●かんべえの不規則発言



2011年9月







<9月1日>(木)

○毎日新聞の座談会を収録。ご一緒したのは林芳正さん長島昭久さん。昔から知ってる同士なので、ついつい緊張感を失ってしまいそうになるのですが、両方とも今は偉い人なので、そこはちょっと遠慮が必要です。なにせ林さんは来年は自民党総裁戦に出ると言ってるし、長島さんは明日には大臣かもしれないし。とりあえず日米関係をテーマに、面白い議論ができたんじゃないかと思います。ちなみに紙面に掲載されるのは9月7日だそうです。

○そこでふと思ったのは、民主党は最初に鳩山さんが派手なアイデアリズム(理想主義ではなく空想主義)を試して、次に菅さんが極端なプラグマティズム(現実主義ではなくご都合主義)を試して、両方とも失敗した後に誕生したのが「どじょう路線」である、という点に値打ちがある。どじょう路線とは、財政保守主義と対米重視外交からなるらしく、言ってみればきわめて安全主義の政策なわけです。ところが今はそのことに対し、党の内外から反論が出にくくなっている。それは結構、良いことではないのかなと思うのです。

○さらにふと思い出したのは、その昔、岡崎研究所の若手一同が、岡崎所長に大相撲見物に連れていってもらった時のこと。相撲見物が終わった後で、岡崎大使いわく、「お相撲の後はね、どぜうを食べに行くのが決まりなんですよ」。それでタクシーで向かった先が、駒形どぜうでした。そこで料理をご馳走になって、そろそろお開きという頃になって、こんなことを言われたのであります。「どうだった?どぜうって、旨いもんじゃあ、ないんだよねえ」。自分で連れてって、自分で奢ってくれて、そりゃないよって話なんですけど、今にして思えば「どぜうは旨いもんじゃない」というのは至言であったかもしれませんな。

○派手な空想主義と、極端なご都合主義を体験した後になると、どじょうのヘルシーな味にありがたみがでてくるということではないのでしょうか。

○午後から羽田に向かい、北海道の登別温泉へ。日本貿易会貿易動向調査会の視察旅行があって、なぜかワシが委員長なものだから、結構なお湯加減を堪能してしまいました。いやはや、まじめに働いている人たちに申し訳ない。この旅行の計画段階では、視察先の企業から「震災後の登別温泉は閑古鳥が鳴いているから、ぜひとも使ってやってください」と言われて、しょうがねえなあ、とばかりに予定に入れたはずなのですが、今宵の温泉街には企業の団体客はいるし、外国人観光客も結構いるし、結構にぎわっているではありませんか。

○もちろんそれは結構なことであります。さて、明日は台風上陸と聞きますが、貿易会の一行は無事に帰れるのでありましょうか。


<9月2日>(金)

○4年前に死んだ母が、私に残してくれたものは数々あるのだけれど、変わったものとして日本製鋼所の株券(5631)がある。もともと株式投資が好きだった人なので、「なんでこんな株を買ったんだろう?」と不思議なものもあったりする(例:双日)のだが、日本製鋼所は優良企業で配当も高いので、これは納得感がある。ただし株価はずいぶん目減りしましたけどね。

○証券市場ではこの会社のことを「アーム」と呼び習わしている。日本精鉱とか日本精工とか、似たような名前が多いからなのだろうが、その語源が英国のアームストロング社であるということを、今回はじめて知りました。そもそもこの会社は、日露戦争のあとの1907年に、国産の兵器製造会社として北炭こと北海道炭鉱汽船株式会社と、英アームストロング・ウィットワース社、ヴィッカース社の3社の共同出資で成立した合弁企業である。つまり日英同盟のお陰で誕生した会社である。さらに言えば、幕末から明治初期に活躍したアームストロング砲の「アーム」でもある。

○本日はその「アーム」こと日本製鋼所室蘭工場の視察に伺ったのですが、室蘭市内でJSW(The Japan Steel Works Ltd.)の看板が見えてきた瞬間に、「あ、これは佐世保のSSKと一緒だな」という気がしました。最初に天然の良港があり、そこに軍事集積を作るという政府の判断があり、そこに工場が出来て、町が出来上がる。さらに室蘭は、新日鉄がありJXがあり函館どっくがあり、重工業の産業集積がかなり大きい。もっとも街並みが見事なシャッター通りになっていたりして、その分では米軍と自衛隊の基地のある佐世保の方が恵まれているかもしれない。

○日本製鋼所といえば、原子力発電所の圧力容器やガスタービンシャフトなど、「ここでしか作れない」ものをいっぱい持っている。従って輸出比率が7割。全世界から引き合いが絶えない。特に発電所をいっぱい建設中の中国からみれば、欲しくて仕方のない企業であろう。だから最近は中国がずいぶんアーム株を買っている。いいのかなあ、そんなことで。

○圧力容器を作る際には、なるべく継ぎ目を作ってはいけないので、厚板を丸めて円筒にする、みたいなことをやってはいけない。まずは電炉で巨大な鋼塊を作る。最高で650トンというから、大変な大きさである。これの中心に穴を開け、何度もプレスしながら穴を大きくしていき、最後は継ぎ目のない円筒形が出来あがる。元はと言えば、大砲の砲身を作る技術の発展系である。しみじみ鉄という素材は、人類にとってまことに重要なものであるらしい。

○工場の現場では、戦前のクレーンも現役で活躍している。「日本のモノづくり」の伝統には、軍事関連が少なからぬ貢献をしている。その辺は、どんどん忘れ去られていくことなのでありますが。


<9月3日>(土)

○2か月連続で北海道に行っているのに、一度もラーメンを食べていなかった。ということで、柏市内の札幌ラーメン「美春」へ行き、「特製味噌ラーメン」を指名。考えてみれば、このところラーメンどころではない暑さが続いておったからなあ。今日は台風が来ているせいで、降ったり晴れたり変な天気である。

○で、北海道話の続き。北海道にはどんなものでも「はじめて物語」がついている。つまり「誰が最初に来てこれを作ったか」が分かっている。後から来た人も、もちろん苦労はあるのだけれども、それ以前に来た人の苦労には及ぶべくもない。ゆえに最初に来た人は尊敬される。短い歴史でも、ちゃんと調べてある。

○登別温泉で言えば、滝本金蔵である。幕末に武蔵国本庄に生を受け、江戸に出て大工となる。見込まれて料理店の入り婿となるが、それに満足せず、幕府の役人と一緒に蝦夷地に渡る。長万部で開墾していたところ、妻が皮膚病にかかってしまう。これが登別での湯治で完治したことから、この温泉を発展させることに生涯をささげることになる。と言っても当時のことであるから、交通の便も悪ければ、宣伝方法も限られている。不況にもたびたび襲われる。小さな温泉旅館は、次の代になっていよいよ後継ぎに事欠くことになる。

○滝本金蔵の挑戦を引き継いだのは、越中砺波の産である南外吉であった。おそらくは貧乏人の子沢山の家に生まれ、北海道に渡って水運やら開墾やらいろんなことに手を出すが、不運が続いて何度も一文なしとなる。それでもガッツを見込まれて、周囲の助けを借り、高齢になってから旅館の経営に取り組むことに。そこから拡張に次ぐ拡張を続け、その成長は子孫の代になっても止まらず、今日の第一滝本館という途方もなく大きな温泉旅館を築き上げる。以上、第一滝本館の歴史から。

○滝本金蔵も南外吉も、いわゆるアントレプレナーのタイプである。世上よく言われる「日本人にはハングリー精神が乏しい」とか「開拓者精神がない」というのは大嘘で、ホントにそうだったら北海道は今でも原野のままであろう。今日の尺度からいくと、滝本金蔵も南外吉も、工夫や才覚があって成功を収めるというよりは、とにかく愚直なまでに粘り通すガッツの人である。特に後者は、北海道に渡った富山県人の典型的なパターンではないかと思う。富山の人って、こういうタイプ多いです。

○が、両者を比べるなら、やっぱり最初に来た人の方が偉い。だから店の名前は今でも「滝本」でなければならない。そして次から次へと、いろんな人が北海道を訪れて、彼ら先人の挑戦の後を継いでくれるので、開拓が進んできたという歴史がある。(昨今は北海道でも人口減少が始まっていて、新たな挑戦者を求める必要がありそうです)。

○北海道は今でもよそ者に優しくて、それは日本ハムファイターズから鳩山由紀夫にまで発揮されている。東京に居た頃のファイターズは、ずいぶんとしょぼいチームでありましたが、今では地元で熱狂的に愛される有力球団となっております。おそらくは「どんな人でも、来てくれるだけで嬉しい」という先祖伝来の感覚が残っているからなのでしょう。

○でも室蘭の有権者の皆さん、あの「バカ」が次も出るといったら、容赦なく落としてやってくださいまし。それが本人のため、そして日本国のためでもあります。


<9月4日>(日)

○柏駅前の高島屋の中にある「柏ステーションシアター」の様子がおかしい。「19年間ありがとうフェアを開催中で、リバイバル作品を500円で上映し、ポップコーンは無料で飲み物は50円だという。来週の予定まではあるけれども、その先がない。いかにも閉館間近といった雰囲気である。

○思えば『タイタニック』をここで見たときは、長蛇の列が出来ていたものだが、ってそりゃ何年前の話しだよ。ここ数年、柏周辺には巨大なシネコンが2つも出来たので、3つあった駅の近くの映画館は、次々と閉館に追い込まれているのだ。最後の砦が「柏ステーションシアター」なので、これはちょっと寂しい。歩いて行ける距離の映画館は、やっぱりあった方がいいんだけどな。

○この溜池通信「不規則発言」における初期の傑作(と、自分で言ってどうする)に、2001年2月12日付け「映画館の隣のカレー屋」という小ネタがあって、これは拙著『溜池通信 いかにもこれが経済』にも収録してある。この話は柏ステーションシアターがヒントになっている。映画館の向かい側にはホントにカレー屋さんがあって、一時はずいぶんと集客していたのだが、いつの間にかつぶれてしまった。とうとう映画館までなくなってしまうとは。

○ということで、500円のリバイバル映画を見に行く。『ゴジラ1954年版』にもずいぶん惹かれたのだが、結局、『オペラ座の怪人』を選択。とっても久々にアンドリュー・ロイド・ウェーバーの旋律を堪能する。やっぱり映画は、映画館で見なきゃいかんです。その一方で、流山おおたかの森にあるTOHOシネマズでは、ハリポタとかトランスフォーマーとか、ろくでもない作品しかかかっておらんとです。


<9月5日>(月)

○ウチの近所には「鮨処みこし」という店があって、若い頃のイチローみたいな顔をした板さんが1人でやっている。柏市内には、「福鮨」や「むねかた」などの強豪店が存在するが、お値段や店の雰囲気や混み具合を考えると、「みこし」の優秀性は捨てがたいものがある。ということで、上海馬券王先生が中山競馬場攻略に来訪されたときなど、帰りに共に繰り出すことがある。

○板さんが洒落心のある人なので、店内にこんな色紙を飾っていたりする。要するに相田みつをのパロディをやっているわけなのだが、少し前に店の前に飾っていた色紙には感心したな。

「お鮨屋さんは こわいところじゃないんだよ  よつを」

○「よつを」はもちろん「みつを」に引っ掛けている。このセンス、私は好きです。

○で、何が言いたいかというと、野田内閣の人気がとっても高いことである。その大きな原動力は「どじょう内閣」であったりするのだが、その出典が「相田みつを」であるというのはちょっと政治家として寂しいのではないか。相田みつをが悪いとは言わん。ただし、あの人生訓は「ちょっと底が浅いよなあ・・・」と思いつつ読み取るものであって、あれを大真面目に受け取って人生の指針にしている人は、あまりお近づきにはなりたくないと思う。野田佳彦氏本人がどちらかは知らんけど。

○民主党の若手には幕末好きが多い。「自民党政権は江戸幕府で、自分たちは明治維新をやろうとしている」みたいなことを言う人も居る。それは結構なことなのだが、彼らの知識が司馬遼太郎の著作からほとんど外に出ていないように見えるのは、いささか不安を感じるものである。30代まではそれもご愛嬌だけれども、40歳過ぎてそれをやっているとちょっと恥ずかしいのではないか。

○相田みつをも司馬遼太郎も、貴重な知的財産を残してくれたことにおいてはこの国の宝のようなものである。が、それらを得々と語るような政治家は、あんまりレベルは高くないと思う。その辺のことに野田氏が気づいてないとしたら、「どじょうバブル」の崩壊は遠くないのではないだろうか。


<9月6日>(火)

○いろんな大臣が一斉に「個人的な思い」を口にし始めて、早くも学級崩壊に近いんじゃないでしょうか。政治家の軽い言葉は罪が重いですよ。

●ニコニコしながら「煙草は1箱700円に」とのたまう厚生労働大臣

――たばこ税がどんな経緯で今日に至っているか、おそらくはご存じないのでしょう。下々のスタッフは「あ〜あ」というほかはない。

●「安全保障に関しては素人だが、これが本当のシビリアンコントロール」とのたまう防衛大臣

――国民の生命財産を守る要職に、自称素人が就いてしまう恐ろしさ。謙遜のつもりかもしれませんが、人民解放軍は「ラッキー」と思ってますよ。

●「東京メトロ株を売却して復興財源に」と言う財務大臣

――株式市場がこんな状態なのに、なんという迷惑なことを。それよりG7、頑張ってね。

●TPPの全国説明会が震災で中止されていることを「知らなかった」と答える経済産業大臣

――大臣レクが行き届かなかったのでしょうか。そもそも関心がない、というのは分かりますけれども。

●「汚染物の最終処分場は福島県外で」と語る原発担当大臣

――気持ちは分かりますが、どうしても「普天間の移転先は最低でも県外」という言葉と重なって聞こえます。

○事務次官会議が復活するそうですが、その方がいいと思います。こんな陣容で、政治主導と言われても国民が不安になるだけです。


<追記>

○今朝の毎日新聞に座談会が出ております。読んでみてくださいまし。なかなか盛りだくさんで面白いと思います。


特集:日米安保条約60年 3氏座談会 マンネリズムを超えて

日米安保条約の調印(1951年9月8日)によって、戦後日本が日米同盟を選択してから60年を迎える。東日本大震災の復旧支援で米軍が展開した「トモダチ作戦」は日米同盟の価値を再認識させたが、「鳩山−菅」と続いた民主党政権での外交・安保政策の混乱と停滞は深い傷痕を残した。野田新政権のもと、日米関係をどう再構築すべきか。自民党の林芳正政調会長代理、民主党の長島昭久首相補佐官、双日総合研究所の吉崎達彦副所長が語り合った。【司会は政治部長・古賀攻、写真は梅田麻衣子】


<9月7日>(水)

○ということで、毎日新聞の座談会でこんなことを語ったのであります。

 吉崎氏 一種の偉大なるマンネリズムが日米同盟にはある。マンネリズムとは何かと言うと、「うまくて、安いけど、行列に並ばないといけない店」ではないか。日本にとって一番よかったのは、国の独立性はちょっと目をつぶることにして、安全性が高くて経済的にも優れている、これが日米同盟だったと思う。非常にいいやり方だったが、60年続くと、一体自分は何のためにこの店に通っているのか分からなくなってくる。行列に並ぶのも何とも思わなくなっている。この場合、行列とは、例えば沖縄だ。しわ寄せが必ずどこかにできてしまう。この店の価値は何か、再定義をしていかないといけない。

○安全保障のトリレンマを説明する分かりやすい喩えじゃないかと思ったんですが、毎日新聞の方いわく、「今では『行列が出来る店=いい店』ということになっているので、若い人たちの間では『行列は楽しいこと』になっているかもしれません」。うーむ、それでは困ってしまう。「旨い、安い、早いの三拍子」(©吉野家)なんてのは、もう流行らないんでしょうかねえ。


<9月8日>(木)

○似たような話が続いて恐縮ですが、明日発売の中央公論10月号で「世界金融危機を読む」というテーマで寄稿しました。史上初の米国債格下げに際し、日本が被る3つのインパクトとは何か、といった話。この夏、遊びほうけていたように見えても、少しは仕事もしていたのであります。ちなみに今日は日米安保条約締結60周年の日ですが、中央公論10月号の「日米同盟60年」の特集は勉強になりました。

○ついでにもうひとつ宣伝。9月11日(日)の朝日ニュースター、夜7時から11時まで4時間ぶっ通しで放送される、「宮崎哲弥大論争SP〜震災を超克せよ!」に出演します。先日の朝生に出ていた大塚耕平さんと岸博幸さん、毎日新聞とレンチャンの林芳正さん、などお馴染みさんの多い顔ぶれです。あの震災から半年、復興と原発などについて語ります。

○今週末は「9/11から10周年」もあるので、いろんな企画がありますね。考えさせられることが多いです。


<9月10日>(土)

○先日あったしょうもない話。3人でテーブルを囲んで四方山話をしていたら、聞き覚えのある呼び出し音が鳴ったから、あわてて携帯を取り出したところ、他の二人も同じ動作をしている。なんと3人全員が同じ機種、同じ色の携帯を持ってました。これだけ多くの機種が世に出ている中で、3人全員が一緒だなんて、いやーめずらしい。

「これ、余計な機能がついてないのがいいんですよね」

「画面の字が大きくて、老眼には助かる」

「色もこれしかないでしょ、という感じですよね」

○オヤジ3人、ついつい自己弁護をしてしまうのだが、3人が持っていたのはLG社製のケータイ。ホントは日本製品買おうとしたんだけど、使いこなせそうなものが見当たらなかったのである。スマホはしょうがないとして、こういうの何とかなりませんかね。


<9月11日>(日)

○今日は「あれから半年」で、「あれから10年」の日。でも、どちらとも無縁な、くだらない話を書きます。

○ワシが入社した頃の上司のFさんが教えてくれた貴重な法則に、「仕事は忙しい人に頼め」がある。忙しい人は時間がないから、こちらが頼んだ用件を片手間にやってくれることになる。それでも、暇な人が時間をかけてやったときよりも、仕事のクオリティは高い。暇な人というのは、理由があるから暇なのであって、そんな人には仕事をさせちゃいけないのである。

○で、今回は鉢呂さんという「暇な人」に、経済産業大臣という重職をお願いしたのが間違いである。暇な人は、仕事が来た瞬間に舞い上がってしまい、余計なことをしゃべったり、「俺にもとうとうバンキシャがついた」てなことが嬉しくてしょうがなかったりする。で、得てして今回のようなことになる。仮に今回、官房長官職を断った岡田さんあたりに経産大臣を頼んでいた場合、さすがにこんなことはなかっただろう。

○番記者さんたちの心理も大よそ見当がつく。番記者というものは、自分が担当している省庁に思い入れを持っている。そこに軽量級の大臣が来ると、省内の幹部と一緒に「あ〜あ」とガッカリしてしまうのである。「そんな人に、ウチの仕事が務まるはずないじゃないの」などとひとしきり嘆く。もちろん、最初から悪く書くわけには行かない。どんな世界でも共通だけど、最初はやっぱり「お手並み拝見」である。

○で、記者会見をやってみると、案の定、暴投気味の発言が飛び出す。記者の間では、「お宅どうする?これ書く?」「んー、まあ、まだちょっと早いんじゃないの?」みたいな囁きが交わされて、記者クラブのベテランも、「まあまあ、こはしばらく様子を見ましょう」と水戸のご老公みたいなことを言ったりする。が、そういう気遣いにはまったく気づかず、新大臣は傍若無人な言動を繰り返す。で、記者さんたちの臨界点が来る。

「助さん、格さん、書いておしまいなさい!」

○過去の失言、暴言のほとんどが、こんな経路をたどっていると思う。麻生さんの「漢字が読めない」だって、記者さんたちは首相就任後3か月間は我慢してたんですもの。まあ、中川財務大臣の酩酊会見みたいな「一発アウト」もありますけどね。多くの場合は、そこに至るまでの葛藤があるわけでありまして。

○今回の場合、ワシは鉢呂さんが悪いとは思わない。そんな人を重職に就けた首相が悪い。すべての人災は、「人事の災害」によってもたらされる。暇な人に仕事を頼んじゃいけないのである。それはちょうど、格安の料金を看板に掲げながら、客がまったく入っていないメシ屋に飛び込みで入るのと同じくらい、無謀で無責任な行為である。

○もっと言えば、首相にそんな人事をさせちゃいかんのである。こんな国難のときに、「党内融和」の方を優先しなければならない、なんて民主党の党内事情を恥じるべきである。初めて大臣になった安住クンが、初めて出たG7で円高対策を説得できないなんて、そんなの当たり前じゃありませんか。


<9月12日>(月)

○明日は野田首相の所信表明演説が行なわれるとのこと。首相としては初の国会演説ですので、これはいわば作家にとっての処女作のようなもの。どんな内容になるか、注目したいところです。

○この機会に、過去の「首相演説の処女作」をまとめておきました。


菅首相の所信表明演説 平成22年6月21日 1万1162字

鳩山首相の所信表明演説 平成21年10月26日  1万3436字

麻生首相の所信表明演説 平成20年9月29日  6324字

福田首相の所信表明演説 平成19年10月1日  6696字

安倍首相の所信表明演説 平成18年9月29日  8570字

小泉首相の所信表明演説 平成13年5月7日  6754字

森首相の所信表明演説  平成12年4月7日  5104字


○国会演説というと、通常国会の開幕に行なわれる「施政方針演説」の方が扱いは大きくなりますが、新政権が始まるのは春や秋が多いので、臨時国会における「所信表明演説」が初舞台になることが多いようです。といっても、上記の演説の中で、普通の人が記憶にとどめているのは、もう10年以上前の「米百票」(小泉さん)くらいでありましょう。個人的には、麻生さんの「かしこくも、御名御璽をいただき」というフレーズも好きなんですけどねえ。

○とりあえず、当溜池通信から野田首相に送りたいアドバイスは、「とにかく短くしろ」ということです。民主党政権になってから、自民党時代に比べて演説の長さがほぼ倍になっている。なおかつ、何を言ったかまるで印象には残っていないので、それはあんまり誉められたものではありません。言葉ことは政治家の武器というもの。野田さんにおかれては、是非とも記憶に残るセリフを残していただきたいと思います。

○ただし「どじょう」は禁止。できれば相田みつをも禁止。同じ手を使うようでは鼎の軽重を問われます。それにだいたい、「柳の下にドジョウはいない」って言うじゃありませんか。

<追記>上記内容を「くにまるジャパン」で語りましたので、下記ご参考まで。

http://www.youtube.com/watch?v=vSH2AS4ZPVc 


<9月13日>(火)

○今朝の文化放送「くにまるジャパン」で所信表明演説について触れて、「野田さんは今日の演説を、@1万字以内に、Aどじょう禁止にすべし」と述べました。そしたら今日の野田演説は、「@9,980字で、A正心誠意の四文字」でした。うーむ、ぎりぎりセーフと言うべきか。

○ここでいう「正心誠意」は勝海舟の言葉なんだそうですが、「セーシンセーイ」と耳で聞いたら「誠心誠意」との区別が分かりませんよね。ということは、こういうときの決めの文句としては失格です。ついでもっていうと、こんなギャグを誘発する恐れがありますので、あんまりお勧めではなかったんじゃないかと思います。

「それって、財務次官のご推奨ですか?」

○もうひとつ、こういうときのチェックポイントとして、日米関係に関する部分を抜書きしておきましょう。

 日米同盟は、我が国の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための公共財であることに変わりはありません。
 半世紀を越える長きにわたり深められてきた日米同盟関係は、大震災での「トモダチ作戦」を始め、改めてその意義を確認することができました。首脳同士の信頼関係を早期に構築するとともに、安全保障、経済、文化、人材交流を中心に、様々なレベルでの協力を強化し、二十一世紀にふさわしい同盟関係に深化・発展させていきます
 普天間飛行場の移設問題については、日米合意を踏まえつつ、普天間飛行場の固定化を回避し沖縄の負担軽減を図るべく、沖縄の皆様に誠実に説明し理解を求めながら、全力で取り組みます。また、沖縄の振興についても、積極的に取り組みます。

○訪米を控えているせいもあってか、かなり長いです。でも、一番の注目ポイントは、同盟の「強化」ではなく、「深化」という言葉を使っていること。すなわち野田さんは、安倍・麻生タイプではなく、福田・鳩山・菅タイプに属するということです。なるほど。


<9月14日>(水)

○本日は、岐阜新聞&岐阜放送主催の講演会のために大垣市へ行って来ました。

○新幹線の名古屋駅で降りて、こだまに乗り換えて12分間たつと、そこは岐阜羽島駅である。ビジネスホテルがある以外、ほとんど何もない駅である。おそらくこの駅の最大の名物は、すぐ近くに立っている大野伴睦夫妻の銅像であろう。かつてナベツネ氏の盟友と言われた党人派の巨頭、伴睦氏は、「ひとつくらいいいじゃないか」と言って、自分の選挙区に新幹線の駅を作らせたとされる。これぞ「我田引鉄」の典型ではありませんか。

○もっともこの手のエピソードにはありがちなことに、真相はそれとは違うらしい。当時の国鉄には、岐阜市や大垣市には新幹線の駅を作りたくないという事情があり、何もない岐阜羽島が理想の立地であった。そこで伴睦氏が意を挺し、地元の説得役を引き受けたのだという。言われてみれば、本気で「我田引鉄」をする気であれば、駅周辺の土地を買い上げて再開発し、一儲けをもくろんだことだろう。その辺が、「本家本元」たる田中角栄氏との違いでありまして、今では覚えている人は少ないでしょうけれども、上越新幹線が通る前の越後湯沢なんて、ホントに何もないところだったんですから!

○たぶん地元以外ではあまり知られていない伴睦氏の功績として、「河の堤防に国道を作る」手法を編み出した元祖ということがあるのだそうだ。全国の河川は国有地であり、建設省(当時)の管轄下であるから、道路を作る際の用地買収が不要である上に、リスクはそれほど高くないというメリットがあった。大きな河が集結しているこの地域ならではの知恵であったといえるだろう。

○あらためてよくよく見わたしてみると、中京地区で新幹線が渡河する「木曽川」「長良川」「揖斐川」の3本は、いずれも大きな河川なのである。これらの大河は、古来、下流地域に大いなる実りをもたらしたであろうが、よくよく氾濫、洪水の類もあったことだろう。そうだとすると、母なるナイル川と同じ理屈で、この地域には強力で有能な政権が必要であったことになる。戦国時代に斎藤道三、織田信長がこの地に出現したのは、そういう必然もあったのだろうなあ、などと不意に思いつく。

○「美濃の蝮」と呼ばれた斎藤道三については、司馬遼太郎の『国盗り物語』で描かれたキャラがあまりにも際立っているので、これがそのまま史実であったかのように思われがちである。しかるに最近の研究においては、「美濃の国盗りは、斎藤親子二代にわたる事業」であった説が有力となっている。1960年代に始まった『岐阜県史』編纂の過程で、その辺の事情が浮かび上がってきたとのこと。「一介の油売りから、一国一城の主に」というストーリーラインは、戦国時代愛好家には鮮烈な印象を与えるけれども、美濃にはもともと強力な政権基盤があったのだ、と考えるとその方が自然ではないかと思う。

○もっとも、「国盗りの遺伝子は、道三から信長、光秀に引き継がれた」という司馬遼太郎の解釈は、戦国時代を読み解く補助線としてあまりにも魅力的である。なにしろ「岐阜」という地名自体が、信長が天下取りを志してつけたものである。今でも岐阜城に登れば、信長と同じ視点で濃尾平野を見渡すことができ、「天下布武」の思いを抱くことが出来るはずである。・・・・などと言いつつ、ワシはまだ金華山に登ったことがないのである。また岐阜に来なければ・・・・。


<9月15日>(木)

○商社業界の調査担当者の年1回の集まりで、九州に来ております。例年は工場見学が多いのですけれども、これからの日本経済にとっては観光産業も重要ではないかということで、今年は九州新幹線の経済効果がテーマとなっております。ということで、二日かけて福岡〜熊本〜鹿児島を駆け抜ける予定。

○まずは朝一で福岡空港へ。そこから地下鉄で移動し、JR九州さんのご案内で新装相成ったJR博多シティビルを見学させてもらう。たかが駅ビルとあなどるなかれ。細かな配慮がたくさん隠れていて、人が集まってくるようになっている。特に屋上にある「つばめの杜広場」に感心しましたな。高さ11階建ては普通で考えたら高くはないけれども、高いビルがない福岡市(空港が近いから、高さ制限がある)では、この11階が武器になる。

○考えてみれば福岡は、意図せざるコンパクトシティであって、博多と天神の2キロ間(この中間地点に中洲がある)で大概の用が済んでしまうところに魅力がある。郊外型に拡散してしまったほかの街が、どうやって集積メリットを取り戻そうかとしている中にあって、福岡は街の初期設定が優れているのである。ただし、博多駅がこれだけ増床してしまうと、もともとの商業集積地であるところの天神は客を奪われているはずで、果たして共存共栄となるかどうか。

○そこから九州新幹線に乗って熊本へ。「さくら」に乗ると、39分であっけなく熊本駅に到着してしまう。ただしこの間に久留米などたくさんの駅があって、少々作り過ぎではないかとの声もある。もともと西鉄や高速バスなど、競合相手の多い地域でもある。ただし、「北九州―福岡―熊本」という地域大都市(熊本は来年、政令指定都市になる)が、これだけの時間で連結することになると、どんな経済効果をもたらすのか。実は観光産業よりも、そちらの方が意味が大きいのかもしれない。

○熊本では、九州新幹線への期待がことのほか高い。大阪から3時間を切ったので、関西方面からの集客が期待できるという期待もある。ただし意外なことに、関西からのお客がもっとも集中しているのは鹿児島なのだそうだ。人の動きというのは読めないもので、「鹿児島中央駅は関西弁でいっぱい」とのこと。それは明日にとっておいて、一行で熊本城を見学し、繁華街を歩き、日本銀行熊本支店で説明を聞く。

○夜は通信社Hさんの肝いりで、地元経済人と意見交換会。興味深い話と焼酎を浴びるほど頂戴する。場所は平山温泉。熊本には黒川温泉など、たくさんの温泉があるけれども、ここは田園風景の中にある適度に鄙びた温泉。どれくらいかというと、E-mobileの電波も届いていないほど。察するに、団体客がバスで乗り込むよりは、人目を忍ぶカップルがこっそりやってくるような温泉。できればこのまま、渡辺淳一の小説に出てくるような世界をそっと残しておく方がよいのかもしれない。


<9月16日>(金)

○九州2日目の朝は新玉名駅から始まる。熊本駅のひとつ手前まで戻ることになるが、昨晩泊まった平山温泉からはこちらの方が近いし、そうすれば一駅だけだけど「つばめ」に乗れるのである。その上で熊本駅から「みずほ」に乗り換えて鹿児島中央駅を目指すと、昨日乗った「さくら」と併せて、九州新幹線の3種制覇ができるのである。ああ、なんて鉄オタな企画であろうか。

○新玉名駅は、田園風景の中に忽然と誕生した駅である。思わず政治家の銅像を探したくなるところだが、駅の中には地元住民が総出で、「わが町の名物」を作ろうと試行錯誤した後があって興味が尽きない。新幹線効果にもいろいろあるが、「この機会にまちづくりをしよう」という市民運動も大きな成果であろう。土産物売り場では、ご当地ゆるキャラの「くまモングッズ」が幅を利かせておりました。スザンヌが有する熊本県宣伝部長の座を着々と奪いつつあるらしい。なにしろ「くまモン」は、女優さんと違ってスキャンダルフリーでありますから。

○ここで九州新幹線の内部について若干のご説明。@旅客数が少ないので8両もしくは6両編成。Aその分、内装は豪華。特に木目調が美しい。普通車両が他の新幹線のグリーン車に相当する感じ。B車内アナウンスが4ヶ国語。日本語→英語→韓国語→中国語の順となっている。韓国語は「熊本」や「鹿児島中央」をそのまま発音するので分かりやすいが、中国語は地名を中国語読みするのでほとんどわからない。

○で、この「みずほ」と「さくら」(東海道新幹線でいえば「のぞみ」と「ひかり」)は満席状態なのだが、「つばめ」(同「こだま」)がガラガラじゃないか、という指摘があって、われわれが経験したところ、まさにその通りなのであった。距離も近いことだし、値段も高いし、わざわざ新幹線に乗る理由がないよ、ということであるらしい。開業半年後で値下げが検討されているとのこと。

○もっとも観光業というものは、つくづく人の動きが読めないものらしい。例えばこんなCMで、一気に人の流れができてしまったりする。九州新幹線がもたらした客足の少なからぬ部分が、九州最南端の「指宿」に向かっているのである。

○で、鹿児島中央駅で「いぶたま」号こと「指宿のたまて箱号」に乗り換える。なんと1か月前に予約を入れようとしたところ、「売り切れ」と言われてしまい、キャンセル待ちでやっと全員分のチケットを確保したという人気路線なのである。浦島太郎の玉手箱を模していて、ドアが開くときにはミストが吹き出るという芸の細かさ。なおかつ、車内は錦江湾を見渡せるサイドビュー座席はあるし、書棚やカウンターなどのデッドスペースはあるし、キャビンアテンダントが写真を撮ってくれたり、「こんな電車があっていいのか」と唖然とさせられるような作りなのである。

○なおかつ空恐ろしい事実は、1日わずか3往復のこの路線があまりに人気を呼んでいるのに、増便を求める地元の要求に対してJR九州の答えは「ノー」なのである。その理由は、「こういうものは、飢餓感を持たせなければならないから」。ソフトバンクホークスのホームゲームでは、対ライオンズ戦は常に当日チケットは売り切れでなければならないのと同じ理屈である。そうなのだ。本数を増やした瞬間に、人気という魔力は消えてしまうのだ。

○思うにJR九州とは偉大なる中小企業なのである。そもそも、彼らがこんな変な電車を作っているのは、そうでないと客を呼び込めないからなのだ。九州は必ずしも広くはない。そこに飛行機があり、バスがあり、高速道路がある。鉄道が生き延びる道は、みずからが「鉄オタ」になり切ることであった。「ゆふいんの森」「海幸山幸」「あそBOY」など、名前からして尋常ではない路線が山ほど揃っている。しかもほとんどが唐池社長みずからのアイデア&命名であるとのこと。なんという水商売。でも、これでJR九州は上場できるかもしれない。

○その辺のことを考え合わせると、九州にとって新幹線の開業は、まことに乾坤一擲の大勝負なのであった。この辺のCMを見ると、当地の盛り上がり振りがよく分かります(すでに有名かもしれませんけど)。

●九州縦断ウェーブ30秒編

●九州縦断ウェーブ180秒編

●九州の歴史編

○ところが、まことに気の毒なことに3月12日が開業であった。イベントの類は、すべて前夜に中止が決まった。当日の朝、始発列車が出たときに、某県知事が小さく「万歳」をしたら、それが批判の対象になったとか。そもそも九州は、口蹄疫あり、新燃岳の噴火ありと、このところずっとツイていなかった。九州新幹線も「自粛ムード」に水を差されてしまった。

○それでも5月の大型連休頃から客足が増え始めた。ひとつには震災の効果で、客足が全体的に西に向いていることもあるのだろう。で、指宿で訪れた「白水館」の話はまた明日にでも。


<9月17日>(土)

「郷土料理って、そんなに旨いものじゃないと思うんですよね」

○と、白水館の下竹原社長が言うから、あたしゃ仰け反ってしまいました。白水館は「薩摩伝承館」というミュージアムを持っていて(←すごい中身です)、ここにフェニーチェというレストランを併設している。東京・広尾のアクアパッツアを招いて作っているので、こう言っては失礼だが「鄙には稀な」イタリアンである。で、指宿を訪れた一同で、ランチのコースをいただきつつ話を聞いていたら、冒頭の発言に至ったというわけ。

○正直なところ、その通りだと思う。日本中の温泉は、どこへ行っても同じような和食が出てくる。そして客は、「やっぱり地元の食材を食べなきゃねえ」などと適当に誉めつつ、内心では「どうせ2度は来ないからなあ」と思って食べている。が、それでは長期滞在客もリピーターも誕生しないことになる。これって全国の温泉宿が共通に抱えている構造ではないかと思う。

○政府が観光立国だとか、ビジット・ジャパン・キャンペーンだとか言って旗を振っている一方で、大半の温泉旅館がやっているのは、昔ながらのKDD経営(勘と度胸とどんぶり勘定)であろう。こんなことで、新しい客層が拓けるはずがない。ほっとけば少子・高齢化で客の頭数は減るし、長期的には人件費も上がっていくだろう。分かっちゃいるけど変えられない、というのが大勢ではないだろうか。

○幸いなことに、指宿は今は新幹線効果で客足が増えている。でも、人口は減っているし、駅前はシャッター通りだし、バブル時代の負の遺産はあるし、典型的な地方都市の問題を抱えている。「砂蒸し温泉」という売りはあるけれども、それだけでは九州南端まで客は来てくれないだろう。観光でまちおこし、ってのは簡単なことではないのである。

○下竹原さんは三菱商事のOBで、われわれから見れば「先輩」である。会社を辞めてから、家業の温泉経営に乗り出した。「北米での事業投資の経験が役立ってます」というのを聞くと、ちょっとうれしくなる。「錦江湾でヨットを流行らせたい」なんてことも考えているらしい。自分なりの仮説を持っている経営者、というのは話を聞いていて面白いですね。

○鹿児島空港への帰り道、バスの中から桜島が噴火するのを目撃。全然めずらしいことではないらしくて、運転手さんが「このところ毎日だなあ。住民はたまらんですよ」と嘆いていました。わずか一泊二日の九州縦断の旅でしたが、非常に勉強になりました。


<9月19日>(月)

新潮45の10月号にこんな文章を寄稿しました。「円高、強い円、大いに結構」。大真面目に書いたつもりですが、全体の特集テーマは「大いなる少数意見」。ちなみに拙稿の1本前に出ている文章は「自由貿易より保護主義貿易を」ですって。うーむ。そうかと思えば、澤昭裕さんの「原子力技術は維持し続けよ」も同じ扱いを受けている。さてもさても、難しい世の中である。

○貿易の円建て取引が増えているのに、以前よりも円高への恐怖が強まっているように見えるのはなぜだろう、と以前から不思議に感じておりましたが、先日、社内を見渡していてハタと気がつきました。ご存知の通り、商社の内部は商品別の縦割り組織になっています。円高になると輸出関連のセクション(金属、機械など)が悲鳴をあげ、輸入関連のセクション(エネルギー、食料、物資など)がニコニコする、という構造になっておりました。逆の場合もあるわけで、商社はいくつもの種類の商品を同時に取引することで、為替変動のリスクヘッジを行なっていたわけです。

○ところが商社も最近では様変わりいたしまして、貿易商社から投資会社へと変身しつつあります。商社単体の取引は相対的に小さくなっていて、海外の連結子会社からの配当が大きく寄与するようになっている。ということは、円高で海外送金が目減りすると、会社の決算を直撃するようになってしまった。逆に円安となれば、海外送金がドンと増えることになり、結構毛だらけである。商社もまた「円高困る」体質に近づいているのである。

○実は商社の変容は、日本経済全体の変化を体現しているのかもしれません。国内商売は少子高齢化で伸びなくなっているので、勢い海外に出て行くしかない。今の日本の大企業は、どこもかしこも海外売上比率が上昇している。その結果として、昔よりも「円高が怖い」ことになってしまった。仮に、これから来年3月末のどこかのタイミングで、1ドル=100円くらいに戻る瞬間があるとすれば、各社は「ラッキー!今すぐ送金させろ!」と指令を発するでしょう。そうすると、たちどころに円買いドル売りが発生しますから、またまた円高に戻ってしまう。これは悩ましい問題です。

○日本企業の海外子会社からの配当は、所得収支の一部としてカウントされます。2005年以降、日本では所得黒字が恒常的に貿易黒字を上回るようになっている。所得収支の黒字は、それだけで軽く10兆円を越えてしまうので、黙っていてもGDP比2%以上の資本流入が確保されることになる。この分のマネーが、ちゃんと海外への消費や投資に向かっていれば問題はないのですが、デフレだ、震災だ、リスク回避だ、てなことを言って萎縮してしまうと、まさしく自己実現的に円高が加速するようになっている。

○これでは「円高、大いに結構」というのも憚られることになる。ホントだったら、ここは日本企業はもちろん、家計部門のミセスワタナベも総動員で、海外資産を買いまくる好機だと思うのですが、問題は米国経済の不調に欧州の債務危機。そこをどう見るか。さあ、なやましい。

○ということで、9月22日(木)夜にこんなセミナーをやります。お席にはまだ余裕があるようですので、よろしければお申し込みをどうぞ。

●マネースクウェアジャパン 吉崎達彦&吉田恒

米国は日本の二の舞でドル安は止まらない??

http://www.m2j.co.jp/seminar/seminardetail.php?semi_seq=1456 


<9月20日>(火)

○台風が来ております。

http://weathernews.jp/typhoon/ 

○不肖かんべえ、明日は京都で講演会なんですが、果たして無事にたどり着けるでしょうか。新幹線はちゃんと動いてくれるのか。はたまた、ちゃんと家に戻りつけるでしょうか。

○どうも京都で一泊、ということになりそうな予感。考えてみたら、今月は北海道(登別温泉)でも九州(平山温泉、指宿温泉)でも一泊している。さらに言えば、先週末は富山で法事もあったのである。さて、今から間に合う京都の温泉って、ありますかね?


<9月21日>(水)

○普通であれば東京駅14時50分発の新幹線で講演会会場に間に合うところ、大事をとって12時30分発の「のぞみ」に乗ってみた。でも、憎き台風15号は1時半ごろに浜松あたりに上陸。東海道新幹線は完全に前をふさがれてしまい、車両は哀れ熱海駅で停車。そのまま4時間余りが経過。

○しょうがないから、PCを起動してぼちぼち仕事をしていたが、ついには車内停電も起きてしまう。こうなると新幹線は、PCはもちろんトイレも使えない。なおかつ、「静岡から浜松にかけて停電」、「富士川は増水中」などの恐ろしいニュースが。こりゃもう、新幹線は明日になっても動かぬかもしれぬ。

○ということで、京都の皆様に深く深く頭を垂れつつ、「こりゃもうダメです」の連絡を入れる。関西はもうすっかり晴れているそうなのだけど、こちらは嵐のまっただ中である。こうなると降りる駅があるのが勿怪の幸い。熱海駅で下車。在来線も全部止まっているので、今宵はここで泊まるよりほかにない。「1泊2食、1万2000円」の宿に投宿。旅館までタクシーに乗ったところ、運転手さんが「さっき、小田原まで行きましたけど、3時間もかかって、木も倒れていて、恐ろしかったです」とのこと。くわばらくわばら。

○旅館のテレビでニュースを見ていると、都内でも大量の帰宅難民が発生している様子。考えてみたら、自分はなんと恵まれた状態であろうか。しかもこの旅館、屋上に大浴場がついていた。当たり前だ。熱海なんだもの。ということで、今月は登別温泉、平山温泉、指宿温泉に続く4つ目の温泉である。さすがに露天風呂は使用禁止でしたが。

○昨日、「今から間に合う京都の温泉」などとバカなことを書いたところ、わざわざご推薦を寄せてくれた親切な読者もいたのですけれども、不肖かんべえは熱海にて沈没しております。


<9月22日>(木)

○考えてみたら、今週は2つの三連休に挟まれて、実働日が3日しかない。こんなので、よくまあ今週の溜池通信がすんなり書けたなと思ったら、実は昨日、新幹線で4時間閉じ込められていた間に、仕事が捗ったのだということに気がつく。

○さらに言えば、のぞみ35号がたまたま熱海に止まってくれたお陰で、宿が簡単に見つかったというのは、ラッキーだったとしか言いようがない。これが掛川駅だったら果たしてどうだったか。まして、駅と駅の間で止まっていた日には・・・。人生、何が幸いするか分からない。昨晩、帰宅難民になった首都圏の多くのサラリーマンを思えば、ワシはなんと恵まれていたものか。

○今朝は熱海の海に浮かぶ朝日を浴びながら、旅館の屋上にある露天風呂に入り、バイキングの朝食を済ませてからチェックアウト。ちょっと寄り道して、「貫一とお宮の像」を見てから熱海駅へ。みどりの窓口に出頭し、昨日の切符を見せて、「これ精算して頂戴」と言ったら、担当の女性が「すいません、もう現金がないんです」。・・・・そりゃあそうだ。普段は「のぞみ」や「ひかり」が止まらないこの小さな駅に、膨大な人が降りて「切符の精算」をしちゃったんだもの。

○考えれば考えるほど、不思議な体験でありました。三連休の谷間の3日間、その真ん中の日が台風直撃を受けたから、今日の首都圏は大変な交通渋滞。シルバーウィークは大変なことになったのでした。


<9月24日>(土)

○3連休である。そろそろ2012年米大統領選挙を見ておきましょう。

○共和党内では、あれだけ大勢居た候補者がかなり淘汰され、ミット・ロムニー対リック・ペリーという二強対決に収斂しつつある。マサチューセッツ州前知事とテキサス州現知事であるから、南北の有力州知事同士の対決である。前ミネソタ州知事のティム・ポーレンティは早々とロムニー支持に回り、元ユタ州知事のジョン・ハンツマンは2016年狙いのようである。さらに、前アラスカ州知事のペイリン女史がどんな風にからんでくるか、てな楽しみも残っている。前回2008年は上院議員の戦いであったが、今回は知事さんたちの戦いになるらしい。

○そこでどんな論争が注目されているかというと、社会保障はネズミ講(Ponzi scheme)」発言、である。Ponziというのは、昔のイタリア人の詐欺師のことで、バーナード・マードフの詐欺事件の際に良くお見かけした、ちょっと懐かしい言葉である。で、典型的な南部男で、ティーパーティーの受けが良くて、放言癖のあるペリー候補がこれを言っちゃったのである。さすがにフロリダ州のように高齢者の多い場所では禁句となっていて、軌道修正を余儀なくされているらしい(参考資料はここ)。

○しかしあらためて考えてみると、これはコワい言葉である。人口構成がピラミッド型(多産多死)になっている限り、年金制度は持続可能である。釣鐘型(少産多死)になっても、経済成長が続いていればなんとか回せるだろう。しかしネギボウズ型(少産少子)になったら、これはもう持続不可能であろう。あるいは支給額を極限まで減らさなければならなくなる。つまり参加者が増え続けている間はいいが、減り始めたら崩壊してしまうという点において、「年金はネズミ講」というのは、いわば「言っちゃいけない正論」なのである。

○アメリカは今でも人口が増えている社会であるが、ベビーブーマーの先頭は今年から65歳に到達する。あのビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュたちが年金受給者になるのである。なおかつ、経済成長は停滞している。失業率が上がっているから、Social Security Taxも減収となっているはず。"Ponzi Scheme"という言葉を聞いて、ギクッとする感覚が全米にあるのかもしれない。

○実際問題として、年金の胴元たる政府は詐欺師と違って逃げ隠れが出来ない。そこで赤字を垂れ流したり、支給条件を切り下げたりするわけである。わが国の場合は、2004年の年金改革で「マクロ経済スライド制」を導入した。当時、「百年安心」ということを謳っていたけれども、あれは「年金制度が百年安心になった」ということであって、「受給者が百年安心になった」わけではないのである。これを言うと、ときどき「知らなかった」と言って怒り出す人がいるのだけれども、そういう人は悪いけど「どうせ自分たちはもらえない」と諦めている若い世代ほど賢くないといえる。

○ということで、「少子高齢化時代&低成長時代」においては、ネズミ講は破綻する確率が上昇するのである。ここでふと思い出すのは、小幡績先生が『すべての経済はバブルに通じる』で提唱した、「経済成長や株価の上昇とは、すべてネズミ講ではないのか」というテーゼである。これを言い出すと、資本主義経済そのものが拡大再生産を必要とするPonzi Schemeということになってしまう。でも、先進国たる日米欧がいずれも高齢化し、低成長化し、政府は財政難に喘いでいるという状況を見ていると、それもそうかなあ、と思えてくる昨今なのである。


<9月25日>(日)

○三連休の最終日は、スポーツが見所いっぱいでありますな。

○琴奨菊は、千秋楽で把瑠都に敗れて3敗。白鵬は辛くも日馬富士を凌いで優勝。惜しかったですねえ。あのがぶり寄りはまさに「どじょう流」。これで今日、琴奨菊が優勝して、野田首相が賜杯を渡しながら「感動したっ!」とでも言えば、政権の人気浮揚になったかも。でも、「金魚の真似をしてもしょうがないんだよなあ」。

○神戸新聞杯はオルフェーブルが圧勝。もはや同世代に敵なし。三冠馬を目指す最大の敵はもはや己自身か。産経オールカマーはアーネストリーがぶっちぎり。次は天皇賞を勝って年度代表馬を目指す構えか。今日のメインレースはどちらも2位、3位を当てるゲームでしたが、個人的には2位ゲシュタルトがおいしゅうございました。

○昨日、ガンバが負けてくれたので、今日で首位浮上の目が出ていた柏レイソル。でも、格下の大宮アルディージャに3-1で大敗。あかんのう。今年、J1に上がったばかりのチームとしては、そんなに多くを望むわけにはいかんのですが。ホントにレイソルがACLに出ていいのかな。

○わが阪神タイガースは、今日は巨人に負けて借金2に。アニキ金本の3安打もむなし。勝っておけば同率3位だったのに。クライマックスシリーズへの進出はやはり無理筋か。私利私欲を言うと、ワシは10月10日の巨神戦チケットを持っているのだが、消化試合になっていなければいいけどなあ。


<9月26日>(月)

○毎度のことながら、馬鹿話を一席。

○筆者がAKB48に対して冷ややかであることは、長い読者には周知のことでありましょう。(余談ながら、ともちんこと板野友美はちょっといいと思う。ところが彼女はプロっぽいということで、ファンの間ではあんまり人気が出ないとのこと。そういう点がいかんのである)。で、最近中国で、AKB48のそっくりユニットが誕生したらしい。「AK98」というんですって。名前からして実も蓋もない「まんまパクリ」である。何が日中文化の融合だっつーの。

○でもまあ、そんなのを怒るのも大人気ない話なので、日本で新たに「中国パクリ・ユニット」を作ってみたらどうだろう。筋骨隆々たる男性を大勢集めて作る「RZP108」(梁山泊・ワンオーエイト)。TBSの筋肉番付に出てくるようなタレントを大勢集めてきて、水滸伝のキャラ全員の名前を割り振る。ボブ・サップによる魯智深だとか、なかやまきんにくんが演じる黒旋風の李逵だとか。これ、きっと壮観ですよ。

○で、108人の筋肉マンがステージに上がるだけでも迫力満点なんですが、センターの座を賭けてさまざまなイベントを仕掛けるのです。林冲と魯智深による格闘技とか、及時雨宋江と智多星呉用による総選挙とか、武松と李逵とジャンケン勝負とか。(あ、念のために言っておきますが、梁山泊には扈三娘などの女性キャラも若干入っています)

○よくよく考えてみたら、これは実際のユニットを作るよりも、ゲームで開発する方が楽だし売れるかもしれない。切込隊長改めやまもといちろう社長、ひとつ御社で開発してみてはいかがでしょうか。水滸伝を元にしたゲームは、すでにたくさん世に送り出されているし、著作権料は払う必要ないし。外注して中国で作らせる、というのもアリだと思いますぞ。

○ちなみに水滸伝のパクリということでは、わが国にはすでに「南総里見八犬伝」という立派な前例がございます。作者の滝沢馬琴は、「あんなに人をたくさん死なせる小説はよろしくない」と言っていたそうですけどね。


<9月27日>(火)

○今朝、文化放送の「くにまるジャパン」のスタジオに入ったら、天気予報のデータで気温が20度を割っている。これは涼しい。久々にネクタイしていても違和感がない。暑さ寒さも彼岸まで、とはよく言ったものであって、ふと気がつくと毎朝テレビでやっていた「電気予報」もなくなっている。こんなことなら、節電もそろそろ打ち止めにしたいと思う昨今である。

○気がつけば「節電の夏、翼賛の夏」はもう過ぎ去った。原発が動かなかった分は、火力発電でこの夏を凌いだ形である。「原発再稼動か、それとも自然エネルギーか」という二項対立の問題設定は大間違いであって、ポスト原子力は火力であった。このことはたぶん今年の冬も、来年の夏も続く。今年の夏は天然ガスの緊急輸入が主力であった。来年は石炭が増えるだろう。福島県沿岸には、津波で動けなくなった石炭火力がたくさんあって(東京電力と東北電力)、それらが動き出すことを期待して、の話だが。

○かくして8月の貿易収支は、7700億円の大赤字となった。6月と7月が「かろうじて黒字」であっただけに、この数字はちょっとショックである。輸出は前年同期比で半年振りのプラスとなったのだが、その辺を代替燃料の緊急輸入の増加がかき消してしまった形である。それではこの需要が9月以降はどうなるか。減るのか、減らないのか。見通しを作る側としては辛いところで、正直なところサッパリ分かりません。

○要するに火力発電が増えたときの影響について、分からないことが多すぎるのである。正直なところ、誰に聞いたらいいかも分からない。再生可能エネルギーの話は何年も先の話なんで、目の前の火力発電についてもう少し議論した方がいいのではないか。なにしろ夏も過ぎたことだし。


<9月29日>(木)

「で、欧州経済はどうなるんですか」――と言われたってワシャ知らんつうの。それにしても経済部の記者さんたちは、何であんなに難しい話をしたがるんでしょうね。ヨーロッパのことなんて、あたしゃそもそも責任持てませ〜ん、などと言いつつ、適当にごまかさなきゃいけない瞬間もある。そこでこんな屁理屈をひねくりだしてみた。

○中国4000年の歴史が生み出したノウハウのひとつに、「難題にぶち当たったら、上策、中策、下策という3つの案を用意せよ」がある。そして3つの案の提示を受けたら、「ではまず、中策についてお聞きしたい」と真ん中から聞くのが作法なんだそうだ。上策は出来ないことが多いし、下策は優れたものではないから、困ったときは中策を採るにしくはなし。だから、中策こそベスト、というのがこういうときの経験則である。

○欧州ソブリン問題の本質は、「上策と下策はあるが、手頃な中策が見当たらない悲劇」ではないかと思う。こういうとき、上策は理想論、下策は現実論となるものだが、その両者を適度に折り合わせた中庸のプランが一番使い勝手がよいのである。

○ギリシャ問題における上策とは、おそらくは「財政統合」であり、強い国が弱い国の面倒をみることであろう。それさえできれば、ギリシャ問題は夕張市の財政破綻と大同小異である。ギリシャ政府の借金は、総額でも2480億ユーロ(25兆円程度)に過ぎない。ギリシャには払えないだろうけれども、ユーロ全体で見ればたいした金額ではない。これが米国や日本ならば、財政資金を投入して終わりである。しかるにそれができない。政治的に受け入れられない。そこにユーロの構造的な欠陥がある。

○従って、下策がとられている。それは中途半端な支援策で時間を稼ぐことである。思えばギリシャ問題が浮上したのは昨年春のこと。それから何度も支援計画が作られ、もう1年半もごまかしてきたわけだが、さすがにこれ以上は難しい。この間の2010年に、ギリシャ経済は大マイナス成長を記録し、しばらくは復活しそうにない。そんな調子では、しばらくは借金返済どころではあるまい。9月になってギリシャ国債10年物利回りは20%を超えた。ドイツは2%以下なので、これはもう「詰んでいる」としか言いようがない。

○だったら中策は見当たらないのか。おそらくは誰かがちゃんと用意しているのだと思う。欧州統合を成し遂げた原動力は、ユーロクラットと呼ばれる元貴族階級の外交官や官僚と言ったエリートたちであった。その彼らの目から見たら、「欧州を潰しかねないギリシャは許せない」ということになるだろう。たぶん今頃彼らは、ギリシャ問題解決に向けての「裏シナリオ」をせっせと書いているはずだ。

○その中身は、「秩序だったデフォルト」であろう。一時期言われていたような「ギリシャをユーロ圏から切り離してドラクマに戻す」のは、さすがに物理的に難しい。そこで、「ユーロ圏内で管理された厳しい条件の債務再編を行い、他国への波及を食い止める」ことが模索されているようだ。これが実現すれば、まことに手軽かつ効果的な「中策」ということになる。

○問題はそれが実現可能かどうかなんだよな。みつを。


<9月30日>(金)

○本日は小ぶりな国際会議に参加。時節柄、経済問題の討論で原発事故について述べたら、そこに集中が殺到。そりゃ当然か。これはもう、少しでも実態を知ってもらうのが日本の責務と心得て、ぶっちゃけベースでとことんお話しする。

○打ち上げの席で、日本語を学習する外国人のありがちな失敗談についていろいろ教わる。たとえば日本語の、「いくらですか?」と「いくつですか?」は非常に紛らわしい。ある人は目の前の女性に向かって、「おいくつですか」(How old are you?)と聞いているつもりで、「おいくらですか?」(How much are you?)と聞いてしまった。うーん、これは空気が凍りますな。

○それから、これもありがちな間違い。宴席で日本側が歓待し、いよいよ散会という段になって外国人がお礼の言葉を述べた。「本日はどうも、お粗末さまでした」。――いつも食事の後になると、「ご馳走様でした」「いえいえ、お粗末さまです」というやり取りがあるものだから、どっちがどっちだか分からなくなってしまうのですね。

○さらにこんなのも。険悪になった席で、外国人が日本人に向かって「さあ、来い!」という意味のことを言っているつもりで、出てきた言葉は「いらっしゃいませ」。回り全体が吹き出してしまって、そのまま丸く収まったという。

○言葉を学習するときは、この手の小さな失敗を繰り返すしかないんですよね。小さな失敗というのはいいものです。普段から小さな失敗を許さないようにしていると、大きな失敗をしてしまったときに腰が抜けてしまって、どうにも身動きが取れなくなってしまう。今の原発の問題は、まさにそういう事例なんじゃないかという気がいたします。









編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2011年10月へ進む

***2011年8月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki