●かんべえの不規則発言



2013年10月







<10月1日>(火)

○2つの10月1日があった。

○ひとつは日本である。朝、日銀短観が出たらこれがいい内容で、与党幹部はそれを確認して最終調整を行い、夕方に閣議を開いて、安倍首相が半年後の消費税増税(5%→8%)を最終決定した。それと同時に、念のために5兆円の経済対策を打ち出した。まことに手堅い判断である。世論調査を見ると、増税への賛成と反対はほぼ拮抗しており、これは「反対が半分もある」というよりは、「(増税に)賛成が半分もある!」ことに驚くべきである。日本国民は借金をとぼけない。まことに立派なことではないだろうか。

○興味深いのは、安倍首相が法人減税にこだわっているように見えることだ。しかも、自民党税調を叱りつけるようなやり方で決めようとしている。こんなの自民党の歴史始まって以来のことではないだろうか。でも、東京五輪招致を成功させてしまった今の安倍さんに、逆らえる人は党内にはいませんわなあ。察するに、さる6月5日、第3回目の成長戦略演説の直後に、日経平均が500円も下げたショックが尾を引いているのだろう。「投資減税、いや法人実効税率の引き下げがないと、市場の理解は得られない!」と内心期するところがあるのだろう。

○ところが意外な伏兵が公明党の反対であった。復興特別法人税の廃止は少し手間取りそうだ。なにしろ公明党さんには、集団的自衛権も呑みこんでもらわないといけませんからなあ・・・・。てなことで、一部に留保すべきこともあるけれども、日本政治は概ね順調に推移している。

○もうひとつはアメリカである。度重なる上下両院の協議にもかかわらず、暫定予算は成立せず、午前0時をもって連邦政府の一部閉鎖が決まった。政府閉鎖は17年ぶりだが、けっして珍しいことではない。過去の例から考えると、1週間やそこらでは再開しないだろう。まあ、議員さんたちが週末に地元に帰って、自分たちがいかに評判が悪いかに気がついて、話はそれからと言うところではないだろうか。

○しかもアメリカは、今月17日以降には債務上限問題も再燃する。つまり、「お金が動かせないから政府が止まる」だけではなくて、「お金がないから政府が動かせない」も加わってくる。これは大変ですぞ。2011年8月の米国債デフォルト危機の再燃です。あのときは史上初めて、米国債の格付けがトリプルAから転落したのであった。

○それでは今回はどうか。米国経済は、明らかに当時よりはよくなっているし、財政状態も改善している。だったらアンタたち、好きなだけやってなさいよ、てなことになるのかもしれない。この先がどうなるかと言うと、2011年夏の時には「年金の支給日」が締切になった。さすがに、それを止めたら世の中が引っくり返るぞ、という瞬間が今回も必ず来るはずだ。そのときになったら、さすがに考えるだろう。

○ということで、今日のところは日本政治がまともな決定をして、アメリカ政治があられもない姿をさらしている。ワシ、明日は「日米共同フォーラム」ってのに出るんですけど、その通りに発言したらさすがに失礼ですかねえ。


<10月2日>(水)

○ということで、本日は終日、日米関係のシンポジウム。多少、戯画的に言ってしまうと、昔はこんな感じであった。

<通商問題> 米「お前のここが怪しからん!」→日「ひえー、ごめんなさい〜」

<安保問題> 米「もっと協力しろ!」→日「こっ、ここまでしかできませーん」

○それが最近はこんな風である。

<通商問題> 日「私、特に問題ないっすよね」→米「知らん。俺は中国の相手が忙しい」

<安保問題> 日「とうとう、ここまでできるようになりました!」→米「目立たないようにやってくれよな。中国に気づかれるとうるさいから」

○どうにも張り合いがない。こんなことでいいのだろうか。今更口うるさい先生に戻ってもらいたいわけではないのだが、昨今の「らしくない」アメリカはどうも見ていて心配になってくる。

○日米関係というものは、驚くほどごく少数の「毎度の人々」によって支えられている。なおかつ、「若い世代が育ってないんじゃないか」との問題意識が日米双方にある。そこで秋になると、いろんなシンポジウムなどが企画されて、アメリカの知日派人脈を呼んでくる。日本ファンを作るための地道な努力の一つである。笹川平和財団とウッドローウィルソンセンターの共同フォーラムも、そういう努力の一つである。有名な人もいれば、これからの人もいる。筆者なんぞも、なんかの間違いで呼んでもらえた。まことにありがたいことである。

○今日の会議では、午前中にカート・キャンベル氏の講演とそれに対するQ&Aのやり取りが面白かった。練達の外交官ゆえに、なかなかに尻尾をつかませない発言はお見事だな、と思った。オバマを気遣い、米国務省をかばい、ヒラリーをヨイショして、最後は民主党(日本の!)をも持ち上げる。簡単なことではホンネは飛び出さない。こういう大人の会話を聞いていると、「ぶっちゃけホンネベース」の政治家など、まったく未熟なものに思えてくる。

○キャンベルが居てくれたお蔭で、ずいぶん日本は助けられた。そんな狭いコミュニティの中で、日米関係は維持されている。さて、30年後はどうなっているのやら。


<10月3日>(木)

○最近得た豆知識のご紹介。

○アメリカ外交の規則性。@外向きの時期=1940年代、60年代、80年代、00年代。A内向きの時代=30年代、50年代、70年代、90年代、10年代。だから孤立主義はあんまり心配しないでよ、とのこと。

○アメリカの下院議員435人中、191人が鉄板の地盤を持つ共和党議員である。彼らにとって怖いものは、党内の極右候補であって民主党ではない。どうやったら彼らに妥協を求めることができるのか。状況は深刻です。

○連邦政府がシャットダウンになっても、こういう人たちは働いている。@NASAの宇宙ステーション担当、A商務省の天気予報、Bエネルギー省の原潜担当技術者、C運輸省の航空管制官、D国家安保省のシークレットサービス。

○東海道新幹線のグリーン車が混んでいる。年初の頃とはえらい違いである。と言っても、2006〜7年頃ほどではない。リーマンショック後は、本当に閑散としていたものですが。非常に分かりやすい景気のバロメーターといえる。

○大阪の「あべのハルカス」は、東京で言えばサンシャイン60。阿倍野と池袋の雰囲気がちょっと似ている。大阪の梅田阪急ビルは、東京で言えばグラントウキョウ。駅が近くて便利だけど、入り口がやや分かりにくい。

○東京六本木のミッドタウンには、VIP用のエレベーターがある。ときどき「失礼します」と言いながら、低姿勢で乗り込んでくる小柄な男性がいる。誰かと思ったらユニクロの柳井さんなんだとか。

○都道府県別の薬品の生産額は、@埼玉県、A静岡県、B富山県、C大阪府。薬品工業の立地にはそれほど面倒な要件はなくて、「産業集積」が重要なんだそうです。@大正製薬、A第一三共、B日医工、C武田薬品なのかな?

○銀座の松屋と松坂屋の違いは何か。もともと松屋の方がちょっとだけイメージが良かったのだが、松坂屋に中国人観光客がバスで乗り付けるようになってから大差がついた。お蔭で松坂屋の化粧品はバカ売れになったが、今では取り壊しになった。次の一手はかなり難しい。


<10月4日>(金)

○新潮社のパーティーをちょっとだけ覗く。小林秀雄賞と新潮ドキュメント賞の贈呈式・祝賀パーティである。どちらも審査委員が講評して、受賞者が挨拶をする。他人が褒められたり、喜んでいるのを見るのは良いものである。でも、二冊とも読まないだろうなあ。すんません。他にも読まなきゃいけない本がいっぱいありますもんで。

○考えてみれば、自分が最後の本を出してからずいぶんになるし、新しい本を書こうという予定もない。代わりに1000字から5000字くらいの短い文章を、毎月山ほど書いている。(今週末も新たに2本書かねばならない)。テーマも広過ぎて、「これらをまとめて一冊」ということもままならない。こういう状況が、まだまだ続きそうな感じである。

○自分は浮気性なので、一つのテーマを集中して掘り下げるよりは、「2週間前は中国で、先週はニュージーランドで、今週はアメリカです」などと興味が転々とする方が性には合っている。これをやっていると、腰を落ち着けて一冊にする、ということは至難の業である。まあ、それでもいつの日か、ちゃんと他人に褒めてもらえて、自分でも納得がいくようなものを、世の中に送り出してみたいものです。


<10月6日>(日)

○毎日王冠と京都大賞典がやってくると、いかにも秋競馬が本番、という気がする。正直、スプリンターズステークスよりもこっちの方が萌える。ポーカーで言うと、絵札のツーペアと言った感じか。でも、あんまりとった記憶はないんだよなあ。

○そこで昼間から浅草に出かけ、観光客に紛れてしばし散策し、8レースからWINSで参戦する。ところが当たらない。最近、まったく当たらない。不調なのだ。本命を買っても、穴馬を買っても、途中で休憩を入れて買っても、ワシが買った馬は来てくれないのである。別にそんな巨額を賭けているわけではないのだが、こうも当たらないとさすがに気がめいる。

○特にメインレースが深刻であった。ゴールドシップは単勝1.1倍まで買われていたのに、伸びずに5位。11番人気のヒットザターゲットと7番人気のアンコイルドがワンツーフィニッシュ。なんだこれはとあきれ返るのだが、春の天皇賞もそんな感じだったし、やっぱりステイゴールド産駒にはこれがあるからなあ・・・・。これは今宵の凱旋門賞も、なるべく肩に力を入れずに見るしかあるまいて。

○さらに毎日王冠。ショウナンマイティからエイシンフラッシュ、クラレント、ジャスタウェイの3頭に流したのだが、ものの見事にタテ目を食らう。変な話、BOX買いにしていれば、3連単が取れているではないか。18キロ減と分かった時点で、なぜショウナンマイティを切れなかったのか。今まで買い続けてきた、というスケベ根性が諸悪の根源なのだが、巨額の赤字を垂れ流す企業経営者の心理がちょっとだけ理解できたような気がする。

○12レースに食い下がる気力もなく退場。競馬ファン、長くやってりゃこんな日もある。映画でも見てた方が幸せだったかもしれないが、かといって毎日王冠と京都大賞典を欠席するわけにもいかんしなあ。

○そういえば、来週から始まる臨時国会はIR法案をかけるんだろうか。カジノを作るというのは、非常に分かりやすい成長戦略となるのだが、これは秋の臨時国会における一つの見どころでありますな。


<10月7日>(月)

○オルフェーヴルの2位、という結果をいかに受け止めるべきなのだろうか。勝負の世界における2位は、1位になれなかったという意味では、確かに弱さであるのかもしれない。他方、3位以下の馬から見れば、2位は文句なしの強さの証明である。

○もちろん、最初から2位を目指す人はいないし、あと一歩で栄冠に届かないことはまことに残念ではある。しかるに勝負の世界において、2位の値打ちはけっして軽んずべきではあるまい。「1位になれなければ、2位もビリも同じだ!」というのは、間違った考え方であると思う。そうであったら、複勝馬券なんてものはこの世に存在しないであろう。

○いや、なんというか、ワシはオルフェーヴルの2位を憎めない、腹が立たないのである。1位になれなかったのは確かに残念だけど、世界最高峰の凱旋門賞で2年連続の2位なんですよ。今年は一番人気だったんですよ。それってスゴイことじゃありませんか。そして、あと一歩が届かない、というのは、かつて父ステイゴールドが嫌というほど体験したことでもある。それを凱旋門賞でやったというところが、まことにオルフェーヴルの豪快なところなのだけれど。

○凱旋門賞は日本馬には手が届かない壁なのか、などという気の早い声がある。多分、それは錯覚であろう。それは王選手による年間55本のホームランと同じように、ある日突然、誰かがあっさりと乗り越えてしまう壁であるに違いない。越えてしまうと、「なーんだ、こんなに簡単なことだったのか」と思えるのだが、それは天才か偶然かモノのはずみがないと実現しない。1位と2位は紙一重であり、なおかつ絶望的なほどに遠い。勝負とは、いつもそういうものだ。

○正直なところ、今年のオルフェーヴルは凡走するんじゃないかという気がしていた。そうだったとしても、何の不思議もない。世界最高峰レースで、去年2位だった馬が今年も2位。それだけでも偉いじゃないか。文句を言ったら罰が当たるぞよ。京都を走るゴールドシップが当てにならないように、いかなる強さにも絶対はないのである。

○もちろんワシは、「2位ではダメなんでしょうか?」などと言いたいのではない。そんなセリフは、民主党政権とともに忘却のかなたにある。ただ、1番にはあんまり縁のない人生を送ってきた者として、ちょっとばかしオルフェーヴルを弁護したくなった次第。


<10月8日>(火)

○お誕生日のメッセージをたくさんありがとうございます。

○と言っても、この年になりますと、「社会人生活も29年目」とか、「東京五輪の年には還暦か」みたいなことが思いやられ、有限な時間を生きていることを嫌でも認識させられます。要するに、仕事をするにも遊ぶにも「あとどれくらい?」を自覚するようになってまいります。要するに年をとった、ということであります。

○悔いが残らないようにするためには、何かゴールを定めて、そこから逆算して行動を始めた方がいいのかもしれません。などと言いつつ、きっと流されながら同じようなことを続けていくのでありましょう。このサイトだって、似たようなことをもう10年以上も書き続けているのですから。

○とりあえずは健康を大切に。ということで、本日はお誕生日なのに休肝日。ちゃんと週に1回ペースを守っておりますぞ。


<10月10日>(木)

○本日はこんなシンポジウムに登場しました。総合商社について語る、という日本貿易会の企画です。

○商社はごく普通の日本企業なんだけれども、拠って立つところのない業種である。業法もなければ、何々をしなければならないという自明の目的もない。メーカーならモノづくり、マスコミなら報道といったミッションがあるものだが、商社にはそれがない。だから、やっていることはしょっちゅう変わる。そして社員のモチベーションはやたらと高い。しかしてその実態はと言えば、とにかく「成長と利益」に向けて資源を投入するという単純な行動原理に基づいている。

○たまたま「総合」商社であったために、多くの事業を手掛けていることがリスクヘッジとなり、あれがダメでもこれがOK、てな感じで、うまく中身を変えつつ生き残ることができた。世間的には、商社は「集中と選択」をやったということになっておりますが、実は真面目にやっていなかったのではないか、なんてことを申し上げました。

○そうしたら豊田通商の清水会長から、「メーカーで毎年5%の事業を新陳代謝しているところなんてないですよ。やっぱり商社は上手に仕事の中身を入れ替えているんじゃないか」というご指摘を受けました。なるほど、であります。生産設備や研究開発部門を持っていたら、そうはいかないでしょう。商社には、「忘れることが上手な日本企業」という側面があるのかもしれません。

○毎度の議論で恐縮ですが、「商社とはある種のオプチミズムを共有する集団」だと思います。仮に商社が、『半沢直樹』に出てくるようなペシミズムを共有する組織であったら、あっという間に崩壊してしまうでしょう。あれは銀行というガチガチに外を固められた組織だからできることであって、拠って立つところのない商社の社員はある程度楽観的でないと務まりません。ちょうど自転車に乗っている人が、「自分が倒れるはずがない」といつも思っているように。

○そういう世界で禄をはむようになって29年と半年になります。途中で何度か「もうダメか」と思ったけれども、周囲から楽天主義を注入されつつ、楽しく過ごしてきたような気がしております。


<10月11日>(金)

○昨日のシンポジウムでモデレーターを務められた飯田香織さんが、ご自分のブログで取り上げてくれました。パチパチパチ。

○それから、締め切りをスカッと忘れていて、昨日慌てて書いた原稿はこちら。「女性FRB議長を揺さぶる『男と女の政治』」

○それにしても今日は暑かった。本当に10月なのかしらん。さて、気を取り直して3連休。


<10月14日>(月)

○ああっ、という間に終わってしまう3連休。またしても仕事ばかりしていたような・・・・。

○クライマックスシリーズは、案の定の結果でありました。後半戦大失速の阪神タイガースが、上り調子の広島カープには勝てませんわなあ。せっかく甲子園でやっているのに、あれではお客さんが可愛そうである。と言っても、レフトスタンドはかなり真っ赤に染まっておりました。「惜しい、広島県」は意外と行っちゃって、「おいしい広島県」になるのかも。

○そんな中でも、最後の打席に立った阪神の大ベテラン桧山は代打ホームラン。文字通り一矢を報いるという感じで、「だれーもお前を止められぬー」という応援歌通り。が、阪神ファンとしては、ここしか歓声をあげるチャンスはないという展開でありました。かくして阪神ファンとしては不完全燃焼の1年が終わる。つくづく今年の収穫は藤浪くらいであったのう。

○ところが今朝のスポーツ紙の見出しは「前園」なんだよなあ。何ということだ。でも、デイリースポーツの一面は「掛布復帰」であった。なんという異次元・・・・。


<10月15日>(火)

○10年に1度の台風だそうである。ということで予定を変更し、明日の前橋市での講演会のために高崎市に来ている。いわゆる「前泊」というやつだ。たぶん賢明な判断ではないかと思う。以前に、台風の日に新幹線が止まってしまい、熊谷市の会場までタクシーで行ったことがあったからなあ。

○その一方で、テレビなんぞが「明日は無理をしないで」とか「なるべく家にいましょう」などと言っているのを聞くと、大きなお世話じゃないかと思ってしまう。皆がそうやってリスク回避的な行動をとるから、「成長戦略」をお上に頼ろうなどというぬるい日本経済になってしまうのではないか。ワシなんぞ子どものころは、台風が来るとワクワクしたものであるが。

○などとブツブツ言いながら新幹線で移動したのだが、たまたま車中にで読んだのが『ビジネスを作る仕事』(小林敬幸/講談社現代新書)で、しばし時間を忘れました。現役ビジネスマンによるビジネス書なんですが、正体をバラすと、不肖かんべえとは長いお付き合いのらくちんさんである。だから本書には、「別れの理由は、出会いのときに気付いているものである」とか、「人災とは人事災害」など、過去にらくちんさんが生み出してきた名言の数々が散りばめられている。

○さらに調子に乗って、本書に詰まっている知恵をちょこっとだけご紹介。


●消費者に提供するサービスや娯楽は、ゆっくりであるほど良いサービスというものが多い

●新規事業では、閑居して不善をなさない精神力が肝要である。

●社会のゆがみは、飯のタネである。だが、社会のひずみに悪乗りして、ひずみを拡大するような商売はやめた方がいい。

●現実の認識はアナログに、現実の行動はデジタルに。

●神社仏閣と東京ディズニーランドは、生まれも育ちも違う施設だが、お金の流れでは似たようなところがある。

●ビジネスがうまくいかないのを安易に人口減少のせいにするな。人口減は、40%以上のシェアを持っている会社だけが言える言い訳だ。

●個人で会社を興すことと大きく違うのは、社内では少なくとも自分は詐欺師ではないという説明を省くことができるということだ。


○こうやって抜書きを作っていると、やっぱりらくちんさんは不肖かんべえと思考法が近いと思う。両方のサイトをご覧になっている方には自明でしょうが、きれいな理論よりも矛盾に満ちた現実を愛好するところとか、いつも無意識に笑いのポイントを探しているところとか、匿名性の功名心みたいなものを内心に抱えているところが、いろいろ似てますわなあ。

○強いて言えば、二人の違いは、「レベルの低いコンサルタントなどが、戦略的アプローチなどと称して、昭和的なプレゼンテーションをしている」ときに、不肖かんべえは意地が悪いので、つい「この辺がおかしいんじゃないですかあ」などとケチをつけにいくけれども、らくちんさんは「いやあ、それは気がつきませんでした。さすがですねえ」などと、サラリと流しちゃうところではないかと思う。関西人は奥が深いのである。


<10月16日>(水)

○台風一過の前橋市の空は青く、風はちょっと強かった。いちおう傘は持ち歩いたけど、はっきり言って無用の長物でしたね。聞けば群馬県は、天災とはほとんど無縁なお土地柄なのだそうだ。その一方で伊豆大島は大変だったようですね。お見舞い申し上げます。

○天気が良くなったので油断したのですが、帰りは大変でした。高崎からの新幹線は普通に走っているのだけれど、東北新幹線が遅れているので、上野駅を目の前にして30分も止まってしまう。悔しい。こんなことなら大宮駅で乗り換えればよかった。

○さらに上野駅では常磐線が来ない。20分ほど待って、ふと気が付いて秋葉原に移動し、つくばエクスプレスに乗ってみたら、こちらは全く普通に走っていた。つまり大きな自然災害があると、長い路線を持つJRが真っ先に麻痺してしまうのである。「3/11」以来だなあ。

○さて、明日は黒部〜魚津へ参ります。


<10月17日>(木)

○商社業界の調査担当者の連絡会「水曜会」恒例の視察旅行で富山県黒部市へ。ワタクシ的には地元なんでありますが、県東部に出かける機会はあんまりないので、結構貴重な機会であったりします。

○富山市黒部といえば、何といってもYKKであります。本日、YKKの工場見学をしましたが、知らないことがいっぱいありました。ファスナーに3種類あるって知ってましたか?金属とビスロンとコイルがあるんだそうです。さらに言いますと、昔、ファスナーのことを「チャック」と言ってましたけど、あれは「巾着」から来た堂々たる日本語なんだそうです。英語では「ジッパー」(Zipper)。このファスナーの世界で圧倒的なシェアを持ち、世界70か国で操業をし、人口4万人の黒部市に製造基盤を持ち、地元で8000人の雇用を生み出している、という隠れた優良企業です。

○YKKはなぜ、この業界でドミナントな地位を築くことができたのか。今日の説明を聞いた感じだと、答えは垂直統合にあるようですね。すなわち、ファスナーの製造機械を内製しているのです。機械を自分で作っているから、世界70か所の工場で同じものを生産できる。ライバル会社がこの世界に新規参入しようと思ったら、まずは機械から自分で作らなければならないのだけれど、それはYKKでないと作っていない。これって『ストーリーとしての競争戦略』にまんま出てきそうな話であります。

○さらに海外にも積極展開している。結果とて全世界的に「ファスナーはYKK」ということになっている。単価が安い商品であり、世界中どこでも同じ製品ができ、納期も短くて多品種少量生産にも対応可能、ということで、ナイキからユニクロまで、いろんなメーカーで使われている。今からこの牙城を揺るがすことは相当に困難でありましょう。垂直統合と全世界展開を、ごく早い時期からやっていた、というのがこの仕事の成功の秘訣なんだと思います。

○さて、黒部市というのはユニークなところです。高さ3000メートル級の山岳地帯を控えているけれども、その扇状地から海まであって、なおかつ富山湾は深さ1000メートルもある。仮に立山連峰から富山湾までを水平に移動することができるとしたら、クルマで30分もあれば着いてしまうでしょう。これだけ高低差がある地形は、世界でも珍しいのではないかと思います。

○しかもこの山岳地帯は、世界でも有数の豪雪地帯ですから、豊富な水量の雪解け水が始終流れることになる。ゆえに黒部川は、水量も高低差もあるということで巨大ダムができたりもするわけです。さらにこの水量が流れ込む富山湾は、めずらしい生態系ができて採れる魚が豊富である。つくづく水に恵まれた場所であります。

○本日はその隣の魚津市で投宿しております。蜃気楼で名高い街ですが、そうそうしょっちゅう出るものではありません。沖合に蜃気楼が出ると、花火をあげて知らせるのだそうです。なおかつ、その日の夕方のローカルニュースのネタになります。かくいうワシも1回も見たことはないのであります。と言うと、「へぇ〜」と驚かれたりするのでありますが、そりゃま蜃気楼というくらいですから、見たことがある人があんまり多いと値打ちが減って困るのであります。


<10月18日>(金)

○さて、黒部川の続きです。豊富な水量と極端な高低差がある黒部川は、水力発電に大きなポテンシャルを秘めていました。そこで戦前から電力開発が始まり、幾多のダムが作られてきました。そして戦後には、「クロヨン」こと黒部川第4ダム(現在の黒部ダム)が出来たことは有名であります。もっともこの黒部ダム、今ではエネルギー源というよりは観光資源になっていて、破砕帯をめぐるあの苦労話も、じょじょにリアリティを失ってきているようでもある。それくらい時代は変わった。

○面白いもので、黒部川流域の自治体では今もエネルギーを巡る取り組みが行われていて、今回のツァーでは黒部市のバイオマスエネルギー利用と、温泉街で行われている「でんき宇奈月プロジェクト」を視察させてもらいました。どちらも切り口は「エコ」ですが、真の狙いは地域活性化や観光資源化にある。人口減少というおなじみの問題に対し、全国各地でいろんな努力が行われているわけですが、この2つの例もご多分に漏れません。前者は自治体の、後者は民間の取り組みですが、どちらも手探りでいろんな工夫をしていているようでした。

○そして2015年には北陸新幹線も通る、しかも「黒部宇奈月温泉駅」ができるということで、地元としてはこの機会を活かしたいところである。それにしても、「黒部の太陽」の時代とはまったく正反対の方向の努力が行われているわけで、しみじみ時代は変わったなと感じざるを得ない。そういえば黒部ダムは今年で完成50周年で、まあ、ワシと同じくらいの歳月を経ている。そりゃま、この半世紀でいろいろありましたわなあ。

○その一方で、黒部峡谷を流れる水は相変わらず綺麗で、子供のころに見た時と同じエメラルド色をしている。これが富山湾に流れ込み、湧水をもたらし、海の幸を育てる。自然の恵みは変わっていない。ありがたいことである。

○夜は地元の元同級生たちと4人で寿司。18歳の時のクラスメートが、現在では某市議と県庁と北陸電力の幹部になっておる。いろいろ面白い話を聞いたと思ったが、一晩明けたら大方忘れておる。この辺が我ながらまことに情けない。年を取ったんだから、しょうがないよねえ。


<10月19日>(土)

○ちょっとめずらしい経験をしたので記録しておこう。

○富山空港に行ったら、飛行機が1時間遅延するという。羽田―富山便は、雪で欠航ということはあるけれども、遅延はめずらしい。理由はといえば、「機体不良による交換のため」で、案の定、羽田―富山便には珍しいボーイング787機であった。この季節、他には考えにくいよねえ。ちなみに1時間遅れて、代わりに到着したのも787型機であった。

○さて、1時間遅れの飛行機を待っている空港内の雰囲気がやや微妙である。滅多に見かけないような警備員も居る。休日にしては、スーツ姿の乗客が多い。たまたま知り合いの関係者に出くわして謎が解けた。なんと某皇族、それも最近、きわめて評価の高い人がイベントで富山に来ていて、そのお帰りなのだそうだ。よりによってそういう飛行機が遅れているので、ANAとしては生きた心地もしなかったのではないだろうか。

○1時間遅れでANAの787型機が飛んで、きっかり1時間で羽田着。到着は59番ゲート。すなわち、いちばん歩く距離が少なくて済むゲートであった。富山からの便は、遠い不便な場所につけられるのが常であるのだが、さすがに今日は違いましたねえ。


<10月21日>(月)

○横浜の商工会議所金融部会で講演。山下公園のすぐ近く。いつ行っても、あの辺はいいですなあ。

○横浜の金融関係者の皆さんのご意見だと、景気はかなりいい感じ。人口流入も続いているので、不動産関係も活発。ただし製造業の様子が気になる。日産も工場を畳んでしまったし(跡地は研究所になっているとのこと)。日本のモノづくりは大丈夫か、との質問あり。

○まさに当方もそれが気になっている。今朝発表の9月貿易統計も、輸出は伸びてはいるものの、それは円安による金額の増加であって、数量は伸びていない。他方、輸入の増加は堅調。貿易収支は今月も9000億円台の赤字と相成った。

○ひとつには日本のモノづくりが、「電機はコケて、電子部材は健闘」みたいな形で、より目立たない形で頑張っていることもあるのだろう。ただしGDP成長率や失業率、鉱工業生産など、ほとんどの統計が改善を示している中にあって、貿易統計はちょっと焦燥感を感じさせるものがある。

○今の横浜の好況感は、ちょっとそれを反映しているような感じである。「これでディーエヌエーがもうちょっと強ければなあ」なんて声を聴きましたぞ。そういえば今年、マツダは大復活を遂げて、今年の広島カープは盛り上がったんですよねえ。

○ついでに今朝の産経新聞「正論」欄のご紹介。溜池通信ご愛読者はご記憶かもしれませんが、昔からオバマケアに対しては懐疑的なんです。2009年12月とか、2010年7月に書いたことを、今頃になって懐かしく読み返しております。


<10月22日>(火)

○今日は成人病検診。「くにまるジャパン」が終わってから行ったのだが、なんだかんだと待たされ、とうとう正午時過ぎになってしまう。ついには診療所の最後の一人になってしまった。しかも最後に残っているのが、もっとも嫌な腹部レントゲンである。

○朝から何も食べずに昼まで過ごして、12時過ぎになって初めて口にしたのがバリウムである。あー気持ちわるい。その間にも、「午後1時には、あっこさんが打ち合わせでオフィスに来るのに、それまでに間に合うかなあ〜」と、心配することしきり。

○そうなんです、次回のモーサテは10月28日(月)登場です。宣伝でした。

○さて、以下はそれとは何の関係もない一発ギャグです。どうぞ。


安倍首相 "The situation is under control."

滝川クリステル "O-MO-TE-MU-KI"


<10月23日>(水)

○今日は大阪で講演会。そこで早速ながら、大阪で聞いた話のご紹介。

●地元で育ったT薬品が、大阪の研究所を湘南に移転してしまった。そしたら関東では勝手が違って、理工系人材の確保に苦戦しているらしい。考えてみたら京大、阪大など、関西は理工系の強い大学が多いんですね。思えば湯川秀樹教授から山中伸弥教授まで、「ノーベル賞は西から」がわが国の伝統でありました。

●USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)が、ハリー・ポッターをテーマにしたアトラクションを建設中。総投資額2000億円のUSJが、なんと450億円の追加設備投資だとか。完成は来年になるらしいですが、オープンはきっと今の季節、ハロウインにぶつけてくるんじゃないでしょうか。

●梅田のJR大阪駅周辺の再開発から、日本で一番高い「あべのハルカス」まで、大阪では新しいビルがどんどん建っている。今のところ、梅田周辺の方が好調の模様。ただし共通の悩みは人手不足なんだとか。お客さんは居るけれど、店員の確保が難しい、なんてことも。

●節電対策の一環で、夏の甲子園は2011年から決勝戦が午前中に行われてきた。ところが今年、3年ぶりに午後に戻したところ、案の定、関西地区では昼過ぎから電気の使用量が急上昇。ピーク時には98%に達して冷や汗ものだったが、関西電力は他地域からの電力融通を受けて辛くも乗り切った。・・・・ところが主催者である朝日新聞社はこのニュースを黙殺。さらに「甲子園決勝戦のために、電力消費量が急上昇した」という共同電にも不満げであった由。まあ、お立場はわかりますけどねえ…。

○ところで全国各地で講演をしていると、同じ話をするとその都度、反応が違います。関東(群馬や横浜)では東京五輪招致の話がとっても受けるんですが、愛知県辺りから先になると反応が悪くなる。たぶん大阪では、かえって反感を受けるんじゃないんだろうか。と、思って昨日の「オ・モ・テ・ム・キ」のネタを試してみたところ、これが気持ちよく受けた。ちょっとブラックですけどねえ。

○ちなみに講演終了後、主催者の方から、「『阿倍野のお好み焼き屋』のネタを流行らせたのはこの人です」とバラされてしまいました。


<10月25日>(金)

○今宵はドレスコードが「ブラックタイ」のディナーに呼ばれてしまった。本来であれば、略礼服ぐらいでごまかしたいところであるが、諸般の事情でそうもいかない。ここは「タンスの肥やし」の出番である。

○ワシが30歳だった頃は、世の中がバブルであったために、実は自前の「タキシード」というものを持っておる。たしか「若い人はスーツを5着も作ったら、そろそろタキシードを買いましょう。これからの世の中は、そうでなきゃいけません」式の御託をどこかで聞いてきて、それに従ってしまったのである。

○もちろんこの投資はただちに不良資産化した。タンスの中のタキシードは、今までに3回くらいしか着たことがない。最後に着たのは、確か大谷信盛氏の結婚式のときで、それって確か15年くらい前の話である。そういえば仲人は鳩山由紀夫氏であった。あのときは、まさかこんなことになろうとは・・・・(以下略)。

○ということで、15年ぶりくらいでタキシードを引っ張り出す。案の定、ズボンは苦しいので、去る筋に頼んで5センチくらい広げてもらう。シャツはクリーニングされているとはいえ、さすがに15年もたつとヨレヨレなので、これも買い替えることとする。さらに靴もエナメルとは言わないまでも、少しはマシなものを用意せねばと、当社比2倍以上の価格の靴を購入することに。ちなみにワシは、普段は一足1万円以上の靴は買ったことがない。

○かくして、かなりの散財になってしまった。およそお金を使わせるのに「恥」の感覚くらい重要なものはない。しかるに、中年男になるとこの「恥」の感覚がどんどん麻痺していくので、たまにはこういう体験をするのも悪くはないだろう。そもそも「正装でお出かけください」というご指示は、日常性を離脱するのが目的である。夢のような時間を体験するためには、普段と違う感覚を持って、現実を忘れなければならないのである。

○などと言いつつ、帰りもまさかタキシードで地下鉄に乗るわけにもいかないから、台風の中をタクシーで帰宅することになる。何かと物入りである。

○家に帰りついて、溜池通信の更新を行う。さて、明後日の天皇賞の検討でもするとしよう。非日常的な時間を過ごした後は、現実のなんでもないことが妙にうれしい。


<10月27日>(日)

○今朝は久しぶりの好天。となれば行かねばならぬ。平成25年度自衛隊記念日「観閲式」である。ちなみに、ここで現物を見ることができますので念のため。

○午前10時半スタートの予定であるが、ご案内には「9時30分ごろまでにご来場されることをお勧めいたします」とある。前回の「そうかえん」(8月25日の記事を参照)の記憶があるので、家を7時過ぎに出発。池袋駅で東武東上線に乗り換え、目指すは朝霞駅、いや、朝霞駐屯地である。それにしても日曜朝の池袋駅始発電車は、徹夜明けとおぼしき酒臭い若者たちが寝込んでいたりして、いかにも平和国家ニッポンである。

○朝霞駅で降りると、そこから徒歩20分とあるのだが、迷う恐れは全くない。どこからどう見てもそっちのご関係の方々が、ぞろぞろと歩いていくのについていけばよろしい。それにしても、5歳くらいの女の子に迷彩服を着せている親は、重度のミリオタであるとしか思えない。ただし「そうかえん」でもそうだったように、自衛隊ファンの皆さんは節度があって礼儀正しい。住宅街の中を右側に並んで、目的地に向かって静かに歩くのである。

○ちゃんと予定通り9時前に訓練場に到着し、持ち物検査などの上、会場に入る。「観閲式」は、普通の国の軍事パレードと同じだと言ってしまえば説明が楽になる。横長の広場の手前中央に、最高司令官である内閣総理大臣以下が座る観閲席がある。その両側に階段式の観客席があって、遠くまで広がっている。その前を自衛隊員たちや車両部隊が行進するわけである。ワシの持っている赤チケットは、黄色チケットよりは中央から遠いけど、他の色のチケットよりは優遇されているらしい。

○「そうかえん」のときはひどい雨であったが、今日の「観閲式」は台風明けの晴天で日差しが強い。しかるにテントなどの雨除け、日除けはまったくない。見る角度と距離が違うだけで、最高司令官からワシのような野次馬客までまったく同じ条件である。日傘をさそうとしたご婦人方が、「持ち込み禁止ですよ」と注意されているのを見かけたが、確かに「日焼けがどうのこうの」と言っていては、自衛隊員の皆さんに失礼といえましょう。以下、パンフレットと手元のメモに基づいて再現してみます。



●09:45 防衛大学校学生隊を先頭に、遠くから徒歩部隊が整然と行進してくる。ゆったりしているようで、意外と速い。以下、防衛医科大学学生隊、高等工科学校生徒隊、普通科部隊、空挺部隊と続く。さらに海上自衛隊部隊、航空自衛隊部隊が入場。そして高等看護学院学生隊、陸自・海自・空自の女性自衛官部隊と続く。締めて合計3200人。これだけの人間が整然と入ってきて、並び終えるまでほんの20分弱で済んでしまう。もちろん何のトラブルもない。さすがはニッポン、である。

――指定の位置に来ると、「止まれ〜」の声で静止するが、同時にカチャリという音がする。そこで初めて気がつくのであるが、そうか、彼らは銃を持っているのである。だから左手は大きく振るが、右手は銃を押さえている。左利きの人はどうしているんだろう。ちょっと気になる。

――「普通科部隊」とは何のことかと思ったら、パンフレットを見ると英語で"Infantry Units"とある。なーんだ「歩兵部隊」のことじゃん。わが国特有の「言い換え」であるが、「普通科」ってどこか変だよなあ。

――最後に、陸・海・空自衛隊音楽隊が入ってくる。面白いことに、指揮者も3人いる。縦割りなんですねえ。ちなみに海上自衛隊が入ってくるときの行進曲は、もちろん「軍艦マーチ」でありましたよ。

●10:03 バスに乗って各国大使などのVIPが入場。正面の席に着席。

●10:04 続いて本日の観閲部隊の指揮官が入場。第一師団長陸将がこれを務める。観閲席へ。

――なんと本日の指揮官は、2011年に沖縄で第15旅団を訪れた際に、ブリーフィングを受けた旅団長さんであった。あまりにもユニークな名前であったので覚えている。ちなみに「反怖謙一」(たんぷ・けんいち)さんという。ご本人は、英語で説明する時には「私の名前はAnti-Terrorismです」と説明していると言っておられました。

●10:11 続いて執行者(東部方面総監・陸将)、実施責任者(陸上幕僚長・陸将)が順に入場。観閲席へ。ここまでは全員が制服組である。

●10:20 儀仗隊が入場。国公賓などの接遇に際して敬意を表し、警護を行うという栄誉礼のプロ集団だ。儀仗隊は観閲席の前に展開。

●10:26 観閲官である安倍晋三首相が、小野寺防衛大臣とともに入場。総理が乗ってきたのはセンチュリーでありました。

●10:29 儀仗隊の栄誉礼とともに開式。それから全体で栄誉礼。続いて国旗掲揚。君が代とともに一同起立。

●10:34 巡閲。安倍首相がオープンカーに乗って、整列した自衛官たちの前を端から端までゆっくりと通る。これ、快感だろうなあ。

●10:42 観閲官訓示。つまり安倍首相のスピーチ。ここで急に周囲が騒がしくなる。どうやら平和(サヨク)団体が抗議に来ているらしい。女性の金切り声で、「○○に反対するぞー」式の声が聞こえてくる。無粋なことである。総理の演説内容は、明日あたりにはここに出ると思います。中身はともかく、今日のはちょっと長かったんじゃないかなあ。

――ちなみに総理のスピーチが終わるとともに騒音も消えた。どうやらその時間を狙って来ていたものと見える。確かに、親兄弟や配偶者の晴れ姿を見に来ている人たちからすれば、行進の最中に妨害されたら文字通りぶち壊しで、相当に顰蹙ものであろう。

●11:03 徒歩行進開始。3200人の大移動が始まる。全員がスタートラインに移動するまでの準備はわずか10分。

――本来はこの間に空挺降下が行われるのだが、本日は上空の風が強いために中止と相成る。観客席の間から「あ〜あ」というため息が漏れる。抜けるように青い空なのだが、昨日の台風の余波があると見える。

●11:12 音楽隊、学生隊から順次、行進を開始。観閲席の前を通る際には、指揮官の名前がコールされ、それと同時に隊旗が上がる。それぞれの部隊にとって晴れの瞬間であろう。よくぞ自衛官となりにけり。

●11:25 観閲飛行。人間が歩いたコースの上空を、15の飛行部隊(うち陸自9=木更津、海自3=岩国、八戸、空自3=小牧、三沢、百里)が飛んでくる。ところが会場の近くには、大きな送電線が通っている。その鉄塔ギリギリの低さで、ヘリコプターなどが隊列を組んで飛んでくる。しかも前の部隊とつかず離れずの距離で、さらに隊列はきわめて近い。かな〜り高度な技術と見える。

●11:37 ミリオタお待ちかねの車両行進。国際派遣部隊、偵察部隊、普通科部隊、即応予備自衛官部隊、予備自衛官部隊、施設科部隊、通信科部隊、化学科部隊、衛生科部隊、需品科部隊、情報科部隊、西部方面普通科連隊、空自ペトリオット部隊、高射特科部隊、野戦特科部隊、戦車部隊と続く。

――戦車はヒトマル式などがテキパキと走る。これは「そうかえん」で実戦を見ているので、ここではあんまり感動しない。とはいえ、すごい迫力であった。南西諸島の防衛の任に当たる西部方面普通科連隊が、ゴムボートを用意していた、という点が個人的にはヒットでした。

●11:50 国旗降下。



○そして筆者は、そそくさと席を立って、秋の天皇賞へと向かったのであった。ブレザーの内ポケットには、実は競馬新聞(優馬)が隠されていたのである。


<10月29日>(火)

○これは今朝の産経新聞から。


●ソチ五輪 開幕まで100日 首相開会式出席、首脳会談へ 北方領土など協議

 安倍首相が来年2月のロシア・ソチ冬季五輪大会に合わせて訪露し、プーチン大統領と首脳会談を行う方向で最終調整に入った。複数の日露関係筋が28日、明らかにした。五輪に合わせた訪露は大統領が求めていたもので、良好な日露関係を背景にして、平和条約締結に向け、北方領土問題などを意見交換する考えだ。

 ソチ五輪は来年2月7日(現地時間)に開幕し、17日間開かれる。首相は7日の開会式に出席する方向だが、1月召集の通常国会の日程次第では期間中にソチを訪れ、競技を視察することも検討している。

 今年10月にインドネシアで開かれた日露首脳会談で大統領が首相にソチ五輪の開会式出席を招請。首相も前向きに考える意向を示していた。両国は11月2日に東京で初の外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)開催を予定している。ロシアのラブロフ外相が首相を表敬する方向で、この際、改めて首相のソチ五輪出席が話題になりそうだ。

 政府筋は、首相の訪露について「国際会議に合わせた首脳会談が続いてきただけに、ロシアでじっくり話し合えるのは双方に利益がある」と期待している。


○この記事、とっても大事なポイントを見落としていると思う。それは、ですね。


「2月7日は北方領土の日だということですっ!」


○日本国首相として、どの面下げてモスクワに行くんですか、あるいはロシア外務省は、こんな日に日本国首相を受け入れられるんですか、という問題があるんですねえ。→「ソチもワルよのう」

○まあ、ここは、あれだ。われわれがオトナになるしかない。安倍さんは敢えてこういう風に言えばいい。


「五輪は平和の祭典だ。領土問題は関係ないっ!」


○そう言って堂々とソチへ行けばいい。上はまったくの正論であるし、そういう風に言っておけば、2020年の東京五輪の際に竹島がああだとか、尖閣がどうだとか、そういう問題を未然に防げるではないか。

○ただし、こんな風に言ってしまったら、ソチで日ロ首脳会談をやっても、北方領土問題の進展は期待できないでしょうなあ・・・。

○まあ、ワシ的には、こういうときに我慢ができることが保守派の矜持というものではないかと思う。「安倍首相に裏切られた」などと言うべきではないと思うのであーる。



<10月30日>(水)

○お昼にホテルオークラで品川正治さんのお別れの会。人がとっても多いので、知り合いを探すことは至難の業。それでも昔の同友会関係者としばし歓談。なんだかんだで、20年くらい前の集まり。

○後で大きめの書店を2か所回って、品川さんのメモワール『戦後歴程』を探すも見当たらず。「買い取り制」の岩波書店は難しいねえ。だったら最初からアマゾンで買えよ、ということか。いちおう、『世界』の連載記事のコピーは手元にあるのだけれど。

○夜はニューオータニで長島昭久さんの出版記念パーティー。こちらは毎度おなじみの面々。ご挨拶は池井優教授、岡崎久彦大使、桜井よしこさん、小林節教授。いつものことながら、これではなぜ民主党議員なのか分からない。乾杯ご発声は吉良州司前衆議院議員。いつも通り熱い。

○議員生活10周年とのこと。え、もうそんなになるのか、と驚く。まあ、こっちもいろいろあったからねえ。いろんな人と旧交を温めた一日。



<10月31日>(木)

○米情報機関NSAによる盗聴問題について一言。

○旧東独生まれのメルケルさんは、「電話は盗聴されているのが当たり前」の環境で育ったはずなのに、アメリカによる盗聴に怒り心頭、ってのはかな〜り変な話だと思う。まさか警戒していなかったとでもいうのだろうか。

○と思ったら、ミヤケさんがちゃんと書いていた。


同盟国であっても盗聴はする。だが、それによって得た秘密情報は極力悪用せず、少なくとも当該同盟国の不利益となるような形では使わない(または、そのように努力する)のが同盟国間の信頼のルールではないのか。少なくとも筆者はそう思っていた。

メルケル首相は激怒した?何とナイーブなことか。あなた、まさか機微な話をその携帯電話でしなかったでしょうな。秘話装置のない電話で極秘の話はしない、というのが世界の常識だ。米国が聞かなくても、ロシアや中国が必ず聞いているだろう。


○つまりメルケルさんは、気づいていなかったふりをして怒っている。オバマさんも、自分は知らなかったことにして恐縮している。そんなわけないのにね。だって他国の首脳を盗聴した結果を、自国の首脳に「ご注進」しないはずがありませんわなあ。

○この件について、日本国民はきわめて冷静に振る舞っていると思う。民度が高いよね。「まさかわが国は盗聴していないでしょうね!」などと言って食いつくのは、とっても恥ずかしいことだと思います。逆に日本がまったく盗聴されていないとしたら、それはそれでショックなんですけど・・・・。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki