●かんべえの不規則発言



2016年1月






<1月1日>(金)

「申」は電光が走る象形
「神」の元の字であり「伸びる」に通じる

動物では「猿」
日本では猿田彦神社、中国では孫悟空

相場格言は「未辛抱、酉騒ぐ」
賑やかな1年となりそうである

猿にまつわる諺は否定的な意味が多いが
「三猿主義」(見ざる、言わざる、聞かざる)
はいわば戒めのようなもの

太閤秀吉が年だったとは、ちと出来過ぎか


も木から落ちる。だから楽しい。

本年もどうぞよろしくお願いします。


<1月2日>(土)

○年賀状をいただいております。当サイトやメールやFacebookなど、ついついネットでのご挨拶が増える世の中ではあるのですが、紙は紙で続ける値打ちがあるんじゃないかと思って、今回も年末が迫ってから丸1日でワーッと書いて出したところであります。

○そうかと思いますと、この人のように「本年から止めることにしました」と高らかに宣言される方もいらっしゃいます。理由を読んで吹き出してしまいましたが、至極ごもっともであります。日本郵政、いくら上場したからと言って、ちょっと考え直した方がいいんじゃないですかねえ。

○あらためていただいた賀状を見ていると、同世代人の中には出向や転籍、さらには引退をと、人生の第2ステージを迎えている人が少なくないようです。確かに当方も、自分がサラリーマンなのかフリーランスなのか、だんだん分からなくなってきているところですから、結論としては「引き続きよろしく」、もしくは「もうひと踏ん張り」ということになります。

○その一方で、もう面倒になったから書きません、という人も増えているようです。先月、出席したさる忘年会では、高齢者が多いこともあって、「既に図柄が書き込まれている年賀状」10枚セットをお帰りの際のプレゼントにしていました。これで、「どうしても来てしまった分のお返事だけは出しましょう」というわけ。こうやって少しずつ減らしていく、という人もいるんじゃないでしょうか。

○おせち料理やお年玉もそうですけれども、お正月の習慣には煩わしいところがあります。でも、止めてしまったらもとには戻せなくないでしょうから、今年も止める勇気がなくて続けております。たぶん世の中の大勢も、そんな感じでありましょうなあ。


<1月3日>(日)

○今年の年末年始はあっという間に終わってしまい、明日はもう出社です。はてさて、せわしないものよのう。仕事始めに、米大統領選挙の動静を見てみましょう。

○今年は米大統領選挙の日程が後ずれしているので、初戦のアイオワ州党員集会が2月1日となっている。そこでまだゆったりしているのですが、関係者にとっては気が気ではないでしょう。いつも通り賭け事サイトから見ていきます。


2016年大統領選挙の勝者

ヒラリー・クリントン 8/11    1.7倍

ドナルド・トランプ 9/2     5.5倍

マルコ・ルビオ 5/1       6.0倍

テッド・クルーズ 7/1       8.0倍

ジェブ・ブッシュ 18/1      19.0倍

バーニー・サンダース 18/1  19.0倍

クリス・クリスティー 25/1   26.0倍


○なんとヒラリーさんが単勝1倍台の強さです。(いつものことですが、英国ブックメーカーが多用するフラクショナル方式は分かりにくいので、われわれが慣れ親しんでいるデシマル式に換算しております)。それにトランプ氏、ルビオ、クルーズ両上院議員という共和党のトリオが続きます。それ以外の候補者は大きく引き離されています。まずはこの辺が相場観ですな。

○さて、差し当たって最も注目は共和党の候補者選びですが、それはどうなっているのか。


共和党の候補者選び

マルコ・ルビオ 7/4     2.75倍

ドナルド・トランプ 2/1    3.0倍

テッド・クルーズ 5/2     3.5倍

ジェブ・ブッシュ 9/1     10.0倍

クリス・クリスティー 14/1  15.0倍


○あれれ? こちらで見ると、共和党内ではルビオが一番人気となり、僅差でトランプ、クルーズが続きます。共和党内ではこの上位3人がリードしていて、後は足切りとなる気配が濃厚ですね。今度はもっと近視眼的になって、アイオワ州党員集会とニューハンプシャー州予備選の動静を見てみましょう。


共和党のアイオワ州党員集会(2/1)

テッド・クルーズ 4/9     1.4倍

ドナルド・トランプ 5/2    2.5倍

マルコ・ルビオ 6/1     7.0倍

ベン・カーソン 20/1     21.0倍


共和党のNH州予備選挙(2/9)

ドナルド・トランプ 6/4     2.5倍

マルコ・ルビオ 15/8      2.88倍

クリス・クリスティー 9/4    3.25倍

テッド・クルーズ 7/1      8.00倍


○アイオワ州は宗教的保守派が強い州なので、クルーズが一歩リードしています。2012年はサントラム上院議員、2008年はハッカビー知事(アーカンソー州)が勝っていますからね。ニューハンプシャー州は、むしろ経済的保守派が強いので、2012年はロムニー知事(マサチューセッツ州)、2008年はマッケイン上院議員が勝っています。こうしてみると、アイオワ州よりもニューハンプシャー州の方が重要だという感じですね。

○そのNH州は、トランプ&ルビオ&クリスティーによる混戦状態です。トランプ人気が今一つなのは、ジェブ・ブッシュがカネに任せて反トランプキャンペーンをやっているから、という事情があるようです。当面の最大の注目点はここですな。

○いずれにせよ序盤戦の2州が重要で、不肖かんべえとしてはここでトランプ旋風が失速すると見ております。あと1か月ですから、今月は上記の数字を小まめにチェックする必要がありますね。さて、どうなりますか。


<1月4日>(月)

○お待ちどうさまでした。ユーラシアグループの「2016年Top 10 Risks」は本日発表です。


1.The Hollow Alliance

2.Closed Europe

3.The China Footprint

4.ISIS and "Friends"

5.Saudi Arabia

6.The Rise of Technologists

7.Unpredictable Leaders

8.Brazil

9.Not Enough Elections

10.Turkey

* Red Herrings


○以下、勝手な訳を付けておきます。


(1)同盟の空洞化

――過去70年間にわたって最重要だった大西洋同盟は弱体化した。ロシアのウクライナ侵攻やシリアでの紛争により、米欧間の亀裂が深まった。そうなると国際的な救助隊は存在しなくなる。これでは中東の大荒れは必至。


(2)閉ざされる欧州

――2016年の欧州は開放と閉鎖の両方向に引き裂かれ、格差と難民とテロと政治圧力が欧州の理念に立ち塞がる。英国のEU離脱リスクを過小評価するなかれ。経済は統合されたままでも、その他の分野はそうでなくなるだろう。


(3)中国の足跡

――たとえ穏やかなものであっても、中国の発展は世界中に波紋を投げかけている。中国は世界で唯一、グローバルな戦略を持つ国。最重要な国が最も不安定である、という認識は、準備のない他の国々を苛立たせる。


(4)ISISと仲間たち

――世界最強のテロ集団ISISは、不適切な対応も相まってナイジェリアからフィリピンまで賛同者を広げている。彼らが狙いやすいのは仏、露、トルコ、サウジ、そして米国。そしてスンニ派が多いイラクなどもご用心。


(5)サウジアラビア

――サウジ王国は今年、王室内の不一致で不安定さをまし、中東での攻撃姿勢を強めるだろう。先代のサルマン王時代には考えられなかった内紛の脅威が高まっている。サウジの心配は間もなく制裁が解除されるイランだ。


(6)先進技術の台頭

――さまざまな非国家アクターが、技術の世界から政治の世界に参入している。シリコンバレー企業からハッカー、引退した篤志家まで、野心的な技術家たちの台頭が政府や市民の退場を迫り、政策や市場の不安定さを増す。


(7)予測不可能な政治家たち

――ロシアのプーチン、トルコのエルドガン、サウジのサルマン副皇太子、そしてウクライナのポロシェンコなど、風変わりな指導者が国際政治を引っ掻き回す。1人なら単なる邪魔者だが、4人では不安定性だ。


(8)ブラジル

――ジルマ・ルセフ大統領が生き残りを目指す間に、国家の危機は深まる。大統領弾劾では今の混迷は解消しない。ルセフが生き残れば経済改革への推進力は失われ、居なくなればテメル副大統領には荷が重い。


(9)選挙が足りない

――2014年、15年は新興市場の選挙が相次いだ。ところが16年はその機会が少なく、国民の不満を深めるだろう。新興国では過去10年の収入増加により、国民の要求水準が高まっている。


(10)トルコ

――エルドガン大統領は与党の大勝後、議会制システムを大統領制に替えようと図る。しかしビジネス界や投資環境は悪化。安保面ではクルド勢力の制圧やISIS掃討への見込みは薄く、逆にテロ攻撃の危険は高まる。


*リスクもどき

――米国有権者はイスラム教徒に国を閉ざす大統領を選出せず、中国経済はハードランディングせず、政治の安定も続く。日本の安倍首相、インドのモディ首相、中国の習国家主席は強い指導力を維持し、アジアのリスクを軽減する。

○結論として、今年は新興国は大変なことになるけれども、日本とその周辺のアジアは安泰だということになる。とりあえず初詣のおみくじは「大吉」だった、ってところかな。


<1月5日>(火)

○時事通信社の新年互礼会(帝国ホテル)へ。

○毎年、総理大臣が新年挨拶をすることで知られる会合だが、本日の安倍首相は1日遅れの伊勢神宮参拝があり、本日午後の経済3団体主催賀詞交歓会も欠席されたとのこと。果たして間に合うのか。名古屋との往復ならばともかく、伊勢神宮となるとハードルは高そうである。

○その間に、来賓である新聞協会長から「軽減税率にはいろいろご批判もありますが〜」などという腰の引けた挨拶あり。さらに壇上に上がったのが公明党の井上義久幹事長で、これまた弁解がましいことを言う。つまるところ、軽減税率という制度は「読売=公明党連合」が主犯であることを確認。

○いろんな方とお目にかかったが、本日一番の収穫は生島ヒロシさん。久しぶりに会ったところ、「結果にコミットする」ライザップのお蔭で本当に身体が引き締まっているのである。お腹が割れているかどうかは未確認なるも、スーツも新しいのを買ったり、古いのを直したりで結構物入りであったとのこと。

「皆が同じことを聞くんだよ。リバウンドしてないかって」

○その気持ちは分からんではない。ワシだって、一念発起してライザップに通うような確率はゼロ%なるも、自分より年上の生島さんが減量に成功しているのは気になるではないか。生島さんがライザップに挑戦したのは昨年の夏で、「夜のお付き合い」が少ない時期を選んだのが良かったとのこと。それから既に半年以上が経過しているが、ちゃんと調整して体型を維持しているから立派なものである。

「ツライこともあったけれども、いちばん良かったのはちゃんと出来たという達成感を持てたことかな」

○この言葉には深く頭を垂れるほかはありません。この年になりますと、なかなかそういう心境には至りませぬ。

○で、遅れて到着した安倍首相の挨拶はこちらをご参照。さしたることもなしと思えば。


<1月6日>(水)

○新年明けて今日が6日目。七草粥にもまだ早い、というのにサウジとイランが断交するわ、今日は北朝鮮は水爆実験をしたのだとか。ホントかねえ。とりあえず、昨年末に日韓政府が慰安婦問題の手仕舞いを急いだ理由はこれだったんでしょうな。

○わずか6日間で、早くも「想定外」が2つも飛び出した。この調子で行くと、年内にいくつサプライズが飛び出すことやら。申年は「騒ぐ」と言いますので、事態がどんどん悪化していくというのではなく、上へ下へとから騒ぎが続く、というイメージでよろしいのではないかと思います。そりゃあサウジとイランが戦闘状態には入らないだろうし、朝鮮半島もドンパチするようなことにはならんのでしょう。でも、ホルムズ海峡封鎖はあるかもね。

○それにしても、こんなにわけのわからない時代においては、「ビックリ予想」を考えること自体が難しい。毎年恒例、バイロン・ウィーン氏の「ビックリ10大予想」こちら(邦文)、もしくはこちら(英文)をご参照。

1. 2016年米大統領選、民主党のヒラリー候補が勝利
2. 米株は下落
3. Fedは2015年12月利上げ後、2016年の利上げは1回のみ
4. 海外投資家、米株の持ち高を縮小
5. 中国は辛うじてハードランディングを回避も経済減速は免れず
6. 難民問題でEUは再び崩壊の危機
7. 原油は30ドル台で低迷
8. ニューヨークやロンドンなど、高級不動産が急落
9. 米10年債利回り2.5%以下で推移
10. 世界経済成長率は2%増へ

○これでは、ちょっとビックリ度が低過ぎでしょう。特に5番から7番あたりは、そうならない方が不思議だと思いますぞ。申年はこの程度では済まないのではありますまいか。

○本家本元がぱっとしない一方で、みずほ総研の「とんでも予想2016年版」はなかなかの出来です。こちらをご参照。トランプ氏当選にリオ五輪が中止とは・・・。いやはや、今年は何が起きるかわかりませぬぞ。


<1月8日>(金)

○本日は講演会で名古屋へ。おそらく日本で最も景気のいい地域だと思います。中京圏で景気のいいニュースを探すと、以下のようにズラリと並びます。

(1)MRJが飛んだ。

(2)G7サミット会場も近い

(3)トヨタは史上最高益を更新。新型プリウスも好評。

(4)リニア名古屋駅の用地買収が始まっている。

(5)JR内の高島屋は絶好調。

(6)新装なった大名古屋ビルヂングが今年3月にグランドオープン。

(7)中部電力も石油安で黒字に転換

○愛知県の有効求人倍率は昨年11月分で1.56倍。これでは人手不足がたいへんそうですな。もっともいまや、1倍を割っている都道府県は沖縄などごくわずかになっている。目指せ賃上げ、であります。

○問題は海外経済でありまして、中国の株価もわけのわからんことになっております。後は今宵の米雇用統計が気になるところ。今週は波乱続きでしたが、これくらいは驚かさないでほしいもんです。(→後記:29万2000人増でした!増えましたなあ〜)


<1月10日>(日)

○どうも昨年末以来、映画が癖になってしまいました。今日は『ブリッジ・オブ・スパイ』。スピルバーグ作品を見るのは『リンカーン』以来かな。

○いい映画です。いまどき2時間を超えて、まったく飽きさせないところはさすがです。そもそも有名監督が1月に封切りする映画というものは、必然的にアカデミー賞を狙っているわけでして、「ね、映画ってこういう風に撮るんですよ」と言っているみたいなところもある。ま、スピルバーグは『シンドラーのリスト』と『プライベート・ライアン』で2度も取ってるからいいじゃん、と思いますけど。それとも、『ミュンヘン』と『リンカーン』で逃したのが悔しいのかもね。

○それから主演のトム・ハンクスはあいかわらずよろしいです。いつも通り、アメリカの良心を体現するような役柄です。さらに彼が、弁護士として守るソ連のスパイ役(マーク・ライランス)の存在感がすばらしい。スピルバーグが戦争を撮るときは、ロシア人や日本人はあまり悪く描かない。でもドイツ人は無茶苦茶ひどく描く。その法則は、今回も健在だったような気がします。

○舞台は1950年代の冷戦時代。多くの人の記憶の中で、スカッと抜け落ちている部分じゃないかと思います。学校で教わる核戦争の恐怖に怯える子供たち、東ベルリンに築かれる「壁」の怖さ、U2撃墜事件などです。個人的には、あの時代におけるソ連と東ドイツの微妙な関係、というのが勉強になりました。なるほど、そういうもんですよねえ。アメリカは当時の東ドイツを承認していなかった、というのも知りませんでした。

○概して後味のいい映画なんですが、気になるのはCIAという組織の陰険さ。政府というものは、あるいは官僚機構というものは、とっても保身的な存在なのである。この映画の中でも、善意の民間人=トム・ハンクスにリスクを押し付けてしまう。うまく行ったらしめたもの、失敗したら知らんぷりをする。ずるいよねえ。こういう部分は、きっと時代を超えて今も未来も変わらないに違いありません。

○ということで、佳き映画でありました。ただしアカデミー賞を取るためには、もうちょっとサプライズというか、理解に苦しむような闇の部分が必要であるような気もする。どうも前回の『スターウォーズZ』もそうですが、見終わって安心するようなラストであると、もう少し騙してほしかった、などと考えてしまう。観客とはまことに欲深なものなのです。


<1月12日>(火)

○デヴィッド・ボウイが死んだとのこと。彼の曲をそんなに聞いていたわけではなく、せいぜい『戦場のメリークリスマス』が印象に残っている程度ですから、正直、それほどの感慨はありません。ただし、「1947年生まれ」という点がワシ的にはツボです。つまり日本における団塊世代の先頭の年です。ビートたけしや星野仙一や、井崎脩五郎さんや寺島実郎さんたちと同じ年というわけ。全世界的に「しぶとい」人たちが多いものですから、「ううむ、そういう人でも死ぬのか」などと思ってしまいました。

○以下に1947年生まれの若干の事例を示しておきます。


*ヒラリー・クリントン:ファーストレディを8年、上院議員を8年、国務長官を4年。そして再び大統領選挙に挑む。いやもうお疲れ様です。

*アーノルド・シュワルツェネッガー:ボディビルダーから映画俳優になり、ターミネーター転じてカリフォルニア州知事。そしてまたまたハリウッド俳優へ。

*スティーブン・キング:『キャリー』『シャイニング』『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』の原作者。いったい何度、泣かされたことか。

*トム・クランシー:『レッド・オクトーバーを追え』に始まって、ジャック・ライアン・シリーズを多数。お蔭でアメリカは崩壊したり、日本や中国やロシアと戦争したり。

*エルトン・ジョン:男前でも妖艶でもなかった分だけ、ボウイよりも長生きしそうだよね。2つ年下のビリー・ジョエルよりは、きっとしぶといはず。


○この辺の人たちは、きっと80代になっても元気に仕事をしていそうです。きっとデヴィッド・ボウイのケースは、佳人薄命と呼ぶべきなのでしょう。ご冥福をお祈りします。(→後記;トム・クランシーは2013年10月1日に死去しています。お詫びして訂正いたします)


<1月13日>(水)

○先日聞いた話で感心したことの備忘録。

○デビッド・ボウイでもポール・マッカートニーでも、外国人アーチストはよく日本に来ます。これにはちゃんとした理由があって、@昔からのファンがいるから、チケットがかならず捌ける、A客層がいいので、モチベーションが高い、Bキョードーなどの興行主がしっかりしているので、不愉快な思いをしなくて済む、C日本は安全だしメシも旨い、などはいかにも納得なのですが、ちょっと意外なものとして、「1度の出張で複数のコンサートを要領よく開くことができる」というメリットがあるんだそうです。

○端的に言えば、「東名阪で3回」とか、「ついでに札幌と福岡も含めて5回」とか、同じ規模のコンサートを同一国内でいくつも開けるというのが、演じる側にとってはまことに魅力的なのです。アジアでこういう国は少なくて、韓国だったらソウルだけだし、タイならばバンコク、フィリピンならマニラのみとなる。中国では北京と上海、というのも可能ですが、移動時間が長い。その点、東京と名古屋間、名古屋と大阪間の移動の簡単さを考えれば、「日本はとってもいい国」に見えるんだそうです。

○われわれは「日本は一極集中」だと思ってますけれども、南北に細長い国土にドーム球場が5つもある、なんて国はそうそうあるもんじゃありません。なおかつ、移動時間も短いし。こういう点は、他人に言われないとなかなか気がつかないことですよね。


<1月14日>(木)

○今週のThe Economist誌のカバーストーリー("The Saudi brueprint"--溜池通信の本日号で紹介済み)に、こんなくだりがある。


The new leadership has made a start. Spending cuts in the last months of 2015 stopped the deficit from soaring to more than 20% of GDP. The 2016 budget includes steep rises in the prices of petrol, electricity and water (though they remain heavily subsidised). The prince pledges to move to market prices by the end of the five-year period. He is also committed to new taxes, including a value-added tax of 5%, sin taxes on sugary drinks and cigarettes, and levies on vacant land.


○最後の一文はごく普通に、「王子はまた5%の付加価値税と酒税と煙草税、空地への課税の導入を公約している」と訳しました。後から気づいたのですが、サウジアラビアで酒税(Sugary drinks)はまずいでしょう。国内にあってはいけない商品ですから。でも、こういう風に書いてあるということは、きっとインタビューでムハンマド王子がそう言ったんでしょうね。The Economist編集部、分かっていながら、「構わない、書いちまえ!」てなことになったんじゃないでしょうか。

○サウジアラビアのことはよく知らないんですが、知っている人たちは皆さん、最近の状況を心配しているようです。特にこの記事は勉強になる。締めの部分がすばらしい。


 サウジ新外交について考えていたら、最近見たスピルバーグ映画を思い出した。邦題は「ブリッジ・オブ・スパイ」だが、原題で「スパイ」は複数形だ。米ソ冷戦下に米国で起訴されたソ連スパイとソ連領内で捕まった米国パイロットを「交換」するスリルたっぷりの実話映画。厳しい冷戦下でも米国の裁判官はソ連スパイを死刑にしなかった。いつか、どこかで役に立つと考えたからだろう。だが今回サウジはシーア派法学者を処刑してしまう。これではイランとの取引・交渉に使えないではないか。

 サウド王家の長老は、米国など「頼り」にならず自ら行動を起こすしかない、とでも考えたか。それとも、30歳の若い実力者が暴走しているだけなのか。答えは意外に早く出る可能性がある。


○さすがは外務省の元アラビストの宮家邦彦さん。ところでワシは、明日からこの宮家さんと一緒に台北に向かう。既に日本中の親台派やチャイナウォッチャーたちが、週末の総統・立法院選挙に向けて、大挙して台湾に押しかけている模様である。いろんな人に会えるんじゃないかと楽しみにしております。


(→後記:surgry drinksとはコーラなどのソーダ類のことを指すようです。失礼いたしました。いつもながら親切な読者に深謝申し上げます)


<1月15日>(金)

○ということで、台北にやってきております。今日の台北市は小雨が続いて肌寒い一日です。「沖縄よりも南の島なんだから・・・」と思っていたけれども、コートを持ってきて正解でありました。冬の台湾はいつもこんな気候なんだそうです。

○明日はいよいよ台湾の総統&立法院選挙です。4年前も8年前も、この台湾の選挙を見に来ました。そのたびに沸々たるエネルギーを実感したものですが、今回は看板やポスターの数などは控えめな感じです。ただし、台湾では3度目となる政権交代はほぼ確実といわれていて、「民進党が立法院で過半数を確保できるか」が本当の焦点であるなどといわれております。

○午後にはさっそく、それぞれの選対本部を見てきました。

●国民党候補者:朱立倫&王如玄ペア

――スローガンは"One Taiwan"。建物は大きいし、警備員はやたらと多いんだけど選対本部に人が少ない。4年前に比べると、選挙グッズもあまり売ってない。防戦の選挙といった感じ。総統候補の朱立倫は新北市長だが、公務の休暇を取って在職のままで立候補している。

●民進党候補者:蔡英文&陳建仁ペア

――スローガンは"Light up Taiwan." とにかく人が多い。グッズも売れまくり。蔡英文の顔を思い切りデフォルメして、まるっきり「Kawaii」系にしている商品多し。つい買ってしまう。日本からの観光客もいて、入り口近くには「必勝」と書かれたダルマが置いてある。4年前の選挙と同じく「子豚の貯金箱」がマスコットとして使われている。

○今宵、午後10時をもって選挙運動はフィナーレを迎えました。投票時間は午前8時から午後4時までの8時間のみ。午後4時からは開票速報が始まります。一部情報によれば、午後8時には蔡英文が記者会見を始めるとのこと。果たして勝利宣言となりますかどうか。


<1月16日>(土)

●ベテランの穏健派経営者に聞く

「選挙? 投票なんて行ったことないよ。政治にかかわっていいことなんてないからね。テレビを見ていると、前回の選挙で国民党を支持していたコメンテーターが、今では民進党をヨイショしている。有権者が意見を変えるのはともかく、コメンテーターがコロコロ意見を買えちゃいかんだろ。メディアはつくづく無責任だからな。ひまわり運動だって、皆が持ち上げていたけれども、学生が立法院を占拠しちゃいかんよ。国有財産なんだから。あの連中、今回は『時代力量』という政党を作って出てきているが、あれは民進党の別動隊みたいなものだな。まあ、政権は変わるだろうが、台湾の難しい状況は変わらんよ。景気は良くならないし、中国との関係も難しい。だから蔡英文さんはどうするかハッキリ言わないんだな。」

●普通っぽい民進党支持のおばさんに聞く

「今夜が待ち遠しいわ。蔡英文はきっと勝つし、民進党は立法院で過半数はいくと思う。彼女はね、4年前はまだ弱いと思った。でも、あそこで負けてから本当によく耐えたし、成長したと思うの。みんなそういうところはよく見ているし。台湾はね、今は難しいかもしれないけど、いつかは独立しなきゃ。でも、それまでは現状維持。このまま国民党に任せておいたら中国に飲み込まれてしまいそうで心配で。え?蒋介石のひ孫(蒋萬安)?あれはダメ。普通の人の気持ちなんてわからないから。『時代力量』を作ったあの子(黄国昌)は、いいと思うの。勉強家だし」

●台湾独立派の志士に聞く

「感無量だね。開票速報を見ていて、朱立倫と楚瑜二人分を足しても、蔡英文に及ばない。4年前の開票の時には、お通夜みたいな感じだったからね。だいたい、今まで接戦でない総統選なんてなかったから、こんな風に穏やかな気持ちで開票速報を見ていられるというのはめずらしいな。馬英九さんは、やっぱり普通の台湾人の気持ちがわからない人なんだよ。日本が震災になった時、みんなで募金したでしょ?あのとき、台湾政府は3億円だけ出しているんです。でも、四川の地震の際には、13億円も出している。やっぱり気持ちが中国の方を向いているんです。でも、普通の台湾人の気持ちはそうじゃない。だからね、160億円も集まったんです」

●若い無党派層(女性)に聞く

「今日は民進党に投票したけれども、別に民進党が好きなわけじゃないんですよね。とにかく国民党の8年間に疲れたというか・・・・。お給料は上がらないのに物価は上がるし。台北の『101』周辺の家が六本木よりも高いって、信じられますか?台湾の大卒初任給は、基本は2800元(1元は約4円)だったんだけど、それが2200元に下がっているんです。大学進学率がほぼ100%になって、大卒が多過ぎるせいもあるんだけれど・・・・。とにかく今回は投票に行かなくちゃって、みんなSNSなんかで呼びかけあっていたもの。蔡英文さんが総統になって、なんでもうまく行くとは思わないけれども、とにかく投票して政治が変わったんだから、今日のところはハッピーかな」

○てなことで、本日の投票結果は蔡英文氏がダブルスコアどころか、過半数の票を集めて圧勝。台湾総統選挙の歴史で初めてのランドスライドとなりました。立法院選挙でも、民進党は単独過半数を確保しました。文句のつけようのない勝利です。ただし、台北の夜はどこか醒めている感じがしてなりません。歴史上、3度目の政権交代となりますが、台湾の民主主義が成熟するとともに、一種の政治的アパシーをも習得しつつあるのかもしれません・・・・。


<1月17日>(日)

●在台ジャーナリストに聞く

「中国に対してノーを言った選挙でしたね。反中、というよるは嫌中意識が噴出した。周子瑜さんの事件は特に響いたと思う。いつもは低い若い人たちの投票率があれで上がった。かといって、台湾人が望んだのは『現状維持』だった。統一を目指す新党はゼロ議席、独立を目指す台連もゼロ議席になった(それぞれ全国区の得票率が4.18%、2.50%と足切りラインの5%に達しなかった)。つまり右も左も伸びなかった。有権者は、これ以上、中国に深入りしたくはないのだが、かといって必要以上に刺激したくもない。だからこそ、政策をハッキリと言わない蔡英文のあいまい戦略が成功したのだろう」

●日台関係のベテランに聞く

「台湾の現状維持ということは、実は日本にとっても大切なことなのです。台湾の地政学上の位置を考えれば、ここに反日政権が出来たら大変なことになる。仮に朝鮮半島に親日政権が誕生して、台湾が反日政権になったとしたら、それはプラスマイナスゼロではなくて、大きなマイナスになるでしょう。では、日本はどうすればいいのか。日本の場合、軍事面で貢献することは難しいし、経済面ではそれほど大きな問題がない。要するに、派手な手は打てない。時間はかかるけど、文化面の交流を地道に積み上げていくしかない。ただし台湾のエリートたちと、日本語で打ち解けることができた幸福な時代は、着実に過去のものとなりつつある」


○あらためて、今回の選挙結果について基本的なデータをまとめておきましょう。


●主要3候補の得票〜過半数を超える堂々の勝ちっぷりでした。

*蔡英文 6,894,744票、56.12%=当選

*朱立倫 3,813,365票、31.04%

*宋楚瑜 1,576,861票、12.83%


●投票率〜なんと6割台に低下しました。確かに歴史的な選挙結果でしたが、今日の台北もごく普通の静かな日曜日でした。

2016年 2012年 2008年 2004年 2000年 1996年
66.27% 74.38% 76.33% 80.28% 82.69% 76.04%



●立法院選挙〜民進党が単独過半数の57を大きく超えました。

  民進党 国民党 親民党 時代力量 その他 合計
2016年 68 35 113
2012年 27 48 113


○台湾では史上初の女性総統が誕生しましたが、蔡英文さんはパククネさんやスーチーさんとは違い、「政治家の二世、三世」ではないという点に値打ちがあります。それだけではありません。なんと立法院委員113議席のうち、43人が女性議員なのだそうです。ちょっとすごいですね。そもそも今回の総統選では、主要3政党のチケット(総統―副総統コンビ)はすべて男女ペアでした。それだけ女性の政治参加が盛んだということですね。

○そうなった理由はいろいろ考えられますが、ひとつには台湾が学歴社会であることが指摘できると思います。勉強していい大学を出ることが、素直に周囲の尊敬を受ける(庶民レベルでも)という現実があります。特にアメリカの大学で博士号を取ると評価が高いようですね。蔡英文さんは、台湾大学法学部→コーネル大学ロースクール→ロンドンスクールオブエコノミクス(LSE)法学博士、というパターンです。ちなみに現職総統の馬英九さんは、台湾大学法学部→ニューヨーク大学大学院→ハーバード大学大学院であります。台湾の政界は驚くほど高学歴で、学者と政治家の距離が小さいのであります。

○この点、高学歴がかならずしもプラスの評価にならない、偉い人はあんまり英語ができない、というわが国の政治風土から見ると、ちょっと意外な感じがあるかもしれません。蛇足ながら、わが国の東大出の首相といえば、直近では鳩山さん、その前はなんと宮澤さんまで遡ってしまいますからね。東大、もっと頑張ってください。


<1月18日>(月)

○2泊3日の楽しい台北旅行は既に終わり、果てさて今回の選挙はどういうことだったのか、とあらためて考えてみる。

○昔の台湾総統選挙といえば、島を二分する総力戦でした。「統一か、独立か」「ブルーか、グリーンか」と争点も明確であったのです。2004年の選挙では、投票日直前に現職の陳水扁総統が銃撃を受ける、という事件まで起きたほどです。幸いなことにかすり傷で済んだのですが、こういう時の常として、「同情を引くための自作自演説」だとか、甚だしきは「選挙トトカルチョを行っている胴元ヤクザによる調整手段」という説まで飛び交ったものです。いやもう、魑魅魍魎が跋扈するのが台湾の選挙でありました。

○ところが総統選は6回目、政権交代は3回目、立法院選挙とダブル方式になってから2回目ともなりますと、台湾も普通の先進民主主義国になってきました。無党派層も増えてきましたし、投票率も下がってきました。なにより、選挙戦の熱気が昔ほどではありません。昨日のお昼に新光三越の有名店に行きましたが、いろんな家族が40分待ちで名物の小龍包を堪能しておりました。そこに広がっていたのはごく普通の日曜日の光景で、とても歴史的な選択の翌日であるとは思えないほどのどかさでありました。

○このような状況を、「台湾の民主主義も成熟したねえ」などと評すると、ちょっと上から目線っぽくなってしまいます。なにしろ(昨日も触れた通り)、ダイバーシティの観点から行くと、台湾の方がよっぽど日本より先行しているのですから。さらに言えば、ボランティアの充実度もうらやましいほどです。数万人が集まると思しき集会所には、医療班から仮設トイレまであらゆる準備が整っていますし、選挙グッズを販売する応援団もいる。変な想像をしますと、もしも台湾のサッカーが、ワールドカップに出場するほど強くなったとしたら、これらのノウハウが存分に活かされて、「あそこのサポーターにはかなわん」と諸外国から脱帽されるくらいになるのかもしれません。

○ただし時代が変われば人々も変わる。今の若い世代にとっては、選挙で投票することはごく自然な権利のひとつに過ぎません。某大学の掲示板では、「試験ならば追試があるが、選挙は4年後を待たなければならないから、16日にはちゃんと投票するように」という張り紙があったそうです。それはちょっと麗しい話ですが、逆に言えば、ようやくその程度の話になってきたともいえる。そしてまた、「本省人か、外省人か」という問いかけも、親の世代にとってはそれこそ命懸けの問題でありましたが、「ご先祖様はともかく、今はみ〜んな台湾生まれの台湾育ち」という若い世代にとっては、相対的な問題になってきたと言って良いのではないかと思います。

○かくして蔡英文さんは台湾住民の負託を得ました。彼女は5月には総統としての就任式を迎えます。立法院は、2月1日を期して新しいメンバーに代わります。史上初めて、民進党の安定多数時代の始まりです。ただし、それから先の青写真は、かならずしも明確ではない。有権者の側も、「これ以上、中国に接近して呑み込まれるのは厭だ〜」という民意を示してみたものの、それから先の明確なビジョンがあるわけではない。いや、民意というものは、本来がそういうことですから、それで十分。ただし、これから先の蔡英文・民進党政権の前途は、おそらく順風満帆とは程遠いものでありましょう。

○思えば溜池通信にとっては、台湾政治は古くから取り上げ続けてきたテーマであります。当サイトのことを、「継続は力なり、そのもの」などと言ってくださる方もごくたまにいらっしゃるのですが、書き続けている当人からすれば、「自分は能がないから同じことを続けているだけ」で、「根気があるからというよりは、諦めが悪いから続けている」という方が実態に近いと思っています。ただし、台湾ウォッチングという動作を、4年ごとに何度も繰り返していると、今回のように「あっ、そういうことだったのか!」と気づくことがある、というのはうれしいことであります。

○そうそう、今回の旅行では、行き帰りの飛行機の中で『台湾のきほん』(青木由香/東洋出版)を読んでました。あいかわらず、肩の力が抜けた楽しい読み物になっています。


<1月20日>(水)

○昨日、訪日外国人客数の最新データが発表されました。昨年2015年は、大阪万博が行われた1970年以来、インバウンドがアウトバウンドを超える年となりました。

○近年のインバウンドの増加がいかにはなはだしいか、以下をご参照願いたく存じます。

  2014年 2015年 変化率
@中国 241万人 499万人 107.3%
A韓国 276万人 400万人 45.3%
B台湾 283万人 368万人 29.9%
C香港 92万人 152万人 64.6%
Dアメリカ 89万人 103万人 15.9%
合計 1342万人 1973万人 47.2%


○中国はもろに2倍です。約500万人ということは、日本にやってくる4人に1人は中国人ということになります。そして全体では5割増し。いやはや、こんなに景気のいい話は最近、聞いたことがない。

○そして台湾は2014年、入国者数で第1位でした。人口2200万人の台湾から、368万人の訪問客があるというのは、一種の奇観と言っていいでしょう。特に震災のあった2011年から弾みがついたという印象があります。日本から台湾を訪問する観光客を併せると、双方向で500万人を超えることになる。これはもう相思相愛もいいところですね。

○言葉が通じない、というのも大した問題ではないのです。今の世の中、グーグルマップがあれば、最低限、道に迷う心配はない。台湾はタクシーがとっても安い街であって、松山空港からホテルまでが100元(400円)とか言われると、おもわず笑ってしまうほどです。タクシーの運転手さんは、英語も通じないことが多いですが、それも行先のホームページを印刷しておけば、さすがにわかってもらえる。まあ、これは日本を訪れている大勢の外国人が実践していることでもありますが。

○ひとつだけ気になったのは、台湾を訪れている若い日本人観光客が、スマホの画面ばかり見ているように思えること。不安があるからでしょうけれども、異国を訪れて道に迷うのはいわば当たり前。そんなことを心配しててどうするんだ、と昭和の商社マン教育を受けた者としては言いたくなるのですが、これは年寄りのお小言のようなものでしょう。ツーリズムが世界的に広がりつつあるのは、ネット利用による安心感があるからなんだなあ、ということに改めて気づいたところです。


<1月22日>(金)

○今週は大阪に行って、岡山に行って、ほぼ毎日、講演会をやって、今日はこんなシンポジウムに出てました。東洋経済オンラインには、本日付でこんな記事を書いております。それから明日には、遊民経済学シリーズの最新作がアップされる予定です。ついでに今宵は、日経CNBC「夜エクスプレス」に出ておりました。われながら、ホンマようやっとるわ。

○こうなると、当欄に何か余計なことを書く気にはとてもなれません。ということで、他人が書いたもののご紹介。会社の先輩で、今はOBになってしまったYさんが、こんなサイトを始めたことを知りました。特に、この辺の英語に関するうんちくは、なかなかに勉強になります。文章も、意外と読ませるではありませんか。

○特に旧日商岩井関係者の読者の皆様に、本件を強くお知らせ申し上げたい。あのYさんが、こんなことを書いてますよ〜と。それにしても、このビジネス英語の勉強メソッドは、いかにも昭和の商社マン世代にはしっくりくるものがあるような気がします。


<1月24日>(日)

○先日業界の方に聞いた話ですが、「アダルトビデオが危うい」のだそうです。今は、ネットにはいろんなエッチ映像(なかには素人の作品も!)があふれているので、ちゃんと製作費をかけてAV作品を作ってもなかなか売れない。しかも苦労して作った作品が、簡単にネット上にアップされてしまう。「プロダクションの経営が火の車で、このままではちゃんとした作品が作れなくなる」という危機感が強いとのことでした。

○聞いていて思ったのですが、これはメディア産業にも通じる話でありますな。つまりネットでニュースがタダで飛び交ってしまうために、新聞やテレビ局の収益性が低下してしまい、ちゃんとしたジャーナリストが育ちにくくなっている。新聞業界は軽減税率の適用で何とか延命しようとしているようですが、そういう試み自体が「政府にすり寄る」ものであって、信頼性を損なうことになりかねない。早い話が「貧すれば鈍する」というやつで、このままではAV業界と同じように将来が暗い、ということになってしまう。

○そんな中で、最近、素晴らしい仕事をしているのが週刊文春だと思う。特にベッキーの不倫報道の際に、「二人のLINEの会話」をスクープしたのはぶっ飛びましたな。どうやってやったんでしょう。個人的には、芸能人の不倫なんて「どうだっていいじゃん」と思っているのですが、ちゃんと証拠写真を載せているというのが素晴らしい。他方、「LINEって怖いんだ!」と恐慌をきたしている人も居るようです。後ろめたいことをやっている人は、くれぐれもご注意なさいまし。

○で、そんないい仕事をしている週刊文春が、先週は甘利明経済財政担当相の賄賂スキャンダルを載せている。相当にきっちりした証拠が積み上げてあると考えるべきでしょう。特に補正予算が成立して、本予算の審議が始まったタイミングでさく裂した、ということは準備万端、タイミングを測ってのパンチということになる。それにしても大臣室で金銭の授受をしたというのは、ホントだとしたらちょっと信じがたい脇の甘さでありますな。さて、今週以降の政局はどうなるんでありましょうか。

○ちなみに週刊文春は、SMAP騒動でメリー喜多川氏のインタビューも掲載しているそうですが、そっちはまったく関心ありません。そういえば、ワシも週刊誌を買わなくなってから久しいなあ。


<1月25日>(月)

○今朝、発表された昨年12月の通関統計は非常に興味深いものでした。

○何と言いましても、あの大震災があった2011年3月以来、ずーっと赤字を続けてきた月次の貿易収支が、季節調整値で初めてプラスになったのですから、意味するところは大きいと思います。早い話、それくらい大幅に石油価格が下落したということであります。でもって、今後の貿易収支は、月次ペースで黒字が持続するんじゃないかと思います。するってえことは、2016年はたぶん暦年ベースで貿易収支は黒字になるでしょう。いや、2015年度だって、黒字化するかもしれませんぞ。

○貿易収支は、アベノミクスが始まった2013年度に13.7兆円の赤字を付けたので、誰もが「日本経済の赤字化は必至」と勘違いしてしまったんじゃないかと思います。そんなことないんです。高齢化で貯蓄率が低下しようが、円高で生産拠点の海外移転が進もうが、なんだかんだ言って日本の製造業には地力があるんです。でなかったら、石油価格がいくら下がっても、こんな風に黒字が復活することはないでしょうから。

○こうなってみると、「世界経済の不透明性に伴い、安全資産としての円買いが進むことによる円高」という昨今の説明が、急に胡散くさく思えてきます。単純に貿易収支の改善に伴って、実需の円買いが増えているだけ、と考える方が自然なのではないでしょうか。いや、それがあるから、不肖かんべえは昨年から円高予想を維持しておるわけでして。

○重ね重ね申し上げますが、現在の油価下落によって日本経済は「10兆円減税」に近い効果を呼ぶと思います。それは大いに結構なことでして、「石油価格の下落を憂える」ような風潮はまことに遺憾なことだと思っておりまする。


<1月27日>(水)

「信じてくれ。俺は嵌められたんだ。向こうは最初からそのつもりだったんだ!」

「そうは言っても、手を出してしまったのはお前なんだろう?」


○こういうのを「ゼニー・トラップ」と言うんだそうです。ああ、あまりと言えばあんまりだ。なんまんだぶ、なんまんだぶ・・・・。


○話は変わって、本日はFOMC。そして明後日は日銀の金融政策決定会合。考えてみれば、今年から日銀会合が米欧と同じ「年8回」になったので、会合の時期がやたらと重なるようになったのですね。そこで下記のような表を作ってみましたが、こうしてみると今年は「日米欧の金融政策ウィーク」が何度もできるということになります。


  FRB BOJ ECB
1月 1/26-27 1/28-29 1/21
2月      
3月 3/15-16 3/14-15 3/10
4月 4/26-27 4/27-28 4/21
5月      
6月 6/14-15 6/15-16 6/2
7月 7/26-27 7/28-29 7/21
8月      
9月 9/20-21 9/20-21 9/8
10月   10/31-11/1 10/20
11月 11/1〜2    
12月 12/13-14 12/19-20 12/8
       
  *太字は記者会見あり *太字は展望リポートあり


○で、今週は1月29日が「決戦の金曜日」となります。おそらく株式市場では、「追加緩和はあって当然。なかったら俺たちが困るじゃないか!」という受け止め方だと思います。だから今日も日経平均が上げたわけでありまして。でもねえ、たぶん黒田日銀はゼロ回答だと思いますよ。なんとなれば、

@ 黒田氏は、市場から催促されてバズーカを撃つ、ということを嫌う。
A 下手に撃つと、「緩和の打ち止め感」が出て逆効果になるかもしれない。
B 原油価格を除くインフレの上昇基調は崩れていない、と言い切ることができる。

○黒田シナリオは1月を追加緩和なしで乗り切り、何とかタマを温存するつもりなのではないか。ただし12月に「補完的措置」を行ったところを見れば、このまままったくゼロ回答ということもないだろう。3月、もしくは4月に何らかの追加措置があっておかしくはないと見る。その後も黒田総裁は、「まだまだ日銀にはこんな手がある(例えばマイナス金利?)」という構えをずぶとく続けるんじゃないでしょうか。

○以上、『デフレ最終戦争』(清水功哉/日本経済新聞出版社)を今朝、読み終えた上での感想です。外れたら、ごめんなさい。でも、本書はBOJウォッチングの優れた記録だと思います。とっても勉強になりました。


<1月29日>(金)

○昨日、本誌愛読者の某氏から、「追加緩和、私はあると思いますよ。賭けますか?」というお申し出を受けた瞬間に、「やべっ!」と思ったのであります。そしたら案の定、今日になって黒田さんに見事にやられてしまいました。ぐふっ。不肖かんべえ、まだまだ修行が足りませぬ。

○黒田日銀は、量的緩和(国債買い入れ)+質的緩和(ETFその他買い入れ)の二枚看板に、マイナス金利という3枚目のカードを追加してきました。なおかつ、国債の買い入れ増というカードは温存しているわけですから、「出尽くし感」はない。いいように翻弄されてしまいました。まるで為替介入のような縦横無尽の手口。それもそのはず、黒田さんは元財務官でありますからね。

「ふふふ、今の時代、ジェダイの騎士では務まらぬのだよ。フォースの暗黒面の威力を思い知ったか!」と言われているような気がしてしまいました。そうか、だから黒日銀なのか。ワシなどは、所詮は白日銀という呪われた血筋を引く末裔であるだけに、まんまと一杯食わされてしまったのであろう。理屈が正しい政策で市場に負けるくらいなら、とにかく勝つことの方が大事。それはそれで、筋が通っている。

○"BOJ's Negative rate"というサプライズを引き継いで、ニューヨーク市場も続伸している模様。「お見事!」てな感じでありますが、その一方で、「黒田マジックはあまり長期的なことは考えていないのかも」と感じました。為替介入の流儀なんだと考えれば、それも納得です。そういえば、今回の決定はあんまりな「ゼニー・トラップ」の余韻も消し去ってしまったように思われます。


<1月31日>(日)

○明日はいよいよアイオワ州党員集会。で、いろいろ書かなきゃいけないと思っていたんですが、ここでだいたいのことは言ってしまっているので、録音を聞いていただければありがたく存じます。


●NHK第一 マイあさラジオ 2015年1月27日(水) 「米大統領選挙アイオワ州の党員集会を前に」


○約9分間のやり取りですが、野村アナが上手に聞いてくれましたんで、かなり深い部分まで語っております。いや、便利な時代になったものです。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki