●かんべえの不規則発言



2019年5月






<5月1日>(水)

○令和最初の日はDIC川村記念美術館へ。佐倉市にあるので、ウチからだと1時間半くらいで着く。5月の連休の時期には、格好のドライブコースである。この時期はツツジが美しく、八重桜が散った後の花吹雪も見事。たまには紅葉の季節にも来るべきであろうか。

○お昼は適当に選んだご近所のイタリアンへ。わりと良い店であったが、カーナビで探した住所が「四街道市めいわ」。新元号が公表されたときには、地元では「惜しい、一字違いか〜!」と衝撃が走ったことは想像に難くない。考えてみたら、「れいわ」という地名だってどっかにありそうですな。

○そこから国立歴史民俗博物館へ。佐倉城址にある歴史博物館で、通称「れきはく」。「日本の歴史、民俗学、考古学について総合的に研究・展示する」という点に特色があり、だから「ミンゾク=民俗」なのである。ちなみに「国立民学博物館」があるのは大阪府吹田市で、こちらは「みんぱく」と呼ばれている。

○さらに紛らわしいことに、いわゆる「とうはく」と言えば、「東京国立博物館」である。去年の夏にやっていた「縄文展」は強烈な印象でした。そういえば去年、ワシは太宰府に行ったときに九州国立博物館に行ったのであった。こちらは「きゅうはく」ですな。

○ということで、「れきはく」に初めて入ったのだが、展示物はものすごく充実しています。展示室が6つもあって、その上、企画展もある。後半は適当に流しながら見てましたが、これはよっぽど暇なときに、あらかじめ見るべきテーマを決めて、腰を据えてかかるべきでしょう。本日のチケットは、「元年 5.1」と印字してあったので、ちょっと得した気がしましたな。

○家に帰ってみれば、阪神タイガースがカープ相手に連勝している。これで平成最後の日も、令和最初の日も勝利ということになる。「外れドライチ」の近本光司外野手、攻守走揃って良いですな。タイガースのイチローと呼んであげましょう。


<5月2日>(木)

○長女がお世話になった保育園のOB会の集まりへ。一時期は完全に疎遠になっていたのが、近年になって集まりが定例化してきた。察するに「定年後」に入ったメンバーが増えたからであろう。

○なにしろ保育園だけに、「働くお母さん」たちのその後が聞けるのが面白い。いや、皆さん、いろんなことをされておりますね。「誰もなり手がいないので、とうとう町内会の会長を引き受けました」とか、「ジャズのボーカルの練習をしています」とか、「日本画を習い始めました。いやもう、なんで今まで油絵なんてやってたんだろうと・・・」など、うむ、なんと実り多い。「働くお父さん」のその後よりも意外性がある。

○とはいうものの、皆さん気になるのは成長して一人前になった子供たちのその後で、どこで働いているとか、結婚したかとか、子どもが出来たとか、そういう話がいちばん熱がこもる。午後イチから始めて、ついつい夕方まで飲んでましたな。さて、次はいつお会いすることになるのでしょうか。


<5月3日>(金)

○連休もとうとう6日目。だんだんやることが少なくなってきて、本日は表参道駅下車、根津美術館へ。今なら尾形光琳の「燕子花図屏風」(かきつばたず・びょうぶ)を展示しておりますので。

○それにしてもこの金屏風、群青色と緑色だけを使い、後はすべて省略してカキツバタを描いている。リズミカルで大胆、かつ音楽が聞こえてきそうである。

○この時期の根津美術館は、庭園で本物の「カキツバタ」を見ることができますので、ダブルでお得です。外国人観光客にも広く知れ渡っている様子。こんな身近に国宝があるというのは、東京人の幸福でありましょう。

○今日のようないいお日和の日は、善男善女が遠方からもやってきますので、なるべく早い時間の来訪がお勧めのようです。


<5月4〜5日>(土〜日)

○10連休もいよいよ残り少なくなってきて、少しずつ頭を仕事に切り替えつつあるところです。ふと気がつくと、「連休中、いろいろありますぞ」と言われていた海外のイベントが、ことごとく無難な線に収まっている。お蔭で心安らかである。ありがたや、ありがたや。

○まず、注目のFOMCは「利上げもなし、利下げもなし」という妥当な結果でした。これに対し、「利下げはなくなった!」と株式市場は下げで反応した。これはある意味健全なことであって、本気で利下げを期待していたということになると、市場の人たちの頭の中はトランプ大統領並み、ということになってしまう。そりゃ駄目です。もっとも、「意外と正しいトランプさんの直観」という説もある。

○次に米雇用統計は失業率が3.6%、NFP(非農業部門雇用者増減数)が市場予測を上回る26万3000人ということに。にもかかわらず、民間部門の平均時給の上昇率は、前年同期比3.2%に留まり、「やっぱりねえ」という印象を残した。景気は強いけど、インフレは起きにくいのである。いくら雇用情勢が堅調でも、いくら財政事情が悪化していても。

○5月2日の英国地方選挙では、保守党と労働党という二大政党が揃って負けた。これも意外感はない。「Brexitはまだか!」という民意と、「Brexitなんてもう止めようよ」という民意の両方を敵に回しているわけだから。かくしてますます左右の分裂が深まるわけなのだが、そんなの知ったこっちゃないですわな。民主主義の産みの国の民主主義は、ますます迷走しています。

○中国における「五四運動百周年」はどういうことになっているのか、あまり伝わってきません。お詳しい方、教えてくださいますとありがたく存じます。そっちはともかく、来月は「六四」(天安門事件)の30周年もありますので、いろいろ気になるのであります。

○結局、北朝鮮がミサイルを発射したんじゃないか、というのがほとんど唯一のイベント・リスクでありました。でも、それって全然サプライズじゃないでしょ。たぶんトランプ大統領に対する「構って君」なんでしょうが、それで世間が振り向いてくれるわけもない。そんなの「地政学リスク」じゃないですわな。

○ということで、10連休の最中に為替が大荒れ、なんてことはなっておりません。幸いなるかな。これも新天皇即位の霊験あらたか、いや令和あらたか、と言うべきかもしれません。


<5月6日>(月)

○連休最後の日に何をするかは以前から決めていて、本日はTKP柏シアターで『バイス(VICE)』。ディック・チェイニー元副大統領の一代記を描いたコミカルな映画である。いやあ、懐かしい。そして楽しい映画でした。

○下手をすれば社会派の重いドキュメンタリーに、というよりハリウッドによる一方的な共和党糾弾になってしまいそうな作品である。ところがそこは前作『マネーショート』のコンビが作っているだけあって、お話しは悪ふざけ感が一杯。それでずいぶん救われている。分極化がとことん進んだ今のアメリカでは、「右も左も本気になって怒らせない」ような高度なテクニックが必要になっているのかもしれません。

○とにかく登場人物が本物によく似ている。「9/11」のシーンでは、ノーマン・ミネタ運輸長官と思しき脇役まで、本人とうり二つで登場する(でも最後のテロップでは名前を見かけない)。イラク戦争など、実物の映像も頻繁に登場する。だってここに描かれているのは同時代史なんだもの。

○一方で、時代状況みたいなものを伝えることは、難しいものだなと感じる。例えば映画の中では、カーター政権がホワイトハウスに太陽光パネルを掲げ、それがレーガン政権で撤去される姿が描かれている。それは「再生可能エネルギーの民主党、化石エネルギーの共和党」という図式で解釈されるんだろうが、そりゃあ70年代と80年代の石油価格を考えてみろよ、とツッコミを入れたくなる。たぶん経済合理性で説明できちゃうエピソードですぜ、あれは。

○まして「9/11」後の米国内の危うい雰囲気なんぞは、今では当人たちが忘れているから始末が悪い。ときどき米民主党支持者の中には、「ゴアが大統領であればイラク戦争はなかっただろう」という人がいる。ワシは人が悪いので、うんにゃ、アンタたちはどこかで誰かに対して大規模な軍事行動を起こさない限り、あの不定愁訴のような状況を続けられなかったはずだ、と思ってしまう。ついでに言えば、太平洋戦争だって「軍部が勝手に起こした戦争」ではないと思うのですよね。

○考えてみれば、イラク戦争の頃はこの溜池通信もそういうことばっかり書いておったのでした。そういえば『マネーショート』の金融危機の頃もそうでした。同時代史が、どんどん映画になってしまう時代。不思議だね。


<5月7日>(火)

○とっても久しぶりにネクタイを締めて出勤。令和の仕事がやっと始まる。

○連休中、イベントリスクがことごとく不発でいいお休みになったのだが、最後の最後でトランプ大統領の「中国許せないツィート」が飛び出し、昨日のアジア株などは総崩れ。本日は日本株も試練の一日となりました。

○「トランプさんのことだから、8日からの米中交渉に脅しをかけたのだろう」、などという声もあったが、どうやら10日からは関税も引き上げられる見込み。米中は再びガチンコになりつつありますな。さて、どうやって合意するのやら。

○本日はMMTに関する議論をしました。きわめて真面目な内容でありまして、「もっと財政を使え」(使ってもいい)という議論は、いつ、どんな費目で、どの程度まで許されるのか。アメリカでAOCあたりが言っている議論は、間違いなく偽物だと思うのだが。

○夜は外交論議。こんな風にあれこれと仕事があるのは、まことにありがたいことであります。


<5月8日>(水)

○問題です。令和初の国賓として訪日するのはドナルド・J・トランプ大統領(5/25-28)です。それでは平成最初の国賓は誰だったでしょう?次の中から選びなさい。


@クエール・アメリカ合衆国副大統領夫妻、Aムガベ・ジンバブエ大統領、B盧泰愚・韓国大統領、Cゴルバチョフ・ソビエト連邦大統領夫妻


○答えは本日の最後の部分で。

○実は今日、宮内庁のHPを調べていて驚いたのです。1989年(平成元年)2月の大喪の礼、1990年(平成2年)11月の即位礼正殿の儀には、まことに多くの賓客が訪日しているのです。いや、これはすごいですぞ。


●大喪の礼(1989年2月24日)

フィンランド国大統領夫妻
ナウル国大統領
バヌアツ国大統領夫妻
アイスランド国大統領
イスラエル国大統領
ドイツ連邦共和国大統領
ギニアビサウ国国家評議会議長夫妻
ザイール国大統領夫妻
アイルランド国大統領
ハンガリー国幹部会議長
バーレーン国王族アリ殿下
アラブ首長国連邦王族ムハンマド殿下
カタール国王族(外務担当国務大臣)アハマド殿下
サウジアラビア国王弟ナッワーフ殿下
オマーン国国王代理スワイニ殿下
モナコ国皇太子アルベール殿下
リヒテンシュタイン国皇太子ハンス・アダムス同妃両殿下
マレーシア国副国王アズラン・シャー同妃両殿下
モロッコ国皇太子シディ・モハメッド殿下
タイ国皇太子ワチラロンコン殿下
ブータン国国王ワンチュク陛下
スペイン国国王フアン・カルロス1世王妃両陛下
トンガ国国王トゥポウ4世王妃両陛下
ルクセンブルク国大公ジャン同妃両殿下
西サモア国元首タヌマフィリ2世殿下
ヨルダン国国王フセイン1世陛下,王族ザイド・ビン・シャーケル殿下
ベルギー国国王ボードワン王妃両陛下
ブラジル国大統領夫妻
エジプト国大統領
ガンビア国大統領
キプロス国大統領
ミクロネシア国大統領夫妻
ザンビア国大統領
インド国大統領夫妻
トーゴ国大統領
フィリピン国大統領
ガーナ国暫定国家防衛評議会議長
アメリカ合衆国大統領夫妻
英国王配エディンバラ公フィリップ殿下
フランス国大統領
イタリア国大統領
ケニア国大統領
スウェーデン国国王カール16世グスタフ王妃両陛下
ノルウェー国皇太子ハラルド殿下
デンマーク国王配ヘンリック殿下
ネパール国王弟ギャネンドラ殿下
ブルネイ国国王ハサナル・ボルキア陛下,王弟スフリー殿下,王弟(大蔵大臣)ジェフリー殿下
バングラデシュ国大統領
ホンジュラス国大統領夫妻
ナイジェリア国大統領
レソト国国王モシェシェ2世陛下
ギリシャ国大統領夫妻
ポルトガル国大統領
モルディブ国大統領
インドネシア国大統領夫妻
フィジー国大統領夫妻
パナマ国大統領代行
メキシコ国大統領夫人
コロンビア国大統領夫人
カンボジア国王族ラナリット同妃両殿下


●即位礼正殿の儀(1990年11月12日)

ベルギー国国王ボードワン王妃両陛下
西サモア国元首タヌマフィリ2世殿下
ルクセンブルク国大公ジャン同妃両殿下
デンマーク国女王マルグレーテ2世陛下,王配ヘンリック殿下
ブータン国国王ワンチュク陛下
スウェーデン国国王カール16世グスタフ王妃両陛下
ブルネイ国国王ハナサル・ボルキア陛下,王弟(大蔵大臣)ジェフリー殿下
マレーシア国国王アズラン・シャー王妃両陛下
ノルウェー国皇太子(摂政)ハラルド同妃両殿下
ザンビア国大統領夫妻
トーゴ国大統領
インドネシア国大統領夫妻
マリ国大統領夫妻
ガンビア国大統領夫妻
アイルランド国大統領夫妻
ジブチ国大統領
ケニア国大統領
モルディブ国大統領
キリバス国大統領夫妻
ボツワナ国大統領夫妻
アイスランド国大統領
セネガル国大統領夫妻
フィンランド国大統領夫妻
カメルーン国大統領
イスラエル国大統領夫妻
バングラデシュ国大統領夫妻
ドミニカ国大統領
ドイツ連邦共和国大統領夫妻
ガイアナ国大統領夫妻
中央アフリカ国大統領夫妻
フィリピン国大統領,同令嬢
ポルトガル国大統領夫妻
オーストリア国大統領夫妻
インド国大統領,同令嬢
フィジー国大統領夫妻
キプロス国大統領夫妻
パキスタン国大統領夫妻
マーシャル国大統領夫妻
ミクロネシア国大統領夫妻
マルタ国大統領夫妻
パラグアイ国大統領夫妻
エルサルバドル国大統領夫妻
スーダン国革命評議会議長
アルゼンチン国大統領
ボリビア国大統領
トルコ国大統領夫妻
ナウル国大統領夫妻
パナマ国大統領夫妻
ホンジュラス国大統領夫妻
ブラジル国大統領夫妻
コスタリカ国大統領夫妻
ユーゴスラビア国連邦幹部会議長夫妻
ルーマニア国大統領
ブルガリア国大統領夫妻
ハンガリー国大統領夫妻
モンゴル国大統領夫妻
サンマリノ国執政
メキシコ国大統領夫人
ヨルダン国皇太子ハッサン同妃両殿下
英国皇太子チャールズ同妃両殿下
タイ国皇太子ワチラロンコン殿下
モナコ国皇太子アルベール殿下
オランダ国皇太子ウィレム・アレキサンダー殿下
スペイン国皇太子フェリペ殿下
リヒテンシュタイン国皇太子アロイス殿下
ネパール国皇太子ディペンドラ殿下,王弟ギャネンドラ同妃両殿下
モロッコ国王子ラシド殿下
トンガ国王女ピロレヴ殿下,同夫君
カタール国王族ムハンマド殿下
サウジアラビア国王弟ナッワーフ殿下
クウェート国王族ナーセル殿下
オマーン国王族ファイサル殿下
アラブ首長国連邦王族ムハンマド殿下
スワジランド国王族デイビッド同妃両殿下
バーレーン国王族アリ殿下
英国王配エディンバラ公フィリップ殿下



○ちょっと絶句してしまいます。これだけ多くの人が来てくれてしまう。別に日本政府がアゴアシ付きで招待したわけじゃありません(中国の「一帯一路」フォーラムとは全然違う)。純然たる弔問外交なんですが、まさしく皇室こそは日本外交の超強力ソフトパワーというべきでありましょう。それにしても、世界には王族がいっぱいいるのでありますな。ベネルクス3国に3つの王室があるなんて、まるで反則みたいじゃないでしょうか。

○さて、気を取り直して本日の問題の答えです。答えはAのムガベ大統領です。


@のダン・クエール夫妻は、1989年9月に「公賓として」訪日しています。国賓と公賓ではいろいろ違いまして、たとえば国賓は宮中晩餐会が行われますが、公賓では宮中午餐会になります。ちなみに、ときのジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、1992年1月に国賓として訪日しています。このときはビッグスリーの社長を引き連れて訪日し、選挙戦を意識して"Job, Job, Job!"と叫んだものですが、慣れないことはするもんじゃなくて、宮中晩餐会の席でインフルエンザでぶっ倒れてしまいました。このときは宮沢喜一首相がバーバラ・ブッシュ夫人にマイクを渡し、とっさのスピーチで急場を救ったと言われています。

Bの盧泰愚大統領夫妻は、1990年5月に国賓として訪日しています。さらに1994年3月には金泳三大統領夫妻が、1998年10月には金大中大統領夫妻が、2003年6月には盧武鉉大統領夫妻が、それぞれ国賓として来日しております。この頃の日韓関係はまともだったのだなあ、と今さらながらに感心します。

Cのゴルバチョフ大統領は、1991年4月に国賓として訪日しています。さらに2年後の1993年10月には、エリツィン・ロシア国大統領夫妻が国賓で訪日しています。現在のプーチン大統領は、あんなに長いことやっているのに、国公賓には一度もなっていないのですね。ちょっと意外です。


○さて、ロバート・ムガベ大統領は、1987年に大統領に就任し、2017年にクーデターで追われるまで延々と同国に君臨し、現在も95歳で存命なようです。ちなみに平成2人目の国賓もアリ・ハッサン・ムウィニ・タンザニア大統領で、アフリカからなんですね。おそらく当時は、「天皇の政治利用があってはならない」ということで、敢えて淡々と決めていたのじゃないかと想像いたします。


<5月10日>(金)

○本日は冠婚葬祭総合研究所の客員研究員懇談会へ。

○10年前に比べて結婚式の件数は減って、でも単価は不思議と減らなく、結果として売り上げは減少している。お葬式の件数は増えているけれども、単価はやや減少傾向にあり、結果として売り上げは微増となっている。ゆえにセレモニーホール業界では、結婚式とお葬式の比率がかつては3対7だったけれども、今では2対8くらいになっている・・・・てな話を延々とお伺いする。

○儀式をビジネスにする業界は、なかなかに難しいところがある。古式ゆかしい伝統はどんどんすたれていくし、そもそも家族の数が減っていくと、節分だのひな人形だのといった行事も手を抜くようになる。かくなる上は、「長寿お祝い」とか「立志式」(14歳=数えの15歳を祝う行事。昔の元服と同じ)を流行らせて、新たな需要を創造しようとしている。

○新しく定着した行事としては、ハロウィンは輝かしい成功例であろう。「子どもが参加」「お菓子が出る」「変身願望(コスプレ)」といった要素が重なって、大ブレイクした。今や10月31日の渋谷スクランブル交差点は世界的名所となっている。さる人曰く。その日に渋谷の吉野家に入ったら、セーラームーンが5人並んで牛丼を食べていたそうである。

○それ以外の成功例としては「恵方巻」がある。これは広島県のセブンイレブンが発端なんだそうで、大阪出身の店長が思いついたのが始まりで、今では全国に拡散している。海苔業界などにとっては、こんなにありがたい話はないだろう。考えてみれば、「恵方巻」というネーミングが良かったのかもしれない。その年によって決められた方角を向き、食べている間は話しちゃいけない、というタブーがある点も画期的であった。

○ところが、いろんな業界が結託して新しいイベントを流行らそうとすると、意外にも死屍累々であったりする。特に残念なのがイースターである。クリスチャン最大のイベントであるのに、日本ではまったく定着しない。花屋さんと本屋さんが結託した「サンジョルディの日」(4月23日)は、いったい何が足りなかったのでしょうか。チョコレート業界の「バレンタインデー」はあんなに見事に定着したのに・・・・。

○冠婚葬祭業界にとっては、今回元号が変わったことは「追い風」になった模様である。5月1日は大安吉日だったこともあり、結婚式が非常に多かったとのこと。令和婚ですな。とはいうものの、若者の数が減るのはいかんともしがたい。業界としては、「せめて婚活をやらなきゃいかんですなあ」といった声が漏れていた模様。うむ、やはり経済は奥が深い。


<5月11日>(土)

○今日は土曜日だが、証券経済学会のパネリストを務めるために神奈川大学へ行かねばならぬ。ところで神奈川大学って、どこにあるのだろう。もちろん神奈川県内であろうが、キャンパスは4つもあるらしい。そのなかでも、横浜キャンパスであると判明。最寄駅は白楽駅だという。えっ、それって何線? ワシは横浜の地理をまるっきり知らんのだ。

○柏駅から上野ー東京ラインで横浜駅まで行って、そこから東急東横線を渋谷側に2駅戻る。白楽駅で降りるとそこは普通の住宅街で、すぐに大学の場所が分かるような感じではない。地図を見ると徒歩13分とある。途中で通過する六角橋商店街が妙に楽しそうで、いつかゆっくり来てみたい場所である。何度か迷いそうになりながら、神奈川大学に到着する。会場の7号館もすぐに見つかった。とりあえず遅れることが無くて良かった、よかった。

○土曜日とは言うものの、大学はちゃんと授業をやっている。学生もちゃんと来ている。そうでなくても先日は10連休があったから、ちゃんと授業をしないとカリキュラムを消化できないのであろう。ワシが学生だった時代には、授業が休講になると皆で万歳をしたものだが、きょうびの学生は休講になると文句を言うのだそうである。これだけでも隔世の感がある。

○考えてみれば、ワシはいわゆる「学会」というものに出るのはこれが初めてである。たまたま今日は、共通論題が「地政学リスク時代の証券市場」であったから呼ばれただけだ。そもそも学会というものにご縁がない。世間的には不肖かんべえは、日本国際経済学会なり、日本貿易学会なり、アメリカ政治学会なり、国際安全保障学会なりに所属していると思われているのかもしれないが、すいません、アカデミズムからはまったく遠い存在なんです〜。

○ということで、本日は処女地に足を踏み入れた感のある証券経済学会なのだが、特別講演に呼ばれているゲストが遠藤俊英・金融庁長官であるという点が掛け値なしにすごいと思う。この辺が学会のパワーというものか。カレントな金融行政に関するお話を聞けたのはラッキーでした。

○1998年に金融監督庁が発足したときは、四百数十人の組織だったのだそうです。それが金融庁となり、20年後の今では1600人と組織は4倍増している。しかも理系人材が多くなっていて、フィンテック(最近はデジタライゼーションと呼ぶらしい)からマネロン対策にSDGsまで、広範な責任を負っている。これだけ変化の速い官庁もめずらしいでしょう。それだけ対象分野が急発展した、ともいえる。

○などなど、学会に出てみるとやはり勉強になった、というのが結論であります。


<5月12日>(日)

○思えばちょうど1週間前、トランプさんの2本のツィートで米中関係の大混乱が始まったのでした。関税も本当に上がっちゃったし。これからどうなるのでしょう?

○とりあえず、この週末に寄稿した東洋経済オンラインの記事のリンクを張っておきましょう。基本は楽観論ということで。


●米中通商協議の妥結は意外に早いかもしれない〜トランプ大統領の「直観」は、結構正しい


○来週になると、米中間のもう少し詳しい内幕が伝わってくるかもしれません。まあ、引き続き出たとこ勝負ということで。明日朝は「モーサテ」に登場です。


<5月13日>(月)

○今朝はモーサテへ。令和になってから初めての登場である。と言っても、別段、普段と変わるわけではない。午前4時5分にクルマのお迎えが来て、ニュースをチェックしながらテレビ東京に向かう。

○到着したところでギョッとしたことが。3カ月連続で、ご一緒のゲストがマネックス証券の広木さんであった。2人が午前5時のテレビ東京入口で、お互いに指さしながら「ええっ、また?」と言いあったのは内緒である。これ、いつも当日になるまで分からない。念のために言っておくが、仲が悪いわけではありませぬので。

○ちなみに本日の「プロの眼マンデー」はこちら。米中の問題はもう一巡しているので、トランプさんの国賓待遇の訪日について語っております。見返してみると、当方が雑な答え方をするたびに、言い足りてない部分を佐々木あっこさんがいちいち丁寧に突っ込んでくれていることが分かる。いや、これは理想的な掛け合いというものです。

○今日の広木さんの発言で、「これだけ関税を上げると、さすがにアメリカは物価が上がるんじゃないか」(Fedは利上げが必要になるんじゃないか)との指摘が面白いと思った。関税は上がったところで数百億ドル。アメリカの個人消費は14兆ドル。だったら影響は軽微でしょ、というのは雑な議論で、中国製品は有名ブランドが少ない。その代わり、ウォルマートで売っているような商品は、多くが中国製だったりする。だったらやはり物価は上がるのではないか。問題は、いつごろ、どの程度、でありますね。

○1日にいろんな人から「今朝は出ていたね」と言われる。これでモーサテ出演暦10年超。まだ自分の居場所があるというのは、つくづくありがたいことだと思う。いや、本当に。


<5月15日>(水)

○昨日発表された4月の景気ウォッチャー調査は、あまり良い結果ではなかった。アンケートを回収したのは4月25日から月末まで。つまり「平成の最後の時期」であった。当然、「令和効果」があったはずなのだが、「街角景気」の上昇は限定的であった。現状判断DIは3月が44.8で4月は45.3と0.5ポイントの改善。ほとんど誤差の範囲内である。

○例によっていろんなコメントが交錯していて、その中には肯定的なものも否定的なものも入っている。が、いちばんワシ的に心に刺さったのは以下のものである。


「改元に伴い客の購買意欲が高まっており、一時的に景気は良くなっている。ただ、こうした状況は長く続かない」(北海道=高級レストラン)


○いや、仰る通りなのです。つまり個人消費が伸びるには、気持ちが明るくなるだけでなく、所得環境の向上が欠かせない。現在の日本経済は雇用情勢が改善し、就業者数も増えている。とはいえ、賃金が目立って伸びているわけではない。ということは、気持ちだけ明るくなっても「先立つもの」が続かない。結果として、以下のようなコメントが続くことになる。


「大型連休を前に旅行関連消費は盛り上がっているが、旅行以外については消費を抑えようとする姿勢が感じられる」(東海=百貨店)

「連休後は節約するため、消費は落ち込むと考える」(北陸=スーパー)

「新年度になったが、改元や統一地方選挙の話題があっても、新聞広告や新聞求人に大きな変化はみられない」(近畿=新聞社)

「当社は部品製造だが、受注量や内示が急にストップしている」(南関東=金属製品製造業)


○折からの米中通商摩擦を受けて、株と為替の方は今日でやっと歯止めがかかった感がある。令和の景気は波高し。そんなことを感じさせた街角景気でした。


<5月17日>(金)

○先日、とっても久しぶりに銀行と証券会社を訪れて、はてさて自分の資産運用はどうなっているかと振り返ってみたら、ほとんど不作為に等しいことに気がついた。しかも少しばかり存在する投資は、なぜそうしたのかをスカッと忘れてしまっている。ひどいものである。ひとはこれを「紺屋の白袴」とか「医者の不養生」というのかもしれぬが、まあ日本人の平均値みたいなものであろう。

○不思議なことに自分は数万円のギャンブルには熱くなれるのだが、ゼロがいくつか多くなるととたんに無関心になってしまうのである。これはあまり賢いこととは言えない。ギャンブル(少額)に投じる時間と労力を、資産運用(高額)に回す方が効率が良いはずである。が、いかんせん頭が働かない。というより燃えない(萌えない)。

○もっと言えば、ギャンブルを止めて本業に全力を投球するのがいちばんよいことになる。が、そんなに良いことはこの世の中では実現しない。考えるだけ無駄というものである。今週末であれば、むしろオークスやダービーについて考えるべきである。あ、米中関係の行方もちゃんと見ておかなきゃいかんですが。

○世の中には『熔ける』の人のように、バカラで100億円以上を失ってしまった人もいる。こういう人のことを、ワシは責める気になれない。むしろそこまで負けたか、痛烈なことよの、と思う。自分は薄情薄恨な性格なので、おそらくそこまではいかない。

○どうでもいいことだが、この人は本の中でバカラのことを「丁半博打」と呼んでいる。不思議なことだと思う。ワシも何度かバカラをやったことがあるが、あれが丁半だと思ったことはない。のめり込み方が足りないからであろうか。

○話を戻して、資産運用において一番大事なことは残高であろう。そこに自分の納得のゆく金額があれば何の問題もない。利回りがどうとか、投資戦略がどうとか、ましてやESGなんてことは考えなくていい。そうだ、そういうことにしておこう。


<5月19日>(日)

○先日、ワイン会に呼んでもらいました。6人で6本あけたのですが、その日のメインは、イタリア産赤ワインの「アマローネ」、1997年と2013年でした。

○1997年といえばアジア通貨危機があった年であるし、2013年といえば黒田ノミクスが始まった年である。2本のワインをグラスに注ぐと、同じブランド、同じ製法の同じワインなのに色あいがまったく違う。黒田ノミクスはキレイな赤紫色であり、アジア通貨危機はやや濁った色になる。見るだけなら、2013年のアマローネが魅力的である。

○ところが2つを飲み比べすると、明らかに1997年の方が味わい深い。こちらを先に飲んでしまうと、2013年の方はどこか物足りなく感じる。なるほどワインというものは、こんな風に時間をかけて熟成していくものかと感心する。ワインの「師匠」の言によれば、アマローネは本来、20年後くらいに飲むのが最適なのだそうだ。

○ということで、飲んだ者の間ではこんな会話になりました。

「熟女の魅力の圧勝ですね」

「ええ。ただし保存状態にもよりますね」

○単に時間をかければいいというものではない、というのがアレですな。人もワインも。


<5月20日>(月)

○今朝、1-3月期GDP速報値が「年率2.1%」という数字を聞いて、「えっ、マイナスでしょ?」と尋ねてしまった。いくらワシがいい加減なエコノミストであるにせよ、ここまで予測がはずれていいものであろうか。てっきり大マイナスだと思ってましたがな。

○この結果をどう見るか、といえば正直な感想は以下の通りである。

@外需が大マイナスだろうと思ったら、輸出が減る以上に輸入が減っていた。だから純輸出はプラスとなる。これは日本の景気にとって良い話ではない。

A設備投資も相当に減っただろうと思ったら、それほどでもなかった。これは今後の法人企業統計季報と、6月10日に公表される2次速報値を見なければならない。

B民間在庫投資の伸びに助けられている。これもあんまり良いことではない。

C住宅投資も増えているが、これは消費増税前の駆け込み需要を受けたからだろう。消費増税の特例は3月末日までですから。今、住宅建設の契約をすると、税率は10%になりますので、念のため。

D個人消費の前期比マイナスは予想通り。暖冬や食品値上げの影響があったというのはその通りだろう。1-3月期は「令和ブーム」とも無縁でしたし。

○こんな風にQEの予想が大きく外れるのは、めずらしいことではありませぬ。いや、「もっと強いと思っていたのに〜!」ということの方が多いですけど。もちろん、内閣府の職員が官邸に忖度して数字を変える、などということはあり得ません。それはもう、言っちゃ悪いけど厚生労働省とはプライドが違いますので。QEが近づくと、担当者は他部門の誰とも口をきかなくなる、というくらいにそこは頑固だそうです。

○むしろ官邸にとっては、こんな感じじゃないでしょうかね。


「あー、困った。これじゃ消費増税の延期ができないじゃないか。日ロ交渉だってサッパリだし、拉致問題だって全然進まない。つまり国民の信を問いたくても、大義名分が見当たらない」

「野党がトチ狂って、内閣不信任案なんか出してくれないかな〜。そしたら遠慮なく解散して、衆参ダブル選挙で壊滅させてやるのに。アイツら、マジで政権獲ろうという気がないんだもん」

「サンデー毎日の三浦氏による参院選予測では自民党が54議席だけど、それって現有から▲12議席だからね。自民党の単独過半数も割れちゃうし、改憲勢力で3分の2も難しくなってしまう」

「ああ、解散したい、解散したい。でも解散できない。野党が不信任案を出してくれなかったら、『アンタって人は、口先だけのいくじなし!』と呼んでやろう。それくらい許されるよねえ」


○などとあらぬことを考えてしまう今朝のQEでした。


<5月21日>(火)

○昨日の続き。果たして解散→ダブル選挙はあるのか、ないのか。

○議員秘書曰く。「『2年間の法則』が独り歩きしている。2014年と17年の抜き打ち解散で味をしめたせいか、与党内はとにかく2年たったら解散だと思い込んでいる人がいる。4年の任期も後半になれば、解散の機会が失われるのではないかと怖れている。だから解散風が吹く。でも、それを言ったら、今年の秋に解散するという『時間差ダブル』でもいいんだけどね」

○元議員曰く。「衆参同日選にすれば票が伸びる、なんてのは中選挙区制時代のこと。あの頃の自民党議員は、みんな一国一城の主だったから、衆議院議員が互いに競い合えば参議院も票が伸びた。今はそうじゃない。若い衆議院議員の中には風頼りで、地元に後援会も作っていないのがいる。週末も東京に居るんだから困ったものだ。ああいうのはこの際、少し淘汰された方がいいね」

○政治記者曰く。「ダブル選挙は報道が大変だから勘弁してほしい。メディアも昔みたいに人手とカネが足りている時代じゃないんだから。衆参の両方で選挙区と比例区があって、しかも衆議院の方はやるかやらないかがわからない。これでどうやって準備しろというのか。しかも最後のダブル選挙は1986年。過去のデータがほとんど通用しない」

○政権インサイダー曰く。「憲法改正のためには衆参3分の2以上の議席が必要だ。だからと言って、与党が衆参3分の2以上の議席を有していると、いつまでたっても国会では憲法改正の議論が始まらない。だったらむしろ選挙で少し議席を減らして、3分の2を割った方がいいんじゃないか。安倍さんはダブルにこだわっていないと思う」

○シンクタンク研究員曰く。「消費税の増税を延期して解散するのならわかるが、増税を予定通り行うけど解散はする、ということは考えにくい。仮に日ロ交渉や日朝交渉が進むにせよ、そんなこと普通の国民には関心ないんだから。でも増税延期って、さすがに無理でしょ」

○うーん、いろいろあるんだけど、今年は令和元年であって、皇室行事があって、外交日程もたくさんあって、そういう年に敢えて解散しますかね。例えば通常国会の会期末に解散するとしたら、大阪G20会議のときに衆議院議員は全員クビになっている。問題ない、と言い切ることもできるけど、実際問題としてやりますかねえ・・・。


<5月22日>(水)

○本日はNPO法人岡崎研究所の理事会へ。

○理事仲間の金田提督から、最近の海上自衛隊についていろいろ伺う。そういえば今週末には「空母いぶき」が封切りになり、同時にトランプ大統領が訪日して、週明け28日火曜日には横須賀へ行って、いずも型海上護衛艦「かが」を視察する予定ではなかったか。こんなうまい日程、いったい誰が準備したのだろう。そしてこのことを、中国がどんな風に受け止めるのだろう。

○聞けば先月23日、中国チンタオでは10年ぶりに、「中国海軍創設70周年記念国際観艦式」が行われたのだそうだ。わが国も含め、実に61カ国から代表団が派遣されたそうだが、その実働時間はわずかに1時間であった。おいおいおい、3年に1度のわが国観艦式では、海自は朝早くからから午後まで目いっぱい時間を使って横須賀沖で展開しておるぞ。しかもそこには無数の自衛隊ファンが駆けつける。

○さらには総理大臣はヘリで登場し、旗艦くらまに降り立って指揮を執る、などのギミックがついている。その点、習近平主席はとっても地味である。空母「遼寧」は参加したけれども、国産空母は姿を見せなかった、というのも不思議な話ではないのだろうか。

○ところで本日夕方にはNHK第一「Nらじ」に伺いまして「激化する米中貿易摩擦、世界への影響は」みたいな話をいたしました。明日は「クローズアップ現代プラス」に登場いたします。米中関係、まさしく佳境に入っております。


<5月23日>(木)

○昨日発行の「官報」にこんな通告が載っている。おいおいおい、こんな風に手の内明かしていいのかよ。


●外務省告示第十五号

アメリカ合衆国大統領の来日に際し、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律(昭和六十三年法律第九十号)第四条第一項の規定に基づき、次の地域を「外国公館等周辺地域」として指定する。

令和元年五月二十二日

外務大臣臨時代理 国務大臣 菅 義偉


一 東京国際空港周辺地域

二 茂原カントリー倶楽部周辺地域

三 皇居周辺地域

四 赤坂プレス・センター周辺地域

五 パレスホテル東京周辺地域

六 迎賓館周辺地域

七 国技館周辺地域

八 米海軍横須賀基地周辺地域

九 海上自衛隊横須賀地方総監部逸見庁舎周辺地域

十 六本木アロービル


○明後日から来日するトランプ大統領の行動範囲が全部ばらしてある。茂原カントリーでゴルフすることくらいは既に報道されているが、パレスホテルに泊まると知られるのは拙いのではないか。こういうものを発表するときは、ついでに帝国ホテルとニューオータニくらいも入れておいて、大統領がどこに泊まるのか分からないようにする、てな配慮はなかったのだろうか。

○しかも「六本木アロービル」というのは、日曜夜にトランプ夫妻が安倍首相夫妻と一緒に行く「炉端焼き」の店だと見える。「炉端焼き」と「六本木アロービル」で検索すればすぐにわかりますな。日曜日の夜にこの店の近くに行けば、非常に高い確率で生トランプさんを見ることが出来そうです。

○まあねえ、この国は「以下の時間、以下の周辺地域でドローンを飛ばしちゃダメなんです」ということまで、官報に記載しなきゃいけない仕組みになっているわけで、ホントに大丈夫かと心配になってまいります。トランプさん、あなたがこれから訪れる国は、セキュリティ音痴のとんでもない国でありますぞ。


<5月24日>(金)

○本日は大阪へ。中央電気倶楽部の午餐会講師のためで、これで3〜4回目かと思ったら、実は5回目であった。すいません、ご贔屓をいただいております。

○明日からはトランプ大統領が東京へやってくる。そして来月になると、今度は大阪のG20首脳会議にやってくる。世界の首脳がやってくるので、「6月末には誰が、どこのホテルに泊まるのか」というのが、現下の大阪市民の関心事。というか、各国からやってくる首脳たちは皆さんスイートルームでしょうから、G20を招致するためにはある程度のホテルが最低でも20個以上必要ということになる。何しろG20には、国際機関の首脳も入っておりますので。

○一方で、6月28〜29日には大阪市内の交通規制も相当なものになりそうだ。ご近所にあるクラブ関西は、早々と当日の休業を決めたとか。だってお隣は全日空ホテルだから。あそこはワシ的にはお気に入りですが、いったいどの国の誰が泊まるんでしょうねえ。

○とまあ、賓客の来訪はめでたくもあるけれども、いろいろ面倒でもある。まあ、オリンピックや万博の準備をするのだと考えて、粛々とやるしかありませんな。

○ところで本日の大相撲。朝乃山が栃ノ心に勝って、鶴竜が高安に負けた。ちょっと怪しい感じもあったけどね。富山市出身で呉羽中学、富山商業高校、近畿大学出身の朝乃山が初優勝に一歩近づいた。それよりも、トランプさんが授与するという「米大統領杯」がどんなものなのかが気になります。さて、千秋楽はどんなことになるのやら。


<5月26日>(日)

○いや、大相撲は朝乃山、ダービーはロジャーバローズ(浜中俊騎手)、いずれもサプライズの結果となりました。なんだかんだで「令和初」効果があったんじゃないですかね。ロジャーバローズは12番人気でしたが、朝乃山の優勝もおそらくは同じくらいの前評判だったんじゃないでしょうか。三役経験のない力士の優勝は、58年ぶりの快挙だそうです。

○朝乃山、富山県出身の力士としては103年ぶりの優勝だそうでして、地元紙の北日本新聞などは大騒ぎであります。どうやらその昔、富山出身で太刀山(1877〜1941)という横綱がおったらしいですな。って、知りませんがな、そんなこと。本日はめでたくトランプ大統領からトロフィーをもらいましたけど、これは1回限りですから値打ちありますよね。

○その一方で、アメリカ大統領がやってきても大相撲は大相撲。いつもとそんなに違うわけではなかった。心なしか、大統領と首相ご一行様が引き揚げたら、国技館の一同がホッとしているように思えました。まあね、この後、行く先々で同じことが繰り返される気がいたします。

○それはそれとして、トランプ訪日を伝えるワシントンポスト紙の報道(Trump visits a Japan buffeted by U.S. trade war with Japan)に不肖かんべえのコメントが引用されました。


Japan says any deal has to be reciprocal and include corresponding concessions by the United States, to comply with World Trade Organization rules and have a chance of ratification by Japan’s parliament.

Tatsuhiko Yoshizaki, a market economist at Sojitz Research, says the TPP and Japan-E.U. trade pacts have strengthened Japan’s hand in trade talks with the United States.

“When the latest round of talks began, Japan did feel under pressure, as it’s beholden to U.S.-Japan security relations,” he said. “But thinking hard, the situation is different now. It is the United States that is hard-pressed to make a deal without delay. Time is on Japan’s side.”


○ああ、よかった。まともな内容で。「トランプさんが土俵に土足で上がったらどうしよう」みたいな内容が掲載されたら恥ずかしい、などと心配しておりました。


<5月27日>(月)

○講演会の仕事で北九州市へ。スターフライヤーズで飛んで、後は北九州空港からバスに乗って小倉駅へ。

○と言っても、時間が全然ないので、義理のある方々には一切声をかけず、仕事が終わったらすぐに帰ってしまう。ああ、申し訳ない。ただひとつ、40分ほど空いた時間に行ってきたのが北九州市漫画ミュージアムである。予想していたのとはかなり違っていたけれども、漫画文化の解放区を作ればそりゃあ、こんな風になるわな、といった風情あり。いやもう、オタクカルチャー全開。

○もうちょっと松本零士ワールドなのかと思ってました。でも、北九州市出身の漫画家というと、北条司とかわたせせいぞうもいるんですね。蔵書もすごい数だし、まんだらけもあるし、中はほとんど迷子になりそうな感じである。(なおかつ、トランプ訪日に関する取材の電話がかかってきたりもする。そんなの知らんがな〜)

○考えてみたら、ワシもこういう漫画文化からかなり遠ざかってしまっている。先日、ベッドでごろりと漫画を読もうかと思ったら、哀しいかな、ワシはもう老眼鏡なしには読めなくなっていることに気がついた。もう、それだけで一気に年をとったようなショックであった。でも、ワシは幼いころから50数年間、メガネ要らずの人生を送ってきたわけで、それだけ恵まれていたということなんだろうか。


<5月28日>(火)

○トランプ夫妻の訪日は、当初の想定よりもはるかにいい印象を残してくれた。長いなが〜い日米関係の歴史の中でも、微笑ましい1ページが残ったと思う。このことに比べれば、貿易交渉がどーのこーのといったことは些事というべきであろう。なんとかして安倍首相とトランプを叩きたい一部のメディアは、いろいろと難癖をつけているようだが、たぶん後で恥じ入ることになるのではあるまいか。

○まことに残念なことながら、歴代のアメリカ大統領の国賓訪日は、かならずしもいい思い出を残していない。1992年1月のブッシュ父は、インフルエンザのせいで宮中晩餐会でぶっ倒れてしまった。1996年のクリントン訪日は、「日本に来るたびに首相が変わっている」というジョーク――というよりも、それは単なる事実だったのだが――だけが記憶に残っている。ブッシュ子大統領は4度も訪日して、一度も国賓にはならなかった。そして2004年のオバマ訪日は、せっかく「すきやばし次郎」で接待しているのに、伝説の鮨を食べながらTPP論議を吹っかるというKYぶりであった。その点、今回のトランプ大統領は、心の底から日本滞在を喜んでいた様子だった。

○変な話、令和初の国賓がオバマ大統領であったなら、彼は皇室に自然な敬意を示してくれるキャラクターであったけれども、「こんな風に日本で歓待を受けてしまうと、後で韓国が拗ねるかもしれない」的なバランス感覚が働く政治家であった。だからせっかくの国賓待遇だというのに、2014年には東京に2泊3日滞在させるだけで日本外交はまことに苦労したのである。その点、日本に3泊4日滞在して、堂々とソウルをスルー出来るのはトランプ大統領の強いメンタル、というよりも単にシンゾーが好きでムンジェインが嫌いなだけなのだと思うが、こういうバランス感覚のなさがまことに好ましい。まあ、韓国は来月の大阪G20サミットの後にでも寄ってあげてください。知らんけど。

○茂原カントリーでの両首脳のツーショットを見れば、ああ、この人たちは本当にゴルフを楽しんでいるのだな、ということがよく分かった。国技館ではちゃんとスリッパをはいて土俵に上がり、表彰状を読む際には「アサノヤマ」も「レイワ、ワン」も間違えなかった。皇居を訪ねた際には、ビックリするくらいに皇室に敬意を表してくれた。実を言うと、新天皇皇后両陛下のデビューに不安を感じていた人は少なくなかったと思う。ところが、神妙な顔をしたトランプ大統領を前に、天皇陛下はまことに自然にふるまっていた。さらに皇后陛下が素晴らしかった。いや、良かった、よかった、ホッとした。

○シンゾーとドナルドの関係は、「俺、来月はちょっくらイランに行ってくるからね。いいだろ?」「おう、よろしく言っといてくれ」とお互いに言えてしまうのだから、途方もなく深い関係であることを認めざるを得ない。イランの核合意は常任理事国5か国とドイツがまとめたもので、日本外交はこれまでほとんど関与していない。それが事態収拾のために、ひと働き出来ると考えただけで、これは快挙というべきである。

○問題は安倍首相が、米中関係のためにどこまで働けるかである。貿易戦争の回避は世界経済のため、アジアのため、そして日本のためである。その変の努力は、今後おいおい表に出てくるのではないかと思う。


<5月29日>(水)

○上海からシンクタンク研究員が来訪。米中貿易戦争やら諸般の情勢について意見交換。

○多少は「ヨイショ」もあるのだろうが、「今や日本は、世界における自由貿易の旗手ですねえ」などと先方がいう。

「うーん、そうだなあ。TPP11はあるし、日欧EPAはあるし」

「RCEPだって、今年中に成立するかもしれません」

「そうだよねー、RCEPはインドが問題なんだけど、インドはモディ首相が選挙に勝っちゃったからねえ。まあ、パキスタンを空爆するあたり、根性が入ってるからなあ」

○そこでハッと思い付いたのだが、RCEPができてしまうと、日本は世界の主要国のほとんどとFTAが結べてしまうことになる。いや、アメリカが残っているのだが、そのアメリカとはいずれFTAを締結することになるのだろう。農産物問題があるからね。トランプさんがツィートしていたように、8月にまとまるはずがないのであるが。まあ、そういうことは、あんまり気にしてはいけない。ここは"Don't take him literally."の法則を思い出すべきところである。

○ということで、日本はTPPで太平洋諸国、日EUでEU、RCEPで中国と韓国とインドとFTAが出来る。これに日米FTAが加わる。そこまで行ってしまうと、G20の国で残るはブラジルとアルゼンチンとサウジアラビアと南アくらい。世界のGDPの8割以上とFTAが結べてしまうことになる。

「うーん、でも、なぜ日本がここまで貿易自由化できたかというと、それはトランプさんがTPPを抜けてくれたからですな。アメリカが抜けちゃったから、仕方がなく日本が頑張って、TPPの残り11か国でまとめた。そしたら、EUが危機感を抱いて、日本との交渉を急いでくれた。日本の実力ではないんです。元はと言えば、トランプさんのお蔭なんです」――なんという逆説的状況でありましょうや。

○ホントに隔世の感があります。2013年に日本がTPP交渉に遅れて参加した時には、「めんどくさい国が仲間に入ってきたなあ」「でも、GDPは大きいし、農産物をいっぱい買ってくれそうだから、まっいいか」みたいな目で見られていたのであるが。


<5月30日>(木)

○最近の世の中に満ち溢れているのが「歩きスマホ」である。そういう人は、"Absent minded"(心ここに非ず)になっている。その気持ち、まことによくわかるわけであって、ワシなどが小学生の頃には、シャーロックホームズ全集などを読みながら歩いていて、ほとんど二宮尊徳のような状態であった。もちろん刻苦勉励していたわけではなくて、通学途中でただただオタク的な興奮に陥っていただけなのである。

○そういう現象は、21世紀になって万人に普通の、ごく当たり前のことになった。だってほら、居るでしょ? スマホの画面を見ながら凍り付いていて、電車が来ているのに動いてくれない人が。昔はそこまで何かに熱中することは、限られた人にだけ許されたことだったのですが。

○何が言いたいかというと、今朝は平河町のルポール麹町で朝食会があったので、大手町で半蔵門線に乗り換えたのです。でもって、永田町駅で降りればいいだろうと考えて、いつもの通り朝のネット画面に魅入っておったわけです。そしたらですな、どこか変なのです。ワシのことをジロジロ見る人がいたりして、なんか変だな〜という予感がしておったわけです。

○半蔵門駅までついたところで、その違和感の正体が突然、判明した。ワシが乗車していたのは女性専用車だったのである。あちゃー、いつも乗る千代田線ならわかっているのだけれど、滅多に乗らない路線だとついつい気づかないのであります。そうかー、そりゃ睨まれるはずだわな。

○ということで、そそくさと次の駅で降りたわけですが、いや〜、お恥ずかしい。焦りましたです。それにつけても、いつでもどこでも何かに熱中できてしまい、「私はここに居るけれども、わが心はここにあらず」という性質は、どんどん世の中に広がっているように想われます。


<5月31日>(金)

○日米通商摩擦について調べていて、2018年度の貿易統計を見てハッと気がついた。日本の対米貿易は、この1年で輸入(9.1兆円)が11.2%も伸びているのである。ちなみに輸出の方は15.6兆円で、こちらは2.9%の伸びに過ぎない。

○それではどんな品目の輸入が増えたのだろうか。2017年度に比べて、寄与度の高いものを選んでみた。


品名 単位 数量 伸率(%) 価額(百万円) 構成比(%) 伸率(%) 増減寄与度
総額            9,103,755 100 11.2 11.2
@航空機類            500,580 5.5 45.1 1.9
A原油及び粗油 千KL    4,097 150.9 212,431 2.3 225.0 1.8
B液化天然ガス 千トン    2,829 200.8 170,442 1.9 195.4 1.4
C穀物類 トン     18,547,550 18.5 500,122 5.5 24.3 1.2
D液化石油ガス 千トン    7,274 19.1 441,217 4.8 24.0 1.0
E医薬品 KG     11,192,100 4.9 484,302 5.3 19.6 1.0
F石炭 千トン    12,144 35.4 210,670 2.3 52.5 0.9


○こうしてみると、けっこう輸入拡大の努力の跡が窺える。

@航空機類は普通のボーイング製旅客機だけでなく、たぶんステルスF35戦闘機なんぞが含まれているのであろう。

C穀物類も、欧州やアジアからの輸入が減って、アメリカ産が増えている。どうやら「振替」が行われているのではないか。

○そして何より驚くのは、エネルギー関連、化石燃料関連の品目が非常に多いのである。それも対米LNGの輸入が増えているくらいは想像の範囲内で、伸び率の195%増は劇的な伸びと言える。まあ、輸入が始まったのがわりと最近なので、そもそも発射台が低いから、そんなに全体をけん引するほどではない。

○その間に増えているのが「原油及び粗油」や「液化石油ガス」(LPG)、それに「石炭」である。特に原油及び粗油の輸入が前年比3倍増となっている。これはシェール開発でありますな。LPGというのもめずらしくて、たぶんアメリカでは、もったいないけれども採掘に伴う随伴ガスを捨てている。これを大事に買わせていただく。するとサウジ産のLPGの値段が下がる。面白い現象です。

○こういう輸入拡大も、一種のトランプさん対策ですな。しかしこんなに忖度して、化石燃料をガンガン買っていて、原発の再稼働が進んだ時にどうするのだろう。ちょっと気になりますなあ。











編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki