが買われている(「遠くの戦争は買い!)、A英ポンドが売られている(ロンドンのシティから怪しげなロシアンマネーが逃げていく!)、B仮想通貨にもチャンスがあるかもしれない(「有事の金」を補完する?)などである。ドル円は114円台突入で、典型的な「リスクオフの円買い」なんだけど、まあ、来月にはドルは利上げが来ますんで、やっぱりドルは強含むのでしょうな。
〇今日になってみると、プーチン氏は前々から周到に準備をしていたらしく、次から次へと新しい手口を繰り出してくる。まるで鮮やかな手品を見せられているかのようだ。2014年のクリミア併合とそっくりな展開である。今から考えてみると、アメリカのインテリジェンスが警告していたことはことごとく当たっていた。こちらはずっと眉に唾して聞いていたのだが、今となっては脱帽するほかはない。
〇プーチンさんがNATOに対して突き付けてきた要求はすべて真面目なものであった。それが外交ではどうしても得られないことがハッキリして、とうとう実力行使に踏み切って、ウクライナがNATOに加盟できないようにしてきた。アメリカやNATOやウクライナの現政府に対するプーチンさんの敵意は、恨み骨髄であるらしい。いや、まさかここまでとは存じませんでした。畏れ入りました。
〇それではこれからどうなるのかというと、たぶんプーチンさんも「安保脳」の人なので、ロシア経済のことはほったらかしなんだろう。ロシア株価が下がって、ルーブルも下がって、石油価格は100ドルを超えてきたけど、天然ガスを欧州に供給する「ノルドストリーム2」計画は、さすがにドイツがダメ出しをしてきた。おそらく今回の決断は、究極的にはロシアにとって害をなす決断となるのではないか。
〇他方、アメリカは動きそうにない。ウクライナなんて、所詮は欧州の問題だろ?てな感じである。この辺が以前のアメリカとの違いで、2月20日の当欄でご紹介した通り、「外交」に関心を持つ層は4%しかいないのだ。完全内向きな国内世論を背にして、さて、バイデンさんには何ができるのか。来週に控えた一般教書演説はどうなるのか。いや、その前に本日中に行われるはずのG7オンライン会議では、どんな対抗策が打ち出されるのだろう。
〇これでNY株価はどうなっているか。それは明日の「モーサテ」を見てから考えることにしよう。そろそろ寝よう。
<2月25日>(金)
〇先日、こんなツイートをしたんです。
つくづく西側諸国、もしくは大西洋同盟は、『機動戦士ガンダム』における地球連邦軍と同じように無能で情けない存在である。そしてロシア軍はジオン公国のように容赦なく襲い掛かってくる。「人々はみずからの行為に恐怖した」となりませぬように。
〇するとこんなレスがついた。
この例え、笑えないのがジオン公国が地球侵攻作戦の第一目標にしたのがオデッサ
劇中では連邦軍による奪還作戦で有名ですが、戦史として見るとジオンによる侵攻作戦は2月に発動、3月には陥落
その、オデッサがあるのが、なんの偶然かウクライナ
フィクションでありますように??
〇そうであった。地球連邦軍は、黒海沿岸都市のオデッサを奪還することで、ジオン公国との形勢が逆転するのであった。『ガンダム』の中でオデッサは、貴重な地下資源を有する戦略的な要地なのであった。
〇ここで日本政府がウクライナに対して最新鋭モビルスーツとホワイトベースを提供し、ロシア軍の「黒い三連星」を破ってプーチン司令が悶絶する、というフィクションを書きたくなるのだが、現状にかんがみるとわれながら不謹慎すぎるので自粛することにする。
〇それにしても近い将来に、本当に「オデッサ奪還作戦」が実現してしまうかもしれない。いや、ホントにこんなことはフィクションにとどめておきたいものであります。
<2月27日>(日)
〇この週末は「おうちで競馬」はメインレースだけにして、ウクライナ情勢をせっせと勉強しておりました。今はよくしたもので、素晴らしいコンテンツが見つかるものですね。下記のNoteは写真や地図がふんだんに使われていて、見やすいうえに文章もわかりやすい。
●2022年ウクライナ情勢をより深く理解するための歴史文化背景雑学
〇スラブ文明というものは、そもそもウクライナの方が歴史が古い。ところがモンゴル帝国の支配を受けた後は、彼らの戦法を習得したロシアが台頭してくる。そのロシアはソ連時代に、ウクライナにおいて「ホロドモール虐殺」を行っている。ウクライナ人の中には、「帝政ロシアに対する郷愁」と「ソ連共産党時代に対する嫌悪感」がないまぜになっていて、なおかつ急速に民主化して、近代化している今日の状況がある。「鈴木さんと佐藤君」が言っていたような単純な話ではありません。
●続編2:2022年ウクライナ情勢をより深く理解するための歴史文化背景雑学
〇こちらでは現在の戦況について分析されています。チェルノブイリ発電所が占領されたのは、単に国境からキエフへの最短ルートだったからのようです。それからクリミア半島から北上するロシア軍は、西方からモルドバ共和国方面も目指しているとのこと。黒海への出口を完全に塞ぐ狙いがあるのではないかと。ただしこの戦争、長期化して犠牲が増えればロシア国内でも反対が増えるだろうから、プーチンさんも盤石な状態ではないようです。
〇正直なところ、2月24日の開戦から3日目になっても、まだキエフが陥落していない、というのは意外な気がしています。ウクライナ軍はちゃんと抵抗しているし、ゼレンスキー大統領は立派な指導者に見えます。少なくとも、タリバンの攻勢から真っ先に逃げ出したアフガニスタンのガニ大統領よりは100倍以上。どうでもいいことですが、カルザイとかガニみたいな人物を担いでしまうところに、近年の米軍の劣化を感じるものであります。
〇それからこちらは、日本で唯一まともな地政学者と呼ばれる奥山真司先生のブログにおいて、ローレンス・フリードマン教授の論考が紹介されている。
●プーチンは失敗した?フリードマン論文
(原文はこちら:A
Reckless Gamble -- Wars rarely go to plan, especially if you
believe your own rhetoric)
〇戦争は計画通りにはいかないものだ。特に自分のレトリックを信じているときは、というのは至言でありましょう。かつては、「米軍がイラクに攻め込めば、彼らは解放者として迎えられるだろう」てな予想もありました。金融制裁も大規模なものになるようですし、ひょっとするとプーチンさんは大悪手を指してしまったのかもしれません。
<2月28日>(月)
〇本日は日本記者クラブにて、「バイデンのアメリカ」という連続研究会の第15回講師を務める。恐ろしいことに、ユーチューブの会見動画までアップされているではないか。そして会場は30人程度で、リモート参加者が70人くらい、というハイブリット型のプレゼンテーションになっている。いやあ、世の中変われば変わるものである。
〇前回、ここに呼ばれたのは2008年10月15日のことであって、そのときはリーマンショックの直後で、「金融危機と米大統領選」というテーマであった。オバマvs.マッケインの時の大統領選挙である。あのときは会場に100人以上入っていて、壇上から「あっ!フジテレビのヒゲアベさんが滝川クリステルさんを連れてきている!」と発見したことを記憶している。
〇それから幾星霜、ワシも年を取ったものだが、語る対象たるアメリカも随分変わってしまった。今回のウクライナの事態に際しても、「民主主義を守れ!」みたいな声はあんまり聞こえてこない。むしろ、「ウクライナはNATOじゃないからね」とか、「あれはヨーロッパの問題でしょ」とか、「プーチンがおかしくなったのは、やっぱりパーキンソン病のせいかねえ」みたいに他人事モードの反応が増えているようである。
〇その昔、誰彼構わず"How are you doing?!"と声をかけまくり、世界の果てまで行って善意を押し売りせねばやまず、と振舞っていた明るいアメリカはどこかへ行ってしまったようである。そのことを疎ましく感じながらも、中国やロシアや中東や中南米の若者たちは、内心では「ああ、俺もアメリカに行って自由に生きたい」と感じていたのではなかったか。そういう夢が失われてしまったということ自体が、今の世界を多少、息苦しいものにしてしまっているように思えてならない。
〇ともあれ、昔まぶしく感じた楽天的なアメリカの記憶は、今でも自分の体内のどこかに残っていて、それがなかったらずっと寂しい人生だったんじゃないかという気がしている。いかんですなあ、ついつい繰り言が多くなってしまいます。これも老化現象でありましょうか。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki