●かんべえの不規則発言



2005年7月





<7月1日>(金)

日銀短観が発表されました。悪くない結果ですね。これだけ内需が堅調であると、輸出の伸び悩みの問題は深く悩まなくても良さそうです。個人的には、大企業と中小企業、製造業と非製造業の格差が縮まってきたことに注目しています。「断層」が解消されつつあって、日本経済の「平常への回帰」は着実に前進しているようです。

〇ただし日銀短観はあくまでも企業に対するアンケートですから、日本経済全体を代表するというよりも、日本企業の景況感を物語っているに過ぎません。かつて日本が若い国であった頃は、「日本経済=日本企業」と見なしてよかったわけですが、高齢化時代本番の今日は企業と関係なく生きている人口が増え続けています。だから、景気指標としての日銀短観は、中長期的にはじょじょに重要度が低下すると見ておくべきでしょう。

労働力調査もいい結果でした。完全失業率は4.4%と変わりませんが、失業者数が307万人と実数として減っているのが好材料。細かい話で言うと、15〜24歳の失業率が9.1%と久々に一桁になった。ここの数字が高止まりしているようだと、日本の前途は暗いということになります。

〇日本経済はソフト・サービス化が進んでいますから、景気を見る際には従来に比べると、設備投資よりも個人消費にウェイトを置く必要がある。ということは、現在のアメリカ経済がそうであるように、「雇用の強さ=個人消費の強さ=景気の良さ」、という発想が必要になってくるでしょう。したがって景気指標としての労働力調査は、これから重要性を高めることでしょう。

〇もうひとつ、以前から注目している一般職業紹介状況も発表になりました。5月の有効求人倍率は、0.94倍で先月と変わらず。都道府県別で見た場合の数値は、あいかわらず愛知県の1.72から青森県の0.38まで大きな開きがある。地方ごとの格差は、なかなか縮まらない。これも、日本経済の「断層」であって、引き続き注目していきたい問題です。


<7月2〜3日>(土〜日)

〇窓を明けて寝たせいか、風邪を引いてしまって微熱がある。しょうがないから、寝転んで『世に棲む日々』を読み返している。なるほど吉田松陰はフーテンの寅さんのようである。しかるに、これでは今夜の都議会選挙の開票速報を見ていられない。残念である。

〇今週は名古屋に出張して「日本ニュージーランド経済人会議」に参加します。日程の中に「愛・地球博」の見学が入っているのが売り。ちょっと楽しみ。

〇それから金曜日には、ご存知、渡辺先生のパーティーで、こんなセミナーのパネリストを務めます。面白そうでしょ。

  ●期 日    平成17年7月8日(金)
  ●時 間    17:00 セミナー
            吉崎達彦氏(双日総合研究所 主任エコノミスト)
            島本幸治氏(BNPパリバ証券 チーフストラテジスト)
            渡辺喜美(衆議院議員)
            18:00 懇親会
  ●場 所    赤坂プリンスホテル 五色2F
            住所:東京都千代田区紀尾井町1−2
            電話:03−3234−1111
  ●会 費    ¥20,000.−

〇ということで、風邪をちゃんと治さなければなりません。今週は自重しましょう。


<7月4日>(月)

〇ニュージーランドでは、今年9月に総選挙が行われる。現ヘレン・クラーク労働党政権は1999年に政権を取ってから、連続3期目に挑戦することになる(現制度は1期3年)。6月1日は訪日中のところを歓迎昼食会に呼んでもらいましたが、「鉄の女」「コントロール狂」「ヘレングラード」など、おっかない渾名をたくさん奉られている豪腕政治家である。ニュージーランド経済は絶好調であるし、ほとんど問題もないようなものなので、楽々再選なのかと思っていたら、どうやらそうではないらしい。ブラッシュ党首率いる野党・国民党に十分に捲土重来のチャンスがあるという。

〇ニュージーランドはもともと英国風の政治風土があり、二大政党制が定着している。1996年にドイツ風の「小選挙区比例代表併用制」を導入した後は、小党分立となって連立政治が普通になったが、それでも労働党と国民党の交代が続いている。かんべえが知る限りでは、確かこんな感じであった。

1984年 長い不況の後に労働党ロンギ政権が誕生。有名な「改革路線」が始まる。
1991年 改革の成果あらわれず、国民党ボルジャー政権が誕生。ところが、この政権がますます改革を加速。
1998年 ボルジャー人気急落。党内クーデターでシップレー政権に交代。初の女性首相誕生。
1999年 総選挙で女性党首同士の戦いに。その結果、労働党クラーク政権誕生。

〇要するに再選は2回か3回までで、長期政権が出来にくい国なのである。二大政党の政策的な違いもそれほど大きくはない。ロンギ政権では国民党ができない農業改革をやり、ボルジャー政権は労働党ができない組合改革をやる、といった程度の違いはある。それでも自由貿易とか、規制緩和とか、財政保守主義といった基本は変わらない。ただ、同じ政権が続くと国民は飽きる。この国の景気サイクルが非常に読みやすいのと同様、政治のサイクルも単純であるようだ。

〇2005年の総選挙は争点がないといわれている。失業率は3%台まで低下しており、経済は問題にならない。「マオリ族に認められた海岸の使用権」とやらが一時期、内政上の大問題になったらしいが、それも最近は沙汰やみだそうだ。それではなぜ、労働党の人気が急落したかといえば、去る5月に蔵相が「3年後の減税策」を打ち出したのが悪かったらしい。いかにも票狙いが見え見えだったとか、財政保守主義に慣れた国民の目には無責任に映ったとか、いろいろ理由はあるのだろうけれども、なかなかに民度の高い話ではある。

〇日本では都議会選挙の前に、政府税調が「サラリーマンへの増税」を打ち出した。マスコミ的には、自民党の議席が3議席減ったことで、「有権者は増税にノー」などという民意を読み取ろうとする向きがあるらしい。しかるに、これほど非現実的な話はないだろう。2001年の自民党51議席は小泉旋風による出来過ぎの数字なので、3議席減は「御の字」の出来である。むしろ「増税がほとんど響かなかった」と受け止める方が自然なくらいであろう。ちなみに、「増税反対」を争点に据えた共産党は議席を減らしている。(まあ、あの党の場合はそれだけが理由じゃないだろうけど)。

〇もちろん政府税調の提案に賛成だなどという気はない。かんべえ個人としては、歳入増の手段は所得税ではなく、消費税であるべきだと思っている。それが言えないものだから、政府税調の「明るい確信犯」石先生は「サラリーマン増税」を打ち出したのだろう。話の持っていき方次第で、十分に理解は得られると思うのですがね。・・・・と、こんなこと書くと、財務省から「ありがとうメール」が来たりして。


<7月5日>(火)

〇名古屋に向かう新幹線の中でこれを書いています。明日からは日本ニュージーランド経済人会議に出席でーす。

〇そんなことより、本日の衆議院本会議「5票差」はすごかったですね。かんべえのネタ元、H氏の分析はこんな感じです。

>森派はいつも票読みが「おおらか」なので
>読みきった上での採決かどうかは疑問です。
>まず衆院の造反の処分をどうするかが焦点ですが
>参院は数こそ競ってますが青木と片山がいるので大丈夫でしょう。
>青木さんは機嫌悪くないみたいですし。

〇ひょっとすると、この「5票差」は究極の自民党の知恵なのかもしれません。なんとなれば・・・・

(1)可決にせよ否決にせよ、小泉首相は明日の午前8時45分の飛行機でグレンイーグルス・サミットに出かける予定だった。勝負が「吉」と出てよかった。イギリスに着いたら、おそらくは7カ国の首脳からは称賛の嵐である。

ブレア「いやあ、危なかったですね」
ブッシュ「私もジュンイチローの強運にあやかりたいものだ」
小泉「確かにきわどい勝負でした。しかし私は改革の手を緩めません」 

なーんちゃって、たちまち小泉さんは一座のヒーローである。下手をすれば、日本のプレゼンスがとっても低い会議になったかもしれないのに、直前の劇場型政治でいきなり盛り返してしまった。すごいではないか。パチパチパチ。

(2)自民党執行部としても、ギリギリで面目が立った。「脅かしが裏目に出た」とか散々に言われたけれど、あとは造反の処分で「自民党の知恵」を働かせれば参議院も無事に通るだろう(?)。

(3)造反議員たちも一安心である。常識的に考えて、反対票37名、欠席14名(この中には野党の議員も含まれるらしいが)の全員の処分は不可能でしょう。午前中は生きるか死ぬかの心境でいたかもしれないが、今宵のビールはきっと臓腑に染みるおいしさでしょう。とにかく解散にならなくて良かった、よかった。

〇山本一太先生の報告によれば、本当に薄氷の勝利だった様子。ところで山本先生、こんなことを書いておられる。

 続けて、渡辺喜美衆院議員から電話が入ってきた。「あ、山本さん。この状態じゃあ、郵政法案は参議院では通らないんじゃないか?」「いや、喜美さん。必ず通りますよ。私はそう見てます。最強の青木・片山チームが仕切るんですから。」「法案が成立しても、総理は衆議院を解散するんじゃないの?」「いえ、しないと思いますよ。(*単なる個人的な意見だけど。)総裁任期が終了する来年まで、きちっとやるんじゃないでしょうか。」「ふうん、そうかな。」喜美さんは、やや「ドラマチック」に飢えている(?)様子だった。こういう感覚は、自分と似てるなー。(笑)

〇たまたま今夕、金曜日に控えている渡辺喜美先生セミナーの打ち合わせがありました。その場で早速、「渡辺先生、山本先生がこんなこと書いてましたよ」とご注進に及んだら、「まーったく、油断もすきもないなあ」とのレスポンス。

渡辺「正確には山本さんはこう言ってたよ。『参議院にはミキオハウスとタイガーバームガーデンがありますからね』って。ちゃんと訂正しておいて」。

〇ところで当の渡辺先生の投票行動はどうだったのか。

渡辺「自分のホームページに掲示してある幻のマニュフェストの中で、ちゃんと『2007年、郵政民営化』って書いてあるんだよ。それなのに反対するはずがないじゃない」。

〇ところがそんな渡辺先生のところにも、自民党本部からは何度も確認の電話がかかってきたのだとか。これはやっぱり、薄氷を踏む思いであったに違いありません。


<7月6日>(水)

〇日本の中心である名古屋、その名古屋でいちばん高いビルであるマリオット・アソシア・ホテルに投宿中である。目の前にはトヨタ自動車の新ビルが建設中だ。以前は名古屋駅といえば、「大名古屋ビルヂング」と「マツザカヤ」が目立ちまくっていて、いかにも肥大した地方都市といった風情であった。今の名古屋は勢いがあって自信もあって、というもっぱらの評判なのであるが、垢抜けていないところは相変わらずである。たとえば愛・地球博の会場に「名物・味噌カツ丼」や「青柳ういろう」、はたまた「エビフライ入り焼きそば」という看板があったからといって、けっして驚いてはいけないのである。(そういえば、ひつまぶしが食いたいなあ)

〇本日から始まった「第32回日本ニュージーランド経済人会議」においても、環境問題が重きをなしている。が、基調講演で聞いた話は、思い切り拍子抜けしてしまった。スピーカーは高名な学者らしいのだが、環境に関する話というのはつくづく科学的じゃねえなあ、というかねてからの偏見を思い切り強化してしまった。地球環境が危機に瀕しているという話は、直感的に「まあ、そうなんだろうなあ」とは思うのだけれど、CO2の増加が地球を温暖化しているという基本的なところからが、まずは不確かである。なおかつ、妙な「脅し」が多い。こんな話をいくら積み上げたところで、「政治が環境のために動いてくれない」のは当たり前であろう。

〇午後は愛・地球博に出動である。今日は午前中ですでに6万5000人の人出である。一昨日時点でめでたく「1000万人達成」となり、1000万人目の方には2カラットのダイヤモンドが贈られたそうである。さらにまだ使われていない前売り券が500万枚残っており、当日券の売れ行きが月100万枚ペースであり、なおかつ40万枚売れているパスポート客が繰り返し来るであろうから、当初予想の1500万人は軽くクリアして、「2000万人いけるんじゃないか」という声があがっている。なぜ、そんなに正確にわかるかというと、チケットにはICカードが埋め込んであるから。今日は午後から好天(つまり暑い)となり、9万5000人くらいになるであろうとのこと。

〇会議のご一行としては、まずニュージーランド館へ。とってもシンプルな作りであるが、なかなかに好評である由。ハノーバー万博をパスして、愛知万博に出展したニュージーであるが、資金集めにはやっぱり苦労した様子である。足りない分は、なんだかんだいって日本企業が寄付をしている。つくづく感じることは、五輪は途上国でも出来るが、万博は先進国でないと難しい。しかも環境に負荷を与えないということでは、愛知万博はむちゃくちゃハードルを高くしてしまった。ゴミ箱の分別種類の多さにはビックリである。中国は北京五輪はともかく、上海万博は苦労するかもよ。

〇それから三菱未来館へ。大阪万博でも、つくば博でも入ったことがない三菱未来館に、裏口から入れてもらえるのがうれしい。「もしも月がなかったら」というテーマである。潮の満ち干がなくなることくらいかなあ、と思ったら、もちろんそれだけでは済まない。月があるから自転速度が遅くなっているので、ない場合は1日が6時間程度になってしまう。結果として、自然状況がきびしくなって高度な生命は育たなくなるらしい。ほほう、と感心するが、説教臭い結論にはちょっと辟易した。ひょっとすると、どこのパビリオンもこんな感じだったりして。

〇それからトヨタグループ館へ。4時半からの開演を待っていたら、あら懐かしいトヨタ自動車のK氏とバッタリ出あう。ご家族サービスの最中であるらしい。人気があるトヨタグループ館では、音楽ロボットと一人乗り未来コンセプトビークルが売り。ロボットが金管楽器を見事に演奏してみせる。でも、他の楽器はまだ難しいのであろう。演奏というアナログをいかにデジタル化するか。かろうじてトランペットは吹けても、ドラムやバイオリンやピアノはまだまだということだろう。一人乗りビークルは、以前にモーターショーでコンセプトを紹介したものを実現化したそうだ。機能もともかく、デザインが素晴らしい。

〇大阪万博は遠い未来を思い描いていた。つくば博はほどよく現実的な未来を表現してみせた。それらに比べると、愛知万博は手を伸ばせば届いてしまう最先端技術を無理しないで集めているようである。でもって、売り物はマンモスだとか「トトロの家」といった過去への追憶であったりする。これが本当に楽しいかどうかはさておいて、こういうことが出来てしまう日本はつくづく大国であるということを感じました。

〇ところで2012年の五輪開催地はパリではなくてロンドンですか。ニューヨーク票が加勢したのでしょうけれども、こんなところにもフランスの落ち目ぶりが表れているような。いえ、どうでもいい話なんですが。


<7月7日>(木)

〇たしかに立派なホテルではあるのだけれど、部屋は狭い。宿泊料金は高い。バンケットはさまざまな日程で一杯になっている。食事のサーブなどはテキパキしているが、白ワインがちゃんと冷えてなかったりする。バブルのときの典型的な症状ですね。名古屋は万博が終わった後はどうなるのでしょう。

〇と、こんなファッショナブルな名古屋駅ビルにおいて、不思議とスターバックスを見かけない。「名古屋の人はブランドには金を使いません」とさる人がキッパリ。朝、喫茶店でコーヒーを注文すると、「セットで」と告げなくてもコーヒーにパンやゆで卵がついてくるのが名古屋のお土地柄である。あんな高いスタバのコーヒーなんて飲めるかって。ははあ、御意、でござりまするぅ。

〇さて、日本NZ経済人会議である。これでもう9回目か10回目の参加になるのだが、毎年続けて参加しているといろんな発見がある。たとえば昨年と今年を比べると、日本では「ジンギスカンブーム」が起きていて、NZ産の羊肉の売れ行きが好調である。BSEのせいでアメリカ牛肉の輸入が止まっている間に、日本の消費者はラム肉の美味さに目覚めてしまったのだ。ところが、いい気になって輸出を増やしていると、ある日突然、ブームが終わってしまい、在庫の山を築いてしまいかねないのが日本市場の恐ろしさである。

〇NZ側もその辺はよく心得ている。たとえばNZ産のキウイ。主な輸出先はEUなのだけど、新しくできた黄色いゼスプリ・ゴールドの売れ行きは、日本市場がもっとも良いのだという。市場調査を実施すると、すでに日本人の4人に3人がその存在を知っていて、2人に1人は食べたことがある。そこで季節となる5〜6月にCMを流している。浸透度は着実に上昇している。人口400万人のNZが、日本の1億2000万人の胃袋を相手に、知恵を凝らして商品の売り込みを図っている。まるでゲリラ戦だ。

〇とまあ、こんな具合に参加するたびに新しい発見があるのが、この会議における定点観測のメリットである。思えば「海運市況が上がって商売が成り立たない」という悲鳴を最初に耳にしたのが2003年のこの会議の席上であった。当時、海運市況の上昇に対しては関係者も半信半疑であり、造船各社も海運会社に対して値上げ交渉が出来なかった。その2003年契約分の建造が2005年に行なわれており、現状はまさに「利益なき繁忙」。海運市況の活況の原因が中国経済の台頭にあることは、今では広く知れ渡っているが、2年前はまだそんな感じだったのだ。

〇中国が資源を買い漁るので、資源国の通貨は強くなる。NZドルも2000年には1ドル45円くらいであったものが、今では80円に手が届きそうな状態。5年で倍なのだから一大事である。昔からのこの国のサイクルにおいては、これだけ通貨が強くなるとオーバースペンディングになって経常赤字が増え、金利が上昇して景気に水をさす。ところが、今回の勢いは簡単に止まらないように思える。中国は今は資源を買い漁っているが、その次には食糧の確保にやっきになるだろう。食糧輸出国である豪州やNZは、絶好の狙い目となる。だもんで、中国は両国にFTA交渉を呼びかけている。「先進国で初めて中国とFTAを結ぶのはNZになるだろう」という声を、会議中に何度も聴いた。

〇既存のビジネスを行なっている側は、かかる状況に苦慮している。こんなにNZドルが強いのでは、輸入の採算がとれなくなってしまう。とくに気の毒なのは林産品業界だ。NZ政府は外国企業に対し、植林用の土地の購入を認めず、リース契約を求めている。この契約が3年ごとに更新されるのだが、不動産価格の高騰の影響を受け、「これなら買ったほうが安い!」という状況になってしまう。日本企業の怒りを深めるのは、NZ政府がCO2の排出権を企業に持たせない方針であること。なおかつ、炭素税を導入するという。現地でせっせと植林した企業としては、排出権は取り上げられた上に、環境対策の炭素税を課せられるのだからかなわない。

〇とりあえず、9月に行なわれる選挙において、「京都議定書からの脱退」を公約に掲げる国民党が勝てば、問題の一端は解決しそうではある。が、この手のBusiness Unfriendlyな態度は同国ではめずらしくないので、この二国間会議においては「古くて新しい問題」といえる。

〇ところで自国通貨が強くなったことで、NZ国民の間で増えているのが外国産車の購入と海外旅行である。日本の対NZ貿易は「大幅な入超」というのが今までの常識だったが、最近のデータを見るとほとんど均衡している。輸送用機器の輸出が伸びたのが原因だ。NZは日本の中古車をよく買ってくれる。今回初めて知ったのだが、オークネットというネット通販会社がNZ向けに「中古車のビデオ販売」を行なっていて、これが評判であるらしい。

〇しかるに日本製の自動車は、全世界的に売れ行き好調である。北米市場などは現地生産だけでは手が足らず、日本からの輸出を増やすことで対応しているのが現状だ。トヨタと日産が相次いで値上げに踏み切ったのは、無理からぬ理由があったのだ。しかも海運会社によれば、自動車運搬船の不足がボトルネックになりつつある。「このままではNZに回す船がなくなる」というのだから事態は深刻だ。

〇結局、昨今のありとあらゆる問題は、「中国はこの先どうなるんだ」という論点に収斂する。そこで議論は百出するのだが、結論は出ない。だって誰にも分からないから。ということを、これまでに何回繰り返したことだろう。と、またしても新幹線の中で更新。


<7月8日>(金)

〇ロンドンのテロ事件については、しばらくは事実関係の確認に時間がかかるでしょう。本当にアルカイダ系のテロリストの犯行なのか、「自爆」があったのかどうかなど、この辺は二転三転があっても不思議ではなく、早合点の議論は慎みたいと思います。

〇現時点で気になることは、「なぜロンドンで」と「なぜG8サミットで」の2点です。「サミットの最中にテロを成功させれば効果は抜群」と考えるのは、一見、自然に見えてそうではないと思うのです。

〇「9・11」の直後に、「次に大型テロが起きるとしたらどこか」という議論が流行りました。そのときに、「ロンドンとパリではないだろう」という意見があったことが印象に残っています。なんとなれば、これら両都市はテロリストにとっても「要人を匿う」「資金や情報を集める」「マネーロンダリングを行なう」など、使い勝手がよく、重要なスポットであるからです。こんな便利な場所で活動しにくくなると後が困るので、手をつけないであろうという推論でした。

〇当時とはずいぶん情勢が変わっているでしょうけれども、仮にこれがアルカイダ系グループの犯行だとしたら、以後、ロンドンでは仕事がしにくくなります。短期的な成果をあげるにはいいけれども、長期的に考えるとマイナスであるかもしれない。そこを敢えて狙ってきたということは、とにかく大きな事件を成功させて存在をアピールしないと、活動全体が低調になってしまうという恐れがあったのではないだろうか。おそらく今回の事件によって、「意気上がるアルカイダ陣営」という感じではないのだろうと思います。

〇G8を敵に回したというのも、目立つという点では成功なのかもしれませんが、グレンイーグルスに集まっていたのは中国の胡錦濤など途上国の代表も含まれていた。さらには無数のNGOもいたわけで、「全世界」を敵に回したといっても過言ではない。「9・11」のときは、信じ難いことに「ザマーミロ」などと言って顰蹙を買った人がいましたが、さすがに今回はそれを言う人は少ないでしょう。逆に「先進国の結束」を打ち出す好機になったわけで、これも賢い作戦だったかどうかは疑問が残ります。

〇こうしてみると、テロリスト側が余裕綽々であるとは考えにくく、存在を忘れられないようにとにかく目立つことをやってみた、というのが今回の事件であったように思います。とすれば、「ロンドンの次は東京が危ない」といった説はあんまり信憑性がない。だって愛知万博のリニアモーターカーでさえ、切符は全部日本語で書かれているんですぜ、この国は。テロリストにとって、泣きたくなるほど不親切極まりない構造になっている。こんな国で命を落としたくはないでしょうな。

〇ロンドンは五輪開催地に当選して沸いた翌日に、悲劇に直面することとなりました。できれば2012年のロンドン五輪を成功させ、「あのときはあんなこともあったけれども、平和の祭典ができて良かった」という結末にしたいものです。


<7月9日>(土)

〇今朝、自宅に届いた"The Economist"誌のカバーストーリーは"London under attack"であった。事件が発生したのが一昨日の夕方(日本時間)であるから、なんという早さであろうか。中身は冷静、客観的であると同時に、「ワシらは負けんぞ」というメッセージが込められている。いつもこの雑誌を引用している当方としても、その心意気に感じるところがありました。よって早速、以下のとおり抄訳をご紹介します。


「攻撃を受けたロンドン」

いざ起きてみると、避け難いことであった、という恐ろしい感覚が生じてしまう。7月7日のラッシュアワーの終わり頃、ロンドンで起きた地下鉄とバスへのテロ攻撃は、おそらくはスコットランドのグレンイーグルスで開幕するG8サミットにあわせたものであろう。また、ロンドンが2012年の五輪開催地に決まって、歓びに沸いてから1日もたたないときであっただけに、加害者の満足感はひとしおであったろう。が、そんなことは知る由もないし、気にかけるべきでもない。かかる暴虐はむしろ2つの思いをもたらしてくれる。ひとつは、もっと早く起きなかったことの方が驚きであるということ。そしてもうひとつは、かかる攻撃はロンドンっ子の生活や仕事に何の変化ももたらさないであろうということだ。

2001年9月11日、ニューヨーク、ワシントン、ペンシルバニア州であの惨劇が生じてからすぐに、ロンドン攻撃のリスクは高いと見られてきた。ロンドンは国際金融センターであり、西側、資本主義社会の中心のひとつであり、英国はアルカイダやそのテロリスト仲間にとって最悪の敵である米国の同盟国と見られてきたからだ。その蓋然性は、2003年にイラク侵攻への英国の参加によって、また2004年3月11日のマドリッド爆発事件によってさらに高まった。英国の警察高官、諜報筋、内務省などに尋ねれば、口をそろえてテロ攻撃の可能性は100%だと答えたものだ。

なぜこれほど時間がかかったかといえば、ひとつにはアルカイダが計画的に注意深く動いたからだろう。攻撃は準備に時間がかかり、本質的に不規則であるからだ。とはいえ、9・11以後は通説となったこの考え方は、間違っているかもしれない。ロンドンの諜報関係者によれば、ごく最近にも多くの攻撃が未然に阻止されており、その中には毒薬を使ったものやヒースロー空港を狙ったものが含まれていた。それどころか、英国にはおよそ1000人のイスラム系テロリストやその支援者が潜伏しているという推計もある。これら推定の正確さはさておき、今回の事件は慎重に準備されたというよりは、たび重なるテロリストの努力のひとつに過ぎず、一致協力の結果というよりはバラバラな攻撃の寄せ集めという印象である。

この攻撃の明らかな首謀者、アルカイダの中央指令者と見られる連中は、いずれにせよ潜伏している。確かに知る術はないにせよ、アルカイダの幹部といわれる多くが逮捕され、殺されている−−とくにパキスタンやサウジなど、中東のいたるところで−−ことを考えると、9・11以前に比べてグループの基盤は弱まっているし、指揮系統もさらに弱体化していると見ても良いだろう。とはいえ、彼らには同情が寄せられており、イラク戦争以後は特にそうである。ブッシュはときにイラクにおける努力には一条の光があると主張し、あるいは西側の敵と戦うには国内よりもイラクの方がいいと言う。ロンドンへの攻撃はそれが誤りであることを思い起こさせてくれた。

しかし今回の4つの爆発は、巧みに調整されているとはいえ、効果的であったとは言い難い。かかる攻撃には運が大きく左右する。191人が殺された昨年のマドリッドでは、駅の屋根が壊れていればもっと大きな被害になっていただろう。WTCのツインタワーが崩れ落ちなければ、2752人にも至った死者はもっと少なくて済んだはずである。本誌発行の時点では、4つの爆発による死傷者の数は不明であるが、マドリッドに比べればはるかに少ない模様である。テロリズムを計算してみるに、今回の攻撃は弱さの兆候があり、失敗と見るべきではないだろうか。

●脆弱な都市、したたかな都市

9・11以後のロンドンでは、厳しい安全規制が敷かれていたことも役立ったのかもしれない。いかな都市といえども、テロリストが集まることを止めることは出来ない。その一方で、テロリストの側も都市を止めることはできない。軍隊が波状攻撃を行ない、しかも生物化学兵器や核兵器を使ったとすればできるかもしれないが。さもなくば都市はすみやかに当初の衝撃から立ち直る。都市はしたたかな生き物であり、テロを払いのける強力な社会的経済的な理由がある。ニューヨークとマドリッドはともにそれを示すことに成功した。

同じ事がロンドンにも当てはまるだろう。他の巨大都市と同様に、ロンドンは破壊行為に対して脆弱である。何百万人もが毎日、交通機関を通じて都市に流入したり通過したりする。どこに爆弾を置き、恐怖を喚起すればいいかはすぐに分かるだろう。だが都市の側でも対応できる。攻撃を受けたことで、ロンドンっ子たちがかえって普通の生活を取り戻すように決意することは疑いがない。ロンドンが何十年もIRAのテロ攻撃を耐えてきた事実がなかったとしても、歴史がロンドンをしたたかにしてきたことは信じてよいだろう。

この攻撃は、ブレア首相が英軍をイラクに留めておくこと−−もしアルカイダに関係するテロであるとしたら、それこそが目標となるのだが−−に影響するだろうか。ここでも答えは、テロ攻撃は政策に対して関係がないだろうし、むしろブレアの決心と支持率を強める方に働くだろう。なぜならイラクに残り8500人の兵士たちの撤退には、ほとんど政治的、世論的な圧力がない。国民の大多数が、戦争は間違ったことであったと信じているにもかかわらず、である。公式の戦闘後の死傷者はそれほど多くはなく、英国人は比較的平穏な場所におり、世論は彼らが必要な仕事をしていると考えているようだ。

それよりもありそうなのは、攻撃によってブレアが言うところの長期的な仕事に取り組む理由が強化されることだ。イラクにおいて安定した民主主義を打ち立てること、イスラエルとパレスチナの間の和平、そして中東の民主的改革などである。それではブッシュの政策のように聞こえるというのなら、それはそのとおりなのである。そのことを変えられるテロリストはいない。


<7月10日>(日)

〇昨日、『スターウォーズ・エピソードV シスの復讐』を見てまいりました。初日とはいえ、柏市の映画館では20分前に並べば午後イチの回に座れてしまうのです。ありがたいことです。行列を作るような人たちは、先週行なわれた先行レイトショーを見てしまったのでしょう。会場は若い人ばかりで、「最初に見たスターウォーズはファントムメナスでした」、っていうような人ばっかりでした。

〇1ヶ月前に、中国で海賊版を見てしまった上海馬券王先生が言ってましたが、映画としての(V)「シスの復讐」は、(T)「ファントムメナス」や(U)「クローンの攻撃」よりはマシ、という以上の積極的な価値を見出すことは難しい。脚本は月並み、役者はダイコン、ライトサーベルは使いすぎです。見終わって感じたのは「やれやれ」でした。それでも、見てガッカリということもありません。事前の期待値が低いこともありますが、何よりもエピソードT〜Yがこれで完結したという点に満足感があります。

〇これを見た後でエピソードW〜Yを見ると、以前とは受け止め方が変わってしまうでしょう。たとえば(Y)「ジェダイの復讐」の最後、ダースベイダーとルークが戦うシーンの会話は、ぐんと深みが違ってきます。あそこでルークが陥りそうになる罠は、かつてアナキンが落ちた罠なのです。親の間違いを息子が正す。その結果、ダースベイダーは皇帝への裏切りを決断する。あるいは(X)「帝国の逆襲」で、ルークとはじめて出会うヨーダの心理状況はいかほどであったか。

〇あらためてスターウォーズとは、前半はアナキンの成長と失敗、後半はその贖罪の物語であることが分かります。ジョージ・ルーカスは映画監督としてはイマイチで、どうもこの人は特撮にしか関心がなくて、俳優の演技をまるで見てないんじゃないかと思わせるところがありますが、ストーリーテラーとしては文句なしに歴史に残る人でしょう。その辺は、つまらない筋書きでも映画になると観客を騙してしまうスティーブン・スピルバーグと好対照なのかもしれません。

〇ところでスターウォーズの物語には、いろんな場所で歴史が顔を覗かせます。エピソードTで、物語の始まりが「通商連合」という貿易問題であったということは、アメリカ建国の歴史に重なります。エピソードUで、分裂主義者が現れて、銀河を二分する部分は「南北戦争」でありましょう。エピソードVでは、共和制が帝政に姿を変える過程がローマの歴史に重なってきます。銀河共和国の解体と再編が宣言されるシーンでは、あまりの自然さに「ほほう」と感心しましたが、あそこはできれば「共和制はあくまでも維持されるのだ」と言い張って欲しかった。エピソードWの中で「皇帝は元老院を解散された」というシーンがあるので、皇帝はその後もしばらく元老院を放置するのでしょう。なかなかの政治的手腕といえましょう。

〇とまあ、その辺の細かい話はさておいて、細かな点まで辻褄が合っているという点はお見事です。C−3POとR2D2がエピソードWで、なぜ過去を思い出さないか、まで説明がついている。エピソードVを見ていて、予想を裏切られる展開はひとつもありませんでしたが、終わってみればジグソーパズルがきちんと完成している。全部を作り終わるまでに28年かけているだけに、この間に俳優も老けてしまったし、見ている側も年をとってしまった。変わらなかったのは、あのカッコいいテーマ曲だけです。

〇結論として、この映画は「愛・地球博」みたいなものです。それ自体が面白いわけではないが、昔、大阪万博やつくば科学博を体験した人は行った方がいい。この間のときの流れを感じることができます。


<7月11日>(月)

〇7月5日の「5票差で可決」以来、永田町は「政局モード」であるそうです。「政局」とは妙な言葉であって、普通のマスコミでは広く「政治情勢」というくらいの意味で使います(例:政局の行方を問う)。ところが永田町内部で「政局」というと、それこそ矢でも鉄砲でも持ってこい的なおどろおどろしい状態を指します(例:政局になるぞ、政局入りした)。

〇察するに、永田町といえども普段は一般の世界と変わらず、秩序もあれば安定もある。しかし、「政局」と呼ばれる地殻変動期を経ると、従来の秩序が簡単に一変してしまう。政局が終わってみると、内閣が倒れたとか、XX派が復権したとか、〇〇氏の政治生命が絶たれていた、てなサプライズがあって、これを称して「永田町は一寸先は闇」というわけです。「政局」とは民主主義社会における革命期のようなもので、武器を使わない戦争状態と解釈すると分かりやすいかもしれません。

〇永田町は、長らく「政局」を体験していませんでした。2001年4月の自民党総裁選挙で、小泉政権が誕生したときは「政局」と呼ぶにふさわしい激動期でしたが、その後の小泉内閣は不思議なくらいに安定していました。せいぜい「真紀子vsムネオ」(2002年1月)や「自民党総裁選」(2003年9月)があった程度で、小泉首相豪運伝説を地で行くような展開でした。そんな中で、今の永田町が久々に活気づいていることは間違いありません。7月5日、自民党議員が青票を投じるたびに議場全体がどよめいた、あの興奮状況を経てからの国会では、「明日はどうなるかわからない」という感覚が浸透しているのでしょう。

〇では、郵政法案が参議院でどうなるかといえば、プロ筋の方に聞くと、18人の反対を集めることは難しいのだそうです。参議院議員は衆議院議員と違い、周囲の協力がないと選挙が戦えない人が多い。そんな中で、「ミキオハウスとタイガーバームガーデン」の締め付けを跳ね返すことは、容易なことではないと聞きます。それでも「政局モード」であるからには、普段なら考えられないことでも実現してしまう可能性がある。さらには、「秋の臨時国会へ継続審議」「小泉さんが辞任と引き換えに法案通過」「8月13日の会期末に解散。そのまま15日に靖国神社参拝という小泉さんの自爆テロ」など、ありとあらゆるシナリオが一気に同時浮上してくるというのが、「政局モード」の特色といえるでしょう。

〇余談ながら、ロンドンでテロが起きてからの国際政治も「政局モード」のようです。全世界が緊張した瞬間に、すかさず北朝鮮が六カ国協議に乗り出してきたあたり、なかなか機を見るに敏というか、政治が政治らしい局面といえるでしょう。

〇さて、永田町の政局の行方がどうなるかといえば、なんだかんだいって、最後は国民がもっとも望んだ形に収まるというのが、かんべえの予測です。永田町の政局ドラマは、ときに意外な結末を迎えることがありますが、本当に国民の意に反することには滅多にならないというのが長年の経験則。1994年の村山政権誕生も、2000年の加藤政局も、その当時は「何だそれは!」と怒りを買ったものですが、後から考えるとそれが自然であったように思えてくる。その辺が日本政治の玄妙なところではないかと思うのです。

〇おそらく今回の政局で国民が望んでいるのは、「民営化反対議員たちの末路哀れな姿を見ること」ではないかと思います。だって彼らの姿を見ていると、「憤兵は敗る」の名言を思い出してしまうんだもの。途中経過がどうなるか、郵政法案がどうなるかはさておいて、最終地点ではきっと彼らにとって残酷な結末が待っていると思いますよ。


<7月12日>(火)

〇K記者から送られた日程表を乗っけておきましょう。ご関係の諸氏は、これをみて夏休みの予定を考えられるのもよろしいかと存じます。

〇8月13日がケツカッチンなので、8月第2週になってからの採決はリスクが高い。ということは、第1週に採決したいのだが、そうすると3週間後なので、日程的にはかなり窮屈になる。公聴会はパスしたいところだろう。郵政法案の中身は気にせず、粛々と進めておきたい。幸い、7月下旬には六カ国協議も始まるので、ハッと気がついたら参院を通過していた、というのが執行部側の展望でありましょう。


> ■ご参考〜2005年・夏の政治スケジュール
>
> 7月5日 衆院本会議で5票差で郵政民営化法案を可決
>
> 7月7日 小泉首相「郵政民営化法案、継続審議はあり得ない」
>
> 7月11日 参院特別委員会の人選決まる(委員長・陣内孝雄元法相)
>
> ---------
> 7月13日 参院本会議で趣旨説明、郵政民営化法案審議入り
>
> 7月下旬 郵政民営化で中央公聴会を開催?(理事会次第)
>
> 8月初旬 参院本会議で採決
>
> 8月12日 定例閣議
>
> 8月13日 第162回国会会期末
>
> 8月15日 終戦記念日(小泉首相が靖国参拝?)
>
> ---------
> 9月3日 中国で「抗日戦線勝利記念日」
>
> 9月 臨時国会召集?


〇当初はプロレスのつもりで反対していた議員さんたちも、「5票差」の衝撃で目が座ってきたらしい。ところが事情をよくよく聞けば、「解散なんてできるはずがない」と言ってるあの人は、実は次の選挙が危ないのだとか、思わせぶりなことを言いつつ土壇場で賛成に回った誰それさんは「次は閣僚ポストが・・・」のつぶやきに負けたとか、情けない話が多過ぎ。まあ、政局になると、何より大事なのは数合わせ。政策のことなんて気にしちゃいられません。でも、法案を否決した後はどうやって収拾するつもりなんでしょう。

〇ところで、プロレスといえば橋本真也ってどういう人なの? 何でみんなそんなに大騒ぎしているの? そんなにショックなことなの? 「東スポ」が8P特集って、何が書いてあるわけ? で、そんな有名人のことを、何でワシは知らないのだろう? 


<7月13日>(水)

〇日本貿易会でインド経済についての研究会。昔はインド経済といえば、「なぜインドはダメなのか」が主な研究テーマであったそうだ。しかし、今のインドは東アジアとは違う新しい成功パターンを作りつつある。聞いていて感じたのは、インドはいろんな意味で中国とは対照的であり、インドモデルは他国に迷惑をかけないサステナブルな発展パターンなのではないかということだ。

中国モデル   インド・モデル
成長が早いが、サステナビリティに問題あり 特色 成長は遅いが、サステナブルな発展が可能
一党独裁体制。
「先富論」で成長に向けて一直線。
ただし地域格差の問題が残る。
いつまでもこの体制が維持できるかどうかは疑問。
政治 民主主義体制。
地域格差を作ることは、政治的に不評なので難しい。
他方、1991年以後の経済改革にもかかわらず政情は安定。
今後も引き続き安定が期待できる。
製造業が中心。
海外直接投資を武器に輸出主導型で成長。
資源の大量消費、デフレの輸出といった弊害あり
自然環境に対する負荷も大きい。
経済成長 サービス業やIT産業が中心。
国内重視で成長。モノよりもサービス貿易。
他国への影響は小さい。
自然環境に対する負荷が小さい。
一人っ子政策により、間もなく高齢化社会へ。 人口 人口構成にゆがみが小さく、じきに世界第1位の人口大国へ。
将来的には食糧の大輸入国に。
生活水準向上に伴って贅沢な食生活に。
机以外の四つ足は全部食べてしまう。
食糧 緑の革命に成功し、食糧は自給が可能。
「人口の半分が菜食主義者」なので、食糧需要は大きくは増えない。
腹が減っても牛は食べない。
電気機械の組み立て産業
付加価値は低く、雇用の吸収も少ない。
IT産業 先進国のアウトソーシングの受け皿(コールセンターなど)
付加価値は高くないが、多くの雇用の吸収が可能。
歴史問題があるために日本への好感度は低い。
経済的には深い関係。
日本との関係 日本への好感度は高い。
経済的な関係は薄い。


〇こうやって考えてみると、インドモデルはなかなか優秀なのではないでしょうか。

〇夜、コカレストランで、最近ワシントンから帰ってきた人たちと同窓会。やじゅん氏いわく、「橋本真也を知らないなんて、これがブログだったら山ほどコメントがつきますよ」。なーに、その辺のギャップを楽しんでもらえればいいのよ。自慢ではないが、ワシは普通の人が知ってることを知らんのです。実は『テレビタックル』だって、1回も見たことないんだよ〜。

〇そういえばワシントン組の人が書いた労作を紹介しておきます。『中台激震』(保井俊之/中央公論新社)。米中関係の奥の深さ、中台関係の難しさを描いていて、とても勉強になります。ご推奨です。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4120036545/qid%3D1121269286/250-4223090-8617860 


<7月14日>(木)

〇ロンドンのテロ事件について、捜査が進展しています。「英国生まれ」の「自爆」という点が現地に衝撃をもたらしているようですが、あらためて「テロリストとは何か」を考えさせられます。

〇ここでご存知、Kenboy3さんの研究成果である「日本の対テロリズム戦略」をご紹介しましょう。これは一般的には「抑止できない」と思われているテロを、ギリギリどこまで抑止できるかを論じたものです。「抑止できる」という結論部分や、具体的な提案については全文を読んでいただくとして、この論文がテロリズムを定義している部分で、「ああ、なるほどなあ」と感じたポイントを、引用させてもらいます。(下線はかんべえが加えたものです。なお該当部分はP6〜7にあります。)


(3)テロリストは非合理的か?

果たして、テロリストは合理的な判断が出来ない異常者なのだろうか。確かに、9.11 事件にしても、パレスチナ・イスラエルで頻発する自爆テロ事件にしても、多くのテロ事件は、一般人にとって予想外の出来事で、その実行者は異常者であろうとの印象を受けやすい。しかし、単に予測や理解が不可能だからと言って、それが非合理的な行動に基づいていると見なすことは適当ではない。それは相手が「非合理的」なのではなく、自らとは異なる判断基準に基づいて「合理的」な行動を取っている可能性があるからである。

例えば、CIAで心理分析官をつとめ、アルカイダのメンバーをはじめとして多くのテロリストにインタビューを行った心理学者のジェラルド・ポストは、その著書の中で、一般論として、テロ組織は精神的にゆがんだ人間を排除する傾向があり、事実アルカイダのテロリストは精神的に極めて正常であると述べている。また、イスラエルで頻発する自爆テロの実行犯さえ、そのほとんどは教育程度も低く失業している若者であるにしても、本来的に正常な判断能力を欠くのではなく、テロ組織の上級メンバーに心理的操作を受け、自らの行為が名誉なものであったり、あるいは残された家族が社会的経済的に報われると本気で信じて行動していると分析している。

こうしてみると、テロリストが「非合理的」と即断することがいかに粗雑な仮定であるかが明らかになる。仮に自爆テロであっても、(一部の宗教テロリストは例外かもしれないが)死そのものが目的なのではない。あくまで目的合理性の観点から、目的を達成するために最も有効な方法が自爆テロだからその方法を選択するのである。そこでは当然、合理的な思考に基づいて、無駄死を回避し、最大限の効果のある死に方が追求されることになる。すなわち、一見わけのわからない非合理的な行動を取っているように見えても、ほとんどのテロリストは実はある種の合理性を持って行動していると考えるべきなのである。


〇できれば、この後に続く「貧困層や低教育層から自爆テロの実行犯が生まれているとしても、貧困や教育問題はテロを考える上では枝葉でしかない」「どうあっても軍事力や警察力といった物理的な手段による対症療法的な処方箋は必要なのだ」という部分もぜひ読んでいただきたいのですが、さすがに長くなりすぎるので遠慮しておきましょう。

〇テロや宗教の問題を考えることは、面倒くさくて辛気臭いことです。ついつい、「あいつらのことは分からん」と言って済ませたくなるのですが、そうも言っていられない。テロを抑止するためには、テロリストの思考を知らなければならない。そして相手が合理的な思考をするとすれば、手の打ちようもある。たとえば、以下のような発想ができるわけです。(P40)


テロリストにとっては、「犠牲者」を害することが直接的な目的であることはまれで、真のターゲットはそのテロを直接、間接に体験する「観客」である。したがって、ある意味で「犠牲者」は特定の誰かである必要はなく、「観衆」にインパクトを与えることが出来る人物や物体であれば何でもいいわけだ。つまり、テロリストは特定のターゲットを狙うのではなく、効果が大きいと見込まれるいくつかのターゲットの中から、最も脆弱なものを選択して攻撃してくると考えられよう。すなわち、対テロ拒否抑止とは、狙われそうなターゲットの脆弱性を出来るだけ減らすことや、またテロリストが新たな脆弱なターゲットを見つけだすのにかかるコストを上げるといった方策を積み重ねていくことによって成立することになる。


〇なかなかに気が遠くなるような作業ではありますが、起きてしまったテロに報復することの難しさを考えた場合、未然に抑止する方がはるかに上策といえましょう。「日本は大丈夫」と安心してちゃいけないんで、「日本は狙ってもしょうがない」と思わせるようでないといけません。


<7月15日>(金)

〇テロについてもっと詳しく勉強したい人のために、kenboy3さんからの推奨リンクです。


●アルカイダを理解するには、アメリカ・PBSのこのサイトが、もっとも判りやすいです。

http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/front/ 

●あとはランド研究所のTerrorism Publication は量・質ともに圧倒的です。

http://www.rand.org/publications/electronic/terrorism.html 


〇直接の被害を受けただけあって、アメリカのテロ研究は徹底していますね。

〇もう1点、イギリスのメディアの落ち着き方がさすがだと思います。「テロを防げなかったブレア政権の失態」といった自虐的な議論を見かけない。雪斎どのが、ジョン・ブル・スピリットには大和魂と通じるものがあると書いていましたが、そのこと自体にはまったく賛同ながら、同様な事件が日本で起きてしまったときに、メディアが大和魂を示せるかどうかはちょっと疑問です。「お子ちゃま的」な非難の応酬になってしまうんじゃないかなあ。


<7月16〜17日>(土〜日)

〇7月の第3日曜は恒例の町内会の祭礼である。ということで、勤労奉仕。今日は朝から神輿を積んだ山車を引き回して、防犯部長は交通規制をやって、それからビールを飲んで、いっぱい汗をかきました。家に帰ってきて、昼寝を3時間。ああよかった、明日が休みで。

このページを見たら、この連休の甲子園対広島戦は当日券がないとのこと。空席状況を見ると、もうほとんど売り切れではないか。うーん、さすが貯金が20もあると客の入りが良いようだ。強いもんなあ、今年の阪神は。

〇タイガースファンの心理というのは不思議なもので、優勝と優勝の間が20年くらいないと、どうも調子がくるう。一昨年優勝して、今年も狙えてしまうというのはなんというか・・・・そう、とても「もったいない」のである。

〇オールスター戦前に貯金が20もあって、それでなおかつ優勝できなかったりすると、「これぞ阪神」なのであるが、それもまた見たくはないのである。だってそういうのは、若い頃にいっぱい見たんだもの。


<7月18日>(月)

〇次女Tにせかされて、ポケットモンスター・アドバンスジェネレーション、「ミュウと波導の勇者ルカリオ」へ。ウチの姉妹は年が離れているので、両方に付き合っているうちに、ポケモンの誕生から今日に至るまで、ほとんど全部のポケモン映画を見ているような気がする。ポケモンの誕生は1996年3月。映画は98年夏の「ミュウツーの逆襲」からなので、長編だけでももう8本目なのだ。

〇その中でいっても、今年のは出来が良い方である。というか、苦労の跡が窺える。導入部の古い時代の戦闘シーンは「ロード・オブ・ザ・リングス」みたいであり、「世界のはじまりの樹」という設定はスタジオ・ジブリみたいであり、「波導は我にあり」というセリフはスター・ウォーズの"May the force be with you."のまんまパクリであったりする。ポケモン映画を作る人たちは大変であろう。「子供だまし」は難しい。大人をだます方がずっと簡単だ。

〇ポケモン映画の本当の面白さは、長編よりも短編にあり、だと思う。昨年から短編がなくなったのを、非常に惜しむものである。シリーズ中の最高傑作は、文句なし『おどるポケモンひみつ基地』(2003年)であろう。アニメでなければできない、スラップスティック・コメディの佳作だと思います。

将棋界の「瀬川問題」は今日が第1戦。佐藤三段が快勝。棋譜を見ると、瀬川アマ、途中までは互角だったのに、投了図では香車2枚と馬が泣いている。いかんですねえ。次はもっといい勝負を。相手役の神吉六段も指しにくいでしょうけれども。


<7月19日>(火)

〇恒例の東京財団の研究会。今夜はナベツネさんを講師にお迎えし、ワシントン最新情勢を拝聴する。あっと驚くような価千金のネタが満載。機微に触れる話もあるので全体の紹介は遠慮するとして、個人的にとっても受けたのがこの喩え話でありました。

●高校時代に、癇癪もちの先生がいた。ふだんはとってもいい人なのだけれど、ツボにはまると怒りが爆発してしまう。先生のことを良く知っている生徒たちは、ちゃんと分かっているから問題がない。が、たまによく知らない生徒がいて、先生を挑発してしまう。見ていて「あー、危ない、あぶない、やめときゃいいのに」と思っているけど、空気の読めない生徒が問題発言を続け、かくして全員の頭の上にカミナリが落ちる・・・・。

〇という状況が、今の米中関係ではないか。貿易摩擦、知的財産権、軍事費増大の問題などで、そうでなくてもイライラ気味のところを、中国は「ユノカルが欲しい」「台湾に手出しをしたら核使っちゃうぞ発言」など、最悪のタイミングで持ち出してしまう。その昔、アメリカ先生を何度も激怒させた生徒である日本としては、その辺の呼吸がとってもよく分かる。

〇アメリカ先生は、今とってもご機嫌が悪いのです。外政も内政も行き詰まっているけど、大丈夫だという振りを続けなければならない。無意識のうちに悪者探しをはじめている。そして議会内は割れていて、共和党と民主党が一致できる数少ないネタが中国叩き。こういうときは、大人しくしてなきゃいけません。普段はとってもいい先生なのに、ヒステリックになってしまうと見境がつかなくなっちゃうから。

〇たとえば注目の人民元問題について、米国議会がシューマー・グラハム法案の審議を秋に延期しました。これは「秋までには結果を出すんだろうな。それまで待ってやるから心しろ」ということでしょう。だから市場関係者は、「8月か9月に何かあるだろう」という風に思い込んでいる。胡錦濤が訪米するときには、ちゃんと御土産があるんだろうなと。

〇その一方で、中国が本当に切り上げに踏み切るかといえば、せいぜい変動幅をちょこっと変えるのが関の山であって、期待値を上げ過ぎてしまった感がある。これはコミュニケーションの失敗である。中国は対テロ戦争では協力しているし、6カ国協議でも世話にはなっている。それは分かっているけれども、どっかで米中は衝突してしまうんじゃないか。双方の行動パターンを予測していくと、必然的にそうなってしまう。

〇中国側としては、アメリカの機嫌を取るよりも国内の不満を抑えるのが忙しいのでしょう。「核使っちゃうぞ発言」は、信じられないくらいに愚かな発言ですが、あの国なりのガス抜きなのでしょう。逆に昔は何度も叱られた生徒である日本は、アメリカから「民主主義で市場経済の国」と妙に持ち上げられる機会が多い。日米貿易摩擦の最中には、「日本には民主主義がない」などと言われたものですが。

〇これは別筋で聞いた話ですが、ワシントンのスタバでは、先週から「抹茶フラペチーノ」を売り出したのだそうです。日本でも東京・大阪の地域限定商品だったのが、一挙にワシントンに逆上陸。アメリカ人が緑茶を好むというのは不思議な現象ですが、考えてみればアイスコーヒーと缶コーヒーも日本が元祖ですから、そんなに驚くことはないのかもしれません。変なところでアメリカのジャパナイズが進行中、というのが、最近のワシントンの雰囲気を示しているようです。

〇ところで今夜の東京財団の研究会には、雪斎どのが来てくれました。実物に会うのはとっても久しぶりでありました。さて、向こうは何と書いてくるだろう。


<7月20日>(水)

〇「抹茶フラペチーノ」は反響が大きいですね。北米市場で発売になったことはちゃんとニュースになっています。さくらさんが教えてくれました。

http://www.asahi.com/business/update/0719/104.html 

〇ワシントンの多田兄によると、「当地のスターバックのは、あのコーヒーと同じ濃さで作ろうとするから、物凄く大量の抹茶を入れてくれて何となくお得です」とのこと。北米にお住いの方、ぜひお試しください。

〇ところで、このサイトは紹介しないようにするつもりでしたが、まあ、そろそろいいかなと。英国在住の某氏が書いている"Experiences in UK"では、ロンドンの人たちがどんな風にテロに反応しているかを伝えてくれます。今週の記事は、「ジョン・ブル、英国人がテロ攻撃にどう対応しているか」です。ひとことで言ってしまえば、「何事もなかったように振舞っている」。

英国人が子供を叱る際によく使われる文句の一つとして、「ドント・パニック」というフレーズがあるそうです。危機に直面した時やままならない状態に置かれた時こそ冷静さを失うなという教えなのでしょうが、これも親が子供にジョン・ブル魂を注入する意図によるものといえましょう。
「苦しい時にパニックに陥ることなく、ぐっとこらえて冷静さを保つ」というのが、現代まで継承されてきた英国人の国民性の一つのようです。

〇ロンドン大空襲で大破したデパートは、「入り口を拡張しました」という張り紙を貼ったとか。また、日本軍によるプリンス・オブ・ウェールズ轟沈の報に接したチャーチル首相は、激しい動揺を隠しつつ、さりげなくそのことを国会に報告したといいます。こういうやせ我慢は、さすがという感じですね。

〇うろ覚えの記憶ですが、古い方の映画「タイタニック」にはこんなシーンがあったと思います。豪華客船が沈み行く中で、英国紳士たちが静かにポーカーをプレイしている。「逃げないのですか?」と聞かれた紳士は平然と答える。「こんなときに慌てふためくくらいなら、普段から紳士の振りなんてしてませんよ」。

〇ややあって、その紳士は対戦相手に告げる。

「君、私の5ポンドの勝ちだよ」

「ふむ。では、5ポンドは借りだ」

〇ハリウッドのスペクタクル超大作にはちょっとないような、小気味のいいセリフですよね。


<7月21日>(木)

〇お昼に最近のロシア情勢について話を伺う。

〇ガスプロムをめぐる最近の怪しげな動きについて、詳細な説明を聞いたのであるが、あまりにも複雑かつ登場人物が多過ぎて要領を得ない推理小説のようである。かろうじて理解できたことは、これらはロシアのエネルギー戦略のゆえというよりも、2008年の次期大統領選挙をめぐる前哨戦が始まっているからである。その中ではカシヤノフ元首相が伏兵的に頭角を顕しており、だからといってそんなリードはあっという間にかき消されるかもしれず、これからのロシアはまだまだ謀略が渦巻くことになるだろうとのこと。

〇この間、プーチン大統領はまったくの傍観者に過ぎず、ちょうど満員電車の中の乗客が、押し合いへし合いの中で周囲に身を任せているようなものである。強権政治の復権を危惧する声もある一方で、むしろロシア政治のリスクはリーダーシップの不在であるのかもしれない。だとすると、同じ4年サイクルの中に身をおく政治家だとしても、プーチンのレイムダック化がもたらす弊害は、ブッシュの比ではないのでありましょう。

〇夕方、ベトナムからのミッションの皆さんに、日本経済に関するご進講を行なう。

〇中国に関する不透明感が高まっているので、これから日本企業のアセアン回帰が始まりますよ、チャンスですよ、とけしかける。案の定、中国経済や米中通商摩擦への関心は高い。人民元切り上げについては、彼らの見通しは「中国政府はやらないと思う」であった。おそらくこの観測は正しい。ベトナムの通貨ドンは人民元との連動性が高いので、切り上げは自分たちにも累が及ぶ深刻な問題なのだ。

〇ところが米国議会や金融市場や一部の国際機関などは、「8〜9月にも動きがあるはず」と思い込んでしまっている。秋になると、彼らはきっと「騙された」と思うだろう。そこで修羅場になったとしたら、それは中国外交に責任がある。昔、日本も米国から市場開放を迫られて、似たような失敗を散々やったことがあるだけに、今後の展開が目に浮かぶようである。中国が日本という「前車の轍」を踏まないとしたら、それは賞賛に値するファインプレーとなるけれども、そのためには彼らはやや謙虚さを欠けているように感じる。

〇夜は「重光葵とアジア主義」に関する研究会に参加。

〇重光葵は、戦前から戦後にかけて、外務次官、大使、外務大臣などとして活躍したが、その評価はなかなかに難しい。日本人としてはめずらしいタイプのConceptual Thinkerであり、彼が残した思考経路はそのまま日本外交がたどった苦難の道のりと重なってくる。しかるに外交官としては何度も後手を踏み、現状の追認を繰り返してしまう。タイプとしては宮沢喜一的な弱さがあるようだ。

〇戦前の対アジア外交が泥沼に陥ったのは、重光のようなアジア派の日本人の思考の中に、どこか克服し難い大きな欠陥があったからであろう。最近も似たような失敗を繰り返しそうで、実に嫌な感じである。うまくいえないのだが、アジアに対して思い入れの強い人に限って、アジアの人たちを軽視するような傾向があるのではないか。戦時中には大東亜会議を主催し、戦後はバンドン会議や国連に出て来た重光に対し、当時のアジア各国の代表たちはどんな印象をもったのか。ちょっと聞いてみたい気がする。

〇ということで、今日は勉強をし過ぎたかなあ、という一日でした。

〇ところで最近、よく「カール・ローブについてどう思いますか」と聞かれます。ローブについては、かなり早い時期にこんな文章も書いているので、個人的に思い入れがないわけではないのですが、正直言ってあまり関心が湧きません。ローブは骨の髄まで「選挙コンサルタント」であり、ブッシュのために彼ができる選挙はもうないのですから(そしてブッシュは自分の後継者を作るつもりがないようですから)、歴史的な役割はほぼ終えているのではないかと思うのです。

〇もちろん、ローブはこの危機を軽く乗り越えてしまうくらいの腕力と運を持ち合わせているでしょう。ブッシュ自身も、このままレイムダック化するような軟弱な政治家ではないはずです。とはいえ、参謀としてのローブは、すでに生涯で最高の仕事を終えた後だと思います。いってみれば、小牧・長久手の戦いを過ぎた後の黒田官兵衛のようなもので、その後の人生においていくつかの見せ場を作りはするものの、秀吉のための仕事はほぼ終わっている。だからローブがどうなったって、もう関係ないじゃん、という印象があります。

〇まったくの余談ながら、黒田官兵衛は秀吉の妬みを感じ、44歳で引退して剃髪して、「如水」を名乗ります。ということに気づいた瞬間、かんべえ44歳はいささか複雑な心境になってしまったことを白状しておきましょう。もちろん、如水のその後の15年の余生は、なかなか魅力的なものではあるのですけれども。


<7月22日>(金)

〇あーびっくりした。昨日書いた内容のうち、下記の部分は深い反省の念を込めて撤回。

中国が日本という「前車の轍」を踏まないとしたら、それは賞賛に値するファインプレーとなるけれども、そのためには彼らはやや謙虚さを欠けているように感じる。

〇2%の切り上げは「ツーリトル」ですが、このタイミングで打ってきたのは「ツーレイト」ではありません。ちゃんと空気が読めていた。彼らはかんべえが思っていたよりも賢明です。アメリカ議会は不満を呈するでしょうが、「最初の一歩」なんだから文句は言えない。米中関係は複雑怪奇であります。


<7月23日>(土)

〇いやあ、派手に揺れましたな。震度5でありましたか。とはいっても、家の中のモノが倒れるわけじゃなし、終わってしまえば何もなし。外出していなかったお陰で、電車が止まるという被害とも無縁でありました。いちおうご報告まで。

〇それよりも柏祭りはどうなったんだろう。今年は出かける気がしなくて、午後は昼寝でした。かくして自堕落な休日が過ぎていきます。ホントは仕事もあるんですけどね。


<7月24日>(日)

〇日本に出張中の上海馬券王先生と合流して汐留のWINSへ。汐留は全館禁煙ということを忘れていて、喫煙者の馬券王先生にはシンドイ思いをさせてしまいました(そのお陰でいつも空いているわけですが)。それにしても、メインの函館記念と北陸ステークスは外しつつも、新潟12レースの単複中穴と、函館12レースの三連複をきっちり当ててプラスにするあたり、馬券王先生さすがという一日でありました。

〇函館のレースはこの季節、最終が5時10分出走で、薄暮の中の勝負となるというのを初めて知りました。さすが日本列島は南北に長いので、いろんな景色があるものですな。この季節、函館と新潟と小倉でやっているので、嫌でも日本列島の広さを感じます。

〇上野の「秋吉」で一杯やった後、柏駅に帰ってみたら9時過ぎだというのに、浴衣姿の若者たちが一杯いるので驚きました。今年は全然、参加しなかった柏祭りですが、なんというか街全体がふつふつと煮えたぎっているような感じであります。馬券王先生も言ってましたが、やっぱり日本は景気が良いのでありますな。


<7月25日>(月)

〇だんだん謎が解けてきました。人民元切り上げ問題について、いろんな人がいろんなことを書いていますが、これまでに見た中でとくに感心したのがJPモルガンのレポートでした。いわれてみれば、「なーんだ」ってな話なんですが、「今回の中国の為替制度の変更は、対ドルペッグを廃止して管理フロートへ移行したこと」「今回の制度変更は、あくまで通貨バスケットを参考にした管理フロートである」。

〇通貨バスケットという場合は、いろんな通貨の加重平均となる値を定めて、そこに自国通貨をペッグする、あるいはその基準値を変動させることになります。ところが中国の場合、バスケットを参考にするだけで、実際は人民銀行の判断により、人民元の対ドルレートを日々最大プラマイ0.3%変化させるという。バスケットの中身はどうせ公表しないので、その辺の操作は当局の胸先三寸となる。これをもって「為替制度の柔軟化」といえないこともないだろうが、以前の単純なドル・ペッグに比べれば、透明性はかえって低下したといえる。

〇だから中国当局としては、このまま従来どおりの実質ドルペッグを継続することもできるし、逆に毎日0.3%ずつ調整して、結果的に大きく切り上げることもできる。方向性を決めるのは市場メカニズムではなく、政治的判断というわけ。後者ならばいいけれども、前者であった場合、そのうちアメリカ議会が「なんだ、これは偽装切り上げではないか」と気づいて、またまた通商摩擦という筋書きはあり得ますね。なにしろ、人民元を大きく切り上げてしまうと、「資本逃避の恐れ」「金融市場のインフラ整備が間に合わない」「失業の増加を招く」「農村部の困窮化を招く」などなど、一杯困ることがでてくるはずだから。

〇かんべえは今回の2%切り上げは、中国の経済政策の前進や為替制度改革などとは関係がなく、単に米中関係を打開するための政治的措置であったと考えます。とはいえ、賞味期限はそれほどなくて、せいぜい2ヶ月程度の問題先送りに資するだけではないでしょうか。そうこうするうちに、安全保障問題も火が点いて来るでしょう。

〇思うに、ペンタゴンのチャイナ・ペーパー発表が4ヶ月遅れたのは、もともと強烈なタカ派路線で書かれていたものを、ホワイトハウスからの横槍で何度も温厚路線に書き直したからでありましょう。アメリカ側としては、さんざん脅したり、貸しを作ったりして引っ張り出した中国側の妥協でありますが、思ったほどの成功ではなかったようだ、という反応が早くも出始めています。たとえばここをご参照。


<7月26日>(火)

〇週末から、伊藤師匠は鹿児島県に行っているらしく、HPを見ているとなんだか楽しそうである。ちょっかいメールを出してみたところ、速攻で返事が返ってきて、「今日じゅうに帰りたいんだけど、午後2時まで熊本で講演で、その後どうやって帰るか」と。あはあ、台風7号上陸ですもんね。これが難題。

〇実は当方も、本日は同じ問題を抱えていたのです。広島市まで講演のための日帰りを予定していて、行きは新幹線、帰りは飛行機という手はずになっている。新幹線が止まるんじゃないか、飛行機は飛ばないんじゃないかなど、朝から気になって仕方がない。配偶者が「いっそのこと着替えを持っていけば?」などと縁起でもないことを言う。即座に却下。すると長女Kが「じゃあ、予備の靴下だけ持っていけば?」――これは実践的なアイデアというもので、採用することにする。ということで、小さな肩掛けカバンだけで出発。

〇新幹線に乗ったところ、確かに風雨は強いが、遅れる気遣いはまったくなし。いかにも静岡県あたりで止まりそうな気がしたのに、予定の狂いもなく順調に各駅を通過していく。しかも関西以降はピーカンである。広島駅に着いたら、「暑い中をようこそ」が皆さんのご挨拶である。ううむ、日本は広い。

〇無事に仕事を終えて、帰りは広島空港へ。離陸には何の問題もないのだが、着陸できるかどうかは分からない。事前のアナウンスによれば、関西空港か、名古屋新空港あたりに降りることになるかも知れず、まあ、その場合でもセントレアであれば珍しいから許すか、などという広い心持ちでJALの最終便に乗り込む。最近では珍しいエアバス300の機体である。乗客はほとんどいない。

〇が、これも何の不都合もなく羽田に到着。東京では雨も上がっている。うーむ、本当に台風が去った後なんだろうか。先週末には震度5に揺れた首都圏も、台風は難なくやり過ごしたようです。結果オーライだったなあ、と思いつつ、家に着いてから、はっと気がついた。またしても飛行機のマイルを貯めるのを忘れている。悔しい。


<7月27日>(水)

〇先週号で書いたことの繰り返しになりますが、現在行なわれている六カ国協議はこれまでと同じではありません。参加各国が、いずれも「現状維持による時間稼ぎ」を少なくとも次善の策としていたこれまでの会合とは違い、アメリカが何らかの成果を挙げることを積極的に目指しています。北朝鮮側は、その辺の空気をちゃんと読んで応じているし、韓国が電力の供給という形で「ご褒美」を用意しているのも好材料で、何らかの前進が見られるのだと思います。

〇なぜアメリカの態度が変わったかといえば、答えの鍵は中東にあります。これから8〜9月にかけて、ブッシュ外交にとっての最重要課題であるところの中東は、成果を挙げるどころか大きなリスクを抱えている。

(1)イラクでは、8月15日の新憲法起草期限が迫っているが、間に合うかどうか怪しい。しかも出回っている草稿では、女性の権利がイスラム教の教えの範囲内に狭められているらしく、このままでは中東に欧米型の民主主義国家を生み出すという算段が狂ってしまう。治安の改善も遅々として進まない。

(2)中東和平では、8月15日からイスラエルがガザ地区から一方的撤退を始める予定だが、これまた見通しが悪い。パレスチナ側が意見の集約ができず、政治プロセスが進まない。

(3)イランでは、8月末にアフマディネジャド政権が誕生する予定。ちょうどその時期に核開発問題をめぐり、英独仏との交渉が山場を迎えるのだが、イラン側が譲歩する可能性はほとんどない。

〇これだけ先行き見通しが暗いとなると、それまで箸をつける気にならなかったお皿が、妙に美味しそうに見えてくるというわけだ。というか、ここで北朝鮮問題で成果を挙げておけば、中東で起こりうる失態をかなり中和できる。ライス新国務長官としても、発足して半年、まあまあ好評を得てはいるものの、まだ具体的な実績と呼べるものがない。ここは、「北朝鮮問題を前進させた」という彼女にとっての「初陣」が欲しいところです。

〇そのためには、今まで禁じ手としてきた「米朝二国間交渉」も敢えて使い、あの大嫌いな金正日に対して「ミスター」とまで呼んだ。そのくらい、「ブッシュ=ライス=ヒル」のラインは今回の協議に賭けている。思い切った譲歩もあると見ておくべきでしょう。逆に北朝鮮側としては、核開発は彼らの生命線ではあるのだけれども、高く売りつけるとしたら今をおいてほかにはない。落しどころを探ってくるでしょう。

〇こんな中で、日本としては今までどおりの原則論に終始している。「核問題、ミサイル問題、拉致問題の諸懸案の包括的な解決を前提として日朝国交正常化を目指す」である。この姿勢を続けていると、「空気の読めないヤツ」になってしまう恐れがある。外務省としては、その辺は百も承知で、歯がゆい思いをしているのだと思う。日本の世論が北朝鮮への強硬姿勢を望んでいるからには、この状況は避け難いわけなのだけど、これをもって「外務省の無能」と呼ぶ声が出るのでしょうなあ。


<7月28日>(木)

〇本日発売の週刊文春を読むと、よく当たる宮川先生の予測が掲載されている。郵政法案が参院で否決された場合、解散・総選挙になったらどうなるかというと、自民198、公明30、民主241、社民1、共産7、無所属1となって民主党政権が誕生となるらしい。

〇ところでこの読みは、自民党が郵政法案の賛成派、反対派で割れないことが前提になっている。しかし小泉さんは、反対した議員を公認しないかもしれない。そこで反対派が割れて、新党立ち上げ(例:郵政新党)になった場合はどうなるのか。頭をひねっているかんべえの前に、ひらひらと天から紙切れが舞い降りてきた。


●衆院選議席予測

「自民激減で与党過半数割れ。政界再編へ」

8/5の参本で郵政法案が否決され激怒した小泉首相はその日のうちに解散。投票日は9月11日。小泉は衆院で造反した51人の公認を拒否。51人は郵政新党を立ち上げて選挙に臨んだ...。その結果は。

自民 248→193
公明 34→34
民主 175→213
郵政 0→20
共産 9→9
社民 6→6
他  8→5

造反51人のうちそもそも小選挙区で勝ち上がっていたのは34人。このうち今回郵政新党として小選挙区で勝てるのは綿貫、亀井らわずか17人。残り17選挙区では自民と郵政新党の候補が保守票を食い合って全部民主に取られる。自民はこの他小選挙区では10議席程度民主に取られる。また比例でも離党51人分の票を減らすので各ブロック平均1議席ずつ失い計11議席失う。

この結果自民は200を割り込んで第2党に転落。民主はタナボタで第一党に。自公の与党は過半数を失う。郵政新党を入れれば過半数。それより民公政権のほうが現実的。


〇やっぱり民主党政権誕生となる。自民党と郵政新党が割れると、保守票を食い合うのと、比例の票が減るのでダブルで効いてしまうのですね。ところで上の数字をよくよく見ると、そもそも自民党248議席は、造反51議席がそもそも抜け落ちてしまうので、正確には次のように考えなければならない。


自民 197→193 (−4)
公明 34→34 (0)
民主 175→213 (+38)
郵政 51→20 (−31)
共産 9→9 (0)
社民 6→6 (0)
他  8→5 (−3)


〇民営化賛成の自民党はほとんど変化がないのに、政権の座から滑り落ちてしまう。そして民営化反対の郵政新党は議席半減となってしまい、文字通り「反対派議員の末路哀れが見たい」という呪いが成就してしまうのだ。程度の差こそあれ、両方が不幸になる。そして民主党が「タナボタ」で政権が転がりこむ。

〇だったら、参院で郵政法案を通せばいいようなものだが、今のところフタを開けるまで分からない状態らしい。まあ、こういう票読み自体、郵政法案に賛成するように働きかける説得材料として使われている気配がありますが。


<7月29日>(金)

〇日々発表される景気指標をチェックするときに、このページが便利です。しょっちゅう日経の悪口を書いているかんべえですが、こういうデータはとっても重宝してますと、たまには言っておきましょう。

●景気ウォッチ http://www.nikkei.co.jp/keiki/ 

〇本日最大のニュースは、日経夕刊の一面を飾っていたとおり、「6月の完全失業率4.2%・総務省――前月比0.2ポイント低下」です。現下の日本経済の要所は、「企業部門のマネーが家計部門に流れるかどうか」なので、雇用のデータはとても重要だと思います。4.2%は7年ぶりの低水準ですから、これは文句のつけようがありません。

〇かんべえが気にしているのは、15〜24歳の失業率です。実は先月、久々に9.1%と一ケタになったばかりなのだけど、6月はなんと7.8%(男9.4%、女6.5%)まで改善している。この数字が10%を超えているようだと、日本の未来は暗いということになる。ニートやフリーターが社会問題になるのも、若者の就業機会が少ないからでしょう。現在、15〜24歳の完全失業者は、男31万人(前年同月比7万人減)、女21万人(同2万人減)。この年代が、希望を持てるような経済であってほしいものです。

〇ところで雇用状況の改善は、景気の回復と同時に、「団塊世代の引退」が近いことを企業が痛感しているからでしょう。向こう3年くらい、これは大きな問題ということになると思います。


<7月30〜31日>(土〜日)

国際問題研究所から刊行された本のご紹介をさせていただきます。今週末に早速取り掛かったところ、昨年の選挙を懐かしく思い出しつつ、あっという間に読み終えてしまいました。楽しい本でした。

〇2004年の米大統領選挙の際は、G.W.ブッシュ政権とアメリカの保守勢力−共和党の分析」が大変にお役立ちで、「アメリカ社会の保守化」と、その中での共和党の戦略を包括的に解き明かしてくれました。かんべえもネタ本として散々活用しておりました。今度はその続編で、現在は劣勢にある民主党は、2008年に向けてどんなことを考えているかをまとめています。それが今度出た「米国民主党 −2008年政権奪回への課題」です。おそらく次の2008年選挙では、大いに役立ってくれるはずです。

〇2004年選挙は、世間的には共和党の大勝利ということになっている。編者の久保文明先生によれば、これを民主党側から見ると、「政策が悪かったために、勝てるはずの戦いを落としてしまった」という悲観的な見方と、「選挙資金でも運動量でも、共和党に負けないくらい良く頑張った」という楽観的な見方があるという。総じて党内右派は惨敗であったと言い、左派は善戦であったと考える。前者は、ケリーの外交政策が反戦派に媚び過ぎたのが敗因であり、民主党が抱える問題は深刻、と認識する。後者は、インターネットを使った選挙資金調達能力など、大いに得るところがあったので、党は活性化されたと考え、政策面は問題なしと考える。

〇こういう対立を残していること自体、民主党は危ないのかもしれない。というより、かんべえはやっぱり右派(穏健派)の認識に近いので、民主党はマイケル・ムーア的なものをバッサリ切り落とさないと、2008年も同じことになるんじゃないかと思う。とはいえ、左派の認識にも正しい部分があるし、イラク戦争への評価はますます低下し、ブッシュは2008年にはもういない。おそらく2006年の中間選挙を過ぎると、そこにはまったく別の世界が広がっていることだろう。

〇民主党の「ここがダメなんじゃないか」と思うのは、支持層がとっても偏っていることだ。本書では多様な民主党の支持集団を次のように分類している。

●最左派。反グローバル派や反戦派。

●労働組合。反自由貿易主義。反中国。

●フェミニスト。同性愛者団体。

●環境保護、消費者運動。

●法廷弁護士。

〇上記の中には、経済活動に対してポジティブな団体が皆無である。もちょっと普通の人たちを組織しないと、なかなか天下は取れないと思うぞ。ちなみに、ジョン・エドワーズの登場で一躍有名になった「法廷弁護士」については、「アメリカ法廷弁護士協会の政治的影響力とその伸長」(中山俊宏)という面白い論文が載っています。

〇ともあれ、民主党が捲土重来を期して努力していることが良く分かりました。いつも思うことですが、政治という活動は、政務(Politics)と政策(Policy)の掛け算ですから、どちらかがゼロだと答えはゼロになる。民主党が政権を取るためには、政務に精を出すことが大切なのか、政策に新しいアイデアを求めるべきなのか、おそらくは両方ともが必要なのでしょう。

〇まあ、日本の民主党の場合は、努力しなくてもタナボタで政権が転がり込んでくる可能性がある。そういうのもどうかと思うが、与党が自爆してしまうかもしれないものなあ。


〇ところで以下はまったく関係がないのですが、ちょっとビックリ。モナーもグローバルになってきたかのぅ。ノマノマ、イェイ〜♪

http://maiahi.com/index.html 









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki