●かんべえの不規則発言



2001年4月



<4月1日>(日)

○春らしい日でした。ということで午後から中山競馬場へ。定期券があるので、入場料200円だけの安い娯楽である。今日のレースは薄めの複勝を500円ずつ買って、のんきに見物。当たらないけど気にしない。だって桜の木の下をサラブレッドが疾走するんだもの。こりゃ気分がいいわね。花見が第一、勝負は第二。とはいえ、天敵、テイエムオペラオーが負けるのを見たいというのがホンネである。

○画面上に産経大阪杯のパドックが映ると、やっぱりテイエムがよく見えてしまう。ええい、ここでテイエムを切らずしてどうする。ところがテイエムを切ったところで、買い目が無数にあるのだ。なにしろ菊花賞馬エアシャカール(3)、ダービー馬アグネスフライト(5)、好調なアメリカンボス(4)にアドマイヤボス(13)もいる。この際、4頭まとめてボックス買いにして、なおかつ弱気にワイドにしてしまう。だってジョービッグバン(8)やサイレントハンター(12)もいるんだもん。なんて難しいレースじゃい。

○ゴール前、テイエムとエアシャカールが競り合って横一線。勝った、と思ったところに、外から飛び込んできたのが無印のトーホウドリーム(2)である。強烈なさし足でまくってゴール。とんでもない万馬券の誕生である。あーあ、おいしいところを持って行きよった。まあ、予想通りテイエムが負けたし、花見もできたからよしとするか、と思ったら、アドマイヤボスが写真判定でテイエムをかわして三着。(3)−(13)がワイドでついた。やったね。

○テイエムが4着というのはめずらしいが、不思議と意外感はない。清水成駿も書いている。「大阪杯くらい、敵に花を持たせるのも男よ、の大きな気持ちで負けてみてはどうか。男にぐっと磨きがかかる。肉を斬らせて天皇賞で骨を断てばいいだけ、強いばかりが男じゃないのだ」。なるほど、いわれてみれば、これでますます春の天皇賞が面白くなりましたね。


<4月2日>(月)

○筆者はところどころしか見なかったのですが、今日が初回だった新シリーズの『水戸黄門』は視聴率が高かったでしょうね。なにしろレギュラーは由美かおるさん以外は総とっかえという大博打。題名と主題歌と、人物の名前だけが同じで、あとは全然違うドラマになってしまった。ご老公のひげがなくなるくらいはともかく、うっかり八兵衛までいなくなっちゃうんだから。案の定、どうみてもNHKの大河ドラマのような作りになっている。ほのぼのドラマの偉大なるマンネリズムはどこへ行ったのか。

○おそらく不評惨憺たるものではないかと危惧するものですが、それでもこの勇気、買わねばなりますまい。とくにスポンサーである松下電器の勇気を称えたいと思います。TBSは話題にさえなれば、別に何だっていいのである。しかし、この番組に営々とブランドイメージを託してきた、日本を代表する家電メーカーにとっては乾坤一擲の大勝負だったはず。

○思えば天下の松下さんだって安泰ではないのである。すでに東芝さんは、日曜夕方の『サザエさん』の単独スポンサーを降りてしまった。今でもサザエさんの合間にマクドナルドのCMが入るのは慣れないけれど、それくらい世の中は変わっている。「何でもあり」の時代なのだ。『水戸黄門』だって、今までどおりで視聴率が稼げるのなら苦労はいらない。でも、それじゃCSで過去の放映分の再放送を見てた方がいい、なんてことになってしまう。

○マンネリを続けるということは難しいことなのだ。大相撲は外国人力士を入れて活性化し、演歌はフォーク系作曲家を起用して衰退期を脱出した。それでも今になって再び没落しつつある。新しいことを取り入れる勇気を失ったら、人気は確実に失われていく。変わらないためには、変わらなければならない。変わってなおかつ、評価を得なければならない。それを何度も繰り返すことができるものだけが、時間を超えて生き残ることができる。今度のカローラがそうだったように。

○番組の終わりに流れた主題歌の一節が、とても意味深に聞こえてしまった。

♪後から来たのに追い越され、泣くのがいやなら、さあ歩け♪

○本当にそうだよね。ちょっくら身につまされてしまったよ。


<4月3日>(火)

○春に三日の晴れなし、とはよく言ったもので、午前中は花見にぴったりの上天気。お台場の海岸では、早くもウインド・サーフィンを始める人たちがいる。ところが午後からは各地で通り雨。満開の桜には無情の雨ですが、雨に濡れる桜も悪からぬ風情。深夜、春雨の中を濡れながら歩くのも、ちょっといい気分だったりする。

○というこの日を選ぶかのように、大阪から上京してきたのが当HP愛読者にして「かんべえの弟子」を自称する山根君である。経済学を学ぶ大学院生であるが、このためだけに自腹で出てくるとあっては、当方も襟を正して会わねばならない。せっかくだから岡崎研究所に案内したり、溜池界隈を軽く連れ歩いたり。もう一人、弟子を名乗る先崎君も呼んで、夜は3人で一献傾ける。

○証券マンである先崎君と、経済学の学徒である山根君の取り合わせが絶妙で、話は現実と理論の世界をめまぐるしく往復する。聞いていて本当に勉強になるので、これではどっちが弟子だか分からない。そもそもこっちは師匠だなんて柄じゃないので、ごっこ遊びもいいところだと思うのだけど、ネットの世界が作ってくれた縁を楽しませてもらいました。

○長らくこんなサイトをやっていると、いろんなことがあるものですね。師匠にされてしまった当方としては、弟子に追い抜かれて「ご恩返し」される日を楽しみにしておきましょう。


<4月4日>(水)

○中国通といわれる人の話は不思議と似通っていることが多い。@ワタシは中国のこんな偉い人をよく知っていて、Aどこそこではこんな歓迎を受けたことがあって、Bあるとき、腹が立ったので思い切りハッキリものを言ってやったら、Cそれが感謝されて、その後、中国のこういう点が変わった、といった感じである。アメリカ通のアメリカ談が千差万別であるのに対し、中国通の中国談はワンパターンなのである。筆者の「中国食わず嫌い」病はこんなことも手伝っている。

○さて、今日聞いた中国談でちょっと面白い話を紹介しましょう。さる日本人のところに中国人がクレームをつけにきた。「日本人が東シナ海、南シナ海と言うのはけしからん。シナは差別用語である」というのである。差し出された中国の地図を見ると、たしかに「東中国海、南中国海」になっている。そこでその人は、地図のうちベトナムの当たりをハッシと指差したのだそうだ。

日本人「だったら、これは何だ?」。
中国人「そ、それはインドシナ半島だ」。
日本人「なぜインドシナというのだ?」
中国人「インドと中国の中間にあるからである」
日本人「だったら中国はシナではないのか」
中国人「・・・・・・」。
日本人「あなたがたがインドシナ半島の呼び名を変えたら、われわれも変更を検討しよう」

○この人の解説によれば、中国人相手にこういう論争になったときは、その場できっちり言い返さないと駄目なんだそうだ。最悪なのは相手におもねって簡単に謝まっちゃうことで、そういう人は次から相手にされなくなってしまう。歴史認識というのも、「日中共同声明(田中角栄)があり、日中友好条約(福田赳夫)があり、92年の天皇陛下のお言葉があり、戦後50年の談話(村山富市)がある。それで片付いている」という理解で良いのだという。もちろん、その後の政治家による妄言とか、それをわざわざ中国にご注進する奇妙な新聞があったりするので、日中関係はしょっちゅう揺れるわけだけど。

○中国も古典の世界は楽しいが、隣国としては疲れる相手ですな。米軍偵察機の問題も気になるところですが、「人民日報が一面に載せないところをみれば、大事にはならない」というプロ筋の見方もあるらしい。なにしろ中国は、「WTO年内加盟、2008年五輪の北京開催、10月のAPEC上海首脳会談の成功」と3つも人質を持たれているから、滅多なことはできないだろうとのこと。だとすれば、むしろ国内の反発をいかに中国首脳部が抑えるかが関心事になる。さてどうなりますか。


<4月5日>(木)

○今朝の日経新聞2面に、「野党トンカツ会談は不思議」というコラムが出ている。4日の首相討論で、森さんが社民党の土井たか子党首に対し、「憲法などで考えの違う人たちが一緒にトンカツを食べているというのは不思議な現象だ」と皮肉ったらしい。おたかさんは三月末に都内のトンカツ店で、民主党の鳩山代表、自由党の小沢一郎党首、共産党の不破哲三議長らと会談したのだそうだ。個性豊かな野党4党首が集まるだけでも目立つのに、それが一緒にトンカツを食べている景色は想像しただけでおもしろい。

○トンカツ屋といえば、小さい店が多いから個室などは滅多にあるものではない。ほかの客は4人のテーブルを見て騒がなかったのだろうか。だいたいトンカツというのはサラリーマンの食べ物で、政治家はフグとか蟹とか鰻とかを食べててくれないと格好がつかないではないか。とにかくトンカツを食べながらする政治談義というのがイメージがわかない。どこのトンカツ屋なんだろう。なんだかとっても気になってしまった。

○そこでかんべえの誇る政治オタク・ネットワークに尋ねてみた。店はすぐに判明。まず、某局の政治部デスクから。

「野党党首会談の場所は湯島のトンカツ屋「井泉」です。小沢は高校が小石川高校でその頃からの行きつけとか」

○にきび面の高校生・小沢一郎が、「おじさん、飯は大ね」とか言いつつ、トンカツを食べている図を思い浮かべると笑えるではないか。ところで湯島界隈といえば、食べものに詳しいこの人のホームグラウンドなので、さっそく意見を求めてみた。

「知ってるよ。でもそんなにすごい店じゃないけど。箸でちぎれる柔らかいカツ、というのが売り」

○ちょっと拍子抜けしたところへ新たな情報が飛び込む。いつもの政治ジャーナリストK氏からである。

「ここは、実は一回目も小沢氏仕切りで行ったのですが、小沢氏サイドの段取り悪く、休業日で、あわてて、すし屋に差し替えた、いわくつきのトンカツ屋なんです。つまり、この野党会談、毎回場所は小沢氏が仕切っています」

○店のチョイスが小沢一郎ということは、いずれ赤坂の蘭苑飯店に4党首が集まるかもしれない。これはすごい光景ですぞ。ま、とにかく野党4党首が集まったのが「和幸」じゃなくて安心したな。ところで、お台場にうまいトンカツ屋はないかしら。


<4月6日>(金)

○昨日の続きで、トンカツ問答が止まらなくなってしまったのである。

「カツ丼研究家として一言。湯島『井泉』のカツ丼はあまりよろしくない。神田の勝漫のカツ丼はおいしい。ヒレカツは蓬莱屋で決まりです」

○このメール、ニューヨークから来たんですぜ。Sさん、ちゃんと勉強してる?

「神田の勝漫はおいしかったです。先週ですか、いってきました」

○ちぇっ、いいなあ。Mさん、ファンドマネージャーはいいもの食べてるんですね。

「私もやはり上野は『蓬莱屋』ですが、 元本牧亭前の『双葉屋』もいけます。 成城の『椿』もいけます。 番外で、目黒の『とんき』もあげておきましょう」

○Kさんもグルメだからなあ。当方は蓬莱屋は昔行ったけど、双葉も椿も知りません。お台場にあるのは和幸くらいです。もう好きにしてください。

「隼町の交差点から麹町の方へ抜ける道の左側に、とんかつ屋があるのですが、そこの親父は綿貫民輔と双子の兄弟です。もちろん本当はただの他人の空似ですが、富山県人会の人に冗談で教えたら、本気にしてしまいました。それはそれは本当に似ています」

○う〜ん、ディープな情報ですね。筆者も富山県人ですが、正月に日枝神社に行ったら参拝に来ていた綿貫民輔氏を見かけました。あれはひょっとすると衆議院議長ではなくて、トンカツ屋のオヤジだったのかもしれませんね。どうりでSPをつけていなかったはずだ。でもたしかに「綿貫さん」と呼ばれていたんだけどなあ・・・・・


<4月7日>(土)

○無性にトンカツが食べたくなって、お昼に16号線沿いの「とんからりん」に行ってしまったぞ。所詮はロードサイドのチェーン店ですけどね。ま、別に名店じゃなくたっていいんです。思えば筆者の場合、ちょっとイヤな事があったときなどに、トンカツとかカツカレーとかが食べたくなることが多い。肉が薄くても、コロモが妙に厚くても、とにかくトンカツ食ってヒットポイント回復、というところがある。

○「涙とともにパンを食べたものでなければ、人生の真の味はわからない」という言葉がある。このままだとちょっとバタ臭いので、パンをカツ丼に置きかえると、ちょうど日本人の心情にぴったり来るような気がする。「若い頃のカツ丼のご恩は重い」と言っていたのは、故き芹沢博文九段。若くて腹が減って仕方がない頃に、先輩に奢ってもらうカツ丼のありがたさは何ものにも換えがたい。これは天丼や親子丼ではまずいのである。やはりカツ丼でなければならない。

○一方、刑事もののテレビドラマで、ベテラン刑事が取り調べ中の容疑者に向かって「これでも食え」と勧めるのは、なぜか決まって天丼である。カツ丼だと容疑者が変に元気になりそうでまずいのだろうか。ちなみに、このシーンは現実にはあり得ません。警察が容疑者に利益供与をして得た証言は、証拠能力を疑われます。ゆえに取り調べの最中に腹が減って天丼をとった場合は、あとで代金を請求されるそうです。筆者自身の経験があるわけではありませんぞ。念のため。

○ところで名門食堂「自民党」では、シェフが変わるの変わらないのとさんざん客を待たせておいた挙句、ようやく次のメニューを決めたらしい。何が出てくるかと思ったら、たしか5年前にも食べたはずの「岡山カツ丼」である。あのときは客も元気だったので、これを食ったら元気になるような気がしたが、やっぱり体が本調子でなかったらしく、油に当たって死にそうな目にあった。現在はさらに客の体力が落ちているから、またまたカツ丼を出すと聞いて「ええっ?」という感じなのだが、食堂としては客のことなど考えちゃいないようなので仕方がない。

○別のメニューはないのか、と思ったら、「横須賀の本格派カレー」というのも有力らしい。においは何度も嗅いだことがあるので、ちょっと食欲をそそられる気はする。なにしろ作っているシェフが、「俺のカレーは辛いぞ。イヤなら食わない方がいい」という今時めずらしいスタンスの持ち主である。おなかに優しい「海の家ラーメン」とか、鮮度が悪い「神の国弁当」を食べさせられてきた客としては、こういうのも気分が変わってよさそうな気がする。もっとも食堂内には、「あんなカレーを出しては店の名折れだ」という声が多いらしく、今度もにおいだけで終わるかもしれない。

○メニューがもう少しあった方がいいと思ったのか、食堂の側では「福岡風シーフード・サラダ」も用意しているらしい。このシェフは「血筋がいい」とか「英語ができる」というのが売りで、食堂のイメージ一新を狙っているらしいが、最初からサブおかずが関の山という感じ。本命といわれていた「京都ド迫力御膳」は、どんな味がするのかいっぺんくらいは食べてみても良かった気がするが、200%も300%も否定されたのでは仕方があるまい。あ、念のために言っておくが、「広島風カメの子せんべい」だけは出さないでもらいたい。

○客の側としても、この店にいる限りたいした料理は出てこないことは、とっくの昔に分かっているのである。かといって、今さら別の食堂に入るにしても、どんな料理が出てくるかわからないのもイヤなので、我慢して同じ店で料理を待っている。しかし「もう待ってられない」と食堂を見捨てて、スナックの立ち食いをする客もちらほら増えてきた。食堂内の争いは棚に上げて、少しは客のことも考えた方がいいよ、と言っておこう。


<4月8日>(日)

「つまり米中の対立はエスカレートするかもしれないが、その場合も米国人は中国が見果てぬフロンティアであることを、見失うことはない。逆に今後、米中が接近することがあるとしたら、周囲が(とくに日本人が)驚愕するような早さで実現するだろう

○・・・・とまあ、金曜日の本誌で書いたわけですが、偵察機問題では、米中は想像以上の速さで手を打ったようです。両方とも大人ですね。外交とはかくあるべし、という感じです。

○ところで謝罪をするかどうかというときに、Regret(【他動】〜を気の毒に思う,後悔する,悔しく思う,残念に思う,惜しむ,悼む,気の毒に思う,を後悔する)というのと、Apologize(【自動】謝る,詫びる,謝罪する,わびる,あやまる)というのではたいへんな違いがある。今回は米側は遺憾の意を表明したが、謝罪したわけではない。先のえひめ丸の事件では、米国政府はすばやくApologizeしたのだけど、これは結構めずらしいケースといえる。

○最近覚えたのですが、この2つの単語の中間にあるのがDeplore(【自動】ひどく悲しむ,嘆き悲しむ,【他動】残念[遺憾]に思う)という言葉なんだそうだ。謝罪はしたくないけど、遺憾の意を表明するだけではちょっと足りないときに使われる。実は1975年の天皇訪米、1992年の天皇訪中の際には、スピーチの中で戦争について触れる個所では、いずれもこのDeploreが使われている。もちろん訪中の際は、日本語で話して中国語に翻訳されるのだけど、同時に海外のプレスに配布される英語版にはちゃんとDeploreと入っている。いわば日本外交の切り札みたいな言葉なんですね。

○外交の世界においては、「World Politicsは Word Politics」ということになっていて、最近はまさに言葉の戦いという趣きがある。米中間でも相当な葛藤があるはずである。ま、外交じゃなくても、謝るということは難しい。まして外国語の場合は。

○いちばん身近な謝罪表現は"I am sorry." ( 《謝る》ごめんなさい)であろう。外国人に向かって気安くこれを使っちゃいけないよ、という話はどなたも聞いたことがあると思う。先輩の商社マンの話によると、全然そんなことはないのだそうだ。「大いに使っていいんだよ。その代わり、本当に自分が悪いときは使っちゃ駄目」。つまり相手が「こないだ転んで怪我しちゃってねえ」とか、「今日は家内の機嫌が悪くて」とかいうときは「アイム・ソーリー」でいいけれど、「御社の不手際で損害をこうむりそうだ」といわれたら、もうちょっと気の効いたことを言え、という教え。そんなこと自明か。


<4月9日>(月)

○歯医者に行ったり、業務効率化の会議をやったり、先週の経済対策の分析をしたり、夜は「日米海上協力の歴史と実態」という話を聞いたり。それでもって、最後は深夜に自宅で『海の友情』の書評を書き直し、メールのチェックとHPの更新。この辺はあまり変化がない。

○今日の小さな幸福は、2年ぶりでCDを買ったこと。宇多田ヒカル"Distance"。深夜に小さな音でかけながら、しびれています。3月28日に発売されて、何百万枚売れるやら見当がつかないそうですが、思えば2年前に最後に買ったCDが『ファースト・ラブ』だったなあ。あんまり音楽は聞かない方なので、好きになるアーチストなど5年に1人くらい。井上揚水、中島みゆき、Queen、ビリー・ジョエル、そして今はなぜか宇多田ヒカルなのである。

○世の中では浜崎あゆみとどっちが売れるかが評判になっているそうな。馬鹿な。両者を比べるというのがとんでもない間違い。浜崎あゆみなど、賭けてもいいけど10年後には忘れられているぞ。目立ち方が同じくらいだからといって、プレイヤーとしてイチローと新庄を同格だなどと思ってはならぬ。

○アートやスポーツの世界では、誰が天才で誰がそうでないかは一目瞭然である。われわれの日常はそうではない。サラリーマンの世界に天才は要らない。エコノミストやストラテジストの世界でさえ、当たり屋はともかく天才なんぞ見たことがない。"Distance"を聞きながら、世の中には卓越した天賦の才能というものがあるのだと確認し、世の中捨てたもんじゃないなあと思う。いいね。


<4月10日>(火)

○腹を抱えて笑ってしまったのだ。

>10年後にあゆは忘れられているとのご意見....悲しい。
>今月のnonnoの表紙の浜崎はすごくいいのですが?

○昨日、あんなことを書いたから、こういう反響があると思ったんだ。あはは。でもKさんとは意外でした。筆者の同級生ですけど、今でもアグネス・ラムが忘れられないというくらいなので、彼のようなファンが10年たっても浜崎あゆみを忘れないのは自明でしょう。ちなみにK氏を単なるアイドル・オタクだと思ったら大間違いです。小岩の詩音ちゃんとはその後どうなったんでしょう?

○えー、今日も株が盛大に下がっておりますが、これはまあ当然ですな。問題は4月6日に出た緊急経済対策において、肝心な部分があいまいになってしまったこと。とくに(2)銀行の株式保有の制限について、の部分。「銀行の保有する株式を、例えば自己資本の範囲内とし」「株式買い取りに要する資金に対する政府保証等公的な支援を検討する」、そしてもっとも評判が悪いのは、今後の進め方を「可及的速やかに成案を得る」としたことだ。

○なぜ株式買い取り機構(銀行保有株式取得機構=仮称)が必要なのか。これについては麻生経済財政担当大臣が4月4日の記者会見で詳しく説明している。要するに、銀行が保有している株式の自己資本に占める比率が高いのが悪い。「アメリカの場合はゼロ%、ドイツにとっては数十%、国によって違うんですが、日本の場合はきわめて高い」「100以上超えているところはいっぱいありますので」とのこと。

○それどころか大和證券SMBCによれば、「2000年11月末時点で銀行の保有株は43兆5000億円で、自己資本32兆6000億円の1.3倍」だそうだ。これでは株価が下がるたびに、日本では金融システム危機が発生してしまう。では、これをたとえば75%くらいに引き下げるとしたら・・・・ものすごい持ち合い株の売りが発生してしまう。それを考えると、やっぱり買い取り機構のようなものは必要だと考えざるを得ない。

○というコンセンサスができたと思ったら、政府・与党内の意見の集約ができなかった。4月6日の閣議後の記者会見を読み比べてみればよく分かる。柳澤金融担当大臣は、「銀行の株式保有は構造問題。これを緊急経済対策で制限するのはおかしい」と反対している。「可及的速やかというのはいつ頃か」、という記者の質問に対しても、「十分周到な検討をした上で決めたい」と答えている。これでは亀井政調会長と大激論になるのも仕方のないところ。

宮澤財務大臣はといえば、同じ4月6日の記者会見では、「まあ、なるべく早くやった方がいいな」「柳沢君の言うとおりだと思いますけれども、・・・・やっぱり対処する努力をしないといけないでしょうね」と、あいかわらず他人事みたいな言い方なんだけど、とにかくやるぞというスタンスである。

○ちなみに平沼経済産業大臣はどうかといえば、「ある面ではやむを得ないと思いますけれども、・・・・PKOというような形にならないよう、ぴしっとやっていくことが必要」と言っている。これは消極的反対といった感じ。とにかく閣内でも意見が割れちゃっているのである。

○それでは内閣を率いるべき森総理大臣はこのとき何をしていたんだ、といえば、なんとこの日はこんな発表をしてたんですね。忘れてたよ、ホント。つまり政治の機能不全の見本みたいな一日だったんですね。てなわけで、週明け今週の株価は下げるのも無理はない。

○絶妙な批評家である宮澤さんは、森さんの発言を受けて「何かあったんでしょうか」という記者の問いに答えてこう言っている。「何もありませんでした。『ご苦労様でした』と言おうとした人はいるけれども、何となく『今じゃないよな』というような雰囲気でしたから」。とにかく早いとこ、次の総裁を決めてください。話はそれからだ。


<4月11日>(水)

「情があるなら今月今夜」と、口ずさみたくなるような状況なのが今夜の自民党議員各位。誰が誰を推すのか。岡山風カツ丼は思ったより評判が悪く、若手はそっぽを向いている。これは締め付けが必要と、派閥内には「明日朝決起集会!来ない奴は除名!」というお触れが回っている模様。横須賀の本格派カレーは「派閥よサヨウナラ」と気取ってみたけど、だったら先週まで「神の国弁当を命がけで支える」とか言ってたのは何だったのか。気の毒なのが福岡風シーフードサラダで、推薦人の20人がなかなか集まらなくて困っているらしい。

広島風カメの子せんべいが本当に立っちゃったのがまたまた誤算。「俺は京都ド迫力御膳なら文句はないが、それ以外じゃ我慢ならん!」ということなのか。山梨の山菜そばなんていう話は、今夜になってやっぱり消えたらしい。いずこも同じ風景なのは、「ウチがよその草刈り場になってはたまらない」という派閥単位の論理。締めつける手口はいろいろあるのだろうけど、遠心力も負けずと強い。

○というのは今夜の話で、明日になったらまた違う話になってるのかもしれない。それくらい明日をも知れぬ戦いになっている。こっちも力を抜いて見てた方がいい。所詮は途中経過なんだもの。永田町ウォッチングをするときは、あんまり近くで見てちゃいけません。

『爆笑!四酔人サイト問答』が終わったので、パラサイトの本棚に入れておきました。岡本さんが「これだけ面白いのに反応が少ない」とぼやいていたけれど、やってる本人たちがいちばん楽しんでいるのだから、それはまあよしとすべきでしょうね。四酔人、次は何をやるのでしょうか。


<4月12日>(木)

○英BBC放送が誇る偉大なコメディ番組、「モンティ・パイソンズ・フライング・サーカス」の中で、こんなコントがあった。

○場面は裁判の最中。被告の罪状が読み上げられている。ところがこの罪状が長くて、恐ろしく凶悪なのである。呆れるほどの罪状が並びたてられた後で、裁判官が被告に尋ねる。「何か言いたいことは?」。すると被告は答える。

「アイ・アム・ソーリー」

○被告は自分がいかに反省しているかを述べ、周囲の人々に迷惑をかけたことを謝罪し、みずからの犯罪の被害者に対し、心のこもった言葉を捧げる。その態度はまことに堂々としており、いささかも間然とするところがない。しまいには傍聴席から被告に同情する声が高まる。つられて裁判官は、つい「無罪」を宣告してしまう。傍聴席は拍手の嵐で、ついには"He is a good fellow, he is a good fellow, he is a good fellow, no one can deny it!"と大合唱になってしまう・・・・

○てなギャグを思い出してしまいました。それではワシントンでの最新ジョークをご紹介しましょう。あまりにも分かりやすいので、これはもう翻訳はいたしません。お楽しみを。


(The text of the Bush letter before translation by the Chinese Foreign Ministry:)


From: The President of the United States
April 11, 2001
Subject: Apology to China
TO: President Jiang Zemin


The United States of America apologizes to the People's Republic of China for allowing our reconnaissance plane to be hit by your poorly trained, hot-dogging fighter pilot, while flying in international airspace.

We're sorry we have to fly surveillance missions to monitor a country that has nuclear missiles pointed at us.

We're sorry your pilot didn't follow international standards of fighter intercept protocol.

We're sorry his aircraft recognition skills were so poor he didn't realize the EP-3 aircraft was propeller driven and flew his aircraft through its propeller arc, destroying his aircraft and nearly killing 24 American crewmen.

We're sorry your fighter pilot's survival training and equipment was so inadequate that he couldn't survive until your poorly trained and equipped navy could find him.

We're sorry you violated international law and arrested the crewmen of an aircraft that legally diverted into your airfield under emergency conditions, caused by your pilot's actions.

We're sorry you violated international law and boarded a state aircraft.

We're sorry the world is now seeing your leaders as the xenophobic, clueless thugs that they really are.

We're sorry you are loosing so much face over this.

We're sorry that you were able to steal missile and nuclear secrets from us, thereby require us to continue to monitor your eccentric and unpredictable military.

We're sorry you haven't learned anything from the Soviet Union's collapse and failed to embrace democracy, freedom and peaceful co-existence with your neighbors.

We're sorry for the future Chinese military deaths that will occur when we retaliate for your roughish behavior.

And most of all, we're sorry for the Chinese people who suffer its leaders' foolishness and incompetence.


Sincerely,


George W. Bush
President of the United States,
The Only Superpower on Earth
(and don't you forget it)



○ついでに写真もどうぞ。アメリカを怒らせると恐いよ、ホント。


<4月13日>(金)

○今度の自民党総裁選挙は思ったより面白そうですね。4人のキャラクターも揃っている。考えてみたら無記名投票なんだから、ふたを開けてビックリ、かもしれない。98年もそうだったけど、「願いあげましては橋本派が102人・・・」みたいな計算は通じない。そこでこの際、総裁選挙を楽しむためのリンク集を作っておきましょう。

○自民党総裁選挙(ヤフー)  http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/ldp_presidential_election/

○自民党総裁選挙(共同通信) http://www.kyodo.co.jp/kyodonews/2001/shinshusho/

○総裁選(朝日新聞) http://www.asahi.com/special/sousai/index.html

○ニュース特集自民党総裁選(読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/seikyoku/main.htm

○総裁選挙(自民党) http://www.jimin.or.jp/jimin/jimin/sousai01/index.html

○自民党総裁選統一スレッド(2ちゃんねる) http://saki.2ch.net/test/read.cgi?bbs=news&key=986978813&ls=50

○麻生太郎氏のHP http://www.chikuhou.or.jp/aso-taro/

○橋本龍太郎氏のHP http://www2.odn.ne.jp/~cap47570/hasimoto/

○小泉純一郎氏のHP http://www.jimin.or.jp/jimin/giindata/koizumi-ju.html http://henkaku.jah.ne.jp/message/index.html

○亀井静香氏のHP http://www.jimin.or.jp/jimin/giindata/kamei-shi.html

○ところで、ヤフーの中では模擬投票をやっています。今日、覗いてみたところ、小泉氏のひとり勝ちでした。1980年代以後の自民党総裁選挙では、「一度負けてから復活した候補がいない」という妙なジンクスができています。それ以前には、三木武夫や福田赳夫が敗北後に総理の座を得ているのだけど。2度も総裁選で敗北を喫した男が総理になれるかどうか、というのも今回の見所のひとつでしょう。


<4月14日>(土)

○政治不信がこれだけいわれている中で、「自民党4候補が大阪なんばで演説会」のニュースが、「新庄が3打数3安打」よりも前に来るというのはちょっとした意外感があります。辞めそうで辞めない森さんを抱えて1ヶ月も迷走した自民党としては、予想外の成功といえましょう。なんといっても4人のキャラが立っている。これが「橋龍VS小泉」だけであったら、ここまで関心は集まらなかったはず。麻生、亀井の両脇役の出馬が、総裁選挙を盛り上げています。

○麻生太郎という人は、以前から気になる政治家の一人で、筆者はこんなところでもちょこっと彼の名前を出したりしております。(この話を収録したのは1月10日ですから、その時点の麻生氏はまだ大臣でもなかった)。麻生氏の人となりを知るのに、もっとも役に立つのが経済財政担当大臣としての記者会見要旨だと思います。内閣府がほとんど手を加えずに、記者とのやり取りをそのまま掲載しているのがありがたい。

○麻生大臣の日本経済に対する認識は、リチャード・クー氏や堺屋太一元経企庁長官に近いが、ちゃんと自分の言葉で語っていることがよく分かる。質問に対する答え方もポイントをついている。そうかと思うと、突然英語で話し出したりする変なところもある。受け答えはよく言えば率直で、悪く言えばガードが甘い。たとえば4月10日分ではこんなやり取りがある。

(問)今日の表明については、河野会長の了解は得られているんでしょうか。
(答)当たり前のこと聞かないの。でないと、勝手に出るわけないでしょうが。

○さらに麻生太郎氏のHPが凝りにこっている。イントロ部分もすごいけど、カーソルに「麻生太郎」の文字がくっついて動くというのは、あんなの初めて見たぞ。これだけ凝っているわりには、ドメインが"chikuhou"(筑豊〜麻生氏の地元)というところがミスマッチ。ちなみに昨日見た時点ではアクセス件数はまだ2万件台だった。今ごろは「麻生、Who?」とアクセスが急上昇していることでしょう。

○2ちゃんねるの議論や筆者の周囲でも、麻生氏は「意外といいじゃないか」から「話すと顔が“ひょっとこ”みたい」まで、おおむねいい反響を得ているようだ。総裁選は自民党員だけが参加できる選挙であり、しかもほとんどは議員票で決まってしまうので、麻生氏が取れる票数はいいとこ2桁どまりだろう。それでも世間の関心がこれだけ急速に自民党に集まるということは、野党にとっては困った事態だろう。なんだかんだいって、自民党は人材の層が厚いのだ。


<4月15日>(日)

○今朝も例の4人はテレビに出ずっぱりです。フジテレビの「報道2001」の最後で流れる支持率調査を見てビックリしました。まず自民党が支持率で1位に返り咲いていること。思えば自民党の不人気はかなりの部分が森首相のおかげだったし、総裁選をやってみたら結構面白いから、自民党への期待感が戻り始めたようだ。その分、人気を食われたのが民主党。民主党の代表選挙はいつも盛りあがらないし、そもそも4人も候補者を出せない政党なのだから仕方がない。

○報道2001では小泉純一郎氏が5割以上の支持率。これがヤフーの模擬投票ではなんと約8割である。もっとも、投票権を持っている人はこれとは多少違う価値観があるようだけど。逆に人気がないのが橋龍だ。4人の論争を聞いていると、小泉は怒れば怒るほどカッコよく見えるし、橋龍は怒れば怒るほど嫌みが鼻についてしまう。橋龍自身は昔と変わっていないのだろうが、受けとめる側が昔とは変わっている。

○1993年の総選挙で、自民党は党内の人気者3人を集めて「サンフレッチェ」と称し、宮沢首相不信任後の不利な選挙を戦った。その3人とは橋本龍太郎、河野洋平、石原慎太郎の3人。河野は宮沢後の総裁となって野党時代の自民党を率い、橋龍はその次の総裁となって96年の総選挙を戦った。人気というのは不思議なもので、この二人はどうやら賞味期限切れになってしまったようだ。それを思うと、「石原新党」構想に期待が集まる理由がよくわかる。

○さて、今週末は気分転換を2点ほど。ひとつはリンク集(かんべえの知恵袋)の内容を久々に更新。リンク先を増やしてみたのですが、結構面倒な仕事なので時間がかかりました。

○もうひとつは、フロントページのカーソルに「かんべえの溜池通信」の文字がくっつくようにしてみました。ちょっと不気味でしょ?麻生太郎氏のHPのソースを覗いてみたら、簡単に真似ができました。あんまり人に勧める気はしませんけど・・・・


<4月16日>(月)

○ワシントンポストがこんな記事を載せているようです。ちょっと感心したので、訳をつけておきます。(なんて親切なかんべえさん!)

日本の変化(Change in Japan) 4月15日付け

日本の政治経済の迷走ぶりは、日本国民にとっても世界の経済見通しにとっても悪い知らせである。ゆえに指導者層のいかなる変化も歓迎できる。今月、辞任を表明した森首相は、その無能と不人気をさらけ出し、おかげで一時的な景気回復も力尽きてしまった。後継候補として最有力なのは橋本龍太郎であり、2度目の首相の座につくであろう。1度目の首相としての評価は分かれるものの、少なくとも彼は厳しい行動をとった。日本政治の恐るべき水準の低さからいえば、橋本氏は勇気付けられる選択といえよう

橋本氏が今月後半に自民党総裁に就任するとすれば、その仕事は銀行のトラブルを解決することになる。健全な経済においては、銀行の仕事は貯蓄を集めて生産的な企業に貸すことにある。ところが日本では、銀行は成長を生み出すことのできない瀕死の企業にお金を融通している。これは銀行が、80年代のバブル経済の時代に貸し込んだ企業に対し、担保権を行使する勇気がないからだ。失敗を忘れるのではなく、銀行は希望のない会社がつぶれないようにせっせと貯蓄を注ぎ込んでいる。その結果、有望な新しい企業が資金を得ることができず、日本経済は丸十年というもの低空飛行を続けてきた。

ブッシュ政権の圧力を受けて、日本政府は今月初め、銀行のリストラ策を発表した。この計画には、銀行の過大な持ち株を買い取る基金の創設が含まれている。これには2つの目的がある。ひとつは銀行に資金を供給して、直接償却の原資にしてもらうこと。そして銀行と産業間の不健全な持ち合い株を解きほぐすことだ。株式持ち合い制度は、貸し手と借り手の関係をなれあいにし、合理的な資金配分をゆがめてきたからである。

この計画の細部は詰まっておらず、中身のない改革案も付随しているために、ほとんど無視されている。たとえば銀行が株の買い上げによって得た資金で、バランスシートをきれいにするか、痛みを伴う決定を先送りするかは定かではない。また日本政府が必要なリストラ策を怠ってきたことを考えれば、公的資金で日本企業の株を買い上げても、金融システムが安定するかどうか不明である。この計画は、大胆な首相にしかるべき武器を与えるようなもの。もし橋本氏が改革への腹をくくるなら、これを有益な形で使うことができよう。

過去において、橋本氏は改革派の勇気を示した。首相として金融の規制緩和を推進し、長期的な財政危機への取り組みに誠意を見せた。同時に橋本氏は通産相時代、クリントン政権下の攻撃的な通商要求を拒否することでナショナリズムを示した。ブッシュ政権の仕事はナショナリズムを静かに取り除き、橋本氏が大胆に経済に取り組むよう励ますことである。世界第2位の経済大国が悩めるとき、他国はその全快に強力な利害を有している

○う〜ん、と唸ってしまいましたね。「早くやらんかい!」と言わんばかりで、日本の政治と経済に対する苛立ちがよく感じ取れました。しかし今の橋龍さんは、「6つの改革」を標榜した96年当時とはまるで別人です。野中=青木には頭が上がらないし、公明党や保守党の言い分も聞かなければならない。首尾よく総裁になったところで、7月には参院選でまたまた大敗し、超短命政権に終わる可能性もある。上の記事はちょっと誉め過ぎです。

○どうやら海外の日本に対する認識は、非常に正確な部分とそうでない部分があるようです。本当のところがバレたらどうしましょ。困ったもんだ。


<4月17日>(火)

拝啓 森喜朗総理大臣殿

4月6日の退陣表明からすでに10日以上立ち、テレビでお顔を拝見する機会もめっきり少なくなりましたが、新聞で「総理の一日」欄を拝見すると昨夜も吉兆に行かれたようで、ますますご健勝のことと心からお慶び申し上げます。

あなたを「総理」とお呼びする日々も、いよいよ残り少なくなってまいりました。1週間後の24日には自民党の新総裁が選出されます。この総裁選挙が意外と面白く、自民党の人気も少しずつ回復しているように感じられます。思えば、あれだけの顔ぶれを4人も揃えて、まともな経済政策を論じることができる政党はほかにありません。これもひとえに、あなたが引き際を心得ておられ、後継総裁が「話し合いによる一本化」や「完全な出来レース」で決まることを回避されたからにほかなりません。

さて、残り1週間の総理としての日々を、有意義なものとして送られるために、私はここにひとつの提案を用意しております。政治家・森喜朗の名を歴史にとどめるべく、画期的な仕事を残していただきたいと心から念願しているものであります。

ご承知のとおり、李登輝元台湾総統が訪日ビザの申請をしておられます。森首相におかれましては、ぜひ断固たる政治決断をもって、ビザを発給していただきたいのであります。

なんとなれば李登輝元総統は、20世紀を代表する偉大な政治家であります。中国人民4000年の歴史において、初めて民主政治を実現したことは、永遠に語り継がれる快挙でありましょう。仮に1000年後に今日の中国史を振り返った場合、江沢民の名前を発見することは困難でありましょうが、台湾を先進国の生活水準と民主主義政体の国に育て上げた李登輝の偉業が、忘れられることはけっしてないはずです。

元総統は、日本と日本文化に深い愛着を持ち、訪日を念願しておられることはつとに有名であります。この際、人道的見地に限るなどといわず、母校である京都大学を訪ねることも含め、心ゆくまで日本滞在をエンジョイしていただこうではありませんか。これは台湾と李登輝ファンである多くの日本国民が支持するところであり、ひいては自民党への支持率向上にも寄与するものであると確信いたします。

森総理が属しておられる清和会は、岸首相、福田首相という台湾派の系譜であると伺っております。清和会における3人目の総理であるあなたが、この機会に大先輩のひそみにならい、「李登輝元総統にビザを発給した総理」「中国の恫喝を恐れず、筋を通した政治家」として引退されることになれば、森政権の錦上花を添える英断となりますことは間違いありません。

ご懸念があることはよく存じております。中国政府からの抗議はたしかにあるでしょう。しかし気にすることはありません。抗議を受ける立場になるのは、次に総理となる、おそらくは橋本龍太郎氏でありましょう。橋本氏は「あれは前政権がやったこと。橋本派は田中角栄先生の昔から親中派です」などとしゃあしゃあと売り込み、ついでにODAのおまけでもつけて、うまいこと丸め込んでしまうでしょう。

貴重なお時間にもかかわらず、お手間を取らせてしまいましたが、私ごときが斯様な手紙をお送りするまでもなく、上記のような事情はすでにご賢察のことと存じます。それどころか、明日になれば「李登輝元総統に訪日ビザ発給」がトップニュースとなっているのかもしれません。その通りとなれば、私も大いに心安らかに存じます。どうか総理大臣としての指導力を発揮され、官邸での日々の有終の美を飾られますよう、心から念願して止みません。

末筆ながら、小泉様に「期待しております」とよろしくお伝えください。

敬具

かんべえ拝


<4月18日>(水)

○自民党総裁選がおもしろくなってきました。とくに地方141票の動向が楽しみです。15日の秋田県知事選で、純正橋本派候補がダブルスコアで負けてしまったところを見ると、組織の締め付けは全然地方には届かなくなってきている様子。仮に141票のうち、小泉氏が100票以上取ったりしようものなら、橋本氏が後から国会議員487票を固めて逆転したところで、「一般投票で負けて派閥で勝った総理」の烙印を押されてしまう。当然、参院選は大敗で、超短命政権となるだろう。

○もっともそうなる前に、地方票の結果を見た時点で自民党若手票が地滑り現象を起こすか、プライドの高い橋本氏が本選を辞退をする可能性が出てくる。事前の予想でいえば、当選確率は橋本:小泉:麻生:亀井=9:1:0:0くらいだったけど、現在では7:3:0:0程度になっているのではないだろうか。

○その意味で、予備選の結果がどんな順序で発表されるかがとても重要になる。自民党執行部は「開票結果は23日が望ましい」と通達を出したが、それ以前の公表を予定していた20の道府県連のうち12が通達に従わない方針であるという。今朝の毎日新聞の報道によれば、以下のような順序で結果が明らかになっていくらしい(ただし都道府県は全部で47あるので、全部は分かっていない模様)。

4月21日(土) 兵庫、広島、徳島、福岡
4月22日(日) 北海道、青森、山形、神奈川、石川、和歌山、愛媛、鹿児島
4月23日(月) 25都府県連

○たとえば21日の時点では、広島票は亀井、福岡票は麻生に行くだろう。しかし兵庫と福岡がどう出るかは興味津々。全国の目が注がれることになるでしょう。少しずつ全国各地の票が開いていき、それによって泡沫候補がモメンタムを得て勝ちあがっていく・・・となれば、これはまさしくアメリカ大統領選挙のようなシステムになる。これって、とってもいいんじゃない? 「1県当たり3票」という割り振り、つまり人口配分をまるでしていない制度はマズイような気がするけども。

○それでも、こうやって各都道府県の意向を投票という形で表明していくのはいいシステムだと思う。小選挙区制が入る以前の自民党総裁選は金権選挙あり、話し合いあり、ナントカ裁定だの、面接だの、不透明極まりないことを平気でやっていた。候補者同士がテレビ討論会をやるようになったのは95年からである。どんどん進化を遂げる自民党総裁選だが、2001年からは「地方予備選」という新制度が定着するのではないだろうか。


<4月19日>(木)

○カウンターの回り方の速さが、だんだん薄気味悪く思えてきた今日この頃。政局になると読まれる溜池通信、ということか。先崎、山根の両弟子を筆頭に、いろんな方からのメールをもらっておりますが、返事を出せないでゴメンナサイ。

○ここをご覧になるような方は、かなりの確率で読んでいそうなんだけど、以下に転載しておきます。河野太郎議員の「ごまめの歯ぎしり」の4月18日分。いやしくも国会議員が自分のことを「ごまめ」などと言ってはならんと思うのだけど、今日の分はまさしく「歯ぎしり」である。

自民党総裁選挙。
県連ごとに予備選挙が進む。神奈川は二十二日に直接投票。
九十、四十五、三、三という数字が街を歩く。根拠は、.....特になし。

ところが闇の勢力が、県連の代議員に連日電話をして、あんたは代議員なんだから、党員投票の結果に拘束されることはない、XXと当日は書け。県連幹事長の中にはノイローゼになりかかっている人も。

各県連では、投票に行く三人が、書いた投票用紙を投票箱に入れる前にお互い見せあって、などと決めるところも出てきているが、ところがどっこい闇の勢力は、県連代議員分断作戦という一枚上手をいっていた。北海道の三人を一緒に座らせ、同時に投票させるのではなく、まず県連代表を一緒に座らせ、投票をさせる。次に県連青年局代表を一緒の固まりに座らせ、青年局だけ投票させる。次に女性局代表と、県連の三人がお互いに投票用紙を見せあうことができないようなしきりを考えていた!

恐るべし、闇の勢力。

これに気づいた対抗勢力が選管で問題提起。うーん、カンボジアや東チモールから選挙監視団に来てもらうか。
次なる手は、各候補の得票総数をカウントし、代議員票では差があっても、ほら得票数はそれほど差がない、と強弁するか?

○・・・・そこまでするか? ったく、ひでえ話。

○今日のいい話は、李登輝元総統にビザを発給との知らせ。当欄の4月17日分の思いは、別に官邸にまで届いてなくてもちっとも構わないんだけど、あんな風に感じている日本人がいることを、少しでも台湾の人たちに伝わってくれればと思う。治療目的での訪日とのことですが、本当は仮病だったら私はうれしいな。どうせなら懐かしい場所を訪ねて、日本のテレビにも出て、ついでにゴルフでもやって・・・・とにかく、元気な李登輝さんの姿を見せてもらいたい。

○いちおう言っておこう。森さん、どうもありがとう。中国が何か言ってきたら、「アメリカと日本の両方を敵に回す気か」とでもすごんでやりましょうよ。


<4月20日>(金)

○台湾在住の本誌愛読者からこんな報告をもらいました。Kさん、どうもありがとうございます。

台湾のテレビでは、今、ずっとこのニュースを放映しています。
例えば、僕の見ていたニュース専門局では、21時からのニュースで最初から21時20分まで、この件を流していました。
北京、果ては、岡山からの実況中継つきです。
また、日本の報道機関の報道振りも詳細に伝えており、NHKのニュースも日本語のまましばらく放映し、朝日新聞ほか、新聞各誌の報道内容も報告されていました。

○さもありなん。それくらい画期的な出来事だと思います。ビザ発給を渋る外務省に対しては、いろいろ言いたいことはありますけど、少なくとも李登輝という現代の偉人に対して、最低限の敬意を表して欲しいと思います。訪問先を病院のある岡山県倉敷市に限り、政治的な活動を行わないと事前に誓約することが条件だなんて、あまりにも不当な仕打ちではないでしょうか。

○外務省というのは変な役所で、出世しようと思ったら米国や中国から評判が良くないと駄目なんだそうです。とくにチャイナ・スクールと呼ばれる人たちにとっては、中国政府から「こいつはダメだ、使えない」と思われたら、決定的な罰点になってしまう。そこで中国政府におもねるようなことを繰り返す。日本の国益といった視点はスカッと抜け落ちます。これは中国の外圧がどうのこうのというよりも、ガッツのない日本人の問題なのだと思います。

○今月のForesight誌の6ページに、『溜池通信』先週号のFrom the Editorの駄文が引用されています。「ある総合商社のエコノミストに言わせれば」という但し書きがついている。おいおい、商社エコノミストなどという人種はごく小人数しかいない狭い世界だから、じきに「あれ吉崎さんでしょ」とばれちゃうな。ま、いいんですけどね。当HPの基本方針は、「引用でも盗作でもどうぞご自由に」です。だってインターネットなんですから。


<4月21日>(土)

○歯医者に通っています。10年ぶりのことなので最近の歯医者には感心することしきり。

○興味深く感じているのが、医者が歯を抜こうとしないこと。奥から2本目の歯が虫歯になっていて、自覚症状がまったくないままに歯が欠けてしまった。で、この歯の外側を残し、中を削って神経を抜いて、そこに詰め物を入れる、という面倒なことをやっている。もう40年も使った歯なんだから、このあと何年使うか分からないけど、抜いて惜しいというほどのことはない。私の場合、親知らず歯がきちんとはえているので、歯の本数が足りないということもない。それでも医者が「今後のことも考えて、そうすることをお勧めします」というんだもの。

○何でも年を取ると歯茎が弱るから、なるべく歯を残しておいた方がいいのだそうだ。考えてみれば、医者はその方が治療が長引くから好都合なんですね。でもまあ、せっかくだから大事に残しておこうか、ということで毎度の苦痛に耐えています。治療費もそんなに高くない。歯科と同じビルに耳鼻科が入っていて、そこで診てもらう花粉症の治療といい勝負である。

○それにしても歯の治療はイヤなもんです。逃げ場のない診療台の上で、口を開けたままでろくでもないことを考えます。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』というコメディ映画では、始末に負えないサディストが趣味と実益を兼ねて歯医者になる、というギャグが登場する。『マラソンマン』というミステリー映画では、悪役が元ナチスの歯医者で、主人公の歯を抜いて拷問にかける、という設定があった。世間が歯医者を見る眼とはおおむねそんなもんでしょう。

○三国志の関羽は、毒矢の治療をするために腕を切り開き、骨に染み込んだ毒を削り落とす、という治療を医者にさせながら、悠々と囲碁を打っていた、というエピソードが出てくる。これが虫歯の治療だったらどうなったでしょう。どんな豪傑も、はだしで逃げ出すのが歯医者というもの。あーやだやだ。


<4月22日>(日)

○小泉優勢。地方票の動きで弾みがつき、止まらなくなってきました。土曜夜時点で小生あてに届いた政治記者からのメール。

先ほど橋本派幹部が懇談で、「24日の投票は一回目も二回目も負ける」と言った上で、二回目つまり決戦投票になった場合橋本は辞退する可能性を示唆しました。やっぱり本日零勝8敗は相当ショックのようです。

○そうなったら大変よ。橋本派は無事には済まないね。野中さんという政治家は、敵がはっきりしているときには無類の強さを発揮するけど、今回のように分けのわからない事態に対しては手の打ちようがないらしい。1972年の田中内閣誕生以来、ついに彼らが権力の座から落ちるときがやってくる。

○小泉首相誕生の場合、ひとつだけ気になっていたことがあった。ここをご覧ください。小泉さんの所見の中でこう書いてある。

(3)21世紀の外交・安全保障 :日米友好関係を外交・安全保障の基軸としつつ、近隣諸国との友好関係と関係改善を図る

○米国大使館は慌てたと思う。「日米友好」というのは、左派が好む表現である。小泉さんはひょっとして日米同盟に否定的なのか、と読めちゃうのである。なにしろ小泉氏は外交に関してほとんど発言したことがない。アメリカはその辺を注視している。橋本さんは「日米同盟関係を揺ぎないものにする」、亀井さんは「日米同盟を基軸として、真に実効ある安全保障体制を構築」と書いている。日本国首相になる人は、日米「同盟」とハッキリ言ってもらわないと困るのだ。

○今朝のNHKを見ていたら、集団的自衛権の問題で小泉氏に質問が飛んだ。非常にまっとうな答えだった。事前に山崎拓あたりが知恵を授けたのかもしれない。が、とにかく米国大使館はホッとしただろう。私も安心したな。テレビを見るのは止めて、天気もいいことだし、そのまま遊びに出かけました。

○実をいえば経済政策なんて、外交・安保政策に比べればたいした問題ではないのである。だって不況で滅んだ国はないんだから。「日米同盟は大切」という言葉は、「ボールは低めに」とか「帰りの電車賃は残しておく」と同じように重要な教えである。それさえ押さえてくれれば、小泉首相の誕生は大いに結構。変人、ガンバレ!


<4月23日>(月)

○小泉勝勢。「変人」首相の誕生は秒読み段階だ。世間は全般的に好感しているようだが、今日、あちこちで聞いてみたところでは困っている人もいる。

○官僚某氏。「思いきって新しいことに挑戦するには今がチャンスだ。そのためのアイデアもある。しかしどうやったら小泉氏に話をつけられるかが分からない。省内のあらゆるルートをつかっても、本人にたどりつけない。まったく、誰と連絡を取ればいいんだ?」――さすがは変人。当選10回目のベテラン議員だというのに、側近もブレーンもいない。事務方は切歯扼腕。

○民主党議員某氏。「構造改革を目指す救国内閣ができたら、俺たちは何と言って批判すればいいんだ。このままじゃ参議院選挙もジリ貧だ。それ以上に、当選1〜2回の議員を政務官当たりで一本釣りされた日には、めぼしい若手連中がみんな小泉政権に取られてしまうかも」――党のお偉方が鳩首会談しても、いい知恵は出ないみたいだよ。困ったね。

○金融関係某氏。「株式市場は小泉政権を好感して、午前中は1万4000円まで上げたけど、政策の不透明感と短期的デフレ効果に対する懸念も出て、その後はもみ合い状態。結局、明日の投票の勝ち方を見極めて、組閣が判明しないと判断できないんですよね。せめて財務大臣くらい分かりませんか?」――それが分かりゃあ苦労しませんて。ご参考までに、加藤紘一氏は「党職停止3ヶ月間」の謹慎中の身なので、ちょっと苦しいらしいですよ。

○マスコミ某氏。「小泉政権は支持率5割はいくんじゃないかな。ちょっと批判はしにくいね。それにしても閣僚人事は読めないわ、亀井さんの出方もわからんわ、まったく明日の朝刊には何と書いたらいいのかね。え、中曽根さんがつかまらない?今夜中にコメント取れないのかな」――経世会だけ見てれば記事が書けた頃は良かったね。

○いやはや、皆さん政治のことに詳しい、いわばプロの方々なのですが、揃ってお手上げ状態なんですね。過去30年、この国の政治を仕切ってきたのは、田中派を源流とする経世会の人脈だった。自民党が下野していた時期も含めて、政治の舞台表と舞台裏を動かしていたのは、いつも同じ顔ぶれだった。政治を知るということは、経世会を知るということだった。それが地方票の地滑り的な動きによって崩れた。おかげでみんなが戸惑っている。

○おそらく今夜、いちばんうまい酒を飲んでいるのは官邸での最後の日々を楽しんでいるあの人でしょう。党執行部を押し切って、「地方は1県3票」を呑ませたのは森首相でした。まさかここまでうまく行くとは思っていなかったでしょうけれどもね。角福戦争以来30年。いつも後手に回ってきた清和会だが、今度の政局は完勝だった。福田赳夫の無念を、その秘書として政界へのデビューを果たした小泉純一郎が果たす。感慨深いものがあるかもしれません。

○とはいえ相手はしたたかですぞ。橋本派はポストで干されるでしょうけど、当面は低姿勢で来るでしょう。だって小泉人気で参議院選が勝てるとすれば、自民党比例区の主要な候補者はほとんどが橋本派。終わってみれば「ラッキー、またまた焼け太り」てなことにもなりかねない。その前に分裂しちゃいますかね。はっきりいって、かんべえさんもお手上げです。ハイ。


<4月24日>(火)

○1回目の投票で小泉総裁が誕生。明日の党三役、明後日の閣僚人事が楽しみ。いっちょ予想しておこう。山崎拓幹事長、高村総務会長、平沼政調会長。財務大臣は柳沢金融担当相の昇格。亀井さんははずされると見た。中曽根さんにおだてられて総裁選に出てみたものの、予備選では麻生さんと同じくらいの得票率にとどまった。今日はとてもじゃないが勝負できない、というのがホンネだったのではないか。

○野中前幹事長、古賀幹事長、鈴木宗男総務局長といった顔ぶれも当分は謹慎状態でしょうね。ここ数年、政治の舞台の中心で目立ちまくっていた「悪役タイプ」が軒並みにやられている。もっとも癖の強いタイプが退潮することは、人材難の自民党にとっていいことかどうか。代わりに麻生太郎さんや田中真紀子さんが役どころを得そうな感じ。ただし官房長官はむしろ野田聖子の方がいいと思うぞ。加藤紘一の復権は、あるかどうかは半々といったところか。

○などと考えると人事は面白い。「派閥均衡や順送りでなく、思いきった布陣を」てなことが盛んに言われている。たしかに小泉さんは「誰の世話にもならないような」圧勝で総裁の座をつかんだ。その気になれば何でもできる立場。とはいえ、あんまり思いきったことをやると、党内の結束が難しくなる。理想と現実の間の落としどころを探すところが、世にいう人事の要諦というもんでしょう。

○思えば人事こそ権力の源泉。明日は「変人総裁」の力量がさっそく計られることになります。


<4月25日>(水)

○4人の候補者のHPがその後どうなったか、気になったのでフォローしてみました。まずは勝者から。

小泉純一郎 http://henkaku.jah.ne.jp/index.html

○小泉さんを応援するページ「変革の人」は、なんと約32万8000件のアクセスを得た。勝手連的に小泉さんを応援する人たちが作っているものの、ご本人のメッセージがのっている公認サイト。特に「小泉純一郎発言集」(http://henkaku.jah.ne.jp/hatugen/index.html)のページが便利である。こうしてみると、印象的な発言が多い人なのだ。

○フロントページには、「遂に民意が成就しました」の文字。総裁選勝利を心から喜んでいるようだが、同時に「先の見えない日本の現状に、自民党党員の皆さんも気がついたのでしょう」というあたりに、このHPを作っている人々の無党派らしい心情が覗く。文面の最後は、「私たちは早急な改革を望んでいます。小泉さんの仕事を楽しみにしています」とある。つまり小泉支持は暫定的なものであって、小泉新政権が期待外れになった場合、このHPを支えた人々がどういう反応を示すかは十分に予想できる。

○次に敗者の3人を見てみよう。

橋本龍太郎 http://www2.odn.ne.jp/%7Ecap47570/hasimoto/top.html

○フロントページに「温かいご支援、本当に有難うございました!」と書いてある。「今日の一言」にも敗戦のコメントが残されていて、いかにも橋本氏らしい矜持を感じさせる。アクセス件数は約18万2000件だが、選挙戦中に10万件のアクセスがあったという。

麻生太郎
http://www.chikuhou.or.jp/aso-taro/index2.htm

○変化なし。もともと更新頻度が低いHPとはいえ、早く何とかした方がいいと思うぞ。それとも「祝・政調会長就任」と書くのかな。それでも4月13日に見たときは2万件台だったアクセス件数が、選挙戦中に約7万4000件となっている。当『溜池通信』も抜かれてしまったなあ。

亀井静香
http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~shisui/index.html

○変化なし。そもそも「うちだけHPがないじゃないか!」とばかりに、選挙中に慌てて作ったようなHP。それも「(ドーンと力強く、)亀井がやります、亀井だからやれます」とタイトルだけは大きく出ていて、中身が少ない。カウンターがないので、アクセス件数も不明。悪いことは言わないから、早いとこ店じまいした方がいいですぞ。

○ついでに、2ちゃんねるの「自民党総裁選統一スレッド」が新しくなっているので、そちらも記しておこう。

自民党総裁選統一スレッド(新版)
http://saki.2ch.net/test/read.cgi?bbs=news&key=988065434&ls=100

○ここを読んでいたら、すごい替え歌が出ていた。下記に転載しておきます。いや、これは本当によくできているわ。

思いこんだ〜ら 利権の道を
行くが〜 亀井の〜 土建業
真っ赤に燃える 債務の数字
日本の景気が戻るまで
資金を流せ ケチケチするな
ま〜け ま〜け し〜ず〜か〜 金をま〜け〜



<4月26日>(木)

○「塩川ショック」が全国を走る。ニュースが流れただけで為替は50銭円安へ。金融市場では、「まだ何も発言していないのに、名前を聞いただけで相場が動いた。とんでもない金融マフィアの誕生だ」という声が。

○「財務大臣に塩川正十郎氏」というニュースは、財務省記者クラブ、通称「財研」でもどよめきを呼んだそうだ。「公約通りだよな」「うん、たしかに2歳、若返った」(宮沢喜一81歳マイナス塩川正十郎79歳、イコール2歳)

○国会内の若手議員の間では、「塩崎さんが財務大臣だそうだ。小泉さんも思いきったことをやるね」「いや、それはおめでたい」という噂が流れ、後から「塩」だけがあっている人違いであると判明。塩川と塩崎ではえらい違いだよ。

○などとヤケクソのような声が飛び交った今日一日。やっぱり小泉政権は分けがわからん。ひょんなことから、今夜は永田町方面の方からいろんな話を聞くことに。でも書けない話が多過ぎ。困ったもんだ。今週の溜池通信はどうすりゃいいんだろう?


<4月27日>(金)

○今週は頑張りました。いろんな人に会ったし、電話もこまめにかけたし、めずらしや外出先で携帯が鳴ったりしました。ちなみに私は携帯はいつも切ってるし、番号もほとんど教えていないのです。その結果、政局に飽きてきました。だって疲れるんだもの。情勢は刻々変わるし、夜は原稿書き直しだし、寝てられないし。面白いネタもあるけど、本誌や不規則発言では書けないことばかり。ジャーナリストでもないのに、いったい何をやってるんでしょう?

○気分を変えて、連休は天皇賞のことでも考えて自堕落に過ごすとしましょう。アルバイト原稿もたくさん抱えているんですけどね。吉崎に仕事頼んでいる人は気をつけた方がいいですよ。さあ連休連休。


<4月28日>(土)

○明日は天皇賞。今日の時点でテイエムオペラオーが単勝2.3倍とは、ワシに言わせれば日本国債のようなバブルである。去年の勢いはもう終わっとると見るぞ。和田騎手も「馬に勝たせてもらっている」という謙虚さを失っておる。ゆえにテイエムは連にからまない、と読む。さすれば宿敵ナリタトップロードの出番。あるいは大阪杯でテイエムに勝ったエアシャカール。距離を考えれば後者のような気がするが、ナリタも阪神大賞典を勝っておるしのう。あるいはセイウンスカイなんかも、懐かしくてちょっとそそられるわけだ。などと言いつつ、実は明日は出かける用事があるので、馬券を買う予定はないのである。

○今週は懸案が2つ片付いた。歯の治療と時計の修理。歯のことはもう書いたので、時計について書いてみる。現在使っているのは生まれてこの方3個目の時計である。使用歴はかれこれ10年。セイコーの地味目の懐中時計だが、鎖の留め金の部分がとれてしまったので、部品を取り寄せてもらった。修理中はしょうがないから、携帯電話の時刻を見たりしていた。ま、時計なんて持ってなくても、さほど痛痒は感じないのである。

○初代の時計は、中学生のときに買ってもらった普通の腕時計だった。これはさしたるエピソードもなく、浪人中に壊れてしまった。そこで2代目になったのがスイス製の懐中時計。Edoxとかいう聞いたことのないメーカーで、手巻きだったのでしょっちゅう止まった。ただし見た目はいかにも正統派の銀時計という風情で、まるで学業優秀のご褒美といった感じだった。ひとから「お、銀時計ですか」などといわれると、つい調子に乗って「ええ、私は大学を2番で出まして」などと答えていたが、こういう駄法螺を真に受ける人間が何人かいたくらい、ちゃんとした時計だった。(厳重な注:上はわれながら犯罪的な事実の歪曲である)

○30歳くらいになって、この銀時計がどこかにいってしまった。その代わりになったのが現在の3代目。クォーツだから狂わないのがありがたい。ただししょっちゅう落とすものだから、鎖がはずれやすくなっていた。なにしろトイレでズボンを下ろすと同時に、床にカチャ、なんてことはめずらしくないのである。それでも留め金を新しくしたから、これでまたしばらくは大丈夫だと思う。全体にモノを大事にしない人間なのだが、なぜかモノ持ちはいいのである。

○気がつけば10代、20代、30代でそれぞれ時計を変えてきた。去年の秋、40歳になったのを機に、新しい時計を買おうかと考えた。そこで銀座の和光に行ってみた。なにしろ10年に1度の買い物であるから、高くてもいいやと思ったのである。ところが、懐中時計というのは種類が少ない。しかも高いものは変に芸術的だったり、蓋がついていたりして不便なのだ。シンプルで、狂わなくて、文字盤が読みやすくて、ちょっと高級感のある時計いいんだけど、結局、そういうものは見当たらなかった。

○別に時計会社の人に文句を言うつもりはないのである。10年に1個しか買わないような客は、マーケティングの対象にしちゃいけない。何というか、縁がなかったのだと思う。というわけで、30代の時計をそのまま使うことにした。それを修理に出し、戻ってきてちょっと安心しているところ。修理代は3300円でした。


<4月29日>(日)

○天皇賞は完敗。テイエムにまたやられちゃったよ。ここまで来ると、馬券を買ってなくても悔しい。ナリタトップロードはまあいい。メイショウドトウ、お前はなんべん2着になれば気が済むのだ。と、不機嫌なワタシ。

○「政局飽きた現象」により、日曜朝の政治番組は全部パス。とはいえ、帰って来てから、ちょっと気になるこのページを覗いてみた。ああ、やっぱり!という感じ。詳しい数字は明日の朝刊で発表されるでしょうが、フジテレビの首都圏500人を対象とする電話調査では、「小泉政権支持が8割、自民党支持が3割」という図式。小泉支持率は「5割は固い」と思ってましたが、8割とは恐れ入りました。やはり真紀子現象による上乗せ効果が大きいのでしょう。

○ところで「小泉支持8割―自民支持3割=5割」が無党派層の正体だ。菅さんのHPには、「小泉さんをいじめないで下さい」というメールが殺到して困っているらしい。小泉さん自身がメーデーの会合に行って、「私の内閣は政権交代があったのと同じ」というだけのことがある。もっともこの5割の気分は微妙で、首相公選制なら堂々と「小泉」と書くけども、国勢選挙に行って自民党の候補者に投票する気にはならない、というから難しい。「衆参ダブル選挙で自民党が単独過半数復活!」というほど世間は甘くない。

○データを見ていると「8―4―3」という感じですね。小泉支持が8割、自公保連立支持が4割、自民党支持が3割。このゆがみを是正するいちばんいい方法は、自民党が割れることであろう。小泉支持率が急低下して元の木阿弥、という可能性もあるわけだが、あんまりそうなってほしくはないですな。


<4月30日>(月)

○政局報道にかまけて、李登輝さんの訪日はあまり大きなニュースになりませんでした。それでも台湾での反響が大きかったのは言うまでもありません。台湾の愛読者からこういう記事があることを教わりました。台湾の英字新聞のサイトに載ったコラムです。日本側の歓迎ぶりを素直に驚くとともに、世論の高まりと人道的配慮が官僚的な対応の壁を打ち崩したことを評価している。とくに"Democracy is Taiwan's top trump card for dealing with Japanese diplomacy."というくだりは面白いと思いました。

○今回、日本政府が李登輝さんにビザを発行したのは、「人道上の措置」であり、民意がそれを支持していたから。こんな立派な理由はないので、中国政府がどんな反論をしてこようが、「世論がこうだから」と言えば済む話である。変に相手におもねる必要はない。今年の秋くらいに再検査で来日という話になったら、「民意と人道」の原則に立ちかえって判断すればいい。「教科書もセーフガードもある」とか、「田中新外相は親中派かもしれない」といったファクターとは別に考えるべきだと思います。

○閣僚人事が決まった日、知り合いのある官僚が、「良かった、うちは真紀子さんじゃなくて」と喜んでました。それはそれとして、田中真紀子さんの外相という人事は思ったより悪くないかもしれません。なにより悪しき伝統を打ち切るのにぴったりの人選です。外務省はどう見ても行き詰まっている。これを機に刷新すべきことはたくさんあるんじゃないか。機密費の問題、仕切り直しが必至の対露交渉、それにさる議員の無体な要求を断れないような変な雰囲気もね。

○政治の継続性というのは大事なことですが、途中で継続を断絶する効用というのもたしかにある。田中真紀子さんを大臣にすることで、外務省が生まれ変わるとしたらまことに結構。「実質的な政権交代」というだけのことはある。意外とこのへんが、真っ先に表れる新政権のご利益ではないだろうか。





編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki