<1月1日>(金)
〇明けましておめでとうございます。今年はいいニュースと悪いニュースがありますね。グッドニュースは、災厄の年である2020年がとうとう終わったということであります。バッドニュースは、2021年はそれよりも悪いかもしれないということであります。――これ、今年の講演会のつかみジョークにしたらどうだろう。笑いが取れればいいけれども、そこで一気に雰囲気が悪くなってしまうかもしれないなあ・・・・。
〇去年、還暦を機に「何か新しいことを始めてみよう」と思い立ち、かんべえさん(@tameikekanbei)という名前でツィッターの発信を始めた。今朝、ふと思いついて「The
Economist誌が日本のCovid-19対策を褒めている」ことをツィートしたら、ずいぶんたくさんリツィートや「いいね」を頂戴した。なるほど、これがバズるということか。スマホがしょっちゅう震えるので、今日は電池の減りが早い気がする。
〇先日、「最近のThe Economist誌の論説が情緒的になった」と書いたばかりだけれども、他国の状況をレポートするような記事はきわめて冷静で客観的だと思う。10月12日時点の記事なのでちょっと古いけど、大よそ以下のようなことを言っています。
*2月にダイヤモンド・プリンセス号の事件があったとき、日本はいかにも危うい感じだったが、100万人当たりのCovid-19による死亡者は18人で、G7ではダントツに少ない(2位のドイツは239人)。驚くべきことに、日本は厳格な封鎖や大量の検査なしにこれを実現している。「最初から封じ込めは目指していません」とウイルス学者の押谷氏は言う。
*政府はその代わりに、3月から「三密」(3c=closed
spaces, crowded places and close-contact settings)の防止を目指した。このフレーズは広がり、「2020年の流行語大賞」になった。当局は厳密な封鎖と自由な開放の両極端を行き来するのではなく、対象を絞った制限を実施した。
*世界最速のコンピュータ「富嶽」を使って計算したところ、混雑した地下鉄でも窓が開いていてマスクをしていればリスクはほとんどない。会食の際に互いに斜めに座ることで、感染リスクを75%減らすことができる。映画館内でモノを食べても安全である。逆に4人以上の飲食や、密集した場所でのマスクなしの会話、寮など狭い場所での共同生活、更衣室や休憩室の利用は危険である。
*こうした警告は法的拘束力を持たなかったが、「均質過ぎる社会」と言われる日本で人々は家に留まり、政府の言うことをよく聞いた。アメリカ人はマスクが人権侵害か否かを論じているけれども、日本ではユニクロの新作マスクがずらりと並んでいる。
*日本は高齢者が多いという脆弱性があるが、肥満は成人の4.2%に過ぎず、これはOECDの中で最も低い数値である。国民皆保険制を有する優れた医療システムがあり、1930年代に始まる公衆衛生ネットワークもある(訳注:保健所のこと)。
*ここ数週間でウイルスは急拡大し、政府は最悪の地域に自衛隊の医療部隊を派遣しなければならなかった。それと同時に、国内の観光や外食産業への補助策を廃止するのではなく、一時停止にとどめている。北半球はどこでも寒さが人々を「三密」空間に押し込んでいるが、それでも日本の感染者数は劇的に低いベースで増えている。
〇日本の「保健所」というところでは、食品衛生の摘発や医療機関への立ち入り調査、理髪店やクリーニング屋さんの監督、母子手帳の交付にペットの殺処分までやっているんですよ、などと余計なことを教えてあげたくなる。そのせいでPCR検査が増えない、というのはいかがなものかとは思うけど、他国から見れば信じられないほどうまく行っている。これも一種のファクトフルネスということで。
<1月2日>(土)
〇週明けのアメリカ政治について少しだけ書いておこう。1月5日(火)のジョージア州決選投票が勝負だと思っていたら、トランプ大統領が狙っているのは1月6日(水)の方であるらしい。
〇1月3日(日)になると、昨年の選挙で新たに選ばれた議員さんたちがワシントンDCに集結して、第117議会が発足する。そして1月6日には、昨年12月14日に行われた選挙人の投票結果を確認する。ここで1月20日に誕生する大統領が最終決定するわけだが、少なからぬ共和党議員が「ちょっと待ったああ!」と異議申し立てをするらしい。
〇真っ赤っかのレッドステーツの下院議員さんとしては、とりあえずそうしておいた方が無難である。そうでないと、2022年の共和党予備選挙において「我こそは真正共和党員(トランプ支持者)なりぃ!」という挑戦者が現れて、恐ろしい思いをするかもしれない。「俺もやっぱりトランプさんが勝ってたと思うんだよね」というポーズをとることは、彼らにとって安全策となる。
〇逆に上院はどうかというと、もちろん「異議あり!」という共和党議員は出るだろうが、ミッチ・マコーネル院内総務は何事もなかったかのように押し切る構えである。面白いね。とりあえず上院は、トランプ大統領が拒否した国防授権法案をサラッとオーバーライドしました。この戦い、まるで平清盛と後白河法皇みたいであります。
〇2021年のワシントンDCにおいて、最重要人物はジョー・バイデン次期大統領ということになりますが、ナンバーツーは間違いなくミッチ・マコーネルでありますな。そしてこの二人は、上院における長年の付き合いがある。麗しい友情とも言えるし、腐れ縁とも言える。当面の米国政治を動かすのは、この2人の後期高齢者ということになるのだろう。
〇1月5日のジョージア州決選投票については、とりあえず1勝1敗と予測しておくのが無難だろう。どちらかの2勝ゼロ敗となると面白いけれども、時代は保革伯仲、白でも黒でもないグレーの世の中になりそうだ。お互いに極端なことができない状態で、手探り状態でコロナ対策に邁進する。そんな2021年が始まるのではないだろうか。
<1月3日>(日)
〇静かなお正月、ついつい2日間にわたって、これほどしつこく見たことはかつてないほど「箱根駅伝」を見てしまう。いやあ、見所満載でしたな。駒澤大学、総合優勝おめでとうございます。最終10区での逆転劇は歴史に残るでしょう。創価大学もあっぱれでした。2位で悔しいと思えるのは幸福なことであります。青山学院大学、復路は見事に本領を発揮しましたね。原監督はやっぱりたいしたものです。
〇見ていて気になったのが、沿道には結構、人が出ていたこと。そりゃあそうですわな。ウチも沿道に近かったら、きっと見に行ったことでしょう。いくら「自粛」を求めても、人の動きは止められません。皆さんマスクをしていて、声を出さずに静かに拍手を送っていたのが印象的でした。あれを責めちゃあいけませんわな。
〇だったら昨日、1都3県の知事が政府に「緊急事態宣言」の発動を求めたのは何なのでしょう。緊急事態宣言を出したからといって、いきなり箱根駅伝を中止させられるものではありません(スポンサーから訴訟を起こされて、膨大な賠償金を取られるのが落ちでしょう)。彼らとしては、とりあえず下駄を政府に預けて、「私はもういっぱいいっぱいですぅ〜」というアピールをしたかったのだと思います。
〇ここで政府はどうすべきか。最善手は「聞こえなかった」ことにして、1月18日に始まる通常国会で、新型インフルエンザ特措法をスパっと改正することでしょう。現状、既に屋上屋を重ねるようなアクロバットな法解釈を重ねておりますので、その前に新たな緊急事態宣言を出してしまうと、ややこしいことになってしまいます。ここは仕切り直しをして、もう少し法律に強制力を持たせたいところです。
〇もっともそれは上策過ぎて、今の日本政治の能力に鑑みると現実的とは言えません。「上策・中策・下策」と3つあるときは、まずは中策を確かめよ、とは故・岡崎久彦大使がよく言っておられたこと。大事なことは下策を避けることでありまして、人は得てして窮地に陥ると「それだけはやっちゃダメ!」ということをやってしまうのです。
〇今回のシチュエーションにおける下策は、ホイホイと緊急事態宣言を出してしまうことでありましょう。そのカードを切ったからと言って、所詮は強制力はないのですから、現状と大差があるわけではない。そして一連の政府対応の失敗を認めることになってしまう。だったら「痛くないふり」をする方がはるかにマシです。
〇しかもそれは小池都知事の思うつぼ。昨日のパフォーマンスは、1月3日の朝刊の紙面を取りに行った、と読まなければなりません。もはや東京五輪を開けるかどうか、なんてことは彼女の脳裏にはないのでしょう。菅内閣の支持率は低下しているが、野党への期待感はもとより高まらない。となれば自分に出番があるかもしれない。こういう当今には希な政局魂は、夙に見習うべしであります。
〇もっとも「緑のタヌキ」が何度も人をだませるとは思われず、小池待望論が澎湃として巻き上がるような情勢でもございますまい。となれば政府が取るべき中策とは、「専門家の意見をよく聞いて決めます」と逃げを打つことになります。どうやら事態はその方向に向かっている様子。くれぐれも慌てふためいてはなりませぬ。
<1月4日>(月)
〇昨日、あんなことを書いたらあ〜あ、菅首相は1都3県に緊急事態宣言を検討するとのこと。その上で来たる通常国会において、特措法の早期改正するとのこと。二重三重の意味で「ドロナワ」でありますが、そんなことでいいのでしょうか? まあ、今さら取り繕っても仕方がないのでありませぬが。
〇さっそく今日のうちに講演会中止の連絡が来てしまった。このお正月に作った資料を、今朝送ったばかりだというのに! 鮨屋と同じで、このネタは来週になったらもう使えない。だって状況が変わってしまうから。ああ、この間の努力がもったいない。哀しすぎるぞ。
〇余計なことだが、講演会を依頼してくるときに「資料は1か月前に送ってください」とか言い出すクライアントがたまに居る。あのなあ、戦国武将の業績を語るのならともかく、エコノミストが経済予測とか国際情勢を語るときに、1か月前はないだろう。などと文句を言うと、「いや、印刷の都合がどうこう・・・」などと変な言い訳をされることがある。これはもう、そんな仕事を引き受けたのが間違いである。
〇まあ、コロナに対して文句を言っても仕方がない。せめて原稿の書き溜めでもやっておこう。これも事態が変わっても使えるネタ、というとかなり難しくなるのだが、この仕事にはつきものの事態ではある。などと終日、在宅ワークである。この道はいつか来た道。
〇ところで昨年末に収録したナベさんとの対談が、今日のウェブフォーサイトに掲載されていた。ご紹介まで。
●「アフター・トランプ」か「ウィズ・トランプ」か
〇おっととと、ユーラシアグループの「Top
Risks in 2021」が発表になっていた。油断もすきもない。取り急ぎ以下ご紹介まで。
1 46* (第46代バイデン大統領)
2 Long Covid (長引くCovid)
3 Climate: net zero meets G-Zero (排出ゼロも世界はGゼロ)
4 US-China tensions broaden (米中関係の緊張広がる)
5 Global data reckoning (グローバルデータが止まる)
6 Cyber tipping point (サイバーの転換点)
7 (Out in the) cold Turkey (冷え込むトルコ)
8 Middle East: low oil takes a toll
(中東:低い油価は犠牲を伴う)
9 Europe after Merkel(メルケルなき後の欧州)
10 Latin America disappoints (ラ米の失望)
リスクもどき:トランプのお友達は窮地に? 米テック企業への反発、米イラン関係
<1月5日>(火)
〇本日はジョージア州上院選挙の決選投票。@民主党の2勝ゼロ敗、A民主党1勝、共和党1勝の痛み分け、B共和党の2勝ゼロ敗、という3通りの可能性があります。ま、即日結果が出るという感じではないので、答えが出るまで2〜3日はかかるかもしれません。
〇世間的には、@の場合はどうなるんだ!?というのが気になるところでしょう。上院の議席数が50対50になると、議長役を務める副大統領の1票がモノを言うので、民主党が優位になる、というところまではご存じかと思います。とはいえ、その場合のMajority
Leaderはどうやって決めるのか? 委員長ポストは分け合うのか? 各委員会のスタッフはどうやって決めるんだ? など無限に疑問がわいてきます。
〇ホントに50対50になったことって過去にあるのか?という疑問が生じるかと思うのですが、1881年にもあったし、近年では2001年のブッシュ・ジュニア政権がそうだったんですね。このときのことについて、何と20年前の溜池通信が取り上げております。題して「ジェフォーズ上院議員の議」。いやあ、懐かしい。あのときは共和党がトレント・ロット、民主党がトム・ダッシュルが院内総務でした。ますます懐かしい。
〇当時はこんなことになりました。
上院内の委員会運営は従来通り共和党が独占する。つまり委員長ポストはすべて共和党が取る。ただしすべての委員会で配属議員数を共和、民主で半数ずつとする。スタッフ採用予算も折半し、採用人数も同数。そしてここが重要なところだが、「議員の辞任や死亡により、50
対50の均衡が崩れたら、自動的に既存の上院規則を適用する」というものである。
一見、民主党が損をするように見えるが、共和党の現職上院議員には病状が悪化しているヘルムズ議員、98歳という高齢のサーモンド議員がいる。この2人が死亡ないし引退すると、どちらの選挙区も州知事は民主党なので、代役になる上院議員は民主党になる。その時点で与野党の均衡は逆転する。民主党としては「先憂後楽」を狙った妥協策だった。
案の定、2月2日にサーモンド議員は「過労のため」入院する。このときは4日に退院して事無きを得たが、「100歳まで議員を続ける」という同議員の元気がいつまで続くかは神のみぞ知る。共和党にとっては、上院で時限爆弾を抱えているようなものである。
ところが両人が無事であるにもかかわらず、4月24日、ジェフォーズ議員が共和党からの離脱を宣言した。これにより議会内勢力は民主50、共和49、独立1となった。民主党には思ったより早い「棚からぼた餅」となった。これで上院指導者(Majority
Leader)の座は、共和党のロット上院議員から民主党のダッシュル上院議員に移る。そして委員長職は全部民主党が取る。与野党は逆転し、1994
年以来続いてきた共和党による上院支配が終了した。
〇つまりですなあ、50対50なんていう異常な状態は、長くは続けられないんですよ。2001年もわずか4カ月で終わってしまいました。議員の死亡、辞職、離党などいろんなケースがあるので、今回、仮に50対50になるにしても、その状態が中間選挙まで続く、とは考えにくいです。共和党サイドからすれば、ウェストヴァージニア州のジョー・マンチン上院議員あたりが狙い目になりますな。民主党側からは、ミット・ロムニーやスーザン・コリンズの離党を働きかけるでしょう。
〇マーケット的には「50対50になるとドル安」みたいな読み筋が出てくるところでしょう。しかしアメリカ政治オタク的な見地から行くと、まあ、こんな不自然なことは長くは続かんよ、てなことになるかと存じます。はい。
〇てなことで、明日夜は日経CNBC「夜エクスプレス」に出没いたします。うむ、久しぶりだなあ。
<1月6日>(水)
〇今日は1日に何度もこのページやこのページを見て確認してましたが、ジョージア州の上院決選投票は2つともしびれるような接戦でした。見るたびに「2勝ゼロ敗」「1勝1敗」「ゼロ勝2敗」と移り変わり、最終的にはどちらも1%以内の差でありますから。
〇特別選挙の方は、どうやら民主党のラファエル・ウォーノックが勝ち。222万7296票対217万3866票と約5万票差。でも現職のケリー・ロフラーさんは負けを認めない。何しろトランプさんの負けも認めていないくらいですから、そりゃ当然ですな。
定例の上院選は決着していないが、98%開票時点で挑戦者のジョン・オソフが220万8717票、現職のデイビッド・パデューが219万2347票とわずかに1万6370票差。「どこかで1万7000票ほど見つけてこい!」とトランプさんが言い出しそうな状況です。
〇パデュー陣営では最終盤で選挙スタッフがコロナに罹患して、候補者自身が自主隔離となって姿を見せられなかった。それがなければどうなっていたことか。選挙戦はつくづくわからないものですな。トランプさんが現地に乗り込んだ効果も、どうやらマイナスだったという評価になるのではないか。
〇そんな中で本日、1月6日は第117議会が選挙結果を確認する日であります。上下両院の議長役を務めるマイク・ペンス副大統領としては、ここは粛々とバイデン氏の当選を認めなければなりません。トランプさんは「裏切り者め!」と怒るかもしれませんが、副大統領が従うべきは大統領ではなく、合衆国憲法に対してであるべきです。20年前のことを思い出せば、あのときはアル・ゴア副大統領が議長役で、ジョージ・W・ブッシュ知事の当選を認めたのでありますから。
〇てなことで、「疑似・トリプルブルー」になりそうな雲行きですが、だからといってバイデン政権の前途が明るいとは思われない。今日はアメリカの長期金利が久々に1%台に乗せました。財政赤字の拡大を予測しているのでしょうね。にもかかわらずドルは下落。つまり「悪いドル安」が進んでいる。
〇株式市場だけは理由を探しては上げ続ける感じですが、債券と為替市場は注する必要がありそうです。
<1月7日>(木)
〇今日は日本が緊急事態宣言、アメリカは首都が非常事態。なんというか、アメリカの「一番長い日」でありましたね。まさかキャピタル・ヒルに暴徒が突入するという「絵」を見ることがあろうとは。
〇しかもそれは現職大統領の扇動によるものであった。アメリカの民主主義の歴史における汚点と言っていいでしょう。今日の混乱が、一連の「トランプ劇場」のフィナーレになってくれるといいのでありますが。
〇明日はモーサテに出動いたします。今年最初の溜池通信も出さねばなりませぬ。さて、何と書いたものでしょうか。
<1月8日>(金)
〇緊急事態宣言が出た割には、緊張感の薄い一日であったような気がします。週明けはどんな感じになるのでしょうか。
〇今朝はモーサテへ。パックンと掛け合い。昨日のワシントンの出来事について、もうちょっと聞いてみたかったかな。
〇朝の仕事が終わってから、いつものご褒美は吉野家で牛すき鍋膳。今日は肉ダブルで。ああ、なんて幸せ。まるで井之頭五郎さんの気分。彼はチェーン店には入らないけれどもね。
〇帰りに東スポを買い込む。三連休は「おうちで競馬」。これもまあ、得意中の得意科目である。呑気なように見えて、自分なりの緊急事態対応をしているつもりである。
<1月9日>(土)
〇本日アップされた東洋経済オンラインの投稿はこちら→「アフター・コロナ」は意外と明るい時代になる
〇アクセスランキングの上位に来ているのは、たぶん編集F氏が選んだ『華麗なるギャッビー』の写真のせいじゃないのかと思います。このロバート・レッドフォード、カッコ良過ぎるんです。これではミア・ファーローは、彼の元に戻ってきてしまうのではないか。
〇昨日の「モーサテ」の最後の部分で、ちょこっとこの話のサワリ部分を話したのでありますが、隣にいたパックンがすぐに反応してくれて、「"Roaring
twenties"は日本語で何ていうんですか?」と尋ねられた。「『狂乱の20年代』でいいんだよ」と教えてあげた後で、「今、彼は正しく『ローリング・トゥエンィーズ』と言ったよな」(つまり日本語発音で)と気づいて、パックンの日本語力の底知れなさを思い知ったのでありました。
〇もっともパックンの場合、世代的にはレッドフォードじゃなくてデカプリオの方だろうな。まあ、カッコいいことに変わりはないのだが。
<1月10日>(日)
〇今宵のNHK BS1「レジェンドの目撃者 サブマリン山田久志」は眼福でござったな。1970年代のプロ野球を見た者としては、山田投手の下手投げフォームの美しさ、速球やシンカーの魅力は忘れがたいものがある。いやもう、ホントにすごかったのだから。
〇今では白髪となった山田久志氏は、当時のブレーブスの山口高志や足立光宏投手との葛藤も語ってくれた。日本シリーズで、王貞治選手に打たれたサヨナラホームランの悔しさも。いやあ、あの頃のプロ野球はすごかったのである。阪神タイガースファンも、阪急には一目おくのが礼儀作法というものであった。
〇高校生時代のワシはなぜか山田久志投手のサインをもらっていて、それはどこかに行ってしまった。申し訳ないことをしてしまった。それでも今宵は、憎らしいくらいに強かった阪急ブレーブスをしみじみ思い出した。今のオリックス・バファローズには、その影も形も残っていないのでありますが。
<1月11日>(月)
〇日本海側がスゴイ豪雪になっている。今朝、ニッポン放送の「飯田浩二のOK! Cozy up!」に出演した際に、気象庁の方と電話がつながったので、「これっていつ以来ですか?」と尋ねたら、「35年ぶりです」という。それって1986年のことではないか。
〇ワシは覚えておるぞ。入社2年目の若手社員だったが、正月に田舎に帰ろうとして上越新幹線に乗ったら、長岡駅から先の電車が動いていない。やむなく長岡市で一泊して、その翌日にかろうじて富山まで行きついた。「ニュースで散々やってるのに!」と母にきつく怒られた覚えがある。あの年の降雪はすごかった。とにかく1日に5回くらい雪かきしないといけなかった。
〇でも、それって昭和61年のことなんだよね。若い人は知らんだろうなあ。って、当たり前か。何しろワシがもう還暦なのだから。今年はそれくらい珍しい豪雪の当たり年ということである。
〇今朝の番組で語った内容の一部が、こんな風に紹介されている。(隔離と旅行制限はあまり効果がない」と15年前のWHO)。せっかくだから、元ネタを紹介しておきましょう。こちらからダウンロードできます。
●Avian
Influenza : assessing the pandemic threat
〇この報告書のP31-33に、「20世紀の3つのパンデミックからの教訓」という12か条がある。以下、ベタ貼りしておきましょう。
Lessons from the three pandemics of the
last century
(1).Pandemics behave as unpredictably as the viruses that
cause them.
During the previous century, great variations were seen in
mortality, severity of illness, and patterns of spread.
(2).One consistent feature important for preparedness
planning is the rapid surge in the number of cases and their
exponential increase over a very brief time, often measured in
weeks. The severity of illness caused by the virus, which cannot
be known in advance, will influence the capacity of health
services, including hospitals, to cope, but a sudden sharp
increase in the need for medical care will always occur.
(3). Apart from the inherent lethality of the virus, its
capacity to cause severe disease in non-traditional age groups,
namely young adults, is a major determinant of a pandemic’s
overall impact.
Milder pandemics are characterized by severe disease and excess
deaths at the extremes of the lifespan (the very young and the
elderly).
(4). The epidemiological potential of a virus tends to unfold
in waves.
Age groups and geographical areas not affected initially are
likely to prove vulnerable during the second wave. Subsequent
waves have tended to be more severe, but for different reasons.
In 1918, the virus mutated, within just a few months, into a far
more virulent form. In 1957, schoolchildren were the primary
vectors for spread into the general community during the first
wave. The second wave reached the elderly, a group traditionally
at risk of severe disease with fatal complications.
(5).Virological surveillance, as conducted by the WHO
laboratory network, has performed a vital function in rapidly
confirming the onset of pandemics, alerting health services,
isolating and characterizing the virus, and making it available
to vaccine manufacturers.
(6).Over the centuries, most pandemics have originated in
parts of Asia where dense populations of humans live in close
proximity to ducks and pigs. In this part of the world,
surveillance for both animal influenza and clusters of unusual
respiratory disease in humans performs an important early warning
function.
(7).Some public health interventions may have delayed the
international spread of past pandemics, but could not stop them.
Quarantine and travel restrictions have shown little effect. As
spread within countries has been associated with close contact
and crowding, the temporary banning of public gatherings and
closure of schools are potentially effective measures. The speed
with which pandemic influenza peaks and then disappears means
that such measures would probably not need to be imposed for
long.
(8).Delaying spread is desirable, as it can flatten the
epidemiological peak, thus distributing cases over a longer
period of time. Having fewer people ill at a given time increases
the likelihood that medical and other essential services can be
maintained and improves capacity to cope with a sharp increase in
demand for care.
(9).The impact of vaccines on a pandemic, though potentially
great, remains to be demonstrated. In 1957 and 1968, vaccine
manufacturers responded rapidly, but limited production capacity
resulted in the arrival of inadequate quantities too late to have
an impact.
(10). Countries with domestic manufacturing capacity will be
the first to receive vaccines.
(11).The tendency of pandemics to be most severe in later
waves may extend the time before large supplies of vaccine are
needed to prevent severe disease in high-risk populations. The
interval between successive waves may, however, be as short as a
month.
(12).In the best-case scenario, a pandemic will cause excess
mortality at the extremes of the lifespan and in persons with
underlying chronic disease. As these risk groups are the same as
during seasonal epidemics, countries with good programmes for
yearly vaccination will have experience in the logistics of
vaccine administration to at least some groups requiring priority
protection during a pandemic. While such a strategy can reduce
excess mortality, sudden and large increases in morbidity, and a
correspondingly high demand for medical care, should nonetheless
be anticipated.
〇パンデミックは20世紀に大きなのが3回あった。それらをスカッと忘れているのは、われわれ自身の責任である。いや、個人的に豪雪のことは覚えていたのですが。
<1月13日>(水)
〇7府県に緊急事態宣言とのこと。既に行われている1都3県に合わせると、1都2府8県ということになります。
〇先日、こんな数字を教わりました。「1都3県はGDPでは日本の3分の1」、「不要不急消費は全消費の3分の1」。つまり1都3県に対して不要不急の行動を自粛させると、個人消費は9分の1減になることになります。「不要不急消費」というのは、当溜池通信的に言えば「遊民産業」のことですなあ。
〇さて、アメリカのクラフト国連大使が台湾を訪問する、と言っていたのを急きょ中止になったようです。これは「台湾の国連再加盟の話が進むのかな?」などと期待していたのですが、どうもそんなことはなさそうです。
〇同じタイミングでポンペオ国務長官の訪欧も取りやめになっているところを見ると、「残り1週間のトランプ政権に余計なことをしてほしくない」というのが世の外交官たちの反応のようです。そりゃあそうだよね。あと1週間でバイデン政権が始まるのだから、「わがなき後に洪水来たれ」の政権にかき回されたくはないですよね。
〇蔡英文総統としても、ここで何らかの実績を作りたくはあるけれども、大きな成果は期待しにくい。それに台湾は共和党とのコネは十分に作ってあるけれども、民主党とはつながりが薄いんですよね。民進党はリベラル政党なのに、なぜかアメリカでは共和党と相性が良い。今回も、トランプ再選を願っていたに違いありません。
〇他方、去り際にいろいろ実績を残したい、というトランプ政権の意図もよくわかります。要は野に下ってから、「バイデンは中国に甘い!」と言いたいのでしょう。単純だけど、確実な手法です。それではバイデン政権はどんな対中政策を採るかというと、あんまりそういう声は聞こえてきませんなあ。むしろ欧州との和解や対イラン核合意への復帰に注意が向かっているようです。ちょっと心配であります。
<1月14日>(木)
〇トランプ大統領の2度目の弾劾訴追が成立。任期は残り1週間だというのに、無茶をやりますなあ。それくらい1月6日の連邦議会議事堂占拠という事態が重かった、というのはわかりますが、これではバイデン新政権はどんどんやりにくくなるばかり。あと1週間で発足するのに、閣僚の承認手続きはまだ一人も済んでおりません。
〇上院における弾劾裁判は、さすがに新政権発足後にやるそうです。あれをやり始めると、ほかの件すべてがが先送りになってしまいますから。上院はその前に閣僚人事の承認を済ませなければならず、おひとり様2000ドルの給付金を含む再追加刺激策も通さねばならず、この際、弾劾裁判は夏くらいまで引っ張る方がよいかもしれません。水に落ちた犬は今すぐ叩くより、溺れて息も絶え絶えになった頃に叩く方がよい、という判断も成立するわけでして。
〇その前にトランプファミリーと会社が日干しになるかもしれません。とりあえずドイツ銀行の取引停止は効くだろうなあ。まともな取引先がこれから次々と抜けていきますので、「トランプ」ブランドにとっては辛い展開でしょう。カネを持たない純粋な支持者だけが残る、というのは最悪な展開なわけでありまして。
〇いかなる偶然か、1月12日にトランプ氏の最大のサポーター、シェルドン・アデルソン氏が87歳で亡くなっていた。カジノ王で、ラスベガスサンズのオーナーでありまして、トランプ政権の対イスラエル政策における最大のスポンサーでもありました。サンズ社は昨年、日本市場におけるIR建設に見切りを付けましたが、こういうことになるのであればあれは正解であったといえるでしょう。
〇なんだかすごい勢いで物事が動いておりますなあ。公私とも併せて、ちょっと心がささくれ立つようなことが多い日でありまする。
<1月15日>(金)
〇バイデン氏が追加コロナ対策1.9兆ドルを発表。注目の現金給付は1人当たり1400ドルだそうだ。先の9000億ドル追加策で一人当たり600ドルを配布するのだから、併せてちょうど2000ドルでいいだろ、ということのようだ。この辺が中道穏健派で現実主義者のバイデン流である。「えっ?2000ドルくれるんじゃなかったの?」と言って怒っている人もきっといるだろう。
〇バイデンさんとしては、もっとほかのことにおカネを使いたかったようで、@失業保険の特例措置の延長、Aワクチン配布などの医療支援、B財政難の州政府への支援、C中小企業対策なども盛り込んでいる。さらにインフラ投資などの経済再建策は、2月の一般教書演説(大統領就任の初年度は両院合同演説となる)で打ち出すとのこと。
〇問題はこれが議会を通過するかどうか。「最初の100日」の間くらいは、上院共和党が協力してくれるかもしれない。バイデンさんとミッチ・マコーネル院内総務の長年の情誼が通じるかどうか。そこには当然、トランプさんの弾劾裁判の問題がかかわってくる。さて、マコーネル氏はどういうディールを狙うのか。ひょっとすると「トランプ斬り」を図るかもしれませんな。
<1月17日>(日)
〇コロナ以来、途絶えているもののひとつに町内会の活動がある。春のお花見も、年次総会も、町内総出のドブさらいも、夏祭りの山車の製作も、冬の避難訓練も全部中止になった。「友の会」では、今年は活動がなかったからと言って、会費でお詫びの品を買って配ったそうである。さて、2年目はどうなるのか。
〇かろうじて防犯部の「火の用心」だけはやっている。それも午後8時以降は外出を控えおろう、ということで、土曜日の午後6時からに変更した。もちろん見回りが終わった後の打ち上げの一杯も中止である。
〇こんな状況は1年で終わるだろうと思っていたのだが、どうやら自粛モードは2年目に突入しそうである。真面目な話、2年連続で中止にしてしまうと、3年目に復活することは非常に難しいだろう。だってドブさらいにしても、夏祭りにしても、正直に言えばなくなってホッとしている部分があるんだもの。
〇ああいうのは毎年のことだから、惰性でやっているわけであって、その惰性が打ち切られてしまった場合、元に戻すには相当な腕力が必要になるだろう。「不要不急」と言われて中止になる行事のほとんどは、「不急」ではあるけれどもけっして「不要」ではないのである。少なくともドブさらいは、やらないよりはやったほうがいい。
〇これは数あるコロナ騒動の中では、ごくささやかな問題と言っていいだろう。まあ、それにしたって誰かが気にしなきゃいけないので、さて、どうしますかねえ。
<1月18日>(月)
〇以下は単なる思いつきでありまして、正しいかどうかは保証の限りではありません。たぶんこうなんじゃないかなあ、という仮説段階です。題して「コロナ下の日本経済における不都合な真実」。
●10万円の給付金で増えたのは消費ではなくて貯蓄だった。
●住民票の動きを見る限り、既に東京都からのエクソダスが始まっている。
●製造業とサービス業が織りなす「K字型回復」の明暗。
●グリーンとデジタルでGDPが増える道理はない。
●他国に比して日本だけ失業率が上がっていないのは非正規労働者のお陰。
●秋時点で「コロナは去った」と日本人の大多数がタカをくくっていたから、最近の菅内閣批判が強くなっている。
●リモートワークによって、これから失われるであろう日本型組織の比較優位。
●ESG投資は市場原理をゆがめるので、やればやるほど害の方が大きくなる。
●日本におけるワクチン普及が遅れているのは、政策当事者が人命よりも人権を尊重しているから。
〇我ながら、いちいち世間の顰蹙を買いそうな論点ばかりである。まあ、わかる人にはこれだけでわかるだろう、という気はするので、いちいち説明はしないでおきましょう。炎上上等!は当溜池通信の流儀ではござりませぬ。
<1月19日>(火)
〇いやあ、このサイトは面白い。ここに出ているデータをいかに活用すればいいのか。
●新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響の可視化
V-RESASを目的とした見える化を行っているサイトです。地方創生の様々な取組を情報面は、新型コロナウイルス感染症[COVID-19]
が、地域経済に与える影響の把握及び地域再活性化施策の検討におけるデータの活用から支援するために、内閣府地方創生推進室と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が提供しています。
〇皆様も是非、お役立てください。統計は国のインフラ、データは国民の財産です。生かすも殺すも心がけ次第。コロナ対策は、データの使い方次第で決まってきます。
<1月20日>(水)
〇トランプ大統領の治世も今月今夜まで。日本時間の明日午前2時にはジョー・バイデン氏の就任演説が行われ、第46代大統領が誕生します。
〇といっても、今宵はその時間まで起きていられるかというと、あんまり自信はありませぬ。どうせワシントンは人員制限しているし、演説のスタンディングオベーションもない。だったら手短かに終わるはずなので、我慢して起きて付き合ってもよいのであるが、バイデンさんが鬼面人を驚かすようなことを言うはずがなく、さらには感動的な名セリフを吐くとも考えにくい。お気に入りのアイルランドの詩人、シェイマス・ヒーニーが引用されるかもしれないけど、それもどこが良いのかよくわかんないし。
〇他方でトランプさんは、最後の日に73人の恩赦と70人の減刑を発表しました。昨日の「くにまるジャパン」で、「最終日は恩赦が来ますからね!」と言ってはいたけれども、この数の多さはさすがトランプさん、俺様流なのであります。かつて袂を分かったはずのスティーブ・バノンも恩赦の対象となりました。
〇それから国民向けの最後の挨拶もありました。たぶん再選されていれば、これに類することを語ったのでありましょう。過去4年間を振り返るいい材料なので、ちゃんとページごと保存しておきましょう。明日になると、ホワイトハウスのホームページも一新されてしまうでしょうから。
〇ということで、Inaugurationまであと5時間もある。最近は早寝早起きの不肖かんべえとしては、起きて待っていられる自信がまったくない。いやはや、困ったものである。
<1月21日>(木)
〇昨日は結局、10時半に就寝し、目覚ましをかけて午前1時半に起き出して就任演説を聞いた。が、しかし。面白くない。いや、ハッキリ言って詰まらんのだ。聴衆も少ないから、スタンディングオベーションで遮られることもなく、サッサと20分くらいで終わってしまった。
〇強いて言えば、コロナによる死者に対して、皆で黙祷をささげたシーンが印象に残ったかな。死者数40万人といえば、第2次世界大戦における全米の犠牲者数に匹敵する。しかるにそんなのは単なる通過点で、このまま感染の拡大が続くとすると、下手をすると南北戦争の80万人まで届いてしまうかもしれない。米国史におけるとてつもない事件が進行中なのだ、ということをあらためて思い知らされた瞬間であった。
〇ホワイトハウスのホームページを開いてみると、ちゃんとバイデン政権のバージョンに変わっている。そうなるとなんだか寂しくて、ついつい過去の歴代政権のページを探し出し、昨日まであったトランプ時代のページを開けてみたくなる。ついでに、お別れ演説を聞き直してみたりする。言ってることは無茶苦茶なんだが、いよっアンタが大将、これでこそ合衆国大統領!という気がしてしまう。
〇うむ、いかん、いかんぞ。ワシは「トランプ・ロス」になっているのではないだろうか。ドナルド・トランプがホワイトハウスを去り、フロリダに引っ込んだのは嘉すべきことではないか。トランプ劇場が終わり、政治が普通のモードに戻ることは、米国史にとっても国際政治にとっても良いことであるはずだ。しかるにここ10日ほど、トランプさんのツィッターがなくなったので、ちょっと寂しい思いがしていたのであった。
〇もっともバイデンさんの立場になってみると、前任者が無茶をやってひどい状況を残した後で、絶体絶命のピンチに登場するワンポイントリリーフ投手のようなものである。しかも許された時間は事実上、2年間だけである。2022年11月の中間選挙で負けて上下両院の多数を失えば、もはやレイムダック化は必然。皆がカーマラ・ハリス副大統領の方を見て仕事をするようになるだろう。「最初の100日」で躓いたら、いきなりピンチとなろう。
〇一方でこれは単なるドタ勘なんだが、嬉しそうに就任宣誓を行うハリス副大統領を見た瞬間に、「この人は大統領にはならんだろうなあ〜」という気がしてきた。何というか軽過ぎるのである。しかも、彼女はこれからきっと甘やかされるだろう。この人は多分、政治家として伸びないんじゃないか。4年間、針の筵に座り続けたマイク・ペンス氏とはそこが違う。
〇向こう2年間のアメリカ政治は、おそらく高齢者の肩に掛かっている。「アメリカの二階さん」ことナンシー・ペローシ下院議長(80歳)は、この117議会が「最後のご奉公」となる。その両脇を固めるのはホイヤー院内総務(81歳)とクライバーン院内幹部(80歳)である。たぶん2年後には、これらのポストは若い議員たちに継がれるだろう。そして上院におけるキーパーソンは、ミッチ・マコーネル(78歳)である。ちなみに今度、多数党院内総務になるチャック・シューマー(70歳)との関係は良くない。
〇アメリカ社会の分極化が行きつくところまで行ってしまった後で、「ユニティ」があった時代を記憶している老人たちに任せるしかない、というのがこれから到来するジョー・バイデン(78歳)時代ということになる。これでワクワクする人がいたらお目にかかりたい。とりあえずトランプ時代は退屈しなくて面白かったけど、そのツケはこれからやってくることになる。
<1月22日>(金)
〇ワシントン発のニュースで、今日はこれが一番のツボでしたな。
●米共和党上院トップ、トランプ氏弾劾裁判は「2月に」
2021年1月22日 10:32(日本経済新聞)
米共和党上院トップのマコネル院内総務は21日の声明で、上院でのトランプ前大統領の弾劾裁判の開始を2月まで遅らせるよう民主党に提案した。召喚状を28日に出し、2月中旬以降に弾劾裁判を始めるという日程案を民主党のシューマー上院院内総務に示した。「完全で公平なプロセスがトランプ氏に与えられるべきだ」と説明した。
下院は13日、6日に起きた連邦議会議事堂の占拠事件をトランプ氏が扇動したとして同氏を弾劾訴追した。マコネル氏は「(トランプ氏と訴追側の)双方に主張を整える時間を与えることが合理的だ」と指摘した。
民主党内には弾劾裁判を速やかに始めるべきだとの意見が多い。一方、弾劾裁判は上院議員には最優先事項になるため、バイデン大統領が打ち出した各種公約の早期実現を妨げるとの見方もある。
〇政治とは日程なり。マコーネル院内総務(既に少数政党に転落済み)が曲球を投げてきました。おそらく向こう3週間で準備をして、2月15日から弾劾裁判に入りましょう、ということです。さて、シューマー院内総務(多数政党に転じて意気軒高)はこれをどう打ち返すのか。
〇3週間あれば、この間にバイデン政権の閣僚人事承認と、追加コロナ対策の予算通過が現実味を帯びてくる。それはまあ、マーケット的にも悪い話ではない。1人2000ドルの給付金があれば、ますます株価は上がるでしょう。1.9兆ドルの規模は、共和党にいくぶん値切られるかもしれませんが。
〇他方、上院では民主共和両党間のルールがまだ定まっていない。特にフィリバスターの扱いをどうするかは揉めるだろう。が、そんなことをしている間に時間は過ぎていく。そして弾劾裁判を始めた瞬間に、他のあらゆる審議は打ち切りになってしまう。
〇もうひとつ、2月下旬に弾劾裁判ということは、菅総理の訪米は自動的に消えますな。だってアナタ、そんなときに大統領が外国の客に会えますかいな。菅さんだってそうなったら、ワシントンまで行ってトランプさんに挨拶するかどうかで悩まなければならない。
〇ね、だから「政治は日程なり」。マコーネル氏は弾劾裁判の開始まで3週間空けることで、トランプさんにも十分な時間を与えることを狙っているのでしょう。前大統領に対して一応の礼儀は尽くしている。とはいえ、上院共和党がどう動くのかはわかりませぬぞ。ぼんやりとついた歩が20手後くらいになって効いてくる。名人の指し手は深いです。
<1月23日>(土)
〇昨日の続き。シューマー院内総務は「2月8日の週から弾劾裁判だ、馬鹿野郎!」とタマを打ち返してきました。「誰がマジョリティ・リーダーか教えてやる!」という思いもあったことでしょう。予定が1週間早まることで、トランプ前大統領の準備期間は短くなる。他のことに関する審議も窮屈になる。バイデン大統領は、内心では「困ったことよのう〜」と思っているかもしれない。いや、面白いね。
〇1月6日に連邦議会議事堂の中に居た議員たちは、一様に心の底から恐怖を感じた様子。「今度という今度は許さんぞ〜!」と怒っている議員は少なくないだろう。そしてトランプ大統領の弾劾容疑は、「暴動を扇動した罪」である。職権乱用や議会妨害が容疑であった1年前の弾劾裁判とは大違いである。
〇ということで、2月8日からが弾劾裁判の模様です。他の政治日程ともいろいろ絡んできそうだなあ。とりあえずコロナ対策の追加刺激策は、それまでには間に合わないような気がするぞ。マーケットの論理としては、「ちょっと当てが外れたなあ〜」ということになりますな。
〇その先にマコーネルがどんな手を打ってくるのか。いや、やはり政治は面白い。
<1月24日>(日)
〇先日の大統領就任式において、話題をさらったのはバイデン氏の就任演説ではなく、若き詩人アマンダ・ゴーマンさんの素晴らしい朗読と、サンダース議員のほのぼのとしたファッションでした。
〇後者はいいとして、前者の意味は何なんだろう。不肖かんべえはオバマ時代の美辞麗句8年間が、トランプ時代のぶっちゃけ4年間を招いたと考えているので、ここへきてこういう理想を歌い上げるのもなあ、と感じたのでありますが、こうして読み返してみると、これは見事な詩であることは疑いようもなく、今の時代を的確に捉えていることも間違いない。そしてアメリカという国の物語が、これからも続いていくのであれば、この詩は長く歴史に刻まれるものではないかという気がしている。
〇ということで、以下は試験的に訳を作ってみました。詩の邦訳なんてやったことないですから、間違いが一杯ありそうで嫌なんですけれども、誰か「ここはこうなんじゃないの?」と気づいた方は、こっそり教えてくださいまし。
Amanda Gorman: The Hill We Climb
アマンダ・ゴーマン「われわれが登る丘」
Mr. President, Dr. Biden, Madam Vice President, Mr. Emhoff,
Americans and the world, when day comes we ask ourselves where
can we find light in this never-ending shade? The loss we carry
asea we must wade. We’ve braved the belly of the beast. We’ve
learned that quiet isn’t always peace. In the norms and notions
of what just is isn’t always justice. And yet, the dawn is ours
before we knew it. Somehow we do it. Somehow we’ve weathered
and witnessed a nation that isn’t broken, but simply
unfinished. We, the successors of a country and a time where a
skinny black girl descended from slaves and raised by a single
mother can dream of becoming president only to find herself
reciting for one.
大統領閣下、バイデン博士、副大統領閣下、エムホフ氏、アメリカ人とそして世界の人々。この終わりなき暗闇で、どこに光を見出すのかを自問する日が来ようとは。われわれが為した損失の海原は、われわれが漕いでいくほかはない。われわれは獣の腸(はらわた)のような勇猛さを見せた。沈黙が平和を意味しないことを学んだ。正義とは何ぞやという常識や概念で、正しくいられるとは限らないことを。ああ、それでも気づく間もなく夜明けは訪れる。われわれはいつしか行った。いつしか察し、見届けたのだ。この国は壊れたのではなく、ただ未完成なだけなのだと。われわれはこの国の継承者であり、そこでは奴隷の子孫たる痩せた黒人で、シングルマザーに育てられた少女が、いつか大統領になると夢見ている。今はその前で語っているだけだけれども。
And yes, we are far from polished, far from pristine, but that
doesn’t mean we are striving to form a union that is perfect.
We are striving to forge our union with purpose. To compose a
country committed to all cultures, colors, characters, and
conditions of man. And so we lift our gazes not to what stands
between us, but what stands before us. We close the divide
because we know to put our future first, we must first put our
differences aside. We lay down our arms so we can reach out our
arms to one another. We seek harm to none and harmony for all.
Let the globe, if nothing else, say this is true. That even as we
grieved, we grew. That even as we hurt, we hoped. That even as we
tired, we tried that will forever be tied together victorious.
Not because we will never again know defeat, but because we will
never again sow division.
そう、確かにわれわれは磨かれることはなく、汚れなきこともない。だが、それは完璧な国を創ろうとしていることを意味しない。われわれは目的をもって、この国を作ろうとしている。すべての人の文化、人種、性格、そして条件に合わさる国を構成するために。分断は閉じよう。未来を優先するためには、違いは脇へ置かなければならないから。武器は下ろそう。互いの手をつなげられるように。いかなる人にも害を求めず、すべての人に調和を求めよう。地球よ、これだけは真実だと言わせてほしい。たとえ嘆きの中にあっても、われわれは成長した。傷つきはしたけれども、希望は残った。疲れはしたけれども、永遠にともに勝利するように努めた。二度と敗北を知りたくないからではなく、二度と分断を味わいたくないから。
Scripture tells us to envision that everyone shall sit under
their own vine and fig tree and no one shall make them afraid. If
we’re to live up to her own time, then victory won’t lie in
the blade, but in all the bridges we’ve made. That is the
promise to glade, the hill we climb if only we dare. It’s
because being American is more than a pride we inherit. It’s
the past we step into and how we repair it. We’ve seen a forest
that would shatter our nation rather than share it. Would destroy
our country if it meant delaying democracy. This effort very
nearly succeeded.
聖書は教える。誰もが葡萄といちじくの木の下で、恐れることのなきようにと。まさにそのようであれば、勝利は刃(やいば)の上にではなく、われわれが建てた橋の上にある。それは約束の土地であり、その気になればわれわれが登ることができる丘だ。アメリカ人であることは、われわれが引き継ぐ誇り以上のものだから。われわれが踏み込んだのは過去であり、修復すべきものであった。われわれは国を包むのではなく、破壊する森を見てきた。それが民主主義を遅らせることを意味するならば、この国は破壊されよう。この試みはほとんど成功しかけていた。
But while democracy can be periodically delayed, it can never be
permanently defeated. In this truth, in this faith we trust for
while we have our eyes on the future, history has its eyes on us.
This is the era of just redemption. We feared it at its
inception. We did not feel prepared to be the heirs of such a
terrifying hour, but within it, we found the power to author a
new chapter, to offer hope and laughter to ourselves so while
once we asked, how could we possibly prevail over catastrophe?
Now we assert, how could catastrophe possibly prevail over us?
だが、ときに民主主義は後戻りするが、永遠に打ち負かされることはない。この真実において、われわれが未来に目を向けるときに頼るこの信念において、歴史はわれわれに目を向ける。これはまさしく償いの時代だ。当初はそのことを恐れていた。そのような恐ろしい時間を引き継ぐ用意はできていないと感じたものだ。しかしその中にあって、われわれは新たな一章を書き加え、希望と笑いをもたらす力があることに気がついた。どうすればわれわれが破局を乗り越えられるかだって? いや、破局こそ、どうすればわれわれを乗り越えられるというのか?
We will not march back to what was, but move to what shall be a
country that is bruised, but whole, benevolent, but bold, fierce,
and free. We will not be turned around or interrupted by
intimidation because we know our inaction and inertia will be the
inheritance of the next generation. Our blunders become their
burdens. But one thing is certain, if we merge mercy with might
and might with right, then love becomes our legacy and change our
children’s birthright.
われわれは元居た場所に戻るのではない。あるべき国に向かうのだ。傷ついていても、全き、慈悲深く、そして大胆かつ強烈かつ自由な国に。われわれは脅迫によって向きを変えたり、妨害されたりすることはない。なぜなら沈黙や惰性が、次世代に繰り越されることを知っているから。われわれの不覚は、彼らの負担になる。それでも確かなことがひとつある。われわれが慈悲に力を、力に正しさを融合させれば、愛がわれわれの遺産となって、子孫の生まれながらの権利を変えることになるだろうと。
So let us leave behind a country better than one we were left
with. Every breath from my bronze-pounded chest we will raise
this wounded world into a wondrous one. We will rise from the
gold-limbed hills of the West. We will rise from the wind-swept
Northeast where our forefathers first realized revolution. We
will rise from the Lake Rim cities of the Midwestern states. We
will rise from the sun-baked South. We will rebuild, reconcile
and recover in every known nook of our nation, in every corner
called our country our people diverse and beautiful will emerge
battered and beautiful. When day comes, we step out of the shade
aflame and unafraid. The new dawn blooms as we free it. For there
is always light. If only we’re brave enough to see it. If only
we’re brave enough to be it.
だからわれわれがこの国を受け継いだときよりも、良い国として残そうではないか。私の褐色の胸打つ呼吸のひとつひとつから、この傷ついた世界を驚くべき世界に育てていこう。西海岸の黄金色の丘から、われわれの先祖が初めて革命を成し遂げた風吹く北東部から、中西部の湖畔の街角から。そして日に焼けた南部から。われわれはこの国の隠れた場所まで再建し、和解し、回復しよう。そしてこの国の隅々まで、多様で美しい人々が困難から立ち上がり、美しく見えるように。朝が来るたびに、われわれは陰を抜け出して恐れることはない。われわれが解き放つたびに、新たな夜明けが来るからだ。なぜなら光は常にある。もしも、われわれが勇気をもてそれを見るならば。もしも勇気をもてそれとともにあるならば。
<1月25日>(月)
〇たまたまこの記事を発見しておったまげました。これをベタ記事扱いにしたというのは、日経さんとしては「武士の情け」だったのでしょうか。
●毎日新聞社、資本金1億円に減資 節税目的
(日本経済新聞社)2021年1月19日 19:29
毎日新聞社が3月に資本金を現在の41億5000万円から1億円に減資することが19日、分かった。取り崩した資本金は純資産の「その他の資本剰余金」に充てるが、用途は明らかにしていない。資本金を、税制上は中小企業の扱いとなる1億円以下にすることで節税する。
15日に開いた臨時株主総会で承認された。純資産の総額は変わらず、発行済の株式総数にも変更はないという。毎日新聞社は減資の目的について「グループ全体への適切な税制の適用を通じて財務内容の健全性を維持するとともに、今後の資本政策の柔軟性および機動性の確保を図るため」と説明する。
毎日新聞社の2020年3月期の単独売上高は前の期比10%減の880億6200万円。最終損失は69億6800万円の赤字(前の期は5億3700万円の赤字)と赤字幅が拡大している。20年3月末の自己資本比率は3%だった。
〇普通の会社であれば、とっくに詰んでるじゃん! てゆうか、今年度決算で昨年並みの赤字が出たら、いきなり債務超過ではないですか。諸般の状況に鑑みれば、新聞社の経営が苦しいのはわかりますけれども、自社の経営状況がこれでは、少なくとも「社会の木鐸」にはなり得ないでしょう。とりあえず財務省や国税庁批判はできなくなりますな。
〇今週金曜日には、選抜高校野球大会の出場校の選考委員会がリモートで開催されるのだそうです。去年は中止になったセンバツ、果たして今年は開催できるのでしょうか。ちなみに2月28日にはびわ湖毎日マラソンが予定されている。これらの競技がサステナブルであることを祈るばかりです。
<1月26日>(火)
〇今朝の産経新聞「正論」欄に寄稿いたしました。
●SNSの暴走から民主主義を守れ
〇いまや民主主義のインフラとなっているSNSに対して、四半世紀前のパソコン通信の時代の規制を行っていちゃいかんだろう、という主張であります。だからといって政府が関与すればいいかというと、それでは言論統制になってしまう。プラットフォーマー企業の責任で、第三者機関がファクトチェックをする、というのが落としどころかと思うのですが、これもバイデン政権のお仕事リストのひとつとなります。
〇トランプさんのツィッターアカウントが停止されたことで、ネット上での存在感が急速に薄れているようであります。できればこのまま放置プレイにして、6月くらいになってから弾劾裁判をするのが妙手だと思うのですが、そういうわけにもいかないらしくて、2月9日から弾劾裁判が始まります。
〇だったらその前に閣僚人事の承認と1.9兆ドルの追加刺激策が通せるかというと、まだ国務長官の承認さえ終わってはいない。しかも上院の「パワーシェアリング合意」がまだ決まっていない。つまり議会内の予算やスタッフまで含めて、「50対50」の二大政党が上院をどう仕切るのか。やっぱりマコーネルの方がシューマーよりも一枚も二枚も上手なので、終始主導権を握っておりますな。
〇たぶん元上院の大ベテラン・バイデンさんとしては、「あちゃー、見ていられない」という感じではないでしょうか。たぶんシューマー(70歳)は、まだ若過ぎる。しばらくは長老政治の時代じゃないでしょうか。
<1月27日>(水)
〇昨日夜、IMFの「世界経済見通し」(WEO)の最新版が公表されました。以下のリンクは日本語版です。
●2021年1月 政策支援とワクチンが経済活動を活性化させる見込み
〇WEOには散々お世話になっていて、特にコロナに明け暮れた昨年は「闇夜の灯台」と思って感謝していた。とはいえ、IMFも所詮は国際機関ゆえ、いろんなバイアスはかかっている。そこはちゃんと眉に唾しながら読まなければならない。
*やはりバイデン政権への肩入れがあるので、アメリカ経済の今年5.5%成長はやや「盛ってる」感がある。
*思い切りワクチンが「効く」という前提にしているのは、コロナでいっぱい人が死んでいる欧米人の希望的観測が入っていそう(逆に日本は幸いにも死者数が少ないから、ワクチンに対する期待感が低調である)。
*新興国経済はワクチンも行き届かず、財政出動も限定的だし、今後は為替の切り下げもあるだろうから、本当はもっと低成長になるはずなんだが、それは「見ないふり」をしてるんじゃないだろうか。
*日本経済は20年が▲5.1%、21年が3.1%、22年が2.4%となっている。なめられたものよのう。中国向け輸出が好調なんで、もっと行くかもしれませんよ。
〇度が過ぎて陰謀論になってはいけませんが、データを読むときは「7分の素直、2分の懐疑、1分の意地悪」というくらいがちょうどいいと思います。
<1月28日>(木)
〇久しぶりにウェブ論座に寄稿しました。遠慮なく書いたので長文になってますが、あらためて読み返してみるとやや冗漫かもしれませんな。
●「癒し」としてのバイデン政権 命運を握る「最初の100日」の成果
〇でも、2020年選挙を振り返るときには、ある程度しっかりまとめて書いておく必要があるので、強いて言えばこれは自分用の記録でもあります。また4年後や8年後に再読する機会があるでしょうから。マジメな話、昔の選挙のことを思い出すときには、自分が書いたものを読み返すのがいちばん早いんですよ。・・・って、ワシはいつまでこんな仕事を続けるつもりなんだろう?
〇なおかつ、懲りずに今日は東洋経済オンライン用の記事を入稿する。こっちは「かんべえ節」で書いております。競馬の予測もちゃんとあります。今週末は根岸ステークスとシルクロードステークスであります。
〇今月は、われながら呆れるほどたくさん書いております。さて、読んでいただけますでしょうか。
<1月29日>(金)
〇このところ、やたらとテレ東が話題になっている。春からはWBSが午後10時からに引越しし、あっこさんも『モーサテ』からそっちに異動すると聞いて、「どっひゃ〜!」と驚いていたのは今週月曜日のことであった。
〇それが金曜日になったら、「#しぶこ 熱愛」報道が駆け巡っている。フライデーされたのは、『モーサテ』のNアナではないか。ワシなんか新入社員の時から知っとるぞ。これは週明け月曜日の『モーサテ』は、変なことで視聴率が上がるかもしれん。こういうのをフライデー効果というのだろうか。
〇テレ東の新人アナは、高い確率で『モーサテ』に投入される。これは朝が早くてきつい仕事だから、自然とそうなるのであろう。それからテレ東には、「男性アナは競馬の実況中継ができて一人前」というスパルタンな教育方針があって、土曜日の『ウィニング競馬』で使われることも多い。N君もその典型で、一時期は「平日はマーケット番組で休日は競馬番組」という、ワシなどから見てまことに好ましい生活サイクルを送っていた。
〇知らない人のために言っておくと、競馬の実況中継こそは究極のアナウンス技術なのである。「読み」の正確さと、その場の判断力など、あらゆる要素が試されることになる上に、間違えて実況してしまった場合はそれで当たり馬券を捨ててしまうファンがいることもあり得るので、とんでもないプレッシャーがかかる仕事なのである。
〇そういえばこの1月にテレ東から転職したMアナも、『モーサテ』&『ウィニング競馬』組であった。以前、カラオケに行ったときにワシが『走れコータロー』を勝手に選曲して、ホレ、とマイクを渡してみたところ、M君は全然知らなかったにもかかわらず、あの歌の冒頭の競馬実況中継(コータローかホタルノヒカリ、ホタルノヒカリか窓の雪・・・の部分)を一発でクリアしてしまった。あれには感心したな。
〇しばらくはカラオケどころではない日々が続くのであるが、いつの日か罰ゲームとして同じことをNアナにやらせてみたいものだと思う。だってケシカランではないか。競馬よりもゴルフにうつつを抜かすとは。とは言うものの、しぶこちゃんだったらそれも無理ないか。
〇以上、報道が正確でなかった場合はゴメンナサイ。正確であった場合はオメデトウ。最近のテレ東さんにはなんだか勢いのようなものを感じますな。
<1月31日>(日)
〇ニューヨークダウが3万ドル割れ。いや、面白い。今の相場がバブルっぽいことは間違いないんだが、何がきっかけて崩れるのか、そのロジックがわからないと思っていたのだが、ロビンフッドねえ。そこでしたか。
〇だいたい自分のことを「ロビンフッド」などと名乗る輩を信用するものではありませぬ。貧しい人からは手数料は取りません、などと言いつつ、彼らは顧客情報をヘッジファンドに売り飛ばして収入を得ていた。ヘッジファンドはこれを高速トレードにかけて、ごく少額ながら鞘を抜く。こういうのをフロントランニングというのだそうで、顧客から見れば手数料を取られているのと同じことになる。
〇まあ、あれですわ。スーパーなんぞで「当店のカードをお持ちでしょうか?すぐに作れますし、割引になりますよ」とか言われて、ほんの数円の値引きと引き換えに、自分の顧客データを売り渡すのと似たような行為である。向こうはちゃんと儲けるすべがあるから値引きしてくれるわけで、タダより高いものはない、ということであります。
〇アメリカでは昨年から、コロナ対策の定額給付金を原資に小口の投資をする人が急増した。それが株高の一員になっていて、特に若者の投資が「ロビンフッダー」となって相場の一翼を担ってきた。それがヘッジファンドによる「ゲームストップ」株の空売りに立ち向かった、というからますますロビンフッド的になる。天下のヘッジファンドがショートスクイーズに遭って大損を出す、というとまるでアリの群れが巨象を倒すような胸ときめくドラマである。金融当局としても、SNSや匿名掲示板を使って相場操縦が行われていた場合、どうやって取り締まるかは悩ましいところであろう。
〇ここでロビンフッド・マーケッツが1月28日、急きょ取引制限を行った、というからドラマのようによくできている。彼らにとっては個人投資家はユーザーに過ぎず、真のクライアントはヘッジファンドであったのだ。つまりロビンフッドは巨悪とつるんでいたのではないか。ロビンフッドは「いえいえ、これは取引が急増して預託金が足りなくなっただけです。借り入れも増資もしましたから、もう大丈夫です」と言うけれども、それならそれでただの間抜けだったということになる。
〇さらに面白いのは、AOCなど民主党左派の政治家たちがロビンフッド批判を展開していることだ。彼らもまた「弱者の味方がしたい人」たちなので、あんまり信用すべきではないでしょう。少なくとも庶民を儲けさせてくれる人たちではありますまい。一部で待望論がありましたけど、エリザベス・ウォーレンが財務長官であったら、果たしてどんな恐ろしいことになっていたでしょうか。
〇仮に今、ツィッターのアカウントが健在であれば、トランプさんはこの株価下落を見て「だから言っただろう!民主党の奴らに任せておくからこんなことになる」と怪気炎を上げていることでしょう。2月9日になって弾劾裁判が始まれば、またいろいろ世間を騒がすことでしょう。その時の株価はどうなっているでしょうか。
〇まあ、だからと言ってここで、本格的にこれが「ゲームストップ」になって、相場が腰折れになるかはなんともビミョーなところです。相場格言では「節分天井、彼岸底」などといいます。後から考えると、ここが絶好の買い場だった!てなことになるのかもしれません。当溜池通信としては、こういうときの決め台詞であるところの「投資は自己責任でお願いします」を持ち出して、お茶を濁すこととなります。
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by Tatsuhiko Yoshizaki