●かんべえの不規則発言



2002年10月上旬



<10月1日>(火)

○今回の内閣改造では、あきれるくらいに情報が外に漏れなかった。普通は自薦他薦が飛び交うものだが、永田町の行動様式もずいぶん変わったといえそうだ。そんな中で、以下は実現しなかった新聞辞令の数々。意地悪く書き記しておこう。皆さん、残念でした。

財務大臣 古賀 誠 (事務方も希望している、という触れ込みつきだった。塩爺も悪くないと思うけどね)
経済産業大臣 野田 毅 (扇千景国土交通相が続投で、とっても不機嫌そう。でも道路公団の問題があるからね)
金融担当大臣 保岡興治 (これは実現してほしかった。竹中氏の兼務になったのは、やっぱり最後の瞬間まで迷ったからでしょうね)

○今回の人事は、基本的に小泉さんが自分一人で決めた。「基本方針」を示して、それを承諾した者を登用した。これだけでも、自民党の構造改革は一歩前進である。もっとも、まったく他人の影響を受けていないということもないらしく、青木参院幹事長の関与の跡はそこかしこに窺える。角谷浩一氏の解説によれば、たとえば鈴木俊一氏が新閣僚に入っているのは、海の男、青木氏がかつて鈴木善幸氏の薫陶を受けたからではないかという。

○新聞報道などでは、今度の組閣で自民党内部は不満大会になっているとのこと。でも、それは大幹部の話であって、若手の間では好評だったりするらしい。河野太郎氏の「ごまめの歯ぎしり」昨日版では、こんな風に書いている。

今度の内閣改造は、非常に良かったと思う。柳沢さんの交代が目玉だ。(中略)本当は、後任に塩崎恭久が良かったのだと思う。竹中経済担当、塩崎金融担当の二人ならなお良かった。もし僕が今、総理ならば、塩崎大臣、木村剛長官のコンビにする。ここは、副大臣人事での塩崎登用を待つことにしよう。

○なぜ自民党に派閥ができるかというと、「票と金とポスト」を世話してくれるから、といわれた時代があった。「票」は、小選挙区制になったお陰で皆が一国一乗の主になり、「金」も政党助成金ができて、派閥も金の面倒まで見られなくなりつつある。残るは「ポスト」だが、それが当てにならないということは、もはや派閥に存在意義はないということになる。サラリーマンだって、アメもムチも持っていない上司のいうことなんぞ、聞きませんからね。

○こんな時代になると、高齢の幹部議員なんぞは哀れなものである。派閥の重鎮である江藤隆美氏の自宅には、「お前なんか死んじまえ」という電話がかかってくるらしい。これはさすがにヒドイと思うが、ご本人は抵抗勢力が服を着て歩いているような存在だけに、そういう嫌がらせ電話が来るのはなんとなく分かる。もっとも江藤氏本人は「死んでたまるか」と意気軒昂だそうである。やはり政治家はそうでなくては。

○以下は今日聞いた、とあるご高齢の方たちの会話から。

「冠婚葬祭といいますが、70歳を過ぎますと冠婚はめったになくて、後の方ばかりが続きますなあ」
「いや、それでも最近は『お別れの会』というのが増えて助かりますよ。近親者のみの密葬で、後日ホテルで開くというやつ。あれは香典を包まなくていい」
「社葬ってやつは、大変ですからなあ。クルマも混むし」
「その点、『お別れの会』は、礼服も要らないし、献花だけで終わりですから、助かりますなあ」
「でも、そのお陰で青山斎場が閑散としているらしいですよ。どうするんでしょうね」

○これも高齢化時代の点描といえましょうか。


<10月2日>(水)

○テレビのコメンテーターで、先日、これはいくら何でもヒドイと思ったのは舛添要一参議院議員である。この人、当選した直後に「デフレを食い止めるために、日銀は株でも土地でもなんでも買えばいい」と言っていた。よせばいいのに、「私はマネタリストですから」とも言った。お前、意味わかってんのかよ、と思ったけど、それが、つい先日、テレビに出て、「日銀は禁じ手をやってしまった」と言っていた。おいおい。やっぱり付け焼き刃の勉強はいけませんね。

○でも世の中の人はそんなに暇じゃないから、テレビ・コメンテーターの過去の発言なんて覚えてはいない。なんで筆者が昨年の舛添発言を覚えているかというと、たまたま溜池通信の2001年8月31日号「インフレ・ターゲティング論とデフレ経済」で取り上げたからである。まあ、おそらくご本人も覚えていないのでしょうけど、テレビを見てる人たちは当然忘れているから、誰も突っ込む人がいない。

○もし、誰かが個人の発言のトラックレコードをチェックしたら、この手の矛盾がいちばんたくさん見つかりそうなのが竹中平蔵さんである。ゼロ金利解除に賛成したかと思ったら、一層の金融緩和をと言い出したり、極端なIT革命礼賛論を唱えていたこともあった。どなたか暇な方はお試しください。でも、竹中さんが書いた本や記事を読んで、自分の勉強になるとは思えないけどね。

○トラックレコードのチェックという仕事は、本来は野党なりメディアなりがやるべき仕事だと思う。でも日本の場合は、両者ともそういう地道な作業が苦手なようなので、発言がコロコロ変わっても見過ごされてしまう。その結果、IntegrityやIntellectual Honestyを欠く人間が跋扈することになる。せめて公職にある人間くらいは、誰かがチェックしてほしいと思うのだが。

てなこと言うと、このHPを隅から隅まで読んで、「かんべえはX年X月X日にはこんなことを書いていたじゃないか」などというメールが大量に届きそうで恐い。


○経済担当大臣と金融担当大臣を兼務して、スーパー大臣の誕生などという評価があるけれども、この人のお陰で日本経済が救われるという未来図だけはどうしても思い描くことができない。今日も株価は下げたけど、まるで意外感がないなあ。


<10月3日>(木)

○ワシントン在住の愛読者S氏から、「ゴアが10月2日にブルッキングス研究所で講演をした」とのお知らせを頂戴した。スピーチは成功だったようで、ゴアは静かに政治活動を再開しているようだ。

○S氏によれば、スピーチに先立ち、同研究所の古株のエコノミスト、ロバート・ライタンが紹介に立ち、「前の副大統領で、ご承知のとおり、2000年には最も多くの投票を集めたアル・ゴア氏を・・・・」とやって会場を沸かせたそうだ。ライタンは共和党だったと思う。でもこの雰囲気が、ワシントンのシンクタンクである。

○ゴアは9月23日にサンフランシスコにおいて、「イラクを討つべきではない」との演説を行った。彼が訴えたポイントは、@イラク攻撃はアルカイダへの関心を失わせる、A選挙前に議会決議を求めるのは、政治的な動きである、B予防的攻撃の原則をイラクに当てはめると、他の地域を不安定化させる、C「9・11」後の米国への世界的な同情を失わせる、の4点である。いずれも、もっともな指摘とはいえ、スコウクロフト元大統領補佐官などの反対論を聞いた後では、やや新味に欠けた。

○実際、ゴアが反戦論を唱えるというのは、そのこと自体、ニュースとしての価値が乏しい。この点、上院のリーダーであるダッシュル議員は、対イラク攻撃そのものには反対せず、「ブッシュが戦争を政治的に利用としている」という点に絞って反撃している。これは賢い動きというべきで、2004年の大統領選挙では、ブッシュに対する有力な挑戦者候補となりそうだ。

○その点、ワシントンでの講演では、ゴアは経済問題に焦点を当てた。要旨は以下のとおりだが、読んでみるとブッシュの弱点を実によく捉えている。あの2000年選挙を戦っただけに、やはりよく敵を知っているのですね。

http://www.brookings.edu/comm/transcripts/20021002.htm

○前段でブッシュをこき下ろしたゴアは、「われわれ民主党は、『だから言ったじゃないか』と言う以上のことをしなければならない」とし、代替案が必要だと説く。大統領は議会指導者とのテーブルにつき、経済の現状を調査し新たな道筋を探すべきだと。

「私は大統領が信念を捨てろと言うのではない。彼の信念を、アメリカ人が直面している現実と和解させるべきだと言うのである。彼のヒーローであるロナルド・レーガンが、1982年の中間選挙前にやったようにしてほしいのだ。レーガンは議会指導者と超党派で経済政策を協議した。私はレーガン大統領の信念には賛成しなかったし、議員としては彼の経済政策に反対票を投じた。1982年の政策の結果についても賛同はしない。それでも私は、レーガン大統領が現実を認識し、自分と違う考え方の持ち主と真摯な会話を持とうとしたことを尊敬している」

○レーガンとブッシュの政治スタイルはどこが違うのか。前者は大風呂敷で、何でもかんでも自分の味方に引き入れてしまうような懐の深さがあった。後者は自分の考えに近い人だけを大事にして、「一票差でも勝ちは勝ち」といったところがある。レーガンは敵を作らなかったが、ブッシュは敵を作る。左派が、反グローバル派が、イスラム教徒が、平和主義者がブッシュを嫌っている。いっぺん嫌いになった人は、なかなか考えを変えない。これはいつかは破綻すると思う。

○ブッシュの親父さんは湾岸戦争に勝って、1992年の選挙を経済問題で落とした。今のブッシュは対テロ戦争に勝って、やっぱり2004年には負けちゃうかもしれないね。ふと、そんなことを思いました。


<10月4日>(金)

○昨日は成人病検診、今日は免許の更新に午前中がつぶれてしまう。そう、私の誕生日が近づきつつある。いやだなあ、42歳。

○とうとう免許証がゴールドになった。最後に切符を切られたのは、たしか常磐道でのスピード違反だった。それから苦節ン年、もちろん、「ちょっとの間だけ」の駐車違反くらいはしているが、運良くチェーンをかけられることもなく今日に至っている。

○優良運転者といえど、更新の際には30分の講習を受けなければならない。千葉県の場合、交通事故がとびきり多い県なので、交通指導教官は「シートベルトをしろ、飲酒運転をするな」と口を酸っぱくして繰り返すのが恒例である。無理もない話で、交通事故死というのは、だいたいが北海道がナンバーワン。これは夏の時期に本土から観光に出かけた連中が、あまりの道のよさにスピードを出し過ぎるのが原因である。次いで2位の座を争うのが千葉県と愛知県。今年も昨日までの時点では、交通事故死者数は@北海道339人(−21人)、A千葉県284人(+1人)、B神奈川県283人(+60人)となっている。

○千葉県というところは、「道路を作る前に箱モノを作る県」であり、しかも交通マナーが悪い。信号が青から赤に変わっても、平気でクルマが2〜3台くらい突っ込んでくる。かんべえなどは気が小さいから、運転していて「あ、今の右折はちと乱暴だったかなー」などと思っていると、自分の後ろに2台くらい続いていて唖然とすることがある。大阪府の歩行者は、信号が青に変わる前に歩き出すというが、千葉県でそれをやるとちと危ないと思う。

○たとえば今日の講習で聞いた話だと、シートベルトの着用率は東京都が全国第2位で93.0%、その隣の千葉県は第44位で76.1%だという。どうしたらこんなに極端な差がつくのだろう。県民性というだけでは説明がつかないように思うのだが。ちなみに全国1位は長崎県で94.8%(ご立派!)、最下位は山梨県で67.7%だという。同じ日本とはいえ、地域差というのは結構あるものなのだ。

○そんな中で、良くも悪くも、交通マナーがルーズなのがわれらが千葉県の特質である。幕張メッセに行くと、広い道路の1車線分が違法駐車で埋まっていて、駐車場がガラガラになっている景色を見かけることがある。こんなこと、お台場やみなとみらいではとても考えられない。本当に同じ日本なんでしょうかね?


<10月5〜6日>(土〜日)

○気がつけばアメリカ中間選挙まであと1ヶ月。ちょっとおさらいをしておきましょう。こういうのを作っておくと、あとで探すのが楽ですから。下院は全議席が改選、上院は3分の1が改選で、改選議席数は括弧内に示してあります。

 

共和党

民主党

独立系

合計

上院

49(20)

50(14)

1

100

下院

223

211

1

435


○さて、中間選挙の行方を占うものとして、IEM="The Iowa Electronic Market"という傑作なシロモノがございます。これはアイオワ大学のビジネススクール部門が、実際にお金の動くヴァーチャル市場を作り、世の中の森羅万象を予測しようとしているもの。「連銀の金融政策の行方」や「マイクロソフトの価格」などが賭けの対象となっており、結果はネット上で見ることができる。「不謹慎な」などというなかれ。これはあくまでも調査の手段でありますぞ。

○ここに上場されているのが、「米議会、勝者総取り市場(US Congressional Control Winner-Takes-All Market)」。その名のとおり、上下両院を共和、民主両党のどちらが取るかを予測する市場が形成されている。選択肢は4つある。

@RH_RS(共和党下院と共和党上院)、
ARH_NS(共和党下院とその他上院)、
BNH_RS(その他下院と共和党上院)、
CNH_NS(その他下院とその他上院)。

○市場参加者は4つの選択肢のうちいずれかを、時価で購入することになる。11月7日正午でマーケットはクローズされ、選挙の公式結果に従って払い戻しが行われる。当たった人は1ドル、その他の人は皆「はずれ」となる。

○気になる結果はここをご覧あれ。過去の推移については、このグラフが便利です。

A共和党下院と民主党上院(RH_NS)が一貫して堅調に推移し40%程度を維持。
@共和党下院と共和党上院(RH_RS)が急上昇し、いい線まで行ったものの現在は30%前後。
C民主党下院と民主党上院(NH_NS)は、一時は高い支持率を得ていたものの、急落している。
B民主党下院と共和党上院は一貫して人気がない。

○つまりアイオワ大電子市場の見通しは、「下院は共和党多数でほぼ決まり、上院は民主党優位だったところを共和党が急追中」となる。もっとも10月に入ると同時に、@とCのトレンドが逆転しているところを見ると、まだまだきわどい戦いが続きそうだ。株安にイラク攻撃と、重要課題の多い昨今。選挙当日まで残り1ヶ月を切っても、まだまだ予断を許さない。またときどき覗いてみましょうね。


<10月7日>(月)

○今日も株価は盛大に下げました。アメリカやヨーロッパの下げも効いているのでしょうが、世上の評判はもっぱら「ヘイゾー&キムゴー・ショック」。昨年末ごろには、青木建設がつぶれると株価が上がり、ダイエーが救済されると下げていた。それが今では、倒産が増えそうだから売り、という説明。どこがどう変わったのか。市場はもう改革を望んではいないのか。

○報道によれば、ヘイゾーさんはWEFの東アジアサミットへ出かけていって、メガバンクといえど容赦はしないなどと吹いている様子。強いて言えば、そういう態度が市場の不安を誘っているのかも。70年代のアメリカで「パニック映画」というのが流行った。「エアポート」シリーズが有名だ。ハイジャック犯が現れて空港に大混乱が生じるのだが、ジョージ・ケネディが登場し、管制塔にでんと陣取って指揮を執り始めると、これが不思議と収まってしまう。危機管理の要諦はヒト次第。マニュアルじゃない。今の日本には、ジョージ・ケネディがいない。

○夜は久しぶりに新政策フォーラムへ。参議院議員の円より子さんが、民主党のネクストキャビネットの財務大臣に就任したので、おめでとうございますと申し上げる。先日来、さんざ民主党の悪口を書いてきたかんべえであるが、この際棚に上げる。(よいしょっと!) 当方、呼んでいただける方には何でもいたしますぞ。さりとて、意見具申すべきアイデアも思い付かない。この状況をなんとする。

○そこからJ−WAVEスタジオに立ち寄り、自宅についたら12時を過ぎる。お誕生日到来で、かんべえ42歳となる。寝静まった家でパソコンのスイッチを入れ、帰りにコンビニで買った「ノンフライ麺」ファインヌードルなる商品にお湯を注いでみるも、ちーともうまくない。つくづく、「おいしくてカラダにやさしい」などという商品を信じてはならぬ。

○明日の日本時間午前9時から、ブッシュ大統領がオハイオ州シンシナティで「対イラク」演説を行う。察するに、米議会が対イラク攻撃容認可決を控えているので、その駄目押しをするつもりと見える。明日の演説の瞬間、ブルームバーグにゲスト出演しておりますので、よかったら見てください。42歳の初仕事でござんす。


<10月8日>(火)

○丁寧なものから簡単なものまで、いろいろな「お誕生日おめでとう」のメールをありがとうございます。てなわけで、いわゆる「後厄」の始まりでござんす。いやだねえ。

○今日はブルームバーグで、ブッシュ演説をリアルタイムでコメントする、という得難い経験をさせてもらいました。もちろん、事前に全文が手元にあるわけではなく、ブッシュがしゃべっているのをふんふんと聞きながら、ときどきスタッフの方々が手書きで書いたメモが寄せられる、という状態です。それほど新味はないなー、などと思いつつやっておりましたが、きちんと読んでいないのがちょっと恐い。

○しみじみ感じたのは、これでブッシュもアメリカも、後戻りのできないところまで来てしまったということ。議会の対イラク武力行使容認決議は、今週中にも通るでしょう。今日の演説はそのための駄目押し。全体に言葉がきつい。場所がオハイオなのは、もちろん中間選挙の重点地区だからだと思いますが、もうブッシュの頭の中には、ほとんど目の前の選挙のことは消えているかもしれませんね。

○あらためて全文を読んだのは、夕方になってからでした。いつものブッシュらしくないことに気づく。まず、最初の部分で「遊び」がない。普通なら「シンシナチの皆さん、どうもありがとう」という部分で、2回くらいは笑わせるところ。得意とする短い言葉の繰り返しも少ない。かろうじて後半に出てくるこの部分なんかが、よくある「ブッシュ節」だと思う。

That is not the America I know. That is not the America I serve. We refuse to live in fear. (Applause.) This nation, in world war and in Cold War, has never permitted the brutal and lawless to set history's course.

○ケネディの言葉を引用した部分も、ちょっと意外感がある。これはキューバ危機の際の発言だと思います。「証拠なんぞ、いちいち待ってられるかぁ」というセリフの後にこう続く。

As President Kennedt said in October 1962, "Neither the United States of America, nor the world community of nations can tolerate deliberate deception and offensice threats on the part of any nation, large or small. We no longer live in a world," he said, "where only the actual firing of weapons represents a sufficient challenge to a nations security to constitute maximum peril."

○純正共和党支持者の間では、JFKはあんまり人気がない。それでもブッシュがケネディを使うという取り合わせはちょっと面白い。アメリカ外交にはセオドア・ルーズベルトに始まる現実主義(棍棒外交)と、ウッドロー・ウィルソンに始まる理想主義(宣教師外交)の2つの潮流がある。ところがブッシュの場合、軍事力を使ってみずからの主張を通す点では現実路線だが、やろうとしていることは邪悪なものを倒すという理想主義である。こういう組み合わせを目指した大統領を過去に探すと、ケネディとレーガンが該当すると思う。「ブッシュとケネディ」は似ても似つかぬ取り合わせだけど、冷戦を戦い抜こうと宣言したケネディのレトリックは、意外と対テロ戦争のブッシュの物言いと重なるのかもしれない。

○ケネディはベトナムの泥沼への道を開き、レーガンは冷戦を終わらせた。さてブッシュはどちらになるのでしょうか。


<10月9日>(水)

○とうとう日経平均は一時8500円割れ。騙しだましやってきた市場が、とうとうプッツンしてしまった様子。底入れがいつになるか、まったく見えないけれど、ここまで来てしまうと8000円だろうが7000円だろうがあんまり違いはないように思える。

○世の中は「ヘイゾー&キムゴーショック」という声がもっぱらで、怨嗟の声も高まっている様子。大臣のうかつな言葉が、市場崩壊の引き金をひいたことは責められるべきだろう。「too big to failという考え方は取らない」という発言は、昭和金融恐慌の際の「渡辺銀行が倒産しました」という国会答弁に比すべき失言だったのかもしれない。でも、ほかの人ならこういう瞬間を避けられたか、あるいは誰だったらうまくやれたのか、とあらためて考えてみると、所詮は時間の問題だったのかという気がしないでもない。

○まあ、それは問わないとして、これからどうするか。ひとつの方策として、預金保険法102条にある金融危機を認定してしまうという手があるだろう。とにかく非常事態宣言をしてしまう。そうやって現状をしっかり認識する。小泉首相は金融担当相の首をすげかえただけで、政策転換のアナウンスメントをきちんと行っていない。金融システムは深刻な状態です、ペイオフは延期です、公的資金も入れましょう、こうなると30兆円枠も意味はありませんね、とハッキリ公言してしまう。そうやってメンツの問題を棚上げしてしまわないと、なかなか先には進めない。

○問題は危機がなかなか表面化しないことだ。銀行の株価が極端に下がると、普通だったら預金流出が始まる。そこで初めて銀行の経営が危うくなる。しかるに過去のケースを見る限り、預金流出はせいぜい預金量の2割程度が最大値だそうだ。考えてみれば当たり前のことで、いくら取り付け騒ぎが起きても、現金で出している限りにおいては出て行く金額は知れている。ということは、銀行が資金繰りに詰まる、てな事態はありそうでなさそうだ。これでは、「嫌々ながら公的資金を受け入れる」というパターンが、またまた繰り返されてしまう。

○それでも生保の含み損の問題など、いろんな経路で危機は表面化するだろう。その結果、「行き詰まり解散」てなことになるのかもしれない。ところが、解散・総選挙をやったところで、政権の受け皿は見当たらないし、今の支持率を考えれば「やっぱり小泉さん」ということになりそうな気がする。はてさて、方向転換の難しいことよ。


<10月10日>(木)

○朝から驚きました。ノーベル化学賞の田中耕一さんって、かんべえの高校の1年先輩でありました。全然記憶のない名前なんですが、どこかですれ違っていることだけは間違いない。県立富山中部高校卒、ということは、神通川の河川敷グラウンドとか、保健体育のキヨ先生とか、青龍団の陸上ボートとか、ローカルな記憶をたくさん共有しているはずである。うーん、と何だかとっても感動。

○今日はアメリカ大使館の美人スタッフ2人が来訪。いそいそと「台場小香港」にご案内してランチ。昨今の株価、竹中ショック、小泉政権への評価など、好き勝手なことを雑談。聞き手がよかったせいか、考えがすんなりまとまったので、午後はそのままの内容を今週号の溜池通信にまとめてしまう。実は今週は何も準備してなかったのだ。何だか儲けた感じ。

○以下はその中での会話から。

「アメリカの意図、ってよく言う人がいるんですよ。金融界の人って、そういうの好きなんです」
「どういうことですか?」
「9月に竹中さんがCEAのハバート委員長に会って、何か吹き込まれたんじゃないかとか」
「ハバートさんって、そんな政治的な人じゃないですよ」
「僕もそう思うんです。あの人って純粋な経済学者でしょ。それもとっても退屈なタイプの」
「ハバートが政権内で、自分の意思を通そうとしたという話は聞いたことないです」

「もっとすごい話もあるんです。小泉は訪朝でブッシュ政権の虎の尾を踏んだって」
「虎の尾?それ何?」
「いや、ブッシュを怒らせちゃったってこと」
「え?わかんない。何でアメリカが怒るんですか?」
「悪の枢軸に手を差し伸べたのが許せないから、その代わりに不良債権処理を急げと言われたって」
「だって韓国と日本が話し合って決めたことでしょう? アメリカが怒る理由なんてないです」
「そうですよねえ、だいたい安保の借りを経済で返せなんて、普通は言わないよねえ」

○まあ、とくに誰がとはいいませんけど、この手の被害妄想的な言説はとっても多いです。特に昨今のように株価が下がっているときは。日本はいつもアメリカに頭が上がらなくて、アメリカはとっても賢くて、日本はいつもしてやられる。

「最近、日本でも反米派の人が増えちゃって困ってるんです」
「そうでしょうなあ。イラク攻撃だって、行け行けと言ってるのは、岡崎研究所くらいだものなあ」

○お土産に、イラクは過去10年、いかに国連に逆らってきたか、というレポートの邦訳を頂戴しました。これはブッシュが国連演説のときに資料として発表したもの。大量破壊兵器の話などはさすがに驚かないけど、クウェートの資産をまだ返していない、ってのはあんまりですよね。


<10月11日>(金)

○富山県人からのメールが急増中。内容は皆さん、「田中さんのノーベル賞、よかったねえ」。これはもう説明できない、一種の嗅覚みたいなもんなんですが、田中氏、およびその奥様は、「見るからに富山県人」なのです。それもいいところばかりを凝縮したようなタイプなものだから、そういう人が祝福されているのを見ると、こちらまで幸せな気持ちになります。

○これは以前からのかんべえの持論ですが、富山の人というのは「与えられた条件の下で最善を尽くす」という美徳があるように思います。与えられた条件そのものには疑問を持たない。環境に素直に適応し、上司に文句を言ったりせずに、愚直に働きます。だから革命家は出てこない。県内出身の著名人というと、安田善次郎、正力松太郎、瀬島龍三など、体制内で名を残した人が目立つ。政治の世界は非常に保守的。1989年の参議院選挙で、自民党が落とさなかった3県のうちのひとつです。とにかく、不平不満を言っていると相手にされない。「口を動かさないで手を動かせ」というのが富山県人の流儀です。

○スポーツ選手でいかにも富山出身らしいのが鹿島アントラーズの柳沢で、FWのくせに「俺が、オレが」がない。MFの稲本にアシストして、得点が入れば満足している。周囲は歯がゆく思うが、本人はあっさりしている。この手の自己主張の弱さを、富山弁では「根性よし」と表現します。聞けば田中耕一氏は会社で研究一筋、昇格試験をパスするとか、「こんじょよし」ぶりを存分に発揮されていたそうです。そういうのを聞くと、ますますうれしくなってしまうじゃありませんか。

○「青色発光ダイオード」の中村修二氏は、自分の発明に対する特許を求めて会社と係争し、「発明は誰のものか」という問題を提起しました。この事件を契機に、勇気づけられた研究者は少なくないだろう。それとは対照的に、田中氏はそもそも自分への評価に対しては恬淡としていて、「会社に搾取されている」などとは露ほどにも思っていない様子。これはこれで、いかにも理科系の古きよき日本人の典型で、きっと好感度は高いと思う。

○かんべえは目立ちたがりで、自己主張もそこそこする方だと自覚しているけど、でも富山県をたくさん引きずって生きていると思う。「与えられた条件の下で最善を尽くす」ということも、自分では嫌いじゃありません。


<10月12〜13日>(土〜日)

○朝から町内会で、防犯灯の整備と草刈り。電柱に梯子をかけて、防犯灯の汚れを取る。防犯灯にはセンサーがついていて、暗くなると自動的に点灯するようになっている。そこで黒いビニールを持って梯子を登り、センサーの上にかぶせて30秒ほど待つ。点灯すればよし、つかないときは、蛍光燈が切れているので取り替える。

○てな作業は、午前中の早い時間で終了。今日は秋らしい日和。午後は秋華賞だが、かんべえは自宅で観戦することにする。デビュー以来4戦4勝というファインモーション一色の状況が、どうもついていけないのだ。昨日時点で単勝が1.0倍。それってすでに賭けとしては破綻しているではないか。こんな日は、三連複で2位と3位を当てるくらいしか楽しみがない。

○そもそもかんべえは、マンハッタンカフェの引退でちとガックリきているのである。G1レースを3つも取らせてくれた馬だけに、凱旋門賞に挑戦中の故障発覚は痛恨の極みであった。サンデーサイレンスの死とともに、一族郎党も落日が訪れているのかもしれぬ。これでこの秋の楽しみがガクッと減った。秋の天皇賞、JC、有馬記念と、いったい何を応援したらいいのか。

○というのはさておきて、今日の秋華賞には驚きました。ファインモーションは2位に4馬身差をつけてのぶっちぎり。騎乗の武豊は、何もしていない(ように見えた)。

○上海馬券王(富山県出身)によれば、秋のG1街道はこれっきゃない、のだそうだ。

去年はタキオン、クロフネという飛車角が、今年はマンハッタン、ギムレットという金銀が志半ばでターフを去り、現在スター不在の競馬界である。JRAも売上減に歯止めがかからず頭が痛いでしょうが、今週の秋華賞に出走するファインモーションは牝馬ながらかなり強く、ひょっとしたらエアグルーヴ以上のスターになる可能性があり。

秋華賞はこれで鉄板、2着探しのレースになっちゃいましたが、問題はその後。陣営はエリザベスに出すといってるけど、JC、有馬に出ても勝負になると思うんだよね。なんたって府中開催・騎手ペリエでしか勝てないくせに今回その両方がないジャングルポケットとか、ステップレースを圧勝して人気になりながら本番でこれを裏切りつづけてきた馬券詐欺常習犯のナリタトップロードなんかが人気になりそうな面子なんだもの。


○JRAにとっては待望のスター誕生ですな。競馬の世界も女性に期待、ってことでしょうか。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki