●かんべえの不規則発言



1999年10月





<10月4日>(月)

○突然にこんなページを作ってみた。小さい頃から日記が続いたためしのない性格なので、おそらくは不規則掲載の発言になる公算大。アクセス件数が思ったより多いので、読者サービスというほどのことはないが、ちょっと舞台裏を見せようかと考えた次第。「かんべえ」こと筆者・吉崎達彦のことを知らない人もおられるはずなので、こういうやつが『溜池通信』を書いているのか、と分かっていただければ幸甚なり。

○今日、「溜池通信は、国内ネタと海外ネタを交互に取り上げているの?」と聞かれた。いえいえ、その辺はまったくいい加減です。たとえば今週号だけど、これを執筆中の月曜夜(といってももう12時は過ぎてるが)の時点で、何を書くかはぜーんぜん決めてない。それでも金曜の夕方までには書き上げて、会社のイントラネットに乗せている予定。漠然と「石油価格」「米国経済再点検」といったテーマが脳裏に浮かんでいるが、これが「自自公政権を斬る」になっているかもしれない。ま、水曜くらいには決めていると思う。

○で、話はいきなり東海村の事故について。筆者の友人、H氏は日立市のH製作所に務めているのですが、事故があったのは、「国道、鉄道、高速道がクロスして、割りと人も住んでいる少なくとも東京の人が考えるど田舎とは程遠いところでして、そんなところであんな物騒なものを作っているとは思いませんでした」とのこと。「原燃とか動燃には日ごろから警察・消防署がいっぱい詰めておるけど、あそこには警備員たぶんいないぞ。テロリストが原爆の材料仕入れようと思ったら簡単に手に入るんじゃないか?」ーーうーん、やっぱり。そんなことじゃないかと思っていたぞ。

○たとえば、海外で転換したプルトニウムを日本に運ぶとき、船を警備するのは海上自衛隊だと思うでしょ? でも現実は海上保安庁なんです。いっちゃ悪いが、海上保安庁の船にミサイルは積んでない。それに北朝鮮の不審船にさえ追いつけなかったんですぜ。テロリストが軍艦を使って襲えば、プルトニウムはほぼ確実に入手できます。でも海上自衛隊が出かけていっちゃあいかんのだそうです。その理由はいちおう聞いたんだけど、筆者の鈍い頭では理解できませんでした。

○中日ファンのH氏は、9月30日夜に星野監督の胴上げを見て、「さぁ飲みに行くかぁ」と思った瞬間に「半径10キロ以内外出禁止」という報に接した由。この日が期末日だったことも、経理のH氏には悲劇だったようです。まぁ、これからいろいろと出るでしょうね、問題は。水戸の納豆が売れなくなるとか、原子力保険の適用が行われるとか。毎日、常磐線を使っている筆者も、なんとなく水戸から先まで行く車両には乗りたくない気分。こんなワタシを誰が責められよう。


<10月5日>(火)

○おいおい、とうとう風邪引いちゃったよ。・・・てな話を書くために、こんなページを作ったワケではない。身辺雑記にしてどうするんだ。知らない他人の体調なんぞに、関心を持つ人が大勢いるとは思えない。だいたいそんな日記なら、インターネット空間の中にはもっと才能あるやつがいっぱいいるじゃないか。菜摘ひかるなんて、あれはいずれ直木賞取れるタマだと思うぞ。ま、それはさておき。

○「量的緩和は不要」という声があちこちで増え始めた。筆者が「まとも」と思っているエコノミストはほとんどがそう。野村総研の植草一秀、第一生命研究所の河野龍太郎、大和SBCMの佐野一彦などである。先週、本誌「日本銀行の決断」で書いたことは、はずれていなかったんじゃないかと思う。本件に関し、「まとも」でないのは日本経済新聞社の報道だ。「財務省筋によれば、米国は日本の量的緩和を求めている・・・」ーー本当か? 意地になっているとしか思えないぞ。

○筆者の知人である林芳正参議院議員が大蔵政務次官になった。同世代人で、ワシントン以来のお付き合いだが、今の若手政治家の中では掛け値なしの実力者だと思う。政府委員制度が廃止になった臨時国会で、どんな活躍をしてくれるか大いに楽しみ。


<10月6日>(水)

○なぜ、いつまでたってもリンク集ページができないのか。本当は「かんべえの知恵袋」と題して、お世話になっているHPの紹介ページを作るつもりなのに。要するに自分のものぐさのせいなのだが、その理由に突然思い当たった。あらたまってリンク集にすると、序列とか紹介の文章をどうするとかで、果てしなく迷ってしまいそうなのだ。なにしろA型なもんで。てなことをいってる間に、溜池通信へリンクを張ってくれている人がいるではないか。申し訳ない。

○とりあえず当方が把握している分だけでもここで書いておこう。まずは目標とする伊藤洋一さん。次に共感工房。筆者はここで「アメリカ・ウォッチング」という記事を毎月書いている。主催者Mさんとは会ったことがなく、メールだけのお付き合いだが、いつも丁寧な人柄がしのばれる。「株の鉄人レース」が有名なページ。同様な企画を持つ全日本株式選手権は、古いお付き合いのIさんがやっているのだが、リンク集で当ページを「日本を代表する影のエコノミストによるHP」と紹介している。これって誉められたんでしょうか? カブト町境界人のO氏も古いお付き合いだが、日記で紹介してくれた。これらのリンクから当ページを訪問してくださった方は少なくないものと了解。皆さんに深謝。

○今週何を書くかの構想が突然固まった。あとは執筆。敵は仕事(本業)と風邪だ。


<10月7日>(木)

○今週は代理出席などで、3日連続で経団連に通っている。来週行われるニュージーランドとの国際会議の準備もしなければならない。さらに誕生日が近いので、免許の更新やら成人病検診も重なって、時間を取られることこの上なし。しかしこうやって仕事がらみであちこち出歩くことで、溜池通信のネタを拾っているようなもの。文句はいってられない。

○経団連のF氏から、先週号に対する非常に有益なコメントを頂戴した。多謝あるのみ。こういうメールが欲しくて、HPを作ったようなものです。知ってる人が読んでてくれているというのは励みになります。


<10月9日>(土)

○昨日は帰りが遅かったので不規則発言はお休み。くれぐれも「日記」にはしませーん。

○で、今朝、今週号をアップ。うーん、書くべきことはたくさんあるのだが、時間がないのでまた改めて取りかかるとしよう。


<10月10日>(日)

○3連休の宿題のひとつに「書評を書く」ことがある。『財界』という隔週発行の雑誌で書評を担当することになったもので。9月28日号で「台湾の主張」、10月26日号で「ローマ人の物語[」を取り上げた。その次の締め切りが10月12日。明後日ではないか。そこでせっせと『日本の近代5 政党から軍部へ』(北岡伸一)を読んでいる。面白いからいいようなものの、書評を書くことを目的にして本を読み出してはいかんな。その次の締め切りが11月9日なのだが、おそらく11月2−9日は海外出張になりそうなので、事実上今月中に書いておかねばならない。ふー。

○『財界』編集部のS氏とは同じ年で、20代からの長いお付き合い。芒洋とした記者なのだが、社長人事を「抜く」ことにかけては業界でも有名人である。先般、とうとう編集長になってしまった。最近、表紙がやたらと派手になったと思ったら、どうも彼の趣味らしい。漫画さえ売れない時代ゆえ、経済誌が苦戦しているのは当然で、いろいろ大変なことと思う。

○S氏は昔からよく、他人の原稿が「落ちた」ときに電話をかけてきて、「明日中に書評を1本、お願いできませんかね」てなことを言う。こちらも元編集者なので、その状況は分かるからとても断れない。おまけに元編集者、字数と締め切りはキッチリ守るので、頼みやすい相手なのだと思う。内容は保証の限りではないけどね。今回、とうとうレギュラーに昇格してしまった。この次くらいからは、好き勝手な本を取り上げてみようと思う。


<10月11日>(月)

○先週聞いた面白い話。小渕首相は組閣に当たり、まず橋本前首相に厚生大臣を打診したのだそうだ。「恵ちゃん、よせよ」といわれて断念したそうだが、実現していたら、元首相2人を擁する超強力内閣になっていたことになる。その場合、席次はどっちを上にしたのだろうか。

○橋本前首相を引っ張り出したくなる気持ちは、なんとなく分かる。なにせ究極の厚生族といわれる人である。社会保障関係は現在、問題山積状態。なかでも最大の不安は介護保険である。忘れている人が多いと思うが、介護保険を決めたのは自社さ連立政権の時代である。橋本首相、菅直人厚相、加藤幹事長、山崎政調会長の時代なのだ。介護保険は、自社さが一致できる政策の目玉であり、多くの妥協を重ねて原案が成立した。この間、「社さとの協議でこう決まりましたので」と、自民党内部の議論はほとんど頭越し状態だった。てなことで、「俺は認めてないぞ」という議員は少なくない。

○連立は自社さから自自公へと移り変わり、関係者の顔ぶれも一変した。案の定、亀井静香政調会長が吠え始めた。制度の実施は来年4月なのだから、政策責任者がこの時期にぶちこわすような発言をするのは問題であるが、それくらい議論は詰まっていなかったという証左でもある。さて、小渕さんはどう出るのか。橋本厚相でにらみをきかせ、党内の議論を封じるという手は使えなくなった。要介護認定も始まったことだし、いろいろ出てくるんじゃないかな。


<10月12日>(火)

○台湾中部大地震の影響が深刻である。下手をすれば世界的な半導体市況が揺らぐ。中国との間での「一国二制度」VS「国と国」論争にも影響が出始めている。ちゃんと調べると、溜池通信の記事が1本書けるだろうが、今のところはやや材料不足。

○社内の意見を聞くと、「台湾復旧の鍵は電力が握っている」とのこと。送電線の復旧が遅れており、電力不足により工場の稼働率が落ちているらしい。その辺、李登輝さんはさすがで、救援や復旧にあたって超法規的措置を発動できる緊急命令を公布している。村山さんとは違います。

○面白いのが中国の出方だ。台湾バッシングを引っ込め、同胞の被災を支援しようというキャンペーンを張っている。それだけでなく、諸外国から台湾に支援が寄せられていることに対し、中国外務省が「国際社会の支援に感謝」などと言っている。言外に、「あそこは、わが国の一部だからね」という態度である。台湾は腹立つだろうなぁ。いちおう中国からの資金援助は受けたものの、人とモノの支援は遠慮したという。

○今日、初めてこのHPを見てくれたSさんが言ったこと。「黒田官兵衛は唯一好きな歴史上の人物なんです」−−結構いるもんなんですね。Sさんとは長いお付き合いなのに、今まで一度も「官兵衛」の話をしてませんでしたね。今度溜池でやりましょう。「K」のおじさんが「最近来ないねえ」と言っているし。


<10月13日>(水)

○パキスタンのクーデターですが、世間の多くはまだ"So what?"って感じですね。でもちょっと考えてみて。核保有国が軍事政権になったのは、歴史上初めてのことですぜ。隣国インドにとっては、もっとも恐るべき事態が進行中なわけですよ。パキスタンの軍はアフガンのイスラム原理主義勢力、タリバンを支援していることでも有名。結構あぶない事態のような気がします。

○アメリカの出方が悩ましい。南アジア情勢なんて典型的な「Cリスト」事項で、何があっても米国の利益を脅かすほどのことはない。ただしイスラム原理主義勢力が核兵器のスイッチを手に入れたとなると、安全保障上の問題が発生する。おそらく介入せざるを得なくなるでしょうね。

○「良き軍人は良きリアリストである」という。逆に言えば、リアリズムを欠いた軍隊は悪い軍隊である。どうもパキスタンのは後者の典型らしい。というのは、このクーデター、まったく長期的な展望がない。仮にクリントン政権がこれを軍事クーデターと認定すると、アメリカの経済援助が停止されて輸出が止まる。アメリカはパキスタンの主要食糧援助国なんですよ。IMFのお金も止まるよね。どこか他にあてにできる国があるんでしょうか。

○パキスタンはもともと、大統領と首相と軍隊が適度に権力を分け合っていた。それが97年2月の総選挙でイスラム教徒連盟が議席の3分の2を獲得し、シャリフ党首が首相に就任してから変わった。パキスタン初の安定政権と評されたシャリフ政権は、大統領の権限を狭め、権力基盤を強化。インドとのカーギル紛争を契機に、軍との対立も強まった。なにしろ民主的な手続きを踏んでいるだけに反撃が難しい。そこで軍は打倒シャリフのために強硬手段に出た。追いつめられたから打って出たまでで、先のことをあまり考えていないような気がします。困ったもんですな。


<10月14日>(木)

○景気回復策として、いろんな意見が出されています。そろそろネタ切れかと思っていたのですが、まだまだ新鮮なアイデアも残っているもので。筆者にこれを語ってくれたのは、住建産業社長の中本氏。広島サンフレッチェのスポンサー企業といえば、お分かりになる方も多いかもしれません。

○相続税減税の話が出ているが、実は相続税には控除も大きいし、それほど実体経済への影響は期待できない。それよりも贈与税を減免しろというのです。ご承知の通り、日本の貯金の大多数は高齢者が持っている。彼らは消費性向が低いので、金を使わせるのが難しい。そこで「子供のために家を買いなさいよ」と勧める。時限立法でいいから「年間60万円」の枠を取っ払って、親が子のためにポンと家を買い与えるような仕組みを作ろうというのです。

○大蔵省主税局の論理では、贈与税とは金持ちの資産隠しを捉える最後の手段なのだという。でも、上記のアイデアは悪くないような気がします。


<10月16日>(土)

○すごく面白い話を聞きました。「興銀X富士X一勧」とか「住友Xさくら」のおかげで、都内の不動産屋さんが戦々恐々だとか。これから銀行の支店がどんどん閉鎖されちゃうので、テナントがいなくなるという不安はよく分かります。さらに問題なのは、銀行の支店が抜けたあとのオフィスは非常に使いにくいんだそうです。特に問題なのが「金庫」の存在。あんなもの、他に使いようはないし、かといって壊せない。どんな使い道があるのでしょう??

○ところで、「大金持の親が、子供のために家を建てる」プランの続き。(実は前回分を書いているうちに寝てしまって、話が尻切れになっているのです)。実は贈与税の減免などは必要なく、次のような「裏技」があるのだそうで。まず、子供が親に巨額の借金をして家を建ててしまう。そして年利1%くらいを、親が死ぬまで払い続けるというわけ。これなら相続税も軽減できるはずです。

○1300兆円の金融資産は、その大部分は60歳以上の世代が所有していると推測されています。この世代のお金をいかに使ってもらうかが、景気回復の鍵。「自分のことにはカネを使いたがらない世代なんだから、子供のために使わせりゃいい」というのが、中本さんのアイデアです。もしもこの世代がお金を使わなかったらどうなるか。相続税という形でバッチリ政府のふところに入り、財政再建の一助となるのでしょう。それよりは、使ってしまった方がいいんじゃないでしょうか。


<10月17日>(日)

○この「不規則発言」は、なんというか非常に読みにくいですな。もうちょっと色をつけたり、レイアウトを工夫すべきなんでしょうが、そのへんはあんまり努力する気がおきなくて。まあ、読者の数もそんなに多くないし、たいした内容でもないので、しばらくはこのままいきます。

○考えてみれば、ここで書いていることって、ほっとけば忘れてしまうようなことばかりなんで、書き残しておけば、あとあと自分のためになるんですね。たとえば10月13日に、パキスタンのクーデターについて書いてます。その後、いろいろ新しい情報が入っているんで、今日の時点でコメントするとしたら、また別の見方になると思う。自分の考えがどう変化したか証拠が残るわけで、これは便利ですよね。もっとも、見通しをはずして大恥をさらす恐れもあるわけですが。

○将棋の米長邦雄さんが昔書いていたことですが、将棋が強くなるにはいっぱい「誤読」をすることだと。難しい詰め将棋を何日もかけて解く。正解にたどり着くまでの試行錯誤している時間は、無駄なように見えてそうじゃない、んだそうで。だから誤読を恐れてはいかんのです。強くなるためには。


<10月18日>(月)

○長野参院補欠選挙で羽田元首相の長男が勝利。久々に民主党が一矢を報いました。新聞は「自自公連立にショック」てなことを書いておりますが、実際に選挙区に入った人の話を聞くと、そうでもないようで。ちょっと田舎へ行くと、「自自公」も「民主」もなくて、「羽田さんとこのか、そうでないのか」と聞かれるんだそうです。そもそも民主党なんて、そんな党あったんか? ――まぁ、長野県出身で総理にもなった、あの羽田さんの息子なら良ろしかろう、という感じだったらしい。そもそも長野全県区というのは過酷な選挙区で、とにかく広すぎる。あれじゃまともな選挙戦なんてできっこありません。長野と松本と飯田と上田と軽井沢じゃ、違い過ぎますからね。

○昔、セメント会社の技術者からこういう話を聞いたことがあります。セメントというのは、固めるときにきっちり乾かしておけば、相当に長持ちする。昔の建物は丁寧に作ってあるので、丸ビルとかエンパイアステートビルは、年月を経てもしっかりしている。ところが近年は工期を短縮するために、セメントが生乾きの状態で工事をしてしまう。技術者の眼から見るとこれは非常に危険なことなんだそうで、その代表選手は山陽新幹線だとか。財政再建がうるさくいわれた時期だったので、突貫工事で作ってしまった。あれじゃあ、そのうち恐いことになりますよ・・・・ 最近の報道を見ていて、ふと思い出しました。

○今夜は化学会社に勤めるSさんと食事。来月の出張の打ち合わせのはずだったんですが、単にゴチになっただけでした。どうもスイマセン。Sさんいわく、紙パックのリサイクルほど馬鹿らしいことはない。ラミネートをはがすのが難しくて、再生には電気代がかかるからきわめて不経済。そのまま燃やして発電した方がマシで、もっといえば牛乳は瓶で売ることにして、紙パックをなくすのがいちばん良いとのこと。小学校では、「紙パックを集めましょう」と子供に教えているようですが。

○週明けのニューヨーク株式市場が注目されます。下手をすると大幅調整があるかも。過去にNYダウの暴落上位20傑のうち、実に8つが10月に集中しているので、なんとなくイヤーな感じがあります。古くは1929年の「暗黒の木曜日」、近くは1987年の「ブラックマンデー」、そして直近では1997年の「香港発世界同時株安」と、全部10月なんです。ほとんどの投資信託が12月末決算なので、この時期に益出しの売りが集中する、という解説があるのですが、どうもそれだけでもなさそうで。「桐一葉、落ちて天下の秋を知る」てなことになりませんように。

○今夜のかんべえさんはちょっとおしゃべり。日中、思うにまかせぬことが多かったもので。まぁ、そういう夜もございます。ハイ。


<10月19日>(火)

○明日はインドネシアの大統領選挙。本日は、インドネシア情勢といえばこの人、白石隆・京大教授の話を聞いてきました。
――選挙はどうなるんですか?
「分かりません。でも明日の夕方になれば分かることです」。
――そりゃまそうですな。で、ハビビとメガワティ、どっちが勝った方がいいんですか?
「ハビビが勝てばお先真っ暗。メガワティが勝てば、かすかなチャンスがある。でもどっちにしろ、インドネシアにいいことはありません」。
――ではこの国はどうなるんですか。
「スハルト時代に、たくさん殺して盗んで嘘ついたような人たちが処罰されてません。これでは国の未来に希望が持てるはずがありません。人々の不満は分離独立運動に向かいます。それも大きなうねりにはならなずに撃破されます。むこう5年くらいは国情が安定せず、しょっちゅうマスコミを騒がすような国になっているでしょう」。
うーん、説得力のある話でした。

○アメリカはインドネシアをどうしようとしているのか。白石教授によれば、アジア政策で得点のないオルブライト国務長官が、「インドネシアの民主化」で成果を上げようともくろんだのが間違いのはじまり。東チモール問題では人権一本槍で、ビジネスの視点は完全に欠如しているとのこと。問題は、アメリカが「ハビビもウィラントも駄目。いざとなればIMFの支援も止める」という態度に出ているため、それに逆らってまで日本政府がインドネシアを支援できるかという点にある。しかし資源やシーレーンのことを考えれば、インドネシアは日本にとって重要な国である。またしても苦しい板挟みか。

○国際情勢を読むときの初歩の原則は、「まずワシントンに視点を置き、アメリカ人のアタマになってモノを考える」ことだと思う。そうしないと、「国の安定よりも人権」なんていう発想が理解できない。それにしても、2001年からは共和党にやってもらった方がいいような気がしてきました。


<10月20日>(水)

○問題です。「夫と妻、それに子供が同居しているような家族は、日本の全世帯数の何割程度を占めているか」。子供の数は1人以上であれば数は問いません。出題者は参議院議員の円より子さんで、回答者は中年のサラリーマン(ほとんどが男性)でした。ちなみにこの問題、かんべえは見事に当てました。エヘン。

○「少なくとも過半数は超えているだろう」と考えた人が多かったようですが、これは間違い。正解は34%だそうです。少ないですね。よく減税の規模を説明するときなど、「夫婦に子供2人の4人家族をモデルとすると・・・」てなことをいいますが、そんな世帯はおそろしく少ない計算になります。

○かんべえさんの思考経路。
@まず全世帯の3分の1程度は一人暮らしであろう。
Aということは、2人以上が一緒に暮らしている世帯はせいぜい全体の3分の2。
B子供のいない夫婦のみの家庭は多い。また、父母のうちどちらかが欠けている世帯もけっこう多い。最近は単身赴任もあるし。さらに子供が独立した老夫婦も相当な数になる。
Cこれらを約半数と見積もる。すると2/3X1/2=1/3。答え:全世帯の3分の1程度
――念のためにいっておきますが、これは当てずっぽうです。答えだけは合っていますけど。

○「夫婦がいる世帯で、専業主婦の家と共働きの家はどちらが多いか」。これも意外に思われるかしれませんが、実は共働きの方が多いんですよね。サザエさんちのように、夫が外で働いて、妻が専業主婦で、子供を育てている家庭というのは、世帯数で見ると非常に少ないはずです。ああそれなのに、それなのに、政策を立案するときはこの「モデル家族」が基礎になっちゃうんです。円先生、おっしゃる通りです。


<10月22日>(金)

○今週号の溜池通信を掲載。米国政治情勢は、わりと「土地カン」のある分野というか、書いていて楽しいテーマです。ところが昨夜は、書きながらつい寝てしまいました。こういうことがあるので、当ページは不規則発言となっています。

○唐突ながら、東海村の事故について、マスコミはずいぶん遠慮しているようですね。被爆した3人の方の病状など、非常に気になるところです。万が一のことがあった場合には、日本では第5福竜丸以来の核による被害者となるはずです。もちろん広島、長崎の後遺症によるものは別として、ですが。

○個人的には原子力発電は将来的にも必要だと考えています。それだけに、こういう事態が起きたときには、自分たちがいかにおっかないものと共存しているか、あらためて認識するいい機会だと思います。原子力のCMを一時的に中止する、なんて手法はまずいんじゃないでしょうか。


<10月23日>(土)

○今日はイトーヨーカドーが安売りをしていました。そこでつい、不要不急のものまで買い込んでしまいました。ふと気がつくと今夜は日本シリーズ。そうか! 来週になったらダイエーがバーゲンをするから、その前に稼いで置こうという算段か。さすがはヨーカドー、賢い作戦ですね。

○「日本一のお金持ちは、ヨーカドーの会長さんじゃないか」という説を聞いたことがあります。ソフトバンクの孫さんは、持ち株の時価総額では文句無しの日本一でしょうが、彼が株を売ったらソフトバンク関連株は暴落してしまう。つまりキャッシュにはできないんです。堤義明さんも同じで、土地を売りたくても買えるような相手がいないかもしれない。そこへいくと、ヨーカドーくらいの規模なら、オーナーは安心して持ち株を売りぬけることができる。これを教えてくれたのは億万長者のO氏ですが、金持ちのことは金持ちがよく知っているんですな。

○さて、日本シリーズ第一戦はダイエー勝利でした。工藤と秋山という元西武の「日本シリーズ常連組」が大活躍したようで。ぜひともシリーズに勝って、派手に優勝バーゲンといきたいところでしょう。ダイエーの経営再建が成功するかどうか、この勝負にかかっている部分も少なくないでしょう。

○このHPを最初に作ったのは、たしか8月21日の土曜日でした。今日で約2ヶ月。2500件のアクセスはわれながらできすぎでしょう。先日はモスクワから、「読んでるよ」のメールを頂戴しました。最近はこの日記みたいなページも作ったので、「日記猿人」にでも登録して宣伝してみようか、みたいな誘惑に駆られることもありますが、わけのわかんない読者が増えるのもイヤなので、なるべく知り合い中心のページにしておくつもりです。あ、でも、もちろんリンクは歓迎ですよ。


<10月25日>(月)

○今週の雑誌の広告を見ると、「系列の崩壊」というネタが多いようです。日産がゴーンさんの改革で系列企業を切る、とか住友とさくらの合併で系列が無意味化する、とか。日本企業に特有な「系列関係」、いよいよ危うしといったところでしょうか。

○その昔、1991年には米国で「日本のケイレッツーが米国製品の輸出を阻害している」という議論がおおまじめでされていました。当時、経済データからそのことを立証したのはブルッキングス研究所のロバート・ローレンス研究員。ローレンスは日本の系列関係を、トヨタや日立のような縦形系列、三菱や住友のような横形系列に分類し、これらが輸入の障壁になっているかどうかを実験しました。結論として、縦形系列ははっきり「有罪」、横形系列は「やや有罪」となりました。かなり評判になった論文なので、ご記憶の方もおられるかもしれません。

○で、その頃、ブルッキングスの客員研究員(居候)だったかんべえさんは、1階のカフェテリアで天下のローレンス研究員(現ハーバード大教授)をつかまえて、偉そうに講釈をたれました。「あなたのペーパーは画期的だ。とくに系列を縦形と横形に分けた点が鋭い。どうせなら、横形を“財閥”と“非財閥”に分けてもう一度やってみたら?」などと。ローレンスは「ふむふむ」と、子供のようにきらきらした眼で聞いてくれました。そして非常に印象的な質問を投げかけてきたのです。

○「ところでひとつ聞くけど、朝日新聞と朝日生命というのは同じ系列なのかね?」――ええっと、"Asahi"っていうのは英語だと"Rising Sun"なわけで、日本では非常に一般的な名前でして・・・などと、しどろもどろに説明しながら、いろいろな感慨を覚えた次第です。

○感慨その一。日本に詳しいといわれる経済学者でも、日本に関する知識はこの程度だということ。感慨その二。「旭硝子」は三菱系で、「アサヒビール」は住友系で、「朝日生命」は一勧系で、「朝日新聞」は独立系だということを、どうやってアメリカ人に理解してもらえるのだろうか。全部"Asahi"だというのに!

○日本企業の系列関係は、自民党の派閥と似ています。@外国人に説明がしにくい、A金の流れが支配関係を作っている、B最近はその金の流れも途絶えがちなのに、なんとなく続いている・・・・

○今夜もつい多弁になるかんべえさんですが、今日はどんな悲しい目にあったのでしょう。


<10月26日>(火)

○昨日の続き。そういえばローレンスはこんなことも聞いてきた。

「非財閥系企業が財閥系企業から注文を取ることはできるのか」
「そりゃもちろんできる」
「しかし同じ財閥系企業に比べれば不利な条件になるのだろう」
「三菱重工の仕事を三菱商事とウチの会社が競って、それで勝った商談はいくらでもあるぞ」
「そういうときはどうするのだ」
「簡単だ。向こうが1回通う間に、こちらが3回以上通えばいいのさ」
そこでローレンスは、こっちがギクッとするようなことをいってくれたのだ。
「それって、アンフェアじゃないか?」

○こういう典型的なアメリカ人の思考法に対し、何といって言い聞かせてやればいいのか、今でもわかりません。だれか名案があったら教えてください。しつこく言いますが、ロバート・ローレンスはあのポール・クルーグマンと同じくらいその道では有名な経済学者なのです。


<10月29日>(金)

○うーん、ちょっと日が開いてしまいましたね。だって出張の準備で忙しいんだもの。ほんと、今週は駄目かと思いましたよ。「その割りには遊んでたりもするじゃないか」、てな声もどこからか聞こえてきたりして。いやホント、のんびりしたいです。

○NY市場は強いです。この調子では「10月の暴落」はなさそうですね。まぁ、地震と暴落は「みんなが心配しているときには来ない」という法則がありますので、これだけ多くの人が心配しているときはかえって安全なのかも知れません。


<10月31日>(日)

○ダイエーが優勝したのでダイエー系のお店へ。優勝セールをやっているのですが、客の入りはたいしたことなし。10%OFFのコーナーを作って、紙おむつとかペットフードなど日持ちのする商品を並べている。賢いですね。お買い得といえるほどのものは少ない。店のアナウンスが、「ダイエーホークスの“V1”達成を記念して・・・・」と言っていたのがちょっと気がかり。欲張りですねぇ。

○買い物中に、ホークスの応援歌を何度も聞きましたが、当世にしてはいかにも古風な歌ですな。「疾風のように」とか「栄光目指し」なんていまどき死語ですよ死語。死語もタイガースの『六甲おろし』ほどになれば芸術ですが。なにせ「蒼天駆ける日輪の」ですからね。

○その後、ヨーカドー系の店に行ったら、ここもバーゲン中。衣料品は15%OFF。出張用の細々したものはこちらで買いました。ダイエー危うし!







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki