●かんべえの不規則発言



2013年3月








<3月1日>(金)

○少しく旧聞に属する話題ですが、オバマ大統領の一般教書演説で、唯一"Japan"という言葉が登場したのは下記のような文脈においてでした。


Our first priority is making America a magnet for new jobs and manufacturing. After shedding jobs for more than 10 years, our manufacturers have added about 500,000 jobs over the past three. Caterpillar is bringing jobs back from Japan. Ford is bringing jobs back from Mexico. And this year, Apple will start making Macs in America


○製造業がアメリカに戻りつつあるぞ。オフショアリングからリショアリングへ、アウトソーシングからインソーシングへ。かくしてキャタピラーは日本から、フォードはメキシコから撤退し、アップルはマックの国内生産を始めたぞ、というのであります。そんなこと言ったって、雇用統計を見る限り製造業のJobはそれほど増えてないんですけどね。とりあえず増えてるのは建設業と医療介護関係くらいであります。

○実はこの部分の文言に関する興味深いエピソードがあります。それを明かしてくれたのはNHK飯田記者のブログ。訪日中のイアン・ブレマー所長(ユーラシアグループ)へのインタビュー(昨日放送されたらしいんですが、不肖かんべえは見ておりませーん)の一問一答がここに記されています。


■日本などの同盟国とアメリカとの“特別な関係”は終わったとレポートに書いていましたが、どういうことでしょうか?

I mean that if you looked at the state of the union speech that President Obama gave just a couple of weeks ago, I think Japan was mentioned once, and it was mentioned as a place that is taking jobs from the United States. Funny story, in the original draft of the speech, China was there and they took it out.

■はい、私も解禁付きの演説文を見ながら演説を聞いていたので気づきました。あれは故意でしょうか?

Of course it was! Because China is Voldemort. It is the name that cannot be spoken.

■「ハリー・ポッター」の本に登場する「名前を言ってはいけない人」のヴォルデモートのことですね。でも何で?

Because the United States ‐ look, Abe just came to the US, and he had a very good meeting with Obama. When they met privately, the most important thing they discussed was China. When they met publicly, the most important thing they discussed was not China. Why not? It’s because we know we have a problem, and we are trying not to antagonize the Chinese unnecessarily, so we are being more sensitive, more quiet. That’s going to be harder to do. But this is clearly a big challenge for us.

■でもそんなことを言ったら、そもそもなぜ“解禁つき”の演説文にそのくだりが入っていたのでしょうか?

China? Well, because the people that were originally writing the State of the Union come from the policy backgrounds, and they’re writing US policy. The last couple of drafts, you’re talking much more politically. Now look, if the state of the union, if this issue were about domestic politics, there would have been 50 drafts, and it would have been very carefully vetted. Foreign policy is less of a priority for the Obama administration. The state of the union wasn’t just that Japan was only mentioned once. It’s that foreign policy was an afterthought. It was basically a grab-bag of every policy for every constituency. Everyone could find something they liked, everyone could find something they didn’t like, but when you talk about foreign policy, you’re really talking about Americans bringing the troops home. War is over in Iraq, Bin Laden is dead, we’re getting troops home in Afghanistan, and there are 34 thousand. The rest of the world is not as much a priority. This is the point.

We were talking about nation-building at home. We’re mentioning Japan because we want more jobs at home. Japan is America’s key strategic ally, and the only time it was mentioned it was to bring jobs home. It’s not because we don’t like Japan. We like Japan, we trust Japan, we just don’t care very much about Japan. It’s very clear, if you watch the speeches, watch the inauguration speeches, watch the state of the union, watch the debates between Romney and Obama, where is foreign policy?


○面白いですねえ。「キャタピラーは中国から撤退した」と言ってしまうと、中国のだれか偉い人のメンツをつぶしてしまうし、どんな仕返しが来るかわからないし、米中関係にとっても確実にマイナスだし、おそらくキャタピラー社にとっても大迷惑になってしまうでしょう。でも、オバマ大統領が「キャタピラーは日本から撤退した」と言ったとしても、日本側は「そりゃあコマツには勝てないからねえ」ということで誰も怒らない。

○ということで、不肖かんべえも完全にスルーしてました。真の友達のことは悪く言っても構わない。でも困ったちゃんのことは、気を使わなければいけない。イアン・ブレマーから、「われわれは日本を信用してるから、気を遣わなくて済むんだよ」という発言を引き出してくれた飯田記者の「グッジョブ!」に感謝したいと思います。


<3月2日>(土)

○アメリカのSequestration(歳出の強制削減)が始まっちゃいました。これで公共サービスの一部停止が始まるので、国民生活への影響が出てくるでしょう。先月くらいから、「生活保護の小切手が届かくなる」とか、「入国管理官が減るから空港の待ち時間が4時間になる」とか、いろんなことが言われています。それ以上に問題なのは米軍に対する影響で、今後はいろんな形で行動の制約が出てくるでしょう。テロリストから見れば、「アメリカを狙うなら今だ」ということになってしまいます。

○その割には市場の反応は冷静です。株価もそんなに下げていませんよね。実は1月くらいから、「3/1のSequestrationは不可避」という見方がコンセンサスになっていた。ただしこのまま放置しておくと、3月27日には暫定予算が切れてしまうので、そうなったら連邦政府のシャットダウンが始まってしまう。1995〜96年にもやったことがあるけど、これはさすがにシャレにならない事態なので、さすがにそれまでには何とかするだろう。それがワシントン政治における最低限の歌舞伎プレイというやつで、周囲の気分はすっかり「あきらめモード」になっておるわけです。

○もともとこのSequestrationというやつ、2011年8月に予算制限法という合意ができた時に、「この日までに与野党で合意しなさいよ。でないとお仕置きしますからね」という仕掛けとして導入された。試験がなかったら学生は勉強しないし、納期がなかったら工場は稼働しないし、締め切りがなかったら作家は原稿を書かない。悲しいかな人間には「脅し」が必要なのである。アメリカの政治家たちは特に働きが悪いので、そこで民主・共和両党に課された「罰ゲーム」がSequestrationであったのです。

○ところが脅しというものは、何度も使っていると効果が下がってくる。本当は昨年末だった締め切りは、1日だけ破ってごまかしてしまった。そうなると今度の締め切りも何とかなりそうな気がしてくる。どうもオバマ政権と共和党は、締め切りを破る快感を覚えつつあるんじゃないだろうか。

○確かにその気持ちはわかんではない。ワシだって、月曜に締切が2本あるのに明日は競馬に行こう、などと考えておる。だってしょうがないじゃないか、弥生賞を特別席で見られるっていうんだもん。というのはさておいて、ワシントンの雰囲気は、「罰ゲーム、少しくらいだったらやってもいいじゃないか」という感じになっている。かくして本当に発動されてしまったのである。

○しかるにアメリカが積み重ねている借金は、誰かが貸してくれたカネである。中国や日本などは、米国債を1兆ドル以上持っている。貸してる側としては、増税なり歳出削減なりで、ちゃんと赤字を返済してくれないと困るのだ。その辺のことがまったく意識されていないように見えるのはいかがなものか。今は人為的な罰ゲームだからいいけれども、そのうち「さらなる米国債の格下げ」とか、「長期金利の上昇」というはるかに恐ろしい罰ゲームが来るかもしれない。そうなったときには遅いかもしれないのだが。


<3月3日>(日)

○今日は弥生賞。クラシックレースの前哨戦。アメリカ大統領選挙でいえば、アイオワ州党員集会。となれば、ファンとしては力が入るところです。で、力を入れて中山競馬場に参上しましたが、完敗でした。コディーノにエピファネイアという2強がこけて、かんべえ狙いのヘミングウェイも力及ばずで、何なんだカミノタサハラにミヤジタイガとは。これでは皐月賞は何を買ったらいいのか、まったく視界不良です。

○ご同行のお仲間では、岩手県から来ていたぐっちーさんのお友達が、7レースで3連単の大きいのを当ててましたな。それにひきかえ、上海馬券王先生も不肖かんべえもいいところなし。いやもう、9レースからあとは棒にも箸にもかかりやしない。とってもトラウマが残るような負け方でありました。

○で、ぐっちーさんの新著は今週末発売でいきなり増版という、版元が東洋経済新報社にしてはめずらしいくらいの快進撃となっているようです。お見事であります。


<3月4日>(月)

○先月読んだ『イノベーション・オブ・ライフ』に出てくる話だが、これは大方の日本人が忘れてしまっていると思われるエピソードである。すなわち、「ホンダはどうやってアメリカ市場に進出したか」

○それはまだホンダが四輪車を作るようになる前の時代のことである。ハーレー・ダビッドソンに勝ってやる、とばかりに二輪市場で西海岸に進出してみたところ、製品としてまるで勝ち目がないことが判明した。アメリカの道路を長時間走ると、ホンダ製品はオイル漏れすることも判明した。乏しい財布をはたいて、故障車を日本に空輸しては修理するという情けない日々。アメリカ進出はやはり時期尚早だったのか。

○ところがホンダには、国内市場専用のカブという製品があった。使い走り専用で持ってきたものの、もちろんそれで商売をするつもりはなかった。ところが某日、駐在員が日頃の憂さを晴らしに、カブでオフロードを走り回っていたところ、それを見た周囲のアメリカ人が「あれを売ってくれ」と言い出した。売りもんじゃない、と断るのだけど、だんだんオーダーがたまってきた。そのうち、カブの販売は貴重な財源となった。いつしか大手スーパーが「まとめ売りをしたい」と申し出るようになった。

○とうとうホンダは普通のバイクを売ることをあきらめて、カブの販売に全力投球した。これが大当たり。二輪車ディーラー以外の販売網が開拓できたのも収穫だった。かくしてホンダは、アメリカの大地にしっかりと根を下ろしたのであった・・・・。

○で、この先が能書きなんですが、経営学には「意図的戦略」(Intended Strategy)と「創発的戦略」(Emergent Strategy)がある。前者は最初から決めていたもの、後者は状況に合わせて変更したものだ。もしもホンダがちゃんとした二輪車を売る、とこだわっていたら、成功はおぼつかなかったかもしれない。ところが当時のホンダは資金的な余力がなく、駄目なことはさっさとあきらめ、希望のあることに資源を投入する以外なかった。朝令暮改が成功への道だったのである。

○しかしよくよく考えてみると、「意図的戦略」がそのまま図に当たるということはめったにないものだ。机上のプランは必ず現実の壁にぶち当たる。そこで軌道修正をした後に、成功にいたることがほとんどであろう。そうだとしたら、東京本社で分厚いパワーポイントの資料を作って、「さあ、これで仕事が済んだ」などと思っているのは大馬鹿野郎だということになる。いや、実際にそういう手合いが多いのだけれど。

○安倍内閣の「成長戦略」にしても、そんな風になってしまう恐れが大である。6月にはきっと分厚いパワーポイント資料ができるんだろうけれども、それはまだ実戦で試されたことのない「意図的戦略」に過ぎない。それに対して、不断の見直しを続けていくことが必要なのだ。でも、それを経済産業省にやらせるわけにもいかない。つまるところ、民間企業が自分で工夫するしかないのである。

○もっというと、経営母体の懐が広過ぎると、たとえ最初の作戦が外れであると分かっても、「まあ、ここはもうしばらく様子を見ましょう」などということになり、貴重な経営資源を失っていくことが多いものだ。ホンダの場合は、そんな余裕がなかったことが幸いした。そしてまだ経営資源が残っているうちに、商品の切り替えという路線変更ができたのである。どうも昨今の日本企業は、なまじ経営資源に厚みがあるために、軌道修正が遅れて損失を拡大している例が多いような気がする。逆に韓国企業あたりが、昔のホンダのような機敏さを有しているのではないか。

何でも持っている人(企業)は、自分が何でもできるがゆえに、たった一つのものを捨てることができない、というのは、この世の中ではよく見かける光景です。「この事業からは撤退すべきだ」と分かっていても、「相談役が嫌な顔をするだろうなあ」ということが理由で問題を先送りしたりする。最近の日本企業の不振には、そういう背景もありそうです。


<3月5日>(火)

○産経新聞の正論懇話会で、和歌山市に来ております。聞けば九州に次いで、2番目にできた正論懇話会が和歌山なんだそうで、当地では非常に歴史のある会ということになります。

○最近はどこでもそうなんですが、「アベノミクスとは何ぞや」みたいな話が非常に関心が高いです。「まだ何もしていないのに、これだけ株価が上がったりして、ありがたいけれどもちょっと嘘くさい」という感覚があるんだと思います。特に地方では、「やけに景気のよさそうな話をしているけど、ほんまかいな」という半信半疑の気持ちが強い。昨年秋時点の景況感があまりにも悪かったので、これだけ短期間でいろんな変化があると、少々薄気味悪く感じられるのだと思います。

○それでもこの調子なら、なんとか年度末になっても為替や株価は崩れなさそうだし、日米首脳会談もうまくいったみたいだし、今のところは上出来である。とりあえず安倍首相は随分とツイている様子である。ただし前回のこともあるから、どこかで大崩れするんじゃないかという不安も残る。まあ、前回の場合は、年金番号問題やら事務所経費問題やら、閣僚の失言やら最後はバンソーコー事件など、あほらしいくらいに運が悪かったので、その分を取り返しているのかもしれません。

○安倍政権には、まだまだ難物の課題が残っている。普天間基地問題で、辺野古の埋め立て許可申請をホントにやるのか、とか、原発再稼働をどのタイミングで行うのかとか、間もなく正式に発足する中国の習近平国家主席体制との関係をどのように切り結ぶのかなどなど。とりあえずTPP交渉への参加表明は近そうで、これだけでも大きな収穫だと思う。後のことは、おっかなびっくりで進んでいくしかない。虚心坦懐に見守りたいところであります。

○で、ここへ来て初めて気づいたのですが、「正論」執筆メンバーになってまだ1年4か月程度の新参者である不肖かんべえは、正論懇話会に呼ばれるのは千葉―奈良―松山―和歌山とこれが既に4つめなんです。正論懇話会は全国で10か所だそうでありますので、既に占有率40%を達成している。なんと早い。全部回ったのはまだお一人だけだそうですので、こうなると欲が出てコンプリートを目指したくなる。仙台でも群馬でも名古屋でも、予定さえ合えばどこでも参上しますからねと申し上げておこう。


<3月6日>(水)

○ふと思ったんだけど、和歌山県出身者というのは、あまり故郷を振り返らないというか、意図的にローカル色を消そうとする性質があるんじゃないだろうか。代表的な例を挙げると、武蔵坊弁慶、徳川吉宗、松下幸之助、竹中平蔵、明石家さんま、さいとう・たかをなど。「え?この人が和歌山出身なの?」と感じることが多い。もちろん紀伊国屋文左衛門のように、名前の中に故郷が入っているケースもありますけどね。

○あるいは東尾修や小久保裕紀は、当然九州出身じゃないのかと思ってしまうのだけれども、実は和歌山県出身なんですねえ。スポーツ選手はまことに多いです。そんな中で、地元出身の文学者は故郷を強く意識するようで、有吉佐和子、中上健次などは濃厚に「紀の国ワールド」を描いている。

○あるいは津本陽の時代小説にも、地元の雑賀一族を描いた作品があるんだそうです。雑賀孫一は戦国時代の紀州で鉄砲集団を率いていた、まことに魅力的な爽快キャラですけど、当地には「孫市まつり」なんてものがあるようです。NHK大河の『国盗り物語』では、林隆三が演じていましたなあ。

○午前中に和歌山県を離れ、午後は都内で座談会収録。テーマはアベノミクス。このところ連日連夜、アベノミクス漬け状態なんですが、この言葉を最初に使ったのはだれか、というのが意外と知られていない。どうやら2006年に、中川秀直幹事長が流行らせようとしたけど、ほんの一瞬で終わってしまった。それを昨年になって、日経の滝田洋一さんが掘り起こして試しに使ってみたところ、瞬く間にヒットして定着したというのが実態であるらしい。

○ところがアベノミクスは、2006年版は「小さな政府の構造改革路線」だったんだけど、2012年版は「大胆な金融緩和策」に化けていた。言ってみれば真逆の政策になっているんですね。このあたり、節操がないと言えばまことにそうなんだけれども、わが国における保守政党の伝統的な現実主義(あるいはご都合主義)を見事に踏襲しているようでもある。思うに高橋是清が今日生きているとしたら、アベノミクスなんて当たり前だろう、と言ったんじゃないだろうか。

○なおかつ、アベノミクスは2013年版になると、「三本の矢」ということになり、「和洋中豪華三点セットのディナーコース」みたいなものに発展した。かくしてリフレ派は「金融緩和が入っているから」喜ぶし、ケインジアンは「財政政策が入っているから」納得するし、構造改革派は「成長戦略が入っているから」まあいいかと妥協する。なんともキメラのような形になっている。

○それでは当の安倍さんはどう言っているかというと、CSIS演説の中でこんな風に言っている。おしゃれな言い方ですね。


「いま、アベノミクスなるものがあります。わたしが造語したのではありません。つくったのはマーケットです」

"Now, there is something called “Abenomics.” I didn’t coin the word. Markets did."


○言葉が定着したことに対するご本人が満足している様子と、あまり自分の手柄だと言って日銀を困らせてもいかんかなというビミョーな計算が働いているように見える。2006年の安倍さんなら「俺が、オレが」と言ったかもしれない。少なくともその点は進化でありますね。


<3月7日>(木)

○毎晩のように当欄の記述を続けていて、ときどき「当たり」があって、世間の注目を集めることがあります。昨年の7月24日に書いた内容なんかもその典型で、ちょうどロンドン五輪の頃でありました。「なでしこジャパンは、予選を1位で通過するよりも2位で通過する方がいい」という予測を書いたわけです。その後、本当にその通りになったし、さらに佐々木監督がそれを裏付けるかのような発言をしたので、ますます信憑性を増した、なんてことがありました。

○実は今宵、その時の元ネタであった平田竹男早稲田大学教授と久しぶりに会ったのです。そしたら言われてしまいました。

「あれを溜池通信に書かれたために、自分はしばらくテレビ局に追い回されて大変だった」

○そんなこと言ったって、こちらはもともと活字情報になっていたものをネットに転載しただけなんだから、別にいいじゃねえかと思うんですけどね。いや、まじめな話、あれでサッカーの国際大会の奥深さを思い知らされたという人は少なくないのではないかと思います。

○そのなでしこは、昨日格下のノルウェーに完敗しちゃいました。平田教授にご意見を求めると、なでしこは今年来年は負けても構わん。W杯と五輪の年に本気を出せばいいのだそうです。いつもいつもベストを尽くせ、と言うのは容易いことですが、世界の頂点のギリギリのところで戦っている人たちには、それこそ敢えて2位通過を目指すという作戦もアリだし、負けていい時には負けるのも成長の糧になる、ということなのでしょう。

○その平田先生、桑田真澄選手との対談本を出されたりして、今宵も快気炎ますますとどまるところを知らずでありました。つくづく精神論重視の日本のスポーツ界には、もうちょっと科学やビジネスの視点を取り入れて行くことが求められている。願わくば今年9月7日のIOC総会(ブエノスアイレス)にて、めでたく2020年五輪の東京開催が決まったら、日本政府はぜひスポーツ庁を新設して、平田教授を初代長官に任命していただきたいと考えるものであります。

○ついでにもうひとつ褒め殺しをしておくと、今宵の会合は四半期ごとにやっておるのでありますが、前回の12月会合(不肖かんべえは欠席)において、平田教授は「次回の3月会合では日経平均1万2000円」という予言をされていた。ここまで来ると、あまりにも当たり過ぎていて怖いくらいです。しかるに次回の6月会合で株価がどうなっているかは、残念ながら聞くのを失念してしました。惜しい。


<3月8日>(金)

○3月17日から、人生初のロシア出張に出かけることになっている。往復はエコノミークラスのアエロフロートである。どうだ、うらやましいだろう。

○今日になって、それまでにやっておくべきことを考えてみて蒼くなってしまった。うわあ、てえへんだ。どうしよう。

●締め切りが6本(「SPA!」「北日本新聞」「東洋経済ONLINE」など、おなじみのもの多し)。

●静岡市と成田市で講演。

●ロシア出張の下準備と下調べ(国際会議の結団式を含む)。

●貿易会がらみの会合と面談を1件ずつ。

●まったく関連のないランチアポが3件。

●某財団の理事会に出席(飲み会付き)。

●確定申告。

●妻と娘に対するホワイトデーの義理(ミニマム3倍返し)。

○こういうのを、われながら「詰んでいる」というのではないのだろうか。あ、そうだ、週末のうちに床屋とガソリンスタンドにもいかなくちゃ。


<3月9日>(土)

○昨日発表の2月の景気ウォッチャー調査は、またまた上がっておりました。ボトムの10月からの上げ方が急だったので、この辺で1回休みでも不思議はないかなと思ったのですが、とうとう現状判断DIも、先行き判断DIも両方とも50を超えてきました。今の景気の足腰は強いです。

  10月 11月 12月  1月  2月
現状判断DI 39.0 40.0 45.8 49.5 53.2
先行き判断DI 41.7 41.9 51.0 56.5 57.7


○印象に残ったコメントを2つご紹介。

●新政権になり、景気浮揚の好材料が出てきている。消費者のなかにも景気が良くなるのではないかという期待感が醸成されつつある。
このまま安定的な政権運営が行われていけば、商圏内にある自動車産業の業績が好転し、消費の活性化につながる。
また、クールビズも3年目でそろそろ半袖ワイシャツの買換え需要があり、前年に比べると盛り上がる。(九州・百貨店)

――節電の夏も今年は3回目。ということは、半袖ワイシャツがまた売れるという読み。なるほどねえ。

●苦戦が続くなか、震災後空地だった所に店舗が再建され花屋が開店した。
さらに、同じく震災後空き店舗となった所に物販店の入居予定もあり、遅いながらもやっと春が近づきつつあろうかと期待される。(東北・商店街)

――被災地の商店街に花屋が開業した。現地の消費者の間に、ようやく花を買おうという余裕ができつつあるのだろうか。

○「あの日」から間もなく丸二年。思えば震災の当日はまだまだ寒かった。今日はとても暖かな一日で、もう春がすぐそこまで来ているかのようでした。


<3月11日>(月)

○あの日から2周年。かといって、3/11がらみで何か書こうとすると、どうしてもわざとらしく、嘘くさくなってしまう。ということで、本日はどうでもいいような話を三題ほど。

○その1。会社のメタボ検診で引っかかり、個人面談を受けることになった。と言っても、我ながらほとんど文句のつけようのない成績なので、ギリギリでひっかかったらしい。アドバイザーの言うことを適当に聞き流していて、ひとつだけ耳に残ったのは「水をこまめに飲むといい」ということ。ああ、それならば苦痛はないし、面倒でもないし、カネもかからない。ということで、これだけは実践している。

○人間の身体の7割は水だそうだから、いわばビーカーの中の水溶液みたいなものだろう。水を加えると、それだけ中身が薄まって、血圧も下がるという理屈である。お茶やコーヒーやビールだと利尿作用があるので、かえって脱水することもあるらしいので、水がよろしい。ああ、私は水溶液。

○その2。週末に床屋に行った。このワシに向かって、「日本銀行はもっと積極的になるべきですよねえ」などと言ったりする不埒な床屋である(この話、産経新聞で書いてしまったが、ご本人は気づいていない様子である)。そんな端倪すべからざる床屋にて、また新しい話を教わってしまった。

○現在、千葉県では知事選挙の期間中である。芸能人出身の現職の知事に対して、共産党候補が挑むといういかにも不毛な構図であり、投票率がどうなるか今から心配である。ところが選挙掲示板を見ると、共産党候補は1番に、現職知事は3番にポスターが貼ってある。だとすると、2番の候補者がいるはずなのに、どこにもポスターが貼ってない。まあ、その辺まではありがちな話だが、どうもこの「第三の男」が、あらゆる取材を拒否しているらしいのだ。売名行為で選挙に出る人はたまにいるけれども、なんなんだこれは。

○調べてみたら、既にウィキにも下記のように書かれていた(「2013年千葉県知事選挙」で検索)。しかしこれでは、供託金をとられちゃうだろうなあ。まあ、所詮は他人事ですけど。

なお、XXは立候補を届け出たもののマスコミの取材を全て拒否し、更に選挙公約の発表や選挙管理委員会への顔写真提出、選挙公報への掲載、政見放送の出演、選挙運動も行っていない。政見放送では、放送がない旨を伝えた上で、放送局(NHKまたは千葉テレビ放送)のアナウンサーにより経歴は読み上げのみ行われている。届出書類上の「31歳・シェアハウス経営・神奈川県横浜市在住」と政見放送経歴読み上げでの「産業能率大学卒業・元テレビ東京アルバイト」以外の情報は公にされていない。

○その3。証券会社の人に聞いた話。長いながい冬の時代を経て、証券市場に春がやってきた。アベノミクスが突風をもたらしているのである。歩合給で働くベテランの外務員さんの中には、いきなり支店長の給与を超える人が続出しているのだそうだ。

○今までは仲間内で飲みに行く時も、「それでは皆さんの健康を祈って」乾杯していたんだけど、昨今は「前年比××%アップを祈願して」乾杯するようになってきたんだそうだ。いやあ、やっぱり証券会社の人が元気にならないと、夜の街は景気が良くなりませんよ。


<3月13日>(水)

○世界各国から届いたよもやま話のご紹介。

○スペインに送り込んだスパイからの報告。鳴り物入りだった当国の再生可能エネルギーはほとんど崩壊状態。政府の優遇策も縮小されてしまったので、訴訟のために同国を訪れるビジネスマンが増加中。他方、2020年五輪招致は、けっしてあきらめているわけではなくて、「マドリッドを甘く見るなよ」とのこと。ははーっ。

○アメリカではSequestrationのために政府部門にさまざまな影響が出ているが、ワシントンで耳目をそばだてているのが「ホワイトハウスの一般観光客ツァーの中止」。オバマ政権もずいぶんとせこい部分で合理化をするもんですが、テロ対策の費用は馬鹿にならないのだそうです。まあ、ワシントン観光ならほかにいくらでもネタはありますからね。

○中国は5日から17日まで全人代を開催中。注目点は政府の主要人事なんだけど、中国政府のポストって結構インフレなんですね。上から順に、国務院総理(首相)―副総理―国務委員(副総理休)―各部部長(大臣)―各委員会主任(大臣級)。いっそのこと日本も、副首相を4〜5人作っちゃうというのも手かもしれませんな。

○来週行くロシアについて勉強中。このところ急に日露関係が動意づいているように見えるけれども、領土問題についてはそんなに前進がある見込みはないらしい。確かに森さんが行ってプーチンにあったくらいで、今までの難問が一気に片付くはずもない。「平和条約締結後に歯舞色丹の2島を引き渡す」と言っているのも、「引き渡すとは言ってるが、主権については何とも言ってない」のだそうだ。あまりにも深い世界なので、ついていくのに骨が折れます。

○ちなみにモスクワの平均気温は1度〜▲20度くらいだとのこと。どうすりゃいいのよ、この私。初ロシアはおそろしや。


<3月14日>(木)

○3日前に話題にした千葉県知事選挙における「第三の男」のことが、だんだん知れ渡りつつある。とりあえず夕刊紙ネタとしては抜群の面白さである。


千葉県知事選(3月17日投開票)は、再選を目指す現職の森田健作知事(63)が優勢に戦いを進めているが、静かな選挙戦のなかで「第3の候補」が異彩を放っている。横浜市在住でシェアハウスを経営している無所属の佐藤雄介氏(31)は、出馬動機も主張も不明なのだ。

 佐藤氏は立候補の手続きのため、告示日の2月28日、千葉県庁に登庁した。ところが、選挙管理委員会から説明を受けているときは、目を閉じたまま。手続き終了後に報道陣が質問しても、何も答えず姿を消した。

 県政関係者は「選挙活動をしているのか不明。県内には選挙事務所が設置されておらず、掲示板にもポスターは貼られていない」という。

(中略)

 佐藤氏が経営するシェアハウスといえば、若者の間で人気が高まっており、テレビドラマでも取り上げられている。供託金300万円を払って、佐藤氏は何を訴えたかったのか?

 選管に登録された佐藤氏の連絡先に電話をかけたが、電源が入っておらず繋がらなかった


○不肖かんべえがキャッチしたところによると、この候補者氏は記者に出馬した動機を聞かれると、「千葉には友達がいるから・・・」などと理屈にならないことを言い、「供託金の300万円が惜しくはないのですか?」と聞かれると、どうやらお金に困ってはいないご身分のようで、さらに「なぜ取材から逃げるんですか?」と突っ込まれると、「いや、父にばれるとマズイ」などとわけのわからないことを言うのだそうです。

○こういうのを21世紀型泡沫候補と言うのでしょうか。願わくばマック赤坂先生に、教育的指導をしてもらいたいものだと思います。


<3月15日>(金)

○1週間前に、「ロシア出張までに締切が6本もある!」と気づいて泣いていたのですが、何とかあと1本に減りました。以下、最近書いた中でネットで読めるもののご紹介です。

産経新聞「正論」 3本の矢で足りぬなら4本目を

――自分では「アベノミクスの歴史的背景」と名付けて出稿したところ、最初のゲラでは「是清がアベノミクスを見れば」になり、最後はこういう題名になりました。おそらく4本目の矢はエネルギー政策ということになるんじゃないかと思います。

市場深読み劇場 「黒田日銀」の金融政策は、白か黒か灰色か

――またしてもオフサイドしてしまった感あり。ブラックコーヒーこと黒田さんは本日、無事に承認された模様。

○さらに今後は、日曜日の北日本新聞「時論」、月曜日の世界経済評論IMPACT、火曜日のSPA!「ニュースディープスロート」などが続々とお目に触れる機会があるかと存じます。

○それでもまだ1本残っている。明日は冬物を買いに行かなくちゃいけないんだけど・・・。


<3月16日>(土)

○最後に残った宿題をようやく片づけて、いよいよ明日はご出立である。防寒帽や滑りにくい靴も買い込んだ。そして今頃になって、国際会議の発表内容を詰めている。いざ来いロシア。

○でもきっとロシアのメシはそんなに旨くはないだろう。ということで、今宵は柏市内のクアトロで家族でイタリアン。ワインも頂戴してすっかりいい気分である。

○よし、これで帰国後は守谷市のラーメン次郎に行くぞ、と宣言する。すると娘たち曰く。「あ、死亡フラッグが立っている」「いや、きっと脂肪フラッグだ」。

○そんなことは構わんから、出張中に脂肪を落として帰ってくる所存。家族の愛情が身に染みる出張前夜なのであった。


<3月17日>(日)

○さてもさてもロシアである。きっとろくでもない経験がいっぱいできるだろう、と最初から偏見のハサミを研ぎ澄まして構えておる。ところがあにはからんや、モスクワ到着は意外とスムーズなのであった。

●アエロフロート機:

アエロフロートが本当にアエロフロートであったのは、ソ連製の機体が飛んでいたころの話であって、今では普通のエアバスの機体なのでそんなに居心地が悪いわけではない。それにしてもロシア人の巨体が、よくまああんなに狭いエコノミークラスの座席に入るものだと感心する。通路をいっぱいに塞ぐようなCAがいる、というのも大仰な話で、若くて美人のCAもちゃんといたぞ。しかるにあの座席に10時間座っているとさすがに疲れるわ。

●寒さ:

「最近になって気温が5度まで上がり、雪が溶けて道がぐちゃぐちゃ」と聞いていたのだが、この程度ならまあ何とかなりますわ。ウォーキングシューズやら毛糸の帽子を買い込み、昔のスキー用手袋を引っ張り出して持参したのだが、今日のところはまあなんとか。

●入国管理:

長蛇の列を覚悟して入ってみると、外国人レーンはせいぜい5人くらいの行列であった。しかも全体に明るくてきれいである。往時を知るロシア専門家ベテラン陣によれば隔世の感があるとのこと。IT化も進んでいる。入国管理カードを書いてないけどいいのかなあ、と思っていたら、ちゃんと自動で紙が出てきて、それをパスポートに挟み込んでハイおしまい。もっとも、短期滞在でもビザとホテルのバウチャーが必要、という入国管理スタイルはあまり変わっていない。

●交通渋滞:

「2時間は覚悟してください」「最悪3時間と言うことも」などと散々脅かされてきたのであるが、日曜の夜ということもあってか非常にスムーズ。1時間ちょっとで着いてしまった。ラッキー。モスクワ大学はなかなかに壮観でありますな。

●コルストンホテル:

「ホテルのフロントでパスポートを一晩取り上げられる」という説明であったが、今では写しをとってハイおしまい、である。しかも館内はWiFiでネットに簡単につなげるし、国際電話もタダであるという。なんなんだこれは。

ところでこのホテル、以前はカジノを併設していたのだが、近ごろは禁止になってしまい、跡地利用に苦労しているらしい。カジノなんてものは、現金商売だから一度始めるとなかなかに止められないものなのだが、お上の一声で禁止にできてしまうというところがさすがはロシア。これが中国なら、かならず法の目をかいくぐるのだが。

○ということで、明日は「日露専門家会議」なるものに出席するのであるが、これをどの程度書いていいかはよくわからないのである。「完オフ」だとか、「チャタムハウスルール」だとか、「ちょっとくらいならいいだろう」など、諸説入り乱れているので、明日以降は適当に空気を読みながら書くことにします。


<3月18日>(月)

○日露専門家会議の相手側は、IMEMO(科学アカデミー世界経済国際関係研究所)である。日本側の安全保障問題研究会との対話は、ソ連時代の1973年から始まっているのだそうだ。小雪がちらつく零下5度くらいの中をIMEMOに到着すると、ちょっと古めでシンクタンクにはふさわしい荘重なビルである。

○今日のプログラムは、なぜか最初がいきなり「コーヒータイム」であった。そして会場には、簡単なお菓子とコーヒーマシーンが置いてある。ところがジャーをひねると出てきたのはただの熱湯であった。なんと近くにネスカフェの粉が置いてあって、それを入れてからお湯を注ぐシステムなのである。せっかくなので、IMEMO製インスタントコーヒーを頂戴する。これ、意外と悪くないものですぞ。

○防衛研究所の兵頭先生に聞くと、ロシアはやはり紅茶文化圏なので、コーヒーは二の次になってしまうらしい。あ、そうそう、紅茶にジャムを落としてロシアンティー、というのはどうやら日本だけの勘違いらしいです。そんなこと、誰もしてませーん。

○会議場には、ああこれがインテリゲンツィアというものなのか、と思うようなロシア人の専門家が並んでいる。いずれもタルコフスキーの映画に出てくるような陰影に富む表情で、温暖な自然環境ではけっして育たないような男たちである。これで実年齢を聞いたら、実は40代くらいで俺より若かったりするんだろうな、などとつい考えてしまう。こういう人たちにふさわしいこういうビル、という感じでありました。

○それにしても、なぜ冒頭がコーヒータイムかというと、今のモスクワは交通渋滞があまりにひどいので、定刻に全員が集まれないからなのであった。しかるがために、文字通り三々五々という感じで人が増えていく。今のモスクワは、インテリゲンツィアには生きにくい世の中なのかもしれません。いや、世に受け入れられないからこそ、インテリというものなのでありましょうか。そんなロシア風憂鬱の中で、専門家会議の議論は日ロ関係の迷路に分け入っていくのでありました。

○ちなみに後でモスクワ大使館の方から、「今日は天気が良くてよかった」と聞いてちょっと焦った。少し前には雨が降って地面がぐしょぐしょ、大雪が降る日もあるので、今日くらいの天気がこの季節にはいちばん良いのだとか。明日はまた緩むらしいが、そうなるとまた足元に注意しなければならないとのこと。ここで一句。

春浅しインテリゲンツィアの翳見ゆる。


<3月19日>(火)

○ロシアのインテリゲンちゃんたちと議論していると、彼らはとっても戦略オタクなのである。戦略オタクとはどういうことかというと、世界全体を見る「上から目線」を持っているということ。これって縦割り組織下のタコツボ思考が大得意で、ついつい部分最適を作って満足してしまう日本人の気質とは全く正反対のものです。考えてみれば、昔はアメリカと並ぶ2大超大国で、核戦力という面から言えば自分が圧倒的な強者なんですから、国際情勢を語る際に「上から目線」になるのは当然でありましょう。

○ところがこの「上から目線」には重大な問題点もありまして、それは経済オンチになりがちだということ。純軍事的に見れば、中国は脅威ではないという風に見えるんでしょうが、経済的には重大な挑戦を投げかけているわけであって、その辺のことは頭では理解していても、経済成長の具体策みたいなことになるとしばしばピントがずれている。「頭でっかち、お手手がお留守」なのであります。北極星の位置から地球儀を見降ろすような高邁な思考をしていると、ついつい下部構造が見えなくなってしまうのでありましょう。

○ところでこの「北極星の視点からの思考」というのは、ロシアの大地に立って考えてみるとそうなるのは自然な流れなのかもしれません。これは今日、ロシア外務省を訪問して教わったのですが、アジア局は以下のように分かれているんだそうです。

●第1アジア局(中国、朝鮮半島担当)

●第2アジア局(インド、南アジア担当)

●第3アジア局(日本、東南アジア担当)

○これがアメリカの場合だと、アジア担当は国務省でもNSCでもUSTRでも、日本担当と韓国担当が重なっているのでありますが、それよりも上記の方が合理的なんじゃないかと思います。とりあえず昨今の日本といたしましては、韓国と一緒にされるのは願い下げで、東南アジアと一括りにしていただく方が心安らかに感じられますので。

○そしてロシアの側から見ると、「第1」は国境線を接していてのっぴきならないアジア。「第2」は歴史的に友好関係にあったインドを中心に親しみのあるアジア。「第3」は海の向こう側の遠いアジアということになるのでありましょう。そしてロシアの国益から見たら、当然優先順位は第1>第2>第3ということになるのだと思います。

○こういう頭の構造を前提とすると、「領土問題」という局所にこだわる日本側の発想は「ああ、なんてウザい奴」ということになってしまうんじゃないかと思います。なにしろ日本から見るロシアは、雲にそびゆる巨人のごとき風情がありまして、日露戦争のときは本当に怖かったんですから。のび太が見るジャイアンは、それこそ実態の何倍もの大きさに見えてしまう。それこそ管の中から天を覗くかのごとき「下から目線」になってしまうのです。

○そこで(日本側にとっては)肝心の領土問題であります。どうやらプーチンが言っている「引き分け」とは、現状維持の「ゼロ回答」から1956年の日ソ共同宣言の「二島返還論」に歩み寄ることが、ロシアにとっての「痛み」になるので、これが受け入れ可能な最大限の譲歩であるということらしい。逆に日本側は、二島返還論は出発点であって、MAXの要求が四島返還論であるから、その間のどこかで手を打つことが「痛み」ということになる。つまり「0〜2」で考えている先方と、「2〜4」で考えている当方との間で、どうやって「引き分け」にすればいいのかということになる。これって簡単じゃありませんぞ。

○さて、本日のモスクワはひっきりなしに細かな粉雪が舞い、風も強めで寒さが身に沁みます。街中を移動していてわかったのですが、ここには「駐車場」というものがほとんどなくて、皆さんが路上駐車をガンガンやってしまうのです。「天下の公道だ。俺のクルマを止めてどこが悪い」てな感じです。そうして一車線になっているところでクルマの乗降をする人がいたりすると、たちまち渋滞が起きてしまうのです。いかんですねえ。

○だったら駐車違反をどんどん取り締まればいいと思うのですが、恣意的に交通法規を取り締まり、見逃しては賄賂をとると悪評高き交通警察も、そっちは手を出さないみたいです。で、ご当地アネクドートのご紹介。


セルゲイ君は念願かなって、交通警察の一員となった。さっそく日々、職務に精励していたところ、3か月後に上司に呼び出された。慌てて出頭したセルゲイ君、おそるおそるお伺いを立てた。

「あのー、私が何をしたんでしょうか」

「君なあ、仕事をしているんだったら、ちゃんと給料を取りに来ないとダメじゃないか。もう3か月分もたまっているぞ」

「え?お給料もいただけるんですか?」


(やっぱりこういうのがないと、溜池通信らしくないですよねえ)



<3月20日>(水)

○ロシア人がかぶっている毛皮の帽子というやつ、あれは伊達ではないのであります。人間の頭というものは周囲に肉も脂もついてませんから、極度な寒さにさらされていると脳が変になってしまうのだそうです。ですからスキー帽でも何でもいいから、ちゃんと耳が隠れる帽子があった方がいい。その昔、『銀河鉄道999』でメーテルがかぶっていたのは、完全にファッション上の帽子だったと思うのですけど

○こんな状態ですので、「モスクワで散歩」というのは「北京でジョギング」と同じくらい危険なことであります。ちゃんと武装しておかなきゃいけません。とはいえ、それでも元気に1日に5件くらいのアポイントをこなしております。寒さは何とかなるのですが、日本との5時間の時差があるために夜はすぐ眠くなる、朝はすぐ目が覚める。われながら夕方をすぎると急速に力が抜けていきます。ちなみに時差は以前は6時間だったのですが、現在は「1年中夏時間」にしてしまったので5時間となっております。

○さて、本日はロシア土産の定番、マトリョーシカについてのご紹介です。アルバート通りを歩くと、この手の土産物を並べたお店がたくさんございます。まあ、こんな感じですけど、可愛くないですなあ。日本の「ゆるきゃら」の方がよっぽどセンスがあると思います。特に昔の日本の少女漫画にあった「恐怖もの」にあったような絵柄のものは、夜中に見たら恐怖で眠れなくなるようなド迫力です。

○これが中国であれば、きっと著作権侵害物の「ピカチュウ・マトリョーシカ」が並んでいたりするんでしょう。ちなみにロシアは昨年、WTOに入ったばかりですが、知的財産権がらみの話はあまり聞きません。モノマネ精神が乏しい国なのかもしれません。日本のサンリオあたりが参入して、日ロ合作のマトリョーシカを作ってみてはいかがでありましょうか。

○マトリョーシカの中には「政治もの」というジャンルがあります。早くも習近平国家主席のものができておりました(間もなく初の外遊先としてロシアを訪問します)。中を開けると胡錦濤が出てきて、その次は江沢民で、さらにケ小平が出て、最後は小さな毛沢東が出てくるという手が込んだものです。感心するけど、買わないよねえ。もちろんプーチンのものもありますぞ。ちなみにメドベージェフ首相との「タンデム政権」という言葉は、当地ではすでに死語となっていて、やっぱりプーチンの力が圧倒的に強かった模様です。

○こんな風に世界中の政治家のマトリョーシカが並んでいて、先日亡くなったチャベス大統領やら、引退したばかりの李明博大統領なんかもいましたけど、さすがに日本国首相はゼロ。あまりにもしょっちゅう変わりすぎるし、歴代を入れたりすると訳が分かんなくなりますものね。さて、安倍さんのマトリョーシカが誕生することはあるでしょうか?

○そんな中で唯一、日本人キャラを発見!それはサッカーの本田圭佑。彼はモスクワの選手なんですねえ。けがのために中東遠征のメンバーからは外れちゃいましたが、日ロ両国のファンがプレイを待ち望んでおりますぞ。


<3月21日>(木)

○モスクワの赤の広場に行ってきました。あのネギ坊主型の聖ワシリィ大聖堂とかレーニン廟(工事中だった)などが有名ですが、私なんぞの世代にはルスト君(なぜか君付けになる。当時19歳)によるセスナ機の強行着陸事件が懐かしく思い起こされます。あれで責任者の首がいっぱい飛んで、ゴルバチョフ書記長によるペレストロイカが進んだんですよねえ。

○で、そんなことより、ここにくっついているショッピングモールが印象深かったですな。いやもう、資本主義の害毒はここまで浸透しておるか、てな感じですわ。世界中のブランドが一堂に会している光景は、世界中どこでもいっしょなんですけれども、おいおいロシアよ、ここには自国の製品が全くないではないか。なにしろそこは、「世界的ウオツカ・ブランドのトップ5には、ロシア企業の名は見当たらない」(『ブレイクアウト・ネーションズ』P130)という国である。そして「モスクワ証券取引所には、世界的な製造企業が1社も上場されていない」

○モールの中には、もちろん「ソチ2014」のショップなんかも出ておるのですが、キャラクター商品はいまひとつ可愛くないし、店員もまるでやる気がなさそうでありました。ロシアは見事に消費大国ではあるのですが、製造業では国際的製品のプレーヤーが育っておらず、コモディティ以外の大手企業が見当たらないのです。

○にもかかわらず、ロシア経済は2002年から2011年にかけて「一人当たりGDPが5.5倍になる」という快挙を遂げている。あれだけあった政府債務も、ちゃんと返してしまった。ところがこの先の成長ストーリーが描けない。特に極東ロシアは、1990年ごろに800万人いた人口が、昨年1月には627万人まで減っている。そんな中、ウラジオストックでのAPEC開催のために200億ドルの公共投資を実施した。でも、終わってしまったその後はどうしたらいいのか。

○こちらで各界の識者にヒアリングをしていて、とある社会学者との会話でこんなことがありました。


日本側:北方領土、あなたがたの言う南クリルでは、大規模な公共投資が行われていると聞きます。ところが実際に島に行ってみると、あまりたいしたことないのですよ。あのお金はいったいどこへ消えているんでしょうか?

ロシア側:ソチじゃないですか。


○キレのいいアネクドートに出くわさない旅なんですが、これは笑っちゃいましたな。冬季五輪は始まるのが早いし、たしか10月には聖火リレーが始まりますので、あと半年もするときっとソチ五輪が盛り上がってくるでしょう。

○1990年代以来の日本の経験から行くと、人口減少地域で公共投資中心の経済運営を目指すと、「箱モノの維持費がかかって財政赤字の元」となるのが落ちである。そして、イベントによる地域振興っていうのもあまりいいことがない。ロシアはちょうど、長野五輪のころの日本経済なのかもしれませんな。


<3月22日>(金)

○普段からのんき者の筆者でも、このモスクワで5日も過ごすと、次第に用心深くなってくる。とにかくコートと帽子は手放せない。忘れたりすると、文字通り命に係わる。リーボックのシューズも買っておいて大正解だった。とにかくコストは度外視して、セキュリティに万全を期さねばならないという発想になっていく。

○ロシア外交の基調をなすのは「用心深さ」と「猜疑心の強さ」でありますが、気候のもたらす影響というものは、まことに無視できないものがあります。とにかくセキュリティが最優先。国境線はなるべく遠くに引こう、と考える。今のロシアでも、セキュリティ関係の人間がやたらと多くて、議会の建物に入るときなど文字通り30分前に到着する必要があります。代わりに効率性は犠牲になります。やたらと無駄の多い社会なんですねえ。経済活動にはまったく向いていないというしかありません。

○さて、今朝はホテルから近い「雀が丘」に行ってきました。眼下をモスクワ川が蛇行し、その向こうに市街地の全貌を見下ろすことができる絶好のポイントです。そして背中側にはモスクワ大学が威容を誇っている。ここの展望台は望遠鏡が並んでいるのですが、信じられないことに全部タダなのであります。とはいえ、あんまり風が冷たいので早々に退散いたしました。零下8度であったそうです。土産物屋の類も一切出ておりませんでした。

○この雀が丘を訪れた有名人がナポレオンであります。ロシア侵攻時にこの丘からモスクワの全容を見下ろしたわけですが、あにはからんや敵は焦土戦術に打って出て、街はほとんど失われてしまっていた。花のパリからこんな遠くまでやってきたのに、これぞ踏んだり蹴ったり。ロシアの主力軍は広大な国土で縦深陣形を取り、そこへ「冬将軍」がやってくる。

○この戦略発想もロシアならではで、勝てないとなったら平気で退却する。しかも大切な自分たちの街に火を放つ。文字通り「退却するロシア軍に注意」というやつで、こんな連中を敵に回してはいかんのです。なおかつ、自分たちに利があるとなったら遠慮なく前へ出てくる。危うくなったら大事なものでも平気で捨てる代わりに、自分が有利な時に遠慮はしない。いわば「伸縮自在性」ですな。この発想も、ロシアの気候と地理的条件から形成されたものなのではないかと思います。

○厳しい自然条件は、ロシアが低信用社会となった主たる原因でもある。今回の安保研代表である袴田茂樹先生は、個人主義が成立している西欧は「石社会」、人間関係が濃密な日本は「粘土社会」、そして流動性の高いロシアは「砂社会」なのだと評しています。高信用社会の典型である粘土・日本から見ると、砂・ロシアには流しのタクシーというものが存在しないことに唖然としてしまう。あるいは、ロシア経済における金融システムの未発達という問題がある。

(と、ここで思わず筆者は、金貸しのおばあさんを殺してしまった『罪と罰』のラスコーリニコフを論じたくなったりするのであるが、収拾がつかなくなりそうなので断念する)

○日本のような高信用社会においては、「損して得とれ」とばかりに長期的視点が重要になる。これとは対照的に、低信用社会においては「取れるだけ取る」という行動が合理的となる。キッシンジャーは大著『外交』の中で、スターリン外交を「砂漠のバザール商人」と表現した。あくどい手練手管に過ぎなかったのだが、多くの同時代人にはそのことがわからなかった。つまり、ロシア外交は究極のリアリスト外交ということにもなるのです。

○てなわけで、@セキュリティ重視、A伸縮自在性、B究極のリアリスト、という3点をロシア外交の特色と考えてみると、これらは全部、自然条件によってもたらされているということになる。とかく理念に目が曇るアメリカ人や、基本的にお人よしの日本人にはこれがなかなか理解できない。てなことが、感じられた今回の出張でありました。

○だって再びアエロフロート機で10時間かけて帰ってきたら、成田空港ではもう桜が咲いているんだもの。幸いなことに、この国は「お天道様と米の飯はどこに行ってもついてまいります」という呑気な国なんです。ありがたいことです。風呂も長時間浸かるし、ウォシュレットもあるんです。筋肉を弛緩させながら、明日以降の日々を過ごしたいと思います。


<3月24日>(日)

○文春新書から『アベノミクス大論争』が出版されました。文芸春秋社の編集なのに、なぜか中央公論2月号に掲載された「リフレ政策は有効か」座談会(小幡績x飯田泰之x吉崎)が収録されている。お蔭でワシのところにまで献本が来た。太っ腹ですな。

○こちらはモスクワで冷たい空気にさらされていたから、アベノミクス論争なんてほとんど忘れておりましたがな。そういえば先週の間に、黒田日銀も船出していたのであった。遅れを取り戻さないと、確か今週末の朝生もアベノミクス論争であったはず。さらに言うと、来週くらいには日経プレミアシリーズからも同工異曲の本が出るはずである。

○ところで例の「アベノミクス・ジョーク」は最近、次のような進化を遂げているらしい。一緒にモスクワに行っていたI記者が教えてくれたのである。


大阪における「キタ」(梅田)と「ミナミ」(難波)に次ぐ第3の繁華街、「阿倍野」のお好み焼き屋が新しいセットメニューを考えた。

「うちのミックス焼きはアベノ・ミックスや。ドリンクには三ツ矢サイダーもサービスするで。これで大阪も景気回復や!」

たちまち評判となり、千客万来となった。

そこで朝日放送の「探偵ナイトスクープ」が取材にやってきた。店主にカメラを向けて、探偵の桂小枝が聞いた。

「親父さん、これで大阪も景気回復でっか?」

すると店主は冷静に答えた。

「無茶言いなはんな。ウチはお好み焼き屋やで。アベノミックスは所詮コテ先や」


○「三ツ矢サイダー」は気がつきませんでしたな。こんな風にジョークの進化にお付き合いできるのは楽しいものです。まあ、論争の方はボチボチということで。


<3月25日>(月)

○またしても読者の方から重要な示唆をいただきました。昨日のジョーク、こういう「落ち」にすることもできるんですね。


すると店主は冷静に答えた。

「当たり前でんがな。ウチはお好み焼き屋やで。アベノミックスは鉄板や!」


○競馬の世界では、よく「鉄板レース」なんて言葉がありまして、昨日の高松宮記念におけるロードカナロアなんかが典型であります。ところがそこは競馬ですから、鉄板はしばしば抜けるのです。来週の産経大阪杯なんぞも、普通に考えればオルフェーヴルの一点読み(現時点で単勝1.6倍)なんですが、いかにも危なっかしい。ああ、心配だ。

○ここはやっぱり、「コテ先」という言葉の方がいい味になってるんじゃないかと思います。まあ、私自身の心境から言っても、アベノミクスは成功してほしいけれども、そこまでの自信は持っていませんのでねえ。


<3月26日>(火)

●ドラえもん、映画動員1億人突破

 1980年(昭55)から34作を数えるアニメ映画「ドラえもん」シリーズの累計動員が25日、1億人を突破した。配給の東宝が発表した。公開中の「ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」(寺本幸代監督)が同日までの16日間で興収20億円、動員180万人を突破し、累計動員は1億30万人。同じ東宝の「ゴジラ」シリーズ(28作品)の9900万人を超え、邦画シリーズ動員数トップに立った。

日刊スポーツ [2013年3月26日6時9分]


○1位がドラえもんで1億人突破、2位がゴジラで9900万人。寅さんシリーズは8000万人なんだそうです。さすがに生身の人間にできることは限界がある。その点、怪獣映画やアニメ映画には限界がない。果たしてこの記録、いつまで伸びるのか。

○聞くところによれば、最近の「ドラえもん」ではジャイアンがあまりイジメをやらず、しずかちゃんの入浴シーンもなくなっているんだそうで。うーん、こんな風にして"Politically Correct"なドラえもんが広がるのだったら、ちょっと嫌かも。子供の世界の残酷さを教えてくれるところに、あのドラマのよき教育効果があったと思うのですが。

○もう一点、余計な話ながら、この話はちょっと驚きました。裁判所の前で、弁護側が掲げる紙のことを「びろ〜ん」って言うんですね。こんな風に使うんでしょうか。

「今日の判決、びろ〜んは何枚用意しましょうか?」

「うーん、そうだなあ。『勝訴』と『不当判決』と、そうだな、あとは『一部認定』と、3枚くらいでいいんじゃないか?」

○「違憲」はともかく「無効」が出ちゃうなんて、最近の司法は思い切りがいいですなあ。


<3月27日>(水)

○今日はミレニアム・プロミス・ジャパンの理事会。早いもので、今年は設立から5年目になる。いろんな人が活動にかかわってきたけれども、理事長さんとの妙なご縁により、アフリカには一度も行ったことのない(正直に言えば、あんまり行きたいとも思っていない)私めが、なぜか発足以来の理事を務めている。

○MPJは、ちょうどTICADW(第4回アフリカ開発会議)が行われるという2008年に誕生したNPOである。あの年は、洞爺湖サミットでアフリカ問題が討議された。今年は6月にTICADXが行われるけれども、たまたまその直後が英国でのG8サミットなので、再びアフリカ問題が脚光を浴びそうだ。別に日本が中国に張り合う必要もないのですけれども、アフリカにコミットしておいて損することはない。その上で、「中国はアフリカのトップ層に対して派手にサービスする。日本はそれと同じことはできないけれども、アフリカの普通の人々に貢献する」と言えばよいのだと思います。

○今月、とうとうMPJは東京都の「認定NPO法人」となり、税制上の優遇措置を受けられるようになった。寄付に冷たい日本の税制というのも、ちょっとずつ変わっているようだ。ご関心を持っていただける向きには、どうぞご協力を頂けるとまことにありがたく存じます。


<3月28日>(木)

○昨日は寒かったですが、都内の桜はなんとか耐えた様子。今週末はお花見ですな。まことに結構なことで。

○花見を終えた後に、来週からは新年度入り。2013年度が気持ちよく始まりますように。で、その前に一仕事。CM行きます。


●朝まで生テレビ 今月のテーマ

2013年3月29日(金)
25:25〜28:25

激論! アベノミクスは日本を救うか?!


円安・株高― 企業の賃上げ―
 日銀新総裁誕生― TPP交渉参加表明―
“アベノミクス”とは何か?
「三本の矢」とは何か?!
ド〜する?!デフレ脱却
ド〜する?!TPP
ド〜なる?!国民生活
ド〜なる?!日本経済
賛否両論!アベノミクス!
    多士済々が徹底討論!


番 組 進 行:渡辺 宜嗣(テレビ朝日アナウンサー)
村上 祐子(テレビ朝日アナウンサー)

司   会:田原 総一朗

パネリスト:斎藤健(自民党・衆議院議員、元経産官僚)
大塚耕平(民主党・参議院議員、元日銀職員)

飯田泰之(駒澤大学准教授)
池田信夫(アゴラ研究所所長)
石黒不二代(ネットイヤーグループ代表取締役社長)
荻原博子(経済ジャーナリスト)
小幡績(慶応大学大学院准教授、元財務官僚)
岸博幸(慶応大学大学院教授、元経産官僚)
高橋洋一(嘉悦大学教授、元財務官僚)
吉崎達彦(双日総研チーフエコノミスト)


○余計な心配ですが、今年の桜花賞は4月7日なんですねえ。大丈夫かなあ、阪神競馬場の桜は。


<3月30日>(土)

昨日の朝生で、やや脱線的に飛び出した議論について少々補足。

○議員の定数是正問題。「一票の格差」って問題、あたしゃあんまり関心がないんですよね。今住んでいる千葉8区は柏市40万+我孫子市15万で1議席。まあ、首都圏じゃ普通の規模かと思います。他方、鳥取県が58万人で人口を比べるとそんなに変わらない。でも、鳥取県は因幡と伯耆で別の国なんだから、そっちは議員が2人いていいだろう。それが不公平だとあまり感じないのは、地方出身者だからかな。もちろん「法の前の平等」という原則は民主主義の基本だけど、そりゃ面積だって少しは重要でしょ、と思っておるのです。

○ところが国会が定数是正をあんまり怠けていたものだから、司法が「違憲」とか「無効」という判決を出し始めた。これで先の衆院選はやり直しだ、なんて声もある。さて、どうするか。簡単だ。定数を是正するのなら、都市部で議席を増やせばいい。減らして数を合わせようとするから大変なんで、それこそ話が進まなくなる。デフレのときよりもインフレのときの方が利害調整が楽だ、という典型みたいな話です。

○ところが一方で、野田首相のときに「議員定数削減」と言っちゃっているからややこしい。こっちの議論もあたしゃもともと興味がない。議員定数を減らしたところで、浮く金はたかが知れている。そんなことに労力を割くくらいなら、別のことに使ってほしい。人口で日本の半分程度のイギリスやイタリアは、下院に600人くらいの議員がいるじゃないの。別に日本がそんなに多いわけじゃないのである。

○政治に対して、「議員の数を減らして」「定数も是正せよ」などと言う人がいる。そりゃあ無茶やろ。無理なことを言って、それができないからと言って怒るのはあまり生産的なことではない。そんな議論をしているために、ほかのことがたくさん目詰まりしてしまう。せめて要求をどっちかに絞るべきだと思いますな。


<3月31日>(日)

○明日から新年度入り。新入社員が月曜日から出社する、というのは、なんとなくいいことなんじゃないかと思います(金曜日が来るのが遅い、かもしれないけど)。ワシが社会人になった1984年は、初出社は4月2日で月曜日であった。あれからもう29年目になるのだけれど、妙なことをいつまでも覚えているものである。

○で、ちょっと気になっているのは、「1-3月期の景気は良かったけど、これが4-6月期も続くのかどうか」。あんまり心配いらないと思っていたのだけど、29日(金)朝に発表された2月の鉱工業生産を見てから、急に不安になってきた。もともと前月比+5.3%の予測であったところが、ふたを開けてみたら▲0.1%だった。これはえらい違いである。

○このところ、生産予測調査が何度も大きく外れている。昨年12月も事前の予測は+6.7%だったのに、結果は+2.5%だった。そして1月の予測は+2.6%だったけれど、これが確報では+0.3%となっている。ひょっとして、経済産業省が前のめりになっているのか。あるいは調査に答える製造業の現場が、楽観的になり過ぎているのか。どうも生産の動向に関する「読み」が外れているような気がする。

○2月の鉱工業生産では、出荷は増えているし、在庫も順調に減っている。3月の予測は+1.0で、4月の予測は+0.6%である。だから心配はいらない、というのがコンセンサスであろう。何とかこのまま生産が改善し、実体経済も順調に回復してもらいたい。ただし悲観の芽もある。円安でも2月の実質輸出は良くなかったし、1月の機械受注も悪かったから、設備投資はあんまり動いていないかもしれない。こうなると明日の日銀短観が気になるところだが、アベノミクスで気分は上向いているところなるも、4-6月期の実体経済は慎重に見ていく必要があるだろう。

○もう一つのリスクは、今週4月3〜4日の金融政策決定会合で黒田日銀の新方針が打ち出される見込みなのだが、それが市場の期待外れになる場合である。外国人投資家は、「何かものすごいウルトラCがある」と思っているようなのだが、それはちょっと違うと思う。黒田氏は国会における所信聴取の席で「やれることはなんでもやる」と言った。この言葉は、「できないことはやらない」の裏返しでもある。今週は、ある程度の円高と株安があるかもしれない。

○こうなると、いちばん頼りになるのは公共投資である。補正予算で積んだ10兆円の予算のうち、年度内に使ったのは1兆円のみだそうなので、9兆円を使い残して新年度を迎えている。2013年度の景気を支える虎の子の9兆円と言えるかもしれない。

○「なんだ、財政支出が頼りかよ」と言われるかもしれないけど、ここが三本の矢の強みというものである。1-3月期の好調さが明日からの4-6月期でも続くかどうか。初心忘るべからずの精神で見ていきたいと思います。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki