<9月1日>(月)
〇今日は防災の日。よりによってこんな日に、突如として総理大臣が辞意表明したことがありましたよね。2008年9月1日の福田康夫首相の事例です。
〇福田さんとしては、「自分には『選挙の顔』なんて務まらないから、麻生さんアンタに任せるよ。いつものように明るく振舞って、早いとこ解散して総選挙をやってくれ。今ならまだ民主党には負けないだろうから」という思いだったのですよね。ところがそのちょうど2週間後にリーマンショックが起きてしまい、麻生政権はダッチロールを始めてしまう。その1年後には自民党は下野することになったのでありました。
〇4年前の2021年には、9月3日に菅義偉首相が、「来る自民党総裁選には出馬しない」ことを宣言しました。文字通り矢尽き刀折れるの感がありましたね。昨年の岸田さんは、少し早くて8月14日でした。政治日程からいって、この時期はそういうことが起きやすいタイミングです。いずれも身を引く理由は、「野党に政権を渡すわけにはいかないから」でした。福田さんも菅さんも岸田さんも、組織の長としてやっぱり「自民党LOVE」だったんです。
〇それでは明日の自民党両院議員総会を前に、石破さんはどうするのか。ひょっとしたら今日で辞意表明かなあ〜と思っていたのですが、どうやらそんな雰囲気ではない。明日も続投表明ということになるらしい。やっぱり他の人に比べると、「自民党LOVE」の度合いが低いんですよね。その辺が歴代の総裁とはちょっと違うところです。
〇ただし森山幹事長は、そうではないでしょう。7月20日の参院選の総括を、9月2日まで引っ張るというのもどうかと思いますが、それを発表する時点でみずからの責任問題を逃げることはないでしょう。なにしろもう80歳だし、おカネに不安もないのだし、ご自身が正しいと思うことをできる立場です。たぶん身を引かれるのではないでしょうか。
〇ところが今日になって飛び交う噂は、石破さんが進次郎を次の幹事長に指名して、森山さんを幹事長代行に降格させるという話です。そういう手練手管をやっている場合でしょうかねえ。そんなことで自民党が生まれ変われるとは思えないし、臨時国会を開いた次の瞬間に野党が提出した不信任案が通るかもしれない、という現実は変えられません。まさか本気で2027年10月の総裁任期いっぱいまで政権を続けられると思ってはいないでしょうね。
〇最近の世論調査の支持率が上がっている、ということを根拠に、石破さんが粘ろうとしたところで、来週9月8日には臨時総裁選実施の可否が決まる。逢沢一郎総裁選管理委員長のお気持ちはと言えば、「自民党始まって以来のリコール総裁選なんて、われわれはやりたくないんだ。石破さん、頼むから今週中にご自分から辞めてくれ〜」でありましょう。その気持ち、果たしてどこまで通じていることか。
〇私は自民党員でもなんでもないですけど、「自民党LOVEでない総裁」を自民党が担ぎ続けることに対しては違和感があります。石破さん、ここは身を引くべきじゃないですかね。でないと自民党は生まれ変われないですよ。ご本人が自分から辞めようとしないなら、やっぱり党内の過半数が臨時の総裁選を支持することになると思います。世間の空気なんて、ほんの一瞬で変わってしまいますからねえ。
<9月2日>(火)
〇サントリーというのは、それはもう楽しい会社でございました。最近のことはよく知りませんが、その昔、1980年代の頃には日商岩井の社内で「サントリービールの夕べ」というものがありましてな。入社したばかりのワシには、本当に楽しい思い出でありました。当時は社内報の担当者でしたから、写真も撮ったし記事も書いたものです。
〇当時はまだ系列制度が厳としていた時代です。同じ商社でも、三菱商事はキリンビール、三井物産はサッポロビール、住友商事はアサヒビールと決まっておりました。伊藤忠商事と日商岩井はサントリーだったんですよね。確かビールの原料と機械を、それぞれが納入していたご縁でありました。まだモルツビールが誕生する以前です。まだそんなに人気がなかった頃のサントリービールが、わざわざ会社にプロモーションに来てくれるのです。
〇その日になると社内でチケットを売り出してですな、夕方から食堂フロアに皆が勢揃いしてビールを飲むのです。そこへ佐治敬三社長以下のサントリー経営陣が、ぞろぞろと壇上に上がるわけです。これがまあ、ホントに「温泉旅行に来た中小企業のオヤジさんたち」みたいな風情で、佐治さんが「こらっ!」と叱ると、役員が「へへっ!」となる。見るからに吉本興業のノリなんです。
〇そして佐治敬三社長が、壇上で『ローハイド』を唄うのです。いい声でしたねえ。ほれ、♪ローレン、ローレン、ローレン♪というアレですよ。あの歌、バックでムチの音が入りますよね。佐治さんはスリッパを持ってきていて、それを両手で叩いてムチのような音を出すんです。もう会場は大喝采になります。
〇そして壇上の役員の皆さんは、それぞれに自分の本部の商品をサービスしちゃうのです。そこはサントリーさんですから、ウイスキーもあれば、ソフトドリンクの詰め合わせもある。どっかのコンサートのチケットもあったりする。それらを大盤振る舞いするから、ますます会場は盛り上がっちゃうわけです。
〇壇上に一人だけ若い人がいて、それが周囲から「ジュニア」と呼ばれ、番頭さんたちにいじられている佐治信忠さんでした。あれが帝王学だったんでしょうなあ。後に信忠さんは社長になり、アメリカのジム・ビーム社を買収し、その経営を新浪さんに託し、サントリーの売り上げと利益を思い切り拡大しました。その新浪さんに事件が発生した今回、今度は鳥居信宏社長に記者会見の試練を与えたようです。
〇つくづくファミリー企業というのはたいしたものですな。危機管理に関しては、上場企業よりも優れているんじゃないだろうか。サントリーさんは、やっぱりたいしたものだ。・・・とワシが思うのは、今宵もプレミアム・モルツを飲んでいるからかもしれない。
<9月4日>(木)
〇わが阪神タイガースはバンテリンドームで中日ドラゴンズを倒し、今日でマジックは4。サトテルは36号2ラン。岩崎は30セーブ目。明日からは阪神甲子園球場で広島と3連戦。こりゃあ、今週末で優勝が決まってしまいますな。
〇今宵はWBSに出演していたので、もちろん試合は見ていないのですが、番組終了後に竹崎キャスターといつものトラ談義。「今年はランディ・バース以来、タイガース選手がホームラン王ですよ!」などと言って盛り上がっていたのだが、考えてみたら彼女はバース様を直接は見てはおらんわな。あれって1985年のことではないか。
〇40年前のことを、つい昨日のことのように思い出してしまうワシは、やっぱり老けておるのだ。当たり前か。
<9月5日>(金)
〇普通なら雨は歓迎じゃないですが、これだけ涼しくなるならありがたいです。今日は在宅勤務だったから、台風でもなんでも結構。ホッとしますなあ。
〇さて、赤沢さんが10回目の訪米で、日米関税交渉に関する大統領令が出ました。そっちは本日の溜池通信で触れたんで、問題は5500億ドルの対米投資をめぐる覚書の方ですな。どうやら本日午後に出たロイターの報道によると、以下の通りだそうです。
ー経済・国家安全保障上の利益を促進するため、半導体、医薬品、金属、重要鉱物、造船、エネルギー(パイプラインを含む)、人工知能(AI)/量子コンピューティングを含む様々な分野で日本が米国に5500億米ドルを投資する。
ー2029年1月19日まで随時投資する。
ー投資先は、米商務長官が議長を務める投資委員会が推薦した中から米大統領が選定する。
ー投資委員会は大統領への推薦に先立ち、日米両国から指名されたメンバーで構成する協議委員会と協議する。
ー日本は、大統領が投資先を選定したと通知を受けてから45日以上経過した日に、指定された単一または複数の口座に米ドル建ての即時利用可能な資金を拠出する。
ー日本は投資に必要な資金を提供しないことを選択できるが、決定前に米国と協議する。
ー投資委員会は、投資に対する商品やサービスを提供する事業者を選定するに当たり日本の事業者を選択する。
ー米国は投資ごとに投資SPV(特別目的会社)を設立する。SPVは米国または米国が指名する者が管理、統治する。
ー投資から生じるキャッシュフローの分配はSPVが米ドルで行う。みなし配分額に等しい合計額がそれぞれに分配されるまで、日米に50%ずつ分配する。その後、米国に90%、日本に10%分配する。
〇まずはプロジェクト・ファインディングからですね。それだけで結構、時間がかかると思います。それらを米商務省の投資委員会がリストアップして、トランプさんが決定して、その後に資金を拠出することになる。かなり先のことになりますね。
〇金額が大きいから、外貨準備を使うのでなければ巨額の円売りドル買いが起きるんじゃないかと、そこだけ心配しておったのですが、そんなに心配することはなさそうですね。そして投資期間は2029年1月19日まで。つまりトランプ第2期政権が続く間だけ、ということになります。スロットは意外と狭いかも。利益が出るのは、かなり先のことになりますすね。
<9月7日>(日)
〇石破さんがとうとう辞意表明。ほっとけば明日には自民党の歴史上初の臨時総裁選が可決されてしまう。そうなれば石破さんに勝ち目はなく、党内には決定的な亀裂が残る。となれば、今日中にこうするしかないのでありますが、せめてあと1日早ければもっと良かったですね。
〇この週末に「総理は解散する意向だ」てな噂が流れたり、経済対策を編成せよとの指示があったりしたのは、きっと単なるフェイクだったのでありましょう。石破さんという人は、小さな間違いはやらかす(例えば給付金の2万円は、どう考えても少な過ぎたよね)けれども、大きな間違いはやらない人なので、そこは安心して見ていることができました。
〇石破さんは参院選後に支持率が上がったりしましたが、それは多分に意図せざるものでありました。なにより、あれだけ「地方創生」をテーマとしていた人が、参院選の最終盤ではほとんどの県から「来てほしくない」と言われ、このまま明日になっていれば非常に多くの「地方」から「ノー」を突き付けられていたであろうことを考えれば、やっぱり人気がなさ過ぎたことは否めません。
〇明日から自民党は総裁選モードに突入します。そこで肝心なのは、「私ならこんな政策を打ち出します」ではなくて、「私なら××と連立ができます」という点でありましょう。この点で、菅副総裁と小泉農水相が昨日、官邸を訪れたことの意味は小さくありません。菅さんは維新の会と国民民主党の両方にパイプがありますからね。
〇参議院で足りないのは1〜2議席に過ぎないので、やはり問題なのは衆議院。自民党196+公明党24=220議席では、過半数の233議席(衆院465議席)にはかなり足りません。維新の会は38議席あり、これはちょっと多過ぎる。また、「やんちゃ」な人たちが多いので連立は安定しないでしょう。公明党が嫌がることも間違いないところです。
〇逆に国民民主は27議席とほどほどであり、公明党との関係も悪くはないので、こちらの方が連立を組むには都合がいい。ただし玉木さんにどういうポジションを差し出すか、財務大臣ではご納得いただけず、どうかすると総理大臣を差し出さなければならないかもしれません。
〇もっともそれは村山富市さん以来のこととなります。それはちょっと難しいですかねえ。(18:49PM)
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〇阪神タイガースが優勝しました。NPB史上最速であります。セ・リーグの貯金を独り占めしての優勝であります。2位の巨人には今日時点で17ゲーム差です。こんな強いチーム、近年ありましたかなあ?
〇どこが強いと言って、リリーフ陣の充実度は他に類を見ません。今宵はエース才木がいい感じで投げていて、5回に危険球で急に退場になってしまいましたが、いくらでも後が控えているのであります。しかしまあ、石井といい岩崎といい、仏頂面ばかりなのはなぜなんでしょう。
〇その点、今日のドジャースなどは酷いものでした。山本がノーヒット・ノーランにあと一歩と迫って、最後の打者にホームランを打たれてしまい、そのまま次の投手が打たれてサヨナラ負けになってしまうのですから。ああいう負け方、昔のタイガースはよくありました。すっかり忘れておりましたが。ドジャース、お祓いしてもらった方がいいのではないでしょうか。
〇そういえば今年のタイガースは、3月時点で既にドジャースを破っておったのです。こういうチームを作ったのは、やっぱり藤川監督ということになりますね。凡事徹底、没頭、どちらも大事なことであります。お陰で今年はいつもゲームを安心して見ていられました。
〇それにしても日曜の夜、甲子園球場での優勝はベストでありました。明日はお休みですので、選手諸君は今宵は遠慮なく飲んで騒いで結構。大阪の道頓堀では今宵もダイビングが起きるのでありましょうか?
<9月8日>(月)
〇あらためてこの記事を読んでみると、7月の読売新聞の誤報は誤報じゃなくて、単に石破さんにミスリードされただけなんじゃないか、と思えてきましたな。
●進退、揺れ動く首相…石破氏が虚偽説明 読売「退陣」報道を検証 2025/09/03
05:02
〇「政治部が取材メモをこんな風に全部ぶちまけていいのかよ」という気がしないでもないけれども、このくらいしないと読売のメディアとしての信頼性に関わるという判断なのでしょう。というか、新聞社が「総理退陣へ」という号外を出すのであれば、周辺取材だけで書くはずがないのです。ちゃんとご本人の口から、言質をとっておるはずなのです。
〇結果的に、「われわれは総理に騙されました」という苦衷の告白となるわけです。オールド・メディアはどこもちゃんとした企業でありますから、最低限の組織防衛はしなければなりません。社員が困りますからね。そういう点がネット民には嫌われたりするわけですが、ワシのような古い者にはそっちの方がはるかに信頼に足るように思えます。
〇もちろんそれは、読売新聞政治部の側に、石破さんという人物に対する理解が欠けていた、だから読み違えた、ということでもあります。あの人は現実よりは観念の世界に生きている人ですし、妙にプライドが高くて、他人を遠ざけるところもある。そして決断に覚悟がついてこないことがある。難しい人なんです。
〇日米関税交渉だって、どの程度自分から指示を出していたかは、怪しいものだとワシ的には睨んでおります。たぶん「チーム赤沢」に好きにやらせたお陰で、ラトちゃんベッちゃんと呼吸が合って、偶然にもまとまったのでありましょう。たまたま先週末、トランプさんの大統領令が出てくれたお陰で、ご本人的にはギリギリで辞意表明ができて、かろうじてメンツを保つことができたのではないかと。
〇これから先、2年連続の自民党総裁選が始まります。「解党的出直し」と言ったからには、フルスペックになるのでしょう。またしても馬柱を作ることになるかもしれませんが、出走頭数は多くないでしょう。自民党議員が368人から295人に減ったので、20人の推薦人を集めるハードルは、昨年の比ではありませんからね。
〇この先がどうなるかはもちろん分かりませんけれども、進次郎さんが幹事長狙いに転進してくれて、林さんが来てくれたらいいのになあ、と「トラたぬ」をしているところです。そんなことは、とっくにバレバレだと思うけど。
<9月9日>(火)
〇9月5日の当欄で引用したロイターの報道による日米の覚書、いまだに原文は見当たらないのだけれども、これを見ていると今回の日米合意の本質がだんだん見えてきた感あり。
〇こういうと語弊があるんですけどね、これは「ひも付き対米ODA」みたいなものじゃないでしょうか。形の上では「要請主義」であって、米大統領が日本に対して支援を要請する。ただしプロジェクトを推薦するのは日米合同の協議委員会である。そしてかならず日本企業に対して発注される。ジャパンマネーで日本企業が受注する「ひも付き」プロジェクトです。
〇資金は日本側がドルで用意することが決まっている。JBICがアメリカで起債するか、金額が大きい場合は外貨準備を使うのでありましょう。三村財務官が「チーム赤沢」の重鎮だそうなので、その辺は当然、考えていると思います。でないと金額が大きいので、巨額の円売りドル買いで円安を招いてしまいますからね。
〇日本側は要請を拒否する権利がある。ただしその場合は、アメリカ側が報復措置として関税を上げてくる可能性がある。そういう取引なのでしょう。ここは難しいところで、JBICとNEXIはいずれも政府系金融機関で、法律による縛りもある。みすみす損をするようなプロジェクトに投資はできません。当たり前ですが。
〇利益分配は「みなし配分額」に届くまでは日米半々で、それを超えて利益が出たときには米国9対日本1となる。変なルールですけど、トランプさんを喜ばせるためのギミックと言えましょう。これはODAなんだ、公的支援なんだと思えばそんなに腹は立たないところです。
〇もちろん先進国であり、一人当たりGDPが8万ドルというアメリカに対して、日本が経済援助をするのは変な話であります。「対米ODA」という言葉自体が矛盾です。ただし本件は「国家安全保障上の利益」を念頭に置いていて、日米で安全なサプライチェーンを作りましょう、という点に主眼があります。アメリカ製造業の建て直しを日本が手伝う、という感じでしょうか。
〇最後にこの投資の締め切りは「2029年1月19日」となっています。つまりトランプさんの任期が切れる前日までとなっています。「次は民主党政権かもしれない」ことを考えると、ここはこうなるわけです。ただしその場合は3年3か月くらいでプロジェクト・ファインディングから投資決定までを決めなければなりません。間に合いますかねえ。
〇不肖かんべえが、「無理に決まっている」と何度も書いているアラスカ・パイプライン計画(原価が高いLNGになってしまうから買い手がつかない)でさえ、総工費は440億ドルです。5500億ドルって、やっぱり途方もない金額なんですよ。
〇逆に言うと、ソフトバンクの「スターゲート計画」(5000億ドル)なんかも大風呂敷なわけでありまして、この辺の金銭感覚は難しいところです。ともあれ、「アメリカに80兆円も差し出すのか!」といって怒っている方々、実情は上のような感じだと思いますよ。
<9月10日>(水)
〇テレビのニュースが「AI」を取り上げると、途端に視聴率が下がるのだそうです。それはまあ、いまどきテレビなんぞを見ているのは爺さん婆さんばっかりだから、という理由がすぐに思いつくけれども、けっしてそれだけではないと思うのですよね。
〇まずAIは「絵になりにくい」。パソコンの画面は、いくら覗いても変化が乏しいし意外感もない。テレビってのは、本質的に見ている人を驚かせてナンボの媒体ですから、AIと聞いた瞬間に「ああ、つまんね」という反応を招くのも致し方ないところがあります。
〇次にAIを語る人たちに魅力がない。申し訳ないけど、「またこの人か・・・」というタイプばっかりですよね。インターネット揺籃期の1990年代には、もっとギラギラした面白いキャラがいっぱいおられたと思います。逆にあの頃から、ずっと頑張っている孫さんは化け物かもしれませぬなあ。
〇そして何より、まったく先のことがわからないという問題があります。なおかつAIが切り開く将来はディストピアかもしれない。雇用は減るのか、物価は下がるのか、電力は足りるのか。何しろ最先端の専門家たちの間でも、コロコロ意見が変わっているそうですので。まして素人には何のことだかわからない。
〇例えばAGIという言葉がありまして、「汎用人工知能=人間と同等の知能が得られるのはいつ頃か?」という命題があります。2025年から2027年の間のどこかだろう、と言われているらしいのですが、「そんなもん、永久にできるわけない」という意見もそれなりに有力であるらしい。要はしょっちゅう結論が変わるような話を、皆が大真面目にやっている。
〇このAI開発、世界的に見ると米国と中国が圧倒的に先に行っていて、その他大勢はほんとうに寂しい限り。ただし誰かが、「わが国も『ソブリンAI』(AI主権)を持たねばならない!」という分かりやすい話を始めると、そうだそうだ、公的資金をもっとつぎ込めえ、という大合唱まではほんのひと息なのであります。
〇一方で、AIに人生相談をしていて自殺を選んだ少年がいた、なんて話を聞くと、痛ましくてなりませぬ。若いうちはなるべく多くの他人に接して、「この人は自分が信用できるか否か」を見抜く技術を磨くべきなのに、パソコン相手に没頭してたらそりゃあダメに決まっているじゃないですか。危ういのう、と思われてなりませぬ。
<9月11〜12日>(木〜金)
〇佐賀新聞さんのお招きで唐津市へ行っておりました。唐津政経懇話会さんです。
〇唐津市は、まだワシが講演会講師として駆け出しであった頃の2003年に内外情勢調査会さんのお招きで行ったことがあります。あのときは2日間で鹿島市→佐賀市→唐津市と3か所を回るという強行軍でした。しかも佐賀市から唐津市までは結構、遠いのです。
〇そもそも佐賀県は、南が佐賀藩(外様)で北が唐津藩(譜代)。南が有明海で北が玄界灘。地形も歴史も全然違うんですよね。会場は唐津シーサイドホテルという立派なところで、海は見えるし、大浴場はあるし、思わずくつろいでしまうところでした。
〇と言っても、実は東洋経済オンラインの締め切りを抱えていて、ホテルの外に出る機会はほとんどなかったんですよね。心がけが悪いのであります。と言っても、ホテルでは佐賀牛をいただいたりして、まことにごっつあんでございました。
〇ちょっと心を惹かれたのは、唐津市からクルマで西に40分くらい行ったところに名護屋城博物館というのがある。朝鮮出兵の拠点となった場所ですが、名護屋城の築城の縄張りを行ったのは黒田官兵衛だそうなんで、以前から関心があったのですよね。
〇当時の秀吉軍団というのは、城攻めと城造りとロジスティクスに関して途方もないノウハウを持つプロ集団で、そもそも海を越えて20万人の軍勢を送り込む、なんてことが出来たこと自体が、16世紀末の世界全体を見渡してもマレなことじゃないかと思います。攻め込まれた朝鮮半島側は、いい迷惑だったことでしょうけれども。
〇しかも名護屋城は、佐賀県内でもけっして交通の便がいい場所にあるわけではない。すぐ近くに今では玄海原発が作られている、という時点で容易に察せられるところであります。またいずれ、暇な時期に訪ねてくることにいたしましょう。城マニアとしては、いつか来るべき場所でありましょう。
〇そんなことより、この2日間は大雨で、羽田空港が大変なことになっていたのですな。佐賀便も行き帰り共に欠航便が相次いだらしい。ワシ的にはほとんど問題なしで、今日も帰りの飛行機は30分ほど遅れましたが、普通に帰ってまいりました。われながら悪運が強いです。そういえば行きも帰りも、同じCAさんが乗ってらっしゃいました。
<9月14日>(日)
〇いろいろ書きましたのでご案内まで。
●産経新聞「正論」(9月12日) トランプ関税と非製造業の時代
●東洋経済オンライン「市場深読み劇場」(9月13日) 最高値の日米株価に潜む「2つのトランプリスク」
〇ときどきこうしてリンクを貼っておかないと、自分が何を書いたか忘れてしまうのです。
<9月15日>(月)
〇もうじき「プラザ合意40周年」である。ちょうど1週間後の9月22日である。
〇先日、さるマスコミ関係者から、「もうじきプラザ合意40周年ですけど、『マー・ア・ラゴ合意』と『日本の国運40周年説』と、他に取り上げるべきテーマはないでしょうか?」と聞かれたので、思わずこう答えてしまいました。「そりゃあ、阪神タイガースの優勝でしょう」。1985年のことだったのだから、それを忘れてどうする。
〇それにしても、2025年のタイガースの強さはいったいどうなっておるのでしょうか。セ・リーグ優勝が決まった時点で、藤川監督は押さえの岩崎優と石井大智を休ませてしまった。この後、CSが始まるのはずっと先なので、そういう戦い方もアリなんだろうが、案の定、13日の巨人戦はドリスが打たれてサヨナラ負けである。今年最後のドーム戦だったのに。
〇14日の中日戦も、先発が才木浩人だったのに1−0で負けてしまった。この間、押さえの「虫干しリレー」みたいなことをやっていて、まあ、少しくらい負けてもいいや、2位に15ゲーム差あるんだし、ということなんだろう。まあ、投手陣の個人記録のことも、どこかで考えてくれているとは思いますが。ちなみに才木の防御率は1.60で目下のところ首位です。
〇そして今日15日の中日戦は、サトテルが3安打、2ホーマー、5打点である。ホームランはあの広い甲子園球場で、バックスクリーン右と左のポール際である。これだけ打てば、さすがに負けんわな。これでサトテルのホームランは今季38本、打点も96である。まったく、堂々たるものではないか。
〇タイガースの試合を見るという行為は、本来もっとディスペレートなことだったはずなのです。それが今年は、「ふむふむ、そりゃあ勝つよなあ」もしくは、「うーん、負けたけど、たいしたことないしなあ」などと心豊かに見ていられる。こんなことでいいのだろうか。
〇いつかきっと泣く日が来るのだから、笑える時には笑っておくべきである。今年は大いに笑わせてもらいましょう。プラザ合意の話は、また別の機会に。
<9月16日>(火)
〇アメリカ向けの自動車関税が今日から15%に下がります。7月の日米合意の内容が、やっと果たされることになります。
〇この話になると「でも、去年までは2.5%だったんですよね?」と言って、鬼の首を取ったようになる人がいます。でもねえ、自動車会社は今年4月からずっと27.5%の関税を払っていたわけだし、しかも7月以降に払い過ぎた分(12.5%)は還付してもらえるのだから、気持ち的には十分ハッピーだと思いますよ。「トランプ政権以前に戻りたい」と思われるのは結構ですけど、それは言っても仕方がない話ですから。
〇アメリカさまがご無理を言い出して、WTOやらOECDやらFTAやら、いろんなルールを破って一方的に関税を高く設定した。まさかこんなことができるとは、昨年までは誰もが真面目に考えていなかったことであります。そこで各国がどうしたかと言うと、団結してアメリカに強く当たって説得しようとするのではなく、われ先にとアメリカに接近して、「少しでも関税オマケして」というディールに乗ってしまった。合従策ではなく連衡策が採られて、結果的にアメリカを利したわけです。
〇しかも日本がその先陣を切って、「投資で関税を買う」というお手本を作ってしまった。その成功パターンを、すかさずEUと韓国が真似したわけでありますから、事後的に「あれって本当に正しかったのか?」と自問すると、なかなかにスッキリしないものもあるわけです。ちょっと物分かりが良過ぎたのではなかったか?。
〇例の5500億ドルの日米覚書について、現物はいまだに流通しておりません。たまたまFTの記者がそれを見たとのことで、こんな記事を書いております。
●Japan confronts the increased price of US friendship(日本は米国との友好関係の代償の高騰に直面)
The Japanese government cannot
spin its one-sided $550bn investment commitment to Trump’s
America as a win
(日本政府は、トランプの米国に対する
5,500
億ドルの一方的な投資約束を勝利として売り込むことができない)
〇あまりにも一方的過ぎて、こんな約束は果たされないのではないか、という義憤を感じてくれているようです。確かに日米関係というのは、第三者の目から見たら「信じられないくらい不平等」なところがある。とはいえ、安全保障でお世話になり、経済面でも依存度が高いという現状に鑑みれば、今回の赤沢作戦のような形になるのは無理からぬところがあるのではないかと思うのであります。
〇40年前のプラザ合意でも、日本はあまりにも寛大にドル高是正を受け入れたのではないか。しかし「アメリカとの関係」ということで言えば、40年前と今とであまりにも変化がないことに愕然とさせられます。ここでもまたひとつ、歴史が韻を踏んでいるように思えるところであります。
<9月17日>(水)
〇明日は世紀のFOMCの発表。「0.25%の利下げで決まりでしょ?」と思っていたら、ひそひそ声で「いや、0.50%もあるかもよ」という噂も。いや、それはかなりのサプライズだし、さすがに無理筋でしょ、と思うけど、その可能性も否定できず。
〇なにしろ新しい理事に指名されたスティーブン・ミラン氏が直前に上院で承認され、ギリギリでFOMCに参加できてしまう。しかもCEA委員長は辞めていない。日本で言えば、内閣府の政策統括官がそのまま日銀の審議委員に就任するようなものである。それってマズくないですか?
〇とまあ、それくらい無茶が通るようになっている今のアメリカで、どういう結果になるのかは「ネバー・セイ・ネバー」であります。まあ、数時間後にはわかる話ですが、サプライズに慣れてしまうというのも怖いものであります。他人事と 思うなそこに ゆでガエル。
<9月18日>(木)
〇今日で3日連続、いろんな場所で講師を務めている。デカいのから小さいのまでやっておると、「あ、このネタは予想外に受けるじゃん!」みたいな発見がある。
〇ワシの仕事などは噺家みたいなもので、客席の反応を見ながら、ちょっとずつネタを育てていくわけであります。軽く笑いがとれればラッキーで、大きく育って1本のテーマになれば儲けもの。とりあえず以下は新ネタとして、おいおい試していきたいと思っております。
●非製造業の時代〜かつては「輸出主導」、「製造業中心」と言われた日本経済は、2010年代くらいから「非製造業中心の時代」に突入している。たぶんその辺で「戦後世代の引退」があったんでしょうな。週明け9月22日(月)朝のNHK『マイあさ!』でご披露いたします。
●米最高裁とIEEPA関税〜トランプ関税に対する最高裁の扱いは難しい。いくら保守派が優勢でも、判事さんたちは理屈を曲げるわけにはいかない。大きなテーマは「重要問題法理」と「大統領府の税収」。理屈っぽい話なので、石破さん的な粘着話法で語ると面白いかも知れません。
●AI開発における破壊的イノベーション〜今の「AIバブル」の何が怖いと言って、電力投資が巨大すぎること。原発を新たに作るなんて明らかに行き過ぎでしょう。誰かが「巨大電力が不要なAI」を開発した瞬間に、今の勢力は一気に「パナソニックのプラズマテレビ」みたいになってしまうのではないか。怖いですよ。
〇それはそれとして、明日は溜池通信も出さねばならない。ネタはときどき滑るのでありますが、まあ、試してみないとわかりませぬからなあ。
<9月19日>(金)
〇え〜、いくつか業務連絡であります。
〇本日書いた溜池通信で、「日米合意の覚書は公表されていない」と書いてしまいましたが、内閣府がこんな風にHPに挙げておりました。後から気が付きました。お詫びして訂正いたします。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/tariff_measures/houmon/pdf/250905oboegaki.pdf
〇そういえばFT紙は、"grammatically faltering memorandum of
understanding between the US and Japan"(日米間のMOUは文法的に安定していない)と評しておりました。ということは、日本側の官僚団が手を入れていた、ということなんでしょう。
日本側はやられっぱなしではない、という証左であります。
〇それから本日付けて、日経新聞さんのポットキャストに初登場いたしました。
●TikTok問題「トランプ氏は中国にどんどん取り込まれている」吉崎達彦氏 Podcast
中国経済の真相
〇実を言うと、あたしゃポッドキャストって聞いたことないんですよね。これから初めて聞いてみることにします。
<9月21日>(日)
〇今日は朝から中山競馬場へ。東西のメインレースは、「オールカマー」(中山、G2、芝2200m)と「神戸新聞杯」(阪神、G2、芝2400m)。この組み合わせが到来すると、「いよいよ秋競馬も本番!」という感じがする。幸い、気温も下がって過ごしやすい競馬日和である。お誘いいただいたO先輩には多謝あるのみである。
〇しかるに過去10年をさかのぼってみて、「オールカマー」と「神戸新聞杯」ではいい目を見た覚えがない。むしろ楽しく勝負をしているうちに、どんどん傷口を広げてしまうというパターンを繰り返している。2019年のこの日には、故・山崎元氏らとともに阪神競馬場に遠征した楽しい思い出もあるのだが、とにかく戦績は全敗なのである。
〇しかも今日の中山競馬場は「生ビール半額の日」というから、つい昼間から飲んでしまう。楽しく飲んでいるうちに、5レースも6レースも終わってしまうのだが、まあ良いではないか。こうやって遊んでいられること自体が値千金というものである。
〇で、幸いに今日はオールカマーでレガレイラが来てくれたので、かすかに浮いて終わることができました。やはり中山競馬場の彼女は強い。これで秋の天皇賞に行ってどうなるかはわからんのだが、有馬記念ではきっとまた人気になるだろう。
〇神戸新聞杯はショウヘイが人気で、これは誰しも大谷翔平のことを考えているのでありましょう。今日の結果はエリキングの勝ち。ただしこれも菊花賞になるとわからんでしょうな。ポストシーズンになっているショウヘイ君に凱歌が上がるかもしれませぬ。
〇ということで、遊んでしまいました。明日からは一杯仕事が控えておるのですが。
<9月22日>(月)
〇本日、自民党総裁選挙が告示されました。今年も「フルスペック」だと言われておりますが、去年と比べるとかなり違います。同じフルスペックでも、そこはかとないところに「遠慮」が感じられるのです。
〇2024年は「9月12日告示、27日投開票」で、15日間の総裁選でした。全国8か所で演説会が行われて、候補者は史上最大の9人でした。キャッチフレーズは「The Match〜日本を新しい未来へ」という大仰なものでした。田中角栄や安倍晋三や小泉純一郎が登場する「時代は誰を求めるか?」というド派手な映像を皆さん、ご記憶でしょうか?
〇2025年は「9月22日告示、10月4日投開票」で、党規約が定める最低の12日間の争いとなります。全国の演説会は東名阪の3か所のみです。しかも候補者は昨年と同じ5人。こんなことで、「解党的出直し」ができるのかと言われれば、そこは大いに疑わしいですわねえ。
〇ゆえに今年のテーマは「#変われ自民党」です。そんなことを言われたら、即座に「#代われ自民党」とか、「#替われ自民党」というツッコミが入りそうですよね。自民党もその程度のことは理解しているので、今年は地味目の総裁選を目指しているのです。
〇それだけではありません。この1年間で自民党は衆参の選挙で連敗しましたので、国会議員は2割も減ってしまいました。そして今朝の読売新聞の報道によれば、党員も91万5574人と100万人割れして、昨年に比べて14万0265票も減っちゃっているのだとか。これでは意気が上がりません。
〇この状況、ワシのような昔からの「自民党総裁選挙ファン」としては、ちと寂しいものを感じるところです。「三角大福」(73)に「天の声にも変な声がある」(78)、「安竹宮」(87)、「軍人凡人変人」(98)に「小泉旋風」(01)まで、過去の幾多のドラマを懐かしく思い起こします。
〇でも、今の若い世代は知りませんわなあ、そんなこと。「なぜ自民党員が次の首相を決めることができるんだ?」って、真面目に聞かれたら答えに窮します。「昔からこの国はそうなんですよ!」としか言いようがないですから。まあ、昔は日本も二大政党制になって、両方がちゃんと予備選挙をする仕組みになるかなと思った時期もあったのですけどねえ。
〇ところでひとつ気になっていることがあります。1年で14万人(15%!)も減った自民党員とは、どういう人だったのか。@この1年の選挙で落選した国会議員さんたちが抱えていた党員、A保守的な主義主張から自民党員になっていたけれども、石破さんが嫌で日本保守党や参政党に乗り換えた人たち、B昨年の総裁選の結果に腹を立てて、年間4000円の党費にその価値がないと断じた人たち、などが考えられます。
〇上記の@〜Bは、高市さんを支持していた人たちが多いのではないかなあ。ということは、今年の総裁選における党員票は、全体の約4割を占めるという「職域票」がモノを言うことになりそうです。ここは今後の世論調査の盲点になるかもしれませんね。
〇ともあれ、12日間の戦いが始まりました。この間、野党の存在感は低下するはずですが、自民党も目立てば目立つほど顰蹙を買って自滅していく恐れもある。その辺に「ミニマム・フルスペック方式」の理由がありそうです。
<9月23日>(火)
〇ニューヨークの国連本部で一連の国連外交が始まっています。9月21日のカナダと英国に続き、22日にはフランスのマクロン大統領が、パレスチナ国家の承認に踏み切りました。
〇これで国連加盟国の8割以上がパレスチナ国家を承認したことになる。ガザ地区の惨状を見るに見かねて、ということなのでしょう。真面目な話、イスラエルに圧力をかけるにはそれくらいしか方法が見当たらないし。
〇とはいうものの、パレスチナ政府って本当に「国家」なんでしょうか。国家の3条件というものがあって、「領土」と「国民」と「政府」ということになっている。パレスチナ政府の指導者って誰でしたっけ?――アッバス議長ですか。それは結構。じゃ、彼が最後に選挙を行ったのっていつでしたっけ?
〇それからガザ地区を実効支配しているのは、パレスチナ政府じゃなくてハマスでしょう。ハマスって国家ですか?人道的な行為もしてますけど、彼らはテロ集団でしょう。イスラエルをこの世から抹殺せねば止まず、という集団ですから、彼らが居る限り「二国家共存」だって無理な相談になってしまいます。
〇ちなみにベルギーは、「ハマスがガザ統治に関与しなくなったら国家承認する」と言っているとのこと。それは真摯な議論だと思います。英国やフランスの外交が、世論を気にして前のめりになるのはこういうときによくあることです。彼らはそれでいいのでありましょう。
〇日本政府、もしくは外務省は杓子定規なところがあって、たぶん上のような理屈で「国家承認はなりませぬ」と言っている。「アメリカ政府に遠慮して」という事情は、もちろんないことはないけれども、そこはそれ、主権国家としての矜持もありますので。そしてこの手の「融通の利かない日本外交」は、国連などでは広く知られるところでもあります。
〇かつて外務省の専門調査員として国連で働いていた故・中山俊宏教授は、「日本という国は退屈でいい。でも信頼される国家でありたい」と言ってました。ワシ的にも、変にカッコつけようとしないところが、日本人のいいところなんじゃないかと思っております。
<9月24日>(水)
〇秋分の日を過ぎて、ああ今日もいい天気が続くなあ、と思っていたら哀しいお知らせ。
●伊藤隆敏研究室
【訃報】
伊藤隆敏は、かねてより病気療養中のところ、2025年9月20日に永眠いたしました。
皆様には御厚情を賜り深く感謝申し上げます。
なお故人の遺志により近親者のみで葬儀を執り行いました。
御弔問・御弔電・御香典・御供花・御供物は辞退させていただきますので、併せてお知らせ申し上げます。
〇お誕生日が近くて1950年生まれなので、私よりちょうど10歳年上でした。この年になると、大切な人の訃報に触れるたびに、人は有限な時間を生きている、ということを感じさせられます。なぜか私が書く日米政界与太話みたいなものを面白がってくれて、本当にもったいないようなご厚情をいただきました。
〇伊藤先生は一橋大学では竹中平蔵さんの同級生。ハーバード大学の博士課程ではローレンス・サマーズ氏と同級生だったそうです。いつぞや溜池通信で、「サマーズ、わかっちゃいない」みたいなことを書いたら、「ふーん、今度ラリーにそう言っておくよ」と言われて焦ったことがありました。
〇日本を代表する経済学者であり、インフレターゲティング論者で、黒田緩和の理論的裏付けでもありました。それだけでなく、「モーサテ」のレギュラーコメンテーターでもありました。確か番組で一緒になったこともあったような気がする。はて、そのときは何の話をしたのだっけ。司会が佐々木あっこさんだったことは覚えているのだけど。
〇それどころか、コロナ前には良くカラオケにも誘われました。伊藤先生の十八番は沢田研二の『勝手にしやがれ』。それは伊藤ゼミの方針なのだそうです。それにしても、なんて贅沢な時間だったんだろう。
〇こういうのもきっと「学恩」の一種だったのだと思います。先生、どうぞやすらかに。合掌。
<9月25日>(木)
〇今宵は神戸市三ノ宮に投宿している。明日は淡路島に行くのであるが、バスを乗り継ぐ時間を考えるとどうしても前泊の必要があったもので。
〇この仕事をしていると、講師として全国各地に呼んでもらえる。お陰で47都道府県の制覇は10年以上前に果たしたが、いつも行先は地方都市である。離島に呼ばれることは滅多にない。それが今回は、洲本市の「淡路政経懇話会」(神戸新聞主催)にお招きをいただいた。ワシは佐渡島だって行ったことがないので、ちょっとうれしい。
〇といっても、淡路島に何があるのか、あんまりよくわかっていない。とりあえず阪神タイガースのエース村上、リードオフマン近本、そしてかつての鳥谷の出身地、ということだけインプットした。まあ、後で調べることにいたしましょう。
〇せっかく神戸に来たのであるが、2週間前の佐賀県唐津市と同様に、東洋経済オンラインの締め切りがあるので、ホテルでせっせと原稿書きなのである。本文の部分を書いていったん原稿を送付して、外でメシを食ってから戻ってきて、競馬編を追加して再送付する。
〇ちなみに今宵の「孤独のグルメ」は鶏料理の店といたしました。神戸ビーフでは、ちょっとリスクが高そうだったので。幸いにも鳥の刺身が美味しいお店で、「当たり」でありました。
<9月26日>(金)
〇朝、ホテルをチェックアウトして三宮バスセンターに行く。これがとってもラビリンスな世界であって、もちろん昨晩のうちに下見はしてあるのだが、淡路島行きのバス乗り場を探し当てるのは一苦労だったのである。なにしろ、あまりにもいろんな方面にバスが出るもので。
〇その上でバスに乗り込むと、高速道路から明石海峡大橋を渡る。これは感動的な景色なのである。その昔、淡路島出身のハラケンこと原健三郎代議士が、無理を言って通させたと言われる橋である。もっとも今となっては本四架橋の中でも、いちばん採算が良い橋になっていて、本州から徳島県に渡るには今ではこのルートが一番なのだそうである。
〇洲本バスセンターで下車して、本日の会場は洲本商工会議所である。主催者は神戸新聞さんで、淡路政経懇話会の講師をお勤めする。演題は「トランプ下政権の米国と日本経済」である。
〇以前から不思議でしょうがなかったのだが、なんで淡路島は徳島県じゃなくて兵庫県なのか。江戸時代には阿波国が蜂須賀家で、淡路島はその筆頭家老の稲田家が拝領していた。その関係はじょじょに微妙なものになっていき、幕末になったときには蜂須賀藩は幕府の側につき、稲田家の淡路洲本藩は維新側についた。両者の対立は決定的なものになる。
〇それが明治維新後になって版籍奉還となり、蜂須賀家は士分として扱われたけれども、陪臣であった稲田家は一段低い扱いとなってしまった。かくして洲本城内には不平不満が溜まっていくことになる。
〇そこで勃発したのが庚午事変である。洲本城下で蜂須賀家の過激派分子が稲田家を襲撃し、多くの死者を出した。明治政府としては、ひとつ扱いを間違えれば全国で同様な暴動が起きかねない。首謀者は切腹に処し、これはわが国における最後の切腹刑ということになった。逆に稲田氏は北海道の開拓に派遣されることとなった。いわゆる喧嘩両成敗ということでありましょう。
〇かくして稲田家は北の大地に遣わされる。北海道における移住開拓は苦難を極め、そのことは船山馨の小説『お登勢』や映画『北の零年』に描かれることになる。かくして洲本市内にはお登勢さんの銅像が立っている。たぶんモデルとなったのは、NHKがドラマ化した際の沢口靖子さんでありましょう。
〇おそらくは徳島県と淡路島の間にそういうゴタゴタがあったせいだろう。初代兵庫県知事の伊藤博文が、「こっちへ寄こせ」と言ったかどうか、淡路島は兵庫県の一部となった。かくして兵庫県は、但馬、丹波、播摩、摂津、淡路という5つの国が交わる複雑な県勢を得ることとなったのでありました。
〇ということで、夜は洲本市内の大和屋旅館さんで地元の海の幸を存分に頂戴し、このまま宿泊させていただきます。いやはや、やっぱり知らない土地を訪れるのは面白い。神戸新聞さんには多謝あるのみであります。
<9月27〜28日>(土〜日)
〇淡路島の人口は12万人。洲本市はその3分の1くらい。3時間くらいほっつき歩いてみましたが、街全体はこんな感じです。どうでもいいことではありますが、どこへ行っても西村やすとしさんのポスターが貼ってあったのはご愛嬌です。
〇市内の北部には、レンガ造りのレトロな建物が並んでいます。市立図書館やレストラン、ショップなどになっていますが、これは旧鐘紡洲本工場の跡地なんですね。倉敷市にちょっと似た感じです。昔の紡績工場というのは巨大な産業だったことが偲ばれます。
〇海際の大浜公園に来ると、そこはもう砂浜が広がっている。海の向こうは大阪湾か。島だけに海が近いのは当たり前なんですが、橋で明石と徳島に繋がっている淡路島は、あんまり「島」という感じはしません。神戸市から洲本市までは高速バスで1時間半。たぶん昔はフェリーで移動したのでしょうが。
〇淡路文化史料館に入ってみました。マスコットはナギィ。いわゆる「ゆるキャラ」ですな。なぜ「ナギィ」なのかと言えば、イザナギノミコトに由来しています。「古事記」の中で、イザナギ、イザナミノミコトが最初に国生みしたのが淡路島でした。島内には伊弉諾神宮もありますぞ。
〇この伊弉諾神宮、帰りに立ち寄ってみたいと思っていろいろ工夫してみたのですが、あまり便利のいい場所ではない。高速バスとコミュニティバスを乗り継ぐ「バス旅」みたいに高度な技が必要になることが判明し、最終的にギブアップしました。丁寧に相談に乗ってくれた観光案内所の方には、大変申し訳なかったです。
〇ともあれ、イザナギとイザナミが仲睦まじかったお陰で、この国の歴史は始まりました。お二人の国造りは、まったくもってあられもない描写でありまして、そういう神話もいっそこの国にはふさわしいような気がします。しかるに物事にはかならず終わりがあって、イザナミは「火の神」を生んだことで落命します。
〇イザナギは死んだイザナミを追って、黄泉の国まで追いかけていく。ここで「オルフェウス神話」と同じようなやり取りがあって、イザナギは「けっして見てはいけない」と言われたモノを見てしまう。2人には決定的な別れの瞬間が訪れます。
〇イザナミは夫を呪い、「これから毎日1000人の命を奪う」と宣言する。イザナギは「これから毎日1500人の子どもを産ませる」と宣言する。多産多死、というわけである。かくして日本国は繁栄することになったのであるが、今の日本では昨年は68.6万人が誕生し、160.5万人が死ぬ状況となっている。少子・高齢化まっしぐら、なのである。
〇洲本市にも「シャッター通り」になっているアーケード街がある。「いやいや、あれで最近は少しはマシになったのです」という話も聞くのであるが、地方都市が共通して抱える悩みがここにある。だからといって、積極的に物事を変えようとしているわけでもない。いやはや、これぞ日本の縮図でありますな。イザナギ、イザナミは今、何を思っているのでありましょうや。
<9月29日>(月)
〇自民党総裁選挙も残るところ5日。やっと出ました。昨年に引き続いての林芳正官房長官へのインタビューです。
●【特別対談】林芳正とエコノミスト吉崎達彦が語る
前半 part1 (国内情勢について)
●【特別対談】林芳正とエコノミスト吉崎達彦が語る
後半 part2 (国外、アメリカ情勢について)
〇「常在戦場」の現役官房長官から、スリリングで面白い話を聞き出せたと思っております。
〇そこは林さんなので、ワシなどが繰り出す「ワナ」には引っかからず、なおかつ適度な緊張感の中で「小ネタ」も提供してくださるので、聞き手としては「それでこそ!」という満足感があります。インタビュアーとしては、是非、上記の動画サイトを幅広く拡散いただけると有難く存じます。
〇後はまあ、これで10月4日にどんな結果が出るかでありますが、自民党総裁選は「蓋を開けてみなければわからない」。こればっかりは答えを待つしかないですな。きっと今年もドラマチックな展開になるだろう、とだけ予測しておきます。
〇ところで明日の朝は久々、「飯田浩司のOK!Cozy
Up!」に登場いたします。しかるにワシの翌日がクラフトさんで、翌々日が平井文夫さんとは、ずいぶん計画的な起用でありますな。きっと「ここだけネタ」が頻発するものと思われます。
<9月30日>(火)
〇今朝は「飯田浩司のOK!Cozy
Up!」へ。以前はコメンテーターは午前6時半からの登場で良かったのだが、それが今季から番組冒頭の午前6時からの登場となります。スタジオ入りの時間も前倒しとなる。まあ、「モーサテ」(5:45AM〜7:05AM)に出るときのことを考えれば、ほとんど児戯に等しいのであるが、午前8時までというと結構長く感じます。
〇しかもテーマが盛りだくさんである。「金価格高騰」「ウクライナへトマホーク供与」「国連のイラン制裁復活」「野党国対委員長が会談へ」「日産自動車が横浜マリノス株売却検討」「トランプ政権が日EUへの医薬品関税の軽減適用へ」・・・・。思い切り広角打法じゃないですか。いや、こういうのワシ的には嫌いじゃないですけどね。
〇しかも冒頭の掛け合いは「阪神タイガース優勝」と「秋のG1シリーズ始まる」ですから、ほとんど極私的な趣味の世界ですよねえ。それにしてもCSが始まるのって、ずいぶん先になるんですねえ。タイガースは残りヤクルト戦が2試合だけ。願わくばサトテルがあと1本打って、「ホームラン40本、打点100」を達成してくれたら満足であります。
〇今日の番組には峯村さんが乱入してきました。今晩から『峯村健司と松本秀夫のジェントル!ジェントル?』という3時間の長尺番組が始まるのに、実はCozy
Upの次の番組『垣花正あなたとハッピー』にも出演する予定だったんですねえ。ニッポン放送、とっても人使いが荒いです。峯村さん、くれぐれも身体だけはお大事に。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki