<5月1日>(火)
〇今週号の"The Economist"誌の表3広告に、こんなキャッチコピーが書いてある。何の広告か、分かりますか?
Ten years ago, DUBAI was just another oil
exporter in the middle east.
(10年前、ドバイは中東の石油輸出国に過ぎませんでした)
〇てっきりドバイ自身か、他の中東諸国が出している広告だと思いますよね。でも、違うのです。その後のボディコピーは、細かな字で次のように続くのです。
Every country has a moment before promise
becomes reality. With proven success in energy, an educated,
English-speaking workforce, and significant investment
incentives, the stage is set for the right companies to be part
of creating an economic hot spot in the heart of the Caribbean.
We are next.
(どんな国にも、約束が真実になる瞬間があります。エネルギー分野での確実な成功、教育の行き届いた英語のできる労働力、そして十分な投資インセンティブにより、カリブ海の中心部で経済的なホットスポットを作ろうという企業にとって、まさに舞台は整いました。
次はわれわれの番だ)
〇なんとこれ、トリニダード・トバゴ政府が、「わが国に投資を」と呼びかける広告なのですね。そんな国、どこにあるんだ?という方は、こちらをご参照。The
Economist誌の表3広告は、広告料も高いでしょうけれども、影響力もあると思いますぞ。
〇この広告がピンと来ない、という人は少なくないと思います。まず、ドバイがここ10年程ですごい発展をした、ということは、日本では知ってる人より知らない人のほうが圧倒的に多いでしょう。で、世界にはドバイの成功にあやかりたいと思う途上国が山のようにあって、「ウチもいけますよ」と全世界の企業家に向けてアピールに務めている。トリニダード・トバゴがそんなに有望かどうか、かんべえには分かりかねますが、「外資様、どうぞ来てください」という広告が、こんな風に行われていることに感心しました。
〇それに比べると、わが国の「外資恐怖症」は何なんでしょうね。今日から「三角合併」が可能になりますが、まるで「黒船来たる」といわんばかりの報道が目立ちます。正直言って、三角合併を理由にM&Aが急増するとは思えませんし、逆に三角合併を認めなくても、M&Aはどの道、増えるでしょう。もともと、非常識なくらいに対内直接投資が少ない国において、それが少しだけ普通に近づくということに過ぎません。
〇せめて日興コーディアルを買ってくださるシティグループに対し、日本政府は感謝状を送ってもいいのではないでしょうか。なにしろシティは、企業買収のために1兆円以上を払ってくれるのだし、しかも買収資金の大半は、みずほ銀行など日本国内で調達してくれるのです。つまりオール・ジャパンとしてはぼろ儲けであります。これで万一、日興CGが宮崎のシーガイヤのようなお荷物になったりしたら、本当に気の毒ではありませんか。(「いい気味」と言いたい人もいるでしょうけどね)。
<5月2日>(水)
〇連休の中日、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。かんべえのオフィスは今月、21世紀に入ってから実に5度目の引越しをしなければならず、なかなかに慌しい平日であります。
〇それでも明日からはお休みになるわけであって、以下の方々のような忙しさとは無縁であります。それにしても何なんだ、この人たちは。
●安倍総理、米・中東5カ国(サウジアラビア・アラブ首長国連邦・クウェート・カタール・エジプト)歴訪(4月26日〜5月3日)
●尾身財務相、仏・スペイン歴訪(4月27日〜)
●甘利経産相、カザフスタン・ウズベキスタン・サウジアラビア歴訪(4月27日〜5月2日)
●山崎・自民党前副総裁、加藤・自民党元幹事長ら、中・韓歴訪(4月27日〜5月2日)
●菅総務相、英・仏・独歴訪(4月28日〜5月6日)
●麻生外相、米・露・エジプト歴訪(4月28日〜5月6日)=3〜4日、イラク安定化外相級会議(エジプト・シャルムエルシェイク)出席
●松岡農水相、欧米諸国歴訪(4月28日〜5月6日)
●中川・自民党政調会長、露・カザフスタン歴訪(4月28日〜5月5日)
●冬柴国土交通相、訪印(4月29日〜5月2日)
●久間防衛相、米・伊・ベルギー歴訪(4月29日〜5月6日)
●日・米安全保障協議委員会(2プラス2)(ワシントン)
〇ここを先途とばかり、大型連休中の外遊にいそしまれるようで、まあ適当に頑張ってください。忙しいという言葉は、「心を亡くす」と書きます。そういうことのないように、休めるときは休んでおきましょう。HPの更新も含めてね。
<5月3〜5日>(木〜土)
〇3日ぶりに自宅PCのスイッチを入れました。皆さま、お久しぶり。
〇この間の世間の大事件は、高校野球の特待生問題だっちゅうのは、なんと世の中平和なことでありましょうか。そんなもん、誰でもしってるっつーの。それとも高野連だけは、高校級児の実態を知らなかったのでありましょうか。世にもめずらしいピューリタン集団の面目躍如たるものがございます。「プロは汚い世界だが、アマチュアだけは清く正しく美しく」なんて、無理に決まってるじゃございませんか。
〇連休中に、のとじま水族館に行ってきました。途中、2箇所ほど道路を補修していましたが、地震の痕跡はさほどではなかった様子。ところが駐車場が1200台という会場に、当日は数千台(のとじま大橋を渡った時点で、今日の利用車5600台となっていた)が押し寄せたらしく、大変な渋滞に突入してしまいました。まあ、その間にも、能登半島の複雑な地形を堪能することができたわけですが。水族館はなかなかの出来です。もっとも、渋滞していた時間が長かったので、「地元におカネを落とす」方はあまり貢献できませんでしたけど。
〇阪神タイガースがなんと7連敗。なんだか嬉しくなってしまうのはなぜでしょう。別にダメ虎ぶりを懐かしんでいるわけではないのですが、「阪神は強い。Aクラスは当然」という春頃の一般的な論調に対し、なんだか落ち着かないものを感じておりましたので。負けが混む最大の理由は、井川がいないからでしょう。井川がいれば、勝ち負けはさておいてJFKはお休みできる。今年はそういう試合がないために、JFKの消耗度が激しく、ここぞというところで踏ん張りが利かない。まあ、岡田監督を鍛えるためにも、今しばらくは試練が続いてもいいのかなと思います。
〇明日もう1日、休みが残っている。やれ、ありがたや。
<5月6日>(日)
〇連休最後の一日をどう過ごすかを迷った上、「NHKマイルC」をぶった切って、「流山おおたかの森」の「TOHOシネマズ」に行って映画『バベル』を見ることにしました。正解でありました。NHKマイルは単勝7600円、三連単はなんと970万円の大荒れでしたが、Mピンクカメオなんて、ぜーったいに買えませんがな。やっぱり雨の日は競馬よりも映画です。
〇で、『バベル』なんですが、ここ5年ほど映画をキチンと見ていないワシが言うのもなんですが、「5年に1本」クラスの名作なんじゃないでしょうか。こういう「暗い、怖い、重い」映画は、興行的にはあんまり恵まれないでしょうけれども、見た人の記憶にはズッシリ残るでしょう。後味的には『パリ、テキサス』が近いんじゃないかな。こんなのを見てしまうと、しばらく映画が後を引きそうです。
〇「人と人とは分かりあえない」というのは、旧約聖書以来の古いふるいテーマです。モロッコとメキシコと日本、という複数の舞台をオムニバス風に一本の筋でつなぐという手法には、『イントレランス』という古い前例があります。また、言葉が通じない状況と東京を結びつけた作品といえば、『ロスト・イン・トランスレーション』がある。そういう意味では、『バベル』はそんなに型破りでもなければ、特別に新しい映画というわけではありません。
〇ただし経済がグローバル化してくると、「モロッコ―メキシコ―日本」を結びつける事件が実際に起きても不思議ではなくなるし、「9/11」以降の世の中は「セキュリティ最優先」で「問答無用」が多くなって、この映画に出てくるような行き違いが増えている。イラク戦争なんて、そのもの自体が大いなる行き違いかもしれない。せめてインターネットで相互理解の増進をと思うけれども、むしろネットが無理解や偏見を加速している例も少なくなかったりする。
〇そんなわけで、今日、『バベル』が投げかけるメッセージは重いのである。こんな風に言ってる人もいますけどね。(念のため:全体に脚本は良く書けていると思いますが、細かな穴はいくつかあります。親が中東であんな大事件に遭ったら、子供の面倒はアメリカ国務省が見るはずだ、とか、日本の銃刀法はそんなに甘くはできてないぞ、とか)
〇菊地凛子の演技は良かったですね。この映画で唯一、素直に感情移入できる役柄でした。ブラピは怒ってばかりで、あまり役者としての見せ場がありませんでしたからね。アカデミー助演女優賞の件は、外国人がノミネートされるときは大概が「当て馬」ですので、日本のメディアが大騒ぎしたのはかなり「無粋」なことでした。でも、あれなら次のオファーがナンボでも来るでしょう。役者が化ける、というのは、見ていて楽しいものです。
<5月7日>(月)
「子供というものは、たとえどんなに親を馬鹿にしていても、親の本棚からは確実に影響を受けているものである」。
〇ということは、ウチの子供たちを見ていてもよく分かる。そしてワシ自身についていえば、父の書棚にあった膨大なキネマ旬報のバックナンバーがそれであった。父は地方公務員であったが、講演やらモノ書きやらをする人で、若い頃は映画青年であった。気がつけば、ワシの人生もだんだんそれに似てきた。血筋がどうこうという問題ではなくて、本棚の中身のせいなんじゃないかという気がする。
(注:昨日の『バベル』の余波が続いており、昨晩はテレビでやっていた『スパイダーマン』まで見てしまった。従って、不規則発言は今宵も映画談義が続くのである。読者諸兄は涼とされよ)
〇十代の頃のかんべえは、あまり映画を見る機会がなかった。時間はないし、カネもかかるし、さらに悔しいことに富山市には名画座というものがなかった。もちろん、TSUTAYAもWOWOWもスカイパーフェクもGyaoもない時代である。しょうがないから、父の本棚にあった映画雑誌をひたすら読んだ。主に60年代から70年代前半の時期だったと思う。今でも、「見たことはないのだけれど、脚本は読んだことがある」なんて映画があったりする。
〇その頃の映画渇望症は、都会に出てからやっと充たされるようになる。小平市という田舎住まいではあったが、三鷹オスカーや国立スカラ座といった名画座に、足しげく通った(どちらも現在はなくなっている)。映画館の暗闇の中で、ただ一人でひたすら過去の名作を見るというのは、人生のある時期においては重要な経験であります。映画をデートの道具になんぞしちゃいかんです。もっとも、アンジェイ・ワイダやスタンリー・キューブリックの3本立てなんぞを見たりすると、文字通り足腰が立たないくらいに消耗してしまうのでありますが。
〇しかるに大学卒業後は、映画の本数は再び下り坂となる。映画鑑賞に障害になる主な要素は、@就職、A結婚、B子育てだと思う。@については長坂寿久さんのように、ジェトロの調査マンをしながら年間100本以上も見て、映画関係の本を数多く書いている人もいるから、あんまり言い訳にはならない。Aについては、特に配偶者と極端に趣味が違ったりすると、効果はテキメンである。しかし何より困るのはBである。子供が小さかったりすると、「せめて自宅でDVDを」ということさえ高嶺の花になってしまう。同様な思いをされている方は、少なくないんじゃないでしょうか。
〇ここで駄目押しとなってくるのが、Cインターネットである。こんなサイトの運営を始めたりするともうダメですね。いくら時間があっても足りません。衛星放送やらブロードバンドやら地デジやら、映画を見る手段が豊富になる一方で、1日24時間という枠の中に映画の居場所はなくなってくる。「この前映画を見たのは、海外出張の飛行機の中」というのが常態になってしまう。これはもう堕落としか言いようがない。
〇かくして現在は映画離れして久しいのであるが、何かの拍子にふと昔の記憶が騒ぎ始める。今日になって突然思い出したのは、かんべえは子供の頃に、「大人になったら、キネ旬ベストテンの選者になりたい」と願っていたことであった。なにしろキネ旬のベストテンといえば、往時は大変な権威であり、ここの評価が自分の意見と食い違ったりすると、深刻に悩まなければならないほどであった。
〇キネ旬を書店で見かけなくなってから久しいが、ここを見る限りはまだ続いているようである。今、過去のデータを振り返ってみても、キネ旬ベストテンは見事なまでに「プロ筋の意見」を代表している。癖のある選び方だとは思いますけどね。アカデミー賞と同様、一種の公共財のようなものといってもいいでしょう。今にして思えば、それの選者になりたいっていうのは、われながら可愛らしい夢でありましたな。
<5月8日>(火)
〇このところ、フランス大統領選挙に関する意見を求められることがあるのですが、基本的にお断りしております。だってフランスのことは、よく分からないし。できれば訪仏中の雪斎殿の意見を聞きたいところであります。
〇それでも何となく感じていることを、このページで無責任にひとことだけ。サルコジを当選させる原動力となったのは、おそらくかの国の「荒れる若者たち」でありましょう。彼らを「社会のくず」呼ばわりしたことで、サルコジは社会の保守層の絶対的な信頼を得た。その結果が、6P差の勝利につながった。ということは、彼は今後も「荒れる若者たち」に対して、強硬姿勢を貫くことになるのだろう。この辺は、「フロリダ再集計」で勝利した後のブッシュ政権が、自分を支持してくれた保守層への傾斜を強めた2001年のアメリカ政治が参考になる。
〇そういう意味では、当選直後から全仏各地で抗議行動が広がっていることは、新大統領としては「ごっちゃんです」てな感覚ではないでしょうか。表向き寛容なポーズを取りつつ、キチンと始末をつけることで指導力をアピールし、点数を稼ぐことができる。それでますます過激な暴力行為が増えるとしたら、ロワイヤル支持勢力は着実に政治的な正当性を失っていくでしょうし。
〇この先のフランス政治は、党派色を強めていきそうですね。文字通り、アメリカ政治の後を追いかけていくのかもしれません。このところ、アメリカといい、ドイツといい、フランスといい、先進国では二大勢力が拮抗する選挙が多くなっている。どういう仕組みでそんなことになるのか、はたまた日本もその後を追うのかどうか、いろんな意味で興味深い結果であったと思います。
<5月9日>(水)
〇今日、出会ったセリフから。
「お医者様と呼ばれた時代から、患者様と呼ぶ時代へ。医師優遇税制もあらかたなくなってしまい、医者にとっては大変な時代が来ているのですが、意識の変化は追いついていない」
――あるお医者さんの発言から。医者が「患者様」を奪い合う時代が、間もなく到来するのかもしれません。
「今朝の新聞で、『参院選で与党が過半数割れすれば、綿貫さんが神主から神様になる』と書いてあったが、冗談では済まないかもしれない。亀井さんは、『自民党が連立を求めてくるならば、われわれは綿貫首班を要請する』と言っている」
――某政治記者から。おそるべし国民新党。参院では非改選議席で2議席持ってるし、7月の選挙でも2〜3人通りそう。合計4〜5議席といえば、「与党が過半数に達するには、ちょうどそれくらい足りない」ギリギリの数字になりそうではないか。
「戒名をもらわなかったら、バチが当たるのかどうか。あなたはご存知ですか?」
――パーティーの立ち話から。答えが知りたい人は、この本をご参照。それにしても最近は、ネットを検索すれば答えはたいてい見つかるのですね。問題は、そういう「良い問い」を思いつくことなのです。
"Ask not what you want to hear. Ask
what other people want to hear."
――アメリカ人に「サンデープロジェクト」という番組を説明していて、「サンプロのコメンテーターの心得」について語るうちに、思わず口をついて出たセリフ。
<5月10日>(木)
〇かんべえは会社では、入館証をいつも首からぶら下げているのですが、そのストラップは黄色い「タイガース」グッズです。最近はさすがに首が絞まるような思いがし始めました。「昔を思えば、こんなの平気だよ」と口では言っているし、周囲の阪神ファンも至って冷静に見えるのですが、昨夜のように藤川で負けたとあっては平常心ではいられません。いやはや、参ったまいった。
〇どうやら連敗は今夜で止まったようですが、最下位を脱出できるのはいつのことでしょうか。まあ、3年連続最下位なんちゅう時期もありましたから、往時を思えばまことに夢のような話をしているわけで、つくづくチームのDNAというかInstitutional
Memoryというかは、まことに強靭なものであります。
〇ウチの娘などは、過去の暗黒時代を知りませんので、素直に「阪神は強いチーム」だと思っております。アニキの前に走者が出て、ヒットが出ないとは考えません。しかし、今後の人生においてもタイガースと付き合っていくのであれば、現在は一種の「異常値」であると考えた方が良さそうです。最近は若い女性の阪神ファンが多いようですが、これで去っていくのか、それとも古いファンに同化していくのか。
〇長いタイガース・ファン生活の歴史の中でも、非常に重要な瞬間を迎えつつあるのかもしれません。それにしても、こういうのを文字通り「くされ縁」というのでしょうな。
<5月11日>(金)
〇今日は風の強い日でした。千葉県では、よくこういう日に電車が止まります。最初に武蔵野線が止まり、次に京葉線が止まり、いよいよとなると常磐線が止まります。かんべえが今朝乗った電車は、延々30分も遅れて、しかも西日暮里駅で再び止まってしまいました。しょうがないから、そこから山手線に乗り換えて先を急ぎました。やれやれ、であります。
〇それでもこの電車の中で、『フューチャリスト宣言』(梅田望夫&茂木健一郎/ちくま新書)に熱中できたことはラッキーでした。お陰でノロノロ運転が全然気になりませんでした。
〇梅田&茂木ペアはかなり意気投合していまして、なおかつ手嶋&佐藤ペアのような不気味さはないので、好感度は高いです。二人とも、ネットが切り開く未来に対して非常に肯定的な見方をしています。読んでいて非常に勉強になるし、とくに茂木さんが語る脳の話がいちいち面白い。せっかくだから、以下、記録にとどめておきましょう。
●MITは今までに63人のノーベル賞学者を輩出していますが、そこでの競争原理は、ほかの人といかに違うことをやるか、ということなんですね。それに対して、日本は敷かれたレールの上での点数争いに過ぎない。
●研究者になる資質を持っている人というのは、野次馬的にいろんな方面に興味を持っている人だと思う。それは脳科学の「心の理論」すなわち、他者の心を読み取ったり、あるいは共感する能力と関係している。
●ダーウィンが『種の起源』(1859年出版)に書いた、突然変異と自然選択で種が出てくるというアイデアは、いま我々がみても非常にブリリアントです。実はその後この進化の実態がわかるまでには100年かかったわけです。・・・(中略)・・・いまは「アインシュタイン」よるも「ダーウィン」の時代なのでしょう。
●史上、名をなした文化人って、いまから見るとはっきりと定まった姿をしているように見えるんだけど、同時代的に見ると、大変な毀誉褒貶の中にいたわけですよね。そのような波乱の中で闘うことで、人間として成長した。いまはごく普通の人でも、ネットというものを使うと、昔なら一部の公人にしか与えられなかった試練にさらされ、成長することができる。
●僕は、インターネット時代には、逆説的ですが、古典的な教養というものが、復活するんじゃないかという気がしています。総合的な視座が求められる世になるから、かえって、それこそ孔子だとかゲーテだとか、総合的な知を実現した人たちに関心が再び向かうだろうというのが僕の直感です。
●生命原理というものは、近代が追究してきた「管理する」などの機械論的な世界観には馴染まない。・・・(中略)・・・結局、インターネットが人類にもたらした新しい事態の背後に隠されたメッセージは、一つの生命原理ということだと思います。命を輝かせるためには、インターネットの偶有性の海にエイヤッと飛び込まないと駄目なんです。
〇もう、ほとんど同意なんですが、何となくついていけないところもある。それがなぜかを考えてみると、著者である二人の同世代人は日本社会に対する一種のルサンチマンがあるのですね。かんべえは、その手の情念がまったく欠落しておりますし、基本的に保守的な人間でありますので、その辺にちょっとした距離感がある。だから、「ネットなんて、たいしたことないっすよー」と斜めに構えてみたくなる。
〇それでもこの本を読んでいる間は、茂木さんが言うところの「大脳皮質の下からドーパミンが放出されている」ような状態だったと思います。かんべえは以前から、「どんなにくだらないことであっても、自分が熱中できる時間は無駄ではない」と思っているし、「どんなに重要なことであっても、我慢して勉強した内容は後に残らないから無駄」と思っています。これって正しかったのかな、なーんて思いました。
<5月12〜13日>(土〜日)
〇引き続き茂木健一郎『「脳」整理法』(ちくま新書)を読む。これも面白い。以下のような概念があることを学習しました。
●偶有性(Contingency):この世の中で起きる出来事は、半ば偶然に、半ば必然的に起こる。世の中全体としては統計的に予測される出来事も、それが生じる個人の立場に立てば一回性の出来事となる。この「確実でもなければ、ランダムでもない」という状態が、脳を鍛えるのだそうだ。
――かんべえはテレビの生放送本番の直前や、競馬の出走直前の緊張感が大好きです。あれは脳が不確実性を楽しんでいるのですな。
●セレンディピティ(Serendipity):「偶然の幸運に出会う能力」を意味する。Aを求める旅をしていたところ、Bと出会ってしまい、その結果、当初は予定していなかったような幸福に出会う、てなことは、人生には良くありますよね。この能力を高めようと思ったら、「まず行動すること」、「偶然の出会いに気づくこと」、そして「意外なものを受け入れること」が必要ということになります。
――この能力を高めるためには、「浮気性」であることも必要ですね。
●ディタッチメント(Detachment):科学者が良くやるように、みずからの立場を離れて「神の視点」に立って世界を見ること。ケンブリッジ大学の中の議論には、こんなイギリス経験主義の精神が満ち溢れていたのだそうだ。
――1日に1回、こんな心境になる機会を持つことができたら、人生はかなり改善されるでしょう。
●パフォーマティヴ(Performative):ディタッチメントとは反対に、政治的な配慮をした言説を行うこと。いわゆる「言論界」における議論の大半はこれですな。
――ああ、とっても耳が痛い。
●フリージング(Freezing):不確実性を前に身がすくみ、何も出来なくなるような状態。こんな風に引きこもってしまうと、学習機会が失われてしまい、脳の発達が止まってしまう。
――逆にいえば、根拠のない自信を持っている人は強い。女にモテルのは、得てしてそういうタイプですものね。
〇この本には、脳の本質から考える「生きるためのヒント」が詰まっています。いろんな教訓を得ることが出来るでしょうが、個人的にいちばんヒットしたのは「大きな議論をするときは、偶有性を排除してはいけない」ということですね。たとえば「日本人」を語るときに、「日本人とは何か」という線引きをハッキリさせよう、などという議論は、得てしてロクでもない結果を招く。まことに実感できる教えではないかと。
<5月14日>(月)
〇内外情勢調査会の仕事で金沢へ。富山と福井は以前に行ったことがあるので、これでめでたく北陸3県を制覇したことになる。パチパチ。
〇さて、石川県金沢市とはどんなところでしょうか。参考資料をどーぞ。このページもずいぶん、充実してきましたね。
●石川県の噂 http://wiki.chakuriki.net/index.php/%E7%9F%B3%E5%B7%9D
●金沢市の噂 http://wiki.chakuriki.net/index.php/%E9%87%91%E6%B2%A2%E5%B8%82
●禁句@石川 http://wiki.chakuriki.net/index.php/%E7%A6%81%E5%8F%A5/%E7%9F%B3%E5%B7%9D
(追記:上のリンクはうまくつながりません。よろしければ、最初に「ご当地の噂」http://www.chakuriki.net/karuta/ を開けて、ページの中段にある各県へのリンクから目指すページに飛んでみてください。かなり笑えます)。
〇かんべえの郷里・富山県との間では、地方にはありがちな「微妙な緊張関係」がある。石川県側には「加賀百万石」というプライドがあって、北陸では自分たちが文化の中心だという思いがある。富山県側は前田家の分家という引け目意識があって、その分を経済力で見返そうとする。実際に北陸電力も北陸銀行も富山市に本社があったりする。両県の県民性を称して、「越中強盗、加賀乞食」などという。キツイ言い方だが、結構当たっているんじゃないかと思う。なお、「越前詐欺」というバージョンもあるのだが、そっちの方はよく分かりません。
〇それでも全国を回って見ると、富山と石川は自然条件といい、言葉といい、気質といい、いちばん似たもの同士ではないかという気がする。特に今日みたいなフェーン現象の日には、それを感じます(こんな気象、ほかじゃ考えられない)。道州制の議論の際には、北陸3県でまとめるのか、新潟をくっつけるのか、それとも中部地方に入れるのか、などいろんな組み合わせが考えられるのですが、とりあえず両県が別々になることだけはないでしょう。
〇全国の「となりの県との関係」をまとめて一冊の本にしたら、なかなか面白い読み物ができるかもしれません。ウィキでもそういう企画って、やってくれないかなあ。
<5月15日>(火)
〇先週号の溜池通信のネタを、いろんな場所で試しています。先週末はこの人の会合で一席ぶちましたし、今夜は三原淳雄御大の勉強会で実験しました。明日はこの人と一緒に掛け合いをやる予定。いろんな聴衆を相手に、同じ話を試しては反応をチェックしているわけで、もちろん場所によって「つかみ」を変えたりします。おそらくお笑い芸人が新ネタを試すのはこんな感じなのでしょう。
〇ちなみに昨日、金沢でやった講演は「当面の内外情勢と日米関係」というテーマで、内外情勢調査会ではもっぱらこういう堅いネタを演じています。それよりもう少し短い時間で、客席をアジる感じの話をやってみたいということで、「食から考える現代ニッポン」という演題を作ってみた次第。こういうことを意識するようになると、もはや堅気のサラリーマンでもなければ、まっとうな研究者でもない。われながら、ほとんど芸人の世界という気がします。
〇とはいうものの、素人が芸人から学べることが多いのも事実。かの大前研一先生は、若い頃に自分の話ベタを痛感し、寄席に通って落語の話術を勉強したそうです。かんべえはそこまで努力家ではありませんが、幸いなことにアカデミズムの住人でもありませんので、この手の「ウケ狙い」をすることにはあんまり罪悪感がありません。
〇かんべえがいつも「芸人」という言葉から連想するのは、小学校の頃に読んだ桂米朝師匠の言葉です。「芸人というのは、釘一本作らないのに酒がうまい、まずいといっている職業なんだから、末路哀れは覚悟の上やで」。これはまさに至言というべきで、「芸人」の部分を「商社マン」や「エコノミスト」、あるいは「インベストメント・バンカー」や「ジャーナリスト」、はたまた「ヤクザ」や「政治家」に置き換えてもほとんど違和感がない。要は虚業は虚業らしく振舞いなさい、という教えであって、「末路哀れ」の覚悟がない虚業家ほど見苦しいものはない。心したいものであります。
<5月16日>(水)
〇いよいよサルコジ大統領が誕生しましたね。フランス政治はずっと不案内でありますが、先日、プロの見立てを聞く機会があったので、感心したことをいくつかメモしておきます。
●サルコジ53.06%、ロワイヤル46.94%。フランス大統領選挙において、6Pの差は大差である。地域バランスで行くと、本来は左派の金城湯池たるフランス北部の工業地帯がサルコジに靡いた。治安と失業問題が大きい。社会党はこれで95年、02年、07年と3連敗。そのショックは深く、党内の亀裂は深い。この後、たぶん国民議会選挙も負けるだろう。たぶんコアビタシオンはない。
●これまでのフランス大統領は、「家父長的」な存在であった。今回の選挙で、それがさすがに時代遅れになった。移民の子で、ENA出身でもないサルコジの登場は、いろんな意味でフランス政治の「断絶」である。新大統領の誕生には、「ページがめくられた」という開放感がある。
●シラクは特別、親日派というわけではなかった。シラクはいわば「アジアおたく」であり、中国文化にも造詣が深かった。その点、サルコジは日本やアジアに強くはないが、逆にいえばそれが当たり前。中国に対しては、人権問題でハッキリものを言うとする反面、武器禁輸政策解除には賛成。
●ブラウン(英)〜サルコジ(仏)〜メルケル(独)は全員が1950年代前半生まれ。つまり安倍さんと一緒。これで来月、G8サミットで4人が顔をそろえると、意外と気が合うかもしれない。
――それを考えると、日本には早く成仏して欲しいような戦前生まれの政治家が多いですなあ。
<5月17日>(木)
〇QE(1―3月期GDP速報値)が発表されました。前期比0.6%増、年率2.4%増というのは、前期(06年10-12月期)が大健闘であったことを考えれば、かなり強い数字といえると思います。いくつか感想を書き留めておきましょう。
(1)外需が強い。8四半期連続の増加。そもそも2002年以降の景気回復局面においては、かなりの部分が輸出の伸びで説明できてしまう。「新・貿易立国論」と呼んでいいと思うけど、今週月曜日に発表された通り、2006年度の経常黒字は21兆円というすごい金額です。現下の日本経済は輸出依存度17%という、おそらくは史上最高値の水準にある。ただし「丸ドメ企業」やグローバル化と無縁のセクターから見れば、「景気回復ってどこの世界のこと?」という印象になるかもしれません。
(2)個人消費に火が点きつつある。春闘のベアは渋めでありましたが、おそらくは今年の夏季手当て(ボーナス)はそこそこ行くでしょう。一時は死に絶えるかと思われた「お中元」なんていう風習も、法人需要が復活しつつあったりして、今年の夏以降は期待が持てる。もっとも、近年はコンプライアンスが厳しくなっているので、「ご贈答文化」をどこまで実行していいか、いちいち関係部署にお伺いを立てなければならなかったりして、その辺がまだるっこしい。
(3)設備投資は弱含んでいる。5四半期ぶりの減少である。米国経済の先行き不透明感や、企業の増益率鈍化、はたまた世界同時株安に対する警戒感など、経営者のマインドを冷やすような条件が続いているからでしょう。ところがそれで失速状態になるかというと、企業行動の慎重姿勢が景気の足腰を強くしているという面もある。全体に企業は、時間をかけつつ「空白の10年」の設備投資を埋めている感あり。一服感が出るのはかなり先のことになるでしょう。
(4)政府支出、公共投資はマイナス寄与。これはいかんともし難いことであります。住宅投資もやや反動が出ている。この辺の事情があるので、「牛歩景気」やむなしとなっている。引き続き「2%前後で御の字」ということになるのだと思います。
(5)GDPデフレーターが-0.2%に。これは、はるけくも来たりしものかな、という感あり。これで名目GDP成長率は、0.8%(03年度)、0.9%(04年度)、1.0%(05年度)、1.3%(06年度)となり、なんだかんだで右肩上がりになってきた。できれば07年度は、実質成長率を上回って欲しいものです。
〇結論として、「ようそろ」ということではないかと。とりあえずサプライズは少ないですね。
<5月18〜19日>(金〜土)
〇昨日のオフィス引越しの肉体労働で今日はヘトヘトです。風邪は治らないし、喉は痛いし、今週末は論座とSPA!の締め切りがあるし、ついでにここを見たら明日のゲストはおたかさんだとか。うううう。
〇さて、18日午前、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の第1回会合が行われました。このメンバーが「解釈見直し派」が勢揃いである、というのはまったくその通りでありまして、ワシのような見直し派が見ても、「これはちょっとあからさま過ぎないか」という気がする。というか、このメンバーのざっと半数は、かんべえにとって身近な人たちなもので、「この顔ぶれに混じって雑談すると、楽しいだろうなあ」とさえ思う。集団的自衛権の問題について、どんな答えが出るかはもちろん予想がつく。ま、今日の日経社説のような線でありましょう。
〇首相が私的な有識者懇談会を作るときは、ある程度の「作法」があって、わざと反対派を2〜3人入れておくものです。その上で十分に議論を戦わせるものの、最後は衆寡敵せず、座長の「それでは決をとりたいと思います」という声に押されて、多数派の線で落着するというのがセオリーであります。こういうとき、「斬られ役」を得意とする「有識者」もいたりして、その辺は長年のノウハウが官邸にはあるわけです。その辺のことは知らないはずがないのでありますが、剛速球のメンバーを並べてしまうところに安倍政権の特色があるのではないかと思います。
〇察するに安倍さんとしては、憲法改正という課題は、国民投票法案を通したことで「とりあえず十分」という認識があるのではないでしょうか。この先、本当に改正する場合は民主党の協力が必要なわけでして、それはおそらく次の政権(場合によっては民主党の政権)の課題となる。ところが、それまでにも緊急事態が発生するかも知れず、「いずれ9条は改正するからそれまで待ってくれ」とも言いにくい。そこは「解釈改憲」で切り抜けるほかはない。
〇つまり安倍政権の認識は、長期では国民投票法案、短期では集団的自衛権の解釈見直し、という構え。長期の課題が片付いたから、いよいよ短期に取り組むことが出来る。短期を先にやっちゃうと、長期に取り組むモチベーションが低下しますからね。この辺のやり方は、なかなかにお上手だと思います。
〇かといって、短期(解釈見直し)さえ片付けば、長期(憲法改正)は不要というわけではない。今回の見直しはいわば急場しのぎです。本当は、内閣法制局の従来の解釈を改めることがもっとも望ましい。が、それは難しいから、「この4類型だけは集団的自衛権の行使に当たらない」という結論を有識者懇で出す。当面起こりうる安全保障上の問題は、それでほぼ乗り切れるだろう。憲法改正までは、それで凌ぐしかないという現実的な判断なのだと思います。
〇安倍政権を非難したい人は、まずはこの二重構造を攻めてみてはいかがでしょうか。「アメリカの言いなり」や「軍国主義への回帰」的な安倍批判は、事実関係としても正しくはないし、いくら言われたところで痛みを感じないでしょうから。
<5月20〜21日>(日〜月)
〇愛知県長久手の発砲立てこもり事件は、情けないというか、割り切れないというか、何とも言い難いものがあります。
〇あの犯人の希望は、要するに「俺の話を聞け」ってことですよね。そのために、自分の子供を撃って、配偶者を人質に取り、警官を殺してしまうのだから、これはもう絵に描いたようなロクデナシでしょう。しかも、電話でFM放送のDJに愚痴をこぼしている間に、人質に逃げられている。はっきり言って間抜けです。
〇ところが警察はそんな犯人に報復を目指すでもなく、人質解放後も冷静に説得を続け、夜半になって犯人の投降を待って解決している。これがロシアや南米あたりであれば、速攻で蜂の巣にされていたことでしょう。まるで元暴力団員に対して、何か後ろめたいものでもあったみたいに慎重な対応でした。
〇SATは本来、北朝鮮の工作員やハイジャック対策で作られたはず。それが「復縁を拒否された」という痴話げんかの巻き添えをくらい、将来を嘱望された警官が亡くなった。しかも若い妻子が残されるという事態には、やり切れなさが残ります。どうせ殉職するなら、もうちょっとマシな事件であってほしかった、という気さえする。
〇とはいえ犯人のしょぼさといい、警察の妙に律儀な対応といい、平和な現代ニッポンの象徴であることも事実であります。もっと崇高な目的のために警官が殉職しなければならない社会とは、それだけ危険に満ちた社会であるわけでして、この国がそんな風になることを望むわけにもいきますまい。
〇問題はこんなダメ犯人でさえ、立派な銃器を持ててしまうという現実にある。まずは銃器の取り締まりをキッチリやりましょう、というのが取りあえずの結論でありましょうか。
<5月22日>(火)
〇日帰りで福岡に出張する。
〇せっかくなので、お昼ぐらいは福岡を代表するラーメンを食べるべきであろうと思い、ラヲタの配偶者にアドバイスを求めたところ、「初心者の場合は、まず一風堂の大名本店へ行って、『かさね味』を試すべきであろう」とのご託宣であった。一風堂といえば、今や都内にもたくさん支店があるが、本店でしか味わえないメニューがあるらしい。そこで福岡空港に降り立つと、すぐに小型タクシーに乗り込んで告げた。
「すいません、福岡の地理はまったく分からないんですけど、一風堂の本店に行ってもらえませんか?」
「一風堂なら、空港にもあるんだけど、そこじゃ駄目なの?」
「いや、それが本店でないと駄目らしいんで」
「まあね、こればっかりは、何が旨いかってえのは、人によるからねえ」
〇運転手さんは悪い人ではありませんでした。無線で「一風堂の本店って、どこにあるか知らない?」と聞いてくれて、ちゃんと間違いなく大名本店を探し当ててくれました。運転手さん自身は、小さい頃から食べ慣れている長浜ラーメンの濃いとんこつでないと、食べた気がしないのだそうです。ただし東京から来た人に薦めても、あんまり受けないということは体験的に分かっていて、それが「人によるからねえ」という発言につながってくる。
〇ややあって、一風堂本店のどまん前でタクシーが止まった。ちょうどお昼時であったが、店内は比較的空いていた。カウンター席のいちばん手前に腰を下ろすと、ゴルフの宮里藍ちゃんに良く似た店員がすぐに飛んできた。
「わざわざタクシーでのご来店、ありがとうございます」
〇あー恥ずかしかった。(注:「かさね味」は、もちろん替え玉して、おいしくいただきました)。
〇少し歩いただけですが、福岡はやっぱりいい街でありますね。まず、西鉄福岡駅前のアーケード街が、栄えているというところに感動しました。今どき全国の県庁所在地で、駅前のスプロール現象がない場所がどれだけありますでしょうか。しかもこの商店街では、古くからの喫茶店が健在なのです。ちゃんとスタバやドトールもあるのですが、それと地元の喫茶店が共存しているのであります。
〇商店街というものは、モータリゼーションやら大型スーパーの出店やらがなくても、代替わりに失敗して閉店する店ができちゃうのですね。つまり後継者が見つからないから、シャッターを下ろしてしまう。そうすると、そんな覇気のない商店街には人が立ち寄らなくなる。全国のシャッター通りというのは、何も不況だけが原因で起きるのではないのであります。ところが客がそれなりにあって、競争も厳しい商店街となると、ちゃんと新陳代謝が起きる。それゆえに人通りも絶えない。すべてのことに通じることですが、変わらないように続けるというのは、難しいものなのであります。
〇人の流れを見ていると、今日は天気がよかったせいもあるけれども、日傘を差している女性が多いのがまた良い感じでありました。帰りに空港で、「太郎ちゃんの暴れまがり明太子せんべい」を購入。これは明日、この人にお届けしようと思います。
<5月23日>(水)
〇国民投票法案が出来たけれども、憲法改正は実はとっても難しいってこと、知ってますか?
〇世論調査をやると、「改正すべし」の声が多いのは昨今の情勢ですが、具体的にどこをどう直すかに点いては、ほとんどコンセンサスがないのであります。かんべえの場合は、(1)9条の2項を削除する、(2)96条の改憲規定にある「衆参3分の2以上」を「衆参過半数」に書き換える、という2点だけの改正をなすべきだという意見です。そういうシンプルな改正案であれば、3年後の国民投票の際にも賛成票を投じますが、中曽根案のような仰々しい前文のある改正案であったら、断乎反対票を投じます。「アジアの東がどうのこうの」なんて嫌じゃありませんか。――こんな風に考えていくと、改正案で過半数を取るのは、実はとっても難しいのであります。
〇さらに憲法改正の是非を国民投票にかける場合、全文を「一括上程」というわけにはいかないでしょう。やはり個々の条文について、賛否を問わなければなりません。「9条を変えましょう」「二院制をどうしますか」「環境権やプライバシー権の概念を入れましょう」などと、丸バツ式で投票してもらうしかない。
〇ここで問題になるのが、投票所のキャパシティです。ご存知の通り、全国の投票所に使われているのはご近所の小学校の講堂などです。国民投票の場合も、同じやり方が踏襲される。その場合、投票所の広さから考えて、国民投票にかけられる条文は、最高でも5個まででしょう。つまり、「全文をくまなく修正する」なんてことは、夢のまた夢なのです。(もちろん、数が多いと覚えきれないという問題もあります。その意味でも、1回で3〜4個までが適当でありましょう)
〇しかもですな、9条改正を投票にかけて否決されでもしようものなら、目も当てられない。その場合、フランスのEU憲法みたいな状態になってしまい、「当分は触れられない」ことになる。その間に、安全保障上の重大事態が起きたらどうするのか。しかも改正案が否決されたら、その瞬間に日本国憲法は「民意により承認された」ということになり、右派による「GHQの押し付け憲法」というロジックが崩壊してしまうのです。ひょっとすると、国民投票法案の成立によって、チャンスを得たのは護憲派の側なのかもしれません。
〇では、どうしたらいいのか。かんべえのアイデアは、アメリカ式に「修正第X条」を継ぎ足していくことです。これであれば、否決されても再チャレンジができますし、「易しいことから少しずつ」というアプローチが可能です。憲法9条はそのままにしておくけど、「修正第1条で自衛隊の存在を認める」というやり方です。条文同士の矛盾が生じた場合は、最高裁で判断してもらう。ただし、この方式ですと、評判の悪い前文を直すことなどは、まったく不可能となります。
〇今回の国民投票法案を使う限りにおいて、憲法の全面改訂派が考えているようなことは、ほとんど砂上の楼閣といっていいでしょう。安倍首相が次の課題として、集団的自衛権の解釈改憲を急ぐ理由は明らかだと思うのですが、皆さまはいかがお考えでありましょうか。
<5月24日>(木)
〇ヘリテージ財団のジョン・タシック氏が訪日中。岡崎研究所でランチ。次回の日米台三極対話(ワシントン)の打ち合わせなど。米国外交の変容や、中国経済への評価、台湾の政情などについて意見交換。こんなネタを教わりました。
「アメリカには北朝鮮のスパイが2人いる。キムジョンヒルとキムジョンビルだ」
〇えー、解説するのも気恥ずかしいですが、これは六カ国協議のクリス・ヒル特使と、訪朝したビル・リチャードソン知事のことを言ってるんですよね。今後、ヒル特使のことは「クリス・ジョン・ヒル」と呼びましょう。
〇「それにしても、中国が台湾を取り戻そうとする意欲は、いったい何なんだろうねえ」と考えているうちに、ふと「明治の日本における条約改正」と同じかなと気がつきました。明治政府は、「攘夷」をネグって「開国」したところ、不平等条約を作ってしまったことに負い目を感じていた。それだけに条約改正に賭けた熱意たるやすさまじく、とうとう改正を実現してしまった。中国共産党は、同じようなことを感じているのではないのかな、ということです。
〇もっとも、不平等条約の改正は誰の迷惑にもなりませんでしたが、中台統一を望んでいる台湾人はもうほとんどいませんから、同じように考えるのは無理がありますけどね。
<5月25日>(金)
〇久しぶりに日経CNBCの番組でゲストを務めました。今年4月から始まった「夜エクスプレス」です。真壁先輩と掛け合いで、本日のネタは「エネルギー白書」と「米中戦略経済対話」。後者は今日、溜池通信本誌で取り上げたばかりなので、とってもフレッシュでありました。
〇やっぱり中国のバブルは弾けますよねえ、てなことで意見が一致。まあ、グリーンスパンが言ってることですから、別段、めずらしくもなんともないんですけど、その後に具体的にどうなるか、世界経済への影響はどうか、などと考え始めると、なかなかに難しい。
〇「世界経済における、米中ツインエンジン体制の終焉」ということは、やっぱり大きな問題になりますでしょう。あんまり考えたくないことですが、今年後半の大きなテーマになってしまうかもしれません。
<5月26〜27日>(土〜日)
〇昨今の世の中は荒れておる。社会面のニュースを見ていると、会津の母親殺しといい、愛知長久手の発砲立てこもりといい、まことに薄弱な動機で犯罪が起きておる。そうかと思うと、点検してないジェットコースターで事故があったり、ANAがシステムダウンで飛行機が飛ばなかったりする。なんという薄っぺらい世の中であろうか。
〇で、荒れた世の中を象徴するのが、わがタイガースの目を覆わんばかりの不振、ではなくて、JRAにおけるGTレースの大荒れなのである。馬券王先生が嘆いている通り、この春のGTレースは、「皐月賞」「天皇賞春」「NHKマイル」「ヴィクトリアマイル」と連続して馬連万馬券である。三連単に至っては、NHKマイルは973万円。100円が1000万円に化けちゃうのである。もうどうなっておるのか。
〇その点、今日のダービーは例年、堅く決まるということが知られている。三歳馬の頂点を決めるレースは、そうそう大番狂わせがあってはならないのである。いや、荒れるのは結構なんですが、セオリー無視のムチャクチャな馬券が来るのが困る。競馬が楽しくなくなっちゃうもの。単に高配当が望ましいのであれば、サッカーくじビッグでも買った方がマシである。
〇で、今日のレース、一番人気、フサイチホウオーの人気は2倍を割れている。押しも押されぬ本命。が、いやしくも皇太子殿下が臨席するレースで、ホウオーが勝って馬主のフサイチおじさんが、ニタニタしながら「次は凱旋門賞じゃあ」、なーんてことはあってはなるないだろう。よって消しである。では、晴れのダービーに勝つのがふさわしいのは誰か。
〇ここは田中勝春が勝ってダービージョッキーとなり、はにかみながらVサイン、という絵が思い浮かんだので、今日のレースはPヴィクトリーから買うことにする。が、なにしろ荒れ場である。「白鵬が優勝したから@―N」(白枠からホウオー)、「皇族が来ているからH」(ヒラボクロイヤル)などという語呂合わせも買ってみたくなる。が、我慢である。Pヴィクトリーから三連単であれこれと買う。
〇ところが電光掲示板に「安倍総理夫妻」が映った瞬間に、突然、ひらめいてしまう。「そうだ、アッキーだ。アッキーが来るかもしれん」。慌てて出走表を見ると、Oアサクサキングスという馬がいる。略せばアッキー。そこで何を思ったか、「これが来るかもしれん」とひらめいて買ったのがN―Oの馬連。ああ、ここでOの複勝を買っておけば、今日は笑って帰れたのに。
〇レースはそのOアサクサキングスが先行し、ゴール前、何が来てもおかしくないところ、駆け抜けてきたのがBウオッカでした。皇太子が来るから「女帝でBウオッカ」というのはもちろんアリなんですが、2位までであろうと思っておりました。いや、強かったですねえ。オークスを回避した時点で「何考えてんだ!」という非難の声がありましたが、こうなるともう文句なし。荒れてもOK。ウオッカ、秋は秋華賞ではなく、天皇賞を目指してもらいましょう。
〇そういえば2005年の天皇賞秋も、皇族が見に来たらアッと驚くヘヴンリーロマンスの勝利でありました。これはもうJRAは女帝支持ということでありますね。皇太子殿下は、とっても嬉しそうに見えました。
<5月28日>(月)
〇先週から移ったばかりのオフィスに、初めて訪ねてきたお客人は、雪斎殿でありました。ちなみに、いつもは図書室でお客をお迎えすることが多いのですが、今日の午前はまだ梱包が解けていませんでした。
〇フランスの土産話などを拝聴する。サルコジが登場した今のフランスは、アイゼンハワーが去ってケネディが登場したときのアメリカのような気分があるのだとのこと。要するに伝統的、家父長的指導者が去って、思い切り新しいタイプの指導者が現れた。この先がどうなるかはさておいて、長らく続いてきた20世紀の気分が去った。この国にもようやく21世紀が到来したぞ、という気分であるらしい。
〇いろいろ伺って面白かったのだが、雪斎どのが「今からフランス語を勉強する」というのには恐れ入りました。「習得するのに1年、2年かかっても、その分長生きして、いろんなものが読めればよい」とのこと。昨今のかんべえは、英語さえなるべく手抜きしようとしているので、ちょっと反省。人間というのは横着なものなので、ときどき「初物」のテーマを仕込まないと、どんどん袋小路に入ってしまう。ううむ、フランスねえ。
〇午前中、やたらと窓の外、赤坂上空をヘリコプターが旋回していて、うるさいなあと思っていたところ、後になってから松岡農水相の自殺の報が入る。やり切れない話である。先日の長崎市長の件といい、加藤紘一氏宅の放火といい、他国から見れば日本政治はずいぶんと血なまぐさくなったと映ることだろう。(そんな緊張感があるとは思えないのだけれど)。
〇ところで、これで赤坂議員宿舎に「開かずの間」ができてしまうのだろうか。つくづくゲンの悪い宿舎である。
<5月30日>(水)
〇都合により、週明けまで更新を中断いたします。溜池通信本誌も休刊となります。悪しからずご了承ください。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki