<8月1日>(月)
○筆者の周囲の女性陣で、1週間前からこういう声が急に増えた。
「もう鳥越さんは許せないっ!こうなったら小池さんしかないっ」
○えー、なんでそうなるの?と内心疑問に感じていたのですが、どうも最終局面でどどっと鳥越票が小池票に流れたようで、1週間前には小池&増田がかなり接近していたとの情報もあったのに、最後は突き放して余裕のゴールとなりました。投票率が6割近い中で、44.5%の得票率はアッパレというほかはありません。「造反有利の百合子さん」、しばらくはご祝儀相場で語られることになるでしょう。
小池百合子 2,912,628 (44.5%)
増田 寛也 1,793,453 (27.4%)
鳥越俊太郎 1,346,103 (20.6%)
上杉 隆 179,631 (2.7%)
○これに対し、既成政党はどうだったかというと、まさしく「万年与党は腐敗する、万年野党は堕落する」を地で行くような結果となりました。いやー、ホントに見苦しかったですね、両方とも。
○ただし自民党側の立ち直りは素早くて、安倍首相の外遊日程がいつの間にか「リオ五輪開会式出席」から「閉会式出席」に変わっていた。都知事は閉会式に出席して、五輪の旗を受け取らなければいけないので、それに合わせたのでしょう。そして安倍首相は、実は一度も増田寛也氏の応援には入っていない。従って8月21日の閉会式出席後は、小池都知事は帰りのフライトをキャンセルして、政府専用機に乗せてもらえばいいわけですね。ビジネスクラスよりも経費削減になるじゃないですか。
○逆に民進党側は、これから大荒れ必至でしょう。鳥越俊太郎氏の134万票は、前回2014年の宇都宮+細川の合計194万票にも遠く及ばない(この時の投票率は46%で、2人併せて4割取っている)。そもそも野党統一候補が全体の2割の得票しかないのでは、「改憲勢力3分の2を許さない」どころではありません。確かにタマも悪かったけど、民進党はやっぱり野党共闘を見直すべきでしょう。
○なぜこんなことになったかといえば、やっぱり今年は女性が勝つ流れができているんじゃないかと。6月のBrexitの混乱を収めたのがテリーザ・メイ首相で、これを英国では"Going May Way"というんだそうです。メルケル首相とも気が合っているみたいですよね。かくなるうえは、9月の民進党代表選は蓮舫さん、そして11月8日はヒラリー・クリントンということになるのでは。
○そうそう、これは以前、小池先生からじかに聞いた話ですが、彼女は若い頃に中東で、乗り遅れた飛行機が墜落したことが2回あるんだそうです。とてつもない強運の持ち主です。そして、とてつもない度胸の持ち主でもある。それから彼女は親台派です。今頃台湾の民進党系では、「2020年の東京五輪には、チャイニーズ台北ではなく、堂々と台湾と名乗って出場するぞ!」と息巻いている人たちがいるはずです。応援したいです。
<8月2日>(火)
○その昔、日本新党という政党がありました。1992年に細川護煕氏が立ち上げて、テレビ東京のWBS初代キャスターであった小池百合子氏がその最初の同志の一人となりました。日本新党は無党派層の追い風を受けて、92年の参院選、93年の衆院選で勢力を広げていった。そのときのシンボルカラーがグリーンであった。当時、1万円の会費を払って党員(たしか1000番台であった)になったワシは、今回の東京都知事選における小池戦略を見ていて、そのことを懐かしく思い出したのでありました。
○大きな選挙において、「風が吹いた」「山が動いた」ということは、そうそうあることではない。平成になってからだと、1989年の参院選(リクルート選挙)、1993年の衆院選(細川内閣誕生)、2001年の参院選(小泉旋風)、2005年の衆院選(郵政解散)、2009年の衆院選(政権交代選挙)などが思い浮かぶ。それからしばらく風は吹かなかったが、2016年東京都知事選挙は久々に無党派層が動いた選挙であった。それを演じた中心人物は、過去に何度も「風が吹いた」選挙に関わってきた小池百合子氏であった。
○「百合子マジック」はどうやって可能になったのか。たった一人で立ち上がり、既成政党に対して異議申し立てを行ったのである。すなわち腐敗した万年与党と、堕落した万年野党に対して。そうすると2つの東京都連は、面白いくらいに醜態をさらしてくれるので、どんどん追い風が強くなっていった。つくづくノブテル氏とじんじんじん氏は男を下げましたな。最後は「厚化粧」などというオイシイ誹謗中傷まで飛んできた。これはラッキーな話で、お蔭で最終局面において女性票が一気に増えたわけである。
○今日は東京都庁への初登庁だったそうです。290万票の民意が背中についていますから、当面は怖いものなしだと思います。逆に都議会の側は、来年に改選時期を迎えているわけですから、ここで新都知事に逆らうと碌なことがない。ただし、こういうときに余計なプライドが邪魔をして、冷静な判断ができなくなるのが既成勢力の常でありますから、これから先はいろいろ香ばしい展開が予想されますね。
○ひとつだけ嫌な予感がするのは、小池百合子さんは第1次安倍内閣で女性初の防衛大臣に就任しているのですね。久間さんが「原爆しょうがない」発言で引責した直後のことです。あのときは、悪名高き守屋次官と刺し違えて見せ場を作ったわけですが、正確に言うと守屋次官を更迭した後で、防衛省のイージス艦情報漏えい事件の責任を取る、という形で辞任したのです。
○何もそこまでする必要はなかったと思うのですが、当時の国会は「テロ特措法」の延長が課題となっていて、インド洋沖の給油をどうするかという面倒な国会答弁をするのが嫌だったのかもしれません。ご本人はわりと恬淡としていらして、「百合子の55日」という写真アルバムを見せてもらったことを覚えております(在任期間が55日間で、『北京の55日』という古い映画と懸けている)。
○当時のような「潔さ」を見せる必要はさらさらないわけでありまして、ちゃんと4年間の任期を務めていただきたい。それにしても、「政治の世界で風が吹いた」というのは、何か新鮮な感じがします。あまり根拠はないですが、これからちょっと景気が良くなるんじゃないか、なんて気がするくらいです。それにしても「百合子マジック」の妙を、既成政党は学ばなければなりませんね。
<8月3日>(水)
○本日の内閣改造について、思いついたことをメモしておきます。
○目玉人事は稲田朋美防衛相でしょう。かつて自民党には、「将来、首相を目指す政治家は防衛庁に接近する」という法則があって、中曽根康弘、金丸信、加藤紘一といったあたりが防衛庁長官を務めています。2005年の郵政選挙で政界入りした彼女が、その域に迫れるかどうか。ちなみに女性初の防衛大臣であった小池百合子都知事は、55日間で辞任してしまいました。タカ派大臣の誕生に中韓は警戒しているでしょうが、さて、どうなるか。
○山本大臣が3人も居る、というのが面白い。環境相が「公一さん」、農相が「有二さん」、地方創生相が「幸三さん」、って、兄弟でもなんでもないですからねっ! 山本一太さんに感想を聞いてみたい。
○岸田外相の留任はいろんな理由が重なってのことでしょう。とりあえず目先の外交日程、とくに対ロ関係の前進に安倍首相は賭けているから変えられない。岸田氏としては、党三役を望んだことでしょうが。
○石破氏は閣外に去りました。もっと早くそうしておけば良かったのに、と思いますけれども。今回、石破派から入閣したのは山本有二さん。かつては安倍さんと石破さんを一緒に座禅に誘っていた、という微妙な立ち位置のお方です。
○北海道、東北出身の大臣は金田法相の一人だけ。もともと安倍内閣の地域バランスは、著しく西日本に偏っているのです。安倍首相が山口、麻生副総理が福岡、岸田外相が広島、塩崎厚労相が愛媛、加藤1億総活躍相が岡山、高市総務相が奈良、といった具合です。あとは神奈川県の菅官房長官と甘利前経済財政担当相がワンポイントとなっています。党役員も高村副総裁が山口、二階幹事長が和歌山、細田総務会長が島根ですからねえ。(茂木政調会長は栃木)
○ともあれ全体としては地味で、人気が出るような感じではないと思います。ただし選挙もしばらくはないと考えれば、人気を求める必要も乏しい。滞貨一掃とまではいかなくても、在庫は少しははけたんじゃないでしょうか。
<8月4日>(木)
○3日連続の講演会。主催者さんは双日の関係会社で、東名阪の3か所。今日で終了して、やれやれどっこらしょ。この3日間の簡単なまとめは以下の通り。
○東京よりも名古屋、名古屋よりも大阪の方が暑い。たぶん2度ずつくらい。
○スクラップ業界は全国的に悪い。需要が少なくて、供給も乏しい。
○スクラップ価格は、WTI価格にドル円レートをかけて5倍したものとほぼ等しい。理由は不明。
○3日間の話の導入部は、8月2日の東京は都知事選、8月3日の名古屋は景気対策、8月4日の大阪は内閣改造、という日替わりメニュー。
○東京―名古屋、東京―新大阪の新幹線に連日乗車したが、混み具合は昨年に比べてやや緩和した気がする。外国人の数も少し減ったような。
<8月5日>(金)
○東洋経済オンラインで、「政治オタクも感動させた『百合子マジック』」なる駄文を寄稿。旬の話題につき、食いつきがいいようですな。いろんなところに転送されているみたいです。名古屋から帰ってきた晩に泣く泣く書いた原稿なんです。昔の日本新党を覚えている者としては、多くの人の目に留まってほしいです。
○夜は六本木で会合。そろそろお開き、という時間になって、気がついたらちょうど9時半。市場関係者が多かったもので、「米雇用統計はどうなっている!」という声が飛んで、調べてみたら25万5000人増。やっぱ米国経済強いじゃん、こりゃあ9月利上げ説が復活するかも、為替も動くぞ!てなことで一同盛り上がる。
○そのまま二次会に流れる。六本木で盛り上がる金曜の夜、なんてとっても久しぶりのことであった。
<8月7日>(日)
○オリンピックが始まりました。今年は特に興味がわかず、開会式も見てなかったんですが、やっぱメダル1個出ると雰囲気が変わりますな。この後、2週間はこういう日々が続くんだろうと思います。とりあえずNHKにブックマークをしておきましょう。
○3度目のジャークを成功させたあとの三宅宏実の嬉しそうな表情とか、400m個人メドレーのメダルが決まった後に、北島康介が萩野公介に声をかけるシーンとか、いいシーンがいっぱいあるんですよね。
○各国ごとのメダルの数はこちらをご参照。本日時点では金1、銀0、銅4です。ベトナムやタイがメダルを取っている、というところに、五輪競技のすそ野の拡大を感じますね。今回は初の南米開催。新興国勢が躍進する年になるような気がします。
<8月8日>(月)
○重い宿題をいただいたな、と感じた一日でした。本日の天皇陛下のお言葉全文は下記をご参照。
●天皇陛下 お言葉全文 (NHK 2016/8/8
15:00)
○この言葉が向けられている相手は、表向きは国民全体ということになっていますが、ひとつはときの政権に対するキツ〜イ意思表示ということになるのだと思います。日本国憲法の定めに従って、象徴天皇は「国政に関する権能を有しない」存在ではあるけれども、少しはこっちの気持ちもわかってくれよ、という思いでありましょう。考えてみれば、日本国憲法は皇族に対して過酷な責務を課している。基本的人権もないような一家族が自己を犠牲にしてくれているからこそ、この国は回っている。そのことを改めて思い知らされます。そんな機微に触れる相談ができない相手であった、と見なされていたことは、今の内閣にとって忸怩たる思いがあるのではないかと思います。
○他方で、今の官邸からすれば、「なんで今さら、そんなことを言ってくれちゃうのよ」という辛さがあることでしょう。日本国内のあらゆる問題をコントロールしている、という今の内閣にとって、唯一、イレギュラーな動きをするのが皇室と宮内庁である。そして皇室に楯突いたら最後、安倍内閣のコアな支持者は去って行ってしまう。「皇室のご意向よりもアベちゃんの方が重い」なんてことを言ったら、その場で保守派は自己否定になってしまいますから。安倍内閣にとって、なんと重たい宿題でありましょうや。そして皇室典範を変える苦労に比べれば、憲法改正なんてかわいいものだと言っても過言ではありますまい。
○そして本日の言葉は、もちろん日本国民に突き付けられた匕首でもある。「うちのおじいちゃんは元気だから」とか言って、見て見ぬふりをしてきた家族なんだけれども、ある日、おじいちゃんから「そろそろ疲れてきたから、大概にしてほしい」と言われた瞬間の気まずさみたいなものが、本日のこの国全体に流れているんじゃないかと思います。おじいちゃんが自発的に犠牲にしてきてくれたことに比べると、うちの一家はお世辞にも褒められたものではなかった。天皇陛下のストイシズムには、こんなことまで含まれていたのですから。
「天皇が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めると共に、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました。皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行って来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」
○一方で、本日のお言葉が象徴天皇として、矩を越えた部分があったことも否定できない事実と思います。天皇の国事行為とは、日本国憲法第7条に示された10か条のみ。そして第4条は、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ」と定めている。ただし繰り返し読んでみると、そういうことは百もご承知でギリギリのところで言葉を紡いでおられる様子も窺い知れる。これはやはり一国民としては重く受け止めるしかありません。ただし、これは難問です。どういうソリューションがあり得るのか。とりあえず摂政を立てるという安直な策は、本日否定されてしまったと思います。
天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます。また、天皇が未成年であったり、重病などによりその機能を果たし得なくなった場合には、天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし、この場合も、天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません。
○最後にもう一つ、強いて言えば、本日のお言葉は皇太子殿下に向けて、覚悟を迫る内容なのではないかと感じました。自分はこんな風に象徴天皇を務めてきたけれども、お前はどうするつもりなのだ、という問いかけがあるのでしょう。たぶん皇太子殿下は、今の日本国内でもっとも痛切に今日のお言葉を受け止めておられるはずです。
「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念されます。更にこれまでの皇室のしきたりとして、天皇の終焉(しゅうえん)に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2カ月にわたって続き、その後喪儀に関連する行事が、1年間続きます。その様々な行事と、新時代に関わる諸行事が同時に進行することから、行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません。こうした事態を避けることはできないものだろうかとの思いが、胸に去来することもあります」
○これは昭和最後の日々のことを想い起こしておられるのでしょう。こんな風に冷徹に、ご自身の死を客観視しておられるのも、畏れ多いことだと思います。ここで唐突に、不肖かんべえは1974年の映画「砂の器」の最後に出てくる字幕が思い起こしました。「親と子の宿命だけは永遠のものである」。考えてみれば、それこそが万世一系ということであるのかもしれません。
<8月9日>(火)
○マネースクウェアジャパンでやっている動画コンテンツに登場しました。司会は同社チーフエコノミストの西田明弘さん。今を去ること25年前に、ワシントンのシンクタンクでご一緒していたとっても古いお仲間です。
▼1本目:米大統領選&今後のFOMC展望…利上げ時期は?
http://v.portal.jikiden.jp/eLDwwWtz?autoplay
▼2本目:日本の経済対策&金融政策展望、8月相場の注目点も解説!
http://v.portal.jikiden.jp/cDhawWtE?autoplay
○しかし、なんでこの日のワシは髪の毛がボサボサなんだろう。まあ、あるだけマシというものか。
<8月10日>(水)
○リオ五輪5日目。えっ、まだ5日目なのか、と思うくらい潤沢な喜怒哀楽を頂戴しております。日本代表の皆さん、お疲れさま、そしてありがとう。
○毎朝毎晩、さまざまなドラマが押し寄せてくる。あのフェルプスに100分の4秒差、ですって。アジアで初めてのカヌー競技のメダルですって。7人制ラグビーでニュージーランドに勝っちゃったとか。悔しい銅もあれば、チームでつかんだ半世紀ぶりの銅もある。
○こうなると政治の話なんて、どうでもいいですよね。とりあえずアメリカ大統領選挙は、しばらくほっといてもいいのではないかと。今月末になったら、また様子をうかがうことにいたしましょう。
○などと言いつつ、単行本も書かなきゃいけないので、心が休まりません。日々これ決戦の夏であります。
<8月12日>(金)
○大会が始まって1週間。すでに金銀銅がざっくざく。メダルの数で日本が世界第3位。こんなの見たことありません。こんなことでは、気が散って、仕事が進まなくて仕方がない。困ったものである。
○「取って当然」で取れない金メダルもあれば、サクッと取れてしまう金もある。でも、思いの深さは誰もが同じ。特に大差を逆転した体操個人、内村航平の金はすごかったですね。
○もらって悔しい銅メダルもある。でも特に対戦型の場合、銅メダルは「最後は勝って終わった」ことを意味するので、銀メダルよりも明日につながるので良いのではないですかね。柔道は銅が7つもありますぞ。
○今朝は午前6時30分にモーサテからチャンネルを変えて、7人制ラグビーを応援しました。南アにボロ負けしてメダルには手が届かなかったけれども、「日本が4位」ってすごいじゃないですか。おお威張りで帰っていいと思います。
○それにしても、世の中には何とたくさんの競技があるのでしょう。カヌーに賭けていた日本人が居た、というのも新鮮な感動です。ところがメダルを取れないと、皆に知ってはもらえない。
○たまたま今日、会った陳先生は、「中国はメダルへの熱が落ちているんです。1位よりも3位の選手の方が人気があったりする。いいことだと思いますよ」と言ってました。ある意味、意識が成熟してきたのでしょうか。
○日本は4年後を意識して、むしろメダル熱が高まっているような感がある。というより、アスリートたちがそれを意識しているから、これだけ好成績が出るのでしょう。リオが終わったら、いよいよ「次は東京」になりますぞ。
○五輪モノに関心が集まっているせいか、毎年この時期になると増える「戦争もの」を見かけませんな。去年、戦後70周年でやり過ぎた反動があるのかもしれません。こんなこと言うと怒られるかもしれませんが、あたしゃこの季節の「8月ジャーナリズム」ってのが好きじゃないので、ちょっと清々しい気分がしています。
<8月14日>(日)
○オリンピックも前半戦が終了したところ。ここでメダルの数とそれぞれのお国柄を比較してみると、リオ五輪の傾向みたいなものが見えてまいります。
○アメリカがとにかく強い。いくらフェルプス(金5個)とレデッキー(金4個)がいるといっても、競泳だけで金メダルが16個ってどういうことよ。これで後半戦は、陸上でガンガン稼ぐつもりでありましょう。これを見ているうちに、「アメリカってやぱり偉大な国じゃないか」と自信が蘇ってきて、ドナルド・トランプの人気が落ちる、ってことになったりして。
○中国の金メダルはウェイトリフティングで4、飛び込みで3、卓球で2。堂々の第2位ですが、北京大会の時のような勢い(金が51個)はない。それだけ国威発揚の意欲が薄れているのだとしたら、まことに健全で結構なことではないかと思います。
○3位がイギリス。金メダルはボートで3、自転車で3と意外なところで取ってますね。昔のイギリスは政府によるスポーツ支援が少なくて弱かったのですが、ロンドン五輪を契機に一気に伸びた感があります。
○4位がドイツ。金メダルは射撃3、ボート2、馬術2と、これもユニークなポートフォリオです。昔の東ドイツは、体操なんかでは非人間的なくらいに強かったんですけど、今から思えばあれは何だったのでしょうか。
○5位が日本。金メダルは柔道3、体操2、競泳2ということで、満足のゆく水準だといえるでしょう。既に前回ロンドン大会の金7に到達しています。この後の期待はやはり女子レスリングでしょうか。後はカヌーのように、「あっと驚く」競技でスターが誕生することを期待しましょう。
○6位と不振のロシア。金メダルはフェンシングで4とはこれも意外です。ドーピングの問題については、「ほかの国はきっとバレないようにやっているに違いない」と信じているんだろうなあ。
○7位にオーストラリア。ここはとにかく競泳王国で、金メダルが3、銀メダルが4、銅メダルが3。そういえばイアン・ソープって強かったよね。
○9位に韓国。なんとアーチェリーで金4個。それも男子団体、個人、女子団体、個人と完全制覇しているのに驚いた。これはもう完全に「お家芸」ですね。
○14位のニュージーランドがついつい気になります。7人制ラグビー男子が日本に負けてしまい、オールブラックスのイメージが傷ついたことがショックだった模様。でも、7人制の女子は銀メダルでしたよ。ボートで金2個。
○26位にブラジル。開催国としてはちょっとさびしい金が1(柔道)、銀が1(射撃)、銅が2(柔道)。後半はもっと奮起を期したいと思います。
○と、こんな風にスポーツを「国単位のメダル争い」にしてしまうのは、おそらく褒められたことではないのでありましょう。ただし、自分の国を応援しないオリンピックは、いわば馬券を買わない競馬のようなところがあって、高尚な態度ではあるけれどもあまり面白くはない。確かに「国家とは、国民とは何ぞや」を問われるような時代ではあるのですが、心から「がんばれニッポン」と応援できる今を楽しみたいと思います。
<8月15日>(月)
○終戦記念日であっても、オリンピックをやっていても、テレビ東京『モーニングサテライト』はやっておるのです。ということで、本日も朝早くに出動。
●特集:夏の地球儀外交 安倍総理の狙い
●今日のオマケ
●今日の経済視点:GDPの改善
○明日のモーサテは、その前にTXでは「男子卓球・準決勝」の放送があるので、開始が遅れるかもしれないそうです。こういう出たとこ勝負の日もあるわけでして、これはこれで面白い。不肖かんべえは、明日朝は文化放送です。なんだかお盆だというのに、休みにならんなあ。
<8月17日>(水)
○駆け足で富山へ。そそくさと墓参りなどを済ませる。
○富山県立近代美術館がいよいよ幕引きモードになっている。来年春から、富山環水公園脇へ移転して「富山県美術館」として生まれ変わる予定なのである。これが実現すると、富山駅で「1時間だけあるんだけど、何を見たらいい?」という観光客への回答を用意することができる。(今だと、環水公園のスタバがちょっといいですよ、で終わってしまう)。
○あらためて収蔵品を見ると、昔から知っている作品ばかりなんだけれども、よくまあ県立の美術館がこれだけ集めたもんだわな、と感心する。ここの売り物は「20世紀美術の流れ」という常設展で、ピカソ、ミロといった巨匠から戦後現代美術の作品まで、いちおうのところをカバーしている。スタートしたのが早かった(バブル以前だった)せいもあるが、今からこれだけの収蔵品を集めようと思ったら、カネがかかって仕方なかっただろう。
○もうひとつ、県立立山博物館へも行ってきた。「霊峰立山はどういう世界観を有していたか」を描いた博物館である。これはやはり立山山麓まで行かなければいけないのだが、ふと思い立って富山市内でレンタカーのカーナビに入力して走らせてみたら、なんと30分で着いてしまったので拍子抜けした。この辺の距離感がいかにも富山である。
○立山の頂上にある雄山神社というのは、昔からあったわけではなくて、明治の廃仏毀釈で急きょこさえたものであるらしい(それ以前はお寺であった)。たしか金毘羅さんも似たような経緯をたどったと記憶している。今から考えると、廃仏毀釈という国民運動は一種の集団ヒステリーみたいなもので、なんという無茶をやったものであろうか。ああ、もったいなや。
○ということで、変わりつつある富山市内を実感。富山駅前の再開発もやっているし、西町の西武デパートの跡地も跡形もなくなっている。新幹線開通の1年後になって、いろんなことが動き始めている、というのがわが郷里の印象でありました。
○今宵は女子フリースタイル48キロ級で、富山県出身の登坂絵莉選手を応援しなければなりませぬ。先だって、柔道女子70キロ級で県内出身者の田知本遥選手が金メダルをとったので、県内はとっても盛り上がっているのである。
(→後記:案の定、登坂のラスト逆転劇を契機に、女子フリースタイル破竹の3連続金メダルとなりました。貢献度大でありますよ。褒めてやってください)
<8月18日>(木)
○護国寺へ。変なお寺なのである。もともとは徳川綱吉が母のために建てさせた、江戸幕府お抱えのお寺である。明治になったら後ろ盾がなくなったので、広大な境内の一部を皇族に引き渡したり、明治の元勲たちの墓を作ったりして今日に至っている。要は日本のお寺って融通無碍なんですな。なにしろ尾崎豊の葬儀もここでやったくらいですから。考えてみれば地下鉄の駅が目の前にあって、その名も護国寺駅だというのもすごい。マスコミ関係者的には、講談社、光文社など、いわゆる「音羽グループ」のおひざ元ということになる。
○今宵は毎日新聞社元主筆兼常務、菊池哲郎さんのお通夜でありました。68歳。がん治療からいったん娑婆に戻ってこられたのですが、この夏の暑さが堪えたか。早過ぎる死でありました。ジャーナリストの方が60代に亡くなられると、先日の伊奈久喜さん(日経)もそうでしたが、まことに千客万来となります。現地に到着したら、たまたま行列が元駐英大使と某大学校長の後ろでありました。なおかついろんな有名人を見かけましたな。都知事選に出ていたT氏も来てましたが、これは毎日新聞OBなので当然といえましょう。
○菊池さんが呼びかけた飲み会メンバーとして、年3〜4回のお付き合いを続けてかれこれ8年くらいか。なんでワシがそんな席に呼ばれるようになったのかは、実を言うとよくわからない。とにかく、会うのはいつもお酒の席。歯に衣着せぬ直言居士なのだが、味わいのある福島弁で語るから角が立たない。「あぬ人は、駄目なんじゃねえの?」と言えばアウト、「あん人は、可哀そうだ」と言えばセーフ。誰も反論できない。地元の福島民報では、定期コラムも書いておられたとのこと。福島民報と言えば、当方は競馬欄以外は用がないので知りませんでした。恐縮です。
○お酒とたばこを愛した故人にちなみ、葬儀会場入り口にはバーがしつらえてあった。ここで一杯やって行ってください、との心づくしである。焼香後に旧知のMさんとバッタリ会ったので、その場でご一緒にスコッチを一杯立ち飲み。故人のこと、今年亡くなられた澤昭裕さんのこと、エネルギー問題のことなどについてひとしきり。このところ夏バテモードなんですが、生きてるうちに仕事はしなきゃあね、と少しだけ殊勝な心持ちになりました。
<8月19日>(金)
○東北経済連合会さんの「フォーラム・イン・青森」の講師として、青森へ。
○東北新幹線は家族連れも含めて、かなりの混み具合でありました。まだまだお盆の延長ということですね。なおかつ、新青森の駅でも降りない人が一杯いたので、新函館・北斗駅まで行く人も多かった。北海道新幹線開通のご利益が相当にある様子。聞けば地元経済においては、道南地区(函館など)といかにコラボしていくかということが、今後の課題であるとのこと。
○ご多分に漏れず、「インバウンドを何とかしよう」という意識も強い。昨年は2000万人近くの外国人訪問客数があったが、そのうち東北を訪れた人口は50万人であったとのこと。東北地方が全国の40分の1とはさすがに少な過ぎる。裏を返せば伸び代があるわけで、東北7県の知事が大挙して台湾に観光セールスに行く、なんて企画が進行中である。考えてみれば、台湾は李登輝さんが「奥の細道」を旅したり、岩手県には後藤新平の生地があったりするわけだから、台湾向けの売り込み方はいくらでもありそうだ。温泉も好きだしね。
○青森は伊調馨の出身地であり、福原愛ちゃんが高校時代を過ごした場所でもある。そもそもスポーツ選手が多い。特に相撲取り。先代の貴ノ花や舞の海はすぐに思いつくが、高見盛、安美錦、貴ノ浪、旭富士、隆の里など、びっくりするくらい多い。ついつい五輪がらみの話が多くなる。富山県はこれまで「メダルのない県」だったのですが、いきなり今大会で2個の金メダルを得て舞い上がっています。ゼロの県も3つくらいあるそうなんですが。
○夜はなぜか先輩商社マン2人とご一緒に、地元地銀系シンクタンクさんにご案内いただく。田酒と豊盃をしこたま飲んでしまう。おいしいんだけど、翌日に残るんだよなあ。で、爆睡。すごく面白い話が飛び交ったんだけれども、こういう記憶がちゃんと再現できないことが多くなっております。困ったことだ。
<8月20日>(土)
○青森駅前のアウガへ行って、地下の新鮮市場で海鮮丼。先日も釧路でやりましたけど、やはり港町はこれに限ります。青森は特にマグロとホタテがよろしいですな。
○ところがこの駅前施設、運営主体の3セクが債務超過で大変らしいのです。コンパクトシティ計画の中心だったので、市長が辞めるという話になっている。うーん、この立地で赤字になるというのは、よっぽどやり方が悪いのか、初期設定に無理があったのか、それとも人口減少が深刻なのか。考えてみれば、新幹線が停まらない青森駅は今後ますます寂れていくかもしれない。経営再建は簡単なことではなさそうだ。
○帰りの新幹線は生まれて初めてグランクラスというものに乗ってみた。というか、実はそれしか切符が取れなかったのだけど。サービスとしては、ANAのプレミアムシートのような軽食が出ます。従って、駅弁を買って乗ると妙なことになります。お酒も出ますが、今日はコーラとコーヒーだけにしました。座席は快適で、お蔭で仕事がはかどりました。周囲の客層は意外と若かったですな。不思議な空間でありました。
<8月21日>(日)
○さすがのリオ五輪もいよいよ終幕が近い。これが明日の朝になると、いよいよテレビでは閉会式をライブでやっていることになります。それまでには男子マラソンもあるし、男子バレーボールの決勝戦(ブラジル対イタリア)もある。新体操の決勝もあります。ちなみにブラジルの国技はバレーボールなんだそうです。それではサッカーは何かと言えば、あれはスポーツじゃなくて宗教であるのだと。わが国における相撲みたいなものなんでしょうか。
○日本では熱狂の2週間でした。これだけ金銀銅がザクザク取れると、全国的に盛り上がったことは間違いないでしょう。これをナショナリズムなどと呼ぶなかれ。これは都会出身の人には分かりにくいでしょうが、富山県は郷土が生んだ2つの金メダルに沸いているのです。ところが不思議なものでありまして、こういうものは「もうこれでお腹いっぱい」ということがないのであります。翌日になったら、新鮮な気分で別な種目が待っているわけです。人間とはなんと欲張りなものでしょうか。
○昨日だって400mリレーで銀メダルという興奮があったのに、今日になったらサッカー決勝戦でブラジル対ドイツに熱中してしまいました。2年前のワールドカップでの独7対伯1という屈辱があるから、ここでブラジルが負けたら大変であります。ドイツ人、無事には帰れません。でも、敢えて空気を読まないのがドイツの美風。前半に入れたネイマールの1点に、後半追いついて延長戦へ。それも時間切れでとうとうPK戦へ。これを最後はネイマールが決めるんですから、まるで最初から仕組まれていたようなドラマでありました。
(追記→しかも男子バレーボールも金メダルですって!これでブラジルも、開催国として元は取れましたな。後は借金が残るかもしれませんが、栄光の記憶は永遠です)
○忘れがたい場面がいくつもありました。そのリオ五輪はもうじき終わる。リオが終わったら、その瞬間から「次は東京」です。責任は重いです。とりあえず日本外交としては、安倍首相は来週のTICADYとか、再来週のG20とか東アジアサミットなどで、「2020年は東京五輪をよろしく」と繰り返すのでありましょう。そう言われて悪い気がする人は居ないので、当面は使える外交カードとなるのでありましょう。
○他方、その東京五輪は野球とソフトボールなどの競技復活が決まり、空手やスポーツクライミング、サーフィン、スケボーなどを新たに加えることになったから、ますますコストは嵩むわけです。ところがマスメディアというものは、「野球が復活してめでたい」と喜びながら、「カネがかかるのはけしからん」なdpと言うのです。馬鹿なことを言うものではありません。「高福祉・低負担」などというものがこの世に存在しないように、「無駄遣いではない五輪大会」や「カネのかからない感動」などというものはあり得ないのであります。
○五輪開催はお大尽の遊びです。ブラジル経済は危うく麻痺しかかりましたが、サッカーが勝ったらとりあえず民意はオッケーでしょう。さて4年後の日本経済はどうなるか。ちゃんと日本がお大尽でいられるように、経済をがんばらねばなりませんね。
<8月22日>(月)
○暑さ寒さも彼岸まで。台風がどさっとやってきて、夏はどこかへ行ってしまった模様。リオ・オリンピックも終わってしまいました。やれやれどっこらしょ。
○経済産業省の「反原発テント」がなくなったと聞いて、会社の帰りに見に行ってきました。それっぽい人たちが何人か集まっていたけれども、確かに跡形はなくなっている。ここに来るまで市民団体と最高裁まで争って、勝訴が確定したうえで、わざわざ日曜日の午前3時に強制執行したんだとか。問題発生から実に5年近くかけている。こういうときの日本政府の辛抱強さには、つくづく頭が下がりますな。
○このところ世界には、クーデター未遂にブチ切れた独裁者とか、麻薬犯罪者を殺してしまう政権とか、あられもないことを口走る大統領候補者とかがいて、とっても不穏な感じです。でも、反体制勢力にとって何よりも手強いのは、こういうもの静かな官僚機構の方なのでしょう。普段は暖簾に腕押しでも、我慢比べには滅法強いですからね。
○市民団体の側が本気で運動を続けるつもりならば、とりあえず判決で命じられた3800万円の制裁金をキチンと払うべきでしょう。国家権力の側はさりげなく、うやむやにしようとすると思いますよ。でも、そうやって借りを作ってしまうと、ますます味方が減っていきますからなあ。まっ、ワシの知ったことではないんだけどね。
<8月23日>(火)
○今日は国際問題研究所のセミナーへ。テーマは「米大統領選挙と米国内政・外政の展望」。壇上も客席も、この世界のベテランと新鋭のオタク族ばかり。いやあ、心が洗われるような気分でありますよ。
○冒頭から「今年の大統領選挙はもう終わったんじゃないか」(トランプの敗北は決定的じゃないか」という刺激的な発言が飛び出して、「共和党はいよいよ終焉を迎えるのか」とか、「あえてヒラリーが負けるとしたらどんな筋書きがあるのか」とか、「トランプとサンダースの登場は、党派的対立時代の終わりを示唆しているかもしれない」などと、面白い意見が飛び交っていました。
○今度の戦い、共和党は敗色濃厚になっているのだが、それではこの先はどういうことになるのか。「トランプのことは嫌いになっても、共和党を嫌いにならないで」(せめて議会選挙だけは勝たせてね)と割り切るのか、「向こう4年間は我慢するけど、絶対にヒラリー政権は1期だけで終わらせる」と考えるのか、それとも「トランプに大統領になってもらって、すぐに引き摺り下ろしてペンス政権にしてしまおう」というシライ級の高難度技に挑むのか。
○あるいは――。明治時代の西南の役において、不平士族を率いた薩摩軍が滅んで時代にケジメをつけたように、トランプによって発見された「不満な白人貧困層」も、敢えて勝ち目の薄い選挙に挑んで、「多様化していくアメリカ」に道を譲るのか。つまり彼らは、変化に背を向けて自爆してしまうのか。その場合、敗残兵たちは2020年選挙ではどんな行動をとるのか。再び「投票しない層」に戻るのか、それともイヴァンカ・トランプあたりを候補者に担いで、「トランピズム」の新党を立ち上げるのか・・・・?
○考えてみれば、当溜池通信も長らく米大統領選挙に血道を上げてまいりました。その上で、本日のような並み居るアメリカ・ウォッチャーたちとともに、「誰の予想も全然当たらない2016年選挙」を迎えている。おそらく時代の変わり目なんだろうなあ、とは思うものの、まったく分からないことばかりです。ともあれ、こういう局面に立ち会えるということは、「ウォッチャーの本懐」という気がいたします。
○リオ五輪が終わったら、いよいよ大統領選挙も第4コーナーにさしかかったと考えていいでしょう。11月8日に向けて、しっかり見張っていきたいものであります。
<8月26日>(金)
○ちょっと珍しい時間の更新となります。ただ今羽田空港にて更新の作業中。実は午後の便で、これから北京に行くのであります。
○去年の12月と同じ中国社会科学院日本研究所の会議です。あのときは天気も空気も悪かったけれども、今回はさてどんな感じでしょ。そういえばマスクを持ってくるのを忘れてた。夏は大丈夫だと思うんですがねえ。
○溜池通信の本誌では、「G20はNon Eventになる」、と言い切ってしまいましたが、ホントのところがどうかは蓋を開けてみないと分かりません。いろいろ探ってまいりたいと思います。更新は少し遅れて、帰ってからになるかも。それでは皆様、行ってまいります。
<8月27日>(土)
○ということで、中国社会科学院日本研究所のシンポジウムに丸一日参加しました。日中関係に関する定点観測の機会であります。
○今回の会合は日本から招待された参加者が10人もいて、ものすごく力の入った会議だったようです。横井大使が開会式に出られたのも、考えてみればすごいことですな(確か昨日まで谷内正太郎安全保障局長が北京に来ていたはず・・・).。もうじきG20首脳会議ですが、その直前にこういう会合が行われるということは、いちおうトレンドとしては「日中関係改善」なんだとは思います。
○でまあ、ワシに与えられたテーマは「アベノミクスおよび日本経済情勢」でありました。それなりに受けてはいたようなのに、質疑ではほとんどスルーされてしまった。やっぱり経済ではなくて、日中間では政治と安全保障が焦点なんですよ。特に安保法制関連と南シナ海ですな。歴史認識はさすがに「70周年」を過ぎたので少し減りました。それでも来年は「日中国交回復45周年」なんどそうで、日中間は毎年のようにアニバーサリーがあるんですよね。
○中国側から「安倍首相は・・・」という問いが何度も発せられたのが印象的でした。これはまあ、「敵の姿は実際よりも大きく見える」の原則なんでしょう。まるで相手の陣内が見えない状態で将棋を指しているようなもので、「えっ」と驚くような誇張、もしくは誤解をされている。いちおう説明はするのでありますが、さて、これはいいことなのか、悪いことなのか。実態よりも大きく見えているということは、日本の抑止力にとって有利なことなのかもしれません。
○日本で対ロ関係を議論するときに、「プーチンは何を考えているのか?」という問いかけがしょっちゅう出てくるように、中国で対日関係を考えるときは、「安倍は何を考えているのか?」になっている様子。これはちょっと実態とは違っていて、例えば安保法制の作業がどんどん進んだのは、安保関係者が以前から「これはもうほっとけないよね」と思っていたからでしょう。でもそれが、日本の安保体制が強化されることに反対している人たちから見れば、「安倍が悪い」「立憲主義の危機」「最近の自民党はおかしい」と見えるのと似ているかもしれません。
○とはいうものの、「安倍内閣は盤石で、しばらくはひっくり返りそうにはない」「ただし憲法9条改正はさすがに難しいだろう」などといった声もあって、その辺はたぶん正しい認識と言えるでしょう。
○参加者の中では、外務省OBの田中均さんのご意見が、いちいち深くてシンプルな言葉に重みがありました。それから山口二郎教授、矢吹晋教授のお二人とご一緒できたのも面白かった。変な取り合わせだと思われるかもしれませんが、白酒をしこたま飲んで語り合いましたがな。晩餐会が終わってからは外へ出て、屋台で二次会。8人もいたのに、なぜかお支払いはトータル80元。1人当たり160円也。たぶん何かの間違いだと思うのだが、訂正することあたわず。
○ホテルに戻ってそのまま爆睡。朝まで。
<8月28日>(日)
○今回の北京は快晴で、夏の終わりでもあまり暑くはなく、空気も乾燥しているので快適でした。空も青くて、昨年12月に体験したスモッグで真っ白な空気がウソのようでした。こういう日もあるのですね。
○ホテルはいつもの「和敬府賓館」でした。乾隆帝の三女の屋敷だったとのことで、古い建物なんですが、リノベーションされて今では欧米人がよく泊まるホテルになっています。周囲の街並みも昔の北京を髣髴とさせるところがあります。朝食のヌードルが旨いです。特にワンタンがお勧めですね。
○直前になって、会議の会場が1階から地下1階に変更になりました。なんでも政治局の偉い人の予定が急に入り、ホテル側から変更を言い渡されたとのこと。予約は予定、予定は未定ということで、こういうのも中国、もしくは北京ならでは現象なんでしょうね。正直なところ、あんまり腹も立たないのであります。
○本日、チェックアウトでフロントに立ち寄ったら、結婚式の準備をしている。玄関から赤いカーペットを敷き詰めて、昨晩、会議の夕食会をやっていた場所がド派手な宴会ステージになっている。新郎と新婦の写真も貼ってある。北京では一時、西洋式の結婚式が流行っていたのだが、最近は中国式が人気になっていて、なるほど女性は皆さんチャイナドレスである。なんでも今日は旧暦でめでたい日なのだそうだ(手元の手帳をチェックしたら、日本では友引である)。
○間もなく結婚式、というところで当方はずらかってまいりました。ここから空港までが渋滞だったり、いろいろあるのですが、とりあえず帰ってまいりました。どっこいしょ。
<8月30日>(火)
○TICAD6(アフリカ開発会議)が終わって、変な評判があることに気がつきました。それは「アフリカに3兆円も投資するなんて・・・・」と心配して(怒って)いる人が結構いるらしい。それはちょっとピントがずれてると思いますよ。
○おそらく「アフリカに支援をするカネはどうせ捨てカネになるに決まっている。その分、自分の年金が減るかもしれない」みたいな心配をしているのではないかと思います。「そんなカネがあるなら、国内で使え」というのはごもっともなれど、それはたぶんアメリカにおけるドナルド・トランプ支持者と似たような心理状況ではないかと思います。それを言いだしたら、もっと他に心配すべきことがいっぱいあるはずなのに。
○ここはちょっと余談になりますが、日本人は年金の心配はするのだけれども、財政のことは心配してないみたいです。両者は本質的に同じことなのにね。アフリカ向け支援の3兆円が心配なのなら、補正予算の28兆円はどうなるんでしょう。
○で、アフリカ支援についてですが、こんなことは日本政府はけっして言わないと思いますけれども、3兆円のうち「真水」はほとんどないはずです。ここ数年、ODAの円借款はあまり貸し倒れが起きていません。その結果、どんどん返済されている。特に中国はキチンと返している。そうなると、その分、誰かに新たに借りてもらわないと困る。情けは人のためならず、自分のためにする、みたいな話であります。
○民間企業が、アフリカ投資で失敗することを心配してくれる人も居る。でもね、「安倍首相に言われたから、仕方なしにアフリカへの投資を決めた」なんて、そんな会社があるわけないでしょ。企業はもっと自己チューな存在です(でないと株主に怒られる〜)。企業トップがTICADについていくと、滅多に会えないアフリカ首脳に会える。そういう形ではちゃんと利用していると思いますけどもね。
○アフリカ経済自体も、3年前のTICADXの頃に比べると随分変わりました。資源価格は下がり、テロ事件が発生し、エボラ熱もあり、なおかつ中国向け輸出が減ってフラフラになっている。でもね、人口は確実に増える。それが見えているから、消費財メーカーさんなんかはしっかり布石を考えている。2020年のアフリカはまだダメかもしれないが、2050年には市場になっているかもしれない。そのくらいに考えておけば良いのだと思います。
○もっといえば、中国はアフリカ向けに600億ドル(6兆円)の支援を宣言している。でも、それが満額出ると思っている人は、世界中探しても誰もいないでしょう。そしてアフリカ諸国は、中国と日本を天秤に賭けながら、どうやったらおカネを引き出せるかと考えている。日本政府もその辺は百も承知で大人のゲームをしている。ちなみに日本政府は、TICADXでも「3.2兆円の取り組み」を宣言しています。
○ところがいまだに援助というと、とってもナイーブなことを考える人が世の中には少なくないようです。こんなこと言ってると、NGOの人たちに叱られるかもしれませんけどね。
<8月31日>(水)
○いよいよ今日で8月も終わり。明日からは2016年最後の4カ月が始まります。忙しくなりそうですね。カレンダーを作っておきましょう。元ネタを頂戴したベテランジャーナリスト、Iさんに御礼申し上げます。
9月
*日ロ首脳会談(ウラジオストック、9/2-3)
*G20首脳会議(中国・杭州、9/4-5)
→オバマ大統領最後の訪中
→米中首脳会談、日中首脳会談など
*東アジアサミットなど、ASEAN関連首脳会議(ラオス、9/6-8)
→日米首脳会談など
*民進党代表選挙(9/15)→蓮舫or前原?
*天皇陛下生前退位で有識者会議が発足(中旬?)
*日銀金融政策決定会合(9/20-21)
*米FOMC(9/20-21)
*安倍首相が訪米。国連総会で演説(NY)、キューバ訪問(下旬)
*臨時国会召集(9月26日から)
→2次補正、TPP承認、増税再延期法案など
*米大統領候補テレビ討論会第1回(オハイオ州デイトン、9/26)
10月
*米副大統領候補テレビ討論会(バージニア州ファームビル、10/4)
*IMF・世銀総会(ワシントン、10/7-9)
*米大統領候補テレビ討論会第2回(ミズーリ州セントルイス、10/9)
*米大統領候補テレビ討論会第3回(ネバダ州ラスベガス、10/19)
*EU首脳会議(ブリュッセル、10/20-21)
*衆院補欠選挙(10/23、東京10区、福岡6区)
*米FOMC(10/31-11/1)
11月
*日銀金融政策決定会合(11/1-2)
*TPP関連条約と法案が成立(上旬?)
*米大統領選挙(11/8)
→ヒラリー・クリントンorドナルド・トランプ?
→レイムダック議会。TPP審議よりも最高裁判事の承認が優先?
*日中韓首脳会合、パククネ大統領が初訪日。(中旬?)
*APEC首脳会合(ペルー、11/19-20)
→日ロ首脳会談
12月
*米FOMC(12/13-14)
→今年初の利上げ?
*プーチン大統領が訪日。日ロ首脳会談(山口、12/15)
*臨時国会閉幕(中旬?)
→増税延期関連法など成立。17年度予算の編成作業開始
*日銀金融政策決定会合(12/19-20)
*米議会がクリスマス休暇入り。「レイムダック議会」の終了(12/20?)
*天皇誕生日。有識者会議が皇室典範改正の骨子を公表?(12/23)
*17年度予算案を閣議決定(12/24)
○あっという間に過ぎてしまいそうな予感。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki