<11月1日>(日)
〇ああ、とうとう11月が始まってしまった。ちなみに今日からアメリカは冬時間ですので、東海岸との時差は14時間となります。今週はそれを意識することが多くなりそうです。
〇4年前の11月に自分はどんなことをしていたか、ということをしみじみ思い出す。今年もまた、あのときと同じような興奮と衝撃と騒動を味わうことになるのだろうか。大統領選挙の投票日は11月3日。4日以降は、NHKのスタジオに詰めたり、モーサテに登場したりいたしますので、お目に留まれば幸いです。
〇せめて風邪など拾わぬようにしなければ。時節柄、多くの人にご迷惑をおかけしてしまいます。とりあえず、まだ残っている原稿を書かねば。首を洗って、運命の1週間を待っているような気分。
<11月2日>(月)
〇とりあえずこんなことを書いてみました。
●選挙が終わらない最悪シナリオを想定しておこう
〇次期大統領が決まらないから「アメリカ売り」となってドル安、というのは誰でも考えるシナリオだと思いますが、本当にそうなりかねない雲行きです。大本命の馬券を買って、なおかつ当たってしまいかねないところが、ワシ的にはとっても嫌な感じですな。
〇ところで、「リスクオフの円買い」はなぜ起きるのか。一説によれば、日本の国債はあらゆる年限が揃っていて、しかもそれがきれいなイールドカーブを描くので、資金を動かす側としてはこんなに安全な資産はないのだそうです。つまり、「ちっ、×年物を買ったら損しちまったぜ!」みたいなことがない。だからグローバル投資家にとって「買い安心感」がある。
〇これは日本銀行が、職人的に利率をファインチューニングするからであって、「そんなのほっとけ、運の悪い奴は損をするのでいいじゃないか」という声もあるらしいのだが、当局としてはついつい丁寧な仕事をしてしまい、ますます円は逃避先として魅力的な通貨となってしまうのだとか。いかにもありそうな話です。
〇だったらもっと「手抜き」をした方が、「有事の円買い」を招かないからいいのじゃないか、みたいな発想もあり得るところだろう。もっとも、それで日銀が仕事を手抜きをするとは思われない。それに、皆が困ったときに世界の投資家が円を買ってくれるというのは、この国にとって悪くない話ではないだろうか。
〇古来、通貨が高くなって滅んだ国はありません。「円高上等!」の精神でこの時期を乗り越えたいものです。
<11月3日>(火)
〇トランプ、バイデン両候補、「最後のお願い」はいずれもペンシルベニア州でした。ここは投票日以降も郵便投票を受け付ける(当日消印有効)ので、たぶん週末以降にならないと結果が分からない。ペンシルベニア州の最終結果を待ちながら、両陣営と全世界が息を呑んで待つ・・・・なんてことになりますか、どうか。
〇バイデン候補の「最後のお願い」は、レディー・ガガが登場してました。見ていてイヤーな予感がしましたな。4年前、ヒラリー・クリントンが芸能人を大勢呼んで大騒ぎしていたことを思い出す。こういうときに有名人を使うのは、民主党の悪い癖です。有名人側が、使われたがるのもよろしくありません。トランプさんは一人で集会を繰り返している。そっちの方がはるかに熱量は高い。
〇ともあれ、歴史的瞬間が近づいている。そして、どうにもスッキリしない展開になりそうである。日本時間の11月4日(水)で決着してくれればいいのだけれども、そうはならないだろうなあ。11月5日朝のモーサテで何を語るかは、明日中に考えなければならない。さあ、どうしよう。
〇おとといの夜、大阪都構想に関する住民投票で、賛成票が反対票を3000票リードしているときにNHKが「反対」に当確を打った。すると維新の会は、予定通り午後11時からの記者会見を行い、松井市長があっさりと負けを認めた。アメリカ政治を日々追いかけている者には、信じられないくらい潔い姿勢でありました。
〇日本は有難いことに、選挙結果が信用されているし、NHKの票読みも信頼されている。こんな当たり前が、いつまでも続きますように。
<11月4日>(水)
〇長い一日の始まりです。
〇今朝はNHK「おはよう日本」に出演。そして終日控室に詰めて、NHKラジオニュースの解説に何度か登場します。これは四年前と同じ。当方のような者にとっては、幸せな環境です。では。(4:20AM)
++++++++++++++++
〇NHKの中で長い一日を過ごしました。「おはよう日本」→「三宅民夫のマイあさ!」→「正午のニュース」→「5時のニュース」→「Nらじ きょうのニュース」とハシゴしました。すべてが4年前と同じようでありました。強いて言えば、今日は国会中継をやっていた、という点が違った。ところで国会って、今日は何をやっていたんだろう?
〇米大統領選、事前にはバイデンさんが大差で勝つという見通しがあったし、ワシもそう思っていた。ところが、トランプ氏が大善戦している。選挙人数ではバイデン221対トランプ213と僅差。The
Cook Political Report、Five Thirty Eightなど、選挙予測機関が「Toss
Up」と認定していた州はことごとく競り勝った。そして投票率が上がったはずなのに、一般投票でもバイデン候補とはせいぜい1%差で、2016年とさほど変わりない。途方もない見込み違いであった。
〇現地時間の午前2時台に行われたトランプ大統領の発言は、そのものずばり「勝利宣言」ではなかったが、みずからの優勢を誇る宣言で、「ほれみろ、俺の言っていた通りだろう?」と言っていたように聞こえた。残念ながら、世論調査は今回も外れた。やはり「隠れトランプ」が居た。世論調査というものは、高学歴の人は協力してくれるけれども、低学歴の人はあまり参加してくれない。前回はそのことでバイアスができた。そこはちゃんと修正したからと言っていたのだが。
〇逆にバイデン陣営はショックを受けているはず。いや、もちろん今後の票の空き方次第で、バイデン勝利は十分可能である。しかし今のアメリカはコロナで23万人が死に、人種差別の問題があり、経済もガタガタになっている。これで民主党が大差で勝てないのであれば、どこかおかしい。やり方が間違っている。ブルー・ツナミなんて起きなかった。上院の逆転も際どい。これでは少なくとも、党内左派は収まらないだろう。
〇共和党が善戦している理由は、ひとつにはリアル対ヴァーチャルの差があるのではないか。民主党は「コロナは一大事」ということで、選挙戦はなるべくヴァーチャルで行い、党大会は完全リモート、テレビCMなどの空中戦に資金を投入した。逆に共和党はコロナを恐れず、戸別訪問などの地上戦に力を入れていた。やはりリアルは強い。その結果が、両候補に対する「熱量」の差につながったのではないか。
〇とりあえず、今年の選挙で一番の大バカ者は、「ちっこいマイク」ことマイケル・ブルームバーグ氏であることがわかった。フロリダ州における反トランプ広告に、いったいいくら注ぎ込んだのだろう。スーパーチューズデーの前に民主党予備選に立候補して、何億ドルかをつぎ込んで、ほとんど選挙人を確保できなかった。まるで自傷行為のように、大金持ちが自分の財産を減らしている。まことに愚かしいことである。
〇これから先の見通しとしては、最後はペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンというラストベルトの3州が勝負所になるのだろう。郵便投票の開票に手間取るので、さらに3日程度かかるのではないか。トランプ氏としては、早く打ち切って勝ちを確定させたいだろうが、最高裁がそんな判決を下すとは思われない。ここまで来たら、納得感の高い決着が必要であろう。辛抱強く待たなければいけない。
〇ということで、なんとも虚脱感である。しかし現実は常に正しい。錯覚いけない、よく見るよろし。せっかくこんな素晴らしいチャンスをいただいたのに、悔いが残るような予想をしちゃいかん。そういえば昨日、もうひとつの「1万字以上」の原稿を仕上げたので、腰痛の具合はかなり良くなりました。(22:43PM)
<11月5日>(木)
〇今朝は「モーサテ」へ。昨日は藤戸さんが出て、「トリプルブルーになるから株高です」と言っていた。今日は広木さんが、「トリプルブルーが消えたから株高です」と言っている。なんという節操のなさ。いや、これがマーケットの論理というもの。少なくとも昨日まで、「トリプルブルーになるでしょう」と言っていた不肖かんべえには、これを非難する資格はない。
〇冷静になって考えてみれば、トリプルブルーでないほうがいい。何しろ民主党政権が増税したくても、上院共和党が反対するから通らない。しかも上院は閣僚の承認権があるから、エリザベス・ウォーレン財務長官(ウォール街とシリコンバレーにお仕置きよ!)の人事もつぶしてくれる。結構な話ではありませぬか。
〇モーサテを終えたら腹が減っている。何しろ2日連続、午前3時半起きであった。こんな自分に何かご褒美をあげなければと思い、本日の朝食は吉野家へ。この季節、やはり牛すき鍋膳ですよ。しかも朝から牛肉ダブルにしてしまう。これにキムチをつけると千円越えである。ああ、なんという贅沢。至福の時である。
〇さて、一夜明けたら、郵便投票がかなり空いたようである。ウィスコンシンとミシガンがバイデンさんの手に落ちて、ほとんど過半数にリーチがかかっている。ネバダの6票が揃えばぴったり270の過半数に到達する。ネバダ州は、これまで大統領選挙で注目を集めたことなど皆無なので、ゆるゆると開票すればいいと思っていたところ、これは一大事と開票作業を急ぎ始めたそうだ。なんだか麗しい話である。
〇ネバダ州と言えばヒスパニック系が多い。ここが激戦州になるというのは、いかに今回の選挙でトランプさんがヒスパニック票を取ったかという証左でもある。ひとつにはカジノ産業で働く人が多いので、元カジノ経営者のトランプさんには親和性があるのだろう。それからバイデン氏がカトリックとはいえ、「プロチョイス」であることへの反発もあるのだろう。それからフロリダ州はキューバ系難民が多いので、「バイデンだと社会主義になるぞ!」という脅しがよく効いた、というのも面白い。
〇ところで、NY
Times紙の出口調査を見ていて、あれっ?と思ったのがこのデータである。
比率 | トランプ | バイデン | |
Racial inequality(人種問題) | 20% | 8 | 91 |
The coronavirus pandemic (コロナ) | 17% | 14 | 82 |
The economy (経済) | 35% | 82 | 17 |
Crime and safety (犯罪と治安) | 11% | 71 | 28 |
Health care policy (ヘルスケア) | 11% | 36 | 63 |
〇今回の選挙において、有権者がもっとも重視した政策は経済であった。コロナよりも人種よりもそっちが上であった。うーむ、コロナで23万人も死んでいるのに、Black
Lives Matterが盛り上がったのに、リモート職でない多くの人にとって、いちばん大事なことは景気と雇用であった。そしてそういう人たちは、バイデンさんよりもトランプさんを選んでいた。なるほど。
〇毎度のことながら、選挙が終わってから気づくことが多いです。
<11月6日>(金)
〇いろいろ見比べたけど、ワシントンポストのフロントページが見やすいな。以下は本稿執筆時点の数字。
Biden 253 |
Trump 214 |
73,736,051 50.5% |
69,655,186 47.7% |
〇両者の一般投票数にご注目。バイデン氏の得票数が史上初めて7000万票を超えた!というところばかりが注目されているのだが、トランプさんの得票数も史上第2位の数字である。歴代共和党候補者でも最上位。しかもバイデンさんとの差は3%未満である。いや、これはたいしたものです。
〇不肖かんべえは期日前投票が途方もない数字になっているのを見て、てっきりこれは「ブルー・ツナミ」が来たかと思った。しかしそれは違っていた。「レッド・ツナミ」も同時に来ていた。だから議会選挙を見たら、共和党が思ったよりも善戦している。トランプさんも、すごい数の票を掘り起こしていたのだ。
〇恐ろしいことだが、共和党内に対するトランプさんの影響力はこれでかえって強まるだろう。「前大統領」になったとしても、多くの議員は「トランプさんのお陰で選挙に勝てた」と思っている。そして中間選挙はすぐ2年後だ。やっぱりトランプ劇場は終わらない。
〇そしてバイデンさんは辛い立場である。このままたぶん勝てるだろうが、素直に降参してくれる相手ではない。政権引き継ぎは難航するだろう。ワクチン開発計画の詳細だって、教えてくれないかもしれない。何より、どうやったらトランプさんは敗北宣言をしてくれるのか。
〇そして党内左派は怒っている。共和党が上院の多数を握っている限り、彼らが望むことは何もできない。増税はダメ、大型インフラ投資もダメ、国民皆保険制などもってのほかである。リベラル派の最高裁判事を押し込むことさえ、きっと苦労するだろう。
〇かくして本日のマーケットは株高で円高。為替は103円50銭程度だが、日経平均は19年ぶりの高値2万4325円で引けた。こうなるよなあ。とりあえず今の状況はマーケット的には大吉。そしてドルは全面安。はて、喜んでいいものなのか。
<11月7日>(土)
〇まだ未決定なるも、見切り発車で原稿は送りました。
●トランプ大統領が「大善戦」した真っ当な理由
〇それからこちらは宣伝です。12月2日(水)、平和・安全保障研究所(RIPS)のウェビナーに登場します。お申込みはこちらから。
2020年度RIPS安全保障ウェビナー
◯概要
・日時:2020年12月2日(水) 18:30?20:00
・会場:Zoomを使ったオンライン配信
・聴講費:一般(2,000円) 法人賛助会員・個人賛助会員・学生(1,000円)
※会員の皆様には当研究所より割引クーポンのコードをお送りいたします。
◯登壇者
パネリスト
・森本 敏 氏 (拓殖大学総長/元
防衛大臣)
・吉崎 達彦 氏 (株式会社 双日総合研究所
チーフエコノミスト)
司会
・西原 正 (平和・安全保障研究所 理事長)
◯タイムテーブル
・18:30 開会挨拶
・18:35 パネリスト報告
・19:05 パネルディスカッション
・19:35 質疑応答
・20:00 終了予定
<11月8日>(日)
〇久しぶりに10時間も寝て目を覚ましたら、朝5時にNHKの方から電話をいただいていた。なんと、「バイデン当確」を知らせようとしてくれたのである。こっちは「あー、終わった終わった」と思って寝ていたけど、それが仕事だからということで、起きて待っている人もいる。いやあ、お疲れ様です。「開票から3日はかかるかもしれない」と言っていましたけど、実際には4日かかったことになりますな。
〇最後がペンシルベニアで決まった(さりげなくネバダ州も決まっている)というのは、いい終わり方じゃないかと思います。2020年選挙は「フロリダで始まって、ペンシルベニアで終わった」。なぜなら郵便投票の開票が早いのがフロリダ(選挙人29人)で、遅いのがペンシルベニア(選挙人20人)だったから。まだジョージア州やノースカロライナ州の開票は終わっていないみたいですが、後は時間の問題でしょう。
〇ペンシルベニア州のことを、「フィラデルフィアとピッツバーグという2大都市の間にアラバマが横たわっている」と称することがあります。2大都市とその周辺はリベラルだが、真ん中の部分は南部のように保守的である。どっちに転んでも不思議はない。USスチールもあればアーミッシュもいて、ゲティスバーグもあってスリーマイル島もある。それがペンシルベニア州であります。
〇バイデンさんにとっては、ペンシルベニア州は生まれ故郷であり、ここで負けたらカッコ悪かった。2000年選挙のアル・ゴア氏は、地元のテネシー州を落としている。フロリダを落としても、テネシーを取ってれば勝てていたのである。今から考えると、南部出身のクリントン政権がいかに南部の人たちを裏切っていたか(ブレイディ法案で銃規制を強化した、ヒラリーがホワイトハウスを禁煙にしたetc.)の証拠でもある(テネシーはタバコの産地)。つくづく政治家たるもの、「故郷の人たちはわかってくれるだろう」などと考えてはいけません。故郷の人たちは、得てして政治家を冷たい目で見ているものです。
〇バイデンさんとしては、2016年にトランプさんに奪われたペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州を取り戻す必要があった。2020年選挙では、それはどうやら達成されたようで、「ラストベルト3州」は引き続き重点州となるのでしょう。トランプさんがこの後どうやって粘るかはさておいて、共和党が2024年の再起を目指すには、引き続きここが焦点となります。
<11月9日>(月)
〇さる人から突然、「バイデンさんが当選してよかったですね!」と話しかけられた。いや、その方がアメリカ社会のためには良いだろうし、世界平和のためにもたぶん良いと思うのだが、なぜに今それを私に?と思ったら、ワシが先週水曜日のNHK「おはよう日本」で「ジョー・バイデンが勝つ」と言ったから、「当たって良かった、外れたら大変だったでしょ」とのことであった。うーむ、さすがは視聴率11%。いろんな人が見ているものである。
〇あれがほんの5日前のことだとは、信じられないくらいに時間が経過した感覚がある。今となっては、「あのとき俺は何を言ったのだろう?」とマジで思い出せなかったりするのであるが、とにかく11月4日夜には「あ〜また4年前と同じ失敗をやっちゃった」と暗くなったものである。NHK第一のニュースでご一緒いただいた野村正育アナウンサーが、帰り際に「4年後もよろしく」と声をかけてくれたのであるが、うーむ、これでは4年後にはどこからも仕事は来ないかもしれんな、と考えたものである。
〇まあ、11月4日朝の時点に戻って、「バイデンが勝ちます」というのは単勝1倍台の馬券を買うように安全な行為であって、似たような状況が10回あったら10回ともそうでなければならない。これが仮に、4年前に「トランプが勝ちます」と言って当てた人であったなら、ご自身の商売のためにも「トランプがまた勝ちます」と言うことが理に適っている。もっとも予想に際しては、そういう私利私欲はなるべく棚に上げるべきだとは思うけど。
〇アメリカ政治を学問として研究している方々と違って、ワシはマーケット向けに米大統領選挙を解説する予想屋に近い存在なので、そこで揺らいではいかんのである。全力で当てに行って、外れたら自己責任である。当たったときのことは忘れられるが、外れたときは哀しいかな誰も忘れてくれない。この非対称性の世界で生きていかなければならないのが、予想屋というものである。
〇ともあれ、この世の中には「未来はわからない」ことをネタにして、メシを食っている人が少なくない。経済から競馬まで、不肖かんべえには身近な世界であるが、とりあえず昨日のアルゼンチン共和国杯では、オルフェーヴル産駒のオーソリティが1着に来てくれて、単勝5.3倍となったことは最近希な欣快事である。この世の中の森羅万象に比べて、競馬は決着が出るのが早い。ゆえに「競馬は人生の比喩ではない。人生こそが競馬の比喩なのだ」と確か寺山修司が言っていた。
〇ということで、ワシ的には今年の仕事はあー済んだ、すんだと思っているのであるが、今度は閣僚人事はどうなるのかとか、トランプさんの逆襲はないのかとか、対中関係はどうなりますでしょうかなどと、引き続き別のネタがあるので、予想屋稼業としては退屈する暇はない。いやもう、商売繁盛で結構なことであります。
<11月10日>(火)
〇ふと思い出したのだが、アメリカ社会というのはつくづく敗者に冷たい。負けた人の周囲からは人がどんどん減っていく。今のトランプさんがまさにそうで、あの「プラウド・ボーイズ」たちも鳴りを潜めている。心配されていた暴動も起きないから、ワシントンDCでは商店街がべニア板を外し始めたそうだ。それ自体は結構なことなのだが、ちょっと寂しい光景でもある。
〇勝者が讃えられ、敗者はどこか見えないところへ行ってくれる。だからこそ「何事にも白黒決着をつける」というアメリカ社会が成立する。アル・ゴアさんも、ジョン・マッケインさんも、負けた直後は気の毒だった。ワシは2009年にワシントンに行ったら、「マッケイン/ペイリンに投票した僕を許して」バッジを売っているのを見たことがある。ここへきてマッケインさんは名誉を回復し、その悪口を言っていたトランプさんはアリゾナ州をどうやら落とす、という形で復讐を受けることになりそうだ。
〇ということで、破れかぶれのトランプさんなのだが、「7100万票を獲得した前大統領」というのは偉大な存在である。とりあえず共和党議員の中には数十人、「あなたのお陰で危ういところを当選できました」という人たちが居る。彼らが何を考えるかと言えば、「2年後の中間選挙もよろしくお願いします」であろう。だから「トランプ劇場」は終わらない。4年後だってどうなることだか。
〇そういう人たちからすれば、親分がなるべくきれいな形でホワイトハウスを去ってくれることが望ましい。問題はいつも注目を集めていないと気が済まないご本尊が、余計なことをして傷を深めることである。エスパー国防長官を解任するくらいは構わないだろう。おそらくご本人としても、「トランプ大統領に逆らって首を切られた男」になる方が、「普通に国防長官の任期を務めた男」になるよりは、今後の人生ではプラスになりそうである。
〇心配なのは「引継ぎをしてくれない」ことである。バイデンさんは、早い時期から政権移行委員会を作って備えているのだが、果たしてどうなるか。特に問題はコロナ関連で、ワクチン開発でどういう官民協力をやっているのか、おそらくは守秘義務のある契約が一杯あるはずなのだが、それを教えてもらえないのでは新政権は一苦労であろう。
〇アメリカ大統領選挙には「美しい敗者」の歴史があるのだが、今度の人はそうはいかない。腫れ物に触るような状態が続きそうである。どうなるのかなあ。
<11月11日>(水)
〇思えばドナルド・トランプ氏は、アメリカ大統領として数々の「お約束」(Norms)を破ってきた。「選挙結果を認めないぞ!」というのも、数々の伝説に新たな1ページを加えることになる。もっともその程度では誰も驚いてはくれなさそうである。良くも悪くも、トランプ政治に慣れてしまったもので。
〇しかるに事ここに至っては、トランプさんもさすがに「詰んだ」ようである。RCPを見ると、まだペンシルベニア州の帰結は明らかになっておらず、バイデン対トランプはなおも259対214の未決定ままである。しかるに普通に考えれば、このあとペンシルベニア州(20)、アリゾナ州(11)、ジョージア州(16)は民主党がとって、ノースカロライナ州(15)とアラスカ州(3)は共和党がとるであろう。
〇その結果がどうなるかというと、バイデン306票対トランプ232票となって、2016年選挙とはちょうど正反対の結果となる。あのとき、トランプ氏は「ヒラリーに対する大差の勝利」だと喧伝したものだが、4年後に今度は同じ票差で自分が負けるとしたら、今度は「大敗北」ということを認めざるを得なくなる。このことは、さりげなくトランプさんの傷口に塩を塗り込むこととなるだろう。
〇それでは奇跡の逆転劇の可能性はありや。仮にアメリカが中央集権国家であって、選挙制度も全米共通のルールがあるのであれば話は簡単である。最高裁に持ち込んで、「この選挙はトランプの勝ちであった」と宣告してもらえばいい(実際の最高裁はそんなに簡単ではないと思うけど)。憲法修正12条の定めにしても、事ここに至るとかなりの無理筋であるように思われてきた。
〇アメリカでは州の権利が強くて、大統領選挙の投票ルールも各州が独自に決めている。つまりは地方分権型の選挙なのである。このことはトランプさんにとっては不利な条件であって、訴訟を起こすにしても、同時多発的にいろんな州で裁判を争わねばならない。おカネもかかるし、もちろん全部の州で勝てるとは思われない。中央集権よりも地方分権型の方が、いざという時のリスクは低い。ブロックチェーンの原理と同じですな。
〇トランプ陣営が僅差の選挙区で要請しているリカウント(再集計)も、12月第1週にはちゃんと間に合うそうである。だったら12月14日の選挙人投票日の投票日の6日前、いわゆる「セーフハーバー」の12月8日は間に合ってしまうだろう。これではやはりトランプさんは詰んでいる。
〇トランプさんには「最後っ屁」をかませる手段が残されている。それは来年1月20日の大統領候補就任式において、前任者が出席しないという事態である。いかにもありそうじゃないですか。バイデン新大統領就任式の午前中に、フロリダでゴルフをしているトランプさんというのは。
<11月12日>(木)
〇米大統領選挙についての「開票スペシャル」。頭の整理にいい思います。
●「プレミアムView」M2TV
https://m2tv.m2j.co.jp/marketview/20201112.html
〇西田明弘さんとは今を去ること約30年前、ブルッキングス研究所でご一緒した仲間です。お互い年をとったものですが、今でも一緒にこんな仕事をできるのはありがたいものです。
〇仕事の後は一緒に六本木の「駄菓子屋」さんでランチ。今週は年甲斐もなく、マグロ丼のメガ盛りを食べてしまいました。
<11月13日>(金)
〇ここ2〜3週間はいっぱいいっぱいで仕事をしておりまして、気が回らなくて各方面にご迷惑をおかけしているようです。締め切りに遅れるとか、メールの返事を忘れているとか、義理を欠いているのはしょっちゅうでありますので、失礼の段、くれぐれもご容赦ください。
〇明日の大阪経済大学の今季最終講義を終えると、少しは余裕ができるはずでありまして、来週以降はなるべく平常モードに回帰する予定です。忘れている返事、さぼっている仕事も、少しずつ思い出していきたいと思っております。なんか変だな、と思われた方はご遠慮なく催促してくださいまし。
<11月15日>(日)
〇アメリカ大統領選挙、ようやく結論が出たようです。やはりバイデン306対トランプ232となりました。それでもトランプさんは、2016年選挙から1000万票の上積みをしたわけですから、たいしたものですね。これからの世界は、「アフター・トランプ」ではなく、「ウィズ・トランプ」のアメリカと向き合っていくことになりそうです。
〇上院は民主党48対共和党50となりました。残り2議席は年明け1月5日のジョージア州決選投票で決まります。民主党がこれを2勝ゼロ敗にすると、50対50となって「疑似トリプルブルー」が完成します。同点の時は、議長である副大統領の1票で決まりますからね。でも、さすがにそれは無理でしょう。なにしろ上院選では「反トランプ票」を動員できませんから。
〇とはいうものの、これが1勝1敗になって、民主党49議席対共和党51議席になると、これはこれで厄介なことにはなるのです。なぜなら共和党は、新しい法案を出そうとするたびに「今度の法案、ロムニーは賛成してくれるのかな」みたいなことで悩まなければならない。これだけ議席数が拮抗してくると、「誰か1人、離党させてやれ」みたいな工作も行われるかもしれません。
〇下院は221議席(▲8)対共和党209議席(+9)です。まだ5議席が決まっていませんが、共和党の大幅議席増です。ナンシー・ペローシ議長は「勝った」と言っているようですが、それはちょっと厚かましい物言いです。そろそろ党内から、アンタ、いつまで議長を続けるつもりなの?という突込みが入りそうです。
〇さて、今回の選挙結果について、不肖かんべえは「トランプさんの大善戦」と書いたのですが、会田弘継さんは「民主党の歴史的敗北」とまで書いている。確かにここに書かれてある通り、バイデンさんの上院議員時代の最大の業績は、クリントン大統領の犯罪対策強化に貢献したことなので、彼は「黒人に優しくない」政治家だという意見もあるのですね。こんな話をし出すと、民主党なの亀裂はますます深まるのではないか。
〇ところで久しぶりにThe Cook Political Reportを開いてみると、なんだかとっても言い訳モードになっている。そりゃあ、あれだけ予想を外したらそうなるよなあ。でも、このページは見やすくて便利ですな。推奨しておきましょう。
<11月16日>(月)
〇この週末にRCEPが合意に至りました。経済界で長らく通商交渉を見てきた者としては、大喜びするほどのことはありませんが、中喜びくらいはしてもいい。その辺の感覚は、なかなか今の報道では伝わらないような気がしておりますので、以下、私見を少々。
〇RCEPは日中韓+ASEAN10+豪NZからなる自由貿易圏ですから、この15か国は世界の人口とGDPの約3割を占めます。質はともかく、量から行ったらこれより大きなFTAはありません。問題は最終局面でインドが抜けちゃったことですが、これはまあ仕方がないことでしょう。「インドが抜けては意味がない」みたいなことを言う人もおりますが、安全保障面はさておいて、経済や貿易面から見たらインドは悪いけどさほど大きな存在ではありません。なおかつ面倒な交渉相手であり、内政面がまことにややこしい。深追いすべき相手ではないと思います。
〇RCEPの構想は2005年頃にさかのぼります。当時、中韓が提唱する「ASEAN+3」と、日本が提唱する「ASEAN+6」の2つの貿易自由化構想がありました。「+3」だと中国の声が強くなりすぎるので、当時の日本は「印+豪+NZ」を入れて民主主義色を強めることを考えたわけです。そしたらASEAN諸国は、そっちの方が良いと考えたようでした。余談ながら当時の経済産業大臣は二階俊博さんで、今から考えるといい仕事をしています。東アジアサミットに対して提言を行うERIAという国際シンクタンクが創設されたのもこの時です。
〇めずらしいことに、そこで中国が折れてきた。それで名前を変えてRCEP(地域的包括的経済連携協定)として、「ASEAN+6」で交渉が始まったわけです。一時は「(アメリカ入りの)TPPか、(アメリカ抜きの)RCEPか」どっちが早いか、などと言われたものです。はっきり言っちゃうと「質のTPP、量のRCEP」なんで、前者はルール作りで世界のスタンダードを創ろう、みたいな高度な理想があり、後者はとにかくでっかいFTAを作って実利を得よう、みたいに現実を追っていた。そして交渉妥結に至る過程で、前者はアメリカが抜けてしまい、後者はインドが抜けてしまった。ゴールインしてみたら「ASEAN+5」だった、ということになりました。
〇今から思い起してもまことに腹立たしいのですが、TPPも当時はずいぶん反対を受けたものです。「アメリカの陰謀だ!」などと言っていた人たち、「TPPで国民皆保険制が崩壊する!」と言っていた人たち、小生の職場まで抗議の電話をかけてきた人たち、まだ息をしているのでしょうか。トランプさんがTPPを抜けてくれたおかげで、陰謀論者はすっかり見かけなくなりました。まことにありがたいことです。
〇もっともそういう人たちはアメリカにも大勢いて、民主党左派がヒラリーさんの足を引っ張ったり、QAnonがトランプさんの当選に貢献したりしたわけです。今から考えればまことに愚かしいことです。通商協定というものは、陰謀論者にとっては格好の標的なんですな。たぶんRCEPも同様の認識で、「中国の陰謀だ!」と言う人が出てくるのでしょう。大丈夫、それほどのことはありません。せいぜい関税がちょっとだけ減る、というくらいです。日本なんて農産物5品目をまたまた聖域にしてしまいました。こんな甘ちゃんが通じるくらいですから、どの国もそこまで本気じゃないのです。
〇普通はこの手の通商交渉になると、豪州やNZが大真面目になって自由化を求めてくるのですが、彼らは既に中国とも韓国ともASEANともFTAを結んでいます。そして日本とはTPPがあります。だったらこの交渉で本気になるはずがないですよね。そしてASEANは中国とも韓国とも日本ともFTAを結んでいます。だったらRCEPという大きな枠組みにこだわるのは、日・中・韓の3か国だけということになります。
〇おそらくRCEPのいちばん大きな意味合いは、事実上の日中韓FTAができました、ということになります。日韓FTAなんて1990年代からやっていて、一向に進まなかった。主に韓国側の理由でですが。そして日中FTAも、今や貿易のほとんどの品目が工業製品になっていて、限りなく自由貿易に近くなっているのに、お互いに内政上の理由で二国間FTAには及び腰になる。ちなみに中韓FTAはとっくの昔にできています。
〇日本にとって第1位の貿易相手国は中国、そして第3位が韓国なんです。これで日本は主要な貿易相手国のほとんどとFTAが結ばれたことになります。
日・シンガポールEPA(2002年11月発効、2007年9月改正議定書発効)
日・メキシコEPA(2005年4月発効、2007年4月追加議定書発効、2012年4月改正議定書発効)
日・マレーシアEPA(2006年7月発効)
日・チリEPA(2007年9月発効)
日・タイEPA(2007年11月発効)
日・インドネシアEPA(2008年7月発効)
日・ブルネイEPA(2008年7月発効)
日ASEAN・EPA(2008年12月から順次発効)
日・フィリピンEPA(2008年12月発効)
日・スイスEPA(2009年9月発効)
日・ベトナムEPA(2009年10月発効)
日・インドEPA(2011年8月発効)
日・ペルーEPA(2012年3月発効)
日豪EPA(2015年1月発効)
日・モンゴルEPA(2016年6月発効)
TPP11(2018年12月発効)
日EU EPA(2019年2月発効)
日米貿易協定(2020年1月発効)
日英EPA(2020年10月署名)
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定(2020年11月署名)
〇この後の大きな目標と言ったら、もうメルコスールくらいしか残っていないのです。それくらい、日本のFTA政策というジグソーパズルにおいてRCEPは大きなパーツでした。はるけくも来たりしものかな。日本がFTA後進国とはもう誰にも言われないし、言わせない。この20年間は本当に大きな前進でした。
〇実をいうと、この後、とっても大きなハードルがひとつだけあるのです。それはアメリカが「TPPに戻りたい」と言い出した時なんです。そのときの日本外交はかな〜り困るでしょう。なにしろTPP11交渉の時に、アメリカ向けに用意していた自由化枠をほとんど使っちゃったから。しかも今度のアメリカは民主党政権です。トランプさんはカリフォルニア州のコメ農家のことなんてアッサリ無視してくれましたけど、次期バイデン政権はコメ輸出を要求してくるでしょう。これは面倒なことになります。
〇とはいえ、バイデンさんは「TPP復帰」を言い出すほどの政治力はたぶんない。議会上院では少数派となって、弱い政権になるでしょうからね。対中関係を考えるとそれでは困るのですが、仕方がありません。アメリカは民主主義国家で、しかも陰謀論者が大勢いるのですから。ということで、「めでたさも中ぐらいなりRCEP」というのが結論になります。
<11月18日>(水)
〇旧日商岩井同期入社で、富山県で再就職して活躍していたY君が、諸般の事情でこのたび赤坂の会社に転職したという。今日は出張で上京すると言うから、「夕方なら暇だけど」と伝えると、「おー行く、いく」と言う。午後4時になったら本当に飯野ビルに現れた。おいおい、大丈夫なのか、新しい会社は。
〇カフェテリアに行ったら、これまた同期のM1君とT君がお茶しているではないか。「おー、久しぶり、偶然」ということになって4人でくつろいでいたら、今度は本部長になっているM2君が通りかかる。ついつい還暦前後のオヤジが5人で座り込んで雑談に花が咲く。まるで昭和のような光景で、若いものたちに対してまったく示しがつかない。いや、一応マスクはしておりますよ、全員が。
〇時節柄、「この年齢での転職事情」について話が盛り上がる。貴重なノウハウをいくつか拝聴する。
(1)元商社マンで、海外駐在経験がそこそこあると、それなりの市場価値はある。
――「今すぐインドへ行ってくれ」みたいな仕事はいっぱいあるらしい。なり手が居ないから、還暦世代でも十分に通用する。もっともコロナ下のインドへ行きたいかと言われると、そこはやはり辛いものがある。
(2)リクナビやらビズリーチやらコトラやらといった転職案内サービスは、思いがけないジョブを紹介してくれることもある。
――「昔、××をやったことがある」というよりも、直近5年以内の経験の方が評価されるらしい。特に新しいビジネス(例:再生可能エネルギー開発)は中途採用への敷居が低く、条件もそこそこ悪くない。
(3)この年になると、履歴書の年齢だけで切られてしまう(例:「社長より年上なのはちょっと・・・」)こともあるが、「見た目年齢」が若ければチャンスはある。それから性格の明るさも重要。とにかく暗いのはダメ。
――この点でY君やM1君は十分に有資格者である。というか、商社マンというのは一種のオプティミスト集団なので、すぐに「なんとかなるさ〜」と開き直ってしまう手合いが多い(ワシもそうだ)。
〇もっともワシの場合は、かなり以前に商社マンコースを外れてしまっているので、今からリクナビに登録してもあんまり意味はなさそうだ。とりあえず今の稼業を、なるべく長く続けられるようにするしかない。さて、ワシは2024年の米大統領選挙においても、ちゃんと仕事が来るのであろうか。
〇もちろんそんなことは、今から心配してもしょうがない。明日は明日の風が吹くと、ふてぶてしく考えるべきである。つくづく自分が「昭和の商社マン教育」を受けて、鈍感力を強化してきたことに感謝するのみである。
<11月19日>(木)
〇今日は成人病検診へ。クリニックは例年よりも空いている。時節柄、こういう場所には近寄りたくない、ということなのだろうか。とはいえ、コロナに懸からないためにも、自分の体調を知っておくことが大事である。なにせワシは還暦ですから。
〇体脂肪率は23%なので、いちおうセーフである。ただし視力は低下している。何しろ最近は、仕事や読書に老眼鏡が欠かせなくなっているので。ここ2年程、薬を飲むようになったので、血圧は低下している。もっとも長年にわたる高血圧の結果、血管年齢がどうなっているかは不明である。
〇それでもまことに幸いなことに、夜は寝つきがいいし、メシは3度3度おいしく食べているし、酒もほぼ毎晩いただいておる。腰痛も峠を越えつつある。やはりトランプさんが原因だったのではないだろうか。何しろ最近はトランプさんのツィートを読まなくても良くなった。精神衛生上、まことに結構なことである。
〇思えば3年前に初めて腰痛になったとき、「医者などは所詮、何もわかっておらぬ。自分の健康は自分で守るしかない」と痛切に感じたものである。やっぱり大事なのは自助なのである。共助や公助を求めるようになる頃には、もはや肉体は抜き差しならないことになっているはず。そんなのは御免である。好き勝手ができなくて何の人生ぞ。健康は命より大切と知りたまへ。
〇世の中、警戒すべきはコロナだけではないのである。先日、日本ドラッグストア協会(JACDS)さんの年次総会の講師を務めたのだが、「お陰様でマスクは売れているが、風邪薬がまるで売れないものだから売り上げは行ってこい」だと伺った。そういえばワシも例年なら年間10本以上飲む葛根湯を、今年は1本も飲んでいない。
<11月20日>(金)
〇本日は経団連昼食会の講師を務める。昼食会と言っても、ランチが出るわけではない。なにしろZoom会議なので。たぶん見ている人たちは、お弁当なりサンドイッチなりを食べながら、ご自分のデスクのPCで見ていることであろう。そして経団連であるから、見ている人は会員企業の社長・会長さんであることもあるし、米国担当の課長代理さんだったりもする。あいにくこっちからは見えません。でも、ワシが個人的に存じ上げている人が少なからず参加していたのであった。
〇30分前に経団連に到着すると、事務方がZoom放送のセットアップに苦労している。「PCがフリーズした!」などと意外に初歩的なことを言って慌てている。とはいえ、驚いてはいけない。ワシは以前、某外資系証券会社のZoom会議の講師を務めて、ものの見事にトラブって放送ができなかったという場に居合わせたことがある。そのときはバックアップの電話会議で間に合わせていた。香港だかロンドンだかの技術担当者が怒られていたが、そうは言っても仕方ないよね。自分じゃどうにもできないんだから。
〇どうなることかと思っていたら、そこはさすがの経団連である。本番開始2分前にものの見事に回線がつながって、事なきを得た。パチパチパチ。かくして米国大統領選挙の結果と今後の日米関係について、不肖かんべえがお話しするのである。
〇さて、米国大統領選挙の開票状況についてだが、手作業によるジョージア州の再集計作業がようやく終了した。バイデン氏のリードはわずか1万2000票程度であった由。まことに遺恨が残るような結果で、こうなると2024年は少なくともジョージア州では共和党票が増えるのであろう。その前に同州では、年明け1月5日に上院選挙の決選投票があるのですけどね。
〇2016年選挙の際には、民主党支持者は「ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州でトランプはクリントン票をわずかに7万7000票上回っただけだった。それで46人の選挙人が奪われて、ヒラリーは負けた」てなことを嘆いたものである。それを言うと、「ヒラリーはせめて一回でもウィスコンシン州に入っておけば良かったのにねえ」などという反応も招くのだが、今回も同様なことがあったようだ。
〇このデータによると、2020年選挙は下記の3州が僅差であった。アリゾナ州(AZ)、ジョージア州(GA)、そしてウィスコンシン州(WI)である。
〇3州を併せると4万4000票弱で、選挙人の数は37人である。トランプさんの票がこれら3州であと5万票くらい増えていた場合、この37人分がそっくり入れ替わるので、ものの見事にバイデン対トランプは269対269で同点になっていた。この場合は否応なく憲法修正12条が適用されるので、下院決選投票になだれ込むことになる。そうでなくとも下院は共和党が議席数を増やしていることもあり、各州1票ずつの投票はトランプ再選という結論に至った公算が大である。いやはや、2020年選挙も2016年選挙に負けず劣らずの接戦であったということになる。
〇かくして2大政党の遺恨はどんどん積み重なっていく。これほど僅差でなければ、少しはあきらめもつくかもしれないのだが。
<11月21日>(土)
〇世の中はコロナ第3波でたいへんなようである。幸いなことにこの3連休、仕事はいっぱいあるので、外出せずにせっせと片付けなければならない。今日などはZoomミーティングを2時間もやっていた。お仲間がいるのはありがたいことである。
〇さらにありがたいことに、世の中には競馬がある。明日はマイルチャンピオンシップ。当方は過去2週連続、大外18番の馬を単勝で買って当てている(アルゼンチン共和国杯=オーソリティー、エリザベス女王杯=ラッキーライラック)ので、明日はQサリオスの単勝で勝負する予定なり。さて、馬券王先生は明朝、どんな予想を送ってくれるのか。
<11月22日>(日)
〇我慢の3連休の中日である。と言っても、せいぜい仕事に精を出すくらいしかない。
〇午前中に仕事をしていたら、ものの見事にNHK将棋トーナメントを見逃してしまった。何と今日は藤井総太2冠対木村一基9段の対戦。木村9段としては、王位戦では4連勝でタイトルを取られ、つい先日も王将戦リーグで負けたばかりの相手である。それが何となんとナント!木村9段が勝っているのである。後で棋譜を見たら、圧勝ともいうべき内容であった(逆に言うと、一手違いの勝負では藤井二冠にはなかなか勝てない)。とんでもない好対局を見逃してしまった。悔やまれる。
〇午後は競馬。マイルチャンピオンシップは「グランアレグリアからインディチャンプへの馬単」と言っていたオバゼキ先生の言う通りとなる。サリオスは来なかった。悔しい。かくなる上は、何かもっともらしいことを書こうかと思うが、そんな気力もわいてこない。
〇せめてこんなものでもご覧いただきたい。米大統領選挙後の素直な感想を述べた内容がユーチューブに載っております。
【緊急企画セミナー】大統領選挙後の米国投資戦略〜吉崎達彦(かんべえ)氏×大和アセットマネジメント×マネックス証券〜
<11月23日>(月)
〇さすがに仕事は峠を越してきたが、今度は1年分の領収書の整理、などといった雑事がたまっておる。ああ、めんどくさい。と言っても、代わりにやってくれる人がいるわけではないし、そもそも自分にしかわからない仕事であるから他人には頼めない。しくしく、自分でやるしかない。
〇雑事の中でも最大の障害は、かなり前から取り組んでいるモバイル端末の解約である。電話をかけると、「店舗に行ってください」と言われる。店舗に行くと、「これはウチでは扱えません」と言われる。店で教えてくれた場所に電話をすると、「ここではダメなので、この電話番号にかけください」と言われる。その電話番号にかけたらなんと通じない。馬鹿野郎。
〇散々たらいまわしになった挙句、なぜか本日かけた電話いっぱつで解決した。途中解約料が2万円かかる、などと言われるが、もう構わぬ。とにかくこれ以上、この会社とは関わりたくない。そもそもこのモバイル端末、すぐに電池が切れるし、電波も弱いし、ろくなものではなかった。菅さんに言いつけて鉄槌をくらわしてもらいたい気もするが、もうこれ以上関わり合いになるのも御免だ。
〇ちなみにその会社が日本シリーズで勝つのは構わない。たぶん4タテだろうなあ。一方的なんだもん。
<11月24日>(火)
〇大統領選挙の年は、感謝祭の直前に最初の閣僚人事が公表される。これはお約束です。議会はちょうど感謝祭休みに入っていて、承認への反応を窺うにも都合がいい。
〇とりあえず今日のところはこんな感じ。いやー、手堅いですねえ。地味ですねえ。大物と言えばジョン・ケリーくらい。議会が反対しそうな人が見当たらない。そもそもこんなところで物議をかもすようでは、議会承認どころか1月5日のジョージア州上院決選投票でとばっちりを受けてしまう。民主党左派としては、当面は隠忍自重の日々が続く。
国務長官:アントニー・ブリンケン(58)元国務副長官→バイデン副大統領の安保担当補佐官を務める
国土安全保障長官:アレサンドロ・マヨルカス(60)元国土安全保障省副長官→ヒスパニック系としては初のポスト
国連大使:リンダ・トーマスグリーンフィールド(68)元国務次官補→ベテランの職業外交官。黒人女性。
気候変動問題担当大統領特使:ジョン・ケリー(77)元国務長官、元民主党大統領候補→バイデン=サンダース・ユニティ・タスクフォースで「気候変動編」の起草メンバー
国家情報長官:アブリル・ヘインズ(51)元CIA副長官→女性では初のポスト
国家安全保障担当補佐官:ジェイク・サリバン(43)→オバマ政権時代の外交スタッフ
〇もっとも左派がホントに隠忍自重しているはずがなくて、国防長官候補と言われるミシェル・フローノイを呼び出して、「軍事費を減らすんだぞ、わかってんだろうな!」とカツアゲしているという噂も聞く。フローノイさん、女性初の国防長官となれますかどうか。ヒラリー・クリントン大統領が誕生していれば、4年前に就任確実だったのですが。
〇財務長官はあっと驚くジャネット・イエレン前FRB議長とのこと。まあ、金融政策が機能しなくなった昨今、財政の方が大事だというのはよくわかる。もっとも学者一家の方ゆえに、議会対策だとかG20をリードするとか、ガラの悪い連中を相手にどうするのか。ちょっと心配な感じはいたしまする。
〇思い起こせば4年前は、トランプ政権がよくわからぬままに船出をしていた。やはり感謝祭の直前に人事発表があり、最初に決まったのはラインス・プリーバス首席補佐官、スティーブ・バノン首席戦略官などとともに、ジェフ・セッションズ司法長官であった。セッションズは今や「どこでどうしているのよ」状態であるが、何しろ共和党上院議員で最初にトランプを支持した人だったので、「どのポストでもご自由に選んでください」とやったところ、ご当人が司法長官を選んだらしい。この年は国務長官が最後の方になって決まる(レックス・ティラーソン)など、波乱含みの人事でした。
〇その点でお見事だったのが、12年前のオバマ政権でしたね。なにしろリーマンショックの直後で、国際金融危機のさなかの政権移行であった。ゆえに最初の発表は財務長官で、これも感謝祭の直前で、選ばれたのはティム・ガイトナーであった。オバマ人事は秘密が漏れず、サプライズもあり(ヒラリー・クリントン国務長官)、トラブルも少なかった。バイデン次期大統領は、あのときのことをお手本に考えているはずです。あのときの彼は副大統領候補だったからね。
〇そしてなかなか負けを認めないトランプさんですが、これも感謝祭の前後で変化を見せると思います。どうみたって詰んでいるんだもの。今のトランプさんは負けたプロレスラーが「俺はホントは負けてない!」と言っているようなところがあって、「潔くない!」「民主主義の否定だ!」などとマジレスしちゃいけません。きっと世論の風向きを見ながら、タイミングを計っているはずですよ。
<11月25日>(水)
「見えないものと戦った1年は、見えないものに支えられた1年だった」
〇ちくしょう、涙が出てしまうじゃないか。「カロリーメイト」のCM、ユーチューブで120秒バージョンを見たら、ホントに泣けた。
〇今年は本当に大変な年だった。学生さんは特にそうだろう。先生もさらにそうだった。何も悪いことしたわけじゃないのに、楽しみだったことが全部、手の届かないところへ行ってしまった。全世界の教育現場は、不条理の塊みたいになってしまった。
〇CMの後半、森山直太朗の歌声が高まるところで、急に思い出した。俺も悔しかったんだよなあ。家の近所の大堀川の桜を見上げながら、「あ〜、あれもこれも中止になってしまって・・・」とボヤいたものである。あんな桜はもう二度と見たくない。
〇で、このCM。受験生を演じているのは加藤清史郎さん。10年前にトヨタ自動車の「こども店長」で一世を風靡した子役が、英国留学を経て今は大学1年生なんだそうだ。2009年のNHK『天地人』では、幼年期の直江兼続を演じて、「わしはこんなところへ来とうはなかった!」と叫んで、今も残る新潟県の雲洞庵(上杉景勝とともにここで学んだ)を観光客で一杯にしたそうである。
〇いつかコロナが収束した後に、このCMを見返したらまたきっと泣けると思う。やっぱり悔しかったんだよ。認めたくなかったけれども。
<11月27日>(金)
〇あんまり感染者数が増えるから、来週予定していた忘年会をキャンセルする。お店に電話をしてその旨を告げたら、けっして営業的ではない明るい声で、「それではまた、当店をご利用ください」という返事が戻った。ああ、申し訳ない。きっと、似たような電話をたくさん受け取っているだろうに、悪いのはあなたではないというのに。
〇別の幹事さん曰く、延期するとしたら次のチャンスは2月の後半ですね、と。なぜそうなるかというと、感染者数が減少してから日程を決めると第4波に当たってしまう。今の第3波が沈静化するのはたぶんその頃なので、今から予定を抑えておいた方がいいのではないか。なるほど。
〇曰く、ある学術論文によれば、コロナには季節性はないらしい。医療体制がちゃんとしていれば、第7波まで繰り返して2022年3月に収束するとのこと。その場合は「収束」ではなくて、「終息」と呼んでもいいのかもしれない。、要はコロナ感染拡大からちょうど2年、足掛けでは3年続いて終わることになる。
〇われわれオヤジ世代としては、「なーんだ、3年待てばいいのかあ。だったらそれまで、おとなしくしていよう」ということで済む。しかし若い衆にとっては、3年はとてつもなく長い日々である。お気の毒としか言いようがない。残念なことだが、我慢の代わりはしてあげられない。
〇こんな不条理をどうやって耐えればいいのか。とりあえず当該のお店には、そのうち無理やりランチに出かけてみたい。
<11月28日>(土)
〇東洋経済オンライン、今日の駄文のご紹介。
●「バイデン次期政権」の閣僚がやたら地味なワケ
〇トランプさんのことを書いたときと違って、まるで読者の反応が鈍い。そりゃあ、そうだよなあ。閣僚以前にバイデンさん自身が地味だからなあ。
〇先日、ナベさんが言っていたけれども、「アメリカで新政権ができると、かならず『〇〇さんが××になると、大変じゃないですか?』と聞いてくる人が居る。いい加減、そういう自虐的な発想は止めましょうよ〜」。
〇いや、まったくその通り。一部の方が心配していた「スーザン・ライスが国務長官になると、中国に甘いから困る」という懸念は消えたようです。とはいえ、そういう心配はあんまり生産的ではありません。それに「日本政府はアナタが重要ポストに就くことに難色を示している」なんてことは、かならず本人の耳に届きますからね。
〇アメリカ以外の国の閣僚人事が、これだけ注目されることはありません。やはり親会社の役員人事を気にしている子会社のサラリーマン、みたいな意識があるようです。しかしながらアメリカという親会社は、今や自社ことで手いっぱいであって、日本みたいな上場子会社のことを気にする余裕がなくなっている。いい加減、「下から目線」はやめた方が良いと思います。
〇とはいうもののサラリーマンをやっていると、「〇〇さんが××になって大変なことになる」のは、何度も体験することである。誰が言ったか、「人災のほとんどは人事災害である」。大惨事が起きてしまってから、「あの人にあの仕事をさせたら、そりゃあこうなるよなあ・・・」みたいな嘆きを、これまでに何度聞いたことか。でも、そういうことがあるから人事は面白い。
〇あるいは人事には、適材適所とか論功行賞とか年次・年齢とか好き嫌いとか、そういうパズルとしての奥深さもある。「ワシが阪神タイガースの監督であればだなあ・・・」などと言って、勝手に打順や投手起用を考えるのは、それはそれは楽しい作業である。
〇さらに人事には人間ドラマがある。異動、大抜擢、左遷、退任、スキャンダル発生、ケミストリーが合わない、とかいろいろありますよねえ。もっとも最近は日本企業でも中途採用や転職が増えてきているので、今後は以前ほどサラリーマンが人事を気にしなくなるのかもしれません。『半沢直樹』みたいな世界は、じょじょに遠くなりにけり。
〇バイデン新政権の人事の話はそれはそれで面白いので、さらに週明け月曜のモーサテで語る予定であります。
<11月30日>(月)
〇今日で怒涛の11月が終わる。あー思えばたくさん書いて、たくさんしゃべって、たくさん仕事したものである。ちなみに今朝のモーサテ「プロの眼」では、バイデン政権の閣僚人事についてお話ししました。
〇12月になったら、そろそろ来年の経済予測を作らなければならない。もっともそれはコロナの感染次第であって、それは文字通り「神のみぞ知る」である。余計なことだが、担当大臣がそう言ったからといって非難するような人はどうかしていると思う。だってホントのことなんだから。メディアと野党は気楽な稼業だねえ、と思われてしまうところである。
〇師走の景気はどうなるのか。経済指標ということでは、今日発表の10月鉱工業生産はよかった。明日の労働力調査も気になるところです。ただし個人消費はこれから冷え込むだろう。11月の月例経済報告は、基調判断を4カ月連続で据え置いたけど、次は下方修正ではないだろうか。
〇その割には株価は好調で、年末には2万7000円台くらいは軽く行っちゃいそうである。でも、それって実体経済からかなりかけ離れているようでちょっと怖いぞ。今朝のモーサテでも、あっこさんと福永さんと3人で、「この相場が崩れるとしたら、何がきっかけですかねえ?」と話していたのだけど、全くノーアイデアだったのです。悩ましい局面です。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki