●かんべえの不規則発言



2013年8月






<8月1〜2日>(木〜金)

○8月1日朝。民主党の樽床伸二さんの朝食勉強会で講師を務める。こんな感じで大盛況でした。

○樽床さんには久しぶりに会ったのですが、ご本人には大変失礼なことながら、つい大真面目にこんなことを言ってしまいました。

「大臣になっても、落選されても、こんなに変化のない人はめずらしいですなあ」

○ご本人は「いやあ、そんな風に見えますかねえ」と笑ってましたが、本当のところは顔で笑って心では泣いておられるものと存じます。民主党がどうなるかはさておいて、樽床さんのことは私も応援してますので!


○8月1日昼。財界人スタッフを長く務めてきたEさんとランチ。TPPやら農業のことなどで意見交換。「日本の農産物は、われわれが思っているほどには海外でブランド化されていない」「工業製品であれば当たり前のコスト削減努力がなされていない」といったことが肝か。

○TPP交渉はまことに画期的なことが起きている。鶴岡主席交渉官を自民党の部会が読んでつるし上げしたら、果たしてどんなことになるのだろうか。きっと「守秘義務があるから言えません」ということになる。そりゃあ、交渉内容が日本からバレたとしたら一大事ですわな。でも、鶴岡さんは、きっと甘利TPP担当大臣には報告しなければならないだろう。だったら、自民党の部会は甘利大臣を吊し上げればいいのだろうか。面白すぎる・・・・。


○8月2日。久しぶりに田原さんに会ったら、病院から抜け出してきているとのこと。壇蜜さんが入院の原因と言うのは、ちょっと出来過ぎたお話のような・・・・。それでも79歳、今日も元気で怪気炎を吐いておられました。


○『危機に立ち向かう覚悟』(小林喜光&橘川武郎/化学工業日報社)を読む。化学会社の話はよく分からないことが多いけれども、なかなか面白い。本筋とは全く関係のないことながら、時節柄、中国経済に関する小林氏の下記の指摘にハッとするところがある(P98-99) 。

「石油化学製品などコモディティ商品が売れないんですよ。2011年の7月頃からそうなっているんです。それでジーッと、そろそろよくなるだろうと思いつつ待ったのですが、旧正月すなわち中国で言うところの春節が明けても、全然よくならない。今でもまだ駄目です。ポリエステル原料のテレフタル酸などを見ると、値段が全く上がっていない。実は中国だけではなくて、インドも思ったよりよくないんです」

「リーマンショック時は、ほんの数か月でものすごく深く落ちたけれど、素早く立ち直ったじゃないですか。今回のコモディティ系の不振は、深い上に長いんですよ」

「中国の構造的な変化と言うか、大分引き締めて7.5%成長と言っているけれど、本当にそんなところでとどまるのかなという雰囲気がありますね」

○日本の対中輸出の中で、化学品は大きなアイテムなので、この証言は非常に貴重だと思います。


○今宵の金曜ロードショーは「天空の城ラピュタ」。またしても「ジブリの呪い」が・・・・。そして今宵発表された米雇用統計は、NFPが16.2万人増(力弱い!)で失業率が7.4%(0.2%改善!)という結果でした。一長一短と言うか、波乱含みと言うか・・・。ちょっと悩ましい。


<8月4日>(日)

○今週はそろそろ社会保障国民会議の最終報告が出るそうです。まあ、中身はだいたい予想の範囲内だと思いますけれどもね。

○先月は法事が2回あったりしたもので、自分より高齢の方とご一緒する機会が多かったのですが、いろんな声を聴きました。少々漫画チックに編集すると、こんな感じでありました。


「もう私たちは病院に行くべきじゃないと思うの。だって待合室なんて、元気な老人ばっかりなんだもの」

「そういえば昔の落語にあったよねえ。『××さん、今日は来てないね。早く元気になって、病院に来てほしいわあ』っての」

「だいたい診療費が安過ぎるのよ。窓口負担が1割って、おかしくない?」

「おっ、知らんのか?あれは選挙が終わると、じきに2割に上げられるんだぞ」

「それにしたって、8割は払ってもらえるわけでしょ。私たちがあんまり使っちゃうと、本当に必要な人に回らなくなるんじゃないかって」

「たしかに年をとると、いろんなことを面倒見てもらえるのよねえ。××市なんて、70歳になると地下鉄のICカードをくれちゃうの。年に1万2000円も」

「それはね、年をとっても家に閉じこもっていないで、ちゃんと外に出てきてください、ってことでしょう」

「はいはい、ちゃんと外へ出てお金も使いますから」

「そうよねえ。たまには病院以外のところへも出かけないとねえ」


○結論として、本当に病気になってしまうと病院へも行けなくなるんだから、なるべく元気なうちに病院に行っておいた方がいい、ということになりました。

○真面目な話、最終報告はたいしたことはないんだけど、これを契機として民主党が三党合意を反故にして、ついでに消費税にも反対だあ、となるかどうかという政局面が注目されてしまうのかもしれません。私はやっぱり、医療や年金は超党派でやった方がいいので、三党合意は大事にしておいた方がいいと思うけどなあ。


<8月5日>(月)

○やや旧聞に属する話ですが、キャロライン・ケネディ氏が次期駐日大使に任命されました。プロの外交官でない人を、彼女はセレブだからといって選ぶわけですので、「いかがなものか」という声はアメリカでもあるようです。ちなみにウィンストン・ロードは、職業外交官の鑑みたいな人ですので、お気持ちは重々わかります。

○他方、駐英大使なんぞは、アメリカでは伝統的に猟官人事の指定席となっておりまして、例えばJFKの父であるジョセフ・ケネディは、フランクリン・ルーズベルトに対して巨額の政治献金をしてこのポストを射止めております。その孫にあたるキャロライン・ケネディは、2008年選挙で絶妙のタイミングでオバマ支持を表明し、脱ヒラリー・クリントンの流れを作りました。ちょうど2月頃だったので、「キャロライン・ケネディからバレンタイン・カードをもらって喜ぶオバマ」というマンガが描かれたことを思い出します。まあ、あからさまな論功行賞人事なわけですが、駐日大使もそれくらい安全で普通のポストになったということではないでしょうか。

○もっともアメリカ大使ともあろう人が、着任後に「8月6日って、何か特別の日だったっけ?」と言い出してしまうリスクもあるわけでして、その辺は周囲がちゃんとサポートしなければなりません。セレブというのは、本来がそういうものであります。日米双方で上手に盛り上げる必要があるでしょう。とりあえず、誰が彼女のアドバイザーになるのかが、日米関係コミュニティの関心事となっております。

○それさえうまく行けば、日本人は基本的にミーハーですから、「キャロライン・ケネディ大使」が大人気になっちゃうような気もします。とりあえず「一緒に写真を撮りたい」というお客人はいっぱい出てくるでしょうね。さらに今年11月22日は、JFK暗殺から50周年となるわけなんですが、そのとき彼女が東京に居るとしたら、これは世界的な注目を集めることでしょう。なにしろ、あのときに棺の傍らに立っていた少女が、当のキャロライン・ケネディなわけですから。

○ちなみにJFKの暗殺にはいくつもの謎があって、ケビン・コスナー主演の映画も作られたりしたわけですが、その後の調査の進展により、現在ではオズワルド単独犯行説でほぼ落着しているのだそうです。半世紀後になっても謎解きの手を休めないのは、さすがアメリカでありますね。日本の場合、下山事件など迷宮入りの事件がいっぱいありますから。

○ともあれ、「ケネディ大使をどう使うか」は、今後の日米関係にとって重要な含み資産(ただしダウンサイドリスクもあり)ということではないかと思います。


<8月6日>(火)

○最近聞いてちょっと感心した言葉をご紹介。ネタ元は秘すという「チャタムハウスルール」にて。


「日銀がお金を『じゃぶじゃぶにしている』、とよくいうけれども、あれは『だぶだぶ』(Dove, dove)にしている、と呼ぶ方がふさわしいのではないか」

――つまりサマーズだと「じゃぶじゃぶ」だけど、イェレンなら「だぶだぶ」って感じでしょうか。「なむなむ」。


「欧州債務危機とアラブの春は、実は地中海の北と南のことだから、環地中海危機と呼ぶのが正しい」

――スペイン、イタリア、ギリシャ、トルコ、シリア、パレスチナ、エジプト、アルジェリア・・・・。なるほど、すべては旧ローマ帝国の版図でありますな。


「オリンピックは商業化が進むとともに、精神の方も純化が進んでしまった。今では開催地を決めるロジックは、並大抵のことではない。

――要するに壮大な偽善の大系ができてしまったということなのでありましょう。大丈夫かなあ、東京。


「思想の輪郭が見えにくい人は、実物よりも大きく見える」

――昔から深沈厚重は、磊落豪雄や聡明才弁に勝る第一等の資質とされておりまする。


「醤油を海外に売る仕事をしていて、いちばん難しかったのは欧州だった」

――あの人たちにとって、「食は文化なり」は洒落じゃないものなあ。


「昔から知っている人の事業は切れない。だから、リストラには他所者が必要になる」

――昔から知っている人の事業を容易く切れてしまう人が居たら、そいつはリーダーじゃなくて人非人でしょう。


○ほかにもたくさんあったはずなのだが・・・。ちゃんとメモしておいた方がいいのかな。でも、「忘れてしまうのは、所詮その程度の言葉である」という気もするわけでありまして。


<8月7日>(水)

○先日、T社の人から聞いたのだけど、マツダのスカイアクティブはすごいんだそうだ。なんとなれば、このご時世にEVもハイブリッドもやらず、ただただガソリンエンジンの技術を磨いて、あんなものをつくってしまったのだから、とのこと。

○といっても、ワシはクルマの技術のことなど皆目不案内である。スカイアクティブという名前は、先日のオールスターゲームの時にCMで流れていた、くらいの知識しかない。でも、T社の人間がお世辞を言うとも思われないので、たぶん本当にすごいのであろう。1世紀以上の歴史を持つガソリンエンジンに、まだまだ発展の余地があった、というのは痛快な話だと思う。

○別途、自動車産業に詳しい方に聞いてみたら、こんな評価であった。「マツダはねえ、ずっと前から『後のない会社』なんです。いつもギリギリで勝負しているから、ロータリーエンジンも止めちゃった。でも、それでしっかり生き残っているし、今度の危機もどうやら切り抜けつつある。あれはきっと、広島県とその周辺出身の技術者たちの意地の塊みたいな会社なんですな」。

○日本という国は、普通に考えると自動車会社が多過ぎるのであるが、だったら再編・統合したらいいかというと、そうでもなさそうだ。再編しちゃうと、ローカル色が薄れてしまうので、結局、強みも失われてしまう。広島でないマツダとか、浜松でないスズキなんて考えられませんからな。地元出身者の意地、というファクターは、ものづくりにとって小さなものではありません。

○それとはまったく無関係な話なんですが、今日、ワシはT社のハイブリッド車で長距離を走っておりましたところ、高速道路を走るとガソリンの減り方は普通のクルマとあまり変わらないのですな。その辺がまだ慣れないものだから、高速道路を途中で降りて給油する、などという恥ずかしいことをやらかしてしまった。もちろん高速でガス欠をやらかすと、恥ずかしいどころか危険かつ迷惑千万なので、それは当然なんですが、ガソリン車の時代はまだまだ意外と長く続くんじゃないのかなあ、などと考えた次第です。


<8月8日>(木)

○今日は北陸電力志賀原発を見学。過去に女川原発(東北電力)、浜岡原発(中部電力)、大間原発(J-POWER、ただし建設中)を見ているので、少し見慣れてきたところがある。まとまらないまでに、若干の感想を備忘録として下記しておきます。



●原発再稼働の条件として、いろいろ言われているのはハード面の話が中心である。たとえば、「重要免震棟を作らねばならない」とか、「フィルター付きベントがあった方がいい」といった話である。「目に見える努力」は、カネはかかるけどわかりやすいので、ついついそちらが中心になる。他方、防潮堤が高さ何メートルであるとか、規制委員会に提出する書類が厚さ何センチになったからと言って、それで実質的にリスクが軽減されるわけではないだろう。つまるところ、事故を起こさないために必要なことは、ハード面ではなくて主にソフト面の努力にあるのではないか。

●組織が硬直化して悪い情報が上に上がらない、なんてことが多いのが日本の組織である。福島の事故の際にも、政府や東電本店と現場の連携がうまくいかず、ずいぶんと混乱があったものだ。そういう意味では、危機を想定した際に重要なことは、「合理的な指揮命令系統」や「組織の風通しの良さ」なのではないか。端的に言えば、「ウチは所長に対して部下がなんでも言いたいことが言える」式の人的魅力とか、チームの団結力こそが本当は重要なはずである。

●ところが困ったことに、ソフト面の改善はなかなか数値化できないし、周囲にアピールすることも難しい。できることと言ったら、なるべく実務担当者が外の人に会って、「こういう人たちが原発を運営してます」という姿を印象づけることくらいであろう。ただし実際には、「9/11」後の対テロ対策の潮流としては、原発はなるべく外の人に見せないことが方針となっている。

(ちなみに志賀原発の中には警察が常駐しているし、海岸には海上保安庁も立ち寄るようになっている。能登半島には北朝鮮の不審船も少なくないそうである)

●ところが現実に行われている「安全対策」は、むしろお役所仕事を強化しているようなところがある。マスコミもついつい「ハード面」のわかりやすい話ばかりを強調する。しかるに危機対策をいくらマニュアル化しても、「これで大丈夫」ということはないだろう。むしろ必要なのは、現場が有している緊張感や連帯感や鮮度のようなものを、いかに次の世代に引き渡していくか、であろう。この辺は属人的な要素も加わってくる。例えば、「女性の原子炉主任技術者を作りたい」というのは、組織の努力目標として正しい方向なんじゃないかと思う。

●もうひとつ。志賀原発は、原子力規制委員会から「地下に活断層があるのでは」という指摘があり、現在、報告書を作成中である。ボーリング調査などの結果では、「どう見てもこれは活断層ではない」という状況証拠が出つつあるのだけれども、規制委は基本的に「裁判官と検察の機能を兼ねている組織」であって、立証義務は事業者の側にある。「畏れながら、私どもは無実にこざりまする」と言って、素直に受け止めてもらえるかどうか・・・。



○福島事故後の制度変更は、ちょっと無理筋なところが多いのではないかと思う。福島の汚染水や柏崎刈羽をどうするか、などといった問題もでてきている。どうやって今後修正していくのか。悩ましいところながら、今日はとりあえずこの辺で。


<8月11日>(日)

○10日の朝、富山市内の高志の国文学館に立ち寄ってみた。かつて母校(富山中部高校)の前にあった、知事公舎の跡地にそんなものができたと聞いて、興味半分と時間つぶし半分というくらいのノリで。ちょうどこの日から新しい企画展「辺見じゅんの世界」が始まるというタイミングでもあった。辺見じゅん氏は、本当はこの文学館の館長になるところを、急逝してしまったという経緯があったのです。ただしワシ的には辺見じゅん氏にはそれほど関心がなくって、せいぜい藤子不二雄関連の常設展でも見てこようかなあ、という程度であった。

○ところが訪れた午前10時は、ちょうど企画展の開会式をやっている最中であった。なんとそこには知事さんやら県内の有力者やら、洒落にならない人たちが勢ぞろいしている。それではワシも困るではないか。後ろの方でこっそり聞いていたら、なんと来賓として角川春樹氏が来ていた。辺見じゅん氏の弟さんですからね。それはそうと、角川グループ創業者の角川源義さん(富山市水橋出身)は、「げんよし」さんと呼ぶのを初めて知りました。

○このハルキ氏の挨拶が面白かった。この文学館は広くて立派だけど、館長室は手狭になっていて、この辺が富山らしい、という指摘は地元では受ける話でした。その上で、こんなことを言っておられました。

「ノンフィクションというものは、何でも暴けばいいというものではありません。隠すべきことはちゃんと隠さないと」

○ご自身が散々いろんなことをやって、いろんなことを書かれた人だ、というのはこの際、棚に上げるとしましょう。本当にその通りだと思います。真実に迫るときには、いろんな陥穽があるのです。

○世の中に、「肉は赤いけれども白いところもある」という現実があるとして、「肉は概ね赤い」と書くのが歴史であります。そして、「赤いと思われている肉には、実は少なからず白い部分もある」と書くのがアカデミズムである。さらに、「肉は実は白かった!」と書くのがジャーナリズムである。そして、得てして前2者は関心を集めることは少なくて、「肉は赤い」「いや、白い」という論争が起きてしまうというのがよくある話でありまして。

○ノンフィクション小説が陥りがちなのが、「我、これを発見せり」という著者の功名心である。そしてまあ、そういう斬新な発見に読者は反応する。ただし、結果として実態からは遠くなってしまう。「肉は概ね赤い」は真実だが、「肉は概ね白い」は間違いになってしまうのだ。ただしせっかく見つけた材料を捨てて、「肉は概ね赤い」と書くことには勇気が必要になる。

○8月15日が近付くと、歴史問題が脚光を浴びる季節である。これに関する問題のほとんどは、「肉は赤い、白い」論争みたいなものではないだろうか。「肉は概ね赤い」という、エキサイティングではない真実を受け入れる、という謙虚な姿勢が必要なんじゃないかと思います。


<8月12日>(月)

○8月15日が近付いている。以下は若干の思考実験です。

○たぶん安倍さんは靖国参拝しないだろう。去年、自民党総裁だったときに、「秋の例大祭」で靖国神社に参拝した時点で、そこまでは考えていたはずである。そもそも靖国神社が祭っているのは、太平洋戦争の死者だけではない。8月15日の参拝に固執すると、安政の大獄の志士に始まる「それ以外の戦死者」はどうなるのかという問題が生じる。だからこそ春の例大祭には、麻生副首相以下に代わりに行ってもらった。これは「8月15日は勘弁してやる」というボディランゲージなんだと思う。あいにく中国と韓国にはまったく通じていないようだけれども。

○となると、秋の例大祭をどうするかという問題は残る。安倍さんは、おそらくまだ決めていないんじゃないかと思う。というよりは、ここは「あいまい戦略」を続けることによって、外交カードにするのが得策である。とりあえず、8月15日に行かないだけで、中国外交部がホッとする、という図式ができるのだから。

○麻生副首相がどうするかはよくわからない。このところミソをつけたこともあり、この際、8月15日にもピシッと参拝して、9月の内閣改造で潔く閣外に去る、という手もアリかもしれない。それよりも問題は9月7日のIOC総会であって、2020年夏季五輪開催地で東京が負けた場合、以前であれば「悪いのは猪瀬」でケリがついた。ところが先の「ナチス発言」があったせいで、「負けたら麻生のせい」になるかもしれない。安倍内閣にとっては痛手になりかねない。まあ、勝てればいいんですけどね。

○閣僚の中には、「確実に行くだろうな」と思える人が何人かいる。おそらく中国側としては、吉例に則って「総理、官房長官、外相が行かなければよし」で済ませる腹なんじゃないかと思う。ただし、100人以上の議員が参拝するようだと、さすがにこれは問題かもしれない。なにしろ1年前に比べて、自民党議員は200人から400人に倍増しておりますので。

○過去3年間の民主党政権時代は、参拝する与党議員は極めて少なかった。そして民主党の議員は、最盛期には400人以上いたのである。ゆえに2013年をそれ以前と比較すると、「前年比激増(当社比)」になることは間違いないだろう。となると、中韓としては参拝する議員の数を指摘して、「これぞ日本が右傾化している証拠」と言いたくなるだろう。

○他方、日本国民としては、そんなことで右傾化と言われるのは、ちと承服しがたいと思う。「民主党がダメだったのは、政権担当能力がなかったからで、左翼だったからではない」「今の自民党政権の支持率が高いのは、右翼であるからではなく、とりあえずまともに政権を動かしているから」であろう。この問題、ちょっと悩ましい。


<8月14日>(水)

○暑いです。頭の中の血管がぷちぷちと音を立てて切れているような気がします。なんだか子供のころに比べて、夏の気温は5度くらい上がっているような。昔の30度が今の35度くらいの感じじゃないでしょうか。

○お盆であります。ふと気がついたのですが、東北の被災地では、「3/11」犠牲者にとって3回忌のお盆になるのですね。お寺はさぞかし多忙であろうことと存じます。心静かに鎮魂の季節を送りたいものであります。


<8月16日>(金)

○本日は休業中。思考も停止中。


●『評伝 若泉敬ーー愛国の密使』(森田吉彦・文春新書)

○3/11の直前に読み出して、その後、「積読」状態になっていたものを、かろうじて読了。若泉は佐藤首相の密使として沖縄返還交渉に携わるが、米軍による核持ち込み密約を認めたことにのちに苦しむ。現実主義というのは便利な言葉で、お手軽な現状追認に流れる際のいい口実になる。そうやって日本の政治や社会が理想を失っていくのを見ながら、晩年の若泉は鬱屈する。『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』を残し、身辺を綺麗に処分してこの世を去る。お手軽な現実主義者としては、深く首を垂れるほかはない。

○今の時代には考えられなかったような話がたくさん出てくる。たとえば、若泉は「世界戦略」という言葉がつかえなかったために、やむなく「全方位平和外交」という言葉を編み出したのだそうだ。当時の平和主義的な風潮から言えば、「戦略」という言葉は、使うこと自体が一種の禁忌だったのである。ところが奇妙なことに、民主党政権以降、「戦略」という言葉が大安売りで使われるようになった。果たして日本社会は右傾化したのか、それともまともになったのだろうか。

○若泉はマキャベリの『政略論』の中で、このくだりがあるページにしおりを挟んでいたという。

「全力をふりしぼらずに全運命をかけるようなことがあってはならない」

○これは世界戦略以前に、人生論の問題としてそうあるべきである。ここぞというときは、気迫を込めて牌を切らなければならない。ましてや、「がんばらなくていい」などと説く駄本は、力を込めて投げ捨てるべきである。


●『アリオン』『ナムジ』(安彦良和・中公文庫)

○子供が「ギリシャ神話と日本の神話」などという夏休みの課題を持ってきたので、ついつい昔読んだ「アリオン」を取り寄せて読み返し、ついでに「ナムジ」も買ってきてしまった。「アリオン」は懐かしいし、「ナムジ」は面白い。しかるに「ナムジ」のラストは尻切れトンボで、この後の「神武」シリーズも買わなければならないらしい。ガッデム!

○安彦良和は元・虫プロだけあって、いろんな場所で手塚治虫の『火の鳥』が顔を出す。というか、ギリシャ神話と古事記をもとにマンガを書こう、という発想がすでに手塚的であるけれども。団塊世代に属する安彦は、思えば既に還暦を過ぎている。ところが30歳前後で当てた「ガンダム」以来、絵が変わっていない。お蔭でアテナイも卑弥呼もマチルダ中尉に見えてしまう。が、「ナムジ」のうさぎのイメージには萌えた。

○で、ギリシャ神話と日本神話の共通点について少々。

@一神教ではなく多神教である。端的に言うと、あまり偉いとは思えない。

A神々のキャラが立っている。皆さんやんちゃな性格で、性的にもかなり放埓。冒険が多くて、英雄譚の宝庫。

B人間との関係が悩ましい。プロメテウスもスサノオもそこに苦しんだ。

C「黄泉の国」のイメージが瓜二つ。エピソードも似ている。シルクロードを経て伝わったのだろうか?

D当時の末子相続制を反映してか、常に兄よりも弟が賢い(ハデス<ゼウス、海彦<山彦)。

○逆に相違点としては、日本神話の方が女性に力点が置かれていて、行動にも自由度が高い。情けない男がたくさん登場する点も、好感が持てますわなあ。


<8月17日>(土)

○夏休み映画に『終戦のエンペラー』。流山のTOHOシネマズに行ったのですが、プレミアシートは昨日は満席でした。やはりお盆の時期にこの手の映画は鉄板ですな。それともやはり、トミー・リー・ジョーンズの効果でしょうか?

○大絶賛映画というほどではありませんが、良い映画だったと思います。少なくとも太平洋戦争をめぐる「日米関係」を描いて、これだけ齟齬やイライラ感が少ない映画はほとんど初めてといっていいほどです。アメリカ人が日本を描くと、どうしても変なところができちゃうわけであります。『ブラックレイン』や『硫黄島からの手紙』のようなすぐれた作品でも、「なんじゃこれは!」と叫びたくなるようなシーンがありましたからなあ。『トラ!トラ!トラ!』なんてアナタ、そりゃあひどいもんだったんですから。

○その点、この映画は畏れ多くももったいなくも、「昭和天皇」を描いている。しかもその戦争責任という「謎解き」をテーマにしている。にもかかわらず、たぶん日本人の観客で、「これは不敬だ!」と言って怒りだす人はあんまり居ないんじゃないかと思う。だいたい納得の範囲内ではないのかと。逆にアメリカ人の観客がどう見るかは分からないんだけれども、「天皇に戦争責任はあったはずだが、それを問わなかったことはたぶん間違っていなかったんだろうなあ」という理解になるのではないかと思う。

○その辺をどうやってごまかしたかというと、ハリウッドらしく物語に「ロマンス」を挟み込むことで、「うやむや」にしてしまった。そこがケシカラン、という批判は少なくないだろうが、逆にそれ以外にこの映画をうまくまとめる方法は見出しにくい。その上、中村雅俊が見事に化けた近衛文麿が、主人公相手に「英米本位の平和主義を排す」みたいなお説教をしていたりする。つまり日本側の言い分にも配慮してくれているのである。昔からずっとそうだが、ハリウッドはつくづくドイツには辛くて、日本には甘い。まあ、そのくらい昔から日本は、ハリウッドにとっていいお客さんですからなあ。

○アメリカ映画が日本を描くときは、いろんな「日本論」が語られるものである。この映画の中では、「日本人の本質はDevotionにある」という説明があった(正確ではないのでご注意を)。劇中ではこれを「信奉」と訳しているのだが、うーん、そりゃ「献身」くらいの方がいいんじゃないか、などと思いながら見ていた。家に帰ってから気がついた。そうだ、Devoitonは「滅私奉公」ですな。

○自分が貢献すべき明白な対象を持っているときの日本人は幸せである。それが「お国のため」でも、「会社のため」でも、「家族のため」でも、なんでもよろしい。自分がチームの一員であることが確認できるとき、どんな勤労も自己犠牲も辛くはない。例えばこんな風に。その辺のメカニズムが壊れてしまうと、各人がdevoteすることができなくなって困ってしまう。この辺が日本社会の強みであると同時に弱さでもある。

○ただし、ときどき独自の目標を設定して献身できる人たちがいて、彼らは「オタク」と呼ばれる。オタクは普通は冷たく扱われるものだが、昔から日本社会はそこはかとなくオタクにやさしい。いつの時代になっても、堀越次郎みたいな人がいて、"devote onself to〜ing" している。幸いなるかな。


<8月18日>(日)

○たまの休みに何をするかといえば、一昨日が読書、昨日が映画、そして今日は競馬。ちっとは身体を動かした方がいいのではないだろうか?

○で、今日は札幌記念。とっても難解なレースである。皐月賞馬のロゴタイプと、このところ絶好調のトウケイヘイローの二強対決のようだけれども、古豪トーセンジョーダンはいるし、「夏は牝馬」という法則も有之、レインボーダリア、アイムユアーズ、ホエールキャプチャなどもそそられる。いろいろ考えた挙句、牝馬4頭のワイドBOX買い、という奇手に打って出るが、答えは@トウケイヘイロー、Aアスカクリチャン、Bアンコイルド。牝馬はゼロである。トウケイヘイローは先行逃げ切りで6馬身差の勝利。鞍上の武豊騎手はこの日、9R、10Rと連勝して、そのままの勢いで札幌記念も持っていきました。

○とはいうものの、競馬に集中する休日はまことに楽しい。無責任な喜怒哀楽が、なんとも得難いのである。

○高校野球、第4試合は富山第一高校が木更津総合を破って富山県勢としては40年ぶりのベストエイト進出である。ピッチャーの宮本君、140キロ台の直球に変化球が程よく混ざって、これまで2完封で無失点である。カーブはしょぼいけれども、落ちるスライダーはいかにも打ちにくそう。これでは明日の準々決勝が気になって仕方がないではないか。

○ということで、明日は仕事である。朝はモーサテです。早起きしなきゃ。


<8月20日>(火)

○最近の国際情勢ネタについて、いくつか妄言を吐いてみたくなりました。

○その1。朝鮮半島における植民地時代の強制労働に対し、ソウル高裁が新日鉄住金に対して賠償金の支払いを命じたことは、とんでもない話であります。最高裁判決がどうなるかは分かりませんが、さすがは「法律の上に憲法があり、憲法の上に国民感情がある」というかの国らしい無軌道ぶりだと思います。

○こういうことがまかり通るのなら、日韓間でISD条項が必要でありますな。といっても、韓国はTPP交渉に参加する気はなさそうなので、米韓FTAを使って訴訟を起こす手はないものか。そうか、韓国が日韓FTAに乗り気じゃないのは、その辺のことを慮ってのことか。などと、嫌味を言いたくなる昨今であります。

○ところが本件に対し、安倍内閣は不思議と沈黙を守っている。いくら行政と司法は別物とはいえ、「日韓基本条約をいかに心得ておるのか!」くらいの苦情は言うべきではないだろうか。それを言わないということは、意外と日韓首脳会談の準備が整いつつあるのかもしれない。来月のG20あたりでね。それも納得で、パククネ政権としては、先に日中首脳会談が成立した日には目も当てられない。逆に日韓が先行して、日中が後に残る分については中国はさほど困らない。日本に対する中韓の我慢比べ、みたいな構図があるのではないかと。

○その2。エジプトの事態はとっても悩ましい。軍部は二度と民主主義に戻ろうという気はないみたいだし、この際だからムスリム同胞団をとことん弾圧してしまえ、どうせ欧米メディアは文句を言うまい、みたいに心得ている様子。他方、ムスリム同胞団の側は、ほっとけばアルカイダ路線に向かうかもしれない。こうしてみると、2年前の「アラブの春」を喜んでいた人たちはなんだったのか、ということになる。欧米メディアは、つくづく人がいいよねえ。

○思えば2年前、「アラブの春」が自国に及ぶことに怯えて、インターネットの取り締まりに血道をあげていたのが中国であった。お蔭で中国に春は来なかったが、13億の民はなおも共産党のコントロール下にある。あんまり褒められた話ではないが、こっちの方が賢かったのかもしれないねえ。

○その3。今朝の「くにまるジャパン」でもお話ししましたが、来る9月7日のIOC総会は、IOC委員100余名による無記名投票による一発勝負である。それこそ、鬼が出るか蛇が出るか分からない。「東京にほぼ内定」なんてお気楽なことを言える人の気がしれない。王侯貴族、経営者、スポーツ選手たちの集団で、うち半分近くが欧州人という特異な集団なんで、そもそも「票読み」なんて当てにならんのです。

○どうもこういうときに、日本人はいつも「自民党総裁選」をイメージしてしまうものらしい。「願いあげましては、○○派が何人、××派が何人、締めて過半数」みたいな多数派工作の計算をしてしまう。でも、IOC総会の実態は、むしろ民主党代表選挙に近い。当日の開催都市の演説を聞いて、その場の雰囲気で決めるという委員が多いのである。

○でなきゃ2009年のIOC総会で、真っ先に落とされたのがシカゴだった、なんてことにはならんでしょう。あれはリーマンショックの1年後だったので、欧州人たちが最初からアメリカに腹を立てていたのと、おっとり刀でコペンハーゲンに乗り込んだオバマ大統領(当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった)の応援演説が、ちょっと癇に障ったというのが敗因だと言われている。「空気嫁」ってやつですな。日本としては、くれぐれも反感を買わないようにしたいものです。


<8月22日>(木)

○今週発売の週刊新潮によれば、東洋学園大学教授の朱建栄氏が行方不明であるらしい。上海に戻った際に、「二重スパイ容疑」をかけられて軟禁状態になっているのではないかとの噂である。それにしても、大新聞各紙はこういう話を報道しませんな。記事に書いてしまったら、社説で触れなきゃいけなくなるから困るんでしょうか。中国政府への遠慮よりも、せめて柏市在住のご家族への同情の念が少しは欲しいところです。

○朱さんは中国共産党員で、そのわりに普通に日本のテレビに出て活発に発言していた。思い切ったことを言っているようでいて、ちゃんと共産党のラインは外しておらず、「ふふーん、今はここまでなら言っても許されるのか」が分かる、得難い指標のような存在であった。おそらく中国共産党にとっても、日本のメディアにとっても、ありがたい存在であったのではないかと思う。

○朱さんとは他日、こういうPR誌の座談会で会ったばかりである。記事はこちらをご参照。

○雑談の際に、朱さんがこんなことを言ってたのが印象に残っている。

「いやあ、習近平は思ったより早く権限を掌握しましたね。中国でも驚いている人が多いですよ」

○ちょうど麻雀をやってる最中に、「いやあ、配牌は悪かったけど、ツモがいいからデカい手ができるぞぉ」と言われているような感じであった。でも、本当に自分の手牌が良かったら、そんはことを言うはずがないのである。・・・何があったかは存じませんが、朱さんがご無事に戻られることを祈っております。


<8月24日>(土)

○今週、大手町のパレスホテルに行く機会があったのですが、すごい立派なホテルになっちゃいましたねえ。といっても、新しくなってからずいぶん時間がたっているのですが。

○昔、経済同友会に出向していた頃には、パレスホテルは仕事関係の会合が非常に多くて、ほとんど職場の延長みたいな感じでありました。あまりに入り浸っていたので、ドアマンなどには完全に顔を覚えられておりましたな。地下には、自分のお財布で入れる程度の店もちゃんとありましたし、悪くない場所でありました。

○以前のパレスホテルは、建物は古いし、食事は東京會舘よりも落ちるけど、皇居が見えて、まことに使い勝手が良いホテルでありました。ぶらりと入ってソファーで時間をつぶす、なんてこともできましたな。「じゃあ、パレスのロビーで何時に待ち合わせね」なんて感じでよく使ったものです。今は立派になってしまって、ちょっと敷居が高いですね。

○同じことが、永田町のキャピタル東急にも当てはまって、新しいホテルはだいたいがそうですな。外国風になっているというか、「9/11以降」の設計思想になっているというか、用のない人はどこから入ればいいかもよく分からないように作ってある。ホテルは公共のスペースというよりも、お客さんのためだけの場所、という位置づけになっているのでしょう。、

○そういえばホテルオークラもそろそろ建て替えるという話を聞いた覚えがある。こうなると、せめて帝国ホテルとニューオータニくらいは、なるべく今のままでいてほしいですな。


<8月25日>(日)

○夏休み最後の日曜は早起きして5時半に外出。高速に乗って目指すは御殿場インター。目的地は陸上自衛隊による「そうかえん」こと富士総合火力演習であります。これまでも何度か機会はあったのですが、行ったのは初めてであります。たぶんミリオタの方々からすれば、垂涎の品であろう「A・Bスタンド紫色席」をゲットしてしまいましたので。ちなみに一般公開の抽選倍率は、はがきが15.9倍、インターネットが21倍というプラチナペーパーであります。これは無駄にはできません。

○どんなものであるかについては、この辺の映像をご覧いただくとよろしいかと思います。今日は雨だったので、後方の富士山は見えないし、空挺降下も中止です。さらに残念なことに、南西諸島の防衛を想定した海、空との統合運用の訓練おいても、空自のF-2や海自のP3Cは参加できませんでした。晴れていた前日の予行演習の映像は、たくさんネット上にありますので、お暇な方はお探しください。そんなことより2万8000人の大観衆が、小野寺防衛大臣以下、全員が雨に濡れながら、2時間にわたって演習を見ている光景は、ちょっと壮絶なものがありました(もちろん傘をさしてはなりませぬ。使えるのは雨合羽だけです)。

○まことに素人くさい感想で恐縮ですが、砲弾の音は本当にデカいのであります。マンガにあるような「ズドーン」という音ではなく、強く、短く、「バン」という感じ。音が伝わる方が遅いので、火が噴くたびに身構えるのだが、何度も繰り返すうちに上半身がこわばってくる。そして何キロも先にある標的に当たって、「着弾、いま〜」という声がかかる。以前、「自衛隊は暴力装置か否か」という間の抜けた議論がありましたけど、とにかく途方もない実力を持っていることは間違いありません。くれぐれも、阿呆に国家権力を持たせてはなりませぬ。

○その一方で、自衛隊員による小銃狙撃やバイクによる偵察シーンも萌えます。大きな戦車やヘリよりも、かえって迫力を感じます。「ゴルゴ13」の描写は所詮、絵空事でありますが、わが国陸上自衛隊には職業として、500メートル先の標的を狙う訓練をしている兵士がいるのであります。もちろん悪天候であっても。

○今日の花形は「10式戦車」であります。これは「ヒトマル式」と呼ばねばなりません。間違って「イチマル式」とでも呼ぼうものなら、プロの競馬アナウンサーが「馬連はサンロクです」と言ってしまった時と同じような顰蹙を受けてしまいます(「サブロク」と呼ばなければなりません)。なぜ「10式」かというと、2010年に正式化されたからで、61式、74式、90式に続く第4世代戦車なんだそうだ。こんな風に兵器を西暦で呼ぶことは、「ゼロ式戦闘機」(1940年=皇紀2600年)以来の伝統であるらしいが、それだったらなぜ防衛大綱は元号で呼ぶんだろう? 2010年にできた防衛大綱は、「フタフタ大綱」(平成22年)と呼ばれているのでありますが。

○このヒトマル式戦車がスラロームしながら砲弾を撃つ。打ち終わったら、すぐに移動する。撃ったら、こちらの場所が敵に分かるので、反撃されるかもしれないから。この辺の感覚は、ワシのような素人が戦争映画で知っている戦車の概念とはかなり違います。なおかつ、ヒトマル式の売りはネットワーク対応であること。複数の戦車が情報を共有しながら、有機的に行動することが可能です。ことによるとガラパゴスなのかもしれませんが、いかにも日本的なモノづくりの世界。おそらく堀越次郎的な精神が残っているのでありましょう。

○後は南西諸島防衛のための水陸両用車ができればいいのですが、これは開発に時間がかかるので、アメリカ製のものを購入することになるらしい。「待ってられない」というところが、昨今のわが国を取り巻く安全保障環境の難しさを感じます。「フタフタ大綱」からまだ3年目だというのに、既に新しい防衛大綱の議論が現在進行中なんですからねえ。


<8月27日>(火)

○昨晩は日経センターの「イブニング・マーケット・セミナー」の講師を務めました。テーマは「アベノミクスと財政再建」。

○当初、この話が来た時には、「財政の話は難しいから、ほかに適任の方がいるんじゃないですかあ」などと言って抵抗したのだが、熱心な主催者に押し切られてしまった。ところがその時点では考えてもみなかったことに、消費税見直しの話が始まってしまい、いかにもワシ向きのネタになってくれた。こんな風に、宿題を出してくれる人が居るから、いろいろアイデアが生まれるんですね。ありがたいものです。

○しかもちょうど今週は「集中点検会合」が始まり、「アベノミクスと財政再建」を語るには打ってつけのタイミングとなりました。この議論をするなら、まさに「今でしょ」。お蔭でセミナーには大勢集まってもらい、質問もたくさんいただき、得難い体験となりました。御礼申し上げます。

○もちろん、ワシが内閣府の集中点検会合に呼ばれるなんてことはありません。そういう柄じゃありませんので。でも、こういうのはあったりして。ま、深夜に憂さを晴らしてくるとするか。


<8月28日>(水)

○シリア情勢が不穏になっているので、今日は円高で株安。さて、この問題をどう見るべきなのか。週内にも、NATOによる爆撃かミサイル発射がありそうな感じである。

○オバマ大統領は、一貫してシリアへの軍事介入に消極的だった。その代わり、アサド大統領に対し、「国民に向かって化学兵器を使おうものなら、それはアメリカのRed Lineであるから承知しないぞよ」と言っていた。それで化学兵器を使われたことが分かったら、これは人道上どうのこうのという前に、オバマの面目が丸つぶれである。これを放置しておくと、アメリカがイランや北朝鮮にもなめられてしまう。でも、地上軍の投入なんて危ないことはしたくないから、せいぜい空爆が関の山かなあ、という感じである。目標はもちろん、シリア国民の開放などではない。せいぜい、「アサド大統領にメッセージを送ること」であろう。

○他方、悩ましいのは他国に対する攻撃をどうやって正当化するのかということだ。国連安保理決議は通せないでしょう。常任理事国であるロシアと中国が反対しますからね。当面は「化学兵器が使われたことのSmoking Gunは何か」みたいなことで時間がつぶれるのでしょう。ただし、ジョン・ケリー国務長官の言動を見ていると、「正義の鉄槌が下されねばならない」的なモードになっている。だったら、その正義を下すのがなぜアメリカでなきゃいけないのよ、と軽く突っ込みを入れたくなるところだが、The Economist誌の論説を読むと、英国のこの自称新聞は末尾でこんなことを言っている。アメリカに、ついていきます、下駄の雪ってか?

This paper believes that America is generally a force for good in the world. If Mr Obama does not keep his promises, it will no longer be much of a force at all.

○もっともオバマさんがここで介入に踏み出すとしたら、「なんで今までは黙っていたの?」という答えにくい質問をつきつけられるだろう。例えて言えば、8時20分時点の水戸黄門が、「待ちなさい、ここはしばらく様子を見ましょう」と言って、周囲に自重を促したようなものである。ところが8時30分時点で旅籠屋のおとっつあんが亡くなって、その娘が泣いたりするんだけれども、ご老公の印籠が出てくるのは8時45分以降である。だったら最初から印籠出せよ、無駄な犠牲が出なくて済んだのに、という話である。もちろんドラマツルギーとしては間違っているけれども、国家戦略としてはそっちの方が正しそうに見える。介入しなかったことのコスト、ということでしょうか。

○かといって、アサド政権がつぶれた後のシリアは、ムバラク亡き後のエジプトや、フセイン亡き後のイラクのようになってしまうのではないか。それを考えると、うかつに「アサド政権を武装解除だあ」なんてことは言えなくなってします。やれやれ難しい。介入にも確実にコストがありますからね。

○今日、宮家さんに会ったら、1978年のキャンプ・デービッド合意が崩れるかもしれず、それが怖いとのことであった。そんな古い話、覚えておらんがな(ワシはまだ高校生だった)。当時はイラン革命があったために、アラブ社会はイスラエルとの和平に動いた。今はそんなインセンティブには乏しい。中東に平和が訪れることは、つくづく難しい。


<8月29日>(木)

○今週は書き物が多いです。以下は掲載日。

●8月28日(水)Quick デリバティブズコメント「消費税論議に見る2つのリアリズム」

●8月29日(木)東洋経済オンライン 競馬好きエコノミストの市場深読み劇場 「戦車アニメファンも実感 進化する日本の防衛」

●9月1日(日)北日本新聞 時論

●9月2日(月)産経新聞 正論

●9月3日(火)SPA!「ニュースディープスロート」

○ということで、不規則発言がお留守になってしまいました。しょうがないねえ。


<8月30日>(金)

○札幌に出張。何と気温が21度。なんとすばらしい。

○ホクレンの地下でスープカレーのランチ。これまた結構である。北海道は素材がいいから、何でもおいしく感じられるのだ。

○北海道ジョークのご紹介。


北海道の人たちはゴルフが大好きだ。冬の間はコースに出られないからせっせと練習に精を出し、夏の時期には狂ったようにコースに通う。

そこで今の季節は、ときどきこんなことが起きる。

「XXさんも好きだねえ。『今週末はご一緒にどうですか?』、とお誘いしたら、『週末くらいは休ませてくれ』ですって」


○せっかくの機会なので、ススキノで豪遊する予定であったが、仕事があるんでとんぼ返りする。羽田に着いたら、大変に蒸し暑い。


<8月31日>(土)

○ということで、深夜のテレビ朝日へ。集中点検会合に呼ばれなかった人たちによる消費税特集である。

○ホンネの話、安倍内閣が本当に増税日程を変える確率は非常に低いと思う。だったら、そういう議論をすること自体が無駄になってしまうのだが、今日はメンツもよかったし、いろいろ勉強になりました。田原さんも、よく朝まで集中力が続きますなあ。

○そもそも論になりますが、1年前に野田内閣が決めた消費税増税は、「社会保障と税の一体改革」という建前であった。それはかなり有名無実になっているし、今ではほとんどの人が覚えていないように見える。三党合意も風前のともしびかもしれない。それくらい、この1年で日本の政治と経済の状況は変わってしまった。でも個人的には、「野田さんのバトンを安倍さんが受け継ぐ」という形にする方が、いろんな意味で良いのではないかと思う。

○ところが、それは安倍首相の望むところに非ず、わざわざバトンを地面に落として拾いなおすようなことをしている。増税日程も、「前の野田政権が決めたことだからそのままやります」というのではなく、「このことは安倍内閣でちゃんと検討して決めました。責任の所在は現内閣にあります」ということを示す効果はあるのだろう。もちろん、政治的に考えれば安倍さんにとって損なことだと思いますけど、国民の理解を深める意味では集中点検会合も悪くはない。

○ということで、朝方に帰ってきて3日分まとめて更新。たぶん今日一日は使いものになりません。おやすみなさい。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki