●かんべえの不規則発言



2007年8月






<8月1日>(水)

〇来週、臨時国会が始まると、与野党が最初に激突するテーマが「テロ特措法の延長問題」であるという。今年10月までに延長しないと、インド洋における海上自衛隊の対米協力ができなくなってしまう。海上給油は、@日本ならではの協力であり、感謝されている、A費用対効果の面でも優れている、Bこれに参加しているお陰で、フロリダ州タンパにおける「対テロ戦争」作戦本部に人を派遣できる、など、メリットは多い。防衛庁としては、是非とも延長したいところであろう。

〇かんべえは自他ともに認める親米派の一人でありますが、「この際、テロ特は“見切り千両”じゃないか」と考えるものであります。要するに、法案延長なんぞあきらめてしまえ、その方が安倍政権にとってはトクになる、と思うのです。

〇インド洋上における対米協力は、もう5年以上続いている。そうなると、先方の感謝の気持ちもじょじょに低減していく。他方、現状維持を自己目的化してしまうのは日本の組織にありがちな習慣であって、そのうち「止めるに止められない」ことになる怖れがある。イラクからの陸上自衛隊撤退と同様に、物事には「止められるときに、止めた方がいい」ことだってある。この際、止めてみて、別の対米協力の方策を考えることにしたらどうだろう。

〇幸いなことに、今、止めても対米関係には大きな影響がない。なんとなれば、米国側は何はともあれ安倍政権の継続を希望している。当たり前だよね、豪州のハワード政権と並んで、世界で唯二の親米指導者なんだから。安倍政権の代わりに誕生する日本の内閣がどんなものであれ、今以上に親米ということはあり得ない。そうなってしまうと、「ブレアに次いで安倍までも」ということになり、ブッシュ大統領のみならず、アメリカ全体にとってイヤーな気分が漂うことになる。メルケルとサルコジが、前任者よりはマシになったところだけに、それはちょっと痛い。

〇しかもアメリカ側は、タイミングの悪いことに、「対北朝鮮外交」と「慰安婦問題」の2方面から安倍政権にダメージを与えてしまっている。参院選が終わるまで待っててくれたみたいだけど、そこは後ろめたいところがある。ここで安倍さんが、「野党の反対が強いので、状況お察しください」と言い出せば、先方はとても文句は言えないはずである。その上で、「その代わり、年末に控えているHost Nation Supportの更新はキッチリやりますから」とでも言えば、日米関係は安泰でありましょう。

〇テロ特をあきらめてしまえば、民主党との争点がとりあえずひとつ消える。その上で、「小沢民主党は無責任だ」式の批判もできる。なかなかいい手ではないかと思うのです。もっとも、こんな風に同盟関係を政争に使うことは、安倍さん自身が良しとしないでしょう。その辺は真面目な人ですから。ただし、「テロ特延長」のために多くのものを犠牲にする必要はないと思います。その辺は柔軟に構えても、よろしいんじゃないでしょうか。だって、誰が見たって安倍さんは「ツーストライク・ノーボール」状態なのですから。


<8月2日>(木)

〇こんなネタを頂戴しました。Kさん、いつもすいませんねえ。

2007年07月30日「自民要塞ア・バクハ・ツー」

「終局である。四国では全敗、岡山で虎が姫に負けるなど、すでに選挙ではない。
岸信介三世に科せられた宿命なのだろう。ナガタチョウをア・バクハ・ツーの赤い炎が
包んでいく。次回総選挙いや『解散』。アベ君は、生き延びることができるか?」

2007年07月31日

当選する者もいれば落選する者もいる。 1議席を数名の候補者が争う。
「悲しいけどコレって選挙なのよねー」

2007年08月01日

「グレートジミンにはアベが乗っていた。その上でコーメイと共に… 何故です?」
「やむをえんだろう。タイミングずれの大臣更迭が何になるか」

2007年08月02日

「小泉チルドレンの動きが、芳しくないようだが、どういうことだ!」
「はっ!チルドレンたちのジミンを思う気持ちは、絶大でありますが、いかんせん、短期促成のため」
「戦果のみを言っている!」

〇こんなのもアリですよね。

「われわれが愛した赤城は解任された。なぜだ?」
「坊やだからさ」

・・・・まんまじゃないかぁっ!


<8月3日>(金)

〇やっぱりみんなガンダムネタが好きなのねぇ。

●溜池通信のDIARY本日分読みました、ガンダム・ネタで言うなら、サンギイン家の・アオキン公王のお気に入りのカルヤマを見殺しにした責任を取って辞任した農水相は、さしずめ、赤ギばんそーこーじゃー(シュール!)って、とこですかね。 そうすると、酒場でやけ酒を飲んでいた赤ギバンソーコーじゃーのところに、ひそかに政権を狙うキシリア・ザビ(声優・オザワ奈美)配下のナオト・カン機関のナオト・カンが「うちに来ないか」と誘いに来たりして。

――どくとる・ひーごー閣下より。今宵はお疲れ様でした。ちなみにキシリア・ザビといえば、「兄上も意外とお甘いようで」という一言が心に突き刺さります。


●坊やには爆笑させてもらいました。

年金を台風ばりに追い風とする中、選挙協力が機能しない自公に向けて小沢さんの言葉が思い浮かびます。

「JIKOHとは違うのだよ、JIKOHとは!」

――金融記者Kさんより。やっぱりザクでは役不足ということですね。ジオングきぼん。「あんなものは飾りです。偉い人たちには、それがわからんのです」


●認めたくないものだな。自分自身の、若さ故の過ちというものを。(安倍晋三)

――拙作であります。でも赤い彗星のシャアというよりは、「坊やだからさ」と呼ばれる方が彼には似合いそう。ついでだからもうひとつ。


●来週から臨時国会が始まるというのに、われわれは学ぶべき人を次々失っていく。寒い時代だと思わんか?


〇本気で懐かしくなってしまった方は、下記をご参照。

http://homepage2.nifty.com/maronomori/gundam/gundam_top.html 


<8月4日>(土)

〇最近、いい本を2冊読んだのでご紹介まで。

〇まずは『会社は頭から腐る――再生の修羅場で見た日本企業の課題』(冨山和彦:ダイヤモンド社)。あんまり面白いので、一気に読み終えた。そのまま勢いで、職場の同僚に「これを読め」と言って渡してしまったので、現物が今手元にない。しょうがないから記憶を頼りに書くが、どうせなら職場全員の数だけ買って、「これを読め」と言ってプレゼントしてもいいくらいである。

〇冨山和彦氏は産業再生機構のCOOを務めた人。企業再生の現場の体験をもとに、日本企業の問題を語っている。いきなり「人間はインセンティブと性格の奴隷である」と来るから、思い切り唸ってしまう。そのまま、日本経済の停滞は人材の劣化による、とか、大企業の経営者は修羅場を踏んでない、とか、鋭い指摘がズバズバ決まる。

〇実は産業再生機構の仕事というのは、企業の問題点を洗い出して、ちゃんと経営ができる人材を引っこ抜いて社長に据える、ということに尽きるようである。つまるところ、会社は人事次第ということである。冨山氏はコンサルタント出身であるが、驚くほど泥臭くて、現場主義で、空理空論がない。ところが企業というものは、ついつい現場を離れて、空理空論に走ってしまうのだ。ほら、あなたの周囲でもいるでしょ? 会議室の中で、紙だけ見て物事を決めてるような人たちが。

〇最近、かんべえも「日本企業これでいいのか」と思うことが増えている。現在の牛歩景気=2%成長というのは、ほとんどが輸出主導で重厚長大企業が復権するという形で牽引されている。これでは企業の人材はまったく鍛えられない。われらが商社業界なんぞも「忙しい、人が足りない」などと言っているが、目指しているのは「どうやったら昔に戻れるか」みたいなことである。日々の業務における創造性はあんまり高くない。「ベテランが若手に追い抜かれる」的な緊張感を感じる機会がめっきり減った。つまらないのである。

〇これに比べれば、5年くらい前の日本経済暗黒期のほうが、「金融が死に絶えてIT企業が勃興する」的なダイナミズムがあった。あの頃の方が、社員がヒヤヒヤしながら仕事をしていた分だけ、人材は鍛えられていたんじゃないだろうか。同じ2%成長であっても、最近の2%成長はちょっと危ういんじゃないか、という気がして仕方がない。

〇もう1冊。『日中戦争下の日本』(井上寿一:講談社選書メチエ)。日本近代史の俊秀による、1930年代論の決定版。日本は軍部の力で戦争に迷い込んだのではなく、国民の意思によって対中戦争を始めたのであった、という。やっぱり昔の人が言うことは信用してはならない。というか、今生きている人たちは、日中戦争の当時の記憶なんてないのである。

〇この本については、かんべえが下手な要約をするよりは、「ああっ!」と思った部分を抜書きする方が読者に対して親切であろうと考えます。以下、ご紹介しますので、一緒になって「ああっ!」と胸をかきむしってください。

●国民の戦争協力は、国家が強制したのではなく、まちがいなく自発的なものだった。(中略)それでも日中戦争下の国民が、一方的な被害者意識を持つことはなかった。労働者は資本家に対して、農民は地主に対して、女性は男性に対して、子どもは大人に対して、それぞれが戦争をとおして自立性を獲得することに賭け金を置いたからである。国民は被害者である前に、ましてや加害者意識を持つこともなく、戦争に協力することで、政治的、経済的、社会的地位の上昇を目指した。(P9)

●大政翼賛会は、「ファシズム」体制というよりも、「デモクラシー」体制であった。(P15)

●日本は、日清・日露両戦争などのそれまでの主要な戦争に勝利していた。帰還兵は皆、凱旋兵であった。しかし今度の戦争はちがう。彼らは凱旋兵となることなく、内地に帰還せざるを得なかった。(P37)

●多くの日本人が明治以来、大陸に渡り、中国で生活し、中国人と交流を持ちながら、そこから(パール・バックの)『大地』が生まれることはなかった。別の文芸評論家は、「日本の作家たちは所謂文人的な支那旅行をしていただけである」と手きびしく批判している。(P59)

●大政翼賛会は、すべての政党が解党して生まれた。(中略) 旧既成政党勢力は、この争いで敗北したのではない。それどころか、政友会や民政党系の旧既成政党勢力は、翼賛会政治において復権を果たしていく。旧既成政党勢力は、老獪な議会政治家の手練手管によって、翼賛会における勢力を拡大する。(P134)

●要するに農民は、社会の平準化を求めていた。たとえそれが下方への平準化であっても、社会は平等になるからだった。(P173)

〇どうです、このリアリティ。この方がよっぽど「日本らしい」じゃありませんか。というか、1930年代の日本が、やっと理解できたような気がするくらいです。

〇以上、2冊とも「美しくない日本」を描いた好著です。日本は美しくない。そのことは、誰もが知っているのだけれど、ついつい目を閉ざしたくなるのであります。


<8月6日>(月)

〇いやー、こういうジンクスがあるということに、今日はじめて気がつきました。それはですね、「日本はサミットを主催する年には、かならず総選挙を行う」であります。

1979年(大平首相) 6月28日 東京サミット 10月7日 第35回総選挙 (自民党敗北。翌年の選挙で大平首相死亡)

1986年(中曽根首相) 5月4日 東京サミット 7月6日 衆参同時選挙 (死んだ振り解散。ダブル選挙で自民大勝利)

1993年(宮沢首相) 7月7日 東京サミット 7月18日 第40回総選挙 (内閣不信任成立。死に体総理がサミットを主催)

2000年(森首相)  6月25日 第42回総選挙 7月21日 沖縄サミット (小渕首相追悼のためにサミット駆け込み解散)

2008年(安倍首相) 7月7日 洞爺湖サミット その前後に解散?

〇ということで、かねてからの不肖かんべえの読み筋どおり、安倍首相は今年いっぱいは我慢を続けて、来年春に解散総選挙を目指すのが「吉」と見ます。

〇察するに安倍さんとしては、G8を主催して、ポスト京都議定書の枠組みを作り、それで歴史に名を残せば本望というものでしょう。下準備もずいぶん重ねたしね。「サミット花道論」でもいいし、「サミット人質」で解散を打つもよし。そのためには、この秋の臨時国会などは期間を短縮し、下手なことで足をすくわれないようにすべきです。安倍首相の政治的資源は残り少ない。変なことに体力や運を使ってはなりません。

〇ところがマジレス安倍首相は、「テロ特延長」のために、国会召集の時期を早める予定だとか。ばっかもん、そんなものは「見切り千両」だ。だいたい「インド洋上の無料ガソリンスタンド」なんぞ、いつまでも続けるものではない。「ごめんなさい、野党が言うこと聞かないから止めます」で十分。別の方法で対米協力を考えればよろし。民主党にも良識ある議員はいるから、きっと長島昭久議員あたりが、「超党派で自衛隊派遣恒久法を作りましょう」と言ってくれるだろう。それで民主党が得点を稼ぐなら、それは大いに結構なことではないか。

〇だいたいですな、あんなすごい選挙結果が出たのだから、その直後の国会では国民のメッセージをきちんと受け止めなければならない。たしかに日米関係は大切だ。ワシなぞは、いつもそう言っている。が、この暑い時期の国会を「テロ特」でつぶすというのは、どういう神経なのか。有権者の声が聞こえていないとしか言いようがない。この際、年金問題でも農政でも何でもいいから、とにかく国民にとって身近なことをやれ。安倍さんが"People like us"(私のような人)のことを考えてくれている指導者かどうか、国民はそこを見ているのですぞ。

〇そうそう、このページ「サブプライムと肉まん」という駄文を寄稿しました。よかったら、読んでみそ。


<8月7日>(火)

〇勘違いぶりがとっても痛いので、ちょっと八つ当たり気味に書いておこう。「KY安倍」(空気読め、安倍首相)などと連呼する朝日新聞、空気が読めてないのはいったいどっちだよ、と申し上げたい。

〇現在の安倍さんを支えている心の拠り所のひとつは、「朝日新聞には負けたくない」であろう。その朝日に言われて辞めるのでは、死んでも死にきれない。ところが朝日は本紙の社説にとどまらず、週刊朝日やAERAまで使って「辞めろ、辞めろ」の連呼である。今の安倍首相は、朝日への対抗心、敵愾心が、少なからずエネルギー源になっているんじゃないだろうか。本来なら、朝日新聞としては、「どうぞご自由に」と構える方が有利だと思うけど。

〇他方、熱狂的安倍支持者の側からは、「朝日にだけは負けるな」という声が官邸に寄せられているはずである。歴代首相は誰もが、朝日新聞に遠慮した。佐藤栄作首相でさえ、朝日に対する敵意は首相退陣の日まで黙っていた。それを在任中から口にしたのだから安倍さんは偉い、てなサポーターも実際のところいるのである。朝日が叩けば叩くほど、彼らの安倍支持は強固になる。空気が読めてないのは、どっちでありましょうや。

〇要するに安倍さんも朝日新聞も、ついでにブッシュ大統領も、意外と体質が似ているのである。信念が強くて、自己愛が強くて、自分が正しいと信じて疑わない。そういう人は、得てして空気が読めない。困ったもんです。


<8月8日>(水)

〇7月29日のテレビ東京選挙特番の打ち上げ会。あれからまだ10日ほどしかたっていないのだけど、遠い昔のことのように思える。あらためて考えると、敗戦後の安倍さんに質問するなど、一世一代の経験をさせていただきました。

〇一緒に出ていた東京脱力新聞こと上杉隆さん、飄々としているけど、超多忙な日々が続いているらしい。対面では柔らかいのに、紙面では舌鋒鋭い。上杉さんには、『小泉の勝利、メディアの敗北』という著書があるけれども、今回の選挙は「安倍の敗北、メディアの勝利」なんでしょうか、と聞くと、いやもうこれは「官邸崩壊」です、とのこと。次回作に期待しましょう。そういえば、今日はあの郵政解散演説の日からちょうど2周年。「レーガン・デモクラット」ならぬ「小泉・無党派層」が誕生した記念日でありました。

〇実はかねてから、テレビ東京の番組に出るたびに、スタッフに「ご褒美にポケモン・グッズを頂戴」とおねだりをしてきた。そのたび冗談と受け取られるのか、軽く受け流されてきた。でも今日は、Fさんがいっぱいポケモン・グッズを用意してくれました。まことにありがたし。これで娘に対し、父の偉さを見せつけることができる。ちなみに当家では、「でぶや」や「テレチャン」、「アド街」なども愛されております。


<8月9日>(木)

〇「投資ファンド」をテーマにした研究会に参加する。考えさせられること多し。

〇「ファンド」=「強欲で悪いやつ」=「ハゲタカ」=「乗っ取り屋」=「慄然とさせられる」というのが、昨今の日本国内における受け止め方ではないかと思う。が、世界はまさにファンド全盛時代なのであって、グローバルなマネーの担い手として世界を股にかけて活動している。資産規模も件数も、右肩上がりで増え続けている。

〇仮に投資ファンドがなかったならば、今日のBRICsやらVISTAやらの高度成長は不可能であっただろう。「金融」という営みは、煎じ詰めればカネが余っているところから足りないところに動かすということに尽きる。普通の場合、カネのない人のところへカネはやって来ない。昔は途上国に流れるのは、世銀やODAといった公的資金だけであった。ところが今や、利回りが10〜20%はなければ満足できない、という先進国の強欲な民間資金がエマージング市場に流れ、そのお陰で高度成長が可能になる。しみじみ時代は変わったのである。

〇ところがこの国の人々は、そういう活動はうさんくさいと思うようである。なんとなれば、この国には十分な貯蓄があって、他方では旺盛な資金需要もなくて、高利回りが期待できる事業もなくなっている。経済は2%成長、長期金利も2%が関の山。でも、生活水準はそこそこ高いし、ハングリー精神も失われて久しいし、俺はどうしてもカネが欲しいという切迫感もない。従って、「ファンド全盛時代はいかがなものか」「額に汗して働くことが大切」といった偽善が許される。

〇こういう国に対して、海外の投資ファンドが関心を失うのは当然であろう。日本には大儲けのチャンスがない。当人たちは、そのことを気にしている様子もない。アクティビストファンドは司法の手でさばかれて、ご丁寧にもカネ儲けができないようにしてしまう。2005年頃までは、日本も結構面白い国であったから、外資の関心を集めていた。郵政解散とともに、「日本は復活するぞ」「日はまた昇るぞ」ということで、ときならぬ日本買いが起きたりもした。

〇この2年ほどの間に、そういう熱気は失われてしまった。現在の政局混迷にもかかわらず、日本売りが起きないのは、投資ファンドが日本に対する関心を失ってしまったからであろう。このところ、任天堂を除けば世界的なヒット商品もほとんど出ていない。元気のいいベンチャー企業もないし、若手経営者はどんどんつぶれていく。しかもそういう動きに対し、拍手を送る人たちさえいる。日本経済がドツボに沈んだ1998年から99年頃には、まだしもプリウスやらi-modeやらプレステ2といった画期的な新商品が出ていたものだが。2007年の日本経済は浮き沈みすらも少ない、単に外需に助けられて重厚長大産業が浮かび上がるだけの、つまらない世界になっているんじゃないだろうか。

〇同じ2%成長でも、浮き沈みのある2%であれば、明日につながる楽しみがある。しかるに今日の静態的な2%成長では、さしたる希望が生まれて来ない。資本主義経済が夢を失ってどうするのか。このまま人材が鍛えられることもなく、静かに衰退していくのを待つばかりなのか。ちょっと大袈裟かもしれないけれども、投資ファンドが期待しなくなった日本経済は、中に住んでいる人々にとっても夢のない世界になるのではないだろうか。

〇ところで今宵の講師はかんべえの同世代人だが、モルガンスタンレーで修行していたという。ついつい飲み屋からぐっちーさんに電話を入れ、「昔のお仲間をご紹介します」と言って講師にケータイを渡す。久々の邂逅に、お二人ともビックリしてましたな。って、当たり前か。

〇ややあって、ぐっちーさんから折り返し電話あり。「こちらは姫と交代します」と言われて、電話に出たのはさくらさんであった。今日のお昼、ご一緒にオリガミで「完オフ・ランチミーティング」をやったばかりなのに、夜はフェアドマだという。ううむ、一本取られてしまったわい。


<8月10日>(金)

〇今日から夏休み。ネットの更新も途切れがちになる予定。今年から導入したE-mobileは、田舎に帰るとたぶんつながらないし。来週1週間は断乎、仕事断ちいたします。つきあっちゃいられねえ。



<8月14日>(火)

〇今年も次女をつれて、国際大学の信田教授の家へ。日曜日の午後1時半に家を出て高速に乗ったら、新潟県南魚沼市に午後5時にはついてしまった。渋滞はほとんどなし。お盆の時期ゆえ、関越自動車道は午前中はかなりの渋滞であったはずなのだが、午後になればこんなものなのである。

〇こちらでエンジョイしたこと。流しそうめん、スイカ割り、魚の旨い店、夜の公園で寝そべって星空を見る、乗馬、そば、手づかみで魚取り、バーベキューなどです。まことに大自然の中の休日。例年に比べてとっても暑いですが、周囲が田畑であると、夜になるとちゃんと涼しくなるのである。

〇魚の旨い店(「一八」と書いていっぱち、と呼ぶ)のマスターに聞いた話ですと、「中越沖地震」という言葉の影響たるや、遠いこの地にも及んでおり、例年に比べて客足ががた減りであるとのこと。たしかに店は貸し切り状態に近かった。まして柏崎ともなると、海水浴客もまばらになっていて、魚釣りなどするとほとんど入れ食い状態であるらしい。実にもったいない話である。・・・・ちなみに「一八」は、新潟県南魚沼市六日町の富士見通りにあります。お薦めであります。

〇六日町の通りには、「直江兼継」という幟がバンバン並んでいる。なんと来年のNHK大河ドラマ『天地人』の主人公なのだそうだ。今年は武田信玄の軍師・山本勘助を取り上げたので、来年は上杉家の名家老が登場することになるらしい。来年まで待つことなく、今のうちに新潟を訪問すると、オイシイ思いができると思いますぞ。以上、新潟県のCMでありました。


<8月17日>(金)

〇その後、富山の実家で暑い暑いと言っていたら、あっという間に3日過ぎてしまった。世の中の方は、株安、円高、防衛省次官人事など、いろいろあるようで、夏休み返上の方も多いと拝察します。ご苦労様です。政治も国際金融も、荒れるのは夏場と決まっておりますなあ。でも、まだ働く気がしないので、当方の戦線復帰は明後日のサンプロからといたします。うーん、次回のテーマは何なのかな。

〇高速道路で柏から富山までを往復して発見したことをメモしておきます。

●お盆の最中の速度制限取締りを数箇所で発見。こんなの初めて見たな。こんな時期にキップ切られると、さぞかしアツいでしょう。

●柏崎周辺は問題なく通行できますが、速度制限を実施中。ところどころ道路上に段差ができているのは、おそらく地震でできたものでしょう。振動でドキリとする場所も。

●ETCは本当に普及しましたね。今日、通過した練馬料金所で渋滞がなかったのは感動的でした。その一方で、田舎に行くと「ETC専用」の出入り口があったりします。これでは付近の住民は、ETCをつけざるを得ませんね。考えてみれば、一晩中料金所に人を張り付けておくコストを考えれば、ETCに任せてしまう方がはるかに安上がりなのです。実際に夜間にETCを踏み倒す不届きなクルマもあるらしいのですが、これはつまり、「食い逃げされてもバイトは雇うな」ってことですな。


<8月18日>(土)

〇サブプライム問題に端を発する世界的な株式市場の下落に対し、FRBは公定歩合の下げというカードを切ってきた。FFレートはそのまま。これをもって「藤川投入」と見るか、それとも「単なる様子見」と見るかは微妙なところなるも、中央銀行としてはやむを得ぬ一手といえる。この判断が吉と出るか凶と出るか。週明け月曜日、日本の市場がその最初の答えを出すことになる。

〇この間の動作を見ていて、「心ならずも増える国家の仕事」という言葉が思い浮かんだ。冷戦の終了と経済のグローバル化が同時進行した1990年代、「国家の時代は終わる」という予測が相次いだ。国家の代わりに花形となるのは、国際機関であり多国籍企業でありNGOであると。21世紀は「脱・国家」の時代になる、市民社会の時代が到来する、てなことを言ってた人は大勢いた。(忘れている人が多いと思うけど、ワシは性格が悪いので、しぶとく覚えておこうと思っている)。

〇ところが、「脱・国家」はとても難しかった。例えば「イラクがクウェートに侵攻」(1990年)みたいなことが起きると、国連は決議を出すことはできるが、それでフセインが引き上げてくれるわけじゃない。結局、米国を中心とする多国籍軍を派遣して、戦争をするしかない。そうかと思えば金融のグローバル化のツケとして、アジア通貨危機(1997年)みたいなことが起きた。その処理をIMFにやらせたら、それで変なことになる国がいっぱいできてしまった。金融危機がロシアや中南米に波及すると、結局、米FRBなり米財務省なりが頑張るしかなかった。2000年にはミレニアム・バブルが崩壊し、2001年には同時多発テロ事件があって、「心ならずも国家が頑張らなければならない21世紀」が始まった。

〇冷戦後の世界やグローバル化された世界経済においては、世に大型危機の種は尽きない。それでは国家はその火消し役ができるのか、といえば答えはイエスでありノーである。アメリカは湾岸戦争では成功を収めたが、イラク戦争では自らが火種を作ってしまった。当たり前のことであるが、国家に信頼がある場合は火消しも成功するが、国家が自らに対する信頼を損ねてしまっては、火に油を注ぐことになりかねない。鍵を握るのは信頼。ブッシュ・パパは良かったけど、ブッシュ・ジュニアは失敗した。世界の信頼があるかどうかが明暗を分けた。

〇思えばリーダーシップというのは、そういうものなのである。現実の国際政治や世界経済においては、正統性のある権力というものは存在しない。だとすれば、「あの人が言うのなら仕方がないな」と世界中が納得する状況を創り上げるほかはない。衆目の一致するところ、軍事力と経済力で世界ナンバーワンの座にあるのはアメリカなので、ホワイトハウスやFRBがそういう「人徳」を有していてくれれば、こんなにありがたいことはない。が、いつもそうとは限らない。とりあえず今のブッシュ政権はダメみたいである。

〇周囲の信認を得られないリーダーはリーダー足り得ない。それでも、ときにはそういうリーダーに危機の収拾を委ねなければならないことがある。中央銀行にも同じことが言える。1998年の国際金融危機の際には、グリーンスパン&ルービンのコンビがほぼ完璧な火消しに成功した。今回のサブプライム問題(現実にはすでにクレジット問題となっているけれど)におけるバーナンキ&ポールソン・ペアの仕事振りはどうか。現時点ではよく分からない。それが21世紀という時代なのであろう。

〇最後に蛇足ながら、これで日銀の8月利上げは完全に消えましたね。これでもなおかつ利上げにこだわるようであれば、「KY」(空気読め)という批判はもちろんのこと、「ND」(日銀としてどうも)という声が飛ぶかもしれません。ご用心。


<8月20日>(月)

〇久々の出社。通勤電車って、こんなに長かったかしらん? 

〇テンコ盛りの書類やら郵便物やらメールやら回覧物やらを読んでいて、笑っちゃったのがさる業界紙にあった下記の一節。

「今時、上場したがる馬鹿がいる。金融商品取引法で定められた、内部統制の怖さを知らないと見える。社員規模1000人を越えても、大変なんだから」

〇ホントだよね。なんでこんな馬鹿な世の中にしちゃったんだろう。

〇それから、今日は久しぶりにこの人とランチ。財政やら税制やら年金やらで意見交換。

〇ひとつ思いついたのですが、今現在、メガバンクは法人税を払っておりません。いわゆる税効果会計の影響が残っているためで、これが切れると税収がまた伸びることになるはず。めでたいことであります。ところがそうなると、今現在、所得税と法人税は約16兆円で横並びですから、間もなく「法人税の方が所得税よりも税収が大きい」という世にもめずらしい国ができてしまうことになる。

〇普通だったら企業減税すべきでありましょう。ところが、先の参院選の結果を見る限り、そんなことはとても言い出せないような雰囲気である。「企業は儲け過ぎ」というお叱りの声が聞こえてきそう。そういえば法人減税に意欲を示していた、本間税調会長はあんなことになってしまったし・・・・。でも、「金持ちいじめは国を滅ぼす」(三原淳雄著/講談社+α新書)という声もありますので、念のため。

〇最後に、こんなメールもありました。

>  メディア内では、レームダック3人衆として安倍、三木谷、
> 朝青龍の3人がいつ辞めるかが話題になっているそうです。
> 個人的に、安倍さんは好きですが、三木谷さんについては
> FACTAで書いていた通りで、かなり状況は悪いそうです。
>  政治部から経済部、はたまたスポーツ紙まで、ネタの尽き
> ない夏になりますねぇ

〇朝青龍はモンゴルに行くみたいだけど、これで二度と戻ってこないんじゃないでしょうか。ワシはちょっと残念である。白鵬は短命な横綱になりそうな気がするし。


<8月21日>(火)

〇夏休みを取る直前に駆け込みで書いたコラム「サブプライムと肉まん」(8月6日更新)は、タイミングが良かったせいか、あちこちで引用されている模様。で、以下はその冒頭部分なんですが、「アンラッキーセブンの法則」は見事に成立してしまったようですね。(ちなみに元ネタは昨年12月22日の不規則発言をご参照ください)。

このところ、株式市場や為替相場が荒れ気味である。この世界には、「1の桁が7の年は大荒れ」というジンクスがあって、1997年のアジア通貨危機、87年のブラックマンデー、67年のポンド危機などの例が有名だ。「アンラッキーセブン」とでもいうべきこの法則は、今年も実現してしまうのだろうか。

〇こういう「10年に1度の混乱」が起きるとき、かならず耳にするセリフがあります。以下がその代表的なものです。

「マネーゲームはやはり悪である」
「米国経済の終焉がとうとう訪れた」
「実体経済にも悪影響が懸念される」

〇しかるに、上記のような恐怖の予言は滅多に当たりません。10年に1度くらいのわりで、マーケットに混乱が吹き荒れたとしても、あいかわらずマネーゲームは進化を続けているし、米国経済はなおも世界の先頭を走っているし、実体経済は意外と堅調だったりする。要は上記のようなセリフは、いつも言いたがっている人たちがいるのであって、あんまり真に受けてはいけないということです。

〇本来、マーケットというものは、間歇的に行き過ぎが生じるものです。10年に1度くらい、大荒れになるのは不思議なことではありません。平穏無事で、将来が予見可能な状態が永続する方がおかしい。ですから、現在のような混乱期が訪れたときは、「おお、これは自分が投資家として鍛えられる好機」と受け止めるようでありたいものです。若い頃の宮本武蔵が、強豪と出会うたびに「これで自分はもっと強くなれる!」と内心、雀躍したように。

〇それでは、マーケットの混乱期における正しい心がけとはどういうものでしょうか。

「山より大きなイノシシは出ない」
「この世に終わりはない」
「命までは取られることはない」
「痛い目を見ることによって、正しいリスクの取り方を学習できる」

〇上記のようなことは、1987年にも1997年にも言っていたような気がします。不思議と人間は同じことを繰り返すのですよね。ちゃんと自分で痛い目を見るのが重要なことであって、誰かに尻を拭いてもらったりすると、かならず同じ失敗を繰り返します。モラル・ハザードというものは、あとで仕返しが来るものです。(例:住専問題はごまかしたけど、サブプライム問題で仇を取られてしまった)

〇さて、「アンラッキーセブンの法則」が成立するとしたら、その後の展開も同じかもしれません。過去に「アンラッキーセブン」が来ると、そのあとは得てして、「利下げ→バブル発生→バブル崩壊→安全保障上の危機」というサイクルが続くのであります。

1987年 ブラックマンデー →協調利下げ →超低金利 →不動産バブル (日本) 1990年に崩壊 1991年に湾岸戦争
1997年 アジア通貨危機 →ロシア金融危機 →Fed利下げ →ITバブル (アメリカ) 2000年に崩壊 2001年に9・11テロ事件
2007年 サブプライム危機 →流動性危機 →Fed利下げ →バブル発生 (中国?) 2010年に崩壊? 2011年に中東危機?


〇当たるも八卦、当たらぬも八卦。でも、上記のように考えれば、向こう2年間は意外と稼ぎ場が到来するのかもしれません。ピンチのあとにチャンスあり、というではありませんか。


<8月22日>(水)

ぐっちーさんやじゅん殿の呼びかけにより、ご存知フェアドマにて雪斎どの、さくらさん、かんべえ(残念なことに副会長は所用があって欠席)というお馴染みの会合。

〇すでにお気づきの方が多いかと存じますが、このたび武運つたなく、「さくらの永田町通信」、「副会長だより」がクローズのやむなきに至りました。ご両人のブログが、どれだけ自由民主党の(ネット上における)草の根支持に貢献していたかは、計り知れないものがあると思います。とはいえ、ブロガーにとってみずからが所属する組織との葛藤は、それこそ永遠のテーマであります。いつなんどき組織との利害相反が生じるか、という恐怖は、不肖かんべえもこのHP立ち上げ以来、ずっと感じ続けてきたところです。それだけに、このたびの参院選の結果とブログ閉鎖に至った経緯は、ご両人にとって万感胸に迫る思いがあることは容易に想像がつきます。

〇とはいうものの、「自由と民主」を標榜する某政党のご沙汰は、結党以来の危機という中にあっても、なかなかに味のあるものであったようであります。てなわけで、今宵もたくさんのワインを空けながら、談論風発にて楽しい時間を過ごすこととなりました。ついつられて、原稿の締め切りを抱えていて、「今日はあんまり飲んじゃいけない」と反省する雪斎どのも、最後は「もう限界」と言うまできこしめしておられました。いやはや、楽しゅうございましたとも。

〇ところで、いよいよ5日後に迫った内閣改造はどうなるのか。官房長官人事がキモだとか、厚生労働大臣は誰がなるのかとか、巷間いろんな噂が飛び交っております。おそらく閣僚経験をもつベテラン政治家にとっては、今度の内閣は「君子危うきに近寄らず」でありますが、まだ大臣になったことのない議員にとっては、それこそ垂涎の機会であるに違いありません。そりゃま閣僚経験のあるなしは、政治家としてのグレードを左右しますからね。

〇そうした中でもっとも注目されるのは、松岡大臣憤死、赤城大臣悶絶の後を受けて、文字通り「大凶」のおみくじを引き続けてきた農林水産大臣ではないでしょうか。ここは是非、新人抜擢ではなくベテランを当てていただきたい。(今の自民党は「ミッドウェー海戦」直後のようなもの、と言った政治家がおりましたが、そういえばミッドウェーで沈んだ空母の名前が「赤城」でありましたなぁ)

〇では、第2次安倍内閣の農水大臣に誰を推すべきでしょうか。以下の無責任な予想が、当たりましたら拍手ご喝采。

本命:中川(酒)→出戻り大臣で万全を期す。あえて汚れ役を引き受けることで、大いに男を上げていただきたい。ドーハラウンドはまだ死んでおりませんぞ。

対抗:加藤紘一→いつまでも物欲しげなことを言ってないで、ここはいっちょベテランの力を見せてくれ。もと農水族筆頭は伊達じゃない。安倍政権が生まれ変わったことの何よりの証左になる。

穴馬:武部勤→困ったときは原点に返るが基本中の基本。こんな仕事を、小泉政権の幹事長にお願いするのは非常にもったいないところながら、ここは地元・北海道のためにも一肌脱いではいかがでしょうか。

大穴:羽田孜→いやしくも元首相にして、竹下派七奉行の一角を占める大物。小沢がナンボのもんじゃ。最後の一花を咲かせるはここにあり。その先には「大連立」も見えてくるではないですか。

〇上記のようなサプライズがあれば、改造後の安倍政権も楽しみが出てくるんじゃないでしょうか。

〇てな政治の世界もさることながら、かんべえは本日の高校野球決勝戦において、「なぜ佐賀北は頂点に達することができたか」を副会長殿に聞いてみたい。純正野球ファンの新ブロクの発足を、心から祈るものであります。


<8月23日>(木)

ユーラシア21研究所の会合へ。東京財団・若手安保研のメンバーが多く集まる場所で、かんべえは少々ご無沙汰気味の皆さまである。本日のテーマは「世界は今後どうなっていくのか」。発表者Fさんから、各方面にわたる「読み筋」を拝聴する。

〇現時点で将来予測をするとなると、アメリカも中国も中東もロシアも朝鮮半島も、ほとんど地雷原のようなものであって、「悲惨な未来」はすぐに思い浮かぶのだが、ハッピーな未来を予測することが難しい。逆に日本の未来は、どう転んでも冴えない感じなのだが、比較すると世界の中では一番マシな方じゃないかと思えてくるから不思議である。

〇Fさんのご推奨は、「日本は焦って間違ったバスに乗るな」であった。「ジリ貧を怖れて、ドカ貧になるなかれ」でもいいかもね。つまり、画期的な解決策などに飛びついたりせずに、ぐずぐずしながら腹の探りあいを続けているような政治をするのが良い。小泉時代の後では、「スッキリしない政治」がとても評判が悪かったりするのだが、逆に何でも割り切るような政治は、危険極まりないともいえる。地雷原を歩いていくためには、臆病で決定に時間がかかるくらいでちょうどいいのかもしれない。

〇そういう意味では、現在の「衆参ねじれ現象」は、日本という国の意思決定を遅くすること間違いなしである。現に選挙から1ヶ月近くたつのに、安倍内閣の改造人事はまだほとんど決まっておらず、この間、政治家も官僚もほとんどが「様子見」状態だ。別にサボタージュでもなんでもなくて、とにかく動けない。

〇たまたま今日のお昼に、厚生労働省の方に「大臣は誰がいいですか?」と聞いたら、「うーん」と言ったきり答えが返ってこなかった。年金問題やら最低賃金やら医療改革など、超党派でないと身動きの取れない問題ばかりが揃っているので、誰が大臣になっても苦労することだけははっきりしている。これではなるほど、「指示待ち」にならざるを得ない。

〇こんな風にして、「泥沼流ニッポン政治」はすでに始まっている。そうですな、これは現役時代の米長邦雄さんの精神が役立つかもしれませんな。


<8月24日>(金)

〇いよいよ世紀の閣僚人事まであと3日。なにしろ全然当たる気がしないという人事であります。「お友達内閣Part2」でもおかしくないし、「派閥均衡人事」もありかもしれない。賢明な人事かもしれないし、思い切り愚策かもしれない。とりあえず、安倍=麻生コンビがどんな力量を発揮するか、要注目です。

〇とりあえず、最大の関心事は官房長官人事。10人挙げてみたけど、果たして当たるでしょうか?

@町村信孝・・・毎日イヤミ会見
A二階俊博・・・野党とパイプ
B石原伸晃・・・仲良し官邸団Part2
C菅 義偉・・・功名が辻Part2
D与謝野馨・・・政策のプロ復活
E中川昭一・・・タカ派トリオ完成へ
F細田博之・・・出戻り人事で堅実に
G渡辺喜美・・・求む突破力
H武部 勤・・・求む大突破力
I塩崎恭久・・・敢えて空気は読まない

〇「年も年だしね、フフン」さんとかは、敢えて外しました。それでも上記以外から来てしまうような予感がぷんぷんしますね。一応、かんべえの本線はC―F。雪斎どのは@でしたね。さくらさんや副会長どののご意見も伺いましたが、ここは非公開といたします。

〇ところで、高校野球決勝戦については下記のブログが非常に深い考察をされています。ブックマークをお勧めいたします。(野暮なコメントは駄目ですよ)。

●純正野球ファンのメモ http://blog.livedoor.jp/ted9aoki23/?blog_id=2497613 


<8月26日>(日)

〇何で人事はこんなに面白いんでしょうね。サラリーマン生活が長くなったせいでしょうか。「こうすれば良い」とか、「でも、こうなってしまうだろう」とか、「この人だったらいいのになあ」などというよこしまな気持ちが入ったりして、ついついパズルに熱中してしまいます。いや、ホント、プロ野球チームの監督になったような楽しさがありますね。

〇でも、所詮は正解のあるパズルではないし、滅多に当たらないんですよね、これが。明日になって実際の発表を見ると、きっと後悔すると思いますけど、せっかく一晩熱中したのですから、ここに載せておきましょう。ちなみに閣僚の平均年齢は58.4歳になります。


●安倍改造内閣予想

総理大臣 安倍 晋三 当5 山口4区 留任 52
総務大臣 二階 俊博 二階 当8 和歌山3区   68
法務大臣 衛藤 征士郎 町村 当8 大分2区   66
外務大臣 高村 正彦 高村 当9 山口1区   65
財務大臣 与謝野 馨 当9 東京1区   69
文部科学大臣 鈴木 俊一 古賀 当6 岩手2区   54
厚生労働大臣 丹羽 雄哉 古賀 当10 茨城6区 再任 63
農林水産大臣 武部  勤 山崎 当7 北海道12区 再任 66
経済産業大臣 逢沢 一郎 谷垣 当6 岡山1区 新任 53
国土交通大臣 冬柴 鐵三 公明 当7 兵庫8区 再任 71
環境大臣 鳩山 邦夫 津島 当10 福岡6区   58
防衛大臣 浜田 靖一 当5 千葉12区 新任 51
官房長官 細田 博之 町村 当6 島根1区 再任 63
年金担当 鴨下 一郎 津島 当5 東京13区 新任 58
沖縄北方担当 小渕 優子 津島 当3 群馬5区 新任 33
国家公安・防災担当 矢野 哲朗 伊吹 参3 栃木 新任 60
経済財政担当 林  芳正 古賀 参3 山口 新任 46
金融・行革担当 渡辺 喜美 当4 栃木3区 留任 55
             
官房副長官 馳  浩 町村 当3 石川1区   46
官房副長官 鴻池 祥肇 麻生 参3 兵庫   66
             
幹事長 麻生 太郎 麻生 当9 福岡8区   66
総務会長 額賀 福志郎 津島 当8 茨城2区   63
政調会長 町村 信孝 町村 当8 北海道5区   62
国対委員長 大島 理森 高村 当8 青森3区   60
幹事長代理 菅  義偉 古賀 当4 神奈川2区   58



〇改造内閣をどう評価するか、については、明日のJ-WAVE「Jam the world」で角谷浩一さんとおしゃべりする予定です。


<8月27日>(月)

〇閣僚人事が発表されてみると、あちゃー、やっぱり外しまくりですね。ふと、昔のことを思い出しました。

〇その昔、商社の業界紙で各社の「新任取締役予想」という名物企画がありました。記者のKさんはこの道一筋、その人事予想は実に鋭く、業界の注目を大いに集めていたのですが、なぜか日商岩井の予想だけはいつも見事に外すのです。そのうちに、Kさんが「日商岩井は〇〇氏が昇格」と書くと、書かれた本人が「あ〜あ」と落ち込んでしまうという状況になってしまった。若き日のかんべえが、「Kさん、当たりませんねえ」と冷やかしたら、本人いわく。「俺は正しい人事を書いている。御社の社長が間違えているだけだ」

〇今回の安倍内閣改造人事にも、若干そういう雰囲気がありますなあ。でも、「断乎として空気読まないぞ内閣」なのだと考えれば、それはそれで筋が通っているともいえる。

〇ところで昨日の予想の中で、ここだけはピッタリ当たっているのが「金融・行革担当相の渡辺喜美氏」の部分です。留任おめでとうございます、とはまだ言っていないのですが、今日になって入手した『官邸崩壊』(上杉隆/新潮社)の149Pにギョッとするようなことが書いてあった。

そして4月、突然、渡辺と塩崎に関する噂が駆け巡る。漆間が部下に対して、渡辺の身辺を洗わせている、という情報が飛び交ったのだ。過去の献金元、さらには政治活動までを徹底的に調べあげているというのである。双日総合研究所副所長の吉崎達彦が渡辺のブレーンだと突き止めると、今度は彼の行動も確認対象としたという話であった。渡辺に関する情報提供を受けたある人物は、あまりに詳細な内容だったことに逆に首をかしげた。出来すぎた話だと感じたのだ。だが、その中に、当局でしか知りえない情報の混ざっていることを知って、背筋を凍らせるのであった。

〇本書によりますと、漆間警察庁長官は、「公務員制度改革はケシカラン、許すまじ」ということで、渡辺大臣の身元を洗っているうちに、ついでに不肖かんべえのところにも捜査の手が及んだそうであります。あたしゃ全然気がついてなかったし、別に実害もないのですけど、この捜査における動機の不純さはさすがに呆れますな。――それにしても、これってホンマですかいな、東京脱力新聞さん。

〇公安関係の方がどういう捜査をされたかは存じませんが、渡辺よしみ氏のHPはフロントページから当溜池通信にリンクが張ってありますので、何がしかの関係があるのは天下にバレバレであります。他方、かんべえがどこで渡辺氏に会ったかは、2001年5月9日分の当不規則発言に書いてあります。当時の自民党総裁選をネタに、かんべえが「お笑い自民党食堂」(2001年4月7日分)という馬鹿話を書いたところ、これが渡辺氏の目に止まって、演説などで使っているうちに・・・・というのが発端であります。

〇要するに当方はギャグを提供する「ブレーン」でありまして、公務員制度改革なんぞはまったく関知いたしませんので、念のため。まあ、このHPの中を読んでいただければ、大概のことは分かってしまいますので、行確などまったく不要であります。


<8月28日>(火)

〇弊社の向かい側にあるTBSの『朝ズバッ!』のスタッフから電話がある。えー、朝青龍のことなんですけども。おいおい、そんなこと、ワシはコメントできんぞと思いながら聞いていると、これが面妖なストーリーなのである。いわく、朝青龍がモンゴルに帰国してから、「ホジルトサナトリウム」なる温泉地で療養する予定である。その場所の写真が、お宅のHPのこのページにあるのですと。つきましては、@写真の使用許可をいただきたい、Aほかにも資料があればお貸し願いたい、Bこの文章を書かれた方のコメントを頂戴したい。放送は明日の朝なので、何とか今日中にお願いできないだろうかと。

〇あらららら。すっかり忘れておりましたが、この溜池通信には「退職のち放浪」という元商社マンH氏の旅の記録があって、その中に「モンゴルの温泉体験記」が入っている。試しにグーグルを使って「ホジルトサナトリウム」を検索してみると、ものの見事に上のサイトだけがヒットする。つまり日本語サイトだけに限れば、「ホジルトサナトリウム」なる場所の紹介記録は、この元商社マンH氏の手によるものが唯一であるということになる。

〇ところが、弱った。われらが同僚であったH氏は、この旅(2003〜2004年)に出る直前に会社を辞めており、その後、何度か連絡がなかったではないものの、現状はほとんど音信不通状態である。昔のアドレスにメールを送って、運を天に任せていたところ、数時間後にちゃんと連絡が取れた。よかったよかった。H氏は、現在、某大学の博士課程に身をおきながら、会社を作って一発当てようという「山師」人生を送っているとのこと。元気があって、よろしいではありませんか。

「退職のち放浪」のページには、今も少しずつではあるのだけれど、絶え間なくアクセスがある。「アウシュビッツ」や「ノモンハン」という言葉を検索すると、このページにたどりつくらしく、そういう意味では貴重な情報源となっているらしい。TBS『朝ズバッ!』のスタッフも、そういう経路でたどり着いたものと見える。

〇1999年夏に発足した当「溜池通信」は、今では合計の情報量が45.3MBにも達している。その中には、上海馬券王先生と並んで、元商社マンH氏による旅の記録も入っている。アテネ五輪の頃の記録であるから、情報としては古くなっているかもしれないけれども、ちゃんと使ってくれる人がいるのだと思うと感動的である。検索エンジンの力はまことに偉大である。

〇ところでこの「ホジルトサナトリウム」だけど、どう見ても横綱が保養する場所としてはシャビーである。朝青龍の長年の功績を考えれば、熱海かどこかの豪華温泉で、遠慮なく豪遊してもらいたいところなるも、それでは口うるさい日本の相撲界のしきたりとマスコミから逃れることができない。この際、モンゴルに帰るのが一番の療養になるのであろう。明日の朝、みのさんが何と言うかは存じませんが、かんべえとしては、朝青龍関に「お疲れ様」と申し上げたい。


<8月29日>(水)

〇安倍改造内閣に対する世論調査が発表になりました。どこも上昇に転じているようで、とりあえず改造は成功であったようです。

  支持 不支持 前回比較
読売 44.2% - +12.5%
日経 41.0% 40.0% +13.0%
産経 38.0% - +16.0%
毎日 33.0% 52.0% +11.0%
朝日 33.0% 53.0% +7.0%


〇ところで上の表を見ていると、同じ国民に同じ事を聞いて、なぜ結果がこうも違うのでしょうか。実際には設問項目などの違いにより、差が出ることは知られているのですが、やっぱり安倍首相が好きな新聞と嫌いな新聞が、両方とも鉛筆をナメたのではないかという気がします。でなきゃ10%以上も違うなんて考えにくいですよね。とまあ、こんな風にして、事実を伝えるメディアとしての新聞社に対する信頼は、失墜していくわけでありましょう。

〇アメリカにおける世論調査では、やはり共和党びいきや民主党びいきという癖が出るのですが、ひとつの違いはメディアが複数で行う点にあります。「ABC−ワシントンポスト」とか、「CNN―USA―ギャラップ」とか、「CBS―NY Times」といった具合です。日本も是非、そういうところを真似して、世論調査は「新聞社―テレビ局―通信社」といった連合でやってくれませんかね。1社だけでやられると、「社論におもねった数値」が作られているんじゃないかという疑念をぬぐえません。

〇とりあえず上記5つのデータを平均すると、安倍改造内閣に対する支持率は37.8%(+11.9P)となります。まあ、その辺が体感的にも妥当な線じゃないでしょうか。


<8月30日>(木)

〇朝青龍はウランバートルから、さっそくこの温泉地に向かったそうです。4年前に訪れたH氏によれば、現地には「大浴場はない」のだそうで、普通のホテルにあるようなバスタブで温泉に浸かることになるようです。効果の方は折り紙つきで、20分も入れば湯あたりするほどだそうですから、かなりのものなのでしょう。

〇そこで気になるのは、あの朝青龍の大きな体が小さなバスタブに入りきるのかということ。こりゃもう、自分でお金を出して、日本風の大浴槽を作るしかありませんな。それで横綱専用の大浴槽、と銘打つ。そうなれば遠路はるばる、日本からの観光客が大挙して来るかもしれないし、地元が感謝すること間違いありません。

〇その一方で、日本からついていった親方と医者と大取材陣は、かの国で絶大なヒンシュクを買っているだろう。ホントにもう、ほっといてあげりゃいいのに。せっかく良好な二国間関係に響くし、日本の大相撲がケチくさく見えてしまうぞ。

〇そもそも相撲という伝統が大事なのなら、朝青龍のことは忘れてしまえばいい。迫力のある勝負が見たいのなら、朝青龍のやることは大目に見ればいい。彼に品行方正な横綱になれ、なんて無理に決まってるじゃないか。それに歴代横綱を思い起こしてみても、品行方正だったのはほんの一握りだぞ。そして伝統と興行のどっちを選ぶかといえば、いつも後者を優先してきたのが財団法人 日本大相撲協会なんじゃないのか。いくら日本人力士が弱いからといって、強い者に当たってどうするんだ。

〇それはともかく、ウランバートルまで行った取材陣の皆さん、H氏が草の根ODAで作ったバスケットゴールは、ちゃんと今でも残ってますでしょうか。お暇な際に、チェックしておいてくださいまし。


<8月31日>(金)

〇とうとう8月も終わりである。朝の空気が少し涼しくなった。子どもと付き合った朝のラジオ体操も今日までである。来週からは、電車が混みはじめるだろう。

〇が、困ったことがある。宿題が終わらないのである。ほとんど「磯野カツオ」君状態である。小学生時代のワシは、夏休みの宿題はほとんど7月中に片付けてしまい、あとは絵日記と工作だけを滞納するという優等生であったのに。

〇この宿題は、日本貿易会用のレポートである。8月最後の2週間は、まるまるこの仕事だけのために空けてあった。にもかかわらず、頭の中が政局とサブプライム問題で占められていたために、「貿易投資」にまで思考が回らなかったのである。ほかのパートは、着実に完成しているようである。ああ、なんと罪深い。

〇しょうがないので、この週末に精を出さなければならない。幸い、サンプロも当分出番がないことであるし、政局とサブプライムをしばし忘れよう。こんな風にして、カツオ君の8月31日夜は更けていくのであった。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki