●かんべえの不規則発言



2006年2月






<2月1日>(水)

〇先月の不規則発言は、替え歌などのパロディが非常に多かった。まだ勢いが止まらなくて、こんな駄洒落を思いついてしまった。

●野党の議員が国会食堂に入った。席に座って、ふと愚痴がこぼれた。

「いやー、ここに来ても、何も食べるものはないんだけどなあ」

するとどうだろう。ドン、という音がしたと思ったら、目の前には大きな大きなBLTサンドイッチが置かれているではないか。

「おお、すばらしい。BSE問題にライブドアに耐震強度偽装!どこから食べていいのか迷うくらいだ!」

野党議員がBLTサンドに手を出そうとしたところ、またしてもドン、という音がして、目の前に新しい皿が置かれていた。

「おお、今度はデザートに団子!これではお腹を壊しちゃうんじゃないか・・・・。


〇いやー、BLT疑惑に談合が加わっちゃったんじゃ、野党の皆さんはお腹いっぱいでしょうが、変な食べ方しちゃダメですよ。効果的な市場監視策を考える前に、ライブドアショックを小泉さんのせいにするとか、マンション強度偽装の被害者救済を考える前に、ヒューザーと安倍さんの関係を追及するとか。そんなの「自民党クラシック」を喜ばせるだけじゃないですか。「BLT+D」の四点セットは、あくまでも敵失であって、野党が自分で用意した材料じゃないですからね。

〇ということで、国内ネタ終了。ハイ、本日のメインは一般教書演説であります。

〇全文を読み終えた感想は、「今年はバットを短く持って、ヒットを狙って当てに行ったな」というものです。昨年の一般教書演説(不規則発言の2005年2月3日分参照)が、思い切りホームラン狙いの大振りであったことを考えると、今年はまず見出しを考えるのに苦労する。「あれをする、これをしたい」という大きな目標がなく、全体にちょっと冴えない印象を与えたかもしれません。さっそくギャラップ社が行なった調査によれば、下記のような感じであった。

  2006年 2005年 2002年
良かった(Positive) 75% 86% 94%
とてもよかった(Very Positive) 48% 60% 74%
正しい方向だ(Right Direction) 68% 77% 91%
間違った方向だ(Wrong Direction) 28% 20% N.A.


〇2006年の一般教書演説は、2002年の「悪の枢軸」演説や2005年の「公的年金改革」のような派手さはありません。おそらく、歴史的な位置付けもそれほど大きくはありません。しかし、それは無理のないことであって、これはブッシュにとって6回目の一般教書演説なのです。すでに大統領として5年の任期を過ごしているわけですから、今さら「あれがやりたい、これをしたい」ではない。むしろ「これだけの成果を挙げました」といわなければならない。

〇そして、ここがいちばん重要な点ですが、今年の一般教書演説は対象とすべき相手がハッキリしていた。よく政策を議論するときに、「この政策のクライアントは誰だ?」てなことを言いますが、それと同じで「この演説は誰に聞かせたいんだ?」を絞り込む必要があります。2006年は中間選挙の年ですから、まずそこを押さえておかなければならない。2006年の一般教書演説のクライアントは、「穏健・中道派の共和党員」であったと思います。

〇なぜ、そこに焦点を当てる必要があったのか。まず、今年の中間選挙においては、民主党員はけっして共和党には投票しないだろう、ということが挙げられます。そもそも民主党員は、ブッシュの顔も見たくないと思っていますから、一般教書演説の視聴率も低い。ギャラップの調査によれば、テレビを見た人の中で共和党支持者(43%)は民主党支持者(23%)に20ポイントも差をつけている。ですから、民主党支持者の歓心をひこうとするのは、最初からあきらめた方がいい。

〇その上で、ブッシュがもっとも警戒すべきは共和党の分裂であります。なんとなれば、共和党穏健派の議員の間では、イラク政策や経済問題でブッシュから距離を置こうとする動きが散見される。これは当然で、「人気のないブッシュと道連れになるのは真っ平御免」という計算が働くからだ。彼らを震撼させているのは、たとえば以下のようなデータである。

Generic Congressional Vote
Poll Date Republican Democrat Spread
RCP Average 1/20 - 1/26 36.8% 48.0% D +11.2%
ABC News/Wash Post 1/23 - 1/26 39% 51% D + 12%
Cook/RT Strategies* 1/22 - 1/25 39% 51% D + 12%
LA Times/Bloomberg 1/22 - 1/25 35% 47% D + 12%
CBS News/NY Times 1/20 - 1/25 34% 43% D + 9%


〇「ジェネリック調査」という呼び方が笑えるんだけど、これは「もしも投票日が今日であったら、どっちの党に入れますか?」(If the election was held today, which party would you support?)という設問のことです。さあ、結果を見て焦ってください。中間選挙は11月7日だから、まだまだ挽回は可能だと言ってあげたいところですけれど、ほとんどの調査で二ケタの差がついてしまっている。普通、この差が5%もあれば大勝利できるものですから、10%は地滑り的な大差を意味します。

〇普通に票読みをすると、中間選挙は共和党が有利です。懐かしいCook Political Reportさんを覗いてみましょう。

2006 Seats Held At-A-Glance

 

Senate

Governors

House

 

REP

DEM

REP

DEM

REP

DEM

Current Breakdown:

55

45*

28

22

232

203

Total up in 2006:

15

18

22

14

232

203

Not up in 2006:

40

27

6

8

-

-

 
Solid

8 (48)

9 (36)

4 (10)

4 (12)

190

182

Likely

1 (49)

1 (37)

4 (14)

7 (19)

24 (214)

11 (193)

Lean

1 (50)

7 (44)

4 (18)

4 (23)

9 (223)

8 (201)

Toss Up

5 (55)

1 (45)

8 (26)

1 (24)

9 (232)

2 (203)


〇下院(House)は共和党が有利で、Solid+Likely+Leanを併せるだけで223議席と、これだけで過半数はゲットしてしまいます。ゲリマンダーはまことにありがたきかな。ところが問題は上院(Senate)です。こちらは下院と違って任期6年ですから、改選議席は33のみ。これで共和党が民主党を10議席もリードしているのですから、普通は与野党逆転なんてありえないはずなのです。そりゃそうでしょ。極端な話、共和党は11勝22敗でもまだ多数派で居られるのですから。

〇ところがですな、共和党は現職15議席中、Solid+Likely+Leanまで足してギリギリ10議席にしかならない。逆に民主党は現職18議席のところ、Solid+Likely+Leanで17議席まで確保している。形勢不明(Toss Up)の6議席の帰趨如何では、あり得ないはずの与野党逆転が起きてしまうのです。これが起きたら一大事であって、そうなったら2007年から08年のブッシュ政権はホントにレイムダックになるでしょう。

〇さらに知事(Governors)さんたちの焦りは深い。22人もの共和党知事が改選を迎えるが、Solidは4人しか居ない。今年の中間選挙では、民主党の大旋風が吹き荒れそうなのだ。これでは現職の議員や知事たちは、支持率43%のブッシュ大統領には近づかない方が無難だということになる。というより、反ブッシュの態度を取った方が自分の選挙には有利だということになる。日本における2000年総選挙を思い起こしていただけると分かりやすいでしょう。あのときの森首相のように、ブッシュは周囲に味方がいない孤独なリーダーになってしまうかもしれないのです。

〇ハイ、やっと一般教書演説の話に戻ります。ブッシュさんとしては、身内の共和党議員を味方につける必要があるのです。自分のベースであるところの保守派・タカ派よりも、ついつい邪険にされてしまう穏健派・中道派の共和党支持者を大事にしなければならない。そのための演説であったと思って読むと、非常に良く分かります。

(1)まず最初の安全保障関連の部分で、いきなりIsolationismの非難が出てきます。なんのこっちゃ、というと、「イラクなんざ引いてしまえ」という孤立主義的な考え方は、もともと左派よりも右派に多いので、そういう意見は念入りに叩いておかなければなりません。"America rejects the false comfort of isolationism."などといっています。

そして対テロ戦争への支持を呼びかけますが、穏健派を刺激しないように、タカ派的な言辞は厳重に慎んでいます。イランに対する非難も飛び出しますが、「ワタシはイランの市民に向かって言いたい」と、悪いのは一部のエリート聖職者だけ、という態度です。間違っても「悪の枢軸」だなどとは言いません。

それから、非常に難しい問題である国民に対する盗聴の是非については、愛国者法の再承認を求めつつ、「過去の大統領たちも国難に際しては、憲法上の権限を大胆に使っていた」と言っています。特に南北戦争時のリンカーン大統領などは、かなり独裁的な決断をしてますから、その手の先例には事欠きません。演説の最後の部分でも、さりげなくリンカーンの名前が忍び込ませてあります。

(2)経済のパートでは、共和党のグローバリストが喜びそうな話を数多く盛り込みました。それが「競争」です。中国やインドがアメリカの競争相手だというのは、正直言って噴飯ものの認識ですが、なんとなくクリントン時代のような発想になっていて、耳新しい感じがしないでもない。去年、大上段に振りかぶった公的年金改革については、ギャグをかましてさりげなくスルーし、「ベビーブーマー世代引退のインパクトを検証する委員会を作ろう」といったところでお茶を濁しています。

そして"Keeping America competitive requires us to...."という言葉を4回使って、@市場開放、A移民政策、B医療改革、Cエネルギー政策の4点を打ち出しています。まさしく中道派向けのメッセージですね。"American Competitiveness Initiative"なるものを始めましょう、なんて言ってますが、これは口だけと拝察します。だいたい、"Initiative"と銘打ったものが大きな運動になったのを見た試しがありません。政治家が「ナントカ・イニシアティブを始めましょう」と言い出したら、ああ、何もする気はないわけね、と読むのが大人というものです。

それでも、「子供に算数と理科を教えましょう」と言ってみせるあたりも、2000年に出てきた頃のブッシュのトーンが感じられて、これは評判が良かったのではないかと思います。

(3)最後の理念、価値についてのパートは、普段のブッシュであれば力がこもるところですが、それをやってしまうと中道派は逃げ出します。ここを実に上手に書いたものだと感心するのですが、「暴力犯罪が減った、福祉の受給者が減った、若者のドラッグも減った」「民主党も共和党も、こうした記録を誇ることができる」と事実をもって語っています。この辺のそっけなさは、ブッシュの「ベース」である保守派の耳には物足りなく聞こえるでしょうが、「ジョン・ロバーツとサム・アリトーを最高裁判事に承認してくれてありがとう」が入っていますから、文句を言ったらバチが当たりますね。

〇というわけで、今年の一般教書演説が力弱く聞こえるとしたら、それはまさしく狙ってそうした結果であると思われます。強い信念の持ち主であるけれども、必要があれば非常に柔軟になれる、というのが政治家としてのブッシュの強みです。2006年の一般教書演説は、そういう性質であったと思います。たぶん、ブッシュ支持率への影響は小さいでしょう。そんなわけで、今年のアメリカ政治は面白そうですよ。あー、長文疲れた。


<2月2日>(木)

〇インドの省エネ事情を調査に行ってきたN君から、インド経済について話を聞く。えっと驚く話が多いのだけど、中でも感心したのは、「インドではOrganized companyとUnorganized companyという分け方をやかましく言う」ということだ。Organized companyとは、その名の通りの大組織であって、大企業や公的機関を指す。おそらく欧米的な常識が通用する組織なのだろう。Unorganized companyとは、家内制手工業というか、中小・零細企業のことをいう。たぶん英語すら通じない組織なのではないかと思う。

〇インド経済の発展過程では、当然のようにOrganized companyがぐんぐん伸びている。では、それによってUnorganized companyが淘汰されるかというと、そんなことはまったくないのだそうだ。そもそも「弱者救済」などという理念がないほどに、弱者が普通に生きていけるのがインド社会というものであって、Organized company と Unorganized companyの間にも、おのずと住み分けが行なわれているらしい。

〇言葉を変えれば、インド経済においては「一物一価」の原則が成立していない。大企業は大企業とだけ、零細企業は零細企業とだけお付き合いをする。経済原理には反しているが、そうやって社会の安定を守っているのだろう。同じBRICsでも、中国あたりだと新興大企業が零細企業を容赦なく淘汰してしまうのだろうが、インドモデルはつくづく従来の経済発展の常識から遠いところにある。

〇それでは、Organized company と Unorganized companyの住み分けというモデルは、美しい話だろうか。かんべえの率直な印象を言えば、これってカースト制を法人の世界に持ち込んでいるだけであって、カーストの低い零細企業は、永遠に大企業には這い上がれない仕組みではないかと思う。貧富の格差という面でいえば、おそらくインドは中国を抜いて世界の最高峰であろうが、それでもカースト制があるから社会の安定が保たれている。そういうのって、ワシは嫌だなあ、と思うのである。

〇経済格差の拡大という問題が流行っている。それは小泉改革のせいだとか、唖然とするような批判があって、これに対して小泉さんが、「悪平等をなくすことが必要」という勇気ある答弁をしたりして、ちょっと拍手を送りたいような気分である。おそらく日本人の大多数は、タテマエでは「格差拡大はよくないよなあ」と言いつつ、ホンネでは小泉さんの側に立つのではないかと思う。なんだかんだいって、日本人は人に施しを与えたり、もらったりするのが嫌いであるし、ワシも含めて心の狭い人のほうが、心の広い人よりは多いと思うのだ。

〇たしかに戦後の日本社会は格差が小さかったし、そういう社会を良しとしてきたことは間違いがない。ただし、一億層中流社会は「弱者救済」によってできたのではなく、皆が等しく頑張ったお陰でできたのである。社会の流動性が失われることには、重大な危機感を抱かなければならないが、「Unorganized companyを守れ」的な発想は御免こうむりたいものだと思う。というか、インドモデルやカースト制は、日本人的な感性からはもっとも遠いところにあると思うのだ。


<2月3日>(金)

〇ふたたび「・・・みたいな。」さんから、替え歌のエントリーをいただきました。

♪ライブドアがこわれちゃった♪

ぼくが立ち上げたオンザエッヂ
カネで買収したライブドア
とっても大きくしてたのに
こわれてできない事業がある
どうしよう どうしよう
オ パキャマラド パキャマラド パオパオパンパンパン
オ パキャマラド パキャマラド パオパオパ

2時からしか取引できない
2時からしか取引できない
とっても売り買いしたいのに
処理がされないことがある
東証(コラ)
東証(コラ)
オ パキャマラド パキャマラド パオパオパンパンパン
オ パキャマラド パキャマラド パオパオパ

乙部も熊谷も平松も戻してくれない
奥田も日枝も武部も構ってくれない
大臣も応援してたのに
粉飾バレたら捨てられる
どうしよう(オー)
どうしよう(オー)
オ パキャマラド パキャマラド パオパオパンパンパン
オ パキャマラド パキャマラド パオパオパ
***

〇それにしても、ライブドアはどうなっちゃうんでしょうね。ぐっちーさん、ダイジョブ? 週末に新たな展開があったりして。


<2月4〜5日>(土〜日)

副会長さんのブログによれば、議員年金の廃止が決まったそうです。良くないことだと思うけどな、ワシは。

〇村上春樹が、昔々のエッセイで書いていたことだけど、彼がジャズ喫茶を経営していた頃にいろんな店員を雇ったが、その際に絶対に雇ってはいけないのは、「お金は要りませんから仕事をさせてください」というタイプだったという。かんべえ、これに完全に同感です。ワシの限られた経験からいっても、こういうタイプが、いちばん最初に給料の文句を言い出すものである。というか、自分を安売りする人間をあんまり信用するものではありません。

〇ジャズ喫茶の店員はまだしも、国民が政治家を選ぶときに、「お給料はいくらでも結構です」などという人間を雇うのは、非常に危険なことではないかと思う。お給料を気にしないというのは、本当におカネに困ったことがないか、気にしない振りをしているかのどちらかであろう。前者は普通の人の気持ちが分からないだろうし、後者は隙あればひと財産作ってやろうと画策するだろう。

〇なにしろ、政治家をやっているとカネがかかるし、違法にカネを儲ける機会もある。そういう人がカネに困るような状況を作っておいて、カネに手を出したら怒るというのはマッチポンプではないか。せめて「老後の資金くらいは安心してください」といえるようにしておいた方が、政治腐敗のリスクを小さくすることができる。議員年金くらい、安い投資だと思うんだけど。

〇ある政治家が、「議員年金廃止をどう思うか」と聞かれて、「言いたいことはいろいろあるが、これだけうるさく言われるのであれば、そんなカネは欲しくない」と言うのを聞いたことがある。まあ、その辺がホンネでしょうね。そこを押しこらえて、「カネが欲しくて政治をやっているんじゃない」的なタテマエを言わなきゃいけないとしたら、まことにお気の毒である。たしか「職業としての政治」にも、政治家にはそれなりの収入が必要だと書いてあったと思うけどなあ。


<2月6日>(月)

〇今週のThe Economist誌では、ライブドア事件の教訓がカバーストーリーとなっています(注:全世界版は一般教書演説が表紙である)。表紙がマンガというか、劇画風になっているところが面白い。最近の日本のイメージって、要するにこういうことなのですね。これが昔なら、浮世絵か歌舞伎あたりだったでしょう。

〇今週号の週刊ダイヤモンド誌に、ビル・エモット編集長が登場して「ライブドア事件は想定の範囲内」てなことを語っていますが、どうやら今週のカバーストーリーも彼が書いた様子。昨年秋の"The sun also rises"で掲げた日本復活論は、今回の事件では微動だにしておりません。ライブドア事件をいかに見るべきかという点で、白眉の論説だと思います。以下はその全訳です。では、どうぞ。

"Saving Japan from the shadows"

 日本経済の先行きを悲観する向きにとっては、まことに期待はずれな一週間だっただろう。経済成長の伸び、強い企業業績、キレイになった銀行などは幻だと信じる者は、1月16日に堀江貴文の会社が地検に踏み込まれ、後に証券取引法違反の容疑で逮捕され、東証が混乱を来たし、政治家やメディアにおける一連の逆襲を喚起したことに目を輝かせたものだ。インターネットの帝国であるライブドアの崩壊は、市場主義的な改革の行き過ぎを示しているのではないか? あるいは堀江攻撃は政治的な思惑や古い経営者たちがけしかけたものであって、日本の暗闇は何ら変わっていないのではないか?

 まことにすごい筋書きではある。Tシャツ姿の堀江氏はこの2年間、その手のパブリシティにはピッタリであった。その間に、彼はいくつもの吸収合併を繰り返し、会社を大きくしていたのである。残念なことに、現実は「貧乏から身を起こして、また無一物に戻る」という筋書きにはくみさない。日本の株価の混乱はわずか3日で回復し、市場は上昇基調に戻った。経済は弱くなるどころか、ますます強くなっている。今週の景気指標は、GDP、消費者支出など揃って順調であり、雇用では13年ぶりに有効求人倍率が1.0となり、賃金が上昇した。そして堀江氏に対する批判をよくよく見れば、それは米国式の革新的な資本主義というよりは、伝統的な日本式の粉飾決算であり、それは日本の規制当局が変わりすぎたというよりは、いかに変わっていないかを示している。

●古い慣行には新しい法律を

 堀江氏の手法で新しかったのは、パブリシティの使用にあった。球団買収の失敗、それから悪名を高めたテレビ局への挑戦などにより、ライブドアのポータルには訪問者が大いに増えたし、彼のビジネスは不可解ではあるにせよ、株価には何がしかのプラスであろうという認識につながった。彼のビジネスがキメラのようであったとすれば、彼の犯罪とは、有史以来の信用詐欺という原始的な手法と、伝統的な日本の曖昧な会計と市場操作の手法をブレンドしたことであろう。実際、過去20年に東京の金融市場で起きたスキャンダルは、ことごとくこの色彩を帯びている。

 とはいえ、彼が利用したもうひとつの点は、日本の証取法と執行が時代に合わなくなっていることであった。彼の手法は伝統的なものだが、それを素早く、攻撃的に、目に見える形で行なった点が新しかった。時間外取引による株式の大量取得や、株式分割によって人為的に流動性不足を起こすことなど、彼が採った手法の多くは完全に合法的であった。まっとうに規制された金融市場では、あり得ないことだっただろう。また、それが不法であったかどうかはさておいて、彼の財務諸表があれほどに不明瞭であることも許されなかっただろう。

 結論として、ライブドアの崩壊に対する政策当事者の正しい対応とは、規制を強化することでなければならない。だからといって、それは新しい改革を後戻りさせることを意味しない。大きな意味で過去20年の日本で起きたことは、政官財が市場を非公式に支配し、裁量行政で行動を指導するシステムから、法が明確であり、その解釈と執行がオープンなものへの転換である。例えば過去5年間で商法は何度も改正され、企業や取締役会、株主などの責任と権限をより明らかにし、紛争や不法行為を収拾するための法廷の役割を拡大するようになった。しかし退屈で技術的なこれらの努力は、さらなる前進を必要とする。新しいルールが必要な分野は、たとえば社外取締役の役割と性質の規定であり、TOBの際に株主の平等な扱いを確保することであり、株式分割の規制であり、上場企業の会計報告をより厳密にすることである。それと同様に重要なことは、ルールの執行手段を強化することだ。日本版SECである証券取引等監視委員会には、より多くのスタッフと予算が必要である。同じことが公正取引委員会にも当てはまる。

●日本は新たな起業家を必要とする

 こういった動きは、小泉純一郎首相のこれまでの努力や、政府の役割を小さくしようとする改革者たちの努力と矛盾するのではないかという見方もあるだろう。そうであってはならない。少なくとも公務員の数や公的支出の規模は、他の先進国と比較すると大きくはないのだが、それよりはむしろ違う意味で、日本は小さな政府を必要としていない。重要なのは明確なルールを定めてそれらを強制することであり、過去に見られたように、恣意的に金融市場や経済に介入することではない。

 新しい規制や堀江氏の失墜によって、若い起業家たちが失望したり、日本企業の「アニマルスピリッツ」が失われるのではないかと懸念する声もあるかもしれない。が、そうはならないだろう。この国は、若い起業家や野心的な経営者には事欠かない。その多くは1990年代に、銀行や他の企業の倒産などのあおりを食らっていたが、今では真剣に前途を目指している。ある者は民間の株式会社で働き、あるいは彼らにプレッシャーをかけるファンドで働き、またある者はサービスや技術のために働いている。大企業も今やコストを削減し、負債を返済するだけではなくなった。1980年代に作り上げた関連会社のネットワークがほころびつつある中で、より方向の定まった、利益追求型の組織に転換している。新しい機運は日本企業にとって未知なるものであるが、それは明晰さを切望している。すなわち、企業行動を支配するルールがどのようなものであるか、それらが強制されるかどうか、そして紛争が生じた際に法廷が効率的に対応できるかどうか、などだ。結局、それこそがライブドアの教訓なのである。


<2月7日>(火)

〇お昼にらくちんさんが訪ねてきてくれた。一緒に「日本一の親子丼、はやし」。食べ終わると同時に、オヤジ族がどっと繰り出して混んできたので、近くの「パンジー」(いまどき古いタイプの喫茶店)に避難。と、間もなくこちらにもオヤジ族がどっと押し寄せてきた。まあ、考えようによっては、中年世代のらくちん&かんべえには似合いのお昼タイムであったかも。

〇永田町界隈は、昼中、右翼の宣伝カーが大音響で街宣活動中であった。その後、午後2時台に「紀子様ご懐妊」の報が流れると同時に、ピタリと静かになったそうだ。そりゃそうだ。国民の一人として、慶祝いたしましょう。こういう不敬なことを言っている人たちもいるようですが。お誕生は9月か10月か。なんとなく、小泉首相の任期に間に合ってしまうような気がするな。

〇ところで1月24日に、「虎の門DOJO」でやった講演の記録が、日経BP社のサイトで公開されていることに気付きました。下記をご参照。まだ前編だけです。

http://nikkeibp.jp/sj2005/interview/48/index.html 

〇この記録、著者チェックをしてませんので、「アジア2025が1992年」(本当は1999年)みたいな間違いが残っています。そもそもこの講演は、東京財団の吹浦常務理事から「10年後の世界と日本」などという、自分ならば絶対に選ばないようなテーマを与えられて、無理して勢いで話してしまったようなところがある。こんな風に文字で出されると、自分としてはハラハラものである。まあ、当日お越しになった方々は、わりと満足して帰られたような気がするのだけど。

〇都留重人さんが亡くなられたそうです。中山素平氏と同じ90代でした。どちらも、非常に若くして活躍され、一線を退いてからがまた長かったのですね。経済界でも学会でも、この手の巨人はもう出ないのかもしれませんね。ご冥福をお祈りいたします。


<2月8日>(水)

〇今日もいろんな情報が錯綜した一日でありました。頭の中の整理が出来ていないのですが、「紀子様サプライズ」の効果たるや絶大であって、皇室典範改正問題は「とりあえず裏ドラを見るまで先送り」になりそうな雲行きです。この秋に男児誕生ということになれば、めでたしめでたしということになり、まあ、ゆっくり決めましょうかという話になる。逆に女児誕生ということになれば、今度は急速に改正作業が進むのでしょう。どっちにせよ、「国民の統合の象徴」が国論を二分するというのはよろしくありませんので、この「水入り」はまことに得難い機会であったように思います。

〇それにしても世の中に「慧眼」の方はいるもので、当不規則発言の昨年12月20日分で、「ポスト小泉を占う」議論をご紹介したことがありました。その中に、こんな会話があったのです。

かんべえ「(前略)ところで、Hスズカマンボ(=平沼赳夫)に印をつけている経済官僚のFさん。これはどういう意味なんでしょうか」

F氏「もちろん、あくまでもリスクシナリオとしてですが、2006年の政局は皇室典範改正が大きな落とし穴だと思うんですね。これの扱いを誤ると、小泉さん以下、全員が総崩れになります。そうなると格好のタマが自民党の外に残っているわけです」

〇これを聞いた時点では、「すっげえ万馬券」とだけ思いましたが、今となってみると、なるほどこの問題は大型爆弾であったのだということがよく分かります。「紀子様サプライズ」によってこの件が不胎化され、小泉首相退陣の今年9月頃まで話が先送りされるというのも、小泉豪運伝説の新たな1ページなのではないでしょうか。

〇それというのも、この落とし穴さえ回避すれば、「BLT+D」は政権の命取りになるほどのマグニチュードではない。いちばんのリスクは、ライブドア関連で政治家が関与していた、という場合。先週くらいから、かんべえが昔から知っている西村やすとし議員などが「容疑者」扱いされていますが、これだけ待って証拠が出ないというのなら、やっぱり濡れ衣なんじゃないかと思います。

〇ところで、今年に入ってからの相次ぐニュース報道では、NHKの奮闘振りが目立ちます。地検のライブドア強制捜査を抜いたのは、地検の動きを察していた記者が六本木ヒルズに張り込んでいたところ、日曜日に検事が「下見」に来たのをチェックしたのだとか。さらに紀子様ご懐妊のニュースは、ほとんどすべてのメディアがノーマークで、報道協定も存在しなかった。「ご学友」がソースであったという話を聞きましたが、皇室報道への強さを見せつけた感がありますね。これで受信料不払いが減るといいのですけれども。


<2月9日>(木)

〇今年初めての内外情勢調査会の仕事で厚木市へ。神奈川県内の支部を訪問するのはこれが5箇所目である。今日の演題は「2006年の内外情勢展望」であり、何をしゃべってもいいように設定してあったのだが、やはり一番の関心事であるところの「皇室の慶事」から話を始めなければならない。常々思うのだけど、この手の講演というのは格調の高い話よりも、「1週間後には誰でも知っているかもしれないが、とにかく今日の時点で知りたいこと」がいちばん感度がいい。

〇ただし皇室問題は、語るのが難しいテーマである。なにしろ畏れ多い話であるし、当方は皇室崇拝の念が強いとはいえない人間である。どんな不敬を口にしてしまうか分かったものではない。さらに世の中には、ビックリするほど皇室について詳しい人がいる。昨晩も門前仲町のさる店で、情勢通と呼ばれる人が集まって、その手の噂話に花を咲かせていたところ、店のおかみさんが大変な皇室ファンであることが判明した。お陰で最後は、一同で紀子様に関する最新ゴシップを拝聴した次第である。そんなわけなので、軽々しく皇室について語ってはなりませぬ。

〇そういえば諸般の事情により、かんべえの職場には年末になると「皇室カレンダー」が2部ほど回ってくる。これが文字通り、あっという間になくなってしまう。もらっていく人は、照れくさそうに「ウチの母が喜ぶから」などと言っているのだが、実は本人が欲しがっているのかもしれないと、かんべえは常々勘ぐっている。とまあ、それくらい世の中に皇室ファンは多い。

〇それとは対照的に、いわゆる「男系原理主義者」は周囲ではほとんど見かけたことがない。ネット上には非常に大勢居るようだが、いったい実物はどの辺に棲息しているのだろうか。ひょっとして実数はすごく少ないんじゃないかって気がするんだけど。って、これは今、わざわざ地雷を踏んだかね、ワシは。


<2月10日>(金)

〇午前中、同期のJ君の紹介で、溜池通信ファンだという女性が来社。数日早いバレンタインのチョコを頂戴する。ありがたし。お返しが『1985年』一冊ではまことに申し訳ないような。

〇お昼、松尾文夫さんの研究会。読売新聞社の濱本さんが講師。質問「中国外交に戦略ってあるんでしょうか?」 答え「とにかく共産党が生き残ることが最優先ですから、そこまで考えてないかもしれませんね」・・・・すごく納得する。

〇それから、日本貿易会「アジアのサステナブルな発展と商社」研究会の幹事会。現在、報告書の取りまとめ最中だが、出版の暁には結構、充実したものになりそう。かんべえ執筆分は訂正が少なくて済むことが判明し、平静を装いつつ内心で「ラッキー!」。

〇会社に戻って、さあ溜池通信の今週号を書くぞ、と思っているところへ「予算の件でちょっと」と呼ばれてしまう。「なんちゃって取締役」とはいえ、さすがにスルーするわけにもいかず、ああ、そうしている間にも無慈悲に時間が過ぎる。

〇机に戻り、本日2杯めのスタバのコーヒーを頼りに、作業を開始するも進まず。そうこうするうちに時間が午後9時が迫る。NewsGyaOの城沢プロデューサーに電話して「今日、何時までに入ればいいの?」と聞いたら、出た相手は谷口外務副報道官であった。あわわわ。ケータイの履歴だけでかけると、こういう間違いをやってしまいます。

〇9時20分にスタジオ入り。今週月曜日に続き、2度目のコメンテーターのお勤め。ほとんど反射神経だけで凌いでいるので、上滑りのコメントが多くなったような。インターネットテレビ初の生放送は、かくして本日、無事に最初の1週間を終えることになる。毎日出ていた中井さんはお疲れ様でした。さて、この番組はこれからどんな風に変わっていくのかな。

〇それから再び会社に戻って、11時過ぎに溜池通信完成。かんべえは滅多に会社では残業しない人なので、なんだかとっても損した気分。腹いせに赤坂ラーメン。ふんっ、太ってもいいのさ。

〇家に帰ってPCをつけたら、今宵は面白いメールが多かったな。下記は1985年生まれの新成人のイベントのご案内。「上戸彩」世代は、どんな思いで今の時代を見ているのでしょうか。盛会をお祈りします。

http://home.g05.itscom.net/85do/event.html 


<2月11〜12日>(土〜日)

〇トリノ五輪を見ながら仕事三昧の休日。なおかつ、町内会の防犯活動やら友の会のゲストやらで借り出され、出るとついビールを飲んでしまい、結局は仕事にならぬ。片目で見ているトリノの群像に、思わず心奪われる。

〇ジャンプの原田雅彦。そうか、失格という手があったか。五輪出場も5度目となると、もう大概のことでは驚かない。まあ、君の場合、最初に大きな失敗をやってしまった方が、次が期待できると言うものだ。もちろん、メダルは期待していない。せめてもう一度、飛んでくれ。そしてアホウなコメントを聞かせてくれ。君がどんな失敗をしても、日本国民は許してくれる。もちろん、俺も許す。

〇上村愛子が5位。モーグルって競技は、98年長野とは全然別ものになってしまっているではないか。4年に1度しか関心を持たない普通の視聴者としては、そんな風に断層に見えてしまうのだが、選手はその間も毎日、休まずに努力を続けているのですよね。表彰台に届かなくて残念だったけれども、あなたがいい人だってことはよく分かる。いいじゃないか、勝負師じゃなくたって。

〇井上怜奈ペアが6位。15歳で初めて出た五輪に、29歳でまた戻ってくる。肺がんの死の淵から帰還して、国籍も変えて。ストーリーのあまりの重さにしびれる。メダルがどうこうというレベルではなくて、こんな風に頑張ることを止めなかった人は、何か少しでも報われてほしい。それにしても、彼女のような境遇にチャンスを与えることができたのは、やっぱりアメリカだったというのが、納得ではあるけど、少し悔しい。

〇アテネ五輪ではメダル続出で沸いたけど、こんな風に渋い思いをさせてくれる大会もいいじゃないですか。人生を味わっているような感じです。


<2月13日>(月)

お世話になっております。・・・みたいな。でございます。
とうとう起訴→上場廃止の流れとなり、今日再びストップ安となってしまいました。
86円あたりから切り下がっていく気配値を眺めながら、1曲作ってしまいました。
曲調がせつない上に中身も・・・、お許し下さい。


♪買いがない♪(井上陽水)

信用で損をする投資家が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の下げ 買いがない

売らなくちゃ ライブドアを売らなくちゃ
廃止前に売らなくちゃ 下げ続け

地検の起訴が 今日は心に浸みる
紙屑以外は考えられなくなる
それはいい事だろう?


テレビではマーケットの将来の問題を
誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
だけども問題は今日の下げ 買いがない

売らなくちゃ ライブドアを売らなくちゃ
廃止前に売らなくちゃ 下げ続け

ストップ安がマザーズの板に映る
気配値以外は何も見えなくなる
それはいい事だろう?


売らなくちゃ ライブドアを売らなくちゃ
廃止前に売らなくちゃ 下げ続け

売らなくちゃ ライブMも売らなくちゃ
廃止前に売らなくちゃ 下げの中を

売らなくちゃ ライブドアを売らなくちゃ
廃止前に売らなくちゃ 買いがない


〇これは今までの中でも最高傑作かもしれません。でも、笑えない人もいますよね。22万人のライブドア株主にとっては、納得のいかない展開であると思います。というか、東証って何様? 粉飾決算を見抜けなかったあんたたちも、同罪だと思いますそ。

〇というのは別にして、今日は『諸君』の座談会を収録してきました。テーマはもちろん、ライブドア事件をどう考えるか。お相手は松原隆一郎さんと関岡英之さんです。2時間半もやっちゃいましたが、あの話をまとめるの大変だろうなあ。どんなやり取りがあったかは、来月号をお楽しみに。


<2月14日>(火)

〇溜池交差点近くの某所でアメリカ研究会。ワシントン出張から帰ったばかりの安井明彦さんから、5年目のブッシュ政権やら中間選挙の動向やらを聞く。

〇正直なところ、今のアメリカは政治も経済も中途半端であり、分析したり予想したりすることが難しい。溜池通信で取り上げるのも、ちょっと憚られるような状況である。そんな中でも、同好の士としては、「保護主義が左派の専売特許になったのはいつからでしょうねえ」とか、「シューマー上院議員は、最後は腰が引けるタイプらしい」とか、その手の話が楽しい。

〇終わってから、なおも去りがたく、そのままナベツネさんと3人で近所のドトールで延長戦。アメリカも日本も、民主党は敵失待ちで、メッセージもメッセンジャーも居ませんなあ、とか、ブッシュはクリントンが好きになっちゃったみたいですねえ、やっぱり2期も大統領やった人ってほかに居ないし、などといったオタク話が交錯する。

〇ややあって、安井さんの上司のSさんの話になり、アメリカ経済論はやっぱりSさんですよねえ、最近どうされてますか、某所で講演されますよねえ、聞きに行こうかしらん、などと言っていたら、なんとドトールの前をSさんが歩いているではないか。手を振ってみたけれども、気付かずに店の前を通過されました。噂をすれば何とやらで(注:呼ぶより謗れ、ではなかった。誉めてたんですよ、念のため)ありました。

〇「こーゆーことって、ホントにあるものなんですねえ」などと感心しましたが、これも溜池ならではの風景といえましょうか。てなわけで、「ネタがない」はずのアメリカ情勢を延々と語り明かした3時間でした。至福のひとときであったりして。


<2月15日>(水)

〇かんべえ弟子を自称する原田君から、バレンタインギフト(?)が届く。それは『大統領になったら』(扶桑社)。この本、ムチャクチャ面白いっす。

〇何かの間違いで、あなたは合衆国大統領になってしまう。でも慌てない。ここに究極マニュアルがある。ホワイトハウスでのペットの飼い方から、核兵器の取り扱い方法、果ては最高司令官としての敬礼の仕方まで教えてくれる。ワシも「アメリカ大統領」のトリビアには自信のあるほうだが、「ホワイトハウスの地下には、24時間稼動のATMがある」とか、「大統領の車列は27台のクルマからなる」とか、「キャンプデービッドではサンダルを履いてはいけない(女性のドレスサンダルは可)なーんて、耳新しい話がいっぱいである。

〇しかもですな、この本はお節介なことに、テレプロンプターが壊れたときの言い訳や、記者会見で難しい質問に対する回答例や、ホワイトハウスから出前を取れるお勧めの店10軒まで掲載されている。何と素晴らしい。

〇この次ワシントンに行くときには、ぜひ本書を土産にしよう。喜ばれること、間違いありませんぞ!


<2月16日>(木)

〇しかし世の中には変なサイトがあるもんですねー。その名も芸能証券。まあ、ご覧いただければ一発で分かるでしょうが、ヤフーの株価情報のパロディになっている。とはいえ、洒落でやってるには妙に手が込んでいる。ここを見て分かったんですが、要するにマジでやっている人たちがいるのですね。

「芸能証券」とは、芸能人の話題性を「株価」に見立てて、日々の値動きを記録していく「芸能トレンドポータルサイト」です。米国最大のブログ検索エンジンを運営する「テクノラティジャパン」より検索結果の提供をいただき、芸能証券の独自技術によりトレンドを株価として算出しています。

〇芸能人を銘柄に見立てて売買をするわけですから、ときどき不祥事が出るわけです。こんな風に。

コード9001堀江貴文は、重大な疑義が発生し、今後の芸能活動が極めて困難であることから、芸能証券取引所の判断により、本日付けで上場廃止を決定いたしました。
ご了承いただけますようお願い申し上げます。

〇そのうち、誰か酔狂な人が「エコノミスト証券」なんてのを作ったりして。「ycaster、当たらずさわらず1円安、ぐっちーさん、アクセス急増で5円高」などと評価されるようになると、書いてる方は大変なことになりますな。時価総額ならぬアクセス総数至上主義が蔓延することになるかもしれません。くわばらくわばら。


<2月17日>(金)

ぐっちーさんとお昼して会社に戻ったら、さくらさんからメールでお知らせが入っていた。

> いま!予算委員会集中審議で、
> 渡辺 喜美さんが溜池通信の「ホリえもんの法則」を取り上げていました!!
>
> 大興奮です♪♪

〇そういえば昨日、渡辺事務所から

「急遽ですが本日の予算委員会集中審議において渡辺喜美が質問することになりました。NHKで中継されますのでご案内申し上げます。出番は14:30頃です」

というお知らせが入っていたのであった。テレビでは見られなかったけど、溜池通信の名が予算委員会の議事録に残ったとは、まことに名誉なことであります。あとでチェックしておこう。念のため、「ホリえもんの法則」とは下記のようなものです。

〇ホリえもんの法則

@旧体制に挑戦するが、計画のあまりの粗雑さゆえに、本人はかならず敗退する。

Aその一方で、彼の異議申し立ては世間の耳目を騒がせ、予想外に多くの人の支持が集まる。挑戦を受けた旧体制は動揺する。

B同時発生的に、ホリえもんと同様の挑戦をする人間が増え、彼らは比較的楽に成功を手にすることができる。

Cかくして、プロ野球への新規参入も、メディアに対するM&Aもタブーではなくなった。そして総選挙に出馬したところ、若者の政治参加(投票率)が一気に増えた。

〇夕方からの某研究会では、ワシントンから帰ったばかりのK先生から、「最近のアメリカでは、日本の世論が反中に振れていることを警戒しているらしい。溜池通信も見ているみたいだよ」という報告があった。あらあら、今ワシントンに行くと、ワシは人気者かしら、それとも危険人物?

〇ところで某研究会、年度末で予算が余ったか、今宵は豪華にふぐコースであった。しかるにNewsGyaOの出番があるために、ストイックなワシはウーロン茶でふぐ鍋を頂戴し、雑炊が出る直前に席を立ち、スタジオに急行する。ニュースギャオはこれで開始から2週目。ネットニュースのコーナーなど、ようやくパターンが固まり始めたところ。キャスターの中井さんが、番組の終わりで「また明日」と言いかけて、「来週」と言い直すのもご愛嬌だったりして。

〇番組が終わってから、城澤プロデューサーが「ところで来週のご予定は・・・」というから、駄目ダメッ 来週は忙しいのっ! それに雑炊の恨みは怖いんだよっ! と断ってしまう。で、スタジオを出てからふと思い出したのだが、これで3回出演したけど、城澤さん、これって出演料はどうなってるの? というか、そういうものって存在するの?


<2月18日>(土)

〇拙著『1985年』の担当編集者である新潮新書の横手氏が、実は去年の暮れに結婚していた。相手は同じ新潮社のフォーサイト編集部の後輩で、本人は大袈裟にするつもりはなかったらしいのだが、共同通信の会田論説委員がサプライズ・パーティーを企画した。適当な名目でご両人を呼び出しておいて、担当執筆者をずらりと揃えて、一斉に「おめでとう」を言おうというのである。目論みは今宵、溜池山王近くの某所で実行された。

〇かんべえ、会社に立ち寄ってから出かけたので、待ち合わせの時間ギリギリになってしまった。そしたら真ん中付近の「偉い人の席」になってしまい、お隣は何と『国家の品格』の藤原正彦先生である。そう、横手氏はあのベストセラーの担当者なのである。まあ、なんにしろ間に合ってよかった。これでご夫婦の「ええーっ!」という顔が見られる、と、楽しみにしていたのであるが・・・・・。

〇残念なことに、定刻になると、ご夫婦は盛装で余裕で現れた。さすがに参加者が12人ともなると、たくらみはどこからか漏れていたのである。横手氏によれば、「複数のルートから確認済み」であったとのことで、ここは新潮社側の情報力に脱帽するしかあるまい。が、今週末のワシが文芸春秋社と朝日新聞社の仕事を抱えていることは知らないだろう。ふっふっふ。

〇さて、『国家の品格』が売れに売れているので、藤原先生のところにはテレビ出演や講演の依頼が引きもきらず、今は片っ端からお断りしている状態であるとのこと。『国家の品格』を北野武や爆笑問題と共演させようというテレビ局もどうかと思うが、自民党から「小泉チルドレンに講義してくれ」という依頼があったというのも相当なものではないだろうか。そんな場所に行って、武部幹事長から「わが弟です」とか言われたら、ホリえもんの親戚になってしまったりして。

〇というわけで、楽しいお祝いの席でした。お二人にはお幸せに。そういえば、今宵は「火の用心」も休んでしまったなあ。


<2月19日>(日)

このメールが本物かどうかでこの週末は盛り上がってますね。トリノ五輪はもう期待しないということで、格好の暇つぶしになったようですが、なるほど「口座」とあるのが、「ロ座」(カタカナのロの字)であるように見えたりする。今宵の「バンキシャ!」見てたら、ユードラが最新機種ではないという。やっぱり副会長さんが言っていたとおり、「永田の常識は永田町の非常識」であったような気がします。

〇下記は2ちゃんねるで採取。

永田「ロン!三万六千!」
武部「・・・」
永田「早く点棒を出したらどうなんですか」
小泉「いや、先に手牌を倒せよ」
永田「この手牌は、最大限守ってあげたい」
小泉「チョンボなんじゃねえの」
永田「どのようにして、その先入観を打ち破る事が出来るのか。本当に悩ましい」
安倍「4枚目の西でロンってことは国士無双か?俺「北」を4枚持ってるぞ」
永田「この一方的な攻撃。この風景。こんなところに手牌を倒したらかなわないと感じるのは当然」
小泉「だったらロンなんて言うなよ」
永田「一言聞いただけでガセだと決め付ける、言論封殺、もっとも恥ずべき行為」
安倍「誤ロンは8000点だよ。早く払え」
永田「どのような条件をクリアすれば、真性なモノと認める事ができるのか、知恵を貸してください」
小泉「おまえがロンって言ってるんだろうが」

永田「マスター!マスター!!ちょっと来てこいつらに言ってよ」
検察「う〜ん、こんな役知らない。テンパって無いでしょうこれ?」
永田「・・・話にならない。前原さん!前原さん!」
前原「これはアガってる。アガってないってんなら証拠を見せるべき。全力を挙げて支援するよ」
武部・安倍・小泉「え〜?!」

安倍「なんて役かだけでも教えてよ」
前原「役名は現在協議中」
武部・安倍・小泉「え〜?!」


〇それにしても分からない。こんなネタを使わなければならないほど、民主党は苦しい状況だったのでしょうか。与党を攻める材料は、ナンボでもあったはずなのに。あのメールにふさわしい場所があるとしたら、それは二階堂さんやきっこさんのところであって、国会の予算委員会の席ではなかったでしょう。あまりにも「お子ちゃま」過ぎて情けない。民主党、どないするねん?


<2月20日>(月)

〇今日はグローバルフォーラムの「日台対話」に参加しました。いつも日米台三極対話で会っている台湾の人たちも参加していたし、少し遅刻して会場に入ったら、お隣の席が江畑謙介さんだったので、とっても「お値打ち感」のある会合でした。

〇しかるに話の内容は暗いです。ブッシュ政権はどんどん対中接近していて、陳水扁が余計なことを言うと、「ちゃんと現状維持してろ」と怒られてしまう始末。しかし現状維持のためには、せっせと上流に向かって泳いでいなければならないというのも真理であるわけで、台湾としてはホントに手詰まりなのですね。最近のワシントンでは、「中国はチャンスと成長の国、台湾はトラブルメーカー」という変な常識が出来ていて、こんな風になってしまうと、伝統的にロビイング上手といわれる台湾も出方が難しい。

〇今にして気づくのですが、中国の「反国家分裂法」は妙手だったのですね。あのときは「馬鹿なことするなー」と思いましたが、あのお陰で胡錦濤は対台湾政策でフリーハンドを得た。すなわち、台湾国民党に秋波を送ろうが、パンダをプレゼントしようが、国内的な反発をうけなくてよくなったのだ。でもって、台湾問題を国際化してしまう。すなわち、「台湾は国内問題である」というタテマエを捨てて、アメリカさんに叱ってもらう。これがとってもよく効くのである。

〇そうなると、中国の次の一手も見えてくるわけですね。それはおそらく「靖国問題の国際化」です。つまりアメリカに日本を叱ってもらうための作戦を展開中なのだと思います。「靖国問題は信仰の自由の問題」などと言っても、彼らにはそんなの関係ないですから。そうなると、アメリカの世論を日中のどっちが味方につけるかという競争になるわけですが、とりあえずニューヨークタイムズで麻生外相が叩かれたのは、その前哨戦であると見た。

〇日中がアメリカを舞台に広報外交戦争をするとなると、日本側の勝ち目は正直、薄いと思います。それは、@中国側の方が取引材料が豊富、A先手を取られている、B日本は国論が割れている、C英語力でも負けている、などの理由があるからですが、そもそも靖国問題でアメリカ人の理解を得ることは相当に難しい。以前にかんべえが一緒に靖国ツァーをしたクリス・ネルソン氏が、「靖国神社はアーリントン墓地とコンフェデレーション・フラッグの両方の意味を持つ」と書いてくれたのは破格の善意というもので、少なくとも「遊就館史観」をアメリカに支援してもらおうというのは考えが甘過ぎる。はっきり言いますが、この点については日本が期待値を下げるしかないと思います。

〇もちろん、ブッシュの京都演説や先ごろ発表された06年QDRを援用して、「ブッシュ政権は反中姿勢を堅持している」という議論を組み立てることはできます。でも、先週号でも書いたとおり、ブッシュ政権の対中政策は「口はネオコン、手は現実主義」ですから、レトリックに期待してもあんまりご利益はないでしょう。また、アメリカの反中姿勢はあくまでもアメリカ自身のためであって、日本のためにそうしてくれているわけじゃないことを忘れてはなりません。「なーんで、お前が反中なんだよ。軍事力もないくせに」とか、アメリカに言われちゃったら、もうヘコむしかありまへんな。

〇ところで今日はこんな話を聞きました。「ブッシュが大嫌いな指導者が2人、大好きな指導者が3人いる。嫌いなのは陳水扁と盧武鉉。好きなのは、一に小泉、二にプーチン、三四がなくて、五にブレア」。――まあ、小泉さんが居る間は何とかなるでしょうが、その後の日米関係は苦労しそうだなあ。と、ここへ来て非常にユーウツになってきた最近のかんべえであります。


<2月21日>(火)

〇東京財団のプロジェクトで、日本の広報外交はどうあるべきか、特に中国の攻勢に対してどうしたらいいか、てな話をしています。靖国問題ひとつとっても議論百出で、なかなかに悩ましいのですが、以下は「提言」には使えないアイデアですが、もったいないのでここで紹介しておきましょう。

(1)靖国神社分割案

"The Economist"誌のビル・エモット編集長は、「いっそのこと国有化しろ」と言っていますが、日本の歴史には本願寺を東と西に分けた徳川家康の叡智があります。これにならって、もうひとつの靖国神社を千鳥が淵に建てます。これを「左・靖国神社」と呼びましょう。こちらはA級戦犯を祀っていないということにします。従来のものは「右・靖国神社」と呼び、遊就館も含めてこれまで通りです。首相の公式参拝や国公賓の訪問の際などは「左」を使いますが、普通の国会議員などは「右」で参拝します。

(2)台湾の国際的地位向上策

台湾が参加できる国際機関は少ないのですが、WTOには「台湾・澎湖・金門・馬祖個別関税領域」という名前で参加しています。そこで日本は、知的所有権問題をめぐって台湾を提訴します。聞くところによると、台湾には「バコール」という女性下着メーカーがあるそうですから、その名前を変えろ、みたいなネタで十分でしょう。そうなると、日本と台湾は二国間でパネルを作って紛争処理をしなければなりません。もちろん八百長ですから、真剣に協議する必要はないのですが、解決が難しいということにして、国際的な耳目を集めるようにします。

〇かんべえさんは、この手のアイデアを考えるのが大好きなのですが、替え歌の名手といえば、ご存知、・・・・みたいな。さんです。新作をご紹介しましょう。元ネタは「青いイナズマ」です。


♪酷いガセネタ♪(SMAP)

君の態度が変わったと しどろもどろな口調で気づく
そうさガセネタの匂い抱いて 凍りつくよ
君が質疑に立つだけで 胸を不安が締めつけるよ
疑い始めればキリがない 選挙のカネだね

“メールのせいよ”と黒く潰して
そそくさと君は雲隠れするよ

酷いガセネタが僕を責める
二男 口座 洗い出す Get you!
拙い君の質疑が いつも審議狂わせる
やめさせて 世迷言


〇そういえば明日は党首討論の日。前原代表はいったいどうするつもりなのでしょう。


<2月22日>(水)

〇ベンチャーキャピタリストのOさんを招き、ロシアのベンチャー事情について話を聞く。「ロシア経済は、意外と普通の西側経済圏です」という説明がとってもフレッシュな感じがする。石油輸出は確かに多いが、GDPの半分は個人消費であり、中国経済に比べればはるかに自然体である。一人あたりGDPも1万ドル程度であるから、これがせめて韓国並みの1万6000ドルくらいまではスーッと伸びるのではないか。仮に石油価格の急落があったとしても、大きく崩れることはないだろう。

〇ロシアにおけるIT産業のキーワードは"Disruptive Technology"だ。既存の常識に対して「ご破算で願いましては・・・」を強いるような画期的な新技術は、不思議と日本からは生まれない。インドでも駄目。世界の頂点に立つような新技術は、グーグルでもスカイプでも不思議とロシア人の頭脳から誕生する。そういえば「テトリス」もロシア産でしたな。

〇Oさんの手法はきわめて手堅い。ロシアのベンチャー企業に対し、「国際会計基準で、西側のルールに則って、英語で全部用が済む企業とだけ付き合います」と宣言するのだそうだ。そんな会社、数が少ないんじゃないかという気がするが、案外と多いらしい。98年の経済危機の後、ソ連時代の高等教育を受けた若者が、数多く海外に留学して西側のルールを覚えて帰国した。そういう連中が最前線にいるから、欧米企業は喜んで投資をする。

〇ボーイングは設計の半分をロシアで行なっている。インテルやオラクルはR&Dのセンターをロシアに設置し、ここではソースコードを開示して研究をさせているという(中国では絶対に出来ないね)。でも、日本からはそういうロシア経済の姿が盲点になっている。そんなロシアの先端技術力の賞味期限は、せいぜい向こう5年くらいであろうとOさんは言う。そうだとすれば、現在のロシア経済は共産主義時代の教育という遺産を活かしていることになる。なるほどね。

〇ところでフィギュアスケートについて一言。荒川静香は精肉店の姉御。村主章枝は小料理屋の女将。安藤ミキティはキャバクラのヘルプ。3人揃って、私鉄沿線の商店街に棲息していそうで、なおかつ幸薄そうに見えてしまうのはなぜだろう。せめて3人の幸福を祈りたいので、皆さん、あと2日間、「メダル」という言葉は禁句にしませんか?


<2月23日>(木)

〇かんべえのお仲間であるところの雪斎どのさくらさん副会長が、揃って「どーしたんだ民主党」の声をあげています。そういえばycasterさんも、党首討論にはキツイ書き方だったなあ。かと思えば、長島議員のブログが炎上していたり。みんなやっぱり偽メール問題で怒っているんだ。って、当たり前か。

〇あたしゃ腹が立つというより、なんかもう残念でしょうがないですな。これでまた次の代表は菅対鳩山になって、小沢がついたほうが勝ち、なんてのを見せられた日には、どうしたらいいんでしょ。やっぱり40代の政治家は若過ぎて使えない、みたいな評価になってしまうのも、この先を考えるとツライものがあります。

〇それにしても今年の政局はどんでん返しが多い。1月16日の週には「BLT」が揃い踏みしたし、2月第2週には「紀子さまサプライズ」があったし、今度は「偽メール」。この調子で、これからもアップダウンが続くんでしょうか。こんな風に次々と新展開があると、「経済格差の拡大」や「皇室典範の改正」なども、すっかり遠い昔のことであったように思えてしまうなあ。

〇と、今日のところは結論らしいものがありません。お眼汚し御免。


<2月24日>(金)

〇いやー、本当にどんでん返しでしたね。トリノ五輪は。最後の最後に「金」が残っていた。良かった、よかった。相手のミスにも助けられたけど、それも勝負のうちというもの。リラックスして演技した荒川静香選手に心から拍手を送りたいと思います。

〇本日、興奮冷め遣らぬ午前中に、某所で講演する機会がありました。つかみに、「金メダルよかったですねえ」とひとくさり語った上で、「村主章枝は小料理屋の女将・・・」のギャグを紹介したところ、「安藤ミキティはキャバクラのヘルプ」のところで盛大な笑いが取れました。おい、こら、そんなに笑うな、失礼じゃないか。って、そもそも誰が失礼やねん。

〇ついでに、「合コンの幹事が見た3人娘」というネタも初公開。

安藤ミキティを誘うときは、直前で良い。「俺たち、これから合コンなんだけど、お前も来るか?」と聞くと、「えー、ウソー、今からなんてありえない〜」などと言って怒るのだが、ちゃんと来てくれて、2次会も残ってしっかり座を盛り上げてくれる。幹事からすると、こんなにありがたい女の子はいない。

荒川静香は、1週間以上前にアポをとらなければならない。お酒も飲むし、会話にも参加するのだが、ピシリと伸びた姿勢の良さが、いまいち男性陣に付け入る隙を与えない。1次会が終わると、「それでは失礼します!」とキチンと体育会系の挨拶をして、颯爽と地下鉄の駅に消えていく。とはいえ幹事としては、それほど惜しいという気はしない。

村主章枝は、あまり話をせずに、もの静かにお酒を飲んでいる。気がつくと、両側の席が空いていたりするのだが、何回店を変えてもちゃんとついてきて、最後まで座の中心にいる。が、何かのはずみで爆発してしまうことがある。やっとの思いで幹事がなだめたり、家に送り届けたりすると、口さがない連中が後からこんなことを言う。「だから呼ぶなって言っただろう。彼女は地雷だって」

〇えー、厳重な注意を申し上げますが、かんべえは全部想像でモノを言っております。上を信じて怒ったりしないように。なお、かんべえは研究会の幹事やシンポジウムの司会には定評がありますが、合コンの幹事などやったことがありませんので、その点も誤解なきようにお願いいたします。

〇この手のギャグは「今しか笑えない」ネタですね。こういう鮮度が高い、寿命が短いネタはかえって値打ちがあるものです。先日も安井明彦さんが、「今年の中間選挙、民主党は勝てるかもしれないが、いっそのこと負けておいて、2年後に勝負を賭ける方が有利かもしれない」と言っていたので、これを「カーリング理論」と命名することにしました。まあ、その辺のことも含めて、冬季五輪終了後は速やかに忘れ去られていくのでありましょうが。

〇最後にご紹介です。「・・・・みたいな。」さんがブログデビューされました。まだ始まったばかりですが、皆さん、ごひいきにお願いいたします。

●歌は世につれ世は歌につれ http://palodysong.exblog.jp/ 


<2月25〜26日>(土〜日)

〇おやおや、このネタがマンガになっていたとは。

http://ameblo.jp/comic/entry-10009307053.html 

〇後で気付いたんですが、当欄の2月19日付で紹介した中では、「3万6000点」となっていました。それでは親の三倍満ですから、国士無双にはならないんですよね。このマンガの中では、ちゃんと3万2000点に訂正されています。

〇この「日刊コミックペーパー」はなかなか面白いですね。かんべえはかねがね、アメリカ政治をウォッチする絶好の資料はこれだと思っています。ここで取り上げられているネタが、アメリカにおけるいちばんの関心事ということですから。同様の企画は日本では少ないので、是非頑張ってもらいたいと思います。

〇もっともこの手のマンガは、先のデンマーク紙によるムハマッド冒涜マンガがイスラム社会の顰蹙を買うなど、受難の日々であります。笑いは知的で、ストレスをほぐす批判手段だと思いますが、洒落の通じない人もいるから難しい。

〇もっと困るのは、政治がそのまんま笑えなくなってしまう場合で、今朝のサンプロにおける前原代表は痛かった。まるで加藤紘一を見ているのと同じくらい辛かった。あそこでせめて、野田国対委員長が笑いを取ってくれたらなあ。

〇メディアへの対応を間違えて、政治家が滅んでいく姿をこれまでに何度見たでしょう。ピンチの最中にあっても、自分を笑い飛ばすゆとりがあれば、ずいぶん救えるような気がするのですが。惜しいですね。


<2月27日>(月)

〇内外情勢調査会の全国2月例会を聞きに行きました。今日の講師は中川秀直政調会長で、会場の赤坂プリンスはものすごい人出でした。500人は来てたんじゃないのかな。でも、話の中身はいまひとつでしたね。中川さん、今をときめく政局のキーマンで、玄人筋の受けも非常にいいようですが、かんべえ的に言うと、何かこう、一緒にお酒を飲んで楽しい人ではなさそうだなあという印象でした。

〇焦点の偽メール事件については、冒頭に「永田君のお陰で永田町大騒ぎ」とか、「5点セットのつもりがゲームセット」みたいなネタで笑いをとってましたな。前国対委員長としては、「対案型国会にならなくて残念」ということでした。同感です。で、話の大筋の中身は、「訪中の報告」「高度成長論」「格差社会論の否定」の3点でありました。

〇個人的には「高い名目成長を目指す」という中川さんの議論を、どのように説明されるのかに関心がありました。この辺はいろいろ議論が分かれるところでありますが、たとえば「高い実質成長率を目指す」というのもいいし、「デフレ脱却を目指す」というのも良い。でも、名目成長率というのはあくまでも結果であって、それ自体が目標になるのだろうかという点が以前から疑問なのです。

〇だって、名目成長率を高くしたいのであれば、規制改革などはしない方がいいということになる。規制緩和すると、物価を下げちゃいますからね。名目にこだわるのであれば、いっそのこと財政出動だって増やした方がいいでしょう。ところが中川さんの議論で行くと、「構造改革は進めます」「小さな政府を目指します」、でも、「高い名目成長を目指さなければならない」「それを私は上げ潮戦略と呼んでいる」というのですね。

〇なぜ高い成長を目指すべきかというと、中川氏は「成長率が違えばすべての制度設計が違ってくる」(それはその通り)、「G7の平均値と比べても日本の名目成長率は低すぎる」(まあ、それは少子化とかいろいろありますし)、「日中関係のためにも高い成長を」(???)、ということで、お気持ちは非常に強い。ところが、そのために提案されている内容は、「規制改革」「小さな政府」「電子政府の利用促進」といった、いかにも物価を下げそうなメニューなのですね。

〇全体に、訪中について語った部分などと比べ、この名目成長論の部分は説明がちぐはぐで、いかにも自信なげに聞こえるのですね。唐突に外国の経済学者の名前が飛び出すなど、どうもご本人も消化不良気味というか、誰かに吹き込まれた内容をそのまま語っているのかなあ、という印象が残りました。

〇いちばん面白かったのは、最後に時事通信社の政治部長が行なった質問に対する答えでした。以下、メモを頼りに再現してみますが、正確な内容は明日の朝刊でご確認ください。

Q:ポスト小泉は?

A:9月末のことゆえまだ早い。孤独を愛する小泉さんは、かならず引退するだろう。だが、議員を辞めるところまでは行かない。次の人に改革路線を託すことになる。そして改革路線の後継者ということであれば、「麻垣康三」全員が当てはまる。

その中で、誰が首相になるかは民意で決まる。今の日本は首相公選型の議院内閣制だ。議員だけの投票では決まらず、党員票がモノを言う。自民党員100万人の選挙は、国政選挙と違わない結果になる。だから「分からない」というのが答えだ。小泉さんと同じような「信」を立てられる人でなければならない。

Q:わかりました。その意を汲んで記事を書きます。

A:駄目だよ、決め打ちしちゃ(笑い)。

Q:量的緩和政策の解除が迫っているが。

A:それについては、日銀の独立性を重視する。重要なのは政府と日銀が政策目標で一致すること。われわれは政策目標として、「デフレ脱却、名目2%成長」を公約している。これを共有してもらえば結構。

ダボス会議に行く直前、イングランド銀行と面談した。ポンド危機の際に、インフレ目標を導入した話を伺った。日本でも透明性の高い政策目標を導入しなければならない。

Q:日中関係について。靖国神社参拝問題はどう考えるか。

A:これだけこじれた問題だけに、時間が必要だ。個人的には分祀が良いと思うが、まだ申し上げる段階にはない。

〇かんべえの命名方法で行くと、中川政調会長は竹中総務大臣と共に「政治的リアリスト」チームを組んでいる。これに対するは、与謝野金融経済財政政策担当大臣と谷垣財務大臣からなる「経済的リアリスト」チームである。第1ラウンドは「消費税増税の是非」をめぐる戦いで、これは「まず財政の削減を」と主張する「政治的リアリスト」チームが勝って、増税論議が遠のいた。第2ラウンドが量的緩和の解除で、これは日銀に理解を示した「経済的リアリスト」チームが勝って、いよいよ解除が近そうだ。早ければ3月8〜9日、普通に考えれば4月10〜11日の金融政策決定会合で決まるだろう。もっとも竹中=中川ペアとしては、「インフレ目標の導入」という形でポイントを上げたい考えのようだ。

〇両者の第3ラウンドは、「名目成長率の数値目標」をめぐって争われることになるだろう。そういう意味では、経済政策の論議が少しずつ深まっているわけで、なかなかにいい仕事であると思う。本当はこういう議論を与野党でやってほしいのですけどね。

〇ところで内外情勢調査会の全国3月例会は、3月13日に前原民主党代表を講師に行なわれる予定。それって2週間後ですが、果たして前原さんはどうなっているのでしょう。どんな話になるのやら、興味津々。


<2月28日>(火)

〇今宵は東京財団でQDRに関する勉強会を実施しました。報告者に谷口智彦さん、聞き手に若手の安保研究者、自衛隊関係者からチャイナウォッチャーまで超豪華メンバーを迎えたので、非常に濃密な時間となりました。

〇最近は、「アメリカについて語る」ことが憚られるような時期だと思います。なんとなれば、政治も経済も過渡的な状況であって、「ああなる、こうなる」ということを判じ難いから。ところが安全保障問題については、QDRという格好の資料があって、今現在のアメリカについて雄弁に語っている。ペンタゴンが最高の知能を結集し、4年プラスアルファをかけた成果がここに文章化されているわけだ。2月3日に公開されてから、おそらく世界中の戦略家や軍事ジャーナリストたちが読んでいるはずである。

〇だからといって、ここにある全文(113P)を読み通すことができるのは、よっぽど英語が出来て、専門用語が苦にならず、軍事問題に明るく、なおかつ十分な時間が割ける人となるでしょう。かんべえはもちろんダメです。ところがありがたいことに、全部読んでしまった人たちが大勢集まって、あそこがどーのこーのと言って教えてくれるのです。うれしいですね。

〇例えば、これは岡崎研究所の阿久津博康さんが教えてくれたことですが、本文の30P(PDFファイルでは42Pめ)には、日米のパイロットが打ち合わせをしている写真が掲載されていて、こんなキャプションが書いてある。

An F-15 Eagle pilot assigned as an exchange officer to
Nyutabaru Air Base, Japan (right) discusses tactics with
a Japan Air Self Defense Force F-15 pilot (left) before a
mission. Th e U.S. alliance with Japan is important to
the stability in the Asia-Pacific region.


〇2006年QDRは、「同盟国の重要性」を強調し、「パートナーへの依存と期待」が込められている点に特色がある。特に英国や豪州に対しては高い評価を下しているのだけど、日本については言及が少ない。ちょっと寂しい気もするが、下手に大きな期待をかけられるのも日本側としては痛し痒しであったりする。そこで、「本文中での言及は少なくとも、わざわざ写真のキャプションで日米協力の重要性を強調する」という芸の細かいところを見せているのだという。この部分を中国の戦略家たちが読んで、どんな印象を持ったか。想像するとちょっと愉快ですね。

〇いろんな角度からの発言があったのですが、かんべえが個人的に興味を抱いたのは、QDRには「マネジメント論」の側面があるということです。アメリカ軍の組織全体を4年に1度見直すという大仕事ですから、そうなるのはもちろんのことなのですが、これがまるで大学のMBAコースでやるような議論を重ねているのですね。

〇世界に展開している米軍は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊といった指揮命令系統に分かれている。ところがこれを、Combatant Commands(地域統合軍)を中心として作り直す。欧州軍なら欧州軍が、その傘下に陸海空海兵の部隊を持つようにするらしい。これって、総合商社における商品別の縦割り組織を、地域本社ごとに再編するような荒業であって、私どもの業界においては古くからある懐かしい議論なのですが、もちろんそんなことは今だかつて、どこの商社もやったことはないのであります。(むしろ地域法人なんてやめちゃえという議論はあるのだけど)。

〇考えてみれば、グローバルに展開している大組織というと、米軍以外では多国籍企業ぐらいしかないでしょう。米軍は35万人を130カ国に展開しているそうですが、こんな大組織の改革は神をも恐れぬ振る舞いとなることは必定で、この辺の思考の柔軟さ、あるいはコンセプト作りの重厚さは、さすがペンタゴンといわざるを得ません。米軍の「ハードパワー」は世界に冠たるものがありますが、それを支えるデスクワークも非常に充実しているのです。

〇ところが一方では、そういうアメリカがテロリストの標的となり、米兵がバグダッドの街路上で手製爆弾で殺されるという現実がある。QDRはこの現状を「長い戦争」であると位置付け、国民に対して幻想を抱くことのないようにと訴えかけている。この堂々巡りにこそ、現在のアメリカが置かれた安全保障環境がある。

〇「9/11」の直後には、「日本もテロ攻撃に遭うかもしれない」といった警戒感があって、駅のホームからゴミ箱が消えたりしたんだけれど、最近はさりげなく復活している場所もある。というか、もう日本人はテロのことなどほとんど忘れてしまっている。アメリカ人はどうかと言えば、おそらく「9/11」のトラウマが半分ほどは残っていて、残り半分は忘れかけている。今後どうなるかはわからない。2004年の大統領選挙では、「イラクがあるから米国本土は安全だ」というロジックが有効だった。2008年はどうか。あるいは2012年は・・・・?

〇なんとも悩ましい。日米同盟というのは、そういう間柄で成り立っているということを、忘れてはいけないのでしょうね。








編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki