<12月1日>(木)
〇おやおや、結局は「小泉劇場」と「想定外(内)」が2005年年間大賞ですか。まあ、少しは無難かな。
〇日本貿易会の貿易動向調査会、いよいよ大詰め。何とか今日で結論が出て、記者発表が12月5日(月)予定。
〇貿易がらみの議論をしていて、「へええええ」という話がありました。鳥インフルエンザの影響で、中国やタイからの鶏肉の輸入が止まっている。その分をブラジルから輸入しており、2005年9月時点で輸入シェア93%を占めるに至っている。おそらく今頃、ブラジルには「鶏肉御殿」が建っているのかも。
〇仮にですよ、ブラジルで鳥インフルエンザが発生したらどうなるでしょうか。鶏肉が食べられない、つーことになってしまうのです。焼き鳥やさんはどうするんでしょう。という話を聞いたら心配になったので、伊勢廣の焼き鳥丼を食べに行ってしまいました。美味かったです。
<12月2日>(金)
〇『諸君』の最新号にジョン・タシック(John J.
Tkacik Jr.)氏が登場している。日米台三極対話の常連なので、かんべえは昔から知っているのだが、なんだか急速に有名人になりつつあるようだ。米国務省の元中国担当研究官で、現在はヘリテージ財団の研究員。親台湾派のチャイナ・ウォッチャーとしては、以前から知る人ぞ知る存在である。
〇余談ながら、以前に物議を醸したクリス・ネルソンのレポートでは、タシック氏に対して"Neo
con-Hardliner"とか、"Militantly Pro-Taiwan"などといったコワモテの渾名を呈していた。先日台北で会った際に、「ネルソン・レポートに出てたよねえ」とからかったら、「“真面目なカトリック教徒”とも書いてあった」と意に介していないようであった。なかなか偉いのである。
〇ちなみにTkacikというめずらしい名前は、お父さんがチェコかどこかの生まれで、身一つでアメリカ大陸に渡ってきた際に、入国管理官がよく聞き取れずに適当に書いたのが苗字になってしまったらしい。たまに日本のメディアで「タクシック」などと表記しているのがあるけれども、最初のKは発音しないのが正しい。同じ名前は滅多に見かけないが、もしもWall
Street Journalの記者でこの苗字を見かけたら、それは彼のお嬢さんであるはずである。
〇さて、タシック氏、現在訪日中であって、先日から盛んに噂を聞くようになった。Y紙の記者から「タシック氏に取材するんですけど、彼のこと知ってます?」と聞かれたり、「外国人記者クラブで講演してるのを聞きました」とか、大活躍であるらしい。今日のお昼に岡崎研究所に来ると聞いたので、ランチに迎撃してみた。
〇今回の訪日は、草思社さんの招きによるものなのだそうだ。ちょうど『本当に「中国は一つ」なのか―アメリカの中国・台湾政策の転換』という本が出版されるので、そのプロモーションを兼ねている。同時に、日本の保守派論壇人と総当りで面談しているらしく、金美齢さんにも会ったという。今日も午後2時からは、中央公論の企画で岡崎久彦氏と対談の予定と聞いて、ついつい悪乗りして、「中央公論のM編集長は、体型がロビン・サコダと同じだ」などと余計なことを教えてしまう。(その後、M編集長が登場すると同時に、タシック氏は笑いが止まらなくなってしまった。われながら罪作りである)。
〇あんまり報道はされていないが、台湾では明日、統一地方選挙が行なわれる。これがダメだと、いよいよ陳水扁政権が危なくなる瀬戸際である。金美齢さんも、応援に出かけているらしい。果たしてどんな結果が出るのだろうか。
<12月3〜4日>(土〜日)
〇今年も日本政策学生会議(ISFJ)の季節がやってきました。分科会のゲストを務めるのはこれが3回目。2003年度は「国際関係分科会」、2004年度は「安全保障分科会」、そして今年は「国際貿易促進分科会」。われながらなんと節操がない・・・・。まあ、器用な人だという評価も可能でありましょうが。
〇ゲストの役割とは、学生さんたちが何ヶ月も準備した研究成果を、3分間でたたっ斬るという麗しい仕事である。もちろん、遠慮するようなことはいたしません。別にイチャモンをつけるためではなく、研究と議論を活性化させるのが目的ですから。つらいのは、最後に採点をしなければならないことで、それさえなければ自分が勉強になるし、楽しい仕事である。
〇4本の論文のうち、3本までがFTA関連でありましたな。日中韓でFTAをやりましょう、FTA促進のためには農業分野の開放が障害になるので、そこをどうするか、というのが今年の流行であったようです。農家に対する直接支払い制を提案しているのが目立ちました。かんべえは、「何のためのFTAか」という点をきっちり説明して欲しいと思うのですが、その辺は世間全般の傾向と同じでちょっと頼りない。一方で、「農業補助金を全廃せよ」などと言えてしまうところが学生の政策提言の良さだと思います。
〇個人的には、東アジア通貨バスケットを提唱した論文が面白かったですな。アジア統一通貨はいきなりは難しいだろうから、ユーロに学びつつアジア通貨単位(ACU)を考えてみましょう、という趣旨。最終的には「日本、韓国、台湾、シンガポール」の4通貨でACUを作りましょ、ということになる。トンデモ論が多いこの手の議論の中にあって、提案がちゃんと現実的な線に収まっていることもさることながら、「円の国際化」の敗者復活戦的な効果が期待できると思う。
〇短い時間でしたが、今年も楽しい経験をさせてもらいました。三田の慶應キャンパスは、この季節でもイチョウがずいぶん残っておりましたね。たまに大学の気分を味わうのはいいものです。
〇ところで岡崎研究所の中国ミッションについて、佐藤守さんが非常に詳細な記録をご自分のブログで公開しておられます。かんべえの記録ではあっさり済ませている日中対話の中身についても述べています。価値ある記録だと思いますので、ご関心のある方には併読をお勧めいたします。
●軍事評論家 佐藤守のブログ日記 http://d.hatena.ne.jp/satoumamoru/
<12月5日>(月)
〇本日、日本貿易会の「2006年度わが国貿易収支、経常収支見通し」を発表いたしました。やれやれ、どっこいせ、であります。
〇せっかくですから、当会の予測のポイントを下記しておきましょう。
1.
商品別貿易の見通し(通関ベース)
〇2005 年度−
輸出は堅調。資源価格高騰により輸入は2
年連続で2 ケタ台の伸び
輸出総額は65 兆9,860 億円で前年度比6.9%増。2005
年度上期はやや落ち込んだが、下期は中国やEU向けが回復し、輸出数量は2.2%増。素材価格高騰分の価格転嫁が進み、輸出価格は4.6%上昇。北米、アジア向けを中心に、一般機械、輸送用機器が好調。
輸入総額は58 兆240 億円で前年度比15.2%の大幅増。輸出数量は4.0%増。前年度に引き続き、国際商品市況の高騰により、輸入価格は10.8%の高い伸びを見込む。鉱物性燃料、化学製品、原料品などが2
年連続で2 ケタ台の伸び。
〇2006 年度−
輸出は増勢続く。輸入は国際商品市況低下を受けて伸びが鈍化
輸出総額は69 兆5,860 億円で前年度比5.5%増。世界経済が拡大基調で推移することを背景に、輸出数量は3.7%の伸び。輸出価格は1.7%上昇。世界的な設備投資の好調により、一般機械、電気機器の増加が続く。
輸入総額は59 兆4,960 億円で前年度比2.5%増。輸入数量は2.7%増。資源関係の価格上昇効果の剥落が始まり、輸入価格は0.2%下落に転じる。鉱物性燃料、原料品などの伸びがマイナスに転じる。
2. 経常収支の見通し(IMF ベース)
〇2005 年度−
所得収支黒字が貿易収支黒字を上回る
貿易収支黒字は輸入の大幅な伸びにより縮小。サービス収支は特許等使用料や三国間運賃の受け取り増加などにより赤字が縮小。所得収支黒字は円安効果も加わり、貿易収支黒字を上回る。経常収支黒字は17
兆5,150 億円で前年度比3.8%縮小。
〇2006 年度−
経常収支黒字が過去最高となり、初めて20
兆円台に
貿易収支黒字の大幅増と所得収支の堅調な伸びが重なり、経常収支黒字は前年度比14.6%増の20
兆770 億円で過去最高を更新。
〇上記に対し、かんべえなりに考える注目点は以下の3点です。
(1)2006年度になると、ざっくり言って輸出が70兆円、輸入が60兆円という規模になります。これってすごい数字です。90年代の日本の貿易額は、輸出が50兆円、輸入が40兆円前後というのが「相場」でした。それが両方とも20兆円も上積みされちゃうのですから、21世紀になってからの貿易の伸びのすごさが分かるというものです。
――てなことを書くと、「ああ、どうせ中国のお陰でしょ」みたいな声が聞こえてきそうなのですが、対中貿易は実額では輸出が8兆円、輸入が10兆円くらいですから、とても中国だけでこれだけの伸びを説明することはできません。結局、世界貿易が順調に伸びているということと、その中で日本企業が頑張っているということに尽きると思います。こういう点は、あんまり報道されることが少ないので強調しておきたいと思いますが、貿易の数字を拾ってみる限り、日本経済はとっても強いのであります。
(2)われわれの予測によれば、輸入は2004年度、05年度と2年連続で二ケタの伸びを示すことになります。これは資源価格の高騰を反映したものです。しかるに06年度はこの効果が剥落し、輸入の伸びが小幅なものに留まります。他方、輸出はそのまま伸びが続くと見られますので、貿易黒字は拡大に向かいます。この辺の予測は、各社が商社の現場に対してヒアリングを実施した結果を持ち寄って出てきた数値ですので、「国際商品市況の高値はそろそろ天井」という観測にはそれなりの説得力があるのではないかと思います。
――余計な心配ですが、この点が消費者物価に与える影響が気になります。来年にはCPIがマイナスからプラスになるぞ、という見通しのもとに、金融政策の変更が議論されているわけですが、2006年度の輸入価格は下落に向かう可能性があります。その辺の影響をきっちり見ておかないと、意外なところからデフレ圧力がやってくる恐れがあります。
(3)最後に、2006年度の経常黒字が20兆円に達するというのも、なかなかにショッキングなことではないかと思います。なにしろ名目GDPの4%ですからね。普通であれば、日本の貿易不均衡許すまじ、てな声が諸外国で上がっても不思議ではありません。ところが1980年代と違うのは、20兆円のうち約半分は日本の対外債権によってもたらされる所得収支であることです。つまり、「寝ててもお金が10兆円入ってくる」のです。なにせ外為特別会計が保有する米国債だけでも8000億ドル。5%の金利がついたとして年間400億ドル。それだけでも4兆円なわけです。なんて結構な話でありましょう。
――普通、これだけ債権国として成熟してしまうと、貿易収支は赤字になるものです。発展段階説からいくと、そうなるはずなのです。しかるに日本経済はなおも製造業が活発でありまして、自動車だけで10兆円も輸出してしまうのです。なんて非常識な!ともあれ、日本はこんな恵まれたマクロ環境にある国なのですから、財政赤字なんてそんなに心配しなくてもいいんじゃないか、てな気さえします。
〇上記のような説明を読まれて、意外な感じを持たれたとしたら、この調査に携わった多くの担当者の苦労が報われるというものであります。でもねえ、貿易に関する話は、あんまり記事にならないんですよねえ。当HP愛読者の方々には、ぜひ、この調査結果を活用願いたいと思います。
<12月6日>(火)
〇今宵は年末恒例のエコノミスト懇親会。さまざまな会話が乱れ飛んでおりましたが、誰が言っていたかはナイショですよ。
「今年のアンケートの答えは、日経平均が1万5000円で為替が120円ですか。ちゃんと当ててる人がいるもんですねえ」
「私も株高円安を言ってましたから、120円は驚きませんけれども、1万5000円はビックリですね」
「そりゃ、そうでしょう。『株価が1万5000円で為替が120円』なんて予想をした人がいたとしたら、そんなのエコノミスト失格ですよ」
「それにしても、クロークに長い行列ができていましたな。手際が悪くて見ていられない」
「おそらく気の利いた社員は、みんな最近開業した外資系のホテルに引き抜かれちゃったんでしょう」
「老舗はつらいねえ。大丈夫かな、ホテル〇ー〇〇」。
「ところで来年の読みはどうですか」
「やっぱり強いんじゃないですか? 悲観派はほとんど総討ち死にですし」
「武者さんも嶋中先生も強気に転じましたなあ」
「あそこに水野和夫さんがいらっしゃいますけど」
「しっ、水野さんに論争を吹っかけてはいけません。もっと長期的な視点でモノを見なければ」
「そういえば、今年は竹中さんがいらっしゃいませんね」
「あの人はもうすっかり政治家になってしまいましたね」
「田原総一朗さんが言ってましたよ。昔は人の話を聞いてから反論していたけど、今じゃ最初から相手を罵倒するって」
〇いろんな方と談笑しておりましたら、あっと驚いた、坂本正弘先生がいるではないか。先生、こんなところでお酒飲んでちゃダメです。今頃、東京財団では、若手安保研究会の中心メンバーが、田代秀敏先生を囲んで中国研究をやってますよ。なんちゃって、私もさぼってここに居るんですけどね。後でちゃんと顔出しましょうよ。って、言ってるうちに、先生はニコニコ笑いながら人ごみの中に消えていってしまった。しょうがねえ、あとで魯迅の評論でも研究するか。
〇2005年は天秤座生まれがラッキーな年だったんだそうで。ということは、かんべえも多少はツイていたのかな。うん、きっとそうだ。今日だって、『1985年』を読みましたって、いろんな人に言ってもらったもの。そして去年の今頃は、自分がそんな本を書くなんて、思ってもみなかったんだもの。
<12月7日>(水)
〇日経MJが、2005年ヒット商品番付を発表しました。一人横綱で「iPod」、大関に「株式ネット取引口座」、関脇に「お手ごろ液晶テレビ」と「大容量HDDレコーダー」など、あいかわらずIT関連商品が多いです。でも、かんべえは何一つ持っておらんとです。身の回りに関係があったものといえば、「クールビズ」(大関)と「愛知万博」(関脇)、それに「ディープインパクト」(関脇)くらいですか。
〇ところで、今年の暮れの有馬記念は、入場券が必要であるらしい。かんべえは、2001年から毎年連続して中山競馬場で有馬を見ているけれども、そんなの初めてである。ディープインパクトをこの目で見たいというファンが大勢居ると見える。困ったものである。
〇さて、今日の日経MJで面白かったのは、2006年トレンドカレンダーですな。これを見ると、2006年にはこんなものが流行りそうである。
●スポーツイベント:トリノ五輪(2月10〜26日) サッカーW杯ドイツ大会(6月9日〜7月9日)
●新ゲーム機対決:「Xbox360」(05年12月10日)、「プレイステーション3」(3月)、任天堂の次世代ゲーム機「レボリューション」(年内)
●大型商業施設の開業:表参道ヒルズ(2月11日)、大洗リゾートアウトレット(3月)、IKEA船橋(4月24日)、豊洲プロジェクト(秋)、ららぽーと柏の葉(11月)
●Windowsの新OS「Vista」。あの「XP」から5年ぶりになる。
●トヨタ、レクサス「LS」を投入(夏頃)。
〇個人的に気になるのは、11月1日から「ナンバーポータビリティ制度」が導入されること。携帯会社を変えても同じ番号を使えるようになるというアレだ。これでやっとドコモとおさらばできる。待っている人はほかにも多いと思いますぞ。
<12月8日>(木)
〇日経平均が300円安とか。誤発注があったとか、変なニュースもありますな。まあ、上げ方が急でしたし、ホントにバブルっぽくなってきたところで、良いお湿りではないでしょうか。
〇考えてみれば、来年には金利も上昇しそうだし、久々に労働コストも上昇するだろうし、企業収益ということでいえば、2005年よりも良くなるということは考えにくいのですね。だいたい経常利益で1000億円を超える会社が、そんなにたくさん出ること自体が普通じゃありません。となれば、株式市場も「さあ、次は2万円だ」てなことにはならないと思います。
〇察するに、11月中に「政府が日銀を寄り切ってでも金利を上げさせないらしい」という観測が急浮上した。これで市場の見方が変わり、「だったら日本株はまだ買える」「円は売りだ」ということになったのではないか。「株高で円安」という現象は、一見いいことのように見えますけれども、日本経済の正常化という観点からいえば、逆に不健全なことが起きているともいえる。
〇日本経済が本当の意味で「平常への回帰」を果たすためには、財政再建と金利の正常化という2つの課題が残されています。両方とも同時にやる(楽観主義者)はいささか欲張り。両方とも急ぐな(悲観主義者)というのは、やや現実離れしていると思う。となれば、「財政を急げ」という政治的リアリスト(竹中=中川連合軍)と、「金融こそ急ぐべき」とする経済的リアリスト(福井総裁ほか)が二大勢力となる。
〇普通に考えれば、この戦いは前者が圧倒的に優勢だ。国民の支持もそっちが多数であろう。それでも、ここで金融の正常化を抑えて財政再建を急ぐというのは、まさしく80年代後半の図式に似てくる。そこにちょっと危ういものを感じる。先日のエコノミスト懇親会の席上でも、いろんな人の意見を聞いてみたのだけれども、「経済的リアリスト」の支持者は結構、いるような気がした。この議論、煮詰めてみたいですね。
<12月9日>(金)
〇今宵は先月の中国出張の反省会。というか、単なる岡崎研究所の忘年会であったような気もするのだが。
〇いろいろ思い出話をしてみると、参加者によってそれぞれ違うところに注目している。だから今頃になって、「あああ、あのときのアレはそういうことだったのか!」と分かったりする。とくに軍事関係者の発言のニュアンスなどは、かんべえはあまり理解できておらず、佐藤さんに指摘されて初めて気がついたりする。同じ景色を見ていても、見ている人によって受け止め方がまるで違うというところが面白い。
〇抗日記念館がリニューアルされていた件について、あれはやっぱり日本側へのシグナルなんだろう、という話になる。問題は日本側がどう反応するかであるが、なかなかに難しい。
「そうだ、こちらは遊就館の展示をリニューアルするというのはどうでしょう?」
「ダメダメ、あそこは一宗教法人が運営しているものだから、政府の思い通りには出来ないの」
「そもそも中国人が見に来てくれないと意味がないし」
〇明日は桜チャンネルで、日中対話に参加した人たちによる番組の収録あり。でも、かんべえは、明日一日は町内会の仕事があるので出られません。怖いんですよねー、町内会は。
<12月10〜11日>(土〜日)
〇以下は名前を言えば、誰でも知っている某大学教授が、あまり有名でなかった10年位前に某所で行なった講演の際に言っていた話です。
〇アメリカ生活に慣れた某教授は、日本で輸入住宅を建ててやろうと考えた。そこで設計図と材料を日本に輸入して、建設を業者に委託した。画期的な家が建つだろうと楽しみにしていたけれども、実際に建ったのはとんだ欠陥住宅であった。怒った某教授は、建築業者を訴えてやろうと、日本の建築関連の法律を読み漁った。
〇ところが愕然。日本の法律は中小の業者を守ることを第一に考えているので、こういう場合、消費者は泣き寝入りするしかないのであった。これが大手の業者であれば、自社の評判にもかかわることなので、法律はさておいて何とかしてくれる。ところが聞いたことのない建築業者の場合、知らん振りしてしまえば法的な追及を受けることがないのだそうだ。まあ、よくある話ですね。
〇では行政が何とかすべきなのか。某教授の考えはちょっと違っていて、供給側である建築業者と、需要側である消費者の中間に立って、建築物の良し悪しを判定してくれる存在がないのが問題である。それは何も「官」である必要はなくて、「官=公」ではない。「民」だっていいのである、というのがそのときの講演内容でありました。
〇耐震強度偽装事件について聞いたときに、真っ先にこの話を思い出しました。今回の場合、マンションの良し悪しを判定する業者も、役に立たなかったようですね。それでも「公は官である必要はない」という議論は有効であると思いますが。
〇ちなみにこの大学教授とは、その後、小泉改革の熱心なサポーターとなり、現在は政治家にもなってしまったあの人のことです。誰かこの件をどう思っているか、聞いてみられてはどうでしょうかね。
<12月12日>(月)
〇来年の予想を立てなければならない。とりあえずは国内政治から、ということで、近頃ご無沙汰の角谷浩一氏とランチ。場所はもちろん、キャピタル東急ホテルのオリガミ。席に着くなり、どこぞの妙齢の女性が角ちゃんに丁寧に挨拶していく。「誰?」と聞いたら、「XXXX氏の姉君」とのこと。(XXXX氏は先の選挙における某お騒がせ政治家) とまあ、お昼のオリガミには、この手の方々があっちにもこっちにも居るのであります。生臭い話をするのには、こんないい場所はありません。
〇ポスト小泉がどうなるかの話よりも、こっちが面白かったですな。この夏、「私の戦後60年 日本共産党議長の証言」という本が出版されている。あの不破哲三氏のメモワールなのだが、インタビュアーが角ちゃんだというから驚きだ。出版元が新潮社だというところがさらにまたビックリで、だいたいアナタ、新潮社と言えば、『1985年』の担当・横手氏が「わが社の拠って立つ理念は封建主義です」と言明しちゃうような出版社である。それが共産党の本を出すのだから、強烈な組み合わせである。まあ、創価学会を敵に回していることでは、両者は一致するわけですが。
〇かんべえも新潮社から本を2冊出しているので、多少はあの会社のことを知っている。新潮社の校閲の厳しさは、他の出版社とは一味違う。いやもうホント、『アメリカの論理』も『1985年』も、あらゆるポイントを容赦なくチェックされました。名前の通り「慎重」な会社なのである。その新潮社が、あの日本共産党の、あの記憶力抜群を誇る不破議長のメモワールに、遠慮なく校閲を入れた。さぞや強烈な攻防であったことでしょう。
〇政治家のメモワールといえば、政策大学院大学の「オーラル・ヒストリー」シリーズが有名ですが、さすがに共産党議長はターゲットにならないようです。不破さんはもう75歳だそうですから、この手の本を出されるのは意味のあることでしょう。あの世代は日本のエリート教育がきちんと残っているので、団塊の世代以降の日本人とはちょっとレベルが違うところがある。まだ読んでませんけれども、おそらく勉強になることが多いだろうと思います。
〇夕方、日本貿易会にて、来年の経済を読むという新年座談会の司会を務める。いつもしょっちゅう顔を合わせている商社系エコノミストの集まりなので、何の準備もせずに出かける。それでも、編集部が準備したテーマをまんべんなく巡回して、きっちり2時間で話が完結。住宅バブル、レガシーコスト(米国経済)、人民元、インドの発展パターン(BRICS)、金利差、オイルマネー(金融)、世界同時好況、WTO/FTA(世界貿易)、ダム論、雇用と個人消費(日本経済)、てなところが2006年を読む際のキーワードでしょうかね。
〇こんな風に、かねて知ってる人たちと意見交換をしながら、2006年のイメージを作っていく作業を続けています。この季節には恒例の仕事なわけですね、これが。
<12月13日>(火)
〇昨日に引き続き、忘年会でいろいろネタを仕込む。今宵は夕刊フジ書評陣の会合で、マスコミ業界裏話が続出。ほとんど噂の真相忘年会と化す。以下、本日のネタの一部をご紹介。
〇明日はいよいよアネハ建築士の証人喚問だ。テレビ局にとってはオイシイ報道である。マンション耐震強度偽装事件は、視聴率が取れるニュースであるらしい。それだけ「マンションを買うぞ」と思っている視聴者が多いからであろうと。
〇逆に視聴率が取れないのが、みずほ証券の誤発注であるとのこと。株をやっている人はまだまだ少数派であるし、話もややこしくて一般の人は理解できない。それにしても悪いのは、みずほ証券か、東証か、富士通か。システム投資をケチった東証が悪いのではないかと思うのだが、これも日本経済長期低迷の負の遺産ではないのかと。
〇相次ぐ小学生の殺人事件は、これぞ国民的な関心事となっている。性犯罪者を取り締まる米国のメーガン法は、なかなかにえげつない内容ではあるものの、先進諸国では常識になりつつある。この際、「小学生の子供を持つ超党派の女性議員」が、日本版メーガン法を提出したならば、大いに支持が集まるのではないか。
〇学習塾が殺人事件の場になったということで、あらためて存在がクローズアップされている。子供向けの学習塾は、参入障壁が低い優秀なビジネスモデルである。@許認可が要らない、A初期投資はせいぜい大家さんへの敷金程度。B小さく生んで、大きく育てることが可能。C現金先取りの商売なので、キャッシュフローが潤沢。少なくとも「黒字倒産」の心配がない。D仮に商売を畳むとしても、巨額の借金が残るわけではない。なーるほど。
〇米国産牛肉の輸入解禁で、吉野家に注目集まる。とはいえ最近の吉野家は、メニューが豊富になったせいか、カップルで入り浸る客が増えていて嘆かわしい。以前であれば、孤独なサラリーマンがコソコソと入ったものであるが、吉野家はもっと殺伐としていて欲しい。ヨシギューで仲良く晩飯を食っている、いかにもフリーター同士のようなカップルは、小一時間問い詰めたい。
〇などと、あーだこーだと言っているのは、マスコミ界でいう「M2」(35歳から50歳の男性、すなわちオヤジたち)ばかりある。消費性向が極めて低いので、スポンサーから見ればほとんど存在しないに等しい存在である。恥ずかしながら、ヒット商品番付横綱のi-Podだって持ってないぞ。と、適度に僻んで夜が更ける。
<12月14日>(水)
〇FRBの利上げ、日銀短観の発表、東アジアサミット、そして姉歯建築士の証人喚問と、ニュースの多い一日であります。でも、特段のサプライズはなかったような。短観はあんなものでしょう。むしろ月末に発表される鉱工業生産に注目したいですな。
〇今宵も忘年会。この季節になると、「昔の上司を囲む会」がある。古い集まりなので、新しいメンバーが増えない会である。参加者は少しずつ減ってきて、今年は11人になった。「そもそもこの会はいつから始まったんですか」と聞いてみるが、誰も正確なことを思い出せない。10年以上前から続いていることだけは間違いがない。そして参加者は久しぶりに顔を合わせて、変わったなあ、とか変わってないなあ、などとお互いに言い合うのである。
〇それでも、変わってないはずがないのであって、全員ちゃんと1つずつ年をとっている。その結果、健康をめぐる話題が増える。結構、シャレにならない病気の話もある。さる人に関する噂話。お嬢さんがお産で入院している某大学病院に行こうと思い、タクシーを呼んで「XX病院まで」と告げた。そして病院に向かう途中、タクシーの後部座席で脳梗塞になってしまった。病院に着いたら、いきなり入院である。まるで自分で救急車を呼んだようなもので、なんとラッキーな人でありましょうか。
〇そして今年も、同じ場所、同じコース料理、だいたい似たような顔ぶれといつもと同じような話題で忘年会終わる。かんべえ、ある時期から幹事になってしまい、新しいメンバーが増えない会につき、このまま永遠に幹事が続くのであろう。どうか来年も無事にこの会ができますように。あ、そういえば今日は写真を撮るのを忘れてたなあ。
<12月15日>(木)
〇今日は日経新聞の後藤康浩氏の講演を聞いてきました。中国経済はすでに変調を来たしている、という観測でした。アメリカからの対中投資は、2002年をピークに3年連続でマイナスの見通し。人手不足、電力不足に貿易摩擦に感染症まで、中国特有のリスクが累積しているので、そうなったとしても違和感はない。
〇後藤さんはモノ作りの現場をよく取材しているので、説得力のある話が多かった。たとえば中国に進出している某複写機メーカーでは、「付加価値の70%は日本にあり」という。重要な部品はほとんど日本国内で作っており、中国の工場で行なうのは手間のかかる労働集約型の工程のみ。たとえば仕向け地向けに地元言語で説明をつけるとか、電源の容量を変えるといったことだけやっているのだそうだ。
〇おそらく似たようなことを、ほとんどの外資企業がやっているのだろう。中国の輸出は急増しているのに、貿易黒字はそれほど増えていない。そもそも輸出に占める外資企業の比率は6割近くになるが、企業内取引をするときには、誰もが同じことを考える。つまり、「中国向けの部品はなるべく高く、中国からの製品はなるべく安く」。つまり利益は1円でも多く本国に持ち帰りたい。当たり前ですよね。おそらく、中国の企業が上げている利幅はかなり薄いということになる。
〇このまま外資主導で発展を目指していては、いつまでたっても中国に付加価値の高い産業が育たないということになる。中国政府は、「新たな工場を作る際には研究開発センターも作るように」といった指導を行なっているらしい。そんなのWTO違反に決まっているけれども、そこは上に政策あれば下に対策ありの国であるから、現地向けの応用開発などをやらせてお茶を濁しているらしい。
〇こうしてみると、日本企業が中国でやっていることはかなりしたたかである。そういう話はあまり聞こえてこないものだが、もちろん「上手いことやってます」てな話は、当事者は大きな声では語らないものである。
<12月16日>(金)
〇産経新聞の新春政治座談会で司会を務めました。テーマは「ポスト小泉を語る」。4人の自民党政治家が、それぞれ「自分はXXさんを応援する」ことを明らかにした上で、2006年の内政や外政上の課題を語る。政策論もあれば、人情論もある。時期が時期だけに、面白い記事ができると思います。掲載は年明け5日頃になるでしょう。誰が出てたかはナイショ。とりあえず、ちと宣伝まで。
〇当たり前の話ですが、政治家は個性豊かな方が多いので、普通に話しているように見えても、語気が鋭かったり、眼力があったりして、間近にいるだけで圧倒されるようなところがあります。今日のかんべえは風邪気味だったので、誰かにうつしちゃったらどうしようというのが、ちょっとだけ心配。
<12月17〜18日>(土〜日)
〇長島昭久さんのブログを見ていると、前原代表の訪米から民主党大会に至る一連の出来事がよく分かります。
〇まず前原氏のCSISでの演説の内容はこのようなもの。ツッコミどころがないとはいいませんが、少なくとも中国に関する評価としては概ね妥当なものではないかと思います。
否定し難い事実として、中国が経済的にも軍事的にも一層力をつけてきている状況が出現し
ています。中国は経済発展を背景にして、20年近くも軍事費は毎年10%以上の伸び率を確
保し、軍事力の増強、近代化を進めています。実際には中国政府が公表している2倍から3倍
の軍事費が使われているのではないかとの指摘もあります。これは現実的脅威です。
(中略)
中国による領土及び海洋権益の侵犯の動きが見られます。他国の主権・海洋権益を無視し、
東シナ海におけるガス田の開発など既成事実を積み重ねて既得権益化する動きが見受けられ
るのです。原子力潜水艦の領海侵犯事案という事態さえ発生しています。このような行動には、
手をこまねかずに毅然とした対応をとることが重要です。
〇引っかかるとしたら、この2箇所くらいだと思いますが、どちらも事実ですからね。「訪中の前にこんな演説をしたから、胡錦濤主席に会えなかった」ことを批判する声もあるようですが、こうした内容は中国に行っても堂々と言うべきだと思います。仮に前原氏が先に訪中し、彼の前任者たちと同じような「御用聞き外交」をした後に、アメリカでこの演説をしていたらそれこそ最悪のケースで、日中関係はさらに悪化したでしょう。もちろん政治家たるもの、場所や相手によって言うべき内容をコロコロ変えてはなりません。
〇中国の側から見れば、ポスト小泉は誰がなっても対中政策が急に良くなるようなムードではない。仮に政権交代があったとしても、最大野党の代表がこれではしみじみ困った、と思っているでしょう。民主党だけのことを考えれば「失態」になるかもしれないけれども、オールジャパンの対中対応としてはこれが最善手だったと思います。
〇もうひとつ、小泉首相がやたらと前原代表に「ちょっかい」を出しているのが面白いと思います。「大連立の可能性」やら「小泉内閣の閣僚が務まる」といった発言が出てくるのは、こいつは菅さんや岡田さんとは違う、ちゃんと芽をつぶしておかなければ、と思っているからではないでしょうか。小泉首相にとっては若くて自分とキャラがかぶる前原氏は、気になる存在なのではないかと思います。
〇中国も困る、小泉さんも困るという前原代表は、民主党内部での評判がよろしからぬようです。彼を支持したはずの人たちまで、一緒になって足を引っ張ろうとしている。それこそ民主党が万年野党に安住するための王道なのですが、「分かっちゃいるけど止められない」のかなあ。
<12月19日>(月)
〇朝日ニュースター「頂上決戦」の収録。「2006年、日米中経済の行方はどうなる?」がテーマである。日本担当が湯元健治さん(日本総合研究所チーフエコノミスト)、中国担当が孫さん(新華ファイナンス マネージングディレクター)で、かんべえがアメリカ担当。あいかわらず風邪を引いてるんで、誰かにうつしちゃ悪いなあ、と思っていたら、キャスターの蟹瀬さんも風邪だそうで、ノドが苦しそうであった。この季節、空気の乾燥がつらいっす。まあ、日本海側の大雪に比べれば百倍マシですが。
〇来年の日本経済の予測をするときに、「まず米国と中国は?」となるのはここ数年の通例です。そして「米中が世界の牽引役だが、どちらもリスクがある。果たして大丈夫か?」みたいな言い方になる。得てして「恐怖の予言」をする人が現れて、そういうのが妙にウケたりするのだが、1年が終わってみれば、米国経済は3%台、中国経済は8〜9%の成長で「文句あるか」となる。そういうことの繰り返しである。米国経済の場合は、「双子の赤字でドル大暴落」などと言うのが大好きな人がいたものだが、今年はさすがに見かけなくなった。代わりに「住宅バブルが崩壊」などと言っている。また言ってらあ、どうぞお好きなように、というのが率直な感想。
〇ひとつだけ違うのは、従来は「日本も心配だが、米中はどうか」であったのが、今年の場合は「日本は大丈夫だろうが、米中はどうか」になったことだ。先週号で書いたとおり、かんべえは株価の先行きはそんなに楽観していない(上か下か、と聞かれれば、上と答えるが、2万円とかいうのは怪しいと思う)。それでも2006年の日本経済は、悪くても2.5%くらいの成長率はキープすると思う。ダウンサイドリスクは小さいと見る。
〇どうも2006年は、日米中3国ともに経済はそこそこ安定軌道で行くのかもしれないが、政治はそろって波乱含みという気がする。アメリカは中間選挙、中国は来年が党大会、そして日本はポスト小泉だ。日米関係、米中関係、日中関係と、どれをとっても一筋縄では行かないぞ。政治オタクとしては、そっちの方が楽しみという気もする。
〇この番組は1月1日(土曜)17時から放映の予定です。地上波がお正月番組を流している中で、誰が好きこのんで朝日ニュースターを見るのかという気もするが、最近のお正月番組のクオリティを考えると、「経済をテーマにした討論番組」の需要がまんざらないわけではないのかもしれない。てなわけで、よかったら見てやってください。
<12月20日>(火)
〇東京財団、若手安保研の忘年会。「2006年はどうなるか」を議論しているうちに、ポスト小泉の話になって、ふとこんなことを考えてしまったのであります。
@ | 本命 | ディープインパクト | 牡3 | 安倍晋三 | 良血。人気抜群。無敗、初挑戦で栄冠を手にするか。 |
A | 対抗 | ゼンノロブロイ | 牡5 | 麻生太郎 | 安定感に定評あり。今回も連にからみそう。 |
B | 穴馬 | タップダンスシチー | 牡8 | 福田康夫 | 終わったとの声もあるが、実績は侮れない。豪脚復活か。 |
C | 大穴 | リンカーン | 牡5 | 谷垣禎一 | 誰もが認める実力馬なるも、二番手の悲哀をかこつ。 |
D | 注意 | ハーツクライ | 牡4 | 中川(酒) | この秋急成長。香港帰りは伊達じゃない。 |
E | デルタブルース | 牡4 | 竹中平蔵 | 距離適正あり。伏兵にて格好の狙い目か。 | |
F | ヘヴンリーロマンス | 牝4 | 小池百合子 | 秋の天皇賞では牡馬を尻目に快走。 | |
G | コスモバルク | 牡4 | 前原誠司 | 地方競馬所属ながら天下を望む実力馬。 | |
H | スズカマンボ | 牡4 | 平沼赳夫 | 春まではプリンスでした。私を忘れないで。 |
かんべえ「それでは早速、政治評論家の皆さまにレースを占っていただきましょう。まずは自民党内部に詳しいさくらさんから」
さくら「小泉さんが好きなタイプは“ぶれない、群れない、品がいい”だと思うんですよ。そういう意味ではAーD、それにGもあわせて買ってみたいですね」
かんべえ「おっと、いきなり来ますねえ。Gコスモバルクは中央競馬所属ではありませんが、この際、大連立も辞さずと。まあ、騎手が課題でしょうかね。次、雪斎どの」
雪斎「XXXXX(オフレコ情報につき削除)XXXXX。 というわけで、自民党内には若手中心に@ディープインパクトを推す“ネオ自民党”と、ベテラン勢を中心にBタップダンスシチーを推す“自民党クラシック”に分かれつつあると思うのです。前者の勢いは誰もが認めるところですが、後者もけっして侮れませんぞ」
かんべえ「おお、ネオとクラシックとは分かりやすいですね。経済政策で言えば、ネオ自民党が財政支出削減最優先で、自民党クラシックが日銀の独立性重視と。ところで、Hスズカマンボに印をつけている経済官僚のFさん。これはどういう意味なんでしょうか」
F氏「もちろん、あくまでもリスクシナリオとしてですが、2006年の政局は皇室典範改正が大きな落とし穴だと思うんですね。これの扱いを誤ると、小泉さん以下、全員が総崩れになります。そうなると格好のタマが自民党の外に残っているわけです」
かんべえ「なんという深い読みでしょうか。私も急に有馬記念が荒れるような気がしてきました。ここで競馬評論家の上海馬券王先生の意見も聞いてみましょう」
上海馬券王「あのー、ここには私の心の友、サンライズペガサスがいないんですが」
かんべえ「ごめんなさい、忘れておりました。では杉村太蔵くんではいかがでしょう」
上海馬券王「それではサンライズペガサスが気の毒過ぎ。というか、出走できないと思うぞ、普通。――では、私の予想はちゃんと週末に送りますから」
かんべえ「お待ちしております。えー、こうしてみておりますと、競馬も政治も若手とベテランの衝突ということで、何があっても不思議のない年の瀬という感じですね。今週末の中山競馬場の結果を待ちたいと思います」
<12月21日>(水)
〇その昔、駿台予備校に通っていた頃に、現代国語の授業でこんなことを教わりました。「論説文は“しかし”の後を読め」。つまらんテクニックではありますが、実生活においても覚えておいて損はない法則です。
〇書き手は自分が言いたいことを伝えるために、敢えて正反対の意見を先に紹介することが多い。そして“しかし”を挟み、その後に自分の意見を述べる。だから論説文では、「Aという意見」→「しかし」→「Bという意見」という形がよく登場する。読み手としては、「Bという意見」を読み取らねばならない。だから大意をつかむためには、“しかし”で始まる段落をチェックせよ、ということになる。
〇12月18日のブッシュ演説を読んでいて、ふとそんな話を思い出しました。
http://www.whitehouse.gov/news/releases/2005/12/20051218-2.html
〇この演説で目立つのは、"Yet"の上手な使い方である。ブッシュ大統領の言いたいことは、ほとんどが"Yet"の前後に集約されている。冒頭部分ではこんな風である。
All who had a part in this achievement --
Iraqis, and Americans and our coalition partners -- can be proud.
Yet our work is not done.
There is more testing and sacrifice before us. I know many
Americans have questions about the cost and direction of this
war. So tonight I want to talk to you about how far we have come
in Iraq, and the path that lies ahead.
〇12月15日にイラクで国民議会選挙が行なわれ、その3日後に演説はセットされていた。ここでは「選挙はうまく行きましたよ。それでも、仕事はまだまだです」という。そして本題に入る。
It is true that Saddam Hussein had a
history of pursuing and using weapons of mass destruction. It is
true that he systematically concealed those programs, and blocked
the work of U.N. weapons inspectors. It is true that many nations
believed that Saddam had weapons of mass destruction. But much of
the intelligence turned out to be wrong. As your President, I am
responsible for the decision to go into Iraq. Yet it was right to remove Saddam Hussein
from power.
He was given an ultimatum -- and he made
his choice for war. And the result of that war was to rid a --
the world of a murderous dictator who menaced his people, invaded
his neighbors, and declared America to be his enemy. Saddam
Hussein, captured and jailed, is still the same raging tyrant --
only now without a throne. His power to harm a single man, woman,
or child is gone forever. And the world is better for it.
〇ブッシュ大統領は懺悔をする。いろいろ言われていることは承知しています。サダム・フセインに関する諜報は間違っておりました。大統領として、私はイラクと開戦したことに対して責任があります。それでもサダム・フセインを除去することは正しかった。なんとなれば・・・・とあのときの決断を正当化していきます。
〇今回の演説は結局、このひとことを言うためのものでした。そしてこれを認めてもらえさえすれば、次の課題である「アメリカはイラクでもっと我慢しなければならない」ことを説得できる。死者が2000人を越えたかどうか、といったことは重要ではないのです。戦っている目的が正当なものであれば、アメリカ国民はついて来るのである。そのためには、自分に対する反論に反論することが効果的である。
In all three aspects of our strategy --
security, democracy, and reconstruction -- we have learned from
our experiences, and fixed what has not worked. We will continue
to listen to honest criticism, and make every change that will
help us complete the mission. Yet there is a difference between honest
critics who recognize what is wrong, and defeatists who refuse to
see that anything is right.
Defeatism may have its partisan uses, but it is not justified by
the facts. For every scene of destruction in Iraq, there are more
scenes of rebuilding and hope. For every life lost, there are
countless more lives reclaimed. And for every terrorist working
to stop freedom in Iraq, there are many more Iraqis and Americans
working to defeat them. My fellow citizens: Not only can we win
the war in Iraq, we are winning the war in Iraq.
〇率直な批判に対しては耳を傾けます。任務遂行に役立つような変化は大歓迎です。それでも、率直な批判と敗北主義には違いがあります。敗北主義は党派的な言辞を弄するには結構でしょうが、事実とは違います。もちろん「敗北主義」といっているのは、「アメリカはどうせテロには勝てないんだ」という、左派にはありがちな物言いであります。
I also want to speak to those of you who
did not support my decision to send troops to Iraq: I have heard
your disagreement, and I know how deeply it is felt. Yet now there are only two options before
our country -- victory or defeat. And the need for
victory is larger than any president or political party, because
the security of our people is in the balance. I don't expect you
to support everything I do, but tonight I have a request: Do not
give in to despair, and do not give up on this fight for freedom.
〇イラク戦争という私の決断を支持しなかった方々にも申し上げたい。皆さんの反対意見は聞いています。それがいかに真剣なものであるかも。それでも今やこの国には2つの選択肢――勝利か敗北――しかないのであります。アメリカは勝たなければならない。それには党派的な対立は関係ないのである。
I know that some of my decisions have led
to terrible loss -- and not one of those decisions has been taken
lightly. I know this war is controversial -- yet being your President requires doing
what I believe is right and accepting the consequences.
And I have never been more certain that America's actions in Iraq
are essential to the security of our citizens, and will lay the
foundation of peace for our children and grandchildren.
〇この戦争が物議を醸していることは知っています。それでも私が皆さまの大統領であるからには、正しいと信じることをし、その結果を受け入れなければならないのであります。上手い言い方ですよね。今度、言いにくいことをいうときのために、覚えておきましょう。
〇ということで、約17分の演説中、5回だけ出てくる"Yet"の前後だけを紹介しましたが、ほぼ十分にブッシュ大統領の意を汲めたのではないかと思います。かんべえも最近はサボり気味で、ブッシュ演説を読むのは久しぶりでしたが、これは名作の部類に入ると思います。なるほど、この演説で支持率が上昇したというのも納得です。
〇どこか上手かというと、自分に対する反論を先に持ち出し、謙虚に耳を傾ける姿勢を強調しながら、なおかつその反論を巧みに貶めていくのですね。そうして自分の立場を強めていく。苦しい立場で論陣を張らねばならないときには、この手法は役に立つでしょう。
〇さらにいえば、タイミングの良さを指摘することが出来ます。11月頃から、民主党側のブッシュ批判がエスカレートして、たぶんに党派的な「オフサイド」発言が飛び出すようになっていた。ブッシュ陣営としてはめずらしく我慢をしていましたが、どうやら効果的な反撃をするタイミングを計っていたのでしょう。「敗北主義者」というレッテルを貼るのはこういうときの常套手段ですが、普通の国民が「あそこまで言うこともないのになあ・・・」と感じ始めたところでやるから、多くの共感が得られるという理屈です。
〇その昔、1960年代に山一証券が経営危機に陥ったとき、日銀氷川寮で行なわれた会合に、田中角栄大蔵大臣は遅れて到着した。会議は煮え切らない発言が続き、堂々巡りを繰り返していた。田中蔵相は沈黙を守っていたが、あるとき、無責任極まりない発言が飛び出した瞬間を逃さず、「君はそれでも都銀の頭取か!」と一喝した。それで会議の流れは定まり、山一に対する「無期限、無制限」の日銀特融が急速に固まっていく。要するに角さんは、どやしつけるタイミングをじっと待っていたわけで、発言を生かすも殺すもタイミング次第、ということですね。
〇ということで、12月18日の演説は技一本決まりで、ブッシュ政権がやや盛り返しました。2005年はブッシュにとって最悪の年でしたが、少し状況を改善して新しい年を迎えることが出来ます。それでも、かんべえは思うのでありますが、演説一本による人気回復効果は短いものに留まることでしょう。やはり2006年の米国政治は、大荒れの一年になるのではないか。中間選挙もありますしね。
<12月22日>(木)
〇選抜株式レースを主宰している伊藤道臣さんの呼びかけで、1年ぶりに「ロビンソンクラブ」が開催されました。この勉強会は1980年代に、「株で一儲けしたい」という人たちが集まったもので、実に20年の歴史をもつグループです。結成当初は全員が20代であったものが、今では皆さんいい年になってしまって、髪が白くなったり、遠視になったり、子供が近寄らなくなったり。たまたま集合したのが渋谷であったために、「若い人が多くて怖いよねえ」などと情けないことを言っている。かんべえも渋谷に行くのは1年半ぶりくらいだけど、なんなんでしょうね、この街は。
〇今宵のテーマは量的緩和問題で、日銀の苦節5年の道のりを回顧しつつ、さてこれからどうしましょ、という無責任な話。量的緩和自体が人類史上未曾有の経験であるからして、解除した瞬間に何が起こるかは分からない。「解除しないとバブルが来るぞ」と脅かす人がいて、「解除しちゃうとデフレに戻るぞ」と脅かす人がいて、そのどっちにもならない道というのはかなりのNarrow
Pathであるようだ。
〇景気が良くなっている、ということは、皆さんほとんど異論がない。今宵もおそらく六本木あたりではタクシーがつかまらなくなっているだろう。そういえば、今日の3時に会社の隣の部署からクリスマスケーキをもらってしまった。年の瀬の挨拶回りでもらったののお裾分けだが、こんなの初めてでっせ。百貨店では法人用の御歳暮が復活しているそうだが、そういう点ではバブルっぽくなっている。だからといってデフレがきれいに消えたとも思えない。変な話、デフレとバブルが共存しているような気がする昨今である。
〇とりあえず皆さんの話を総合すると、株の上値はそんなにないんだろうなあ、と思う。一つ考えられるのは、G7とFed議長の交代が行なわれる来年2月あたりが天井になる可能性。その辺で1割か2割下押しする、てなイメージでしょうか。なにせ「日本株には下げる要因が見当たらない」なーんて言説が飛び交うこの頃である。「忘年会をしていると、隣の席の人が株の話をしている」なんてことも何年ぶりかのこと。こんな風にして、歴史は繰り返すのでありましょう。
〇ふと浦島太郎の話を思い出した。教訓もなければ救済もない、なんとも妙なおとぎ話である。それでも長い歴史を生き残ってきたということは、それだけ多くの人の心をつかんできたからであろう。人生の終盤、仕事をリタイアした瞬間に、人は自分が竜宮城にいたことに気づく。バブルだデフレだ、滑った転んだ、泣いた笑ったと言っていた日々は、実は「タイやヒラメの舞い踊り」のような華麗な日々であったと思い知る。それは長い長い年月であるのだけれども、白いおひげのおじいさんになってみると、ほんの一瞬のように感じられる。きっとそんなことなんだろうな。
<12月23〜24日>(金〜土)
〇富山に来ております。一面の雪景色であります。うーん、北陸でも雪が積もるのは2月頃がピークであって、年内のうちにこんなに積もっているのは見たことがないですぞ。そういやワシが子供の頃も、ホワイト・クリスマスなんてなかったからなあ。
〇念のために言っておきますが、ワシは雪が見たくて富山に来ているわけではありませんぞ。というか、雪なんて、降らない方がずっとマシです。だいたい飛行機が下りられずに、除雪作業のために30分も富山湾上空を旋回するなんていう経験は、できればしない方がいい。さらにいえば、「金沢の雪が見たい」と言えば風流に聞こえますが、「富山の雪が見たい」はただの物好きになってしまいます。
〇これだけの豪雪といえば、過去に遡っても1986年か1963年くらいしかないはずである。地球温暖化という話はどうなったのでしょうか。なんだかんだいって、ワシは暖冬の方が好きだ。それにこの人(↓)も、その方が仕事がしやすいはずである。
●最新サンタ発見情報:http://www.noradsanta.org/jp/default.php
〇というわけで、富山から皆さまにメリークリスマス。関東地方は明日も好天で、きっと良馬場ですね。
<12月25日>(日)
〇えー、わざわざ午前中の便で羽田に戻り、そこから汐留のWinsに途中下車し、そこでしばし沈思黙考。狙い目は2年連続でデルタブルースなんですが、やっぱりディープインパクトが勝つのを見て年を越したい。ということで、両者を中心にあれこれ買ったのですが、自宅でテレビ観戦してみると、あにはからんやハーツクライの勝利でありました。ぐふっ。
〇先週、和喜で昼飯を食べながら親父さんと競馬談義をしていたら、別の客がこんなことを言ってたのです。「今年は”愛”がキーワードだから、名前にアイが入っている馬が来る」――「って、いないじゃないっすか」――「だからハーツクラ(ア)イですよ」。聞いてからしばらくの間は気になってたんだよなあ。でも、その後に、「なーんだ、Deep
Impactには"I"があるじゃねえか」と思って、忘れてしまったのであった。なんとも、ありがちな話である。
〇こんな風に、「その年を言い表すようなレース」になるのが有馬記念の魅力であります。無敗の三冠馬が年の瀬最後の勝負に敗れるというのも、2005年の記憶として残るのでありましょう。というと、何がしかの教訓めいたものをこの結果から読み取りたくなるのが人情というもの。磐石の強さに見えても死角があるとか、三冠馬といえども古馬をなめちゃいかんとか、まあ、そういったことです。かんべえとしては、取りあえず「勝負ごとに思い込みは禁物」という鉄則を再認識しておきたいと思います。ちょっと報道も過剰な感じでしたものね。
〇こんな風にして、2005年も残り1週間。来年はどんな年になるのでしょう。
<12月26日>(月)
〇今日は冷えましたねえ。って、週末を過ごした富山に比べれば可愛いものですけど。
〇昨日の最後に、「年内にもう一つくらいサプライズがあるんじゃないか」と書きかけたのですが、セブン&アイがミレニアムリテイリングと経営統合というのには驚きました。いい加減、M&Aには不感症になりつつあるとはいえ、セブンイレブン&イトーヨーカドー連合が、西武百貨店&そごうを買収しちゃうんですから。柏駅前を例にとれば、ないのは西武くらいではないかと。
〇果たして違う業態の流通(コンビニ、スーパー、百貨店)を経営統合して、シナジー効果というものはあるのでしょうか。意外とあるのかな、という気もする。業界が再編されると、少なくともマクロで見た場合の重複投資が減る。また、希少資源である「優れた経営者」を、有効に使うことにもつながる。もちろん顧客情報の交換とか、ブランドものの再配置とか、企業戦略上のメリットもあるわけですが。
〇かんべえの勤務先も含めて、いろんな業種で再編が進んでいます。少子高齢化時代になると、「大手X社体制」が同質的な競争で消耗戦をする、といった贅沢なことが不可能になる。だから方向性としては、間違ってはいないのでしょう。考えてみれば流通というのは、キャッシュフローが見えやすい業態なので、もともとM&Aがやりやすい世界なのですね。とはいうものの、西武流通グループがいったん解体して、その先がまた再編というのは、なんだか割り切れないと感じる向きもあるでしょう。
〇さて、こんなものをもらいました。題して「相場いろはかるた」。株式市場関係者から回ってきたもので、読み人不明だそうです。
> [い] 陰陽はめぐりめぐりて循環す、陰極まりて陽となるなり
> [ろ] 論をたて相場の逆を張る人は、論に勝っても相場に敗れる
> [は] はじめから損する覚悟で相場せよ、思惑過ぎれば機会を失う
> [に] 忍耐し時期の到来まつが仁、あせって出れば負けと知るべし
> [ほ] 誉められる仕手は全盛の極みなり、人より先に提灯を消せ
> [へ] へ理屈をこねて自分の玉かばう、深いるばかりで損も見切れず
> [と] 獲った金儲けなりとて使うなよ、あずかったつもりで蓄えておけ
> [ち] チャンスは一瞬のうちに駆け巡る、先をよく読みはやく手を打て
> [り] 利乗り玉まよえば半分手仕舞いて、気分しずめて守れ福の神
> [ぬ] ぬかるなよ見切りかんじん意地はるな、損して得とることもある
> [る] るいよりて集まる意見は時遅し、その裏道をふかく考えよ
> [を] 大相場小相場のみわけ肝心なり、損も利益もここにはじまる
> [わ] 割安と思えるときは買い時なし、割高のときに売り時なし
> [か] 買い玉の引かれたときに意地はるな、もどり少なく深手おうなり
> [よ] 寄りつきに呆けた相場は心せよ、気配かわるはおおくはこのとき
> [た] 建て玉の損益計算するべからず、利食い急げよ損は見切れ
> [れ] 連日のつづく相場にふたつあり、老いにつかず若きにつけ
> [そ] 相場ほど世に面白きものはなし、うまく当たれば億万長者
> [つ] ついむかし底値百日というけれど、いまは機敏で反発も急
> [ね] 値に惚れて売買するのは慎めよ、大相場にはきっと損する
> [な] なん人も見込みちがいはあるものよ、意地を張らずに出直すが勝ち
> [ら] 楽々と儲かるときは気を抜くな、千載一遇このときにあり
> [む] 無駄遣いするカネがあるなら相場せよ、長者になれる真の近道
> [う] 売り方で引かれる間はながけれど、下がる相場は速きものなり
> [ゐ] 居座りて焦ると損は増すものよ、手数だけでも落ちつけば得
> [の] 野も山もみな一面に強気なら、阿呆になりて売りの種まけ
> [お] 大相場見定めつけばついて行け、宝の山にともに登れる
> [く] クソ度胸だすはよけれどヤケクソに、ならぬように心おくべし
> [や] 山をみて谷のふかさを予測しろ、勇気をだしてドテン売り
> [ま] まだまだと人がいうとき利食いせよ、もうというとき心ゆるめるな
> [け] 怪我もせずおおきくなれる子供なし、失敗かさねて相場の達人
> [ふ] 不手際でカネが減ったと悔やむなよ、預けてあると思えばすむなり
> [こ] 小相場のときは難平玉建てよ、チャブつかぬための小楯になる
> [え] 栄光の道はけわしくきびしくも、人より一歩の努力かさねよ
> [て] 天井買い底値突っ込みするなかれ、もどりをまつは損のもと
> [あ] あまるものに原価なし、相場なきものつねに知りおけ
> [さ] 三力がそろえば相場つよく張れ、資力・胆力・努力これなり
> [き] 気のむいた時は吉日躊躇するな、考えこめば出るときなし
> [ゆ] ゆとりある資金建て玉かなめなり、フルイ落としてダマシに勝つ
> [め] めでたくも春をむかえる心なら、引かれ玉にモチを食わすな
> [み] 見切るとき見切らず日々すごす、深入るばかりで損を見切れず
> [し] 仕掛けるに難平極めて玉建てよ、負けたときに苦労すくなし
> [え] 遠方の相場するひと利益あり、ちかく見ぬだけ迷いすくなし
> [ひ] 人の行く裏に道にあり花の山、いずれを行くも散らぬ間に行け
> [も] モウモウと思う相場はおく深し、損玉あればはやく手仕舞え
> [せ] 成功を急げは苦労絶え間なし、小さな玉から徐々に積み上げ
> [す] 掬うても掬うても尽きぬ金儲け、おくれるとても急ぐな急くな
> [ん] 運鈍根三つのみでは財つめず、勤勉倹約の二運を忘れるな
> [京] 強弱はいうより聞けよ相場道、きいて盆ありいうて得なし
〇駄作ぽいのもありますけど(例:「む」や「く」の札)、「うーむ」と唸ってしまうようなものもありますね。「ろ」は痛いっ!て感じですし、「と」や「け」はうんうん、と納得です。でも、最高傑作は「ん」じゃないでしょうか。
<12月27日>(火)
〇最近になって知ったのですが、有名な文庫本で絶版になっているものが非常に多いのですね。かんべえが学生時代に読んだ倉橋由美子作品の多くは、新潮文庫の緑色の背表紙だったのですが、今ではほとんど見かけなくなっています。少し古い作家になると、司馬遼太郎作品のように売れるものは再版されるけど、城山三郎あたりではもう危ないらしい。ジェフリー・アーチャーの『めざせダウニング街10番地』でさえ絶版と聞くと、もうほとんど天を仰ぎたくなります。
〇業界関係者の話によると、今でも原作がドラマ化されたりすると、ちゃんと本は売れる。たとえば松本清張の『黒革の手帖』や『けものみち』は売れている。ところが、そのついでに『点と線』や『ゼロの焦点』が売れるかというとそうではない。つまり、今の読者は、「一人の作家の本をじっくり読む」ような悠長なことをしない。1冊読んだら、それでお終い。宮部みゆきとか江國香織とか池波正太郎とかは例外ですが、ちょっと古いマイナーどころの作家の本は、今後は手に入りにくなるかもしれない。
〇アマゾンなどによるサービスが進化した結果、「ロングテール」と呼ばれる「ごく少数だけ売れる本」にもチャンスが生まれている、なんていう話を聞きます。これから生み出される本にとっては、それは心強いニュースでありましょう。ところが「少し古い作家の手による、ちょっといい作品」は、そもそも再版してもらえなかったりする。著作権が切れてしまえばそれなりに方法もあるんでしょうが、版権を持つ出版社としては売れない本を書棚に並べておく余裕はない。注文生産するにしても、ある程度まとまった数のオーダーがないと、手の打ちようがない。
〇かんべえも、「こういう本が売れるんじゃないっすかー」みたいな話は大好きで、今日も新潮社さんを相手に無責任な話をしてたんですが、そんな一方で忘れられていく良書があるということは、寂しい話でありますね。結論として、本はなるべく捨てないようにしないと。
<12月28日>(水)
〇仕事納めであります。はあ、やっと1年終わった。でも、「今年中に片付けますから」と大見得を切った貿易会の仕事をやってない。ああ、気になる。でも、とりあえず一段落だから今日のところは忘れよう。
〇昨日聞いた話で、これが面白かった。団塊の世代が退職後にやりたいと思っている仕事が3つあるんだそうだ。
(1)喫茶店経営
(2)手打ち蕎麦の店
(3)ペンション経営
〇はっきり言って、センス悪過ぎでしょう。今時はやらない仕事ばかりで、手を出したら碌なことがなさそうだ。道楽としてはともかく、ビジネスとしてはちょっと・・・・喫茶店もペンションも、彼らが若かった時代の産物なのであって、今から始めるというのは自爆行為でしょう。手打ち蕎麦も、作りたい人は多いかもしれないが、素人が作った蕎麦を食べたい人はあんまりいないはずである。まあ、新人文学賞みたいなもので、供給はあるけど需要は少ないのですな。
〇その一方で、この記事によると、今やコンビニでさえ経営者が見つかりにくくなっているらしい。恐るべし高齢化現象。需要のある職種と、そうでない職種の間にはかなりのギャップがあるようだ。そういえば昨日発表された有効求人倍率は0.99でしたな。労働市場はかなり「売り手市場」になっている。
〇退職後の仕事としては、株式投資も有力な選択肢でしょう。業界関係者によると、株式セミナーを開くとビックリするほど人が集まるのだとか。ただし、「団塊世代は理屈ばかり多くて、なかなかカネを出さない」「資産を増やそうという意欲が乏しい」といった悪評も聞く。まあ、下手に大きな金額を勝負して、生活設計を失ってもらっても困るのですが。
〇ところで株式セミナーとしては、年明けにこんなのが予定されています。かんべえもパネルディスカッションに出ますので、よかったら覗いてやってくださいまし。
●株式新聞社 2006新春講演会
【開催日時】 2006年1月7日(土) 受付開始10時20分 講演開始11時
【会 場】 よみうりホール (千代田区有楽町1-11-1、ビックカメラ7階)
【定 員】 1100名
【参加方法】 入場無料・先着順 ※事前申込制ではございません。
当日直接ご来場下さい。
<交通>JR有楽町駅 国際フォーラム口 東京メトロ有楽町線 有楽町駅A4a出口
第4部 14:50〜16:10 パネルディスカッション
テーマ「大変革時代の株式市場を占う」
パネルディスカッション参加者(順不同)
コーディネーター
◆藤田 勉(ふじた
つとむ)氏 日興シティグループ証券 日本株式ストラテジスト
パネリスト
◆吉崎 達彦(よしざき
たつひこ)氏 双日総合研究所主任エコノミスト
◆菊地 正俊(きくち
まさとし)氏 メリルリンチ日本証券日本株ストラテジスト
◆芳賀沼 千里(はがぬま
ちさと)氏 野村證券金融経済研究所投資調査部長日本株ストラテジスト
◆吉野 貴晶(よしの
たかあき)氏 大和総研チーフ・クォンツアナリスト
【お問い合わせ先】
株式新聞社 企画室 TEL.03−3545−7609
<12月29日>(木)
〇お正月を迎える準備で、どこの家も忙しいことと思います。まあ、こんなものでも見て、ちょっとくつろいでつかぁさい。
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<12月30日>(金)
〇そろそろ年も押し迫ってまいりました。お仲間のサイトも「今年はもう更新はお終い」という人が増えてきたのがちょっと寂しい。今日のかんべえは午前中にお風呂のお掃除を済ませ、午後は今年最後で、おそらく日本で一番遅い忘年会に行ってまいりました。
〇それは「テレビ東京報道局マーケット情報部」の忘年会。今日の午前中に「大納会」があったので、関係者はやっと1年の仕事が終わるのです。「モーニングサテライト」「オープニングベル」「クロージングベル」「WBS」の4つの番組は、この後、大発会まではお休み。かんべえ、この季節は田舎に帰っていることが多いので、この会に出たのは初めてであります。
〇マーケット番組ですので、関係者は皆さん「今年はいい年でした」とホクホクしたムード。そもそも以前は会費制であったものが、今年は「ご招待」であるということ自体が「市場の好調さ」を物語っている。そういえば「ルック@マーケット」が武運つたなく打ち切りになったのは、今から2年半前のこと。当時の相場は7000〜8000円台でした。それが今日の終値は1万6111円43銭。今年の上昇率は40%で、1986年以来とのこと。
〇そういえば28日に発表された鉱工業生産は、前月比1.4%上昇の103.5となり1991年5月の103.4を上回り過去最高を更新した。この「103」という水準がクセモノで、今まで何度も挑戦して抜けなかった水準だ。一部には「一〇三高地」などと呼ぶ声もあったくらいである。設備投資と輸出の好調さを考えると、しばらくは一〇三高地を越える状態が続くだろう。となれば、鉱工業生産とリンクすることが多い東証指数も期待できるのでは、という理屈になる。
〇TOPIXを長期で見ると、こちらは1700あたりに壁がある。2006年の株価は「1700高地」を抜けるかどうかが試金石となろう。かんべえはこの点、懐疑的である。ここでも書いたけれども、あんまり上値はないような気がしている。というか目先、調整は近いのでは。まあ来年は1500〜1700くらいであれば十分ではないかと思います。
〇今日は毎度おなじみ岡本さんとか、お久しぶりの内藤さんとか、恐れ入ります三原先生とか、いろんな方に会いました。「へえ〜」と思ったのは、佐藤政俊さんが言ってたことで「消費者金融の貸し出しが伸びているんです」という話。ひょっとすると、ネットトレーダーがネタ銭を借りていて、信用で相場を張っているのではないかと。1987年頃に、「下げ相場を知らない新人類相場」などといわれていた頃の感じに似ているような。
〇さて、今夜は年賀状の宛名書きをしなければ。塩野七生『ローマ人の物語]Wキリストの勝利』も買ってきたので、年越しの準備は整いつつあります。
<12月31日>(土)
〇昨日、お目にかかったさる先輩エコノミスト某氏の話。多忙がきわまって、「WBSとモーサテ」をハシゴする、ということがあるんだそうだ。WBSが終わるのは午前0時過ぎだし、モーサテは出たことがないから知らないけど、おそらく午前5時くらいにはお迎えが来てしまうのでしょう。つまり寝る時間がほとんどないことになる。
〇そこで某氏は一計を案じて「ラクーア」を予約した。これならば疲れも取れてスッキリ翌朝の仕事に迎えるだろうという狙いである。ところがラクーアに行ってみると、ついついあっちもこっちもと欲張ってしまい、気がつけばもう寝る時間はほとんどなくなっていた。「やっぱり普通のホテルに泊まるに限ります」と某氏。「それからチェックアウトせずに、モーサテが終わってからもう一度ホテルに戻って二度寝します」。うーん、やっぱりダブルヘッダーはシンドイと思うぞ。
〇大晦日、近所の「極楽湯」に行ってきました。混んでいたけど、なかなかくつろぎました。年末年始、ホントは温泉にでも行って、1年を疲れを取りたいところですが、お手軽に700円で至近距離のスーパー銭湯というのも悪くない。また行ってみよ。
〇てなことで、皆さまも良いお年をお迎えください。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki