●かんべえの不規則発言



2009年10月






<10月2日>(金)

○IOC総会の投票まであとわずか。不肖かんべえは、今宵の「夜エクスプレス」に出演する際に、「東京オリンピック誘致」のバッジをしていきました。でもねえ、このページを見たら、世界の趨勢は「東京が一番の泡沫候補」なんですねえ。ああ、嘆かわしい。

○鳩山さんがわざわざ出かけていって、これで東京が勝ったら「神光臨」ですが、それもちょっと高望みのようで。うーん、あとちょっとで結果は出るようですが、かくなる上は見ないで寝てしまおう。それにしても、最初に落ちるのが東京だったら「ムカ度高〜し」でありますな。


<10月3日>(土)

○そうですか、最初に落ちたのがシカゴでしたか。実はintrade.comをチェックしたら、彼らはアメリカに来る確率が6割と読んでたんですね。ただし予想屋さんの間では「本命=リオ、対抗=シカゴ、穴馬=マドリッド、注意=東京」ということであったらしい。

http://www.intrade.com/jsp/intrade/common/c_cd.jsp?conDetailID=476053&z=1254559710109# 

○消息筋の間では、以前から「シカゴは消しだ」という情報も流れていて、それはソルトレークシティの冬季五輪で汚職が多発したから。ソルトレークシティで起きるんだったら、シカゴで起きないはずないだろ、それは洒落にならん、という読みです。アル・カポネの時代からの、「あそこはしょうがねえ」という印象が今でも残っているらしい。つい最近も、ブラゴジェビッチ・イリノイ州知事が「オバマ大統領の後任の上院議席の座を、カネで売ろう」としてFBIに逮捕されておりますからね。

○それがあってかオバマ大統領も、自分の地元であるにもかかわらず直前まで応援に腰を上げず、ミシェル夫人が応援団長ということになっていた。最終段階で、みずから「トップセールス」に踏み出した理由はよく分からない。CNNでオバマのシカゴ招致応援演説を聞いてみたけれども、あまり力が入っておらず、五輪を誘致するロジックも今までに散々聞いた話の焼き直しで、いかにも「こりゃあダメだ」という感じでありましたな。

○最近のオバマさん、やっぱりどうもいかんのです。とにかく得意技の演説がうまく決まらない。9月9日の議会合同演説は乾坤一擲の勝負どころで、谷口智彦氏も激賞している内容でしたオバマ「勝負演説」の罠と鳩山政権の限界。あの演説は、「嘘つき!」というヤジを引き出すように設計されていたというのは、わが国最高級のスピーチライターである谷口氏ならではの分析だと思います。

○ところがこの演説が、医療保険改革を推進するどころか、みずからの支持率を上げることにもつながらなかった。そのうち、カーター元大統領が「皆が反対するのは彼が黒人だからではないか」などと、言ってはいけないことを言い出したりして、いよいよ雰囲気が悪くなってきた。とにかくこのままだと、ほかの法案も全部進まない。昨日発表の雇用情勢もよろしくない。株価も下がる。イランの秘密核濃縮施設が発見されて、「これはキューバ危機にも匹敵する脅威ではないか」と言われている割には対応が鈍い。

○ここへ来てやっと見えてきたことですが、オバマにはいくつか欠点がある。ひとつは「モノグサ」なこと。政策の細かい部分を詰めるよりも、誰かに丸投げして自分はカッコいい演説をやって、現実的な線で妥協して落とすことに快感を覚える。彼は実は、政治のプレイヤーではないのではないか(オバマ・チアリーダー論)。それから「落ち着きがない」ことで、いつも多くのテーマを抱え込んでいて、医療にしろアフガンにしろ個々の政策に割く時間が短か過ぎる。さすがはi-pod時代の大統領で、瞬間ごとに巧みに受けを拾っているけれども、果たして彼にとって譲れない一線が何なのか分からない(オバマ・シャッフル論)

○ともあれ、IOC大会で「最初に落ちたのがシカゴ」というのは、非常に分かりやすいオバマの失点です。え?鳩山さんはどうかって? そんなこと、ワシはまったく興味ありませんがな。


<10月5日>(月)

○今日、某出版関係者から聞いた話。

問い:今週はノーベル賞ウィークだけど、はたして村上春樹は文学賞を取れるでしょうか?

答え:たぶん無理でしょう。なぜなら『1Q84』の英語翻訳が間に合ってないから。ノーベル賞をとれば、本は全世界で売れるに決まっているのだから、間に合わないときにあげるはずがない。

感想:ノーベル賞も、直木賞とあんまり変わらない発想をするものなのかねえ。

○ところでこんなものができたらしい。先日、ライブドア社からメールをもらって、生返事をしていたらワシもメンバーに入れられていた。自分で見る気にはなりませんけれども、ご関心がある向きはどうぞブックマークを。

●BLOGOS http://blogos.livedoor.com/ 


<10月6日>(火)

○昨日の話を少し修正。ノーベル賞の選考委員たちとしては、かなりボリュームのある新作の村上作品があると知れば、まずはそれを読んでから判断したいと考えるだろう。ゆえに『1Q84』の翻訳が間に合わず、続編が出るという噂もあるのだったら、今年はないだろう、ということだそうです。そのほかに、エルサレム賞受賞と同じ年に重なることも考えにくい、という「読み筋」もあるのだとか。

○せっかくですからブックメーカーの意見も聞いてみましょう。


The full list:

Selection Odds

Amos Oz 4/1

Assia Djebar 5/1

Luis Goytisola 6/1

Joyce Carol Oates 7/1

Philip Roth 7/1

Adonis 8/1

Antonio Tabucchi 9/1

Claudio Magris 9/1

Haruki Murakami 9/1

Thomas Pynchon 9/1

Thomas Transtromer 12/1

(以下略)


○こうしてみると知らない人ばっかりですな。いや、単にワシが知らないだけかもしれませんが。この中で村上春樹氏は明らかに「ビッグネーム」でありましょう。オッズは9対1。馬券で言えば中穴クラスで、そういう意味では今年、来てもまったく不思議はない感じです。

○と、ここで話が飛躍するのですが、ノーベル賞もオリンピックも、決まって喜ぶ人よりも外れてガッカリする人の方がはるかに多い。一喜一憂はつきものですが、だからといって振り回されるのは考えものです。

○東京もIOCで落選したからといって、恥じたり落ち込んだりする必要はないんだと思います。使った150億円がもったいないという人もいますけど、東京都の予算規模を考えたらけっして大きな金額ではない。東京を国際的にアピールして、将来の海外からの投資や観光客を増やす広報予算と思えば、前向きの投資というものだと思います。

○ただし反省はしなければならない。今朝の文化放送「くにまるワイド」でも申し上げましたが、東京は情熱でマドリッドに負け、大義名分でリオに負けた。2020年に再度、立候補すべきかどうかは、「情熱と大義名分があるかないか」で判断すべきでしょう。もちろん、日本国内の別の都市が名乗りを上げるのもアリですけれども、次回、インドやアフリカの国が手を上げてきたときに、「それでもウチがやるべきだ」と言い切れるかどうか。それを考えると、再挑戦のハードルは意外と高いのかもしれません。


<10月7日>(水)

○民主党という組織は、長らく官僚機構を当てにできなかったために、政調部門が大所帯となる「慢性的政調肥大型組織」となった。そういう状態で10年以上も経過したために、現在では政策立案能力はそこそこ高くなっている。得意分野を持つ政治家も育ったし、それを支えるスタッフもいる。現在は、そういう人たちが張り切って仕事をしている。それは大いに結構なのであります。

○ただしここでいう政策能力は、「年金の長妻」とか「安保の長島」などのように、特定の分野に偏っていることが多い。要は政策オタクなのです。だから政務の感覚が欠けている。さらにいえば、全体を見回して政策をパッケージで考えるという習慣がない。だから「CO2は25%削減」と言う一方で、「高速道路無料化」を唱えたりする。お前ら、いったいどっちやねん。ついでに言うと、あれだけ企業イジメをやって経営マインドを冷やしておいて、これから雇用対策をやりますというのは冗談にしか聞こえない。どうもやってることがチグハグなんです。

○本当であれば、国家戦略局なるものをキチンと作って、そこで総合調整をやるのが筋でしょう。でないと、めいめいが勝手に「自分がやりたいこと」を始めてしまって、収拾がつかなくなる(もう既にそうなっているという気もするが)。ところが現状は、官邸と国家戦略局と行政刷新会議と各省庁の利害が対立し、ほとんど方針が示されないままに物事が動いている。政策オタクたちに、「おのおの方、存分に暴れてよし」と言っているようなものだから、しばらくは落ち着かないでしょう。

○こんな風に、トップダウンが得意ではなくて、末端が「部分最適」作りを熱心にやってしまうというのは、日本の組織の典型といっていいでしょう。大局観を持ったり、優先順位をつけるのが苦手。ミドル層が好き勝手をやるものだから、ときどき動きが止まってしまう。そこで「鶴の一声」が必要になる。民主党も、某幹事長が居なくなったら、困ってしまうかもしれませんな。自民党は「究極の日本型ムラ社会」といわれたものですが、民主党も「典型的な日本型組織」なんじゃないかと思います。

○ところで明日は、内外情勢調査会の講師で熊谷市に行く予定です。でも台風が直撃する模様なので、ちゃんと電車は動いてくれるかどうか心配。そんなことを考えている間に、日付が変わって10月8日。ああ、またひとつ年をとってしまった。


<10月8日>(木)

○案の定、今朝乗った電車は、強風のために武運つたなく松戸駅手前で止まってしまいました。車内に閉じ込められなかったのがせめてもの幸いというもので、やむを得ず、馬橋駅前でタクシー待ちの行列に着きました。あんまり長くて、待っている間に今朝買った週刊新潮を読み終えてしまいましたな。ようやく乗れたタクシーの中から電話をかけようとすると、皆が似たようなことをしているせいか、ケータイも通じない。果たして昼までに熊谷市につけるのか。危うし。

○講演会の講師の仕事というものは、どんな忘れ物をしてもいいから、とにかく予定の時間までには会場に駆けつけなければいけない。逆に言えば、今日みたいに台風が首都圏を襲っている日は、「とにかく来てくれただけでありがたい」と感謝してもらえる。ということで、無事に着けるかどうかが大問題なのである。都心に向かう道路はもちろん渋滞中。幸い運転手さんが地元の地理に詳しい人で、空いている裏道を選んで通りつつ、上野方面を目指しました。

○ところが携帯が通じるようになり、諸般の情勢が分かってみると、どうやら新幹線も在来線も止まっているとのこと。つまり上野に着いたとしても、そこから先には行けない。いよいよ非常手段発動であります。「運転手さん、すいません、高速に乗ってください」。・・・・・ということで、熊谷市までタクシーで行くことになってしまいました。

○さすがに長旅です。2時間以上も乗っていると、運転手さんといろんな会話を交わすことになります。そこで聞いた、ちょっと面白い話をご紹介。要するにタクシーを狙った新手の詐欺の手口です。

(1)スーツを脱いで、片手に持った客がタクシーに乗り込んでくる。ドアが閉まるところで、「あ、スーツ挟んじゃった。もう一回、ドアを開けてくれる?」と客が言う。運転手さん、「すいません」と謝りつつ、ドアを開ける。タクシー、無事に発進。

(2)ややあって、客がスーツのポケットを探って、「ああっ、メガネが壊れちゃった!」と騒ぎ出す。実はスーツの中に、あらかじめ安物のメガネが仕込んであるという寸法である。「さっき、ドアに挟まれたときに割れちゃったよ。困ったなあ、これ高いのに」。

(3)ここで客は、なるべく紳士的に話すのがコツである。「8万円もしたメガネなんだよ。運転手さん、悪いけど、半分出してくれないかな」。4万円という金額がまことに頃合いの水準であるらしい。ここで「そんなに持ってませんよ」、「そりゃそうだよね。まあ、そんなに新品でもないから、もっと安くていいよ」てな会話が続き、最後は1万5000円くらいで示談が成立する。

(4)客を降ろすときに、運転手さんはつい「お代は結構ですから」と言ってしまう。これがダメ押しで、後で詐欺だとわかって悔しい思いをする。

○こんな手口が多発しているそうです。しかしまあ、変なことを考えるものですねえ。

○結局、会場には余裕で着くことができましたが、料金は3万4700円。不肖かんべえが今までに払ったことのある、タクシー金額の最高金額でありました(もちろん、後ほど主催者さんに請求することになるので、さすがに自腹ではありません)。運転手さんに聞いてみると、今までの最高金額は千葉県松戸市から福島県いわき市というのがあるそうで、それでも「今日のは生涯のトップ10には入りますね」。聞けば徹夜明けで、そろそろ店じまいしようと思っていたところだったとのこと。いやはや、お疲れ様でした。

○帰りはちゃんと新幹線が動いていました。乗ってしまうと、東京駅までわずかに40分。交通インフラが普通に動くことのありがたみを教わった一日でした。


<10月11日>(日)

○オバマ大統領にノーベル平和賞。現職にあげちゃうかねえ。彼ってまだ任期の8分の1を過ぎたところなんですけど。辞退するわけにもいかないだろうけれども、このタイミングで「ご苦労さん賞」をもらって、いいことは何もないと思うがなあ。少なくとも、これで一気に国内の支持率向上ということにはならないと思うぞ。オバマさんも内心、「ありがた迷惑」と思っているのではないだろうか。

○日中韓首脳会議。今回、主催国となる中国が、急に開催を申し入れてきたのは8月下旬だった。ということは、その時点で温家宝首相の北朝鮮訪問が決まり、日本での政権交代が見えていたからであろう。そういう中国側の思惑を考慮せずに、われらが鳩山首相の発言ばかりが取り上げられるという報道はいったい何なのか。国中あげて、騙されたいのであろうか。

○セリーグ3位争い。最後はヤクルトの2連勝で決まりましたな。お陰で阪神の弱さが改めて納得できました。トホホ・・・。リーグ優勝が決まった後も、これだけ興味を引っ張ってくれたのは、CSという制度のお陰なわけですが、負け越ししているチームが日本一になる可能性があるというのは、やっぱり変ではないか。


<10月13日>(火)

○目が醒めて、はたと気がついたら、今日は文化放送「くにまるワイド」の日であった。慌てて着替えて家を飛び出すも、定期券も手帳も忘れてしまった。番組には普通に間に合って事なきを得たけれども、どうも連休中に気が抜けてしまったようだ。でも明日は魚津市で、金曜日は高松市だ。来週は確か仙台市があったはず。こんなことでいいのか、ワシ。

○オバマ大統領の身になってみると、今月は10月2日にIOC総会で見事にこけて、その1週間後の10月9日にノーベル賞の知らせがもたらされたことになる。前者はコペンハーゲンで、後者はオスロから、北欧発のニュースが米国政治を揺るがしたことになる。ただし客観的に見た場合、シカゴは最初に落とすほど悪い選択肢ではなかったし、ノーベル平和賞をあげるのであればもう少し後にした方がよかったと思う。

○ノーベル賞については、ここで紹介されている通りで、3対7くらいで否定的な評価の方が多いと思う。とりあえず12月に行なわれる授賞式では、またまたオバマの受諾演説がセットされるわけであるが、その前にアフガニスタンは増派するのか、しないのか。イランや北朝鮮の核開発をめぐる状況は改善するのかどうか。ノーベル賞というのは"Achievement"に対して与えられるものであって、"Expectation"にあげちゃいけないと思うのです。でないと、ほかの賞と基準が違いすぎるではありませんか。

○ちなみに本日のワシントンポストで、イグネイシァスがこんなことを書いている。


If you want to understand the sentiments behind the prize, look at the numbers in the Transatlantic Trends report released last month by the German Marshall Fund. Obama's approval rating in Germany: 92 percent compared to 12 percent for George Bush. His approval in the Netherlands: 90 percent compared to 18 percent for Bush. His favorability rating in Europe overall (77 percent) was much higher than in America (57 percent).

Obama's achievements are in the "good intentions" category, but that doesn't mean they are insignificant. America was too unpopular under Bush.
The Nobel committee is expressing a collective sigh of relief that America has rejoined the global consensus. They're right. It's a good thing. It's just a little weird that they gave him a prize for it."


○うーむ、そんなことで喜んでいていいのだろうか。ヨーロッパ人が喜んでいるときは、反射的に「マズイ」と思わなきゃいけないんじゃないだろうか。(例:鳩山さんの温暖化ガス25%削減提案)。政治家というものは、何より自国民を喜ばせなければいけない。他国で賞賛されることは、もちろん悪いことではないでしょうけれども、「世界の核廃絶より、まずは医療保険改革とアフガン問題を何とかしろ!」というのが米国内の世論だと思います。

○でも、ギャラップの最新調査によれば、ノーベル賞受賞後のオバマ支持率は56%に上昇したそうです。くれぐれも喜び過ぎてはいけません。


<10月14日>(水)

○前原国交相、羽田空港のハブ化を明言。こういうことが言えるようになったこと自体が、政権交代のご利益というものでしょう。ハブ化を目指すということは、言葉を換えれば「えこひいきをする」ということで、「関空も成田もセントレアもみんな平等に」とはいきません。そんなこと言ってたら、国際競争に負けてしまいます。すでに北東アジアにおける港湾のハブは、完全に釜山港に取られちゃいました。震災という不運はあったものの、神戸港のプレゼンスは今や大きく低下してしまいました。で、空はどうなる。仁川に負けたくなかったら、この辺で手を打たなきゃいけない。

○前原発言に対し、橋下大阪府知事は大変、ご不満だった模様。もちろん森田健作千葉県知事も怒り心頭です。「成田空港を守る」という点では、前任の堂本知事もこの業から逃げられなかった。でも千葉県民の一人として申し上げますが、好きで成田空港を使っている人はあまりいないと思います。皆さん、しょうがなくて使っている。千葉県も房総の先のほうになると、成田よりも羽田の方が便利だったりする。成田開港に関する血みどろの歴史は、もちろん知らないわけじゃございませんが、それだって30年以上前の話です。もういい加減、終わりにしませんか。

○政権交代してでも羽田のハブ化ができないようであれば、なるほどそれはあきらめるべきなのでしょう。後はやり方の問題です。前原大臣、自治体への連絡がなかったのはしょうがないとして、こういう発言をするときは、いちおう総理と官房長官くらいには仁義を切っておくべきではないでしょうか。八ツ場ダムで懲りてないのかなあ。せっかく手に入れた権力なんですから、大事に使ってほしいと思います。

○で、本日は富山県魚津市にて「にいかわ政経懇話会」の講師を務めました。魚津というのは「しんきろう」で有名な港町です。移動はJRでした。富山空港からクルマ、という選択肢もあったのですが、ここは上野駅から越後湯沢、もしくは長岡乗り換えがお得と見た。それに移動時間中は、仕事をするにもビールを飲むにも飛行機よりは電車の方が適しているというものです。

○考えてみれば、東京から富山というのは微妙な距離で、飛行機でも電車でも高速道路でもいける。この夏は「高速道路1000円」のお陰でクルマが増えて、飛行機の乗客数が減った。「高速道路無料化」となれば、この動きに拍車がかかるのでしょう。でも、2014年に北陸新幹線が開通した場合には、おそらく飛行機の便数が減って、JRに人が流れる。もっとも北陸新幹線は、どこがメインの停車駅になるかがまだ決まっておらず、「富山か金沢か」という争いが深刻化するかもしれない。地元にとっては、これは死活問題である。

○そんな風に考えてみると、人の流れというものは交通機関の条件一つで大きく変わってしまう。地方経済を考える上では、運輸行政はまことに重要なポイントです。でも、トータルな人の流れなんてことは、国交省は考えているのだろうか。航空局と道路局と鉄道局と自動車交通局が、それぞれに「局あって省なし」をやっているんじゃないのかなあ。前原さん、航空局ばっかり見てちゃダメですよ。

○てなことを考えていたせいではないのですが、帰りの電車で居眠りして見事に長岡駅を乗り過ごしてしまいました。お陰で新潟県のとっても寂しい駅で、反対方向の普通列車を待つこと30分。予定は大幅に狂ってしまいましたが、「地方経済とは何ぞや」に思いを馳せた一日でした。


<10月15日>(木)

○明日は新政権下で初の「月例経済報告」が発表されます。ちょっと気になりますね。そもそも誰が報告するのでしょう。以前は経済財政担当大臣の仕事でしたが、新政権では国家戦略局の担当となりますので、菅副総理か、それとも古川副大臣あたりか。

○中身にどんな変化が出るか、というのも注目点ですね。個人的には、なるべく従来と同じであってほしい(でないと、政府の資料としての継続性が失われる)のですが、さりとて新政権としては前例踏襲は避けたいでしょう。さて、どんな知恵を出しますか。

○特に「関係閣僚会議資料」は、しばしばマイナーチェンジが行なわれる。例えば今年4月までは、海外経済を紹介する部分は、「アメリカ経済→ヨーロッパ経済→アジア経済」という順序だったけど、今では「アジア経済→アメリカ経済→ヨーロッパ経済」という順序になっている。これは実態を反映した変更といえるでしょう。新政権は生活者重視ということで、物価や雇用を前に持ってきて、生産や輸出を後回しにする、なんてことになるのかもしれません。


<10月16日>(金)

景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、
失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。

○本日発表された10月月例経済報告は、何がなんだかよく分からないような基調判断になりましたな。ちなみに前政権最後の月例報告(9月)はこんな内容でした。

景気は、失業率が過去最高水準となるなど厳しい状況
にあるものの、このところ持ち直しの動きがみられる。

○9月から10月にかけて、文章の文言は変わりましたが、言っている内容はそれほどの違いはない。月例文学が長編になる、というのはそれだけ迷いが多いということなので、あんまりいいことではないと思います。ますます1993年と状況が似てきたので、これから年末に向けて景気の二番底やら足踏み局面やらが気になってくるところです。

○さて、本日は内外情勢調査会の講師で、香川県高松市に来ています。「支店経済」の街なので、新政権になって「国の出先機関の全廃」みたいなことになると、ものすごい影響を受けかねないところです。それから四国の経済は、「高速道路料金の値下げ」がよく効いていて、「だったらちょっと行ってみようか」という近隣からのお客がどっと増えて、今では土日ともなると名物の讃岐うどんの有名店には長蛇の列ができているとのこと。

○今宵は「こんぴらうどん」という店で、しゃぶしゃぶうどんをいただきました。なるほど美味であります。最近はカレーうどんも人気であるとのこと。一杯やった後で、締めはうどん。これはよろしいですね。

○昨今のうどん人気は、もちろん当地の経済にとっては朗報ですが、クルマの客が増えた分だけJR四国の客は減っていて、これは悩みの種になっている。JRも東日本と東海と西日本は上場しているからいいようなものの、北海道や四国などの新幹線がない地域では、「高速道路無料化」を本気でやると、完全に客足を奪われてしまうだろう。このままだと「再国営化」を余儀なくされるんじゃないだろうか。うむ、ちょっと心配だぞ。


<10月18日>(日)

○今日は町内会の清掃の日である。春のようなドブさらいはやらないが、草刈りと防犯灯の手入れがある。午前9時に外に出てみたら、もう町内の皆さんが集まっているではないか。慌てて草ぼうぼうの空き地に馳せ参じるも、すでに作業が始まっている。しかも軍手を用意してないのはワシだけで、やる気がないのがバレバレである。困ったものだ。

○なにせ町内会では、この日のためにわざわざ草刈り機まで購入している。だから仕事は速い。なぜか近所の子供が、虫かごを持ってカマキリなどを捕まえにきているのがご愛嬌である。刈った草は、手分けしてくくったりゴミ袋に入れたりする。これが膨大な量になってしまうのだが、なにせ大勢で取りかかるものだから、1時間と少々でほぼ作業が終了してしまう。

○昔聞いた話であるが、西欧人の目から見ると、誰かが指示をするわけでもないのに、ごく自然に手分けして掃除ができてしまう日本人というのは、まことに不思議なものに映るんだそうだ。誰かに命令されるわけでもないのに、何となく各人の持ち場が決まる。しかもサボる人がいない(ワシのようにぬるい仕事をする者はいるが)。早く持ち分が終わった人は、他の人が終わるまで待っていたり、手伝ってくれたりする。言われてみれば、不思議なことかもしれない。

○おそらく「リーダーがいなくても掃除ができる」というのは、日本社会が持つ強みなんじゃないかと思います。これがあるから製造業が強いんでしょうな。そうでない社会においては、掃除ひとつするにもリーダーを選ばなければならない。勢いリーダーの存在は大きなものになるし、選出にも心を配るようになる。逆に日本社会には、「頼れるリーダーが育たない」という弊害がある。一長一短ということでしょう。

○ということで、今朝は『新報道2001』を見終わってから町内会の作業を開始し、家に帰って『サンプロ』を途中から見ることになりました。じゃあ、実働時間は『日曜討論』だけか、というのはさておいて・・・・。

○今月はわりと几帳面にこの2つの番組を見ております。ここ2週間は連続して、『新報道2001』は副大臣や政務官がゲストであり、『サンプロ』は大臣がゲストという構成になっている。普通だったら後者の勝ちになるはずが、野田副大臣や古川副大臣から話を聞くほうが、仙谷大臣や藤井大臣や菅副総理に聞くよりも、中身があるように思えるから面白い。やっぱり今までとは違うのです。

○考えてみれば当たり前の話で、副大臣は大臣の命令で動いている。だから、そっちの方が現場のことを良く知っているし、実務にも明るい。逆に大臣は言いっ放しモードで、いかにも発言が軽く聞こえる。政権交代以降、マスコミは報道の手法に悩んでいるけれども、これもひとつの変化なんでしょうな。

○と、ここまで書いて急に思いついたんだけど、ひょっとすると新政権は、「リーダーがいなくても予算は作れる」を実践しているのかもしれません。願いあげましては、歳入は景気悪化で40兆円割れ、歳出は部分最適を積み上げて95兆円。って、これはマズイんじゃないかい?


<10月20日>(火)

○以下は今朝の「くにまるワイド」でお話した内容なんですが、そもそも「ハブ・システム」とはどういうもので、誰が発明したのか。あらためて聞かれると、分からないことが多いんじゃないかと思います。これに関しては、wikiにある「フェデックス」の説明が非常に面白いのです。


歴史

1971年、アーカンソー州リトルロックで元アメリカ合衆国海兵隊員フレッド・スミス(Frederick Wallace "Fred" Smith)によってにフェデラル・エクスプレス社(Federal Express)として設立された。

なお、創業者のフレデリック・スミスがビジネス・スクールでハブシステムの原案をレポートとして提出したとき、教授からCと評価された。しかしそのハブシステムこそがアメリカの広大な国土のほぼ全域でオーバーナイトデリバリー(翌朝配達)を可能にした。このレポートは現在もフェデックスの本社に飾られていると言う。

1973年、テネシー州メンフィスのメンフィス国際空港に拠点を移し、ダッソー・ファルコン20を使った米国主要25都市への翌日配達サービスを開始。1978年の航空会社規制緩和法(Airline Deregulation Act)により、サービスエリアを急速に拡大した。

1989年、国際貨物航空会社フライング・タイガー・ライン社を買収。1998年1月、RPS、ロバーツ・エクスプレス (Roberts Express) 、バイキング運送 (Viking Freight) 及びカリバー・ロジステックス (Caliber Logistics) の各会社を子会社に持つコルビー・システム社 (Caliber System, Inc.) を買収。続いてアメリカン・フリートウエイズ (American Freightways) を買収。各社の統合後は、フェデックス社 (FDX Corp.) として知られるようになる。


○今や国際的な巨大運輸会社となったフェデックスの創業者フレッド・スミスは、「C」をくれた教授に感謝しなきゃいけないんじゃないかと思います。仮にレポートの評価が「A」であったら、彼が本気で会社を作ってハブ・システムを実践してみようとまでは思わなかったかもしれませんからね。ともあれ、ハブ・システムはいかにもアメリカらしい発明であったといえると思います。

○物事はなんでもそうですけれども、「ハード」と「システム」と「ヒト」に分類することができます。「羽田をハブ化する」という話が出たときに、人々が真っ先に考えるのはハードのことなんじゃないかと思います。「まずい、それでは関空(or 成田 or とにかくウチの空港)にカネが回ってこない」的な貧しい発想をしてしまいがちです。でもね、大事なのは意外と「システム」なんですよ。「成田は国際、羽田は国内」という役割分担をしておいて、両空港を短時間で結ぶ交通手段がない、なんてのはシステム構築失敗の最たるものです。

○日本という国は、ハードへの金をケチって中途半端なものを作ってしまい、システムは利害調整が出来なくて不合理極まりないものとなり、ものすごく不利な条件を作っておいた上で、ヒトが献身的な働きをするから物事が正常に動いている、てなことが多い国だと思います。聞くところによれば、成田空港なんぞはもともとがハードに限界がある上に、重要な部分は旅客にとられてしまい、貨物の運搬はそれこそ空港で働く人たちの職人技で支えられているのだそうです。「ほとんど神業ですよ。こんなこと、日本以外では不可能でしょうね」なーんて評価を聞いたりすると、喜んでいいのか哀しんでいいのか分からなくなってしまいます。

○その点、アメリカって国は、どこへ行ってもハードは老朽化していい加減ガタが来ているし、ヒトだってどう見ても利発でも勤勉でもないのですけれども、システムが上手に作ってあるから意外と快適であったりします。ハブ・システムみたいなものを考案するのは、だいたいがアメリカ人なんですよね。「城を作るときは五角形にせよ。さすれば見張りが5人で済む」みたいな発想ができてしまうのが、あの国の面白いところなんです。

○他方、中国はハード重視の国だと思います。空港でも道路でも工業団地でも、まことに堂々たるインフラをぶっ建ててしまいます。でもシステムがめちゃくちゃで、ヒトも極めていい加減であるから、結果として非効率極まりない経済となります。行くたびに、「これで成長率10%かよ」と嘆きたくなることが多いですよね。「後宮の美女三千人」みたいな贅沢な城を作っておいて、北方民族が侵入してくると一夜で陥落する、てなことがかの国の歴史ではめずらしくありません。

○日本の場合は、ハードにはお金をかけられないものとあきらめるとして、せめてもう少しシステムに配慮をする必要があると思います。でないと、いつまでたってもヒトがラクを出来ないではありませんか。いつまでもハードワーキングじゃいられない。システムの向上のためにも、既得権の見直しが急務ではないかと考える次第であります。


<10月21日>(水)

○日本郵政の新社長は斎藤次郎さんですか。ちょっと目が点ですな。その昔、細川政権の頃に、よくお見かけしたものです。(当時はワタクシ、経済同友会で速水代表幹事の秘書をやっておりましたから)。あの頃、大蔵次官が斎藤次郎で、外務次官は斉藤邦彦でした。「さい」の字を間違えてはいかんと、当時の秘書連中は気を使ったものです。

○特に国民福祉税騒動の前後には、「斎藤さん」はまさに鬼神が乗り移ったようでした。熊野通産次官を従えて、各方面に根回しして歩いた話は語り草です。まさに十年に一度のカリスマ次官でした。退任されてずいぶんたってから、JCIFの講演会で再びお見かけした際には、まるで憑きものが落ちたようでした。「赤字国債はいけません」と愚直に語っておられのを見て、ああ、あれは時勢というものだったんだ、本当は普通の官僚だったんだ、と妙に納得したものです。

○斎藤さんは自民党政権に睨まれたために、天下り先はしょぼいところを転々とされていました。最後は東京金融取引所で、そこで「くりっく365」を始めたいうのが、往時を知る者としては感慨深かった。そんな斎藤氏ももう73歳。今日の記者会見の姿は、なんだか1998年に日銀総裁に就任したときの速水さん(当時72歳)に重なって見えました。その速水さんも今年5月で鬼籍に入られましたが。

○おそらく今の民間人には、日本郵政の後継社長を引き受けようなどという人は皆無でしょう。その意味では、官僚OBが就任するのも無理はなかろうと考えます。でも、これだけハッキリした財務省依存であるのなら、「脱・官僚依存」などと言うべきではないでしょう。というか、日銀総裁人事のときに言っていた「財金分離」はどこへ行ったのか。ちょっとご都合主義が過ぎるんじゃないの。もっと言うと、斎藤さんよりも武藤さんの方が良かったんじゃないの、と思います。


<10月22日>(木)

○講演会で今日は仙台。考えてみたら、今月は熊谷、魚津、高松など、地方都市めぐりが続いている。講演の出来は、今日が一番よかったような気がする。この辺、慣れだとか、体調だとか、聴衆の雰囲気だとか、ネタ以外のいろんな要素が絡んでくるので、単純に準備が足りていればいいというものではない。我ながら、いかにも水商売をやっているという気がする。幸いなことに、ワシはそういうのが嫌いな人間ではないのである。

○どこでやるにしても、「新政権と日本経済」みたいなテーマになる。で、鳩山政権の評価はさまざまである。全体的には高い。ごく一部に、腹を立てている人もいて、特に経営者に多い。従って、鳩山政権をけなすと全体の雰囲気が悪くなり、褒めると怒ってしまう人がいる。その辺のバランスが難しい。東北は民主党が強いので、けなしちゃいけないのかと思ったが、必ずしもそうではないらしい。

○帰りに仙台駅まで乗ったタクシーには、運転手さんの後ろのボードに野村監督のサインと、サッチーさんの似顔絵シールが貼ってあった。ご夫婦で乗せたことがあるのだそうだ。これはお値打ちというもので、仙台の町には楽天イーグルスがいかに身近なものであるかがよく分かる。昨晩はまことに残念な結果でありました。今宵も岩隈を起用して負けてしまったようで、大変惜しまれます。

○仙台土産といえば、萩の月に笹かまぼこに牛タンといったところが定番である。本日は地元主催者さんの推薦に従って、「おとうふかまぼこ」とずんだ入りの「富貴どら焼き」を購入。さて、お味はどうでしょう。


<10月23日>(金)

○今朝のネルソンレポートは出だしがこんな感じである。


Breakfast coffee spluttered across tables all over Washington this morning as we tried to digest this, in The Washington Post:

"A senior State Department official said the United States had 'grown comfortable' thinking about Japan as a constant in US relations in Asia. It no longer is, he said, adding that 'the hardest thing right now is not China, it's Japan'."


○ワシントンポストの記事はかなりのインパクトがあって、「現下の最難問は中国ではなくて日本だ」というのだから、穏やかではありません。まあ、先方のホンネを正直に言えば、「せっかく韓国でまともな政権が出来たのに、今度は日本で盧武鉉政権が出来ちゃった」ということでしょう。日米関係、ピンチであります。

○溜池通信の10月2日号「政権交代後の日本外交」ではこんな風に書きましたが、やっぱり「民主党思考」は国際舞台では通らないんじゃないでしょうか。


 日米関係には以前から、@安全保障、A経済、Bグローバルイシューという3本柱がある。この3点をどう考えるかが分かれ道となる。自民党時代の従来型の思考では、この3つを、@イノチ>Aカネ>B名誉という序列で考えるので、「安全保障でお世話になっているから、米国には逆らえない」となる。ところが民主党では、@安保=A経済=Bグローバルを並列と考える。したがって、@で借りがあっても、AやBで返せば良い。「環境問題などのグローバルイシューで貢献すれば、日米は対等になる」という見方である。

自民党思考:安保(イノチ)>経済(カネ)>グローバル(名誉)→米国には逆らえない。

民主党思考:安保(X)=経済(○)=グローバル(○)→米国とは対等である


○そもそも、国同士で決めた「日米同盟再定義」に対して、「われわれはその当時、野党として反対していた」と言ってみたり、「核の先制不使用をアメリカに働きかける」などとゴーマンかましてみたり、最近の岡田外相の発言は「アンタ何様?」という印象がある。インテリジェンス畑出身で、冷静さには定評のあるゲーツ国防長官も、「やってられね」とあきれ返っているのかもしれない。

○ではこのまま放置しておくと、日米関係はどうなるのか。過去にもドイツやフランスや韓国など、いろんな国で「親米政権からそうでない政権へ」という交代はありました。そういうときのアメリカの対応は、しばらくは様子を見る。それでどうにもならんとなったら、さすがに引いていく。今度のケースで行くと、「米軍再編はやめました。グァム移転もしません。このまま普天間に居座ります」となるのではないか。それでは国益を損なうことになってしまいます。

○新政権には、何とかこの辺の事情を学習してほしいと思います。でないと細川政権と同様に、「日米関係でつまずいて短命政権」てなことになりかねません。知らないこと知らないと、少し謙虚になって周囲の意見を聞いてみる方が良いと思いますぞ。(追記:心配している人が他にも多いと見えて、こういう提言も出ております)

○先日、某所で外務省の人に、「せめてアジア共同体の範囲をはっきりするよう、鳩山さんにキチンと説明したらどうですか。でないと東アジアサミットで恥かきますよ」てなことを申し上げたら、「今は政治主導の時代ですから」とサラリと言われてしまい、脱力しました。どこかの市役所でド素人の若い市長が誕生して、変なこと言い出すものだから周囲が見放して、完全に空回りしている、というのとは話が違います。われらが首相が「裸の王様」になっているのを、放置プレイでは困るではありませんか。


<10月25日>(日)

○先週のThe Economist誌は日本関連の記事がめずらしいくらい多かった。「歴史認識」をめぐるこの記事なぞは、結構、辛口で「どきっ」とさせられる内容になっています。それはさておいて、ワタクシ的にはこれがいちばんのヒットでしたな。なんでもっと大騒ぎにならないのかな。


”Unconventional monetary policy---Loose thinking"

(非伝統的な金融政策〜緩い思考法)

●日銀は2001〜06年にかけて量的緩和政策を行なった。だが経済を改善することもデフレ傾向を止めることもできなかった。白川総裁もそれを認めている。日銀のエコノミストである白塚重典氏は、日本の量的緩和政策と現在、世界の各中央銀行が行なっている非伝統的手法とを比較した論文を発表した。

●バーナンキ議長は、米連銀がやっている「信用緩和」は量的緩和とは別物だと言っているが、白塚氏によれば両者は中央銀行のバランスシートを使うという点で驚くほど共通性があるという。そうだとしたら、各国中央銀行にとってはまことに重大なことである。

●日銀の経験によれば、楽観の余地はあまりない。量的緩和は金融システムの安定化に寄与したが、その効果は金融界内部にとどまった。デフレ期待は終わらなかったし、金融市場の機能が低下するという副作用もあった。

●白塚氏によれば、量的緩和は一時的な対応策であり、商業銀行がみずからのバランスシートを回復するまでの時間稼ぎに過ぎない。しかも大規模介入は市場に歪みをもたらす。それが分かっているからこそ、日銀は政府の反対にもかかわらず、金融政策の正常化に切実なのだろう。


○正直なところ、「やっと気づいてくれましたか」という感じもします。アメリカ経済の先行きに対して、どうしても楽観する気になれないのは、「やっぱり日本経済と同じことになるんじゃないか」と思うからです。これは多くの日本人が、漠然と感じていることでありましょう。

○いわゆる「リフレ派」の人たちは、「日本は特殊なケースだ」と言うのかもしれませんけれども、それだったら大いに結構。バーナンキさんを信じていれば、きっとうまく行くでしょう。でも当方はむしろ、ぐっちーさんがSPA!で言っていた、「選球眼が悪い男の景気回復宣言を信用するのは早計だ」に同感するわけであります。

○それにしても、日本のエコノミストが書いた英語論文がこれだけ派手に欧米のクオリティ誌に取り上げられるというのは、空前絶後のことではないかと思います。白塚さんの快挙といっていいのではないでしょうか。


<10月26日>(月)

○昨日、海上自衛隊の観艦式が行なわれました。本来は最高司令官である内閣総理大臣が総覧すべきでありますが、あいにくタイ出張中であったために、菅副総理が代行しました。つまり「カン・カンカンシキ」となりました。


●「国際社会の平和に貢献を」菅副総理 自衛隊観艦式で訓示(日経ネット)

 菅直人副総理・国家戦略担当相は25日、神奈川県沖の相模湾で開いた自衛隊観艦式に外遊中だった鳩山由紀夫首相に代わって出席した。菅氏は護衛艦「くらま」の艦上で訓示し「わが国の主体的判断と民主的統制の下で、国際社会の平和と安定に貢献していくことを望む」と述べ、自衛隊による国際貢献活動に積極的に取り組む考えを示した。

 自衛隊の観閲式は陸海空の各自衛隊が毎年持ち回りで開催しており、海自の観艦式は3年ぶり。菅氏は北朝鮮によるミサイル発射や核実験について「国際社会の平和と安全に対する重大かつ深刻な脅威で、断じて容認できない」と強調した。 (22:06)



○そこは菅さんのことですから、何か余計なことを言いだして、自衛官諸君の士気を下げてくれるんじゃないかなーと楽しみにしておりましたが、あにはからんやまっとうな訓示であったようです。もちろんそれは結構なことで、与党のナンバーツーなのですから、是非そうであってほしいところです。

○それにしても、最近の菅副総理・国家戦略担当大臣は妙に行儀がよいのです。小沢幹事長〜藤井財務相〜仙谷行政刷新相〜松井官房副長官などの間では、露骨な「菅外し」が行なわれていることはもはや秘密でもなんでもなく、鳴り物入りで発足した国家戦略室もほとんど機能していない。せいぜい反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏を政策参与に迎えたくらいで、それも「なんで???」というのが正直なところである。

○もっとも考えてみれば、今年も年末になった頃に、湯浅氏に「年越し派遣村Part2」を作られてしまった日には、鳩山政権が大打撃を受けることは火を見るよりも明らか。少なくとも、真面目な長妻大臣は真っ青になってしまうでしょう。そういうことがないように、あらかじめ湯浅氏を政権内に取り込んでおいたというのであれば、さすがは菅さん、策士やのう、ということになる。

○菅さんの立場になってみれば、他にも出来ることはいっぱいあるはず。例えば菅さんは職制上、経済財政担当大臣を兼務している。ということは、その気になれば経済財政諮問会議を主宰することができるわけだ。だって法律上の枠組みは残っているのだから、委員さえ選べばすぐに動き出す。国家戦略局ができるのを待っているよりも、その方がよっぽど早い。とすれば、民主党版の「骨太の方針」を作れるわけだから、「予算編成は財務省でやる」という藤井大臣を黙らせることが出来る。なぜ、これをやらないのか?

(これを読んだ菅さんが、「なるほど、その手があったか」と膝を打つかもしれないけど、さすがにその程度のことは検討済みであるものとして話を進める)

○実は菅さんは、国家戦略局なんてもうどうでもいいと思っていて、このまま副総理でいれば、やがてナンバーワンの座が転がり込んでくることを楽しみにしているんじゃなかろうか。だって鳩山さんは、「故人献金」などの傷があるわけだし、発言もコロコロ変わるし、これでオバマさんが「訪日や〜めた」などと言い出したら、一気に窮地に陥るかもしれない。

○それだったら菅さんとしては、今は昼行灯を決め込んで、周囲の恨みを買わないようにしているのが一番ということになる。「カン・カンカンシキ」を真面目に務める一方で、そんな腹黒い考えがあっても不思議ではありませんな。

○今日で臨時国会が始まって、いよいよ政治は動き出すことになると思います。寸前暗黒。政権が交代したからといって、そこはおそらく今までと変わらないと思いますぞ。


<10月27日>(火)

○近頃はあまり本を読んでいないので、書評の仕事などもつい辞退してしまいます。久しぶりに読んだのが『成功は一日で捨て去れ』(柳井正、新潮社)。ユニクロの会長兼社長である著者の経営論だが、なるほど迫力であります。

○衣料品業界というと、成熟産業であるからたいした伸びは期待できないんじゃないかと傍目には見えるのだが、柳井氏は将来性には自信があるようだ。ただしそれは、キチンとチャレンジを積み重ねて、失敗経験もたくさん味わって、仲間と暗黙知を分け合った上で達成されることなので、その辺がユニクロ流なんだと思う。

○これを読み終えて思ったのは、溜池通信が以前から愛用している「政治の金言」のビジネス版である。すなわち、以下の通り。

(政治版)

「有権者というものは、自分の選挙区の政治家が信念の持ち主であることを知っていれば、その中身まではさほどこだわらないものだ」

(企業版)

「社員というものは、自社の社長が信念の持ち主であることを知っていれば、その中身は知らなくても安心してついていくものだ」

○社長の信念というものは、他人の目から見るといささか馬鹿げているものでも構わない。本人の中で、それが法則として完結していて、容易なことでブレなければいいのである。もっとも世の中にある「信念」の大部分は、まさにそういうものだと思うのだ。

○柳井さんの信念は、不肖かんべえには理解しにくいところがある。でも彼はおそらく「任せて安心」な社長さんであろう。そういう人は、希少価値になりつつあるのだけれども。


<10月28日>(水)

○昨日に引き続いて本のご紹介。毎日新聞社の『完全ドキュメント民主党政権』。このスピードでよく出すわなあ、と感心しながら読んでいます。まあ、それはさておいて。

○「おわりに」に書いてあった下記の文言をみてぶっ飛んでしまいました。かつて毎日新聞が掲載していた「政界20世紀辞典」というコラムに、こんな説明があるのだそうです。


【竹下政治】たけしたせいじ。世紀末日本の15年間を支配した唯物論的経済平和思想に基づく統治。円満、金満を旨とし、都会より田舎を向き、多弁を戒めた。


○これはすごい。1990年代が急に懐かしくなってしまいます。たしかにこの国には、かつてそんな時代があった。今となっては、そんなに悪くなかったような気もするけれども、戻りたくても戻れない。これと同様に「小泉政治」を定義するとしたら、どうなるんでしょう。例えばこんな感じ?


【小泉政治】こいずみせいじ。21世紀初頭の6年間を支配した自由主義的経済思想に基づく統治。ナショナリズムとポピュリズムを隠し味とし、党員よりも無党派層を向き、ワンフレーズによる劇場型の構図を得意とした。


○こうしてみると、いずれの言葉も一時代を画したといえる。残念なことに、「安倍政治」「福田政治」「麻生政治」などのフレーズは成立しなかった。さて、「小沢政治」とは後世にどんな言葉で総括されるのか。はたまた「鳩山政治」という呼び方は成立するだろうか。時代を読むときは、少し遠く離れて物事を考えてみると良いようです。


<10月29日>(木)

○今日は第36回日本ニュージーランド経済人会議へ。今年は日本側で開催され、場所は椿山荘フォーシーズンズホテルである。どうやって行けばいいのかちょっと考えて、山手線で大塚駅まで行って、そこからタクシーを拾ってみた。

○そしたら、左手に見えてきたのが鳩山会館である。護国寺の近くの山一つをつかった、まことに豪勢な邸宅である。その昔は、文京区全体が鳩山家のテリトリーみたいなもので、東京駅から自宅まで、自分の土地だけ歩いて行けた、なんて伝説もある。何をやってこんな金持ちになったのやら。

○そこから目白方面に向かうと椿山荘である。さらに直進すると、旧田中角栄邸のいわゆる目白御殿があるらしい。なんと山県有朋と鳩山ファミリーと田中角栄の家は、とっても近いところにあったのね。

○ただしそれぞれには明暗が分かれていて、@戦後の成り上がりである田中邸は、今や税金対策で切り売りされつつあり、A戦前のセレブである鳩山邸は、財団法人になることで上手に姿を残し、B明治の権力者であった山県邸は、今日ではホテルの一角として往時の庭園を今に残している。やはり時代を下るにつれて、スケールダウンは避けられないもののようです。

○明日も「日本ニュージーランド・パートナーシップフォーラム」があるので、ニュージー関連ネタはまた日を改めます。ああ、忙しい。


<10月30日>(金)

○世界経済の危機の最中に、ニュージーランド経済はもちろんちゃんと調整したのであるが、それもGDPにしてせいぜい3%くらいであって、先行きはそんなに暗くない。アジア通貨危機のときもそうだったが、外国が大荒れになってもこの国の金融システムは健全なのである。人口の流入も相変わらず続いていて、今では420万人にもなってしまった。これなら住宅市況も好転する。ということで、あまり先行きを悲観している感じではありません。

○しかもお隣の豪州経済は絶好調が続いていて、全世界の先陣を切って利上げをするという名誉を得ている。なんでも「メルボルンのイミグレには、1日当たり200人が出頭している」というから、年間で7万人の人口増加となる(総人口は400万人)。これでは家でも何でも足りなくなるのは当たり前。ニュージーランドの建設工にとっては、目と鼻の先においしい話が転がっている。大洋州経済の景色は、悩み多き先進国とはまるで違うのであります。

○やっぱりこういう時代には、資源国や農業国は強いのであります。ニュージーランドは食糧生産の95%を輸出しているので、いざとなれば6000万人を養える。全世界の人口急増に従って、急速に値打ちを増している淡水も、新鮮な雪溶け水が有り余るほどあるのに、ほんのわずかしか使っておりません。なんとまあ、贅沢な。

○強いて心配なことと言えば、ニュージーランドドルが強くなり過ぎることでしょうか。昨日の会議では、NZ側エコノミストが「1NZD=80円」になると言うので、日本の輸入業者の間で衝撃が走っておりました。

○そうかと思うと、「どうやったら日本市場にNZ産のアボカドを売り込むことが出来るか」ということを、真剣に考えているのもキウイたちなのです。現在、日本で出回っているアボカドの95%はメキシコ産で、NZ産はまだ3%のみ。どうやってシェアを伸ばすか、マーケティングに余念がありません。「日本市場は質のいい商品を高い値段で買ってくれる」ということが身に沁みているだけに、この努力は報われるという確信があるようです。

○この辺が面白いところで、今の世の中はすべてが中国になびいているように見えるし、キウイたちも中国市場に多大な関心を寄せているわけですが、おそらく中国人はそんなにアボカドを食べないでしょうな。この辺が中華料理と日本料理の違いで、かくいうワシもマグロの刺身と一緒とか、カンヅメの蟹と併せて食べるアボカドは好物であります。

○と、こんな風に、ニュージーランドと年に1回、お付き合いする習慣があるために、世界経済を南半球から見ることができるのであります。まことにありがたい。で、以下はさるキウイが語っていた、かなり強烈な「南半球版・エスニックジョーク」のご紹介。


「オーストラリアに行くんだって? やめておきなよ。行くんならオークランドがいいよ。シドニーなんて行ってごらんよ。空港のイミグレーションで最初に聞かれることは、『あなたはクリミナル・レコードがありますか?』だよ。あいつら、今でもそういうことをしなきゃいけないんだ


○ひどいですねえ。でも、明日はオールブラックスとワラビーズとの世紀の決戦を控えているので、キウイたちもつい言葉に力が入ってしまう模様です。ラグビーは洒落じゃないのです。もちろん、負ける気はさらさらありませんぞ。明日の国立競技場にご注目ください。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki