●かんべえの不規則発言



2001年5月



<5月1日>(火)

○政治ジャーナリストのK氏と小学館『サピオ』編集部のS氏が、わざわざお台場へ来訪。ということでご一緒に、「台場小香港」の中の陳婆さんの麻婆豆腐へご案内。これが辛くて、病みつきになるようなうまさなのだ。連休のさなかなので、デックス東京ビーチはそこそこの人出。観光客の群れのなかに、ネクタイの3人男は結構目立つ。でもまあ、お台場にもうまい店はあるじゃないか、という評価をいただけて良かった。

○政治談義を少々とあとは打ち合わせ。『サピオ』に記事を書くという話があって、「こういうのどうでしょ」「いいじゃないですか」てな相談。詳細はまだナイショ。こないだ『Foresight』で、「自民党食堂」の話が紹介されたのは冗談として、このところ、雑誌への登場機会がちょっと増えてます。連休明けには『実業の日本』の取材も待ってたりする。そうそう、いつもの『財界』の書評も書かなきゃ。

○先月は、富士総合研究所の月刊誌『φ』(ファイ、と読む)5月号の誌上対談に出させていただきました。富士総研のチーフエコノミスト、杉浦哲郎氏にゲストが論争を挑むという無謀かつ大胆な企画。テーマは米国経済の見方。先方は楽観論なので、当方はいつも通り「米国経済・レの字型回復説」を唱えています。本誌でいえば3月23日号分の内容。

○富士総研からは昨年末に『2001年日本経済の進路』という本が出ていて、これがわりといい本です。シンクタンクが出す本というのは、大勢で手分けして書くもんだから、全体のトーンが不統一であることが多い。ところがこの本は、杉浦氏がきっちりコントロールしていて、ちゃんとした主張がある一冊の本になっている。米国経済に対しては、「ニューエコノミー論は正しかった」「ソフトランディングは可能」という結論。総じてはっきりした物言いをしていることで好感度が高い。エコノミストの議論って、そうでないことの方が多いもの。

○トルーマン大統領が残したきわどいジョークに、「片腕のエコノミストを雇いたい。そうすれば"On the other hand"といわれなくて済む」というのがある。かんべえさんも、なるべく保険をかけない議論をしていきたいな。


<5月2日>(水)

○連休の中日、気がつけば通勤電車がいつもより少し空いている。それはいいのだが、新松戸駅の武蔵野線ホームで西船橋行きの電車を見送って、ワシが乗る東京駅行きを待っているティーンの女の子たちが群れておる。君ら、少しは静かにせんかい。どうせ舞浜で降りてディズニーランドに行くんだろうが、君らとか子供連れの若夫婦とかが車内に多いんで、一緒に「通勤」するワシの気持ちはどんどん暗くなるぞ。

○新木場の駅でりんかい線に乗り換えると、ここでも結構な人出である。この人たちが東京展示場前でどどっと降りていく。連休中のビッグサイトではイタリア展をやっているのだ。IT関連など、固いテーマの出展のときはサラリーマン風が降りていくのだが、さすがはイタリアがテーマだけあって、ここも単独行動の若い女性が目立つ。イタリアファンなんだろうなあ。

○お台場に着くと、ここにも観光客が多い。今日は天気が悪いので、海岸でウインドサーフィンをするような連中はいないけど、それでもショッピングに繰り出す人はいる。本日、フジテレビにちょいと立ち寄ると、みやげ物売り場が修学旅行の学生服軍団に占拠されていた。お台場饅頭だの、レインボーブリッジ・クッキーだのを売っている。皆さん、お台場でみやげ物を買うならフジテレビの1階ですよ。

○こういう遊び気分の人に囲まれて職場に出ると、今月、自分が処理しなければならない仕事の量に気づいて愕然としてしまう。イヤだよぉ。貿易統計の見直しなんて、ワシ大嫌い。ワシもどっかに遊びに行きたいよ。船橋法典駅にある中山競馬場は現在はお休み中なので、連休後半はいっそ東京競馬場まで行ってみようかとふと思いつく。名づけて「2001年、府中の旅」。・・・・すいません。反省しています。

○え〜、連休後半は本当は富山に行ったりするので、更新は2日ほど止まる予定です。5月5日にはまたお会いしましょう。ゴールデンウィークがお休みの人も、そうでない人も、皆さんお元気で。


<5月3〜4日>は更新をお休み


<5月5日>(土)

○全日空で家族連れで富山まで行って帰ってきました。似たようなことをしている人は大勢いるようで、「遊び人の金さん」なるお方は、奥さん2人と子供1人(ワシと逆だ)を連れて、東京ディズニーランドに行こうと、全日空に乗ってやってきたそうです。ただし入国審査で提示したのが、ドミニカ共和国の偽のパスポートだったもので、そのまま拘束された。そこでも悪びれずに一万円札を出して、腹が減ったから弁当を買いにやらせて、お釣りはとっとけというお大尽ぶり。慌てた日本政府は厄介払いすることとし、金さんは北京に飛んだ。

○普通、強制退去の場合は、航空会社に不審人物輸送の責を負わせて、運賃は航空会社負担で来た国に送り届けることになっているらしい。今回の場合は第三国行きなので、航空料金を誰が負担するのかよく分からない。全日空は2階席をブロックして、そこに金さんを乗せたそうだ。2階席といえば、全席ビジネス料金だから安くはないよ。察するに、料金は後日、外務省にチャージするんでしょうね。そういうことに使うのなら文句は言わんのですよ、外交機密費は。競走馬とか幹部の飲食費に使うから怒るのです。

○ところで遊び人の金さん、不法入国者にしては終始堂々としていて、「日本政府はオレには指一本出せまい」と高をくくっている様子。ちょっと腹立たしい。とはいえ、「金さん」のお父さんは、同じ頃にEUの首脳を自国に呼び寄せてサービスにこれ努め、アメリカに圧力をかけようと懸命の努力をしているわけで、息子がこれでは面目丸つぶれ。それを考えれば、金さんの素顔が長時間、全世界に対してさらされたことは、さりげない意趣返しといえなくもない。

○お父さんこと金正日は、去年の南北首脳会談以後、韓国の「太陽政策」に応じて外交の表舞台に姿を見せるようになった。その理由としては、「国内の権力掌握に自信を持ったから」という解釈が有力だ。しかし彼が表舞台に姿を見せるに従って、以前の底知れない恐さは消えていく。「知ったら、しまい」という株式市場の名言は国際政治にも有効だ。そういう意味では、朝鮮半島情勢はどんどんいい方向に動いていると思う。今度の事件によって、「北朝鮮のIT政策担当者」にして、「次代のリーダー」かもしれない男が、ああいう容貌だと分かったのは大きな収穫といえる。

○先日、北朝鮮を訪問した人から聞いて驚いたのだが、すでにソウルとピョンヤンの間は、直行便が1日に8便も飛んでいるのだとか。しかも同国内では日本円が流通していて、ホテルで缶ジュースを買おうとしたら「235円です」と言われ、500円玉を出したらきっちり5円玉までお釣りをくれたという。ホテルでNHKのテレビが見られたり、高層建築のエレベーターが日立製だったり、「力道山焼酎」を売っていたり、とにかく日本から見ると北朝鮮は遠い国なんだけど、向こうから見ると日本は非常に近い国なのでしょう。

○ところで「遊び人の金さん」はゴールデンウィークの成田にやってきたけども、あれが関空でUSJを見に来た場合はどうだったでしょうか。最近、日本ではローカル空港がやたらと国際便を飛ばすようになったけど、入国管理局は人手が足りない。富山空港も大連と上海に乗り入れるようになったけど、富山市にいる入国管理官は2人しかいない、と以前に聞いたことがある。これでは不審者がやってきてもチェックできないじゃないか。


<5月6日>(日)

○先日、経済産業研究所とAEIの合同セミナーに出席しました。この中で、AEI側から来ていたNicholas Eberstadtという研究者が、朝鮮半島問題を中心にコメントしていたのだけれど、その彼が配布していたペーパーをこの週末に読んでみると、いろいろ面白いことが書いてあります。"Economic Recovery In The DPRK:Status And Prospect"「北朝鮮の経済復調:現状と予測」というペーパーをちょっとご紹介します。

○北朝鮮経済は9年ぶりのプラス成長で、99年は6.2%成長になったらしい。これは韓国中央銀行の推計。農業生産も98年くらいから回復に向かっており、飢饉も「95〜96年がピークだった」という現地の証言と一致する。何にせよ、北朝鮮の経済が回復に向かっているというのはいいニュースである。日米韓による関与政策にとっても、将来の南北統一を考えても、何より北朝鮮の国民にとっても、その逆になることよりもずっといい。

○ところがこの論文は、「この数字、ちょっと待った」と言っている。たしかに北朝鮮政府は、「1999年は強国の建設に向かう歴史的な年になった」と喧伝しているし、それを裏付けるような証言は少なくない。ところがGDP統計というのが、あんまり当てにならない。実際に他のデータを見ると、@北朝鮮の貿易高はむしろ減少している、A政府支出もあんまり伸びていない、Bエネルギー不足も続いている、など、北朝鮮の景気回復がうそ臭く思えるような証拠が少なくない。

○仮に経済が良くなっているにしても、90年代半ばの飢饉がこの国に残した爪あとはあまりにも大きかった、とEberstadt研究員は指摘する。それは人的資源の損失。いささかショッキングなデータですが、7歳児の平均身長は韓国が125センチなのに比べて北朝鮮は105センチ、体重は26キロに対して16キロに過ぎないのである。これは1960年代半ばの韓国の児童の水準を下回っている。つまり、朝鮮戦争(1950〜1953)以上にひどい影響を受けているかもしれない。"Just how disastrous in human terms the DPRK's recent crises may have been is impossible to say"(近年の危機が、北朝鮮の人々にとっていかに悲惨であったかは、筆舌に尽くしがたい)のである。

○さらにいえば、北朝鮮の人口動態さえもが大きな影響を受けてしまっている。現在では15〜24歳の人口が就労人口の22.8%を占めているものの、2010年になれば飢餓世代がこの年代にさしかかる。北朝鮮の人的資源が受けた被害は、将来の世代においても負担になりつづけるだろう、という予測である。これは大変な話ですぞ。「遊び人の金さん」親子はどうするつもりなのでしょうか。


<5月7日>(月)

○午後1時から衆議院本会議で小泉首相の施政方針演説。ちょっと聞いてみたかった気がする。米国大統領の年頭教書(State of Union)はテレビのゴールデンアワーに放映するのだけど、日本も真似してみてはどうでしょうか。もっとも施政方針演説は、年頭教書ほどおもしろくはないので、視聴率は取れないかもしれませんけども。実際、クリントンの演説などは聞かせましたからなあ。

○とある議員の方が言ってましたが、小泉さんは人が変わったそうです。以前は気さくな人だったけど、総理になったらまるで重圧に耐えているように、緊張した表情になっていると。逆に総理になってもまったくふだんと変わらなかったのが森さんで、いつも通り笑顔を振りまくいい人だったとか。リスクを承知で首相の座を獲りに行った人と、転がり込んできた人の差といったら気の毒でしょうか。天下人たるもの、ぜひ前者であってほしいものだと思います。

○小泉政権への期待感が先行して、株価もずいぶん上げています。こういうとき、プロ筋といわれる人たちは「細川政権と似てきた」とか、「支持率が高くて長期政権になった試しがない」などと言いたがるものです。筆者は素直な人間なので、小泉さんの表情にカリスマが入っている間は期待したいと思っています。先行きを悲観すべき理由は山ほどあるけれども、小泉政権誕生に至った経緯はまさに政治のダイナミズムというもので、この勢いに乗らないでアンタどうするの、という気がします。

○ということで強気見通し継続がかんべえさんの結論ですが、3月に買った株はそろそろ売っちゃおうかと思案中。口と手の動きが一緒とは限らないのだ。


<5月8日>(火)

○大阪のファンからメールを頂戴しました。遊び人の金さんが日本に来たのは、東京ディズニーランドに行くためではなくて、京都ド迫力御膳を食べるのが目的だったんじゃないかと。もとネタとして、以下のURLをご紹介いただきました。「週刊アカシックレコード」って初めて見ましたよ。面白い人がいるもんですね。

http://plaza12.mbn.or.jp/~SatoshiSasaki/chngt.html#bakamusuko

○5月4日、産経新聞に対して、入国計画を知る関係者が証言を行っているらしい。それによると入国の目的は、なき金日成主席時代からの「取引」にあって、日程には「旧知の人物」との面会も予定されていたという。これが野中さんじゃないのか、というご指摘なわけ。でも、私が野中さんだったら、そんな物騒なお客に会うときはこちらから出かけますね。北京当たりで会う方が無難でしょう。それに相手が真剣に準備していたとは思えない。なにしろドミニカ共和国のパスポートですからね。最初からTDLが目当てだったと思うな。

○ちなみに5日付の朝鮮日報早版は、韓国に亡命した北朝鮮元高官の話として、「金正日総書記が外遊について知らなかった場合、正男氏に禁足令が出される可能性があり、警護担当者は処罰されるだろう」と伝えたそうだ。同じ時期、親父さんはEU代表一行をもてなして、米国の冷たい態度に一矢を報いようと外交上の真剣勝負の最中だった。そんなときに息子が勝手に外遊してドジを踏む。親父の面目は丸つぶれ。何とも不可解な事件ですが、「単なる馬鹿息子」と考えればすべての謎が氷解します。

○「北朝鮮は抜け目がないようにみえて、ときたま信じられないようなミスをする」とは防衛庁の北朝鮮ウォッチャー、武貞秀士氏の指摘。1998年8月31日、例のテポドンを発射した日は、日本がKEDOへの出資にサインをする前日だった。もしサイン後にテポドンが飛んだら、日本外交は窮地に陥っていたはずである。何でよりによって、そんな日に飛ばしたのかといえば、「単に完成したから撃ったまで」(岡崎久彦氏)という解釈がいちばん自然である。

○というわけで、かんべえさんとしては単純な解釈がすぐれているような気がします。北朝鮮は謎のベールに包まれた国です。だからついおどろおどろしい解釈をしたくなりますが、テリー伊藤さんのように軽く笑い飛ばした方がいい場合もあるのでは。ま、ともあれ情報提供、ありがとうございました。


<5月9日>(水)

○本日でアクセス件数が7万を突破。3月11日が5万件だったので、最近は「1ヶ月1万件」ペースのようだ。最近は感動が薄れかけてきたけど、あらためて考えるとドキリとしてしまう。

○もらうメールの量も増えてきた。昨日の「遊び人の金さん」ネタに対し、編集者のS氏からは同感のお便りをいただいている。S氏の推論では、やはり金さんの訪日の本命はTDLで、「だって5月15日でファンテリュージョン が終わってしまうんですとのご指摘。ううむ、こういうことは毎日、通勤途中に舞浜駅を通過するだけでは分からないぞ。

○久しぶりに長島昭久さんに電話で連絡を取る。ちょっと聞きたいことがあったもので。長島氏は元CFRの研究員。Council for Foreign Relationshipとは米国を代表する外交シンクタンクなのだが、ここの朝鮮半島問題に対するスタンスが「転向」しているのだ。それまでは韓国の太陽政策を支持していたのに、今年3月にはブッシュ大統領に対して「94年の米朝枠組み合意を見直すべき」と提案している。このことが持つ意味は非常に重要だと思う。詳しくは今週号の本誌で紹介する予定。

○長島さん自身は、研究職を投げ打って現在は政治の世界に没頭している。ということでHPが新しくなっていた。ここです。あいかわらず精力的にやっているようです。今後はちょくちょく覗いてみることにしましょう。

○夜は渡辺よしみ衆議院議員の熱弁を拝聴。渡辺氏のHPも面白いですよ。ここです。なんと「お笑い自民食堂」が紹介されている。元ネタは当溜池通信4月13日号ですが、渡辺バージョンの方が笑えます。さすがはミッチー・ジュニア、と原作者はいたく感心。ジョークというものは、人の手をわたるたびに洗練されていくのですね。と、ジョークはさておき、ここに出ている記事は揃って秀逸。とくに株式買い上げ機構の問題点を指摘している部分はとても勉強になりました。

○渡辺氏が今回の政局で果たした役割は大きかったものの、小泉内閣においては政務官にさえなっていない。不思議なことだと思っていたら、どうやら副大臣以下の人事はまったくの派閥中心、年功序列の順送りだったようだ。これでは無派閥の渡辺氏は出る幕はない。閣僚人事の異色さに目を奪われていると、こういうことに気づかない。新聞はちゃんと報道しなきゃ駄目よ。


<5月10日>(木)

○このところ、人からもらったメールや、知り合いのHPの紹介ばかり続く「不規則発言」です。だって自分でネタを考えなくていいから楽なんだもん。萩本欽一のようなもんだね、こりゃ。と適当なワタシ。

○さて、本日は昔お世話になった大礒正美先生(静岡県立大学教授)からメールをもらいました。当方としては、「え、読んでおられたんですか?先生」てな感じです。これではあんまり馬鹿なことは書けませんね。はっきりいって、読者のレベルが高過ぎます。せっかくですから大礒先生のサイトも紹介しておきましょう。ここです。「『よむ地球・きる世界』をネットで復活させました。(かんべえさんに刺激されて、です)」という光栄なメッセージをいただいております。

○その昔、かんべえさんが会社で広報をやってた頃は、世の中の景気が良くて、予算もふんだんに使えた良い時代でした。その頃、1989年5月に会社がスポンサーしたシンポジウムをやったんですが、今から考えてもすごく面白いテーマと顔ぶれでした。司会が田原総一朗氏、当時はまだ東大助教授だった舛添要一氏、インサイダー編集長の高野孟氏、TBSキャスターだった嶌信彦氏、それに当時は野村総研主任研究員だった大礒先生という顔ぶれ。保守とリベラル、ジャーナリズムとアカデミズムがほどよく混ざった陣容でした。

○テーマは『1992年の衝撃』。EU統合などの当時の国際情勢の変化を議論したわけですが、実際にはそのシンポジウムの翌月に天安門事件が発生し、その年の11月にはベルリンの壁が崩壊、それに続く東欧各国の社会主義政権瓦解と続き、いよいよ冷戦が終わるということが誰の目にも明らかになりつつある頃でした。1989年というと、最近では誰もが「バブルのピークの年」ということを口にしますけど、個人的には国際情勢の激変の方が印象に残っています。

○それから思えば今は2001年。もう12年も前の話なんですね。しばし懐旧の念に浸る今夜のワタシ。だって当時はまだ20代だったんですよ。


<5月11日>(金)

○今週号で書き残していることとして、田中真紀子外相の問題があります。晩年の田中角栄は、「自分は独自外交をやろうとしたために、アメリカの虎の尾を踏んでしまった。そこでロッキード事件という謀略に遭った。自分はアメリカにつぶされた」と信じ込んでいた。たぶん彼女も同じことを信じている。田中外相の「反米・親中国言動」の原因はその辺にあるのだと思います。こういう人が外務大臣をやっている。ちょっと恐い気がしますぞ。

○アーミテージ国務副長官に会わなかったことは、彼女にとって高くつくでしょう。「アーミテージレポート」はちゃんと読んでたんでしょうかね。アメリカの「日本重視人脈」の親玉格を袖にしたということは、日米双方にものすごい数の敵を作ったことを意味します。ひょっとすると「親の因果が子に報い」なんてことになるかもしれません。今は外務省を立て直すために、彼女の蛮勇が必要とされていますけど、それが一段落したら一転してバッシングを受ける立場になるのかも。ご用心を。


<5月12日>(土)

○どこの街にも「のろわれたスポット」というのはあるもので、筆者の自宅の近所では「代々木ゼミナール」と「日能研」の柏校がある角地がこれに当たります。2つの予備校の周囲は、いつも勉強熱心な(とは見えない者もいるのだけど)小学生から高校生までの若者でいっぱい。日曜の昼間から試験を受けたり、夜遅くまで授業を受けていたりするので、彼らを相手にする食べ物屋を開けばかならず成功しそうに思える。ところが、ここで食べ物屋を開くと軒並み失敗するのである。

○よくよく見ていると、代ゼミの学生たちはすぐ近くのコンビニへ行って、弁当やパンやカップ麺を買ってきてお昼に食べている。このコンビニというのが、もともとは文房具屋が業態を変えたもので、言っちゃ悪いがあんまりやる気のない店。品揃えはあんまりいい方じゃない。どうせなら立ち食いそばの方が、同じくらいの値段で消化や栄養も良さそうに思える。ところが角地のそば屋は見事に無視されて閑古鳥。若者たちは青空の下で、おにぎりやパンを缶ジュースで食べている。

○ここ10年、いつも通勤途中で通る場所なのだが、この角地を撤退する店を何回見たことか。最後はJR東日本内で商売をしている「あじさい」が挑戦して失敗した。サラリーマンはまだまだ立ち食いうどんやそばを愛好しているようだが、これはどうやら衰退する運命にあり、時代はコンビニが提供する個食文化(パン、おにぎり、弁当、カップ麺など)に移りつつあるらしい。栄養学的には、たぶん前者の方が優れていると思うけど。

○と、思っていたら、この場所に新しくできた店はお惣菜の店である。ここは50円のコロッケやおにぎりなどを売っていて、結構繁盛している。代ゼミに通う学生たちも、こういうのは抵抗がないらしい。そうやって、あいかわらず外で大勢で馴れ合いながら、昼飯を食べている。ひょっとすると現在の店は、この角地で初めての成功ということになるかもしれない。

○やっぱり商売はやり方次第ということですね。考えてみたら、筆者もこの場所の店には過去10年、一度も入ったことがなかった。今度、買い物してみよう。50円コロッケはちょっとそそられるのです。


<5月13〜14日>(日〜月)

○日曜の夜、めずらしく家で飲み始めたら、8時過ぎにダウンしてしまった。おかげでよく寝ました。あはは。ということで昨日は更新をお休みしたのですが、ま、たまにはこういうこともあります。

○当社ワシントン駐在員のTさんが帰国中。ということで、かの地の最新事情などを伺う。面白かった話を少々。

○外務省機密費問題がもたらした影響は大きく、日本大使館が急につつましくなってしまったそうだ。最近では大使館主催のレセプションがあっても、料理は鮨も天ぷらもなしで、フライや乾きものばかりが並ぶとか。その程度はともかくとして、日本からの要人の接待を、民間企業の駐在員に押し付けようとする動きもあると。貧すれば鈍するか。もっとも本省は真紀子台風が荒れ狂っており、もって瞑すべしというべきか。

○ダレス空港からDCに至るノーザン・ヴァージニア地区は、以前からハイテク企業のメッカとなっていたが、最近はこれがますます加速して「ITコリドー」となりつつある。なんとなればカリフォルニア州の電力危機が簡単には解消しないことが判明し、シリコンバレーから東海岸に移転してくるハイテク企業が増えているからと。なるほど。

○バイオ研究でもワシントン郊外が全米の中心地となりつつあるという。ワシントン近郊のベゼスダにはNIH(National Institute of Health)という巨大な医療研究所があり、5万人もの医者が集まっている。うち500人が日本人。これはワシントン周辺に住む日本人としては最大勢力であるとのこと。ワシントンの日本人社会には、「金融村」「マスコミ村」「企業村」「学生村」など、いくつものサークルがあるが、これらよりも「医者村」の方が大きくなっているとは驚きである。

○最後の話を聞いて、ふと10年前に筆者がベゼスダに住んでいた頃のことを思い出した。家の近所の日本料理屋のカウンターで、ひとりで寿司をつまんでいたら、隣に座った日本人もひとり客だった。互いにビールを注ぎあったりして、知らないもの同士でひとしきり話に花が咲いた。かなり時間がたったあとで、相手が切り出してきた。「私の家に行ってもう少し飲みませんか。なにしろ私は日本語で話をするのが、久しぶりなもので・・・・」

○相手の家はすぐ近所で、引越し作業の最中だった。がらんとした家のなかで、彼は話し続けた。聞けばNIHの研究者で、長年にわたって研究を続けてきたのだが、来週でアメリカを引き払い、スペインに行くのだという。この間、一緒に日本から来た妻とは別れ、研究所で出会ったスペイン人の女性と再婚した。研究三昧の生活で、ワシントンの日本人社会とは無縁で暮らしてきたという。なるほど、これでは日本語を話す機会はなさそうだ。

○よくよく話してみると、相手は世捨て人なのだった。来週から旅立つスペインとは奥さんの生まれ故郷で、医者もろくにいないような片田舎なのだそうだ。奥さんは一足先に故郷の村に帰り、彼の到着を待っているという。なぜ、知らない辺鄙な土地で暮らす覚悟を決めたのかといえば、「この国のやり方に絶望したからです」という。急に声が詰まった。そして「NIHはひどいところです。もうこれ以上、居たくないのです」と言った。

○きっとこのお医者さんは、その悔しさを誰かに話したくて仕方がなかったのだろう。たまたまその夜、日本料理屋で隣に居合わせた筆者が聞き手になったわけである。彼が蓄えた研究成果を、アメリカ人の上司が全部盗んで、自分の業績として発表してしまったのだと。「さんざんこきつかっておいて、おいしいところは取り上げてしまうんです。この国は外国人に優しいように見えますが、ホンネのところは利用することしか考えていないんです。もうこの国は嫌です」。

○結局、夜の12時近くまで、そのお医者さんと話をしていた。それほど同情はしなかった。いかにもありがちな話に思えたし、口ぶりもやや一方的過ぎるように思えたからだ。とはいえ、NIHってそういうところなのか、という印象は残った。世界中の研究者が集まって、競って研究をする。そこから偉大な成果が生まれる。けれども、本人がいい目を見られるかどうかは分からない。アメリカという国は甘くないのである。その後、このお医者さんとは2度と会わなかった。今頃、スペインで医者として幸福に暮らしているのだろうか。それとも、日本に帰国しているのか。案外とアメリカに舞い戻って、同じ研究を続けているような気もする。

○ふと思うのである。日本人の科学者2人が、米国司法省から経済スパイ容疑で起訴されている。アルツハイマー病の遺伝子に関する研究成果は、彼らは自分たちの業績だと思ったのでしょう。でも、先方はきっちり召し上げるつもりだったのかもしれませんね。アメリカは甘くない。それはみんな分かっているのだけど。


<5月15日>(火)

○Mr.Koizumi finished his speech by recounting a parable from the Meiji era(1868-192), in which the leader of a rebel clan refused to distribute 100 sacks of rice to his starving clansmen and instead sold the rice to raise money for a school. "This spirit .... of enduring today's pains to create a better tomorrow is what we need now as we pursue reforms," Mr.Koizumi said. ("Japan's New Leader Warns Of Painful Reforms Ahead")

○上は5月9日のWall Street Journalの一面記事。小泉首相が施政方針演説で使った「米百俵」の話は、日本国内で馬鹿ウケ状態ですが、なんと海外にも報道されたというわけ。米百俵の精神が何たるかについては、ここここなどをご参照ください。それにしても"100 sacks of rice"とはね。

○米百俵といえば舞台は新潟県長岡市。恥ずかしながら、お隣の富山県出身の筆者は、この話をまったく知らなかった。日本人らしい、いい話があったもので、小泉さんが考える構造改革とは何かを端的に示しているエピソードだと思う。

○ということを棚に上げて、この「米百俵」を茶化したくなるのは、隣の県に対する対抗意識のせいかもしれません。おそらく「越中ナショナリスト」の筆者の父などは、今ごろ富山でこんなことを言って対抗意識を燃やしているのではないかと思うのです。

「新潟県のどこが教育熱心だ。あそこは高校進学率は全国で最下位だぞ。米を売って学校を作ったというが、本当に効果はあったのか。長岡といえば、河井継之介、山本五十六、田中角栄とビッグネームは出るけれども、みんな良かれと思って大暴れをした挙句、最後は国に害をなすような連中ばかりじゃないか」

○要は程度の低いやっかみなんですけど、富山県民としては自分たちこそ真の教育熱心だという自負があるんですね。食べたいものも食べずに未来のために耐えるのもいいけども、そもそも教育のためのお金を臨時収入でまかなうというのはちょっと情けない。こういうと新潟県の人には怒られますが、その昔、江戸の風呂屋に出稼ぎに行った県と、「売薬さん」が全国に薬を売って回っていた県では、生産性は後者の方が高いに決まっている。今でも北陸本線で新潟から富山に入ると、窓から見える家が急に立派になるのはあきれるくらいです。

○もっとも、先日富山に帰省してみたら、「森さんのおかげで北陸新幹線が通ることになった」「これで佐藤工業も生き延びる」などという話をしていた。それは改革の精神とはちょっと違うんだけどな。もっとも長岡のほうは、角さんのおかげで80年代に上越新幹線が通ってましたけど。


<5月16日>(水)

○最近読んだ中で、めっぽう面白かったのが『投資戦略の発想法』(木村剛/講談社)。個人向け財テクの指南書なんだけど、それにしては前例がないほど硬派でストイックなのである。こうすれば簡単にお金儲けができる、などとは言わない。それどころか、途中で何度も本を投げ出したくなるくらい、読者にきびしいことを要求するのだ。たとえばこんな感じ。

・まず自分の資産の一覧表を作りなさい。
・借金している人は、まず返すことから考えなさい。返済に勝る運用なし。
・節約こそリスクのない高利回り金融商品です。
・二年分くらいの生活費は、生活防衛資金として手をつけてはいけません。
・生活水準を管理できない人は、投資を管理することなど絶対に出来ません。
・株で財産形成をするのはしょせん二流。超一流は仕事だけで財産形成が出来る。

○これでは読者のほとんどが、投資には不適格な人ということになりそうだ。その反面、本書のアドバイスに素直に従えるような人ならば、うまい話にだまされて火傷を負うようなことはないだろう。

○さて、この著者の木村剛氏は元日銀マンの金融コンサルタントであり、『通貨が堕落するとき』という小説も書いている。この人が実は富山県出身なのである。それどころか、かんべえさんの高校の1〜2年後輩らしい。そこではたと気づいたのだが、この本の根底に流れているのは、きわめて富山県民的な発想なのだ。富山県民といえば、それこそ「早寝、早起き、読書に貯蓄」という気質なので、持ち家率が全国一だったり、一軒当たりの部屋数が全国一だったりする。木村剛氏にいわれなくても、保守的で慎重で几帳面に財産形成をしてしまうタイプが多いのである。

○なにしろこういう本の発想が自然に身についている人たちであるから、富山県人というのは夢やロマンよりは実利を追うタイプが多い。だから県出身の有名人を探すと、官僚や財界人がズラリと並んで、芸能人やスポーツマンは皆無に近い。こういうと、いかにもつまらない連中だという気がするが、かんべえさん自身も富山生まれの保守性が骨の髄まで染み込んでいるのだからしょうがない。

○木村剛氏とは2、3度会ったことがあるけど、あんまりたいした話はしたことがない。この次会ったら「あんな本書いて、お里が知れるね」と言ってあげよう。


<5月17日>(木)

○記録的な支持率を背景に、向かうところ敵なしの感がある小泉政権ですが、最近の永田町では「いよいよ自民党は衆参ダブルの準備に入った」てな声も聞かれているそうで。もちろん6月24日の東京都議会選挙の結果を見てから決めればいい話ですが、その可能性はけっして低くはないでしょう。

○民主党は小泉政権を攻めあぐねているようですが、ここでひとつ提案したい。それは「小泉政権はセーフガードを撤回せよ」ということ。もしもできないのなら、彼の言う「構造改革」は怪しいものだという話になる。それをやる、ということになれば、自民党農水族との間で熾烈な戦闘が発生する。どちらに転んでも、野党にとってはオイシイ展開になる。

○今はまだネギにシイタケにイグサにタオル、てなもんですが、後に続こうという業界はたくさんあるらしい。でもセーフガードはよろしくない。以下、セーフガードの7つの大罪を挙げておく。

(1)日本の信用失墜。自由貿易を国是とする日本が、保護貿易主義に走ることを意味する。

(2)中国との関係が悪化する。WTO未加盟の中国は、鉄鋼や機械などの他の分野での報復措置が可能であり、通商戦争がエスカレートする恐れあり。

(3)そもそも中国で野菜を生産指導しているのは日本の商社であり、一種の国内問題である。

(4)にもかかわらずセーフガードを強行するのは、自民党農水族のあからさまな選挙目的である。
 
(5)結局は時間稼ぎになるだけで、構造改革はかえって遅れる。

(6)セーフガードは輸入物価を押し上げ、消費者利益に反する。

(7)小泉政権の「聖域なき構造改革」路線と矛盾する。

○一方で、民主党も労組の影響が強いから、業界保護になってしまうのかもしれませんけどね。明日は通商白書が発表されます。セーフガードのことを何と書くのか、ちょっと気になってます。


<5月18日>(金)

通商白書、まだ読んでおりませんが、今日の夕刊を見る限り面白そうな内容ですね。ただしセーフガードについての記述は肩透かしだったようです。経済産業省たるもの、本来であれば自由貿易の守護神として体を張って止めるべきところ、政治の力に屈してしまったのだから無理もないでしょう。これが平沼大臣でなく、与謝野さんや深谷さんだったらどうなっていたか、ちょっと気になりますな。

○クリントン前大統領がポーランドで反自由貿易の青年に卵を投げつけられたそうです。不思議なことに欧米の「アンチ・グローバリズム」は徹底的に理念先行型なんですね。NGOの過激な反対パフォーマンスを見ていると、一種の宗教のようなところがあります。それとは対照的に、日本の反自由貿易主義は「国内産業保護」という実利だけに主眼があります。ただしそればかり言うとカッコ悪いので、「農業の多面的役割」とか「食糧安保論」などと理屈をつけているのではないかと思います。

○このところ貿易動向見通しの仕事が続いているので、ついつい貿易の話に目が行きます。ワシも一応は商社マンなので、貿易の話は得意じゃなきゃいけないのですが、実を言うとあんまり分かってはいないのです。たとえば貿易収支が通関ベースと国際収支ベースでなぜ違った数字になるのか、未だに理解できません(だれか知ってる人、教えてください)。もっとも、「貿易以外のことは得意なんですが」などと口にするわけにもいかず、現在修行中です。


<5月19日>(土)

○今年は比較的楽だったんです。というのは、2月時点で耳鼻科に行っておいたから。医者が言うには、ワタシの花粉症は、「まだたいしたことないよ」とのことでした。点鼻薬をもらったところ、なるほどあら不思議。今年の春はほとんど苦労することなしに、ゴールデンウィークまで来ちゃったんです。ところが薬が切れて、でももう花粉の季節は終わっているからと放っておいたところ、今ごろになってティッシュペーパーが手放せなくなってしまったのです。ぐしゅん。

○杉花粉はもう飛んでないはずなので、違う原因があるんでしょうね。もう一度、耳鼻科に行けばいいのは分かっているんだけど、ついつい先に伸ばしているうちに例年の苦しみが・・・・。何でもそうですけど、途中で手を抜いてはいけませんね。それにしても、先月までは「今年は大丈夫なんですよ」などと言っていたのに、最終コーナーで苦しんでおります。

○フロントページのジャバスクリプトを引っ込めました。「かんべえの溜池通信」という文字が飛びまわるやつね。PCの機種や性能によってはたいへん見にくいらしいので。


<5月20日>(日)

○プロ野球人気が下火だそうですね。巨人戦といえど、視聴率が取れなくなっているのだそうだ。そりゃあそうだと思う。朝のスポーツニュースだって、「今日のイチローと新庄の成績」を聞いてから、昨夜のセ・パ両リーグの結果を聞くのが普通のことになっている。つまり日本でいい成績を上げれば、メジャーでも通用するってことだ。するってえと、日本のプロ野球はアメリカのマイナーリーグのひとつだったんだね。ゴジラ松井君だって、来年はメジャーに行かなきゃ駄目よ。でなきゃ自分が一流でないことをみずから認めたことになる。

○プロ野球の衰退を憂う意見も多い。でもそういう人は、だいたいが「巨人が勝っていれば幸せ」なオールド・ファンであることが多い。そういう人たちがプロ野球を駄目にしているのだが、当人たちは無自覚なようだ。ま、正直に認めるが、かんべえさん自身も「阪神タイガースが、野村以外の監督の下で破竹の連勝を続ける」ようなことがあれば、きっと見てしまうだろう。でもそうい気分がクセモノで、プロ野球は懐古趣味の大人以外のファンを集客できなくなっているのではないか。

○筆者が住んでいるのが柏市だというのは割り引くにしても、最近、近所で子供が野球をやっているのを見たことがない。グラウンドで見かけるのはサッカーばかりである。『サザエさん』のカツオ君でさえ、最近は野球ではなくてサッカーをやっている。今年初めて、野球の軟式ボールが物価調査の対象品目から外れて、代わりにサッカーボールが入るという。来年はワールドカップもあることだし、野球人気は正念場を迎えることになると思う。

○だいたい野球というスポーツは、本気でやろうと思ったら高価な器具がたくさん必要である。ルールが煩雑でしょっちゅうトラブルが発生する。試合開始から何時間で終わるかがわからない。ポジションによる不公平も生じやすい。だいたいが子供がやるには適していないスポーツなのである。なんで今までがあんなに人気があったのかが不思議なくらいである。

○ビデオショップでは、『巨人の星』のDVDを大々的に売っている。野球はつくづく中高年のためのスポーツになってしまったようだ。かんべえさんも中年男性のひとりとして、「夏の夜はビールに枝豆にプロ野球」という世界への懐旧の情はあるけれども、それって滅びゆく文化だなあと感じる今日この頃。


<5月21日>(月)

岡崎研究所の事務局長たる小川主任研究員がご立腹なのである。同研究所の「門前の小僧」であるかんべえとしても無関心ではいられない。で、何に怒っているかというと、

「アーミテージ=ナイ レポートは米国政府の公式見解でないという、国務省の建前論を宣伝して歩いている輩がいるとのことですが、どうなっているのでしょうか?」

「アーミテージレポート」は超党派の研究者が作った報告書ですから、そりゃまブッシュ政権の政策ではありませんし、面と向かって国務省に聞けば、そう言われるに決まっています。でも、執筆者16人中5人がブッシュ政権の要職を占め、座長格のアーミテージが国務副長官となってアジア政策ににらみを利かせているのですから、その文書の重みは見当がつきますわね。ちょうど「郵政三事業民営化は、小泉首相の個人的見解であって、日本政府の見解ではございません」といわれても、それが「小泉政権は郵政民営化を絶対にやらない」ことを意味しないのと同じである。

○誰が言いふらしているのかは存じませんが、アーミテージレポートが、米国の国防関係者のコンセンサスであることは疑いありません。ま、自分に都合のいいように話を捻じ曲げて伝える人はいつもいるものです。

○一方で、アーミテージ国務副長官の存在は、例の事件のおかげで一躍有名になった。そう、田中真紀子外相がドタキャンしてくれたからである。お陰でアーミテージがどんなに重要な人物であるか、ワイドショーまでが説明してくれるようになった。田中外相が普通に会談していたら、こうはならなかった。その功績は小さくないですぞ。世の中にはワイドショーで「アーミテージ・レポート」の存在を知って、インターネットで検索してこのHPにたどりつく人も居るかもしれん。今、Googleで「アーミテージレポート」を検索すると、なんと当HPが一番上に来るのだ。翻訳を作っといてよかった、よかった。

○ドタキャン事件のために、田中外相に対して真剣に怒っている人は少なくない。どちらかというと、アメリカ人はそんなに気にしていなくて、心ある日本人が怒っているようだ。筆者は個人的には、マッキーが「アーミテージレポート」を知らなくても、全然問題はないと思うのだ。あの人は一応、「普通の主婦感覚」(かなり怪しいが)を売り物にしているのだから、それはそれでいい。ただし、アーミテージがどんな人かくらい、外務次官以下の誰に聞いても一発で答えられたはずだ。それをなおかつ、「私用」を理由に会わないと決めたのは、部下の進言を聞かなかったからとしか解釈のしようがない。これはさすがに大臣としてマズイのではないか。

○今の調子ではさすがにマッキーはもたないでしょうね。小泉首相は、どこかのタイミングで「泣いて馬謖を斬る」ことになると思う(その瞬間、ますます人気が上がる?)。そこでリリーフに立つのは、加藤紘一じゃないだろうなあ。ちゃんとした親米派の人を、今のうちから当たりをつけて置いたほうがいいと思うぞ。


<5月22日>(火)

○5月16日にブッシュ政権が新しいエネルギー政策を発表しました。「原子力推進へ転換」とか「天然ガスのアラスカ採掘解禁」ということが、日本の新聞でも大きく報道されました。このことについてちょっと調べています。

○ホワイトハウスのHPに行くと、National Energy Policyの全文が掲示されています。全部で160頁以上あります。チェイニー副大統領をヘッドとするNational Energy Policy Development Group(NEPD)が、大統領に対して行った提言というスタイルを採っている。この提言部分を見ると、"The NEPD Group recommends that the President XXXXX"(NEPDグループは大統領に対し、XXXXするように提唱する)といった文章が全部で105本も並んでいる。

○この報告書の前文を見て唖然としましたな。NEPDのメンバーが紹介されているのだけど、チェイニー副大統領以下、閣僚や補佐官ばかり14人が委員で、それが全部だというのである。こんな忙しい連中が、何度も集まってエネルギー問題を議論し、わずか3ヶ月でこんな提言をまとめたとでも言うのだろうか。うそ臭い。「この政策を書いた本当の人は誰なのよ」と私は聞きたい。

○一番下に、
"Executive Director:Andrew D.Lundquist"とあるので、どうやらこの人が主査らしい。たぶん共和党議員の政策スタッフをやっていた人だと思う。でも、ひとりでこれだけの提言が書けるはずがない。ワーキンググループがいたはずだが、そういうことは一切説明されていない。ブッシュ政権の新エネルギー政策は、とっても不透明なのである。

○案の定、
Newsweek日本版5月16日号にはこんなふうに書いてある。

・チェイニーは明言している。「エネルギー問題に長年携わってきた専門家を大勢迎え入れた」
・新エネルギー政策の取りまとめは、批判勢力を排除して秘密主義のもとで行われた。ホワイトハウスの当局者は、これは政府部内の会合であり、内容を公開する義務はないと言う。
・エネルギー業界の指導者たちは常に、チェイニー率いるエネルギー対策委員会と接触していた。エネルギー業界は、昨年の選挙で総額2250万ドルの政治資金を共和党に寄付している。

○どうやら石油業界や電力業界などがバンバン要求項目を投げて、政権側がホイホイ受け入れて、政財界癒着で作ったエネルギー政策といった気がする。私が文句をつけるような問題じゃないけど、本当にそれでうまく行くのかな。ちょっと疑問。

○今週のThe Economist誌がカバーでブッシュ政権の原発開発問題を掲げている。題してA new dawn for nuclear power?(原子力の新しい夜明け?)。案の定、否定的なコメントだ。今から核燃料サイクルを作るなんて、ちょっと考えただけでも無理っぽい。当社の原子力ビジネス担当者に聞いたら、アメリカには原子力の技術者が育っていないという。なにしろスリーマイル事故(1979年)から中断しているし、優秀な技術者はみんなIT分野などに行ってしまったので。そんなところで開発再開といっても、本当にできるのかどうか。

○意外と世界でもっとも優秀な原子力技術者は日本にいるのではないだろうか。終身雇用制の社会じゃないと、原子力のように息の長い研究は続けていられないと思う。そのうち、日本の技術者を引っこ抜け、なんて話になったりして。


<5月23日>(水)

○元通産省の電子政策課長、安延申さんの話を聞いてきました。スタンフォード大学のビジネススクールに行ったところ、「今年の卒業生はBtoB、BtoCだ」という話を聞いたとか。ITブームは過ぎたようなのに、なぜ?と思うと、種明かしは「Back to Banking, Back to Consultant」である由。あはは。

○去年の今頃とはとんだ様変わり。IT革命はしばらく停滞期間、ないしは反動の時期が続きそうです。最近のアメリカ経済を見ていると、エネルギー産業や防衛産業に焦点が当たっており、しばらくはオールドエコノミーへの回帰ということになるのでしょう。とはいえ、安延さんによれば「いずれはIT革命Phase2が始まる」。この考えにはまったく同感です。

○Phase1は通信企業を大儲けさせて、金融産業をちょっとだけ変えたところで終わった。だが通信インフラは残った。19世紀のアメリカにたとえて言えば、「大陸横断鉄道がちょうどロッキー山脈あたりまで伸びたところ」で、「いずれ鉄道を使って穀物王や石油王が誕生する時代が来る」とのことでした。言い得て妙です。

○IT革命がしばらくお休みとなれば、企業の側も心がけを変えて真面目にやらなければなりません。BtoB、BtoCの教えはここでも有効です。すなわち、「Back to Basic, Back to Customers」。なんちゃって。

○ちょっと宣伝です。本日発売の小学館『SAPIO』78〜80pに、かんべえの寄稿が載っております。
「ブッシュ経済はホワイトハウスを牛耳る『草の根保守派』から読め」という小文で、ブッシュ政権がなぜあんなに保守的なのかを解き明かしたもの。本誌や当不規則発言では一度も使っていないネタを紹介して説明しております。よかったら読んでみてください。


<5月24日>(木)

○ハンセン病といえば、いろんな映画を思い出します。『ベンハー』、『パピヨン』、そして『砂の器』。いずれも忘れがたい名作です。繰り返しこの病気がドラマのモチーフとして使われてきたのは、そのあまりの悲劇性によるものでしょう。われわれが努めて忘却のかなたに押しやってきたこの悲劇が、思いがけず今日の問題としてよみがえってみると、あらためてその罪深さが思い知らされます。それだけに小泉首相の「控訴せず」の決断は光ります。仮にこの政権が明日倒れたとしても、長く語り伝えられるであろう仕事がひとつ残りました。

○村山首相が水俣病の問題に決着をつけたように、この問題も本来は野党政治家が腕を見せるべきところだったでしょう。ところが、おいしいところを持っていったのは小泉さん。もうこれで向かうところ敵無しという感じで、何をやっても許されてしまいそう。ここで気になるのは、「ダブルにするかどうか」です。「自民党はもう衆参同時選挙に向けて走り出している」という人もいないではありません。

○ところが今夜、いろんなソースから聞いた感じでは、「ダブルにはしない」との読みが優勢。その理由が面白いと感じたので紹介します。

@昨年行われた国勢調査から、
1年以内に定数是正を行うことになっている。ところがその作業がまだ終わっていない。ゆえにこのまま総選挙に突入すると、「違憲状態」のままで選挙を行うことになる。後で「選挙のやり直し訴訟」がジャンジャン起こることになるので、非常に厄介。

A小泉人気のままで総選挙をやると、得をするのは橋本派、ということになりかねない。むしろこのままの状態を長く維持した方が得策。今の小泉内閣では橋本派は人事で干された状態にある。これがいつまでも続けば、「橋本派にいる限りポストは回ってこない」ことになり、派閥の求心力が低下する。つまり橋本派つぶしのためにも、政界流動化のチャンスは先送りした方がいい。

B解散権という武器は使わずに取っておいた方が、野党や連立相手に対する牽制になって便利。「やるぞ、やるぞ」と思わせ続けることが、首相のパワーの源になる。

○いつもながら永田町の論理は面白いですね。もうひとつ付け加えるならば、
森田実氏が「ダブルにすべきだ」と言っていることがある。なにしろ、ことごとく予想が外れる人ですからね。


<5月25日>(金)

○おなじみのT記者から電話。「ダブルはないですね、僕も」とのこと。その一方で、民主党関係者がダブルに備えて緊急作戦会議を開くとのお知らせも。当方はしょせん他人事ですけど、選挙がかかっている人たちにとっては大問題です。

○ところで今度の参議院選挙から使われる「非拘束名簿方式」は結構分かりにくい。総務省のHPを見て調べました。要するに下の表のような感じなんですな。

共和党 

400万票

民主党 

300万票

ジョージ・ブッシュ 当選

120万票

アル・ゴア  当選

90万票

ディック・チェイニー 当選

100万票

ヒラリー・クリントン当選

70万票

コリン・パウエル  当選

80万票

ディック・ゲッパート

50万票

ポール・オニール  

60万票

ラリー・サマーズ

30万票

政党名

40万票

政党名

60万票

結果:3人当選

結果:2人当選

*各政党の総得票数に応じて議席を比例配分、候補者ごとの得票数の順に当選人を決める。


○これはT記者が言っていた笑い話なんですが、「いっそのこと、党首の名前を書いてもいいことにしたらどうだろう」。これは一大事になります。だって「コイズミ」と書かれた票が、全部自民党に行ってしまうんですから。


<5月26日>(土)

○小泉ファンの山根君からのコメント。

私もダブルはないと思います。首相があれだけはっきり「ない」と言っている以上、やらないのではないかと思います。

○なるほど、小泉さんは直球発言が多い。あからさまな嘘はつかないはずだ、という読みである。ふと、野中さんが「首相になる気は200%ない」と繰り返していたのを思い出しました。森田実氏は「そんなはずはない」と言い、田勢康弘氏は「あそこまで否定したら、もう出られない」と見た。結果は後者だったわけで、発言は素直に読んだ方が正解だった。政治家の発言をついつい裏を読みたくなるのは、従来型の政治ジャーナリズムの悪い癖かもしれません。

○「裏読み」でいくならば、「ダブル選挙説」を流しているのは橋本派、という見方が出来る。彼らは早く選挙をやってもらった方がいい。なんとなれば、自民党で選挙を仕切るのは幹事長―総務局長の仕事であり、これまで長い時間をかけて野中―古賀―鈴木宗ラインがやっていた。今すぐ解散・総選挙となれば、たぶん山崎幹事長にはまだそこまで準備ができていない。そこで野中一派の手を借りる必要が出てくるだろう。逆に時間がたてば、小泉―山崎体制が定着してくるから、ますます橋本派は干上がってしまう。

○ここが難しいところで、真の敵は誰かということを、はっきりさせておかなければ間違える。小泉首相が敵と定めているのは、野党ではなくて派閥政治そのもの、とくに橋本派である。野党も、倒すべき相手が誰かをちゃんと見定めておかないといけないよ。

○知り合いの記者連中は、「ダブルは勘弁してよ」というモードのようだ。忙しくなるからね。武士の情けでどこの社かは書きませんが、さる大手政治部の選挙取材責任者は、選挙でGoで情報を仕込んでいます。こんなことでいいんでしょうか。ま、ワシがその立場だったら、同じことをしてるだろうけどね。


<5月27日>(日)

○「よい問いは答えより重要である」リチャード・ベルマン。

○この言葉は昔、NHKの人気シリーズであった『未来への遺産』という古代遺跡を紹介する番組で、思わせぶりに字幕に流れていた「箴言」のひとつです。番組の中味とはかならずしも合っていたわけではなく、このベルマンがどういう人なのかも筆者は知りません。それでもこの言葉はなんとなく気に入って、そのまま忘れることなく今日に至っています。

○会社でPR誌の編集を任されていた時期に、この言葉を毎日痛感していました。雑誌の編集という仕事でいちばん重要なことは、書き手に対してテーマを投げることです。いい原稿を手に入れるためには、「面白いテーマを考えること」と「それにぴったりの書き手を見つけること」の2つが必要なわけですが、とにかくRight person とRight subjectが揃えば、本人が忙しかろうが原稿料が安かろうが引き受けてもらえるものです。重要なことは、いい質問を考えることでした。

○シンポジウムや勉強会のような場で、上手ないい質問をする人がいます。とくに値打ちがあるのは、話し手や聴衆が当然だと思っているような前提を切り崩してくれる質問です。話し手が即興でいかに答えるかが知の真剣勝負というもので、質問の出ないシンポジウムほどつまらないものはありません。また、会場から質問を受けるときに、長くしゃべる人からいい意見を聞いた試しがありません。いい質問とは、短くて聞き手の意表を突くもの。いい質問をしてくれる友人は、知らないことを教えてくれる友人にも増して得難い存在です。

○与えられた問題に答えを出すことに比べれば、いい質問を考えることの方がずっと知的で独創性を必要とする仕事だと思います。ところが学校教育ではそんな大事なことを教えてはくれない。むしろ「質問しちゃ先生に失礼だ」みたいな勘違いをしている人がいたりする。もっとも、「いい問いを発する」ということは、教えられて上達するほど簡単なことではないのですな。

○何が言いたいかと申しますと、当溜池通信にもハッとするようないいご質問メールを頂戴することが増えてきました。いちいち名前を挙げることはしませんが、感謝しております。今後とも厳しく暖かいコメントをお待ちしています。


<5月28日>(月)

○親切な読者のお陰で、リチャード・ベルマンは米国カリフォルニア州の数学者であることが判明しました。NHKで『未来への遺産』のプロデューサーをやっていた吉田直哉氏は、この言葉を座右の銘としていたために番組の中で使ったらしい。その経緯についてはここに書いてあります。「よい問いは答えより重要」という発想は、たしかに人文科学よりは自然科学の発想でしょうね。とくに数学のようにコンセプチュアルな学問はひらめきを必要としますから、「問い」の持つ重みが違うのでしょう。

○NHKが『未来への遺産』を放映していたのは、たしか大河ドラマが『国盗り物語』だった頃です。筆者にとっては中学生時代の記憶が、言葉も名前も正しかったのがちょっと意外なほどです。(この手の記憶は勝手に作り変えていることが多いので)。それにしても、吉田直哉氏が「よい問い」を捜し求めつつ、『明治という国家』などの名作番組を作ってきたというのは、なんだかとてもいい話だと思います。

○話変わって、今日は韓国からのお客さんたちを相手に、当面の北東アジア情勢についてプレゼンテーションしました。いつも溜池通信で書いているような話ですが、おもしろがって聞いてくれました。

○聞き手の反応で面白かったのは、韓国経済にとって中国が占める地位が非常に大きくなっているのだそうだ。貿易関係でいうと、日韓は日本が黒字。日中は中国が黒字。そして中韓は韓国が黒字。つまりこの3国の経済関係は全体でみると悪くない。日中韓は、EUやNAFTAに対抗できる経済圏になれるはずだ。ゆえにアメリカが中国を敵視してくるのは非常に困る、と言っていました。

○この点で日本政府は存外にしたたかで、安全保障は日米同盟重視を鮮明に打ち出しているけど、経済についてはアジア重視でやっているのですね。ASEAN+3はその典型で、かつてマハティールが提唱したEAEC(東アジア経済圏構想)のように、さりげなくアメリカを排除している。チェンマイ・イニシアティブなどもよくできていると思う。アメリカは今は黙っているけど、そのうち「日中韓共同市場などとはけしからん、俺も入れろ。門戸開放だ」と言い出すかもしれない。

○いずれにせよブッシュ政権の対アジア政策というのは、かなり極端なものになる。「日韓は同盟国、中国は競争相手、北朝鮮は敵」みたいに割り切って対応してくる。そうなると「日韓関係は重要ですよ」というのが本日の当方の結論です。これについては、ほとんど異議なしという感じでしたね。やっぱり経済と安全保障で同じ船に乗っているという事実は大きい。相手は日本と商売をやっている人だからなおさらで、国民感情の問題さえ、「若い世代はなんとも思っちゃいませんよ」と言ってましたな。

○何にせよ、宿題がひとつ片付いてほっとした。あーあ。


<5月29日>(火)

○私がしょっちゅう、会社のPCを見ながら忍び笑いをもらすので、今朝なども隣の席から「よっぽど面白いメールが来てるんですか?」などと聞かれてしまった。いや、そうじゃないんです。師匠のHPを見てたら、とんでもないHPが紹介してあったのです。うぷぷぷぷ。

http://www.amzak.net/shiojii/

○「しおじぃ」こと塩川正十郎財務大臣の非公式ファンサイトなのである。この79歳は「なごみ系」なのか天然ボケなのか、とにかく今までの蔵相=財務相にはなかったキャラである。共産党議員の鋭い質問も、とぼけにとぼけまくって煙に巻く。答弁を間違えたら平気で訂正する。普通だったら国会が止まるところ、誰も怒れない。いまやマッキーと並び、押しもおされぬ小泉内閣の大看板スターに成長した。少し前に流行った「老人力」なんて言葉を思い出す。もとい、「ご人徳」というべきであろう。

○このHPを見ていてふと気づいたのだが、しおじいは天秤座のAB型。宮沢前財務大臣と同じである。だからどうした、といわれると、どうもしないんですけど、このタイプは年を取っても元気なんでしょうか。私は偶然ながらもう一人、天秤座AB型の政治家を知っておりますが、それは石原慎太郎都知事。こうしてみると三者三様で、占星術もあてになりませんな。


<5月30日>(水)

○やっと時間が出来たので、前から気になっていたことを調べてみました。先週、ジム・ジェフォード上院議員(ヴァーモント州選出)が共和党を離脱して、そのために民主党が上院の多数を占めるようになりました。ブッシュ政権にとっては文字通りの大打撃。このジェフォード議員の心中やいかに、という問題です。本誌愛読者のF氏からも質問をいただきました。

○米国上院の議席数は100。2000年選挙の結果は共和党50、民主党50のまったくイーブンだった。まったくの与野党伯仲だが、上院議長は副大統領が兼務することになるので、賛否同数の場合はチェイニー議長が投票する。ゆえに共和党が優位。ここまでの話はご存知の方が多いと思う。

○問題は、上院内の委員会の委員長職をどう割り振るかだった。両党が年末年始に協議した結果、こんな妥協が成立した。「共和党が全部の委員会を取る。その代わり上院内の勢力に変化があった場合はすべて交代とする」。民主党が損するみたいだが、共和党の現職上院議員には病状が悪化しているヘルムズ議員、御年98歳のサーモンド議員がいる。この2人がくたばると、どちらの選挙区も州知事は民主党なので、代役になる上院議員は民主党になる。その時点で委員長総取り替えが成立する。つまり民主党にとっては「先憂後楽」策だった。

○今回、ジェフォードは共和党を離脱して独立系の議員になった。議会内勢力は民主50、共和49、独立1となる。民主党にとっては思ったより早い「棚からぼた餅」となった。これで上院指導者(Majority Leader)の座は、共和党のロット上院議員から民主党のダッシュル上院議員に移る。そして委員長職は全部民主党が取る。つまり上院の与野党が逆転した。

○The Economistの記事によれば、 ジェフォードは「ロックフェラー・リパブリカン」の数少ない生き残りだという。共和党といえば、昔はリンカーンの党で、北部の金持ちたちが地盤だった。ところがそういう北東部出身の名門たちは、今では南部や西部出身の保守派に押されている。彼らの目から見れば、ブッシュ政権の主要メンバーなどは「南部の下品な成りあがり者ども」ということになるのだろう。共和党内部にそういう「南北問題」があったというところに伏線がある。

○加えて路線対立が加わる。ジェフォードは穏健派の議員である。ブッシュ減税案に対しても、「1兆ドルもあれば十分」と反対に回る。するとホワイトハウスは、「Theacher of the Yearに選ばれたヴァーモント州出身者を、お祝いする会合に彼を招待しない」という嫌がらせをした。さらに同州にとって重要な乳製品補助金に反対するぞ、とほのめかした。同誌いわく、「ブッシュは有力な上院議員すべてにペコペコするような人間には見えないが、ジェフォードを侮辱したり脅迫したことは、分別のある行為ではなかった」。

○ジェフォード議員の過去の投票行動を見てみよう。http://www.issues2000.org/Senate/Jim_Jeffords.htm の中で、目立つところを拾ってみる。「人口中絶は女性の権利」「中国へのPNTRに反対」「ゲイに対する雇用不差別法案を提出」「CTBTに賛成」「北極圏の野生動物を永久的に保護」「選挙資金改革法に賛成」「銃麻薬違反への厳罰に賛成」「タバコ規制増加に賛成」「社会保障基金の民営化に反対」・・・・おいおい、本当に共和党員なのかよ、と驚くほどのリベラルさである。これなら党籍離脱にも意外感はない。

○もうひとつの要素は、ヴァーモント州という選挙区のお土地柄に原因があるらしい。日本でいうなら会津か土佐か、とにかく変わっていることをよしとするような気風があるのだそうだ。現職で唯一の独立系議員も、同州出身のバーニー・サンダース下院議員である。彼女はなんと元社会主義者の市長だった。

○ジェフォード議員の公式サイトを見ると、今回の行動についての声明文が出ている。http://www.senate.gov/~jeffords/ 重大な決断をしただけに、なかなかいい文章です。というか、これを読んで私はこの人が好きになりましたね。

「私を知る人、そして私がヴァーモント州を愛していることを知る人のために」という書き出しで始まる。ヴァーモント州はもっとも早く奴隷制を違憲とした州であり、マッカーシズムを終わらせた上院議員を輩出した州なのだそうだ。そして州出身の共和党上院議員の名前を挙げ、深い敬意を表している。とにかくこの人の行動には、「まずヴァーモント州ありき」なのである。そして決断の理由を以下のように語る。

私は少しずつ、自分が党に対して反対していることに気づきました。多くの人が私よりも保守的であり、彼らが共和党を構成していることは理解しています。この政党の性質が変化してゆくにつれて、党の首脳部が私に対し、私が首脳部に対することは困難になってきました。実際のところ、党が選挙で勝ったことで、私が党内で直面するジレンマはますます強くなりました。

過去において、大統領が居なかった時代は、議会内の共和党では議論をして党の政策課題を作り上げる自由がありました。ブッシュ大統領の当選がそれを変えました。われわれは議院内閣制に生きているわけではありませんが、私のように議員に選ばれる栄誉に浴してきたものにとり、大統領の政策を支持するのは自然なことです。

それでも、私は次第にそれができないと感じ始めました。私を知らない人々は、私が大統領の予算に抵抗するのが楽しいのだとか、脚光を浴びるのを喜んでいるのだと思ったかもしれません。それはとんでもない間違いです。私は予算に対して深刻かつ深い危惧を抱いており、今日や明日のために行われている決定についても同様なのです。

前途を考えれば、非常に基本的な問題において、私が大統領と意見が合わせられないことが分かってきました。中絶、司法、税と支出、ミサイル防衛、エネルギーと環境、その他大小さまざまな問題についてです。私にとって最大の問題は教育です。私の出身州は、アメリカに公用地払い下げによる大学システムを残したモリル上院議員を輩出しました。彼がいた時代の共和党はすべての人々に機会を与え、あらゆるアメリカの子供に公立学校教育の門戸を開きました。だが今では、公立学校から出ていく生徒の数で成功が語られるようです。

○切りがないのでこのへんで止めますが、ブッシュ政権の保守化戦略にはこんな盲点があったのですね。つまり身内の造反。似たような共和党議員はけっこういるかもしれません。頂門の一針、という感じです。


<5月31日>(木)

○久々に長いのを書いたら、今日はたくさんメールをいただいております。アメリカ議会の話に興味を持つ方がこんなにおられるとは。念のために言っておきますが、別段、筆者がスゴイ情報網を持っているわけではなくて、ネット上で"Jim Jeffords"という名前を検索すれば、昨日書いた程度のことはすぐに分かることなんです。ワシントンにいなくても情報は取れるんです。今はね。

○せっかくだから、5月24日夜にギャラップ社が行った世論調査の結果も紹介しておきます。
http://www.gallup.com/poll/releases/pr010525.asp

Q:ジェフォーズが独立系になることにより、上院は民主党支配になりますが、これは国にとって良いことでしょうか。
A:良い 43%、悪い 35%、分からない 22%

Q:ジェフォーズは辞任して、独立系として再出馬すべきでしょうか。それともこのまま6年の任期を全うすべきでしょうか。
A:辞任すべき 35%、とどまるべき 58%、分からない 7%

Q:この結果、共和党と民主党の間はどうなるでしょうか。
A:より協調する 15%、より衝突する 50%、変わらない 30%、分からない 5%

Q:ジェフォーズ上院議員は、離党の原因のひとつは、ブッシュ政権下で共和党が保守的になり過ぎたからだといいます。どう思いますか。
A:賛成 50%、反対 42%、分からない 8%

○離党の決断は、そんなに評判が悪くないですね。やはりブッシュ政権はやりすぎた、と見ていいのだと思います。

○ところで6年2ヶ月にわたって、同じ職場で働いていたSさんが今日で退職。来月にはJune Brideになります。最近はとんと珍しくなった「コトブキ退社」ですが、明日から失うものの大きさを考えると複雑な心境になりますな。でもおめでとう。お幸せに。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki