●かんべえの不規則発言



2021年4月






<4月1日>(木)

〇今月の予定を書いておきましょう。エイプリルフールはないですよ。さて、鬼が出るか、蛇が出るか。

4月

大手企業の入社式(4/1)

消費税込みの総額表示が義務化(4/1)

3月の日銀短観(4/1)

OPECプラスの閣僚会合(テレビ会議、4/1)

米大リーグ開幕(4/1)

国民民主党党大会(4/2)

米雇用統計3月(4/2)

秋田県知事選、秋田市長選挙投開票(4/4)

緊急事態宣言から1年(4/7)

韓国補欠選挙、ソウル・釜山市長(4/7)

G20財務相中央銀行総裁会議(4/7-8)

2月の国際収支、3月の景気ウォッチャー調査(4/8)

日米首脳会談(ワシントンDC、4/9)

IMF世銀総会(ワシントンDC、4/9-11)

福岡県知事選挙(4/11)

ペルー総選挙(4/11)

高齢者向けワクチン接種始まる(4/12)

米3月CPI発表(4/13)→前年比で2%越えを警戒?

中国1-3月期GDP速報値公表(4/16)

3月と20年度の貿易統計(4/18)

デジタル改革関連法成立(4/20頃)

エリザベス女王95歳の誕生日(4/21)

ECB定例理事会(4/22)

米アカデミー賞授賞式(ロサンゼルス、4/25)

日銀金融政策決定会合(4/26-27)

FOMC(4/27-28)

米1-3月期GDP速報値(4/29)

ユーロ圏1-3月期GDP速報値(4/30)



<4月2日>(金)

〇今週は締め切りもZoomセミナーもラジオ出演も複数あって、忙しいけれども充実感がいっぱい。世間的にはコロナ第4波も気になるところでしょうが、やっぱり人に会うのはいいですな。気心の知れた人と一緒に仕事をするのは良きものです。

〇で、いろんな人に会って刺激をいただきました。今日はZoomでもいい質問をいただいので、頭の中が整理された感あり。良いクライアントを持つ者は幸いなるかな。そうでないと、こっちが鍛えられません。

〇本日はラジオ日経「交流戦」にも出演しました。ご一緒したのが米田元気(もとおき)アナ。打ち合わせで話しているときは普通の会話なのですが、本番になってマイクを前にすると、お腹からすごい声が出る。隣にいるとしびれます。さすがプロ。

〇明後日の大阪杯がテーマでした。米田アナは来週の桜花賞で実況をされるとか。楽しみでありますね。柏市ご出身とは存じませんでした。またお会いできれば幸いです。


<4月4日>(日)

〇この2日間で、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の序・破・Qの3本をアマゾン・プライムで一気見する。いやー、まったくの初心者なので、「なんじゃそのA・T・フィールドというやつは?」「人類ホカン計画というのは、補完かな、保管かな?」などとブツブツ言いながら見ていたのであるが、これが結構楽しい。というか、日本のアニメの歴史における正当な伝統を受け継ぐシリーズなのでありますな。

〇世界が半分死滅した後の世界、という意味では『機動戦士ガンダム』ですし、破壊の姿は『AKIRA』だし、ところどころ精神構造は『宇宙戦艦ヤマト』だし、使徒が襲ってくる状況は『ウルトラマン』だし、主人公シンジと父ゲンドウの関係は『巨人の星』みたいだし、要はみんな勝手知ってる世界なのである。プラグスーツの中が液体になっている(LCLと呼ぶらしい)は、『謎の円盤UFO』から得たアイデアではなかろうか。

〇とにかく『エヴァ』に関しては、上海馬券王先生がいろいろ書いているのを通して知るだけだったので、今までこれを知らずに過ごしてきたことが恥ずかしく感じられる。さて、「シン・エヴァ」を見たものかどうか。これは会社を休もうかのう。


<4月5日>(月)

〇昨日あんなことを書いたら、早速親切な読者からいろいろアドバイスをいただいた。いわく、『シン・エヴァ』を見るんだったら、ちゃんと予習していった方がいい。でないと話についていけなくなるから。くれぐれもネタバレを恐れないように。ついては、かくかくしかじかのサイトを見るといい・・・。

〇いや、ホント有難いです。ワシも何も知らない状態から、いきなり先週末にこの世界に飛び込んだものだから、面白いことは面白いんだけど、細かい部分には理解が及ばないわけです。ただし「A・T・フィールド」と聞いて、「まあ、それはミノフスキー粒子みたいなものだろう」と勝手に推測すると、これが当たらずといえども遠からずだったりする。

〇つまりレーダーを無効化するミノフスキー粒子が発明されたから、宇宙空間における艦隊決戦ができなくなり、接近戦用のモビルスーツという新兵器が開発された、というのが『機動戦士ガンダム』の世界なのである。これと同様に、地球を攻撃する『使徒』はA・T・フィールドというバリアだか結界みたいなものを張ることができるので、通常兵器が全く役に立たない。そこでエヴァンゲリオンという人間とロボットが一体になって動かす新兵器が開発されたのだが、これがまことに危険極まりないものでありまして、という理屈であるらしい。

〇要はSFアニメのお作法みたいなものが、底流の部分で共通になっている。それでもキャラの作り方とか、背景の絵の細かさ、色使いの多様さ、そしてコンピュータグラフィクスを使った滑らかな動きなど、いろんな面で進化が起きているので、21世紀の日本アニメは20世紀のものより進んでいる。つくづく日本のアニメは、先人が切り開いた後を後継者が発展させていく、グループ作業のようなところがある。

〇もっともそれを可能にしているのはファンとかオタクと言われる人たちで、彼らの眼が確かであるからこそクリエイターが育つ。庵野秀明という私と同じ年のクリエイターは、たぶん私と同じようなものを見て育ったのでありましょう。これから『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』を製作するそうですが、果たしてどんな21世紀版ウルトラマンや仮面ライダーを見せてくれるのか。とりあえず2015年の『シン・ゴジラ』は傑作でしたからなあ。いやはや、楽しみなことであります。


<4月6日>(火)

〇この論文が非常に面白い。さすがはニーアル・ファーガソン。キッシンジャーの信頼を勝ち得て、その評伝を書いた歴史学者がこんなことを書いてしまうとは。


●A Taiwan Crisis May Mark the End of the American Empire (台湾海峡危機はアメリカ帝国の終焉を告げるかもしれない)


〇アメリカ外交はキツネであり、いろんな目的を同時に盛り込んでしまい、何がしたいのかわからなくなってしまう。これに対して中国外交はハリネズミである。常に目標はひとつに絞り込んでいる。この勝負、長い目で見れば後者が勝つに決まっている。

〇今から50年前の1971年3月、キッシンジャーは北京に飛んで周恩来首相と会った。ベトナム戦争を終わらせるためである。しかしアメリカには中ソ関係を引き離すとか、バングラデシュを独立させるとか、他にも多くの目的があった。これに対し、周恩来の目的はひとつだけだった。台湾問題である。「ひとつの中国」原則を認めさせることだけが彼らの目的であり、ほかのことはどうにでもなった。

〇それから半世紀が過ぎたけれども、今も中国の最優先課題は台湾である。ニクソン政権下で台湾は国連を追い出されて、中華人民共和国がそれに代わった。カーター政権下で米台安保条約を無効にした。しかし親台湾ロビーがすぐに動いて、1979年に議会は台湾関係法を成立させた。アメリカは曖昧な形で台湾防衛に関与したが、それは中国がよく認めるところではなかった。

〇それから半世紀の間に、米中の力関係は大きく変わった。中国のGDPは既にアメリカの3/4に達しているし、購買力平価でみれば既に2017年に逆転しているともみられる。米中は「トゥキディデスの罠」の状態にあるのかもしれない。冷戦の闘士ではなく、お金にしか感心がなかったトランプは、「中国が台湾に侵攻した場合、われわれには何もできない」と好んで語っていたそうである。ジョン・ボルトンの回顧録にそう書いてある。

〇バイデン政権はこれに対し、人権問題や何やかやで中国に対する問題意識を持っている。しかしアメリカが今みたいな状態なときに、台湾防衛にコミットするなんてたいそうおっかない。アメリカのプロ軍人たちは、向こう数年以内に中国が台湾に侵攻するリスクがあると見なしている。

〇そんなことより、1956年のスエズ動乱のようになるのではないか。あのとき、アメリカが味方してくれなかったために、イギリスはすごすごとスエズから撤退しなければならず、それで大英帝国は死命を制せられたのである(あいにくアイゼンハワー大統領は、再選を目指していた時期であった)。中国が台湾を制圧しようとするときに、アメリカが何もできないとわかった瞬間に、アメリカの世界覇権は潰えるのではないか。

――いやもう、英国紳士は意地が悪いよね。もっともファーガソンはスコティッシュなので、そこは少々違う感慨をお持ちなのかもしれないけれども。


<4月7日>(水)

〇本日の新規感染者数は大阪府で過去最多の878人、東京では555人、全国では3000人超とのこと。うーん、やっぱり第4波到来の可能性大、明日には東京も「マンボウ」決定でしょうか。

〇それにしても、こんなに早い変化は尋常ではない。政府や自治体などの当局は、ほとんど週単位のデータに反応して行動しなければならない。最近はV-Resasみたいに便利なものもできているけれども、こういう「データ・ドリブン政治」の運営は、この国ではほとんど体験がないのである。強いて言えば、戦争をやっているときの政府はこんな感じなんだろうか。

〇しかし、これは滅多にないチャンスという見方も出来る。経済政策なんぞは、普通は四半期や月次のデータで事足りる。戦争や感染症などがない場合の経済は、そんなに急変することはない。だから「1-3月期GDP速報値は来月中旬にならないとわかりません!」などと言ってても許される。いや、個人的にはもっと早く発表して欲しいんですけれども。

〇ところが今はコロナがあるために、政策は短期決戦で行わねばならず、それもすぐに結果が出てしまう。政府としてはそれでは困るだろうが、成功だったか失敗だったかが国民から丸見えになってしまうのだ。ゆえにあのメルケル首相の人気が今は落ちて、「ドイツ政治は次は緑の党かなあ・・・」などと言われている。コロナは政治家を使い捨てにしてしまうのだ。

〇その一方で、今は「データ・ドリブン政治」を鍛える絶好の機会という見方もできる。こんなに短期で政治の結果が出ることは滅多にないからだ。喩えていえば、競馬のようにすぐに答えが出てしまう。今こそ官邸にデータ分析のAI機能を備え、即座に政策判断をして実行に移し、それをフィードバックする実験が可能になる。これから先の1〜2年は、コロナのお陰で「データ・ドリブン政治」を試すチャンスということになる。

〇もっと正確に言えば、当面は試行錯誤が多くなるはずなので、「データ・ドリブン」実験はコロナ対策では効果を発揮できないかもしれない。しかし政府がリアルタイムでデータの使い方を身に着けてしまえば、これは強力な武器となる。それこそ「絶対に選挙に負けない政治」が可能になるかもしれないのだ。

〇将棋の世界でいえば、AIがプロ棋士を上回ったのは2015年のこと。今ではそれが当たり前になっていて、今週からNHK将棋トーナメントでも、アベマTVのように放送時に将棋ソフトによる対局者の判定値を公開するようになった。その方が見ていて面白いし、それが正しいことを対局者も認めているからだ。強いて言えば、テレビ解説者は辛いだろうなあ。自分より将棋が強い人の判定を読み解いて説明しなきゃいけないのだから。

〇そしてこの5〜6年の間に、将棋の戦法はすっかり変わってしまった。端的に言えば、穴熊などで王様を固めて「堅い、攻めてる、切れない」という将棋は通用しなくなった。お互いに5八玉と5二玉で囲わずに戦う、みたいな落ち着かない戦法が主流になっている(藤井二冠が得意としている)。何しろ対局者は家に帰れば、どの局面でどの手が正しいか、完璧に教えてくれる「先生」がついているのである。

〇政治の世界も、あと数年で「データドリブン政治」が当たり前になるのではないだろうか。これに成功するか失敗するかで、数年先の国家間の競争力には大きな差がつくかもしれない。無責任な立場から言わせてもらえば、「やってみなはれ」である。


<4月8日>(木)

〇今日は会社を休んで、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見て参りました。憂き世を忘れてフィクションの世界に没頭する幸せな時間でした。ちなみに映画館は平日だけあって、ガラガラでありました。

〇何よりこの複雑な物語を、いちおう理解できたというのが自分的には驚きである。だって先週木曜日時点では、ワシは「エヴァ」について何も知らなかったんですよ。今日はきっと、途中で訳が分かんなくなると思ってました。ところが1週間で4本を一気見したもんで、しかも暇な時間はそればっかり考えていたので、集中していたのが良かったのかもしれませぬ。

〇ということで、以下はほとばしるように何を書いてしまうか自分でもわからないので、ネタバレ危険と申し上げておこう。これから『シン・エヴァ』を見る予定の方は、またのご来訪をお待ちしております。



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〇何はさておき、ワシはこの4部作に出てくる「絵」(背景)が好きだ。それも鉄道とか送電塔とか駅舎とか街角の電信柱とか、人工的な景色の美しさがたまらない。リアルな兵器の機能美と滑らかな動きもこれに次ぐ。『シン・』では田園風景も出てくるのだけれども、やはり人工美の方がすばらしい。『シン・』では南極決戦などイマジネーションのシーンが多くなるので、その点がイマイチ盛り上がらない。『序』のヤシマ作戦あたりの「絵」がいちばん良かったなあ。

〇キャラはもちろん素敵だ。『シン・』は『Q』のラストで廃人同然になったシンジが再生し、「うつ抜け」して戦って大人になる物語なのであるが、究極的には父ゲンドウの野心と純情の物語とも言える。これは『スターウォーズ』がダース・ベイダーの原罪と贖罪の物語であるところと似ている。物語の軸となるのが親子の対立と和解の物語である、という点もまったく同じではないか。

〇ただしゲンドウのようなキャラは、この国のアニメでは昔から散々使われていて、そういう意味ではあまり新鮮味はない。たぶん原型は「昭和ひとケタ世代」であって、その中には『ルパン三世』の銭形警部なども含まれる。彼らは不器用で純情で一本気で、本当は愛情があふれているくせに、自分の子供に対してなぜか優しくなれない。それから冬月というキャラも同様で、この国では昔から補佐役キャラが好まれる。冬月は自分の方が年上なのに、ゲンドウを理解して支えようとしている。これじゃ人気はテッパンですな。

〇ワシ的に面白かったのはミサトとリツコの関係である。旧来の日本のアニメや特撮モノにおいては、女性はいつも「紅一点」だったので、女性同士の交流が描かれることは希であった。そういえば『ガンダム』でも、セイラ・マスとフラウ・ボウの掛け合いはあんまり記憶にない。その点、ミサトとリツコの関係は、『序』の冒頭から「同志愛」と「腐れ縁」感を滲ませていて、こういうドラマは新鮮であった。映画的には、アスカとマリのちょっとレズっぽい関係も「売り」(サービス、サービスぅ)なんだろうけれども、そっちは想定の範囲内である。

〇ミサトとリツコは共に重責を背負っている。『七人の侍』における勘兵衛と七郎次のように、長い時間を共に過ごしてきたコンビのみが持ち得る練れた関係なのだけれども、それが女性同士だという点がすばらしい。そこが当世風なドラマになっていて、これは日本アニメのひとつの進化ではないかと思う。

〇ということで、自分は「元気な女性キャラ」が好きなのだということに突然、気がついた次第である。綾波レイ(正確には「アヤナミレイ(仮称)」)は全編を貫く強烈な魅力ではあるのだけれども、ワシ的には「萌え」ないんですなあ。ちなみに「この映画の最終シーンに登場するのは、たぶんシンジと××だろうな」という予想が当たったのは、自分でも驚きでした。

〇4本シリーズとしては、『序』と『破』、『Q』と『シン』の間に14年の月日が流れているので、この間の物語をかなり端折っている。そこでミサトや加治リョウジがNARF(後記→多くの人からご指摘をいただきましたが、NERVの間違い。恥ずかしいけど面白いので、このまま残しておこう)に造反する物語(たぶん渚カヲル司令なんぞも登場する)が隠れていて、その辺は観る者にとっては不親切設計になっている。もっともリアルでもこの間に8年の月日が流れているので、そこはあんまり作り手を責められない。

〇とはいえ、「ニアサー」後のエヴァの物語、後からスピンオフで作ってもいいんじゃないかと思う。庵野秀明総監督としては、『シン・ウルトラマン』と『シン・仮面ライダー』がこけたら、その手がありますな。シンジは出てこれないけれども、アスカやマリがその時に何を考えていたのかが気になります。それからトウジ君やケンスケ君のエピソードも入れてほしいです。

〇などと、25年来のファンが無数にいるシリーズについて、わずか1週間のにわかファンが偉そうに語ってしまいました。たぶんこういうファンが発生することも、庵野総監督にはお見通しなんでしょうな。さて、明日からは真面目に仕事と競馬の日々に戻ろう。


<4月10日>(土)

〇今日は日台関係研究会へ。講師に呼んでいただいたので、バイデン政権の対アジア政策やら、来週の日米首脳会談やらについてお話しさせていただく。こういう時代なので、リモートで台湾でも聞いてくれている人が居る、というのがまことにありがたい。

〇国際政治でも世界経済においても、これだけ台湾の値打ちが上がっている時期は珍しいのではないだろうか。ひとつにはコロナのせいで、「キチンと対応できた民主主義の優等生」という位置づけがある。ブルームバーグが「Covid Resilience Ranking」という順位を発表していて、これでみると台湾は現在世界第4位である。日本が8位というのは「ホンマかいな」という気もするが、こうしてみると上位は不思議なくらいAPECメンバーばかりが並んでいる。たまたまイスラエルがワクチン接種が進んで急上昇、5位となっているけれどもね。

〇さらにこれもコロナのせいだが、米中のパワーバランスが大きく中国側に傾いてしまい、「こりゃ真面目な話、台湾有事の際はヤバいんじゃないか」ということが意識され始めている。そしてまた習近平体制は、そういう可能性をまったく否定しない。さらに半導体需要の増加に伴って、シリコンアイランドである台湾経済が重要性を増している。TSMCの囲い込み合戦、みたいなことが起きている。

〇そうしたことが、結果的に日米同盟の重要性を増していて、「バイデン政権初の対面の首脳会談」は日本しかない、ということにつながっている。相手が日本であれば、何はさておきまず失敗しそうにないし、何より菅首相が喜んで来てくれそうである。それと同時に、消去法で考えても今は日本以外は考えにくいという事情がある。英国はどうせ6月になったらG7サミットがある。ドイツはメルケル首相が9月になれば引退。フランスはマクロン大統領が来年5月の大統領選挙で再選されるかどうか。というか、そもそもコロナが猖獗を極めている国は全部ダメである。

〇何だかんだ言って、日本は人口が1億を超えている国としては、破格にコロナ感染者が少ないのである。まだ50万人にも達していない。死者も1万人以下である。しかし今日の渋谷スクランブル交差点は人が多かったな。これではまた増えてしまうかも。明日は外出を控えて、自宅で競馬三昧といたしましょう。


<4月11日>(日)

〇あらためて驚いたんですが、日本で生まれた白毛馬は、これまでに全部足しても40頭しかいないんですって。突然変異によるものが6頭、遺伝によるもの34頭、とにかく非常に珍しい存在であるらしい。

〇たまたまなのだが、ワシはユキチャンやブチコが中山競馬場で勝つのをその場で見たことがある。それからハヤヤッコは、2019年のレパードステークス(G3)で勝っているのだが、そのときは貴重な10万馬券を取らせてもらっている。考えてみればワシにとって、白毛馬はゲンが良いのである。

〇ということで、今日の桜花賞もソダシから買ったのである。いや、正解正解。そんなことはさておいて、本日の桜花賞の売上は182.9億円で、デアリングタクトが勝った昨年よりも3割増しだったそうである。やっぱり皆さん、お好きなのですねえ、白い馬が。JRAにとっては、これまで白毛馬は誘導馬くらいでしたが、それが5連勝の桜花賞馬なんだから堪えられないことでしょう。さあ、オークスはどうなるのかな?

〇おそらく世界中の馬主にとって、白い馬で強い馬を持つことは見果てぬ夢なのではありますまいか。だって人気が出ることは間違いないんだから。それもどちらかと言えば、牡馬よりも牝馬が望ましいですよね。そして桜の季節に(阪神競馬場の桜は既に峠を過ぎていたけれども)、白馬の桜花賞馬が誕生する。こんなにオイシイ話がほかにあるでしょうか。

〇日光東照宮にいる2頭の白馬のうち、1頭はニュージーランド政府から贈られたものなのだそうである。ニュージーランド政府は、もちろん恩を着せるためにそれをやっている。それくらい世界的にも白毛馬は貴重な存在なのである。「白馬に乗った王子様」なんて言葉があるくらい、絵になりますしね。そうかと思えば、古代中国には「白い馬は馬にあらず」(白馬非馬説)なんてものもある。皆さん、無関心ではいられないのである。

〇ということで、終日競馬に励んでいてちょっと感動したのであった。ついでに阪神タイガースも強いので、少々調子に乗るくらいはしゃいでいるのであった。まあ、滅多にないことですから。


<4月12日>(月)

〇昨日の当欄では、「滅多にないこと」と称して白毛馬ソダシの勝利を伝えたのであるが、今朝はもっとすごいことが起きていた。あの松山英樹がマスターズを勝ったのである。いや、これは凄いことでありますぞ。どこがどう凄いことなのか、なかなか説明できないのがもどかしいのであるが、大坂なおみがウィンブルドンを制覇してもこんな騒ぎにはならないことは確信できる。

〇今や日本のアスリートは、世界中どこへでも行っちゃう時代である。メジャーリーグ・ベースボールでさえ、イチローがMVPを獲ったことがある(2001年。首位打者、新人王、盗塁王も含む)。ゴルフだって、すごい記録は一杯あるのである。1980年の全米オープン、帝王ニクラウスと青木功の名勝負は語り草であって、トランプ大統領と安倍首相は首脳会談の際に、その話で盛り上がったという。

〇とはいうものの、舞台はマスターズであってオーガスタである。ジョージア州の選挙法改正が顰蹙を買っていて、「オールスターゲームはアトランタでやるべきではない」ということになってしまうのが昨今のアメリカである。ところが、さすがに「マスターズをオーガスタでやるべきではない」という声はどこからも聞こえてこない。以下は「オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ」に関するウィキペディアから。


●オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(Augusta National Golf Club)は、アメリカのジョージア州オーガスタにあるゴルフ場。

概要

毎年4月上旬に開かれるマスターズ・トーナメントの開催コースとして名高い。1932年、ボビー・ジョーンズとゴルフコース設計家アリスター・マッケンジーとの設計によってオープンした。

コースのメンバーは世界中に約300名いるが、当然会員希望者は多く、会員になるためには数十年程度待たなければならないと言われているほど難しい。プライベート・コースのため、コース会員の同伴か、マスターズの運営ボランティア等でないと一般人はプレーできず、一般人がプレーするのも大変に難しい。

開設以来、女性会員は認められていなかったが(会員同伴のプレーはできる)、2012年8月20日、元アメリカ合衆国国務長官のコンドリーザ・ライスと実業家のダーラ・ムーア(Darla Moore)の2人を初めての女性会員として迎え入れた。また、2019年からは女性アマチュア選手によって争われる「オーガスタ・ナショナル女子アマチュアゴルフ選手権」が開催されている。

歴史

1934年の第1回マスターズでは、ホートン・スミス(1908年-1963年)が初代優勝者となった。それ以来、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブは「ゴルフの祭典」マスターズの開催地として知られている。他の3つのゴルフメジャー大会が毎年会場を変えて行われるのに対し、マスターズだけは毎年同じオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで行われるため、他のメジャー大会とは異なる趣を持っている。

また、このコースに隣接してすべてがパー3の9ホールで構成されるショートコースがあり、マスターズトーナメントの開会前日に行われるアトラクション「パー3コンテスト」という大会の舞台にもなっている。


〇ゴルフ中継番組の人気が低調になっても、ずっと4日間フル放映を続けてきたTBSにとっても、長年の我慢が報われた瞬間でありました。あきらめなければ、願いはきっとかなう。池江璃花子さんじゃないですが、努力は必ず報われる。そう思っていないと、人はついついあきらめてしまうものだから。もっと言えば、世の中には他人をあきらめさせたくて仕方がない人たちもいる。きっと自分が、期待することに疲れてしまったからなのであろう。

〇それとは逆に、あきらめないことの値打ちを教えてくれる人もいる。どっちが偉いかは言うまでもないだろう。マスターズを勝った日本人がいる。そのことは今日から未来永劫、歴史に残ることになる。


<4月13日>(火)

〇以下のニュースは本日の「ニュース・オプエド」から。


Bイランの原子力施設でトラブル イスラエルが関与か

アメリカの核合意復帰に影がさしました。イラン政府は12日、中部ナタンズの原子力施設で起きた電気系統のトラブルについて、イスラエルが関与したと非難しました。アメリカの新聞、ニューヨーク・タイムズによると、施設では大規模な爆発が起き、ウランの濃縮活動に使う遠心分離機の電源が破壊されました。イラン外務省報道官は「シオニストの手によるものだ。われわれも報復する」と指摘しました。イスラエルのネタニヤフ首相は11日、「イランとの戦いは大きな任務だ」と語り、破壊活動への関与を否定していません。アメリカのサキ大統領報道官は12日の記者会見で、「アメリカはいかなる形でも関わっていない」と述べています。バイデン政権は、トランプ前政権が離脱した、イラン核合意への復帰を目指し、イランとの間接的な話し合いを始めたばかりです。イスラエルはイランへの強硬姿勢を貫いており、アメリカとの間で距離感が広がっています。


〇サキ報道官の「アメリカはいかなる形でも関わっていない」というのは、心の叫びでしょうね。これはあからさまなイスラエルによる「仕掛け」で、アメリカが対イラン核合意(JCPOA)に戻れないように釘を刺すもの。オースティン国防長官のイスラエル訪問中に「やっちゃった」とはお人が悪い。「ニューヨークタイムズによると」というのも、これはイスラエル政府によるあからさまなリークでありましょう。「やってやったぜ!」ということであります。

〇アメリカとしては焦りもある。6月にはイランは大統領選挙が予定されている。このままいくと、思い切り保守派の大統領が誕生しかねない。その前にJCPOAをテコ入れしたいのだが、あいにく邪魔をする人たちもいる。そしてイスラエルは、ホンネではバイデン政権を信用していない。内心では困らせたくて仕方がないのではあるまいか。

〇もっともイスラエルのネタニヤフ政権としても、彼自身の政治生命が懸かっている。「2年間で4回目」という選挙を3月に実施したけど、リクード率いる与党連合は過半数に達していない。このままいくと、5度目の総選挙が現実味を帯びてくる。となれば、イランを挑発して安全保障上の脅威を喚起することが合理的な行動となる。危なっかしくて見ていられない感もあるが、バイデン政権はこんな「困った同盟国」にも事欠かない。

〇ということで、今週末の日米(リアル)首脳会談は、アメリカから見れば「日本はいいよなあ、絶対失敗しないし、呼んであげると向こうが喜ぶし」ということになる。菅さんはおっとり刀で馳せ参ずるのでありましょう。油断もすきもならない国が多い中で、日本のような「安全パイ」は光る存在なのかもしれません。


<4月14日>(水)

〇東芝がややこしいことになっていて、「車で谷底」氏が社長を辞任。いや、お疲れ様であります。

〇ややこしい事情の裏側は、当方の鈍い頭ではサッパリ理解できませんが、会社を「モノ言わない株主」に買ってもらって非上場化して、後は自分たちでやりたいようにやらせてもらいたい、だってわが社は国家の安全保障にかかわる事業をしてるんだもん、というのはいささか虫がいい話であったと思います。

〇そもそも、株主に「モノ言う」「モノ言わない」という2種類の人種があるわけではありません。「カネは出しても口は出さない」というクライアントは理想ではありますが、そんな「いい人」はこの世には存在しないものです。少なくとも兆円単位のおカネを出せる人においては。「ちゃんと俺を儲けさせろよ!」と言わない株主などあり得ません。それでは資本主義の否定になってしまいます。

〇そうでなくても超低金利が慢性化する中で、世界に多数あるファンドは「ビースト化」する傾向があるように思えます。言ってみれば、エヴァンゲリオンが暴走するようなものですな。それで世界経済のサードインパクトが起きるのでは困りますけれども、そういう事例はこれから先、増える一方ではないかと思います。その点、東芝は時価総額2.2兆円程度の小物でありますから、日本人が思うほどのインパクトはないんですよね。

〇それでも今は半導体が世界的に不足していて、そんな中でキオクシア社の株の4割を持つ東芝の株価って安過ぎるよねえ、と考える市場参加者が出てくるのは無理からぬ話です。それはそれで米中関係がややこしくなって、アジアの半導体企業の囲い込みが始まっている昨今では、かなりビミョーな問題であることは間違いありません。

〇ひとつだけ間違いないことは、儲からない会社はかならずダメになるということです。原子力であれ、防衛産業であれ、半導体産業であれ、それは共通。「ウチは重要な仕事をしているから、儲からなくても仕方がないのだ」などと勘違いしている企業はかならず没落します。そんな企業を容認することは、結果的に国益を害することになります。

〇東芝に残った人たちが、そういう安逸の経営を志向していないことを望むものであります。うむ、なんだか偉そうなことを言ってしまったような気がするが、たまたま昨日、今日と「日本原産会議」にリモートで参加していて、「なんだかぬるい話をしておるなあ」という気がして仕方なかったものですから。


<4月15日>(木)

〇阪神タイガースが強いのである。この時期のことだけの瞬間風速かもしれないんだけれども、貯金が8つもあるタイガースなんていつ以来のことだろう。

〇何といっても見所は新外人テリー・サトウ、もといルーキー佐藤輝明外野手である。今日もバックスクリーンに叩き込んで、この時期に早くも5本目のホームランである。バットの構えが大胆なのも好感度大ですが、空振りが豪快なのもよろしいですな。新人たるもの、見逃し三振なんかしちゃいかんです。

〇ということで、連日のようにビールを飲みながらのナイター観戦である。いやあ、今日も広島に勝っちゃったよ。これで5連勝。明日はヤクルト戦で藤浪が登板ですか。いやあ、楽しみですなあ。

〇そういえば明日は溜池通信を書かなければならぬのだが、まあ、何とかなるだろう。最近は「エヴァ」もあるし「タイガース」もあるし、仕事以外のことについつい気が散る日々である。


<4月16日>(金)

〇菅義偉首相がワシントンDCに到着。明日の未明には日米首脳会談に臨むことになります。ブレアハウスに泊めてもらえるのは望外の幸いというもので、さすがは「大統領にとって最初の対面首脳会談」であります。

〇この期に及んで、日本国内には「バイデン大統領との会談で日本は踏み絵を踏まされる!」式の自虐的な報道が絶えません。んなわきゃ、ないでしょうが。バイデンさんはとにかく「最初の100日」を成功させるのが最大の課題であって、そのために絶対に失敗しない日本の首相を相手に選んだのですから。そして今は日米間の事務方がしっかりしていて、最初から日本が呑める程度の話しか持ち出しません。マスコミ界には、「日米関係は戦後最悪の状況に至った」式の報道をしたがる手合いが今でも少なくないようです。

〇ちなみに「共同声明に台湾を明記する」てな報道が今夜のニュースで流れていますが、それがなかったらワシ的にはガッカリです。だって、それが現下における日米関係の最大の懸念なんですから。3月16日の日米「2+2」の共同声明が出た時点で、これが一番の「ヤマ」であることは自明であったはずです。首脳会談はそれを上書きする。気候変動やワクチン協力は、いわばオマケ的な役割となります。

〇こうしている間にも、中国軍機は非常に高い頻度で台湾の防空識別圏に侵入していて、バイデン新政権はいわば「試されている」立場。そうは言っても中国は、この後は「中国共産党100周年」(2021年7月)→「北京冬季五輪」(2022年2月)→「中国共産党大会」(2022年秋)という重要イベントが控えていて、その間は「台湾武力侵攻」みたいなギャンブルをすることはないでしょう。

〇問題は来年秋の党大会において、習近平が3期目の総書記になってからであります。当然、5年以内の中台統一を目指したいことでしょう。米軍関係者が「6年以内の台湾侵攻」を懸念するのは、そういう理屈からなのであります。さらに言えば、2027年は人民解放軍の創設100周年であり、米中のGDP逆転が近づくタイミングでもある。そして中国は、このときまでに「アジア太平洋地域で米軍と均衡する軍事力を確保する」ことを目標としていると伝えられている。

〇面白いことに、アメリカは今日のこのタイミングで、中国に親中派のジョン・ケリー気候問題担当大統領特別大使を派遣し、台湾にはアーミテージ元国務副長官などのTaiwan Hnadsを送り込んでいる。何重にも保険が懸かっているのでありますよ。この辺が、大統領の即興ツイッターで万事が決まっていたトランプ政権時代との大きな違いなのでありまして。

〇こうなると、菅さんにとって明日の晩餐会の相手が誰になるか、というのが最大の注目点となります。カーマラ・ハリス副大統領がお相手してくれる、てな観測があるようです。それはそれで大いに結構なことで、日本政府としてはこの副大統領を「教育」して取り込まなければなりませぬ。ちなみにバイデンさんの頭の中は、急きょ4月28日に決まった大統領議会演説(通常の年の一般教書演説)で一杯になっているものと想像いたします。内政面でなやらきゃいけないことが、たくさんあるのでありますよ。


<4月17日>(土)

〇本日、発出された日米共同声明はこちらをご参照。

〇本文は「新たな時代における日米グローバルパートナーシップ」という題名がついています。前段の安全保障協力に関する部分は、「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」という小見出しがついていて、基本的には3月16日の日米「2+2」を上書きする形で書かれています。この中に尖閣とか香港、ウイグルの人権問題と言った文言が出てきます。

〇注目の台湾に関しては、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と書かれています。後段の部分(両岸問題の・・・)は「2+2」にはなく、これは「ひとつの中国原則を忘れたわけじゃないですからねっ!」というシグナルを中国に送ったのでありましょう。ひょっとすると、北京に「こういう風に書きますからね」みたいなご注進をしているかもしれません。いや、なにしろ4月9日にやるはずだった会合が1週間ズレたので、日米当局にはいろんな横やりが入ったことでしょう。たぶんそのせいで、この共同声明はやたらと長い。

〇それではなんで1週間遅れたのかと言えば、4月13日にアフガンからの米軍撤退が決まったことがヒントになります。なにしろ20年ぶりの終戦になりますので、バイデン政権としては各方面への根回しに手間取ったのでしょう。その一方で、この1週間は「アメリカは中東からは引く、その分、アジアには正面から取り組む」というメッセージを全世界に発信したことになります。要は中国重視、ということになります。

〇安全保障協力以外の分野では、「新たな分野における同盟」という章立てがしてあって、5Gやサプライチェーン、気候変動問題と言った分野の日米協力を打ち出している。ここには2本の別添文書「競争力・強靭性(CoRe)パートナーシップ」(Competitiveness&Resilience)と「気候パートナーシップ」がぶら下がりました。気候変動で日本側が変なサービスをしてしまったのかと思ったら、そこは良くしたものでほとんど数値目標みたいなものは入っておりません。ちょっとホッとします。

〇他方、為替や貿易収支、FTAなどに関する言及は一切ありません。トランプさんの頃に比べて、つくづく時代は変わったものであります。

〇最後の部分に「今後に向けて」という章立てがあって、ここにはオリパラに関する記述がある。すなわち、「菅首相の努力を支持する」(President Biden supports Prime Minister Suga’s efforts to hold a safe and secure Olympic and Paralympic Games this summer.)とある。全面的に東京五輪の開催を支持しているわけではなくて、「菅首相の努力」という形で若干の留保が入っている。これはまあ、致し方ないところでしょうな。

〇こういう細かい文言を日米双方がギリギリと詰めたものと想像いたします。「ジョーとヨシ」の日米首脳会談は、お互いにキャラ立ちが今ひとつの首脳同士でありますが、その分、事務方はしっかりしていますので、安心してみていることができます。これも"Diplomacy is back!"ということでしょうか。


<4月18日>(日)

〇日米首脳会談に対して、中国はどんな風に「キレ」てくれるのかと思ったら、意外とそんなことはないようですね。ジョン・ケリー気候変動担当大統領特使が訪中していて、中国のカウンターパートである謝鎮華特使との間で、4月17日付でこんな共同声明が発表されました。

〇中身的にはたいしたことを言ってなくて、パリ協定を守りましょう、気候変動サミット(4/22-23)やCOP26を楽しみにしてますよ、と言った程度。米中は温暖化ガスの排出量ではダントツの世界第1位と第2位なんですから、2国間協力はもちろん重要なんですが、数値目標は入っていないし、常設の米中委員会を作りましょう、なんて提案もない。

〇問題は日中関係の方ですな。つくづく感じますが、トランプ=安倍時代とは、「日米関係を緊密化しながら、日中関係の改善も模索できる」という稀有な時代であったわけです。それはトランプさんの単独行動主義のお陰で、あのときはアメリカが勝手に中国に貿易戦争を仕掛けてくれたのですな。こっちは責任のない立場だったので、中国との間で「一帯一路の第三国協力」みたいな話を進める余裕があった。

〇今度のバイデンさんは、外交の定跡に則って、ちゃんと同盟国を味方につけたうえで、中国と対峙しようとしている。そうなると日本の立場も決まってくるので、中国は当然、「キレ芸」を見せてくるでしょう。はてさて、どんなイジメを受けることやら。ユーウツなことではありますが、致し方ありますまい。

〇日中関係ということでいえば、習近平訪日が仕掛かり状態になっているし、来年9月には「日中国交正常化50周年」なんてのもあるんですよね。あの田中角栄首相が訪中してから半世紀になるわけですが、皆さん、そんなの覚えていませんよねえ。ただし当時のことを思い出さないと、「ひとつの中国原則」や「尖閣問題」は理解できないことになっている。

〇逆に中国側はこの辺の話になるとまったくブレてなくて、そこが対中関係の厄介なところであったりする。さて、明日朝はモーサテに出演です。


<4月19日>(月)

〇今回の日米首脳会談においては、アメリカ側のいろんな事情が垣間見えました。ホワイトハウスでは、前日にプレス向けの電話会議をやっているのですね。それに関する議事録が公開されています。


●Background Press Call by a Senior Administration Official on the Official Working Visit of Japan APRIL 15, 2021


〇ここでは日本関連ということで、記者たちからはいろんな質問が飛んでいます。日韓関係が悪いけどどうなんだ、台湾や人権問題で日本にもっと強い立場を取らせることは可能か、QUADってどんなことができるの? といったことが聞かれて、政府高官がいろんなことを答えている。で、最後に東京五輪について、ちょっと洒落にならない感じの質問が飛び出す。これに対する答えがとっても正直なもので、行間からバイデン政権の雰囲気を読み取ることができそうである。


Q To what degree have you all discussed the safety of the Olympics and the advisability of American athletes participating, especially given the President’s own focus on -- on caution and really adhering to coronavirus restrictions himself?

You know, is there a risk of him looking like he’s relaxing the rules if he’s authorizing sending large groups of American athletes into a hotspot in Tokyo at a time when vaccines there are in short supply?

SENIOR ADMINISTRATION OFFICIAL: Yeah, look, it’s -- it’s a great question. And, you know, I think the goal of the President -- he respects and understands what Prime Minister Suga is trying to do by holding an Olympics, you know, without -- largely without, you know, fans in the stands; very much understands the risks and challenges, but also understands Japan- -- Japanese national intent to move forward.

We expect that this is going to come up. I think President Biden is extremely sensitive to Prime Minister Suga’s politics on this. I think we still are a couple of months away, fundamentally, from knowing, you know, what the situation will be like. I think, if anything, he’s likely to ask the Prime Minister for an update and for his views on how things stand.

But I believe, at a fundamental level, the President is very sympathetic, loves sports, and I think we’ll -- we’ll likely be in a position that we certainly, in no way, want to -- want to hurt the Japanese efforts. We think the Olympics is a, you know, it’s a wonderful tradition. But at the same time, right now, it is probably slightly too early to make a call about what to expect.


〇日本政府と菅さんは、とっても気を遣ってもらっているようである。まあ、そうだろうなあ、おそらく民主党支持者の方がコロナ警戒は強いので。やっぱり、ホンネはこんな感じでしょうかね。


<4月20日>(火)

〇ウォルター・モンデール氏が93歳で逝去とのこと。カーター政権で副大統領を務め、ミネソタ州選出の上院議員を務め、1993年から96年までは駐日大使を務めた。ヴァイス・プレジデントだしアンバッサダーなのだが、「セネター・モンデール」と呼ぶのがいちばん似合っているような気がする。

〇今日になって突然思い出したのだが、モンデール氏が1993年に特命全権大使として赴任されたときに、当時の経済同友会代表幹事の速水さんのお伴をしてアメリカ大使館に伺ったことがある。速水さんが「こんな本を出しまして」と言って本をプレゼントしたところ、「いやあ、ありがとう。でも読むのは映画になってからにするよ」。

〇ほんの一瞬、気まずい沈黙が流れた後で、「いや、これは本をもらった時の定番のジョークでね」と言って、大使はいたずらっぽく笑ったのであった。そばで聞いていて、何てお洒落なんだろう、と感心した。いつかどこかでこのジョークを使ってやろう、と思ったけれども、その後、1度も使うことがなく今日に至っている。何しろ忘れていたからだ。あはは。

〇当時は日本が細川政権、アメリカがクリントン政権で、日米包括協議の時代である。日本の対米黒字がいちばんの問題で(と言ってもたかが500億ドルくらいだったのだが)、日本側の黒字減らしが成功しない場合、為替レートで調整されるはずだというのがマーケットの見解で、円高がどんどん進んでいた。たいしたことないじゃん、命まで取られるわけじゃなし、と今なら思える。冷戦が終わったばかりの当時、明けても暮れても世界は経済問題だったのである。

〇モンデール大使が在任中に、「尖閣諸島は日米安保の対象外」と言ったことが、物議をかもしたことがあった。とはいえ、当時としてはそれが普通で、アメリカは1972年に沖縄の施政権を日本に返還した際に、それに尖閣諸島が入っていたという認識でした。だから尖閣における日本の施政権は認めるけれども、主権についてはハッキリしたことは言わない。他国の領土問題に口出しして、得になることなんてないですからね。このこと自体は今も変わっていないはずです。これを間違えるような不勉強な報道官が居るようですが。

〇それでも中国の海洋進出が進んだ結果、「尖閣は日米安保第5条の対象内」ということになりました。それだけ状況が切羽詰まっているということで、日本としては喜ぶようなことじゃないですよねえ。1990年代はのどかで良かったなあ、とちょっとだけ思います。


<4月21日>(水)

〇今週のThe Economist誌が"Asia's next failed state"というカバーストーリーを掲載している。「アジアの次なる失敗国家」とは、言うまでもなくミャンマーのことを意味している。

〇2月1日に始まったミャンマー国軍によるクーデターは、同国にカオスをもたらしている。市民側はゼネストで対抗し、企業活動は麻痺している。危機に乗じて国境近くの武装集団が蜂起し、国軍はこれを抑えようとしている。そもそもミャンマーのゲリラ支配地域はヘロインを生産しているし、少数民族による反政府組織の動きは絶えず、国軍との間では1949年以来の「世界最長の内戦」となっている。これはもうアフガニスタンのような破綻国家へとまっしぐらである。

〇クーデター以前は6%成長と見込まれていたミャンマー経済は、今では▲10%成長が見込まれていて、いや▲20%だという声もある。死者数はわかっているだけで700人を超えた。そして周囲では中国がパイプライン投資を守りたいと思っているし、インドは難民の流入に腹を立てている。ロシアは国軍を助けようと虎視眈々としている。これはもうASEANなどの近隣国が動くしかない。

〇・・・などとおっしゃるのだが、ミャンマーへの対応ではASEAN内も割れているので、この問題への対応は容易ではないだろう。こう言うと残酷に響くだろうが、外国には所詮、ミャンマー国内の事態を収拾するような力はないと考えた方がいいと思う。The Economist誌は格調高いメディアとして、「あーせい、こーせい」と偉そうなことをのたまうわけだが、そんな風に物事が進むとは思われない。

〇こういう問題はタイミングが大事なので、当事者同士が疲れ果てて、うんざりするような状況を待つしかないのではないかと思う。もちろんその間に犠牲は増え続けるのだが、そこは目をつぶるしかあるまい。だって、この問題に対して、自国の兵力を差し向けるような酔狂な国はどこにもあるまい。ましてコロナ下の現状においておや。

〇「賢くて善良なワタクシは、この問題に対して何かができるはず」などと考える人は後を絶たないものだけれども、あいにくそのほとんどが錯覚であると考えた方がいい。世の中の大半を占めているのは、賢くなく善良でもなく、でも愛すべき人たちである。期待すべきはそっちの方であろう。困難な問題を解決するのは賢者の知恵などではなく、単に時間であることが多いものである。


<4月22日>(木)

ホワイトハウスのホームページでは、日々、ワクチン接種状況が報告されている。4月21日現在の数値は「51%、199m」となっている。これは「成人人口のうち、51%が1回以上Covid-19ワクチンを接種し」「合計回数が1億9900万回に達した」ことを意味する。最近は大体1日3M(300万回)ペースで増えているので、明日には「2億回達成!」ということになる。政権発足から100日以内に2億回、を目標としてきたので、1週間早めの達成ということになる。"Under Promise, Over Deliver."というのがバイデン流である。

〇もっともこのことは、前のトランプ政権が「オペレーション・ワープスピード」で、ワクチン開発に巨額の投資をしてくれたおかげでもある。つくづくバイデンさんは運が良い。「野村監督が育ててくれた選手が、星野監督の下で成果を挙げる」みたいなのは、世の中ではよくあることである。種をまく人と刈り取る人は、いつも同じということはありません。

〇それにしてもワクチン接種が1日300万回とは凄いペースである。この勢いで行けば、アメリカは夏頃には確実にワクチンは余りますな。その分は、カネ払いのいい国から順に回ってくる。日本は9月ということになるようです。もっとも、「お医者さんじゃないと注射打っちゃダメ」みたいなルールがいっぱいあるこの国で、ブツが届いた後にどうやって接種を進めていけばいいのか。厚生関連は「ムラのおきて」が一杯ある世界のようですので、前途遼遠と考えておいた方が良さそうです。

〇このところ緊急事態制限に逆戻りになりそうなんで、「ワクチン敗戦」などという怨嗟の声も出てきているようだ。とはいえ、去年の秋ごろまでは皆さん「ワクチンも、ちょっと怖いよねえ」などと言っていたのをお忘れだろうか。世界中がせっせと接種を初めて、今のところさほどの副作用もないみたいだから、今ごろになってそういう評価になっているだけだ。

〇だいたいアナタ、医療に関する訴訟でことごとく政府が負けてきたようなこの国で、日本の製薬会社が開発に本気になるわけがないでしょうが。そしてアメリカやイギリスが開発に本気になったのは、それだけの犠牲を払ったことと裏腹の関係にある。Covid-19による死者数が年間の自殺者の半分というこの国で、画期的な新薬が誕生したとしたらそっちの方がよっぽど驚きだと思いますぞ。

〇さて、今日は内外情勢調査会湘南支部の講師で藤沢市へ。そういえば昨年10月に横浜支部に行って以来である。対面の講演業は、コロナ下で減っているのであります。帰ってきてから、いつもの連載を仕上げて提出。ああ、済んだすんだ。そして午後6時からビールを飲みながらナイター見物。こういう状況であると、タイガースが負けていてもさほど気になりませんな。どれ、もう一本あけるとしましょう。


<4月23日>(金)

〇今日は自民党本部へ。自民党の部会と言えば、昔はひな壇に偉い人がずらりと並んでいたり、朝には農水族ご自慢のコメの飯が出たりしたものだが、さすがに今の時代はそういうことはない。それどころか、リモート参加アリであるし、ペーパーレス会議であって、参加者の前にはタブレット端末が置かれていたりする。それもそのはず、本日の会合は「新経済指標検討プロジェクトチーム」なのである。

〇4〜5年前に、2008SNA導入に合わせたGDP統計の議論をしていたPTが、最近になって復活したのである。次の国際的なGDP統計の見直しは2025年くらいになり、@グローバル化、Aデジタル化、BWell-Being及び持続可能性、などが検討課題になるだろう、とのこと。わが国としても先手を打って、次の指標づくりのために仕掛けていくべきであろう。

〇以前からの当PTの問題意識のひとつに、文化的価値をいかにGDP統計に反映していくか、がある。文化財や芸術作品にストックとしての価値がある、と主張することは簡単なのだけれども、そのためにはある程度はフローの取引が行われていることが必要条件である。そうでないと、中国などで現代美術作品が異常な高値で取引されている一方で、日本古来の文化財が不当に安い、みたいなことが起きてしまう。

〇およそ日本くらい美術館や博物館が多い国はないだろう。単に収蔵品のレベルが高いだけではなく、全国くまなく、ほとんどどの県に行っても著名な絵画のひとつやふたつはある。ところがそういう作品群が国全体でリスト化されておらず、取引も滅多に行われていない。それどころか、節税対策で隠されている芸術作品も少なくないそうだ。これは経済指標の問題にとどまらず、税制などにも及ぶ話であろう。

〇会議の合間に、純粋な好奇心で林芳正座長にお伺いしてみる。「庵野秀明監督とは会ったことあるんですか?」――よくぞ聞いてくださいました、と言わんばかりに「あります」とのお答え。互いに下関西高と宇部高校の同学年とのことで、無数に共通の話題があったとのこと。『シン・エヴァ』のラストシーンのこともちゃんと知っていた。あの余韻はいいですよねえ。

〇それどころか、「次は『シン・ウルトラマン』が楽しみですなあ」というから、カンレキの同世代は困ったものである。とはいえ、『エヴァンゲリオン』のようなコンテンツも、ちゃんと経済統計として「値付け」をしていくべきである。日本経済の将来は、そういうところに懸かっておると考えるものであります。


<4月24日>(土)

〇3週間ごとに書いております駄文のご紹介。


●日本経済には36兆円もの「埋蔵金」が埋まっている〜アフターコロナはやっぱり大きなチャンスだ


〇で、この本文には載せることができなかったデータを、PDFファイルでこちらに張り付けておきましょう。


●異常値を示す日本の貯蓄率


〇ちょっと面白いデータじゃないかと思います。

〇ちなみにこの連載の書き手3人は、こんな風に意見が分かれるようです。


かんべえ 「家計部門に昨年1年で36兆円もの意図せざる貯蓄が残っている。これはチャンスだ。どうやったら消費に向かわせることができるだろう?」

オバゼキ先生 「家計部門の貯蓄増は政府部門の赤字の拡大。政府がいずれ破綻する、年金が減らされると家計が身構えているのだろう。日本経済の前途は暗い・・・」

山崎元さん 「コロナ下の家計は『貯蓄を買った』のではないか。一昨年の老後2000万円問題の影響もあるのかもしれない。アフターコロナになっても消費はあまり伸びないだろう」


〇それぞれ視点が違うのですね。不肖かんべえは企業エコノミストなので、見方が産業界寄りとなります。オバゼキ先生は官庁系なので、視点が日本経済全体に行く。そしてマネーの専門家である山崎さんは、投資家目線ということになる。意見が分かれるのは競馬だけではありません。


<4月25日>(日)

〇本日は菅内閣が始まってから最初の国政選挙。衆議院北海道2区と参議院長野の補欠選挙、および参議院広島の再選挙の3つが行われました。前2者はそれぞれ「不戦敗」、「弔い合戦」なので、与党には勝ちにくい選挙と分かっていたから、真の勝負は広島にあり、ということになっていた。

〇それが広島でも負けちゃった。なにしろ河井案里前議員の選挙無効に伴う再選挙なので、「政治とカネ」の問題があるだけに戦いにくい。なおかつ菅さんはその直接の責任者である。なぜ、河井案里さんを勝たせたかったかと言えば、それはポスト安倍候補としての岸田さんを困らせるという狙いがあった。しかも今回は4月25日に「3度目の緊急事態宣言」が重なった。これはもう二重三重に罪が深い。

〇こうなると、連休中にインドとフィリピンに行く予定をキャンセルしておいてよかったね、ということになる。ホントに外遊していたら、それこそ党内で政変が起きてしまいかねない。なにしろ10月までにはかならず総選挙が行われるはずなので、こんな風に党勢が衰えてくると衆議院議員は殺気立ってくる。菅さん、どうやって態勢を立て直すのか、悩ましいものがあるはず。

〇ところが今回のことで、広島選挙区で全力で戦って負けた岸田さんは、またまた次期首相を狙う上で汚点を作ってしまいました。つくづく巡り合わせの悪い方であります。広島と言えば保守王国、過去には池田勇人や宮澤喜一といった首相を輩出してますが、ご出身は竹原市と福山市で、広島市じゃないんですよね。広島市出身の総理大臣というと、戦前の加藤友三郎まで遡らないといけない。

〇おそらくわが国における人口100万人を超える都市で、広島よりも保守的な政治風土を持つところはないだろう。そこで総理大臣が出ない、というのは一種の奇観ではないだろうか。ま、今回の場合は、それどころではなかった、ということのようです。やっぱりこれは政局モードになるのかも。

〇今朝の日経の世論調査のリンクを貼っておきましょう。野党に風が吹いている感じはないですが、政権にとってはかなりの逆風となりそうです。


<4月26日>(月)

〇経済学には「限界効用逓減の法則」というものがありまして、いかなる美食も毎日続けていたら確実に飽きます。「美人は3日で飽きるが、ブスは3日で慣れる」とも言います。人間の心理には、そういう残酷なところがあります。

〇不肖の経験の範囲内でも、「明日の朝までにこの原稿を必ず提出しなければならない!」という切羽詰まったときにユンケル皇帝液を飲むと、最初の何回かはちゃんと効きます。それでも何度か続けると効果がなくなります。おそらくバイアグラなる薬品も、大同小異なのでありましょう。つまり最初の何回かはいいけど、続けていると効果は乏しくなります。

〇同じような理屈で、「お願いします!」を何度も繰り返すと、どんなに誠心誠意であっても、効果は確実に低減します。小池都知事や西村経済財政担当大臣や尾身会長が、国民に向かって何度も同じことをお願いしたところで、1年前からずっと同じことを言っているわけですから、皆が言うことを聞かなくなるのは当たり前でしょう。そもそも3回目になったら、「緊急事態」という言葉自体が嘘くさくなります。

〇いや、「大変だ」ということを疑っているわけじゃないですし、お立場にはつくづくご同情申し上げます。それでも申し訳ないですが、偉い人が「お願い」を繰り返すほど、言葉が薄っぺらに聞こえてまいります。強いて言えば、辞表を叩きつければ、その瞬間だけ効果が上がるかもしれません。もちろんそんなことはお勧めしません(しないでしょうけど)。

〇まことに罪深いなあ、と感じるのは、責任ある立場の人が「リモートワーク7割」みたいに、できっこないお願いをしていることです。「温室効果ガス46%減」と同じくらい罪深いと思います。出来るはずがない約束を皆がうんうん、そうだよね、やんなきゃいけないね、などと言っている時点で確実に社会のモラールは低下します。守れるはずがない約束は守らなくていい。だってそれは政治家のアリバイ工作にしか見えないから。

〇およそ政治家たるものの要件とは、かかる人間心理に精通していることではないかと思います。そういう人はあんまりおりませんなあ。進次郎君も、意外とわかっていないことがバレちゃいました。辛いね。


<4月27日>(火)

〇以前にもご紹介したブルームバーグ社の"Covid Resilience Ranking"の4月版が公開されました。前回の「日本が世界第8位」もビックリでしたが、今回はさすがに下がるだろう、と思っていたところ、なんとワンランクアップで世界第7位でした。

〇それでもさすがにワクチン効果が発揮され始めたようで、アメリカが4ランクアップの世界17位、イギリスが7ランクアップの18位となっています。イギリスの場合、感染者が減ったとか、ロックダウンが緩和されたとか伝えられていますけど、それでようやく今の日本並みになった、ということのようです。そういえばジョンソン首相は、ちゃんとパブと理髪店に行けたんでしょうか?

〇とりあえず現在のランキングは以下の通りです。さて、めでたいのやら、めでたくないのやら。


 1  1  Singapore
 2  1  New Zealand
 3  ―   Australia
 4  1  Israel
 5  1  Taiwan
 6  ―   South Korea
 7  1  Japan
 8  3  U.A.E.
 9  4  Finland
10  2  Hong Kong


<4月28日>(水)

〇在宅で仕事をしていると、ついつい本日が2日目の名人戦第2局が気になってしまう。さすがにアベマTVを見るわけにはいかんが、ときどき棋譜を見るくらいは良いだろう。ということで自分を甘やかし、渡辺明名人と斎藤慎太郎八段の対局の進行をチラチラと窺うのである。

〇第1局では渡辺名人が圧倒的なリードをしていて、そこから大逆転を食らっている。穴熊に囲って、「堅い、攻めてる、切れない」というパターンの将棋で、こんな風にリードしてしまうと後は間違えてくれないのが本来の渡辺将棋である。ところがこの日は、2日目の夜遅くに斎藤八段の粘りに根負けしてしまった。こりゃあ斎藤八段、強いぞ!と見ていて震えるものがあったのである。

〇これで2局目も落とすと一気に流れが出来そうなところだったが、今日は相掛かりで、ともに王様を囲わずに5八玉と6二玉で戦うという最新形であった。渡辺名人が先手だったこともあって、かなり準備をしてきたのでしょうな。序盤でリードを奪い、着実にその差を拡大して、途中からは一気に押し切ってしまいました。いきなり「7三馬」と切ったあたりは快感でしたな。流石は勝負師・渡辺で、七番勝負は2局目が鍵、というのは野球の日本シリーズと大差ありません。

〇プロ棋士よりもAIの方が強くなってしまったのは2015年頃のことである。たかだか5〜6年前のことに過ぎない。その後、将棋の姿はずいぶん変わってしまった。棋士は皆、対局の最中は五里霧中であっても、家に帰れば「絶対的な最善手」を教えてくれる先生がいることになった。従って対局の当日よりも、「事前の研究」が重きをなす時代となった。これは中高年世代の棋士には辛い話であろう。

〇たまたま今日のリモート会議で聞いた話なのだが、コロナ下になっても若者の生活満足度はさほど下がっていないのだそうだ。逆に50代以上の男女が、大いなる不満を抱えているらしい。さらにITリタラシーが高い人ほど、痛痒を感じていないのだという。それはいかにもありそうな話だが、デジタル社会の到来はつくづく既存の常識を換えてしまうのだ。オヤジ世代にとっては、まことにしんどい時代ではあるまいか。

〇日曜日のNHK杯将棋トーナメントでも、今月から始まった新シーズンでは、とうとうAIの評価値を表示してくれるようになった。そうなると棋士は哀れなもので、一手30秒以内の秒読みになると、数値がコロコロ変わってしまう。つまり「悪手が悪手を呼ぶ」状態となり、しょっちゅう逆転が生じてしまう。今までの視聴者は、「どっちが勝ってるんでしょうね」などと言いながらハラハラしながら見ていたのだが、有利不利が可視化されてしまい、もろバレになってしまったのだ。

〇さらに哀れを誘うのがNHK杯の解説者である。50対50だった評価値が、一手でいきなり70対30になることもあるわけだが、なぜそうなったのかを瞬時には説明できない。いやはや、大変な時代になったものですが、この将棋界の姿、明日のサラリーマン社会であるかもしれません。


<4月29日>(木)

〇本日でバイデン政権は政権発足から100日目。そして日本時間の本日午前10時から、議会合同演説が行われました。スピーチの全文はこちらをご参照。全部で1時間5分くらいでしたかね。短いセンテンスが多く、外部からお客を呼ぶわけでもなく、地味な演説でしたが、これがバイデン流。スタンディングオベーションも共和党サイドからはほとんどありませんでした。

〇いちばん印象に残ったのはこの部分です。これはトランプ支持者に語り掛けているんでしょうね。


Let me speak directly to you. 

Independent experts estimate the American Jobs Plan will add millions of jobs and trillions of dollars in economic growth for years to come. 

These are good-paying jobs that can’t be outsourced. 

Nearly 90% of the infrastructure jobs created in the American Jobs Plan do not require a college degree. 

75% do not require an associate’s degree. 

The American Jobs Plan is a blue-collar blueprint to build America. 

And, it recognizes something I’ve always said. 

Wall Street didn’t build this country. The middle class built this country. And unions build the middle class. 



〇American Jobs Planによるインフラ投資で作られる雇用はPAYが良い。しかも9割は大学の学位が要らないジョブだ――なんちゅう、あからさまなことを言うのか、とちょっと驚きましたな。「ブルーカラーが米国を再建する青写真」だという。確かに民主党は、この層を取り戻さなければ立ち行かない。とはいえ、それで組合への加入者が増えるか、というとちょっとわからない。

〇しかしそれだけではダメで、21世紀は国際競争の時代で、アメリカは追いつかれそうだ。12年間の義務教育では足りない、だからAmerican Families Planが必要だ、と続く。つまりモノのインフラ投資の次はヒトというインフラへの投資が必要なのだと。教育や医療、子育てや有給休暇も必要なのだ、と続く。

〇バイデンさんという人の面白い点は、この2つの法案が一本化されるとか、財源の増税がどうなるかとか、共和党の協力が得られるかどうかとか、一切を決め打ちしていないところだと思う。要は発想が「国対族」なので、議会の動きを注意深く窺いながら、「落としどころ」を探るのだろう。American Rescue Planのときも、最初は「最低賃金15ドル」にこだわっているように見えたけれども、途中であっさりとあきらめている。

〇2つの予算をどうするかはしばし時間がかかることだろう。その間にバイデン氏が勝負をかけるのは警察改革のようである。ジョージ・フロイド氏の命日(5月25日)までに、警察改革法案を上院で通すべきだと言った。共和党側としては対応に困りそうだ。向こう1カ月はこれが主戦場になりそうだ。

〇大向こうをうならせるようなことはしないし、聞いていて退屈な部分もあるが、計算はしっかり働いている。そして"Under promise, over deliver"(控えめに約束して、結果で驚かせる)のがバイデン流である。最初の100日、私は80点以上の出来だと思いました。


<4月30日>(金)

〇ゴールデンウィーク中であるが、特に予定があるわけではなく、とりあえず本日は出社して、ついでにラジオ日経「マーケットプレス」に出没する。明日はBSテレ東の「ニュースの疑問」に出演します。いやもう、遊べないのなら、仕事でもするしかないではありませんか。

〇昨日からは仕事場の本を整理する、というミッション・インポッシブルにも着手してしまった。本棚にスペースができるまで、さあ売るぞ、捨てるぞ、破棄するぞ。・・・と決意を固めて作業に入ったのだが、捨てるべき本を読み始めてしまったりするから罪深い。ありがちなパターンである。

〇幸いなことに土日は競馬がある。明日は青葉賞、明後日は春の天皇賞。とりあえず春天はオーソリティで勝負しよう。なにしろ3頭のオルフェーヴル産駒が全部大外の8枠に入っている。5頭のディープ産駒は適度に内枠にばらけている。なんだか意地悪をされているように見えてしまうのだが、こういうときは一族のへそ曲がりの血が騒ぐから、来てしまうのではないだろうか。単勝で。

〇昨晩はもちろんアレを見ましたぞ。NHKのBS1「さようなら全てのエヴァンゲリオン 庵野秀明の1214日」である。3月に放映された「プロフェッショナル仕事の流儀」とはえらく違っていたので驚きました。なんとなく幸福な気持ちになったので、そのまま2度目の『エヴァンゲリヲン新劇場版:破』を見てしまった。いやあ、先月まではエヴァのことをまったく知らなかったのでありますが。

〇こんな風に熱中できるものがあるから、きっと巣ごもりモードのゴールデンウィークも退屈しないはずである。きっとだよ。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki