●かんべえの不規則発言



2002年9月






<9月1日>(日)

○夏休み最後の一日。今日は意表をついて東京ディズニーランドに行って来ました。何年ぶりだろう。たしか1997年夏に、アナハイムのディズニーランドに行った。それ以後はTDLには行ってないと思う。つまり最低でも5年以上のご無沙汰。毎日通勤コースで舞浜駅を通過しているけど、ディズニーシーもイクスピアリも行ったことなし。そういえばお台場でも、観覧車には乗ったことがない。ワシは基本的にモノグサなのだ。

○9月のTDLはいちばん空いていると聞いたんですが、それでも人は多いし、まだまだ暑かったですな。自動販売機を置かない、というウォルト・ディズニー社の方針には敬意を表するものの、ジュース1本買うにも行列するというのはちとツライ。考えてみたら普段から、ワシは行列につくという機会がほとんどない。その昔、11月に訪ねたフロリダのディズニーワールドは死ぬほど空いていて、スターツアーズも待ち時間なしだった。今から思うと、なぜあれで経営が成り立つのか不思議。よほど採算分岐点が低いとしか思えない。

○TDLは年間を通じて、いつも満杯にしておくことで経営が成り立っている。おそらく採算分岐点が高いのだろう。そのために、行列を苦痛に感じさせないノウハウをいっぱい用意している。おそらくみんな、TDLで過ごす時間の半分は行列してるんじゃないだろうか。そもそも並ぶことを苦痛に感じない人が多いのかもしれない。

○最近は「行列ができるXX」という形容詞ができて、イコール成功している、という意味になっている。その昔、新入社員当時の上司に、「暇そうなヤツに仕事を頼んじゃいかん。いちばん忙しそうな人を見つけて頼め」と教わった。これはまことに有用な教えというべきで、実際に暇そうな社員や昼時に空いているメシ屋というのは、かならずネガティブな理由があるものなのだ。

(急に思い出したけど、何事にも例外はあるもので、南柏の駅前に「港」という洋食屋がある。たいがいのメニューは安くてうまいのだが、いつ行ってもほかに客がいたためしがない。15人も入れば満杯の店で、文字通り職人気質の親父さんが細々と一人でやっている。最近、すぐ近くで駅前の再開発が進んでいて、いまにも廃業しそうである。そうなると困るので、とくに名前を出して宣伝しておく。それにしても、なんで流行らないんだろう?)

○年がら年中、満杯になっているTDLというのは、やはり優秀なアミューズメント施設なのだと思う。なんだかんだいって、パレードを見ると高いパスポート代金の元を取ったような気になる。今日はトゥモローランドのテラスの出口に座って見てました。人もそんなに多くないし、ちょうど日陰になっていて、しかも背中から冷気が流れてくるので快適だった。穴場かもしれませんぞ。


<9月2日>(月)

○長野県知事選挙で田中康夫氏が当選。投票率が73.78%(前回比+4.21p)ということは、関心の高い選挙だったのでしょう。こう言っちゃなんですが、大勢の候補者が立ったわりには、不毛の選択だったような気がします。政党が候補者を立てない(立てられない)というのでは、事態は深刻ですね。以前、8月16日付の当欄でもちょっと触れたように、対立の軸は「脱ダム対開発」だけじゃなくて、「北信対南信」という軸だってあるわけで、あんまり図式的に「脱ダムが勝った」などと見るのは早計だという気がします。

○かんべえは保守派なので、政治にはある種のプロフェッショナリズムが必要だと思っています。県議会の長老たちは、今回の選挙結果にやけのやんぱちで、辞表を出すとか言ってます。しかし本当は、こういう人たちを巻き込まないと真の意味の改革は進まない。本気で「脱ダム」をやるつもりなら、推進派の人たちには当然、泣いてもらわなければならない。そういうときは、「どうしてもここだけは譲れない」という一点だけを残して、彼らの顔を立てないと話は進まない。道路公団でも郵政改革でも、この辺の理屈は全部同じで、「あなたからすべて奪います」と言ってしまったら政治にはならない。

○しかし田中康夫氏という人は、県議会に対して多数派工作をするよりは、孤立した状態で少数意見を世に問う方が性にあっているように見える。向こう4年間も、あんまり建設的なことにはならないんじゃないかなぁ。まあ、当方は長野県人じゃないからいいですけど。ところで田中氏は、なぜいつも皇室関係者のように丁寧なしゃべり方をするんでしょうね。

○先日、某社の取材陣から「田中康夫氏をどう思うか」という問い合わせのメールを頂戴しました。適当にお答えしたんですが、あとで「なぜワシんところに来たんだろう?」と考えているうちに、突然、ひらめいてしまった。googleで「田中康夫+如水会」というキーワードで検索したところ、この不規則発言の2000年10月16日付けにあるコメントが先頭に来たのである。うーむ、最近はマスコミも、取材にはネットを使っているのだな。油断も隙も無いな。


<9月3日>(火)

○今夜は定例の勉強会PACで、ワシントンから来ているこの人をお招きして、最近の国際金融情勢について話してもらいました。久しぶりに勉強したなあ、という感じ。実もふたもない言い方で今日の結論をまとめると、「ブッシュ政権の経済政策はhands-off」、つまり経済に介入する気はないし、そもそも大きな問題が起きるはずがない、と思っているということになります。クリントン時代とは対照的な価値観で仕事をしているわけで、そういうふうに割り切ってしまうと、「ワシントンの意向」を考えること自体があほらしくなってしまいます。が、おそらくそれが現実でしょう。

○明日からニューヨークに出発する角谷浩一氏が、面白いことを言ってました。小泉訪朝が決まって内閣の支持率が上がった。他方、民主党はこのところ、代表選挙以外は何もしていないので、有権者の視界からはほとんど消えてしまっている。そこで10月に国会を召集して冒頭解散に打って出れば、おそらくは壊滅的な打撃を受ける。その場合、大義名分は「有事法制」で良かろう。自民党は小泉人気でそこそこ取れるし、うまくいけば民主党の保守派が合流してくるかもしれない。それこそ公明党との連立を解消できるかも。

○このシナリオが優れている点は、完全な首相のリーダーシップの下に行う解散になるということ。これで政権基盤が固まれば、小泉首相はもう誰にも何も言わせない、という態勢ができるだろう。目下のところ、「次の選挙は2004年に衆参同時で」というのがコンセンサスだけど、どうせなら変人ついでに意表を突いてみたら面白いかも。訪朝というワイルドカードを使ったことで、政界は急に活気付いたのかもしれません。


<9月4日>(水)

○かんべえは読み間違えていたようです。小泉首相の訪朝は、米国にとっては寝耳に水の決断、変人首相の面目躍如なのかと思っていたら、さすがにそんなことはなくて、アーミテージもちゃんとブリーフィングを受けていました。ワシントン筋の情報によれば、8月初めから日米韓の間で周到に連絡が取られていた模様。少なくとも田中均アジア局長は、この1ヶ月間にワシントン、ソウル、ピョンヤンと飛びまわり、最後に首相官邸に飛び込んだのが8月28日の午後9時過ぎ。ここで訪朝の最終決定が行われたようです。

○その一方で、米国側は小泉首相が変な妥協をしてしまわないかと心配している様子。それは日本国民も同様です。幸いなことに、今回の訪朝は9月17日の日帰り出張。実質的な会談の時間はわずかに2時間。通訳の時間を抜けば、その半分の1時間に過ぎません。これは賢明な態度だと思います。過去の金丸訪朝団はどこで失敗したかといえば、とにかく長居をしてしまったこと。歓待を受けているうちに、「首脳同士、二人きりでお話しましょう」と言われて、そこで致命的な言質を残してしまうというパターンです。

○日米韓で周到な準備が行われていたことは、今後のスケジュールを見るだけでも分ります。誰が設計したのかは知りませんが、これは本当によく出来ている。日朝の国交正常化+南北朝鮮の和解ムードに、一気に流れができるかもしれない。

8月30日(金) 官邸が小泉首相の訪朝を発表。
9月6日(金) 小泉首相、野党党首と北朝鮮問題で会談
9月7日(土) 南北朝鮮サッカー親善試合(ソウル)
9月8日(日) 川口外相が訪中。日中外相会談(北京)
9月9日(月) 小泉首相が訪米
9月10日(火) 小泉首相がCFR(外交評議会)で講演
         よど号メンバー妻子6人が帰国
同        金剛山観光活性化南北朝鮮実務者会議
9月11日(水) 同時多発テロ1周年犠牲者追悼式典(ニューヨーク)
9月12日(木) 日米首脳会談
9月13日(金) 国連総会で小泉首相が一般演説
同       日米外相会談
同       南北朝鮮鉄道連結問題実務者協議(金剛山)
9月16日(月) 金剛山ダム共同調査実務者協議(金剛山)
9月17日(火) 日朝首脳会談(ピョンヤン)
9月18日(水) 金・韓国国会副議長らの議員団が訪朝
同       南北朝鮮鉄道・道路連結着工式
9月20日(金) 南北朝鮮友好公演(ピョンヤン)
9月21日(土) 第五回南北朝鮮離散家族再会(金剛山)
9月23日(月) 小泉首相がASEM首脳会合に出席(コペンハーゲン)
9月28日(土) 日中国交正常化30周年記念式典(北京)

○韓国政府が、この機会を捉えて南北の雪解けを演出しようとしているのが分かる。おそらく金大中政権としては、来年2月の任期切れを前に、少しでも南北融和を急いでおきたいのでしょう。

○こうなると気になるのは、訪朝を控えた小泉首相が9月10日のCFR、9月13日の国連総会でどんなメッセージを発するかです。その内容は、アーミテージたちと擦り合わせが済んでいるのでしょうが、たとえばイラクに対する軍事行動に対し、どんな見解を示すのか、注目したいと思います。


<9月5日>(木)

○株安、日朝首脳会談、イラク攻撃。そして間もなく「9・11」の1周年。こうなると毎日書くネタには困りません。溜池通信のアクセス数は、月曜日にドンと伸びて、火曜、水曜と少しずつ落ちて行くのが普通なんですが、今週は同じペースで続いています。今日は本誌を1日早く上げたので、ここは手短かに。

○明日は京都に出張です。仕事の準備は、新幹線の中でしましょうかね。


<9月6日>(金)

○雨が降って急に秋の気配の今日、久しぶりに新幹線に乗って京都へ日帰り出張。向こうも雨でした。

○京都駅前のキャンパスプラザというところで講演をしたんですが、主催者は「ベルト伝導技術懇話会企画委員会」。得てしてこういう企画は、年配の方が多く集まるものですが、本日はベルト業界(?)の若手社員たちに、学生さんも含めて80人程度の入り。かんべえが頂戴したお題は「日本の国際競争力を考える」なので、まあ、いつものような話を。やはり中国に関係する話は関心が高いですね。

○それ以外の講演のお題がすごいんです。「タイミングドライブシステム」「本田における二輪車用Vベルトの現状と課題」「はすば歯付きベルトの走行特性と強度に関する研究」「突起を有するローラを用いた紙搬送機構のすべり現象解析」。技術に疎い文系人間の当方としては、ほとんど目が点になるような世界です。もの作り大国ニッポンの現場というのは、おそろしいほどのノウハウを持っているものですね。

○ベルトというのは、いうまでもなく自動車や二輪車によく使われるゴム製の部品です。神戸のケミカルシューズが有名ですが、ゴム製品というのは関西が中心らしく、本日の会員各社も多くは関西の企業です。で、機械の回転を滑らかに伝えるためには、ギア、チェーン、ベルトという3種類の方法があるわけですが、何を使うのがベストかといえば、耐久性、騒音、フリクションなどいろんな項目があって、簡単には甲乙がつけられない。ただし、自動車業界ではベルトよりもチェーンが有望になっている、という報告があり、これは業界にとっては重要な問題となるらしい。

○とはいえ、あまりにチンプンカンプンな世界なので、ちょうど訪ねてきてくれた山根君と合流し、久しぶりにお茶しながら今週号の溜池通信の話などに花を咲かせる。山根君、さっそくケーガン論文をプリントアウトして読んでいたのはご立派である。アメリカのネオコンの思考法は、われわれの理解を絶するようなところがあるけれど、これが当面は米国外交を支配することになりそうだ。

○ちなみに帰りの新幹線で読んだForeign Affairsの最新号は、「9・11一周年特集」をやっていて、ブッシュ政権の外交政策をボロクソに批判している。マンデルバウム教授のエッセイ、"The inadequacy of American Power"では、こんな辛らつなことを言っている。「150年前のネーサン・ロスチャイルドは、世界最大の金持ちであったにもかかわらず、20世紀であればどんな貧乏人でも死ななくて済むような病気で死んだ。抗生物質がなかったからだ。それと同様に、米国が有する巨大な軍事力や経済力は、米国自身を守ることができないだろう」。

○講演会終了後、ベルト業界の皆さんと懇親会。話していて、日本の製造業の現場というのは、やっぱりすごい世界なのだなあと再認識しました。でもそれなのに今日の株価は日経平均が一時9000円割れ。どうなってるのよ、本当に。


<9月7日>(土)

○『北の国から』が今日で終わるそうだ。21年目だとのこと。その21年前、かんべえは大学生で、『北の国から』を熱心に見てました。だいたいがあんまりテレビを見ない人間なんですが、倉本聰と山田太一以外のドラマはほとんど見たことがない。というか、見るに値しないというか。

○『北の国から』を初めて見たときの感動をよく覚えています。なんということはない短いシーンなんですが、北海道の青年団で数人の脇役が会話しているところ。これがビックリした。脚本を書いたことのある人なら分かると思うが(って、そんなに大勢いるわけないと思うけど)、大勢の人間が一度に話をするシーンを書くのはとっても難しいのだ。それが『北の国から』の青年団のシーンでは、登場人物がそれぞれの個性に沿って短い言葉を発し、自然な流れで物語の背景を説明していた。「うーん、どうしたらこんな上手に書けるんだろう」と、当時演劇部で脚本を書いていたかんべえは非常に感心した。

○普通の脚本家は、ひとつのシーンに大勢の登場人物を出したりしない。なにしろ全員の動きを考え、全員の心理状況を想定し、会話をバランスよく割り振らなきゃならない。気が遠くなるような作業である。だから、なるべく会話は一対一の形にしておいた方が、書くのは楽なのだ。もっとも食事のシーンだけは別だ。あれは全員が座った状態でよくて、話してない人間はご飯を食べてりゃいい。だからテレビドラマは食事のシーンが多くなる。

○これは舞台でも同様。うっかり大勢を舞台に上げちゃうと、会話に絡まない役者から「おい、俺はこのシーンで何をしてりゃいいんだ?」と聞かれて困るのである。まさか、「ゴメン、考えていなかった」とは言えないからなあ。ギリシャ悲劇を読んでいても、大勢の人物が同時に話をするシーンはほとんどない。これはひとつには登場人物が少ないからでもある。ところがシェークスピアになると、彼は座付き脚本家であったために、やたらと無用な登場人物を作るのである。しかしそこは大作家で、舞台の上に大勢の人間を出しておいて、なおかつ自然な会話を成立させることができた。こんなことは、誰でも真似ができるものではない。

○というわけで、倉本聰作品は勉強だと思って見ていた。『北の国から』は、自分にとっては昔懐かしい教材のようなものである。そのうち大学を卒業してからは、面白いドラマを見るとなんか悔しくなるので、それもなくなった。まして、思いつきやマーケティングで勝負するような最近のドラマなぞは見る気になれぬ。そんな状態が長年続いたので、今宵の最終回も見ないと思う。ちょっと引かれるけど、ほかに予定もあるもので。

○倉本聰のインタビュー記事をどこかで見かけた。「脚本を書くときは、何をいちばん気にしていますか?」という問いに対し、「語尾です」と答えいた。その瞬間、純くんのナレーションが思い浮かび、ああ、とっても彼らしいなあ、と思いつつ、後から「あ、俺もそうか」と気づいた。「かんべえの不規則発言」を書くときって、そうなんですよ。文章は語尾が命。


<9月8日>(日)

○夏の終わりに、いくつか済ませておきたいことがある。たとえば、まだ見てなかったのだ。STAR WARS『エピソード2 クローンの攻撃』を。ということで、柏市の映画館へ。1日2回だけの上映にもかかわらず、客の入りは少ない。なるほど、もう夏は終わっちゃったのね。

○今回の『クローンの攻撃』は、映画としては目を覆わんばかりのヒドイ出来ですが、まあ、そのことは皆知っていると思うので、今さらいいっこなしとしておきましょう。ちょっと面白いなと思うのは、このシリーズがアメリカの歴史に沿って作られているということ。前回のエピソード1が、通商問題を発端としてはじまっているのを見て、なるほどお国の歴史もそうだからなあ、と思っていたんですが、今回はいわば南北戦争です。つまり共和国からの脱退が相次いで、分離のためにドロイドの軍隊を組織する。統一を守りたい側はクローンの軍隊でこれに対抗する。

○劇中では、Republicから脱退する側がConfederationと呼ばれている。南北戦争では、合衆国からの離脱を目指す南部諸州がFederationを名乗っていたことと符合する。ちなみに今日の共和党 Republicanとは、合衆国の統一を重視するリンカーンたちがこのときに作った政党である。南北戦争は、奴隷制度をめぐっての戦いということになっているけれど、当時のリンカーンがいちばん気にしていたのは、建国からまだ1世紀もたっていない合衆国の分裂を避けることであった。リンカーンは南北分裂を阻止し、合衆国のアイデンティティは「人民の人民による人民のための政治を、地上から絶滅させないこと」にあると定義した。そこが偉い。奴隷解放だけではないのである。

○南北戦争を切り抜けたおかげで、合衆国は国土の広い国にありがちな分離独立運動の脅威を克服した。以後、"United, we stand."が国是として定着する。アメリカ人はそのことを忘れていて、ロシアや中国における同様な脅威については無頓着である。以上、無用のことながら余話として。

○たしかこのHPを最初に作ったのが、『エピソード1』を見た頃だった。あれからもう3年になる。もっといえば、最初の作品"Episode4 : A New Hope"が1977年なので、こりゃもう『北の国から』よりも古い。このシリーズとも長いお付き合いですなあ。映画としての出来が悪くても、お付き合いしちゃうのも無理はない。


<9月9日>(月)

○さすがに気になってきました。「あの日からちょうど1年」。溜池通信や不規則発言の1年前の記事を読み返してみると、当時の緊張感がよみがえってくるような気がします。

○なかでも記憶に残っているのは、The Economist誌が事件から間もない9月15日発行号で、"The day the world changed."と題するカバーストーリーを掲げたことです。「9・11」は世界を変えた、と真っ先に唱えたのがこの記事。事件から中3日ほどでまとめあげたわけで、さすがThe Economist誌、と思わせるような内容でした。(この号に要旨が載っています)。

○それから1年。今週号のThe Economist誌は"Remember"と題する記事を掲載しています。あれから1年、本当に世の中は変わったのでしょうか。以下は例によって抄訳です。

「忘れちゃいけない」

悲しい思い出だ。乗客を乗せた4機の旅客機が朝に飛び立ち、ハイジャックされた。3機がワールドトレードセンターに、1機がペンタゴンに突入し、いろんな国籍の罪無き民間人が数千人も死んだ。そして2001年9月11日8時48分以前と、その日の終わりでは世の中は変わっていた。

それから1年、多くのことが良い方に変わった。ビンラディンとアルカイダが脅かそうとした米国は、めざましい決断を見せた。アフガニスタンにおける辛抱強く断固たる軍事行動、そしてイラクに対する脅しは、弱さゆえの侮りではなく強さゆえの恐怖を与えた。アフガンはタリバンの手から解放され、アルカイダの基地や軍隊は破壊され、新しい政府が選ばれた。驚くほど広範な同盟が米国を支援し、中にはロシアと中国という仇敵も含まれていた。

起こらなかったことにも重要な成果がある。米国は敵意に満ちた世界から逃げなかった。グローバル化の流れは止まらなかった。そして何よりビンラディンたちが望んだように、事件がイスラム世界を動かすことはなかった。パキスタンでもサウジでもエジプト、パレスチナやインドネシア、さらにアフガンでさえ、反米運動は数千の域を越えなかった。そして9月11日以降、テロリストが大きな成果を挙げることはなかった。

だからこそ記憶が重要になる。この1年、重要な点で世界は変わらなかった。「9・11」の惨劇を実行したような過激派は、2度繰り返すことができなかった。去年の攻撃は、一握りの人間がわずかな資金で、ローテクで実行した。それを食いとめる警察や諜報の能力は、米国でも他の地域でも向上したとはいえ、安全になったというには程遠い。リスクは小さいと信ずる者は、去年の9月10日に戻って考えるが良い。そして教育を受けた19人に、みずからと数千人の民間人を殺すように仕向けた悲しみが消え去ったかどうか、自問するといい。

昨年の殺戮者たちについて、いくつか確かなことがある。アラブ社会にはいくらでもイスラム過激派がいるということ。そして技術の進歩により、彼らが非道の行為を計画したり、凶悪な兵器を手に入れることは容易になっていること。さらに重要なのは、反米感情はさまざまな理由で正当化されてしまうということだ。たとえば、サウジの聖地における基地、イラクへの制裁と飛行禁止区域、中東での流血、米国のイスラエル支援、米国が支持しているエジプトやサウジでの抑圧的な体制などである。

この1年の最大の変化は米国と中央アジアにあった。次の1年の焦点は、イラクの「体制転換」を皮切りにアラブ世界に変化が来るかどうか。あるいはサダム・フセインを攻撃することは不要なリスクであり、地域全体を不安定にするかどうか。はたまた9・11とフセインの大量破壊兵器には相互に関連があるかどうかなどだろう。

ここ数ヶ月でこの論争には火がついたが、バラバラな状態だ。9月11日以後に米国やブッシュ大統領が示してきた忍耐強い決意という美徳は、この問題では悪徳に転じている。米国がイラクや国連に対し、何をするかという明確な決断をしないでいると、混乱や、政権内の分裂や米国と同盟国の不和といった噂が流れるばかりだ。

ここへ来てようやく、統一のとれた決断を下す作業が始まっている。英ブレア首相はキャンプデービットに飛び、ブッシュ大統領とイラク問題を協議する。ブッシュは他の常任理事国である仏、中、ロの首脳とも電話会談すると言っている。そして9月12日には、国連総会で演説する。計画を説明し、主張を伝え、証拠を示すのには絶好の機会である。

説得や議論はサダム・フセインに関するものとなろう。国際合意の侵犯、大量破壊兵器の開発、それを自国民や近隣国に対して使おうとする意図、領土的野心などを見れば、イラクの独裁者は取り除くべき危険な男である。そして説得や議論に際しては、9月11日の記憶をしっかりと心にとどめておく必要がある。あの日の出来事は、恥知らずで残虐な人間に何が出来るかを教えてくれる。そして同時に、アラブ世界の現状がいかに危険であるかも教えてくれる。

現状はいろんな方法で変えなければならない。イラクについて言えば、制裁による封じ込めと湾岸の基地からの爆撃という現在の方策は持続不可能である。イスラエルとパレスチナについて言えば、双方が安全に暮らせるような環境作りが欠かせない。アラブ諸国については、彼らの国の経済や社会の諸問題で、非難されるべきは他の勢力のせいではなく、個々の国の体制にあるとされるべきだろう。

来るべき数ヶ月、イラクに対する戦争はアラブ世界の安定を脅かすかどうか、という議論が注目を集めるだろう。しかしほかならぬ彼らの不毛さこそがアルカイダを生み出し、9月11日を生み出したのだ。それを忘れてはならない。

○アラブ世界に対しては、かなり厳しい筆致になっている。イラク攻撃については、これから先の2ヶ月くらいが正念場ですね。

○今週号には、「欧州はイラクについて妥協すべし」というコラムも掲載されていて、この中で例のケーガン論文が紹介されています。「欧州はもはや米国にとって用なし」と喝破しちゃったわけですから、やはり欧州知識人が受けたショックは大きかったようです。


<9月10日>(火)

○昨日の続き。"The Economist"誌の欧州に対する辛辣なコラム、Charlemagne"Fear of America, and of being left out"(アメリカ怖い、取り残されるのも怖い)の最後の部分を紹介しておきます。

アメリカ人が欧州人の賢明な相談を相手にせず、国連の拘束も無視するとしたらどうなるか。ワシントンには、「欧州人は愚痴はいっぱい言うけれども、既成事実として突き付けられたら、最後はかならず付いてくる」という見方がある。この手の固定概念にはありがちなことに、真実の一端を言い当てている。たとえアメリカが国連の支援なしにイラクを攻撃したとしても、欧州はその後を追いかけるかもしれない。英国はいつもその場にいる。スペインのアスナールやイタリアのベルルスコーニは右派だから、本能的に親米である。ドイツのシュローダー政権は盛大にイラクへの軍事行動に留保を唱えているが、ドイツは選挙戦の最中にあり、新政権のもとでは路線変更もありうる。フランスでさえ、あるEU高官いわく、「世界唯一の超大国とともに戦うことには抗しがたい」だろうという。

速やかな勝利が助けになるだろう。「新たなベトナム」、世界の不安定化、民間人の犠牲、米国が力に依存することなどへの懸念は、第一次湾岸戦争、コソボ紛争、アフガン攻撃などの前には毎度のように表明され、そのたびにひとつのことによって解消されてきた。今度も米軍の圧倒的な力を見せつけられ、ついでにサダム体制の恐ろしさを暴いてくれれば、欧州人の対イラク戦への留保もたちどころに記憶の彼方に行ってしまうだろう。

それでは、もしうまく行かなかったら?まあ、そういうときには「だから言ったじゃないか」と言う満足があるじゃないか。

○というわけですから、欧州人の言葉は額面通りに受けとめてはいけませんぞ。たしかにイラク攻撃ハンターイ、と言い続けて、そのまま米軍の軍事行動が勝利に終わってしまえば、その後の中東に対する欧州の発言力は皆無になるでしょう。それはそれで、彼らには我慢の出来ないことなので、やっぱり最後の瞬間には折れてくる公算が高いと思う。

○つまるところ、「9・11で世界は変わった」と思っているのはアメリカ人だけで、それ以外の人たちは「9・11でアメリカは変わった」と思っている。この認識の差によって、世界はギクシャクしているわけだ。この溝が埋まるには、アメリカ人が心理的なショックから立ち直ることが必要なわけで、それにはちょっとした時間がかかるだろう。なにしろ真珠湾のショックでさえ、半世紀くらいたってようやく薄れてきたところである。この1年間のアメリカは、「国土保安省」なんちゅうものを作ったり、「先制攻撃もあり」などと口走るようになった。そういう超大国と、われわれは付き合って行かねばならない。当分の間はね。

○てなわけで、明日のブルームバーグ、午前11時18分頃に出演して、「9・11から1年後のアメリカ」みたいな話をする予定です。よかったら見てちょうだい。



<9月11日>(水)

○この1年、アメリカがいちばん変わったのはどこだろう? と考えてみると、やはり「先制攻撃も可」という戦略思想の変化ではないかと思います。これはもう、驚天動地のパラダイム転換です。

○アメリカの西部劇を思い出していただきたい。インディアンなり無法者なりは、いつも外からやってきて主人公たちを窮地に落とし入れる。最後は騎兵隊なり、さすらいの用心棒なりが現れて危機を救ってくれるのだけど、それはギリギリのタイミングになる。「騎兵隊は遅れて到着する」というのは、「黄門様は8時45分にならないと印籠を出さない」(「ここはしばらく、様子を見ましょう」などと言って、問題の先送りをして被害を拡大する)のと似たようなドラマの鉄則です。逆に、インディアンが立て篭もる山を騎兵隊が攻撃する、なんちゅう西部劇は、あんまり見た覚えがない。

○つまり「やられたから、やりかえす」のがアメリカ人が好む物語で、やられなかったらそもそも武器を取る必要もない。「桃太郎の鬼退治」みたいな発想はテンからないのである。実際、初代ワシントン大統領は、辞めるときに「アメリカ人は外国に鬼退治に行っちゃいけない」という言葉を残し、ある時期まではこの遺言が孤立主義の理論的支柱となっていた。アメリカ外交がこのタブーを完全に乗り越えるのは、1941年の真珠湾攻撃からです。外敵の侵略を受けるという痛い経験をして、もう外国に無関心ではいられない、となった。

○2001年9月11日の体験は、これをもう一歩進めてしまったのかもしれない。つまり「やられるまえに、やれ」だ。イラク攻撃がどうのこうのという議論をしているときに、「俺たちは核攻撃を受けるかもしれないんだゾ」と言われてしまえば、こちらはそれ以上強くは言えない。イラクが狙うとしたら、それは日本や欧州ではなく、アメリカであるはずだからだ。

○しかし世界最強の軍事大国が、「先制攻撃も可」という戦略思想で行動するとしたら、これはかなり怖い世界になる。毎年春に発表される国務省の「テロ支援国家リスト」のご指名を受けたりしたら、それだけで息も絶え絶えてなことになりかねない。日本なんぞ、同盟国になってて良かったね、てなものだ。おそらく「間もなくイラク攻撃開始、日ならずしてアメリカの圧倒的勝利」、というシナリオの可能性は50%くらいはあるだろう。そうなったときの世界はどうなるか、てなことをそろそろ考えておいた方がいい。

○と、ここで全然関係のない話なんだけど、今夜の金融関係者の会合で馬鹿受けだったクイズをご紹介しておこう。

「次のうち、日本銀行が買い入れることができる資産はどれか。@JGB、ANPL、BETF、CNTT」

○正解者には日本銀行券をプレゼント、なんて、そりゃ嘘だわな。ところで今日で40万ヒット、皆さんどうもありがとう。


<9月12日>(木)

○中国ビジネスと商社研究会、今日はもう7回目。今宵は「商社マン、中国市場でかく戦えり」みたいな話をたっぷりと聞く。いつものことですが、現場の話というのは面白い。こんなに苦労してるんだから、これで評価されないというのは変ですよ、てなことに。

○いつも通り常磐線で軽い睡眠を取り、柏駅に着くと同時に目覚めたら大雨。400円の傘(たぶん中国製)を買って徒歩10分のいつもの道を歩いたところ、傘が無意味なほどのずぶぬれに。恐ろしいことに、カバンの中の書類までぬれている。なんといいますか、すっかり秋ですね。

○季節はずれの話になっちゃいますが、柳澤金融担当相は毎年、暑中見舞いに俳句を書くんだそうです。今年の作品はこう。

夏富士や 馬酔木の群れも 隠し得ず

○なんだか含蓄がありそうでしょ? 静岡県選出の柳澤さんですから、富士山には特殊な思い入れがありそうです。夏富士は、雪に覆われる冬の富士山とは違い、ごつごつとした岩肌がどうしても見えてしまう。「あの人は遠くで見る分にはいいけど、親しくお付き合いするとちょっとねえ」という人のことを富士山と称したりしますが、夏富士にはそんな意味が込められているのでしょう。それを馬酔木の群れが覆っているわけだけど、さすがに富士山は大きいから、どうしても本当のところが見えてしまう。隠せども、隠せども、本当のところは見えてしまう。

○てな感慨を、今年の夏に金融担当大臣が抱いたというところに、この句が持つ面白さがあるわけです。この夏の株安に対しては、いろんな解説が試みられているわけですが、筆者がもっとも説得力を感じたのは、「銀行は来年3月までに7兆円分の株を売らなきゃならないんだって」という噂でした。これじゃあ、馬酔木の群れなんてどっかに行っちゃいますわね。

○ちなみに昨年の句はこんなだったそうです。

童女来て 静かなる日の 昼寝かな

○これもまた、辞意表明じゃないかなどといろんな詮索を招いたらしいのですが、内閣改造が近づいてくると、いろんなことが気になって来るというお手本のような話です。


<9月13日>(金)

○今日、岡本呻也氏から四酔人に宛てて送られたメール。

> 参照記事
>
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0911/goog.htm
>
> どうですかね、四酔人のサイトの中で、中国からアクセス規制がかかっているのは、誰のサイトか。
> 「かんべえさんのサイトにはアクセスできない」に10万アフガニー。

○そんなことを言われると気になるので、ログ解析をしてみた。以下は9月に入ってからのアクセスを国別に分類したデータです。

#

Hits

 

Files

 

KBytes

 

Country

1

24178

69.89%

15908

69.00%

243998

64.16%

Japan

2

4986

14.41%

3414

14.81%

61160

16.08%

Unresolved/Unknown

3

2392

6.91%

1527

6.62%

37192

9.78%

US Commercial

4

2298

6.64%

1706

7.40%

31136

8.19%

Network

5

169

0.49%

87

0.38%

1114

0.29%

Singapore

6

152

0.44%

115

0.50%

1361

0.36%

Indonesia

7

150

0.43%

137

0.59%

1885

0.50%

US Educational

8

67

0.19%

21

0.09%

181

0.05%

Non-Profit Organization

9

50

0.14%

32

0.14%

507

0.13%

United Kingdom

10

41

0.12%

25

0.11%

353

0.09%

Malaysia

11

28

0.08%

23

0.10%

216

0.06%

Thailand

12

24

0.07%

21

0.09%

331

0.09%

Old style Arpanet (arpa)

13

18

0.05%

11

0.05%

264

0.07%

Australia

14

13

0.04%

9

0.04%

123

0.03%

International (int)

15

10

0.03%

7

0.03%

174

0.05%

United States

16

3

0.01%

3

0.01%

29

0.01%

Austria

17

3

0.01%

3

0.01%

31

0.01%

Norway

18

3

0.01%

2

0.01%

15

0.00%

Taiwan

19

1

0.00%

1

0.00%

45

0.01%

Germany

20

1

0.00%

0

0.00%

0

0.00%

Denmark

21

1

0.00%

0

0.00%

0

0.00%

France

22

1

0.00%

0

0.00%

53

0.01%

Italy

23

1

0.00%

1

0.00%

47

0.01%

Mexico

24

1

0.00%

0

0.00%

0

0.00%

Netherlands

25

1

0.00%

1

0.00%

53

0.01%

Poland


○結構、いろんな国の人が見ていてくれるんだけど、案の定、中国からのアクセスがない。ううむ、溜池通信は中国政府にとって危険なサイトなのであろうか。「かんべえは先月の出張で親台派になってしまった」という説もあるのだけれど、別に反中派のつもりはないんだけどなあ。ちなみに伊藤師匠は、「俺のは上海や大連にも読者がいるぜ」とのこと。

○もっとも、第2位の"unknown"という項目もあるので、ちゃんと中国で読んでくれている読者もいるかもしれない。そこでお願いです。中国国内でこのHPをご覧いただいている方は、ひとこと「見てるよ」とお知らせください。よろしくお願いします。


<9月14日>(土)

○配偶者も長女Kも出かけてしまい、次女Tと留守番の週末。のんびりと『となりのトトロ』のビデオを見る。1988年製作の宮崎アニメの原点。いいですなあ、こういうドラマは。

○今にも崩れそうな天気が、午後になっても崩れない。ということで電車に乗って定番、中山競馬場へ。今日は大きなレースもないので、子供用の公園も人影まばらである。これなら迷子になる心配もないので気楽である。

○4レース勝負したんですが、こういうめずらしいこともあるもんですな。

新潟10レース「姫川特別」 Kシャイニンググラス―Fカゼニフカレテ
札幌11レース「サロマ湖特別」 Eトムパレード―Kビッグスマッシュ
阪神11レース「大阪スポーツ杯」 Kメイショウラムセス―Fイチロースワン
新潟11レース「ながつきステークス」 Kマルタカサイレンス―Bフウモンジョー

○この日は12番がラッキーナンバーだったようだ。別にケントク買いしてたわけではないのだが、単勝ばかりで4レース中3レースが的中。こんなに当たったことは自分でも記憶にない。もっとも各レース1000円ずつしか買ってないし、配当も小さいのでさほど浮いたわけではない。

○この三連休、原稿やら何やら抱えている仕事はあるけど、今日は何もせず。ま、たまにはいいじゃないの。


<9月15日>(日)

○こんな本が出ています。まだ読んでないんだけれど、ちょっと宣伝まで。

時は流れて (上・下) 劉 徳有
日中関係秘史五十年
王雅丹訳

藤原書店 定価:各3800円+税

○劉徳有さんというのは、かつて毛沢東や周恩来の通訳をしていた人である。1964年に新華社通信の記者として来日し、その後は本国が文革になって帰るに帰れず、とうとう15年も日本に滞在。その後は中国の文化部次官となり、日中文化交流に献身。生涯を通じ、通訳、記者、政府高官として、日中関係に携わってきた。戦後の日中関係の生き証人、と呼んでなんらさしつかえない人物である。ちなみに2000年には日本政府から勲二等旭日重光章を授章している。

○劉徳有氏は現在、来日中である。上記の本を日本で出版するために骨を折った人がいて、歓迎会をやるからお前も来い、と言ってくださるものだから、のこのこと行ってまいりました。(ということなので、私のことを反中派と呼ぶ者がいたら、罰が当たりますぞ。ましてアクセス制限など、もってのほかである。中国人留学生の本誌愛読者もおられようなので、再度強調しておこう)。

○相当に高齢の方であろうと想像していたら、背が高い、髪の黒々としたダンディな人物が目の前に登場し、流暢な日本語でご挨拶されるものだから驚きました。経歴を見たら、1931年大連生まれとある。御年71歳。

○今は亡き小川彰さんが、「国と国との関係は、双方にちゃんとした人が150人ずついれば、何があっても大丈夫だ」という意味のことを言っていた。これがたとえば日米関係であれば、おそらく150人以上の「ちゃんとした人」が政・官・財・学・マスコミ・その他に行き渡っているので、そこそこ心強い陣容になっていると思う。ところが日中関係となると、この劉徳有さんのような世代がどんどん高齢化して、若い世代の「中国通」や「日本通」が育ってないような気がする。

○経済界においても、古くから中国ビジネスをやっている人たちが「日本企業のプレゼンスが落ちた」と嘆くことが多い。最近は、古い時代を知らないアメリカ企業がやってきて、仕事をバンバン決めて行くのでついていけない、てな声も聞いた。月並みですが、人作りは大事だなあ、てなことを感じて帰ってきました。


<9月16〜17日>(月〜火)

○やれやれ、初めてPCを再インストールすることになりました。といいつつ、仕事はほとんどテクニカル・アドバイザー(またの名を配偶者)に任せきりでしたが。(このアウトソーシングはおそらく高くつくでしょう)。それにしても、ウィンドウズというのは何と不可思議なシロモノでしょうか。頭痛いっす。

○今日の歴史的な日朝会談については、また明日にでもあらためて書きたいと思います。


<9月18日>(水)

○昨日の午前、「日朝首脳会談が始まる」というニュースを聞いて、「おや?」と感じました。というのは、おそらくこんな具合になるんじゃないかと思っていたからです。@空港に到着すると、「会談場所が変更になった」と伝えられる。A小泉さん、クルマで遠くまで連れて行かれる。Bいい加減疲れたところで「今日は中止」と伝えられ、そのまま宿泊することに。C深夜、独身の小泉さんに忍び寄る「魔の手」。D翌日、意表を突いた形で金正日総書記登場。・・・・とまあ、何でもいいんですが、この手の小技を得意としているわけです。先方さんは。

○金大中には一晩「待った」をくらわせ、翌日になると金正日がみずから空港に出迎えして、一気に手玉に取った。金丸信は7万人のマスゲームで「熱烈歓迎、金丸信先生」とやらかして度肝を抜き、「では首脳同士、差しで話しましょう」と言って別室に連れ込んだ。そこで思わず、「南北分断へのおわび」なんてことまで言わせてしまった。あのオルブライト国務長官でさえ、一時は丸め込まれそうになった。その手のノウハウは非常に豊富なのである。

○ところが小泉純一郎という来客に対しては、きわめてストレートな対応だった。この手の小細工を放棄してきた時点で、向こうがいかにこの会談に賭けていたかが分かろうというもの。そもそも9月17日の日朝首脳会談において、時間は日本側の味方だった。小泉首相は気に入らなかったら出直しがきいた。金正日にはそれができない。変人首相が「じゃあ帰る」と言い出したら、北朝鮮は最後の蜘蛛の糸が切れてしまうのだ。蜘蛛の糸は2つの場所につながっている。ひとつは安全保障で、「悪の枢軸」と自分を非難しているアメリカとの間をとりなしてくれそうな国はほかにない。もうひとつは経済で、これからの経済改革に必要な金を、出してくれそうな相手がほかにない。

○おそらく中ロ首脳から、いろんな圧力があったのだろう。8月下旬には、以下のように日米中ロのいろんな人の動きが交錯している。

・金正日が極東でプーチンと会談。
・日朝局長会談。
・ロシア首相が北京を訪問。
・ロシアの特使がピョンヤン入り。
・アーミテージ米国務副長官も訪中。その後、日本へ。

○北朝鮮に対しては、中国とロシアからこんなメッセージがあったのだと思う。「おたくとは半世紀前に、一緒に戦った仲だ。悪いようにはしたくない。だがブッシュに対しておたくを弁護したり、崩壊寸前の経済に援助の手を出すような金はない。気は進まないだろうが、“あの国”を動かすしかないだろう」。中ロに見離されたらもう後がない。それに“あの国”ならば、金を出す理由を持っている。これが客観情勢。

○追いつめられた状況で、金正日は合理的な行動に出た。耐えがたきを耐え、拉致事件を認め、謝罪したのである。これは彼自身にとって相当なリスクである。トップの謝罪は、全体主義国家にとっては国家システムの根幹にかかわる一大事である。誤りを認めたことで、金正日の無謬性は傷がついた。国内的な反発だってあるかもしれない。少なくとも、これで北朝鮮が米国務省のテロ支援国リストから外れる可能性はゼロになった。そして日本の世論の硬化。この最後の部分が曲者である。

○ほんの1ヶ月前まで、拉致問題はマスコミに取り上げられることも少なかった。積極的に否定する動きすらあった。肉親を奪われた家族の間でも、「騒ぎ立てると帰ってこれなくなるかもしれない」という恐怖から、むしろ沈黙する傾向さえあったという。それが「もう黙っていられない」となり、産経新聞などが取り上げるようになり、ようやくここまで来た、というのが正直なところだろう。この間の罪悪感も手伝ってか、メディアの取り上げ方は非常に同情的になっている。

○実際、怒るべきなのである。「8人死亡」というのは、普通に災害などで死んだわけじゃなくて、おそらくは証拠隠滅か何かで消されてしまったのじゃないだろうか。こんな国を相手に、国交正常化とか経済援助なんてとんでもない、というのが普通の感覚というものであろう。金正日の一世一代の大芝居だったが、それで思い通りになるかどうか。「日本の金を当てにした経済改革」に着手できるかどうかは、きわどいところだと思う。

○外務省には抗議の電話が殺到しているそうだ。しかし、小泉訪朝を批判するのは筋が違うと思う。「拙速な交渉だった」などというのは、リスクをとらない人が得意な結果論である。責められるべきは、これまでの対北朝鮮外交ではないか。金丸訪朝団から野中広務に至る親北朝鮮派の議員たち、党の見解として拉致を否定していた日本社会党、その昔、「北は地上の楽園」と報道した某大新聞、よど号乗っ取り犯たちをかばった識者たち・・・・などと、数え上げていくと、あまりにも数が多すぎる。こういうすねに傷を持った人たちにとっては、「訪朝、いかがなものか論」はまことに都合がいいでしょうな。

○日本全体が、今度の日朝首脳会談をどう評価していいか、分からずに困っているように見える。少なくともこんな風には言えるんじゃないか。小泉首相も、金正日総書記もリスクをとって会談した。筋書きのないドラマだった。これぞ外交である。欧米のメディアは、本件をあまり取り上げておらず、ちらっと見た範囲ではThe New York TimesとThe Economistくらいである。いずれも、「あの北朝鮮が謝罪した」ことと、「あの日本がめずらしく強い態度に出た」ことに驚いているようだ。

○今度の会談は、日本が自分の意志で外交に臨んだめずらしいケースである。結果はほろ苦いものとなったが、小泉首相の賭けは吉と出た。勝負に出ることができたのは、北朝鮮が心底恐れるアメリカという後ろ盾があったからこそ。それでも日本が、アメリカの思惑とは別のところでこの冒険を決断し、やりぬいたことには意義があったはずである。素直にこう言いたいのである。「やるじゃないか」。


<9月19日>(木)

○今日はアクセスもメールも多かった。この現象は昨年の靖国神社論争以来ですね。以下、ご本人の了解は得ておりませんが、頂戴した中でぜひとも紹介したいコメントを並べてみます。

●拉致された人の多くが死亡しているにもかかわらず国交正常化交渉を再開したといって騒ぐ有様は、日露戦争で賠償金が取れずに日比谷公園で焼き討ちが起こった100年前を想起させます。(M氏)

○禿同。こちらが国交正常化と言ったから、先方は拉致を謝罪してリストを出してきた。そのリストが気に入らないから「国交正常化もなしだ」と言い出したら、これはジャンケン後出しというものです。たとえ先方が悪人と分かっても、こちらはあくまでも紳士であるべし。

●今回の訪朝に対する世論のバックアップは、官邸主導の政策決定の有効性を小泉にあらためて確信させたと思います。従って何か潮目の大きな変化があるのでは・・・・・。(H氏)

○昨日の日銀の決断と併せて考えると、いよいよ日本も大冒険時代の始まりではないか・・・・と私も思いたいのですが、問題は金融庁ですな。いったいどうするんだ、不良債権処理。

●笑ってしまったのはロシアの新聞の報道でした。かつてスターリンの死後と同じように金正日は金日成にすべてを押し付けたというのは、悪人なりの知恵があるのかなあと思いました。(山根君)

○全体主義国家の運営は難しいんですよ。トップは無謬性を求められますから。朝鮮総連などは今ごろ困っていると思いますよ。これで金正日が失脚したらどうするんでしょう。

●「欧米のメディアがあまり取り上げていない」とありましたが、ワシントンポストは今日の新聞で一面で取り上げています。記事もかなり長く、拉致家族のことも詳細に報道しています。

○失礼、慌てて読みました。でも昨日、CNNのサイトを見て記事がなかったのは、ちょいショックでした。The Economistはネット版に記事が出てました。内容は明日の本誌をご参照。

○さて、仮定の話ですが、そろそろこんなことも考えておいた方がいいでしょう。@アメリカがイラクを攻撃する。A完全勝利して、イラクに親米派民主政権を樹立。B慌てて隣のイランは民主化する。Cアメリカが「次は北朝鮮の番だ。お前も手伝え」と言い出す。さあ、日本はどうする?

○つまり、金正日の体制は守るべき価値があるかどうか、という問題です。あんな非人道的な政権はどうにでもなれ。日米韓で結束して、体制崩壊まで持っていくのが良い、という意見は確かにあるでしょう。私もまあ、金正日の体制が自壊してくれるのなら、それはそれで結構だとは思う。だがこれに軍事行動をかけるというのなら、日本は断固、反対すべきだと思っています。ブッシュ政権が聞いてくれるかどうかはさておき、韓国と協力して「北朝鮮を攻撃しちゃ駄目です」と訴えるべきでしょう。少なくとも沖縄の米軍基地から、戦闘機が北に向かって飛んでいくのを傍観したり、協力してはいかんと思うのです。

○理由は簡単で、これ以上、朝鮮半島との怨嗟の歴史を続けてはいけない。それだけです。20世紀、日本は韓国を併合しました。植民地支配は良いことではなかったが、それでも彼らと戦争をしたわけではない。中国よりはマシなんです。これで21世紀に、日本が朝鮮半島で戦争をしたらどうなるか。この恨みは千年は消えないでしょう。逆に言えば、この可能性を上手に未然に消していくことが、これからの日本外交の課題になる。将来、日本はブッシュに対してノーと言える足場を作らなければならない。

○朝鮮半島の問題は、日米中ロによる「2+4」でソフトランディングを図る、というのが望ましい。今回の小泉訪朝は、日本が「2+4」のプレイヤーとしての資格を持つことを十分に裏付けるものでした。日朝首脳会談で挙げた外交上の得点は、大事に育てていく必要があると思います。


<9月20日>(金)

○本誌でたくさん書いたので、ここはもう簡単にひとことだけ。

○拉致された人の死亡日時を馬鹿正直にリストに入れてきたのは、たぶん正確なデータなんでしょう。同じ死亡日時の人を入れたらマズイと思わなかったんでしょうか。北朝鮮にありがちなボーンヘッドですね。末端が偉大な領袖の言葉通りに動くから、かの国ではよくこういうことが起きます。カリスマ経営者のいる企業みたいなもんですな。


<9月21日>(土)

○「お持ち帰り」の宿題をたくさん抱えた週末。でも今日のところはよく寝ました。

○今日も短く一言だけ。柏レイソル、よく勝ってくれた。長いこと勝ってないのは知ってたけど、5ヶ月ぶりとはあきれてモノもいえまへん。最近は惜しい引き分けもあったので、そろそろとは思っていたけど、相手が鹿島アントラーズとは上出来です。よかった、よかった。


<9月22日>(日)

○日曜朝の討論番組は日朝交渉の問題で一色ですが、ちょっと気になるのは内閣支持率の推移です。フジテレビの調査は、首都圏だけなので限界はあるはずですが、ずっと同じ質問を続けているので、時系列の変化を見るには適しています。ここのデータをちょっと加工してみました。

○まず小泉政権の支持率ですが、最新のデータではなんと7割近くまで回復している。8月30日の訪朝発表、9月17日の日朝首脳会談がてこになっていることが窺えます。それにしても小泉人気は、発足時の8割が今年の春には4割まで半減し、そこから復活してきたのだから奇跡的なリカバリーです。こんな例は過去にないでしょう。しかも支持と不支持の差に着目すると、わずか半年でマイナス15ポイントからプラス40ポイントまで回復したことになる。

○小泉政権を支持するか

 
       
 

支持

不支持

支持―不支持

9月22日

68.6

29.0

39.6

9月15日

63.2

34.0

29.2

9月8日

60.2

37.8

22.4

9月1日

52.4

45.4

7.0

8月25日

49.4

49.2

0.2

8月18日

46.8

50.8

-4.0

8月11日

45.0

51.8

-6.8

8月4日

47.8

50.0

-2.2

7月28日

46.6

48.2

-1.6

7月21日

53.2

43.4

9.8

7月14日

48.4

49.0

-0.6

6月30日

40.8

54.2

-13.4

6月23日

40.4

57.2

-16.8

6月16日

40.0

55.4

-15.4

6月9日

39.4

56.6

-17.2

6月2日

40.2

55.8

-15.6

5月26日

40.4

56.2

-15.8

○さて、次は政党の支持率です。これを見ると、自民党が2割前後、民主党が1割前後ということであまり大きな変化はない。ただし両者の差をカウントしてみると、8月までは1割以下の危険ゾーン(赤で示している)であった。これでは国民の信を問うなんて恐くてできない。それが9月に入ってやや差が開いた。民主党は代表選挙で国民の関心を集めるつもりだったようだが、これを見る限り成功しているとはいいがたい。

○次の衆議院選挙ではどの党の候補者に投票したいか

       
 

自民党

民主党

自民−民主

9月22日

22.0

10.6

11.4

9月15日

24.2

13.0

11.2

9月8日

21.0

12.6

8.4

9月1日

20.4

13.4

7.0

8月25日

22.8

11.4

11.4

8月18日

24.2

13.4

10.8

8月11日

16.8

12.4

4.4

8月4日

19.4

14.4

5.0

7月28日

15.8

10.6

5.2

7月21日

18.8

9.4

9.4

7月14日

16.8

12.6

4.2

6月30日

20.8

11.4

9.4

6月23日

18.2

11.6

6.6

6月16日

15.2

11.4

3.8

6月9日

19.0

15.6

3.4

6月2日

21.0

13.8

7.2

5月26日

17.6

14.8

2.8

○さて、ここがポイントです。「小泉支持者」から「自民党支持者」を引いたパーセンテージを計算してみました。これは「自民党は嫌いだけど、小泉政権は支持する」という無党派層の小泉支持者を意味します。なんと最新の調査では46.6%にもなっている。これは昨年春の状態の再現です。

○小泉支持者と自民党支持者のギャップ

   
 

小泉−自民

9月22日

46.6

9月15日

39.0

9月8日

39.2

9月1日

32.0

8月25日

26.6

8月18日

22.6

8月11日

28.2

8月4日

28.4

7月28日

30.8

7月21日

34.4

7月14日

31.6

6月30日

20.0

6月23日

22.2

6月16日

24.8

6月9日

20.4

6月2日

19.2

5月26日

22.8


○結論です。小泉首相にとっては今が解散総選挙の大チャンス。単に勝てるというだけでなく、自民党議員に恩を着せながら、勝つことができるのだ。しかも民主党代表選挙で若い陣容が出そろった後では、高齢の自民党議員に引導を渡すのが容易になる。その後の政局運営が非常に楽になる。来月の臨時国会で冒頭解散はいい手だと思います。私が参謀ならばこれを進言します。


<9月23日>(月)

○北朝鮮という飛び切りでかいシングルイッシューの陰で、「先制攻撃あり」の米国新戦略とか、おっとと大混戦のドイツ総選挙とか、好きにやっててよ民主党代表選挙とか、あらあら頑張ってたのね貴乃花とか、今週末はいろんなことがあるんですが、西武ライオンズが優勝してたんですね。4年ぶり14度目だとか。

○当の西武ライオンズは連敗中で、マジック対象相手のダイエーが引き分けたことで自動的に優勝が決まるという、あんまり盛り上がらないパターンでした。その翌日(22日)の試合はロッテ相手に勝って、伊原監督以下の選手たちがレフトスタンドのお客さんに優勝を報告した。そしたらライトスタンドのロッテファンからも、「伊原コール」が生じたんだそうです。パ・リーグらしくて、いい話だと思いました。詳しくはここを参照。

○相手チームを称える、という行為は、セ・リーグではちと考えにくい。少なくとも阪神ファンの筆者が、巨人の選手を称えた記憶はほとんどない。神宮でのヤクルトX阪神戦くらいであれば、少しは考えてもいいけど。アンチ巨人にはありがちなことに、野球を楽しむというよりはとにかく勝ち負けにこだわっているようなものなので、あまり誉められた話ではない。もっとも巨人ファンは、それに輪をかけて勝負にこだわるタイプが多いので、この両者がプロ野球を悪くしているのかもしれない。

○柏市近辺には西武関連のものが少ないので、数少ない西友ストアーに行ってみた。いちおうセールにはなってましたけど、閑散としてましたな。あらためて買うものもないので、千円少々使って退散。店内では西武の応援歌が流れてましたけど、やっぱり古い方(「地平を駈ける獅子を見た」=作詞/阿久悠、作曲/小林亜星、歌/松崎しげる)がいいですな。新しい方(吠えろライオンズ=作詞・作曲/石川優子)はピンときません。


<9月24日>(火)

○昨日、あんなことを書いたら、今日はとんでもないドラマが待っておりました。ヤクルトが早々と負けちゃったので、その時点で巨人の優勝が決定。当の巨人は阪神に2−1でリード。かんべえ、苦々しい思いでテレビを見ておりました。マウンド上は、にっくき巨人の中でも特に嫌いな河原。(以前、東京ドームで阪神打線が完全にひねられるのを見た記憶が拭い去れない)。「ふん、あんなチームなら、長嶋監督でさえなければ、誰でも優勝できるってことさぁね」と完全にぼやきモード。

○ところが9回裏。濱中偉い!ソロホームランで同点に。延長戦突入。巨人の選手は早いとこゲームなんて終わらせて、胴上げして、北新地あたりで祝杯をあげたいところだろう。ところが甲子園球場に詰めかけた阪神ファンはそれでは困るのである。目の前で原監督の胴上げなんぞ見せられてたまるか。せめてサヨナラ勝ちして、いや〜な気分で帰ってもらいたいのである。満場のファンの熱気が通じたか、延長戦は文字どおり総力戦の死闘になってしまう。かんべえ、「中国の流通開放問題について」というコメントを書きながら、ついついテレビに熱中。

○それにしても両軍は何のために死力を尽くしているのか。今日の試合は130分の1。負けても優勝の巨人は、せめて勝って胴上げをしたい。勝ってもAクラス入りは難しい阪神は、せめて気持ちのいい胴上げをさせたくない。両軍とも勝ちたい。とにかく負けたくない。そうでないと、大勢のお客さんの前で恥ずかしい。なにしろここは野球の聖地、甲子園。そして舞台は伝統の阪神巨人戦。

○ついに時計が午後11時を回り、試合は5時間を超えた。観客は少しも帰らない。そして12回裏に劇的な幕切れ。阪神サヨナラ勝ち。たちまち甲子園は六甲颪のあらし。でも、しぶ〜い顔して静かにベンチを去る星野監督。困った顔の巨人ナイン。本心では胴上げをしたいけど、なんだかきまりが悪い。そんな様子を見ながら、阪神ファンのボルテージはますます上がる。うーん、長年野球を見ているが、こんな変なシーンは初めて見たぞ。

○それでも胴上げは始まった。阪神ファンも「今日はこのくらいにしといてやるわ」といった心根か。伝統の巨人阪神戦に新たな1ページが加わった。2002年9月24日、甲子園球場のノーサイド。原監督も「阪神ファンにありがとう」と言っていた。いい試合を見ました。私も気持ちよく言わせてもらおう。おめでとう、原巨人。


<9月25日>(水)

○今朝、経団連で行われた日本エネルギー経済研究所の講演会に行ってきました。今月、大阪でOPEC総会と国際エネルギーフォーラムが開催され、国際石油情勢や中東問題の専門家が日本に集結しています。今日のシンポジウムはこの機会を捉えたもの。OPEC総会は、普通は本部があるウィーン、ないしは加盟国で行われるものですが、今年はエネルギーフォーラム(産油国・消費国対話会議)に併せて、大阪になったんですね。

○でもって下記は、英オックスフォード・エネルギー研究所のロバート・マブロウ所長の発言で、面白いと思った部分です。(筆者の見通しとピッタリ同じだったので、ついつい頭の中で「意訳」してしまったかもしれません。あしからず。)

●イラク攻撃は近いうちにかならず行われる。近いうち、というのは、1ヵ月か2ヵ月か3ヵ月か、あるいは来年のこと。行われない可能性もあるが、それはサダム・フセインがその前にクーデターか何かで追い払われる場合。とにかく「体制転換」(Change Regime)は行われる。フセインはアメリカにとってだけでなく、イラク国民にとって危険な独裁者だ。

●戦争はすぐに終わる。イラクは戦えない。問題は戦後に生じる。ラムズフェルドは「民主政権を作る」と言っているが、イラクの歴史に民主政治はない。民族も宗教もバラバラだ。フセイン政権が倒れたら、イラク共産党とイスラム原理主義とバース党とアラブ・ナショナリズムが入り乱れて大変なことになる。結局、新たな独裁者が出るまで収まらないだろう。それでもフセインよりはマシだ。つまり弱いイラク、ということだ。

●戦争になれば、イラク産石油は止まるが、せいぜい日産70万バレル。大勢に影響なし。湾岸戦争のときは、石油価格はかえって下がったことを忘れてはならない。しかし戦争後は増産に向かう。日産200万バレルはいく。イラク人は賢い(sophisticated)し、新政府は石油収入で生きていくしかないのだから、これは間違いない。

●イラクに米軍が常駐するようになるとどうなるか。隣のイランは、フセインが大嫌いだが、アメリカの介入も嫌だ。とはいえ、彼らが反対したところで意味がない。イランもリビアも unhappyだろうが、英国でも人口の60%はunhappyだし、ドイツもunhappy、フランスもたぶんunhappy。それでもNobody can do anything. ロシアや中国も支持に回るだろうし、日本も手伝うんだろう。

●アメリカが石油のために戦争を起こすとは思わない。だが、彼らは中東で支配力を強めたいのだろう。イラク攻撃に成功すれば、アメリカは軍事拠点と政治的足がかりを中東のど真ん中に手に入れることになる。

○マブロウ教授は1934年のエジプト生まれ。オックスフォード大学を中心に研究活動を続け、女王陛下の勲章を受けるような人ですが、気持ちは中東とともにあるようです。

○イラクの石油埋蔵量はサウジに次いで世界第2位。アメリカがここを完全に制圧してしまうと、「もうサウジの基地も石油もいらない」となってしまうのかもしれない。その後のサウジはどうなるか、というのも恐い話かもしれない。それにしても石油業界は、すでにイラクの体制転換が起きた後のことを考えている。誰が大儲けするんでしょうね。


<9月26日>(木)

○外国特派員クラブの昼食会で、横須賀の在日米海軍司令部司令長官、チャプリン少将が話をする、ということで出かけてきました。第七艦隊というのはインド洋までが守備範囲なので、こういう時期に何を言うだろうか、と興味津々。当たり前のことですが、微妙な問題には慎重に言葉を選んで答えていました。たとえば、「1991年の湾岸戦争では準備に半年かかった。今回はどのくらいかかるのか」という質問が出たが、答えは「今は10年前とは違う」でした。なるほどね。

○ちなみにこの質問、某軍事アナリストにぶつけてみたところ、「2ヶ月で十分でしょう」と言ってましたな。これはちょっと意外でした。アメリカという国、準備にはたっぷり手間と時間をかけます。湾岸戦争のときは、ボディバッグまで大量に用意してましたからね。かんべえの読みでは、ブッシュはまず議会の参戦決議を通す。国連の決議は特にこだわらない(本音では不要だと思っているはず)。11月5日の中間選挙が過ぎてから動員をかける。するとそれから最低2ヶ月、こういうのは多少の遅れは出るものですから、始まるのは来年2〜3月くらいかなあ、という気がしています。理由については、また別の機会に。

○今日はめずらしい人にたくさん出会いましたが、いちばんびっくりしたのは有楽町の電気ビルのエレベーターの中に志茂田景樹がいたこと。もちろんフル装備(?)でした。あれは恐かったなあ。いったい何をしてたんだろう。

○そうそう、恐いといえば、これもちょっとしたもんですぞ。用心してご覧ください。

http://ime.nu/ime.nu/fc2bbs.com/m.html


<9月27日>(金)

○今日の話題。「中国の流通制度」「国際石油情勢とロシアの位置づけ」「デジタルコンテンツビジネス」「小泉訪朝への評価」「不良債権処理問題」「台湾」「株価」。われながら、いったい何をやってるんだろう、と考えてしまう一日。とりあえず、疲れたから寝ます。おやすみなさい。


<9月28日>(土)

○民主党の迷走ぶりについてひとこと。

@論功行賞は重要である。「中野幹事長の人事は論功行賞だから駄目」などと言う人は、人事というものについて、なにか考え違いをしている。

Aでも中野幹事長というのは駄目な人事である。なにより、当選9回の人間を選んだ時点で、「ニュー鳩山」という言葉が泣いている。その程度のことも分からないのでは、彼に3度目の機会を与えたことは無駄だったかもしれない。

Bそもそも有権者は、民主党に政権奪取を望んではいない。それでも彼らは、自民党に打撃を与えることはできる。それには、思い切り若い党役員人事を行うだけでいい。党三役を全員40代で揃えてみたまえ。自民党が旧態依然に見えるようになる。70歳以上のゾンビ議員たちは絶望し、抵抗勢力の力が弱まり、小泉首相の力が相対的に上がる。結果として国民の利益になるではないか。

○駄目な民主党の話はここまでにして、アメリカの民主党の話を少々。9月23日に、ゴア副大統領はイラク攻撃に反対する演説を行った。久々に存在感をアピールするつもりだったようだが、国民の反戦意識を高めるには至らなかった。ひとつにはスコウクロフト元大統領補佐官など、共和党穏健派が行った反対論でほとんど論点が尽きており、さほどの意外性を発揮できなかったからであろう。2004年における彼の復権は、ちと難しいようだ。

○かんべえの記憶が確かならば、1991年の湾岸戦争の議会決議において、賛成した民主党上院議員は10人しかいなかった。そこで反対した議員は全員、いわば「バツイチ」になった。92年の大統領選挙で、無名のアーカンソー州知事が浮上できた陰には、こんな事情があったのである。このとき賛成に回った10人の中に、のちに活躍するアル・ゴアやジョセフ・リーバーマンが含まれていた。こういう故事があるから、今度のイラク問題でも、民主党議員が戦争決議に反対することはきわめて難しいと思う。

○その点、今の民主党をリードしているのはダッシュル上院議員の戦略はなかなかに巧みである。イラク問題や国土保安省の設置問題では、ブッシュ政権のやりたいようにさせておき、経済問題や社会保障問題で得点を稼いでいる。そしてときどき、「ブッシュは安全保障問題を政治的に利用している」と噛み付いて釘をさす。中間選挙を前にして、国民の真の関心事は、身の回りの問題(pocket book issue)だという確信があるからだろう。もちろん彼自身も、2004年にブッシュに対する挑戦者になることを考えているはずだ。

○この辺の呼吸を、どこかの国の(駄目な方の)民主党は勉強した方がいいね。「何でも反対」じゃ昔の社会党と変わらんじゃないですか。


<9月29日>(日)

○久々のG1レース。新潟競馬場では初めてとのこと。今日のスプリンターズステークス、中山競馬場も人出が多い。いよいよ秋のシーズン開幕である。

○先週、このレースの馬柱を見た瞬間に作戦が決まってしまった。同じ1200メートルのG1レース、3月24日に行われた高松宮記念では、ショウナンカンプがアドマイヤコジーンを大きく引き離してゴールした。今回はその意趣返しとなる。先行するショウナンカンプをアドマイヤコジーンが差し切ってゴール、という映像が頭の中で勝手に絵を結ぶものだから、今日は馬単でH−J。ナイン・イレブンと語呂もよいではないか。(んなことないっ!)

○ところが今日の一番人気は、武豊騎乗のCビリーヴである。1200メートルのエキスパートで、この夏、実に3連勝している。でも、まあ、「4歳牝馬の強さを本当に信じられるか?」「急成長はともかく、4連勝は難しいんじゃないか」「サンデーサイレンスの子供で短距離に強いのって、ほかにいたっけ?」などと、いろんな理屈をつけて無視することにする。

○ビリーヴの人気のお陰で、H−Jは馬単で20倍、馬連で8倍見当と高配当である。ますます欲の皮が突っ張ったかんべえ、H−Jを軸に三連複まで総流しする。これで薄めの馬が三着につければ万馬券まであるじゃないか。気分はもうドロボー。なにしろ頭の中には、アドマイヤコジーンとショウナンカンプが重なってゴールする姿がエンドレスで流れている状態なのだ。

○スタート、ショウナンカンプが理想的なスタートを切り、それをアドマイヤコジーンが追う。二頭が他を引き離してカーブへ。新潟の1200メートルは先行有利。サーガノヴェルなどの追い込み馬に出番はないのだ。このままいけっ!と力が入ったところで、あわわわ、ビリーヴが内側からするすると上がってきたではないか。こらっ!おまえら、女の子にインを抜かれてどうするんじゃ。

○ゴール前、事前の予想通りにHアドマイヤコジーンがJショウナンカンプをかわす。ところがその後ろを駆け抜けていったのがCビリーヴである。武豊が手を挙げてゴールイン。ということで、結論はC−H−J。ああ、くやしいっ!初めて三連複を取ったけど、1位2位3位の馬なので8倍にしかならぬ。9通り買っているので、いわゆる「取りガミ」というやつ。

○来週からは中山開催。こんな週末の喜怒哀楽が楽しみです。そうそう、アドマイヤコジーンよ、この仇はマイル戦で取ってくれ。君ならできる。


<9月30日>(月)

○焦点の内閣改造、柳澤さんはやっぱりはずされましたね。銀行への公的資金投入は、これで既定路線になったということでしょう。しかし素直に喜んでいいものかどうか。

○柳澤氏は1999年3月に行われた最初の公的資金投入の責任者ですから、そのときの自分の判断を守るために「銀行には問題がない」と言い続けているのだと指摘されています。実はそうではなくて、銀行の駄目さ加減をいちばんよく知っている人だからこそ、公的資金の再投入に反対していたのかもしれません。長年、金融行政を担当して、「こいつらに税金をやっちゃいけない!」と思ったのではないかと。

○どのみち、公的資金の投入は簡単ではないはずです。その過程で、再び柳澤氏に発言の機会が与えられるでしょう。そのときに彼は何ていうんでしょうか。






編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki