●かんべえの不規則発言



2013年7月






<7月1日>(月)

○今朝は日銀短観の発表。予想通り、企業の景況感はよくなっている。大企業製造業の業況判断は、円安による採算の好転や国内売り上げの増大を反映して、3月の▲8から+4に改善し、先行きは+10となった。想定為替レートは85.22円から91.20円となった。非製造業も+8から+12へと改善し、先行きは+12。注目の設備投資計画(大企業・全産業)は、2013年度は+5.5%となり、前回調査の▲2.0%減から改善した。

○非常にわかりやすい結果が出たと言える。これだけハッキリした結果だと、相場の材料にもならない。ただしポジティブな内容だし、ドル円も99円台後半ということで、日経平均は後場にかけて上昇。分かりやすい時はやりやすい。難しく考える必要がないから。

○同様に参議院選挙の予想もやりやすい。巳年はかならず「6月に都議選、7月に参院選」が来ることになっているが、いつも都議選通りの結果が参院選で出る。前回は2001年で小泉政権の発足直後。都議選で自民党が議席を増やし、そのまま参院選でも大勝利した。その前は1989年で、消費税とリクルート事件で有権者が怒っていた年。都議選では自民党が大敗して社会党が議席増。その直後に「山が動いた」(@土井たか子)となった。

○今年も6月23日の東京都議選は衝撃的なものだった。おそらく7月21日は、その結果をなぞるようなことになるのだと思う。この期に及んで番狂わせはないでしょう。問題はそれから後。選挙で勝った後に、安倍政権はどんなふうになるのか。これが関心事ということになります。

○本日から1週間、金曜日まで、夕刊フジ紙上で「成長戦略の逆説」というコラムを連載します。まあ、いつも書いているような話なんですけどね。お目に留まれば幸いであります。


<7月2日>(火)

♪流す涙で割る酒は 騙した男の味がする
あなたの影を ひきずりながら
み〜なと〜宮古、釜石〜気仙沼〜

○と、森進一の「港町ブルース」にうたわれた町、岩手県宮古市に今宵は来ております。「みやこ、かまいし、けせんぬま」と、3文字、4文字、5文字という旋律は、日本の演歌には珍しいパターンじゃないかと思いますが、これがピッタリ当てはまったのが三陸海岸であります。

○ちなみにこの「3文字〜4文字〜5文字」パターンを、「三崎、焼津に 御前崎」(静岡県編)、「高知、高松、八幡浜」(四国編)、「別府、長崎、枕崎」(九州編)という形でクリアしたことが、かの「港町ブルース」の技能賞であるわけでして、この辺はわが国における演歌の黄金時代を髣髴とさせるテクニックであります。これはもう、脱帽する以外にありません。

○さて、東京から東北新幹線に乗っておよそ2時間半で盛岡につきます。そこから宮古市までの陸路が長いです。なにしろ、面積では四国とさほど変わりがない岩手県。東西に横断することは、なかなかにしんどい作業です。それでも2時間弱で宮古市に到着。一部、工事中の部分もありましたが、県内の道路は立派です。これは復興予算も手伝っていることでありましょう。

○などとこんな風に、全国各地を訪れる機会を得ていることこそが、不肖かんべえにとっては得難い付加価値というものです。世間の大多数のエコノミストは、東京に居てデータを見ているだけでありますから。その点、全国各地を歩き回ることができるという有難味は何物にも代えがたい。今の日本経済は、アベノミクスという世紀の実験の最中でありますが、その波及効果は当然、まだら模様とならざるを得ず、真実は地域にこそ宿るという現実がある。

○その点、ありがたいことにいろんな口実をかさに着て、5月は富山市、諏訪市、柏崎市、高岡市、宮津市、6月は京都市、広島市、仙台市、福岡市を訪れる機会がありました。そして7月は、宮古市、佐世保市、名古屋市、姫路市を訪れる予定であります。まして、今回は震災の被災地となれば、貴重な経験ということになります。物事は何でもそうですが、現地に行って初めてわかることが少なくありません。

○思うにアベノミクスは、「お風呂の温めなおし」みたいな作業でありますが、日本全体でいうと熱い部分とぬるい部分がどうしてもできてしまいます。おそらく岩手県においては、アベノミクス効果なんぞは薬にしたくてもなくって、「そんなことよりNHK朝ドラ『あまちゃん』にあやかって、アマノミクスの方がよっぽど期待できるぞ!」てな感じなんじゃないかと拝察いたします。とは言いつつ、三陸鉄道はまだ完全には復旧していないので、久慈市の観光ブームは宮古市には至っていないようなんですが。

○三陸海岸には水産基地がたくさんあって、でも岩手県の漁港は今ひとつ中途半端だという話を聞きました。すなわち、久慈市、宮古市、大船渡市、釜石市と、漁港がお互いにけん制しあうので、八戸市や気仙沼市、塩釜市といった大きな漁港には太刀打ちしにくいという現実がある。他方では、小回りが利くという強みがあって、岩手県庁の指示を待っていたのではどうしようもないから、地場でコンセンサスが取れることから順番にやっていこうという現実主義がある。その点で、震災からの復興という点では、ボトムアップの岩手>トップダウンの宮城>不幸にして身動きが取れない福島、という温度差ができているのではないか。

○こんな風に全国各地を巡回しておりますと、自らの無知を思い知ることが多いです。明日は復興の現場を見て、貴重な経験値を得たいものだと思っております。


<7月3日>(水)

浄土ヶ浜パークホテルというところに泊まったんですが、この浄土ヶ浜、私は日本三景の一つでも全然不思議はないと思います。これぞ天下の奇観、三陸の名勝、リアス海岸の織り成す奇跡。平泉から日本海側に抜けた芭蕉がここへ来ていれば、果たしてどんな句を詠んだことか。それくらいのインパクトであります。

○ただしこの地も津波の被害を受け、一時は瓦礫の山となっていたとのこと。現在はちゃんと片付いていて、白い砂石がきれいです。レストハウスも最近になって復活しました。高台にあるパークホテルは、被災者の収容所になっていた時期もあったそうですが、現在はごく普通に営業中です。特にオーシャンビューの部屋からの景観は息をのむような美しさです。大浴場もなかなかのものでしたぞ。ちょっと遠いけど、この夏の旅行プランに本州、最東端の宮古市はいかがでしょうか。

○田老町(2005年に合併して、現在は宮古市)の防潮堤を見せてもらいました。「津波太郎」と呼ばれるほど、何度も津波の被害を受けたこの町では、戦前戦後を通じて高さ7.7メートル、海抜10メートル、長さ1.3キロの巨大な防潮堤が建てられました。そのおかげで、1960年のチリ地震津波にでは大きな被害を出さなくて済んだ。「万里の長城」とも呼ばれ、内外から視察に来る人が絶えなかった防潮堤でしたが、あの「3/11」にはその倍ほどの高さの津波が押し寄せることとなりました。この辺の話は、奇特な方が解説をしてくれていますのでご参考まで。

○戦前の工事部分は凸型のカーブをしていて、津波の力を両脇に流すような構造になっておりました。戦後になって、これに海側に凹型の防潮堤を新たに加え、全体を「X型」にしていたのでありますが、ものの見事に後から作った方は壊れてしまい、戦前の分だけが残っていました。昔の人の知恵というのは、大したものがありますね。さらに言えば、「防潮堤があるから大丈夫」と思って逃げ遅れた人がいる、との指摘もある。結局、天災から身を守ってくれるものは、防潮堤のようなハードウェアではなく、「津波てんでんこ」の教えのようなソフトウェアであったのだ、という教訓が残る。

○全体に宮古市は復旧が早いらしく、津波の跡を思わせる部分はそう多くありません。ただし仮設住宅の集合施設があって、そこにさらに仮設の商業施設ができていて、そこで生活が行われている情景を見ると、復旧、復興という言葉の重さがあらためて感じられます。「仮設住宅」は3年まで、ということだったのですが、あと1年延期、という話も出ているそうです。高台移転の計画も決して順調というわけではないようです。

○他方、明日になったら参院選の公示日である。岩手県内を移動して、見かけたポスターの枚数は、ざっくり言って自民党(安倍さん)、生活の党(小沢さん)、公明党(山口さん)、社民党(福島さん)の順でありましたな。民主党や平野元復興担当相のポスターは非常に少なかったような気がします。さて、明日は公示日。


<7月4日>(木)

○今日は佐世保市へ。2009年8月に来て、SSKを見学したとき以来です。今回は名高いアーケード街を覗いてみました。面白いですねえ。日の丸と一緒に星条旗が飾ってある、なんて商店街、ほかにはないでしょう。あっ、そういえば今日はアメリカの独立記念日でありました!

○確かに米兵さんが大勢歩いています。さすがは佐世保。しかもアーケードがとっても横に広い。なんと幅11メートルもあって、文字通りアメリカサイズなんです。そして全長も1キロ近い。「九州で二番目に栄えている商店街」というか、「日本で一番幸せなアーケード街」というか、とにかく圧巻です。ただし残念ながら、佐世保バーガーは今回もニアミスに終わってしまいました。

○最近の佐世保の話題として注目点は、「1年ぶりに中国からの修学旅行が、ハウステンボスに来た」というのがありました。尖閣騒動で止まっていたわけですが、のど元過ぎて熱さを忘れてくれるのかどうか。それにしてもハウステンボスは、すっかり観光地として復調しているみたいですね。

○もうひとつ、長崎空港で見かけたのは、「長崎の教会群を世界文化遺産に」という旗。その手があったか!と感心しましたな。長崎はとっても地形が複雑な県ですけど、なにしろ教会は島嶼部も含めてそこらじゅうにありますし、島原の乱というスポットもある。そして、あれだけの弾圧を受けながら、250年も信仰が続いていたという感動モノの奇跡もある。変な意味、これも日本でなければあり得ない現象だと思いますけどねえ。

○そんな長崎市民の上に、原爆を落としてしまったことを、アメリカさんに少し反省してもらいたい、という下心もあったりします。なかなかいい手じゃないでしょうか。


<7月5日>(金)

○一切の説明は省くことにして、現時点での2013年参院選結果予測を以下に掲示しておきます。これって選挙違反ではないですよね?

改選議席         非改選議席    
  一人区 複数区 比例区 合計 選挙区 比例区 合計 合計予測
自民党 29 18 17 64 37 12 49 113
民主党 0 15 8 23 27 15 42 65
公明党 0 4 7 11 3 6 9 20
みんな 0 2 6 8 3 7 10 18
維新 0 2 4 6 0 1 1 7
共産 0 1 4 5 0 3 3 8
社民 0 0 1 1 0 2 2 3
生活 0 0 1 1 1 1 2 3
大地 0 0 0 0 0 0 0 0
諸派 1 0 0 1 0 1 1 2
無所属 1 0 0 1 2 0 2 3
31 42 48 121 73 48 121 242


○ちなみに推定投票率は50%台の前半。自分では、民主党に対してやや甘めにつけたかな〜と思っています。


<7月6日>(土)

○このところ東北づいているので、宮古市への行きかえりなどで読んでいた『南部は沈まず』(近衛龍春/日本経済新聞出版社)を、今日になってやっと読了。歴史小説とはいえ、二段組み479ページは近年ではめずらしい厚さであって、途中、退屈する部分もないではないのだが、読後感はすばらしい。

○本書は戦国時代から江戸初期にかけての南部藩を描いている。なにしろ「南北朝以来、同じ家がその土地を支配し続けてきた」という日本でも珍しいお土地柄である。なおかつ、稲作には適さない。岩手県から下北半島にかけての広大な領地なのに、石高はわずか10万石。そして冷害もあれば津波もあるという、大変しんどい地域でもある。今までは滅多に描かれることのなかった世界であるが、2〜3年後にはNHKの大河ドラマになっているかもしれない(どうも著者がそれを意識している気配もある)。

○戦国時代の歴史研究は、この20年くらいで急速に進化を遂げたらしい。少なくとも吉川英治や司馬遼太郎の時代とは段違いになっていると思う。例えば戦国時代における兵農分離や検地の重要性、あるいはそのことが各国の大名に与えた戦略的な意味合いなどは、今までの歴史小説ではあまり取り上げられていない。新田開発、金山の開発、商業の繁栄など「成長戦略」の重要性についても、滅多に触れられてはこなかった。ところが本書は、陸奥の南部藩という「僻地」を舞台とすることにより、その点をうまく浮かび上がらせている。

○そしてまた、戦国武士の「家名」への意識の強さもまた、説得力のある形で描かれている。南部藩は、織田〜豊臣〜徳川というめまぐるしい時代において、伊達政宗という油断ならぬ一代の梟雄が隣国に控え、また津軽為信という裏切り者を身近にけん制しつつ、そして何より一族郎党があまりにも多く、家中にまとまりがないという不利な条件の中で、上手に生き残って家名を維持した。それは本書の主役である信直、利直親子が名君であったからにほかならないのだが、それはきわめて地味な努力の積み重ねであった。しかも主人公はあんまりキャラが立っていないので、ドラマとしては間延びする面がなくはない。

○他方、戦国大名が正妻と側室の間をどうバランスを取っていたか、なんて視点は、今までの戦国ドラマには皆無であったのではないかと思う。この点は、最近の研究の進歩ではないかと思う。最近の戦国ドラマにおいては、「女性の視点を入れる」(その方が視聴率が上がるから)工夫をすると言いつつ、めちゃくちゃなストーリーを展開することが少なくないのが気に懸っているのであるが、本書はしっかりした歴史のリアリズムを堪能できる点がありがたい。

○さらに本書は、「みちのくの心」を浮かび上がらせることにも成功している。以下はいずれも著者の想像力の産物であろうが、簡にして要、あまりにも見事なのでここに転記しておく。

●死期が迫った徳川家康が南部利直に告げる言葉。

「いつにても改易にできたのにせなんだのは、一年の大半を雪に覆われ、津波に流されても厳寒の中で耐え忍び、黙々と復興に取り組む姿勢を知ればこそ。この粘り強さは公儀のため、いやさ日本(ひのもと)のためになる力を持っていると思うてのこと。ゆめゆめ期待に背くまいぞ」

●二度目の津波を受けたときの南部利直の言葉。

「左様か。死んだ者はおらぬか。やればできる。南部は沈まぬ。生きておればこそ再生できる。地震や津波に勝てずとも、引き分けにはできる。負けぬことこそ大事」

○読み進めるうちに、ああ、そうか、そういうことだったのか、と何度も感じ入りました。特に東北地方の方々、これを読まぬ手はありませぬぞ。


<7月7日>(日)

○今日は7月7日の七夕。そして福島競馬場では今日が七夕賞である。七夕の日の七夕賞は滅多にあるもんじゃございません(11年ぶりの4回目だそうだ)。ということで、昨年に引き続き、新幹線に乗って福島にゴー。この時点で▲1万7000円になるんだけれども、ま、それは深く考えないことに。

昨年の7月8日には、まったく下調べなしに福島市に出かけ、行き当たりばったりで、「古関裕而記念館」に行ったのであった。今年は少し下調べをして、行ってきました円盤餃子の「満腹」へ。いつもは夜だけの営業なんだけど、日曜日に限ってランチがあって、11時40分に開店である、とは昨晩に電話をかけて確認済みである。そして今年も11時過ぎに福島駅に到着し、そこから市内をさまよって「満腹」に到着。案の定、ワシの前には家族連れ、単身、カップルと3組の客が待っておった。けっして賑やかとは言えない福島市内なれど、行列ができる店がここにあり。

「満腹」のメニューにはご飯がない。あるのは円盤餃子と水餃子、そして湯豆腐とおしんこと冷奴。そして円盤餃子はかかる形状で一皿30個。お代は1500円也。これは行くしかないでしょ。カウンターに陣取り、ナマ中、円盤餃子、そして枝豆を注文。福島には円盤餃子の店がたくさんありますが、元祖はこの「満腹」なのであります。皮の厚さと具の白菜、そして自家製ラー油に特徴があります。

「満腹」で満腹になって、なぜか福島競馬場の招待券(100円也)も頂戴し、そのまま競馬場へ。今年はJRAの日程が変わっていて、七夕賞の後も福島開催が2週間続く。昨年訪れた時には、「今日が最終日」という一抹の寂しさがあったけれども、今年は宴たけなわの重賞レース。

○会場では「競馬川柳コンテスト」が行われておりました。以下の作品などは、まことに地元の雰囲気を伝えているような気がします。

七七が いつも人気の 七夕賞

七夕賞 競馬場にて クラス会

○そりゃあ、7月7日なんだから、いやでもFや7枠が気になりますわなあ。ちなみに1986年の七夕賞は、本当に枠連7−7で決まったのだそうだ。そして今日だって、6Rでは7番のトウショウアミラルが来たし・・・・。でも、7RでFアシュヴィンが単勝3.7倍の一番人気というのはちょっと変。そんなに人気するような馬じゃないでしょ。でも、鞍上が幸(みゆき)騎手だった。つまり正真正銘の「ラッキーセブン」だったんです。・・・・って、来るわけないよね、そんな馬券。

○昨年は大敗した不肖かんべえなるも、今年は中京9Rで単勝、福島9R織姫賞で単勝と馬連、函館10Rで単勝と3連荘して確変モード入り。ところがその後がいけない。メインの中京11Rプロキオンステークスでは、直前になってボックス買いからDアドマイヤロイヤルを外してしまったら、これが1位であった。2位と3位は入れていたから、悔しいことこの上なし。アドマイヤロイヤルを外した理由は、鞍上が四位騎手だったから。選挙の季節になると、あたしゃ四位騎手をつい忌避しちゃうんだよなあ・・・・(理由は聞かないでくださいね)。

○そして迎えた七夕賞。軸となるのはCマイネルラクリマ、Dダコール、Kエクスペディションの3頭。そろって単勝4倍台。ここで信じられるのは、夏場に強いステゴ産駒のエクスペディションだろうと思ったのですが、来ませんでしたねえ。来たのはCマイネルラクリマ。早めに前に出した柴田大知騎手が、いい仕事をしてました。大知くん、今日は3勝もしたんだものね。そして2位にはIトレイルブレイザー。最近の実績を考えると、これはちょっと買えませんでしたなあ。

○ところで、昨年学習したことの一つに、「福島競馬は地元紙の予想が良く当たる」があった。そこで後から地元2大紙を買って、予想をチェックしてみました。

●福島民報:七夕賞「ラクリマ勝機」

開幕週は予想以上に時計のかかる決着だったが、芝の状態はいい。インコース有利の馬場で器用さがものをいう。コース適性を評価したい。結論は完全復活マイネルラクリマの勝機。

●福島民友:初重賞目前ダコール

堅実なダコールに期待。初タイトルまであと1歩のところまで来ている。

○結果は福島民報の勝ち。でも、福島民友も、トレイルブレイザーを推奨しているので、これまた立派な予想と言えましょう。教訓として、来年は福島駅で民報と民友を買って勝負することにいたしましょう。


<7月8日>(月)

○今月末になると、「終戦のエンペラー」という映画が封切りになるのだそうだ。どうでもいいことだが、あのトミー・リー・ジョーンズがマッカーサー司令官を演じるという点がワシ的にはツボである。思わず、変な映像が脳裏に浮かんでしまうではないか。宇宙人ジョーンズがしみじみとした声で、「この惑星の住人は、精神年齢が12歳である」と言うのが・・・・。

○ただし信田智人教授によると、このマッカーサー発言は正しくは「欧米の民主主義が45歳なら、日本は12歳くらい」と言ったのが、多少誤って人口に膾炙しているらしい。日本の民主主義は、それよりは少しマシになって18歳くらいにはなっているだろうか。デモでトップを引きずり下ろすようなことはしないまでも、1年ごとに取り換えたりするのは、あんまり成熟しているようには見えない。まあ、それを言い出したら、アメリカの民主主義も変なところはいっぱいありますけどね。

○などと考えているうちに、ついつい見つけてしまいました、こんなサイト。それからこれも。いやー、「BOSS」のCMって、こんなにたくさん作られていたのか。やっぱり「地上の星」編が最高ですね。英語の字幕もとっても勉強になります。


<7月10日>(水)

○午後5時半に名古屋駅に着いて新幹線を降りたら、外はむわーっとした熱気。ああっ、これぞ夏の濃尾平野。関東平野よりも、確実に2度は高い。言っても詮無きことながら、なんでこんなに暑いのよ。

○いつもながら、名古屋駅の雑踏は全国でもここにしかないという格別の賑わいである。特に駅に入っている高島屋はすごい。今や地元の松坂屋が恐れをなすまでの盛況と言われている。そうかと思うと、この天候に暑苦しいゴスロリ系ファッションの若い女性が歩いていることも、おそらくは名古屋ならではの風景か。

○そして駅の外に出てみると、あの「大名古屋ビルヂング」がなくなっている光景に衝撃を受ける。タクシーの運転手さんに聞いたところでは、4年後に新しいものができるのだそうだ。どんなにどえりゃあビルヂングになるのやら。

○さて、本日のご用事は名古屋商科大学大学院の公開講座である。場所が伏見にあるので、まことに楽ちんな仕事である。名古屋においては、大概の用事は名古屋駅と伏見の間で片がつく。人口でいえばパリに匹敵する大都会名古屋は、まことに巨大かつ効率的なコンパクトシティなのである。

○ところで名古屋に大学はいくつあるのだろう。名古屋大学、名古屋市立大学、名古屋工業大学、愛知大学、などと指折り数え上げていたら、運転手さん曰く、「吉田沙保里の至学館大学(旧:中京女子大)もお忘れなく」。

○そういえば浅田真央ちゃんも中京大学だった。思わず以下のような会話が続く。

「なんで名古屋はこんなに強い女性アスリートが育つんですか?」

「それはねえ、あんまり知られてないことだけど、名古屋は昔からかかあ天下なんですよ」

「ええっ、それじゃ信長や秀吉はどうしてたんですか」(てゆーか、それでは日本全国でかかあ天下でない場所なんてなくなりますがな)

「いやいや、しっかり尻に敷かれてたんじゃないですか。とにかく財布のひもは女性がキッチリ握っているのが名古屋流ですから」

「それじゃ景気は女性次第というわけですか」

「そうですよ。名古屋で女性がデパートの袋を下げて歩き出したら景気回復です。次に旦那さんの小遣いが増えて、それから夜の街がにぎわう、最後にタクシーが繁盛する、という順序です」

「今はどうなんですか」

「まあ、ぼちぼち良くなってきたかな、ってところですかなあ・・・・」

○仕事を終えてから、新幹線が来るまでの短い時間に山本屋総本店に駆け込んで、ビールと味噌煮込みうどん。名古屋の味を掻き込む。次回は、ひつまぶしと行きましょうかねえ。


<7月12日>(金)

○いやあ、こんな風に連日暑いと、頭が溶けてしまいそうです。HPの更新も、ついつい途切れがちになってしまいます。ということで、選挙関連の小ネタをいくつか。

○Facebookにおける海江田万里氏のアカウントが大変なことになっている。いくら公党の党首とはいえ、あそこまでボコボコに叩いていいものだろうか。皆が実名で、民主党に対するあまりにも率直な怒りをぶつけている。SNSは本来、「ソーシャル」なメディアであったはずなのに。

○時事通信の7月世論調査が出た。他のメディアは全部、電話調査だけれども、これだけは面接方式。電話調査とは違って、公明(4.4)>民主(3.9)であったり、共産(2.0)>維新(1.6)orみんな(1.7)であったり、社民(0.6)>生活(0.3)になったりする。それにしても、野党がこれだけ割れていては、自民党(25.4)には勝ち目がありませんな。選挙後は再編と淘汰が必要だと思います。

○次の問題を説破せよ。ヒントは本日現在の情勢。

@丸―A山―B武―C吉―D山もしくは鈴


<7月14日>(日)

○この週末は法事のダブルヘッダー。昨日は浅草で、今日は富山で。今日は午前中に雨が降ったりして、今週の暑さがさすがに少しは和らいでいる。ありがたいですな。選挙戦を戦っておられる皆様、まことにお疲れ様です。

○法事というのは、基本的にお経をじっと聞いて、後は親族一同でビール、である。若いころは「何のためにこんなことをやるんだろう」などと内心、不満に思ったりしたものであるが、年を取るとありがたみのようなものが感じられるようになってくる。檀家、なんていうのも、よくできた制度なんじゃないかと思う。いつまで続くのか、ちょっと心もとない感じもするのだけれど。

○浮世の義理を果たすことが大事だなとわかってくると大人で、そのうちさらに老境に至ると、浮世の義理が楽しみになってきたりするんじゃないかと思う。「今日はいくら包んだらいいんだ」などというわずらわしい葛藤も含めて。

○そもそも浮世の義理に悩んでいられるということは、自分が今日を生きているからにほかならないわけで、それはとってもありがたいことなのであります。


<7月15日>(月)

○突然思い出したが、ワシが生まれて初めて行った投票は、当時住んでいた小平市議会選挙であった。何の関心もないし、何の情報もない中で、掲示板のポスターだけを見て投票行動を決めた記憶がある。もちろん、名前も顔も覚えていない。ひどいことに、自分が投票した候補者が当選したかどうかも記憶にない。まあ、地方選挙なんてそんなもんだろう。ワシの政治参加意識は畢竟その程度である。

○だからこそネット選挙が大事なんだ、政治の情報開示を、などというのが最近はやりの議論であるようだが、それもどうかなという気がする。政治というのは、「情報の非対称性」が非常に大きい世界である。ネットで何かごちょごちょと調べて、ちょっと分かったような気になって投票行動を決めると、それこそ「騙された」ということになるんじゃないだろうか。

○「騙された」といえば、今でも「民主党に騙された」と言って怒っている人が多い。それもどうかなという気がする。以前から何度も書いている通り、マニフェスト選挙なんてものは信じちゃいけません。いくら政治家が信用できないからと言って、政党に「これこれを実現します」と一筆書かせて、これがあるから安心だ、などというのはナイーブもいいところである。いってみればそれは、夫が浮気しそうで心配だから、「私は浮気をいたしません」と一筆書かせるのと似たような行為である。それで安心する妻は、非常に高い確率で裏切られるだろう。

○さらに言うと、政治は生き物であるから、どんどん状況が変わっていく。人間は変わるけれども情報は変わらない。だから政治家よりもマニフェストを信じるようであってはならない。所詮は紙切れなんですから。それは昔もらったラブレターを信じて、今の交際相手を否定するのと同じような行為である。今回の参議院選挙で、皆があんまり「マニフェストがどうのこうの」と言わなくなったのは、ちょっとすがすがしい気がしている。

○政党があんまり精緻な政策集を作ると、そのつもりがなくても結果的に嘘ができてしまいます。政治家に嘘をつく機会を与えないようにするのも、有権者のたしなみというものじゃないでしょうか。今になって「民主党はけしからん」と言って怒っている人たちは、2009年に彼らをおだてて木に登らせてしまったことを忘れてしまっている。騙した方はもちろん悪いが、騙された方にも責任の一端があるのではないかと思いますぞ。

○だったら、何を信じて投票すればいいのか。結局、自分の直感を信じるしかないのだと思います。あとは自分の知ってる人から聞く評判も大事です。それらに比べると、マスコミ情報も、ネット情報も、所詮は断片的なものであって、信じていいことはあんまりないですよねえ。

○内心忸怩たる経験をひとつ白状いたしますと、ワシは政治や政策については普通の人よりは知っている方だと思うし、その昔は「サンデープロジェクト」のコメンテーターもやっていたんで、テレビに出るような政治家はほとんどが顔見知りになっている。が、それでもときどき酷い見込み違いがある。端的に言うと、鳩山さんがあそこまでひどい人だとは思っていなかった。

○鳩山さんの場合は、首相を辞めてから特にひどくなったという気もするのだが、とにかく見込み違いであった。当欄でもずいぶん悪口を書いてきたつもりだけれども、全然足りなかったですわなあ。まことに困った元総理であります。


<7月16日>(火)

○参院選に向けて、「期日前投票の出口調査」が行われているようです。これは非常に確度が高いのだそうで、終盤の情勢がかなり見えてきました。個人的には、「2009年も最後は”良質な保守層”が動いて、自民党が負け渋ったくらいだから、2013年も最後はリベラル層が動いて、民主党は負け渋るんじゃないか」と思っておりました。それはちょっと苦しそうで、当欄の7月5日に書いた予想は5議席程度の変動がありそうです。

○面白いのは、「ネット選挙解禁」があまり効果を上げておらず、ネット有権者は「笛吹けど踊らず」なのですね。その一方で、組織政党がネットを使って上手に支持固めを行っているらしく、ここへきて公明党や共産党の支持率が上がっている。ビッグデータを解析しても、そういう傾向が出るのだそうです。ちなみに7/14の「新報道2001」の調査をご覧あれ。公明党5.8%、共産党5.0%、民主党4.8%の順となっています。めずらしい現象ですよね。

○それから、「今回はネットウヨが期日前投票に動いていない」という指摘もあります。昨年12月の衆院選では、「日本を取り戻すのは今このときぞ」とばかりに切迫感があったけれども、今やすっかり楽観ムードになっている。ただしネットサヨ側は、もっとあきらめムードになっているようで、これはちょっといかんですよね。

○ネットというのはまことに変な道具であって、使ってみるといつもちょっとずつ狙いとは違う結果が出てくるものですな。錯覚いけない、よく見るよろし。この魔法の杖には妙な癖があるのです。


<7月18日>(木)

○引き続き国内出張が続いていて、昨日は宇都宮、今日は姫路。

○宇都宮は自動車関連の企業が多いこともあり、また日光や那須塩原の観光地に人が戻ってきていることもあり、雰囲気は悪くない。ただし震災の爪痕は結構深かったのだなあ、ということを今さらにして感じる。駅構内の餃子屋さんで、電車の時間を待ちながら軽く宇都宮餃子を頂戴する。とってもジューシー。でも、種類はいろいろあるようですね。餃子は奥が深いのである。

○それに比べると、姫路はやや景気回復の実感に乏しいようだ。来年はNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』という楽しみはあるのですが。世界遺産である姫路城はなおも天守閣が改装中なるも、今では姫路駅からじかに見ることができるようになっている。これは見るからに迫力がありますな。

○各地の経営者の方々の声を聴くと、資材費の高騰やら、供給のボトルネックやら、人件費の上昇やら、悩ましいことは決して少なくない。週明け23日の月例経済報告は、またも上方修正ということになるのでしょうが、かといってミクロの景気実感はそれとは違ったものになるのではないか。地方を訪れるたびに、神は細部に宿るということを痛感します。


<7月19日>(金)

○週明け22日の「モーサテ」の打ち合わせをしている最中に、こんな話になりました。

●政治公約:「新婚旅行は海外に出かけよう」

●マニフェスト:「ビジネスクラスで欧州旅行に君を連れていくことを約束する」

●現実:「LCCでシンガポール旅行」

○この場合、政治公約を信じていれば、「まあ良かったね」の範囲内ですが、マニフェストを真に受けていたら「騙された」ということになります。さて、どっちが幸せでしょうか。7月25日にも書いた話ですが、自分にとって大切な人に嘘をつかせるような機会を与えてはいけません。

言論NPOさんでは、今回も半分怒りながらマニフェスト評価をやられたようです。でも本来、参院選にマニフェストなんて要らないと思うんだけどな。


<7月21日>(日)

○今日は町内会の夏祭りなので、朝一番で投票に行ってきました。午前7時2分前に投票所に到着したところ、私の前には3人の人が待っていました。

○7時ちょうどに時報がなり、選管の人が「ただ今から、参議院選挙の投票を開始します」と宣言。1番目の人だけが会場に入って、名簿チェックの後で投票用紙を受け取る。この間、2番目以降の人は入り口で待機。

○選管の人が、選挙区分の投票箱を開けて、中に何も入っていないことを1番目の人が確認。その上で施錠。1番目の人が投票用紙に記入して、投票。同じことを比例代表の箱で繰り返す。

○この辺で2番目以降の有権者にも「どうぞ」の声がかかり、投票行動開始。振り向くと、既に10人くらいの行列ができていた。

〜ということで、めずらしいものを見てきました。さあ、今日はお祭りであります。


<後記>:小さな町内会のお祭りでありますが、今年はA市長(当サイトの愛読者であるとの噂あり)、とS衆議院議員(昨年は浪人中であった)がおみえになりました。まことに光栄なことであります。



<7月22日>(月)

○昨日の参院選結果に対し、取り急ぎの感想を下記しておきます。

(1)一人区はほとんど予想通り。「岩手県と沖縄県以外は自民が全勝」でありました。地方経済はアベノミクス効果が乏しいわけなんですが、そういうところの方が与党に追い風が吹いたのは、興味深い逆説でした。

――いつものことですが、「実績は売りにくく、期待は売りやすい」のでしょう。

(2)複数区では番狂わせがたくさんありました。従来であれば、10か所ある二人区は自民と民主が仲良く分け合える安全地帯だったのですが、今回はそうではなかった。民主党は宮城県で「政宗」(みんな)に討ち取られ、京都府では共産党にしてやられ、兵庫県では維新に一敗地にまみれた。さらに三人区の埼玉県でもみんなの党に敗れ、四人区の大阪府では共産党のコータロー君にしてやられ、五人区の東京都では無所属の山本太郎に名を成さしめた。まるで野党の包囲網にあったようなものです。

――岡崎トミ子はともかく、すずかんと梅村と北神は惜しかったと思うなあ。既に景気が良くなっている都市部の方が、「景気の次の課題」である消費税や原発再稼働に焦点が当たりやすい状況であったようですね。

(3)比例区では自民党ががんばりました。総投票数が昨年末の衆院選よりも1割減っている(6018万→5323万)のに、1662万→1846万と増やしたんですから。面白いことに、自民+公明は2600万票ですが、民主+みんな+維新+共産+社民+生活+みどり+大地=2650万票なんですね。

――やっぱり野党が細かく分裂していることが、与党の勝利を可能にしたのでありましょう。

(4)投票率が5割を超えたことは、いろんな意味で良かったと思います。安倍内閣としても、「有権者のマンデートを得た」と言いやすくなったことでしょう。どことは言いませんが、選挙結果にケチをつけたくて仕方がない国もありますからねえ。

――周囲の話を聞くと、皆さんが期日前投票の旨みを覚えつつあるような感じですね。当日の天候も暑すぎず、雨も降らずで、投票には理想的な環境であったと思います。

(5)今回の参院選全体に見出しをつけるとしたら、「民主党が負けすぎて二大政党制のピンチ?」ってところでしょうか。「自民と民主の議席数を足すと90台になる」(議席数121)という従来の法則が完全に崩れています。

・2001年参院選:民主26議席+自民64議席=90議席
・2004年参院選:民主50議席+自民49議席=99議席
・2007年参院選:民主60議席+自民37議席=97議席
・2010年参院選:民主44議席+自民51議席=95議席
・2013年参院選:民主17議席+自民64議席=81議席

――つまり自民党ではなく、民主党が維新やみんなや共産などに食われてしまったということになります。みんな、まだまだ「民主党時代」に腹を立てているものなあ。「二人の元首相」の振る舞いも、かな〜り問題があったと思います。



<7月23日>(火)

○昨日の続きで、いつもの資料を張り付けておきましょう。比例代表の得票数の推移です。

  2013年
参院選
2012年
衆院選
2010年
参院選
2009年
衆院選
2007年
参院選
2005年
衆院選
民主党 7,134,215 13.40 9,628,483 16.00 18,450,140 31.56 29,844,799 42.41 23,256,247 39.48 21,036,425 31.02
自民党 18,460,404 34.68 16,623,542 27.62 14,071,671 24.07 18,810,217 26.73 16,544,761 28.08 25,887,798 38.18
公明党 7,568,080 14.22 7,116,265 11.82 7,639,432 13.07 8,054,007 11.45 7,765,329 13.18 8,987,620 13.25
共産党 5,154,055 9.68 3,689,988 6.13 3,563,556 6.10 4,943,886 7.03 4,407,932 7.48 4,919,187 7.25
社民党 1,255,235 2.36 1,420,928 2.36 2,242,735 3.84 3,006,160 4.27 2,634,713 4.47 3,719,522 5.49
新党大地 523,146 0.98     1,000,036 1.71 1,219,767 1.73 1,269,209 2.15 1,183,073 1.74
みどりの風 430,673 0.81         528,171 0.75 1,770,707 3.01 1,643,506 2.42
みんなの党 4,755,160 8.93 5,245,586 8.72 7,943,649 13.59 3,005,199 4.27    
日本維新の会 6,355,299 11.94 12,262,144 20.38                
生活(未来) 943,836 1.77 3,424,071 5.69                
その他 649,505 1.22 768,881 1.28 3,542,210 6.06 958,049 1.36 1,264,802 2.15 433,938 0.64
合計 53,229,608 100.00 60,179,888 100.00 58,453,429 100.00 70,370,255 100.00 58,913,700 100.00 67,811,069 100.00


<主要な発見>

●自民党の1846万票は健闘。得票率で34%(3人に1人以上)は久々の快挙。半年前の総選挙に比べて7Pも上がっているのは、この間の景気回復による効果もあったのではないか。

●民主党は続落。得票率13.4%は公明党以下で、これでは二大政党の体をなしていない。やはり維新の11.94%やみんなの8.93%を取り込まないと、与党に対抗できないのではないか。

●組織政党である共産党と公明党は善戦。いずれもネット選挙を上手に活かした。特に共産党は候補者を若返らせ、長期低落傾向に歯止めをかけた。全世界の左派政党のお手本になるかも?

●社民、生活、みどり、大地などは埋没。やはり「候補者が把握できる政党数は5〜6個が限界」と考えるべきだろう。「わが党の主張が十分浸透しなかった」などというのは、傲慢な考え方だと思います。


○ところで自民党の比例の当選者を見ると、全特(郵政)の候補者が42.9万票の第1位、農政の候補者が33.8万票の第2位につけている。利益団体が完全に自民党に回帰していることが窺える。例えばTPP交渉を進めるうえでは、獅子身中の虫が増えてしまったような状態である。ただし「自民党の比例での得票が3割を超えたのは、2005年の郵政選挙以来」であることを考えると、「改革への期待」の方が大きいと考えるべきでしょう。さて、どんな党内バトルが始まるのでしょうか。


<7月24日>(水)

○午前中に政治学者が集まってのワークショップ、お昼に政治オタクが集まってのランチ。参議院選挙の結果を踏まえて、「安倍政権は向こう3年間続くとして、いったいどうなるか」というお話。

○相変わらずよく耳にするのが、「安倍首相はこれから憲法改正に突き進むだろうから危険だ」という意見。左派系メディアと金融界でよく見かけます。でも、そんなわけないでしょうが。少なくとも向こう2年間は、安倍内閣は経済問題に専念しなければならないし、安倍首相にとってもその方がお得、というのが客観情勢だと思う。

○まず、経済情勢はけっして楽観を許さない。現政権は向こう2年間に、以下の懸案を片付けなければならない。

(1)消費税を2回(3%+2%)上げる。

(2)日銀のインフレターゲット2%

(3)あと1年程度でTPPが妥結するとして、その国会批准。

○中国経済が不調を呈し始めて、輸出の本格回復が望みにくい現状において、上記は決して楽なことではありません。今日発表された6月の通関統計から計算すると、今年上半期の対米輸出は6.22兆円、対中輸出は5.38兆円ということになっている。2012年(暦年)でほぼ横一線に並び、今年は明らかに対米>対中である。

(――これに対し、「中国経済が少しくらい減速しても、欧州経済がプラス成長に転じれば、そのくらいのマイナス条件はオフセットできる」という見方も急浮上している。すっかり忘れていたけど、欧州経済って中国の2倍くらいの規模があるんだものね)。

○それは別にしても、来年春になるとどういうことになるかは、今からよく考えておいた方がいい。@消費税の3%増税+A2013年度に積み上げた公共投資の減少+B3月末に発生する駆け込み需要とその反動減、などを合計すると、ざっくり15兆円程度の国民負担増になるはずだ。つまりGDPで3%程度の下押し圧力が発生する。「日本版・財政の崖」問題というわけ。これで景気腰折れを招くくらいなら、補正予算でも定額給付金でも、何でもやった方がよろし。さもなくば、インフレターゲットも賃上げも吹っ飛んでしまいますからね。

○さて、仮に2015年末くらいになって、上記3条件が無事に成立していた場合、安倍首相は非常に強い立場になっているだろう。久々の名宰相ということになるので、そんな人が「来年の選挙で憲法改正に向けて民意を問いたい」と言い出したら、反対する人なんてものすごく少ないに違いない。逆に上記3条件が果たされていなかったら、「安倍政権もいよいよ来年までだよねえ」ということになって、簡単にレイムダック化してしまうことでしょう。今みたいに自民党議員が増えているときに、「来年はダブル選挙で支持率が低下している」となれば、きっと造反者続出となるはず。

○さらにこの秋に「日本版NSC法案」(野党もあんまり反対しそうにない)が成立し、集団的自衛権の解釈変更が着手されれば、この国の安全保障政策はかなり「まとも」になる。それこそ、憲法改正の政治的優先順位は確実に低下するはずである。それでもなおかつ安倍氏が憲法改正を目指すとしたら、それは「歴史に名を残す」的な動機以外には考えにくい。すなわち、リアリストではなくなってしまう。

○ということで、「安倍さんはきっと憲法改正をやってくれるだろう」と期待する保守派と、「安倍さんは憲法改正をやりそうだから怖い」と考えるリベラル派は、どっちもロマン派なんだろうなあ、と思います。


<7月25日>(木)

○名古屋での仕事は、ほとんどが駅から至近距離で片が付く。これが繁栄の理由だと思うのですが、今日もご多分に漏れずそのパターンでありました。あらためて周囲を見渡すと、名古屋駅近辺はたいへんな再開発ブームである。「大名古屋ビルジング」だけでなく、高層ビルがいくつも建設中である。

○で、今日はちょっと時間が余ったので、たまには駅から離れた所へ行ってみよう、と熱田神宮へ行ってみました。といっても、JR、地下鉄、名鉄のどれを使っても、2つ目か3つ目の駅なんですけどね。

○ご案内の通り、熱田神宮は日本武尊ゆかりの神社で、草薙の剣を祭ってある。今年は1900年祭なのだそうだ。この間、幾多の歴史上の人物がこの地を訪れている。いちばん有名なのは、織田信長が桶狭間に向かう途中、ここで戦勝を祈願したという故事だろう。見事に今川義元の首を取ったので、その後、土塀を寄進したものが現在も残っている。信長も意外と義理堅いですな。ただし信長が神仏に祈願したのは、生涯にこのときだけだったのではないかと思います。

○それだけではなくて、源義経はここで元服したとされているし、西行法師が休憩したという場所も残っているし、足利尊氏が上洛する際に参詣している。考えてみれば、古今の英傑たちが日本の国を東奔西走しようとしたら、名古屋を通らんわけにはいかんのだぎゃあ。その一方で、あまりにも便利な場所にあったがために、戦争中は空襲に遭ったり、敗戦に伴ってご神体を他へ移したり、さまざまな厄介ごともあったようである。考えてみれば、「伊勢神宮の次に格式が高く」「三種の神器のひとつを置いている」とされる神社としては、あまりにも気さくな場所にあるような気がします。

○とはいえ、熱田神宮は広かったです。端から端まで歩きましたが、疲れました。ついでに言えば、暑かったです。しょうがないですね、名古屋なんですから。いえね、ワシがその昔、「信長の野望」をやるときはいつも尾張の国から始めたものですが、この季節の暑さにはつくづく閉口します。でも、天下を取りを目指すのだったら、やはり尾張からですよね。

○で、暑い中をさまよって、外に出てみたら有名な「蓬莱」の看板がありました。ちょうど開店の時刻でありましたので、そのまま入って早めの晩御飯ということにして、ご本尊の「ひつまぶし」を賞味しました。汗をかいた身体にはビールが程よく沁みて、帰りの新幹線は爆睡状態でありました。


<7月26日>(金)

今から何十年後になるか、よく分からないけれども、福島第一原発の処理が進むときがいつか来るだろう。放射能に汚染されていたサイト内にも人が入れるようになり、とうとうテレビカメラも持ち込まれる。そして実況中継とともに、「2011年にはこういう恐ろしい事故がありました」というニュースが流れる。それを見ながら、とある老人が孫に向かってこんなことを語り始める。

「このときは大震災があって、津波があって、原発事故もあって、皆がとっても怖い思いをしたんだよ。そのときは政府も東電も右往左往するばかりだったんだけど、現場には吉田所長という立派な人がいて、逃げ出さずに部下と一緒に被害を食い止めてくれたんだ。ところがお粗末だったのはそのときの総理大臣で、だれかれ構わず怒鳴り散らしたり、わざわざ視察に行って現場に迷惑をかけたり、変な命令を下したり、それはそれは顰蹙ものだったんだよ」

それを聞いた孫は、こんなことを聞く。

「どうしてそのときは、そんな変な首相が選ばれていたの?」

それを聞いた老人は、さめざめと泣きだしてしまうのであった。

「それがね、どうしてそんなことになったのか、おじいちゃんにもサッパリわけがわからないのだよ」

++++++++++++++++++++++++++

○てな、妄想がついつい浮かんでしまう昨今であります。

○民主党に対する国民の怒りはとっても深く、下野してから半年たっても忘れてもらえない。今の与党よりも、昔の与党の方が批判の対象になっている。ようやく定着しかけた二大政党制も、このままつぶれてしまうのかもしれません。その責任は、主に二人の元総理(NHKのうちNを除く2人)にあると思うのですが、ご当人たちにはその自覚は乏しいようです。

○既に民主党からはワルが去り、バカも離党し、ズルは党員資格停止処分3か月だそうです。この3人さえいなくなれば、民主党はそんなに悪い政党ではないと思うんですけどねえ。全般的に若くて女性が多く、若くして大臣経験を積んだ連中もいるし、与党として失敗経験があるということは、維新やみんなに対する比較優位であるという見方もできますし。

○「あの3年3か月」という言葉が、いつも否定的に語られてしまうのは、しばらくは仕方がないことでしょう。少しくらい時間がかかってもいいから、民主党には復活してもらいたいと思います。それは国民のため、そして日本政治の再生ためであります。そのためにも、今回のズルは除名にした方がいいと思うけどなあ。あまりにも大きな「消したい過去」を持っているんだもの。


<7月27日>(土)

○夜になって突然の雨。やっぱり今年も柏祭りのジンクスは健在であったか・・・・。昼間は良かったけど、今頃、夜店はたいへんなことになっているだろう。まあ、良いではないか。これが来週であったら、久々に復活する柏の花火大会が雨に降られていたことになる。

○あ、そういえば今宵は隅田川の花火ではないか。出かけている人たちは災難ですな。最近の日本の天候は、どんどん「亜熱帯化」が進んでいるようで、夏の雨は本当にスコールみたいです。きっと1時間くらいでスカッとあがるんじゃないだろうか。

○などと言いつつ、当方は冷房の効いた部屋で、さっきから冷えた「勝駒大吟醸」を呑み始めたところである。富山県高岡市の銘酒である。何でも社員5人で作っているとのことで、流通量が少ない。希少な1本である。なにしろ名前が「駒が勝つ」というくらいなので、競馬の騎手か将棋指しにあげたらさぞかし喜ばれるところだろう。幸か不幸か、そういう知り合いがいないので、ついつい自分で飲み始めたところである。

○昼の間に来週締切の原稿2本を片付け、もう1本もだいたい目途がついているので、後顧の憂いは半分くらいになっている。ということで、スコールをめでながら独り酒。あはは。まことに結構であります。


<7月28日>(日)

○宮崎駿の『風立ちぬ』を見てきました。映画館がさすがに混んでいて、両隣に人が居たので少し遠慮しましたが、たくさん泣きました。いいですね。5年ぶりのジブリ新作。いい時代の、いい日本人がたくさん出てくる物語です。

○以下は自分のためのメモ。


●“Le vent se leve, il faut tenter de vivre”「風立ちぬ、いざ生きめやも」・・・・昔の人の訳は上手いねえ。文語体にはパワーがあります。

●「力を尽くしているかね?」「創造的人生の持ち時間は10年だ」(夢の中でのカプローニの励まし)・・・・さて、ワシの10年はいつからいつまでなんだろう?「生きねば」。

●ヒロインの菜穂子は「さつき」で妹の加代は「メイ」。絵は「トトロ」の頃から変わってません。ジブリなんだもの・・・・今回は「上司の黒川さん」がヒットですね。まるで大友克洋作品のキャラみたいです。


○現在『持たざる国への道―あの戦争と大日本帝国の破綻』(松元崇・中公文庫)を読んでおります。高橋是清が殺された後の戦前昭和を、松元氏がいつもの「大蔵省史観」で描いている。これ、とっても勉強になります。


<7月29日>(月)

○昨日の余波で、ポール・ヴァレリーの詩の現物を探してみたら、ネット上ですぐに見つかった。ここにあった。思ったよりも長い。「風立ちぬ」の部分は最終パラグラフに登場する。

○が、ここでワシは愕然としてしまったのである。大学時代に第2外国語でフランス語をやっていたはずなのに、この詩が全く読めないのである。いやもう、名詞も動詞も文法もわからない。いくら30年前のこととはいえ、我ながらひどいものだ。たしか授業でアントナン・アルトーの詩の勉強なんかも知れたはずだったのだが・・・・。

○少し気を取り直すことにして、この詩は「Le cimetiere marin」(海辺の墓地)という題名である。つまり、海の見える墓地の情景を読み込んでいるらしい。しばらくはアンニュイな描写が続くのだが、後半になると作者はひとしきり感情的になって、最後のパラグラフでクライマックスのように例のセリフが出てくる。

Le vent se lève! . . . il faut tenter de vivre!
L'air immense ouvre et referme mon livre,
La vague en poudre ose jaillir des rocs!
Envolez-vous, pages tout éblouies!
Rompez, vagues! Rompez d'eaux réjouies
Ce toit tranquille où picoraient des focs!

○「風立ちぬ いざ生きめやも」というフレーズは、海辺の憂鬱な情景の中に風が吹き抜け、ああ、そうだ、俺はやはり生きていかねばならぬのだ、と作者が力強い意欲を得たことの表明なのであろう。ちゃんとエクスクラメーションマークもついているし。と同時に、深い諦観のようなものも込められているように思える。海辺の墓地に似合うのは、きっとそういう深い感情であろう。

○堀越二郎が作ったゼロ戦は、1機も還ってこなかった。それでも、堀越は戦後になってYS11の開発に参加している。堀辰雄は軽井沢で出会った矢野綾子を結核で失うが、その後は再婚して、みずからも肺結核と戦いつつなおも20年生きた。あるいは会津城は落ちたけれども、八重は死なず、新島襄の妻としてその後の人生を送った・・・・以下、同工異曲は数限りなくで、どんなに深い絶望を味わった者でも、だからといって自分が死ぬわけにはいかない。だって生きているんだもの。

○別に希望に満ちていなくても、愛する人と別れてしまった後でも、崇高な目的がなくても、創造的人生の持ち時間を使い切っていても、われわれは生きていかねばならない。ぜいたくを言ってはいかんのだ。たぶん、これが手塚治虫の『火の鳥』であれば、主人公の背中に「あなたは生きるのよ!」という声がかかるところであろう。

○ということで、柄にもないことを2日にわたって書いてしまったので、少しく反省。当溜池通信の本来の趣旨からいったら、今日は黒田総裁の話を聞いてきたぜ、なんて話を書かなきゃいけないところであった。


<7月30日>(火)

○ちょっと解せない。先週末から急に浮上した「消費税の見直し」の話である。選挙前にあんな話が出たら、「安倍首相がぶれた」ということになって、命取りになっていたかもしれない。このタイミングでも、あまり賢明なこととは思われない。以下、思いつくままに。

(1)一度決めたことを蒸し返すのが、まるで民主党みたいである。

(2)住宅産業やインフラ関連など、多くの企業は既に「来年4月3%増税」を全体に動いている。急な予定変更は困る。

(3)選挙にも勝って、準備万端整ったこの状態で先送りすると、「日本はやっぱり消費税を上げられない」という認識につながってしまう。

(4)JGB売りのタイミングを狙っているヘッジファンドは、もちろん今だってたくさんいる。

(5)本気で増税を見直すなら、法改正が必要になるのだが、それっていつやるのか。10月の臨時国会で、一から新しい法案を通すのか?

(6)その場合、民主党は喜んで反対に回るだろうから、三党合意などもなくなってしまう。

(7)そんなことに政治的資本を使っている場合だろうか。臨時国会では、成長戦略や日本版NSCや社会保障改革もあるんですけど。

○あらためて、どうして消費税見直し論議が浮上したかというと、以下の3つのパターンが考えられる。

(A)リフレ派対他のエコノミストの対立から:リフレ派の正体は旧上げ潮派なんですねえ。成仏してないなあ。

(B)官邸対財務省の対立から:財務省が増税に向けて先走りし始めたのを、官邸が不愉快に思って叱りつけている。

(C)安倍対麻生の対立から:ナンバーワンとナンバーツーの暗闘が始まっている。

○いずれにせよ、「選挙が終わって、政府・与党内が緩んでいる」ということの表れのように思われます。あんまりいいこととは思えませんけどねえ。


<7月31日>(水)

○今日で7月も終わり。うーん、今月はいっぱい仕事をしたぞ。「吉崎は手抜き仕事をしていた」と言う人が居たら、それは全くその通りなるも、「吉崎は怠けていた」と言う者が居たら、きっと呪われるであろう。「その割には遊んでもいたのではないか」という指摘は、これもまったく反論に能わずでありまするが。

○本日、タクシーの運転手さんから聞いた話。ご高齢のお客さんを乗せたら、急に真剣な顔になって、こんなことを言われたんだそうだ。

「運転手さん。あなたにだけは本当のことを言います。私は実は、5年前に宝くじを当てたんです」

○このご老人が宝くじを当てたのは、85歳の時だったそうなので、告白の時点ですでに90歳になっていたことになる。息子たちにもひた隠しにし、こっそりマンションを買ったりしたんだが、誰にも言ったことはないのだとか。そりゃそうだ。ご自分が財産家であることが分かってしまったら最後、肉親の間でどんな骨肉の騒動が起こるかは見当もつかない。最悪、自分が殺されてしまうかもしれない。「秘密の9割は自分の口から洩れる」との箴言も有之、黙っているに越したことはない。かといって、秘密を一人で抱えているのはつらい。見ず知らずの運転手さんであれば、秘密を告白することもできたのでありましょう。

○「自分のように、宝くじを当てるのはほとんどが高齢者、それも退職後の人が多いんですよ」というコメントもあったのだとか。これもまた納得で、今すぐ現金が必要な人に対して、ギャンブルの神様は微笑んでくれないものだ。むしろ「お金なんて今更必要でもないんだけど、暇だけはあるからねえ」という無欲な人の方が、大ラッキーを引き当てることが多い。面白きこともなき世を面白く、たまたま人生最後の局面で金的を当てたけれども、自分の死後に妙な心配ごとを残るくらいなら、そのお金、一切合財、どっかのシンクタンクに寄付するというのも悪くないのではないでしょうか?

○つくづく思いますが、お金と運は非対称的な存在です。無欲は強い。かといって、無欲がかならずしも幸せとは限らない。









編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2013年8月へ進む

***2013年6月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki