<1月1日>(水)
○始まってしまいました。2020年であります。
○元旦の紙面というものは、各紙が渾身の企画や特ダネを用意するものであります。昨年の場合は産経新聞が「新元号は4月1日公表!」というスクープ記事を載せて、「どうだ!」と言わんばかりでした。今年の場合は、昨日の「ゴーン被告、国外逃亡!」の報で全部ひっくり返りましたな。だってそっちの方がビッグニュースなんだから。
○それにしても、ゴーンさんはプライベートジェットで関空から、「翔んでイスタンブール♪」だったんですってね。そこからレバノンに入国。しかも、楽器に隠れて飛行機に乗り込んだんですって。どうせなら箪笥の方が良かったんじゃないでしょうか。「タンスにゴーン」というくらいですから。いや、失礼。
○で、2020年と言えば、国内的には東京五輪、国際的には米大統領選挙でしょうな。前者はそんなに深く考えることはなくて、始まってしまえば皆、勝ち負けのことしか言わなくなるものです。できれば昨年のラグビーW杯のように後味よく終わってもらいたいものです。景気への影響はそんなに心配しなくても良いと思います。
○問題は後者でありまして、いろんなトランプ劇場がありそうな感じです。とりあえず北朝鮮の求愛行動が高まっているようなので、トランプさんが「そろそろアイツにサービスしてやらなきゃな」と思っているような気がします。どこかで電撃会談があったりして。
○で、2020年がどういう年になるのか。"Twenty-Twenty"(視力両目2.0)でしっかり見ていきたいものだと思います。本年もどうぞよろしくお付き合いください。
<1月3日>(金)
○箱根駅伝はずるいのである。新年、碌でもない番組が多い中で、唯一、大人が見るに堪えるものを放送している。ちょっとでも目を離すと、すっごいドラマを見損なってしまうかもしれないと思わせる。沿道の景色と観衆がまたまた曲者であって、神奈川県はほんとうに絵になる場所が多いのである。加えてCMまで力が入っていて、サッポロビール、ダイワハウス、AUなどが「年に1度、ここがチャンス」とばかりに新作を打ち出してくる。これでは2日、3日に何もできなくなってしまうではないか。
○ワシなどは、個人的にはどこが勝っても関係ないと思っているのだが、20校も出ていると、かならず身内にどこかの大学のOBなり関係者がいる。しかも母校愛というものは、理屈を超えるものである。とりあえずあそこが惜しかったとか、あそこがシード権確保できてよかったねとか、いろいろ気にしなければならなくなる。ちなみに心から応援したかったのは筑波大学である。偉いじゃないか、国立なのに。
○しかるにこの箱根駅伝、経路依存性の最たるものである。本来はローカルな大会である箱根駅伝が、唯一無二の存在になってしまうことにより、関西の大学が出られないとか、箱根の坂は急過ぎて長距離走には向いていないとか、いろいろ悪口がある。とはいえ、どんなにアンフェアなものであっても、一度定着したものはなかなか変えられない。それはキーボードの配列がQWERTYなのは変だとか、米大統領選挙の予備選がいつもアイオワ州から始まるのは不平等だとか、有馬記念を中山競馬場から動かすべきである、と論じることに似ている。
○アイオワ州党員集会や年末の有馬記念は、幾多の名勝負を繰り返してきたからこそ変えられないのであって、箱根駅伝もまたそれに近い。悔しかったら、これを超えるドラマをほかで見せてみろ、と言われるのが落ちだろう。経路依存性は不条理である。しかし、つくづく愛すべき不条理である。
○蛇足ながら、青山学院大学は強かったねえ。Sくん、おめでとう。
<1月4日>(土)
○ワシが富山で諸方面の義理を果たしたり、上海馬券王先生と飲んだくれたりしている間に、世界は大変なことになっている。これはもうアメリカとイランは戦争状態ですな。えらいこっちゃ、です。
○最初の感想は、「歴史は繰り返す」である。1998年の大統領弾劾の時も、クリントンはイラクにクルーズミサイルを撃ちこんでいる。あのときも「これは保身のためではないか」的な批判があったものの、当時のアメリカはまだ今ほど分裂していなかったので、共和党側もことさら問題視はしなかった。今回の場合は、共和党側は手放しで喜び、民主党は「議会に事前報告がなかった」ことを批判している。大統領候補者たちも以下同文。かつてのように、米軍が動けばたちまち国論が一致した時代ではない。
○共和党の中でも、変り者のランド・ポール上院議員は批判している。この人、ときどきトランプさんと意見が合うのだが、それは2人とも孤立主義的な傾向があるからだ。しかしランド・ポールはジェファーソニアン(平和主義的)で、ドナルド・トランプはジャクソニアン(好戦的)なので、こういうときは合わない。面白いね。たぶんトランプ支持者は、今度のことを支持するのでしょう。週明けの世論調査が見ものです。
○トランプさんは以前にバグダーディを殺害している。ISISとはそれ以前に交戦状態だったから、これは構わない。国内的にOKである。オバマさんがやったビン・ラディン暗殺も同様である。しかしアメリカはイランと戦争をしているわけではなく、ときどき小競り合いが行われてきただけだ。今回の攻撃はイランとの開戦につながる恐れがある。だったら議会に通告しなければならない。これをネグったのは、「情報が漏れるから」ということなのだろう。
○しかし議会をかくも反トランプ的に仕向けたのは、トランプさん自身のせいでもある。もしもイランとの全面戦争になった場合、アメリカ国内はちゃんと政府と米軍を支持するのだろうか。あるいは国内でテロ行為が行われたときにどういう反応になるのか。端的に言えば、これだけ分裂してしまったアメリカはちゃんと戦争ができるのか。ワシ的にはそれが最大の心配である。
○次なる問題は、トランプさん自身の判断のブレである。昨年6月、米無人機がイランに撃墜されたときに、トランプさんは空爆を指示したが、「150人死にます」と言われて、「それでは釣り合わない」と思って急きょ取りやめた。このことで、「トランプは軍事行動ができない大統領だ」という印象を与えた。イランもそれで、米国をなめてかかっていたのかもしれない。
○昨年の11月から12月にかけて、イラクで米兵を標的とする攻撃が相次いだ。これがイラン革命防衛隊(IRGC)のスレイマニ司令官によるものだ、ということで今回の攻撃計画がクリスマス期間中に立案された。1月3日の未明にスレイマニ司令官がバグダッド空港に到着する、という情報がもたらされた。そこを米軍がドローンで攻撃した。トランプさんの頭の中では、「これはレッドラインを越えた」という認識であるらしい。とはいえ、それについて弾劾問題などの内政状態がどの程度影響していたかはわからない。
○要するに、彼一流の直感のなせる業なのであろう。戦争にはしたくない。でも戦争ができないヤツだとも思われたくない。戦闘行為には支持者はついてきてくれる。イランはたぶん冒険をしないだろう。それから、これを見たら北朝鮮のあやつもおとなしくなるはずだ・・・みたいな計算があったのではないのかな、と思う。所詮は「トランプ占い」の世界なので、どうとでも言えてしまうのだが。
○3番目の問題は、というかここが一番肝心なのだが、これでイランがどう動くかである。幸か不幸か、イランの現体制はしっかりしている。さっそく国連安保理を使ってきたあたり、まことに冷静である。彼らは無茶をしない。核開発だって、エスカレーション・ラダーをちょっとずつ登ってみせているが、北朝鮮のように既に持っているわけではない。そして北朝鮮よりもずっと大人の交渉をする。P5+1を手玉に取ったりする。
○ワシは以前に、イラン情勢をめぐるシンポジウムの席上で、「ハメネイは昭和天皇、革命防衛隊は関東軍。最高指導者は尊敬されているけれども、下の者たちが言うことを聞くわけではない、そういうことですか?」と尋ねてみたことがある。イラン情勢に詳しい田中浩一郎氏の答えは、「ちょっと違う」であった。ハメネイは実際にいろいろ指示を出しているし、なおかつ全能の指導者ではない。そして革命防衛隊は一枚岩であると考えていいらしい。
○最後の問題は、日本はどうするのか、である。ペルシャ湾に海上自衛隊を出すことを決めちゃったけど、急に心配になってきた。普通に行くと2月には現地到着となりそうなのだけど、とりあえずゆっくり準備することにしてはどうでしょう。急ぐことはありませんよ。こういうときの様子見は、少なくとも愚者の結論ではないはずです。
<1月6日>(月)
○今年の初出社である。その割には忙しい。なんだか新年のご挨拶という感じではない。
○イランではスレイマーニ司令官のお葬式が行われているそうだ。徳望の高い故人のために急きょ休日となり、テヘラン市内には数十万人が集まってきているとのこと。つくづく怖いことをやったものだと思うが、「イランの重要施設52か所を攻撃目標に定めた」などというトランプさんの大人げなさは「いかにも」である。「52」という数字は、1979年の米大使館人質事件の人数に合せているとのことで、まるでプロレスの煽り文句のようではないか。トランプ支持者には受けるかもしれないけど、これでは「内心では親米」のイラン市民があきれ返ってしまうことだろう。
○中東というのはつくづくよくわからない土地で、ひとりひとりが名前を聞いただけで家族や氏族から住居や宗教まで分かってしまうという、強力なアイデンティティの下にくらしている。しかもアラブではないペルシャとなると、とにかく誇り高い人たちである。その彼らが怒り狂ったときにどうするかというと、けっして無謀なことはしない。なぜなら、過去に何度も亡国の憂き目に遭っているから。中東における悠久の歴史の中で、何度も痛い目にあったことがある民は無茶をやりません。やけっぱちな行動をするのは、過去にあんまり辛い目に遭ったことのない国ですな。日本もそうですけど。
○イランの場合、「ウラン濃縮の水準を上げる」みたいな搦め手から攻めてくる。その一方で、核合意から離脱するともなかなか明言しない。この辺、トランプ政権の粗雑な動きとは対照的です。そういえばアメリカもあまり痛い目に遭ってない国ですよね。真珠湾と「9/11」以外では。イランの場合、すぐには動かないでしょう。それはいいのだけれども、だからと言って忘れてくれるわけでもない。しつこく、しぶとく対応してくるはずです。ああ、面倒くさい。
○幸いなことに、アメリカとイランの全面戦争だけはないでしょう。それは地図を見れば一目瞭然で、中東こそは地政学の本場。イランに攻め込むのは大変です。ペルシャ湾から上陸するにせよ、アフガニスタンから攻め込むにせよ難しい。トルコから攻め込むのはたぶん断られるし、イラクから侵入するのはサダム・フセインが昔やったことけど、面積も人口も3倍の相手には歯が立たなかった。ということで、経済制裁を地道に続ける以外にない。後はテロや代理戦争をいかに防ぐかですな。
○市場の反応を見ていると、金価格が上がったけど、ドルは上がらなかった。円高や石油高もさほど起きていない。短期的に騒ぐ必要はないけれども、長期的に身構える必要があるということか。ひとつだけ良かったのは、スレイマーニ司令官の殺害を見て、北朝鮮が急におとなしくなったこと。あそこも過去に何度も亡国の苦しみを知っているからでしょう。
○日本はどうするのかというと、海上自衛隊の護衛艦はやっぱり予定通り出港するらしい。「調査研究」が目的であるからには、それはそれで正しいのでしょうね。くれぐれも無理をなさいませぬように。
<1月7日>(火)
○本日はひろぎん経済研究所さんの新春講演会で尾道市へ。2004年1月に来たことがあるから、16年ぶりの来訪となる。さすがに細部の記憶は薄れているが、とにかく「いいところだった!」という思いが残っている。広島県というと、イコール安芸の国であり広島市である、という印象が強いかもしれないが、備後の国である福山市や尾道市、三原市も見るべきところが多くありますぞ。
○16年前は地元の法人会さんの講演会で、船主さんが多かったことを覚えている。造船業は今は苦難の時期のようだが、やはり当地においては重要産業。ということで、為替に関する予想を語らなければならない。そういえば今朝のモーサテでも為替の大討論会をやっておったのだった。
○今年のワシの予想は「やや円高」。注目するデータはFedのバランスシートである。米連銀は昨年9月から再びバランスシートを膨らませている。一時は3.76兆ドルまで減らしていたのだが、昨年末の時点で再び4.16兆ドルまで増えている。これはドル安要因だと思うのですよね。今年の米連銀は、おそらく利上げも利下げもしないだろう。じっと我慢の1年。とはいえ、こんな形でステルス緩和をやっているんですねえ。
○と言っても、世界的には円の存在感がどんどん薄れているので、せいぜいピーク時で1ドル105円くらいじゃないかと思う。今年も相変わらず狭いレンジの変化となるだろうが、その中でも方向としては円高。ただしこのステルス緩和はどこかで止まるだろうから、そこも注目すべきかと存じます。
<1月8日>(水)
○毎年念頭恒例、ユーラシアグループの「Top
Risks 2020」が公表されました。
(1)Rigged!: Who governs the US? (米大統領選の不正)
(2)The Great Decoupling (技術のデカップリング)
(3)US/China (米中新冷戦)
(4)MINCs not to the rescue (助けにならない多国籍企業)
(5)India gets Modi-fied
(モディ化するインド)
(6)Geopolitical Europe
(欧州の地政学)
(7)Politics vs. economics of climate change (気候変動)
(8)Shia crescendo (シーア派の高まり)
(9)Discontent in Latin America (南アメリカの不満)
(10)Turkey (挑発するトルコ)
Red Herrings: The new axis of evil, Populist policies in
the developed world, Post-Brexit
リスクもどき:新「悪の枢軸」、新興国のポピュリズム、ブレグジット後
○とりあえず本日はイランがイラクの米軍基地に向けてミサイルを撃ったので、(8)が当たったということになります。何だか、国内向けのガス抜きという感じですけどね。トランプさんも、「52か所に向けて反撃だ!」などとは言わないでしょう。だってあればプロレスの雄叫びなんですから。その辺はリテラシーの問題。とはいえ、それを解してくれない人が多いのも事実。
○ユーラシアグループは2010年からTOP10リスクを公表し、世界に対して「地政学リスク」に関する警鐘を鳴らしてきた。それは確かに面白いし、今年分を見てもいろいろ気の利いたことを指摘している。「モディ化するインド」なんて、旨いことを言いますねえ。
○とはいうものの、マンネリ化してきた感も否めない。何より、これだけリスクがある中においても、世界経済は成長を続けてきているし、株価だって非常に高い水準にある。地政学リスクというのは、市場の短期の売買材料にはなるけれども、長期で見たらあんまり関係ないんじゃないのか。などと、ちょっと醒めた気分がする昨今であります。
<1月9日>(木)
○福岡に来ている。あいかわらず元気な街で、新しいホテルやマンションがどんどん建っている様子。夜はもちろん、イカ刺しにゴマサバにカキフライに、締めは鯛茶である。そして皆さん、とってもノリがいい。結論として、大いに飲んでしまう。いや、結構である。
○一昨日のカルロス・ゴーン被告の記者会見について少々。皆が関心がある「どうやって逃げたのか」についてスルーしたので、世界中から集まった記者にとっては不満が残ったことだろう。おそらく、逃亡を助けたPMC(民間軍事会社)との契約があって、言えないことになっていたのだろう。しかし、これではあまり記事にならないことになる。イラン対アメリカの対立、というもうひとつの大事件と重なったことも不運だったかもしれない。
○しかしそれでも記事は出るのですねえ。この問題については、以前からWSJが詳しいのですが、この記事はすごいです。
https://www.wsj.com/articles/inside-carlos-ghosns-great-escape-a-train-planes-and-a-big-black-box-11578445084 (英語)
https://jp.wsj.com/articles/SB11833998325689744897304586127643649969716 「カルロス・ゴーン、大逃亡劇の内幕」(日本語)
○本当に綱渡りだったのですね。ゴーンさんがグランド・ハイアットホテルで安倍首相とニアミスした、なんて話は、まるで映画のような世界です。
○WSJは社説でゴーンさんに同情的な論陣を張っていて、「ゴーンの訴えは信用できるように思える。日産や検察から説得力のある新しい証拠がなければ、ゴーンは世論という法廷で無罪になるはずだ」としている。とはいえ、いちばんおもしろい部分が表に出た後で、「世論という法廷」にその部分を追及する力が残っているかどうか。そしてこれから後も、別の新しいニュースが次々と起きることだろうし。
<1月10日>(金)
○福岡での宿は、今回も西鉄グランドホテルである。特に不満はないのだが、さすがに古いのでバスルームなどは手狭な感がある。今度、建て直すとのこと。しかも隣の広大な敷地では、リッツカールトンホテルが建設中である。以前から、「福岡市はもっと高いホテルを作るべきです」と言っていたのだが、どうやらそういう時代になってきたようである。
○さらに今日、お勤めを果たした新春懇親会の会場はグランドハイアット福岡であった。これがまた中洲にあるド派手なホテルである。ステーキの「ウォルフギャング」が入っているくらいなので、たぶん福岡市内でもトップクラスなのではないかと思う。とりあえず立食パーティーの鮨も美味でありました。ごちそうさまでした。
○福岡は有史以来、「アジアへの玄関口」を自認する都市である。その福岡では、「韓国人観光客の急激な減少」が問題となっていて、日韓関係の行方に関心が高い。と言われても、今の政府間で物事が解決するような気は全然しない。4月15日の韓国総選挙が鍵、と言われて久しいが、それさえ過ぎれば急速に事態が改善するとも考えにくい。強いて言えば、「不買運動」とか「観光自粛」というものは、あまり長くは続かないものだと思うのだが。
○ともあれ、2019年もインバウンドは3000万人を超える見込みである(正確な数値は1月17日に公表予定とのこと)。アウトバウンドも2000万人に届くのではないかと思う。今年は東京五輪という大イベントもあるので、人の移動はますます活発になるのではないだろうか。
○さて、仕事を終えて現在は福岡空港の海外ターミナルに来ている。これから台北に飛びます。そう、明日は総統選挙の投開票日ではありませぬか。4年に1度のこのチャンスを逃すわけにはいきません。今宵は選挙前夜なので、おそらくは盛大に盛り上がっているのではないだろうか。ということで、久々に台湾を見てまいります。
(19:16pm)
○桃園空港に着いたら、えらい混雑である。そうか、明日の投票のために、海外からの帰省客が押し寄せてきているのだ。これでは着陸が遅れたのも無理はない。
○空港のタクシー待ちは途方もない行列になっている。よかった、ホテルのリムジンを予約しておいて。グッジョブ、俺。待てよ、1NTドルは3.6円から3.7円といったところか。するとこの料金は日本円にして・・・いやいや、そんなことを考えるのはよそう。せっかく4年ぶりの台湾なのだから。
○市内に入ったところで蒋萬安の看板が目に入った。4年前にも見た、蒋介石のひ孫であり、国民党の立法院議員である。台湾の進次郎といったところか。頭を切り替えて、台湾の選挙ウォッチングに専念することにしよう。ああ、それにしても「最後のお願い」はもう終わった後なのだな。明日は投票日である。
(1:17am)
<1月11日>(土)
○さてさて、台北である。いつも思うことなのだが、台湾の選挙は今どきとってもスパルタ式なのである。
@不在者投票ができない。
A海外居住者もちゃんと地元(生まれ故郷)に帰らなければならない。
B投票時間は午前8時から午後4時までの8時間のみである。
C午後9時にはほぼすべての開票作業が終わってしまう。
D出口調査をしないので、メディアが「当確」を打たない。候補者が敗北宣言をするまで皆がじっと待っている。
○つまり選挙の日は「里帰りの日」ともなるのであるが、今年のように1月25日に春節がある、という状況だと完全に二度手間となってしまう。しかも投票日が土曜になっているのは、「ちゃんと翌日には戻ってきて、月曜には会社に出ろ」ということなのではないかと思えてならない。こんな過酷な選挙制度でも、7割の投票率が達成されてしまうというところが、台湾における民主主義の凄いところである。
○4年前に訪れた際は、小雨が降って肌寒く感じた台北であるが、本日の気温は20度程度。コートなどは全く不要です。4年前と同じように、まずは民進党の選対本部を訪ねてみる。投票日の午前とあって、人かげはまばらである。それでも「志工」(ボランティア)の制服を着たおばちゃんが、どーぞどーぞと招き入れてくれて、紙コップにお湯まで注いでくれる。蔡英文と頼清徳の正副総統コンビをアニメっぽい人形にしているのが、いかにも「らしい」。総じて本部全体がんもう「勝ったつもり」になっていて、たぶんサプライズがあるとはまったく考えていない模様である。
○そこから国民党本部へ。大きな建物であって、2012年総統選挙でテレビ東京「ジパング」の取材でここに来たときは、派手な仕掛けに大勢の有権者が詰めかけていたものである。韓国瑜が候補者なのだから、何か面白い趣向があるのじゃないかと思ったら、そうではなかった。しかも人が少なく、しかも警備員が「これ以上入っちゃダメ」などという。雰囲気がよろしくない。まあ、それを言ったら4年前もそうだったけど。
○午後には、台湾関係のベテランジャーナリストのグループに合流する。ここではとんでもないディープな情報が飛び交っていて、国民党はいよいよ分裂するのではないかとか、北京が相当にカネやフェイクニュースをつぎ込んでいるらしいとか、テリー・ゴウはこれからどうするつもりなのかとか、王力強の件は完全に裏目に出てしまったなとか、いろいろ機微に触れる話を拝聴する。やはり台湾政治はこうでなくては。
○夕方から開票速報を見る。ここは平成国際大学の浅野和生先生のグループに合流。結果は既にご存知の通り、蔡英文総統が800万票を超える史上最高得票するで再選されました。国民党の韓国瑜の敗北宣言は、国民の統一を呼びかけるしっかりした内容だった。その後に行われた蔡英文の演説と海外メディア向け記者会見も、もちろん堂々たるものであった。中国からのいろんな工作はあったはずだが、結果は台湾の民主主義の勝利であった。いや、本当に良かった。
○民進党は立法院選挙においても過半数を確保した。第3政党の動きも興味深いことになっているのだが、その辺の話はもう少し情報が揃ってからに致しましょう。とりあえず歴史的瞬間に立ち会えたことに感謝。
<1月12日>(日)
○歴史的な選挙戦の翌日の台北は、ごく普通の日常が流れている。かといって、「祭りの明日」的な寂しさというわけでもない。4年前に来たときもそうだったけれども、「政治は政治、日常は日常」なのである。
○選挙直前の与野党両陣営の盛り上がりは相当なもので、特に2日前に台北で行われた国民党集会は人出も多く、熱のこもったものであったそうである。とはいえ、そういうことは得票率とはあまり関係はなく、「だいたい投票日の3か月前から後は、支持率に大きな変動は起きないものだ」という観測もある。それくらい、台湾社会の分断が進んでいるのだという見方もできる。
○今回の場合は、「韓粉」と呼ばれる熱狂的な韓国瑜ファンが誕生し、台風の目となった。これは韓国瑜自身の出自もそうだが、外省人の中でも恵まれない層が中心になっている。今まで国民党は、馬英九のような「外省人エリート」が中枢を占めてきた。そして馬英九政権は、これまで彼らのことをあまり構ってこなかった。その怨念もあって「韓粉」が形成されたのだが、この辺りラストベルトで「忘れられた人々」を発見したドナルド・トランプと相通じるものがある。
○ということは、これから先の国民党内の主導権争いが見ものである。選挙戦の大敗の責任を取って、党主席の呉敦義は開票速報の最中に辞意を表明した。その後に馬英九、連戦、朱立倫といった「外省人エリート」が返り咲くのか、それとも韓国瑜が党内改革に乗り出すのか。韓国瑜は大差で負けたし、高雄市長なので、「高雄に帰ってまじめに仕事しろ」と言われそうなところではある。ところがどっこい「俺は4年前の朱立倫よりも7.6pも多く票をとったぞ」と言える立場でもある。そしてもちろん彼には「韓粉」がついている。
○もっとも今の国民党を引き継ぐのは大変な仕事である。党の資産はどんどん失われていくし、公務員や軍人などへの手厚い年金も蔡英文政権が「改革」してしまった。しかも「中国の影響下にある」と見られてしまっている。韓国瑜は記者からの「台湾をいちばん苛めている国はどこですか?」という問いに対して答えられなかったそうだ。おいおい、そんなに大陸からカネ貰ってんのかよ、みたいなマイナスイメージもつきまとう。
○立法委員議員選挙の比例代表名簿でも、あからさまな「親中派」が何人か上位を占めていて、「それじゃあ比例区は国民党に入れてやらない」みたいな反発があったとのこと。どうも中国は、香港でも新疆でも台湾でも、「やればやるほど深みにはまる」というジレンマに陥っているように思える。知らんけど。
○今日はやや時間があったので、「台北101」まで行ってみた。MRTを使えば簡単なのである。地上101階、高さ509.2mで、2004年に完成した時は「世界一」であった。しかるに今は、ドバイのブルジュ・ハリファの828mには遠く及ばない。それだけでなく、昨今は中国の沿岸部に馬鹿高いビルがじゃんじゃん建っているので、世界ランキングはかなり下がってしまったらしい。「ちょっと前に流行った名所」という残念さがある。
○こういうと語弊があるのだが、日本と台湾はもともと「自分たちは世界の中心にいない」という自己認識がある。最近はその上に、「自分たちはどんどん時代遅れになっているのかもしれない」という感覚を共有しているような気がする。なおかつ、それで焦るというよりは、「まあ、仕方ないね」と達観している。つまり「未来志向」よりも「懐かしさ志向」。それもあって、お互いの近しさがますます強まっているような気がしている。
○MRTの地下広告には、青森県や伊豆などの日本国内の観光広告がじゃんじゃんあって、人気を呼んでいるようであった。日本からもどんどん台湾に行くといいですよ。本場のタピオカもありますしね。
<1月13日>(月)
○ということで、いよいよ帰るのであるが、なぜか今回の旅行ではFTPソフトが1回もつながらなかった。大陸から変な電波が飛んでくるために、何かセキュリティ面で変化があったのだろうか。それとも、ワシのPCがいよいよぶっ壊れているのか。後者だったら大変である。とりあえず、成田空港に着いたらあらためて試してみよう。
○それにしても桃園空港は、出国の際の手荷物検査を何とかしてくれ。あの混雑はひど過ぎる。なおかつ、係員も客も「しゃあねえなあ」と諦めている様子が、なんだか日本みたいでよろしくない。まあ、これは成田空港もそうなんだろう。どちらも「残念力」を発揮していて、この点は「松山空港&羽田空港」のコンビとは好対照を為している。
○さて、あと1時間くらいで搭乗手続き開始である。どれ、もう1回、土産物でも見てきましょうか。(9:52am)
++++++++++++
○帰ってきて成田空港で、荷物が出てくるのを待っている間にPCをつないでみたら、簡単にFTPソフトがつながった。ということで、サイトを更新。やはり台湾は何か変だったのだろう。4年前はそんなことなかったのにね。
○ところで成田空港も画像認証になったお蔭で、入国審査の行列が短くなったのはいいけれども、バゲージクレームは時間がかかるのう。台湾からの観光客の皆さんは、スキーやスノボと思しき手荷物をいっぱい持っておられました。今年は雪が少ないようですが、ウインタースポーツを楽しんでくれるとよいですなあ。
○さて、明日はもう会社である。その前に文化放送である。しばらくはあちこちで台湾の話をしなければなりませぬ。
<1月14日>(火)
○台北で浅野和生先生と話していた時に急に思い出したのだが、以前、東京財団で「日台次世代対話」というとても面白い二国間会議があった。2006年に日本で、2007年に台湾で行ったのだが、普通の政治や外交の話ではなく、非常に幅広いテーマを日台で語り合った。「ローカルとグローバル」が統一テーマで、そのときは「町おこし」なんてことまで議論したのである。
○アジアはだいたいどこの国でも少子・高齢化、人口の都市部集中、地方の過疎化、なんていう問題を抱えている。台湾もご多分には漏れず、しかも「元気のいい若者は皆、大陸に渡ってしまう」という特殊事情が加わる。さらに十年くらい前の中国は、何しろ高度成長期であったから、それこそ誰でも簡単に成功できてしまった。これでは台湾の田舎は大変である。
○そんな中で、ある若者が、「地元名産のタピオカを使って町おこしをやる!」と宣言したのである。ワシは司会をやっていたのだが、内心では「こいつ、馬鹿なこと言ってるなあ」などと感じたものである。それがどうであろう。今や台湾のタピオカドリンクは日本を席巻してしまっている。あのときのあの若者、今頃は大金持ちになっているかもしれない。ううむ、我ながら不見識極まりない。
○実は日本と台湾、悩んでいるところは意外と近くて、ソリューションもそんなに違わないのだ、ということを不意に思い出した次第。いや、それだけであります。
<1月15日>(水)
○台湾政治で、もうひとつ書き忘れていたのは女性比率の高さであります。総統が女性というのもさることながら、立法院議員もすごい比率で女性なのです。
●2020年中華民国立法委員選挙席次分布
性別 | 区域席次 (比率) |
原住民席次 (比率) |
不分区席次 (比率) |
性別総席次 (比率) |
男 | 48 (65.75%) |
3 (50.00%) |
15 (44.12%) |
66 (58.41%) |
女 | 25 (34.25%) |
3 (50.00%) |
19 (55.88%) |
47 (41.59%) |
総席次 | 73 | 6 | 34 | 113 |
○前回の2016年選挙では、113人中43人が女性議員で全体では38%でした。それがとうとう47人に増えて、4割を越えました。これだけ女性比率が高い議会は、少なくともアジアでは皆無でありましょう。特に7人の常務委員が全員男性であるという中国共産党とはまるっきり違う。本当に同じ民族とは思われない。
○確か台湾では、比例代表(不分区席次)にはクォータ制があって女性が優遇されるのですが、小選挙区(区域席次)は何もなかったはず。その小選挙区で3分の1が女性なのですからご立派というほかはありません。いろんな意味で、台湾の民主主義はアジアの先頭を走っているのではないでしょうか。
<1月17日>(金)
○今年が始まってまだ半月しかたっていないのに、いろんなことが起きているし、仕事はいっぱいあるし、うーん、少々疲れたわい。
○本日は帝国ホテルにて、日本チェーンストア協会さんの新春講演会の講師を務める。いやあ、大勢来ておられましたなあ。そもそも今日はいろんな業界団体の新年会の集中日で、1人で何件も掛け持ちの方も多かった様子。政治家の先生方も大勢お見かけしましたな。
○チェーンストア協会というのはスーパーマーケットの業界団体である。スーパーに商品を納入するメーカーさんも賛助会員になっているので、とにかくオールジャパンの大企業が集まっている感あり。この業界が直面する問題は非常に幅広い。消費税の影響、キャッシュレス化、人手不足、食品廃棄物問題、海洋プラスチックなどなど。そしてまた、業界自体がレッドオーシャンとなっている。
○これがまことに不思議なもので、JRAの売り上げの推移を見ると、消費税増税の影響がみじんもない。2014年も2019年も普通に前年比増となっている。ギャンブルをする人は、消費税のことなど念頭にないのである。ところが必需品になると、途端に影響を受けてしまう。食費を削って馬券を買っている、みたいなことが起きているのだろうか。
○そういえばとっても久しぶりに、吉野家のCMが「やすい、うまい、はやい」と言っていた。また値下げ戦略ですか。ちょっとデフレ心理が高まってきているような気がします。
<1月18日>(土)
○いつもの東洋経済オンラインで、台湾出張報告を書いてみました。ここは「駄文」チックにまとめております。
●台湾人と中国人の考え方が天と地ほど違うワケ
○これで今週、台湾について書いた原稿は4本。
●産経新聞「正論」 総統選が示した民主主義の進化
●溜池通信 2020年版・台湾選挙ウォッチング
○あと1本は北日本新聞で、明日の紙面に登場します。これは台湾政治における女性進出をネタにしています。
○いや、真面目な話、4本ちゃんとネタが被らないようにしてあるんです。さすがにもう「出がらし」ですかな。久々に「台湾Love」がさく裂した1週間でありました。
<1月19日>(日)
○本日は東洋経済新報社の四季報セミナーへ。
○何とおひとり様5000円も頂戴するという強気な設定である。会場はお茶の水のソラシティ。ところが、そこへ250人もやってくるというから世の中は変わってきた。しかも株式セミナーと言えば、ちょっと前まではかな〜り高齢な方が多く、ジョークを言ってもちっとも笑ってもらえないという、講師にとってはかなりアウェイ感の強いものであった。ところが今日のお客さんは若い。女性もちゃんといる。さすがは人生100年時代。ちゃんと投資を学ぼうという人が増えているのではないかと実感したのであります。
○本日は以前にもご一緒したエミン・ユルマズさんと、その勤務先である「複眼経済塾」で上司に当たる渡部清二さんとご一緒。渡部さんの「『会社四季報』新春号で見つけた!『10倍株』候補」というプレゼンはまことに面白くて、「テンバガー」(10倍になる株)をどうやって見つけるか、というお話。あたしゃどっちかというと大型で配当が高い株を買っているのだけれど、成長株を狙ってみるのも悪くないなと考えさせられましたな。
○そしてエミンさんである。エミンさんはトルコ生まれで日本に帰化しているのだが、以前からちょっと気になっていたことがあって、尋ねてみた。「ユルマズ・ギュネイってトルコ人の映画監督が居ますよね(その昔、『路』(みち)という映画を見たことがある。名作です)。ユルマズというのは、トルコでは名字にも名前にもなるんですか?」
○これに対するエミンさんの答えは、―――ユルマズというのは日本語にすると、その名の通り「緩まズ」(ゆるまない)になる。良い意味なので、名前にも名字にも使われる―――とのことでした。なーるほど。納得であります。エミンさん、日本人の奥様の名前で帰化することもできたのだが、「ユルマズ」で通しておられるとのこと。
○エミンさん曰く、トルコ共和国大使館は原宿にあって、文字通り東郷神社の向かい側なんだそうです。だからトルコの外交官が日本に赴任すると、まずは東郷神社に参拝するのだそうです。さすがは親日国。というのはさておいて、エミンさんのような人が帰化してくれるということは、わが国もまだまだ捨てたものではないなと思います。
<1月20日>(月)
○本日、衆議院議員の長島昭久さんから聞いた話。
○今日の施政方針演説、おそらくわが国の歴史上初めて、国会における総理の言葉に「台湾」という言葉が入った。それは「復興五輪」に関する以下の部分でした。
九年前、ファーディーさんは、ラグビーチームの一員として、釜石で、東日本大震災を経験しました。
「ここで帰ったら後悔する」
オーストラリア大使館から避難勧告を受け、家族から帰国を勧められても、ファーディーさんは、釜石に残り、救援物資の運搬、お年寄りや病人の搬送。困難に直面する被災者への支援を続けました。
その感謝の気持ちと共に、本年、釜石は、オリンピック・パラリンピックに際し、オーストラリアのホストタウンとなります。岩手県野田村は台湾、福島県二本松市はクウェートなど、二十九の被災自治体が、支援を寄せてくれた人々との交流を深めます。
心温まる支援のおかげで力強く復興しつつある被災地の姿を、その目で見て、そして、実感していただきたい。まさに「復興五輪」であります。
東日本大震災では、百六十三の国と地域から支援が寄せられました。我々が困難の時にあって、温かい支援の手を差し伸べてくれた世界の方々に、改めて、今、この場から、皆さんと共に、感謝の気持ちを表したいと思います。
○文面から行くと、「台湾」は単に例示のひとつとして挙げられたにすぎません。しかし本会議に出ていた長島議員によれば、安倍首相は「台湾」といったところで一呼吸入れ、少なからぬ議員がそこで拍手喝采したそうであります。まさしく「以心伝心」であります。
○2011年の東日本大震災に際し、250億円もの義捐金を寄せてくれた台湾。そりゃあ、お礼を言いたいですわなあ。そこを中国の手前、遠慮しなきゃいけないなどという無粋な人が居たりするわけでありますが、そういう人こそ恥じていただきたいと思うものであります。だって「ひとつの中国原則」なんて、少なくともこの件に関しては何の意味もないのですから。
<1月21日>(火)
○本日は東洋経済新報社に出かけて写真撮影。「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」用であります。昨年9月に亡くなったぐっちーさんの後継を、オバゼキ先生にお願いすることとなり、あらためて山崎元さんと3人で集結する。
○真面目な話、経済に対する洞察力といい、競馬に対する深い知識と思い入れといい、余人をもって代えがたいとはまさにこのことでありまして、小幡先生が本件を引き受けてくれた瞬間に、関係者一同がホッとしたというのが正直なところです。
○で、あらためて3人の連載陣(プラス編集F氏)が集結して、何の話で盛り上がるかというと、将棋のことなんですなあ。競馬ファンと将棋ファンは重なり合うものがある。それはすなわち、負けた時の悔しさであって、この2つの競技はきわめてデジタルな性質を有している。その辛さに耐えられる人、もしくはその辛さに喜びを見いだせてしまう人が、ずぶずぶにこの世界に入っていくのではないかと考えるものであります。
○ともあれ、新たなる3人の連載陣は杯を交わし、桃園の誓いを果たしたのでありました。来月になりますと、連載は再び3人体制となり、毎週土曜日には経済に関するなにがしかの論考と、その週末のレースに関する予想を提供することとなりまする。乞うご期待。引き続きのご愛読を伏してお願いするものであります。
<1月22日>(水)
○本日は双日林産資源部と双日建材合同の新春賀詞交歓会。毎年のようにお招きいただいていて、その年の内外情勢や経済の予測を語る仕事をいただいている。まことにありがたい勉強の機会である。
○住宅建材の世界は、上手い具合に消費増税の影響は回避したものの、人口減少はいかんともしがたく、住宅着工件数は減っている。今年は85万〜89万戸という見方が支配的だそうだ。とはいえ、リフォーム需要はあるし、台風による再建需要もある。それから国産材の使用が増えているので、それに伴う業界の変容もある。
○なにしろ木材は「生き物」なので、気候変動の問題にも直結している。CO2が増えているという現象は、地球上の炭素がより多く気体になっている点に問題がある。これを液体ないしは固体にできれば、それだけ大気中のCO2は減って温暖化防止につながる。ゆえに木材を育てて家屋を作ることは、それだけ炭素を固定化することである。
○古くなった家屋は、解体してバイオマス燃料とすることができる。そこから電力などのエネルギーを取り出すことができる。日本という国は森林資源がまことに豊富である。これを上手に使わない手はない。ただし、最近になってやっと本気になり始めたところに過ぎない。
○住宅建材は、全国にいろんな会社がある業界でもあって、ローカル色が豊かである。他方では古い業界でもあるので、生産性向上に向けてまだまだやれることがありそうに見える。その辺が伸び代でしょうか。偉そうに聞こえたら恐縮であります。
<1月23日>(木)
○本日は互助会保証株式会社の新春講演会。冠婚葬祭のセレモニーホール業界も、結構、長いお付き合いとなっている。
○若者の数が減っているので、結婚の数自体が減っている。さらには「結婚式はしない」というカップルも増えている。ということで、「冠婚」は苦しい。他方では高齢者が増えているので、「葬祭」の需要は長期的に右肩上がりである。ところがその中で「家族葬」の比率が増えているので、これはこれで業界としては悩ましいことである。
○団塊世代がほぼ完全に70代に突入したことで、彼らは新しい「葬祭」スタイルを模索している。樹木葬や散骨といった新しいお墓の形が増えている。先日聞いた話だが、「夫の家族の墓には入りたくない」女性が少なくないらしい。それで散骨してほしいのだが、首都圏近辺の海じゃ嫌なので、沖縄の綺麗な海でやってくれるというサービスがあるのだそうだ。それもお値段が××万円!と聞いて目の色が変わった人が居たとか、居なかったとか。
○冠婚葬祭というのは、つまるところ「地縁や血縁のきずな」を維持するためにやっているようなものであろう。ところが現代人は、「孤独」という自由を覚えつつある。なにしろスマホさえあれば、孤独を感じなくて済むからね。そういう意味では、「ぼっち飯」を描いた『孤独のグルメ』というのはすぐれて現代的なドラマだと思う。いつ、何を、どれだけ食うか、自分で決められる井之頭五郎は、なんて幸福に見えることでありましょう。
○やっぱりビジネスというものは、人口動態だけでは決まらないのです。人間関係も変化している。この先の社会はどんなふうに変わっていくのでしょうか。
<1月24日>(金)
○今日は中国銀行/岡山経済研究所主催の新春講演会で福山市へ。と言っても、今年は既に広島銀行/ひろぎん経済研究所さんの講演会で尾道に来ているので、2度目という感じもある。
○福山駅は、新幹線で言うと広島駅よりも岡山駅に近い。元は備後国であるから、安芸国よりも備中や備前の方が歴史的には近いのかもしれない。ここから海に面した鞆浦港は、かつては瀬戸内海の潮街の要所として知られ、歴史上に何度も登場している。足利尊氏はここで打倒・後醍醐天皇に向けて九州から反攻し、足利義昭がここで打倒・織田信長を謀ったために、「足利氏は鞆で起こり鞆で滅んだ」というらしい。
○現在の福山市には一部上場企業が20社くらいある、と言うから大変な産業集積地帯である。JFEや常石造船、それから福山通運なんかはすぐに思いつくが、洋服の青山こと青山商事や、ワークウェアの自重堂は当地に本社がある、と聞くと驚きますわな。企業家が多く登場する土地柄なのでしょう。
○中国・四国で瀬戸内海に面した地域は、製造業を中心に企業が多いので、年の初めの経済講演会にはお客さんがよく来てくれる。ありがたいことである。ついでに言えば、観客の反応も良い。ここで受ける話は、他所でもいける。ということで、年初にこの辺りで講演の機会をいただくのは貴重な機会なのである。
○中国銀行さんの講演会はこれが6回目。岡山、倉敷、笠岡、津山、高松、それに福山である。これでコンプリートだな、と思っていたら、「いえいえ、熊野英生さんは2周されてます」と言われてしまう。いや、もちろん喜んで参りますとも。エコノミストたるもの、年の初めは瀬戸内海を攻めなければなりません。
<1月26日>(日)
○キネマ旬報シアター柏にて『アイリッシュマン』(マーティン・スコセッシ監督)。いやあ、いいですなあ。210分もある長尺の映画ですが、こーゆーのを見たかったんです。
○何しろ舞台は1970年代。そしてロバート・デニーロが初めてアル・パチーノと共演し、これにジョー・ペシが絡むという豪華メンバー。今の若い人たち、昔の世の中はこんなに野蛮で、ハチャメチャで、そして魅力的だったんだよ〜と申し上げたくなる。こういう映画、案の定、普通の映画会社ではダメで、ネットフリックスの力を借りて初めて実現したらしい。つくづくディズニー映画なんかで感動してちゃダメですよ〜。
(後記:デニーロとパチーノは1995年の『ヒート』で共演しているらしい。見てませんがな!)
○こんな昔風のギャング映画が面白いのならば、日本も思いきりおカネをかけたチャンバラ映画を撮ったらどうだろう。暇を持て余しているご老体の俳優がいっぱいいるだろうに。山崎勉や田中邦衛を引っ張り出して本気にさせたら、見たい人がいっぱいいる映画ができると思うぞ。あるいは1970年代を舞台にした政治ドラマで、田中角栄を主人公にするというのはどうか。もっともその場合、真紀子さんの了解を得るのが難しいのかもしれんが。
○ということで、久々に映画に嵌った休日であった。しかしデニーロがアイリッシュだというのは、さすがに無理ではなかったか。まあ、JFKが出てくるからそれで良しとするか。
○え?武漢のコロナウイルスはスルーですかって? そんなもん、個人レベルとしては充分に怖いけれども、ウイルスに人類を滅ぼす力はありません。世界経済を破壊する力もありません。2014年のエボラ熱も怖かったけど、今じゃみんな忘れているでしょ? 大騒ぎしちゃいかんです。 なるべく人混みに出ないようにして、後は手洗いとうがいをするくらいですな。
<1月27日>(月)
○アメリカで弾劾裁判が始まってまだ1週間。でも来週2月3日にはアイオワ州党員集会なのである。この間、上院議員は席に就いていなきゃいけないので、サンダースやウォーレンは選挙運動ができないのです。それどころか、大統領を罷免するかもしれない裁判の期間中は、スマホもiPadもコーヒーも禁止。私語もまかりならんというのだから、長時間の審議は大変だ。でも、なぜかApple
Watchは携帯を許可されるらしい。いいのか、そんなことで。
○弾劾裁判の時に、大統領はその場に居なくていい、というのも何だか変な気がするが、この間にトランプさんは先週ダボスに行ったかと思ったら、帰ってきたらなぜかツィッタ―三昧である。かなりご不満が募っておられる様子。先日から証人になりたがっていたジョン・ボルトン前国家安全保障補佐官が本を書いていて、その中には「ウクライナのバイデン親子調査がなければ、援助はやらないぞ!」とトランプさんが言ったというくだりがあるらしい。これで「上院に証人を呼ぶか呼ばないか」の関心が急上昇している。
○証人を呼ぶか呼ばないかは上院の単独過半数なので、共和党議員53人のうち誰と誰とが賛成に回るかが喧しい。願いあげましては、ミット・ロムニー(ユタ州選出)は確信犯。リサ・マコウスキー(アラスカ州選出)も怖いものなしの状態。スーザン・コリンズ(メイン州)は次の選挙が危ないので、これまた賛成に回りそうである。となると、後は今期で引退が決まっているラマー・アレクザンダー(テネシー州選出)当たりが「真実の声」を上げるのではないか、などと。
○まあ、この手のややこしい話は、来週のアイオワ州党員集会で誰か目覚ましい候補者が勝ったりすると、一気にどうでもよくなってしまうかもしれない。予備選挙プロセスは、得てして始まった瞬間に空気が変わりますから。事前の世論調査を見ると、ここへ来てバーニー・サンダースに勢いがあるという。うーむ、民主党支持者は「大統領に選出されたその年の9月に80歳に到達する人」を、大統領候補に選んでしまうのだろうか。
○アイオワ州党員集会は毎回、癖のある結果が出るので、迂闊に予想をしないようにしているのだが、1週間先にはかなり意外な結果が出るような気がしている。例えばエイミー・クロブチャー上院議員(ミネソタ州選出)の上位躍進という結果も十分にある売るのではないかと。3位以内に入ると、一気に雰囲気が変わりますからね。
○逆に言えば、アイオワ州の「足切り」には定評がある。意外な候補者がここで失速する。4着以下になると苦しいですな。その辺も大いに見所なわけです。誰がご臨終になるのか。過去にもいろんな例がありましたからなあ。
○ところがその日の前には、2月2日のスーパーボウルがある。全米の眼がマイアミ会場でのアメフト決勝戦に注ぎ込まれる瞬間である。視聴率はべらぼうに高いので、60秒CMが1000万ドルもしたりする。トランプ陣営はここに大統領選CMをぶち込むと言っていて、民主党側ではさらに大金持ちのブルームバーグ候補が反トランプCMに巨費を投入すると囁かれている。スポーツの世界にも、政治の分極化が影を落としている。
○もう、きみたち、好きなだけやってなさい。と言いたくなるワシを誰が責められよう。今週から来週にかけて、米大統領選挙は面白いです。
<1月29日>(水)
○てなことで、今朝のモーサテでは来週から始まる「米大統領選挙 序盤戦の展望」についてお話ししました。今週までは世論調査の数字ばかりが横行していますが、これが来週以降は「アイオワ州で×位だった××候補」という呼び方になります。すなわち、明確な序列ができます。こうなると、いっぺんで景色が変わって見えるのですよね。この辺が面白いところです。
○もう一人のゲストは和キャピタルの村松さん。「5Gへの過剰な期待」という話をされていて興味深く感じました。「ガートナーのハイプサイクル」における「幻滅期」が近いのではないかとのこと。なるほど、新しい技術が浸透するときは、かならず反動があるものですから、5Gもそれがあって不思議はない。そもそも6Gの話が今から出てくるという点が変である。
○昨晩は飲み会もあったので、本日はちょっと寝不足気味です。ということで、早めに帰ってきました。新型コロナウイルスにはうがいに手洗い、そして睡眠と栄養であります。今日は早めに寝よう。
<1月30日>(木)
○昨日は将棋のA級順位戦第8局が行われていました。いつも通り、ネットでチラチラと見ていたのですが、早めに寝てしまったので勝敗は今朝になってから知りましたが、なるほど、こうでしたか。
【東京・将棋会館】
●佐藤天彦九段 VS ○広瀬章人八段
●木村一基王位 VS ○羽生善治九段
○渡辺明三冠 VS ●糸谷哲郎八段
【関西将棋会館】
●佐藤康光九段 VS ○稲葉陽八段
○久保利明九段 VS ●三浦弘行九段
○渡辺明三冠、強いです。これで8勝0敗、2位の広瀬章人八段が5勝3敗ですから、なんと3ゲーム差。豊島名人への挑戦権は既に決定済みで、前期はB1クラスだったとは信じられません。将棋界の柏レイソルみたいな存在ですな。糸谷哲郎八段は、阪田流向かい飛車という古風な戦法でした。
○羽生善治九段が木村一基王位に勝ちを収めて、4勝4敗で残留が確定しました。もしもここで負けていると、この後、2月27日に控えている最終第9局、通称「将棋界のいちばん長い日」では、「あの羽生さんがA級を陥落するかもしれない!」という外野の関心を集めたことでしょう。この対局、木村王位が上座だったそうですから、ううむ、そんな時代が来ておるのでしょうか。
○いつも通り佐藤康光九段を応援していたのですが、中盤からのやや無理目の攻めが続かずに敗局。感想戦が終わったのが午前1時だそうですから、つくづく順位戦は厳しい戦いです。これで4勝4敗に羽生九段、佐藤九段、三浦九段、稲葉八段の4人が並び、全員が残留ということに。最終日には4勝4敗同士の羽生x佐藤戦が残っていて、どっちが勝っても順位が変わるだけ、という不思議な対局になります。これはこれで面白そうですな。
○久保利明九段対三浦弘行九段は、最後にどんでん返しがあって、大駒3枚をたて続けて捨てると即済み、という詰将棋のような手順が発見されました。久保九段、これで2勝6敗となってA級陥落に変わりはないのですが、滅多に見かけないような逆転劇でした。感想戦の終了は午前1時37分だとか。お疲れ様です。
○かくして2月27日に静岡市で同時に行われる最終局では、佐藤天彦九段、糸谷哲郎八段、木村一基王位の3人のうち誰か1人が陥落、という痺れるような展開となります。将棋の順位戦はつくづく面白い。世の中は日々いろんなことがありますけど、変わらずにこんなことをやっているスゴイ人たちがいる、ということに素朴に感動いたします。
<1月31日>(金)
○うーん、それにしても長いなが〜い1月であったぞい。いろいろあったわなあ。
○そういえば今月は台湾に行ったのであった。選挙のまとめとして、以下にリンクを貼っておこう。
●蔡英文・台湾総統の再選と今後の課題」(NHK/視点・論点)
2020年01月21日 (火) 東京大学 教授 松田 康博
●【地球コラム】「香港」だけではない「蔡英文圧勝」の裏側(時事通信)
2020年1月26日 東京外語大の小笠原欣幸准教授に聞く
○さて、来月は何が起きるのか。とりあえず明日はぼんやりしていよう。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki