●かんべえの不規則発言



2006年8月







<8月1日>(火)

〇昨日、海運会社の方に聞いた話ですが、このクイズはちょっとすごいですよ。「太平洋航路でアジアから北米に送られるコンテナ便のうち、日本製品が占めるシェアは何%か?」

〇かんべえ、最初に聞いたときに、ごく平凡にこう答えたのです。「そりゃま、2割か3割くらいは・・・・」。ブッブー。答えは7%です。何とヒトケタ以下!なんです。海運貨物の「量」に着目した場合、すでに日本経済はアジアではマイナーな存在になりつつあるのです。

〇ま、このクイズは「コンテナ便」というのが引っ掛けかもしれませんね。これだと日本からアメリカ向けの主要輸出品であるところの自動車が入らない(自動車は自動車運搬船で運ばれます)。それでも、日本以外のアジア(ということは、ほとんどが中国ってことですけど)の対米輸出が、ここ数年でいかに量的に激増しているかが、このクイズから窺い知れるかと思います。

〇他方、日本の対米輸出は量的には変化がなくても、金額的には増えている。しかも中国を迂回した輸出が増えているので、貿易摩擦が生じない。なおかつ、収益性も向上している。と、貿易の「質」は向上しているのです。最近は中国がワシントンにおいて、「中国の対米輸出が増えているって、ほとんどが日本や韓国、台湾からの輸入品を組み立てているだけなんです。儲かってないんです」というキャンペーンを張っているとのこと。それって、かなり実感に近い話であって、中国における付加価値はかなり低いんじゃないかと思う。

〇とはいえ、海運という世界のことを考えると、「質」と同様に「量」も重要じゃないのかという気がしてくる。とりあえず、船は取扱量が急増している港に寄港する。その点、日本の主要な港湾は、上海、香港、シンガポール、釜山といったアジアの港湾に比べると、きわめて小さな存在になってしまっている。

〇ところで、昨今の貿易量の激増につれて、世界の海運会社は新造船の発注に余念がない。それもなるべく、大型船を増やそうとしている。ところが、そうやって作られる大型船というのは、パナマ運河を通れない。太平洋航路の船は、ロサンゼルスとかロングビーチとか西海岸に入港して、荷物は陸路で全米各地に送られる。でも、荷物の都合を考えると、できれば東海岸に船を着けたほうが合理的である。パナマを通れないのは、困ったことなのだ。

〇そうなると、海運の世界が考えることは、「そのうちインドが輸出大国になれば、スエズ運河を経由して東海岸に運ぶことができるのになあ」。仮にそういう時代が到来した場合、太平洋航路自体が衰退してしまうかもしれない。こんな風に、海運の世界には驚くことが多いです。「最近の商社はもう、物流が分からなくなっている」みたいな批判があるのですが、かなり身に沁みた感があります。


<8月2日>(水)

〇将棋棋戦を新聞社が主催する理由というのは、今ではあんまりよく分からなくなっているのかもしれません。が、小学生時代のかんべえは、当時の読売新聞(一家揃って阪神ファンなのに、なぜかいつも読売だった)で、十段戦の棋譜を毎日切り取っていました。当時、もし家が地震に遭ったとしたら、その棋譜が入った箱を持って逃げたかもしれません。それくらい、当時は新聞といえば将棋棋戦が大事でした。

〇時代は移り変わって、パソコンで覚えたから人間相手に指したことがないとか、将棋の駒には触れたことがないとか、NHKの将棋の時間は見るけど自分では指したことがないとか、そんな将棋ファンが増える一方で、全体としての人口は少しずつ減っているようです。少なくとも、将棋の新聞棋戦を切り抜く小学生なんぞ、今じゃおらんでしょうな。おそらく今では、棋譜はダウンロードしたり検索したりするものになっちゃったんじゃないでしょうか。

〇で、今回、2008年から名人戦の主催が、毎日新聞から朝日新聞に移行するというのは、古いファンとしてはいろんな感慨があるわけです。なーに出戻りじゃねえかとか、大山先生が草葉の陰で泣いておられるだろうとか、将棋連盟は下手を打ったなあとか。とりあえず、渡辺竜王の下記の見解には、ちょっと文句のつけようがありません。

1.最初にドタバタで悪いイメージを与えたこのようなやり方はまずい。
2.どうなるかは分からないが棋戦が減る可能性がある。
3.財政を立て直すにはこれしかないと説明されたがその前に勝負の世界としては甘いと思われる給与体系の見直しなどやるべきことがある。
4.他にやるべきことがある以上、イメージダウンや棋戦減の可能性がある勝負手を放つにはまだ早い。

以上の理由から「毎日案を支持する」に投票しました。

〇羽生三冠王、森内名人、渡辺竜王などは、こぞって毎日支持だったようです。とはいえ、彼ら若手棋士は紳士ですから、昔の将棋連盟の伝統にあるように、「下級者黙れ」などとは言わないのです。おそらく社団法人将棋連盟において、会員の大多数を占める「あんまり強くない」棋士たちは、少しでも連盟がリストラをしなくて済むように(つまり自分たちのお給料が減らされなくて済むように)、「寄らば大樹」で朝日を選択したのでしょう。いやしくも勝負師集団がこんな体たらくでは、この団体に未来があるとはとても思われません。

〇他方、将棋ファンとしては、それとは正反対の気持ちもあるのですね。ファンは棋士に甘い。大新聞たる朝日が大きな棋戦をやってくれるのは悪い話でもない。それに毎日新聞は、自前で作った王将戦をスポーツニッポンに押し付け、低予算で運営しているのが以前から気になっていた。ここはひとつ、毎日さんはさぞかしお腹立ちのこととは思うけど、名人戦なんざ朝日にくれてやって、王将戦を梃入れしてはもらえませんかね。でもって、新装なった王将戦の目玉は「指し込み制」の復活。「森内名人を羽生王将が半香に指し込み!」なーんて形で、朝日に対する復讐を図るってのはどうでしょ。オールドファンは大喜びしまっせ。

〇などと、心中は乱れておるわけですが、何より腹立たしいのは、将棋連盟上層部の迷走振りである。小学生時代に、いちばん好きだったのは米長邦雄八段でしたが、今となってはヨネさん、あんたが諸悪の根源だ。福井総裁よりも、川淵キャプテンよりも、あんたの方が罪深い。早いとこ会長を辞めなはれ。おらんように見えても、人はなんぼでもおりますぞ。


<8月3日>(木)

〇ダーク系のスーツ、長袖ワイシャツ、それにネクタイ。この季節には滅多にしないモードで、本日は出陣しました。というのは、産経新聞の政治座談会の司会という仕事があったのです。しかもですな、今日の出席者は「伊吹文明、片山虎之助、野田毅」というお三方であり、当然、クールビズではないのであります。最近の永田町は、「クールビズでないと、小泉首相への忠誠心を疑われる」そうですが、そんなこと言ったら笑い飛ばされてしまいそうような先生方なのです。

〇それにしても、「サンプロ」などでは絶対に成立しない顔ぶれでありましょう。「諸君」や「中央公論」などでも微妙なところだと思います。こういう企画を産経新聞政治部が考えたこと自体が、ちょっとした勇気ではないかと思うのです。もっともこの勇気には、司会にかんべえを起用するという無謀さも含まれているわけであって、いやー、正味なはなし、怖かったでありますよ。世耕先生とか、長島昭久さんとか、その辺の同世代人と語らうのとは緊張感が違います。

〇企画の意図を当方が勝手に解釈すると、こういうことになります。――自民党総裁選が低調になっているから、ここはひとつ自民党内のコアなベテラン議員に来てもらい、腹蔵のないところを語っていただく。さすれば近頃とんとご無沙汰気味の、「自民党の知恵」が聞けるのではないか。そういう深い読み筋を伝えることは、活字メディアでなければできない仕事である。最近の政治報道で欠けていたものを、ここで掘り当てることができるのではないか――。

〇思うに「ポスト小泉」の候補者は、河野太郎氏を除けば皆さんが現閣僚。それで「小泉政治5年半の総括を」と言ったところで、自由闊達な論議ができるはずがない。その点、今日のお三方はというと、片山先生が小泉政権前半の総務大臣を務めておられますが、総じて自由な立場というか、むしろ政権への距離があった。そういう視点から小泉政治の政策や手法、理念を分析するとどうなるか。恨みつらみのこもった生臭い話になっても不思議がないところ、実にフェアな議論が交錯する「清談」になったというのが人選の妙でありました。

〇終わった瞬間に、傍聴していた某記者が「今日は久しぶりに深い話を聞いたなあ」と言ってました。ホント、自民党という組織は、優良な遊休資産を有していたのだなあ、と感じた次第です。詳しくは、8月8日、9日の産経新聞紙面でご覧ください。キオスクで100円ですよ!


<8月4日>(金)

〇製紙業界のことを称して「学ばない業界」と言ったりします。何度でも過剰設備と業界再編を繰り返していますから。そこで百年も業界第1位を続けている王子製紙のことを、「神様のような会社」と呼んだりもします。なにしろ紙の原料であるところの森林を、自前で植えて育てているような会社ですから、時間の単位が普通の株式会社とは違っている。自然保護や社会貢献といったことも、片手間ではなく真面目にやっている。慌しい商社業界から見れば、「おっとりした社風」に見えるのですが、尊敬の念を抱いている業界人は少なくないと思います。

〇そういう会社が、北越製紙に対して敵対的買収に踏み切ったということは、あの会社を知る者にとってはちょっとしたサプライズでした。それでも、同社のHPの中にある経営統合の提案説明資料を読んでみると、実に理路整然と企業戦略が語られていて、問題意識がクリアなものになっている。もちろん北越製紙側は反発しておりますけど、こういう筋のいいTOBが成功しないのであれば、この国ではやっぱりTOBは使えないのだということになると思います。言ってみれば、シンガポールとのFTAが失敗に終わっちゃうようなものであります。

〇北越製紙の株価は600円台でした。それが今日にはTOB価格の860円に近いところまで行きました。株主にとってはTOBさまさまでしょう。北越製紙の経営陣としては、企業防衛のために増資をするのであれば、先ず何よりも株主に対する説明を優先すべきでしょう。「嫌だからイヤ」とか、「新潟の企業を守れ」などという理屈で、株主の同意が得られるとは思われません。独立路線の方がリターンが大きい、ということを意を尽くして説明すべきでありましょう。

〇と、いうところに日本製紙も参入してきて、分けのわからないことになってきました。それでもライブドアや楽天などではなく、成熟業界を舞台にTOBが行われているということは、ある意味、健全なことではないかと思います。M&Aが有効なのは、キャッシュフローが見えやすい成熟産業でありますから。そして製紙業界で再編が必要なことは、国内市場の限界を考えればある程度自明でありますから。


<8月5〜6日>(土〜日)

〇最近の話題はこればっかりですね。「小泉さんは8月15日に靖国参拝するんでしょうか?」 あんまり気乗りがしないんですが、ちょっとシミュレーションをやってみましょう。

〇まず、小泉さんは行くでしょう。過去の言動からいって、行かない理由が考えられませんね。個人的に気になっているのは、午前に行くのか、午後に行くのか。本来であれば、正午からの戦没者追悼式に出席し、それから北の丸公園から道路一本(靖国通り)を隔てた靖国神社に向かうのが定跡というものでしょう。が、これは警備面を考えると非常に難しい。武道館に詰めかけた人のほとんどが同時に移動するでしょうから。

〇それではいったん官邸に戻って出直すことにして、夜になってから出かけるのはどうか。春と秋の例大祭など、靖国神社には夜の行事が多いから、これもひとつの方法です。が、これは「良かった、小泉は行かなかった」と喜ぶ人が出たり、夕方になって「小泉はまだ行かないのか」と怒る人が出てしまうかもしれない。とにかく、「催促」されて行くような印象を与えるのはマズイ。

〇だったら日の出とともに参拝してはどうか。個人的には、なるべく周囲に人が少ない状況で参拝してほしいと思うのであります。なにしろ8月15日の靖国神社は、マスコミ各社やら特攻隊姿の人やらが押し寄せ、とっても騒がしい。「心の問題」で参拝する小泉さんには、できれば静かな環境で参拝してもらいたい。少なくとも、右翼の街宣車をバックに首相が参拝する「絵」が、全世界に配信されたりするのはツライと思うのです。

〇次に、そのときの中国の対応はどうなるでしょうか。たぶん、大袈裟な反応はないでしょう。「日本の総理は中国の意向を聞かない」という事態は、彼らにとってはメンツがつぶれるわけで、耐えがたいことであるに違いありません。ですから、「そんなのはたいしたことではない」という振りをしなければなりません。いわば、靖国問題は彼らにとってダメージ・コントロールの段階になっており、昨今の控えめな言動はすでにその前兆であると考えてよいと思います。

〇中国側としては、「頼むから次期総理だけは参拝しないでくれ〜!」といったところでしょう。ところが、ポスト小泉の有力候補である安倍さんとしては、「8月15日はさておき、春の例大祭には行きますからね」というメッセージを送った様子。まあ、これは「落しどころ」みたいなものですけど、それで中国が納得してくれるかどうかは分かりません。

〇おそらく参拝と同時に、「あなたは賛成ですか、反対ですか」という世論調査が行なわれるでしょう。そこで出る答えは、「小泉さんは行ってよし」「でも、次の首相は行かないで」的なものになると思います。それでこの件は一件落着。8月15日が過ぎるとともに、この問題には飽きが来る。「ポスト小泉レース」も、この件は抜きにして議論してほしいと思います。一部マスコミはこの問題が大好きみたいだけど、普通の国民は関心ないと思いますもん。

〇来週13日も「サンプロ」に出演予定のかんべえとしては、その辺で手打ちにしたいと切実に願うものであります。


<8月7日>(月)

〇長野県知事選、田中康夫さんが負けちゃいました。当欄の2004年9月16〜17日をご覧いただければ、前知事がいかに地元メディアから愛想をつかされていたかが分かると思います。かんべえの元同級生のY氏も、今頃はホッとしているんじゃないでしょうか。そういう意味では、田中氏敗北に意外感はない。が、勝ったのが69歳の元国家公安委員長の村井仁さんであるということは、ちょっとしたニュースであるかもしれません。おそらくこの結果は、自民党総裁選挙にも影響することでしょう。

〇田中氏が目指した政治の方向性については、長野県民は大筋で認めていたと思います。むしろ許せなかったのは、「手法」でありましょう。やたらと対立の図式を作り、「孤立する気の毒な知事」を演出し、中央のメディアへの露出を図る。田中氏の自己愛ばかりが目立つ政治手法は、途中からは完全に飽きられていたように見える。特に「新党・日本」を立ち上げて、中央政界への色気を出し始めた昨年夏以降は、長野県民の間で急速に田中離れが進んだんじゃないでしょうか。

〇長野県における「田中疲れ」は、自民党内における「小泉疲れ」とピッタリ重なって見える。改革には反対じゃないけど、手法はもうちょっと考慮してくれよ。それが長野県民の民意であり、おそらくはこれから表面化する自民党員の意向になるのではないか。その結果として、「改革の後戻り」の怖れもあるけれども、一方で改革も具体論の段階に進むと、「抵抗勢力」の協力を得ないことには物事が前に進まない。その意味では田中県政が6年も続いて、県議会をまったく味方にできなかったということは、やはり終わってしかるべき県政だったのではないかと思います。

〇他方、小泉政治においては、今年に入ってから「官邸主導」型が陰をひそめ、「政府・与党」による根回し型政策決定が復活している。ひとつには自民党内でコアな抵抗勢力が居なくなり、「もう党に任せても大丈夫」になったことがあるでしょう。が、そろそろ改革のギアチェンジが必要になってきたことも否めません。神は細部に宿る。いつまでも大鉈を振るっているわけにはいきません。その余波として、最近では竹中総務大臣が完全に浮いちゃっていますけど、「狡兎死して走狗煮らるる」の故事もあり、その辺はもって瞑すべしというものでしょう。

〇一般論として、小泉さんのような異端の指導者が長年続いた後では、後継者は誰がやるにしても調整型のリーダーにならざるを得ません。それが安倍さんのように、比較的若い世代であればなおさらです。改革はいつかは掛け声から実践の段階に入らねばならない。いつまでも掛け声ばっかりだと飽きられる。長野県知事選挙は、そんな教訓を与えてくれているような気がします。


<8月8日>(火)

〇これを言ってた永田町関係者は誰だったかな。おそらく真実だと思えるひとこと。

「小沢一郎の豪腕と、“チーム世耕”には実態がありませんから」

〇これは悪口と取るべきではありません。実態を越えて虚像が動き始めるようになったら、政治家も大物です。世耕弘成さんも、自民党のゲッペルズだとか、ニート雇って2ちゃんで民主党叩きさせているとか、ずいぶん無茶なことをいわれているようです。しかし、「悪名は無名に勝る」というのも広報の鉄則のひとつでありまして、目下のところ自民党の若手政治家の中では、もっとも成功している一人であると言っていいでしょう。

〇で、今回出た『自民党改造プロジェクト650日』を読み終えたところです。この本、新潮社から出ている。ということは、あの鬼のような校閲をくぐり抜ける必要があったわけで、さぞかしお疲れのことと思います。とりあえず、前著の『プロフェッショナル広報戦略』より数倍面白いと思いました。

〇2003年末、総選挙で敗北した自民党は、安倍幹事長の下で組織改革に乗り出す。もちろん簡単に進むはずもなく、2004年6月の参院選でも自民党は敗北してしまう。が、党内の危機感が高まってきたことで、少しは物事が動き出す。党改革のワンテーマである「シンクタンク創設部会」では、不肖かんべえも部分的にご協力したこともある(当欄2005年2月17日参照)ので、この間の作業がいかに手間取ったかは少々聞いている。

〇ご承知の通り、一連の改革が成果をあげるのは2005年夏の「郵政選挙」においてです。あの選挙の裏話が実に面白い。投票日である9月11日の直前に、自民党の選挙本部は「テーマを郵政一本から他に変えるかどうか」で悩んだのだそうです。この本の通りだとすると、危ういシーンはたくさんあったわけで、実に紙一重の勝利であったことが分かります。というか、サクセスストーリーというのは、大方がそんなものではありますけれども。

〇この間の650日の記録は、組織改革のモデルケースとしても読むことが出来ます。組織改革の三要素は、@トップがぶれないこと、Aクリティカル・マスが危機感を共有すること、B若手の情熱だと思いますが、小泉総裁の下での自民党はこれらの条件を見事に満たしていた。特にAの点は、官庁や大企業とは違って、政党を構成する単位である議員さんたちは、「次の選挙で負けたらどうしよう」という形で常に危機感を感じているので、コンセンサスを醸成するのが容易であったのだなという点に気がつきました。

〇ということで、自民党はどんどん変わっている。あいにくなことに、政治記者がそういう動きに無頓着である。あいかわらず「〇〇氏がXX氏と会った」みたいな記事を書いている。「自民党の改革プロジェクトの行方」なんてテーマは、本来はジャーナリストが書かなきゃいけませんよね。世耕さんが自分で書かなきゃいけない、っていう事態はどこか間違っていると思いますぞ。

〇ところで今日、麻生太郎外相が靖国問題に関する画期的な提案を発表しました。「靖国にいやさかあれ」は、保守政治家らしい理念の上に、ビジネスマン的な視点で書かれた改革案で、しかもかなり細かな点まで踏み込んでいます。個人的には、「慰霊対象をどうするか」の点で「戦死者に限る」という一項目を追加できればさらに良いと思いますが。


<8月9日>(水)

〇本日の日経流通新聞の特集「団塊ジュニア 独身は貴族じゃない」がとても面白い。1971〜74年生まれの団塊ジュニア世代は、800万人市場として注目の的である。最近の「景気は回復なのに、今ひとつ消費が伸びない現象」を解く鍵がここにあるらしい。特に結婚していない団塊ジュニアは「内向き消費」であって、「過去3年で海外旅行に1回もいっていない」人が62.4%もいるというから驚くじゃありませんか。家具・インテリアでも「できるだけ安いものを買う」という回答が39.5%である。いずれも、既婚者よりも高いというところが不思議。

〇若い独身者といえば、お給料は全部使ってしまえる気楽な身分、と考えがちですが、実は既婚者や子持ち世帯の方が消費性向は高い。独身者の余暇は何をしているかといえば、「マンガ」「スポーツ観戦」「ギャンブル」といったオタク消費が中心。あるいはエステ・マッサージなどの美容・健康関連である。総じて物欲が乏しく、サービスに対する需要が大きい。少し上のバブル世代に比べると、見栄に走ったりせず、「欲しいものが見つかるまでいくつも店を回る」といった堅実さがある。

〇かんべえの身近な「団塊ジュニア世代」(独身女性)に聞いてみると、彼女の周囲でもこれらの指摘がまったく当てはまるのだそうだ。

●一人暮らしを始めたときに、「ちゃんとしたものを買うのは結婚してからでいいや」と思い、手軽に済ませた。その状態が今でも続いている。(だから結婚したら、家具やインテリアなどで贅沢をするかもしれない)

●親たちは盛んに海外旅行をしているが、自分は予定がない。(親の海外旅行中の通訳を買って出て、ちゃっかり自分はタダで旅行しているという例もあるらしい。こういうのをパラサイト・ツーリズムというのでしょうか)

●モノで贅沢をするつもりはないが、自分への投資と考えると高い化粧品でも買ってしまうことがある。こういう心理は、親の世代には理解してもらえない。(親たちは、衣服など形のあるものにお金を使うのなら納得してくれる)

〇「ホリえもん世代」は意外と堅実なのです。バブル期の「独身貴族」をイメージしていると間違える。彼らがまだ学生時代だった10年位前は、CDのミリオンセラーが続出したり、スキーがブームになったり、彼らの消費が全体をリードした時期がありました。しかし、その後の彼らを待ち受けていたのは「就職氷河期」であり、社会人としては辛酸をなめることになります。そして、「オタク世代」「自分探し」「古着ファッション」などといった内向きなライフスタイルを生み出す。個人消費を刺激するとしたら、まずはこの辺から攻めなければなりませんね。

〇だいたいですなあ、ボクシングの試合で視聴率が42.4%にもなって、その時間になったら商店街から客が消えた、なんてゆう馬鹿な事態を許してはなりませぬ。世の中には、もっと面白いことがいくらでもあると思うのですが。(もちろん、かんべえは見ておりません)。ところで、このページを見て呆れたのだけど、ボクシングの試合で視聴率の歴代トップ10のうち、8つまでがTBSなんですね。そんな調子だから、亀ちゃんに社運を賭けちゃうんだな。早く間違いに気づいて、出直して欲しいものです。ブー。

〇話はまったく変わって、アメリカのコネチカット州予備選では、案の定、リーバーマンが負けました。(さっそくメールをくれた人が数人いらっしゃいました。アンタも好きねえ)。敗戦の弁に泣かせるものがあります。以下はワシントンポスト紙から。

"I am, of course, disappointed by the results, but I am not discouraged," Lieberman said. "I'm disappointed not just because I lost but because the old politics of partisan polarization won today. For the sake of our state, our country and my party, I cannot and will not let that result stand."

〇"Partsan polarization"というのが、かんべえが注目している近年のアメリカ政治の病理です。「党派色による二極化」ということになりますが、要は世論が右と左で真っ二つになっていて、リーバーマンのような中道・現実主義者の居場所がなくなるという現象ですね。共和党内で保守派が強くなり、穏健派の勢力が弱まるという現象は以前から続いていた。ここへ来て、「ブッシュ憎し」の一念から民主党内でも反戦左派が強くなって、中道派を党外に追いやる動きが出てきた。結果として対立は先鋭化し、建設的でない議論の応酬となる。

〇中道・現実主義者というのは、雪斎どのの言葉を借りれば、「タカでもハトでもない、フクロウ派」ということですね。タカとハトが寄ってたかってフクロウを叩く、というのは気持ちのいい図ではありません。こうなると、意地でもリーバーマンは独立候補として11月7日の本選挙に挑み、民主・共和の両候補を打ち破って欲しいと思うものです。というか、この際、共和党穏健派の候補者も合流して、第三政党を立ち上げるというのはどうか。アメリカ政治のダイナミズムが発動されるとしたら、これから2008年までがチャンスだと思うのですが。

〇ところで、かんべえは明日から夏休み入りです。会社に連絡しても居ませんからね。ちなみに留守は、「バブル世代」と「団塊ジュニア世代」のツートップが守っております。


<8月10日>(木)

〇富山に来ております。例によって白エビやら蟹やら、一通りのものを食べ尽くしておるのですすが、ふと寝る前に飲んだ、ただの水道水がやけに美味である。これでビールなど、あほらしくて飲む気にもならぬ。ふるさとの水はありがたきかな。


<8月11日>(金)

〇先日から気になっているのですが、この夏、生産に関するデータは強い反面、消費に関するデータは弱いものが多い。鉱工業生産や機械受注、政策投資銀行の設備投資計画調査などを見る限り、企業の設備投資意欲はますます盛んである。企業が元気なお陰で雇用環境も改善しており、夏季ボーナスも前年比2〜4%程度の伸びと、昨年に引き続いてプラスの伸び率となっている。

〇供給側がこれだけ明るくなると、本来ならば家計部門も好調になって不思議はない。ところが家計調査、景気ウォッチャー調査、百貨店売上高、新車販売台数などの数値は振るわない。新車の販売台数(軽を含む)などは、2002年度から2005年度まで4年連続して580万台であり、しかも今年に入ってからは前年比で伸び悩んでいる。なぜ個人消費が伸びないのだろうか。

〇よく指摘されるのは、冷夏による日照不足や夏物衣料の不振、W杯による客足の減少などの特殊要因が重なったということ。ところが今日発表された4−6月期GDPを見ると、実質0.2%成長とやや伸び悩んだ陰で、民間最終消費支出はプラス0.5%とまずますの伸びを示しているではないか。正直、よく頑張ったなと思う。

〇しかし、足下の消費が本当に伸びているような気がしない。ヒット商品も少ないし、レクサスも売れてないらしいし、高額サービス全般がぱっとしていないように見える。こういうときに、かならず出て来る説が、「将来の増税や社会保障負担、金利の先高観などによる生活防衛意識が消費の足を引きずっている」という見方である。もっともらしいけれども、どうもウソ臭い。というか、かんべえは「消費者は賢いものだ」という説を、あまり信用したくないと思うのである。

〇逆に、消費者が望む商品やサービスを、企業側が作り得ていないという指摘もあって、これが本当であるとするとえらいことになる。なんとなれば、企業側はいずれ個人消費が活発化することを前提として、設備投資を果敢に行なっている。このまま消費が盛り上がらないと、どこかで「ありゃりゃ」ということになり、デフレ再燃という怖れも出て来る。

〇意外とありそうなのは、ガソリン代などの負担が響いて消費が盛り上がらないというもの。これは地方都市に来て見ると実感できるのだが、クルマで外出するのが当たり前になっている場所で、ガソリンがレギュラーで140円台というのは結構、キツイかもしれない。それじゃあ外出を減らそうかということになると、テキメンに消費が減るということになる。実際、通信費などの使用料は増えているらしく、消費者の在宅時間が長くなっている可能性がある。

〇意外とその分、ネット消費が増えているかもしれない。これに関しては、データが十分に揃っていないので分からないことが多い。ともあれ、「引きこもり消費」現象が起きてるんじゃないかというのが、現時点の仮説です。


<8月12〜13日>(土〜日)

〇日曜朝、テレビ朝日の「サンデープロジェクト」スタッフルームに、いつもの倍くらいの人がいる。お盆なのにどうしたのかと思ったら、理由は「靖国シフト」なのである。仮に番組本番中に小泉総理が参拝したとしたら、その場で同時中継できるようにしなければならない。「今年の小泉さんは15日で決まりでしょ?」などと言いつつ、でも万が一、参拝が前倒しになったりして(そういえば2001年も8月13日だったし)、放送の準備が出来ていなかったら「局の失態」になってしまう。

〇おそらく他局でも同じ事態が進行中なのであろう。すでに各社が中継の準備をして、「いつ参拝があってもいいように」スタッフが待機しているらしい。普通であればニュースが夏枯れとなるこの時期、話題を作ってくれる小泉さんはありがたい存在か、それとも夏休みをとらせてくれない迷惑な存在か。個人的には、ご同情申し上げるところであります。かんべえは明日から夏休み後半の旅に出ますので。

〇麻生提案について少々。靖国神社を「非宗教法人化」するという提案は、面白いと思うのだが、いくつか難点がある。「最終的には設置法に基づく特殊法人に」というのは、落し所として優れているとは思うのだが、仮に野党の政権になったら「そんなものは行革だ」といわれてしまうかもしれない。逆にいえば、現在の法制度では宗教法人でいることのメリットはあまりにも大きい。なにしろ宗教法人になってしまえば、カルト集団でさえ安泰なのだから。「靖国神社が護国神社と一体になって任意解散手続きを取る」というステップを踏むことは、なかなかに勇気がいることだろう。

〇そのためのインセンティブとして、麻生提案は「靖国神社のカスタマーの減少」に着眼している。存続のためには、「生き残りを賭けたターンアラウンド(事業再生)が必要」というのは、まさしくその通りでしょう。そこで新たな財源として、独立行政法人平和記念事業特別基金のうち、国庫返納分を充当するというアイデアを提示している。この点は神社側にとっても魅力的な提案ではないかと思う。しかし、言葉悪く言えば足元に付け込んでいるわけで、なんだか将棋連盟を髣髴とさせるような議論でもある。

〇仮にこの通りにするとして、意外と大きなハードルとなるのは、「非宗教法人となったら、鳥居を取らなきゃいけない」といったことではないかと思う。神社の鳥居にそれほどの宗教色があるとは思わないのだけど、非宗教法人化となるとそういうことも考えなければならない。いいアイデアというものは、得てしてこの手の理屈を越えた部分でつぶされてしまうものです。

〇てなわけで、麻生提案は「補助線」に終わると思う。しかし「根と幹を忘れずに(分祀は枝葉)」「非政治化し、祈りの場所に戻す」といった方針は正論でありましょう。一歩前進、という感があります。


<8月14〜15日>(月〜火)

〇今年も新潟県の信田さん宅にやって来ました。ここであれば大停電も靖国参拝も関係ありません。ちなみに靖国問題については、昨年の8月15日に書いたことで尽きていると思います。16日以降は、速やかに話題にならなくなるでしょう。

〇ということで、冷たい雪溶け水(先月まで山には雪が残っていた由)に足を突っ込んで素手で魚を捕まえたり、家庭菜園で採れたてのトマトやナスをいただいたり、ひまわり畑の迷路で汗を流したりという休日を過ごしております。今日も働いている人たちに申し訳ないような。

〇14日締め切りの原稿を、自宅用のアドレスから送ってみたところ、編集者も休暇中で自宅用アドレスから返事をしてきた。これもまたお盆に特有の風景ではないでしょうか。


<8月16日>(水)

〇新潟から帰ってきました。以下は備忘録として、高速道路の風景について。

(1)赤城国際のサービスエリアで、延々と続く給油待ちの自動車の行列に驚愕。最後尾はほとんど高速道路の路肩までつながっておりました。そりゃま高速の方がガソリン代が安いというのは昨今では有名だし、高速でガス欠になったら他に行くところはないのだから、仕方がないといえばそうなんだけど、何ですかなあ。リッター140円台のガソリン料金は、さすがに問題となっておりますな。

(2)久々に高速に乗って気づいたんだけど、ETCって普及しましたね。新座料金所のところ、昔はETC専用レーンだけが、「十戒」のクライマックスシーンのように空いていたのですが。そろそろワシも導入しなければならんだろうか。

(3)多少の渋滞も含めて約4時間のドライブだったのですが、車内ではほとんど井上揚水と宇多田ヒカルを聞いておりました。途中、CDの調子が悪くて何度も曲がジャンプしてしまう。ウチのクルマ、さすがに年季が入っているのだけど、どこも不都合がないのに、ETCとCDのために買い換えるっちゅうのもいかがなものかと・・・・。


<8月17日>(木)

〇夏休み中の読書について。いちばんためになったのは「大日本帝国の民主主義」(坂野潤治X田原総一朗)小学館でしたね。

〇明治憲法下の日本というのは、なかなかに志も高いし、ちゃんとした民主国家の体をなしていた、という指摘は最近になって増えている。本書では田原氏が、東大名誉教授の坂野氏を「発掘」して大いに語らせている。冒頭、西郷隆盛の征韓論は、本当は中国と戦うことであった、とあるのでビックリする。が、それで西南の役の辻褄があってしまうのだから、納得せざるを得ない。以下、明治の歴史の読み直しが進むのだが、実にエキサイティングである。

〇「統帥権は大きな問題ではなかった」「天皇機関説はタブーではなかった」「鎌倉時代からずっと天皇は象徴制です」など、え、そうなんですか、という話が最後まで途切れない。

〇昨今の状況を鑑みると、とくに以下のようなくだりがとっても面白い。

坂野:だから、マスメディアが世論を指導する何ていうことは絶対にあり得ない。マスメディアが世論に押されてるんです。
田原:だから、小泉自民党が大勝したのも(2005年9月総選挙)、マスメディアがあおったわけじゃないと。マスメディアが世論に迎合するんですよ、常に。そこがマスメディアのおごりなんだよね。マスメディアが世論を引っ張って、自民党を勝たせたとか。

坂野:それで、あの戦争を起こして申し訳ないと、新聞は言う。とんでもない。君たちに責任ないよと。
田原:新聞にはそんな力はないんだと。

坂野:そう。

(よかったね、大新聞には責任がないそうです。とりあえず靖国参拝を止めることはできなかったしね)

坂野:啓蒙活動っていうのは、福沢みたいに、できっこない国で、いかにもできそうに、ウソを書くのが啓蒙なんです。
田原:今、誰だろう、日本の啓蒙家は。筑紫哲也なんていうのは啓蒙家かな。

坂野:いや、いないな。もう70歳になったんだから、田原さん、啓蒙家になってもいいんじゃない(笑い)。
田原:いや、私は絶対啓蒙家にならない。

坂野:本当の問題点を摘出するというか抽出して、さあみなさん、考えなさい、でしょう。僕もそうですよ。福沢や吉野は立派な啓蒙家だけど・・・・。
田原:他流試合はしない。

坂野:しませんね。それから、できないことをできるようにいうでしょう。
田原:あたかも実現可能なように。

坂野:みんなに期待を持たせる。啓蒙家になる瞬間に目がかすむんですね。学者にしろジャーナリストにしろ、若いときには本当にいい仕事をしていた人が、名を成してテレビでコメントするようになると、もう目がかすんでしまっているというケースがよくあるでしょう。地道に調査して、その結果こうなります、とやっていたのが、そんな作業はすっ飛ばして、期待が先にあるものだから、こうなるべきだ、ってことを何度でもいうようになりますよね。分析があって主張するんじゃなくて、期待があって啓蒙する。

(身につまされる人が多いんじゃないでしょうか。最後の部分は特に、他山の石とせずばなりません)

田原:今、自民党をはじめとする保守の人たちが「伝統」と「文化」ということを盛んにいいますね。左翼は伝統と文化を軽視しているとか、文化と伝統を日本は失ってしまったと。伝統と文化が大事だと。自民党の憲法改正案にも、中曽根さんはそれを前文には書きたかった。この「伝統」と「文化」って、何を指しているんでしょう。
坂野:わからない。だって、僕がいってきたように、(徳富)蘇峰もいってきたように、鎌倉幕府のころから日本は象徴天皇制なんだから、伝統といっても、それは靖国神社にはない。伝統は象徴天皇制で、イヤになるほどなあなあの世界ですね。

田原:なあなあの世界。象徴天皇というのはなあなあの世界ですね。
坂野:そうです。

田原:いささかも論理的ではない。
坂野:理論的ではない。その中に、保守の人たちは教育勅語を持ってきて、ここに日本の文化と伝統が書いてあると。なあなあの世界だから、逆に教育勅語をつくったわけでしょう。みんな一生懸命になって。憲法には万世一系も書き込んだんです。だから、日本人に彼らがいうような伝統はないんですよ。

(なんと痛快な。「伝統と文化は保守派のないものねだり」であるとは、文字通り蒙を啓かれた思いがいたします)


<8月18日>(金)

〇家族が全員出払ったので、「空白の一日」ができた。が、こんな暑い日に出かける気にもなれず。本当は、来週に控えている締め切り2本を片付けるべきなのですが、まだ日があると思うと気合が入らない。

〇高校野球を見るのも気が進まない。たまたま昨日、テレビをつけた瞬間が帝京対知弁和歌山の9回の攻防で、一部始終を見ておるのです。最初は面白いと思って見ていたたけど、後味が悪かった。今の高校生って、すこんすこんとホームランを打つけど、投げる方や守る方はなんであんなに脆いの? 試合を見ながら、「内野手、ピッチャーに声かけてやれよ!」「監督、伝令出せよ!」などと腹ふくるる思いがしました。劇的なのは高校野球の常ですが、いやしくも準々決勝クォリティの試合ではなかったと思います。

〇ということで、かなり前に安売りで買ったDVDで、積読状態になっていた『恐怖の報酬』(1952年、フランス映画)を見ることにしました。食い詰め者の4人の男が、金目当てにニトログリセリンを積んだトラックを運転するという、よく知られたサスペンス映画。これは良い思いつきというもので、充実の2時間半となりました。白黒映画であり、戦争の面影が残っているところ、登場人物の描き方が丁寧なところなど、黒澤作品を見るような感じでした。

〇ふと思いついて、この映画をネット上で検索してみたところ、絶賛している人が多いのは当たり前ですけど、「前半が長過ぎる」という声も少なくないのですね。ワシなぞは、恐怖のトラック旅行が始まる前に、登場人物の背景を説明する1時間が面白いと思うのだけど、これは古い時代の映画を見慣れた感性なのでしょう。最近の映画を見慣れている若い世代には、あの導入部が冗長に思えるのか、ということを「発見」した思いがしました。

〇そういえば、つい最近も『ポセイドン・アドベンチャー』がリメイクされていた。おそらく前作が作られた70年代の映画の文法が、今見ると古くさく感じられるのでしょう。映画の文法というのは、時代によって変わっちゃいますからね。ワシは10代の頃に元祖『ポセイドン・アドベンチャー』を見ているので、きっと今の映画の方に抵抗を感じると思います。もっとも、新しい映画の文法になじめないことで、損をしているという気はまったくしない。その分、古い映画の名作を深く味わうことができると思えば、どっちがいいかは自明というものではありますまいか。

〇『恐怖の報酬』も、1970年代にウィリアム・フリードキンの手でリメイクされている。こっちの方は散々な評価で、酷評の嵐であったことを記憶しています。確かにリメイク映画の傑作ってのは、あんまり思いつきませんわな。ところがフリードキンのお陰で、元祖『恐怖の報酬』が忘れられずに残ったという評価もある。リメイクというのは名作の再発見でもあるのですね。


<8月19〜20日>(土〜日)

〇18日夜に「ロビンソンクラブ」の暑気払い。かんべえが所属する最古の勉強会だが、今年はこれが初会合。選抜株式レース運営者がファウンダーである。それ以外のメンバーは、公務員、証券マン、保険会社、アナリスト、新聞記者、雑誌記者、米国税理士など。株取引で億万長者になるという、研究会の初期の目標を達成した人はまだ出ていないようですが、とりあえずファウンダー氏の取引は好調であるようです。

〇19日夜は神宮球場へ「ヤクルト阪神戦」を見物へ。前夜は7点差をひっくり返されるというイヤ〜な試合であったものの、この日の阪神打線は好調。なかでも投手・福原が三打席連続ヒット、うち2本がタイムリーという大活躍であった。打率が2割6分台というのだから、他の選手はもっと頑張らなきゃいけません。ま、タイムリー打った後は、しっかり相手側に点を献上してましたけど。首位・中日の背中が見えないくらい離されてしまいましたが、神宮球場は虎ファンで一杯。また、応援に行きたいですな。

〇20日朝、家で「サンデープロジェクト」を見ながら、「分かってねえなー」などと言いつつ、一人でテレビを相手に突っ込む。馬鹿みたいだと思われるかもしれませんが、でもね、これが本番になるとなかなか言えないものなのですよ。今日はゲストに好きでないキャラが多い日であったので、出番でないのはもっけの幸いなのでありますが。

〇ということで、長めの夏休みもやっとお終い。明日からボチボチ慣らし運転をしなければ。


<8月21日>(月)

〇高校野球は早実が優勝でありましたか。かんべえはまったく見てませんが、たいへん良い試合だったそうですし、「ソージツ」なる社名の会社に勤務するものとしては、これは慶賀すべきではあるまいかというのがとりあえずの感想です。

〇その一方で、以下のような事態も冗談抜きによくあることなので、「早実」の名前が人口に膾炙するのは、あんまり喜んでいられないという現実もある。

「もしもし、こちらソージツソーケンと申しますけど、XXさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「少々お待ちください。・・・・XXさあん、早稲田の方から電話」

〇なにしろ先方さんに比べると、こちらの「ソージツ」はあまりにも歴史が浅く(2004年4月発足)、知名度では決定的に劣るのであります。てなことで、毎度のように「日商岩井とニチメン、ふたつの日で双日です」というベタな説明が必要となる。それでも、「頑張れソージツ」と唱えてくださった方が、全国に大勢おられたであろうことを考えれば、きっと当社としても何がしかのプラスがあったはず。てなわけで、「ソージツが日本一」を心から祝いたいと思います。


<8月22日>(火)

〇中央公論の座談会を収録。テーマはポスト小泉、もしくは次期政権の課題と展望について。不肖かんべえが司会を務め、政治家では世耕弘成さん、学者では飯尾潤さん。全員が40代半ばで、次期総裁の有力候補である安倍晋三氏よりも若いという点がちょっと今風。どんな風にまとまるかは分かりませんが、とりあえずお二人の面白さを十分に引き出せたんじゃないかと思っています。

〇飯尾先生が安倍晋三氏の不安材料として、「負け戦が足りない」ということを指摘されていたのが鋭いと思いました。もちろん安倍さんは、議員としての駆け出し時代に加え、幹事長から幹事長代理への降格など、いろんなご苦労をされていることは間違いありません。それでも、小泉さんのように、豊富な「敗戦体験」があるわけではない。おそらく政治家としての小泉さんの強みは、いくつもの負け戦を体験したことで、政局に対する独特の勝負勘と、いつでも捨て身になれる精神の強靭さを得たことでありましょう。

〇これに対し、世耕さんが「試練が足りないのは、われわれの世代全体の課題かも」という感想を漏らしていたのが、これまた身に沁みる感じがありました。そりゃあ、われわれの世代だって苦労してないわけじゃないですけど、親たちの世代には絶対にかないませんからね。思うに逆境や試練に耐えて成長する人というのは、今の世の中では希少価値であるのかもしれません。

〇それでも「戦い続けること」に価値があるのが政治の世界というもので、ここ数年、小泉さんに戦いを挑んだ人たちは、例外なく「ここはしばらく様子を見て、世論の風向きが変わるのを待ちましょう」などと言ってるうちにチャンスを逃すのが常でありました。福田元官房長官にも、その雰囲気がありました。逆に蛮勇を奮って勝負に出れば、意外と高いリターンが得られるかもしれません。そういう意味では、「一強、二弱、二番外地」などといわれるポスト小泉レースにおいても、河野太郎&鳩山邦夫の「番外地コンビ」には意外と明るい未来があるのじゃあないでしょうか。

〇ところで、世耕さんがブログで書いていたモバイルPCを見せてもらいました。これはすごい。うーん、これでFTPソフトをつけたら、溜池通信の更新もできちゃうかな、などと余計なことを考える。大きめの「ドコモ茸」マスコットがついているのがご愛嬌で、「これで画面を拭くんです」と世耕さん。うーむ、さすがは元NTT。


<8月23日>(水)

〇今日聞いた話で、これが面白かったな。「経済学と経営学はどこが違うか?」

「経済学者は競争を善であると考える。従って利益がゼロの状態をもって理想とする。これに対し、経営学者は利益の極大化を理想とする」

〇実際問題として、個人や企業としては利益がゼロでは困るのであって、それを理想だと思っている時点で理屈倒れになってしまう。だから、「経済学は使えない学問だ」とか、「経済学者は現実を理論に近づけようとする」といった批判が出る。他方、利益の極大化を目指す学問というのもいささか胡散臭いので、「経営学なんて科学じゃない」「言ってることがしょっちゅう変わる」といった悪口が付きまとう。

〇というわけで、ふたつのサイエンスにはあまり接点がないらしい。たとえば「高付加価値、なんて概念は経済学では定義できません」といわれて、ああそうかと変に感心してしまうのだが、企業の立場としては「使えねええええ」と悲鳴が上がるところである。逆に国際競争力あたりをテーマに、竹内弘高先生あたりの講演を聞いたら、これはもう抱腹絶倒間違いなしなのだけれども、終わってから「今日の話のどこが業務に使えるのか」と考えると、これまた途方に暮れてしまったりするのである。

〇実際に企業の中にいる者としては、経済学も経営学も両方重要である。とはいえ、サラリーマンが学問として取り組む必要はないのであって、日常の業務や意思決定に役立てばそれで十分である。要は二つの学問を「いいところ取り」すればいい。しかるに、経済学と経営学の谷間にはスカッと穴が空いているわけであって、実はそういうフィールドこそいちばん知りたいところなのである。

〇端的に言えば、「あと2〜3年たてばデータが出るでしょうから、それで検証されればどうですか?」みたいなことを言われても困るのである。いや、無いものねだりだとは思うのですけどね。


<8月24日>(木)

〇某大手紙の政治部長さんの講演会を聞きに行く。「すでに安倍試運転政権が始まっている」とか、「でも、安倍政権の人事をやったら失速しちゃうかも」とか、「やっぱり来年の総裁選は大変よ」といった話で、概ね納得できる話が多かったと思う。

〇ひとつ「へえ〜」と感心したのは、その昔の経世会のエピソード。毎週木曜日になると、砂防会館で例会が行なわれて、所属する全議員が一堂に会して「浅草今半」の弁当を食べたのだそうだ。それを称して「一致団結・箱弁当」と称した。聞いてみれば「な〜んだ」という話なんだけど、かんべえはずっと「箱弁当のオカズのように、キッチリ詰まっている」という意味で一致団結なのだと思っていました。そうじゃなくて、みんなで同じ弁当を食べるから一致団結なのですね。

〇浅草今半といえば、現在でも「お昼の会議のお弁当」としては定番なので、かんべえも年に10回くらいは食べているんじゃないかと思う。それでも百人を越える国会議員が、毎週決まった日に黙々と弁当を食べているシーンは、なかなかに迫力がありそうだ。さすが「親分が右といえば全員が右」の経世会。(番記者も参加することが出来て、その場合の会費は4000円であった由)。その経世会が今は津島派という名前になっていて、今も75人の議員を擁する第2派閥であるけれども、総裁選に候補者を立てることもできないでいる。今はどんな風に例会をやっているのでしょうか。

〇というわけで、自民党総裁選挙の話を聞くには、やはり現役の政治部長に限ります。これが「元政治部長」になると、いちいち「三角大福」やら「金竹小」の話を聞かないと、本題に入ってくれなかったりする。そうかと思うと、昔は「自民党の派閥をなくせ」と言っていたはずの人が、「派閥が壊れて自民党の良さが失われた」と嘆いていたりもする。さらにこれが「政治評論家」になると、現実を語っているのか自分の願望を語っているのか分からない人がいる。困ったものだ。

〇ところで、くだらないことに気がついたのですが、少し前に流行った下記のサイトで、「かんべえ」って名前がとっても強いのです。

●MD5バトル: http://www.newspace21.com/mix/btl.php 

〇ということで、政治評論家を相手に戦ってみました。


[かんべえ] 攻撃:67 素早さ:92 防御:86 命中:98 運:81 HP:265
[森田実] 攻撃:45 素早さ:38 防御:12 命中:19 運:70 HP:175

かんべえ vs 森田実 戦闘開始!!
[かんべえ]の攻撃  HIT  [森田実]は116のダメージを受けた。
[森田実]の攻撃  MISS  [かんべえ]は攻撃を回避した。
[かんべえ]の攻撃  HIT  [森田実]は159のダメージを受けた。
[かんべえ]が[森田実]を倒しました(ラウンド数:2)。


〇まあ、鎧袖一触って感じですかな。ふっふっふ。もちろん福岡政行や岩見隆夫も目じゃありませんぜ。(そんなこと、威張ってどうする?)


<8月25日>(金)

〇夕方に所用があって、岡崎研究所に立ち寄った際に聞いたのですが、こういうことがあったのですね。

(1)岡崎久彦氏が、産経新聞8月24日朝刊の「正論」欄で「遊就館から未熟な反米史観を廃せ」という論考を寄稿する。

(2)その日の午前10時頃に、靖国神社から岡崎研究所に電話あり。

(3)岡崎氏、そのまま靖国神社に行って、南部宮司に会う。「ご指摘の部分を修正したいので、ご協力願いたい」との要請あり。

(4)今日の産経新聞朝刊が、「靖国・戦史博物館、展示内容変更へ」という記事を報じる。

(5)英Financial Times紙も、"Japanese war shrine agrees to axe controversial exhibit"と同様の内容を報じる。(伊藤師匠のサイト、8月25日分を参照)

(6)岡崎氏、本日午前に関係者とともに修正作業を終える。

〇実際の展示内容が変わるのは少し先になるのでしょうけれども、なかなかのクイック・レスポンスであり、靖国神社内部では産経新聞をキチンとフォローしてるようです。(朝日新聞は出入り禁止になっちゃったそうですが)。ともあれ、遊就館から「ルーズベルトに騙された」説が消えるのであれば、これは大いに結構なことではないかと思います。

〇中央公論7月号にも寄稿したところですが(劣勢、日中広報戦争の挽回なるか)、靖国神社のPubic Diplomacy(戦略的広報外交)を考える場合に、いちばんの悩みの種は遊就館です。あれがあのままでは、「西側メディアを味方につける」という戦略目標が達成できない。そもそも、宗教法人が戦争博物館を管理しているというのが変なのであって、ここは是非、麻生提案のように国有化ないしは特殊法人化するのが望ましい。しかるに遊就館の展示物は、本来、戦死者の遺物なのですから、これを政府が取り上げるわけにはいかない。靖国神社自身が訂正してくれるのであれば、それがいちばん自然な形となる。

〇ところで保守派の中には、「ルーズベルトの陰謀論」を否定すると、ときどきムキになって反論してくる人がいます。が、百歩譲ってそれが事実だったとしても、日本がそれを主張することは、「日本は悪くなかった」ことを立証するために、「日本は実は馬鹿だった」と認めることになります。かんべえ自身は、戦前の日本は悪かったし、愚かだったと考えるものですが、馬鹿の上塗りは恥ずかしいと思う。次の世代に語り伝えるときには、「アメリカに騙されて戦争しちゃった」ではなく、「アメリカに勝てると思って戦争を始めちゃった」と言うべきではないでしょうか。


<8月26〜27日>(土〜日)

〇太陽系の惑星から冥王星が除外される、という話は、ブログ界でも旬の話題のようです。かんべえは実は「元占星術フリーク」でありまして、ほかの人があまり気にしていない点に触れてみたいと思います。

〇占星術の歴史は、天文学よりも古い。というよりも、シュメール文明以来の占星術の歴史の中から、17世紀頃になって天文学が枝分かれして誕生している。それ以前は、天体の運行を研究するのは占星術師の仕事であった。それはもちろん自然科学とは程遠いシロモノであったが、そもそも自然科学という発想自体が近代合理主義精神の産物であるから、それ以前の占星術と天文学は渾然一体となっていた。まあ、錬金術と化学の関係を想起されるとよろしいかと思う。

〇占星術は天動説に拠っている。黄道12宮の上を、8つの惑星+太陽と月がどのように動いているかを分析すると、地上の出来事を予測できるというタテマエになっている。特に人間が誕生したときの天体の位置(ホロスコープ)は、生涯にわたってその人の運命に影響するとされる。今では自分の生年月日と生まれた場所を記入すると、勝手にホロスコープを書いてくれるサイトまである。もっとも、ホロスコープを読み取ることについては、あーだこーだと複雑な約束事が無数にあり、その辺の細かな話は昔やっていたかんべえもほとんど覚えていない。

〇ところで天文学が発達して、後から「天王星、海王星、冥王星」が発見されると、占星術としても理論を更新する必要に迫られた。それ以前の占星術は、「太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星」という7つの天体だけで占いを行なっていたのである。たとえば12宮にはそれぞれ守護星があることになっていて、新たに発見された天王星はみずがめ座、海王星はうお座、冥王星はさそり座の守護星ということになった。他方、10個の天体では12の星座全部は網羅できないので、おうし座と天秤座は金星、ふたご座とおとめ座は水星、というように「掛け持ち」の星も残っている。

〇さて、ここで冥王星が惑星の座を追われるとなると、さそり座の守護星はどうなっちゃうのよ、という問題が生じる。おそらく、冥王星発見以前のように、火星が掛け持ちで守護星です、ということに戻すのだろう。でも、話はそれだけではすまない。全世界の占星術師たちは、12の星座と9つの天体で、占いを再構成しなければならない。西洋占星術は結構、巧緻な内容になってしまっているので、今から「冥王星は抜き」にするのは非常に厄介なことだと思う。

〇というのも、天王星(ウラヌス)、海王星(ネプチューン)、冥王星(プルートー)は、それぞれギリシャ・ローマ神の天空、海中、冥府の王を意味している。とっても語呂が良かったのだ。特に冥王星は、死を司る神として重要な意味を持たされていたので、この星を抜きにして占いをするのはかなり難しい。

〇「どうせなら、惑星を減らすより増やして欲しかった」というのが占星術業界の声ではないかと思う。何でもそうですけど、増やすよりも減らす方が難しいのですよ。


<8月28日>(月)

〇恥ずかしながら、こんなの書きました。(写真に冷や汗!)

●マネー&マーケット 経済羅針盤: http://markets.nikkei.co.jp/column/rashin/index.cfm  

〇いちおう連載ということになっているので、今後は「地政学(的)リスク」をテーマに、少しずつ書きつないでいこうと考えております。ということで、順当に国際情勢やら、安全保障上の問題やらを取り上げていくことにあると思うのですが、以下は少々ぶち壊しな話を。

〇「地政学リスク」という言葉で日経4紙に検索をかけてみると、この言葉が頻繁に使われている月は、株価が下がっているときが多い。つまり、「なぜ株が上がらないんだ?」という理由を探しているうちに、わけがわからないから「地政学リスクだ」となるらしい。逆に株価が順調に上がっていた2003年前半や2005年は、そういうことを考える必要がないから、この言葉はほとんど使われなかった。

〇他方、現在の世界情勢を見渡すと、インダス川からナイル川にかけての地域全体にろくな話が無い。パキスタンは脆弱、アフガンはタリバン復活、イランは核開発、イラクは内戦状態、そしてレバノンもイスラエルもパレスチナも不穏な状況。その上、インドでテロがあって、中央アジアやトルコやサウジなども、何があってもおかしくはない。つまり安全保障上の火種が一杯ある。

〇もっとも株価の方は、それとは無関係に上昇するかも知れない。なにしろテロでも戦争でも原油高でも、人間というやつはすぐに慣れてしまうからだ。「山より大きなイノシシは出ない」ともいう。「地政学リスク」という言葉は、マーケットが恐怖感を紛らわせるための魔法の言葉なのかもしれない。


<8月29日>(火)

〇本日、厚生労働省の「一般職業紹介状況」7月分のデータが発表されました。全国平均の有効求人倍率は1.09でした。当欄でもたびたびご紹介しておりますが、これを都道府県別に見ると面白い結果が出ます。

〇「東京都の有効求人倍率はどのくらいだと思いますか?」と聞いてみると、だいたい「1.2」とか「1.5」くらいの答えが返ってくる。「正解は1.69です」と教えると、へええーと驚かれる。そうなんです。今、東京都内で人を採用するのは大変なんです。次に「東京都は全国第2位で、1位は愛知県の1.94です」と教えると、これはちっとも驚かれない。上位は、自動車産業を中心に、好調な輸出企業の工場がある土地が多いです。

〇逆に下位は北海道、東北、九州などの農業県が並びます。最下位は、毎度おなじみ青森県の「0.42」。今月は画期的なことに、いつもブービー賞の沖縄県が、「0.50」に改善して高知県を抜いた。「都会からの観光客が増えているので、今年は景気が良い」という現地で聞いた話とピッタリあっている。つまり、沖縄には「ツーリズム」というパスがあるので、景気回復効果がちゃんと波及するのである。が、これが農業県ともなると、そういうパスがなかなか見当たらない。

〇以下にこの数字が「1.30」以上の上位10都県、「0.70」以下の下位7道県を一覧表にし、それぞれ1年前の数値もあわせて記入してみました。上位では、この1年で大きく改善している県が多く、下位は沖縄などを除くとあまり回復が目覚しくはありません。全国第3位、三重県の急上昇は、おそらくシャープの亀山工場の効果が大きいのでしょうね。秋田県の改善の理由は何かなど、考え始めると興味の尽きない話であります。


●上位都道府県(1.30以上)

    06年7月 05年7月 その差
(1) 愛知県 1.94 1.68 +0.26
(2) 東京都 1.69 1.43 +0.26
(3) 三重県 1.43 1.11 +0.32
(4) 福井県 1.42 1.32 +0.10
(5) 岐阜県 1.41 1.21 +0.20
(6) 栃木県 1.40 1.20 +0.20
(6) 滋賀県 1.40 1.11 +0.29
(8) 群馬県 1.39 1.40 -0.01
(9) 岡山県 1.37 1.20 +0.17
(10) 広島県 1.31 1.23 +0.08


●下位の都道府県(0.70以下)

    06年7月 05年7月 その差
(1) 青森県 0.42 0.40 +0.02
(2) 高知県 0.48 0.48 --
(3) 沖縄県 0.50 0.43 +0.07
(4) 長崎県 0.60 0.59 +0.01
(4) 鹿児島県 0.60 0.56 +0.04
(6) 秋田県 0.61 0.53 +0.08
(7) 北海道 0.62 0.58 +0.04
(7) 佐賀県 0.62 0.64 -0.02


〇それにしても同じ国の中で、有効求人倍率が「1.94」から「0.42」まで分かれているというのはものすごい現象です。日本がもっと貧しい時代であれば、即座に「食べるための労働移動」が起きたことでしょう。その一方、愛知県の生活が青森県に比べて特段に魅力的なわけでもない、というのが今日の日本社会の現実であったりもする。この現象に対する「政策」の解を探すのは難しそうです。


<8月30日>(水)

〇先日、この組織の方の話を聞いて、文字通りアッと驚いたのです。

「今の医療システムというものは、昭和30年代に整備されたものです。当時の病気というと感染症が中心でした。感染症という病気は、@誰でもかかるし、A伝染するし、B治るのです。だから、患者さんを病院に閉じ込めることに合理性がありました。ところが現在の病気といえば、ガンであり、脳梗塞であり、心臓病です。これらは、@高齢者の病気であり、A伝染せず、Bなかなか治らないのです。状況はまったく変わってしまいました」

「今日の高齢者医療においては、あらゆる手段を尽くして全快を目指すべきなのか、それとも痛みの無いように過ごしてもらうのか、重要なのは患者自身の価値観であり判断です。何が何でも入院させる必要はない。患者の意思に基づいて、サービス業としての医療を始めるべきなのです。しかし、医療システムは昔のままです。変えることは至難の業でしょう。とはいえ、誰かが声を上げていかなければならない」

〇結局、この人は医者としての前途洋洋の地位を投げ打って、医療システム改革への小さな一歩を踏み出したのだそうです。上は厚生労働省から、下は全国15万人だったかの開業医まで、日本の医療システムは巨大な既得権益の巣窟です。自己改革とは無縁な状態でありましょう。それを変えようと思ったら、結局、地道な啓発活動を通じて、少しずつ世論を動かしていくほかはありません。

〇下記はそういった関係者によるブログです。かんべえは医療にはまったくの門外漢ですが、「こういう人たちがいる」ことを少しでもお伝えできればと思った次第です。

●MRIC http://mric.tanaka.md/ 


<8月31日>(木)

〇明日は安倍官房長官が正式な出馬表明をし、政権構想を打ち出す予定。ディープインパクトじゃありませんが、単勝1.1倍の本命馬でありますから、その中身に関心が集まるのは当然でしょう。が、かなりフライング気味に、霞ヶ関界隈では「日本版CIA」や「日本版NSC」の構想が話題になり、「その節には、新設のXX補佐官には是非、当省のOBのXXX氏を!」なーんて工作が始まっているみたいです。生臭いね。

〇来月の日程を以下に記しておきましょう。波乱に満ちた1ヶ月になりそうな予感。(総裁選関連データは、「自由民主」9月5日号を参照しました)

9月 1日(金) 安倍官房長官の出馬表明

9月 4日(月) ホリえもん公判始まる

9月 6日(木) 紀子さまご出産?

9月 8日(金) 告示日・候補者届出/候補者記者会見

9月 9日(土) 所見発表演説会

9月 9日(土) 北朝鮮建国記念日(核実験の可能性?)

9月11日(月) 日本記者クラブ主催公開討論会

9月11日(月) 米同時多発テロ事件5周年

9月14日(木) 党青年局主催公開討論会

9月15日(金) 新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)主催公開討論会

9月17日(日) 日朝平壌宣言から4年

9月19日(火) 党員投票の日(郵便投票の締切日)

9月19〜20日 IMF世銀年次総会(シンガポール)

9月20日(水) 議員投票の投・開票日/党員投票の開票日
         党大会に代わる両院議員総会

9月24日(日) ラマダン始まる

9月25日(月) 民主党代表選挙

9月27日頃? 臨時国会召集→首班指名→組閣

9月30日(土) 小泉自民党総裁の任期切れ


〇9月の日程表を作っているうちにブルーな気分になってしまった。あーあ、夏休みももう終わりだね。







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by Tatsuhiko Yoshizaki