●かんべえの不規則発言



2019年12月





<12月1日>(日)

○ああっ、しまった。もう12月が始まってしまった。明日には「新語・流行語大賞」が発表になってしまう。とりあえずワシは「命を守る行動を」に一票入れておきたい。

○それよりも「今年の漢字」について。こちらは発表が12月12日(木)です。

○本命はずばり「嵐」でしょう。今年は台風が多かったし、アイドルグループ「嵐」は、天皇皇后両陛下の前で「奉祝曲」を披露した。しかも来年いっぱいで活動停止となる。この字は筆で描いたときに派手さがあるしね。

○対抗に「令」も有力でしょう。新元号「令和」が公表されたとき、「令」という漢字は怖い感じがする、てな声がありましたよね。でも、当たり前すぎて面白くないのと、あまり会話が広がらないのが難ですかね。

○少しひねって、「桜」はどうでしょう。「桜を見る会」に、ラグビーW杯の「ブレイブ・ブロッサムズ」も該当する。これは穴候補ですな。ちょっと季節感がずれるのが惜しい。

○あとはどうですかねえ。改元にかこつけて「改」もアリでしょうな。ラグビーW杯のベストエイト入りを祝して「勝」とか。うーん、後はどうしてもこじつけっぽくなりますね。

○ということで、今年もいよいよ残り少なくなってきました。もうじき2020年ですよ。ねずみ年ですよ。さあ、どうしましょう。ああ、やらなきゃいけないことが一杯ある!


<12月2日>(月)

今年の新語・流行語大賞「One Team」でした。ラグビー関連が5個もありましたし、その中でどれかと言えばやはりこれでしょう。ちなみに他の4つは、「ジャッカル」「にわかファン」「4年に一度じゃない。一生に一度だ」「笑わない男」でした。

○それくらい今年はラグビーW杯が成功を収めたということでしょう。あれを見た後では、他のスポーツが霞んで見えましたね。新語・流行語大賞は、かつては野球びいきと言われていました(「神ってる」2016年、「トリプルスリー」2015年など)。今回は「後悔などあろうはずがありません」(イチロー)が選考委員特別賞になっただけでした。

○昨年の大賞が「そだねー」(カーリングのロコ・ソラーレ)だったので、スポーツ分野が強いという流れは変わっていないと思います。今年は「スマイリングシンデレラ/しぶこ」がトップテンに入っていて、渋野日向子選手21歳はやっぱりインパクトがあるのですな。スポーツ選手が持つある種の「天然さ」は、現代社会においては希少価値なのでしょう。これは将棋の「ひふみん」(加藤一二三さん、2017年のトップテン)にも通じるものがあると思います。

○かつての新語・流行語大賞には、「お笑い芸人枠」がありました。近年のお笑い界は不作ですねえ。その代わりに「闇営業」が入ったのでは洒落になりません。もっともお笑い芸人が「新語・流行語大賞」を受賞して、その年の紅白歌合戦に出たりすると、非常に高い確率で行方不明になってしまいます。どこでどうしているのよ日本エレキテル連合(「ダメよ〜ダメダメ」は2014年の大賞)。「ワイルドだろぉ」のスギちゃん(2012年)や「グ〜」のエド・はるみさん(2008年)も懐かしい。今頃は地方で営業したりしてるんでしょうか。

○そして「政治家枠」も不振でした。そもそも気の利いた言葉で、政治を面白くしてくれるキャラが今は払底しています。今回は「ポエム/セクシー発言」(小泉進次郎氏)がノミネートされましたが、トップテン入りには力不足でした。そもそも進次郎くんは演説が上手いと言われるけれども、あれはたぶんに雰囲気作りが上手なのであって、名コピーを生んではいませんよね。

○お父さんの純一郎さんは、たくさん「流行語」を送り出しました。なにしろ2001年の大賞は「米百俵/聖域なき改革/恐れず怯まず捉われず/骨太の方針/ワイドショー内閣/改革の「痛み」」でしたからね。さすがはミスター・ワンフレーズ。政治家は言葉が命と言われる仕事ですが、近年は政治家の「造語力」が物足りないと感じております。

○今年の政界に新たな旋風を巻き起こした山本太郎氏も、「れいわ新選組」という党名がノミネートはされたものの、セリフやスローガンはあんまりヒットしてませんよね。そんなことではポピュリスト政治家は務まりませんぞよ。その点、トランプ大統領は"Keep America Great"で、ジョンソン英首相は"Get BREXIT done"ですから。

○もうひとつ、今年も不作だったか〜と感じるのは「CM枠」です。TVのCMに関係するものと言えば、かろうじて「○○ペイ」がある程度。これもペイペイのCMが特段に良かったとは思えないのですよね。今は面白いコンテンツを提供してくれるのは、テレビよりもむしろユーチューブなのかもしれません。そういえば「NHKをぶっ壊す!」(N国)はノミネートされていなかったのですね。

○純粋な意味で、もっとも流行語らしかったのは、「タピる」じゃないでしょうか。タピオカドリンク、あたしゃ1回も飲んだことないですが、ああいうものこそ時代の雰囲気を反映していて、後で懐かしく思えるものです。そう、流行は儚いから価値がある。ナタデココとか紅茶キノコとか、昔もいっぱいありましたよねえ。

○今年は「令和」もトップテン入りしました。新元号の評判がいい、というのは慶賀すべきことでしょう。実際にRの発音が新鮮だとか、出典が「万葉集」なのも良いのではないかという声は多いです。もっとも「令」という漢字は、「清らかで美しい、立派な、喜ばしい」といった意味があるそうですから、今年が本当にそういう年だったかと言えば若干の疑念が残ります。

○ということで、2019年は残り少なくなっていきます。まだまだサプライズがあるかもしれませんが、今年を締めくくると同時に、来年の予測を組み立てて行かねばなりません。明日は福島県郡山市に出没いたします。


<12月3日>(火)

○福島民友新聞主催、YMC郡山セミナーの講師で郡山へ。ちょうど4年前に来たことがある。福島市が政治都市なら、郡山市は経済都市。東北では仙台に次ぐ経済規模を誇る。

○ところがこの一帯は、先日の台風19号でひどいことになっている。工業団地が麻痺しているとか、病院が水没したとか、何より死者も出ている。阿武隈川の下流はなんともなかったのだが、支流で氾濫がおきたとのこと。そんなところへ、先日書いた自然災害に関する拙稿が関係者の目に留まったらしい。ありがたいような、困ったような。

○先週末に公表された10月分の鉱工業生産は前月比▲4.1%と、文字通りカックンと下落している。これはどう見ても消費税のせいじゃなくて、台風の被害によるサプライチェーン問題だ。台風の被害は一過性のものだとは言え、足元の10−12月期の日本経済はかなり落ち込みそうな予感。これでは大型補正もやむなしか。

○仕事を終えてから、郡山駅の「もりっしゅ」で勝手に慰労の一杯。ここは4年前も来た。一杯390円で、「月弓」という会津若松の日本酒を適当に注文してみたら、これが大当たりであった。いや、実に旨い。ついつい痺れて、帰りの新幹線内ではもちろん爆睡。

○東京駅に戻って、キヤノングローバル戦略研究所の創設10周年記念シンポジウムを覗く。知り合いが大勢働いているシンクタンクであるが、これだけ短期間に成功を収めた研究所は他に例がないのではないか。リーマンショック直後の2009年に作った、ということも今から考えると感動ものである。

○昔からよく知っている小林慶一郎先生がスピーカーだったので、真っ先に手を上げて意地悪な質問をさせてもらう。ところがこの質問、当方の勘違いであることが後ほど判明。しかし、これは「聞くは一時の恥」で、聞かなかったらずっと勘違いしているところであった。すばらしい。シンクタンクとは、まさにかくあるべきであろう。

○明日はまたも東北新幹線に乗って、今度は茨城県筑西市に参ります。


<12月4日>(水)

○常陽銀行さんの年末セミナー講師を務める。今年で何と6回目である。支店のあるいろんな場所を回って、今回は茨城県西部の筑西市で。ここは昔、下館市と呼ばれていた頃に、当時、日立化成に務めていた友人宅を訪ねたことがある。遠くて不便な場所だったという記憶があるが、今日は立派な会場で、お客様も200人くらい。考えてみたら、どこでも非常にお客さんの数が多いのである。

○これまでに訪れたのは、「つくば」「郡山」「神栖」「土浦」「日立」「筑西」の6か所。茨城県というのはつくづく面白い土地柄で、分散型なのである。県境に近いところに大きな町がある。そして県庁がある水戸市の人口は、それほど多くはない。お隣の栃木県が宇都宮の一極集中なのとは好対照といえましょう。

○普通に考えれば、一極集中型の県の方が資源を集中しやすいので、地銀の経営には良さそうである。でも、意外と分散型の方が良いのではないのかという気もする。それだけ顧客が多くなってリスク分散ができるわけなので。県境に大きな町があって、県庁所在地が小さい、ということでは山口県なんかもそうだよね。逆に一極集中型と言えば、秋田県や奈良県あたりでしょうか。こういうの、真面目に研究してみると面白いかもしれない。今後の課題にしましょう。


<12月6日>(金)

○ペローシさんが勝負に出ました。いよいよトランプ大統領が下院で弾劾訴追に向かいます。前回の溜池通信で書いた通りの展開です。でもって、12月5日分のラスムッセンの大統領支持率が52%となり、トランプさんは喜んでそれをリツイートしている。いやあ、狙い通りの展開じゃないですかねえ。「弾劾、カモーン!」て感じなのではないかと。

○トランプさんの再選確率は、40%〜60%のどこかではないかと思います。トランプさんはもともと弱い候補者だし、と見れば4割に近くなるし、でもねえ、民主党もうまくいってないしねえ、と見れば6割に近くなる。このレンジから外れた予測は、あんまり信用できないと思います。

○ただし例外として、在米大使館の方に聴いたら、「トランプ再選」と答えると思います。だって万が一、そうでないと言ってることが、ホワイトハウスにバレたら大変じゃないですか。この世界には「当局バイアス」とでもいうべきものがあって、それは財務省や日銀の人が、「来年の日本経済は失速します」とは決して言わないのと同じ理屈です。「お立場発言」には気をつけましょう。

○とまあ、その辺は大方の意見の一致をみるのだけれども、「2期目のトランプ政権は何を目指すのか」という問いに対する答えがない。減税なのか、壁の建設なのか、インフラ投資なのか、あるいは外交での成果なのか。どれも嘘くさいですよねえ。金融関係の方は皆さん、そこで悩んでおられる様子。

○思うに今のトランプさんは再選されることが至上の目標であって、その先のことは考えていないのではないか。ポピュリストというものは、思考のスパンが短いものです。明日は明日の風が吹く。いや、それがホワイトハウスの主だということが困るのでありますが。


<12月8日>(日)

○アメリカ大統領選の民主党候補のうち、カーマラ・ハリス上院議員が撤退を宣言しました。選対本部が分裂含みであって、選挙資金の集まり具合もよろしくなかった。その理由は、「候補者の妹が出しゃばるから」というのは日本の選挙でもよく聞く話であって、指揮命令系統が2つあったら大概の組織はダメになりますわな。選対本部をキチンと指揮できない人は、大統領にはなれない。まあ、副大統領候補の眼はあるかもしれません。

○それはよいのですが、彼女が居なくなったら民主党候補者のトップ5人の顔ぶれがずいぶん変わって見えるようになった。現時点のRCPでいくと、@ジョー・バイデン元副大統領、Aバーニー・サンダース上院議員、Bエリザベス・ウォーレン上院議員、Cピート・ブティジェッジ市長、Dマイケル・ブルームバーグ元市長、となった。5人全員が白人で、うち男性が4人。しかも4人が70代で、残る1人は30代である。なんというバランスの悪さであろうか。

○つくづく50代で黒人(インド系とジャマイカ系の移民2世)という彼女が居なくなると、民主党大統領候補者の景色が変わって見えてしまうのである。それ以外で言うと、一度はトップに立ちかけたエリザベス・ウォーレンが失速しかけている。逆にサンダースがしぶとい。若い層に影響力を持つAOC(アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員)は迷った挙句、サンダース支持なんだそうである。いくらなんでも高齢過ぎると思うのですけどね。

○何だかこの状況、2012年の共和党予備選挙に似ていると思う。あのときは、衆目の一致するところミット・ロムニー候補しかいないと思われたのに、共和党内では次から次へと無理目の候補者に人気が出て、なかなかまとまらなかった。今回の場合で言うと、「いろいろ考えたけれども、やはりジョー・バイデンがいちばん安心」いうことになるのではないか。なによりドナルド・トランプが、もっとも嫌がっている相手のようにみえる。

「バイデンはもしかしたら強い候補なのかもしれない」と言っているのは、上智大学の前嶋和弘教授である。言われてみれば、昔のセクハラが蒸し返されても、討論会でカーマラ・ハリスにやり込められても、息子の不祥事がウクライナ疑惑で取り沙汰されても、アイオワの有権者に質問されてブチ切れてしまっても、なかなか彼の人気は落ちない。「ちょっと残念なところがある人」というのが昨今の米大統領選では良いらしい。言われてみれば、ハリスもウォーレンも完全主義者で、隙を見せないタイプある。

○実際に現職の大統領があそこまでハチャメチャな人であると、挑戦する側も少しくらい脛に傷があっても許されるのではないか。それでもついつい候補者は完璧を目指そうとするし、それがかえって裏目に出ることもある。米大統領選も、どんどん変な世界に入りつつあるような気がしている。


<12月9日>(月)

○昨日ご紹介した前島和弘先生の「バイデン侮るべからず」の論考が、たまたま今日、東京財団のサイトに登場しましたので、さっそくご紹介。

●侮れないバイデンの底力

○この中で最後の方に、「いざとなったらバイデンにはこんな秘策がある」という「噂」が登場する。「副大統領にあの人が・・・」というもので、大統領選挙においてはありがちな噂の一種である。この場合、「だったら、なぜ『あの人』は大統領候補になろうとしないのだ?(その気になれば、かならずなれるはずなのに!)」というツッコミが入るので、現実的には「そりゃあないよねえ」ということになる。しかしまあ、「あの人」の本が全世界で1000万部も売れているとあれば、あながち無視するわけにもいかんのでありましょう。

○それというのも、「アンチ・トランプ」という人たちは「オバマ時代は良かったよねえ」という思いを共有している。だからこそバイデン元副大統領には、常に追い風が吹いている。いくらジョー・バイデンが「残念力」を発揮しても、「まあ、あの人は仕方がない(だってオバマは完璧だったしね)」ということで許されてしまうのだ。

○ところがここに悩ましい問題がある。民主党支持者で左派の人たちは、オバマ時代には満足していなかった。オバマはもともと左派の候補者であり、2008年には「あのイラク戦争にも反対していた」ことを売りとして、鉄板候補者のヒラリー・クリントンに納得がゆかない人たちの支持を得ていた。ところがオバマは民主党の代表となったら、さりげなく中道に歩み寄って行った。この辺は政治家としてのオバマの狡さであるが、そんなことは当ったり前の話であって、でなきゃ黒人初の大統領なんてあり得なかったでしょう。

○ところがそういう歴史は迅速に忘れ去られてしまう。バーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンが"Medicare for All"(国民皆保険制)を訴えるのは、左派の支持者が中途半端な「オバマケア」に満足していなかったからである。でも、それはないものねだりであって、2020年選挙でミシガン州やペンシルベニア州を取り戻したいのであれば、「悪い夢を見るんじゃない!」と叱ってあげなきゃいけない。あの辺に住む人たちは、皆さん、オバマケアだって大嫌いなんだから。

○それにオバマケアはたまたま2009年から10年にかけて、民主党が上院で60議席も有していた時代だったからこそ、実現できたことなのである。今は47議席しかなくて、どうやって国民皆保険制を実現するつもりなのか。スチューデントローンの徳政令だって、もちろん実現は不可能である。ところが昨今の民主党大統領候補討論会は、そういう夢見る人たちを相手に行われている。彼らは本当はオバマ時代も否定してしまいたい。でも、それを言っちゃあお終いよ、という現実がある。

○ところがいつの時代も左派というのは、夢見る人たちなのである。手中の1羽よりも藪の中の2羽を追い求める。ときには反対政党よりも、身内の中道派を憎んでしまう。だからこそAct Blueにじゃんじゃんおカネが集まり、左派の候補者に流れ込むのである。これってますます、トランプさんにとっては結構な事態なんですけどねえ。まあ、ワシが心配するような事態ではないのですけれども。


<12月11日>(水)

○気がついたら、今週のThe Economist誌のアメリカ政治オタクコラムである"Lexington"で、「しぶといバイデン」(The stickiness of Joe Biden)という記事を載せている。しっかし、The Economist誌のサイト、使いにくくなったなあ。もうリンクは貼ってやらねえぞ。ふんっ。

○いわく、今の有権者は大統領候補者の欠点比べをしている。サンダースやウォーレンは暗過ぎる。その点、バイデンの欠点は軽い。失言が多かろうが、古臭かろうが、そんなもん構わない。ドナルド・トランプが大統領となるバーを思い切り下げてくれたので、状況は変わったのだよと。なるほど。

○それはそれとして、バイデンはとっても寒いアイオワ州向けに「8日間、650マイル」の遊説バスツァーを敢行したのだそうだ。記者団を大勢引き連れていくところがいかにも古風な選挙戦術ですな。バイデンさんはつくづく感性が90年代で、時代遅れのところは多々あるし、記憶違いや言い間違いも多々あるのだけれども、まあ、「残念力」を発揮しているのだと思えばよいらしい。支持者もご高齢の方が多いようだし。

○アメリカ大統領選挙とは、突き詰めて言うと「候補者の成長を見守る物語」である。そういう意味では、若い候補者が出てくれた方が楽しい。ビル・クリントンやバラク・オバマはまさに成長物語であった。ジョージ・W・ブッシュでさえ、それに近い瞬間は何度もあったと思う。その点、現職はもちろんのこと、有力者の多くが70代であるという2020年選挙は、いったいどういうことになってしまうのか。

○そういえば年明けになりますが、東洋経済の「四季報セミナー」でもこの手のお話をいたします。よろしければ、覗きに来てくださいまし。登録は下記URLからどうぞ。でもその頃になったら、きっとまた全然別の話をしているのだと思うけど。

https://s.toyokeizai.net/item/SEMINAR_SKH_202001.html 


開催日時
2020年1月19日(日)13:00〜16:30(開場12:00)
プログラム
13:00〜13:10 『会社四季報』2020年新春号の見どころ

13:10〜14:00 「トランプ再選確率50%?2020年米大統領選の勝者は誰だ」
吉崎達彦(双日総研チーフエコノミスト)
 かんべえの名前で親しまれ、米国を中心とする国際問題研究家でもある。一橋大学卒業後、日商岩井(当時)入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員や、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て2004年から現職。テレビ、ラジオのコメンテーターとしてわかりやすい解説には定評、またブログ「溜池通信」は連載500回超の人気サイト。

14:00〜14:50 大激変?2020年の世界・日本経済&為替はどうなるのか
エミン・ユルマズ(複眼経済塾 塾頭)
 エコノミスト、為替ストラテジストで世界の株式に精通。16歳で国際生物オリンピック優勝。東京大学工学部・同大学院卒業後に野村證券入社、M&Aアドバイザー業務等に従事。2016年に複眼経営塾取締役・塾頭に就任。「会社四季報オンライン」を始め、数多くのメディアで大活躍中。

15:10〜16:00 『会社四季報』新春号で見つけた!「10倍株」候補
渡部清二(複眼経済塾 塾長)
 1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最後のページまで読む「四季報読破」を開始、「世界一『四季報』を愛する男」とも。2014年会社設立、2018年複眼経済塾から現職。「会社四季報オンライン」でコラム「四季報読破邁進中」を連載中。

16:00〜16:30 講演者が激論! トーク&トーク&質疑応答



<12月12日>(木)

○朝イチで新幹線に乗って大阪へ。クラブ関西の定例午餐会の最後の回で、来年の日本経済について語るのが近年の恒例行事となっている。数えてみたらなんと今年で10回目だと。うーん、長いことやっとるのう。

○今日は「今年の漢字」が午後2時に発表されるということで、「本命=嵐、対抗=令、穴馬=桜」であると申し上げる。後で確認したら、対抗が当たっていた。よかった、外れなくて。

○クラブ関西のお隣、ANAクラウンプラザホテルへ移動して、部屋でせっせと溜池通信を執筆。せっかく大阪に来ているのに、外出もせず、ルームサービスで空腹を満たす。ああ、なんとストイックな私。

○仕事にめどがついてから、2階のライブラリー・バーに繰り出してしみじみ呑もうかと思ったら、どこかの会社の団体さんが来ていてとってもやかましい。順位戦A級の佐藤康光九段対三浦九段戦をちらちら見ながらグラスを傾ける。うーん、佐藤先生、このところ不調でありますなあ。


<12月13日>(金)

○本日は盛りだくさんの一日である。英国総選挙は保守党が大勝利。やはり"Get BREXIT Done"というキャッチフレーズがよくできていて、もう議論はやめだ、早くやれ!という声に賛同した有権者が多かった模様。国民投票からもう3年半もたっているのだから、そりゃあそうだろう。

○さらに米中第1次合意も間近だということで、株価が盛大に上げておる。そりゃあ、そうなるわな。しかし政府の発表ではなく、大統領のツィートで株価が反応するというのはまことに不健全。これを変だと思わなくなっている世の中は、やっぱりおかしいのではないかと。

○午前中に双日の関西支社に顔を出して、午後からは関西安全保障セミナーへ。米中新冷戦をテーマに、村田 晃嗣・同志社大学教授と小原 凡司・笹川平和財団上席研究員とパネルディスカッション。村田先生とご一緒するのは久しぶりなのだが、京都弁で次々と鋭い発言をするのだが、まるで角が立たない。もはや令和の高坂正尭になっているのではないかと感心する。小原さんも何年か前の北京以来なのだが、いやもう深いふかい。大変勉強になりました。

○2日間を大阪で過ごして、何となく「元気な大阪」を実感する。最近の東京では、「来年の五輪が終われば後はもう碌なことがない」みたいな感じがあるのだが、大阪は「これからIRもあれば、万博もある」なのである。帰りの新幹線では、もちろん行列に並んで「551」の豚まんを買うのであった。


<12月14日>(土)

○幸いなことに病気とは無縁で、生まれてこの方入院といったら、今年春にやった大腸ポリープの切除で2晩泊まったのが全てである。しかもきわめて簡単な手術であった。ところがなんと、その手術に対して保険金が下りることが判明した。

○かれこれ30年近く某社の生命保険に入っていて、毎月の保険料が引き落とされていて、保険金の支払いを受けるのはこれが初めてである。どうやら最近は、「保険金支払いが一度もないのは怪しい(顧客が騙されているのではないか)」と当局からご指導があるらしく、保険会社がわざわざ丁寧に教えてくれた。そして言われた通りに申請してみたところ、ちゃんと下りたのである。一金5万円也。

○しかも自動車保険とは違って、生命保険は保険金を支払ったからといって、その後に保険料が上がるわけではない。話がうますぎるような気もするが、とりあえずもらえるものはもらっておこう。はて、これって所得税の対象になるのだろうか。理屈から言うと、「所得」ではないような気がするのだが・・・。

○「人生100年時代」になると、こういうこともちゃんとチェックしておかなきゃいかんですな。今までは「保険は掛け捨てが一番」と深く考えていなかったのであるが、これを機に心を入れ替えて、面倒くさがらずにちゃんと理解しなきゃいかんです。

○ところが一方で別の会社から、「がん保険の中身を見直しませんか」という手紙をもらっている。このパンフレットが、あまりにも難解なのでほったらかしになっている。うーん、きっと締め切りを過ぎたら安心して捨てちゃうだろうなあ。


<12月15日>(日)

○保守党が圧勝した英国総選挙ですが、これでBrexitは本決まりになりましたね。2016年6月に行われた国民投票の際はほんの2%差の決定で、「高齢者はLeaveでも、若者はRemainだ」と言われていましたから、この間に民意がひっくり返っても不思議ではなかった。ところが3年半後になってみると、英国民の心はますますEUから離れていたようで、これは興味深い現象だと思います。

○考えてみればこの3年半の間、英国のEUに対する態度は、お世辞にも賢明ではなかったかもしれないが、EUは一貫して英国に対して冷たかった。それも当然で、英国に優しい顔を見せたら最後、他の国も「うちも抜ける」と言い出しかねなかった。とりあえず、英国の再考を求めるような感じではなくて、「去るなら好きにしたら?」という態度であった。

○これで来年1月末にEU離脱が決まると、それから先が大変なんだという説もたくさんあるのだが、これが一種の「離婚」であるとしたら、これぞホッとしたという瞬間であろう。まあ、EUという組織は、「自分たちがいいことをしていると思っている頭のいい人たち」の典型なので、英国のような国がそこから離れるのは自然なことではないかと思えてならない。

○今回の総選挙に関する評論はいろんなところで出始めていて、ひとつはジョンソン首相の戦略の正しさ(Get BREXIT done)である。もう議論はたくさん、早くやっちゃって!という姿勢は正しかったと思う。これに対し、労働党は分かりにくくて、「EUと再交渉したうえでもう一度国民投票する」などと言っていた。そりゃあダメでしょう。

○加えて今回の選挙は労働党の一方的敗北という面もある。いまどき鉄道の国有化はないでしょう。ジェレミー・コービンが英国首相になったら、それは経済に大打撃を与えるということは自明であった。この点は米民主党も拳拳服膺すべきではないかと思います。2020年選挙に勝ちたかったら、換言すればトランプ大統領を再選させたくなかったら、中道派の候補者を勝たせる方がいい。たとえそれがSleepy Bidenであっても。

○少し先のことになりますが、EUを離れた英国はたぶんアジアとの接近を図るのではないかと思います。一昨日の関西安保セミナーにおける村田晃嗣先生によれば、日米豪印のダイヤモンドの中では豪州とインドの中の悪さが問題なのだそうなので、ここに英国が入って来てくれれば少し改善するかもしれない。そうだとしたら、BREXITは日本外交にとってプラスということになる。風邪が吹けば桶屋がもうかる、みたいな話でありますが。


<12月16日>(月)

○本日は静岡県立大学グローバル地域センターのセミナーで静岡市へ。お題は米中対立と地政学リスクについて。昨年と同様、柯隆先生のセッティングによるものであります。ご一緒したのはNHKの島田敏男さん、ニッセイ基礎研の伊藤さゆりさんというお馴染みの顔合わせでした。

○ちょうどこの週末に、米中の第1次合意がまとまったタイミングである。とはいっても、第2次合意なんてものは考えにくいので、そりゃあ来年の米大統領選挙が終わるまでは、米中双方が様子見モードになるはず。従って、米中対立の第1話=貿易戦争戦はこの辺で手仕舞いとなって、第2話となるのはファーウェイ5G死闘編か、それとも香港台湾番外編か、おそらく舞台をほかに移して続けられるのでありましょう。

○伊藤さゆりさんも、ちょうど英国総選挙が終わったタイミングなので、まことに得難いタイミングでありました。この後、来年1月末に英国は正式にEUを離脱、それからEUとのFTA交渉をやらなければいけないが、その締切が2020年末となっているので、もちろんそんなに早くまとまるはずがなく、まだまだ先は大変な様子。英国がアジアに接近するのはいいけれども、その優先順位はかならずしも高くはないのではないか、とのことでした。

○島田敏男さんは、現在は名古屋拠点放送局長でありまして、NHKのマネジメント職についておられます。ところが本日はパネリストの全員が「日曜討論」の経験者でありまして、そうなると皆さん、名司会のタイムキーピングにはまったく逆らえないのであります。結果として、時間ピッタリに終わったのでありました。

○そして柯隆さんなのですが、静岡ではお馴染みということもあってか、会場の皆さんが中国の将来について、とっても厳しい質問をするのです。それを言わせたら、柯隆さんは二度と中国に入国できなくなるんじゃないかと心配になってしまいます。もっとも柯隆さんは慣れているようで、そういう状況を楽しんでいるようにも見えるのでした。

○ということで、あっという間の2時間半でした。東静岡のグランシップという会場、つくづく素晴らしい場所です。今日は天気が良かったので、富士山もとっても綺麗に見えました。


<12月17日>(火)

○今朝の文化放送、今日は何のお話をしようかと迷って、当日朝までは「今年の有馬記念」で行こうと思っていたのだが、今朝の日経新聞を読んでいるうちに、やっぱり「英国総選挙の分析」で行こうと考えを変えたのであった。まあ、それはそれで良かったのではないかと思う。

○その代わり、「今年の有馬」について、邦丸さんを相手に熱く語るという機会は失われた。有馬記念は12月22日なので、来週の火曜日にはもう終わった話題になっている。だからちょっと惜しい気もしている。そこで以下は少々、有馬記念に関するうんちくを語ってみたい。

○有馬記念は、売上高で行くと世界最高峰のレースである。賞金額で行くと、ジャパンカップに次いで国内第2位である。それ以上に、日本の年末における風物詩としての地位を確立している。普段は競馬なんて関心ないけど、年に1度、有馬だけは買うという人は結構いるだろう。有馬記念は、年末ジャンボや第九のコンサート、紅白歌合戦に行く年くる年、年賀状に大掃除のような存在となっている。人々がああ、今年もとうとう終わるなあ、と感じる瞬間である。

○だから有馬記念は、「その年を代表するような馬が来る」などと言われる。2012年に「今年の漢字」が「金」だったときにゴールドシップが来たとか、2014年に「アナ雪」が流行った年に牝馬ジェンティルドンナが来た、みたいな話である。それを言ったら2001年、ニューヨークで同時多発テロ事件があった年は1着マンハッタンカフェ、2着アメリカンボスだった、というのも有名な話である。この辺は都市伝説みたいなものだが、ファンが多いからこその現象だろう。

○なぜ有馬は年末の風物詩になったのか。これは偶然が重なってそうなったもので、箱根駅伝が日本を代表するレースになってしまったのと似ている。最初はそんな予定ではなかったのに、人気が出てしまったから定着してしまった。今さら変えられない。これはタイプライターの"QWERTY"と一緒で、経済学では「経路依存性」などと言われる現象である。

○最初は中山競馬場に大きなレースを作ろうという構想があって、ときのJRA理事長の有馬頼寧が「年末にグランプリレースをやろう」と言い出した。野球におけるオールスターゲームのように、年に1度、ファン投票による競馬の祭典をやろうというアイデアで、これが当たった。もう少しいうと、サラリーマンの冬のボーナスを当て込むという狙いもあったのだろう。

○箱根駅伝にいろいろ問題があるように(関東の大学に偏っていて、日本一を選ぶには適さないなど)、有馬記念にも数々の問題がある。中山競馬場の芝2500mという半端なコースでは最大15頭までしか出走できず、しかも内枠が有利になると言われている。とはいえ欠点を抱えているからと言って、一度定着したものはなかなか変えられない。「今年の最後を飾る競馬の祭典」には既に長い歴史ができている。

○そして2019年、来週日曜に行われる有馬記念は近年ではめずらしいほどの実力馬が揃いそうだ。これはもう今からワクワクするほど迷い甲斐、悩み甲斐のあるレースとなる。それではどうやって買えばいいか、という素人向けのアドバイスをいくつか試みてみよう。

○まず有馬記念は、意外にも2年に1度は本命が来るレースである。ときどき大荒れの年もあるのだけれど、普通に一番人気を単勝で買うのが合理的である。たとえ配当は安くても、いい年を迎えることができる。特に今年の場合は、史上最強牝馬と噂されるアーモンドアイが出走する。これが一番人気となることはまず間違いなく、しかも今年は「アナ雪2」が封切られている。滅多に牝馬は来ない有馬だが、いかにも今年は牝馬が来そうな年なのである。

○少しリスクを取ってハイリターンを目指したい方には、サートゥルナーリアをお勧めしたい。最強3歳馬と目されて久しいが、ダービーや秋の天皇賞といった府中開催のレースでは意外な脆さを露呈する。お蔭でオッズは下がっている。しかし中山競馬場ではめっぽう強い。逆にアーモンドアイは中山では初出走となる。地の利を考えれば、こっちの方が面白い存在だといえる。

○いや、もっと派手に狙いたいという人がいたら、これが引退レースとなるクロコスミアあたりを複勝で少しだけ買っておく、という作戦も面白いと思う。有馬記念はステイゴールド産駒がよく来るレースである。ちなみにステゴ産駒では、ほかにもエタリオウ、ウインブライト、スティッツフェリオなども出走しそうである。

○最終的な枠順が決まる前にこんな話をするのは馬鹿げているのだが、気持ち的にはかなり前倒しになっているので、ついついこんな話を書いてしまった。ああ、日曜日が待ち遠しい。そういえば今週末は、スターウォーズの最終編も封切りだったのか。いやはや忙しい。忙しいときに勝負するのが有馬。これも例年通りなのである。


<12月18日>(水)

先の溜池通信で、「12月20日にトランプ大統領弾劾訴追」と予測しましたが、どうやら2日早まりそうです。つまり本日中に弾劾成立。背後ではいろんな駆け引きが行われていることでしょう。

○ところがこの間にいろんな問題が解決した。予算が成立したのにはちょっと驚きました。てっきり暫定予算の延長かと思ってました。USMCAも通りました。修正したから「良くなった」のだそうです。具体的に、NAFTAのときとどこがどう変わったのか。トランプさんの交渉もかなりいい加減だったけど、下院民主党も相当に適当です。

○つまり弾劾を通すために、議会はいろんな懸案を片付けてくれた。これでもう今年は政府閉鎖もないし、カナダとメキシコも一安心でしょう。民間の立場からすれば、これはまことに結構な展開です。ついでに米中第一次合意もできたんで(合意文書を見るまでは安心できない、との声もあるけれども)、これで株価も安心だ、ということになる。

○後は遠慮なく政治家同士で喧嘩してください、という感じですな。そんなこと言ったって、上院における弾劾裁判で大統領が罷免される確率はほぼゼロなんだから、何のためにやっているのでしょう。


<12月19日>(木)

○ブルームバーグニュースが珍しいことに有馬記念を取り上げました。それで取材を受けて、コメントが使われたので有頂天になる、という自分もかなり情けない気がするのであるが、嬉しいものは仕方がない。


●いよいよ有馬記念、レース人気は景気を反映−市場でも話題の風物詩に(日本語)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-12-18/Q1ATFTT1UM0X01 


――ご同業の永濱さんとか藤戸さんが、いかにも言いそうなことを言っている。そういえば永濱さんは、オバゼキさんと一緒に昨晩のBS11「インサイドOUT」に出てましたよねえ。有馬は世相馬券があるということで、「令」デオロが来るというのはちょっと痺れるアイデアです。



●In Horse Racing, an Unlikely Indicator for the Japanese Economy(英語)
https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-12-18/in-horse-racing-an-unlikely-indicator-for-the-japanese-economy 

――なるほど、海外メディアが日本のことを描くとこんな風になるよねえ、という記事。まあ、「競馬の売り上げを見ても、日本経済は良くなっている」という見方をしてもらえるのなら、もって瞑すべし。記事の最後の部分はこんな風に締めくくられている。

At the Arima Kinen this weekend, Sojitz Research Institute's Yoshizaki will have more than just an academic interest. He'll also have a flutter in one of Japan’s few legalized forms of gambling. But as an economist who's used to weighing the probabilities of events, it's perhaps not surprising to hear his choice of horse. He's backing one of the favorites, Saturnalia.


○お洒落な英文ですよね。馬券としてはアーモンドアイでも、ギャンブラーとしてはサートゥルナーリアでしょう。当てたいねえ。


<12月20日>(金)

○アメリカの弾劾訴追は、票をよくよく見ると共和党の下院議員で賛成した者は1人もおらず、逆に民主党側で2人程度の「荷崩れ」が起きている。これはもう失敗ですな。

○弾劾という制度、疑似裁判のような形式をとっているけれども、その本質は政治的なものです。過去に行われた弾劾も同様で、「真実に迫る」ことが目的ではない。リチャード・ニクソンのときのように、国民の怒りが澎湃として巻き上がるようであれば、大統領を辞任に追い込むことにもなるのだろうが、パーティーラインを崩せないのであればあんまり意味はない。むしろ年明けに上院を舞台に行われる弾劾裁判において、何が起きるのかが思いやられる。

○そんなことで18日に弾劾訴追が成立した翌19日、ロサンゼルスで民主党の第6回大統領候補討論会が行われている。あいかわらず70代ばかりが目立ち、アイオワ州で先行する30代のブティジェッジが集中砲火を浴びるという変な展開である。白人以外で参加しているのは実業家のアンドリュー・ヤンだけ。この中から、本当にトランプ大統領を倒せる候補者が出てくるのだろうか。

○「民主党が勝つときは、候補者の成長を皆が見届けるとき」なのだそうだ。2008年のバラク・オバマはまさにそうだったし、かつてのビル・クリントン(1992年)やジミー・カーター(1976年)もそうだった。あれよあれよという間に勢いがつき、ホワイトハウスを射止めた。米大統領選がもっとも光り輝くときである。

○逆に、「この候補者ならば勝てるはずだ」と、合理的に考えて決めたときは勝てない。前回のヒラリー・クリントンがまさにその典型的だった。あるいは2004年のジョン・ケリーや2000年のアル・ゴアも同様で、皆が昔から知っているような候補者を立てた時の民主党は弱い。彼らが勝つためには、意外な候補者と「恋に落ちる」必要があるのだが、2020年にその相手は見つかるのだろうか。

○もうひとつ、変なジンクスを発見してしまった。12年に1度回ってくるねずみ年は、かならず米大統領選挙が行われる。ねずみ年の選挙で、新人対新人の年は激戦になる。1960年のケネディ対ニクソン、2008年のオバマ対マッケインなどだ。そうでなくて現職に新人が挑むときは、現職がわりと大差で勝っている。1996年はクリントン対ドール、1984年はレーガン対モンデール、1972年はニクソン対マクガバン、1948年はトルーマン対デューイ。

○こうしてみると、トランプ大統領の再選確率は結構高いように思えてくる。もっともその場合、「2期目のレガシーは何なのか」がまるでわからない。今は負けず嫌いで一生懸命に戦っているけれども、これで勝ってしまった日にはトランプさん、翌日から何をするのだろう。たまたま今日、訪ねてきてくれた某共和党コンサルタントに尋ねてみたら、"That's a good question."と言われてしまった。そうだよなあ。そっちの方が心配になってきた。


<12月21日>(土)

○見てきましたよ、『スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け』を。いやあ、そんなにひどくはないじゃないですか。昨晩、先に見てきた配偶者がぼろくそに言うものだから、身構えて見に行ったらそれほどショックを受けずに済みました。深い満足を得られたかと問われれば、そんなことはないのだけれども、とりあえず今までシリーズ全部を見続けてきた者としては、ようやく人心地がついたというところかな。

○監督はエピソード7『フォースの覚醒』と同じJ.J.エイブラムズ。この人、とにかくサービス精神が旺盛である。スターウォーズのファンから、「アレがなかったじゃないか!」とだけは言わせない、というくらいの至れり尽くせりであった。これまで伏せられてきたいくつかの謎も、「まぁ、これ以外にはないよね〜」という形で説明をつけている。脇役であるC-3POやチューバッカにもちゃんと見せ場が作ってある。そういう小技は見事なのである。

○ただし冒険はしない人なのだ。『フォースの覚醒』は久々のシリーズ再開であったせいもあって、いろいろ盛り上げたけれども、最後は「また、デススターですか」であった。個人的には、エピソード8『最後のジェダイ』の方が、いろいろ冒険していた分だけ出来が良かったと思う。もっとも興行的に当たったのはエピソード7の方らしいので、ハリウッド的には王道ということになるのかもしれない。

○「スカイウォーカーの夜明け」が駄作というわけではない。主役のレイはときどき、萩尾望都描くところの阿修羅王(C:百億の昼と千億の夜)のようないい表情を見せる。カイロ・レンは今ひとつで、この2人の交流が大事なところなのだが、そこはいささか予定調和的だったか。そして「落ち」がよく出来ていて、スターウォーズの全巻が完結するとしたら、これ以外は考えられない、というラストシーンであった。

○「スターウォーズ」という物語は、宇宙を舞台とするSF大河ドラマではあるけれども、その本質はスカイウォーカー一族をめぐるメロドラマであり、映画としての本質は昔ながらの冒険活劇である。だから筋は多少こみ入っていても、物語はおおよそ期待通りに進行し、現実の世の中のように残酷なことは起きない。そしてときどき同じ手口が出てくるのだが、見る側は「またかよ〜」などと言いつつ、けっしてそれが嫌ではない。

○9つのエピソード全体を通しての白眉は、ダース・ベイダーというキャラクターである。史上、これだけ見事に造形された悪役はそう多くはないと思う。『シャーロック・ホームズ』のモリアティ教授のように存在感があり、『宝島』に出てくるジョン・シルバーのように矛盾に満ちている。ところがエピソード7以降のスターウォーズは、「ダースベイダーを回想シーン以外では使っちゃいけない」というハンディを負っていた。さぞかし辛いところであっただろう。

○そして何より、スターウォーズ・シリーズにはあのカッコいいジョン・ウィリアムズの音楽がある。当初、ジョージ・ルーカスは『2001年宇宙の旅』のように、既存のクラシック音楽を使うことを考えたいたらしいのだが、『ジョーズ』で彼を使ったスティーブン・スピルバーグが推薦したのだそうだ。スピルバーグ、グッジョブ、である。名作はいろんな偶然の上に成立している。いや、最初から最後まで見届けることができてよかった。失望がそれほどではなくてさらによかった。


<12月23日>(月)

○何か調子がおかしい、と思ったら、平成の30年間に長く続いた天皇誕生日がなくなっているのである。それはそうだ。今日は上皇陛下のお誕生日なのである。以前はクリスマスイブの前日に休みがあると調子が狂う、などと言っていたものであるが、あれが年末進行のアクセントになっていたのであろう。ここで休みがないと微妙に落ち着かないのである。

○例えば政府の予算案は、この12月23日の前日が締切日となっていた。これがあるから、中央官庁がクリスマスイブを楽しめるようになった。その昔の野蛮な時代には、復活折衝などというセレモニー(大臣に花を持たせるカブキプレイと呼ぶ方が適切か)があって、御用納めと言えば28日くらいであったものだ。いやもう、年末の仕事は早く片付けましょう。そうしましょう。

○今年はきっと25日くらいが予算の締切日になるのだろう、と思っていたら、なんと前倒しで先週金曜日の20日に閣議決定されてしまった。この日の午後に予定を入れていたために、恒例の財務省予算説明会に出られなかったのは不覚であった。いかなる偶然か、その日のお昼に主税局のY氏と路上でバッタリ出くわしたのであるけれども。

○なぜ政府原案の決定が12月20日に前倒しになったかというと、今週、日中韓首脳会談(中国・成都)が入ったから。各国首脳の年末の日程は空いていることが多いので、ときどきこういうことが起きる。さて、明日はどういうことになるのかな。日韓首脳会談はちゃんと行われるのでしょうか。

○改めて申し上げますと、令和初の天皇誕生日は年明け後の2月23日となります。陛下は1960年生まれ(ワシと同じ)なので、この日が還暦となります。たまたま日曜日なので、翌2月24日が振り替え休日となる。2月はそうでなくても短い月なのに、これからは日曜日が4回と祭日が2日で合計6日も休みとなる。もっとも来年はうるう年なので、2月は29日までありますが。


<12月25日>(水)

○さる金融マフィアのひとこと。基軸通貨国の特権はシニョレージ(通貨発行益)にあるといわれる。が、自分は金融制裁ができることの方が大きいのではないかと思っている。

○アメリカ政府が得ている特権はいろいろあれど、世界中でドルで行われている銀行間のあらゆる取引を把握できてしまい、それを止めることができるというのは、こんな時代においては強力な武器となり得る。例えばファーウェイにドル取引をさせない、なんてこともできてしまう。グローバル企業にとっては即死でしょう。その場合、どういう理由づけをするのかは知らないが、とにかくできるというだけで相手はビビる。

○これがロシアのような茫漠たる大国を相手にすると、それこそ物々交換やら現金取引やら仮想通貨やら、いろんな手口が使えてしまうので、なかなか金融制裁の効果が上がらない、てなこともある。それよりも小さい国が相手なら十分に効きます。実際にイランや北朝鮮は困っているようだし。

○もっともこの金融制裁、あんまり頻繁に使うようだと、「これから石油の購入はユーロでやりましょう」みたいなことが起きてしまう。皆が便利だと思って使うから基軸通貨なのであって、「ドル離れ」が起きてしまうとヤバいことになる。金融制裁はできれば、「抜かずの宝刀」にしておくことが望ましい。

○ところがトランプ政権というのは、戦争だけは絶対にやりたくなくて、それ以外にお手軽にやれることは何でもやっちゃう政権である。でも、制裁を見境なくやっていると、拙いんじゃないでしょうか。中国によるデジタル人民元の逆襲、なんてことになったりして。それはそれとして、「少額取引に限ってリブラは認める」くらいにしておく方が良いような気がします。


<12月27日>(金)

○今年最後の出社日である。

○本日はまず今年最後の「モーサテ」に出演。本日の特集トークは、「米中貿易戦争のその先〜覇権の行方〜」である。現地取材がよく出来ていて面白かった。先週、北京を訪問したばかりだという肖敏捷さんと一緒に「米中漫才」を演じる。できれば、来年もまたコンビを組みたいところである。

○出社してから、台湾総統選挙に関する取材を受ける。と言っても、他の人の方がよっぽど詳しいと思うのだが。ともあれ、米中の貿易戦争編というエピソード1は今年で一段落。来年はたぶん台湾・香港偏というエピソード2になるのではないかと思う。投票日はあと15日後である。

○それから今年最後の原稿を仕上げる。明日の東洋経済オンラインに掲載予定。やれやれ、間に合ってホッとした。編集F氏はこれからが大変である。いや、どうもお疲れ様です。

○会社は夕方から酒盛りモードである。日本企業はこういうところが良いですな。若い世代は「忘年会スルー」が流行のようで、まあ時代は令和なんだから仕方がないのであろう。一方で、定年が近いワシらの世代が、いそいそと同期会の日程調整をしていたりする。春の一括採用という人事制度は間もなく崩れていくのであろうが、皆が自分で自分のキャリアを考えなきゃいけない時代というのは、かえって辛いものがあるのではないのかなあ。

○これで本年の仕事は終わり、と行きたいところであるが、まだまだ年賀状が残っている。これもスルーしてはいかんのである。ついでに文化放送の「くにまるジャパン極」は、大晦日もしっかり予定されている。大掃除は、うーん、どうしようかなあ。


<12月28日>(土)

○お蔭さまで東洋経済オンラインの拙稿は、多くの方に読んでいただいているようです。それというのも、深夜に編集作業をしてくれるF氏がいるからなのだが、本日はそのF氏の呼びかけで中山競馬場へ。今年最後のホープフルステークスである。うむ、それにしてもワシは今月、何回中山に通ったのだろう。意外と今年は暇なのかもしれぬ。

○今年最後のG1レース、ホープフルステークスに馳せ参じるのは山崎元さん、TAROさんなどなど。うーむ、しかし勝てませぬなあ。ホープフルSはコントレイルが完勝。筆者推奨のヴェルトライゼンデは2着まで。3着がワーケアという渋い結末になりました。

○そこから西船橋に移動して、うちわでぐっちーさんを偲ぶ会を催そうと欲する。ところがそこへ途方もない偶然が重なって、オバゼキ先生が合流する。いやはや、ご無沙汰いたしております。競馬や金融に関するさまざまな薀蓄を拝聴する。

○本日はめでたく年賀状も出しまして、帰って来てからは町内会の火の用心も務めまして、これにて年内のオブリゲーションはほとんど解決いたしました。これぞ仕事納め。そうか、2019年はまだ3日もあるのか。これはもう儲けもののような3日間といえましょう。ああ、ありがたや。


<12月29日>(日)

○柏市内のとあるフレンチに入る。10人も入ればいっぱいの狭い店で、シェフとウエイトレスが2人だけで回している。ところがここが当たりなのである。

○ランチは安くて旨くてボリュームがある。何より、クルマを駐車場に止めていなければ、200円のグラスワインを頼んでしまっていたはずである。だって奥のテーブルの客は、生ガキやらをアラカルトで贅沢に取りつつ、いろんなワインを並べているではないか。ああ、うらやましい。

○ここは、いずれしかるべきタイミングで、「孤独のグルメ」で来るべき店かもしれない。うむ、そうだったら遠慮なくワガママ放題な食い方、飲み方ができるはずである。つくづくあの番組(元をたどれば谷口ジローのマンガだが)は、「独り飯こそは現代人に許された自由である」という偉大な真理を喝破したのである。

○主人公の井之頭五郎氏は、個人事業主で独身、という設定になっている。つまり「ぼっち飯」がデフォルトになっている。それだと寂しそうに思われがちなのだが、実はこれこそが自由で贅沢であるというのが発見であった。井之頭さんは、飯を食う時に客先や上司に気を使うことはないし、いつ、何を食うかをすべて自分で決めることができるのである。

○しかも「お酒が飲めない」という設定になっていて、それがあの番組における井之頭氏のモノローグに深みを与えている。あるいはあの大人げない食い意地を正当化している。そしてもちろん、お酒の飲めない人を味方につける狙いもあるのだろう。つくづくよく出来た設定だと思う。

○せっかく年末年始なんだから、これは昼から飲むのもありかもしれない。ホントだったら、年初からの原稿を書き溜めておくべきかもしれないのだが。


<12月30日>(月)

JRAの2019年売上高が報告されています。最終レースであるホープフルSが終わると、その直後には100円単位まで正確な数字が出てしまう。下記はスポーツ報知が12月28日の18時53分に配信したもの。こんなにすばらしい統計はめずらしいと思います。


 JRAは12月28日、速報値として2019年の総売り上げと入場者数を発表した。

 総売り上げは2兆8817億8866万1700円で、前年比3・1%増と8年連続のアップ。開催競馬場への総入場者数は623万6197人で、前年比0・5%減となった。

 平地G1の総売り上げは1・7%増で、こちらも8年連続で前年よりアップ。入場者数も3・1%増で、ともに全24レース中15レースで前年を上回った。


○ちなみに個々のレースの売上高はこちらに全記録があります。これで見ると、今年の有馬記念は468億8971万円。大台の500億円には達しませんでしたが、ダントツの売上第1位なのですね。ちなみにダービーが253.1億円、天皇賞秋が215.7億円、安田記念が204.6億円、宝塚記念が194.6億円、天皇賞春が191.8億円、ジャパンカップは184.9億円と続きます。そうか、今年はアーモンドアイが出走したレースが高めに出たのですな。

○それはともかく、これで2011年をボトムに8年連続のプラス成長ということになります。「緩やかな景気回復」という言葉そのものの現象です。不思議なことに、競馬の売り上げは消費税増税の影響をあまり受けないのですね。「製造業は悪化しているのに、非製造業が意外にしぶといから、かろうじて踏みとどまっている」という2019年の日本経済を象徴するようなデータではないかと思います。

  JRA売上高 前年比
2001年 3,258,696,881,300 ▲ 5.13
2002年 3,133,485,421,600 ▲ 3.84
2003年 3,010,343,479,600 ▲ 3.93
2004年 2,931,433,543,600 ▲ 2.62
2005年 2,894,585,479,800 ▲ 1.26
2006年 2,823,309,442,000 ▲ 2.46
2007年 2,759,138,078,900 ▲ 2.27
2008年 2,750,200,990,400 ▲ 0.32
2009年 2,590,073,500,000 ▲ 5.82
2010年 2,427,565,594,700 ▲ 6.27
2011年 2,293,578,053,600 ▲ 5.52
2012年 2,394,308,856,700 4.39
2013年 2,404,933,513,200 0.44
2014年 2,493,627,729,400 3.69
2015年 2,583,391,869,800 3.60
2016年 2,670,880,261,600 3.39
2017年 2,747,662,484,800 2.87
2018年 2,795,008,304,000 1.72
2019年 2,881,788,661,700 3.10


○もっともJRA売上高は、1997年のピーク時4兆円には遠く及ばない。「景気は少し良くなっているように見えても、過去のピークには遠く及ばない」というのも多くの人の実感に合うところでありましょう。やっぱりこれは使えるデータだな。

<12月31日>(火)

○カルロス・ゴーン容疑者、国外逃亡でありますか。どうやって国外に出たのかわかりませんが、年末の慌ただしいときであれば、監視の目も緩くなっていただろうし、空港からの出国も楽勝だったかもしれません。日本の仕組みをよく知った人たちが、サポートしていたような気もしますね。

○ゴーンさんとしては、脱出して捕まるリスクを冒しても、保釈金15億円を失ってでも、とにかくこれ以上、この国に居るのは我慢がならん、ということなのでしょう。あれで本当に有罪になるのか、疑問も感じるところでしたから、とことん裁判で争うのも良かったと思うのですが、この国の司法は狂っている、このままではチャンスがないと思ったのでしょう。まあ、その気持ち、わからんではない。

○他方、こんなことになると、弘中弁護士をはじめとする彼を守ってきた人たちは立場がないですな。日産自動車も困ったことでしょう。とりあえず株価は「新春初売り」になってしまうのではないでしょうか。東京地検も、レバノンやフランスの大使館も、お正月は吹っ飛びましたな。それを言い出したら、この年の瀬に報道各社では、「今すぐベイルートに飛べ!映像を取ればその場でスクープだ!」みたいな怒号が飛んでいるはずである。ご同情申し上げます。

○多くの関係者にとって、今宵の除夜の鐘はことのほか重く響くことでしょう。ゴーンis Gone. いや、誰でも言いそうなことなので、ちょっと気恥ずかしいのですが。皆さま、どうぞよいお年をお迎えください。












編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki