●かんべえの不規則発言



2005年1月





<1月1日>(土)

○新年おめでとうございます。

○今朝、私めが引いた御神籤の内容を下記転載しておきます。ああ、おめでたい。


春風の吹けばおのずと山かげの 梅も桜も花はさくなり

運勢 大吉

心をかたくもって 一時の不運にあわてさわぎ思いまようてはいけません。

本業をよくまもって静かにときの来るのをまちなさい 開運うたがいありません


○これは「第四十六番」という内容です。こういう文章を考案する下請け業者ってのもあるんだろうなあ。こういう文案というやつは、適度に時代に沿って変えていかないと、だんだん浮世離れしてしまう。「待ち人:来るがおそい」とか、「出産:安し信心が第一」なんてのは、現代人にとってあまりにもリアリティがなさ過ぎる。まあ、もっとも紅白歌合戦に出場する演歌歌手と同じで、「今年も変わらない」ことを確認して安心するという効果があるのかもしれないけど。

○そんなわけで、本年もよろしくお願いします。2005年が皆さまにとって良い年となりますように。


<1月2日>(日)

○今日は全国的に良い天気。午前中に富山空港で見た立山連峰も、羽田空港で見た富士山も見応えがありました。ところが新年の風景としていちばん圧巻だったのは、地元、柏駅周辺の賑わいでありました。んー、これはやはり「東の渋谷」は大袈裟だとしても、「千葉の原宿」くらいのことはある。柏高島屋は繁盛しておりますな。

○さて、大晦日の紅白歌合戦の視聴率が発表されました。

12月31日(金) 第55回NHK紅白歌合戦(NHK総合・関東地区) 視聴率は、19:30〜110分 30.8% 21:30〜135分 39.3% 

○ソースはここをご参照ください。やったね、エビさん。関東でも関西でも一気に40%を割り込んで、史上最低を更新だ! やっぱりギター侍が言っていた通り、「紅が勝っても白が勝っても、関心ありませんから!残念!」ということですね。そういえば拙者も、「マツケンサンバ」を見たらすっかり満足して、あとはどうでもよくなって寝てしまいましたから。切腹!

○しかし歴代紅白の数字を見ていると、性分といいますか習性といいますか、「ふーん、名古屋は紅白が好きなんだなあ」とか、「今年の仙台はなんでこんなに低かったんだろう(前年比12%減)」とか、変なことが気になってしまう。ついついエクセルでいろんなグラフを作ってしまうではないか。いろいろ数字を眺めていくと、紅白のこんな歴史が浮かび上がってきた。

(1)関東を基準に置くと、紅白は1984年までは一貫して7割台の視聴率を誇っていた。

(2)ところが80年代後半に視聴率は急落し、5割台になってしまう。

(3)そこで1989年から2部制を導入し、午後7時半からの放映としたものの、それは裏目に出て、この年初めて50%割れ。

(4)その後、1990年代はかろうじて5割台をキープする。

(5)2000年代になってからは4割台に。

(6)2004年はついに3割台に。

○なんだか自民党の支持率を見ているようである。実際、紅白歌合戦と自民党というのは、いずれも消極的な選択であって、「習慣だから」とか、「裏番組がつまらないから」(野党に任せられないから)といった理由で選ばれていることが多い。「紅白が楽しみだ」(自民党が大好きだ)という人は滅多に見かけない。そういう思いで上の歴史を振り返ると、「1989年がターニングポイントであったこと」「90年代から2000年代にかけての長期低落」などが妙に重なって見えてくる。さらにいえば、今回、仙台や岡山・香川のような地方都市で視聴率が低下したことは、2004年の参院選で自民党が地方で苦戦したことと無関係ではないような気がする。

○かつては過半数を取って当たり前だった「紅白」と「自民党」は、今では三割台の視聴率(支持率)しかない。この数字をどう読むかは悩ましいところで、「たかが3割」なんだけど、「されど3割」でもある。NHKとしては、たかが3割台の視聴率の番組に、あれだけの手間とコストをかける努力は正当化しにくいだろう。他方、2000年代になってから視聴率が5割を越えたのは、2002年ワールドカップの日本戦のときくらいである。このマルチメディア・多チャンネル時代、朝の連続ドラマも日曜夜の大河ドラマも、軒並み低視聴率にあえいでいる。そんな中で、「歌番組で3割台」は快挙だと見ることもできる。

○だいたい若人から年寄りまで、異口同音に「紅白って知らない歌手ばっかり」と言うような時代になっちゃったのだ。全部の世代に受けようなんてことを考えること自体が間違っている。たとえば人気を上げるために「ヨン様」を呼んだとする。が、世の中にはヨン様にしらけている人もいるので、ヨン様が出た瞬間にチャンネルを代えちゃう人もいるだろう。

○ちなみにゴールデンタイムでは、TBSの「K―1プレミアム2004」が関東20.1%、フジテレビの「PRIDE男祭り」が18.3%、日本テレビの「細木数子の大晦日スペシャル!!」は14.4%と大健闘だったという。まあ、ワシの場合、どれも見たいとは思わないな。かんべえはNHKは結構好きだし、紅白は流行り物(ギター侍も含めて)をチェックする数少ない機会なので、やっぱり来年も消極的に選択することになりそうです。


<1月3日>(月)

○あらあら、明日はもう会社が始まってしまう。家に持ち帰っていた本も資料も読んでない。家の中は寒いし、風邪は治りきらないし、明日が締め切りの原稿も書いてないし、ああ、もっと休んでいたい。って、あなたもですか。そうですか、やっぱり。

○最近、発表された経済統計で、これはちょっと面白いと思う。厚生労働省による「一般職業紹介状況(平成16年11月分)」である。

「平成16年11月の一般職業紹介状況をみると、有効求人倍率(季節調整値)は0.92倍となり、前月を0.04ポイント上回った。
 11月の有効求人(季節調整値)は前月に比べ7.8%増となり、有効求職者(同)は2.4%増となった。
 11月の新規求人は前年同月と比較すると21.6%増となった。これを産業別にみると、前月に引き続き、情報通信業(70.6%増)、サービス業(36.0%増)、医療,福祉(15.6%増)、飲食店,宿泊業(14.2%増)は増加となった。建設業(19.7%増)、教育,学習支援業(16.5%増)、運輸業(13.8%増)、製造業(13.3%増)、卸売・小売業(9.9%増)は減少から増加となった。


○有効求人倍率が0.9を超えたのは久々のことである。ここを探してみたら、最後に0.9を超えていたのは1993年1月の0.91であった。それから一時は0.5を割るという暗黒時代を経て、実に11年10ヶ月ぶりの回復である。運悪く年末に発表されたために目立たなかったけれども、政府としては「景気はこんなに回復している」と強調するいい材料といえよう。失業率の方も、ここを見ると同じ11月で4.5%まで低下している。めでたいことではないか。

○実のところ、景気の先行きはこのところ怪しくなりつつある。雇用は景気の遅行指標といわれるので、この先、数値が悪化することもありえよう。が、かんべえの見るところ、これは労働市場が「少子化」を強く意識し始めているからではないかと思う。つまりリストラによる人減らしも一巡したので、企業はそろそろ社員の囲い込みの必要に迫られているのではないか。この先、たとえ景気が後退に向かうとしても、それは1998年や2001年に体験したような底知れないものではなく、ある程度「先の見える」不況に過ぎないであろうから。

○もうひとつ、このデータも面白い。都道府県別の有効求人倍率である。一番、数値の高いのは愛知県で、実に1.64にも達している。明らかに人手不足であり、「名古屋は景気がいい」というのは、数値にもハッキリと表れているのだ。逆に一番低い青森県は0.37である。同じ日本の中に、「求職者2人に対して3つ以上の雇用がある県」と、「求職者3人に対して1つの雇用しかない県」が同居している。これで、なんで労働移動が起きないのか。世が世なら夜行列車で集団就職があっても不思議ではないところである。

○結局、労働需給のミスマッチということなのだと思う。フリーター人口が600万人、ニート人口が100万人といわれる。このまま有効求人倍率が1を超え、日本が本格的な人手不足時代を迎えるとしても、「自分のやりたいことが見つからない」と悩んでいる人たちが救われるかというと、それは別問題であると思う。みんながみんな、カッコいい仕事や意義深い仕事、実入りのいい仕事に就けるわけではない。あるいは「他人とコミュニケートできない」と悩んでいる人が、それに適した仕事に就けるかどうかも分からない。労働は、きわめて属人的な事象なのである。

○そんなわけで、「景気が悪くなるからといって、かならずしも雇用が悪化するわけではなく、景気が良くなったところで、フリーターは減らないかもしれない」というのが、いかにも今日的な状況であったりする。勇気づけられるようでもあり、情けなくなるようでもある。


<1月4日>(火)

○昨日、名古屋は景気がいいという話を書いたら、さっそく噂の「名古屋嬢」についての情報をお寄せいただいた。下記ご参照。

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050102k0000m040014000c.html 

◇「名古屋嬢」とは

 そもそもは、名古屋在住で「元祖・芦屋風」のお金持ちのお嬢様のこと。高級ブランドの服やバッグで着飾り、同じ装いの母親と高級車に乗って栄の老舗デパートに「お出かけ」する。不況の時代に、派手な身なりと暮らしぶりが女性誌で話題になり、全国区に。最近では、高級バッグとピンク色の服に、巻き髪で“バッチリ化粧”というお決まりのお嬢様ファッションで街をにぎわす、若い女性の総称になっている。


http://muffin-net.com/special0310/index44.html

Q:名古屋嬢ってどんな人のこと?

名古屋嬢」とは、本来、名古屋で暮らすお金持ちのお嬢様のこと。母親と一緒にブランド品を身にまとい、高級車で名古屋市栄区の老舗デパートにお出かけ。結婚するまで、家事手伝いをしながら花嫁修業を続けるというのが、特徴的なライフスタイルです。

○「名古屋巻き」のゆったりカール、こんな流行があったとは・・・・・ 「尾張名古屋は城で持つ」などと言ったのは今は昔。今は「お嬢様」で持つ世の中になってしまったのですね。むむむ。

○ところで、こんなお茶目な情報をお寄せいただいたのは、かんべえが常日頃から敬服している雪斎殿からであった。太原雪斎は黒田官兵衛よりもやや時代が古く、駿府今川家の軍師にして、幼少時の徳川家康も薫陶を受けたといわれている。

「雪斎の随想録」はつい最近始まったばかりのブログです。雪斎殿の骨太で雄渾な議論に、kenboy3さんやかんべえなどがチマチマとコメントを寄せております。みずからを「保守・現実主義者」と任じる方は是非、お立ち寄りください。


<1月5日>(水)

○スマトラ島沖の地震については、あんまり痛ましくて取り上げるのは気が進まない。それでもあまり時間がたってしまうと、時機を逃す恐れもあるので、この際、思い切って書いてみようと思う。・・・・・・などというと、なんだか極東ブログさんみたいな書き出しである。

○というのも、"The Economist"誌この記事を読んで、いささか目からウロコが落ちた思いがしたもので。

その@:なぜ英語で津波のことを"Tsunami"というか→「富士山を遠景に、大きな波が荒れ狂う大海」という北斎の有名な浮世絵が、19世紀に欧米社会にあまねく知れ渡ったことが原因。

THE clue lies in the Japanese name that has been adopted for them around the world: tsunami. Formed from the characters for harbour and wave, and commemorated in the 19th-century woodblock print by Hokusai that decorates so many books and articles about the subject, the word shows that these sudden, devastating waves have mainly in the past occurred in the Pacific Ocean, ringed as it is by volcanoes and earthquake zones.

そのA:今回の被害は、史上最悪の惨事なのか→そんなこたあ無い。十万単位で人が死んだ天災は過去にナンボでもある。特に中国奥地で地震が起きた場合には。バングラデシュでは、サイクロンで50万人が死亡したことも。

The Indian Ocean tsunami has been called the world's worst ever natural disaster. In terms of cold statistics, that is wrong, even as the estimated death toll climbs well past 50,000. Other earthquakes have killed more, especially in poor and populous countries such as China: probably 600,000 or more in Tangshan in 1976, and 200,000 or so on two occasions in the 1920s. Iran lost an estimated 50,000 people to a quake in 1990 and a further 26,000 in Bam exactly a year ago to the day, on December 26th 2003. It is not even the Indian Ocean's deadliest disaster, for cyclones have often brought worse, most notoriously in 1970 when the then new state of Bangladesh lost about 500,000 people.

そのB:世界有数のリゾート地が襲われたために、旅行者を多く巻き添えにする悲惨な事態になってしまった→被害を受けた地域にとっては、これぞ不幸中の幸いであった。お陰で先進国の援助が、官民あわせて大量に入ってくる。コンゴやスーダンで100万人死んだって、どうせ先進国は知らん振りでしょ?

But let not everything about this terrible event feel bad. For in that very geographical challenge lies also an opportunity, one that comes in three main forms. The first is that the involvement in the disaster of so many resorts favoured by tourists from rich countries in the West and the richer parts of north-east Asia has given it even more prominence in those countries than the sheer horror of the fatalities would have produced. Such selfish distortions are regrettable in theory -- who noticed while millions were dying in Congo's wars? --but in practice they might as well be exploited. It ought to be possible to raise far more in charitable donations from individuals and organisations in rich countries for relieving this disaster than for single-country earthquakes or floods, for example.

○プーケット島には、1994年秋に行ったことがあります。あそこは11月から2月までがベストシーズンなんです。仮に、これが観光客の少ない、灼熱の季節であったら、どうなっていたか。先進国の関心は、確実に低いものとなっていたでしょう。「これを機会に、インド洋沿岸諸国の協力体制ができるかもしれないね」なーんて、サラリと言えてしまう"The Economist"誌は、やっぱり端倪すべからざるメディアだと思います。


<1月6日>(木)

○あああ、今日は腹が減らないなあ、こんな日に「和喜」に行ったら食いすぎちゃうよなあ、と分かっているのだけど、ついつい足が止まらない。まあ、今日は新年のご挨拶と割り切って、店に入ってみたら、常連のO先輩が来ていた。「やあやあやあ」としばし話に花が咲いて、気がついたら、さばの塩焼きといわしの天ぷらに、ご飯に卵までかけて食べてしまっている。これだものなあ。

○先にO先輩が去って、どれワシもそろそろ、とお茶を飲んでいたら、角谷浩一氏が編集者の某氏を連れて入ってきた。ここでもまた新年のご挨拶。あの件はよろしく、この件はダメですか、でもって今年もよろしくと。当然のように話は国内政治に移り、2005年の政局最大テーマは何かというと、実は郵政でもイラクでもなくて、実は皇室典範の改正問題ではないのかと。以下、とても公共スペースでは話せないような内容になり、もちろんこんな場所では絶対に書けないような、畏れ多いネタの応酬に至ってしまう。

○昨年はナベツネからエビジョンイルまで、カリスマの失墜が相次いだ。こんな風にカリスマ・ドミノが続いていくと、究極的には皇室まで届いてしまうんじゃないだろうか。そんな滅相も無い、とは思うけど、兄弟で意見が割れているとか、親子がしっくり行っていないとか、嫁は困っているんじゃないのかとか、そんな話は少なくとも明治維新以後の日本ではなかったことだし、たとえあったとしても、「菊のカーテン」の向こう側は見えないのが吉例であった。昨今、その手の話が大っぴらになってしまうこと自体に、この国が直面しているのっぴきならない状況が象徴されているんじゃないか、なーんて考えると結構、怖かったりする。

○夜は帝国ホテルにて、時事通信社の新年互礼会。ここでも盛大な新年のご挨拶。小泉首相は急きょインドネシアに飛び、細田官房長官が来て挨拶しておった。かんべえの知り合いはそんなにいなくて、いても畏れ多い人ばっかりで、かろうじて今井澂先生を発見して新年のご挨拶。今年も「超強気論」は継続だそうです。そうこなくては。


<1月7日>(金)

○今日はニューオータニで日本貿易会の新年会。昨今の新年会では、偉い人の挨拶が「去年は災害の多い年でありまして」「スマトラ沖津波の犠牲にお悔やみ申し上げ」「少子化の進む昨今」「財政赤字は危機的な水準」などと暗い話が多いのだが、貿易業界は景気がいいせいか、全般的に強気である。「輸出が減るから2005年は景気後退」と言っているエコノミストもおりますが、現場の雰囲気は違いますぞよ、と申し上げておきましょう。

○毎年、このページでご紹介しているバイロン・ウィーン氏(モルガンスタンレー)の「10のサプライズ」予想、2005年版が届いております。今年はちょっと悲観的ですね。

2005年に予想する10のサプライズ

1. 原油が今年の国際商品市場で最も変動性の高い商品となる。原油価格は30 ドル/バレルに下落した後、需給不均衡と輸送上の問題を受けて60 ドルに上昇する。戦略的石油備蓄の取り崩しは行われないが、アラスカ野生生物保護区での掘削を認める法案が議会を通過する。

2. ブッシュ政権はドル高政策の支持を主張する一方で、為替相場の決定は市場に委ねるべきであるとの主張を維持する。望まれる秩序正しいドル下落は大幅な下落に取って代わられ、ユーロ/ドルは1.50、円/ドルは85に達する。欧州諸国と日本はトレンド反転を促すために第2 次ルーブル合意を要求する。米国の貿易赤字は、ドル安にもかかわらず増加し続ける。

3. 米国10年債利回りが2005年下期に6.00%へ上昇する。日本と中国による米国債購入の減少がその一因となる。インフレは穏やかに推移し、景気は過熱しないが、FRB は毎回の政策決定会合において利上げを決定し、FF 金利は年末時点で4.25%に到達する。グリーンスパン議長が「実質金利は著しく低い水準にとどまり過ぎた」ことを認める。

4. 2 年間にわたって上昇した米国株式市場が足踏みする。金利上昇、投資家の過剰な楽観論、国際情勢の根強い緊張、ドル安、過熱した個人消費といった要因に反応して、S&P500 種は比較的好調な景気と企業業績の伸びにもかかわらず前年並みの水準で1年間の取引を終える。

5. 中国は貿易相手国からの圧力に抵抗し、通貨制度の変更を見送る。中国は経済安定、雇用拡大、改革継続の断固遂行を理由としてドルペッグ維持を選好すると述べ、「通貨バスケット」アプローチ導入を拒否する。インフラ基盤の拡大と工業化に伴い、中国の経済成長率は約9%を維持する。国際商品価格は上昇し続け、Lyondell やDow などの化学株が特に堅調に推移する。

6. 日本が再び景気後退に直面する。円高進行に加えて、対中国輸出が経済成長の維持に不十分であることが判明する。低コスト地域における高コスト生産国としての日本の成長力に関する疑念が、投資家の間で高まり始める。日経225種は再び10,000に近づく

7. ロシアでは、ウラジミル・プーチン大統領の強硬政策が国民にとって過大な負担であると最終的に判明する。ウクライナ大統領選挙を巡る論争に加えて、広範な不正問題が明らかになったことから、第2 のロシア革命が促され、プーチン大統領は辞任する。景気低迷とルーブル相場の下落が起こり、ロシア市場は25%下落する。

8. 石油・ガスの生産、精製、販売の各企業の株価は米国株式市場で堅調に推移するが、際立ったパフォーマンスを示すのは石油サービスおよびその他のエネルギー・インフラ関連株である。Weatherford、Halliburton が市場の先導役となる。また、石炭株も回復を維持し、PeabodyとConsol Energyに大幅な上昇余地が見出される。

9. 豊作を受けて一部の農産物価格が低迷した2004 年に続き、夏期の天候は過剰な低温または高温となり、降雨量が少なく、世界的な食糧需要が増加する。トウモロコシ、大豆、小麦の価格が急騰する。大量の在庫を保有して新年を迎えたArcher Daniels MidlandとBungeが勝ち組企業となる。

10. ブッシュ政権による国内経済関連の立法が度を越して失敗に終わる。共和党も民主党も高い移行コストと不透明な効果を引き合いに出して、社会保障の部分民営化を破棄する。しかしながら、大失敗の1 年となる事態は回避される。懐疑的な見方にもかかわらず、議会は原告の賠償金請求に上限を設ける。大都市以外の地域における医師不足の懸念を踏まえて、民主党議員が不法行為改革(民事訴訟制度改革)を支持する。

○今年はあんまり賛成したい材料がありません。それでも、こういったクリエイティビティは見習いたいですね。


<1月8日>(土)

○年末年始が慌しかった分、この3連休は妙にのどかな気がする。会社の宿題とか、SPA!の連載とか、いろいろあるんですけどね。

○今日はこれにハマってしまった。コンピュータ相手になかなか勝てぬ。それにしても、こんな単純なゲームがなぜこんなに面白いのか。テトリスと囲碁を組み合わせたようなゲームです。

http://www.blokus.com/blokus/index.html 


<1月9日>(日)

○塩野七生『ローマ人の物語L最後の努力』(新潮社)。「迷走する帝国」がたどり着いたのは、ディオクレティアヌス帝による強権統治だった。それまで短命政権が続いていたローマだが、ディオクレティアヌス帝が副帝を指名したことによって、「皇帝を倒して自分が皇帝になる」ことが一気に難しくなった。それどころか、帝国を4つに割って正副4人の皇帝が国土防衛に専念するようになると、安定度は一気に高まった。

○いってみれば、衰退しかかった企業がカンパニー制を導入するようなものだ。カンパニー制は、とりあえずリーダーが即断即決できるようになるので、組織に緊張感を与えることに効果がある。が、その反面、各カンパニーが人事や経理をやらなければならなくなるので、結局は間接部門が肥大化してしまう。だから会社全体ではコストが上昇するということが少なくない。また、カンパニー同士の利害対立も生じがちであり、長く続けていると「もう分社化しちゃいましょう」ということになりがちだ。

○ローマ帝国も、ディオクレティアヌス帝時代以降は重税に苦しむようになってしまう。4人の皇帝がそれぞれに軍隊を率いるのだから、これは当然だ。しかも案の定、ディオクレティアヌス帝の引退以後は、正副4皇帝の間でトラブル発生ということになる。幸い、その中からコンスタンティヌス帝という強い指導者が勝ちあがってきたから、ローマはいましばらくの余命をつなぐ。それは著者が嘆くように、「これほどまでして、ローマ帝国は生き延びねばならなかったのか」といった性質のものであったが。

○塩野氏はコンスタンティヌス帝にはあんまり興味が湧かなかったと見える。それはキリスト教時代の幕開けであるからだろう。これまでのシリーズにおいては、「ローマは多神教」という点が何度も強調されてきた。そして多神教の日本人が著者であるからこそ、ローマの真の良さが評価できるという点が、このシリーズの良さでもあったから。西洋ではキリスト教史観の影響が強いので、コンスタンティヌスは実態以上に評価されてしまう。日本でいえば後醍醐天皇みたいなものか。

○ミラノ勅令(313年)、ニケーア公会議(325年)は、世界史の授業では確実に覚えなければならない年号のひとつである。その後はテオドシウス帝によるキリスト教の国教化(380年)、ローマ帝国の東西分裂(395年)、そして西ローマ帝国の滅亡(476年)に至る。1992年から始まった「ローマ人の物語」はあと2冊。わが家の書棚では少なからぬスペースを取っている。が、捨てることあたわず。年をとって暇になったら、全部を通して読んでみたいものだ。


<1月10日>(月)

○家族で旧友Aの自宅へ。上海馬券王先生とも共通の友人で、とにかく小さい頃からの古い付き合いである。現在は普通に某大企業のサラリーマンをしているが、昔から何事につけても「ほどほど」ということがない。かんべえは諸事、中途半端が多い人間なので、昔からAの徹底ぶりには敬服している。勉学はもちろんのこと、他愛の無い趣味の世界でも、すぐに手の届かない世界に行ってしまうので油断がならない。阪神ファンとしても将棋ファンとしても遠く及ばぬ。ミステリー小説に凝れば、家中その手の本で一杯になってしまう。そんな彼が現在、凝っているのが「ラーメンのスープ作り」なのであった。

○スープは家庭用の道具を使って作るのだが、鶏がらにとんこつを使った本格的なものである。煮干はちゃんと頭を取ったものを使う。どんがらが小さいので、どうしても野菜の量が相対的に多くなるので、スープが甘くなるのが問題点であるという。その他、焼き豚に煮卵、しなちくなどを自家製で揃えるのは当然で、やってないのは自家製麺を作ることくらい。趣味の料理としてはかなりの水準である。

○ラーメンとなると、配偶者も黙ってはいない。ということで、労作ラーメンを食しながら、ラーメン道に関するウンチクが飛び交う。その美味について語るのは当方の能力を超えているので、かんべえ好みの結論を以下の通りにまとめておく。

「これだけ努力しても、毎回、同じような味を出すことは至難の業である」。
「ラーメン屋さんは、売れ残るかもしれないスープを、毎日作り続けているのだから偉いものだ」。

○ところで昨年、米大統領選挙に関する貴重な情報源であったこのブログが閉鎖を宣言しました。"Frankly, I'm finding it very hard these days to see humor in the sad state of American politics."なんて言って、燃え尽きちゃった感じもします。正直言って、日本でも「ブッシュ政権第2期はどうなるのか?」みたいな議論が盛り上がらない。かくいうワタシも、あんまり気乗りがしない。

○景気づけに、アメリカ情報に関する新しいブログをご紹介しておきましょう。

●中岡望の目からウロコのアメリカ http://www.redcruise.com/nakaoka/index.php?cat=2 

○スピーチライターのマイケル・ガーソンが辞任しましたか。国務副長官がジョン・ボルトンではなく、ゼーリックになったというあたり、ネオコン派の退潮が窺えます。そんな風に言い切ってしまうには、まだちょっと早いと思いますけどね。


<1月11日>(火)

○たしか江戸小話にこんなのがあったと思う。

大店の一人娘が妻子ある男性に恋焦がれ、食事も喉を通らない。両親は日に日にやせ細っていく娘に気が気ではない。すると下女が「あたしにいい考えがある」と言う。

「そなたは娘の命の恩人じゃ。どうすればよいか教えてくれ」

「その恋しいと思う人をあきらめればいい」

○これは笑い話だが、これに近い人生相談というのは世の中に少なくないはずである。かんべえも、情の薄いことにかけては人後に落ちない方であるから、他人から相談を持ち込まれると、ついこの下女のようなことを言ってしまう。若い頃には、女性から受けた真面目な相談に対しても、いつもこの手の言辞で対応したものだから、そのたびに怒らせたり、あきれられたりしたものである。最近では、誰もかんべえに人生相談を持ちかけなくなっているのは、至極もっともな現象といえるだろう。

○それでもこの世の悩みの大半のことに対し、「あきらめる」ことはもっともコストの安いソリューションである。恋の悩みなんてものは、そもそもがスパッと忘れるのが最善手である。ビジネスや博打で大損をする人は、損をしたところで止めればいいことは知りつつも、「損の半分でもいいから取り戻そう」などと考えるから、ますます赤字を拡大してしまう。ブッシュ政権のイラク政策も似たようなところがあって、カッコをつけようと思うからコストがかさむ。

○わかっちゃいるけど、なのである。覆水盆に返らず。死んだ人は蘇らない。見切り千両。上司は選べない。配偶者の性格は変わらない。不良債権は損切りするに限る。楽しいことにはいつか終わりがある。逆にあきらめることができれば、話は簡単なのである。エビジョンイルが辞意表明したら、とたんにNHKバッシングが止んだ。産業再生機構に入ったことで、ダイエーはおそらく存続するのだろう。

○だからといって、他人に向かって「あきらめましょう」というのは勇気のいる、ときには無謀な発言となってしまう。(1)アメリカ人に対して「9/11みたいなテロはしょうがないですよ。中東なんかもうほっときましょう」、(2)中国人に対して「今どき、60年前の戦争に対して文句言ってるのはあんたくらいですよ。過去は忘れましょう」、(3)パレスチナ人に対して「エルサレムは返ってきませんよ。ガザ地区とウェストバンクあたりで手を打ちませんか?」・・・・これらの発言に対しては、「だったらお前らも、拉致問題と北方領土をあきらめるんだな」みたいな言葉が返ってくるだろう。

○そんなわけであるから、自分が深刻な問題に直面したとき、「この問題をあきらめることができたら、どんなに楽になるだろう」と自問してみることは、けっして無駄ではあるまい。普通は万策尽きてから人はあきらめる。その前に投了することが出来れば、被害ははるかに小さくて済む。企業経営は2度目の不渡りを出す前に逃げ道を探す。不倫は泥沼に陥る前に清算する。戦争は本土決戦の前に講和を受諾する。なるべくなら、そんな風でありたいものだと思う。

○で、なんでこんな話になったのかというと、自分でもよく分からない。すいません。

○ところで学生時代に、酔っ払うと誰かれ構わず人生相談を始めてしまう女の子がいた。相手が何を言っても関係なく、同じ話を延々と繰り返し、最後になると「やっぱり私はXXXするしかないんだわ」と自分で結論を出すのである。結論に至るまでには、長い時間と大量のアルコールを必要とするわけだが、本人はスッキリしたらしい。周囲はこのプロセスを「自己完結」と呼んでいた。これも彼女なりに、何かを「あきらめる」ための手続きだったのかもしれない。


<1月12日>(水)

○急に忙しくなってきた。あれもやってない、これもやってない。そこへ来客やら何やら。しょうがない。だって新年モードが終わりつつあるんだもの。

○経済情報のマーケティングをしている中国人のC氏到来。エコノミストは中国情報をどうやって得ているかに始まって、話はどうしたって昨今の日中摩擦になる。日本でいう「終戦60年」は、戦後が還暦を迎えるということで、そろそろ新しい時代が始まるという感じになるが、中国では「対ファシズム勝利60周年」になる。ギャップは大きい。それだけではなくて、「高齢化の日本と若い中国」という世代間ギャップも大きいのではないかと思う。てなこと言ってるうちに、本題からは遠く離れてしまう。

○C氏いわく。中国はアメリカと同じで、ドラマは白黒をハッキリさせて、勧善懲悪風を好む。ところが日本の「松本清張ドラマ」を見ていると、殺された側が悪くて、殺した側が同情すべき存在であったりする。誰が善で誰が悪だか分からない。こんなふうに文化が違うと、「戦争責任」への対応もまったく違ってくる。

○かんべえは今でも、中国本土には一度も行ったことがない。最近は「年に2回は行ってます」といった人が少なくないので、いっそこのまま「中国童貞」を続けた方が希少価値かもしれない。まあ、今年くらいは上海馬券王先生を訪ねていきたいものですが。

○続けて東京財団の菅原出さんと打ち合わせ。昨年からやっている安全保障研究のプロジェクトを、そろそろまとめにかからねばならない。納期は迫っているし、予算は使いすぎているし、だんだん不安になってきたぞ。ここを見ると、「日本周辺をめぐる緊迫した国際情勢について、実力ある若手が広い視野と深い学識に基づき、国益を再定義した上で斬新な安全保障論争を継続的に実施し、政策提言を行います」と書いてある。どないするねん?

○夜は商社業界の寄り合いへ。CSR、法令遵守などから始まって、東アジア情勢、商社業界のPR方法など。

○国務省の「ライス長官―ゼーリック副長官」コンビには密約があって、ライスは2年で辞めちゃう説というのがあるらしい。満更なさそうでもない。が、他省庁の長官クラスが軒並み小粒になり、ペンタゴンの「ラムズフェルド長官―ウォルフォビッツ副長官」コンビが絶不評な中にあっては、重量級コンビは国務省の相対的な地位は上昇することになる。実際、ブッシュ政権第2期は軍事ではなくて外交の出番であろう。ラムちゃんのクビは、「05QDRを発表するまでは預かっておく」というのが本当のところではないだろうか。


<1月13日>(木)

○この情報は何なんでしょうね。単なるガセネタでもなさそうなんだけど、ちょっと信じがたい。

http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/01/12/20050112000065.html 

●米東アジア・太平洋担当次官補にヒル駐韓大使内定

 クリストファー・ヒル(53)駐韓米大使が米国務部の東アジア・太平洋担当次官補に異動し、ジョン・トーマス・シファー(57)駐オーストラリア米大使が在韓大使に内定されたと伝えられた。

 ヒル大使は昨年8月12日、韓国に赴任してから5か月余ぶりに交代されるもので、在韓米大使が短期間で交代されるのは異例のことだ。

 ワシントンの高位外交消息筋は11日、「ライス国務長官内定者が上院公聴会(1月18日)を終えていないため、公式発表することはできないが、両氏の内定は確定的だと聞いている」とした。

 ヒル大使は昨年12月中旬、業務協議のためワシントンを訪問した際、ライス長官指名者から国務部・東アジア太平洋次官補席の提議を受け、協議を終えたと伝えられた。

○駐韓大使と国務省次官補のコンバートは、イレギュラーな感じではあるけれども、あり得ない話ではない。が、その後釜の駐韓大使に指名されたシーファー駐豪大使といえば、つい先ごろ駐日大使内定と報道されていた人である。どうなってるんでしょう。

○シーファー氏の駐日大使内定は、何重にも確認されている。今週の「ワシントン・ウォッチ」によれば、米国務省は1月25日にシーファー氏のために日本に関するセミナーの開催を決めている。ここでいうセミナーとは、日本でいう「レク」ないしは「ブリーフィング」。つまり大使指名確定者のために、専門家を集めて行うご進講というわけ。ここにはエズラ・ボーゲル、ジェラルド・カーティス、ジョン・ダワー、ケント・カルダー、マイク・モチズキ、エド・リンカン、といったJapan Handsが召集されている。これだけの準備をいったいどうするの?

○シーファー氏は別段、豪州や日本や韓国に詳しい人ではない。ブッシュ大統領の「心の友」であり、かつてはテキサス・レンジャーズの共同経営者として10年過ごした間柄である。いつでも大統領に電話できる大使ということだ。そういう人を送り込むのは、対日関係を重視している証拠だといわれていたのが、なぜ急に韓国大使に差し替えられるのか。

○誤報の可能性はあるけれども、ワシントンのN氏のレポート本日分でも、"Chris Hill to replace Jim Kelly (true, we keep being told, but still unconfirmed) will be followed by the almost-as-surprising “switch” of Bush Pal Tom Schieffer from Tokyo to Seoul? "との一文がある。何か東アジア政策で妙な動きがあるのでしょう。うーん、なんじゃらほい。


<1月14日>(金)

○中国では、「年間5万件の暴動」が起きているそうです。1日平均136件、と考えると、これは多い。今日は、かの国の社会情勢はどうなっているのだろう、という議論していて、この辺が盲点になっているのではないか、という話になりました。

(1)90年代前半のインフレ期。天安門事件の後、92年の南巡講話から改革開放路線が加速したわけだが、計画経済を自由化する過程で、モノ不足社会では一気に物価が上昇した。中国経済というと「デフレ体質」という印象が強いが、中国人はほんの10年前には高インフレによる生活苦を体験している。

(2)貧富の差。さまざまな理由で大金持ちが誕生しており、ジニ係数は0.4台と米国を上回るほど。貧富の差の拡大が社会主義時代への追憶を生む。暴動が起きる際に、かならず出てくるスローガンは「毛沢東万歳」であるとか。

(3)戸籍制度。今日の伊藤さんのサイトでも取り上げていましたが、この問題が非常に分かりにくい。というか、まずは想像を絶する話です。以下は、伊藤さんの説明から流用。

●中国の人々は、戸籍などから基本的に三つのグループに分けられる。農村戸籍の人、その農村戸籍でありながら都市に出稼ぎに出ている人(移動人口と呼ばれる)、それに都市戸籍を持つ人。農村戸籍人口は7〜8億人であり、そのうち家族を含めると2.4億人が移動人口になっている。残りは都市人口である

●農村戸籍に入る人々については、ごく豊かな農村に例外的に存在する以外は、社会保障システムは存在しない。移動人口に入る戸籍は農村にありながら都市に居住する人々は、むろん社会保障システムは存在しないし、子供を都会の学校に入れることも出来ない

●都市に住む人口の内でも、年金保険や医療保険に入っている人は1〜2億である。中国でも、社会保障システムを徐々に広げようと言う努力は行われている。移動人口に対しては、少なくとも医療保険制度を適用しようと言う一部都市当局の努力もある。しかし、急速に老齢化している人口に対処できているかと言えば、それはノーである

○この不規則発言の2001年7月18日分で、戸籍制度の話に触れています。ネタ元の人は、「この話は活字にできないんです。書くと、もう中国に入国できなくなりますから」と言っていました。当時はまだ「ヤバイ話」だったのです。最近では、そんなタブーもなくなってきたようで、こんな風に堂々と議論されています。それだけ中国もさばけてきたということでしょう。

○一方で、上記の(1)〜(3)の話を総合して考えると、今日の中国社会の危なっかしさが見えてくるような気がする。反日感情の噴出などは、そのほんの一部に過ぎないのかもしれません。


<1月15日>(土)

ウォーカーヒルのカジノで偽札発見とのこと。しかも一度に420万円。「質感が違う」ということで職員が気づいたそうだが、カジノというところは最高額紙幣が飛び交うところなので、チェックする側も偽札には気をつけている。というか、毎日、大量のお札に触っている人は、偽札は嫌でも分かるようになるものだ。加えて隠しカメラもあるから、後で知らん振りも出来ない。本気で偽札を使うつもりならば、カジノはお勧めの場所ではない。今回の客はカジノ・フリークであるようだし、確信犯の偽札使いであった可能性は低いと思う。が、まあ、その辺は本題ではない。

○かんべえは1996年に、ウォーカーヒルに行ったことがある。会社の麻雀仲間5人が「海外で博打をしよう」という話になり、それだけが目的でソウルで二泊した。お陰で家族のヒンシュクは買ったけれども、あれは楽しかったな。かんべえが行ったことがあるカジノはラスベガスにマカオ、あとはニュージーランドのスカイタウンくらいだが、ウォーカーヒルは別格の楽しさがある。その辺の話をしてみたい。

ウォーカーヒルのカジノは、韓国が発展途上国だった時代に外貨を稼ぐのが目的で作られたものなので、自国民はオフリミットである。ということで、客のほとんどは日本人である。今だったら中国人観光客が多いのだろうな。カジノの中は日本語が通じる。というか、ほとんどの会話が日本語である。そうかと思うと、「ツイテねえなあ!」とぼやいていたどこかのオヤジが、突然、韓国語でディーラーに食って掛かったりするので、在日人口比率が高いようである。なかにはパチンコ屋のあがりを落としている人もいるのであろう。カネは天下の回りもの、といったところか。

○カジノの中は酒と軽食がタダ、というのは世界標準のルールである。店側としては、「客を酔わせて」「長居をさせて」、結果的にたくさんお金を使わせようという魂胆である。ウォーカーヒルももちろんそうなのだが、ここのメニューにはうどんがある。たしか関西風のだしだったと思う。うどんを食べながらブラックジャックが出来る、なんてカジノはここしかあるまい。(国内の違法なカジノのことはよく知らん。ギャンブルは紳士の遊びなので、合法的に遊びましょう)。ほかにも焼き飯やサンドイッチがあった。

○こんな環境だと、ついついアットホームになってしまい、ますます客は油断をし、お金を落としていくのである。そもそもギャンブルをするときは、なるべく孤独であることが望ましい。衆を頼んでいいことは何もない。5人の仲間は楽しく全員が負けた。言葉が通じて、メシも日本風となると、ついつい勝負が甘くなってしまうのである。

○それでも、ウォーカーヒルでの勝負の記憶は鮮明に残っている。深夜にバカラで長期戦をしていたら、米長邦雄似のいかにも勝負師といった風情の日本人がやってきて、金色に光る100万ウォン・チップを張ってきた。通貨危機以前の当時のレートでは14万円くらいか。この人の出る引くが実にしっかりしていて、確実に勝てそうなときを選んで勝負をしてくる。瞬く間に、数十枚の100万ウォン・チップを増やし、きれいに場を洗って立った。不思議なもので、こんなのを見てしまうと、その場にいた負け組全員が嫉妬するよりは拍手してしまうものである。

○ボロ勝ちの勝負師が立つと同時に、ディーラー側が「今日はもうお終い」を宣言した。負けたけれども、今夜はいいものを見た、と思った。勝負に疲れた午前3時、ブラックジャックで苦戦している後輩を覗き込んだら、手札の絵札2枚をスプリットしていた。「悪いことは言わないから、もう止めろ」と後ろから肩をつかんだことを覚えている。(ちなみにスプリットはAと8のときだけ、というのがBJの定跡である)。

○本当はギャンブルだけで過ごす予定が、ガイドの口車に乗せられて旧日本総督府に連れて行かれたり、南大門で得体の知れないものを食べたり、とにかくあんなに笑った二泊三日はなかった。ABロードで買ったツァーチケットX万円、カジノの敗戦X万円、心から笑った体験プライスレス、といったところか。帰国してみたら、当時、ナスダックで買っていたネットスケープ株が暴騰していたのでお釣りが来た。まだホームページも作っていなかったあの頃、かんべえは結構、ギャンブラーだったなぁ。


<1月16〜17日>(日〜月)

○阪神淡路大震災からちょうど10周年。ということで、いろんな特集が組まれている。こういうときのマスコミの条件反射であり、これが3月20日になると、今度は地下鉄サリン事件で同様なことが繰り返されるのであろう。そういう現象を、あほらしいという気もするけれども、ときに居住まいを正して、厳粛に受け止める必要もあるのではないかと思う。震災もサリンも、あまりにも大きな不条理であったから。

○2003年10月29日の当欄でも少し書いたけど、神戸の「人と防災未来センター」を訪問したときのことを思い出す。震災当時を伝えるさまざまな資料が展示されていて、もう見ていて胸が詰まってしょうがないのだけれど、いちばん「ぐっ」と来たのは、震災後の生活を詠み込んだ俳句が中にあった、こんな17文字である。(多少の記憶違いがあるかもしれない)。

仮住みの 暮らしに慣れて 秋刀魚焼く

○秋刀魚、というからには季節は秋であり、震災からはもう半年以上が過ぎている。おそらくは震災で奥さんを無くされたのであろう中年男が、仮設住宅の前に七輪を出して、一人で手際よく秋刀魚を焼いている。今日も生きていくための夕餉の肴には、ささやかな幸福感さえ漂っているようだ。しかし、その背中の向こうに、なんと深い哀しみが横たわっていることか。

○と、こんな風に情景が浮かんでくるのは、自分が同時代史として震災を目撃したからにほかならない。知らない人であったら、「何のことだ」で終わってしまうだろう。震災の体験を語り伝える、というからには、この句が持つ切なさを、次の世代に分かってもらわねばならない。が、そんなことができるだろうか。それにしても、わずか17文字の世界が持つ奥行きはなんと広いことだろう。

○今日は内外情勢調査会の講師で平塚市に。天気が良くて、雪をかぶった富士山が美しかった。去年までは米大統領選挙の話をしていれば良かったのだけれど、今年は新しいパターンを作らなければならない。新作落語を披露する日の噺家のようなものである。「2005年の内外情勢展望」と題して、国際情勢、国内政治、経済と回転させてみる。初めてにしては上出来か。「油濁損害賠償保障法」の話はやっぱり受けますな。

○夜はイラクについての勉強会。イラクを安定させるためには「力による抑制」+「復興」+「国民の参加」の3条件が揃う必要があって、サドルシティーのように成功している場所もないではないが、ファッルージャのようにドツボに嵌ってしまった場所もある。全体としては、もちろん明るいとは言いがたい。

○今後の日程はこんな風になっている。

1月20日 大統領就任式
1月30日 イラク国民議会選挙
2月 2日 一般教書演説

○大統領就任式では、イラクについては軽く触れるにとどめ、一般教書演説用に残しておくのかと思ったら、「選挙結果は終わってから10日くらいたたないと分からない」という観測もあるらしい。ブッシュさん、どうするんでしょうね。


<1月18日>(火)

○昼も夜も「箱弁当」を囲んでの研究会。そこそこ上質なお弁当を取っていただいているのだけれど、なんとなく食べた気がしない。そして深夜になると、物足りない感じになってしまう。でも、ここでラーメンなんぞ食べた日には、毎朝の腹筋30回と腕立て20回が無駄になる。我慢、ガマン。

○お昼の研究会では、シャレになんないような偉い人たちを前に、不肖かんべえがスピーカーを務める。テーマは日米関係。何を言っても、「そんなこと、君に言われなくても知ってるよ」とかわされてしまいそうなので、「ワシントンの政治ジャーナリストN氏を靖国神社に連れて行った話」をご披露する。Nレポートは購読者数600人で、日米関係に携わるキーパーソンたちに広く浸透しているので、関係者の間では「今度日本に行くときは、ぜひ靖国神社に行ってみよう」という変なブームが生じているとのこと。昨日、行ってきた多田ワシントン店長によれば、「英語版のパンフがなくなっていた」そうだ。

○夜は東京財団の研究会。この研究会には二つの目的があり、ひとつは提言をまとめること、もうひとつは「虎ノ門に“行列の出来る”安保研究会を作ること」。今宵などは、さまざま業界から18人も集まって、後者の目標はほぼ達成しつつあるのだけれど、前者は保証の限りではない。というか、今後の自分たちの頑張りにかかっている。

○今週は金曜日のお昼に、またまたこの手の研究会があって、かんべえがスピーカーを務めることになっている。そこで何を話すかはさておいて、とりあえず明日の昼はちょっと変わったものを食べておくとしよう。


<1月19日>(水)

○このところ傑作パロディが少なかった。こういう秀作をご紹介できるのは、当サイトとしても非常に名誉なことだと思います。

「(介入に)乾杯」(長渕剛調)

厚いビッドに思いをよせて、語りつくせぬ介入の日々 
時には買い下がり、時には買いあがり
オファ−をたたきあった、あの日

あれから10ヶ月たったのだろう、
沈む相場を幾つ数えたろう
海外の当局は、今でもあなたの、心の中にいますか〜

完敗!
いま君は罫線の大きな大きな節目にたち、
はるか長いドル売りを歩き始めた為替に戻りよあれ〜

惨敗!
いま君は当預残の大きな大きな重みに耐え、
遥か長いデフレを歩き始めた円に利上げよ あ! れ〜

○今年はプラザ合意から20周年、1ドル79円の最高値から10周年。ま、ホントにドル安円高になるかどうかはさておき、経験的に言っても、こういうパロディが出るようになるときは、相場は荒れるんでしょう。出でよ、秀作!


<1月20日>(木)

○ワシ自身も他人の結婚式で、何回歌ったか数え切れないほどだが、この『乾杯』は本当にいい歌ですなあ。と、いう人が多いのか、こんなのが回ってきました。ひょっとして、市場関係者は暇なんだろうか。

> 負けた相場に思いをよせて。
> 無くした金を思い泣く日々。
> 時には損切り。時には塩漬け。
> ためいきですぎた日々。
> あれから15年たったのだろうか。
> 悪夢の日々は終わったのだろうか。
> バブルが弾けた傷をあなたはすでにいやしたのだろうか。
> 完敗。今、俺たちの人生はすべてをいちから、やり直し
> 完敗!今俺たちの人生は失うものが無い。

○世の中はNHK対朝日新聞の大戦争だそうです。ワシは朝日新聞を読まないので、何が起こっているのかよく分かんないのですが、とりあえず朝日ではない某紙記者が教えてくれたこのサイトは笑えます。

●アサピー・ドットコム http://asapy.asahicom.com/index.html

○そうかと思うと、こんなタレコミもあったりして。

基本的には、報道局と番組制作局という2大勢力があり、供給側の論理で、派閥争いをしてるんですね。で、ここは、お互い不干渉だったんですが、海老沢会長になってから、報道局の番組制作局への介入が活発になったんですね。そのコンテクストで見ればいいんだと思います。基本的には、報道局→総合+BS1 番組制作局→教育+BS2で、両方をまたいだ頂点にクローズアップ現代とNスペがあります。

○へぇ〜!でござりまする。お陰で、BSに2つのチャンネルがある理由が分かりました。ま、それはともかく、毎日見るNHKだけはちゃんとしてほしいです。

○最後に、意味不明の暗号文をご紹介します。このメールの意味を皆さん、解読してください。とっても重要な情報のような気がするのですが・・・・

SKYPEであります、大兄。
電話は今日をもって、死んだと思ってください。
一年365日、24時間接続しっぱなし、聞こえっぱなしの常時会話環境が、タダで。
しかも高音質で。
今日だけで僕はこのタダソフトの信者を10人は増やしました。
溜池でこう書いてください。
NTT以下電話会社の株式は、すべてショートに。
向こう1ヶ月以内に、電話会社は潰れる。
中期には、商社も危ない。
ピア・ツー・ピアになると、情報仲介代行業が軒並み潰れる。
一気に電話代が、タダ、タダです。

この革命の深度と波及度を、ぜひ。

○というわけで、今日は面白いメールをたくさん頂戴しました。皆さん、どうもありがとう!


<1月21日>(金)

○昨日のスカイプの件は、配偶者がこういうサイトを教えてくれました。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NCC/denwa/20040722/1/ 

○ITの世界はすごいんですねー。こういう世界についていけないワタシは、こんなことを考えてみたりする。

●2004年、世界的IT企業のお買い物

米国:グーグルが上場した時価総額、5兆円
韓国:サムスンがあげた経常利益、1兆円
中国:レノボグループが買ったIBMのパソコン事業、1800億円
日本:楽天とソフトバンクが買ったパ・リーグ球団、Priceless

○やっぱり日本は、ちょっとズレているのではないだろうか。


<1月22〜23日>(土〜日)

○あらためて、ブッシュの就任演説について。雪斎殿のエントリーを読んでいてちょっと触発されました。で、以下のような屁理屈をひねくりだしました。

○今回のブッシュ演説は、政治家というよりは宣教師のように、具体性の乏しいものとなった。全体を通して気がつくのは、Freedom 27回、Liberty 15回、Free7回と、文字通り「自由」を連呼したこと。が、これは2001年の就任演説においても、ブッシュはfreedomを5回使っており、下記のような印象的なセリフを残している。今から振り返ると、まるで今日を予告しているかのようでもあるが、これがもともとブッシュ流であり、スピーチライターであるマイケル・ガーソン(このたび辞任)の筆致であるともいえる。

The enemies of liberty and our country should make no mistake: America remains engaged in the world by history and by choice, shaping a balance of power that favors freedom.

○ただしこの時点では、「アメリカはこれからも自由を守るために頑張るぞ、世界の危ない連中はそこんとこ、忘れるなよ」と敵に告げただけであった。まさかアメリカ自身がテロ攻撃を受けるとは思っていなかった。それが「9/11」という挑戦を受け、アフガン、イラクという2つの戦争を戦い、2005年においてはこんな風に発展した。

The survival of liberty in our land increasingly depends on the success of liberty in other lands. The best hope for peace in our world is the expansion of freedom in all the world.

○つまりアメリカの自由を守るためにも、自由を世界に広げなければならなくなった。このロジックを延長していくと、下記のようなことまでコミットしなければならなくなる。これで中国の反体制派が立ち上がってブッシュ政権の庇護を求めたらどうするのか。ちょっと心もとない。

All who live in tyranny and hopelessness can know: the United States will not ignore your oppression, or excuse your oppressors. When you stand for your liberty, we will stand with you.

○世界に向かって、自由の防衛を訴えたのはJ.F.ケネディである。有名な彼の就任演説(1961年)はこんな風に訴えている。

And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you--ask what you can do for your country.

My fellow citizens of the world: ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.

○ケネディは、自由社会をソ連の脅威から守るために上のロジックを展開した。その精神はほとんど利他主義に近い。だから「世界の市民諸君に告ぐ、アメリカが何をしてくれるかではなく、人類の自由のために、我らがともに何を出来るかを説いたまえ」とまで言えたのである。そして上の決めセリフの直前には、「自由を防衛する仕事を歓迎する」とまで言い切った。

In the long history of the world, only a few generations have been granted the role of defending freedom in its hour of maximum danger. I do not shrink from this responsibility--I welcome it.

○ケネディの演説は、明らかに世界に向けて語られていた。そこに迫力があった。ところがブッシュの「世界の自由を守る」宣言は、アメリカ一国の防衛という利己主義に由来している。これでは世界の国々の支持を集めることは難しいだろう。同盟国としても、心から「さあ、一緒に戦おう」とまでは思いにくい。まして自由の敵と名指しされた国や団体は、どんな風に感じていることか。

○もちろんアメリカ国内向けのメッセージとしては、これで十分なのである。ブッシュは"My most solemn duty is to protect this nation and its people against further attacks and emerging threats."と宣言する。なんと頼れるリーダーではないか。そのために世界に自由を広げるのだと。おお、まことに結構ではないか。それが世界の他の国にとって、はた迷惑かもしれないとは考えないのが、良くも悪くもアメリカ人というものである。

○あらためて2つの演説を読み比べて思う。何のために自由は大切なのか。そして自由の敵とは何なのか。ブッシュ演説は、この辺がちょっと怪しい。


<1月24日>(月)

○大統領就任式が終わったら、アメリカ北東部と中西部は寒波到来だそうで。かの地は雪が降ると、マジで外に出られなかったりしますからね。と、そんなことが気になっているのは、来週、ワシントンに行ってくるつもりだから。イラク選挙後で、一般教書演説があって、FOMCもあって、ブッシュ政権第2期の雰囲気を見てこようと思って。でも、寒いのは嫌だよう。

○実は風邪気味なのです。昨年末からずっと続いているような気がします。うーん、ぐずぐず。ということで、今日は早めに店じまい。それではまた。


<1月25日>(火)

このブログをやっている中岡望さんが来社。ランチしながら雑談。大統領就任演説の話や保守派の経済哲学といったところは定番なるも、実は中岡さんは映画やアニメにも詳しいことが判明。黒澤作品などは序の口で、宮崎作品も完全制覇されている様子。AKIRAや押井守まで飛び出したところで、そっちの話もブログでやってくださいよ、アクセス急増間違いないですよ、などと余計なことを進言する。

○中岡さんは中央公論の原稿を脱稿したばかり。テーマはカール・ローブ。そういえば当方も、昔々に数少ない材料をつなぎ合わせて、ローブのことをSAPIOに書いたことがあった。最近は彼も「アーキテクト」などとビル・ゲイツ並みの称号を奉られ、関連情報も増えているが、それだけに詳しい人も増えているので、書きにくい話題だったかも。とりあえず来月10日発売号にご注目と書いておこう。

○それと直接に関係はないのだが、今週発売の週刊エコノミスト誌に掲載されている黒田前財務官の論文(学者が斬る、ドル暴落説は現実的ではない)が面白かった。何というか、為替について久々に大人の議論を読んだような気がする。というか、あたしゃ双子の赤字論の大合唱に辟易しているわけでありまして。この先、来週のG7まではこの話題に注目しましょう。

○日経のS記者が来社。当サイトの長年のファンであるとのこと。大統領就任演説に関する取材が一段落すると、最後は日経グループの方々の噂話に。くしゃみをされた方が多かったかも。かくいう当方も、まだ風邪が続いております。


<1月26日>(水)

○風邪、よくなりませんなあ。このところ、海外出張から帰ると風邪を引くパターンなのですが、これでは先が思いやられます。ゴホゴホ。下の娘が同じようなセキをしているので、親子で仲良く移しあっているような感じ。

○中東の情報源って、あんまり適当なものがないのですが、日本語でこんなものが出来た。

●メムリ:中東報道研究機関 http://memri.jp/ 

○インド洋津波を「天罰ないしは陰謀」と見なす意見が出ている、なんて話は「へえ〜」Xαって感じ。全体にイスラム圏に対して厳しすぎるような気もするけど、ま、メモのつもりでここに記しておこう。

○それから今朝の日経に出ていた国連の世界経済予測はここにある。

●World Economic Situation & Prospect 2005 (ニュースリリース) http://www.un.org/esa/policy/wess/wesp2005files/wesp05pr.pdf 

○こういうのをメモしておくと、あとで便利なんだよな。2005年のGDP成長率は、世界経済は3.75%、アメリカが3.0%、西欧が2.25%となる。日本は?と思えば豪州とNZとあわせて"Asia and Oceania"とくくられて2.25%だそうだ。悪いけど、日本経済に比べれば豪州とNZはほとんどネグリジブルなので、これが日本経済への評価と見なして良さそうだ。

○昨年9月に出たIMFのWorld Economic Outlookに比べると、全体に慎重な見方になっているような気がする。まあ無理もない。2004年は良すぎたんだもの。2005年はほどほどでしょう。

○これに加えて、昨年12月に出たOECDの世界経済予測のデータがここにある。OECDは先進国だけなので、途上国の予測は入っていないけど、国連(05年1月)、IMF(04年9月)、OECD(04年12月)と3つあわせると、だいたいのコンセンサスは得られると思う。以上、私的なメモとしてリンクしておきます。


<1月27日>(木)

○「風邪なんてもんはねえ、薬を飲んで1週間、薬を飲まずに7日間」と、言って、頼んでも風邪薬をくれない医者というものが、昔、ウチの近所に存在した。真理だとは思うが、その5日目ぐらいになると、ああ、ちゃんと飲んでおけばよかった、などと思う。で、今さらながら、「ひきはじめによく効きます」などという薬を飲んでみたりする。あほです。

○今週月曜日に、自民党本部でベーカー大使の講演会があった。体調不良であきらめたんですが、次回の案内というのを見て「あっ」と驚いた。案内はここにあります。

https://youth.jimin.or.jp/oubo_n/index.html 

◆開催日 平成17年2月23日(水)

◆時間 (受付)13:30 (開会)14:00〜(1時間30分程度)

◆会場 自由民主党本部(地図をご参照ください)

◆主な内容 ・グレアム・フライ駐日英国大使によるスピーチ 講演テーマ:「英国の食文化について」(仮称)
 
◆お問合せ
bunkamura.ldp@mail.jimin.jp

◆申込み方法 参加をご希望の方は、以下のフォームに必要事項を記入の上、「送信」ボタンをクリックしてください。
    締切りは2月14日(月)。
    後日、ご招待状を送付いたします。なお、席数に限り(200名)がございますので先着順とさせていただきます。
    2月14日前に申込みを締切らせて頂く場合もありますのでご了承下さい。

○「英国の食文化」って、いったい何だろう? 本物の大使が行う講演会なので、「えへへ、これが英国流のユーモアってもんですよ」という落ちではないだろう。それにしても「英国」と「食文化」という言葉の場違いさはどうしたものか。

○喩えていえば、「ドイツ人のユーモア感覚」とか、「アメリカ人と謙譲の美徳」とか、「スイスの海軍力」とか、その手のエスニック・ジョークのような世界である。あるいは「大相撲協会の経営戦略」とか、「朝日新聞の公開論争術」とかでも可。とにかく、このテーマでどんな内容になるのか、興味は尽きない。

○などとあんまり茶化すと、英国人および英国政府、ならびに主催者の自民党に対して失礼になるのだけれど、この講演会、ちょっと気になる。わざわざ自分で聞きに行くほどではないけれども、誰か聞きに行って内容を報告してくれないかしら。


<1月28日>(金)

○アメリカ出張を直前に控えて、今日は運良く日本国際問題研究所の中山俊宏さんの話を聞く機会があった。以下、すごーく納得した部分を書いておきます。

(1)ブッシュ政権の第1期は「再選されること」が大目標だった。そこでカール・ローブなどのホワイトハウススタッフが強力な権限を持った。では2期目にはそこが変わるかというと、今度は目標が「Legacy Building」に変わっただけで、今まで通りの体制が続きそうだ。この先の目標は、2008年後もずっと共和党の政権が続くことであり、「Permanent Majority」化である。

(2)ブッシュがどんな形でレガシーを残したいのかといえば、それは「保守的な大統領」として歴史に名を止めたい。具体的にいえば、1964年のゴールドウォーター(ゼロからのスタート)、1980年のレーガン(ホワイトハウスをゲット)、1994年のギングリッチ(議会の多数派をゲット)、そしてブッシュは「本当の意味で保守的な政策を実現した大統領」になりたい。そうすれば、「保守派聖人列伝」に仲間入りである。

(3)だから第2期はやっぱり内政重視。たとえば意外に重要なのは「不法行為改革」だ。法廷弁護士による「ためにする」ような訴訟を止めさせて、馬鹿げた慰謝料請求を減らしましょうという狙いである。米国企業はこの動きを歓迎するので、自然と共和党に対する献金が増えるだろう。逆に法廷弁護士は民主党の強力な支持基盤なので、当然、この動きをつぶしに来る。が、共和党としては、極端な話、議会を通らなくてもいいのである。民主党が反対してくれたなら、「ほーら見たか」と言うことが出来る。これで2008年にエドワーズが大統領候補になろうものなら、「飛んで火に入るナントカ」である。

(4)それでは外交・安全保障政策はどうなるのか。イラクの現状について、共和党内ではきわめて現実離れした議論が行われている。だから手詰まりは否めない。ところが攻めるべき民主党側は、草の根の「反戦平和主義者」グループと、党内エリートの「現実外交」グループに割れてしまって、焦点が絞り込めないでいる。2004年選挙では、外交問題における民主党側の声として、ブレジンスキーの発言が目立った。ほかに人はおらんのか、というと、民主党側の反共タカ派論者はほかにいないのである。(ほとんどネオコン派に寝返ってしまった)。だから、与野党ともにピンぼけ発言を繰り返している・・・・

○ブレジンスキーの名前が出たついでに、キッシンジャーの今年の予言も書き留めておきましょう。

●ヘンリー・キッシンジャー博士の10の予測 ](テレビ東京「日高義樹のワシントンレポート」1月9日放映)

@イラクの政府がつくられ、ゲリラ・テロの戦闘は減るが、最終的な解決には至らない。
Aイランに対するアメリカの軍事的侵攻はない。
B北朝鮮の核兵器問題の解決に向って大きく進展する。
C中国は経済的に拡大を続け、政治的にも安定し、社会的な変動はない。
Dプーチン大統領は厳しい批判にさらされる。
Eドルは危機が起きないかたちで一定のレベルに落着くだろう。
Fアメリカとヨーロッパとの関係は2月の米大統領の訪問により改善に向う。
G日本経済は今年も引き続き順調だろう。日本企業は長期計画に長けている。
H日本はアメリカと同盟体制をとりながら、軍事的な独立に向う。
I世界には、今年、様々な変化があるが、私は全体的に楽観している。

○総じて妥当な感じがいたします。


<1月29日>(土)

○さすがに風邪が治まってきた。そうでないと困る。だって明日から寒いさむい米国東海岸に行くんだもの。それにしても終わってみれば、あの辛さはいったい何だったのか。あんまり咳き込むものだから、腹筋運動を止めてしまっていたくらいである。ふと周囲を見渡すと、下の娘もほとんど治っていて、その一方で配偶者にうつしてしまったような。

○明日はイラク国民議会選挙が行われる。その後の1週間のワシントンを見てこようという趣旨です。来週は2日に一般教書演説もあるし、1〜2日はFOMCがある。そして4〜5日はロンドンでG7。なかなかに面白い1週間になると思います。

○今回の出張は東京財団の研究プロジェクトによるもの。坂本正弘・前中央大学教授と、菅原出・東京財団リサーチフェローと一緒の珍道中になる。これを老壮青の組み合わせ、などと表現すると、「老」にされてしまう坂本先生は嫌がらないだろうが、実は「壮」になってしまう自分が嫌だったりする。坂本先生は「トランスフォーメーション」に関する提言をまとめたところで、軍事関係を中心に。菅原さんは中東政策に重点。当方はブッシュ政権第2期のゴシップと、あとは時節柄、為替が気になりますね。

○ということで、明日の全日空便でワシントンに出発するのですが、問題は、さる場所の原稿をまだ仕上げていないことである。今日になって、やっと取り掛かっているのだが、さすがにこれは今晩中に終わらせねばならぬ。ところが今宵は「火の用心」があったりする。あれが終わると、酒盛りになってしまうのだ。果たして本当に今夜、上がるのだろうか。編集者の方に警告を発しておこう。


<1月30日>(日)in 成田

○ただ今成田空港である。出掛けに気づいたが、配偶者が先週までの自分とまったく同じ咳をしていた。風邪は天下の回りものなのでしょうか。

○そういえば、すれ違いに終わった上海馬券王先生も、今日で上海に戻るはずである。空港内のどこかにいるかも。先生ったら、連日の宴会漬けをものともせず、昨日はちゃんと競馬をやられたようで。でも、根岸ステークスはやっぱりメイショウボーラーでしたねえ。サミーミラクルは来ませんでしたねえ。と、意地悪を言ってみる。ちなみに今日の東京新聞杯はハットトリック、京都牝馬Sはチアズメッセージなんだそうだ。といっても、買えない私にとってはどうでもいいんですけどね。

○それよりも全世界的に重要なのは、本日がイラク国民議会選挙であるということで、この結果次第でいろんなことが変わってくる。われわれが飛行機に乗って太平洋を飛んでいる間に、選挙は行われる。現地は相変わらずの荒れ模様ですが、果たしてどうなるのでしょう。

○欧州ではちょうどWEFダボス会議をやっていて、この記事が「いかにも」といった現地ムードを伝えている。

http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/europe/news/20050130k0000m030124000c.html 

 イラク戦争から続く対米批判の疲れとむなしさの中で、ブッシュ政権が2期目に入った機会に何とか変化への期待に切り替えたいとの願いが、米国への関心につながっている。何事も米国抜きでは動かない現実を受け入れねばならないのか。だが、あと4年もブッシュ政権と向き合う以上、今からあきらめるわけにはいかない。そんな思いが交錯しているようだ。

 ブレア首相演説の後、何ともいえない高揚した空気が会場を満たした。出席者の心の中にあるアメリカへの思いをうまく代弁していたのだろう。

 「どんなに力のある国も、(地球規模の問題は)1国だけで解決できないということが十分わかっている。米国は軍事力だけでテロを撲滅できないことを認めている」。ブッシュ大統領の就任演説を“解読”しつつ、「もし米国が自ら設定した目標に世界を取り込みたいなら、米国も世界の課題に協力しなければならない」と注文をつけた。


○他方、ワシントンではライス国務長官の就任式が行われている。ブッシュ大統領がわざわざ国務省に出てきて一席ぶっている様子が、国務省のサイトの中で紹介されている。

http://www.state.gov/r/pa/ei/wh/rem/41340.htm 

Thank you all for coming. Laura and I are honored to be here. Over the past four years, America has benefited from the wise counsel of Dr. Condoleezza Rice and our family has been enriched by our friendship with this remarkable person. We love her -- I don't know if you're supposed to say that about the Secretary of State. (Laughter.)

○お父さん、娘の晴れ舞台を黙って見ていられなくて、保護者よろしく出かけていった。「だって僕らは彼女が大好きなんだもの」というのは自爆気味ですが、ちゃんと前任のパウエル長官を持ち上げたりして、良き上司振りをアピールしている。そして新国務長官は、優等生の演説でこれに応えている。

○相変わらず、アメリカの外と中には大きなギャップがある。さて、そろそろ搭乗手続きが始まるんじゃないかしら。


<1月30日>(日)in USA

○軽い吹雪のダレス空港は、ちょっと『ダイハード2』を思い出すような情景です。見かけほど寒くはない。が、暖冬モードに慣れた体がちょっとだけ引き締まる。アメリカ政府が昨年9月から導入した方式により、両人差し指の指紋と顔写真を撮られて入国する。

○ダウンタウンに向かうタクシーの運転手は、インド生まれのムスリムであった。「9・11」以後は受難の日々で、教育機関における仕事を失って1年間。イラク戦争についてはもちろん"I don't care."と語気が強くなる。それでもテロ攻撃は憎むべき罪であって、大統領選挙ではブッシュを支持したというから、この辺の心理状況はよく分からない。ムスリムのコミュニティでも、ブッシュとケリーは「fifty fifty」であったという。

○それにしても日曜日のDCのダウンタウンは人気が少ない。雪も続いている。チャイナタウンで昼飯。天気がよければ歩き回るのだけど、寒いし眠いしでホテルの部屋でテレビを見る。なんとイラクの国民議会選挙は72%の高得票率であったという。これは驚き。日本を出る前は、こんな記事が出ていたというのに。

<朝日>

●「投票しないだろう」を「3分の2投票」に修正 大統領

 イラク暫定政府のヤワル大統領が29日、バグダッドで記者団に対し、30日投票の国民議会選挙について「イラク人の大半は、治安上の理由から投票しないだろう」と悲観的な見方を示した。ところが、その数時間後に「有権者の3分の2は投票する」と述べ、事実上、前言を撤回する一幕があった。

 投票率については、暫定政府閣僚や米国政府筋の強気の予想でも「50%」程度。その中で、「3分の2」は最も楽観的な予想といえる。

 イスラム教スンニ派の住民は、有力政党の選挙ボイコットや武装勢力による攻撃の混乱で、低い投票率が予想されている。ヤワル大統領は「治安への懸念」が低投票率につながると言いたかったようだが、発言が瞬く間に世界中に配信され、影響の大きさに発言を修正したようだ。

○だんだん報道はお祭り騒ぎの様相を呈し始めている。なんといっても、在米イラク人たちが大喜びである。彼らも投票しているので、選挙の成功に沸き立っている。C−SPANの討論番組を見ていたら、「このことで、アメリカ人も自由のありがたみを再認識するのではないか」てな発言が出ていた。おいおい、そこまで言うか。FOXニュースに換えてみたら、"Great Great day"などと言っている。きっと日本では、とても懐疑的な報道をするのだろうけど。

○時差ぼけの頭でぼんやりしながらテレビを見ていると、午後4時になってブッシュ大統領が登場して短いメッセージを寄せた。おそらく一般教書演説用には、「楽観用」「普通用」「悲観用」の3通りくらいのシナリオを用意しているだろうが、今頃は「超楽観用」に書き直しを命じているのではないだろうか。明日の新聞はどんな風に書くのだろう。


<1月31日>(月)

○時差のせいで夜中に目が醒めてしまう。ので、ちょっとだけ書いてみる。

○まず、読者から頂戴した「日本のマスコミ状況」。

日本のテレビ報道ですが選挙直前(日本時間日曜午前中)は、なんとなく失敗しそうな予感でやるき満々でしたが
いざふたを開けてみると、大混乱もなく高投票率で、夕方以降は各局スルーみたいです。

月曜朝の各局トップは「勘九郎、息子逮捕で謝罪会見」でした…orz

○実は内心、選挙が失敗すればいいと思っていた社もあったかもしれませんけど、これは素直に評価しないと拙いような気がします。「やっぱり普通のイラク人はテロに反対である」「普通の民主政治が始まることを歓迎している」ことが確認されたのですから。選挙の正当性にケチをつけようと思えばいくらでもできるし、イラクの前途は不安だといえばその通りである。が、人口2000万人の国で、800万人が参加した選挙が行われたという事実に目をつぶる必要もないわけで、素直に喜んでいいのではないでしょうか。

○こちらでは「歴史的な一日」という報道がもっぱらです。久々にイラクから届いた明るいニュース。今後は、これまで腰が引けていた国連などの国際機関も、イラク復興に本腰を入れるだろう。たとえば撤退を決めている国も、「出直し参加」を考えるかもしれない。日本でいえば、「小泉超ラッキー伝説」に新たな1ページが加わったということになるのかも。逆に他の中東の国とか、「圧制国家」とご指名を受けている北朝鮮などが、どんな風に受け止められているか、気になるところでもある。

○「これでブッシュが喜ぶのが気に入らない」という人がいるかもしれない。まあ、確かにテレビに出てくるブッシュさんは、自然に顔がほころんでくるようなご機嫌ムード。これでますます強気になって、世界中で暴れまくるようになったらかなわん、という気持ちは分からんではない。なにしろ彼の場合、口に出すことはすべて本気、というのは「悪の枢軸」演説以来一貫している。その辺も合わせて、水曜日の一般教書演説への関心が高まっている。なんとも楽しみな1週間です。












編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki