<10月1日>(火)
○今回の内閣改造では、あきれるくらいに情報が外に漏れなかった。普通は自薦他薦が飛び交うものだが、永田町の行動様式もずいぶん変わったといえそうだ。そんな中で、以下は実現しなかった新聞辞令の数々。意地悪く書き記しておこう。皆さん、残念でした。
財務大臣 古賀 誠
(事務方も希望している、という触れ込みつきだった。塩爺も悪くないと思うけどね)
経済産業大臣 野田 毅 (扇千景国土交通相が続投で、とっても不機嫌そう。でも道路公団の問題があるからね)
金融担当大臣 保岡興治
(これは実現してほしかった。竹中氏の兼務になったのは、やっぱり最後の瞬間まで迷ったからでしょうね)
○今回の人事は、基本的に小泉さんが自分一人で決めた。「基本方針」を示して、それを承諾した者を登用した。これだけでも、自民党の構造改革は一歩前進である。もっとも、まったく他人の影響を受けていないということもないらしく、青木参院幹事長の関与の跡はそこかしこに窺える。角谷浩一氏の解説によれば、たとえば鈴木俊一氏が新閣僚に入っているのは、海の男、青木氏がかつて鈴木善幸氏の薫陶を受けたからではないかという。
○新聞報道などでは、今度の組閣で自民党内部は不満大会になっているとのこと。でも、それは大幹部の話であって、若手の間では好評だったりするらしい。河野太郎氏の「ごまめの歯ぎしり」昨日版では、こんな風に書いている。
今度の内閣改造は、非常に良かったと思う。柳沢さんの交代が目玉だ。(中略)本当は、後任に塩崎恭久が良かったのだと思う。竹中経済担当、塩崎金融担当の二人ならなお良かった。もし僕が今、総理ならば、塩崎大臣、木村剛長官のコンビにする。ここは、副大臣人事での塩崎登用を待つことにしよう。
○なぜ自民党に派閥ができるかというと、「票と金とポスト」を世話してくれるから、といわれた時代があった。「票」は、小選挙区制になったお陰で皆が一国一乗の主になり、「金」も政党助成金ができて、派閥も金の面倒まで見られなくなりつつある。残るは「ポスト」だが、それが当てにならないということは、もはや派閥に存在意義はないということになる。サラリーマンだって、アメもムチも持っていない上司のいうことなんぞ、聞きませんからね。
○こんな時代になると、高齢の幹部議員なんぞは哀れなものである。派閥の重鎮である江藤隆美氏の自宅には、「お前なんか死んじまえ」という電話がかかってくるらしい。これはさすがにヒドイと思うが、ご本人は抵抗勢力が服を着て歩いているような存在だけに、そういう嫌がらせ電話が来るのはなんとなく分かる。もっとも江藤氏本人は「死んでたまるか」と意気軒昂だそうである。やはり政治家はそうでなくては。
○以下は今日聞いた、とあるご高齢の方たちの会話から。
「冠婚葬祭といいますが、70歳を過ぎますと冠婚はめったになくて、後の方ばかりが続きますなあ」
「いや、それでも最近は『お別れの会』というのが増えて助かりますよ。近親者のみの密葬で、後日ホテルで開くというやつ。あれは香典を包まなくていい」
「社葬ってやつは、大変ですからなあ。クルマも混むし」
「その点、『お別れの会』は、礼服も要らないし、献花だけで終わりですから、助かりますなあ」
「でも、そのお陰で青山斎場が閑散としているらしいですよ。どうするんでしょうね」
○これも高齢化時代の点描といえましょうか。
<10月2日>(水)
○テレビのコメンテーターで、先日、これはいくら何でもヒドイと思ったのは舛添要一参議院議員である。この人、当選した直後に「デフレを食い止めるために、日銀は株でも土地でもなんでも買えばいい」と言っていた。よせばいいのに、「私はマネタリストですから」とも言った。お前、意味わかってんのかよ、と思ったけど、それが、つい先日、テレビに出て、「日銀は禁じ手をやってしまった」と言っていた。おいおい。やっぱり付け焼き刃の勉強はいけませんね。
○でも世の中の人はそんなに暇じゃないから、テレビ・コメンテーターの過去の発言なんて覚えてはいない。なんで筆者が昨年の舛添発言を覚えているかというと、たまたま溜池通信の2001年8月31日号「インフレ・ターゲティング論とデフレ経済」で取り上げたからである。まあ、おそらくご本人も覚えていないのでしょうけど、テレビを見てる人たちは当然忘れているから、誰も突っ込む人がいない。
○もし、誰かが個人の発言のトラックレコードをチェックしたら、この手の矛盾がいちばんたくさん見つかりそうなのが竹中平蔵さんである。ゼロ金利解除に賛成したかと思ったら、一層の金融緩和をと言い出したり、極端なIT革命礼賛論を唱えていたこともあった。どなたか暇な方はお試しください。でも、竹中さんが書いた本や記事を読んで、自分の勉強になるとは思えないけどね。
○トラックレコードのチェックという仕事は、本来は野党なりメディアなりがやるべき仕事だと思う。でも日本の場合は、両者ともそういう地道な作業が苦手なようなので、発言がコロコロ変わっても見過ごされてしまう。その結果、IntegrityやIntellectual
Honestyを欠く人間が跋扈することになる。せめて公職にある人間くらいは、誰かがチェックしてほしいと思うのだが。
てなこと言うと、このHPを隅から隅まで読んで、「かんべえはX年X月X日にはこんなことを書いていたじゃないか」などというメールが大量に届きそうで恐い。
○経済担当大臣と金融担当大臣を兼務して、スーパー大臣の誕生などという評価があるけれども、この人のお陰で日本経済が救われるという未来図だけはどうしても思い描くことができない。今日も株価は下げたけど、まるで意外感がないなあ。
<10月3日>(木)
○ワシントン在住の愛読者S氏から、「ゴアが10月2日にブルッキングス研究所で講演をした」とのお知らせを頂戴した。スピーチは成功だったようで、ゴアは静かに政治活動を再開しているようだ。
○S氏によれば、スピーチに先立ち、同研究所の古株のエコノミスト、ロバート・ライタンが紹介に立ち、「前の副大統領で、ご承知のとおり、2000年には最も多くの投票を集めたアル・ゴア氏を・・・・」とやって会場を沸かせたそうだ。ライタンは共和党だったと思う。でもこの雰囲気が、ワシントンのシンクタンクである。
○ゴアは9月23日にサンフランシスコにおいて、「イラクを討つべきではない」との演説を行った。彼が訴えたポイントは、@イラク攻撃はアルカイダへの関心を失わせる、A選挙前に議会決議を求めるのは、政治的な動きである、B予防的攻撃の原則をイラクに当てはめると、他の地域を不安定化させる、C「9・11」後の米国への世界的な同情を失わせる、の4点である。いずれも、もっともな指摘とはいえ、スコウクロフト元大統領補佐官などの反対論を聞いた後では、やや新味に欠けた。
○実際、ゴアが反戦論を唱えるというのは、そのこと自体、ニュースとしての価値が乏しい。この点、上院のリーダーであるダッシュル議員は、対イラク攻撃そのものには反対せず、「ブッシュが戦争を政治的に利用としている」という点に絞って反撃している。これは賢い動きというべきで、2004年の大統領選挙では、ブッシュに対する有力な挑戦者候補となりそうだ。
○その点、ワシントンでの講演では、ゴアは経済問題に焦点を当てた。要旨は以下のとおりだが、読んでみるとブッシュの弱点を実によく捉えている。あの2000年選挙を戦っただけに、やはりよく敵を知っているのですね。
http://www.brookings.edu/comm/transcripts/20021002.htm
○前段でブッシュをこき下ろしたゴアは、「われわれ民主党は、『だから言ったじゃないか』と言う以上のことをしなければならない」とし、代替案が必要だと説く。大統領は議会指導者とのテーブルにつき、経済の現状を調査し新たな道筋を探すべきだと。
「私は大統領が信念を捨てろと言うのではない。彼の信念を、アメリカ人が直面している現実と和解させるべきだと言うのである。彼のヒーローであるロナルド・レーガンが、1982年の中間選挙前にやったようにしてほしいのだ。レーガンは議会指導者と超党派で経済政策を協議した。私はレーガン大統領の信念には賛成しなかったし、議員としては彼の経済政策に反対票を投じた。1982年の政策の結果についても賛同はしない。それでも私は、レーガン大統領が現実を認識し、自分と違う考え方の持ち主と真摯な会話を持とうとしたことを尊敬している」
○レーガンとブッシュの政治スタイルはどこが違うのか。前者は大風呂敷で、何でもかんでも自分の味方に引き入れてしまうような懐の深さがあった。後者は自分の考えに近い人だけを大事にして、「一票差でも勝ちは勝ち」といったところがある。レーガンは敵を作らなかったが、ブッシュは敵を作る。左派が、反グローバル派が、イスラム教徒が、平和主義者がブッシュを嫌っている。いっぺん嫌いになった人は、なかなか考えを変えない。これはいつかは破綻すると思う。
○ブッシュの親父さんは湾岸戦争に勝って、1992年の選挙を経済問題で落とした。今のブッシュは対テロ戦争に勝って、やっぱり2004年には負けちゃうかもしれないね。ふと、そんなことを思いました。
<10月4日>(金)
○昨日は成人病検診、今日は免許の更新に午前中がつぶれてしまう。そう、私の誕生日が近づきつつある。いやだなあ、42歳。
○とうとう免許証がゴールドになった。最後に切符を切られたのは、たしか常磐道でのスピード違反だった。それから苦節ン年、もちろん、「ちょっとの間だけ」の駐車違反くらいはしているが、運良くチェーンをかけられることもなく今日に至っている。
○優良運転者といえど、更新の際には30分の講習を受けなければならない。千葉県の場合、交通事故がとびきり多い県なので、交通指導教官は「シートベルトをしろ、飲酒運転をするな」と口を酸っぱくして繰り返すのが恒例である。無理もない話で、交通事故死というのは、だいたいが北海道がナンバーワン。これは夏の時期に本土から観光に出かけた連中が、あまりの道のよさにスピードを出し過ぎるのが原因である。次いで2位の座を争うのが千葉県と愛知県。今年も昨日までの時点では、交通事故死者数は@北海道339人(−21人)、A千葉県284人(+1人)、B神奈川県283人(+60人)となっている。
○千葉県というところは、「道路を作る前に箱モノを作る県」であり、しかも交通マナーが悪い。信号が青から赤に変わっても、平気でクルマが2〜3台くらい突っ込んでくる。かんべえなどは気が小さいから、運転していて「あ、今の右折はちと乱暴だったかなー」などと思っていると、自分の後ろに2台くらい続いていて唖然とすることがある。大阪府の歩行者は、信号が青に変わる前に歩き出すというが、千葉県でそれをやるとちと危ないと思う。
○たとえば今日の講習で聞いた話だと、シートベルトの着用率は東京都が全国第2位で93.0%、その隣の千葉県は第44位で76.1%だという。どうしたらこんなに極端な差がつくのだろう。県民性というだけでは説明がつかないように思うのだが。ちなみに全国1位は長崎県で94.8%(ご立派!)、最下位は山梨県で67.7%だという。同じ日本とはいえ、地域差というのは結構あるものなのだ。
○そんな中で、良くも悪くも、交通マナーがルーズなのがわれらが千葉県の特質である。幕張メッセに行くと、広い道路の1車線分が違法駐車で埋まっていて、駐車場がガラガラになっている景色を見かけることがある。こんなこと、お台場やみなとみらいではとても考えられない。本当に同じ日本なんでしょうかね?
<10月5〜6日>(土〜日)
○気がつけばアメリカ中間選挙まであと1ヶ月。ちょっとおさらいをしておきましょう。こういうのを作っておくと、あとで探すのが楽ですから。下院は全議席が改選、上院は3分の1が改選で、改選議席数は括弧内に示してあります。
共和党 |
民主党 |
独立系 |
合計 |
|
上院 |
49(20) |
50(14) |
1 |
100 |
下院 |
223 |
211 |
1 |
435 |
○さて、中間選挙の行方を占うものとして、IEM="The Iowa
Electronic Market"という傑作なシロモノがございます。これはアイオワ大学のビジネススクール部門が、実際にお金の動くヴァーチャル市場を作り、世の中の森羅万象を予測しようとしているもの。「連銀の金融政策の行方」や「マイクロソフトの価格」などが賭けの対象となっており、結果はネット上で見ることができる。「不謹慎な」などというなかれ。これはあくまでも調査の手段でありますぞ。
○ここに上場されているのが、「米議会、勝者総取り市場(US
Congressional Control Winner-Takes-All Market)」。その名のとおり、上下両院を共和、民主両党のどちらが取るかを予測する市場が形成されている。選択肢は4つある。
@RH_RS(共和党下院と共和党上院)、
ARH_NS(共和党下院とその他上院)、
BNH_RS(その他下院と共和党上院)、
CNH_NS(その他下院とその他上院)。
○市場参加者は4つの選択肢のうちいずれかを、時価で購入することになる。11月7日正午でマーケットはクローズされ、選挙の公式結果に従って払い戻しが行われる。当たった人は1ドル、その他の人は皆「はずれ」となる。
○気になる結果はここをご覧あれ。過去の推移については、このグラフが便利です。
A共和党下院と民主党上院(RH_NS)が一貫して堅調に推移し40%程度を維持。
@共和党下院と共和党上院(RH_RS)が急上昇し、いい線まで行ったものの現在は30%前後。
C民主党下院と民主党上院(NH_NS)は、一時は高い支持率を得ていたものの、急落している。
B民主党下院と共和党上院は一貫して人気がない。
○つまりアイオワ大電子市場の見通しは、「下院は共和党多数でほぼ決まり、上院は民主党優位だったところを共和党が急追中」となる。もっとも10月に入ると同時に、@とCのトレンドが逆転しているところを見ると、まだまだきわどい戦いが続きそうだ。株安にイラク攻撃と、重要課題の多い昨今。選挙当日まで残り1ヶ月を切っても、まだまだ予断を許さない。またときどき覗いてみましょうね。
<10月7日>(月)
○今日も株価は盛大に下げました。アメリカやヨーロッパの下げも効いているのでしょうが、世上の評判はもっぱら「ヘイゾー&キムゴー・ショック」。昨年末ごろには、青木建設がつぶれると株価が上がり、ダイエーが救済されると下げていた。それが今では、倒産が増えそうだから売り、という説明。どこがどう変わったのか。市場はもう改革を望んではいないのか。
○報道によれば、ヘイゾーさんはWEFの東アジアサミットへ出かけていって、メガバンクといえど容赦はしないなどと吹いている様子。強いて言えば、そういう態度が市場の不安を誘っているのかも。70年代のアメリカで「パニック映画」というのが流行った。「エアポート」シリーズが有名だ。ハイジャック犯が現れて空港に大混乱が生じるのだが、ジョージ・ケネディが登場し、管制塔にでんと陣取って指揮を執り始めると、これが不思議と収まってしまう。危機管理の要諦はヒト次第。マニュアルじゃない。今の日本には、ジョージ・ケネディがいない。
○夜は久しぶりに新政策フォーラムへ。参議院議員の円より子さんが、民主党のネクストキャビネットの財務大臣に就任したので、おめでとうございますと申し上げる。先日来、さんざ民主党の悪口を書いてきたかんべえであるが、この際棚に上げる。(よいしょっと!)
当方、呼んでいただける方には何でもいたしますぞ。さりとて、意見具申すべきアイデアも思い付かない。この状況をなんとする。
○そこからJ−WAVEスタジオに立ち寄り、自宅についたら12時を過ぎる。お誕生日到来で、かんべえ42歳となる。寝静まった家でパソコンのスイッチを入れ、帰りにコンビニで買った「ノンフライ麺」ファインヌードルなる商品にお湯を注いでみるも、ちーともうまくない。つくづく、「おいしくてカラダにやさしい」などという商品を信じてはならぬ。
○明日の日本時間午前9時から、ブッシュ大統領がオハイオ州シンシナティで「対イラク」演説を行う。察するに、米議会が対イラク攻撃容認可決を控えているので、その駄目押しをするつもりと見える。明日の演説の瞬間、ブルームバーグにゲスト出演しておりますので、よかったら見てください。42歳の初仕事でござんす。
<10月8日>(火)
○丁寧なものから簡単なものまで、いろいろな「お誕生日おめでとう」のメールをありがとうございます。てなわけで、いわゆる「後厄」の始まりでござんす。いやだねえ。
○今日はブルームバーグで、ブッシュ演説をリアルタイムでコメントする、という得難い経験をさせてもらいました。もちろん、事前に全文が手元にあるわけではなく、ブッシュがしゃべっているのをふんふんと聞きながら、ときどきスタッフの方々が手書きで書いたメモが寄せられる、という状態です。それほど新味はないなー、などと思いつつやっておりましたが、きちんと読んでいないのがちょっと恐い。
○しみじみ感じたのは、これでブッシュもアメリカも、後戻りのできないところまで来てしまったということ。議会の対イラク武力行使容認決議は、今週中にも通るでしょう。今日の演説はそのための駄目押し。全体に言葉がきつい。場所がオハイオなのは、もちろん中間選挙の重点地区だからだと思いますが、もうブッシュの頭の中には、ほとんど目の前の選挙のことは消えているかもしれませんね。
○あらためて全文を読んだのは、夕方になってからでした。いつものブッシュらしくないことに気づく。まず、最初の部分で「遊び」がない。普通なら「シンシナチの皆さん、どうもありがとう」という部分で、2回くらいは笑わせるところ。得意とする短い言葉の繰り返しも少ない。かろうじて後半に出てくるこの部分なんかが、よくある「ブッシュ節」だと思う。
That is not the America I know. That is not
the America I serve. We refuse to live in fear. (Applause.) This
nation, in world war and in Cold War, has never permitted the
brutal and lawless to set history's course.
○ケネディの言葉を引用した部分も、ちょっと意外感がある。これはキューバ危機の際の発言だと思います。「証拠なんぞ、いちいち待ってられるかぁ」というセリフの後にこう続く。
As President Kennedt said in October 1962,
"Neither the United States of America, nor the world
community of nations can tolerate deliberate deception and
offensice threats on the part of any nation, large or small. We
no longer live in a world," he said, "where only the
actual firing of weapons represents a sufficient challenge to a
nations security to constitute maximum peril."
○純正共和党支持者の間では、JFKはあんまり人気がない。それでもブッシュがケネディを使うという取り合わせはちょっと面白い。アメリカ外交にはセオドア・ルーズベルトに始まる現実主義(棍棒外交)と、ウッドロー・ウィルソンに始まる理想主義(宣教師外交)の2つの潮流がある。ところがブッシュの場合、軍事力を使ってみずからの主張を通す点では現実路線だが、やろうとしていることは邪悪なものを倒すという理想主義である。こういう組み合わせを目指した大統領を過去に探すと、ケネディとレーガンが該当すると思う。「ブッシュとケネディ」は似ても似つかぬ取り合わせだけど、冷戦を戦い抜こうと宣言したケネディのレトリックは、意外と対テロ戦争のブッシュの物言いと重なるのかもしれない。
○ケネディはベトナムの泥沼への道を開き、レーガンは冷戦を終わらせた。さてブッシュはどちらになるのでしょうか。
<10月9日>(水)
○とうとう日経平均は一時8500円割れ。騙しだましやってきた市場が、とうとうプッツンしてしまった様子。底入れがいつになるか、まったく見えないけれど、ここまで来てしまうと8000円だろうが7000円だろうがあんまり違いはないように思える。
○世の中は「ヘイゾー&キムゴーショック」という声がもっぱらで、怨嗟の声も高まっている様子。大臣のうかつな言葉が、市場崩壊の引き金をひいたことは責められるべきだろう。「too
big to failという考え方は取らない」という発言は、昭和金融恐慌の際の「渡辺銀行が倒産しました」という国会答弁に比すべき失言だったのかもしれない。でも、ほかの人ならこういう瞬間を避けられたか、あるいは誰だったらうまくやれたのか、とあらためて考えてみると、所詮は時間の問題だったのかという気がしないでもない。
○まあ、それは問わないとして、これからどうするか。ひとつの方策として、預金保険法102条にある金融危機を認定してしまうという手があるだろう。とにかく非常事態宣言をしてしまう。そうやって現状をしっかり認識する。小泉首相は金融担当相の首をすげかえただけで、政策転換のアナウンスメントをきちんと行っていない。金融システムは深刻な状態です、ペイオフは延期です、公的資金も入れましょう、こうなると30兆円枠も意味はありませんね、とハッキリ公言してしまう。そうやってメンツの問題を棚上げしてしまわないと、なかなか先には進めない。
○問題は危機がなかなか表面化しないことだ。銀行の株価が極端に下がると、普通だったら預金流出が始まる。そこで初めて銀行の経営が危うくなる。しかるに過去のケースを見る限り、預金流出はせいぜい預金量の2割程度が最大値だそうだ。考えてみれば当たり前のことで、いくら取り付け騒ぎが起きても、現金で出している限りにおいては出て行く金額は知れている。ということは、銀行が資金繰りに詰まる、てな事態はありそうでなさそうだ。これでは、「嫌々ながら公的資金を受け入れる」というパターンが、またまた繰り返されてしまう。
○それでも生保の含み損の問題など、いろんな経路で危機は表面化するだろう。その結果、「行き詰まり解散」てなことになるのかもしれない。ところが、解散・総選挙をやったところで、政権の受け皿は見当たらないし、今の支持率を考えれば「やっぱり小泉さん」ということになりそうな気がする。はてさて、方向転換の難しいことよ。
<10月10日>(木)
○朝から驚きました。ノーベル化学賞の田中耕一さんって、かんべえの高校の1年先輩でありました。全然記憶のない名前なんですが、どこかですれ違っていることだけは間違いない。県立富山中部高校卒、ということは、神通川の河川敷グラウンドとか、保健体育のキヨ先生とか、青龍団の陸上ボートとか、ローカルな記憶をたくさん共有しているはずである。うーん、と何だかとっても感動。
○今日はアメリカ大使館の美人スタッフ2人が来訪。いそいそと「台場小香港」にご案内してランチ。昨今の株価、竹中ショック、小泉政権への評価など、好き勝手なことを雑談。聞き手がよかったせいか、考えがすんなりまとまったので、午後はそのままの内容を今週号の溜池通信にまとめてしまう。実は今週は何も準備してなかったのだ。何だか儲けた感じ。
○以下はその中での会話から。
「アメリカの意図、ってよく言う人がいるんですよ。金融界の人って、そういうの好きなんです」
「どういうことですか?」
「9月に竹中さんがCEAのハバート委員長に会って、何か吹き込まれたんじゃないかとか」
「ハバートさんって、そんな政治的な人じゃないですよ」
「僕もそう思うんです。あの人って純粋な経済学者でしょ。それもとっても退屈なタイプの」
「ハバートが政権内で、自分の意思を通そうとしたという話は聞いたことないです」
「もっとすごい話もあるんです。小泉は訪朝でブッシュ政権の虎の尾を踏んだって」
「虎の尾?それ何?」
「いや、ブッシュを怒らせちゃったってこと」
「え?わかんない。何でアメリカが怒るんですか?」
「悪の枢軸に手を差し伸べたのが許せないから、その代わりに不良債権処理を急げと言われたって」
「だって韓国と日本が話し合って決めたことでしょう?
アメリカが怒る理由なんてないです」
「そうですよねえ、だいたい安保の借りを経済で返せなんて、普通は言わないよねえ」
○まあ、とくに誰がとはいいませんけど、この手の被害妄想的な言説はとっても多いです。特に昨今のように株価が下がっているときは。日本はいつもアメリカに頭が上がらなくて、アメリカはとっても賢くて、日本はいつもしてやられる。
「最近、日本でも反米派の人が増えちゃって困ってるんです」
「そうでしょうなあ。イラク攻撃だって、行け行けと言ってるのは、岡崎研究所くらいだものなあ」
○お土産に、イラクは過去10年、いかに国連に逆らってきたか、というレポートの邦訳を頂戴しました。これはブッシュが国連演説のときに資料として発表したもの。大量破壊兵器の話などはさすがに驚かないけど、クウェートの資産をまだ返していない、ってのはあんまりですよね。
<10月11日>(金)
○富山県人からのメールが急増中。内容は皆さん、「田中さんのノーベル賞、よかったねえ」。これはもう説明できない、一種の嗅覚みたいなもんなんですが、田中氏、およびその奥様は、「見るからに富山県人」なのです。それもいいところばかりを凝縮したようなタイプなものだから、そういう人が祝福されているのを見ると、こちらまで幸せな気持ちになります。
○これは以前からのかんべえの持論ですが、富山の人というのは「与えられた条件の下で最善を尽くす」という美徳があるように思います。与えられた条件そのものには疑問を持たない。環境に素直に適応し、上司に文句を言ったりせずに、愚直に働きます。だから革命家は出てこない。県内出身の著名人というと、安田善次郎、正力松太郎、瀬島龍三など、体制内で名を残した人が目立つ。政治の世界は非常に保守的。1989年の参議院選挙で、自民党が落とさなかった3県のうちのひとつです。とにかく、不平不満を言っていると相手にされない。「口を動かさないで手を動かせ」というのが富山県人の流儀です。
○スポーツ選手でいかにも富山出身らしいのが鹿島アントラーズの柳沢で、FWのくせに「俺が、オレが」がない。MFの稲本にアシストして、得点が入れば満足している。周囲は歯がゆく思うが、本人はあっさりしている。この手の自己主張の弱さを、富山弁では「根性よし」と表現します。聞けば田中耕一氏は会社で研究一筋、昇格試験をパスするとか、「こんじょよし」ぶりを存分に発揮されていたそうです。そういうのを聞くと、ますますうれしくなってしまうじゃありませんか。
○「青色発光ダイオード」の中村修二氏は、自分の発明に対する特許を求めて会社と係争し、「発明は誰のものか」という問題を提起しました。この事件を契機に、勇気づけられた研究者は少なくないだろう。それとは対照的に、田中氏はそもそも自分への評価に対しては恬淡としていて、「会社に搾取されている」などとは露ほどにも思っていない様子。これはこれで、いかにも理科系の古きよき日本人の典型で、きっと好感度は高いと思う。
○かんべえは目立ちたがりで、自己主張もそこそこする方だと自覚しているけど、でも富山県をたくさん引きずって生きていると思う。「与えられた条件の下で最善を尽くす」ということも、自分では嫌いじゃありません。
<10月12〜13日>(土〜日)
○朝から町内会で、防犯灯の整備と草刈り。電柱に梯子をかけて、防犯灯の汚れを取る。防犯灯にはセンサーがついていて、暗くなると自動的に点灯するようになっている。そこで黒いビニールを持って梯子を登り、センサーの上にかぶせて30秒ほど待つ。点灯すればよし、つかないときは、蛍光燈が切れているので取り替える。
○てな作業は、午前中の早い時間で終了。今日は秋らしい日和。午後は秋華賞だが、かんべえは自宅で観戦することにする。デビュー以来4戦4勝というファインモーション一色の状況が、どうもついていけないのだ。昨日時点で単勝が1.0倍。それってすでに賭けとしては破綻しているではないか。こんな日は、三連複で2位と3位を当てるくらいしか楽しみがない。
○そもそもかんべえは、マンハッタンカフェの引退でちとガックリきているのである。G1レースを3つも取らせてくれた馬だけに、凱旋門賞に挑戦中の故障発覚は痛恨の極みであった。サンデーサイレンスの死とともに、一族郎党も落日が訪れているのかもしれぬ。これでこの秋の楽しみがガクッと減った。秋の天皇賞、JC、有馬記念と、いったい何を応援したらいいのか。
○というのはさておきて、今日の秋華賞には驚きました。ファインモーションは2位に4馬身差をつけてのぶっちぎり。騎乗の武豊は、何もしていない(ように見えた)。
○上海馬券王(富山県出身)によれば、秋のG1街道はこれっきゃない、のだそうだ。
去年はタキオン、クロフネという飛車角が、今年はマンハッタン、ギムレットという金銀が志半ばでターフを去り、現在スター不在の競馬界である。JRAも売上減に歯止めがかからず頭が痛いでしょうが、今週の秋華賞に出走するファインモーションは牝馬ながらかなり強く、ひょっとしたらエアグルーヴ以上のスターになる可能性があり。
秋華賞はこれで鉄板、2着探しのレースになっちゃいましたが、問題はその後。陣営はエリザベスに出すといってるけど、JC、有馬に出ても勝負になると思うんだよね。なんたって府中開催・騎手ペリエでしか勝てないくせに今回その両方がないジャングルポケットとか、ステップレースを圧勝して人気になりながら本番でこれを裏切りつづけてきた馬券詐欺常習犯のナリタトップロードなんかが人気になりそうな面子なんだもの。
○JRAにとっては待望のスター誕生ですな。競馬の世界も女性に期待、ってことでしょうか。
<10月14日>(月)
○バリ島の連続爆破事件。今朝の報道で187人死亡とある。エライことですよ。連休中とはいえ、どうもこの手の事件になると日本の反応が鈍いのが心配である。小泉首相、すぐに安保会議を招集せよとは言わないが、ちゃんとテロを批判する声明を出しておいてくれよ。ついさっき、ネット上のニュースを見たら、アサヒコムのトップは「カブレラ、新記録ならず」であった。大馬鹿モノである。ちなみに「よみうりオンライン」と「日経ネット」は、ちゃんとバリ島爆弾テロをトップにしていた。マスコミはちゃんと仕事してくれよ。でも明日は休刊日である。
○爆破されたのはディスコだけじゃなくて、アメリカの名誉領事館近くとフィリピン総領事近くもだ。犯行声明はまだないらしいが、どこから見ても「テロ」と書いてあるような事件である。たぶんミンダナオ島で掃討作戦中のイスラム過激派、下手をすればアルカイダの息のかかった連中の仕業である。この事件、エジプトのルクソール事件とよく似た構造で、観光地でテロをすれば、外国人が来なくなって政権に打撃を与えられるという歪んだ動機があるんじゃないかと思う。
○ブッシュ大統領がさっそく「テロと徹底抗戦」を呼びかけている。中間選挙を前に、「やっぱり経済より安全保障が大事」という証明書をもらったようなもので、正味な話、「ラッキー」と思っているだろう。こうなると「オセロゲーム理論」で、テロリストは全部クロと見なされるから、イラク攻撃がまた一歩前進したようなものだ。
○メガワティ政権の出方が難しい。もともと政権基盤が弱いから、イスラム主義団体に対して強く出られなかった。その点で「9・11」に対しても、いまひとつ腰の引けた対応になっていた。だが、もう黙っていられなくなるのではないか。他のイスラム国も対応に苦慮するだろう。マハティールあたりが、どんなコメントをするか。アメリカの対テロ戦争に反対することが、だんだん難しくなる。
○世界の観光業界が受けるショックも超弩級だろう。やっと「9・11」のショックが薄れていたときに、世界的な観光地が襲われてしまった。次がどこでも不思議はない。これは世界経済にとってもマイナス要因となる。
○こんなときですが、明日の夕方からニュージーランドに出張してきます。おそらく世界でもっとも安全な国じゃないかしら。
<10月15日〜16日>(火〜水)
○ということで、オークランドのホテルに到着したかんべえでござりまする。
○月曜の午後3時40分に、ホテル日航の前から出ているエアポートリムジンに乗ったところ、お客は私一人。2700円でバスを貸し切りにして、そのまんま成田へ。これは穴場かもしれません。成田エクスプレスなんて目じゃないですよ。そんなこんなで、ニュージーランド航空と日本航空が共同運航している便に乗り込む。1日1本の夜行便は、なんとジャンボ機が満席状態。ニュージーランド行きの団体旅行さんがあっちにもこっちにも。
○この便、妙なことに最初に南島のクライストチャーチに降りて、そこから北島のオークランドに引き返してくる。米国からの便が、最初に大阪に降りて、そこから東京に引き返すようなものである。オークランドに行きたいかんべえとしては、なんちゅう無駄なことをと思うのだが、驚くべし、客のほとんどはクライストチャーチで降りてしまうではないか。老若男女、というか老々男女の団体客が、ざっと400人は降りている。クライストチャーチは人気急上昇とは聞いていたが、人口30万の地方都市である。ここに毎日400人の観光客が降り立つとはすごい。
○そこで入国審査をするのかと思ったら、さにあらず。ここで国内便の客を大勢乗せて、一緒にしてそのままオークランドに到着する。その気になれば、なんぼでも密入国できそうである。この国は持ち込まれる動植物に対してはきわめて神経質で、ゴルフシューズの裏に土がついていても「めっ」と怒られるほどなのだが、安全管理の方はあまりされていない様子。「国内便だったら、簡単にハイジャックできるんじゃないか」とは、現地の某君の言。平和な国だからなあ。
○空港で両替。100米ドルを両替してみたら、199NZドルとなった。米ドルのちょうど半分。円にすれば60円程度。前回、2000年に来たときは、1NZDが40円だったから、物価は5割増しということになる。だが、それでもこの国の物価は安い。某君と一緒に入ったベトナム料理屋のお昼が17ドル50セント。これが米ドルだとちょうど値ごろ感がある。ホテルのレートが一泊150ドルというのもまさにそんな感じ。某君が運転している日本車の中古が1万5000ドルとのことで、これも米ドル価格で考えると納得がゆく。NZの物価はつつましいのだ。
○考えてみれば、1996年、98年、2000年と、2年おきにニュージーランドに来ている。今回はどのくらい新しい発見があるものやら。バリ島の事件や拉致家族の帰還、日本の株価など、気になることは数々あれど、今日のところはそろそろホテルの部屋から出ることにしよう。
<10月17日>(木)
○ニュージーランドと日本の時差は4時間。普通は3時間だが、10月1日から夏時間が始まったので、さらに1時間繰り上がった。経験的にいって、2時間の時差は誤差の範囲内だが、4時間になるとずっしりと効いてくる。アメリカの東海岸と西海岸を行き来すると3時間で、これが結構つらいというのは有名な話だが、日本からニュージーランドに来てみると、この時差の効果が思いのほか大きい。
○昨夜は前夜祭的なレセプションがあり、それから取引先を囲んでの夕食会があり、さらに現地駐在員と行ったカラオケ屋と3軒ハシゴしているのに、眠くならない。時間はすでに午後11時を過ぎて、そろそろホテルに戻って明日の準備をしなければ・・・・と思いつつも、体内時計はまだ7時。てなわけで、ついつい飲みすぎる。ちなみにオークランドのカラオケ屋は「迎賓館」と「晩餐館」の2つがある。前者は過去2回行ったことがある。昨夜はそれが満席だったので、後者に行った。中身は大差なし。もっとも似たような店は世界中、どこにでもあるわなあ。ねえ、らくちんさん。
○4時間の時差は駐在員も泣かす。午後10時にカラオケ屋にいると携帯電話が鳴る。東京から、「お宅の店だけ数字が出てないんですよ。1時間以内に送ってくれませんか」と鬼のような叱咤。こちらは酔っているが、向こうはまだ午後6時である。そこで泣く泣くオフィスに戻る、なんちゅう話も。地球の裏側にいれば、こんな電話は受けずに済んだろうに。
○さて、12時過ぎてホテルに戻ったかんべえ、明日の準備をする気力もないが、なにより明日起きられるかどうかが心配である。午前7時には起きなければならないが、それって体内時計でいうと午前3時。これはシンドイ。まじめな話、ニュージーランドでは寝過ごした経験があるので、念入りに目覚し時計をセットする。ちょっと寝てすぐ目が覚めるが、日本時間のままにしている時計を見ると午前1時半。ということは朝の5時半。ここから二度寝すると真剣に危ないので、頑張って起きる。第29回日本ニュージーランド経済人会議の始まりである。
○朝食会、開会式と式次第は進むが、頭の中はほとんど霧がかかっている。かんべえの出番である第2セッションが近くなって、ようやく目が覚めてきた。なんとなれば時間は午前10時、つまり体内時計がやっと午前6時に達したのである。この会議、いつも事務方で参加しているが、今回はスピーカーもやるのである。日本の貿易の最近の傾向と通商政策、みたいなコメントを10分程度。当方が日本語で話す内容を、同時通訳してくれるのはサイマルの長井鞠子さん。そう、あの「総理の通訳」は、この会議の常連なのである。長井さんの仕事は過去10年で数え切れないくらい接しているが、これはもう一生の記念ですね。
○どういう話だったかは、また本誌ででも紹介する機会があるでしょう。ではまたのちほど。
<10月17日>(木)夜の部
○前回、2年前に来たときは、ニュージーランドは景気が悪くて人口が減っていた。今回は景気がいいんだけど、その背後にあるのはアジア系移民の流入らしい。いまや最大都市のオークランドなどは、「3人に1人はアジア系」だという。彼らは金を持ってくるので、不動産価格が上がっている。この国は人口わずか380万人だが、約50万人のマオリ族がいる。アジア系がすでに25万人となり、将来は逆転するかもしれない。そうなったら、英国移民とマオリ族が「ワイタンギ条約」を結んで建国した、というこの国の誕生自体が怪しくなってしまう。
○移民は犯罪の増加ももたらしている。窃盗、空き巣のたぐいが急増しているとのこと。現地の日本企業の家電製品の在庫が、出荷間際になると盗られる、などという事態が繰り返されているらしい。治安のいいこの国としては、由々しき事態である。とまあ、日本人は考えるわけだが、現地の人は「保険もかかっているし、いっかあ」とあまり怒らないらしい。
○このあたり、ちょっと歯がゆい気がするのである。たとえばバリ島のテロ事件では、ニュージーランド人も二人の死亡が確認されている。でも、あんまり怒っていない。隣のオーストラリアは、自国民が犠牲者のかなりの部分を占めるだけあって、事件発生直後に輸送機を飛ばすなど、ほとんど戦争に入らんばかりの怒り方である。こっちの感覚の方が普通だと思うけどな。ところでインドネシア情勢については、よろずインドネシア掲示板がお勧めです。
○豪州は移民政策では、ニュージーランドより一歩も二歩も先を行っている。「白豪主義」なんてのは遠い昔のことで、「マルチカルチャリズム」の国になり、今度は「やっぱりやり過ぎたか」という後悔が何度も頭をもたげてくるという状態が続いている。今朝のニュースによると、バリ島の事件をきっかけに、イスラム教徒への嫌がらせも起きているらしい。これは深刻な事態といえる。
○ところで「アジア系」と言っているのは、ほとんどが「中国系」である。他日、中国政府の要人がこの国を訪れたときに、運悪く、車上荒らしに遭ってしまったらしい。そこで、「この国の治安はどうなっている」と怒ったそうである。現地の人の反応は、「よく言うよ」ないしは、「あんたには言われたくない」だったそうだ。ま、気持ちは分かるな。
<10月18日>(金)
○会議は無事に終了。ほっと一安心である。今週、日本はいろいろあったようですが、この国は平和です。
○空いた時間に、当地のマリタイム・ミュージアムを覗いてみた。来年開かれるアメリカズ・カップの宣伝をしている。もともとはイギリスで行われていたヨットレースだったのだそうだ。日本がまだ幕末だった頃、このレースでアメリカ勢が優勝した。ときのヴィクトリア女王は、ゴール直前で「どこが勝ちそうなの?」と聞いた。側近は「アメリカです」。女王は憮然として聞く。「では2位は?」。側近は答えた。「おそれながら陛下、2位というものはございません(There
is no second.)」。ときに1851年8月22日。100ギニーで作られた銀色の大きなカップは、大西洋を渡ることになった。これがアメリカズ・カップの誕生である。
○カップはその後、アメリカでいくつもの名勝負を生んだ。80年代に豪州に奪われたこともあったが、再びアメリカが奪還した。そして1995年に当国のブラックマジック号が優勝し、カップをニュージーランドに持ち帰った。99年のマッチも防衛に成功し、来年8月に次の大会が行われる。天然の良港を抱え、港にはヨットが一杯というこの街は、City
of Sailsとも呼ばれている。この国の人たちは、この世界大会を主催できるのが、うれしくて仕方がないようだ。今度勝ったら3連勝。「もうアメリカズ・カップじゃなくて、ニュージーランド・カップだ」と言いたいところかもしれない。
○夜は吉例通り、スカイシティに出かけてカジノでひと勝負。ルーレットは好調だったが、バカラで苦戦。結局、少し浮きで撤退。どうも昔ほど熱中しなかった。あとは日本に帰ってから、菊花賞を楽しみにしておこう。先週の秋華賞では、上海馬券王はきっちり2位と3位を当てて稼いだそうなんだが、ご意見を伺いたし。不毛の3歳牡馬を制するのは、やっぱりノーリーズンですかね?
○ということで、明日の早朝の飛行機で帰国です。最後に、宿泊したホテルについて書いておきます。ここはThe
Heritage Aucklandという新しいホテル。URLは下記をご参照。1999年にAPECを主催するために、慌てて作ったらしい。このときのAPEC首脳会議の出席者全員が残したサインが、ホテル内にさりげなく飾ってある。「Bill
Clinton」や「江澤民」という書名が並んでいて、なかなかに壮観である。日本代表である「小渕恵三」は達筆だ。金大中は、ハングルと英語の両方で表記してある。面白いと思うのだが、あいにくなことに誰も気づいていない。
http://www.heritagehotels.co.nz
○それはさておき、なんだかホントーに変なホテルなのである。中は入り組んでいて、まるで迷路のようだ。部屋はキッチンやテーブルもついてかなり広いのだが、ワシの部屋はなぜか湯船がなくてシャワーだけである。テレビにはいっぱいチャンネルがあって、NHKまで入る。CNNを探していたら、なぜかペイTVのはずの成人映画が見えてしまう。もちろんここはアングロサクソンの国ですから、すべてノーカットですぞ。(でも15分で飽きてしまった)。
○ふと思うのだが、このホテルに田中裕士さんが泊まったら、読者を落涙させるような長編大作ができるかもしれない。(田中さんのホームページは、メディアについて語ることが主眼になっているのだけど、食べ物やサービス業に対する恨みつらみを書いているときが、いちばん生き生きしていると思う)。まあ、こっちは慣れてるから、大概のことには驚かなくなっているけど、いろいろびっくりさせてくれるホテルですね。コックが4人がかりで焼いているオムレツがなかなか来ない(順番ももちろん入れ替わる)、くらいは文字どおり朝飯前ですが、金曜夜のバンドの演奏が12時過ぎても終わらなくて、部屋まで聞こえてくるというのはちょっと・・・・
<10月19日>(土)
○朝イチの飛行機で帰ってまいりました。10時間の飛行は疲れました。行きと同じく、帰りも満席。今回は中学生の修学旅行と鉢合わせました。気分はすっかり「エコノミークラス症候群」ですな。まあ、半分は寝てたからよかったようなものですが。
○機上で読んだ本、2冊がどちらも面白かった。以下は読書メモ。
○中公新書『日本の外交−明治維新から現代まで』(入江昭)。1960年代に書かれた名著。「政府の現実主義と民間の理想主義」という日本の外交思潮のパターンは、日露戦争の時期にはできあがっていたのだそうだ。といわれると、今回の対北朝鮮外交などはまさにその通りの展開である。問題は民間の側が、まっとうな理想主義を提示できていないところにある。
○戦前の外交思想といえば、「西洋に対応する東洋」という例のワンパターンで、そんな浅はかな思想がアジアで受け入れるはずもなかった。本書が書かれてからさらに40年近くが経過しているが、その後の理想主義は依然として不毛である。平和主義や環境重視といった潮流はたしかにあるものの、じゃあニュージーランドのように原子力空母の寄港を拒否できるか、といわれればそりゃ無理だ。だって戦後日本の平和は、米国の核の傘の下にいたお陰で享受できたものであって、自分の手で守りとったものではないのだから。
○かんべえは、日本は英国流の現実外交主義が似合っていると思っている。拉致事件では感情的な反応が目立つけど、なんの、この国の人たちを甘く見ちゃいけません。とっても計算高くて、実利に辛い人たちですよ。
○光文社新書『怪文書U(業界別・テーマ別編)』(六角弘)。ベテランジャーナリストがこまめに集めた怪文書のコレクション。政官界から、夜の銀座に至るまで、世に怪文書の種は尽きない。この著者、怪文書に関する著書が多数なのはともかく、六角文庫という怪文書を集めた私設図書館まで運営しているというから権威(?)である。
○怪文書の帝王は、やっぱりムネオさんらしい。P33に登場する「進退伺い」は爆笑モノ。「この責任を取りたいので、進退については内容をご検討の上、皆さまのご判断をいただきたいと思いますので」と、自分の罪状を10個並べ、最後は「罪状については書ききれません」と締めてある。怪文書も名作から駄作までさまざまで飽きません。
<10月20日>(日)
○世に「エシュロン」なるものがあるという。米、英、加、豪、NZの5カ国が共同で、全世界に盗聴ネットワークを張り巡らせていると聞く。本当のところは知らないが、そんなものが実在するとしたら、この5カ国を結び付けているのは「アングロサクソン・グループ」という点だろう。単に歴史と英語と価値観を共有するというだけではない。これらの国は第1次世界大戦、第2次世界大戦、ベトナム戦争、湾岸戦争など、ほとんどの戦争で一緒に戦っている。「あうんの呼吸」がある木戸御免の関係なのだ。
○今度の出張で感じたのだが、ニュージーランドはアングロサクソン・グループから脱落しつつあるかもしれない。1984年の労働党ロンギ内閣は、米国艦船ブキャナンの寄港を拒否した。核兵器搭載の有無の通報を拒否したからである。それで米豪NZ間のアンザス同盟からはずされた。それにひるむことなく、1987年には原子力推進艦船の寄港、核兵器の持ち込みを禁ずる非核法を成立させた。それくらいこの国の反核感情は強い。広島や長崎に対する関心も深く、オークランドでは原爆の展示会をやっていたりする。同時に、核廃棄物を積んだ日本の船が近海を通るときは激しく抗議する。
○昨年のテロ事件に対しては、ニュージーランドの対応は積極的だった。アフガンに対する人道援助もした。でも、イラク攻撃には賛成できそうにない。お隣の豪州は、賛成したくてウズウズしているように見えるのとは好対照である。それよりも、環境を重視するこの国では、京都議定書から米国と豪州が降りてしまったことに対する深い失望がある。要するにこの国のコンセンサスとなりつつある平和主義、非核、環境重視という価値観が、「アングロサクソンのよしみ」よりも重きをなすようになってしまったのだ。
○なんでそうなるかといえば、あまりにもこの国が平和であるからだと思う。空港の風景が象徴的である。ハイジャックなどのセキュリティ対策はまったくおざなり。その反面、生態系を維持するために、外から入ってくる動植物に対してはものすごく神経質だ。入国の際に農水省の係官が見張っていて、瓶詰めの蜂蜜さえ取り上げてしまう。だから日本人駐在員の間には、「意外と納豆は持ち込める」とか、「うなぎはグレーゾーン」だとか、いろんなノウハウが貯えられている。さらには「葉っぱを持ち込むと駄目」というルールのために、柿の葉寿司を開けて葉っぱだけ捨てた、などという悲喜劇があったりする。
○ニュージーランドが目指しているのは、いわば「一国平和主義」みたいなものだ。日本の旧左派勢力ほど教条主義ではないものの、WTOのドーハ・ラウンドの農業交渉が進まないことに苛立ったり、アメリカにFTAを申し出て、「ふん!」てな対応をされてガッカリしたり、なんだかどこかで見たことがあるようなナイーブさがある。
○この国の生命線は、主力の輸出商品である農産物を他国に買ってもらえるかどうかである。昔は「大英帝国の農場」だったから、複雑なことを考える必要はなかった。それが1973年に英国がECに加盟して、特恵的な地位を失ってしまう。その後のニュージーランド経済は、文字どおりインフレと失業のダブルパンチで地獄を見る。名高い80年代の構造改革でこの国は蘇るのだが、「あの1973年から」といった声は今でもよく聞かれる。それでも大胆な規制緩和と自由化・民営化はきつかった。改革の痛みはそこここに残っている。
○そんな犠牲を払い、この国はWTOの優等生となった。ところが他のメンバー国は、ニュージーランドほど真面目ではない。日本は農産物問題で頑なになるし、アメリカは労働と環境問題などを持ち出すし、中国に至っては知的所有権などで問題山積である。そして不真面目な国ほど、強い交渉力を有する。ニュージーランドのような優等生国は、交渉に使えるカードがないために歯がゆい思いをしなければならない。その姿は、京都会議で「いい子」になり過ぎて、今となっては6%という高すぎるCO2削減目標を前に途方に暮れている日本と重なって見える。
○非常に月並みな結論になるのだが、外交における理想主義と現実主義のバランス、ということを考えざるを得ない。おそらく国民党の政権ができたあかつきには、外交政策が「親アングロサクソン路線」へ回帰したりするのかもしれない。でも今年7月に行われた総選挙では第2次クラーク労働党政権が発足。連立相手の緑の党が議席を伸ばしたこともあり、当分は現在のリベラル路線が続くのだろう。平和主義、非核、環境重視という外交政策は、はたしてサステナブルかどうか。経済で「小さな国の偉大な実験」を果たした国は、今は外交の実験にトライしているように見える。
○・・・・以上、こんな長い話を書いたのは、実は菊花賞の意外な結果に対するショックから立ち直るためなのです。雨のせいもあって、日和ってしまったんだけど、行っとけばよかったなあと。今日の2位につけたFファストタテヤマは、ダービーで買ってたこともあって(5月26日分を参照)、密かなねらい目だったのです。もちろんAヒシミラクルはノーマークだったし、Eノーリーズンが落馬するとも思ってないから、特大万馬券が取れたはずはない。でもなあ、無印のファストタテヤマだけに、複勝でも大いに威張れたはず。
○え?なぜファストタテヤマにこだわるかって?
その心は「越中立山」。決まってるじゃないですか。
<10月21日>(月)
○久しぶりに出社したら、溜まったメールが90本。ダウンロードしている最中にPCがフリーズし、結局、午前中いっぱいかかる。何たることぞ。まだ返事してない分もありますので、皆様、お許しを。
○平和な国で過ごした1週間の遅れを取り戻すのは骨ですね。北朝鮮が核開発を認めたということは、先月の日朝合意は10円安、KEDOの枠組み合意は崩壊、金大中の太陽政策は失敗、カーター元大統領のノーベル平和賞も値打ち半減、となるわけですが、北朝鮮側は本当に分かっているんでしょうか。「拉致家族を返せば日本人は喜ぶだろう」も含めて、とんでもない勘違いをしているような気がします。
○夜は都内某所で経済政策論議。相も変わらぬ展開にため息。今日はテイラー財務次官との日米金融対話があり、明日は竹中チームの中間報告が予定されている。でも、前進しないだろうなあ。
○11月13日に発表予定の7−9月期GDPの数字は悪そうだ、という話を聞く。うーん、どっちを向いても憂鬱な話が多い月曜日。
<10月22日>(火)
○先週、外務省から「日本のFTA戦略」が発表された。下記のURLに全文が掲載されている。お暇な方はご一読を。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/policy.html
○こういう文書が出るということは、いよいよ日本政府がFTAに本腰を入れ始めた何よりの証拠だなあ、でも、とくに真新しい点はなさそうだなあ・・・と見ていたら、なんと台湾とのFTAの可能性について触れてあるではないか。
(e) 台湾
台湾は、WTO協定上、独立関税地域であり、他のWTO加盟国との間でWTO協定に規定される純粋な物品・サービスの貿易障壁の撤廃という形のFTAの締結の可能性は理論的・法技術的には検討の対象となり得るが、台湾の関税率(単純平均)は、全産品で6.1%、非農産品で4.8%であり、例えば仮にFTAを通じた関税撤廃を行ったとしても、かかる取組から双方が得られる利益はそれほど大きいとは言えない状況にある。したがって、そのようなFTAの締結を進めるよりも、むしろ、民間経済界の要望を踏まえつつ、幅広い経済関係を視野に入れながら、具体的な分野に即して経済関係の強化を図るべく検討していくことがより適当である。
○あっ、と息を呑みました。そうなんです。台湾はWTOの加盟国だから、GATT24条にあるFTA締結の権利が認められて当然なのです。日本が台湾とFTAを締結することも、「理論的・法技術的には」OKとなる。もちろん政治的には、中国の反対というハードルをクリアしなければならない。しかし上の文章を読んで気づくのは、「日本が中国とFTAを結んでしまえば、その後で台湾と結んでも反対は出ない」ということ。この場合、中国には反対する理由がない。なにしろ、「ひとつの中国」というフィクションは守られるのだから。これなら、「ASEAN+3」でFTAができたとしても、台湾がエアポケットになることは避けられる。
○筆者は8月の日米台三極対話で「日台FTA」の提案をしましたが、上記のトリックにはまったく意表を突かれました。外務省、偉い!
国際法を盾にとって、中国に恫喝の余地を与えない。お見事と言っておきましょう。(筆者の「日台FTA」に対する考え方は、本誌の8月30日号をご参照ください)。
○ところで今月号のForesightに、新潮ムック発売のお知らせが載っている。『上海で勝て!これが中国ビジネスで成功する50の法則だ』。10月28日(月)発売、とある。拙稿が掲載されるのだが、その最終ゲラチェックを送ったのが今朝。これで来週月曜には店頭に並ぶというのだから感動モノである。印刷屋さん、本当にありがとう。編集者N氏によれば、「かつて体験したことのない強行軍」だった由。労作を見逃すなかれ。定価はたったの880円だ。
<10月23日>(水)
○10月2日にも書いたけど、筆者の竹中平蔵氏に対する評価は低い。せめて学者として一流の人ならば、もうちょっと他人も信用するんだろうけど、見るべき業績も著作もない上に、発言がコロコロ変わる。追いつめられると言い訳をする。これでは人はついていかない。経済担当大臣兼金融担当大臣はミスキャストだと思う。
○とはいえ、自民党の政治家が彼を袋叩きにしているのは見苦しい。「民間人がこんなことを決めてケシカラン」などと言っているが、不良債権問題に対してプロの政治家が過去10年にやってきたのは何だったのか。大半は「金融はちょっと・・・・」と避けて通り、金融通と呼ばれる人は「手心発言」など、あらぬことをしてきたのではなかったか。あの程度の民間人に荒療治をさせている現実は、彼らプロの政治家が招いた事態であることを自覚してほしい。
○竹中氏がやろうとしているのは、銀行の長距離走を止めさせて短距離走に切り替えることだ。「そりゃ無茶だ」という声が上がるのは当然である。だが、長距離走の先に待っているのが、展望のない消耗戦であることは誰の目にも明らかだ。税効果会計の扱いを米国並みにすると、銀行の自己資本比率は軒並み8%割れするらしい。だが、それが現実であるならば、そこから目を背けるわけにはいかない。正直になろう。日本の金融システムは危機なのだ。
○それを認識した上で何をすればいいのか。遅れ馳せながら、小泉政権は方針を切り替えた。そのこと自体は間違っていない。誰かが蛮勇を振るわなければならない。渦中の栗を拾ってくれるのが竹中氏であるならば、たとえ彼が信用できない人物だとしても、これを支持する以外にないじゃないか。
○自民党のセンセイ方が、せめて代案を持っていて批判するのなら結構。「そんなことをすると株価が下がるじゃないか」程度のことしか言えない人たちが、余計な口を出してどうなるというのだ。衆参統一補選を目前に控えているというのに、せっせと自分たちの総理の足を引っ張っている。守ろうとしているのは、日本経済なのか自分たちのプライドなのか。
○さて、その補選の行方だが、かんべえの元にあるデータによれば、7つの選挙区のうち与党候補が3つは堅い。逆に民主党は2つは取れそう。さらに無所属候補が1人勝ちそうだが、これは例の元総理秘書官さんだから、事実上の自民党候補。早い話が、自民党に負けはないということだ。小泉人気は復活しているし、拉致事件で左派政党が受けたショックは小さくない。小泉さんがこの混乱を乗り切るとしたら、週明けが勝負どころになる。
○1個だけ見えない選挙区がある。参院千葉だ。恐ろしいほどの低投票率になるだろう。このワシでさえ、行く気にならないほど不毛の選択である。ところで今日のかんべえはちょっと、荒れ過ぎたかな。
<10月24日>(木)
○国際大学の信田先生が、「ここ1ヶ月ほどは本当に面白い」と言ってました。たしかに国際情勢の変化はすごい。逆に国内経済は悩ましくて、面白いなどとは言っていられない。ちょっと頭の整理をしておきましょう。この先1ヶ月くらいは、何がどうなるやら見当もつかないぞ。
10月25日(金):江沢民訪米。テキサス州クロフォードでブッシュ大統領と会談。
10月26〜27日:APEC首脳会議(メキシコ・ロスカボス)*日米韓首脳会談を実施
10月27日(日):衆参統一補欠選挙投開票(参院千葉、鳥取、衆院山形4区、神奈川8区、新潟5区、大阪10区、福岡6区の7選挙区)
10月29日(火):日朝国交正常化交渉(マレーシア)
11月 3〜6日:ASEAN+3会合(カンボジア)
11月 5日(火):米国中間選挙
11月 6日(水):イスラム圏がラマダン入り(〜12月5日まで)
11月 8日(金):中国共産党大会
11月13日(水):7−9月期GDP速報値発表
11月19日(火):テロ特別措置法の期限切れ
12月13日(金):臨時国会会期末
12月19日(木):韓国大統領選挙
○こんな風に物事が加速し始めたのは、やっぱり9月17日の日朝首脳会談からだと思う。会談終了後、拉致問題で謝罪が得られたというものの、それでも相手を刺激しないように、小泉首相が拉致被害者家族と会うまでに10日間の冷却時間を置いた。9月27日に面談があった際には、「これで当分、拉致事件の報道も一段落する。今後は報道しようにも“絵”がない」といわれたものだ。が、それから1ヶ月、拉致被害者の一時帰国が実現し、それが永住帰国になるかもしれず、さらには子供も取り返せという話になっている。北朝鮮側の「ベタ降り」は、不気味なところまで続いている。
○拉致被害者を返せば、日本人は喜んで態度を変えるだろう、という発想があったのだろう。しかし、テレビが連日のように拉致被害者の映像を送り続けることで、日本国民の間で北朝鮮への疑念はますます深まっている。10月22日には国会で小池百合子議員が朝銀問題で代表質問を行い、大きな反響を呼んだ。国交正常化交渉はスムーズには進むまい。民主主義国におけるテレポリティクスの効果、ということは、金正日の想像力を越えていたのかもしれない。
○日本に対する譲歩とは裏腹に、北朝鮮は米国に対しては瀬戸際外交を続けている。これは「日米を分断するため」という解説がなされているが、まったくの逆効果になっている。おそらく日本国民の間で、日米同盟に対する支持率は急上昇していると思う。「日米同盟は重要です」と言い続けてきた者としては、こんなに安心できることはない。
○金正日は元・映画監督だったそうだが、おそらくはシナリオやコンテをきっちり作ってから撮るのではなく、即興で作業を進めながら、どんどん話の筋を変えていくようなタイプの芸術家なのだと思う。しかし彼の「読み違い」はどんどん拡大している。終わってみれば、とんでもない作品ができていた、てなことになるんじゃなかろうか。
<10月25日>(金)
○モスクワの劇場占拠事件、とんでもないことになっています。犯人グループと交渉が行われていますが、食料の差し入れを断るような確信犯ですから、自爆も十分に覚悟しているでしょう。人質が700人もいるのでは、下手をすれば3桁の犠牲者が出てしまう。ペルーの大使公邸事件とは桁違いの緊張感です。
○プーチン大統領は、チェチェン問題で妥協はできない。どこかのタイミングで突入を指示するでしょう。では、その後に起きるであろう悲劇に対して、誰がプーチンを責めることができるだろうか。
○今宵は岡崎研究所のNPO法人立ち上げのお祝い。かんべえも理事の一人となりました。間もなく会員募集が始まります。年間3万円の会費で、岡崎研究所のフォーラム招待、ニューズレター配布、メーリングリストなどの特典が得られます。こんな物騒な時代に、安いサービスだと思いますぞ。
<10月26日>(土)
○特殊部隊の突入で、モスクワの劇場占拠事件は収拾されました。これを書いている時点で人質にどれだけの被害が出たかは不明ですが、昨日書いたような「3桁」ではなさそうなのは望外の幸いといっていいと思います。
○今回は相当に強力な催眠ガスを使った模様。ただし特殊部隊というものは、どんなにすぐれた装備を持っていても、使えるかどうかは命令するヒト次第。「さすがロシア」というのも変なんですが、土壇場になると思い切った手を打ってくるのがこの国の強みです。
○ではなぜ思い切ったことができるかというと、人命に対する「痛み」の感覚が他の国とちょっと違うからだと思う。チェチェン戦線では、今でも日々、ロシア軍に犠牲者が出続けているという。こんな状態が2年半も続けば、厭戦意識から政治問題化するのが普通の民主主義国だけど、そうはならない。ま、なにしろ「モスクワは捨てる」などという決断ができてしまう人たちですから。
○ふと思ったのですが、仮りに人質の中に日本人がいた場合、小泉首相はプーチン大統領に対して「人命最優先で」という希望を伝えたでしょうか。ペルー大使公邸占拠事件のときの橋本さんと比べると、小泉さんはもっと薄情な人だという気がする。どっちが好きか、あるいはリーダーとしてどちらが優れているかというと、大いに議論が分かれることでしょう。
○では、かんべえの場合はと言えば、そりゃアンタ、聞くまでもないでしょう。
<10月27日>(日)
○いくら考えても分からないことがひとつある。それは「なんで北朝鮮は、核開発を認めたんだ?」ということ。今のところ、3つの可能性が語られている。でも、全然腑に落ちない。
(A)日本に対しては拉致問題で譲歩し、米国に対しては瀬戸際外交を展開する作戦。(何のためにそんな危険なことを?)
(B)ホンネでは対米交渉でも「ベタ降り」するつもりがあり、一時的なプロセスに過ぎない。(だったら、なぜその後に米国を非難するのか?)
(C)まったくのハプニング。ないしは事の重大性をまるで理解していない。(敵は交渉のプロ。そんなに馬鹿とも思えない)
○伝えられるところによると、10月3−4日に行われた米朝高官協議において、ケリー国務次官補が動かぬ証拠をつきつけた。その証拠とは、「パキスタンから購入した遠心分離器の領収書」だったという。北朝鮮とパキスタンは、前者がミサイル技術を、後者が核技術をバーターするという不届きな間柄だったといわれ、その遠心分離器は核燃料を濃縮するためのものであったと。北朝鮮側は一夜明けてから、核開発を認めたというから、これは金小日のお墨付きを得た上の居直りと見ることができよう。
○しかし変なのである。核兵器の材料は、@ウラン235を濃縮する(広島型)、Aプルトニウムを使う(長崎型)、の2通りの方法がある。北朝鮮はかつて、黒鉛炉の燃料棒を取り出してプルトニウムを採取し、それが1994年の核開発疑惑の発端となった。当時のクリントン政権は大いに困り、「エネルギーはこっちで供給してやるから、とにかく黒鉛炉を止めろ」と提案した。軽水炉ならばプルトニウムはできないから、韓国の技術で作ってやる。その間は重油を供与する。過去のことは問わない。その代わり、とにかく核開発は止めろ。・・・というのが、KEDOの合意の中身である。
○まさか、「プルトニウムは断念したが、濃縮ウランは別だ」などという理屈ではないだろう。さらに不思議なのは、ウランを濃縮するのは結構、難しいのである。東海村では、遠心分離器を1500台ほどつなげて使っていると聞く。しかも原子力発電用の濃縮ウランは、ウラン235が全体のせいぜい1割もあれば十分。ところが核兵器用となれば、9割以上の純度が必要になる。パキスタンから買ったわずか1台の遠心分離器で、十分に兵器として効果のある濃縮ウランが得られるかどうか。つまり、北朝鮮は「核開発をしようと思った」かもしれないが、「核を開発できた」とは考えにくいのである。(この部分、筆者の記憶違いがあるかもしれない。元化学大好き少年の知識ゆえに、念のため)
○それでも北朝鮮が核兵器を保有している可能性はある。1994年以前に入手したプルトニウムを使って、2〜3発程度の核を有していれば、の話である。これは以前から分かっていたことだが、クリントン政権はKEDOを締結するときに、「司法取引」的な発想で不問に付してしまった。ということは、北朝鮮が核を有している恐れは以前とまったく変わらないのである。
○というわけで、北朝鮮が核開発を認めたといっても、実質的な状況はさほど変わらないし、彼らの脅威が増したわけでもない。逆に新たな制裁を受けたり、重油の供与を止められる恐れがある。米国はいちおう交渉に応じるだろうが、「待ってろよ、イラクが片付いたらお前の番だからな」という点では変わりはしない。馬鹿なことを、と思わざるを得ない。
○ひとつだけいえることは、KEDOの枠組み合意は最初から「時間稼ぎ」、ないしは「問題の先送り」であったということだ。つまり米政府には、「この譲歩によって、5年は時間を稼ぐことができる。その間に現体制が崩壊してくれれば儲けもの」という発想が根底にあった。今となっては、この決定を非難したくなるところだが、当時のクリントン政権の立場になってみれば、その気持ちはよく分かる。94年5月18日にワシントンで行われた図上演習によれば、最初の90日間で戦争による死傷者は米軍だけで5万2000人、韓国軍が49万人と出た。加えてその当時は、細川・クリントン会談が決裂したりして、同盟国・日本もあんまり当てにはできなかった。これではギャンブルはできない。
○それから8年近い日々が流れた。この間、「北朝鮮は崩壊する」、あるいは「北朝鮮は開放に向かう」といった論者は多かった。しかし、いずれも実現せず、金正日の体制は崩れなかった。もっとも稼いだ時間は無駄ではなかった。日米韓の側に、いくつかの前進があった。米国ではブッシュ政権が誕生して、不法な国家は許すまじと構えている。日本では日米防衛ガイドラインや周辺事態法ができて(有事法制はまだないが)、極東有事の際に最低限の働きはできるようになった。そして韓国は太陽政策を打ち出し、金正日を国際外交の場に引っ張り出した。これらの結果、北朝鮮は「ベタ降り」を始めたのである。KEDOはもう十分な役割を果たしたと言えないこともない。
○逆に北朝鮮の立場から見ると、自分たちに好意的だった韓国の金大中大統領は引退が近く(12月選挙、来年2月新政権誕生)、日本との国交正常化はうまくいかず、こうなったら犠牲は伴うけど、とにかく米国の関心を高めたいという考えがあったのかもしれない。そういう意味では、冒頭の(A)案と(B)案の中間あたりに正解があるのかな。
<10月28日>(月)
○自民党補欠選挙は5勝1敗1引き分け。1分けはもちろん江田憲司氏のことで、橋龍さんの元秘書が無所属でも、実質的には自民党でしょう。民主党の自滅、北朝鮮問題による左派政党への不信など、追い風に恵まれたとはいうものの、勝てば官軍。「投票率が低かったから民意ではない」などというのは負け犬の遠吠えだ。その一方で、「与党が勝ったのであって、小泉政権支持ではない」などという傲慢な発言があったようだが、支持率3割の政党が偉そうなことを言うものではない。これは小泉さんの勝ち。
○さて、懸案の竹中プラン。支持する人があんまり少ないから、下手すりゃ腰砕けになってしまう。日曜の討論番組を見ていたら、竹中応援団が加藤寛さんではあきまへんな。もっとも民間エコノミストで、金融界を敵に回せる人がいるわけないか。自民党のお偉方は、「先にデフレ対策を出してから」などと言ってお茶を濁していた。たいしたことができるはずもないのに、期待だけ煽ってどうするつもりか。
○デフレは昨日、今日に始まったことではない。名目GDPでいえば、1998年▲1.3%、2000年▲0.3%、2001年▲2.8%と連続してマイナスだ。2002年度もたぶんマイナス(実質はギリギリでプラスだと思う)だから、おそらく500兆円割れするだろう。これは1995年の502兆円よりも少ない。この間、小渕政権などは大規模な減税や公共事業をやったけど、わずかに99年度を+0.2%に持ち上げただけだ。いまさら補正予算で何兆円出せるというのか。それとも、インフレ・ターゲティングをやれば、本気でデフレが止まるとでも思っているのか。
○さて、「不良債権問題の終結に向けたアクションプログラム」をよくよく読むと、下記のように刺激的なことが書いてある。
5.公的支援を通じた銀行の改革
(3)「公的支援銀行」における経営改革
@経営責任の追及:「公的支援」を受けることとなった金融機関の代表取締役については原則として全員更迭し、退職金を支払わないよう強く始動する。
(5)行政移行期における経営者責任
@セーフティネットとしての公的資金:ルール変更のセーフティネットとして、公的資金投入の申請があれば公的資金投入を行う。このとき、代表取締役が自らの辞職と退職金の辞退を付帯条件として申し出ることを妨げない。
A経営者に対する配慮:平成14年12月末までに自ら辞職した代表取締役については、ルール変更を伴う移行期であることに配慮し、金融行政の変更による結果としての資本不足については、辞職した代表取締役の責任に相当しないことに十分留意して金融行政を運用する。
B経営者責任の厳格な追及:平成15年1月以降において代表取締役の地位にある者は、着任の時期にかかわらず、(中略)
万が一にも資本不足に陥った場合には、当該代表取締役の責任を厳格に追及する。
C取締役会の責任:上記のように申請すれば公的資金を投入する方針が公表されているにもかかわらず、取締役会においてその機会を選択しなかった取締役は、応分の責を負うことを確認する。
○退職金が欲しかったら、今年一杯で辞めちゃいなさい。居直るようなら、覚悟しなさいよ、と書いてある。これで銀行経営者がどんな決断をするのか見物だが、ここまで喧嘩を売るからには、竹中さんだけに任せておいちゃ駄目だ。小泉さんが出てきて、「はっきりしろ」とすごまなければ。善し悪しはさておき、迫力満点の舞台になることは請け合いだ。選挙で勝った今がチャンスだと思うけど。
<10月29日>(火)
○麻生太郎政調会長が、総合デフレ対策への対応を一任され、「税効果会計の見直しは延期だけでは不十分」とのたまったそうだ。自民党政調会長が経済政策で口を挟めるのは、実に久しぶりのことのような気がする。よかったね、出番があって。幹事長なんか、ほとんど仕事がないじゃないか。でも、与党が口を挟んで妥協が増えると、それだけ金融の安定化は遅れるような気がするぞ。
○こうなったら、銀行経営者が「ベタ降り」したらいいと思う。つまり竹中案を丸呑み。すると与党の実力者も、「ま、当事者がいいというなら、わしらが言うまでもないわなぁ」と引っ込むことができる。そこで小泉=竹中軍がちょこっとだけ妥協してダン、・・・だったらいいな。柳澤前金融担当相が沈黙を守っているところが面白い。銀行経営者は柳澤路線への復帰を望んでいるだろうが、それは望み薄ではないだろうか。
○竹中案に対し、「日本の資産を外国のハゲタカ・ファンドに買われてしまう」という声がある。あんまり実情をご存知ない方のご意見だと思う。ハゲタカが不良債権ビジネスで巨利を上げたのは、1997年頃に投げ売りになった実質破綻資産を底値で買ったときである。当時は誰もリスクを取らなかったから、市況が回復するだけでおいしい思いができた。ところが最近では、不良債権処理も破綻懸念先の処理になっている。以前のように切り売りするだけでは駄目で、いい部分を切り離して再建したりしなければならない。
○だがハゲタカは、不良資産の再生なんて面倒なことはしたくないのである。経営を再建するためには、年間ン千万円もする人たちを抱え込んで、知恵を絞ってプランを立て、時間をかけて取り組まなければならない。それではROEが低下する。そうでなくても、本国のマーケットもガタガタになっている。こんな状態で、日本の不良債権市場が魅力的かどうか。これは結構、難しい問いになる。
○ハゲタカがまだ日本の上空を舞っているようなら幸いである。下手をすると、日本経済はハゲタカにも見離されるぞ。
<10月30日>(水)
○は、もう日本シリーズって終わったんですか。関係者としては、せっかくだからフルセットまでもつれこんで、大いに稼いでほしかったでしょうけどね。今年のプロ野球が終わってしみじみ思うのは、やっぱり長嶋さんは異常な監督さんだったんだなあ、ということ。普通の人が監督したら、やっぱり強いチームだったんですね。当たり前か。
○さて、総合デフレ対策。明日の市場がどう反応するか分かりませんが、竹中案がきびし過ぎるといって下げていたけども、明日になったら中途半端だといって下げるかもしれない。この辺、非常に微妙なところで、市場は理性的には動かない。たぶん明日からは、「もっと厳しい案を!」というシグナルを送り始めるのじゃないかという気がしています。とりあえず、この1ヶ月で柳澤路線は否定された。後戻りはできないだろう。
○再開された日朝国交正常化交渉は、予想通りの展開。北朝鮮側としても、そうそうベタ降りは続けられないだろう。でも、時間は引き続き日本側の味方。この際、より大きな譲歩を引き出すためには、「こちらはあまり関心がない」という姿勢を示すことも重要じゃないだろうか。今まで通り、拉致被害者がメディアに出ずっぱりの状態を続けていると、そのために交渉が不利になるような気がしています。
○今日はニュースが多い日だったので、一言ずつのコメントでした。以上。
<10月31日>(木)
○総合デフレ対策について、本日、かんべえが「なるほど」と感じたご意見を下記しておきます。
●アナリストのK氏:「大山鳴動してネズミ一匹と見るか、大山が鳴動したことを重く考えるかは議論が分かれるところ」
●新聞記者のT氏:「応仁の乱の理由や大正期の政党離合集散は、今から考えると説明ができないほど混乱している。今回もそれと同じ。この先が無事に収まると考えたら大間違い。日本の先送りメカニズムはもう限界だ」
●外資系金融アナリストのT氏:「竹中氏は木村爆弾を使って吹っかけてみたけれど、思ったほど威力はなかった。でもこれで終わりではない。まだ先がある」
●永田町関係者のM氏:「税効果会計以外は満額回答。竹中さんの作戦勝ち。核兵器で脅かしたら、あんまりびっくりしたので、引っ込めた。
しかし、プランをよく見たらミサイルあり、空母あり、特殊部隊ありと銀行包囲網が出来ている。どこから攻めてもよい」
○ふと気がつけば、日本経済は本当に打つ手がない。竹中案はハードランディング政策だから恐い。でも何もしないとジリ貧だからそれも嫌だ。公的資金を入れればなんとかなる、と思えた時代もあったけど、ひょっとするとその瞬間に国債が暴落しちゃうかもしれない。こんなに大変な状態なんだけど、ところで明日からの臨時国会は何をするんだろう。分からないから、いつもの通り角谷浩一さんに聞いてみた。そしたら、
「いい質問だ。たしかにすることがないな。解散するんじゃないか?」
○まあ、それもいいかもね。でも、11月19日に切れるテロ対策特別措置法の延長だけは忘れないでね。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki