●かんべえの不規則発言



2020年4月







<4月1日>(水)

○少し前に流行った本に『ホモ・デウス』(ユヴァル・ノア・ハラリ)がある。若きイスラエル人の歴史学者が、テクノロジーとサイエンスの未来を才気煥発に、さまざまな雑学をきらびやかに振りまきながら語った本である。

○この本は冒頭で凄いことを言い切る。「人類は飢饉と疫病と戦争という3つの敵を抑え込んだ。これでもう残忍な生存競争を生き抜く必要がなくなった。その結果、人は不死と幸福を追求することになり、神にアップグレードされる」と。だからホモ・サピエンスはホモ・デウスになる。パチパチパチ。

○なるほど生き物とは所詮、アルゴリズムに過ぎぬ。その中で人間だけが文字を持つことができ、結果として宗教やら国家やら企業やらという虚構を生み出し、文明を築き上げることができた。この上、AIとビッグデータとバイオテクノロジーがあれば、なるほど神の域に迫るかもしれない。もっとも神に迫るのはごく一握りであって、そういう上級国民は大多数の「無用者階級」とは別世界に生きることになるのであろう…。

○…という辺りで何となくありきたりな未来論に思えてきて、ワシはこの本を上巻だけ読み終えたところで飽きてしまったのである。ごめんなさい。ユヴァル・ノア・ハラリは本書と、前著『サピエンス全史』がともに高い評価を得て、一躍、ときの人になった。それはまぁ、結構なことである。

○しかるに2020年になって、本書の前提はかなり恥ずかしい思い上がりであることが判明した。人類は疫病をまるで克服できていない。世界各国はCovid-19こと新型コロナウイルス、またの名を武漢肺炎を抑え込めるかどうかまるで見通せない。しかもこの間に各国間で無用な摩擦が生じており、世界経済は激しく損傷し、それぞれの国の社会には深い爪痕が残りそうである。

○とりあえずワシはイタリアに深く同情し、これをまったく助けられないEUに腹を立てている。自国のことで手一杯なのはわかるが、せめてECBにイタリア国債を買わせてやれよ、と言いたい。ところがドイツやオランダの緊縮財政主義者はそれを許さない。イタリアの医療制度が崩壊したのは、あんたたちのせいなのに。今から思えば、英国がEUを抜けたのは大正解であった。イタリアもこの騒動が終わったら是非そうしたらいいと思う。医者やマスクを送ってくる中国の方が、まだマシというものだ。

○EUもひどいが、WHOはもっとひどい。国際機関なんてそんなもんだ、ということを日本人が学習する良い機会になったのではないかと思う。まあ、国連とかIMFも似たようなところがありますからね。意識高い系のグローバル機関なんてものは、あきれるくらいに役に立たない。今から思えば、気候変動の心配をする10分の1でも、パンデミックに備えておくべきでした。

○ぶっちゃけ、コロナウイルスを克服するためには、各国が「自国第一主義」でいくしかない。この点で、トランプ大統領が当初から目指していたこと(国境警備の重視と製造業の国内回帰)は、意外といい線行っていたじゃないか、ということさえできる。14世紀の黒死病や16世紀の天然痘、20世紀のスペイン風邪みたいなことに直面した時、人々が最終的に当てにできるのは自国の政府、近所のお医者さんだけなのだ。後はソーシャルディスタンスや自宅待機といった我慢を、社会がどれだけ受け入れられるか。

○しかし、各国が一斉に「自国さえよければ」をやると、国境を超えるヒトやモノやカネの自由な往来は途絶え、世界経済は打撃を受けるはずである。貧すれば鈍すで、その先に戦争や飢饉がないと誰が保証できよう。相変わらず北朝鮮はミサイルを撃っているし。つまるところ『ホモ・デウス』などとは片腹痛し。人間はやはりダメダメな存在であって、戦争や飢饉や疫病に苦しむのがお似合いなのだ、ということになる。

○先日、今回のコロナ不況に対して、いかなる経済対策を打つべきかを議論していたら、「何をやっても効かない」という結論に達してしまい、「せめてこれが終わった後に、新しい日本が始まるような夢のある話を今のうちから考えておくことにしよう」ということで会はお開きとなった。意外とこれは生産的な態度かもしれない。

○人間なんて所詮は、飢饉と疫病と戦争に苦しむものなのだ、と開き直ってみれば良いのである。第2次世界大戦は大きな損害をもたらしたが、その後には男女や人種間の平等化が進んだ。皆が同じ苦労を乗り越えたからであろう。1920年代の世界大恐慌も大きな犠牲を残したが、危機を乗り越える過程で社会保障制度(Social Security)が誕生した。大きな犠牲を払うと、その後は少しだけマシになる。だからコロナの後、を今から考えておきましょう。

○だってワシらは神様じゃないんだから。贅沢を言っちゃいけません。ワシらのご先祖様は、いつもだいたいこんな感じだったんだから。


<4月2日>(木)

○ちょっと目を離している間に、アメリカ大統領選挙が様変わりである。スーパーチューズデーでバイデン候補が圧勝したのはほんの1カ月前の3月3日。いろんな意味で彼はツイていたのだが、コロナ騒動でまったく先が見えなくなってしまった。

〇本日時点でアメリカの感染者数は、世界ダントツ1位の21万6000人である。1カ月前にはまだ100人以下だった。当初はNYやCAなどブルーステーツに集中していたが、今ではフロリダやミシガン、ルイジアナにも拡散している。そして死者数も今では5000人を超えてしまった。ゲティスバーグの戦いの死者数が7058人だそうである。指呼の間にとらえた、と言ったら語弊があるだろうか。

○そこで何はさておきトランプ大統領である。以前は「たいしたことはない」と言っていたのに、「自分は戦時大統領だ」と変化し、今度は「20万人の死者が出る」などと言い出した。こんな風に前言撤回を何とも思わないのがトランプ流で、支持者もそういうものだと思っているところがこの人の強みだろう。とにかく今は連日のように記者会見を行い、目立ちまくると同時に顰蹙も買っている。そして支持率は相変わらず落ちない。

○今年の大統領選挙は基本、現職に対する信任投票となる。そういう意味では、雇用でも株価でも、2017年1月のトランプ政権発足時の水準以前に戻ってしまった。偉そうなことは、もう言えない。それでも、国家的危機の際には大統領の株は上がる。これを非難することも憚られる。その程度の同調圧力は、どこの国にでもある。

〇余談ながら、「各世帯に2枚ずつマスクを配る」という昨日の政府方針を聴いた際に、真っ先に思ったのは「今は東日本大震災でいえば、福島第一原発に自衛隊ヘリが上空から水をかけていたあの瞬間か!」であった。あのときの菅直人首相に対してさえ、非難することには躊躇があった。まして今は野党が受け皿足りえないのだから、この国の現状は深刻である。

〇話を戻して、そこでバイデン候補としては、「受けの姿勢」で行くことになる。自分は退屈な人間に見えるかもしれないが、まあまあ確実で、そこそこ有能だ。大統領として、アレと比べてどっちがマシか、皆さん、よーく考えてください、と訴えることになる。ところが如何せん、目立たな過ぎる。デラウェアの自宅スタジオからときどき情報発信するのだが、どうやって民主党内の熱気を維持していくのか。当面、自分が目立てるようなイベントは見当たらないのである。

○しかも民主党内の予備選日程がどんどん後ずれしている。この調子で行くと、6月2日に11州の予備選挙が重なる「ファイナル・ミニ・チューズデー」みたいなタイミングがあるのだが、それまではあまり見どころを作れない。副大統領候補をこの人に決めました!と言っても、「それがどうした?」と怒られてしまうだろう。ちなみに、「東京五輪の開幕は2021年7月23日になりました!」という先日の報道も、欧米では同様の顰蹙を買っていたようである。

〇問題はバーニー・サンダース候補である。自分から降りるつもりはない。そして降りるきっかけもない。当初は4月28日にNY州予備選挙が予定されていて、それで負けたら踏ん切りもついただろうに、今のNYで選挙ができるはずもなく、6月23日に延期されてしまった。誰か言ってやってください。そろそろ空気を読めと。

○もちろんバーニーのかたくなな態度には、党内から反発も出ている。「あんなのもう放っておけ。妥協する必要などない。バイデン政権ができた後のことを考えれば、政策や人事で変に妥協しない方がいい。民主党左派はウォーレンやAOCに代表してもらえばいいじゃないか」みたいな声が出てきている。「本来、民主党は『連合』であって『カルト』ではない」(ジェームズ・カービル)というのは、相当にムカついているのでしょう。

○バイデンがさらに気を付けなければいけないのは、民主党内に新たなヒーローが誕生しつつあることだ。それはクオモNY州知事。感染者数の激増と医療崩壊の瀬戸際で、日々、英雄的な活動をみせている。いや、今後のコロナウイルスとの戦い次第では、来月にはまた別のヒーローが登場しているかもしれない。そのくらい事態の展開は急である。

○バイデンが民主党の正式候補になることは既に「当確」である。ところが下手をすればこのまま埋もれてしまう。しかし今年は、米大統領選挙としてはめずらしいことに、「政治家としての経験が、負債ではなく資産になる」年となる可能性を秘めている。そうだとしたら、「バイデンはもしかしたら強い候補なのかもしれない」(当欄の昨年12月8日参照)という予言が的中することになる。

○ということで、まったく訳の分からない大統領選挙である。1か月後にはどうなっているのだろう。いや、そんなこと気にしてちゃいけないのかもしれないのだけど。


<4月3日>(金)

〇今宵発表された3月米雇用統計は、失業率が4.4%(前月比▲0.9%)、NFPは▲70.1万人(前月は27.5万人増)という衝撃的なものでした。事前の予想値よりもかなり悪い。ちなみにブルームバーグ社がまとめた事前の予想位置は、失業率が3.8%、NFPが▲10万人という控えめなものでした。グラフを描いてみると、その異常な形状に愕然とされられます。

〇しかも今回の統計は、あくまで3月上旬の米国経済を反映したもので、ただ今現在の状況をフルに表したものではないでしょう。本当に恐るべきは、来月5月1日に発表される4月の雇用統計であって、この間の新規失業保険申請件数から想定するに、さらにひどい数字が出ることは疑いがありません。

〇70万人という失業者数は、アメリカで雇用されている人口、1億6000万人の0.5%弱に相当します。このうちかなりの人たちが、健康保険も失ったのだと考えると、このコロナ危機のさなかにおいて、ドキッとさせられるものがあります。新型コロナの検査を受けるのは無料かもしれないが、「あなたは陽性です」と言われた瞬間に地獄が始まる。果たして治療費が払えるのか?

〇かのリーマンショックの際は、2008年9月のリーマンブラザーズ社の経営破綻から、1年間の間にNFPは無慮678万人も下落しました。ひと月の最悪は▲82.6万人(09年3月)でした。1年かけて製造業を中心に、ずるずると悪化が続いたわけでありまして、ようやくNFPが増加に転じたのは2010年3月になってからでした。

〇それに比べると今回のコロナ危機は、サービス業を中心に瞬時にして雇用が悪化したことになります。何しろ米国内の主要大都市が次々にロックダウンされている。再開までには長い時間を必要とするでしょう。2月の失業率3.5%は当面のピークということで記憶され、この記録が更新されることはしばらくないのではないでしょうか。

〇私の政権下で雇用状況は絶好調で・・・・とトランプ大統領はこれまでに何度も繰り返しました。黒人やヒスパニック層においても、史上最高の雇用状況であると。ところがもはやそんなことは言っていられない。九仞の功を一簣に虧く、とはまさにこのこと。

〇その割にマーケットの反応は控えめであるように思われます。ということは、本当の意味でサプライズではなく、ああ、やっぱりねの出来事だったのかもしれません。うむ、やっぱりな。


<4月5日>(日)

〇今回のコロナ騒動の重要な点は、「世界同時」であることだと思う。今はいつ終わるのか見当もつかないけれども、@ワクチン(特効薬)が開発される、A集団免疫がつく、B回復した人が感染者の大多数を占めるようになる、などの経緯を経て、いずれは「慣れる、飽きる、忘れる」の域に到達するのであろう。「飢饉、疫病、戦争」に対する人類の対抗策は、いつもそんな感じであった。

〇そうなったときに、各国の各集団はどんな「記憶」を持つだろうか。例えば、過酷な状況を体験したイタリアやスペインの人たちは、どんな感慨を持つのだろうか。そのことによって信仰は深まるのか、あるいは役に立たなかったということになるのか。それどころか教会で感染してしまった、みたいな話だってあるだろう。韓国の大邱市では、新興宗教が大クラスターになったようであるし。

〇国際関係はどうなるのか。やっぱりEUはひでえな、とか、中国のことなんて考えたくもない、となるのか。たぶんどこかの国に恩義を感じる、なんてことはなくて、憎しみの方がより強く残る気がする。もちろん、自国の政府に対する不信感も長く残るだろう。あるいは医療機関に対する思いも、さまざまに深いものになるはずである。

〇まだ十分に伝わってこないけど、特に武漢市にはいろんな思いが詰まっていることだろう。何しろ数が多いので、つらい別れをした人は膨大な数に達するはずである。そして彼らは、共産党指導部に対してどんな思いを抱いているのやら。ひとつだけ確実なのは、この後、「自分はあのとき武漢に居た」ということを軸として、膨大な物語が紡ぎだされるであろうということだ。ちょうど東日本大震災が「あまちゃん」や「シン・ゴジラ」を生み出したように。

〇家庭単位でもいろいろありそうです。外出禁止で家に閉じこもっている時間が長くなることで、家族の関係が深まるのか、それとも「もう顔も見たくない」になって、のちのち「コロナ離婚」が続出するのか。えらく先の話かもしれないけれども、まあ、家で暇にしているとそんなことも気になってくるわけでありまして。

〇おそらく、各国がいろんな形で「共通の記憶」を持つことになるのでしょうが、そのときに日本人が持つ思い出は、ちょっと他国とは違うものになりそうである。いや、もちろん、この先、爆発的に感染が拡大して、自分がコロナで死んだり、医療崩壊が起きる恐怖と日々戦っておるわけですが、「途中で気が緩んで花見に浮かれちゃいまして」などという時点で、既に「規格外」なんです。われわれは。

〇だから将来、日本人が外国人とCovid19について語り合うときに、なんとなくきまりの悪い思いをすることになるような気がする。あるいは、「あの国はちょっと変」というステロタイプを強化してしまうかもしれない。まあ、それが一大事かといえば、もちろんそんなことはないのであります。幸か不幸か、といえば、幸いに近いはずなのだから。


<4月6日>(月)

〇明日でいよいよ緊急事態宣言ですね。今回の政府の動きを見ていると、いつも火曜日がカギになっています。


3月24日(火)→東京五輪の1年程度延期を決定(3月26日の福島で聖火リレーが始まる前に決定する必要があった)。

3月31日(火)→「4月1日に非常事態宣言説」が流れる(年度末の株価は重要なので、その翌日が怪しいということになった)。

4月7日(火)→政府が諮問委員会を開催し、答申を受けたうえで国会に報告し、緊急事態宣言発令。


〇オリンピックの延期決定から2週間で緊急事態宣言。うーん、なんだか最初から予定していたみたいに見えますね。まあ、この間の動きは、世界全体ともに急だったのですが。

〇ちなみに3月10日(火)と3月17日(火)は、いずれも前日のNY株価大暴落で始まっていて、今から思うとここで世の中の雰囲気が変わりましたね。いつもサプライズは火曜日にやってくる。

〇さらにその前の3月3日(火)はスーパーチューズデーだったわけでして、まるで遠い昔のことのように思われます。あのときはジョー・バイデンさんが光輝いて見えたんですよね。今はむしろアンドリュー・クオモNY州知事の方が脚光を浴びていますけど。

〇ということで、どんどん関心が薄れているアメリカ大統領選挙ですが、お求めに応じてこんな小文を寄稿しました。つまるところ、これがワシの仕事なのよね。


●「最後のミニ・チューズデー」が次の焦点に https://media.gaitame.com/entry/2020/04/06/132914 


<4月7日>(火)

〇どうやらこんな感じに分類できますね。


●都市封鎖=中国。武漢は1月23日から4月8日まで、公共交通機関のみならず道路まで封鎖された。明日になったら、中国共産党のプロパガンダが盛大になりそうです。

●ロックダウン=欧州。都市に視点。もともと都市には城壁があって、黒死病などの際に門を閉じるのはしばしばあったこと。強権発動が可能。中国の場合と違い、権力者もその内側にいる。

●ステイ・アット・ホーム=米国。個人に視点。本来は「家にいてください」というお願いベースなるも、もとより州知事の権限が強い(州兵まで動かせる)お国柄なので、いろんなことができる。


〇日本がこれから目指す「緊急事態宣言」は米国型で、しかも強制力のない「お願いベース」。その意味で、ロックダウンとは程遠いものです。その一方で、同調圧力がとっても強いお国柄なので、それだけで十分効力を発揮するかもしれない。まあ、やってみなければわからない。やってみましょう。

〇もちろんPlan-Bとして、もっと強制力のある法制を用意しておくことが必要だと思います。「ここまでしかできません!」というのは官僚の言葉。国会議員の皆さんは、それではいけませんよ。立法権を持っているということを、強く自覚していただきたいものです。

〇さて、歴史的に言えば、日本も天然痘のような感染症と戦ったことがある。しかし都市封鎖のような経験はない。感染症対策は、基本的に「集団免疫」を獲得することだった。しかし今回のCovid-19はあまりにも感染力が強く、そうなるまでに医療崩壊を招きかねない。なかなかつらい局面と言えます。

〇ともあれ、感染症対策はそれぞれの国の歴史に規定されるようです。われわれはあんまり「下地」がない。その点をよく承知しておきたいものです。


<4月8日>(水)

〇武漢市の封鎖解除のニュースを見ていて、ふとこんな妄想が浮かんだ。まあ、SFと言ってもいい。1年後の世界がこんなふうになっていても、全然不思議ではないのではないのかなあ。


●2021年7月、東京五輪が1年遅れで開催される頃、Covid-19のワクチンや特効薬はまだ開発されていない。それでも、さすがに検査の方法だけは進歩していて、誰がコロナに感染していて、誰がしていないかはすぐにわかるようになった。感染者が見つかったときの隔離や、その後の治療のノウハウもそれなりに前進した。

●その結果、すでにCovid−19抗体を持つ人たちが、人口の2割程度を占めていることが判明した。感染してから快癒した人、いつの間にか抗体を得ていた人など、いろいろなケースがあるのだけれども、その人たちはリスクフリーなのである。深夜の街を徘徊するもよし、海外旅行に出かけるもよし。抗体を持つ人たちはそのことに対する証明書を持ち、それは天下御免に行動できる印であった。

●そうでない人たちは、あいかわらず「不要不急の外出を避け」て、家の中でひっそりと暮らしていかざるを得なかった。いつかは抗体を持つ人口が全体の過半数を超え、そうなれば感染は完全に下火になるだろう。ところがそうなるまでには意外と時間を要した。「抗体のある/なし」で、世界は全く二分されることになってしまった。

●「抗体がある」というだけで、世の中はまったく有利になる。就職でも結婚でも、そうでない場合に比べてはるかに優遇される。もちろん、それは本人の努力によるものではなく、単なる運不運の問題に過ぎない。それでも自由に行動できる人とそうでない人の間には、いつの間にか能力差が生じてしまう。

●かくして世界は思いもかけない形で、支配階級と被支配階級ができてしまうのであった。


〇うむ、『ホモデウス』なんかよりも、よっぽどこっちの方が薄気味悪い未来だなあ。特に「どんなことでも我慢できるけど、格差の拡大だけは許せない」という価値観の人からは、こんなことを思いつくだけでワシ個人が罵られてしまいそうである。いや、それはご勘弁を。今日だってワシは在宅ワークの1日であったし、明日もその予定なんだから。


<4月9日>(木)

〇JRAは昨日、4月19日までの無観客競馬の開催を決めた。正直、これは予想外だった。緊急事態宣言が出たのに、競馬やってもいいのですか? 今週末は桜花賞だけれども、それって兵庫県の阪神競馬場でありますぞ。

〇とはいうものの、これはありがたい。在宅勤務をしていて、楽しみといえば週末のネット競馬くらいしかないのである。タイの上海馬券王先生もさぞや喜んでいることでしょう。まさか日本政府が、JRAの国庫納付金を当てにしているからではないと信じたい。

〇しかも今週は、東洋経済オンラインの連載がワシの出番である。ということは、桜花賞の予想をしなければならぬ。といっても今週末の予想は大変に難しい。そこでアンカツ先生の予測を知ろうと思って、東スポを買ってきた。1面を見て驚いた。


揺るぎないリーダーシップが何より求められている中で、我々競馬ファンにはこの男がいる。

「G1はアンカツに聞け! 安藤勝己氏、大好評連載」


〇そうか、政治家は頼りにならないけど、こういう意味では日本社会には信頼に足る人がいる。うーむ、それにしても今週の桜花賞は難しい。「桜の女王」候補がたくさんいて、まことに悩ましい。ちなみにアンカツ先生は、デアリングタクトだそうです。


<4月10日>(金)

〇サラリーマン生活を長くやっていて、いろんな人と一緒に仕事をした経験は、自分にとっては宝物のようなものである。ふと、25年くらい前にご一緒したTさんのことを思い出した。

〇Tさんの口癖は、「ただいま、調整しております」であった。この「調整」というのが便利な言葉で、仕事上で発生するあらゆる作業がこれに該当するのであった。なかなか決まらない問題で関係者の意見を擦り合わせておりますとか、この先に控えている大きな仕事の山場をこなすためにせっせと準備してますとか、どうしようもないくらいにトラブった事態を収拾しておりますとか、偉い人の許可を得るために思い切って役員室に乗り込みますとか、まことに融通無碍なのであった。

〇あるとき、この人が言う「チョーセイ」とは、英語でいえば何に当たるのだろう?ということが気になった。おそらく"Coordination"という言葉は、はるかに超えてしまっているのである。強いて言えば、「私も頑張っておりますから」(だから、口出しをしないでもう少し待っていてください!)と言ってるようなものなのではないか。まあ、こんな風に言わなければならない局面は、日本の組織にはしょっちゅう訪れるわけでありまして。

〇思うに、わが国におけるサラリーマンの仕事の大半は「調整」である。特に霞が関界隈はそうであろう。Aさんがこう言っていて、Bさんはそれに反対で、Cさんはまだその話を知らなくて・・・という状況を、いかにうまくまとめて組織内を落着させるか。そこが汗のかきどころであって、物事がうまく収まった瞬間にはホッとするとともに、サラリーマンがささやかな達成感を感じるところなのだと思う。

〇で、問題はこの「調整」という作業は、常に「対面」で行わねばならないのである。テレワークじゃ「調整」は済まないよね。会議室や立ち話や喫茶店や喫煙室やランチの席などで、「調整」という作業は粛々と進むのである。およそテレワークで済むのは、ジョブディスクリプションがしっかりした業務であって、それは例えばエコノミストの仕事のように、周囲から独立した業務である。が、そんな職種はあまり多くはないのである。

〇「調整」という作業は、どこからどこまでやればいいのか、どうやったら評価されるのかよくわからない、まことに曖昧模糊とした概念である。ちゃんと調整したはずなのに、あとから上司に怒られた、なんてことはしょっちゅうである。まあ、いっか、ほかの人はちゃんと収まったし。上司には、そのうち後でゴマすって「調整」しておこうか、なんてことを考えたことが過去にどれだけあったことか。

〇ところが「対面による調整」という手段が封じられ、なおかつ「うさ晴らしの一杯」もできなくなってしまうとは、まことにサラリーマン受難の時代の到来である。上司と部下が残業帰りにくだをまいて、それで大事なことを教わってきた昭和の元商社マンとしては、思わず今の職場風景に寒々しいものを感じるところである。


<4月11日>(土)

〇こんなときに何をやっているのか・・・てなことを、ワシが言ってはいかんよな。


●The Top 10 women Joe Biden might choose as his VP


〇ジョー・バイデン氏は副大統領候補は女性にする、と言っている。そこでこんな下馬評が出るわけだ。まあ、Top5で十分だと思うけど、こういう作業が実は面白かったりする。


10. Michelle Lujan Grisham: The New Mexico governor (60)

9. Stacey Abrams: Founder, Fair Fight (48)

8. Val Demings: The Florida House member (63)

7. Tammy Baldwin: The Wisconsin Senator .(58)

6. Tammy Duckworth: The Illinois Senator (52)

5. Elizabeth Warren: The Massachusetts senator (70)

4. Catherine Cortez Masto: The Nevada senator (56)

3. Amy Klobuchar: The Minnesota Senator (59)

2. Gretchen Whitmer: The Michigan Governor (48)

1. Kamala Harris: The California Senator (55)


〇いろいろ考えなきゃいけないことが多くて、悩ましいのである。


●人種:できればマイノリティがいい。黒人が望ましいが、人口急増中のラテン系だともっといい。

●年齢:バイデンさんが高齢なので、なるべく若い人のほうが良い。

●地域:激戦州(特に中西部)選出であることが望ましい。

●思想:党内左派の協力が得られるような人であってほしい。

●知名度:みんなが知っていて、「ああ、あの人ね」と納得するような人。

●経験:いつ大統領職が回ってきてもいいように、ちゃんと政治経験がある人。

●選挙:選挙に強くて、資金集めも得意な人はありがたい存在です。

●相性:当たり前ですが、バイデンさんと気が合わない人はダメです。2人が並んで写真を撮ったときに、ピタッと決まることが大事。


〇で、いろいろ考えて、大本命がカーマラ・ハリスというのは順当な推測だと思います。バイデンさんの悩みは選挙資金が乏しいこと。カリフォルニア州選出で、知名度の高いハリス上院議員は、いわば持参金付きですからね。問題は党内左派がついてきてくれるかということと、自分の選挙運動がうまくいかなかったこと。物事、何でもそうですが「これが完璧」ということはありません。


〇ひとつご連絡です。上海馬券王先生の明日の桜花賞予測は、先生のご都合によりお休みとなります。ご容赦ください。どうしても桜花賞の予想をという方は、オバゼキ先生拙稿などを参照いただければ幸いです。


<4月12日>(日)

〇予定がない日曜日。ついついテレビに頼ることになる。と言っても、真面目な番組を見る気分ではない。

〇その1。将棋の時間。つけた瞬間、山崎八段の「△4四歩」を見て目が点になる。西川六段が▲同角。以下、△4二飛車、▲5三角成、△4七飛車成、と大乱戦に。いやー、NHK杯でこんなハチャメチャな将棋が見られるなんて、新鮮な感動である。どうやら「4四歩パックマン」という戦法で、ウィキにも説明が載っている。いや、しかしこれは邪道でしょ。

〇でも、局面は山崎八段が一方的にリードして、危なげなく勝利。感想戦も香ばしい感じで、うーん、面白い将棋であった。

〇その2。グリーンチャンネルで競馬j放送。ちゃんと競馬新聞「優馬」も買ってきた。注目の桜花賞は、雨の中での阪神競馬場で行われ、たいへんな重馬場。レステンシアが逃げ切るかと思ったが、雨中の坂道を力強く差し切ってデアリングタクトが桜の女王に。やはりアンカツ先生が言っていた通りであった。さすがは「揺るぎないリーダーシップ」である。逆らってはいけません。

〇その3。安定の「笑点」。続いていること自体がありがたい国民的番組である。そうでしたか、木久扇師匠は勤続50年でしたか。今日はとりわけ他愛のないネタが多くて好感度大である。

〇「笑点」が終われば午後6時。どれ、ビールを開けるとしよう。家飲みをすると、すぐに酔っぱらってしまって、午後9時には寝てしまう。明日も5時には目が覚めそうである。さあ、明日は在宅で仕事しよう。


<4月13日>(月)

〇本日はテレビ会議でプレゼンテーションをやる、という試みに参加しました。いやー、どっと疲れました。トータル1時間なのですが、対面で行うのに比べてはるかに消耗しますな。

〇機関投資家の方々を相手に、昨今のアメリカ情勢を語るというお仕事ですので、普段であればどうということはないのであります。今のコロナ感染問題と、この先どうなるか見当もつかないアメリカ経済を前提にして、今年の大統領選挙がどうなるかという話なので、難しいところはあるのですが、ワシ的には楽しい仕事であるはずなのです。

〇機関投資家相手のミーティングは、普通は1時間です。とはいえ、この1時間の中には名刺交換もあれば、「いや、お久しぶりです」とか、「今日はどうやって来られたんですか?」とか、「そういえば今朝のモーサテでは・・・」みたいな他愛のない会話もある。こっちからは客の反応も窺いながらのコミュニケーションとなる。Zoomを使った会議は40分単位だそうですので、TV会議はもうちょっと短い時間でもいいのかもしれません。

〇ついでに言えば、リアルでお話しする場合は、話の途中で笑い声が上がったり、うんうんと頷いている人の反応が見えたりすることで、語り手としてのモチベーションを維持するところがあるわけです。TV会議だとその辺が難しい。はて、今、ワシがしゃべっている内容はすべっていないだろうか。皆は面白がってくれているのだろうか、などと手探りでお話しすることとなるのである。

〇とはいえ、こういう機会は得難いものであります。話している側も、聴いている側も、とりあえずテレワークでOKな仕事でありますので、今の状況では恵まれた状況と言えるでしょう。ワシはまだ初心者ですので、誰かが招待してくれないと参加できないのでありますが、明日は客として参加する機会もありますので、ちょっとずつ慣れていきたいと思います。

〇最近は「Web飲み会」のお誘いも受けるのですが、これもやってみたいですね。どんなことでも、初めてのことは面白いものです。


<4月14日>(火)

〇本日は産経新聞「正論」欄に拙稿が載りました。いつも言っているような内容の繰り返しでありますが、最後の部分を下記に転載しておきます。


 日本政府が4月に補正予算を組むのは、2009年のリーマン・ショック後の景気後退局面以来。規模は史上最大の108・2兆円、財政支出も39・5兆円になる。今は家計も企業も身動きが取れず、民間資金は凍り付いた状態だ。しかも金利はほぼゼロなのだから、政府が借金をして使うことは理にかなっている。重要なのは家計に安心感を与えることだ。

 ゆえに現金給付を対策の柱としたことは適切であったと思う。ただし減収世帯に30万円を給付するとなると、その線引きが難しくなる。しかも本人が減収となっていることを証明し、自己申告しなければならない。これで市町村の窓口に行列ができるようでは、いささか問題ではないだろうか。

 筆者はむしろ、09年に実施した定額給付金の方式が良かったのではないかと考えている。あのときは高齢者と子供に2万円、それ以外は1万2000円の「バラマキ」だった。しかし、総コストは2兆円。手間も少なく、政府支出がそのまま家計に移転するわかりやすい構図だった。あれを単純に5倍して5月中に給付すれば、総額10兆円の「意義あるバラマキ」になったはずである。高額所得者からは、後で確定申告の際に返還してもらえばいい。納得感のある形で素早く現金を配るということが、このコロナ危機には有効であると考える。

 もうひとつ、これから続出するはずの休業要請においては、毎月の固定費だけでも事業者に補償が出るようにしてほしい。思うに「緊急事態」の向こう1カ月間にはいろんな種類の辛抱があるだろう。しかし「働きたいのに働けない」以上の辛さはないはずである。その人たちに報いることは、政治として最低限の務めではないだろうか。


〇まあ、休業補償を認めようとしない財務省の論理もわかるのですよ。要は「不公平が生じる」とか、「1カ月で終わらないかもしれない」とか、いつものような話なのでしょう。でも、それでは失われるものがあまりに大きいと思うので、敢えてしつこく申し上げる次第です。


<4月15日>(水)

〇昨晩発表されたIMFの世界経済見通し(WEO=日本語版)は衝撃的な内容でした。2020年の世界経済のGDPが▲3.0%というのもさることながら、アメリカが▲5.9%、ユーロ圏が▲7.5%、日本が▲5.2%、中国が+1.0%、と個別にみるとまことに天を仰ぎたくなるような内容でした。

〇これを受けて、今週はG7やG20の財務相・中央銀行総裁のテレビ会議が行われるわけですが、世銀・IMFなどのMDB(国際金融機関)の危機意識はまことに強いようです。今は皆、各国が「自分の国さえよければ」の精神でCovid−19に取り組んでいるけれども、世界には医療制度も整っていないし、PCR検査だってできないし、そもそも財政基盤がぜい弱だから打つ手がない、という途上国・最貧国がいっぱいあるのです。

〇そんなのほっとけ、と言われるかもしれません。しかしWEOのエグゼクティブ・サマリーは、最後のパラグラフでこんな風に言っているのです。


パンデミックの影響を克服するためには、強力な多国間協調が不可欠だ。そこには公衆衛生危機と資金難という2種類のショックに同時に見舞われ、財政的苦境に陥っている国々への支援も含まれる。そして医療制度が脆弱な国々に援助が届くようにするためにも、協調は欠かせない。ウイルスの拡散ペースを遅らせるため、また感染症に対するワクチンや治療法を開発するために、各国の協力は待ったなしだ。そのような医学的介入が利用できるようになるまで、世界のどこかで感染が起きているかぎり、感染の第一波が収まったあとの再流行を含めて、パンデミックの影響を免れる国はない


〇つまり新型コロナが自国で収束できたからと言って、どこかの最貧国で蔓延している限り、いつかはまた世界的な流行が戻ってくるかもしれない。だから目先は自国優先でも、いずれは国際協調しなきゃだめですよ、よその国もちゃんと助けてあげてください、情けは人の為ならず、ということである。

〇で、どうするのよ、といえば具体策は難しい。途上国・最貧国の中には、国際機関の支援を受けること自体を潔しとしない国もある。真面目な話、独裁国家の場合はそれで政権が転覆するかもしれない。それで国内が混乱すれば、ますます感染が広がって収拾がつかなくなる。そういう波乱は、難民などの形でまた国境を越えてくるだろう。

〇最貧国の場合は、二国間の債務をどうするかという問題もある。早くもNGOの中には、「先進国は債務の棒引きを!」と言い始めたところもある。とはいえ、アフリカの国などにもっとも借款を行っているのは、今では先進国ではなくて中国だったりする。どうする中国。大盤振る舞い、しますかね?


<4月16日>(木)

〇うーん、不思議なことがあるもんだ。

〇一昨日の産経新聞「正論」に載った拙稿の提案が実現しつつある。まさか当日朝にアレを読んだから、ではあるまいが、14日の夕方に二階幹事長がぶら下がり会見で「一律10万円の給付」をぶちあげた。


■自民・二階幹事長、一律10万円給付を政府に要求「強力に申し入れ」(4月15日、産経新聞から)

 自民党の二階幹事長は14日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う追加の経済対策について、所得制限をつけたうえで、一律10万円の現金給付を政府に求める考えを示した。党本部で記者団に答えた。

 二階氏は「各方面からさまざまな提案がある」と述べた上で「一律10万円の現金給付を求めるなど切実な声がある。できることは速やかに実行に移せるように、党としても政府に強力に申し入れを行い、実行に移すことができるよう党としての責任を果たしたい」と強調した。

 とりわけ現金給付に関して「大変強い要望が集まっていることは承知している。できるだけ要望に応えるように努力していきたい」と語った。二階氏は、「所得がたくさんの方々に対してまで、やっていくだけの財政的なゆとりは困難だ」とも語り、給付が実現した場合には所得制限を設ける考えも示した。


〇自民党の総裁と幹事長は、会社でいえばチェアマンとプレジデントの関係なのだから、普通だったら直接、官邸に行って直接進言すればいい。ところが敢えてメディアに向けて言った、というところが尋常ではない。二階さんは官邸に喧嘩を売っているのか、本気で心からそう思っているのか、それとも単にボケているのか。(全部ありそうなところがますますコワい)。

〇ところがこれで慌てふためいたのが公明党であった。翌日にはこんなことになった。


■公明・山口代表、1人10万円の現金給付を政府に要請 安倍首相「方向性を持って検討」(4月16日、産経新聞から)

 安倍首相は15日、公明党の山口代表と官邸で会談した。山口氏は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策として、所得制限を設けない国民への一律10万円の現金給付を求めた。首相は「方向性を持って検討する」と応じた。会談後、山口氏が記者団に明かした。

 山口氏は「先が見通せずに困っている国民の状況に励ましと連帯のメッセージを伝えるべきだ」と強調。「緊急事態宣言を出してからの苦しみや影響を政治が敏感に受け止めなくてはならない」とも語った。

 公明党は現金給付をめぐり、政府の緊急経済対策に、収入が大幅に減ったことなどを条件に「1人当たり10万円給付」を盛り込むよう求めていた。ただ、政府は「減収世帯に30万円」を採用。党内からは「給付額が少なすぎる」「世帯単位への給付では国民の理解は得られない」などと異論が出ていた。


〇公明党としては、自分たちの主張を自民党に取られてしまう、手柄の横取りになってしまう、と焦ったようである。そこで、「追加補正で10万円配布」じゃなくて、今の補正をすぐに組み替えろ、と凄んだ。そんなこと言ったって、既に閣議決定した経済対策の中身を組み換える、なんて話は聞いたことがない。

〇確かに「減収世帯に30万円」という今の案はヒジョーに評判が悪い。「全世帯にマスク2枚配布」や、「安倍さんが自宅で過ごすツィッター動画」と同じくらいによろしくない。いや、布製マスク2枚の配布というのは、「これで全国の高齢者に安心してもらって、毎朝、マスクを買うために薬局の前で行列するのをやめてもらいたい」という深あぁぁぁい意図があるのだ、という解説もあるのだが、とにかくこれが賢い政府だとはとても思われない。

〇そこで今日になって、安倍さんは急きょ緊急事態宣言を全国に広げることにして、それもあるから「1人当たり10万円給付」に切り替えるという理屈をひねくりだしたらしい。いや、その方がずっといいですよ。老人から子供まで、全員に配られるのですから。四人家族であれば40万円です。せっかく108兆円という事業規模の予算を組んだのに、「ドケチ安倍」などと言われている現状はあまりにも情けないです。

〇過ちを改めるに憚ることなかれ。でも、これで補正予算の成立は1週間は遅れるでしょう。大型連休の直前くらいになりますでしょうか。問題はいつおカネが届くかで、リーマンショック時の定額給付金は、2008年12月に補正を通して、おカネが届いたのは翌年3月だった。同じことをやったらまた呆れられますぞ。あのときは住民基本台帳を使ったそうですが、もっといい手があるはずだと思います。

〇シンガポールでは「21歳以上の大人1人に600シンガポールドル(4〜5万円)」の給付金が銀行口座に振り込まれ、アメリカでは間もなくトランプさんのサイン入り小切手が届き始めるそうです。これで10万円が届くのが夏だったら、また日本政府は無能だと言われますぞ。そこはしっかりやってくださいまし。

〇それでも今回の変更は良いことだと思います。もっとも大事なことは、「政府は、ちゃんと空気が読めている」と国民が確認できることです。「減収世帯に30万円」では、喜ぶ人はほとんどいない。「1人当たり10万円給付」であれば、誰でもありがたみを感じられる。「政府の言うことも、少しは聞いてやろうか」と思う人だっているだろう。今回のコロナ危機では、国民は誰も悪くないのに、等しく我慢を強いられている。だったら、わかりやすい方がいいよね。そうでないと、ウイルスとの戦いに「縦深性」が出てこないのです。

〇もっとも今度のことでは、自民党政調会長のメンツは丸つぶれですな。まあ、しばらくはポスト安倍どころではありませんけれどもね。


<4月17日>(金)

〇Zoom飲み会、なるものを試してみる。最初はトラブったりしたので、実のある会話はほとんどなしで、あっという間に終わってしまったが、これはなかなかに楽しい。皆さん、基本的にリモートワーク中なので、缶ビールなどを片手に、互いの顔を見ているだけで十分に癒される。

〇もっとも、これで初対面の人に会うとなるとどうなるのか。互いにリアルで知り合っている同士だからすぐにノリノリになれるので、Zoom飲み会で新しい友達が作れるかというと、そこはちょっと違うかもしれない。この辺はSNS世代になると違うのかもしれませんが。

〇そういえば今日はコンビニに出かけた際に、すれ違ったご近所さんお二人と挨拶した。Yさんとは競馬つながりもあるので、ついつい皐月賞のことなども立ち話する。Stay at homeでも、いろいろ息抜きの場はあるということで。



<4月19日>(日)

〇アメリカの医療制度について調べていたら、昔、リーマンショックのころに散々お世話になり、ネタ元とさせていただいたこのブログがまだ続いていることに気が付いた。いやー、助かります。改めてご紹介。


●The Gateway to the US Labor Market


〇以前はGMやフォードのレガシーコストがどうなっているか、労組対策はどうするのか、オバマの景気対策の中身は、なんてことを教わったものです。今日の関心事は、なんといってもコロナ対策と医療制度ですよね。今回の緊急経済対策2兆ドルの一部でカバーされてはいるのだけれども、他方では共和党が「オバマケア廃止」を唱えている手前もあって、「無保険者を減らす」という方向には動いていないのですね。

〇他方、民主党側は党内予備選でさんざん「国民皆保険制」(Medicare for All)の議論を重ねてきた。今となってはさすがに嘘くさく感じられるようになり、サンダースは選挙戦から撤退し、現実論を唱えていたバイデンが残っている。とはいえ、バイデンは党内左派の離反を避けるためにも、この「MFA」を公約にしていかなければならない。

〇いくらアメリカが分極化しているからと言って、二大政党が方やオバマケア撤廃、方や国民皆保険制を唱えている。しかるに目の前にあるのは、新型コロナ感染による多数の死者と医療崩壊である。予想される死亡者数は以前は「10万人から24万人」と言われていて、最近ではトランプ大統領が「6万人から6万5000人」とやや楽観的な数字を挙げ始めたが、それにしたってベトナム戦争の死者数(5万8209人)は越えてしまう。

〇なんだかこれを機会に、アメリカが一気に社会主義に向かっても不思議はないような気がしてきた。これだけ大勢人が死ぬと、さすがに歴史は変わりますから。

〇ところでこのサイトを作っているFさんは、実はとっても忙しい人なのです。よくまあ本業の傍らで、こんな手間のかかることをやっておられますねえ。敬服いたします。不肖かんべえが、この溜池通信をダラダラと続けているのとは値打ちが違うのです。

〇ということで、是非このまま継続してください。原点へのリンクも張ってあって使いやすいし、米労働市場に関する問題を広範囲にわたって取り上げてある。ホントにありがたいサイトです。


<4月20日>(月)

〇今日はこの記事を見て笑ってしまったな。アメリカにおける経済活動正常化(Openning Up America Again)の動きについてです。分極化の極みにあるアメリカ、「いつになったら、外出禁止を止めて平常モードに戻れるか」も党派色を帯びてしまう。もっとはっきり言っちゃうと、選挙運動になってしまうのですね。


州別動向をみると、外出禁止措置解除に向け指針を発表したカリフォルニア州など民主党知事率いる10州は、経済活動の再開に向け連携済みです。中西部と南部でも17日、民主党や共和党の知事を問わず7州、ミシガン州(民)、オハイオ州(共)、ウィスコンシン州(民)、ミネソタ州(民)、イリノイ州(民)、インディアナ州(共)、ケンタッキー州(民)が再開で結束しました。感染者数のピークアウトを確認すると同時に新規失業保険申請者数の急増もあって、徐々に再開へ向けた道筋が固まりつつあります。

経済活動再開へ向けた動きは、ミシガン州で展開していた外出禁止反対デモが影響した可能性も。ミシガン州のホイットマー知事は民主党大統領候補の指名が固いバイデン氏の副大統領候補として有力視されるだけに、トランプ氏が横やりを入れるのも納得ですし、民主党知事が配慮してもおかしくありません。

共和党知事を擁するフロリダ州では、ホワイトハウスが経済活動再開に向けた指針発表後の翌17日、一部ビーチに対し時間限定のリオープンを承認しました。ワシントン・ポスト紙はビーチに集まる人々を指し
#FloridaMoronsのハッシュタグが流行中と指摘してましたっけ。


〇トランプ大統領は、民主党の有望株であるミシガン州知事には喧嘩を売り、フロリダ州知事は「愛いやつ」とみなしているのかも。そのフロリダ州は、ビーチで海水浴する人が出てきて、#Florida Moron と呼ばれている。Moron(愚か者)とは言葉がきつい。おそらく批判する側としては、Fool(馬鹿)Stupid (間抜け)では全然足りないと感じたのでしょうね。

〇なんとなれば感染症とは、「他人の健康状態が、自分の健康に直接影響する」ものだから。ヘビースモーカーが肺がんになるのは本人の勝手だが、周囲の人が迷惑するわけではない。(それにしたって受動喫煙や保険料の上昇という問題はあるのだが)。その点、感染症はまったくシャレになりません。他人の愚行にも、笑えるものと笑えないものがあります。

(追記:そういえばわが国には「江の島Morons」がおりましたなあ。いずこも同じか。読者の方から、「そういえばレックス・ティラーソン元国務長官が、トランプ大統領をMoronと呼んでいましたね」とのご指摘あり。そう、そうだった。とにかくFoolやStupidでは足りないときに、この言葉が使われるようです)


<4月21日>(火)

〇今日は久々に都内へ。ますはテレ東で「モーサテ」出演。テレ朝で感染者が出たこともあり、局内は非常に緊張感あり。出演者は2交代制となり、スタッフの数も絞り込んでいる。この人たち、よくやってるよなあ、と感心する。

〇本日から、コメンテーターはスタジオから少し離れたところで放送することに。秋元キャスターや大浜さんとはかなり距離がある状態で、掛け合いをしなければならない。今日のトークのテーマは、アメリカで急に高まってきた「経済活動再開の行方」について。「初物」の回は視聴者の注目度は高いものなので、今日のようなご指名には感謝あるのみです。

〇こんな日に、「NY原油、初のマイナス圏」という途方もないニュースが飛び込んできた。5月分のWTI原油先物価格がなんとマイナス37ドルに。そんな馬鹿な。インタビューを受けた高井裕之さん(住友商事ワシントン所長)が、「酪農家が売れ残った牛乳を捨てているようなもの」と、絶妙な解説をされていました。日糧1000万バレル程度減産したところで、需要の落ち込みの方がはるかに激しいので衆寡敵せず、ということらしい。

〇番組終了後は浜松町に移動して「くにまるジャパン極」へ。こちらも先週からスタジオが12階のホールに移動して、とっても広い場所で少人数にて放送を行っている。今日の「深読みジャパン」のテーマは、「10万円給付」で異例の組み換えとなった補正予算について。ちょうど先週の放送で、「減収世帯に30万円という案はよろしからず。定額給付の方がいい」と言っていたのだが、まさかその通りになるとは思いませんでした。

〇この2つの仕事、いずれも2009年4月からやっておりますので、もう11年目となります。うーん、長いわなあ。ちょうど始まったのがリーマンショック後の景気どん底のころからなので、今回はコロナショックも一緒に体験することとなりました。いつまで続くかわかりませぬが、なるべく長く続けたいと思っております。くれぐれもコロナなどに感染してはいけないのです。

〇これでまた、しばらく都内へ出かける用事はありませぬ。在宅ワークに戻ります。全世界のリモートワーク族よ、どうかStay safe and stay healthy. いつの日か、「あの時はひどかったよねえ」と一緒に笑える日が来ることを信じて。


<4月22日>(水)

〇今週号のThe Economist誌が今日になって家に届いた。以前は日曜日に届いていたのだが、最近はコロナウイルス蔓延のせいで到着が遅いのである。たしかアジア版は、シンガポールで印刷していたのではなかったか。飛行機の便も減っているから、その辺は仕方がないのであろう。

〇実を言えば年間購読者は、前の週の金曜日の時点でネット上で読めるので、本誌の到着を待つ必要はあんまりないのである。何しろ最近は、「電車の中で本誌を読む」という機会が失われているのだし。それに正直言うと、今の私には、この雑誌は字が細か過ぎるのだ。電車の中で読むときも、ホントはiPadの方がありがたい、なんてことになっている。

〇最近のThe Economist誌は、Covid-19関連の記事はフリーにします、と宣言している。だって全世界が必要としているでしょ、ということである。その意気やよし。長年の読者として申し上げると、世の中がひっくり返るようなこと――9/11とかリーマンショックとか、今回の新型コロナといったことが生じたとき――この雑誌の論考はいつも感心させられます。

〇で、今週号のカバーストーリーは"Is China winning?"(中国が勝つのか?)である。これは外交専門家の間で流行の議論で、戦争や大きな自然災害があった後には国際関係が変わる。ひょっとしてアメリカの指導力が低下して、これから中国の時代が来るんじゃないのか。これはよくある議論だが、The Economist誌は「そうじゃないだろう」としている。

〇確かにアメリカときたら、「WHOにもうカネは払わん!」などという低次元な腹いせをやっている。トランプ政権下のアメリカは、エイズやエボラ熱のときのように世界を先導するつもりなどさらさらない。その点、中国は他国に先駆けて疾病を封じ込め、全世界にマスクを配ったりしている。これでは「地政学的転換点」になっても不思議はない。

〇ただし、そうはならんだろう。まず、中国がそんなに上手くやったかどうか、われわれには確認のしようがない。ごまかしがあるかもしれないし、台湾や韓国のような民主主義国の方が対処は優れていたのではないか。(ここで日本の名前がスルーされるのは当然だが、ちょっと寂しい)。これから先に中国経済が復調するかどうかだってよくわからない。

〇しかも、中国のプロパガンダはまことにウザい。他国の悪口を言うし、「病原菌アメリカ発生説」みたいな陰謀論もほのめかす。逆に西側先進国は、中国に対する猜疑心を深めている。それに中国は、アメリカに代わる力を有しているとは思われない。中国にはグーグルもなければハーバード大学もない。というか、本気で世界のリーダーを目指しているのだろうか。

〇おそらく中国は、世界の経綸を担いたい、などとは思っていない。今の秩序を維持するだけで結構で、そこで中国が邪魔されることがなければいい、と割り切っているのではないか。トランプのアメリカは確かにお粗末だが、その後釜が中国だったらこりゃあ悲劇である・・・てなことを言っておる。うむ、まとめかたが少々カジュアル過ぎたかな。真面目な読者は、ちゃんと原文に当たられますように。

〇で、ワシが思ったのは、「中国のプロパガンダは国内向け」だということである。「わが国は共産党の指導のよろしきを得て・・・」というお題目は、聞かされるほうはいい迷惑である。特に国内が阿鼻叫喚の状態になっている今の欧米諸国にとっては。ただし、あれは国内向けに言っているのだと思えば、そんなに腹は立たない。

〇中国の外交官が、出先の大使館から「わが国の対応は素晴らしかったのに、西側政府の対応は見ちゃいられない」みたいなことを言うのは、あれは北京のお偉いさん向けに向けてアピールしているのであって、さすがに本気で言っているわけではないだろう。そうでないと、14億人が収まらなくなるかもしれないのだ。

〇ちなみにThe Economist誌はマジメに心配しているようなのだが、中国が最貧国向けの債権を減免して、全世界に向けて恩を売る、なんてこともあり得ないだろう。それをやったら、中国国内では「なんでそんなムダ金を使うのだ!」という民草の怒りの声が、澎湃として起こるはずだからだ。(そういえばベネズエラ向けの債権って、どうなったんでしょうねえ。石油で返してもらうと言っても、その石油価格はどえらいことになっているわけで・・・)。

〇The Economist誌はまことに辛辣で、こんなことも言っている。"In the past China has haggled over debt behind closed doors and bilaterally, dragon to mouse, to extract political concessions."「かつての中国は債務国に対し、二国間だけの密室において、龍がネズミを睨みつけるようにして政治的譲歩を迫ってきた」と。まあ、確かに「徳」のない国なのです。もっとも今の世界は、どこを見渡しても「徳」なんてありませんけど。


<4月23日>(木)

〇なんで石油価格のマイナスなんてことが起きるのか。ワシも今回初めて知ったので、そのカラクリをご紹介しておきましょう。

〇NYMEXで取引されているWTIというのは先物価格であって、今回マイナスになったのはその5月限という分。現物の引き渡し日は4月21日で、ロングしている投資家は当日になったら、オクラホマ州クッシング市というところへ現物を取りに行かなければならない。しかもどんな油種を渡されるかは、その場に行ってみないとわからない。

〇引き取った現物の原油は、タンクローリーか何かに積んで持ち帰らなければならない。どこかのタンクに預けておければいいのだけれども、今は備蓄用タンクはどこもパンパンの状態で、引受先がないらしい。そうなると、テキサス湾岸にあるどこかの製油所へもっていくしかない。

〇そこで先物を買っていた投資家は、「おカネをつけるから誰か何とかしてくれ〜!」ということになったのでしょう。何しろ原油は捨てるわけにいかない。ただの金融商品だと思っていた投資家は、さぞかし驚いたことでしょう。これは嵌めた側が、「お見事」ということになります。

〇それにしても困ったもので、石油が売れない。世界で消費される石油は日量1億バレルといいますけど、OPECプラスが決めた減産量はその1割程度。需要の方はどれだけ減っているか。ガソリンやジェット燃料の需要を考えれば、2割、3割減は当たり前。需給を考えれば、石油価格がすぐに上がるはずがないのである。こうなると「地政学リスク」なんぞも出る幕がない。

〇トランプ大統領は、「サウジからの石油禁輸」などと口走っておりましたが、これもできない相談なのです。なんとなれば、米国産は軽質油でサウジ産などは重質油。テキサス湾岸などにある製油所は、輸入する重質油対応である。だからアメリカは軽質油を輸出して、サウジ産の重質油を輸入しなければならない。これが米国における「エナジー・インディペンデンス」の実態です。だいたい皆が困っているときに、「自分さえ良ければ・・・」と考えることは、得てして失敗するものであります。

〇などと偉そうなことを書いておりますが、本日「岡江久美子?それって『あみん』の人?」と口走って、オバゼキ先生にたしなめられたのは不肖かんべえである。しょうがないじゃないか。「はなまるマーケット」なんて知らないんだもの。まあ、「連想ゲーム」の記憶はあるので、多少恥ずかしくはある。


<4月24日>(金)

〇テレビでニュースを見ていたら、知っている人が出ていた。チェーンストア協会の専務理事さんである。3カ月前に、同協会の新年会で講演会講師を務めさせていただいた。帝国ホテルで、まことに盛大な会合であった。今から思うと、まるで夢のようである。あれだけ大勢の人を前に話すなんて機会は、この後、いつになったら可能になるだろうか。

〇スーパーマーケット業界を巡る環境も激変した。1月時点では、いつになったら消費税増税の影響を乗り越えられるか、が課題であった。今やスーパーこそが、我々にとってのライフラインである。そこで働いているレジ打ちのおばさんは、「エッセンシャルワーカー」と呼ぶべきであろう。コロナ感染へのリスクを承知で働いてくれているのだから。在宅勤務をしている者としては、若干の罪悪感を感じるところである。

〇専務理事さんに、「見ましたよ」とメールを送ったら、速攻でこんな返事が返ってきた。


TVではカットされていましたが、昨日の取材では、

@感染防止には、何よりましてお客様のご協力が必要

Aお店は、広さ、立地等多様であるので、一律ではなく様々な対策を組み合わせながら感染防止に取り組んでいる。

B従業員もお客様のために頑張っているので、お客様も温かい気持ちで接して欲しい。

という3点を強調しました。


〇ごもっともであります。私もスーパーが大好きです。今日は牛乳やキウイを買いました。土日はなるべく避けようと思います。


<4月26日>(日)

〇あいかわらず冴えない週末である。

〇ふと思いついて、懸案となっていたLINEのアカウントを作成してみる。一晩たったら、いきなり友達が70人くらいできていた。「田中さん」だけで4人もいる。お懐かしい人もたくさんいる。

〇さっそくメッセージも届いている。適当に返事をしながら、はてさて、これって何に使うのだろうか、「グループ」もまだない。よく聞く「既読スルー」がなんのことかもわからない。

〇さらに知り合いの探し方がわからない。町内会長さんから「早く入ってください、防犯部の連絡が楽になるから」と言われていたのに、その町内会長さんが見つからない。不思議だ。電話番号は知っているのだが。

〇まあ、フェイスブックも最初のうちはわからなかったので、そのうちLINEも中毒するのかもしれない。家から外に出られない状態だと、きっとこういう道具が重要になるのだと思う。今の時点ではまったくの初心者である。


<4月27日>(月)

〇補正予算が国会に提出されました。これを衆院で2日間、参院で2日間審議して、4月30日には成立させる。というのは、わが国的には「速いっ!」と言われるのでありましょう。と言っても「シャアなのか?」と褒めるほどのことはありません。すべては「国対政治」がなせる業でありますので。

〇アメリカは2兆ドルの緊急対策をわずか1日で通しました。さらに今月になって、4800億ドルの追加策も通しました。それはどういうことかというと、アメリカでは共和党も民主党も「オーナーシップ感覚」があって、「ここで予算の成立が遅れたら、秋の選挙でえらい目に遭う」と思っている。この点が日本とは決定的に違います。

〇日本の国会は野党が主役です。野党はオーナーシップ感覚がないので、ときどき「審議拒否」など「やんちゃ」な手法を取ります。議会政治としては邪道でありますが、それが慣例として積み上げられてきました。議会政治は数が力ですから、本当なら与党が毎回強行採決でもまったく構いません。ただし、それを繰り返していると国会審議は空洞化しますし、下手をすれば次の選挙で与党はお灸を据えられます。それでは与党は困るのです。

〇そこで与党は、野党に手を差し伸べます。野党議員の中には、とにかく与党案を廃案にすれば「勝ち」と思っている人もいますので、ときには「寝て」しまいます。それを起こして審議に出させるのが与党の力量というものでありまして、今回のようにほとんど与野党に意見の差がない時でも、ちゃんと野党に花を持たせてあげる場面を作るのがお約束なのです。

〇不思議なことですね。われわれは小学校時代から、「民主主義とは少数意見の尊重」であると教わります。本当は「最大多数の最大幸福」のはずなのですけどね。そして国会では、与党は野党のわがままを聞いてあげるのが仕事です。今回のように、補正予算を速攻で通したいときは、特にそうすべきでしょう。辛抱、しんぼう、辛抱する木に花が咲く。汗は自分でかきましょう。手柄は人にあげましょう。これぞ日本の民主主義。

〇ただし今回の場合、コロナ危機に立ち向かう主役は地方自治体です。彼らは補正予算が通るのを待っていて、自治体によってはすでに「10万円配布」の手続きに踏み切っているところもあります。すばらしいことだと思います。中央政府としては、なるべく5月の大型連休前に日にちを残して補正を通してあげるのが親切というものです。

〇うーん、だったら1日で補正を通すって、できないことなのかなあ。「ないものねだり」を排するのは当溜池通信のモットーではありますが、今日などはせんないことを考えてしまうところであります。わが国の政治はまだまだ平時モードで運営されていて、まだ有事モードにはなっておりませんなあ。


<4月28日>(火)

〇今週は金融政策ウィークで、重要な経済統計も相次ぐ。とりあえず今朝は労働力調査と有効求人倍率。簡単に言うと、こんな感じでした。


●完全失業率: 12月2.2%→ 1月2.4%→ 2月2.4%→ 3月2.5%

●有効求人倍率: 12月1.57倍→ 1月1.49倍→ 2月1.45倍→ 3月1.39倍


〇相当に悪化するのかなあ、とハラハラしていたのですが、意外と大したことはなかったですな。今日の日経新聞夕刊は、「求人 3年半ぶり低水準」と一面トップで書いてます。でも、失業率の悪化はわずか0.1%にとどまりました。

〇しかもですな、この辺が不思議なところで、実数で見ると雇用はちゃんと増えているのです。雇用者数なんて、季節調整値でみると過去最高だったりします。いつものことですが、変化率ばかりに捉われてはいけません。錯覚行けない、よく見るよろし。


●就業者数は6700万人。前年同月に比べ13万人の増加。87か月連続の増加

●雇用者数は6009万人。前年同月に比べ61万人の増加。87か月連続の増加

●完全失業者数は176万人。前年同月に比べ2万人の増加。2か月連続の増加


〇だったらアメリカの場合はどうなるのか。過去5週間で新規失業保険申請件数がトータル2600万人にも達している。これはざっくり全雇用者数の15%くらいなので、おいおいアメリカの失業率はいったい何%になるんだ? 5月8日に発表される4月の雇用統計は? 先月は70万人減だったNFPは、2000万人減くらいになるのではないのか? いったい、どんな形のグラフになるのだ?

「そうでもないらしいぜ」という説もある。このセリフ、その昔、『太陽にほえろ』の中でヤマさん(露口茂)がよく言ったんだよな。若い刑事たちが焦って騒いでいると、ヤマさんがふらっと部屋に入ってきて、このセリフを吐くのである。そうして皆があっと驚く情報をもたらし、事態は新しい局面を迎えるのであるが、実にカッコいい。ああいう役者さん、最近は見かけなくなりましたなあ。

〇米国で家計を対象にして行われたアンケート調査によれば、危機発生以前は60%くらいあった労働化率が、52%くらいに下がっているらしい。これだけで2000万人くらいに相当する。これは容易に想像の付くところで、そもそも新型コロナが怖いから、外出もできない。そんな中でどうやって職探しをするのか。

〇あるいはベビーブーマーの先頭世代(トランプさんやヒラリーさん)あたりは、今回のコロナ騒動を機に完全引退に向かうかもしれない。だってリスクも高いし。となれば、失業率の分母であるところの労働力人口が減ってしまう。職探しをする人が減ると、分子である完全失業者数も減ることになる。だったら、4月の雇用統計は意外と変化が小さいのではないか?

〇いやいや今回の場合、2600万人が失業保険を受給してしまっている。この人たちは、さすがに労働省に対して、「職探しはしてません」とは言えないはずなので、やっぱり失業率は高くなるのでは、との見方もある。つまりは両方ありうるわけなので、どっちにせよ5月8日の雇用統計はハラハラしながら待つことになるでしょう。


<4月29日>(水)

〇長らくほったらかしにしていた『スクエア・アンド・タワー(上・下)』(ニーアル・ファーガソン/東洋経済)をやっと読み終える。面白い本なので、ここで何か気の利いたことを書いてやりたいのだが、それがなかなかに難しく、さっきから筆が進まない。

〇それというのも、本書は全編「気の利いた話」満載の大著であって、「ふーん、なるほど!」と思う話があり過ぎるくらいである。どれとどれを取り上げようか、という時点ですでに迷ってしまう。真剣に取り組もうとすると、それこそ再読しなければならなくなる。いくら暇な身の上とはいえ、そこまでする気はないので、ちょこっとだけコメントしておこう。

〇本書のコンセプトについては、既にお聞き及びのことかと思うが、500年にわたる世界の歴史を「ネットワーク」と「階層性」(ヒエラルキー)という縦横の原理に分解して解き明かすものである。スクエア(広場)とはネットワーク、タワー(塔)とは階層性のことを指す。ネットワークはクリエイティブで世の中を大きく変える力を持つが、それは世界を不安定なものにもする。そして階層性が勢力を伸ばす時期もある。縦横2つのベクトルが世界の歴史を織りなしてきた。

〇ひとつひとつのエピソードは面白いが、短い。それもそのはずで、この手の話を精緻にやろうとしたら、かならずどこかで破綻が生じるだろう。そこで深入りを避けつつ、500年の歴史を語ったら結構な大著になった。とはいえ、世界史を見る目が変わることは間違いない。例えば、「20世紀中期には電話とラジオで組織の階層化が進んだ」などという指摘は面白い。そして「1970年代からネットワーク化が始まる」というのも。

〇問題はこの21世紀である。ネットワーク化の弊害があちこちにでてきて、2016年のBrexitとトランプ当選などはその典型であろう。「ネットワークは良いアイデアをあっという間に世界に広めるが、悪いアイデアもまた広める」からだ。それもグーテンベルクの印刷術が、宗教改革の発端になった時代とは明らかに速度が違う。

〇そういう意味では、昨今のコロナ騒動によって、世界は再び階層性への回帰のきっかけを掴むのかもしれない。「ネットワークと階層性」と聞くと、前者を称揚して後者をくさす本かと普通は考える。しかるにファーガソンは適度に保守的な人のようで、そこは公平に書かれている。GAFAやSNSに対する評価は辛辣なものがある。

〇ファーガソンという人は、つくづく大変な学者だと思うのだが、本当の意味での歴史学者ではなさそうだ。そりゃあハーバードをやめてスタンフォードに移る(日本でいえば東大を辞めて慶応SFCに移る、みたいなものか)なんて、普通はしませんがな。おそらく彼自身は、「これからの時代はウォール街よりもシリコンバレーだろう」みたいな嗅覚でこの転身を行っている。適度に生臭い人なのだろう。

〇その一方で、「19世紀の欧州は平和であったが、太平天国の乱が最大の戦いであり、同時代のパラグアイ対アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイの三国同盟戦争や、アメリカの南北戦争より甚大な被害をもたらした」なんてことをサラッと言えてしまうのはすごいと思う。こんな風に歴史を縦横無尽に語れるようになってみたいものである。歴史の研究自体が目的ではない。現実の判断に活かせなかったら意味がない、と考えているのだろう。

〇こういうインテリって、日本は少ないですよね。きっと、「アイツは学者じゃない」などと言われてしまうでしょう。ただし、ファーガソンの対象はとっても広くて、「大英帝国の歴史」「マネーの進化史」「キッシンジャー」などに及ぶ。並みの学者にできることではない(読んでないけどね)。

〇と、ここまで書いたら気が晴れた。やれやれ。


<4月30日>(木)

〇全国知事会などで、「9月入学」を要望する声が高まっているとのこと。もともと、「そうすりゃいいのに・・・」と考えていた不肖かんべえであるが、こういうタイミングで成り行きで決めるのはちと拙かろう、と考えるものである。

〇グローバルスタンダードである9月入学に、というのは、今のような時期には皆が賛成しやすいのであるが、もともとが難しい話なのである。日本という国は、いろんなものが「4月はじまり、3月終わり」でまとまっている珍しい国なのだ。会計、財政、統計、人事、採用、新学期などがみんな「年度」(Fiscal Year)でまとまっている。これをサポートする仕組みとして、「5月の大型連休」がある。気づいてましたか?

〇普通の国はそうではない。アメリカは議会が1月始まりだが、財政は9月末締め、10月始まりである。企業の決算は3月末締めが多くて、新学期は9月からである。6月に大学を卒業した学生たちに対し、「新卒の一括採用」という制度はない。「通年採用」が普通である。そんな季節感の乏しいシステム、想像できますか?

〇わが国における「4月はじまり、3月締め」という仕組みは、最初から存在したわけではない。いつの間にかここに収れんしたのである。その最大の原動力は、「春になると桜が咲くから」であったとワシは確信している。だから「春は出会いと別れの季節」となる。それはいわば国民的な合意といえよう。

〇こういうことを変えるのは難しい。「グローバルスタンダードだから」「留学にもそのほうが便利だから」などと理屈を説いても、この岩盤を動かすことは難しい。だって制度というものは、皆が何となく「そういうものだ」と信じ込んでいるものの集大成だから。「桜があるから4月入学」というのは、まことにくだらない思い込みであるが、だからこそ変えにくい。そもそも自覚されてないし。

〇ところがこの国は、「格差ができること」に対して病的なまでに忌避感がある。「学習ができない気の毒な子供がいるから」というと、みんな一緒に9月で合わせましょう、という声が強くなる。だったら感染者0人の岩手県の子供はどうするのか。ワシ的には、彼らはちゃんと来年3月には卒業させてやれよ、と思う。かわいそうな子供は同情してもらえるが、ちゃんとやった子供は無視される。この国の教育システムではよくある話である。

〇ということで、この人の意見に同意するものである。競馬では意見が合わないことが多いのだけどね。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki