●かんべえの不規則発言



2000年9月





<9月1日>(金)

○このところ、米国大統領選挙にずぶずぶに漬かっている感じです。本誌も2週連続でやってしまいました。まあ滅多にないことですから、ネタが続く間はこの調子で続けようかと思っております。

○先日来、「リーバーマン演説はすごい」と方々で吹聴しています。先日お会いした岡崎久彦氏が、まだ読んでいないとのことだったので、「ブッシュやゴア以上の出来です。是非読んでください」などと言って送り付けました。すぐに返事が来て、「なるほどよく書けている。シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』で、マーク・アントニーがやる演説を思い出しました」とのこと。格調の高い演説に対する格調の高い評価、という感じですね。

○アントニーの演説は非常に巧妙な手法を使っている。対立相手であるブルータスを称え、自分はへりくだる。理屈をあまり言わずに、事実だけを語る。そしてローマ市民の感情に訴える。「こんなシーザーに野心があったといえるだろうか。でも、ブルータスは言う。シーザーは野心を抱いていたと。そしてブルータスは公明正大の士である」。これを何度も繰り返すうちに、「ブルータスは公明正大の士である」という部分がいかがわしく思えてくる。アジテーションのお手本のような手口である。

○リーバーマンは、「ブッシュはいい人間だ、自分は共和党には友人が大勢いる」と言いつつ、「でもテキサス州は環境破壊がひどい」などと事実を披瀝してこき下ろす。これを何度も繰り返す。なるほどアントニーの手法である。陰険だと思われるかもしれないが、雄弁術とは本来そういうものだ。雄弁術にはいろんなお手本があるけれども、なかでもシェイクスピアは一級品の教科書といえる。

○欧米における雄弁術の歴史は長い。マーク・アントニーの演説は、シェイクスピアの想像力の産物であろう。しかし実際にローマ時代には、多くの名演説が行われ、そのいくつかは現代に伝えられている。キケローの『カタリーナ弾劾』なんかが有名だ。「いつまでわれわれの忍耐を試すのだ、カタリーナ」で始まるこの演説は、ローマに対する反逆を企むカタリーナという男を断罪するために、元老院で行われた。ラテン語を勉強するときには、かならず出てくるテキストなんだそうだ。名演説の元祖みたいな存在だが、内容は単なる他人の悪口であるともいえる。

○雄弁術とは、知恵や教養を総動員して、他人をこき下ろして自分の主張を認めさせる技術である。こういう言葉の文化というものは、長い歴史と伝統の上に花開いている。リーバーマン演説の源流に、キケローやシェイクスピアがあると考えると、ちょっとすごいなという気がする。わしら、かないまへんがな。



<9月2日>(土)

○昨晩、コンビニに寄ったら雪印の6Pチーズを売っていたので買って帰った。今日、スーパーに行ったらここでも雪印商品が並んでいた。どうやら雪印商品が復活しつつあるようだ。牛乳だけは買わないけど、それ以外はまあいいだろうと買ってしまう。6Pチーズは子供の好物であるし。私は寛大なのである。

○「モノ作りの良心」が問われるような事件が相次いでいる。あんまりこの手の報道は当てにしないことにしている。自分がメーカーの社員だったら、手抜きもするだろうし、品質よりもコストを重視することもあるだろう。それに雪印や三菱自動車だけが特別で、他のメーカーは違うんだという気がしない。だから「魔女狩り」には荷担したくない。

○最近教わったのだが、自動車会社がリコールを避けるのはどこでもやっている話なんだそうだ。というより、どんな自動車でも新製品を出せば、「ここをこうすりゃ良かった」という部分はかならず出てくる。そういうのをいちいちリコールするわけにもいかないから、メーカーは「6ヶ月点検」などのときにさりげなく直してくれたりするんだそうだ。6ヶ月点検はユーザーのためではなく、メーカーのためにやっていたんですね。でも筆者のように、正規ディーラーで6ヶ月点検を受けている人は少数派だと思うぞ。

○1980年代のほとんどを広報室のスタッフとして過ごしました。だから事件を起こした企業が断罪されているのを見ると、まず気の毒になってしまう。先週、仕事で雪印の社員の方と会ったが、名刺交換をする全員に「このたびはお騒がせしております…」と謝っていた。これを行く先々でやっているのだろう。当時のことで印象に残っているのは、グリコやリクルートなど、事件に遭った企業の社内報がすごく活性化することです。なかでもリクルート事件のさなかの『かもめ』に出ていた記事は、今思い出しても危機管理における貴重な教訓を与えてくれると思います。たしかこんな内容でした。

○「大学時代に登山部にいた経験からいうと、雪山で遭難しそうなときにいちばん大切なことは、リーダーを信頼するということです。リーダーが示している道がたとえ間違っていると思っても、そこで異を唱えてはいけない。まして別行動を取ったりしてはいけない。誰かひとりがそれを言い出すと、全員が危なくなる・・・・」

○危機の際にリーダーはこうあるべし、という本はたくさん出ているけど、社員はこうしなさい、という本は少ない。本当はそっちの方が大事なんですけどね。



<9月3〜4日>(日〜月)

○このところ政治の話ばかりしておりますが、今日は経済データを集中的に読んだので日本経済について少々。エコノミストたちはまだ騒いではおりませんが、7月の貿易動向がちょっと変なのだ。これまで快調に続いてきた輸出の伸びが止まっている。ユーロが最安値更新なので、欧州向け輸出が伸びないのは分かるし、米国経済もスローダウン気味なのでその辺は予想の範囲内。解せないのはアジア向け輸出の伸びが止まっていること。これが分からん。

○前年同期比で見た場合、過去半年のアジア向け輸出はまさに破竹の快進撃だった。韓国やタイ、マレーシア向けは毎月、「2割、3割は当たり前!」という調子で伸びていた。同時にアジアから日本への輸入も伸びた。品目としては機械製品が多い。日本が材料を輸出して、アジアで加工して日本に戻す、といった取引が急増したのである。つまり日本とアジアが手と手を取りあって、明るい世界へと歩んでいた。その動きが止まるとなると、それはちょっと困る。

○仮説その1は、ちょうど1年前に韓国が輸入品多角化制度を廃止し、日本からの輸出が急増したことがあった。ゆえに前年同期比で見た場合、伸びが小さく見えるという見方。この説だと、韓国以外の国への輸出が止まった理由がわからない。仮説その2は、最近のITブームによって半導体などの部品がボトルネックとなり、供給が需要に追いつかなくなっているという説。ありそうな話だが、それほどまでの事態になっていたら、もっと国内で大騒ぎになってもおかしくはない。ということで、理由は分かりません。

○過去半年の日本経済は、消費は伸びないけど生産は好調だった。つまり企業はいいけど家計が沈滞していた。この夏の暑さのせいもあり、消費に関する指標はようやく明るくなってきたところだけど、ここで外需が冷え込むようだと景気回復の前提が崩れてしまう。たとえば7‐9月の機械受注は高い伸びが予想されている。それは堅調な外需を想定してのことだと思う。間もなく4‐6月期のGDPが発表され、そこではかなりいい数字が出るだろう。でも、それで安心していると、7‐9月期は意外と悪かった、ということになるかもしれない。

○ということで、補正予算は精一杯の規模で組んだ方が賢明ではないかという気がしています。カメちゃんの言うとおりにする、というのが癪に障る気はしますが、ここでケチって10‐12月期に「ギャア!」と泣き叫ぶよりはずっといい。景気の先行きはあんまり安心しない方がいいと思います。

○今日はレイバーデイ。労働に関する指標について興味深いことを発見したのでご報告します。その1、ドイツの失業率が10%を割った。東西ドイツの統合から間もなく10年。快挙ですね。その2、英国の失業率が4%を割って米国以下になっている。これまたすごい快挙です。欧州経済は好調なんですね。



<9月5日>(火)

○プーチンが来ている間、都内の国会議事堂周辺は街宣車で混み合いました。やかましかったなあ。皆さん、全国各地から集まって「森首相はぁ、北方領土問題で妥協をするなぁ」と訴えていました。右翼たるもの、こういうときに家でおとなしくしているようではいかんのでしょう。機動隊は大型バスを並べて、街宣車の突入をブロックする。溜池周辺は交通渋滞が必至な状態が続いておりました。

○外交の世界というのは、意外とトンチ比べのようなことをしているものです。1997年のクラスノヤルスク合意では、「日露両国は2000年までに、東京宣言に基づいて平和条約を締結する」と書いてある。1993年の東京宣言では、「領土問題を解決した上で、平和条約を」と書いてある。これを日本側は、「ロシアが日本に領土を返還した上で」と読む。でもロシア側は、「要は領土問題が解決すればいい」と解釈する。つまり日本側が領土返還をあきらめても、解決は解決ということになる。これでは押しても引いても進まない。てなことで日露両国は平行線になる。

○面白いことに、北方領土問題に対する海外の論調が日本に同情的になっているようだ。本当のところは、ソ連の対日参戦はヤルタ会談でルーズベルトがスターリンに妥協したから決まったし、北方領土問題は1951年のサンフランシスコ講和条約の際に、日本が放棄する千島列島に四島が帰属するかどうかをはっきりさせなかったことに端を発している。その後、日ソ交渉が二島返還でまとまりそうになると、あくまで四島でと日本にけしかけたこともあった。アメリカの都合に引きずられて解決が遅れた部分が少なくないのである。

○西側メディアから見ると、ここで日本が下手に妥協して対ロシア援助に踏み切ったりすると困る、と映るのだろう。これもまた彼らの都合である。もとより日本側としては、50年も待たされたものをいまさら急ぐ理由もない。平和条約を必要としているのは当方より先方なのだから。

○逆に本当に領土が返ってくるとしたら、今度は日本側があせらなければならない。すぐさま「北方領土開発計画」などを作成し、巨額の公共事業を実施しなければならない。郵便局、NTT、発電所、空港、漁港、国道やらを作って、「本土並みの生活水準」を目指すことになるだろう。兆円単位の事業になることは確実だな。赤字国債が増えるから、長期金利が跳ねあがって、株価は下落して、ついでに円高ですな。



<9月6日>(水)

○ゴア候補が人気浮上のきっかけをつかんだのは、「受諾演説のときのキス」にあったという解説が流れています。壇上に待つティッパー・ゴアのもとに歩み寄ったゴア副大統領は、夫人を強く抱きしめて軽いキスではなく、"Mouthful Kiss"に及んだ。この間3秒。見ている人たちが、「おいおい、大丈夫かよ」と危ぶむ寸前まで引っ張った。4000人の観衆の前で情熱的に夫人と抱き合う姿は、とくに女性有権者にアピールしたようだ。だって現職大統領夫妻は、そういうことをしそうにないからなあ。

○Newsweekのヒトコマ漫画では、「このようなシーンをテレビで流すのはいかがなものか」とお堅いリーバーマンが苦言を呈している、というのが載っていた。ま、それはそれとして、ゴアが「人間味のないつまらん男」という従来のイメージを覆した3秒間であったようだ。するとそこはアメリカで、さっそく「あれは意図的にやったのか」とテレビで突っ込む人が現れたそうだ。本人は、「その場の状況に感動したための自然発生的なキス」と計画性を否定した。うーん、クリントンだったら、そこまでやるかもね。

○これとは対照的なのがブッシュ候補。壇上でチェイニーと雑談しているときに、会場に居たニューヨークタイムズの記者を指して、「あいつはMajor League Assholeだ」(大リーグ級の肛門野郎だ)と噂したところ、なんとマイクロホンが入っていて会場全体に聞かれてしまった。カッコ悪いよなあ。「百の説法、屁ひとつ」というやつで、これでは教育問題など語る資格ナシ。実際、Assholeは相当に汚い言葉なんで、CNNがこのシーンを放送したときは「Major League ピー」と音を消していました。これではたとえ当選しても、当分蒸し返されるでしょうね。

○どうもブッシュさんてのは「総領の甚六」みたいなところがある。人がいいというか、ガードが甘いというか、良く言えば大人の風があるともいえる。日本ならもっと人気が出るタイプかも。大統領職も真剣に狙っているようには見えない。インタビューに対して「もしも負けたら、魚釣りでもしてハッピーにやるさ」てな答えをしたこともある。するとすかさずゴアが、「それこそみんながハッピーになるじゃないか」などと言ったりして、こっちも長男のはずだが性格は相当にきつい。

○かたやKiss、かたやAsshole。絵に描いたような対比。これで支持率に大差がつくようだと、"Gore rose by kiss, Bush fell by Ass."(ゴア、キッスで昇天、ブッシュお尻で着地)みたいなギャグができてしまう。出来すぎてるなあ。



<9月7日>(木)

○明日9月8日は何の日かご存知でしょうか。1951年に「サンフランシスコ講和条約」が締結された日なのです。来年でちょうど50周年。1年後の2001年9月8日には、「サンフランシスコ講和条約締結50周年記念事業」が実施されます。具体的には、「アメリカに対して"Thank you"を言おう」という試みです。すでに募金活動が行われており、アメリカ人留学生の募集や日米戦後史の出版などの事業も始まっています。運動の代表になっているのは大河原良雄元駐米大使。というと、政府がらみの仕事みたいですが、この活動は財界人を中心としたボランティアベースで出発した点がちょっとめずらしい。

○どのくらい変な運動かというと、かくいうこの私めがボランティアをやっているのです。近頃はさぼっていて、明日行われる実行委員会もたぶん欠席してしまうのですが、1998年にできたこの運動の趣意書の原文は、不肖この私めが書いていたりする。なんて怪しげな、と思われるでしょう。実際、そうなんです。ちゃんとした財団法人ではなくて任意団体。専任メンバーはごく少数。それでも募金が2億円以上集まっているところが結構すごい。本当は5億円以上集めるつもりなのですけど。

○「なんで日本がアメリカに感謝しなきゃいけないんだ」――てなことをよく言われます。アメリカの対日占領は、1945年8月から1952年4月まで、実に長期間にわたって行われました。これは人類の歴史上、勝者が敗者に対して行ったもっとも寛大な施政であったはずです。なにしろ食糧を与え、民主主義を定着させ、近代的な労働法や教育システムを整備し、軍備を提供し、憲法を与え、産業技術を供与し、しまいには輸出市場まで提供してくれました。あまり知られていないことですが、アメリカの援助で日本の医療水準が向上し、平均寿命が延びたという事実もあります。

○「それはアメリカの都合でやったことだろう」――よくご存知で。アメリカの占領目的は当初、日本を弱体化することでした。ところがソ連との冷戦が明らかになるにつれ、日本の工業力を西側陣営に取りこむとともに、アジアにおける「資本主義のショーケース」にする必要が生じるのです。1950年に朝鮮戦争が勃発すると、日本の戦略的重要性はますます明らかになりました。おかげで占領期間は長引きましたが、日本の国力は飛躍的に回復します。1956年には、経済白書は「もはや戦後ではない」の名文句を載せます。戦後半世紀の日本の復興と建設は、アメリカの援助なしには考えられませんでした。

○「アメリカが残した問題も多い」――それはそうです。沖縄基地問題や六三三四制なんかはその典型でしょう。「対米追従外交」がけしからんと言う人も多い。でもアメリカと軍事同盟を結び、核の傘に入れてもらい、世界第2位の経済大国になり、10年不況が続いてもまだ何とかもっているという現状を考えると、得たものの方がはるかに多いことは間違いないはずです。

○サンフランシスコ講和条約が結ばれた夜、吉田茂全権大使はただ一人で別の会場に赴き、もうひとつの条約にサインをします。日米安全保障条約。いわゆる「日米同盟」誕生の瞬間です。この日、「もっとも西側的な非西側国」と、「もっとも非西側的な西側国」が同盟関係を結び、それが半世紀にわたって両国に繁栄をもたらした。これは日米両国を超えて、慶賀すべきことではないかと思うのです。日米関係の半世紀は、「国と国との同盟関係は、文化を超えて成立する」という何よりの証拠なのです。

○この運動、われわれは「A50」と呼んでいます。これは"America"の"50州"に対し、"50年目"に"Appreciation"を表明する、てな意味があります。A50のHPを作る話が遅れているので、ここで紹介できないのがまことに残念ですが、この場を使ってご紹介します。ひょっとすると土曜日あたりの新聞に、「A50」に関する記事が出るかもしれません。お目にとまれば光栄に存じます。本件に対して関心のある方は、直接メールをください。



<9月8日>(金)

○昨日「A50」について書いたら、早速2人の方からご質問のメールを頂戴しました。こういうときのために、早くホームページを作らなければならないのですが・・・・当HPをご覧になっている方には、この運動に賛同しそうな方が多いということに突然思い当たりました。とりあえず、以下にこの運動の連絡先を書き写しておきます。本番まであとちょうど1年。少しでも多くの方に関心を持っていただけますように。

<名称>サンフランシスコ平和条約締結50数年記念A50事業
<所在>107-0052 東京都港区赤坂3―4―3マカベビル Tel:(03)3589-2101/Fax:(03)3585-2773


○2人の方から「溜池通信はマックだと読めませんよ」とのご指摘を受けました。さて困った。マックは皆目不案内で、じぇんじぇん分かりません。「フロントページだけが文字化けして、不規則発言は読める」とも言われましたが・・・・お心当たりがある方は情報をお寄せください。



<9月9日>(土)

○注目の「レイバーデイ後の世論調査」の結果が出ました。CNNの調査によれば、「Gore47%」「Bush 46%」「Nader4%」「Buchanan1%」ということです。つまりほとんど差はない。ロイターでは46対40でゴアが優勢だとのこと。8月前半まではブッシュが2桁リードだったが、党大会でのゴアのパフォーマンスがブッシュを上回ったようです。問題発言(9月6日付け不規則発言参照)も、少しは響いたのでしょう。

○CNNの調査(9月6〜7日)でひとつ感心したのは、「財政黒字を何に使うべきか」という問いに対する答えです。なかなか健全な回答ではないだろうか。米国の財政黒字は盛大な規模で、2001年度は1840億ドルと予想されている。つまり20兆円近い。ヒジョーに使い出がある。

社会保障 79%
教育 77%
赤字の償還 63%
減税 52%
防衛支出 42%


○他方、わが国の財政は「歳入が50兆円で歳出が80兆円」の構造が続いている。どんどん赤字が積みあがり、ムーディーズは日本国債の格付けをまたまた下げてしまった。溜池通信の2月11日号に詳しく書いてありますが、外国人が持っている国債はたかが知れているので、格付けが下がっても構わない、という見方がある。政府は表向きそういう。しかし今後も増えつづける財政赤字をファイナンスするためには、非居住者に買ってもらうしかない。そのためにマーケット・フレンドリーな国債管理政策に努めてきた。そういう意味ではショックは否めないだろう。

○財政再建路線への転換をするか、しないのか。秋の臨時国会では大きな争点になりそうです。「財政再建優先」派は、橋本元首相、加藤元幹事長、民主党などで、勢力が拡大している。「景気回復最優先」派は旗色が悪そう。亀井政調会長は週刊新潮などで猛攻撃を受けている。筆者はそこそこの規模で補正予算をやっておいた方がいいと思いますが。

○フロントページをいじってみたので、これでマックでも読めるようになったかしら。浜田さん、村田さん、読めたらお知らせください。


<9月10日>(日)

○間もなくシドニーオリンピックが始まります。おかげで大相撲が前倒しになったり、プロ野球の優勝時期が重ならないかと心配がされたりしています。巨人が優勝した日に日本人が金メダルを取ったら、スポーツ新聞はどっちを一面に持ってくるのでしょうか。まあ、どっちでもいいようなもんですけどね。

○アメリカでも、9月下旬は国民の関心がオリンピックに集中するので、大統領選挙は実質的なお休み期間になるといわれています。そういえば4年前にも、アトランタオリンピックの期間は休戦状態でした。ただしアメリカから見るとシドニーは時差があるので、盛り上がりは若干欠けるかもしれない。逆に日本にとっては、1988年のソウル大会以来、同じ時間帯で堪能できるオリンピックということになる。(もちろん長野の冬季オリンピックは除外)。

○先日会ったニュージーランド人のG氏は、「オリンピック?そうね、やるみたいだね」てなことを言ってました。まるっきり気乗り薄。だってヨットもラグビーもないのに、何を応援しろというの、というのがキウィたちのオリンピック観なのだ。そうでなくても豪州には対抗意識があるし、僕らは今年、アメリカズ・カップで勝ったものね、という自負もある。「オリンピックの後は、豪州経済も少しは落ち着くだろうね」などとも言っていた。目下、豪州景気は絶好調。対照的にニュージーは自信喪失気味なのだ。

○森首相の次の外遊先にオセアニアはどうか、という話が外務省で持ち上がっているらしい。橋本首相とボルジャー首相の時代に、毎年相互に訪問するというパターンができたものの、両方が政権を失ったので交流が途切れている。それ以上に、「なにしろ総理にはラグビーというご縁がありますから」。なにしろ国連ミレニアムサミットのついでに、ヤンキースの試合で始球式をやり、ホームまでノーバウンドの球を投げた森首相である。オールブラックスが居並ぶ前でボールを蹴る森首相、というのはいかにもありそうな「絵」。

○別に森さんの露払いというわけではありませんが、来月の今ごろにはニュージーランドに行っております。古いほうのB5版PCを持参して、ニュージーからの「不規則発言」をお届けする予定。よろしくね。


<9月11日>(月)


○今日は4―6月期のQEが発表になりました。1.0%の成長率はまあいいところでしょう。でも具体的な中身(寄与度)を見ると、ほとんどが公共投資による伸びによるもので、設備投資がマイナスになっていたり、ちょっと嫌な感じがある。7―9月期は、猛暑のおかげで個人消費が少し上向くだろうが、9月3〜4日に書いたように輸出が怪しくなっているし、公共投資は息切れするだろうし、心もとない感じである。補正予算がなければ、今年も年度後半はマイナス成長になるだろう。

○今日は株が下げた。たぶんこんな発想だと思う。「GDPがプラスになった」→「景気に楽観論が増える」→「補正予算の規模が縮小される」→「年末にかけて景気腰折れ」。ということで、ここはしかるべき規模で補正予算を組んでおいた方が良いと思う。最近は財政再建を唱える人が急に増えてきた。「二兎を追え」という声もある。しかし二兎を追うなんていうのは、気力体力充実しているときにやるべきことで、現在の日本経済が取るべき政策ではない。景気に対して楽観的な人が増えているが、そういう人も「秋の補正は当然」と言っていることが多い。

○ところで最近は、フロントページ・エクスプレスを使ってこの「不規則発言」を書いております。上のグラフはエクセルで書いて、ワードに落として、HTMLに直してのっけてみました。ちゃんとできるもんですな。当たり前か。ささやかな自己満足です。


<9月12日>(火)

先週号の「IT戦略会議」の話は関心を集めたようで、何人かの方からお電話をいただきました。ところが、官邸ホームページをあたったT記者からは、「議事録を見たんですけど、誰が話したかが分からないんです」というご指摘。あはは、実は官邸サイドがすりかえちゃったんです。9月4日に筆者がダウンロードしたときは、発言の前には各委員の名前が書いてあった。ところが9月8日にもう一度アクセスしてみたら、名前が消されていた。やっぱり問題になったんでしょうね。

○実はあの会議、「委員全員が50音順にひとことづつ発言する」という、まことに戦略的ならざる会議なんです。石井東大名誉教授から順に発言が始まり、NHKの海老沢委員が「デジタル放送では日本は欧米より最先端を行っている」と自慢したり、ソフトバンクの孫さんが「政府は周波数を売れば3兆円儲かる」という持論を展開したり、NTTの宮津社長が「接続料金はちゃんと下げます」と言ったりして面白い。そのへんを勘案すると、どの発言がだれのかがだいたい分かります。ちなみに日本テレビの氏家社長と、慶応大学の竹中教授は欠席でした。

○委員の発言が一巡したところから、出井議長がきびしい発言を連発する。筆者は元演劇部なので、こういう議事録を読んでいるとなんだか情景を思い浮かべてしまう。たぶん空気が凍り付いてしまう瞬間があったのではないか。面と向かって「首相のビジョンがない」などといわれて、森首相も中川IT担当相もちゃんと言い返せない。森首相は「是非ひとつ、知事会なども全面的に立っていただきたい」などと明後日の方向に水を向けると、すかさず出井議長は「私はボトムアップでは絶対駄目だと思う」と釘をさす。見事なもんです。

○財界の「3大言いたい放題」人間といえば、ほかにトヨタの奥田会長とオリックスの宮内会長が思い浮かびます。奥田さんの意見は極論のように聞こえるけども、言ってることに筋が通っているからみんなが納得する。宮内さんは言葉は鋭いが、ニコニコしているので角が立たないタイプ。たぶん間合いを正確に測っているのでしょう。出井さんはキツイことを言っても、本人に迫力があるから周囲が認めてしまうんでしょう。亡くなられた商船三井の転法輪さんの毒舌も相当なものでしたが、最後はかならず大爆笑になってしまうのはお人柄でした。

○トップというものは、身近に「言いたい放題」を言ってくれる人が必要です。森首相も出井さんみたいな人をけむたがらずに、どんどん意見を聞いたらいいでしょう。そういえば、「成功する男の傍には、あなたは間違っている、と言い続けてくれる女性がいるものだ」という言葉があります。この言葉が真実であるとすれば、筆者などは成功する男になる必要条件だけは有していることになりますが。あはは。


<9月13日>(水)

○今夜はとある勉強会に出てました。はっと気がついたら、ビールを飲むピッチが私が一番早い。これはいかなこと。だって講師だったんだもの。ネタはいつもの「米国大統領選挙」でした。

○はっきりいって、お酒が強い人間ではありません。大学生の頃から、ビールならジョッキで2杯、水割りなら5杯。酒量は増えもせず、減りもせず。ただし日本酒と焼酎は、悪酔いすることが分かったので飲まなくなりました。今日だってそんなに飲んだわけじゃありません。それでも、周囲がみんなセーブしている。かくしてテーブルの上には、ウーロン茶の空瓶がどんどん並ぶ。最近の金融界の皆さんは自制心が強いのかしら。それとも健康上の理由でしょうか。

○今日のお昼、久々にご一緒したプライベートバンカーのKさんも、「最近は痛風で…」と弱気だった。どうも私どもの世代は、自分の健康と子供の教育には皆、自信がないようである。ありがたいことに、これまでのところ酒を止めろとか減らせとか言われたことがない。というわけで、今夜も家に帰ってから新しい缶ビールを開けてしまった。しかも封を切ってないバーボンが手近にあったりする。これでインターネットを始めると、グラスを片手に夜更かししてしまう。電話代もかさむ。いかんよね。

○来月で人生が大台に乗ります。その直前にはまたも成人病検診が。そんなに無茶をしているわけではないので、これまで通り、好きなだけ酒やコーヒーが飲めるとありがたい。ニーバーという神学者の言葉をもじって、こんな戯言を弄してみよう。「神よ、適度に酒が飲めるだけの健康を、そして飲み過ぎない程度の自制心を、そしてその止め際を判断する知恵を与えたまえ」

○この名言の原典を知りたい人は、恐れながらこの講演の最後の部分をご覧ください。ああ、われながらなんという罰当たりな。


<9月14日>(木)

○「石油高」がいろんな場所で話題になっています。さすがに目立つようになってきたということでしょうか。たとえば最近のアメリカでは、ガソリンが1ガロン1ドル70セントくらいするそうです。98年には1ドルを割ってましたから、消費者にとっては「痛い!」という感じらしい。なにせ牛乳1本買うにもクルマに乗らないといけない国だし、ここ数年はRVみたいに燃費の悪いクルマがよく売れている。クリントンはさかんに産油国に対して増産を働きかけている。いよいよとなったら、戦略備蓄の分を放出するだろう。

○もっとつらいのは欧州だ。おりからのユーロ安とダブルパンチで、ストライキまで起きている。「ガソリンがないからクルマが出せない!」てな話が本当にあるのだそうだ。ちなみに今月のG7では、「ユーロ安への懸念」をいかに打ち出すかが焦点になりそう。ちょうど1年前に、「円高への懸念」を理解してもらえなくて、日本が大いに苦労したことを思い出す。今年の冬は寒いという観測もあって、事態は深刻だ。

○日本はありがたいことに、円高が石油高をある程度打ち消してくれている。それにもともとガソリン価格が高いので、というよりは税金が高いので、原価がちょっとくらい上がったところで小売り価格はそんなに変わらない。筆者が住んでいる国道16号線沿線は、もとより日本で一番ガソリンが安い激戦区である。あんまり上がったという気はしない。その代わり、廃業したガソリンスタンドは非常に増えたと思う。

○ガソリンスタンドは典型的な過当競争の世界である。石油価格の上昇は、この世界の再編を加速するだろう。そのわりに、筆者がいつもガソリンを入れている日本石油と、洗車だけをしている三菱石油は、至近距離にあるのにいまだに統合しない。銀行でも石油業界でもゼネコンでも、要はいろいろあって分かりきったことができない、ということのようです。

○その一方、石油価格上昇で潤う国もある。サウジなどの湾岸産油国にとっては、ほっと一息といったところだろう。それからロシア。投売り状態だった国債が、急に値を上げているとのこと。このところ散々だったインドネシアも、いわば「干天の慈雨」となるだろう。それにしても、石油価格は見通しがきかない。怖いくらいですね。


<9月15日>(金)

○でまあ、もうひとつ、「ユーロ安」もすごい。99年1月にユーロが発足したときには1ユーロ132円80銭だった。それが90円くらいになってるんだから大変である。最初のうちは、ユーロ安は輸出が伸びるから景気が良くなっていいや、という感じだったのだが、だんだん洒落にならなくなってきた。貿易は黒字なのである。それ以上の勢いで資本が流出しているからユーロが売られる。資本の主な行き先は米国。米国が4000億ドルという記録的な貿易赤字を出しそうなのに、ドルが底堅く推移しているのはそういう理屈があるからだ。

○この現象、1990年ごろの日本とちょっと似ているような気がする。あのときの日本は貿易黒字があって、景気も良くて、経営者は自信満々で、でもなぜか円安だった。なぜかというと、貿易で稼いだドルをそれ以上の勢いで米国に投資していたからだ。ロックフェラーセンターやゴルフ場などを、法外な値段でせっせと買っていた。10年後にどうなったかはいうまでもない。今の欧州勢の買い物もどうなることやら。だいたい、集中豪雨的な投資は失敗するものと相場が決まっている。

○なんでそんなことになるかというと、日本も欧州も国内に魅力的な投資対象がないから。日欧の企業と米国の企業を比べれば、そりゃあ米国企業の方が利回りもいいし、情報公開もしっかりしているし、株主を大事にしてくれる。欧州の企業は従業員に手厚いし、ベンチャー企業もあんまり育っていないから、資本家から見れば魅力に欠ける。そのことが分かっていながら、欧州の政治家は手が打てない。ほとんどが左派政権だしね。

○そんなふうに考えると、欧州の悩みは深いといえるが、日本の悩みも深い。似たような状況にありながら、海外投資が出て行かない。経済界に資本輸出をする勇気がなくなっているから。10年前の失敗に懲りたのもあるし、そもそも不良債権処理に忙しかったりするし、米国の株価はバブルだという人も多い。そんなこんなで円高になる。日本と欧州、どっちがいいのだろう。


<9月16日>(土)

○オリンピック見物を堪能しています。時差がない、というのがよろしい。昨日の開会式を見ていると、あまりの段取りの悪さに「オージーはこれだから…」と思っておりましたが、慣れればどうということはない。何より日本勢が好調なので、おじさんはにわかナショナリストになってしまった。とくに水泳の田島の「めっちゃ悔しいですぅ」には大笑いしました。自己ベストを3秒縮めて、「金がいいですぅ」とは偉い。おじさんは感心したぞ。長野オリンピックの里谷選手を思い出しました。その調子でものども続けぇ。

○シドニーはきれいな街です。でもそんなにワクワクするような街ではありません。オペラハウスはたしかに面白い建物ですが、それ以外はまったく凡庸です。東京やニューヨークやワシントンが大好きな人には、ちょっとつらい街ではないかと感じました。住みやすそうではあるのです。なんというか、理屈っぽい楽しみがないのですよ。おそらくシドニーが好きになるには、以下の条件を満たす必要があるのではないかと。

@スポーツが好きである(特にフィッシングとヨット)
A健康に気を使っている
Bのんびりした暮らしがしたい
C早寝早起き

というわけで、おじさんには無理だね。

○ちょうど4年間にシドニーを訪れたとき、妙な体験をしました。ビルの上から飛び降りようとしている男がいた。ありがちなことに、勇気がなくて踏み切れないでいる。下では警官がロープを張り、人々は上を見ながらささやきあっている。月曜日の昼下がり、大騒ぎになってしかるべきところ、みんなほとんど同情していない。どうやらこの男、常習犯と見えて、警官たちもあんまり真剣にはなっていない。どうなるのかとしばらく見学し、その後シドニー湾観光ツァーのボートに乗って、1時間後に同じ場所を通ってみたら、まだ同じ状況が続いていた。

○最後まで見届けるのはあきらめて、「シドニー2000」と書いたコアラの人形を買って帰りました。自殺者が多い、というのはこの国の隠れた特徴です。とにかく退屈なんだもの。オリンピックは格好の刺激となっていることでしょう。


<9月17日>(日)

○3連休とはありがたい。天気が悪くてもまったく問題なし。おかげでのんびりとオリンピック中継が見られます。とはいうものの、前から気になっていることをちょっとお話してみます。

○秋には祝日が6つもあります。敬老の日、秋分の日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日、それに天皇誕生日。ほとんどがいろんな理屈をつけて、戦後になって作られた祝日です。ある時期まではたしかに「日本人は働きすぎ」だったので、祝日をバンバン作ったわけですが、今や世界でもっとも祝日の多い国になってしまいました。昔は確か、祝日には日の丸を掲げる家が多かった。最近では滅多に見かけない。形骸化は進む一方なのに、一度作った祝日はなくせません。しかも、天皇の代が代わるたびに、新しい祝日が増えていく。こんなことでいいのでしょうかね。

○ある時期、財界人の秘書をやっていたのですが、当時はスケジュールを組み立てる際に、9月から11月の繁忙期にある5つの祝日の存在が実に恨めしかった。5つもあると、かならず飛び石連休ができてしまう。たとえば海外の要人が来ているときなど、むざむざ1日が無駄になる。そういう週は日程が入れにくい。その点、春の祝日は一箇所に固まっているから、こういう悩みはなくて済む。週の真中にある祝日は迷惑なので、なるべく月曜日に寄せた方がいいのになあ、と思っていたらいわゆる「ハッピーマンデー」法案ができた。これはいい、と思っていたら、該当する祝日があまりに少ない。

○敬老の日は1966年に法制化された。それ以前は「老人の日」と呼んでいた。昔のサザエさんを読むと、「今日は年寄りの日よ!」なんていうネタがあったりする。当時はまだあんまり「言葉狩り」をやっていなかったのでしょうね。そういう歴史の浅い祝日なのに、月曜日に動かそうとしたら、高齢者の団体から苦情が出て「9月15日でないとまかりならん」となった。高齢者が保守的なのは当然ですが、なんのために9月15日にこだわるのか、正直なところ分かりません。

○10月10日の体育の日は、元が東京オリンピックの開会式だったという程度なので月曜日に寄せられる(今年は9日)。ところが9月23日の秋分の日は、いつになるかは天文台が決めるので動かせない。11月3日の文化の日は、元の明治節だから動かすのがはばかられる。11月23日の勤労感謝の日は、元の新嘗祭なのでもっとはばかられる。てなことで、せっかく3連休法案が活かせない。

○アメリカの祝日でも、さすがに独立記念日(7月4日)は動かさない。でもほとんどの祝日は月曜日にしている。日本も要は割り切りの問題で、どんどん動かしてしまえばいいのではないだろうか。極端な話、建国記念日(2月11日)と天皇誕生日(12月23日)以外は、全部月曜に動かしてしまってはどうだろう。それでもって、これ以上増やさない努力も必要だと思う。海の日(7月20日)なんて、どういう理由で決まったか、知ってる人はほとんどいないんじゃないかい?


<9月18日>(月)

○不幸その1。お昼に出かけた講演会がものすごくつまらなかった。会場はホテルオークラ。と思ってアメリカ大使館まで歩いていったところで、実はニューオータニであることに気がついた。でもまあ、坂を登る前に気がついて良かった。その場でタクシーを捕まえ、ニューオータニに馳せ参じるも、あまりにも不毛な講演会なので中座。お昼を食べそびれてハンバーガー1個を3分で済ます。(←この程度は良くあることだ)

○不幸その2。この秋にしなければならない、すごーく大事な仕事を自分がスカッと忘れていたことが発覚。しかも同業他社の方に教えていただいてしまった。弱ったなあ、気づいてしまったからにはごまかせないし。(←自業自得ではないか)

○不幸その3。午後6時に宿題を与えられ、その締め切りを明日の午後4時より先には延ばせないことが判明。でも明日の日中はアポイントが2件あって、実質的に作業不可能。しょうがないから残業して処理。(←そのくらい、お給料もらってんだから)

○不幸その4。それでも午後7時からは、かねて予定していた勉強会に参加。しかるに、これまた思い切り不毛な時間に終わる。「じゃあ、これから酒と食事も含めて本音の放談会を・・・・」となったところで、誘いを振りきって帰社。スターバックスのラテとスコーンを買って職場に戻り、明日の資料作り。(←これこれ、君の同僚はもっと遅くまで残っていたではないか)

○不幸その5。家に入るなり、小型のチャバネゴキブリを発見。今日の日経夕刊で退治。そういえば週末にバルサンを炊こうと思っていたのだった。んもう、しょうがないなあ。でも缶ビールを空けつつ、パソコンに電源入れてこんな記事を書く。こんな私が不幸なはずないじゃないか。といいつつ、2本目のビールに手が伸びる・・・・。


<9月19日>(火)

○先週号の「アジアのIT」について、すごく面白いコメントを頂戴しております。以下、本誌のLoyal ReaderのIさんからのメールを、ご本人の許可を得ず転載します(←いいよね?)。

「アジアのITビジネス」は、面白いテーマですね。先日、っといっても3ヶ月ぐらい前に、香港の嶺南学院のアジア太平洋研究センターの学者さんたちと話しました。

彼らは、「雁行型」の時代は終わって「エアロバティックス(曲芸編隊)型」になったと言うんですね。吉崎さんの「カジノ」と良く似た趣旨なんだけれど、吉崎さんの「私・試説」と違うのは、「変化が激しいゆえに予見しにくい」ということではなくて、分野別に(それも相当に細かいカテゴリー別に)、先頭集団にたつエコノミーがくるくると入れ替わりながら、全体をひっぱっていくという説です。

その論拠として
(1)東アジア全体の相互依存はますます強まる
(2)ITでは先導エコノミーの誘導力は、製造業以上に強まる
(3)「何か」に突出して強いことが大事で、経済の規模や集積度はそれほど大事ではなくなるーの3点を挙げていました(と思う)。

 特に(3)について、「.....scale of ecomy is less important, liberal art
is more important」.と強調していましたね。小生もそう思います。人類学などを大事にしている教育機関を抱えている国や地域は潜在力があると思います。

○この香港の学者さんの指摘は勉強になりました。まず「エアロバティックス」というのが鋭い。つまりITといってもいろんな分野があり、たとえばハードの製造では台湾が、B2Bではシンガポールが、B2Cでは香港に可能性がありそうだ。その一方、日本はコンテンツ制作の分野では、他の追従を許さない才能があるように見える(ex:ピカチュウ)。といっても、そうした比較優位はどんどん移り変わる可能性がある。まさに曲芸編隊。「カジノ・テーブル」よりもこっちの方が聞こえがよさそうだ。

○さらに「突出して強いことが大事」「リベラル・アーツが重要」という指摘が面白い。歴史でも文学でも哲学でも、一見金にならないような学問をおろそかにしないことが、クリエイティビティを涵養する上で意味がある。そういう点では、意外と日本がいちばんきちんとした教育をしているかもしれない。

○今日、当社のとある名物役員にこの「エアロバティックス」と「リベラル・アーツ」の話をしたら、「そういえば、ウォール街でいちばんクリエイティブな連中は、リベラル・アーツでBAを取ってるね」と言ってました。それそれ。エコノミストでも、もともと経済学とは違う分野から入ってきた人のほうが面白いことを言う。

○それにしても、香港でも似たようなテーマを追いかけている学者がいるんですね。あらためて、Iさんのコメントに深謝。


<9月20日>(水)

○世論調査で有名なギャラップ社のHPは見ていて飽きることがありません。ゴアとブッシュの支持率は、いろんな機関がそれぞれに実施していますが、ギャラップ社はさすがに見やすいし、データがそろっています。HP上の数字をひろってエクセルに張りつけ、いろんなグラフを書いてみたくなる誘惑に駆られます。実に便利で魅力的なHPです。

○両者の支持率は、レイバーデイを境に逆転している。それとは別に、最新ニュースとして両者の好感度調査が行われています。先週末、初めてゴアがブッシュに対して優位になったようです。有権者はゴアに対して「好き」(61%)、「嫌い」(33%)、「別に」(6%)と答えているが、ブッシュに対しては「好き」(52%)、「嫌い」(42%)、「別に」(6%)となる。これまでずっと6割以上の好感度を得ていたブッシュが、失速状態になっている。これは結構、シリアスな事態だといえます。

○支持率を調べる際には、「もしも大統領選挙が今日であれば、あなたはどの候補に投票しますか?」と質問する。好感度調査においては、「あなたはゴアとブッシュに対して、好感、または嫌悪感をもっていますか?」と尋ねる。「大統領にふさわしいかどうか」と「好きか嫌いか」は別次元の問題だから、これは筋の通った聞き方といえる。質問の仕方というのは大事なもので、それによって答えにもバイアスがかかってしまう。いつも同じ聞き方をする、というのは大切なことだと思います。

○よく引き合いに出される「現職大統領の支持率」(Clinton Job Approval)のデータも充実しています。この場合は、「大統領として、ビル・クリントンの仕事のやり方に賛成ですか、反対ですか?」と聞く。8月29日から9月2日の調査では、賛成が62%で反対が35%である。政権末期にしては高い数字だ。これとは別に好感度調査(Clinton Favorability Ratings)もある。こっちは、「ビル・クリントンに対するあなたの全般的な意見は、好意的ですか否定的ですか?」となる。8月18〜19日に調査が行われ、こちらは48対48のイーブンとなっている。

○モニカ・ルインスキー事件の頃(99年1月)には、個人の資質調査"Clinton Personal Characteristics"というのも行われている。クリントンは、「物事をやり遂げることができる」(82%)、「正直で信頼に足る」(24%)、「考え方が似ている」62%)などといった評価がなされている。同じ物体でも、見方を変えるといろんな形に見える。まして人間においておや。こういう手法の発達ぶりに、「民の声は神の声」というアメリカらしいこだわりを感じます。

○ひとつ発見したのは、「今のアメリカに対して満足していますか」という問いに対し、イエスの答えが50%を越えたのは1997年になってからだったということ。それまではずっと不満の方が多かった。ついつい、「米国経済は1991年3月から長期にわたる好況を謳歌し」とか、「90年代後半には米国の復権は誰の目にも明らかになり」などといったことを書きたくなりますが、庶民の実感は1996年末までは伴わなかったということになります。つまり、「実感なき景気拡大」が5年も続いたことになります。

○日本でも「景気が良いのは数字の上だけ」という意見が多い。ひょっとすると、そういう事態を向こう5年間覚悟しなければならないかもしれない。それでもその先に、4年連続の4%成長(しかもインフレなし)とか、財政の黒字への転換といったご褒美が待っているのなら、この我慢は値打ちがあるといえますが。


<9月21日>(木)

○日本サッカーが決勝トーナメントに進出。これはめでたい。なにしろ世界のベストエイトですよ。韓国なんてあなた、気の毒に予選で2勝1敗なのに得失点差で残れなかった。ひとつ間違えば日本がそうなっていた。それもこれもスロバキアのおかげだ。

○日曜日の対スロバキア戦では、視聴率が40%台にのったそうだ。明後日の対アメリカ戦はそれ以上行くだろうな。アメリカに勝ったその日に巨人が優勝したらどうするんでしょ。翌日のスポーツ紙はサッカーが一面でしょうな。ナベツネさんの悔しがる顔が思わず目に浮かんだりして。でまあ、アメリカに勝って、次はイタリアかスペインと準決勝。できればイタリアと当たって中田大活躍、という試合を見たい。その次を欲張るのはちょっとご遠慮しておこう。

○ところでアメリカもオリンピックで盛り上がっているようだ。CNNなんぞを見ると、「選挙関係の記事はどこにあるの?」てな感じになっている。とにかくオリンピックが終わらないことには、選挙戦には注目が集まらないということだ。そのため大統領候補のテレビ討論会は、普通なら9月下旬に第1回目が行われるところ、10月3日、5日、17日にセットされた。

○さて、オリンピックの間も選挙関係の情報が充実しているのは、ヤフーの選挙ページである。見ていて飽きません。2000年の大統領選挙は、どうやら1988年に似てきたような気がします。

1988年

 

2000年

レーガン政権2期8年のあと

状況

クリントン政権2期8年のあと
ブッシュ父(現職の副大統領)

与党

ゴア(現職の副大統領)
デュカキス(マサチューセッツ州知事)

野党

ブッシュ(テキサス州知事)
夏場の17%差を逆転してブッシュ勝利

展開

夏場の10%差をゴアが挽回
ネガティブ・キャンペーン

勝因

??


○88年に焦点になったのは、たしか「ウィリー・ウォートン」とかいう凶悪犯だった。挑戦者、デュカキスの地元マサチューセッツ州では、囚人を家に帰らせる制度があった。ところが凶悪犯ウィリーは、牢屋を出た足でそのままレイプ殺人に及んでしまった。これをブッシュ陣営が取り上げて、「デュカキスは犯罪に甘い、やつはリベラルだ」と批判した。このキャンペーンが大当たり。デュカキス陣営は最後まで有効な反撃ができなかった。ということで、この年の選挙ではまともな政策論争にならなかった。

○2000年選挙では、ネガティブ・キャンペーンはないかもしれないが、両者の政策よりも個性やスタイルに視線が集まっている。アメリカでは『オプラ・ウィンフリー・ショー』という、日本でいえば昔の『徹子の部屋』(←ど古い)みたいな人気番組があるんですが、これに両者があいついで登場したらしい。そこでゴアがブーツを履いてきたとか、そういうことが話題になっている。やっぱり中味よりイメージで勝負なんでしょうか。下手をすると、「2000年はkissとassがすべてだったね」ということになるんじゃないか。だんだん不安になってきましたぞ。


<9月22日>(金)

○昨日、あんなことを書いていたら、本当に明日の夜で巨人の優勝が決まりそうです。ところが新橋の金券ショップでは、明日の巨人=中日戦のバックネット席をペアで15万円で売っているそうです。恐れ入りました。巨人ファンはやっぱり4年ぶりの優勝を心から待ち望んでいるのですね。アンチ巨人のかんべえは、当然日本対アメリカのサッカーに賭けております。なにしろ勝てばベスト4ですよ。メダルにリーチがかかってしまう。1968年のメキシコ大会以来の快挙。

○今日の分の本誌では、「ディスオーガニゼーション」という概念が登場します。これって要するにツキに見放され、何をやってもチグハグでうまくいかないドツボな状態を指すらしい。阪神ファンには理解しやすい状態かもしれません。たとえば10連敗とかするときには、信じられないような不運に何度も見舞われるものです。そんなドツボにはまらないようにするのが、およそ勝負ごとの要諦というものですが、そういう状態を体験しているときはいかにも「人生だなあ」と感じるのも事実。かくして阪神ファンにはマゾヒストが多いといわれるのでしょう。

○勝負ごとでそんな状態に陥ったとき、いろんな反応があります。ゲンをかつぐ、気分を転換する、めげずに頑張る、しばらく休憩するなど方法論としては数々あれど、決定打となるものはありません。それでもひとつだけある真理は、永遠に続く不運はないということ。日本経済もそれを信じていくしかないでしょう。阪神ファンもそれを信じて待っているわけですから。


<9月23日>(土)

○あーん、負けちゃったよう。日本サッカー。前半見てたら日本の方が地力が上だと思ってたけど、個々の選手の勝利への執念ではアメリカが上回っていましたね。時間切れ間際にPKもらっちゃうんだもの。後半最初の部分で何度もチャンスを得ながら、追加点が取れなかったのが痛かった。それから中田の不調。最後のPKゴールをはずしたのが象徴的でした。でもまあ彼がいなかったら、決勝トーナメントには来てないか。最後は両チームともへとへとだった。血まみれで頑張った楢崎のガッツには脱帽です。

○それにしても日本チームは、今度の大会で急速に強くなった感がある。甲子園球児が一試合ごとにうまくなっていくように、出発前とは段違いに強くなったんじゃないだろうか。98年にワールドカップを見てたときとはまるで違う。とりあえずベストエイトまで来たのは収穫でした。

○昼間にやっていた野球も韓国に惜しい負け方をしてました。悔しい一日です。今日はもう、ここまで!


<9月24日>(日)

○ということで、悲しい気持ちで終わった土曜日でしたが、今日は朝から高橋尚子の女子マラソン金メダルに高揚しております。われながら、にわかナショナリストもいいところだなあ。それにしても、金メダルがもう5個。まだまだソフトボールに野球という楽しみも残っている。名門スポーツ部の廃部がこれだけ相次いでいるのに、この奮闘ぶりはいったいなんでしょう。経済力とスポーツの強さはあんまり関係がないようです。

○高橋尚子の走りっぷりはもちろん、笑顔もインタビューも見事でした。個人的に印象深かったのは、35キロ時点でサングラスを投げ捨てたこと。本人は「あそこに知っている人がいたから、あとで拾ってもらえるかと思って」などと言ってましたが、それがスパートをかけるタイミングであったことは間違いない。しかも並走しているルーマニアの選手の目の前に、たたきつけるように投げた。まるで決闘の手袋を投げるように。相手は一瞬ひるんだように見えた。

○ふと思い出したのは、「神田君、時間だよ!」という話である。これは昔、将棋の木村14世名人が残した、いかにも勝負師らしいエピソードなのだ。終盤戦、両者持ち時間が残り少なくなり、神田8段は秒読みに苦しんでいた。勝負どころで「55秒、6、7・・・」と秒を読まれたところで、木村名人は「神田君、時間だよ!」と大声を出した。これで神田8段は慌てた。次に指した手が大悪手。形勢は逆転して、木村名人がタイトルを得た、という。

○木村名人は年が若かったために、それまで先輩格の神田8段のことを「さん」づけで呼んでいた。声を荒げるどころか、いつも先輩を立てていた。それが突然、「時間だよ!」とすごんじゃったものだから、神田8段は乱れまくってしまったわけだ。性格が悪いといえばそれまでだが、勝負師が善人で務まるわけがない。木村14世名人や大山15世名人には、この手の芝居がかったエピソードがたくさん残っている。

○サングラスを投げた高橋尚子の場合は、無意識の行動だったのかもしれませんが、相手に与えた心理的効果は小さくなかったように思えた。実は高橋はあんな顔して、けっこう勝負師タイプなんじゃないだろうか。いかにも素直で明るい性格に見える彼女ですが、本当は羽生善治のように勝負に辛い人だったりして。そう考えると、ますます好感度がアップするなあ(←性格が悪いのはお前だな)。


<9月25日>(月)

○ほとんどその存在を忘れかけていた人が、この場所に帰ってきました。本誌の古くからの読者にはおなじみの方だと思います。その理由が「オリンピック」なんだから驚きますね。ここ数日、かんべえが熱中していたら、この人も実は熱中していたみたいです。ご紹介します。戦国時代の武将にして名参謀、黒田官兵衛さんです。

かんべえ 「官兵衛さん、ご無沙汰しております。まさかシドニーオリンピックをご覧とは思いませんでした」
官兵衛   「面白いよねえ。僕は4年おきにちゃんと見てますよ」
かんべえ 「官兵衛さんが感じるオリンピックの面白さはどこにあるんですか」
官兵衛   「ひとつは他人が真剣にやっていることだな。戦争でも、あんたの好きな選挙でも、他人が命賭けてやっている仕事を、自分が安全地帯に居て見物することほど面白いことはない」
かんべえ  「いきなり来ますねえ。確かに私は選挙好きですが、自分でやりたいとは思いませんものね。手伝ったことはありますけど」
官兵衛   「もうひとつの面白さは、まったく見当がつかんということだな。不確実性、というのも得がたい魅力だ」

かんべえ  「今回も思い当たるシーンがたくさんありますね」
官兵衛   「たとえばだ、あの田村亮子。”最高で金、最低でも金”なんて言っちゃって、本当に金が取れたから良かったけど、あれだってどうなっていたかは分からなかった。たとえば篠原のときのような下手な審判に当たってしまえば、一本勝ちしたはずのところを負けにされてしまったかもしれない。そういう意味では、やっぱり勝負はときの運なんだ」
かんべえ  「ああ、あの審判はひどかったですねえ。でも篠原は”弱いから負けた”と言って銀メダルを受け取りました」
官兵衛   「審判が間違えないくらい完璧な勝ち方をすればいいわけだが、それにしてはつらい結末だったな。でも審判は絶対で、判定は覆らない、というのは格闘技に限らず、およそスポーツの基本だから。あとからビデオ見て、やっぱりこっちが勝ち、なんてのは良くないと思うぞ」
かんべえ  「考えてみれば、大相撲というのは“物言い“という救済措置があるんですね。あのシステムは見直されていいかも」
官兵衛   「おいおい、相撲なんて物言いがあっても、しょっちゅう怪しげな判定をしているじゃないか。ま、人間がやることだから、審判だって間違いはある。アスリートはそういう運も含めて、全人格的な勝負をしているわけだ」

かんべえ  「私の友人の田中さんというジャーナリストが、“篠原は本当は銀じゃなくて金だったんだ”ということを、伝えていきたいという意味のことを言っているんですが」
官兵衛   「うーん、気持ちは分かるけどなあ。審判が間違えた、という不条理に耐えた篠原は、十分伝説になったと思うぞ。金よりも値打ちのある銀の物語はたくさんあるじゃないか」
かんべえ  「ああ、それを聞いて思い出しましたが、世の中にはすごい銀メダルがあるんですよね。1984年のラシュワンをご記憶でしょうか」
官兵衛   「もちろん。言っとくが僕は詳しいからね。ロサンゼルス大会の無差別級決勝戦で、山下と当たったエジプトの選手だろう」
かんべえ  「そう。山下が左足を痛めていたのが分かっていたのに、敢えて左足を攻めなかった。おかげで山下は金を取って、モスクワ五輪辞退の無念を晴らしたのですが、本当はラシュワンが金メダルを取れていた」
官兵衛   「あのときの山下は左足肉離れだった。準決勝では、フランス代表の選手が露骨に左足を攻めたから、山下は苦戦した。それは当然なんだ。スポーツマンシップには、相手に同情しないということも含まれる。勝負の場においては、非情であることこそ最高の礼儀だといえるのだから」

かんべえ  「では、ラシュワンの我慢はスポーツマンらしくないと」
官兵衛   「そこがいいんじゃないか。彼は柔道家なんだ。柔道家にとっては、スポーツマンシップよりも武士道の方が重いのだろう。エジプトという国は、1948年のロンドン大会以後、金メダルを取ったことがなかった。そういう国の代表が、金のチャンスを譲ったんだぞ。“貧者の一灯”といったらエジプト人に怒られるが、我慢の偉さが全然違うんだ」
かんべえ  「うーん、考えてみれば、すごいやせ我慢だったんですね。でも今の話、ほとんどの日本人は忘れてしまってますよ」
官兵衛   「ラシュワンの美学のような話こそ、語り伝えていく価値があると思うぞ。最近、柔道を普通のスポーツのように心得ている報道が多いようだが、ジャーナリストは心してほしいな。メダルの数より大事なことがあるのだと」
かんべえ  「官兵衛さん、のってますねえ。その調子で、明日もひとつ、お話してもらえますか」
官兵衛   「もちろん、明日はひとつサッカーでも行くか。」

○3たび登場した官兵衛さん。戦国時代編参謀論編に続き、今度はオリンピック漫談が始まりそうな雲行きです。明日には果たして何が飛び出すか。こうご期待。


<9月26日>(火)

かんべえ 「1968年のメキシコオリンピックでは、日本サッカーは銅メダルでした。私、小学校2年生だったけど、わりとよく覚えているんです。たしかトーナメントで地元メキシコと当たったんです。そしたら地元は“メヒコ、メヒコ”の大声援なわけ。それを日本が勝っちゃう。これは恨まれただろうなあ、と思ったら、次の試合ではメキシコの大観衆は日本を応援してくれたんです」
官兵衛  「高校野球みたいだな。でもいい話だね」
かんべえ 「当時と今では全然環境が違いますけど、それでも銅メダルはすごかった」
官兵衛  「あの年はストライカー釜本の力に負うところが大だったな。ああいう日本人はその後は出ないね」
かんべえ 「釜本さんはその後、ぱっとしないんです。Jリーグの監督では失敗しましたし、日本サッカー協会の人事を掻き回してみたり、トルシエ降ろしを仕掛けたり。今は参議院議員ですけど、サッカー界の役に立っているかどうかはよく分からない」
官兵衛   「いいじゃないか。国会議員は票があれば誰でもなれるけど、偉大なストライカーになれる素材は滅多にいない。ストライカーというのは、普通の人間じゃ駄目なんだな。ちょっと人格破綻しているくらいがちょうどいい」

かんべえ 「そういうのはいませんねえ。ユニークなやつといえば中山ゴンですけど、基本的にめちゃ善人だし」
官兵衛
  「もっとほら、危険な感じがするタイプがいいんだけどね。夜中にすれ違ったら、思わず避けちゃうような」
かんべえ 「ああ、それはもう全然駄目ですね。高原も平瀬も好青年だし。柳沢なんか、思わずいじめたくなるタイプだし」
官兵衛   「要は中田だけなんだな」
かんべえ 「そうなんですよ。その中田が不調だった。アメリカ戦の最後でPKはずしちゃうし」
官兵衛   「あんなのは結果論だよ。PK合戦なんてジャンケンみたいなもんだ。入れたはずしたと言って騒ぐもんじゃない」
かんべえ  「では、時間切れ間際に、ペナルティエリア内でハンドしちゃった酒井のミスでしょうか」
官兵衛   「うーん、あれも悔やまれるが、あの時点ではいかにもそういう流れだったね。はっきり言って、後半の序盤に何度もあったチャンスで追加点が取れていれば、3対1くらいで勝てた試合だった。そこで点が取れなかったことが検討課題じゃないか。あそこで粘ったことで、アメリカに勝機が芽生えたわけだから」
かんべえ  「将棋の大山名人なんかは、“チャンスを逃すことはミスではない”という考えだそうですが」
官兵衛   「それはそうだ。でも3回続けて逃したらミスになる。いわゆる“チャンスのあとにピンチ”というやつだな」

かんべえ  「官兵衛さんは、勝負の流れみたいなものを重視するんですね」
官兵衛   「戦場で指揮をとってみれば分かるよ。戦争でも球技でも、大勢でやる勝負にはどうしても勢いみたいなものがついて回る。僕なんかにとっては、スポーツを見るときの面白さとはイコール、流れを見定めることにつきるな」
かんべえ  「やっぱり監督の視点なんですね。そこでトルシエ監督をどう評価しますか」
官兵衛   「悪くないんじゃないか。少なくとも98年のワールドカップに比べれば、日本はすごく強くなったぞ。ブラジル戦なんか立派なものだった。なんで監督交代論が出るのか、僕には分からないな」
かんべえ  「選手の代えどきが悪い、という批判があります」
官兵衛   「ふーん、まあおそらく監督としての采配はいまひとつなんだろう。でも教育者としてはたいしたものだと思うよ。あれは要するに熱血教師のタイプなんだな。年中ガミガミ言っているから、選手に慕われることはないけども、あとから考えたらいい監督だったということになるんじゃないか。いずれにせよ2002年というゴールを目指して、川を渡っている最中に馬を換えようという意見には首をかしげるな」

かんべえ  「強いチームを作るために必要なことってなんでしょう」
官兵衛   「スポーツのことは分からんけど、軍事の世界でいえば、しょっちゅう戦争をやることにつきるな。勝負というのは無数の細かいノウハウの集大成だ。しょっちゅう真剣勝負をやっている軍隊は強いよ。精鋭部隊というのは出し惜しみをしてはいけない。消耗を恐れずにどんどん使うことだ。サッカーだったら、たくさん大舞台を積むことだろうね。その点、日本チームは恵まれている。まだまだスポンサーもつくし、海外遠征の機会も多いからね」
かんべえ  「経験を積むことが最大の教育機会であると」
官兵衛   「そう。強い敵に勝った経験は自信につながる。アトランタでブラジルに勝った“マイアミの奇跡”はすごい財産だろう。でも負ける経験だって生きてくるんだ。その点、日本サッカーには“ドーハの悲劇”という素晴らしい敗戦経験がある。軍隊だって、負けたときのつらさを知っている連中は強いよ。羽柴秀吉軍には、“金ヶ崎城の退却戦”という至宝の体験があった。そういうのがあると、耐える局面で生きてくる」
かんべえ  「そういう意味では、シドニーの体験も将来の肥やしになりそうですね」
官兵衛   「中田がイエローカードもらって、ブラジル戦に出られなかっただろう。ああいうのがいいんだよ。肝心かなめの人間が欠けたときは、2番手の選手が伸びるチャンスなんだ。エースが怪我で欠場したら、監督は内心ほくそえむくらいでなけりゃ」
かんべえ  「私が知っているあるオーナー経営者は、わざと用事を作って取締役会を欠席することがあるんですって。自分がいなくてもちゃんと会社が回るかどうかチェックするために」
官兵衛   「それは私もやったよ。まあ、裏切り者をチェックする狙いもあるんだけどね。ともあれ、シドニーでのトルシエ・ジャパンの2勝2敗は価値ある経験だったと思うよ」

○意外とオリンピックをよく見ている官兵衛さんである。明日はいったい何が飛び出すのか。待て次回。


<9月27日>(水)

かんべえ 「今大会の日本勢は女性の活躍が目立ちます」
官兵衛   「同感。とくに高橋尚子だな。マラソンの金メダルは値打ちがあるよ」
かんべえ 「ああいう偉業を達成するアスリートというのは、どうやったら生まれるんでしょうね。言い古された話ですけど、努力か才能かという問題を考えてしまいます。官兵衛さんはどっちが大事だと考えますか」
官兵衛  「ああ、それはどっちでもなくて、性格なんじゃないかな」
かんべえ 「ほう、性格ですか。具体的にどんな性格が望ましいんでしょう」
官兵衛   「いや、別にどんな性格だっていいんだよ。高橋尚子の場合は明るさと素直さだろうし、有森裕子の場合は負けん気と根性だろう。僕は人間の才能なんて、そんな大差はないと思ってるんだ。問題はそれを自分で引っ張り出そうとするかどうかの違いで、それはつまるところ本人の性格次第だと思うんだ」

かんべえ 「そういえば、日露戦争の名参謀、秋山真之が仕事ができるできないというのは、要するに性格だ、といったことを言ってましたね。秋山は勉強しないのにいつも成績がいいので、同級生がその理由を聞いたんだそうです。そしたら秋山は、試験の山を全部当てちゃうんです。だから才能でも努力でもない、試験は要領と性格だと」
官兵衛
  「その場合の性格は、勝ちパターンといってもいいかもね。つまり俺はこうやるという方程式が決まっているかどうか。高橋尚子も有森裕子も、見事なまでに自分流だろう。そういう人は自分を開花させるのに向いている」
かんべえ 「たしかに42.195キロを2時間ちょっとで走るなんてのは、人に命令されてできることじゃないですね。自分でその気にならなかったらできるはずがない。つまらん話ですが、私が毎週金曜日に書いている溜池通信、これで1年半くらいになりますけど、あれも上司の命令だったら絶対に続いてないと思う。自分で始めちゃったことだから意地で続けてますけど」

官兵衛   「本人がその気になって、あとはいい教育者に出会うかどうかだな。つまり高橋にとっての小出監督とめぐり合うかどうか。こればっかりは運だね」
かんべえ 「それはありますね。場合によってはライバルに恵まれる、というのもあるし」
官兵衛   「すごい才能が1箇所からどんどん出てくる、という現象があるよね。幕末の松下村塾とか、適塾なんかが典型的だけど。“あいつができるんなら俺にもできる”っていうのは、すごいパワーになるみたいだね。仲間を持つということは非常にいいことだと思う」
かんべえ  「人材の集積効果というのは確かにありますね。おそらくシリコンバレーなんかがそうなんでしょうけど」
官兵衛   「ただしそういう集積効果は、いつかは失われるというのも悲しいかな事実なんだな。体操も女子バレーも、かつて日本のお家芸といわれた分野がずいぶん荒廃してしまった。鮮度というものはたしかにある」
かんべえ  「最近は旧経世会の橋本派が没落への道を歩んでいるようですが」
官兵衛   「ある時期までは人材の宝庫と呼ばれ、将来が有望な若手が大勢いた集団が、あるときから急に活力を失っていくことがある。集積を生み出すのは難しいけど、崩壊するのは早いんだ」

かんべえ  「今回の水泳競技では、“金がいいですぅ”の田島選手も良かった」
官兵衛   「いいよねえ、世の中をなめていて。自己ベストを3秒縮めて、それでも全然満足していない。若いっていいな。おじさんにはまぶしいぞ。あのね、“世の中たいしたことない”と思ってるタイプは、“世の中というものは馬鹿にしてはいかん”と思っているタイプより、明らかに一発勝負には強いんだ。オリンピックは一発勝負だからね」
かんべえ  「ああいうのを見ていると、日本人のメンタリティは変わってきたと思いますね」
官兵衛   「そうだね。仕事をするときの心構えというのは、極端な話2通りしかなくって、それは他人が期待するように頑張るか、自分がやりたいように意志を通すかだ。昔の、というか戦後日本の貧しい時代というのは、前者のパターンが横行していたと思う。でも、それだとプレッシャーに弱いアスリートができてしまう。その点、最近の若い日本人は自己チューだからね。本番で自己ベストを出せるのは、周囲のことなんか知るか、というタイプだと思う」
かんべえ  「ああ、その2分類はサラリーマンの中にもありますね。でもほとんどの人は、その時々で両方追いかけているからストレスがたまってしまうけど」
官兵衛   「大きな仕事を残すタイプは、どっちかだろうね。自分のモティベーションを中途半端にして、大成するやつはいないと思うよ」

かんべえ  「40歳を目前にして最近しみじみ感じるのですが、人間ってこの年になるまでに何らかの形で負け犬になってるんですね。それこそ体を壊す、人事評価で罰点がつく、家庭を壊す、買ったマンションが担保割れする、子供の出来が悪い、髪の毛が薄くなる、など、どこかで自己嫌悪に陥るような経験をしちゃう。そうやって、“ああ、これが俺の限界か”などと気づくようになると、なんだかスポーツの世界で一筋に頑張っている人たちが光り輝いて見えるような気がするんです」
官兵衛   「おお、君も中年男の心理が理解できるようになったということか。ひとつだけ教えてあげよう。孔子さまの“四十にして惑わず”というのは、40歳になったら経験を十分に積んだからもう迷うことがない、という意味じゃないんだ。40歳になる頃には、ほかの可能性はほとんど駄目だと分かっちゃうから、あとは迷わずに今やっていることを続けなさい、という意味なんだ」
かんべえ  「そういう話を聞くと落ち込むなあ」
官兵衛   「オリンピックに出てくるような人たちは、それこそ10歳くらいで“この道一筋”を決めちゃったような人たちだよね。それを考えると、数万分の一の確率をくぐりぬけて、メダルを手にする人の気持ちってすごいだろうね」
かんべえ  「メダルを目指したことのないわれわれには、ちょっと計り知れないものがありそうです」
官兵衛   「そういうシーンを見せてくれるオリンピックは、やっぱり感動して当然なんだ」

○今夜は、まるで『プレジデント』誌に載るおじさん同士の人生論みたいな会話であった。この「まったり感」が明日も続くのか、それとも急転直下違う方向に向かうのか、実はさっぱり見当もつかない3日目の官兵衛VSかんべえである。それにしても、野球が銅メダルに届かなかったのは非常に遺憾である。ぶつぶつ。


<9月28日>(木)

かんべえ 「なんか釈然としないんですよねえ、野球」
官兵衛   「巨人が優勝したのがそんなに嫌か」
かんべえ 「国内のプロ野球なんて見てないですよ。今年は4月末に、一瞬だけ首位になったからもういいの。韓国に負けてメダルが取れなかったのが納得がいかないんです」
官兵衛  「わしなんぞ朝鮮出兵に関与してるからな。まぁ、日韓関係を悪くしたのはわしらの世代、とくに秀吉の責任だからな。許してくれい」
かんべえ 「日韓関係はいいんですよ。野球って日本のお家芸でもなんでもないですけど、こんなもんに血道を上げてるのは、日本とアメリカだけみたいなもんでしょう。それでメダルが取れないというのは、いかがなものかと。日本が野球で4位だったというのは、これがサッカーならドーハの悲劇並みの屈辱のはずです」

官兵衛   「松坂なんか可哀相に、3試合投げて内容はいいのに全部負け試合だろう。あいつの人生で初めての試練じゃないか。そりゃあ泣くよ。でも、若いんだからまた4年後に、アテネで頑張ってほしいよな。そんときは日本はドリームチームを派遣すればいい」
かんべえ 「ところがですねえ、それができそうにない。プロ野球サイドには、これが問題だという意識もないと思いますよ」
官兵衛
  「例の分からず屋のおっさんがおるからな。だが、そもそもプロ野球は企業が経営をやっている。完全に経済原理で動く。こんなスポーツはめったにあるもんじゃない。だからオリンピックに選手を出せ、といわれると、いや、ペナントレースの方が大事です、などという返事がくる。そんなもん、誰も見とらんのにな」
かんべえ 「球団は企業向けに、ボックスシートを年間で売り出したりしているわけですよ。そういうお客のことを考えると、スター選手は出せないという話になる。金を払うやつだけが客で、それ以外のファンはどうでもいいわけです。でも圧倒的大多数は後者だから、彼らはいずれプロ野球に愛想をつかしてしまう。そうすると視聴率が稼げなくなる。この調子じゃプロ野球は、緩慢な死を迎えるんじゃないでしょうか」

官兵衛   「構わんじゃないか。ほかに見るべきスポーツはいくらでもある」
かんべえ 「でもねえ、20年くらい前は、野球以外に楽しいスポーツってなかったんですよね。毎晩、佐々木信也のプロ野球ニュースを見て、『週刊ベースボール』なんて雑誌を買って、『がんばれタブチくん』という無茶苦茶笑えるマンガがあって・・・・。その頃は阪神の選手なら、年間2〜3勝のピッチャーまで、全員の名前と背番号を覚えてましたよ。そういう時代を思い出すと、野球の凋落ぶりは悲しいほどですね」
官兵衛   「さっきから君らしくない意見が続くなあ。紅白歌合戦で、演歌が少ないといって怒っているオヤジみたいだぞ」
かんべえ  「まさにそうなんですけど、野球というスポーツをよみがえらせる方法はないものかと」
官兵衛   「ないね。そんなもん。野球が駄目になったのは、ファンが駄目にしてるんだから」
かんべえ  「・・・・そうなんだよなあ。阪神タイガースを駄目にしているのは、明らかに阪神ファンですから」
官兵衛   「こんなことをわしが言うのは変だが、とくに長嶋ファンの罪は重いと思うぞ」

かんべえ  「そんなこと言うとすごい人数を敵に回しますよ。私の友人の岡本さんなんか、『日本のカイシャ、いかがなものか』なんてサイトを運営しながら、典型的なダメ組織である読売巨人軍のことになると、まるっきり腰砕けですから」
官兵衛   「そんなのいいんだ。長嶋ファンに悪人はいないから。その代わり賢いやつもおらんようだが」
かんべえ  「今の発言の責任、私は取りませんからね」
官兵衛   「長嶋ファンというのは、野球ではなくて一個人を見に行っている。長嶋が、どんなむちゃくちゃな野球をやっても許してしまう。まともな野球ファンは、嫌気が差して去っていく。ますますプロ野球全体が長嶋中心に回るようになる。最後の頃の全日本プロレスみたいなものだ」
かんべえ  「普通なら勝てないとクビになるんですが、監督人気で客が来るもんだから、興行的には成功するんですよね。そこでカネを積んで他球団の人気選手を連れてくる。その結果として、下手な采配でもある程度勝てる。するとますますカネが入ってくる。よくできたビジネスモデルなんです」
官兵衛   「来年の参議院選挙に向けて、自民党が長嶋に出馬交渉をしているという話を聞いたぞ。あの人気は、そういう分野で使ってみたほうがいいかもしれない」

かんべえ  「サッカーはもともとグローバルだし、競馬だってどんどん国際化している。ほかのスポーツは常に海外からの刺激を受けて鮮度を保ってますが、野球だけは鎖国が続いている。それが悪いとは興業主側は気づいていないんです」
官兵衛   「アメリカの大リーグが日本で開幕試合をやったよな。かの国でも野球人気が低下して、いろいろ工夫をしているわけだ。日本のプロ野球界も、本当の意味での企業努力をしなければいけないな」
かんべえ  「例のおっさんが考え方を変えない限り難しいでしょう」
官兵衛   「良くも悪くも、日本の野球文化は読売巨人軍が作ってきた。それは認めざるを得ない。なにしろ日本では、プロ・リーグができる前に巨人軍ができたのだから。初めに協会ありきのサッカーやラグビーとはえらい違いだ。しかし巨人とともに栄えたプロ野球は、巨人とともに滅びるんじゃないか」
かんべえ  「それを避けるためには、今回の事態を“シドニーの悲劇”とでも呼んで、大騒ぎした方がいいと思います」
官兵衛   「しかし取材をする側もドメスチックだからな。今週の月曜日には、高橋の金メダルよりも巨人の優勝を一面にもってくるスポーツ紙が多かった。つまりスポーツ記者も、現状に埋没しているわけだ」
かんべえ  「王対長嶋の日本シリーズで盛り上がれるなんて人は、少なくとも若い世代ではない。プロ野球の衰退は早いと思いますね」

○官兵衛さんも意外と口が悪い。さて、明日は更新をお休みします。その後のことは、またあらためて考えよう。巨人ファンの反撃を待つ。


<9月29〜30日>(金〜土)

官兵衛   「おいおい、君が出張と称して、越後湯沢の温泉に浸かっている間に、オリンピックはほとんど終わりかけているぞ」
かんべえ
 「失礼いたしました。見学した国際大学奥只見ダムも非常に有益でした。それはさておき、明日のマラソンが終わってしまったら、何を見たらいいんでしょう」
官兵衛   「君には積ん読状態の本がいっぱいあるじゃないか。新宿鮫の新作にローマ人の物語の9巻、それに『日本企業のコーポレートガバナンスを問う』なんて本ももらってるし。まあテレビはしばらくお預けだね」
かんべえ 「そうなんですよねえ。再来週はニュージーランドだし、忙しいんだなあ」

官兵衛  「でまあ、次のオリンピックのことを考えるとするか。アテネで会いましょう、ということで」
かんべえ 「2004年のアテネもそうですけど、その次の2008年がどこになるかという楽しみもあります」
官兵衛   「念のため、これまでどこで行われてきたかを振りかえってみよう」

1960 ローマ 欧州
1964 東京 アジア
1968 メキシコシティ 米州(ラ米)
1972 ミュンヘン 欧州
1976 モントリオール 米州(北米)
1980 モスクワ 欧州
1984 ロサンゼルス 米州(北米)
1988 ソウル アジア
1992 バルセロナ 欧州
1996 アトランタ 米州(北米)
2000 シドニー オセアニア
2004 アテネ 欧州


かんべえ 「こうしてみると、圧倒的に欧米でやってますね」
官兵衛
  「極端な話、3回に1回は欧州なんだ。これは別に不自然なことではない。オリンピックの起源はギリシャだし、いいだしっぺはフランス人だし、そもそもスポーツという概念を生み出したのは欧州の貴族たちだからね。さらにもって国の数が多い。どうしても発言力が強くなる」
かんべえ 「やつらは国連やOECDでも同じことをやってますからね。んー、でも、この表を見ると、2008年の大阪誘致を考える人の気持ちがわかりますね。そろそろアジアにまわってきてもいいじゃないか、と。中国人も同じことを考えるから、北京も有力候補になるわけですね」
官兵衛   「アフリカのケープタウンも招致を表明しているはずだ。アフリカは1回もやってないしね。極端な話、2012年にはまた欧州に回帰するかもしれん。フランスやドイツあたりがいかにも手を上げそうじゃないか」
かんべえ 「南米もやってませんね。でも、あそこはオリンピックよりもワールドカップの方がいいんでしょうね」

官兵衛   「昔はオリンピックの規模が小さかったから、発展途上国でも十分にホストが勤まった。1964年当時の東京なんて、高速道路も新幹線もできたてで、まさにエマージング市場だった。世界の国から認められたくて、大いに頑張ったわけだ。ところがいまでは規模が大きくなってしまった。そのうち、ラグビーやゴルフもオリンピック種目にしようという話が出るかもしれない。オリンピックで国威高揚というのは、かなり難しいハードルになってしまった」
かんべえ  「規模が拡大したのは72年のミュンヘンあたりからですね。それでカネがかかってしょうがないので、84年のロサンゼルスから商業化が始まった。アトランタのときには、もうこれ以上は無理だという感じでした。正直な話、経済力の観点からいってアテネにできるのかという気がします」
官兵衛   「第1回の場所に帰ってくるわけだから、まわりも納得するだろう。オリンピックは、そろそろカネのかからないスタイルに変えるしかないだろうね」

かんべえ  「そうすると、2008年も小ぶりな大会になる可能性がありますね。大阪が立候補しているのは、とにかく金を使って景気をよくしたいということですから、それじゃあ困る、ってなことになるかもしれません。」
官兵衛   「景気対策のために誘致するくらいなら、まだしも途上国の国威高揚に使ってもらった方がましだな」
かんべえ  「やっぱり北京にやらせた方がいいような気がしますね」
官兵衛   「その代わり、北京でやるとなるといろいろ問題が多いぞ。そもそも共産主義国が開催地になるのは1980年以来のこと。報道管制の問題に始まって、香港や台湾の参加方式など難問山積になるんじゃないか」
かんべえ  「難しい選択になりますね」
官兵衛   「まあ深く考えるまでもないんだ。決まった場所で粛々とやればいいんだ。あくまでも主役はアスリートたちなんだから」
かんべえ  「官兵衛さんは次のアテネオリンピックも楽しみにしてるわけですね」
官兵衛   「いや、次のオリンピックは2002年のソルトレークシティ(冬季)だよ。日韓共同開催のワールドカップもあるし、楽しみはつきないねえ」



編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki