<1月1日>(火)
○気がついたらもう2019年が始まっていた。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
○新年早々の政府発表によれば、新元号の公表は4月1日にするとのことです。その上で5月1日午前0時から適用される。いろいろ議論はあったようですが、施行の1か月前の公表となりました。
○「元号は新天皇が決めるもの」という原則論はわかりますけれども、伝統重視派の人たちが言うように「5月1日の新天皇即位の後に新元号を公布する」というのは、ハッキリ言って無茶でしょう。SEの人たちに聴くと、生年月日の「M・T・S・N」の4つの区切りに、5つ目を追加するのは技術的に困難なのだそうです。加えて明治生まれの人たちは、まだ数十万人がご存命であるらしい。だから新元号は、システムの改編に苦労することが最初から見えている。「とにかく早いとこ決めてくれ〜」という事情があるだそうです。
○こういう声を無視していると、「こんなことなら、コンピュータのシステムにはなるべく元号を使わない方がいい」ということになって、結果的に元号を国民生活から遠ざけることになってしまいます。この年末年始は「平成最後の・・・」が大流行で、まだまだ日本人は元号が好きなんだなあ、と感じることが多かった。利便性から言ったら、世の中はどんどん西暦中心になっていくはずなので、この手の不条理はなるべく減らすに限ります。
○さて、新元号は何になるのか。既にいろんな予想が飛び交っているようです。ツイッター上では「#いちばんかっこいい新元号を考えたやつが優勝」なんてハッシュタグが誕生しているのですね。真面目な話、日本政府は現時点で何通りかの案を用意しているはずですが、これが漏れた日には目も当てられない。SNS全盛時代はそういうリスクもあります。どうか4月1日までにそういうトラブルがありませんように。
<1月2日>(水)
○お正月はついついテレビを見てしまいます。今日はもちろん箱根駅伝。往路優勝は東洋大。2位東海大、3位国学院。4連覇の青山学院大学が意外な失速で6位。明日の復路はどうなるのか。まあ、4連覇自体が途方もない偉業なので、今年はいろいろ変化が出る年なんじゃないかという気がします。
○駅伝は「何が起こるかわからない」ので、ついつい見てしまうのですが、この番組は毎年、CMも作りこんであるので、楽しみなのであります。期待した通りでしたな、ダイワハウスのCMは。「役所広司さんが電話をしている相手の声は誰だ!」キャンペーンがついています。○竹×のぶさんじゃないかなあ・・・・。
○それから全国大学ラグビーもド迫力でした。早明戦は明治がわずかな差で勝ち。でもその後の天理対帝京では天理が強過ぎ。帝京大は10連覇ならず。いやもう凄いバトルで、ニュージーランドとオーストラリアの対決のようでありました。日本のラグビーも進化してますな。
○年末の紅白歌合戦も、近年では白眉の出来栄えだったと思います。特に最後、サザンが北島サブちゃんとユーミンと共演したシーンは、「これぞ平成最後」でありましたな。視聴率も良かったようです。ちなみに関東41.5%(前年比+2.1%)で関西40.5%(前年比+0.9%)ですから、ほんの微増ですけれども。
○いや、年末年始くらいはこうやってテレビを見ないと、世の中からどんどん遅れてしまうのです。あたしゃ米津玄帥だって知らなかったんですから。「よねづ・けんし」と呼ぶのが正しいのですな。ああ、ワシはモノを知らない。
<1月3日>(木)
○新年早々、マーケットが荒れてます。アップルが2日、2018年年10-12月期業績の下方修正を発表。890〜930億ドルと見込んでいた売り上げが、840億ドルになりそうだとのこと。
○ティム・クックCEOの投資家向け書簡はこちら("Letter
from Tim Cook to Apple investors"
)をご参照。ドル高もあるけれども、やはり中華圏での景気減速が影響していて、これに米中通商摩擦の影響も加わる見込み。中華圏ではスマホ市場も縮小している。でも、アップルの経営はしっかりしているのでご安心を、といったことが書いてある。
○いろんな意味で「やっぱりね」である。中国経済の減速にせよ、米中通商戦争にせよ、真っ先に影響が出るのは世界最大の企業であるアップルでありましょう。これが株式市場を揺さぶり、アップル株は7%下落、他のハイテク株の連れ安となった。さらには薄商いの為替市場をも動揺させ、一時は1ドル104円台まで円高が進んだ。いかに投資家心理が脆弱かということだろう。
○アップルの時価総額は、一時は1兆ドルを超えていた。「GAFAはすごい」とは皆さんおっしゃるが、あの株価の何割かはさすがにバブルだろう。バブルを抜きにしたとしても、「アメリカの技術と中国の製造現場、アジアの部品」を統合してできるのがiPhoneなどのアップル製品なのだから、今年は注目される機会が多いのじゃないだろうか。
○いや、アップルの経営が悪化する前に、アップルに部品を提供している日本や韓国、台湾のハイテク企業がおかしくなってしまうかもしれない。明日の株式市場で、どういう株が売られるのかも要注意ですね。
○今年はやっぱり不透明性の年。なにしろアメリカは今も政府閉鎖が続いていて、どうやったら予算を通せるのかめどがつかない。今日から新しい議会が始まるけれども、米民主党は案の定、内紛モードである。2020年大統領選挙の候補者はぼつぼつ名乗りを上げているようですが。
<1月5日>(土)
○一年の計は金杯にあり。ということで、今年の運試しに中山競馬場へ。と言っても、有馬記念(12/23)とホープフルステークス(12/28)からあまりにも日が近いので、全然、年が改まったという感じがしません。それでも今年の金杯はちょうど土曜日で、天気も良くて暖かかったので、中山競馬場はG1レース並みの人出でありました。
○中山金杯というレースは、本来はG1馬が出るようなグレードの高いレースじゃないんです。ということで、本日は昨年のホープフルステークスの覇者、タイムフライヤーから。そこからご贔屓のステゴ産駒3頭へ流す。でも、一番人気のマウントゴールドは外すのである。ワシはステゴ産駒にはチョイとうるさいのだ。
○蓋を開けてみたら、@ウインブライト―Aステイフーリッシュというステゴ産駒のワンツーフィニッシュであった。ご丁寧なことに、もう1頭のステゴ産駒であるアドマイヤリードは4着で、ステイフライヤーは5着であった。典型的な「縦目」である。この馬連はとってあげたかった。ああ、いっそのことステゴ産駒のボックス買いをしておけば・・・。
○京都金杯も惜しいところで外してしまったが、終わってみれば今日は生まれて初めてWIN5が取れました。金額は2万1040円也なので、あんまり自慢にはなりませんけどね。なにしろ5レース中、4レースが一番人気で、的中が2万2677票もあった。不思議なことに、5レース中3レースがK番でした。
○年明けの株式市場を見るにつけ、2019年はつくづく油断のならない年だと思います。個人的にも気を抜かずに行きたいものであります。とりあえず今宵は防犯活動(火の用心)だな。
<1月6日>(日)
○年末年始に宿題3件なら楽勝だな、と考えていたのだが、全然片付いていない。それにつけても、アップルショックは余計であった。
○とりあえず今年の書初めのご紹介。
●「第2のハイテクバブル崩壊」が近づいている?(東洋経済オンライン)
○あとで「恥の書初め」になるかもしれませぬ。でも、競馬の予想は当たったので、個人的には満足である。
○さて、後はどうしよう。つくづく2019年の経済予測は難しい。もう少し悩まねばならない。
<1月7日>(月)
○この季節恒例の新年会ラリーの始まりはじまり。本日は「連合新年交歓会」経由「時事新年互礼会」行き。
○連合の新年会会場は、なぜか日暮里駅前にあるホテルラングウッドである。正面玄関の向かい側は、パチンコの景品交換所であったりする。どうでもいいことだが、ここの駅前の「馬賊」という店の担担麺とギョーザは旨い。挨拶に立った連合の神津会長によれば、今年は節目の年であって、連合の誕生から30周年であり、ILOの誕生100周年なのだそうだ。G20が日本が議長国なので、労働サミットも日本で行われる。
○連合は今年のテーマとして「三六協定」を取り上げる。この協定、残業時間を規制するものであるが、世間一般的にはあまり知られていない。そのために会場には「36」という数字を仕込んだキャンデーを配り、「3月6日はサブロクの日」と登録して、長時間労働の時勢に取り組んでいくんだそうだ。ふむ、なるほど。
○そこから京浜東北線に飛び乗って有楽町駅で降りて帝国ホテルへ。こちらは時事新年互礼会。到着したら、既に安倍首相が挨拶をしている。なんだかもう余裕綽々という感じである。
「今年はイノシシ年であります。12年前のイノシシ年は私の最初の政権の年でしたが、そのときの私は、『美しい日本に向かってまっしぐら』などという挨拶をしております。まだ若かったですね。調べてみましたところ、イノシシというのは時速50キロで走りますけれども、意外と柔軟でちゃんと身をかわすのです。今年の私は寛容の心を持ちながら、政権運営に当たって行きたいと思います」
「ダブル選挙のことはまったく考えておりません。そういうと、『お前は2回も総選挙をやったじゃないか』と言われてしまうのですが・・・」
○マスコミが盛んに「亥年選挙」のことを書くので、巧みに煙に巻いている様子である。まあ、政治部記者たちとしては、それくらいしか楽しみがない、というのが正直なところであろう。野党も元気がないから、ほとんど「見てるだけ」である。もっとも2019年は何があっても不思議はないような気もするのだが。
○帝国ホテルでは、少し前の時間帯に「経済3団体主催新年会」をやっていて、本日はそちらと掛け持ちという人が多かったようである。ワシのように連合と掛け持ちという人も他にも何人かいて、A副総裁やF参議院議員がそうであったような。今週はこんな風に新年会のハシゴをしながら、2019年の空気を感じ取って行きたいと思うところであります。
<1月8日>(火)
○この季節恒例の「アレ」がやっと出ました。ユーラシアグループの"Top
Risks 2019"レポート。
○中身はあとでゆっくり読むことにして、とりあえず項目だけ抜き出しておきましょう。
1. BAD SEEDS
The geopolitical dangers taking shape around the world will bear
fruit in years to come.
2. US-CHINA
Something fundamental has broken in the relationship between
Washington and Beijing that can't be put back together,
regardless of what happens to their economic ties.
3. CYBER GLOVES OFF
Hackers have grown more sophisticated, societies have become
heavily dependent on digital services, and efforts to agree on
basic rules of the road for cyber conflict have gone nowhere.
4. EUROPEAN POPULISM
2019 will show that populists and protest movements are stronger
than ever.
5. THE US AT HOME
While the odds of Trump being impeached and removed from office
remain extremely low, political volatility will be exceptionally
high.
6. INNOVATION WINTER
We're heading for a global innovation winter?a politically driven
reduction in the financial and human capital available to drive
the next generation of emerging technologies.
7. COALITION OF THE UNWILLING
The US-led global order has been eroding for a couple of decades
now, but we are now seeing the growing ranks of a coalition of
world leaders unwilling to uphold the global liberal order, with
some even bent on bringing it down.
8. MEXICO
The country's new president, Andres Manuel Lopez Obrador, begins
his term with a degree of power and control over the political
system not seen in Mexico since the early 1990s, and domestic
risk factors loom large.
9. UKRAINE
November's clash in the Kerch Strait was a taste of coming
tensions. Putin continues to see Ukraine as vital to Russia's
sphere of influence.
10. NIGERIA
Nigeria faces its most fiercely contested election since the
transition to democracy in 1999.
*BREXIT
Why the asterisk? Because three years after the vote, almost any
Brexit outcome remains possible.
RED HERRINGS
Brazil's new president Jair Bolsonaro might be a nationalist, but
the country's institutions won't allow for any dangerous
centralization of power. Saudi Crown Prince Mohammed bin Salman
has made many enemies, but neither he nor the kingdom face
serious risks in 2019. Iran's need to endure US sanctions by
protecting relations with Europe will limit its aggressiveness.
Suspicion and competition will restrain Russia and China's
cooperation.
conclusion
It's been 21 years since we started Eurasia Group and we've been
through our share of global changes together. Taking a moment to
look back, we remind ourselves of our modest beginnings,
personally and as an organization, and of how much of a privilege
it is to have your support.
Thank you for being a part of our community. We appreciate it and
wish you only the best for 2019.
<1月9日>(水)
○ひろぎん経済研究所さんの新春経済講演会で福山市へ。2010年に行って以来である。
○福山駅に着いたら、「鞆の浦が日本遺産になった」と宣伝してあった。ああ、そうなのか、それは良かった。でも世界遺産でもちっともおかしくないんだけれど。前回、2010年に鞆の浦を訪れた時には、「架橋問題」で街が真っ二つに割れている、と言われたものです。結局、橋は架けられず、代わりに外国人観光客が来るようになったとのこと。あの当時はまだ「インバウンド」なんて言わなかったものなあ。また、鞆の浦を有名にしてくれた存在として、2008年の宮崎アニメ『崖の上のポニョ』を忘れることはできない。
○でまあ、講演会の方はつつがなく終了。1月から2月にかけては、こういう機会がたくさんあります。今日はその緒戦。昨年に比べるとトランプ大統領への関心はやや低下して、消費税や改元といった国内問題に関心が高いという印象あり。確かに、海外のリスクは「考えても仕方がない」域に達しつつあるからなあ。
○終わってからクルマで広島空港へ。ここは広島市から1時間以上かかるということで評判が悪いのだが、福山市から乗ってみると1時間弱なのであった。なるほど、そういうことであったのか。フライトまであまり時間はなかったのだけれども、ここは意地で空港内の「かなわ」に立ち寄り、生ガキを2個頂戴する。いいじゃないですか、それくらい。
○広島県のカキ養殖は、外国人労働者の受け入れ拡大問題の典型例となっている。とにかく、外国人抜きでは産業として成立しなくなっているのだそうだ。いろいろ問題はあるようだが、とりあえず今のところはカキが食べられて幸いである。他に鰻はどうなるのか、クジラはどう考えるべきなのか。
○羽田空港に着いてから、さる会合の新年会に遅参する。今宵のWBSに出るTさんがいらしたが、すれ違いに終わる。当方は明日は今年最初のモーサテである。ああ、そろそろ寝なきゃ。
<1月11日>(金)
○先日乗ったタクシーで、運転手さんとお話しをしていたら、「お客さんの声、聴き覚えがありますね」と言われてギョッとした。ややあって、「ああ、わかったモーサテに出ている人ですしょう」と。おっと!正解でございます。
○なんと運転手さん、株をやっているとのことで、「モーサテは毎朝毎日、5時45分から7時5分までキッチリ見ている」のだそうです。それはすごい。同業の出演者の中でも、そこまで丁寧に見ている人は少ないと思います。どういう感想をお持ちなのか、ついついお尋ねしてしまいましたですよ。
○最近のモーサテは、いろんなコーナーができて面白い。高そうな店を紹介する「モーサテstyle」は、所詮は別世界だと思うけれども、社長秘書さんが選ぶ「勝負みやげ」という企画はつい見てしまう、などと。佐々木あっこさんにこの話をすると、「勝負みやげ」は個人的に買っているけれども、「とにかく外れがない」とのことでした。
○この番組、昔はとってもシンプルな構成だったんです。それが進化を続けて、今のようになりました。いろんなことがあったものです。なにしろワシも、2009年4月からレギュラー出演を始めてから、もうじき10年目になりますので。
<1月12日>(土)
○日台関係研究会の会合で渋谷へ。行く途中、常磐線の中で爆睡してしまう。いかんのう、こんなことでは。上野駅についてもまだ半分以上ある。おお、なんと渋谷は遠いぜよ。
○ということで、とってもアウェイ感がある渋谷なのだが、ハチ公前のスクランブル交差点は、なるほど不思議な景色である。信号が変わると、一斉に人が動き出す。人の流れが途絶えると、クルマが遠慮がちに動き出す。そして駅前では、変な札を持った外国人が居たりして、わけのわかんないイベントをやっていたりする。
○道玄坂を登り始めるが、この辺の景色もとっても久しぶりである。初めて気がついたけど、マークシティってとっても変な形をしているんですな。渋谷は天然のラビリンスなり。この不思議な景色、誰が計画したわけでもなく、いつのまにかそうなってしまった、というところが渋谷ならではである。
○本日の会場はフォーラムエイトという貸会議室である。なんと便利なものができていることか。昔は勉強会の会場を探すのに、苦労したものである。機材の手配はもちろんのこと、ケータリングやルームサービスもあるらしい。ということで、台湾関連の勉強会である。
○考えてみれば、次の総統選はほぼ1年後ではないか。これから先、台湾では相当激しい選挙戦が行われるだろう。しかも時節柄、サイバー戦やら心理戦やら、何でもありの戦いとなりそうである。どんな選挙になるのか、今年はちゃんと予習をしなければいけないなと感じる。
<1月15日>(火)
○英国議会がEU離脱法案を本日、採決する。日本時間だと明日の未明になるそうだが、これはまあ通らないでしょうな。保守党内に100人くらいの造反票が居るとのこと。それはもう、稀勢の里がこの後、千秋楽まで全部勝って、優勝争いに絡む確率よりも低そうだ。
○こんな風に状況が悪化してしまうと、普通であれば働くような知恵が働かなくなってしまう。次善の策を唱える人よりも、「出来もしないこと」を堂々と主張する人の方が偉そうに見えるし、得てして議論しても勝ってしまうのだ。その結果がどうなるかというと、もちろん地獄へまっさかさまとなってしまうのだが、こういう例は良くありますよね。太平洋戦争に突入した大日本帝国も、おそらくは似たような状況だったのでありましょう。
○英国としては、ここで国民投票をやり直すしかないと思うのですが、それがなかなかにできない。なぜなら「民意の否定」になってしまうから。でも、2016年6月23日に決まったBrexitって、フェイクニュースやポピュリズムに扇動された「民意」だったかもしれないので、もう1回やって答えを聞いてみたらいいのに、と思います。その方がEU側も納得がいくと思うんですよね。
○離脱派は、「再投票は国民の分裂を招く」と言って反対するのだそうです。それはそうかもしれません。ここでEU離脱をあきらめるような結果になると、「今までの3年間は何だったんだ!」ということになるでしょうし。でも、このままNo
Deal Brexitに突入してしまうと、その後は非常に高い確率で親EUのスコットランドで独立運動が再燃し、北アイルランドとの関係も微妙になってしまうだろう。つまりは「国家の分裂を招く」公算が大である。
○どっちが得か、と考えるのは「勘定の人」であって、普通の状況であればそっちに流れるのだが、今みたいな状況だと得てして「感情の人」が勝ってしまう。特に今みたいにSNSで国論が動くような時代になると、「勘定」とSNSは相性が悪いから。気の利いた「ナラティブ」を作って、「感情」を煽る方がよっぽど政治的には楽なのです。「出来て当たり前のこと」を言うよりも、「出来るはずがないこと」を語る方がカッコ良く見えますからね。
○ということで、われわれもあんまり稀勢の里の応援をしちゃいかんと思うのです。え、そっちかよ!ですって? ワシ的にはとにかく、「出来るはずがないことを、あたかも出来るかのような振りをすることの罪深さ」ということを強調したかっただけであります。
<1月16日>(水)
○本日は某政治家さんの昼食勉強会の講師を務める。いつも「今年の日本経済」をテーマにお話しするのだが、最初にお引き受けしたのが2012年であったから、今年で何と8回目である。年年歳歳、参加者が増えてきて、会場の憲政記念会館の会議室も今年は手狭なくらいになっていた。まずはご同慶のいったりきたりである。
○そこでお話ししていて感じたのだが、こういうところへ身銭を切って来ている人は、たぶんフェイクニュースに騙されることもないのであろうな、と。つまりは究極の情報手段はアナログであって、ネットでは伝えられない「ここだけのお話」というものがある。でも、SNSの情報を鵜呑みにしちゃう人もいるので、それがBrexitのような悲劇を生むのでありましょう。デジタル情報を見て「けしからーん!」と怒り出す人たちが、得てして世の中を変な方向に導いてしまうのだ。
○本日はこんなお話をした。最近、厚生労働省の毎月勤労統計調査が問題になっている。2004年から調査が簡略化されていて、その結果として賃金の額が実際よりも低く集計され、失業保険などの支給額が安くなっていた。今になってそれが明らかになったので、過去に遡って追加給付が必要になっている。お蔭で政府の予算案も、見直しが必要になるのだとか。これはもう霞ヶ関の行政機構への信認を失墜させる大事件である。
○とはいえ、統計を使う立場の側から申し上げるならば、これだけ統計にかかわる人員と予算が削られていたならば、そういうことだって起きるだろうなあ、と思うのである。なにしろ2006年から16年の間に、国の統計職員は6割も減少している。それが行政改革の成果とされ、美談となっていた。でも、それで仕事が減るわけではない。厚労省が、東京都内の事業所1400件に対する調査を勝手に3分の1に減らしていたというのも、一概に責められないなあ、と思うのだ。
○「悉皆調査」(しっかいちょうさ)という言葉がある。こんな言葉、知ってる人はかな〜り統計に詳しい人だけだろう。つまりは全数調査のことであって、対象の全数を漏れなく、重複なく調査する作業であり、普通に行われるサンプル調査よりも信頼度は高いとされている。それでは「悉皆調査」であれば完璧かと言えば、もちろんそんなことはないのである。
○だれでも知っている悉皆調査に「国勢調査」がある。あれは全国民が調査に応じるというタテマエになっているが、もちろんそんなことはない。協力してくれない人はいくらでもいる。この国に住む200〜300万人の外国人も、たぶんまともに答えてはいないだろう。だってボランティアだし、アンケート用紙は日本語でしか書かれていないんだもの。もっといえば、「全国統一テスト」みたいな悉皆調査のときには、得てして現場の判断で「成績の悪そうな生徒は休ませる」といったことが起きてしまう。バイアスが生じる理由はいくらでも考えられるのだ。
○実はサンプル調査の方がそういう「歪み」が生じにくいので、よっぽどマシだ、ってことがある。だったら厚労省は堂々と毎月勤労統計調査を「この地域は爾後、サンプル調査に変えさせてもらいます」と言えばよかった。そこを黙って変えて、なおかつ初歩的な誤りをして、それを10数年間続けてきて、昨年になってこっそり軌道修正をしようとした。それは褒められた話ではない。
○だからと言って、「本来の悉皆調査に戻ってしっかりやれ!」という話になると、ますます現場に不条理を押し付けることになる。皆が不幸せになって、なおかつ統計の信頼度が上がるわけでもない。こういう話って、最近はとっても多いでしょ。だから「けしからーん!」と言って怒っている人が居たら、まずは疑ってかかりましょう。それってたぶん半可通の人たちですから。
<1月17日>(木)
○うーん、案の定、「厚生労働省はきちんと全数調査をやれ!」という結論になりつつあるようです。なにしろ、一度閣議決定した予算を組み替えるなんて話は聞いたことがありませんから、今回の事態は霞ヶ関的には「罪万死に値す」、ということでしょうね。こうなるともう役所としては逆らえませんが、昨日書いた通り、ちゃんと是正を行っていれば結果はそんなに外れるものではない。ワシはサンプル調査で充分だと思うんですけどね。
○今日になって気づいたのですが、毎月勤労統計というデータは、内閣府が作っている「総雇用者所得」にも使われている。1人当たり賃金に、雇用者数の伸びをかけて計算します。安倍内閣では、デフレ脱却の度合いを図る重要な指標として重視していたはずなのですが、これも過去にさかのぼって修正することになるのでしょう。
○ただし昨年、「現金給与が前年比で伸びている」という結果が出た時に、内閣府が月例経済報告などであまり騒がなかったところを見ると、秘かに「あれはちょっと怪しい」と思っていたのかもしれません。その辺、餅は餅屋ですから。といっても、これは買い被りかもしれませんが。
○以前、与党のプロジェクトチームで経済統計について調べていた時に、関係者から「いやもう、統計関連の人員と予算減らしはひどいものです。未来のStatisticianを育てようなんて感じじゃないんです」という話を聞いた。たぶん内閣府や総務省はまだマシな方なんだろうな、と思った覚えがある。今回、図らずもそれが裏付けられたことになる。
○たぶん政府内には「統計なんて端パイの仕事」的な感覚がまだ残っているのでしょう。でも、統計がしっかりしていないことには、エビデンスベースドもビッグデータも意味を成しません。統計は国のインフラです。これからの時代は特に重要になると思いますよ。
<1月18日>(金)
○以下は大いなる反省と自戒を込めて。
○最近になって、同世代人と話しているときに「以前よりもカネの話が増えたな・・・」と感じたのである。いや、それは事実ではなくて、単にワシ自身がカネの話が気になるようになったせいなのかもしれない。おそらく人は加齢とともにどんどん恥知らずになってゆき、「今書いているこの原稿の謝礼はいくらだっけ?」とか、「通帳の残高は今いくらくらいあったっけか?」などと、以前であればまったく関知しなかったようなことが、だんだんと気になるようになるらしい。
○それも不思議なことではなくて、人は若いうちはもっとカネ以外にさまざまな欲を有している。偉くなりたいとか、有名になりたいとか、女にもてたいとか、いろんな煩悩とともに生きている。しかるにそのほとんどが、歳月とともにだんだんどうでもよくなっていく。真面目な話、今さらモテてもしょうがないしねえ。その意味では同じ50代でも、『愉楽にて』の世界ははるかに遠いのである。まあ、どうせフィクションだし。
○ところがカネだけは、「多々ますます弁ず」なのである。ほかの欲望が衰えるにしたがって、人のカネへの執念が深まるのだとしたら、これはとても怖いことではないだろうか。人生の終盤戦に差し掛かって、おのれの成功不成功をカネの多寡で測ろうとすることは、根本的に間違っているうえに弊害がとっても多いのであるが、そのシンプルさにおいて逆らい難い魅力があることもまた事実なのである。
○さらに言えば、年を取るにつれて自分の「生涯年収」の限界がどれくらいかもおおよそ見当がつくようになってくる。そうなるとますます、「それにつけてもカネの欲しさよ」となってしまうのであろう。いや、ここまで来ると今さら大口の資金需要なんてないのだし、気にしないで済むのであればその方がよっぽど精神衛生上はいいのである。
○なぜこんなことが気になりだしたかと言うと、そろそろ個人事業主たる不肖かんべえは、昨年の決算に取り掛からねばならない。ちょうど一斉に、各方面から支払調書が送られてくる時期でもあるし。とはいえ、昨年の必要経費を集計するという作業は、とっても面倒なのである(そういえば昨年は、あまり寄付の類をしていなかったような気がする。これもワシが「ケチ」になっているからであろうか・・・・?)。まっ、今週末はきちんとやるぞ、と自らに言い聞かせるところである。
<1月19日>(土)
○昨日はパレスホテルで、平成30年度「財界賞」「経営者賞」の表彰式があった。
○いつも感心するのだが、7人もの受賞者を発表する際に、主催者である雑誌『財界』の村田博文主幹が、全員の名前と業績を何も見ないでとうとうと述べ上げるのである。プロのアナウンサーでも、なかなかできることではない。いつもどうやっているのか、どれくらい練習しているのか、一度聞いてみたいと思っている。
○でまあ、それは良いのだが、今回は「特別賞」を受賞した宮城まり子さん(学校法人ねむの木学園理事長)が話題を全部さらって行った。それはしょうがないだろう。正直に申し上げるが、まだ生きているとは思っていなかった。確か10年くらい前に、宮城さんの「私の履歴書」を読んだ覚えがある。ねむの木学園も、まだ続いているとは知らなかった。失礼しました、今年で創立50周年なのだそうだ。それはもう「財界賞特別賞」で文句なしであります。
○ということで、御年91歳の宮城まり子さんの挨拶を生で聞けただけでも儲けものであった。賞のプレゼンターは、いつもミスインターナショナル日本代表が務める。2019年は岡田朋峰(ともみ)さんで、青山学院大学の2年生なのだそうだが、何とあの岡田真澄さんのお子さんなのだという。岡田氏が63歳の時に生まれたお嬢さんなのだとか。
○そしたら宮城さんは、受賞挨拶で、「わたし、岡田さんとお付き合いしていたのに!」などと爆弾発言をされるものだから、ほかの挨拶は全部吹き飛んでしまった。いやもう、戦中派のB29を見た世代にはかないません。それにしても、おいくつの時のことだったんでしょうか。もうじき平成も終わるというのに・・・。
○ということで、あまりにもめずらしい経験だったので、ここに書いておきます。うーん、それにしても「宮城まり子とねむの木学園」って、今の若い人はどれくらい知っているのだろうか。
<1月20日>(日)
○本日を持ちまして、トランプ政権はめでたく丸2年になります。明日からは3年目に入るわけでして、もう2年と言うべきか、まだ2年と言うべきか、なかなか悩ましいところであります。
○問題は政府閉鎖がいつまでたっても終わらないし、終わらせる方法も見えてこないことです。衆目の一致するところ、悪いのは議会民主党ではなくてトランプさんの方でありましょう。なぜなら、「不法移民」や「国境の安全」が問題ならばともかく、トランプさんがこだわっているのは「壁の建設」なのです。だって壁って一発ギャグだったはずじゃないですか。「その建設費用はメキシコに払わせてやる!」という。
○ところがその建設費用を議会が認めないもんだから、給与をもらえない公務員がいっぱいいる。これでは洒落になりません。いつも見ているラスムッセンのトランプ支持率もここへ来て下降気味です。最近はワシントンDCのホテルも値段が下がっているそうでして、このままでは景気にも影響が出るかもしれません。
○逆に意気上がっているのが議会民主党で、「アメリカの二階幹事長」ことナンシー・ペローシ下院議長が上手に立ち回っている。特に「政府閉鎖でセキュリティの心配があるから、1月29日の一般教書演説は延期にしましょう」と言い出したのはお見事でありました。一般教書演説は、あれは下院会議場でやるのがお作法ですからね。「議会の権限だから議会が決めますよ」と言われると、ホワイトハウスも手が出せないのであります。
○こんな風にボス猿がボスらしく振舞ってくれると、いつもなら足並みが乱れるはずの民主党内もちゃんと収まっている。オカシオ=コルテスさん一派があらぬ方向に突っ走るんじゃないかと思っていたんですが、今のところはちゃんとグリップが効いている。逆に共和党側がそわそわし始めた感がある。
○トランプさんとしては、「今日はこのくらいにしておいてやるわ!」と上手に引き分けに持ち込まねばならないところです。そこで土曜日に投げたのが、「不法移民の子ら(DACA)に3年間の猶予を与えるから、代わりに壁の予算を認めろ」というタマで、これはまあ予想の範囲内。ただし民主党側はそれには乗ってこない。民主党支持者も、ここは共和党支持者以上に頑固になっておりますのでね。
○くれぐれも「不法移民」の問題ならばともかく、「壁」の話で世論は靡かない。だってあれはネタだったんだから。さて、3年目のトランプ政権はどんなことになるのか。引き続きウォッチしてまいりましょう。
<1月21日>(月)
○東北生産性本部さんの新年労使交流会の講師で仙台へ。着いたらいきなり、「今朝のTBSラジオを聞きました」と何人かの人に言われる。あ、そうか。生島ヒロシさんは宮城県のご出身であった。人気ありますねえ。
○仙台はつくづく大都会である。広島や福岡のようなローカル色は逆に薄くて、とにかく東北を代表する地方都市である。そういえば、東北楽天ゴールデンイーグルスが当地に来てからもう今年で15年になるのですね。それから、かねがね「仙台ではモーサテが見られない」と思っていたのだが、「そんなことないです。いつも見てます」と言われました。まことに失礼いたしました。
○それにしても今年は新春経済講演会がやりにくい。何を語っても、後で嘘になってしまいそうである。特に海外のリスクが多い。そこで何でも予防線を張りたくなるのだが、そんな話は聞いても意味がない、というのが悩ましいところである。ユーラシアグループの「2019年のTop10リスク」も、今年はあんまり面白いとは思わない。心配事が多過ぎるからねえ。ちなみに今年は日本語版の全訳が出ている。これはこれで便利なものである。
○さて、どんなふうにお話しするのが良いのか。いろいろ悩みつつ、行脚が続きます。明日は群馬県前橋市に出没いたします。
<1月22日>(火)
○今日は前橋市で新春講演会の講師を務める。昨日の仙台市とそっくりな感じの会合で、地元の経営者が集まり、講演会の後には懇親会があり、来賓として副知事さんや日銀支店長が来て挨拶する、といったところまで同じである。
○ただし会の性質は微妙に違う。昨日は東北生産性本部が主催者だったので、「労使で協力して生産性を向上させましょう」というトーンであった。本日は群馬県中小企業団体中央会が主催する新年会なので、「中小企業が元気にならないと群馬県は良くなりません。皆で一緒にがんばりましょう」という会合である。ところ変われば品変わるというか、経営者の集まりも各県ごとに芸風が違うものと見える。
○さらに群馬県は保守王国。だから懇親会には、自民党の先生方が大勢お見えになる。その中には、勝手知ったる山本一太さんや福田達夫さんも入っている。あ、そういえばイチタさんは、県知事選挙に出馬するんじゃなかったっけ。と思ったら、大勢の関係者の前でビミョーな雰囲気になりそうなところを、地雷原をすり抜けるように巧みに「大人の挨拶」をされてました。やはりすべての政治はローカルなのである。
○福田達夫さんは「防衛政務官の仕事を終えて中小企業政策の世界に戻ってまいりました」と挨拶されてました。この世界、人手不足問題から事業承継税制まで課題は数限りない。「中小企業が儲かって賃金を増やしてくれない限り、地方経済は良くならない」というのはまったくその通り。
○一方で、昨今の毎月勤労統計調査の問題を考えれば、統計改革にも取り組んでほしいなと思う。福田さんは自民党の新経済指標検討プロジェクトチームの事務局長で、こういう問題に関心を持ってくれる政治家はとっても希少なのである。統計は目に見えない国家のインフラ。きちんと育てないと、ビッグデータの時代に後れを取りますぞ。
○ところで群馬県では、あの八ツ場ダムが平成31年度に完成するそうである。観光ツァーもやっているようですぞ。工事を続けるべきか止めるべきかが論争になったのはもう10年くらい前のこと。あの頃は、日本列島の自然災害がこんな増えるとはだれも思っていなかった。今となってみれば、作っておいて正解だったのではないのかなあ。
<1月24日>(木)
○23日は双日林産資源部&双日建材主催の新年賀詞交歓会、24日は冠婚葬祭総合研究所の新春講演会。いずれも何年も続いている会合なので、「お久しぶり」の方が大勢いらっしゃる。ありがたいことである。
○講演会の際には、冒頭から「今年ほどやりにくい年はありません」「何を言ってもフェイクニュースになってしまいそう」「来年はもう呼ばれなくなるかもしれない」などと見苦しく泣き言から入る。ところがそういうときに、「今年は本当に訳が分からないからねえ」と逆に慰められてしまう。いやはや、本当に困った年なのである。
○今週はこれで講演会が4件。さらにこの後、静岡と高松が控えております。さすがに疲れてきたので、不規則発言の更新は手抜きにて失礼いたします。
○そうそう、セレモニーホール業界では、「眞子さまの結婚式延期は本当に痛かった。あれが行われていれば、和装の挙式が一気に増えたはずなのに」との声を聞きました。確かに今頃、十二単の挙式なんかが流行っていたかもしれませんなあ。
<1月25日>(金)
○このところ、いろんな形でお話ししている「統計関連の話」は、こちらでまとまっております。ご参考まで。
●くにまるジャパン 2019年1月22日
(→追記:いろんなところでご紹介している自民党PTの提言はこちらをご参照)
●政策立案に資する統計の整備と活用に関する基盤構築への提言
2017年5月11日
自由民主党政務調査会
新経済指標検討プロジェクトチーム
<1月26日>(土)
○東洋経済オンラインに寄稿した駄文のご紹介です。
●「戦後最長」の「安倍景気」を信じていいのか
○こんな風にまとめておくと便利かと思います。
●神武景気 1954年12月〜1957年6月(31か月)
●岩戸景気 1958年7月〜1961年12月(42か月)
●いざなぎ景気 1965年11月〜1970年7月(57か月)
●バブル景気 1986年11月〜1991年2月(52か月)
●小泉景気 2002年2月〜2008年2月(73か月)=史上最長
●安倍景気 2012年12月〜継続中?(今月で74か月目!)
○こうして並べてみると、21世紀の景気拡大局面はそれまでとは全然違うんですよねえ。長ければいいってもんじゃないし。それにしても、小泉景気と安倍景気の間に挟まっているのが、「リーマンショック」と「民主党政権」と「東日本大震災」である、っていう歴史は哀しいものがあります。
<1月27日>(日)
○昨日は仕事で静岡市へ。駅を降りたら、「静岡市はいいねえ」と言っているちびまる子ちゃんが飾ってあるのは、今風に言う「ほっこりさせられる」情景である。ホントは「清水市は・・・」だったのかもしれないけどね。さくらももこさんの個性自体が、当地の温暖でほっこりした気候と無関係ではなかったような気がする。
○去年来たときは静岡県立大学のシンポジウムであったが、今回は静岡銀行従業員組合の研修会である。同行には『しずぎんの窓』という社内報があって、ワシが社内誌編集担当であった1980年代には、リクルートの『かもめ』と並んで「お手本にすべき存在」とされていた。それで相互交換して毎月読んでいた。今もちゃんと続いているそうだが、何とも懐かしいのである。
○当時の『しずぎんの窓』にはKさんという名物編集長が居た。既に広報室長であったから、とっくの昔に引退されているはずなのだが、果たして今は何をしているのだろうか。性格から言って、きっと地域でボランティアをやったり、NPO法人を立ち上げたりしているのではないかと思い、さりげなくお名前をグーグル検索してみるとどうもピンポンピンポン!であるらしい。
○まあ、いいや。そっとしておこう。Kさんの個性もまた、静岡ならではのものがあったのだなあ、と勝手に結論付けることにする。思えばあの頃のプリマハム、富士ゼロックス、東芝EMIなどなど、往時の社内誌編集者人脈はさすがに縁遠くなっている。みんな溜池山王周辺の会社で、よく飲みにいったなあ。
○それにしても駿府城は広い。端から端まで歩きまわってヘトヘトになってしまった。さすが家康公が引退後に拡張しただけのことはある。3重の堀に囲まれた堂々たるものであり、県庁や裁判所や学校など、いくつもの公的機関がその敷地内に揃っている。これは城下町にはよくあるパターンですな。石垣がきれいに隙間なく組み上げられているのは、作られたのが江戸時代に入ってからなのだろうが、これだけきれいな石垣は金沢城と双璧でありますな。
○ところが発掘調査をしてみると、家康が江戸に移封された時期には、豊臣方の大名が入って別の建物を作っていたことが分かってきた。城というものは何度も拡張工事をするものであるから、古い時代のことはわからなくなってしまうものらしい。全容が解明されるのはかなり先のことになりそうだ。
○人質という身柄ではあったが、ティーンエイジャーの時代を当地で過ごした家康も、あるいはまたこの温暖な気風が生涯にわたって体内にあったのかもしれない。そうでなかったら、「大御所」になってからの晩年をここで過ごすことはなかったであろう。はてさて、似ても焼いても食えぬたぬきおやじでありますのう。
<1月28日>(月)
○新春経済講演会は今年に入ってから、これでいくつめだろう。本日は香川県高松市。スポンサーは岡山経済研究所さん。これで5年連続であります。
○高松に来たら当然、うどんは欠かせないですよね。本日は高松空港近くの「かわたうどん」へ。ここは鍋焼きうどんが売りで、夏でも「鍋焼き」を選ぶお客さんが多いとか。この季節はもちろん鍋焼きです。鶏肉入りか牛肉入りか、迷ったけれどもここは小豆島名物のオリーブ牛の一択でしょう。
○期待にたがわぬ讃岐うどんでありました。麺は柔らかいのにコシがある。牛肉もイケてます。出汁がまたすばらしい。あっという間に平らげてしまいました。
○ところがこの店には、来店した著名人の色紙が一杯飾ってある。その中で、たまたまワシが座った席の真上にあったのが某元首相による色紙である。「これぞ味の友愛」とある。「平成25年11月5日」とあるので、既に世の中は安倍内閣になっているのだが、ご自分のお名前を「友紀夫」と書いておられる。やっぱり「友愛」の人になっておられるのでしょうか。
○ちなみにその両隣は、右側が先代・林家三平師匠夫人の海老名香葉子さんで、左側が押切もえさんでした。その間に友愛がある。うーん、痛い。痛すぎるぞ。
○フランス語のフラテルニテ(同志愛)を「友愛」と誤訳したのは、フリーメーソンでもあった彼の祖父である鳩山一郎ですが、それを誤解したままでご自分の名前まで変えてしまった。英語のフラタニティっていうのは、いわば『水滸伝』に出てくる義兄弟みたいな関係を言うのであって、「友愛」なんてふわふわした概念じゃないんですけど。それはいわばコシのない関西うどんであります。
○ということで、コシのある讃岐うどんを食しながら、柔らかいばかりで骨のない元首相を思い出してしまいました。いや、うどんはホントに良かったんですけどねえ。
<1月29日>(火)
○2月のアメリカ日程はなかなかにスゴイことになりそうですな。これだけ政治イベントがあると、相場の方はかなり悩ましいことになりそうだ。
1月29-30日 FOMC
1月30-31日 米中閣僚級通商協議(ワシントン)→劉鶴副首相が訪米
2月1日(金) 雇用統計(1月)
2月5日(火) 一般教書演説(→政府閉鎖により1週間遅れて実現)
2月上旬 GDP10-12月期速報値公表(→1月30日予定が政府閉鎖により延期)
2月15日(金) 「壁」の問題が落着しなければ、再び政府閉鎖?
2月下旬 米朝首脳会談(ベトナム?)
2月末 米中通商協議(ハワイ?)
3月1日(金) 米中通商協議の締め切り(まとまらなければ翌日から関税引き上げ)
3月中旬 債務上限問題
○特に2月下旬には、「米朝」と「米中」の交渉が重なる。前者は安全保障で、後者は経済がメインである。これ、どうするつもりなんだろう。3月1日には「関税の崖」があるので、中国としては通商協議をまとめたい。でも、米朝の勝手なディールを見逃すわけにもいかない。複雑な連立方程式になりそうだ。
○普通だったら、米朝2回目の会談がこんなタイミングで飛び込むのが不思議なのである。1回目はともかく、2回目の会談にはそれなりの成果が必要になる。だから、普通だったらアメリカ側が会談の「安売り」はしない。でも、トランプさんは政府閉鎖で手詰まり状態であったから、とにかく変化を求めて会談を受けてしまった。とっても祟りそうな予感。
○さらに間もなくワシントンで米中協議が始まるというタイミングで、米司法省はファーウェイの孟晩舟CFOを起訴した。12月1日にブエノスアイレスで米中首脳会談をやっていたその日に、カナダで孟晩舟の身柄を抑えたことを髣髴とさせる動きである。中国側としては、「やっぱアメリカはまとめるつもりがないんだな・・・」と思うよね、普通。今のアメリカは、右手と左手が勝手に別々のことをしている風情がある。
○加えて、モラー特別検察官の捜査も大詰めが近そうに見える。2月中に炸裂するとなると、手負いのトランプさんはどんな風に動くんだろう。いや、もう面白過ぎます。困ったもんです。
<1月31日>(木)
○不思議な経緯で、先崎学著『うつ病九段』(文芸春秋社)を読む。将棋界の奇才、先崎学九段は2017年夏にうつ病となり、慶応大学病院に入院して、闘病生活を送ることになる。もちろん日本将棋連盟における棋戦は、長期間にわたって休場となった。これは人がある日突然、うつ病になったときの心理状況と、そこから再生する過程を描いた本である。こういう本もめずらしいと思う。
○一目、名著である。ここに書かれているような症状は、いつ何時われわれの身の上に降って来るかわかったものではない。そういうときに、われわれがどんな心境になり、どんな辛い思いをするのかということに関して、めずらしいくらいクリアに描かれている。これを読むと、うつ病は「心の病」ではなくて、「脳の病」であることがよくわかる。なにしろプロの将棋指しが、ある日突然「7手詰めの詰将棋が解けなくなる」のである。それはもう塗炭の苦しみであったことだろう。
○うつ病対策というものは、とにかく安静にして時間を稼ぐことが大事なのだそうだ。後はなるべく散歩すること。そして何より本人が自殺しない、周囲がさせないようにすること。うつ病はかならず治る。人間には本来、そういう機能が備わっているので、要は「絶望は最悪の結論」ということ。お近くにうつ病患者がいらっしゃる人は、是非、本書のご一読をお勧めしたいです。
○幸いなことに、先崎九段こと先ちゃんはいくつもの面で恵まれていた。まずお兄さんが精神科医であった。賢夫人を始めご家族にも恵まれていた。お蔭でタイミングよく入院することができた。将棋界の仲間もケアしてくれた。そして「将棋が弱くなることだけは嫌だ」との思いがあった。
○先崎九段は、映画化されたマンガ『3月のライオン』の監修者でもある。将棋の順位戦が毎年3月に最終戦を迎えることに、このタイトルの由来がある。B級2組の先崎九段の成績は、今期は1勝7敗。前期が休場で降級点を取っているので、今期でC1組に陥落の可能性が大である。その代わりに昇級してきそうなのが、C1で8勝0敗の藤井聡太7段である。
○沈む人が居れば、浮かぶ人がいる。これぞ勝負の世界の習い。1月25日に行われた竜王戦4組ランキング船の中村修九段対先崎九段の対局を見てみると、まだまだ本調子には程遠いようである。それでも先ちゃんには、あなたにしかできない仕事がある。将棋界の宣伝塔としては芹沢博文九段の後継者であり、文才に恵まれたライターとしては河口俊彦八段の衣鉢を継ぐ。何よりこの本がすばらしい。
○本書を読んでうつ病から復帰できる患者が居て、助かる思いがする親族及び近親者が居て、うつ病に対する世の中の偏見が少し減るのであれば、こんなにめでたいことはないでしょう。それにしても大変な文才というものです。「うつ病」という難敵を、こんなにしっかりと客観視しているのですから。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki