●かんべえの不規則発言



2021年12月 





<12月1日>(水)

○本日は敬宮愛子(としのみや・あいこ)さまの二十歳のお誕生日。そして今月の23日は上皇陛下の88歳のお誕生日。今上陛下からみれば、オヤジは米寿で娘は成人。ついでに言えば弟の一家がいろいろ面倒なことになっていて、さぞや心労の絶えないことと拝察申し上げる。急に同世代人であることが感じられるような気が。

○20年前の記憶が突然よみがえる。あの年の有馬記念は「敬宮愛子内親王殿下ご誕生慶祝」という冠がついていた。当時はまだ3連単がなかった時代だが、「1着マンハッタンカフェ、2着アメリカンボス」で馬連48,650円という大穴となった。競馬ファンの間では、「同時多発テロ馬券」と呼ばれたものである。あれからもう20年である。

○そして本日は「2021 ユーキャン新語・流行語大賞」が発表される日。年間大賞は「リアル二刀流/ショータイム」。やっぱり大谷翔平選手ですなあ。夢を感じさせてくれたのは。コロナ関係の「自宅療養」「人流」「副反応」「変異株」「黙食」「路上飲み」などは身につまされるばかりだし、東京五輪関連の言葉も今一つ素直に楽しめなかったり。まあ、しょうがないですわな。

○そんなこんなで今年も残るところあと1か月。オミクロン株が迫ってきているようで、心安らかには過ごせない年の瀬ですが、せめて忘年会くらいはやらせてくれ、新年会だなんて贅沢は言わないから、という気分であります。


<12月2日>(木)

○本日は午前中に産経新聞の紙面検証委員会へ。今年で4回目だろうか。ワクチン報道、東京五輪報道、総選挙報道などについて討議。3つともマスメディアの立ち位置が問われる難しいテーマではないかと思う。これからの時代に新聞はどうあるべきなのか。なかなかに悩ましい世界である。

○午後は民間外交推進協会(FEC)の米国研究会へ。バイデン政権と今後の日本経済への影響について、ハイブリット方式でお話しする機会をいただく。例の「ウォークネス」(意識高い系)の話はやっぱり反響が大きい。それからこれは最近、中山俊宏先生のお勧めで読んだジョージ・パッカーの論文「4つのアメリカ論」(The Atlantic)に学ぶところが大である。

○アメリカは民主党と共和党という2つに分断されているだけではない。共和党は「フリー・アメリカ」(レーガンに代表される自由主義のアメリカ)と「リアル・アメリカ」(トランプが掘り起こしたありのままのアメリカ)に分裂していて、これを再統合することが難しい。他方、民主党は「スマート・アメリカ」(オバマやクリントン夫妻に代表される高学歴のアメリカ)と、「ジャスト・アメリカ」(バーニー・サンダースに代表されるように、アメリカの不正義、不公正に怒りをたぎらせているアメリカ)に割れていて、これまたどうにも動きが取れない。

○悩ましいのは、これまでアメリカを導いてきた「自由貿易、規制緩和、グローバル化」といった大方針は、「フリー・アメリカ」と「スマート・アメリカ」という2つのエリート層によって行われてきた。それが今では、右の「リアル・アメリカ」と左の「ジャスト・アメリカ」という2つの勢力の挟み撃ちにあい、たとえば「TPPへの復帰」などは夢のまた夢という状況になってしまった。同盟国がこれだけ割れてしまっていたら、日本はいったいどうすればいいのだろう。

○夜は2晩連続で飲み会。金融政策や政治情勢などをサカナに、ピアノの生演奏を聴きながらの至福のひととき。たとえマスクをしながらであっても、たとえ来月には再び不可能になりそうでも、こんな日常が戻ってきたことを心から喜んでいるものであります。


<12月3日>(金)

○商社研究会で加藤茂さんがスピーカーと聞いて喜んで参加する。業界紙「商社レポート」の創業者兼主筆で、ずっと商社を取材してきたこの業界の語り部である。以下はその加藤さんの語録と不肖かんべえの反応。


●商社経営の要諦は、「脇は甘く、懐は深く」。事業投資というものは、優良案件など滅多にあるものではない。だいたいが問題を抱えている。それを引き受けてあれこれ苦労しているうちに、少しずつ優良案件になっていく。成功した投資は、だいたいがそういうパターンだった。

――最近の照ノ富士がまさにそんな感じですね。投資も相撲と同じで、組んでまわしを取られてからが勝負です。


●バブル崩壊後の商社は「長い夜」の時代を迎えた。当時の社長は、各社とも高度成長期を駆け抜けた逸材が多かったが、いずれも在任中に「夜明け」を見ることができなかった。

――あの時代は社員も大変でございました。もっとも「商社マンは潰しがきく」「早期退職後も悲惨な話を耳にすることが少ない」というのも、同意するところであります。


●商社は日本経済の主役ではない。どの業界でも脇役である。いつも苛められているから、謙虚にならざるを得ない。

――ウォーレン・バフェットが商社株を買ったら、「ボケた」と言われてましたからねえ。まあ、「ハーバード・ビジネス・レビュー」が商社業界を取り上げるようになったら注意することにしましょう。


●商社の資源開発は失敗の歴史である。儲かるようになったのは21世紀になって、中国などBRICSが発展してから。20世紀の商社マンにその発想はなかった。日本は資源のない国なのだから、「儲からなくてもいい、お国のためにやる」などと言っていた。

――某社が「ROE6%」という目標を掲げたとき、他社から「商社がそんなに儲けるべきではない」という批判があったそうです。さて、これは「古い資本主義」なのか、それとも「新しい資本主義」なのか。


●コロナ禍で商社業界も大変なことになるのかと思ったら、今期の中間決算はどこも史上最高益。コングロマリットでやっていることのメリットが出た。あいかわらず評判は悪いけれども、これでやっていくしかないのだろう。

――まあ、証券界の評価は気にしないでおきましょう。いつも思うのですが、経営者とアナリストの関係は作家と評論家みたいなもの。「だったらお前が書いてみろ」と言えばそれで終わりです。


○歴代の商社経営者に対する寸評なども、非常に面白かったのですがここでは自粛。コロナで貿易会の新年賀詞交歓会や双日の記者懇談会もなくなって久しいので、なかなかリアルでは会えませんが、いずれ一献傾けながら昔話をしたいものです。


<12月4日>(土)

○今週の週刊東洋経済に面白い記事が出ている。「リクルートの特異な好決算 利益3倍の裏に2つの難題」だ。

○今期の中間決算で、同社の営業利益が前年同期比で約3倍の2229億円となったのだそうです。上半期としては上場来最高だとのこと。とはいえ、同社はこれが実力とは思っていないそうで、「欧米の人材市場は今、きわめて特殊な環境にある」。リクルートが2012年に買収したアメリカの求人情報検索サイト、Indeed(インディード)が無茶苦茶儲かっているのだという。世界60カ国でサービスを展開し、月間2.5億人が利用しているというから驚きだ。

○今のアメリカ経済は過熱気味。インフレが始まっているから、個人消費がますます駆け込み気味になっている。10-12月期の実質GDPは2桁近く行くんじゃないか、などと言われている。当然、人手は足りないのだが、求職者数は伸びていない。金曜日夜に公表された11月の雇用統計を見ても、NFPは21万人増と予想を下回ったのに、失業率は0.4p改善の4.2%である。いかに求職者が減っているか、ということである。

○まあ、実際、これだけ景気が過熱してくると、アメリカの雇用は完全に売り手市場となっている。賃金はもちろん上昇しているけれども、働き手はもっといい条件が出るまで、仕事に就くのを急がなくなっている。加えてオミクロン株もありますからな。この不均衡がインディードの利益を押し上げて、リクルートHDの好決算につながっているわけだ。

○リクルート社としては、「じゃらん」(ツーリズム)や「ホットペッパーグルメ」(外食)はコロナ下で大変なことになっているわけで、とんでもない追い風がきているわけだ。同社としては、「過去に例を見ない需給の乖離であり、このような事業環境は一時的なもの」だとしている。

○しみじみ思うのですが、世界経済が「脱コロナ」の段階に入ったら、どうやらインフレになるらしい。それは理屈としてはわかりますよね。日本にインフレが来るのは最後のタイミングになるだろうが、そのときに「物価と賃金が同時に上がるようなモメンタム」を醸成することが肝要であろう。これこそがデフレ脱却のラストチャンスなのかもしれませぬ。


<12月5日>(日)

〇やや旧聞に属するところですが、先月のCOP26、11月14日に閉会した時のボリス・ジョンソン首相の記者会見冒頭発言が、ちょっといい感じなのである。以下は英国政府のサイトから。

https://www.gov.uk/government/speeches/pm-opening-statememt-at-cop26-press-conference-14-november-2021 

〇グラスゴー首脳会談は、十分な成果を挙げられなかったということを認めたうえで、こんな風に言っている。

「哀しいかな外交とはそういうものだ。いろんな形で働きかけることはできるが、主権国家に対して、彼らがやりたくないと思っていることを強いることはできない」。


Sadly that’s the nature of diplomacy.

We can lobby, we can cajole, we can encourage but we cannot force sovereign nations to do what they do not wish to do.


〇それでもわれわれは、安易にシニカルになるべきではない。シャルマ議長と彼のチームが達成したことを誇ることができる。パリ協定以前の世界は、温暖化に向かってまっしぐらだった。それがパリ以降は3度上昇になった。グラスゴーでは目盛りを2度に下げることができた。それでもまだ高すぎるが、正しい方向には向かっている。そしてどんなに悲観的な評論家でも、1.5度目標がまだ生きていることは認めるだろう。それを実現するための作業は続く・・・・。

〇外交とは何か、ということを知りぬいたうえでの発言だと思います。ボリス・ジョンソンは変な政治家で、コロナ対策などでは明らかに間違った判断を下すことがあっても、なんとなく「許されキャラ」で政権を維持している。これは今みたいな時期には重要な資質であって、岸田さんもそういうところがあるような気がする。

〇何が言いたいかというと、「北京五輪をボイコットせよ!」みたいな声が上がりやすい時期である。それはいいのだけれども、アメリカのバイデン政権は「やるぞやるぞ」という構えを見せながら、開会式の直前まで引っ張るはずである。そうやって中国の行動に是正を求めるのが、こういうときの常套手段である。日本が先にカードを切ったりすると、梃子がなくなってしまうからいかんのです。

〇保守派や人権派の方々からは、「それでは中国の蛮行を止められないではないか」との声があがるかもしれない。そうなんです。哀しいかな外交とはそういうものです。相手は主権国家なのだから。武力に訴える気がないならば、息の長いゲームを仕掛けていくしかない。単純に自分の怒りをぶつけるようなことをしてはいかんのです。

〇しょっちゅう怒っているようにみえるボリス君が、意外と冷静なことを言っているので、上、ご紹介する次第であります。拳拳服膺したいものであります。


<12月6日>(月)

〇この季節の定番、日本貿易会の2022年度版貿易動向調査が12月2日に公表されております。私もこの調査の実務を離れて久しいのですが(座長を務めたのは2005年と2012年)、こんなに景気のいい予想を見るのは久しぶりです。

〇まあ、それも当たり前の話であって、2020年度の輸出入はコロナの影響で大きく下振れして、それが21年度はワクチン普及などによって急回復し、コロナ前の2019年度水準を上回る見込み。今年度は輸出入ともに前年比2割以上の伸びとなる。こんなすごい伸び、見たことナッシング。まさに地獄から天国である。2022年度の輸出入は、いずれも過去最高となる見込みである。

  2020年度 2021年度(e) 2022年度(e)
輸出 69.5兆円

▲8.4%

83.9兆円

+20.7%

86.0兆円

+2.5%

輸入 68.4兆円

▲11.4%

87,1兆円

+27.4%

87.9兆円

+0.9%


〇もちろん上記はあくまでも予測であって、いくつかの前提条件に基づいている。@世界経済はウィズコロナで正常化する、A国内でも正常化に向かう、B半導体などの供給不足は2022年度後半には解消される、などである。

〇これにともなって経常収支は21年度16.3兆円、22年度19.4兆円と黒字基調が続く。日本は高齢化の進展に伴って、2020年代になれば経常赤字国に転落する、なんてことを言っていた人がいたけれども、そんなの全然兆しも見えません。第1次所得収支が20兆円台の黒字が続くので、ちょっとくらい貿易サービス収支が赤字になっても関係ないのである。

〇このほか各論部分で行くと、「食料品輸出がいよいよ1兆円近くなる」とか、「新型コロナワクチンの輸入額は年間で1兆円程度となる見通し」などといったコメントも記されている。これだけの規模のワクチン輸入が笑って余裕でできるくらい、わが日本経済は巨大なわけであります。なにしろ自動車輸出だけで13.7兆円(21年度予測)という世界でありますから。

〇いつも言っていることですが、日本は貿易立国です。エネルギーでも食糧でも、輸入が止まったらこの国は死んでしまいます。そして輸出は、この国の経済にとって死活的に重要です。見かけ上の貿易依存度は低いのですが、日本経済を支えているのは輸出産業なんですから。

〇足元の輸出入は、米中デカップリングだとか経済安全保障だとかの議論をよそに活況を呈しています。これはこの国にとって良いことであります。自由貿易こそがこの国の生命線なのであります。


<12月7日>(火)

〇貿易動向調査のことを考えているうちに、10年くらい前に「日本の経常黒字はなくなるかどうか」という議論を日経紙上でやったことを思い出した。で、調べてみたらちゃんと記事が残っていた。えらいぞ、日経電子版。(登録している人は、ちゃんと以下のリンクから全文読めると思います)


●経常収支、JPモルガン菅野氏と双日総研・吉崎氏に聞く

日本は昨年、31年ぶりの貿易赤字に陥った。海外投資からの収入を加味した経常収支も、このまま赤字になるのか。近く赤字になるとみるJPモルガン証券チーフエコノミストの菅野雅明氏と、黒字は維持できるとみる日本貿易会の吉崎達彦氏(双日総合研究所副所長)に語合ってもらった。(文中敬称略)


〇何しろ2012年2月5日の記事である。当時は震災の1年後で、原発は全部止まっているし、超円高は止まらないし、政治は民主党政権だし、これはもう経常黒字は数年で消えてなくなるわなあ、というのが大勢であったのではないかと思う。この年、ワシは貿易動向調査界の座長をやっていた手前もあって、「いえいえ、日本経済の黒字は意外としぶといですぞ」と言って反論したのでありますが、今読み返してみると議論の中身では押されている。

〇ただし言っていることは当方が正しかった。なんと日本の経常黒字は10年後の今も健在で、GDP比3〜4%の黒字をキープしている。旺盛な第1次所得収支のおかげで、これを見る限り日本は投資立国になっていることが窺える。とりあえず「悪い円安」になる懸念は少ないのではないでしょうか。

〇最後に、この対談を仕掛けた滝田洋一さんのまとめが往時をほうふつとさせる。10年前はこんな感じで、まさに「悪夢の民主党時代」でありました。


●企業の危機感 政府は応えよ

 シャープが液晶パネルの堺工場を5割減産へ。TDKが国内3工場を閉鎖――。電機各社は減益や赤字が相次いでいる。元々高い法人税に加えて円高や電力制約がのしかかり、生産立地として日本は果たしてやっていけるのか。経常収支が赤字に陥らないかという問いかけには、そんな危機感が込められている。

 韓国などとの競争が激化するなか、国際競争力を高める戦略が問われる。政府が手をこまぬくなら、企業は海外展開を急ぐ。それは動かぬ政治に対する不信任投票である。

(編集委員 滝田洋一)


<12月8〜9日>(水〜木)

〇久しぶりに泊りがけで大阪に行っておりました。梅田などあちこちで大規模な建設工事が行われていて、しばらく見ない間にずいぶん変わっている。それからこの季節の定番、御堂筋のイルミネーションはあいかわらず奇麗でした。

〇考えてみれば4年後には関西万博が開催されるのである。ところがオミクロン株のせいもあって、現在、ドバイで行われている万博はあまり話題になっていない。関経連のドバイ訪問予定も吹っ飛んでしまったそうで、なかなか大変であります。

〇淀屋橋から緒方洪庵の適塾の方へ抜けて行って、隣にある古い中華屋さんで同期の連中と旧交を温める。「今週末に還暦」という1名を除いで既に全員が60代。社長もいれば完全リタイア組もいる。「商社マンはつぶしがきく」というのは、まことに正鵠を得ているようで、とにかく皆明るい。いやー、笑ったわらった。

〇今日はクラブ関西の午餐会へ。なんとこれが12回目で、最初は2009年であった由。ここで来年の日本経済予想を語るというのが、今年もできて良かったよかった。なにか大事な定点観測をしたという感あり。


<12月10日>(金)

〇本日の産経新聞「正論」欄に寄稿。いつも言っているような内容であります。


●先手打ち成長と分配の好循環を


〇明日の東洋経済オンライン用の原稿は、大阪からの帰り道でちょこちょこと書いて既に寄稿済み。日本貿易会の貿易動向調査について。これは明日掲載される予定。

〇さらに本日は、溜池通信で「脱・炭素」の話を取り上げる。夕方には大手町に出かけなければならないので、間に合わないんじゃないかと思ったのだが、何とかなってしまう。さすがはVol.730号、何とかなってしまうものである。

〇夕方から大手町の日本工業倶楽部で、キヤノングローバル戦略研究所の会合あり。久しぶりにリアルで出会う人多し。この人なんて、ネット空間のそこら中に存在しているのに、会うのはいったいいつ以来なんだろう? 

〇たくさん書いて、いろんな場所へ行って、さまざまな人と会う。それが楽しくて毎日過ごしているわけでありまして、いやあ今週も充実しておりました。来週は大分県に出没いたします。


<12月12日>(日)

〇注目のアメリカ11月のCPIは前年比6.8%でありました。これは市場予測値の通りでありまして、こういうこともめずらしい。

〇物価のことを議論するときに、投資関係者はついつい「コア指数が」とか「PCEが」などと小賢しいことを言ってしまいがちです。でもねえ、普通の消費者が実感するのはコアじゃなくて総合なのですよ。金融政策を語るときはコア指数でもいいですが、政治の問題を語るときは総合指数で。初歩だよ、ワトソン君。

〇もっといえば、物価は品目によって違うし、地域によっても違う。消費者が気にかけるのは、日常の食品価格であり、ガソリン代であり、家賃である。「物価」ではなくて、「お財布」が問題なのである。お金がなくなってくると、人はそればっかり考えるようになるし、ときにはそれ以外のことが考えられなくなるので、政府にとってはこれは非常にまずいことです。世論が「炎上」しやすくなりますから。

〇地域差も重要です。アメリカ国内でいえば、都市部よりも地方の方が物価高は深刻となります。デリバリーのコストがありますから、これは自明ですよね。そして都市部は民主党支持者が多く、地方は共和党支持者が多い。バイデン政権にとっては非常にまずい展開といえましょう。

〇かくして金融政策にも注文がつくことになります。来週のFOMCでは、テーパリングの前倒しはほぼ決定的でしょう。そのうえで利上げのタイミングをどうするか。なにしろ11月に中間選挙がありますから、「インフレにブレーキをかけつつ、株価も下げない」というファインチューニングはまことに難しい。

〇それに比べれば、日銀は気楽な立場です。来週のMPMで金融政策を変えることなど、まったくあり得ませんからな。それでも「川上インフレ、川下デフレ」は企業業績を悪化させるでしょう。明日の日銀短観が気になるところです。


<12月13日>(月)

今年の漢字はまたも「金」でしたか。いい加減、止めた方がいいんじゃないのでしょうかねえ、この企画。

〇だって、「金」が選ばれたのって、2000年、2012年、2016年に続いて4回目ですぜ。オリンピックのたびに「金」になるって、芸がなさ過ぎるのではないでしょうか。ちなみに歴代の記録はこちらをご参照

〇まあ、多数決で選んでいるから仕方がないのだと言われればそれまでですが、もうちょっと頭使って選びましょうよ。いくら「金」が仇の世の中とはいえ、これではまったくネタにできないじゃないですか。

〇ということで、少々脱力。新語・流行語大賞と合わせて、ボルテージの低下を感じるところである。


<12月14〜15日>(火〜水)

〇大分県庁の研修会で講師を務める。もともと7月にお引き受けした話なんですが、その時点では果たして本当に実現するのだろうか、その頃のコロナはどうなっているのかな〜と思っていたのですが、ちゃんと大分に行って、リアルの講演会(リモートの参加者も多数)が実現しました。しかもこの2日間は非常に好天。着ていったダウンコートはほとんど邪魔でありました。

「日本一のおんせん県おおいた」という名乗りは、いささかの誇張もありません。なんだかもう、そこら中から湯気が沸いている。宿泊したのはJR大分駅に隣接する「ブラッサム大分」なんですが、なにしろ最上階の3フロアが全部お風呂なんです。もちろん露天風呂もあり。サウナは何種類もあって、岩盤浴は人生初体験でした。これはもう癖になります。

〇さらに大分県庁さんのご案内で、別府市の「鉄輪(かんなわ)温泉」へ。ここは石畳からほんとに湯気が出ている。街全体に温泉が流れていて、歩いているだけで身体が温まってくる感じである。さらに当地名物の「むし湯」というのに入ったのだが、これはもうサウナの衝撃体験である。以前、テレビ東京の取材でパックンと一緒に入った指宿温泉の砂風呂とは比較にならない。

〇別府市でまちおこしをやっているB-Biz Linkにご案内いただく。また、現地でシェアハウス「湯治ぐらし」を経営している菅野静さんをご紹介いただく。いろいろ伺っていると、変な話だが「コロナさまさま」ともいうべき現象が起きているらしい。つまりコロナでリモートワークが一気に普及して、それでワーケーションという試みも広がり、それで別府を訪れる人が増えている。

〇もちろん観光地、別府はインバウンドの消失で大打撃を受けているわけだが、他方では新しい動きも広がっているようである。温泉旅行というものは、大概の場合、一泊か二泊のせわしない旅行である。ところが湯治となると、長期逗留型となる。さて、新しいライフスタイルとして広がるでしょうか。

〇もうひとつ、あたしゃ普段は焼酎は飲まない人なんですが、大分に来たからには麦焼酎であります。で、夕食では「いいちこ」をいただいたんですが、そうなると芋焼酎も試したくなりますわね。風呂上がりに「黒霧島」をロックで行ってみたら、なるほどこれはえらい違いである。ううむ、これを知らずに過ごしてきたのは、不覚であったかもしれない。


<12月16日>(木)

〇今朝のFOMCはちょっとした驚きでありました。テーパリングを加速して来年6月までの予定を3月に前倒しする、というのは大方の予想通り。まあ、豹変する人がすべて君子であるとは言えないまでも、パウエルさんはみずからがなすべきこと(インフレ・ファイター)に対して忠実なんだなあ、という感想です。

〇他方、FOMC終了と同時に、「来年の利上げは3回」という観測が飛び交い始めた。これはドットチャートを見ての市場の勝手な解釈なんだけれども、おそらくFRBの事務方は「なんでこんな馬鹿なことを始めちゃったかねえ〜」とお嘆きモードであるものと拝察する。

〇ドットチャートは金融政策の透明性を高めるための手段である。弊害が目立ち始めたからと言って、いまさら引っ込めるわけにはいきません。たとえて言えば、「新しい資本主義」のために四半期決算を半期に減らすべきだ、と岸田首相が主張するのと同じようなものであって、百歩譲って目的が正しくても、民主主義政治において正当化できるような話ではありません。

〇それでもドットチャートの弊害は明らかです。「このドットはパウエルさんかな?」「実は議長は孤立しているのでは?」みたいな当て推量の材料を市場に与えてしまう。そもそも利上げがいつも0.25%刻みだなんて誰が決めたんだ。それは市場の勝手な思い込みに過ぎない。いやあ世の中、なんでも透明性を高めればいいというものではありませぬ。政府の審議会の議論をユーチューブで流す、なんてことも大概にしておいたいいと思いますぞ。

〇一昨日、大分県庁で講演した際に、広瀬知事が「最近の政策は決定までの議論がなさ過ぎる」と嘆いておられました。それはその通り。その結果が正しかったかどうかはさておいて、1990年代までの霞が関はとにかく徹底的な議論をしていたのです。それが最近は、「ここはこうするしかないよねえ」などとふわっとした感じで物事が決まってしまう。つまり「空気」に支配されている。それは大いに憂うべき事態なのですが、「とにかく透明性を高めなければならない」という大合唱の下では、ホンネの議論ができる保証はないのです。

〇世の中、本当に必要な政策というものは、新聞紙上などで行われている議論とは結論が正反対であることが多いものです。そんなのは当たり前の話であって、特にA新聞の社説に出ている通りに物事を運んでいたら、今頃この国は滅亡していますわな。ホンネの議論というものは、大多数の前ですべきではないのです。なぜなら「みんなの意見」は、間違っていることの方が多いから。

〇例えば、岸田内閣は「賃金を上げます」と言っている。それを言うのであれば、「失業率は多少上がるかもしれませんが、それはお許しいただけますでしょうか?」と言わなければフェアではない。だって今の政府は、雇用調整助成金を出している。これはつぶれそうな会社をつぶさないという政策です。その結果がわずか2.7%の現在の失業率なわけですが、雇調金を受け取っている会社が賃上げする可能性はゼロでありましょう。だってつぶれかかっているのだから。

〇本気でこの国の賃金を上げたいのなら、つぶれそうな会社にはつぶれてもらうべきなのです。産業構造の新陳代謝を進め、つぶれそうな会社の社員にはもっと見込みのある会社に労働移動してもらう方がいい。だいたい雇調金なんてものは、本質的には短期間の一時しのぎの策なのです。それを1年半も続けている時点で、どこか経済政策の王道を踏み外しているとしか思えない。

〇とまあ、こんな議論を堂々とできるのは、この不規則発言くらいでありましょう。読者のリタラシーが高いからこそ、こんなことを書けてしまうわけでありまして、公共の電波でこれと似たようなことを言うのはデイビッド・アトキンソンくらいじゃないでしょうか。アトキンソン氏は世間の非難を恐れないから、ホンネの議論ができる。ただしみんながみんな、その真似ができるわけではない。

〇まじめな議論がしたかったら、「ここだけの話」ができるスペースを残しておく方がいい。アメリカの金融政策は、既にそれが失われてしまった。正しいと思ってドットチャートを導入した結果、困ったことになっている。でもまあ、それはこの世の中でよくある話といえましょう。


<12月17日>(金)

〇本日はたぶん年の瀬で一番忙しい日。不肖かんべえも東奔西走。議員会館に駆け込んでご挨拶したり、日本船舶輸出組合さんではハイブリット講演会の講師を務める。

〇夜は忘年会。いやー、都内全体が沸き立っている感じ。今宵はきっとタクシーはつかまらない。仕方ないよね、皆さん、新年会はできないかもしれないけれども、せめて忘年会はやっておきたい、という気分なのだから。

〇オタクな仲間の間でディープな会話が飛び交って、今宵の収穫は「もはやRDD方式は通用しない。世論調査の世界で激変が起きている」とのこと。

〇へとへとになって常磐線に乗り込むと、これが強風のために大幅遅延。いやあ、まことに波乱万丈の一日でありました。


<12月18〜19日>(土〜日)

〇土曜日は『マトリックス・リザレクション』へ。流山おおたかの森のTOHOシネマズ、まだそんなに混雑してはおりませんでした。

〇前3部作を見た者としては、やはり行かねばならない。ただし、前3部作を大きく塗り替えているかといえばそんなことはなく、「あの頃は楽しかったよね」というノスタルジアにひたるひととき。すごいシーンはいっぱいあるけど、それは前3部作が「当たり前」にしてしまったすごさである。今から20年前、「マトリックス」シリーズはSF映画に大変革をもたらしたのであった。

〇ウォシャウスキー兄弟改めウォシャウスキー姉妹は、20年の時を経てあんまり変化しなかったようである。妹さんが途中で抜けた、というのはその辺で路線の対立があったのかもね。まあ、同窓会に出ることは楽しいことです。とはいえ、『ブレードランナー2049』だって、もっとオリジナルに挑戦していたと思うのだが。

〇夜はグッチーポストのオンラインセミナーへ。JDさんと掛け合いで、「今年の回顧と来年の展望」を語る。かなり大勢参加されていて、質問もいっぱい頂戴しました。コロナ禍で2年近くを過ごしてきて、ろくでもないことが多かったけれども、こういうリモートのセミナーが簡単に開けるようになったのは、数少ないメリットのひとつかもしれません。

〇日曜日は朝から、「今日が締め切り」の原稿に励む。この間にも新しいパソコンをプリンターにつないだり、お昼に牡蠣天ぷらそばを食べに行ったり、朝日杯FSはちゃんと勝負するのである。それでも幸いなことに夕方には脱稿する。あーほっとした。年内の締め切りは残り3本、いや4本かな? まあ、そんなことは明日確認しよう。


<12月20日>(月)

〇本日は21回目の林芳正セミナーへ。テーマは「日本外交の展望」で、パネリストは佐々江賢一郎元駐米大使(現・日本国際問題研究所理事長)。

〇ところが今宵の林さんは、リモート出演なのである。先日のG7外相会合で、英国リバプールへ外遊した後の自主隔離期間がまだ続いていて、国会への出席など必要最低限の公務以外、特にパーティーや会食などは出席はまかりならぬらしい。そうこうする間にも、次の出張が回ってきそうで、つくづくコロナ下の外務大臣はお疲れ様である。

〇このセミナー、コロナ情勢により、これまでに何度も延期されている。たまたま12月20日と決まったのだが、そのときに林さんが外務大臣になっているとは、佐々江さんはもちろんビックリだし、林さん自身も考えていなかった由。今となってはいいタイミングで、いろいろ面白い話を聞けました。

〇個人的には、下記のやり取りがツボでしたね。なんといか、この「重心の低さ」が素晴らしい。

佐々江 「外交という仕事は、国内で拍手喝さいを受けるようなことを期待してはいけないと思うのです。外交はお互いが五分五分で、自国の方が少し良いと感じるくらいがベストであって、どちらかが一方的に得するようなことは長続きしない。2008年に東シナ海の海底油田の話が壊れたのも、『日本の方が得をする』という報道が流れたからだと思う。この仕事は、人気を求める人には向いていない」

林 「その昔、田中角栄が『総理大臣になる人は、外務大臣か財務大臣を経験しておくべきだ』と言っていた。その理由は、『その2つのポストは人から喜ばれない、お断りをするのが仕事だから』だったそうだ」

〇つまり自分が人気者になりたい人は、あんまり重い職につけてはいけないということであります。誰とは言いませんが、居ますわなあ、そういうの。


<12月21日>(火)

〇少し前に聞いた「最近のシンガポールはすごいぞ」というお話から。

〇シンガポール在住のとある億万長者(外国人)が、人材募集会社に「補佐官募集」の広告を出した。もちろん最高のスペックの人材に対して、最高の待遇で臨むという条件付きである。億万長者は「俺がツーといえばカー」の逸材を求めていて、つまらん候補者で妥協するつもりはさらさらないのであった。

〇するとシンガポール政府がいちゃもんをつけてきた。「あなたが選ぶ補佐官はシンガポーリアンでなければならない」と。要するに高級人材を求めるなら、外国から呼ぶんじゃないぞ、この国にちゃんと利益を落とさんかい!とくぎを刺しに来たのである。億万長者が不満を感じたのは当然のことである。

〇するとそこへ訪ねてきたのがドバイからの密使である。「どうですか、これを機会にドバイに引っ越してきませんか。われわれはあなたの要求は全部呑みます。税制も優遇します。われわれの政府は、あなたのような人を求めているのです」と。

〇現代社会においては、億万長者というのはかくも引く手あまたの存在なのである。格差社会を非難するのはたやすい。が、確実に進行しているグローバルな格差社会において、小国が繁栄を望むのであれば、まさしくドバイのように積極的であらねばならないのである。

〇そこで当該の億万長者はどうしたか。最終的に、シンガポールに残ることを選択した。その理由は何か。億万長者にとって重要なことは、金儲けもさることながら、「毎日、旨い飯が食えて、面白い奴と会えること」であった。その点に関しては、シンガポールの方がドバイより条件が上だったのである。

〇このエピソードからは、いろんな教訓を学ぶことが可能でありましょう。例えば、「億万長者が居心地の悪い思いをしなければならないこの国は、確実に劣後していくだろうなあ」というのも一例です。

〇不肖かんべえの場合は、「とりあえず俺は今日も旨い飯を食って、面白い連中と話したわなあ」ということにささやかな幸せを感じた次第でありまする。まあね、捨てたもんじゃないっすよ。この国は。カネはともかく、情報の密度は非常に濃い。


<12月22日>(水)

〇経済安全保障の議論を聞いていると、つくづく頭が痛くなる。なんでこう頓珍漢な議論が多いんだろう。これというのも「安保脳」と「経済脳」のOSが全然違うからである。

〇当溜池通信は、かねてから「経済脳と安保脳の二刀流」を目指しているものであるが、それにしたってこのバイリンガルを実践するのは難しい。以下、思いつくままに書き連ねてみよう。


*安保脳は神の視点で物事を考える。従って演繹法的である。経済脳は人間の視点で物事を考える。従って帰納法的である。

*安保脳にとって大事なことは議論である。「いかに危険を抑止するか」がテーマである。経済脳にとって大事なことは実践である。「グダグダ言う前に、まずやってみろ」というのが彼らにとっての美徳である。

*安保脳はインテリジェンスを重視する。完璧な情報を揃えたうえで判断しようとする。経済脳も情報は重視するものの、完全に出揃うのを待っていたら決断は遅れてしまう。それでは競争に負けてしまうので、どこかの時点で「エイヤア」と踏み出すことが必要になる。

*安保脳は人の命を扱う。生きるか死ぬかの問題なので、「オール・オア・ナッシング」の議論になる。これに対し、経済脳は「命までは取られない」ことを前提としている。所詮は儲けや損失が多いか少ないかの問題なので、「まあ、程度問題だろ」とそこは融通無碍である。

*安保脳はロジックを重視する。論理が破綻していることは、彼らにとってもっとも恥ずべきことである。これに対し、経済脳は行動を重視する。座して何もしないことが、彼らにとってもっとも恥ずべきことである。

*安保脳は「パワー」を取り扱う。パワーは目に見えないし、時間がたてば消えてしまう。そんな儚いものを相手にしている。経済脳は「マネー」を相手にする。マネーは手に取ることができるし、時間がたてば複利で増やすことができる。ゆえに安保脳はアナログとなり、経済脳はデジタルとなる。

*安保脳はマネーの多寡に対して無頓着であり、「防衛費をケチる財政当局は売国奴」などと言って怒る。これに対し、経済脳はパワーに対して無頓着であり、「誰が税金を払っていると思っているんだ!」などと言って怒る。

*安保の世界では実験ができない。後から「あれは正しかったのか」と悩むこともある。経済の世界では、気軽に実験ができる。大きな額で投資するのが怖ければ、小さな額でやってみればいいのである。また経済脳は過去を振り返らない。だって、そんな暇ないし。

*安保脳は歴史を重視する。その歴史から法則を読み取り、現実にあてはめようとする。もっともそれが成功する保証はない。経済脳は、歴史に対して無頓着である。むしろ過去は適度に忘れた方が、成功への近道だってこともある。

*安保脳はショックの発生を恐れる。コロナ感染症でも巨大地震でも国際金融危機でも、「想定外」のことは起きた時点で彼らにとって「負け」である。ましてその準備がなかった場合は、それこそ責任問題となる。これに対し、経済脳はショックの発生に対して柔軟である。経営においてショックはどのみち避けられないことであるし、ピンチになる場合もあればチャンスを与えてくれることもある。ショックがイノベーションをもたらした、という例は枚挙にいとまがない。

*安保脳は仮想敵を作りたがる。なぜなら安全保障はゼロサムゲームで、他国の不幸は蜜の味だから。経済脳は全ては味方だと考える。なぜなら経済はプラスサムゲームだし、利益動機は万人に共通だから。かくして安保脳は「財界はなぜ親中なんだ!」などと言って怒る。経済脳からすれば、それはきわめて「お子ちゃま」な議論に映る。

*結論として安保脳は悲観的であり、経済脳は楽観的である。


〇とまあ、かくも安保脳と経済脳は発想が違う。ところが近年は「地政学リスク」とか「経済安全保障」とか「エコノミック・ステーツクラフト」など、両者にまたがる課題が増えている。これは苦労が絶えないわけだわ、としみじみ感じるところである。


<12月23日>(木)

今週のThe Economist誌の記事にあったフレーズが妙に気になっている(The new normal is already here. Get used to it.)。


Just 15 years ago, modern smartphones did not exist. Today more than half of the people on the planet carry one.

(ほんの15年前まで、今のようなスマホは存在しなかった。今日では地球上の半分以上の人々が保有している)


〇地球上の2人に1人以上がスマホを持っている、ということは、携帯人口が40億人くらいいる、ということである。こりゃあすごいわ。その40億人はネットに繋がれている。こりゃあニュータイプみたいな人類が生まれても不思議はあるまい。

〇40億人のネットユーザーは、そんなに驚くべきことではないのかもしれない。が、2000年くらいに立ち返って考えてみれば、これは想像を絶することといえよう。なにしろ20年前の世界はもっと貧しかったし、人口の多くは都市ではなく農村に住んでいたし、そもそも携帯電話の基地局が普及していなかったからである。

〇ところが20年間で地球上は豊かになり、人口の大移動が起きて都市に集中し、ネット人口は爆発的に増えた。その間、CO2の排出量も増えるし、感染症に対する人類のリスクも高まったし、SNSは危険な道具に発達したわけだが、せっかく手に入れた利便性を人類が今さら捨てるとも考えにくい。

〇一方で、The Economist誌を読んでるような人々が、ノスタルジアに駆られるのも無理からぬことであろう。1990年代のように、先進国がロシアや中国やアジアやアフリカを見下していられた時代は良かったねえ。でも、それって痛いよね。

〇日本も、「失われたナントカ」みたいなことを言ってるばかりが能じゃないよね。しっかり前を向いて、40億人に向けて発信していかねばなりませぬ。


<12月24日>(金)

〇本日は財務省の予算説明会へ。閣議決定されたばかりの令和4年度予算政府案をレクしてもらう。

〇昨年は遠慮してTeams参加だったので、今年は財務省4階の説明会場に行ってみた。本日の配布資料はA4の用紙が2枚だけ。ちゃんとペーパーレスで開会しているから時代は変わったものである(昔はショッピングバッグ一杯分の紙をもらって帰った)。参加者は確かに減っていたけど、いろんなお知り合いとあいさつができたのは、この年の瀬にはまことにラッキーでした。

〇さて、この令和4年度予算をどう評価したらいいのだろう。「新しい資本主義」云々の部分は、まことに生煮えの感が否めない。来年6月には、いったいどんな答申が出るのでありましょうか。政と官がとことんまでやりあって、ようやくここまで漕ぎつけた、という感じではない。他方では、官邸官僚の言いなりで押し切られた様子もないのだが。これも時代というものなのか。

〇質疑応答の段になって、「これだけ税収が増えた理由は何でしょうか?」と尋ねてみた。補正予算では6.4兆円の税収増があり、なおかつ令和4年度予算は前年比7.8兆円の増収見通しとなっているので。なんだか話が旨過ぎるように思えるじゃないですか。

〇するとこれは当方の勘違いで、ダブルカウントでありました。補正で増収があった上に1.4兆円の上振れを見込んで、トータルで7.8兆円の歳入増ということらしい。もっともこの調子でいくと、来年の秋ごろには、「実はまたまた歳入が上振れしまして・・・・」ということになっていても不思議はなさそうだ。

〇税収増となったのは、まずは企業の令和2年度決算が好調だったこと。「巣ごもり需要」と「輸出増加」が貢献したから、法人税が予想外に伸びたとのこと。なおかつ令和3年度は所得税や相続税も増えたそうである。逆に言えば、消費税の見通しは大きくは狂わないのであろう。そりゃあ、そうですわな。とはいえ、2022年度の日本経済を3.2%成長と見通しているのだから、もう少し上振れがあっても不思議はないところである。

〇日本経済も財政も、悩みはGDPが伸びていない、という点に詰まっている。物価が上がって、賃金も上がって、名目GDPが増えて、実質でも伸びる、という経済になれば、なんとか債務もコントロールしていけるだろう。そうでないから、悩みが尽きないのではないか。

〇それにしてもクリスマスイブだというのに、霞が関の皆様はお疲れ様であります。平成の御代は12月23日に祝日があったので、その前日で仕事が終わるという美風があったのだけど、令和はまたまたイブまで労働となりました。

〇この週末は天気が荒れそうですが、せめて有馬記念くらいはゆっくりお楽しみいただきたいものであります。ラジオ日経は今年は中野雷太アナが当番とのこと。これが有馬の初実況とはちょっと意外です。日曜日の15時半ごろ、中野アナが歯切れのいい声でコールするのは、いったいどの馬なのでしょうか?


<12月26日>(日)

〇昨日は「ソ連邦崩壊30周年」であった。そのことが今のロシアでどんな風に受け止められているか、当方としては想像するしかないのであるが、とりあえずプーチンさんは不機嫌であろうと拝察する。

〇ちょうど30年前のその日、ワシはワシントンDCにおったのだが、当時のアメリカ国内の「やったね!これで冷戦は本当に終了だ!」という明るい雰囲気を記憶している。もっとも1991年12月というのは、アメリカ経済は陰の極みたいな時代であって、「冷戦に勝ったのは実は日本ではないのか」なんてことが大真面目に言われていたものである。

〇そういう意味では、先日公表されたこの外交記録文書は非常に重いものがありますな。冷戦に勝ったどころか、1990年から91年にかけての日本外交は、まさしく迷走に次ぐ混乱、そして残ったのは深いトラウマという日々であったのだから。まあ、そこから30年かけて努力したら、日本外交は少しはましになったのだが、今度は日本経済が落ちぶれてしまった、と考えると少々痛いのである。

〇というわけで、プーチンさんがこのタイミングでウクライナに攻勢をかけているのは、この記念日と無関係ではないんじゃないだろうか。ロシアはロシアなりにトラウマを乗り越えねばならず、特にNATOの東方拡大を許してしまったのは返す返すも腹立たしい。西側の連中め、俺がおとなしくしていると思ったら大間違いだぞ。この辺で一発かましてやらねばらなない、と思っているのではないか。

〇先日、ロシア研究の会合を傍聴していたら、「ロシアの行動原理が皆目理解できない」という欧州政治研究者の発言があった。それに対してロシア研究者が、「あれは下町のヤンキーみたいなものだと思ってください。ヤンキーの思考に損得勘定はありません。『てめえ、俺の顔が立たねえじゃねえか』という方が先に出ます」と答えていたのは、ほとんど目が点になるほどの快刀乱麻であった。

〇そのロシアの目から見たら、今の欧米の対応はまことにもってサイテーである。アメリカは軍隊を出して対抗する気概はサラサラなくて、今よりも強烈な経済制裁を繰り出すぞと脅すだけだ。欧州もあいかわらず理屈をこねるだけで、天然ガスの元栓をひねれば悲鳴が上がるはずだ。こっちは本気なのに、あいつらはまだ本気になってないじゃねえか。よーし、もうちょっとイジメてやるぜ。

〇いや、もちろんプーチンさんとしても、軍事力を行使するつもりはないのでありましょう。ただし今のロシアと欧米では、覚悟が違い過ぎるんじゃないだろうか。


<12月27日>(月)

〇今年最後の溜池通信が終わったので、ちょっとホッとするところである。ビールを開けて、最近お気に入りの「千葉県産さや付き落花生」の袋を開ける。これがねえ、いいのですよ。いつも買う中国産のよりも高いんだけど、まあ、ちょっとくらいいいじゃないですか。地元なんだし。

〇これでまだ明日は文化放送「くにまるジャパン極」があるし、東洋経済オンラインの連載も年末にもかかわらずちゃんとやるらしい。ってことは、ワシは来週の中山金杯の予想を書かねばならんということか。その前に明日のホープフルステークスはどうなっておるのだろう。たぶん、上海馬券王先生が予想してくれると思うのだが。

〇よくしたもので、今日の午後3時くらいから「今年はもうおしまい」というご挨拶メールが増え始める。まあ、日本全国、明日が仕事納めですわな。日本海側は大雪のようですが、くれぐれも大事ありませぬように。


<12月28日>(火)

〇今朝発表の11月の鉱工業生産(経済産業省)には驚きましたな。なにしろ前月比7.2%増(91.1→97.7)ですから。グラフを描くとまことに鮮やかに見えます。なおかつ、経済産業省の予測によれば、12月は1.6%増、1月は5.0%増となっている。本当にこの通りになると、1月の指数は104.3となっていることになる。完全にコロナ前を超えて、2018年ごろの水準になりますね。

日経新聞の報道によれば、自動車生産が前月比43%も増えたそうである。半導体不足が解消に向かい、東南アジアからの部品供給が復活すると、こうなることは目に見えていたわけだが、実際にそうなってみるとやはり景色が違って見える。

〇こういうことがあるから、講演会の資料はギリギリまで待ってほしいのであります。年明け早々、というか来週には経済の講演会が2つ予定されているのだが、先方も早く手じまいをしたいらしくて、「資料は早めに送ってください」と言ってくる。そこで「駄目です。12月29日までできません」と答えておく。でないと自分が後悔しますんで。ホンネを言えば、本番の2日前くらいにしてほしいのですけど。

〇ちなみに同じ時間に公表された労働力調査(総務省)と有効求人倍率(厚労省)はほとんど変化なし。完全失業率は2.7%→2.8%と少し悪化したが、これは自己都合退職が増えたためだそうなので、むしろ納得の変化といえる。

〇ということで、来週分の資料を送付する。先方はもう仕事納めをした後かもしれませんけどね。さて、残る締め切りが1本。何を書きましょう?


<12月30日>(木)

〇一晩だけご機嫌伺いにサクッと富山に行ってきたのだが、信じられないことが発生していた。

〇本日のお昼、富山駅のいつもの場所にて土産に鱒寿司を買おうとしたら、売り切れなのである。正確に言えば、「O」という銘柄だけ残っているのだが、これはウチでは評判がいまいちなので買いたくない。というか、やっぱり売れてないんだなあ、「O」は。

〇とはいえ、鱒寿司を持たずに帰ったとあっては、家族の手前ワシも立場がない。こういうとき、全国ブランドである「M」を買って帰るという手はある。富山駅ではM社製品は新幹線ホームでも売っている。が、これは富山県民的にはノーである。「ますのすし」を全国ブランドにしたのはM社の功績。それは認めるけれども、自宅用に買うのは「M」以外でなければならない。

〇すぐにネット検索して「K」に電話をする。「鱒寿司2段のやつ、今日はまだありますか?」「それがもうまったくないんです」「えーっ?」。次に「Y」に電話をして、まったく同じ会話を繰り返す。なんということだ。富山市内で鱒寿司が売れ残っていないとは。

〇どうも昨年の経験があって、地元では「年末でも帰省客は来ない」と踏んでいたらしい。しかるに今年は結構大勢来ていて、なおかつ30日に戻るという帰省客が多いのだ。どうやらコロナ下でいろんな種類の「遠慮」が交錯しているらしい。まあ、それを言ったらワシもそうなのだが。

〇3軒目、母が好きだった「T」に電話をしたところ、「あります」という。「これから行きますから、2段のやつをひとつ、取っといてください」とお願いして、そのままタクシーで駆けつける。いやもう、われながら酔狂もいいところだが、幸いにも新幹線の発車時間まで時間があったので、楽々セーフで戻ってこれました。

富山市内にはたくさん鱒寿司やがございます。家によって贔屓があったりします。ちなみにウチは、「K」「Y」「A」「S」「T」あたりをローテーションしていることが多いです。もちろん「M」や「O」も、いただいたら喜んで食べますけどね。そこはそこ、微妙なこだわりというものがあるのですよ。


<12月31日>(金)

〇日本家屋というのは、もともと冬は寒いのが当たり前でできていたらしい。だから火鉢や炬燵の周りに人が集まってきて、背中は寒いまんまだった。そもそも昔のエアコンは冷房だけだったよね。そのうちに暖房をエアコンでとるようになって、今じゃ石油ストーブもなくなってしまった。停電したらアウトですな。

〇いや、富山の冬を一晩過ごしただけでほんとに身も心も冷えました。雪はもう雨になっていたのだけれども、朝方の遠雷を聞いたのは本当に久しぶり。そこから新幹線でトンネルを超えると、そこはカラカラに乾いた関東の冬。これで過ごすのが当たり前になってからが長いんだけど、今でも思う。ホントにこれでいいのかねと。

〇夕方になって、1年の疲れがどっと出てきた感あり。30分風呂に入って、ちょっと盛り返しました。今宵はたぶん紅白を少し見て、途中からは「孤独のグルメ」に移るだろうけれども、最後までは起きていられない感じかな。

〇ともあれ、皆様、今年もこの不規則発言にお付き合いいただきましてありがとうございます。今年は連載も増えたし、禁を破ってツイッター(@tameikekanbei)も増えたので、ここでの発信は手薄になっていると思うのですが、まあ、来年も続くはずです。なにしろこれが人生の一部となっておりますので。皆様、どうぞよいお年を。















編集者敬白




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by Tatsuhiko Yoshizaki