<4月1日>(金)
○今日から新年度。でも、時節柄、エイプリルフールネタはご遠慮しましょう。で、代わりに何をしようかと思ったのですが、今日から社会人となる若い皆さんに贈る言葉、というネタを思いつきました。といっても、人に説教するような柄ではないので、以下は他人が書いた本の推薦です。
○『挫折力』(冨山和彦/PHPビジネス新書)という本です。冨山さんは私と同じ年ですが、能力も経験もずっと上だし、立派な仕事をしてきた人ですから、言葉にも迫力があると思います。本の帯には、「失敗を愛せる人が最後に勝つ」と書いてあって、本書のメッセージはここに尽きています。とはいっても、それでお終いにしては申し訳ないので、本書が訴えているメッセージのうち気に入ったものを以下に挙げておきます。
●挫折とは、自分の能力以上のことに挑戦した(≒成長しようとした)証拠である。
●自分の好き嫌いを磨き、深めることで、迷いや後悔から開放される。
●「生意気だ」と叩かれるのは、若い時代の特権である。
●敗因の分析は、過去の自分を他人だと思うと意外と気楽にできる。
●メメント・モリ(死を忘れるな)
●人はやはり性格とインセンティブの奴隷である。
●シーソーは51対49になるまでびくともしない。それまでは、ひたすら忍耐強く、しつこく、何度でも繰り返す。
●「捨てる」覚悟こそ、これからのリーダーに必須のもの。
●自由とは、失うものが残っていないことの代名詞。
●社長と副社長の距離は、副社長と平社員よりも遠い。
○ちなみに上記は、私が将来、思い出すときのために書き残したものです。皆さんが読めば、違うくだりが心にフィットするかもしれません。上記とアマゾンの書評だけ読んで、読んだ気になっちゃ駄目ですよ。図書館で予約するなんてのも、お奨めしません。本は自分でお金を出して買いましょう。そして遠慮なく線を引いたり、ページに折り目をつけたりしながら読みましょう。たとえ1行でもいいから、自分にとって大事なことが書いてある本は、手元に置いておく価値があるものですよ。
○さて、皆さんはいよいよ学校を巣立つというタイミングで大震災に見舞われ、国難だの危機だのといわれる状態でこの日を迎えられました。卒業式が中止になったり、入社式が自粛になったり、あるいは希望した会社でないとか、正社員でないとか、いろんなことがあると思います。でもまあ人生というものは、トータルするとだいたいバランスが取れるものなんだそうです。だったら早めに不運や挫折を経験しておいた方が、立派な大人になれるというもの。
○今は日本全体が、天文学的な確率でドツボな貧乏くじを引いてしまったような状態です。建て直しはきっと長期戦になります。冨山さんや私の世代も頑張りますけど、皆さんにも期待するところは大であります。しっかりやりましょう。
<4月3日>(日)
○冴えない地味な週末である。3月11日以前に引き受けた原稿を、締め切りはとうに過ぎているのを伸ばしてもらって、せっせと書いているところ。ああ、1万字はしみじみ長い。でもさあ、今さらどうだっていいじゃん、米国経済の行方なんて!という私を誰が責められよう。でも、福島県ご出身の担当者を嘆かせるわけにもいかないので、花粉症で曇りがちな目をこすりつつ、PCと睨めっこを続けるのであった。
○今週末はJRAのいいレースがある。土曜日の日経賞は、@トゥザグローリー、Aペルーサ、Bローズキングダム。どうでもいいことだが、上位2頭はいつもつるんで走っているような気がするのは気のせいか。日曜の産経大阪杯は、@ヒルノダムール、Aダークシャドウ、Bエイシンフラッシュ。どうでもいいことだが、ドリームジャーニーは430キロを超えたら買ってはいかんようだ。ということで、両レースともテレビで観戦。出動していたら確実に損害を被っているはずだが、幸か不幸か馬券が買えない環境下にある。それにしても、府中で行なわれる皐月賞なんて嫌だなあ。
○外食産業が困っている、と聞くので、せめてお昼は外へ繰り出してみる。土曜日は柏市の焼肉の名店で、馬券王先生も大絶賛の「くらちゃん」に行ってみた。大盛況で、危うく入れないところであった。日曜は長躯、守谷市の「次郎」へ出かけてみたら、いつもどおりの長蛇の列が出来ていて断念した。4月に入ったら、世の中が平常に戻っているのであろうか。というか、いきなり人気店を目指すのがいけない。来週はもっと、地味な名店を支援しなければなるまいて。
○ところで今度の震災について、世界中がいろんなマンガを描いてくれています。
●Japan's
Enormous Earthquake
●Saddness
in Japan
●Nuclear
Crisis
○その中で、いちばん良いと思ったのはこの作品です。ちょっとタッチが大友克洋みたいですよね。作者はメキシコ人のようですが、災害に遭ったときの日本はやっぱりこんな風に見えるんだ、というのが発見です。
http://list.cagle.com/etoon.aspx?cartoon=/news/JapanSadness/images/dario.jpg
<4月5日>(火)
○今朝の「くにまるジャパン」でご紹介したのがこのニュースでありました。
●政府、企業に始業前倒し要請へ 電力需要の集中回避で
政府が東日本大震災を受けた夏場の電力需要抑制策として、企業に始業時刻を1時間程度早めるよう要請する案を検討していることが4日、分かった。電力需給緊急対策本部が近く取りまとめる対策に盛り込む。時計の針を進めるサマータイム(夏時間)制の導入は、コンピューターなどのシステム変更が間に合わず困難との見方が強いことから浮上した。(以下略)
○先週の放送では、「夏場の節電に向けて、サマータイム導入はどうでしょう」と呼びかけたのですが、この問題はつまるところ、「コンピュータなどのシステム変更が間に合わず」が結論のようです。日本企業は海外にたくさんコンピュータを輸出していて、それらにはちゃんと"Daylight
Saving Time"の機能がついているのですが、国内で使っている分はそうとは限らない。下手に強行したら、どこかの銀行さんがまたシステム障害を起こしちゃうかもしれない。仕方ないですなあ。
○そこで、「時計を動かすことはできないから、人間の方で1時間早く動いてください」という発想が上記なのですが、この辺がいかにも日本社会ですねえ。人間に規則を合わせるのではなく、規則に人間を合わせようとする。でも、これだと私も、「単なる労働強化につながりかねない」というサマータイム反対派の意見に同調したくなります。3/29〜3/30の当欄でも申し上げたとおり、「我慢ばっかりじゃなくて、こういう機会にライフスタイルを変える前向きな実験」を検討することが大切だと思いますので。
○それにしても、この1週間に文化放送に届けられた「復興に向けたアイデア」は膨大な数でありました。言いだしっぺとして、リスナーの皆さまに厚く感謝申し上げます。「自分には何も出来ないけど、意見を述べるくらいは・・・」とか、「差し障りがあるといけないと思って遠慮していたけど・・・」とか、いろんな理由があったのでしょうけれども、とにかく思いついたことを口に出してみる、ということに意義があると思います。
○シンクタンク業界で長く過ごしている者として、「アイデアは常に玉石混交の中から誕生する」と思っています。シンクタンクというと、何か名論卓説を生み出す機関だと勘違いしている人が多いのですが、ワシントンDCにある膨大な数のシンクタンクだって、その大半は「使えない連中」です。でも、「石」があるから「玉」が光って見える。何かあったときには、最初に「石」を投げてくれる人が貴重な存在なのだと思います。かつてForeign
Affairsで評判になった「歴史の終焉か?」(フランシス・フクヤマ)論文なんぞも、今にして思えば、冷戦終了後に真っ先に投げられた「価値ある石」だったと思うのです。
(ところでForeign Affairsといえば、こちらをご参照。福島原発の問題に対し、すでにこれだけの論文が書かれているのであります。アメリカって、やっぱりこういうところがすごいよね)
○話を元に戻して、この夏の節電策です。どうやらこの先、梅雨の頃までは首都圏の電気は足りる模様。で、その後については、計画停電はもう行なわないこととし、「需給調整契約に基づき、大口需要者に対する供給カットで対応する」ことになるみたいです。これなら鉄道や医療などの生活インフラは除外されるし、一般家庭も対象外となります。初めて知ったけど、電気事業法には経済産業大臣の絶大な権限が認められていて、かなり思い切ったことができるらしいのですね。
○企業や工場としても、計画停電よりはそっちの方がいい。夏までに時間はあるので、西日本シフト、海外移転、自家発電、輪番操業など、あらゆる手段を検討することになるのだと思います。身もふたもない言い方をしてしまうと、「節電のために、上手にカルテルをやりましょう」ということですな。経団連が音頭をとって、「オタクは月曜と火曜休み、アンタは水曜と木曜休み、ついでに夜だけ操業したい会社はありませんか〜?」などと交通整理をしたらいい。三越と高島屋は、土日は交代でどちらかが休むとか。コンビニが固まってある場所なら、1日3交代で休んでもいいよね(売上はさほど変わらないかも?)。
○ところで今日の放送中にいただいたアイデアで、「テレビの画面上にいつも電力使用状況を表示してはどうか」というのがありました。ヤフーのポータルでいつも出ているようなやつが、テレビで見られるようにしておけばいいのですね。昼過ぎの暑い時間になって、使用量が95%くらいにまで到達したら、皆が慌ててテレビやエアコンを切る。たぶん技術的にもそんなに難しくないので、かなり有力ではないでしょうか?
<4月6日>(水)
○すでに3月に税金を払ってしまった後なので、今さら手遅れなのかもしれないけど、誰か知っている人がいたら教えてください。「ふるさと納税制度」を使って、福島県などの被災地の財政に直接、貢献する方法はないのでしょうか。あれは確か、自分が生まれた土地でなくても、任意に選んだ自治体に対して納税額の一部を納めることができる制度だったはず。だったら今年か来年、払う税金の一部を、被災地に向けたいと考える人は、少なくはないのではありますまいか。
○孫正義氏の100億円には逆立ちしたって及びもせぬし、杉良太郎氏や江頭氏のような直接行動にも出られず、せいぜい「○○に×万円の寄付」みたいなこと(知り合いベースでこことかこことか)をちょこちょこと繰り返してお茶を濁していると、「もう少し、何かできんのか?」という気になってきます。でもまあ、浮世の義理があったり、社会貢献より会社の日常というのもあったり、人間の器というものもあるので、なかなか小市民の域を出られない。
○ただし被災地側としては、「寄付」のお金よりは「納税」の方が早く届くし、遠慮なく使えるだろう。もっと言えば、一番望ましいのは「ビジネスベースのお金」が現地に落ちて、経済活動につながる(できれば雇用も増える)ことなのだと思う。だったら、慈善活動は下策で、税金を増やすのが中策で、現地でお金を落とすのが上策ということになる。
○情けないことにこの年度末、所得税にお祝いにと何かと物入りが続いて、やっと一段落したかと思ったところへ固定資産税の通知も来て、うぎゃあと思ってクルマで外出したら、一時停止未確認で青切符を切られてしまった。実に15年ぶりの交通違反である。まことにくやしい7000円であった。そういえば自動車税も来るんだよなあ。・・・・つくづくお金の使い方は難しいのであった。
<4月7日>(木)
○昨日の質問に対して、膨大なメールを頂戴いたしまして恐縮しております。よくよく考えてみれば、「ふるさと納税」なんて検索すれば一発で分かる話でして、「ググレカス」の一言で済まされるべき愚問でありました。それを多くの方からご丁寧にご教示いただき、まことに痛み入ります。
○で、答えは当然「できる」でありまして、早速本日、福島県のサイトにアクセスして、電子申し込みをいたしました。共同電子申請システムには、下記のような表示がありまして、同じことを考えている人が多いようです。
現在、多くの方々からお申し込み等をいただいており、事務手続
きが大変遅れています。準備が整い次第、順次御連絡しますので
自動返信メール後、しばらくお待ちくだいますよう予め御了承をお願いします。
○後日、「郵便局、現金書留、現金持参、クレジットカード」のいずれかの方法で送金します。その上で領収証書を受け取っておくと、来年の確定申告の際に使えます。その分、翌年の住民税が減ることになります。
○ちなみにふるさと納税については、宮城県の説明が大変スグレモノでして、こんなFAQが書かれています。
Q:どのくらい寄附していいかわかりません。
A:ご寄附はいくらでもかまいませんが,個人住民税(所得割)のおおむね1割までの寄附金であれば,自己負担額5千円を除いた額の全額が税額から控除されます。次の表を参考としてください。
【参考例】夫婦・子ども2人のサラリーマンの場合
年収 | 寄附額の目安 | 税の控除額 | 自己負担額 |
---|---|---|---|
500万円 | 20,000円 | 15,000円 | 5,000円 |
700万円 | 41,000円 | 36,000円 | 5,000円 |
1,000万円 | 81,000円 | 76,000円 | 5,000円 |
2,000万円 | 262,000円 | 257,000円 | 5,000円 |
3,000万円 | 488,000円 | 483,000円 | 5,000円 |
寄附額の目安,税の控除額は,年収,家族構成,住民税額,寄附額等によって変わります。詳しい住民税額は,お住まいの市区役所(町村役場)にお問い合わせください。
○もちろん控除の金額にこだわる必要もないでしょうけれど、上記の範囲内であれば「自己負担MAX5000円」で被災地の自治体を支援することができます。その分、お住まいの自治体(不肖かんべえの場合は千葉県&柏市)の住民税が減りますけど、そこはお許しを願いましょう。なにしろこの災害は、全国で支えなければいけませんので。
<4月8日>(金)
○今日でちょうど震災発生から4週間目ですが、週明け4月11日になればちょうど1か月。その日に菅首相名で、欧米の有力各紙に謝辞を発表する計画があるそうです。福島原発があのような状態で、行方不明者もまだ1万5000人ですから、そんな気にはなれないという声も国内的にはありそうですが、日本が恩知らずな国になってしまっては一大事。お礼は重要なことだと思います。
○日本という国は援助することに慣れているけど、されることには慣れていない。すでに百を超える国から援助を受けているが、それらは外務省のそれぞれの国の担当部局が窓口になっているので、全体としての行動にバラつきが出ることがある。せっかくの申し出を断ってしまった、などという話を聞くとガッカリしてしまいます。国際儀礼に沿った形で、謝意を表するべきではないかと思います。
○そこでひとつご相談なのですが、「これまでに震災への支援をいただいた国への感謝決議」を、国会で満場一致で通してはどうでしょう。こう言っては何ですが、日本の首相はしょっちゅう代わるし、正直なところ菅さんもどれだけもつか心もとないところがあります。たぶん1年後には官邸にはいないだろうなあ、という気がします。だったら首相が談話を発表するよりも、国会の感謝決議の方が後々残るし、より公的な性格を持つと思うのです。
○問題は各党間の調整ですけれども、こんな決議に反対する政党があるとは思えません。今は統一地方選挙を控えて動きにくいかもしれませんけれども、終わったら早速取り掛かってほしいと思います。
<4月10日>(日)
○先週金曜日に景気ウォッチャー調査の3月分が公表されました。最新号の「溜池通信」でも書いたとおり、マクロの景気指標の中では、これが「3/11後の日本経済」を分析することのできる、ほとんど最初の判断材料ということになります。
(1)予想通りとはいえ、派手に落ちてくれたものです。現状判断DIは2月の48.4から3月には27.7へ、実に▲20.7pという過去最大のマイナス。それでもリーマンショック後は20台を割ったこともありますので、水準としては過去最悪ではない。来月が少しでも上向くかどうか、気になるところです。
(2)業種別に見ると、飲食関係(▲27.4)や非製造業(▲19.0)の落ち込みが目を引く。他方、製造業(▲13.7)は軽く済んでいる。しかし後者は「サプライチェーン問題」を十分に織り込んでいない可能性がある。逆に前者については、自粛ムードが改善されれば早めに上向くかもしれない。
(3)地域別に見ると、東北が48.9(2月)→16.8(3月)で▲32.1というひどいことになっています。東北・関東が激しく落ち込んでいるのに比べ、西日本は相対的にはマシになっています。しかし先行き判断DIの方を見ると、全国一律に悪くなっている。これはまあ納得というもので、沖縄だって観光産業全体に影響が出るでしょう。
(4)コメント欄はほとんどが「悪い話」で埋め尽くされているが、そんな中で出てくる数少ない「いい話」は「震災特需関連」。例えば以下のようなものがある。
・東日本大震災の影響に伴う仮設住宅の建設や資材の増産及び4月からのメーカー値上げに伴う仮受注により、受注、販売量共に増えている(東海=鉄鋼業)。
・東日本大震災の影響で、東北地方からの部品調達ができなくなっており、一時的に緊急に受注できるケースが増えている(北陸=電気機械器具製造業)。
○今週は和歌山県、来週は大阪に出張の予定があるので、少し西日本の雰囲気も体感してきたいと思います。かなり温度差があるかもしれませんので。
<4月11日>(月)
○あの震災から今日で1か月。と思ったら、夕方になってまたまた揺れてヒヤリ。震源地が福島と聞いて今度はドキリ。どこまで続くぬかるみぞ。
○以下は福島第一原発の中で働いている(と称する)人の言葉。ついつい真剣に読んでしまいました。
●第一原発行って来たけど質問ある?
○確証はないけれども、たぶんホンモノなんでしょうね。トップの指揮はダメダメだけど、末端の士気は意外と高い。日本社会って、いつもこんな風。
○福島原発の収拾について、意外なほど多くの人から「なぜアメリカに頼まないのか?」という声を聞く。何だか「科学特捜隊じゃ勝てるはずないから、ウルトラマンを呼べ」と言っているように聞こえる。確かに米軍は、実戦経験がある分だけ自衛隊よりも頼りになるだろう。でも、彼らだってウルトラマンではないのである。ホントに頼んだら、きっと困ってしまうだろう。
○なにしろアメリカは、イラクとアフガンとリビアで戦争をやっていて、その上で「トモダチ作戦」をやっている。ところがそういう状態なのに、連邦政府がシャットダウン寸前まで行ってしまう。全然自慢できるような状態ではないのである。
○もっとも世界中見回しても、今は政治が機能してない国の方が多い。フランスは選挙対策で戦争したがるし。イギリスは政治家が立派なこというけど、国民がついて行かないし。EUではギリシャ、アイルランド、ポルトガルと生徒3人もインフルエンザが出て、そろそろ学級閉鎖した方がいいんじゃないかとか。中国共産党だって、内心ヒヤヒヤしながら統治しているんじゃないか。
○昨日は統一地方選挙だったけど、「ああこの人を選んでよかった」と思える指導者がどれだけいることか。その分だけ、下々がしっかりするしかないのであろう。「あそこは核兵器持たない国だから、やっぱり腹が据わってないよね」、などとは言われたくないものである。
<4月12日>(火)
○今朝のくにまるジャパンでお話したネタは「電力の鬼・松永安左ヱ門」でありました。参考文献は、橘川武郎一橋大教授の『松永安左ヱ門―生きているうち鬼といわれても』(ミネルヴァ書房)と、小島直記『まかり通る』(東洋経済新報社)でありました。どちらも名著だと思います。特に後者は、1973年に毎日新聞社から出版され、絶版になって新潮文庫になり、それも絶版になったところを、2003年に東洋経済新報社から再び単行本で出ている。これはファインプレイというもので、こんなに面白い伝記文学が、埋もれてしまわなくてよかったとしみじみ思います。偉いぞよ、東洋経済。
○最近、東電は国営化は不可避、みたいな論調が増えています。福島第一原発の廃炉と補償には膨大な金額が必要となるので、一時的にそれに近い状態になるのは避けがたいのかもしれません。ところが日本の場合、電力会社は元からすべて民間企業である。これは世界的に見ても、めずらしいケースと言えましょう。なぜ、そういうことになっているのか。答えは「松永安左ヱ門」にあるのですね。この人がいなかったら、日本の電力の歴史は変わっていたでしょう。
○新興国家においては、鉄道、通信、電力などのインフラ事業は「国営でやるか、民営でやるか」が悩ましい問題になります。日本の場合、鉄道は最初は私鉄で始まって、日露戦争後に国営化されて国鉄となり、1987年に分割民営化が行なわれた。通信は国家安全保障上重要だということで、最初から国営(電電公社)であったが、それが1985年に民営化されてNTTとなった。郵便局は最初から国営で、2005年に民営化が決まって、でもその後はゆり戻しが起きている。
○電力の場合は、政府の統制をあまり受けない形で広がった。でも、公益ビジネスであるし、発電所の開発には巨額の資金を必要とするので、「国営の方がいい」という議論は絶えなかった。ところが1928年(昭和3年)、国内第2位の東邦電力の社長であった松永安左ヱ門は、「電力統制私案」なる文書を発表し、公益事業はどのみち規制は受けるのだから、民営で競い合う方が国民の利便性が上がっていい、と説いた。なにしろ信念の人であったため、勢いあまって「官僚は人間の屑である」などと放言し、大問題になってしまった。それくらい血気盛んな人なのである。
○それでも戦時中はさすがに電力は国営化され、松永は地位を失って隠遁生活を送ることになる。これが茶の湯三昧のカッコいい暮らしだったのだが、戦後になってGHQに呼ばれて出番が戻ってくる。ここで松永の時論であったところの、@民営、A地域分割・独占、B発・送・配電一体、C料金許認可制、という今の枠組みができあがる。世界的にはかなりユニークだが、市場原理と公益性をうまく組み合わせた仕組みであった。
○橘川教授の評価では、この体制は1973年まではよく機能した。言われてみれば、黒四ダムやLNG導入などが進んだのはこの時期である。わが国初の原子力発電も、民間企業が出資した日本原子力発電という形で始まった。ところが石油ショック以降は政府の過保護が始まり、電力会社は次第に「役所よりも役所らしい」といわれる今の状態に近づくことになる。すなわち民間企業による熱意、という「松永安左ヱ門魂」は失われていく。(そういえば、今月号の文芸春秋の東電ルポは良く書けておりますなあ)。
○松永は1971年に95歳で永眠する。ちょうど福島第一が完成した年であった。今の状態を見たら、果たして何と言って嘆くのであろうか。
<4月13日>(水)
○昨日の続き。
○官僚を嫌った松永安左ヱ門であるが、役人そのものを嫌っていたわけではない。「お役人」的な精神の停滞を嫌ったのである。以下は小島直記の小説の一節で、松永が架空の人物に対して語る長広舌の一部である。当然、著者の想像力の産物であるが、いかにも本人が言いそうなことなので、ついついご紹介したくなる。(『まかり通る』P559)
「君は官僚が大きらいだといった。官僚的国家管理はいかん、といった。賛成だ。しかしだ。考えちがいをしてはいけないよ。官僚、官僚とののしるが、官僚という別の人種がいるのではないんだ。人間が権力を持ったときに示す自己保存、権力誇示の本能の表現、それが官僚意識というもんだ」
「だから、つねに官僚発生の危険性があるということだ。君は今、社会大衆による監督指導機関といった。なるほど、ことばとしてはいい。流行のデモクラシー色で塗り固められてある。けれども、そういう機関のポストにすわった瞬間、その社会大衆というものは消えうせるのだ。官僚に化けるのだ」
○霞が関の官僚機構の中には、理想に燃えた立派な人物がいる。不肖かんべえなんぞも、そういう人をいっぱい知っている。まことに名誉なことである。逆に民間企業の中にも、心はとうの昔に朽ち果てて、気の利いたような反対意見を言うことで自分の地位を守ろうとする姑息なヤカラもいる。そういう人間もまた、掃いて捨てるほどいる。まことに残念なことである。
○「官僚は人間のクズだ」と言い放った松永は、官僚そのものを嫌ったのではなく、官僚的なるものを嫌った。そして本人は、終生、本気で人と接し、しょっちゅう癇癪を起こし、冒険心を忘れず、仕事と人材をたくさん残して世を去った。
○最後の公職を追われ、いよいよ身を引くことになったときの松永は、こんな風に描かれている。(同P679)
政府はついに公益事業委員会を廃止した。記事は、そのことにちなみ、安左エ門の行動を書いている。
安左エ門は、公益委の委員、顧問、事務次官、東京電力、電気協会などへの挨拶を済ませると、その翌日朝、一人で小田原の夫人のもとに立ち寄り、さらにつぎの朝、伊豆南端堂ヶ島の草庵に引きこもってしまった。
公益委での別れの挨拶がいい。
「役人はダメだ。官僚はなっとらん・・・・・・1年7か月の間、諸君に毒舌を浴びせてきた。戦いに破れて諸君といっしょにクビになった今日、こころから諸君にあやまる」
役人をホロリとさせた、という記者の筆は出まかせとはおもえない。
○こういう人が、今の9電力体制を作ってくれた。それがもし、今回の事態で崩れるとしたら、その理由は松永があれほど嫌った「官僚的なるもの」=自己保存や権力誇示の本能が、どこかにはびこっていたからであろう。
○松永の仕事ぶりは、「お役所的」という言葉のおよそ対極にあった。一例をあげれば、黒四ダムを造った太田垣士郎は、松永がたっての頼みで小林一三から関電社長として譲り受けている。というより、ほとんど強奪したようなものである。松永にとって小林は、かつての盟友であり、ライバルでもあった。従って、小林は嫌とは言えない立場なのだが、それでも抵抗を試みる。(同P646)
「じつは太田垣は健康を害しているのだよ。だからオレとすれば、あれを殺すようなことは、とてもできんのだ」
しかし安左エ門はいった。
「公益のために死ぬのならいいじゃないか。オレは断じてもらう。オレは関西のために太田垣を殺す!」
これはもはや、人間のことばではない、というべきだろう。安左エ門は、すでに人間ではなかった。最初の命名者がだれであったかは知らないが、
<松永は鬼>
といった人の感覚はすばらしい。
○果たしてわれわれは、松永安左ヱ門の精神を取り戻すことができるのだろうか。敗戦後の日本が松永という「鬼」を必要としたように、震災後の日本にも「鬼」が求められているような気がする。
<4月15日>(金)
○昼に安保関係の集まり、午後に外交関係の集まり、夜に経済関係の集まり、それからビジネスマン勉強会の二次会。都合4レンチャン。どこへ行っても似たような話ばかりで、つまるところクラ〜イ気分になってしまうのだが、「これが最悪だ」などと言っているうちはまだ底ではない、という経験則からいくと、まだまだ気を引き締めておく必要があるのでしょう。
○1日でいろんな意見が飛び交いましたな。個人的には、以下のようなところがポイントかなと思いました。
「この1ヶ月間の政府の対応は、“失敗の本質”から何も変わっていない」
「危機管理が問題なのではなく、管理危機が問題」
「まず政と官の和解を済ませておかないと、大連立しても何も変わらない」
「日本は“核兵器なき原子力大国”であることの限界を露呈した」
「政府と電力会社間の長い愛憎関係の歴史を踏まえないと、効果的な原発対策は難しい」
「9/11直後の米国では、2001年10-12月期の個人消費寄与度は前期比+4.7%だった」(自粛の正反対)
「2011年度の貿易収支は、何もなければ8〜9兆円程度の黒字。震災のせいでゼロになるかもしれないが、それでも所得収支黒字12兆円は健在。なかなか経常赤字にはなりません」
「国会のネジレは仕方がない。与野党で紳士協定を結び、参院の問責決議は3回出たらアウトということにしてはどうか。つまり衆院の不信任はレッドカード、参院の問責決議はイエローカード」
○ほかにもいっぱいあったはずなんですが、そのうち思い出すことにしましょう。
○消耗して家に着いたら、福島県総務部税務課から振り替え用紙が届いておりました。4月7日に「ふるさと納税」の電子申し込みをしたところ、たて込んでいるようで事務手続きに1週間程度かかる模様です。たいした金額ではありませんが、週明けに振込みすることにいたします。
<4月16日>(土)
○以下は「3/11」直後の霞ヶ関でのお話。
○その1。ある課長さんは、土日に出勤してすぐに被災地と連絡を取り合って状況を確認した。その上で特例措置の導入を検討した。
「○○県、××県・・・ここまでは当然だな」
「▲▲県はどうしますか?」
「え?あそこか?うーむ・・・」
○確かに被害は出ているが、▲▲県は他県ほどひどくはない。でも、大臣の選挙区である。「ウチも入れろ」と言われるかもしれない。少しだけ悩んでから、原案通りで提出してみた。大臣の返事は、「それでいい」だった。こういうときに「情実」が入ると、他県の政治家も次々に口を出し始めるかもしれず、内心ヒヤッとするところであった。後日、省内で大臣の株が上がったことは言うまでもない。
○その2。日曜のお昼が近づいていた。課員は皆、昨晩からコンビニのおにぎりとパンだけで仕事をしている。そこで課長さんは吉野家に電話をかけた。
「お宅、今日の昼は営業する?」
「はい、限定400食で準備してます」
「テイクアウトはいいの?」
「1人5個までならOKです」
○課長さんは若手2人を吉野家に並ばせて、お昼に牛丼10個を確保した。久々の暖かい食事に、職員が喜んだことは言うまでもない。1か月後の今も、「あのときの牛丼」は職場の語り草である。
○いろんな場所で「3/11」体験があって、危機は少しだけ人を成長させてくれるというお話でした。
<4月18日>(月)
○今頃になって、「シーバーフ」なるものの存在を知りました。米海兵隊の中にある「化学・生物兵器事態対応部隊=CBIRF(シーバーフ)」という部隊で、メリーランド州インディアンヘッドに450人が配置されている。その一部が福島原発に派遣されている。記事はこちらをご参照。
東京電力福島第1原発事故を受け、米軍の放射性物質(放射能)被害管理を専門とする部隊の先遣隊が2日、横田基地(東京都)に到着した。当面は同基地を拠点に自衛隊との情報共有を進める。日本側は深刻な放射能漏れなど緊急事態では、除染作業への投入も要請したい考えだが、米側が実際に立ち入り禁止圏内で部隊を展開させるかは未知数。原発事故での日米協力は初めてのケースだけに、どこまで共同対処ができるか試行錯誤が続きそうだ。
○米軍としては、こんな部隊があって放射能災害に備えているということは、対核テロ戦略を考えたら大っぴらにはしたくないことであったはず。それを投入してくるということは、おそらく「他国で実地訓練が出来る」ことに魅力を感じてのことだろう。実戦経験があるかないかは、大差でありますからね。ただし、シーバーフが福島で、危険な任務に命懸けで協力してくれるかどうかは分からない。要は日本側の努力次第ということになるだろう。
シーバーフの任務は(1)放射能の検知・識別と被災者の捜索・搬出(2)医療(3)除染−に大別できる。事故の収拾や放射能漏れへの対応策に関する専門知識も提供する。原発事故を想定した訓練も行っているが、「原発安全化」の実任務は経験したことがない。このため自衛隊幹部は「米軍はまだ様子見の構えで、現場での運用には慎重」と話す。
○変な話だが、アメリカ側が後で「シーバーフの運用コストを日本側で負担してくれないか」と言い出したら、どうするんだろう。とても断れないような気がする。気がつけば、われわれは大きな借りを作りつつあるらしい。
○ちなみに「シーバーフ」は、日本の地下鉄サリン事件の教訓から、1996年に発足した組織であると聞く。われわれがオウム事件を忘却する間に、米軍はこんな部隊を育てていた。今になって、その彼らの手を借りようとしている。やはり「核兵器なき原子力大国」の日本は、そういった覚悟や備えがなかったようである。
<4月20日>(水)
○白状しよう。今を去ること20年くらい前、不肖かんべえは、株式コード9501=東京電力株を200株買った。単価は1株あたり2480円であった。つまりは50万円である。いつ買ったかは記録が残っていない。なにしろ今はなき山一證券だったので、調べようがないのです。当時の50万円は私にとって小さくない金額であり、買った当初はこんな風にうそぶいたものである。
「まあ、東京電力がつぶれるときは、日本がつぶれるときだろうし」
○それが今や、東電の国有化が大真面目で議論されている。福島第一原発が、向こう半年くらいで冷温安定してくれればよし。そうでなかったら、この国はどうなるか分からない。無事に冷温安定化してくれたとしても、その後は石棺化などの長い道のりが続くであろう。われわれとしては、それが成功してくれることに賭けるほかはない。いつだって絶望は、愚か者の結論なのだから。
○東京電力株の今日の値段は445円である。毎年、幾ばくかの配当を受け取って来たけれども、とうとう時価で9万円くらいになってしまった。もちろん、今さらこの株を売るつもりはない。そんなことより、6月に行なわれるはずの「世紀の株主総会」に出席する権利を確保していると思えば安いものである。東電の株主総会には、今まで一度も出たことはないけれども、今年は万難を排して出てみたい。なにしろこの国の将来が懸かっているのだから。
○今週、不肖かんべえには講演の予定が3回ある。そのたびに悩ましいのは、聴衆の中にはいろんな人がいるということだ。「私の実家は福島県です。怒りで毎晩、眠れません」という人がいる。そうかと思えば、「私が経営している会社は、取引の半分が東電さんなんです」という人もいる。しかるがゆえに、「東電はケシカラン」と言っても、「あんまり東電をいじめないでください」と言っても、かならずどこからか石が飛んでくることになる。
○あらためて、原子力発電はどうあるべきなのか。今はこんな風に考えている。日本全国で総発電量の30%という今の水準は、too
big to ignoreであろう。いきなりゼロには出来ない。「原発を許すまじ」と叫んで、すべて事が済むなら苦労はない。かと言って、「CO2を25%削減」するために、これを4割や5割に上げようというのも、今となっては途方もない心得違いであった。というより、4割になったときに今回のような事態が起きたら、それこそ手の施しようがなかった。
○しょうがないから、足りない分は化石燃料を使うほかはない。そっちの確保は何とかなりそうだ。そして幸か不幸か、地球温暖化という仮説はそれほど確かなものではない。われわれは原発推進と反原発の、中道を行くしかないのだと思う。
○ちなみにワシは、過去に東北電力さんから講演料を頂戴したことはあるけれども、東京電力さんからお金を貰ったことはありません。利害関係は単なる零細株主、というだけであります。いちおう念のため。
<4月22日>(金)
○昨日は日帰りで大阪出張でした。気になったことをいくつかメモ。
●「最近、東京から来る人は、口を揃えて『大阪は明るいですねえ』と言うんです」と言われたこと。
――そりゃあ東京は暗いんですよ。物理的にも精神的にも。どこへ行っても電気は消してあるし、駅のエスカレーターは動いてないし。雨が降ったら放射能が含まれていそうだなあ、と思うし。しかもこの状態が長期化しそうだし。とりあえず花粉が飛ぶのは気にならなくなりました。
――その一方で、「福島は東京から200キロ以上離れているけど、美浜は大阪から100キロですからね」と言ってる人もいた。ははあ、そうでありましたか。福井県は事実上の関西圏ですものね。
●飲み屋さんで「東北のお酒を用意しています」という看板を見かけたこと。
――考えることは誰でも一緒でありますね。おそらく東北産の日本酒が、全国的なブームになってるんじゃないかと思います。義捐金を送るよりも、ダイレクトに人を助けることになると思いますので、どんどん飲みましょう。
――関西は阪神大震災の経験があるので、東北地方へのボランティア志願も多いのだそうです。もっとも「20歳以下の連中は、あれを覚えていないんだよなあ」との声も耳にしましたが。
●「TPPはどうなるんでしょう?」と複数の人から聞かれたこと。
――正直なところ、「震災後はもうTPPはダメだろう」と思っていたのですが、大阪では「3/11」に伴う断層が東京ほどではないから、まだまだ気にしてくれている人が多いのです。考えてみれば、「震災からの復興のためにもTPPを」という議論は成立するはずですね。
――こうなったら関西財界の応援に期待しましょう。でも「首都機能移転」はお金の問題がありますから、そんなに早くは進まないと思いますよ。
●生まれて初めて船場の繊維問屋街に行ったこと。
――大阪商人の原点の町ですね。45年前に帝人の大屋晋三さんが、ここに本社ビルをぶっ建てたときは、その威容に周囲が度肝を抜かれたのだそうです。今見るとまったくフツーの建物ですけれども。
――ちなみに現在の双日大阪店はそのすぐ対面にあります。居心地は悪くなさそうでした。
<4月24日>(日)
○最近、「デトックス」という言葉を覚えました。普通は「解毒する」という意味で、体内の毒素を吐き出すことを言うのですが、転じてツライ思いを誰かに話すことで、心の安定を図る作業のことをいうのだそうです。
○たとえば東北地方の取材をしている記者などは、昼間のうちに想像を絶するような悲惨な情景を目にしてしまうわけですが、社に帰って記事を書いただけではまだ平常心には戻れない。その日に体験したことを、その夜のうちに誰かに話してしまいたい。そういうときは、デスクなり同僚なりが、付き合って聞いてあげる必要がある。以前に災害報道を経験した人は、その辺の機微が分かっているので、辛抱強く「聞き役」になるのだという話を聞きました。
○それとは別次元の話なんですが、たまたま先日、「実は離婚しちゃいまして・・・」というデトックスを受ける機会がありました。これはもう、居住まいを正して、相手の話を聞くしかありませんわな。でも、自分から話してくれるということは、当人が一番ツライ時期を乗り越えているということなんで、わりと安心して聞かせてもらいました。子どもが学校でイジメに遭っているときに、家で正直に話せるかどうかが分かれ目なんだそうで、本人がちゃんと話せるようであれば問題は軽いのだそうであります。
○つまりデトックスは催促してはいけない。相手が話す気になるのを辛抱強く待ってなきゃいけない。心に傷を持っている人は、「誘導尋問」にはかえって警戒心を強めてしまうので、下手にカウンセラーみたいなことはしない方がいい。普通に接していればいい。「心のケア」というのは時間がかかるので、要領よくテキパキと片付けられるものではないのだと思います。
○さて、今の世の中にはデトックスを必要としている人が大勢いることでしょう。ひょっとしたネットに書き込むことで、辛さを軽減している人だっているかもしれない。でも本当は誰だって、昔から自分を良く知ってる人に話を聞いてほしいはず。身近にいるそういう存在に、気づけるようでありたいものだと思います。
○・・・今日の不規則発言は、なんだかACの広告みたいですね。らしくはないけど、たまにはいいか。
<4月25日>(月)
○昨日で統一地方選挙が終了。民主党が大敗。で、今日から政局入り。動きが表面化するのはたぶん5月の大型連休明け。菅降ろしはそんなに簡単じゃないはずなんですが、今みたいな感じだと何が起きても不思議じゃないですよね。
○選挙結果について、内心怖れておりましたが、村田信之さん、落選です。スポーツ新聞や夕刊紙だけならともかく、読売新聞までが取り上げておりますぞ。しかも893票って、どういうことぞ。目黒区の人口は26.8万人もいるというのに。
○思わず、選挙に出る人に対する有名なアドバイスをいくつか思い出しました。
●「100人くらいに言われてその気になるな。1000人に言われて初めて真面目に考えろ」
――「あなたもそろそろ選挙に出たら?」なんてことは、お愛想で誰でも口にすること。身近な人が言うことを、いちいち真に受けちゃいけない。よく知らない人にまで言われるようになったら本物です。
●「小さな迷惑を怖れて、大きな迷惑をかけることなかれ」
――親しい人に迷惑をかけちゃいけないと、ついつい選挙のお願いを遠慮したくなる。でも、いちばんの迷惑は候補者であるアナタが落ちること。選挙のときは、恥も外聞もなく応援を頼みなさい(でないと、奥さんにも迷惑かけちゃうじゃないですか!)
●「常在戦場」
――公示日を過ぎたら選挙は終盤戦。それ以前に勝負はついていることが多い。
○何度も経験のあることながら、友人が選挙に出て落ちるのを見るのは辛いものです。でも正直に言えば、さいとう健さんや大谷信盛さんのときほどではないな。だってどこが悪かったか、だいたい見当がついている負けなんだもの。
○ということで、村田さん、お疲れ様でした。今度、残念会をやりましょう。文化放送の人たちも一緒にね。
<4月26日>(火)
○明後日、4月28日木曜日には、消費者物価、家計調査、労働力調査、鉱工業生産(速報)、住宅着工件数、建設受注などの3月分データがまとめて発表されます。内閣府や経済産業省など、データを作っている現場は、大型連休を前に駆け込みの作業をしていることでしょう。といっても、3月のデータは11日を境にくっきりと明暗が分かれているので、これらをどう読み解くかは民間調査機関としても悩ましい作業となります。
○こういう状況であるにもかかわらず、妙に歯切れのいい議論をしているエコノミストが少なくないんですよね。正直言って、私には不思議でなりません。手元にデータが揃ってもいないのに、なぜあんなに断定的に発言できるのだろう。3月11日以降の日本経済の現状、さらには今後の見通しについて、私は「かならずこうなる!」という確信は持てないでいます。サプライチェーン、電力供給、消費自粛、原発処理、そして政局。あまりにも不透明な変数が多過ぎるじゃありませんか。
○よくよく聞いてみると、彼らは今までの自分の主張を強化するために、今回の震災を利用しているに過ぎないのですね。増税派の人は「今こそ増税を!」と言いますし、リフレ派の人は「今こそインタゲを!」とか、「日銀は国債の買い入れを!」と主張されています。それくらい、ご自身のお考えに自信があるのでしょう。でも、データも揃わないうちからそんなことを言うのは、よく言っても粗雑な議論であろうし、とにかく不誠実な態度であろうかと思います。
○ちなみに商社系エコノミストが党派色を発揮するならば、「今こそTPP参加を!」という主張もアリかもしれませんね。個人的にはとてもそんな気にはなれないし、それを考えるのは1〜2か月先でいいと思っておりますが。
○最近は東電の問題にかこつけて、「今こそ発電と送配電の分離を!」という経済記事もよく見かけます。電力自由化は方向としては正しいと思いますが、今のタイミングで実施するのが賢明なのかどうか。分離をすれば、おそらく電力料金は下がるでしょうが、今必要なことはほかにあるのではないか。「地域独占の九電力体制を解体せよ!」というのなら、松永安左ヱ門の時代に戻って検討する必要があると思いますけれども、そういう議論はあまり聞きません。むしろ「この際、東電を懲らしめてやれ!」という報復論議が強いような気がします。
○話を元に戻して、データは大切にすべきだと思います。その意味で、先週発表された「3月貿易統計」は有意義であったと思います。「貿易収支は1965億円」ということで、メディアの扱いは「貿易収支は前年同期比で▲78.9%!」という悲観ムードでしたが、私的には「な〜んだ、赤字じゃなかったんだ」と拍子抜けしましたな。その程度で済むのなら、全然オッケーじゃありませんか。
○ご参考までに、リーマンショック後の数値をご紹介しましょう。2008年後半の貿易収支(通関統計)は、9月が+910億円、10月が▲752億円、11月が▲2275億円、12月が▲3222億円、そして翌年1月は▲9560億円!!!だったのです。文字通り、地獄の淵を覗き込むような経験だったのですが、不思議なことに2年半たつと皆、忘れてしまっているのですね。そして、「3/11震災の被害はリーマンショックをはるかに超える」と大真面目に言ってたりします。
○少なくとも輸出入に関する限りは、そんなはずはないんです。そもそもリーマンショック後の貿易赤字は、世界全体の需要が急激に減少したことにより、輸出入がスパイラル的に落ち込んだからでした。今回は主に国内の供給能力に原因があるだけで、海外における日本製品への需要はなおも健在です。国内のサプライチェーン問題が解決すれば、輸出は正常化するはず。放射能による風評被害があると言ったって、食品輸出のシェアはほとんど無視できる規模ですし。
○さらに言いますと、日本経済には年間12兆円程度の所得収支黒字があります。これは震災の影響を受けないでしょう。結果として、今年もGDP比3%程度の経常黒字が残るのではないかと思います。でも、世の中には、「日本の経常収支は間もなく赤字になる!」と警鐘を鳴らす人がいるんだよな。いったい何を見てるんだろう。
<4月27日>(水)
○明日28日は、経済指標の発表がテンコ盛りである(消費者物価、家計調査、労働力調査、有効求人倍率、鉱工業生産速報値、住宅着工件数、建設受注)。ついでに日銀金融政策決定会合と、「日銀経済物価情勢の展望」の発表と、日銀総裁の定例記者会見がある。
○と同時に、アメリカではFOMCとバーナンキ議長の記者会見がある。QEUは予定通り終了するのでしょうが、果たしてどんな表現でそれが述べられるか。さらにその翌日(日本時間29日)には米国経済の第1四半期GDP速報値の発表がある。これだけ揃うと、まことに壮観であります。まさに「ザ・経済デー」ですな。
○で、さらにその翌日の4月29日は、大安吉日の祭日となるのですが、ちょうど「3月11日から数えて四十九日」に当たるのですね。NHKニュースによれば、現時点の死者行方不明者数は下記の通り。
死者・不明者
2万5960人
4月27日 11時44分
警察庁によりますと、東日本大震災による死者と行方不明者は、これまでに合わせて2万5960人となっています。
警察庁によりますと、今回の大震災でこれまでに死亡が確認された人は東北地方では、宮城県で8745人、岩手県で4234人、福島県で1466人、青森県で3人、山形県で2人となっています。関東地方では、茨城県23人、千葉県18人、東京7人、栃木県と神奈川県でそれぞれ4人、群馬県で1人で、それに北海道でも1人が死亡しています。死亡が確認された人は、今月7日と11日の余震による死者も含めて、合わせて1万4508人に上っています。このうち、およそ84%にあたる1万2220人は身元が確認されています。また、警察に家族などから届け出があった行方不明者はあわせて1万1452人で、死亡した人と合わせると2万5960人となっています。
○あまりの数の多さに、ため息が出ます。
○自分の母が亡くなった時に、初七日とか四十九日とか三回忌というのは、日本人の知恵というか、まことによく出来たプログラミングだな、と感心した記憶があります。なかでも四十九日と言えば、死者の魂があの世に旅たつときであり、生きている者たちが「故人はもうこの世にいない」ことを確認する節目です。だから親族が集って法要を執り行い、納骨を済ませることになっている。でも今の被災地では、ほとんどそれさえ望み薄であろうし、なおかつ死者の数が信じられないほど多い。それを考えると、何とも重苦しく感じられます。
○とはいえ、生きている者は、生きていかなければならない。死者に対しては何度もお別れを告げて、少しずつ日常に戻っていくしかない。おそらく5月の大型連休は、日本全体にとってそういうタイミングになるのでしょう。これが過ぎたら、「自粛」を自粛して、少しずつ平常モードに回帰していきたいものだと思います。
○さらに言いにくいことを申しあげますと、現在、自衛隊が行なっている遺体の捜索活動も、どこかで打ち切らなければならないのでしょう。行方不明者の数はまだ1万人以上もあるのですけれども・・・・。(ホントはこういう話は、責任ある立場の人が率先して言うべきであると考えるものであります)。
<4月28日>(木)
○いよいよ明日から大型連休。被災地にボランティアで出かける人も多いと聞きます。たまたま今日、経験者からアドバイスを聞く機会がありましたので、以下はちょっとしたメモです。かくいう私自身は東北に出かける予定はありませんが、行動してみようという人のヒントになれば幸いです。
●ボランティアは自己完結型でないと、かえって現地の足手まといになるので装備は十分に。最低限、寝袋は必須。現地は結構寒いし、危ないのでご用心。その点、米国からのベテランのボランティアは、驚くほどの重装備でやってくるそうです。
●クルマで出かけるときは気をつけて。東北道は通っているが、高速を降りると1車線のところも多く、すぐに渋滞する。路上にはいろんなものが落ちているから、クルマのタイヤがパンクすることも。
●この連休はボランティア志願の問い合わせが増えている。現地のボランティアセンターが対応できなくて、「もう来ないで」と言っているケースも。でも現地では人が足りていない。
●家の中の汚泥を外に出す作業がメインとなりつつある。泥は重いし、臭いし、家族にとって大事なもの(位牌、印鑑、通帳etc.)が入っていたりする。時間をかけて、丁寧に取り出すしかない。今は単に外に積み上げているだけ。瓦礫が全部片付くのはいつになることやら。
●被災地は「1−0」の世界。破壊された世界のすぐ先は、昔のままの後継が広がっている。家を失った人とそうでない人の差が大きい。阪神大震災と違って、けが人を見かけることが少ない。生きている人と死者がいて、中間がない。
●行政にはいろんな意味で限界がある。例えば援助物資を「公」に渡すと、足りない人のところに届くまでに時間がかかる。だからネット上でマッチングして、送りたい人が必要なところへ直に送る方が優れている。
○ついでにこれもご紹介。
●ゴールデンウィークに向けた緊急提言。
http://plaza.rakuten.co.jp/saijotakeo0725/diary/201104230002/
○出かけられる方は、くれぐれも無理をなさいませんように。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki