<5月1日>(日)
〇阪神が突如として6連勝。巨人は3タテ。それでも通算では10勝20敗1分けと、勝率3割2分3厘で借金10。どんだけ負けてたんだよ。って、なにしろ開幕9連敗だったからねえ。
〇日テレの中継を見ていると、「自由視点映像」が流れる。これがいい感じなのである。自分がバッターボックスに立っていたら、あんな風に見えるんですな。球が速過ぎて、怖くて逃げだしてしまいそう。
〇これは東京ドームが専用カメラ87台を設置した「ご利益」である。いろんな角度から3D映像を作れてしまう。面白いねえ。今後は外野手の視点から外野フライを見上げる、なんて映像も見てみたいものです。
〇先月、巨人×阪神のシリーズ第1戦を見に行ってしみじみ感じましたが、東京ドームはホントに生まれ変わった。不況の時にこそ次世代に向けて設備投資をする、というのは企業としてあるべき姿だと思います。
〇プロ野球見物も、「コロナ前」と「コロナ後」があるのかもしれませんな。鳴り物入りの応援はもう要らない。タイガースの風船攻撃は、うーむ、あれは復活してもいいかなあ。
<5月2日>(月)
〇大型連休の間には、政治家の外遊が相次いでいますね。わかる範囲でまとめてみました。
●岸田首相 4/28--5/6 インドネシア、ベトナム、タイ〜イタリア、英国
●林外相 4/28--5/2 カザフスタン、ウズベキスタン、モンゴル 5/6--8 フィジー、パラオ
●萩生田経産相 5/2--7 米国
●岸防衛相 5/3--6 米国
●自民党青年局 5/3--7 台湾
●金子農水相 5/4--8 タイ、シンガポール
●中曾根弘文参議院議員など 5/9--? 韓国
〇岸田首相は東南アジアへ。日本外交としては「最初はグー」みたいなところです。インドネシアは今年のG20議長国、ベトナムは歴史的にロシアとの関係が深い。「向こう側に行っちゃダメですよ」と念押しするだけでも価値がある。イタリアと英国を訪れるのは来月のエルマウG7対応でしょう。議長国ドイツのショルツ首相は、先に訪日して4月28日に会談済みです。
〇林外相がクセ者で、ロシアから見たらさぞかし嫌な動きでしょう。今後、カザフスタンとウズベキスタンがどっちにつくかは非常に重要ですからね。連休後半のフィジー、パラオは中国を念頭に置いての動きでしょう。
〇萩生田経産相、岸防衛相、金子農水相は事務方のお膳立て通り、と拝察いたします。
〇自民党青年局、台湾に行っちゃうんですねえ。蔡英文総統とも会うみたいです。考えてみたら、アメリカの政府要人もずいぶん行ってますから、ずいぶん雰囲気も変わったものです。
〇5月10日のユン新政権の発足に立ち会うのは中曽根元外相でしたか。お務めご苦労様です。相当な押し付け合いがあったかもしれませぬ。
<5月3日>(火)
〇連休は特にすることもなし。ということで、映画版『機動戦士ガンダム』でも見ようかと思っていたのだが、なぜか今日は『ゴジラ』(1954年)と『シン・ゴジラ』(2016年)になった。
〇最初の『ゴジラ』は白黒映画であり、ワシがまだ生まれていない頃の東宝映画である。なにしろ終戦からまだ10年もたっていないので、当時の人々にとっては東京の破壊も原爆投下も疎開もまだまだ新鮮な記憶である。劇中では「アメリカがけしからん」という言及はまったくないけれども、同年3月の第五福竜丸事件が引き金になっていることは自明であろう。
〇1954年と言えば、ゴジラが破壊すべき東京タワーもまだできていない。代わりに国会議事堂や銀座の和光がゴジラに破壊されている。「ファースト・ゴジラ」では銀座は特に念入りに破壊されていて、当時の和光や松屋は「東宝は出入り禁止!」と言って怒ったのだそうである。
〇それが52年後に作られた『シン・ゴジラ』では、このファースト・ゴジラにリスペクトを払って作られている。例えば、冒頭で失踪が判明する牧悟郎教授は「大戸島出身」とされていて、これはゴジラが最初に姿を現した舞台となったところである。ちなみに和光はちゃんと『シン・ゴジラ』でも破壊されているが、これはむしろ名誉とされたことでしょう。とはいうものの、『シン・ゴジラ』においては、文字通り御社も弊社も木っ端みじんである。
〇2016年に見た時は気づかなかったけれども、今見ると「エヴァ」がいろんな場所で顔を出すのに気が付く。「巨災対」が登場するシーンでは、いつも音楽が「ヤシマ作戦」になりますなあ。多摩川を防衛ラインにして自衛隊がゴジラを迎え撃つシーンでは、ヒトマル戦車に「エヴァ」に登場するのと同じ動きをさせているシーンがある。なんという贅沢でありましょうや。
〇どうでもいいことですが、ウクライナで使われているロシア、ウクライナ両軍の戦車は、わが国のヒトマル戦車に比べれば児戯に等しいように思われます。現代戦の戦車というものは、砲弾を撃ちながら移動しなければならんのです。あれを投入したら、一気に戦局が変わるかもしれませぬぞ。まあ、実戦でいきなり使ったことのない兵器を使うわけにはいかんのでしょうけれども。
〇小泉悠氏によれば、ロシア軍は今でもモシン・ナガンという三八式銃と同じ時代の銃を使っているそうなので、やっぱり戦争は士気でやるものであって、兵器でやるものではないのかもしれません。待てよ、それなら不死身の杉元や尾形上等兵をウクライナ支援に送り出すというのはどうか。
〇世間は連休本番ということで、浅草の仲見世通りから博多のどんたくまで、いろんなところで人出が多いようだが、こちらは暇してろくでもないことを考えておるような次第である。
<5月4日>(水)
〇ロシア外務省が63人の日本人の入国禁止を発表しました。期間は無期限です。
〇さて、どんな人が「お出入り禁止」を言い渡されたのかと思ってロシア外務省のHPを訪れてみたところ、以下の通りでした(英語翻訳したものを貼り付けました)。
1 | KISHIDA Fumio | Prime minister |
2 | MATSUNO Hirokazu | General Secretary of the Cabinet of Ministers |
3 | HAYASHI Yoshimasa | Minister of Foreign Affairs |
4 | SUZUKI Shun'ichi | Minister of Finance |
5 | KISI Nobuo | Minister of Defence |
6 | FURUKAWA Yoshihisa | Minister of Justice |
7 | NINOYU Satoshi | Chairman of the Commission on Public Security |
8 | NISHIME Kosaburo | Minister of State for Okinawa and Northern Affairs, Head of the Headquarters for The Development of Measures for the "Northern Territories" in the Cabinet Office |
9 | AKIBA Takeo | Secretary General of the National Security Council |
10 | SANTO Akiko | President of the House of Councillors |
11 | HOSODA Hiroyuki | President of the House of Representatives |
12 | TAKAICHI Sanae | Deputy of the House of Representatives, Chairman of the Political Council of the LDP |
13 | MASAHISA SATO | Deputy of the Chamber of Councillors, Chairman of the LDP Council on Foreign Policy |
14 | MATSUKAWA Rui | Deputy of the Chamber of Councillors, Deputy Chairman of the LDP Council for National Defense, Deputy Chairman of the LDP Council on Foreign Policy |
15 | MORI Eisuke | Deputy of the House of Representatives from the LDP, Chairman of the Parliamentary Association for Friendship with Ukraine |
16 | SHII Kazuo | Member of the House of Representatives, Chairman of the Communist Party of Japan |
17 | ISII Mitsuko | Member of the House of Councillors for the Japan Renaissance Party |
18 | KUMANO Seishi | Member of the Chamber of Councillors for the Komeito Party |
19 | MORI Yuko | Member of the Chamber of Councillors from the Constitutional Democratic Party |
20 | ABE Tomoko | Chairman of the House Special Committee on Okinawa and the North |
21 | AKIBA Kenya | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
22 | KOKUBO Konosuke | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
23 | SUZUKI Hayato | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
24 | HORII Manabu | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
25 | ISHIKAWA Kaori | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
26 | OSHIMA Atsushi | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
27 | SUGIMOTO Kazumi | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
28 | INATSU Hisashi | Permanent member of the House Special Committee on Okinawa and the North |
29 | AOKI Kazuhiko | Chairman of the Special Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
30 | AOYAMA Shigeharu | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
31 | IMAI Eriko | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
32 | KITAMURA Tsuneo | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
33 | KATSUBE Kenji | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
34 | TAKASE Hiromi | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
35 | OKSUKA Kohei | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
36 | SHIMIZU Takayuki | Permanent member of the Ad Hoc Committee of the House of Advisers on Official Development Assistance and on Okinawa and Northern Affairs |
37 | MOROHOSI Mamoru | Chairman of the Northern Territories Policy Association |
38 | SAEKI Hiroshi | President of the Solidarity League for the Return of the Northern Territories |
39 | WAKI Kimio | Chairman of the Union of Former Residents of Chisima and Habomai Islands |
40 | SAKURADA Kengo | President and CEO of Sompo Holdings, Chairman of the Japan Association of Corporate Executives Keizai Doyukai |
41 | ONIKI Makoto | Senior Parliamentary Deputy Minister of Defence |
42 | IWAMOTO Tsuyohito | Parliamentary Deputy Minister of Defence |
43 | NAKASONE Yasutaka | Parliamentary Deputy Minister of Defence |
44 | YAMAZAKI Koji | Chief of the Joint Staff of the Self-Defense Forces |
45 | ONO Hirahiko | Official representative of the Ministry of Foreign Affairs, Director of the Information Department of the Ministry of Foreign Affairs |
46 | IIZUKA Hirohito | President of Sankei Media Group |
47 | KONDO Tetsuji | Executive Director (Editor-in-Chief) of Sankei Media Group, Head of Sankei Digital Resource |
48 | SAITO TSUTOMU | Head of the Tokyo edition of the newspaper "Sankei", vice-president of the publishing house "Sankei" |
49 | ENDO Ryosuke | Columnist of the newspaper "Sankei", Deputy Head of the International Editorial Board |
50 | YAMAGUCHI Toshikazu | President of Yomiuri Group Media Holding |
51 | WATANABE Tsuneo | Executive Director (Editor-in-Chief) of Yomiuri Group |
52 | NINOMIYA Seijun | Sports journalist, head of the information portal "Sports communications" |
53 | OKADA Naotoshi | Chairman of Nikkei Media Holding |
54 | HASEBE Tsuyoshi | President of Nikkei Media Holding |
55 | IGUCHI Tetsuya | Executive Director (Editor-in-Chief) of Nikkei Media Holding |
56 | SASA Jiro | Editor-in-Chief of Sentaku Magazine |
57 | KATO Akihiko | Editor-in-chief of Shukan Bunxiun magazine |
58 | HAKAMADA Shigeki | Member of the Security Council (Ampoken), Visiting Professor at Aoyama and Niigata Universities |
59 | KAMIYA Matake | Professor of the National Academy of Defense |
60 | SAKURADA Jun | Professor at Toyo Gakuen University |
61 | SUZUKI Kazuto | Professor at the University of Tokyo |
62 | OKABE Yoshihiko | Professor of Kobe Gakuin University, Head of the Society for the Study of Ukraine |
63 | NAKAMURA Itsuro | Professor at the University of Tsukuba |
〇いろいろツッコミどころはありますが、とりあえずはロシア政府から「敵認定」されたということは、ここに名前が挙がった人は今宵はビールが旨いということになるでしょう。だって実害はほとんどありませんし。
〇政府関係者はさておくとして、われらが安保研からは袴田茂樹先生と神谷万丈先生がノミネートされました。パチパチパチ。東大の鈴木一人先生や東洋学園大学の櫻田淳先生も納得の人選であります。ちなみに中村逸郎先生は筑波大学ではなくて、筑波学院大学の間違いではありますまいか。スポーツジャーナリストの二宮清純さんはなにがお気に召さなかったのでしょうか。いや、これはおめでたいことでありましょう。
〇経済同友会の櫻田代表幹事はリストにあるけれども、経団連会長や日商会頭は載っていない。日ごろの活動に何か足りないものがあったのでしょうか。産経新聞や読売新聞や日経新聞はちゃんと入国禁止になったのに、朝日新聞や毎日新聞の名前がないということは、これらのメディアは親ロ派認定されているのかもしれませぬ。そんな中で、「選択」や「週刊文春」がリスト入りしているのは、まことに名誉なことといえましょう。
〇ところで政治家でここに名前が載っていない方々は、モスクワに呼ばれているということかもしれませぬぞ。とりあえずプーチンさんに、ダメもとで電話を入れてみるというのはいかがでありましょうや。
<5月5日>(木)
〇今年の連休は関東圏をドライブすることが多かったのですが、ひとつ困ったことが生じている。
〇それはいつも聞いているFM放送のJ-WAVEが「意識高い系」になってしまい、何かというとSDGsだとか地球環境だとか、説教臭い話になってしまうのである。知ってのとおり、ワシはその手の話が好きじゃないので、すぐにチャンネルを変えてしまうのだが、だったらどのチャンネルが好ましいかがまだ定まらない。ともあれ、J−WAVEは既にそういうリスナーがついているようなので、残念ながらワシの方で離れていくしかないらしい。
〇しかし「意識高い系」の人たちは、今やいろんなところに進出している。これが単なる偏見であればいいのだが、先日、国連のグデーレス事務総長がロシアとウクライナを訪問したけれども、いかにも嫌々出かけているという風情であった。「私はねえ、ジェンダーとか気候変動とか、もっと崇高なことがしたくて国連をやっているので、停戦調整とか難民保護とか、そんな汚れ仕事はさせないでほしいなあ」と言いたそうに見えた。すいません、元左派政党のポルトガル首相と聞くと、ついそんな風に考えてしまうのです。
〇ただし国連が本来何のためにできたかというと、それは世界の平和と安全のためであって、間違ってもSDGsのためなんかではない。グデーレス事務総長がモスクワを訪問した後にキーウを訪れたところ、すかさずロシア軍がキーウに爆撃を入れていた。国連のことをそういう眼で見ている国がある(しかもそれが常任理事国であったりする)、という事実は、是非、学習していただきたいものだと思います。
〇しかるに停戦調停をやらずして、国連に何の価値があるというのか。そもそも戦争よりもひどい環境破壊はこの世に存在しない。いくら太陽光発電やEVを供給しても、ウクライナにおける戦闘行為を穴埋めすることは難しいだろう。そして戦場における残虐行為の前には、ジェンダー平等なんてものも吹っ飛んでしまう。どこかの国の新聞広告にケチをつけることが国連の仕事ではないと思うのだが。
〇他方、今朝はFOMCがあった。中央銀行の世界にも、「自分は気候変動やCBDC(中央銀行デジタル通貨)の仕事をやりたい」と勘違いしている者はきっといるだろう。幸いなことに米FRBはプロの集団であって、彼らの関心事は「インフレの番人」たらんとすることである。政策金利は0.5%の上げであったし、QTは6月から開始のようである。だったらなぜ株が上がったかというと、それは幸福な誤解なんじゃないかと思う。
〇FRBは正しくタカ派の道を歩んでいて、それはマーケットに福音をもたらすことはないだろう。シンプルに考えれば、そのことは自明なはず。得てして賢い人、もしくは自分のことを賢いと思っている人が間違える。まあ、ほっときゃいい話ですけど。
<5月6日>(金)
〇5月4日は「スターウォーズの日」。なんとなれば"May
the force be with you!"(フォースが共にあらんことを!)という決めゼリフが、"May
the fourth(5月4日)be with you."と聞こえるから。
〇てなことで、5月4日に行われたFOMCは、その日のNYダウ平均は930ドルの上げで終わった。フォースの力はやはり偉大である。ところが5月5日になると株価は1000ドルも下げてしまった。なんとか1日はごまかせたけれども、一晩寝たら皆さんお気づきになったのね。Fedはやっぱりタカなのね、などと。
〇今宵、5月6日公表の雇用統計は、NFP42.8万人増、失業率3.6%といい数字が出た。そしてダウ平均は下げている様子。いかん、やっぱりフォースが共にない、ということでありましょう。
〇ちなみにスターウォーズの最新作、『オビワン・ケノービ』は間もなく公開となるそうです。エピソード3と4の中間あたりですな。ディズニーさんも商売、商売なのであります。
〇それからこちらは連休中の仕事。"May the
force"を掴みに使っております。
●「FRBの0.5%利上げ」でぬか喜びしてはいけない
<5月8日>(日)
〇この話は今日中にお伝えしないといけませんな。「プーチンはなぜ対独戦勝記念日(5/9)にこだわるのか」。元ネタは、袴田茂樹先生が今月の「安保研報告」の巻頭言に書いておられる話です。簡単に言ってしまうと、「ナチのお陰でソ連邦が生まれた」から、なのだそうです。
〇1917年の二月革命、十月革命の後、内戦時代が続いた後に、1922年になってようやく「ソビエト社会主義共和国連邦」が結成される。しかるにそれは、「国家の体をなしていなかった」(プーチン)。共産党自体がボリシェビキとスターリン派に分裂していた。諸民族もまとまっていなかった。中央アジアやコーカサスの共和国は伝統的生活を送っていたし、ロシア共和国でも国民の大部分はロシア正教徒やイスラム教徒だった。農業集団化政策で大量の餓死者を生み、多くの知識人が収容所送りとなり粛清された。
〇この事態を一変させたのが対独戦争である。国家の存亡をかけた戦争が始まったおかげで、共産党はロシア正教やイスラム教徒も妥協し、複雑に対立していた諸民族も一体となって対独戦を死に物狂いで戦った。つまり、ナチにより初めて「ソ連」という統一国家が成立したのだ、と袴田教授は記している。以下のように聞くと、「さもありなん」である。
*ソ連時代には戦勝記念日を近年のプーチン時代のように大々的に祝っていなかった。ソ連では、むしろ11月7日の革命記念日や5月1日のメーデーの方が恒例行事として大規模に祝われた。対独戦に勝利した後の20年間、5月9日の赤の広場での祝賀軍事パレードは行われなかった。
*スターリンもフルシチョフも、共産党よりも軍が勢力を持つのを嫌ったからだと指摘するロシアの歴史家もいる。対独戦勝記念日を軍事パレードと一体で盛大に祝うようになったのはブレジネフ時代から(1966年〜)だ。
*ソ連時代に最後の戦勝パレードが行われたのは1990年で、ソ連邦崩壊後に控えめの形で再開されたのが1995年である。それが、軍事力誇示と結び付けられて毎年盛大に行われるようになったのは、プーチン時代(2000〜)になってからだ。節目の年には戦勝国だけでなく、日本やドイツなど敗戦国の首脳も招かれるようになった。
*2005年のパレードに呼ばれたブッシュ大統領は、その途上、5月7日にラトビアのリガで演説をし、「ヤルタ合意は歴史上最大の誤り」と述べた。「クリミア併合」翌年の2015年の記念日には、西側主要国の首脳は抗議の意味を込めて、誰も出席しなかった。
*プーチン大統領が特に5月9日の対独戦勝記念日を特別に重視するのは、単にロシア国内をまとめる行事という観点からではなく、ロシア主導による旧ソ連諸国の再統合、更には「第2ヤルタ体制」なども念頭に置いてのことである。それだけ重要な意味を持っているからこそ、今年もこの日までには何としても、ウクライナへの「特別軍事作戦」成功の体裁を整えたいのである。
〇こんな風に聞くと、「ウクライナの非ナチス化」が特別軍事作戦の目的になる、なんていう理屈も飲み込めてくる。「ナチスに勝った」ことが自分たちの国家統一の証なので、それから77年たっても「対独戦勝」にこだわり続けなければならないのである。
〇独ソ戦に勝った、という事実はそれくらい重かった。1945年2月のヤルタ会談では、米英ソの間で戦後秩序についての議論が行われた。国際連合に安全保障理事会を作ることまでは決まっていたが、常任理事国に拒否権を持たせるというアイデアで揉めた。チャーチルは「拒否権などあり得ないシステムだ」と強硬に反対したが、それでもチャーチルの主張は覆せなかった。そりゃそうだ。ドイツを倒したのは米英ではなくてソ連だったからだ。
〇とはいうものの、今から考えるとヒドいことを決めたものである。常任理事国が他国への侵略戦争を開始した場合、国連は全く動けない。そんなことは1945年の発足時から分かっていたことなのである。それもこれも、「ナチス」という絶対悪を倒したという「お手柄」をロシア人がわがものと考え、それに対して他国が文句を言えなかったからであろう。
〇袴田論文は以下の一文で終わっている。うーん、明日には分かる話ですが。どうなんでしょう?
*ひとつの疑問だが、今年の5月9日には、赤の広場で1万数千人の軍隊と多数の強力兵器を登場させる大規模軍事パレードを行う余裕がロシア軍にあるのだろうか。
<5月9日>(月)
〇古くから親交のあるアメリカ政治研究者で、当欄にもたびたび登場していた中山俊宏さん(慶應義塾大学教授)が亡くなられました。なにしろ当方より7歳も若い方なので、土曜日に知らされたときは大変にショックでした。もう二度と会えなくなってしまいました。「諸行無常」とか「天道是か非か」とか「セ・ラ・ヴィ」とか、古来、人が死ぬたびに繰り返されたような言葉がぐるぐると頭の中で回転しました。
〇5月1日にくも膜下出血で倒れられたとのこと。4月30日までツィートしておられたのですから、本当に突然だったようです。そもそもワシは先月も中山さんと飲んでいたし、リモートの会議でもご一緒している。3月に会ったときなどはお昼の会合だったというのに、「これがめずらしい八咫烏ですぞ」などと持参した日本酒を飲ませていた。いまから思えば、あれは非難されるべき行為だったかもしれない。といっても、もちろん取り返しはつかないのである。
〇当欄の2003年9月27日にこんな記述がある。これ、若き日の中山さんから聞いた話である。
●国連総会において、どうでもいいような議題がかかるとき、発展途上国の多くでは本国からの訓令もなく、自分で判断しようにもよく分からないということがある。そういうときは、「とりあえず日本と同じにしておけば安心」なので、日本が賛否を投じた直後に、一斉にそれと同じ投票行動が続く。
〇90年代後半に、中山さんが外務省の国連担当専門調査員をやっていた頃のエピソードなのだそうだ。日本の投票行動が「賛成」だと判明すると、国連内の電光掲示板でバシバシバシッ、と「賛成」が増える。日本は国連内では目立たない存在なのだけど、日々の言動にはいちおう筋が通っていて、いつもそれなりのロジックがある。日本と同じようにしておけば、後から難癖をつけられたときにも、ちゃんと申し開きができる。加えて日本政府は、兄貴風を吹かせたり、恩着せがましかったりはしない。だから真似しても安心・安全な存在だった。
〇これって今読み返してもいい話だと思うし、そういう話を好む中山さんが、またいかにも「らしく」て、私は好きだったのである。おそらく日本外交が発揮すべきソフトパワーとは、こんな性質のものであって、「アジア諸国を反ロシア陣営に誘い込む」みたいな権謀術数的なことは、ほかの国に任せておくべきではないかと思う。そもそもそんなガラじゃないし。
〇当時の中山さんは、日本国際問題研究所の研究員でした。その後、津田塾大学に行き、青山学院大学に行き、慶応義塾大学に行き、その間にブルッキングス研究所とウィルソン・センターにも在籍されていました。この20年以上にわたって、いろんな場所で会って、いろんなことを教えてくれた友人でした。当・溜池通信は貴重なネタ元を失いました。
〇今頃はあの世で松尾文夫さんに再会して、「あなたはねえ、来るのが早過ぎるよ」などと文句を言われているような気がしている。中山さんがあと10年でも20年でも生きてくれたなら、どれだけ多くの研究と業績と教え子を残されたかと思うと、本当に悔やまれてなりません。まことに無念ですが、いたしかたなし。合掌。
<5月10日>(火)
〇バイデン大統領がサインをして、武器貸与法(レンド・リース法)が成立しました。もともとは1941年3月に成立した法律で、この枠組みの下でアメリカは英国やソ連、フランスや中国にまで武器を提供した。それによって、ナチス・ドイツに対抗しようとしたわけである。当時のアメリカ国民は、まだまだ参戦には否定的だったのだ。
〇それと同じ法律が、今度はウクライナ支援に向けられている。アメリカとしてはみずからは戦わず、ロシアを疲弊させ、それで勝手にコケてくれたら儲けもの、という作戦である。ちなみに1941年のレンド・リース法を活用したFDRことフランクリン・ルーズベルト大統領は、バイデン氏がつとに尊敬し、執務室に肖像画をかけている人物である。
〇前回のレンド・リース法はどんなことになったのか。イギリスはアメリカに大きな借りを作ってしまった。最後に戦争が終了すると、物資は捨て値でイギリスに売却されたが、最終的に返済が終わったのは2006年になってからであった。今回のウクライナ戦争が終わった後には、たぶん似たようなことが繰り返されるのではないだろうか。
〇ちなみにFDRはこう言ったそうである。「この計画は、火事を消すために隣人にホースを貸すようなものである。隣人にホースの代金を求める必要はない。火事が消えた後に、ホースを返してもらえばいい」。麗しい話に聞こえるが、そんなわきゃあないですわなあ。国際政治は生き馬の目を抜く世界であります。
<5月11日>(水)
〇「中身がわからない」ということで評判が悪いのは、本日成立の経済安全保障促進法案もさることながら、岸田首相肝いりの「新しい資本主義」である。とくにひどいのは先週5月5日にロンドンで行った"Invest in Kishida."演説である。日経新聞のサイトに要旨が載っている。
●岸田首相のシティー講演要旨 「強く持続的な資本主義へ」
〇中身のない「祝詞」のような講演である。特に下記の部分は一瞬ジョークかと思ったが、大真面であるらしい。これ、英語ではなんと言ったんだろう?こういうのをトートロジーというのではないのか。
新しい資本主義とは何か。一言でいえば資本主義のバージョンアップだ。
〇いつも言っていることの繰り返しとなるが、資本主義は「イズム」ではなく、共産主義のように誰かが考案したイデオロギーではない。政治家が余計なことを言わなくても、資本主義は勝手にバージョンアップされて、時代に合わせて姿を変えていく。それを政治家が自分の力で新しくするぞ、と言っている時点でかなり恥ずかしい。その上で、具体策として出てくるのが以下のような言葉である。かなり脱力である。
何にどのように取り組んでいくか。「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップ投資」そして「グリーン、デジタルへの投資」の4本柱だ。
〇たぶん昨年秋に岸田さんが「新しい資本主義」と言った時点では、ふわっとした「思い」だけがあって、アイデアなど皆無だったのであろう。その上で「金融所得課税」とか、「四半期決算の見直し」とか、ピントのずれた発言が続くものだから、マーケットは愕然としてしまった。ところが岸田さんの「聞く力」はホンモノであるらしく、これらのアイデアは「お蔵入り」になったようである。こういう柔軟さは悪いことではない。
〇その上で、「新しい資本主義とは何なんですか?」と聞かれるたびに、「それは、この後に出しますから」と言いつつ、「新しい資本主義実現会議」なんぞも作ったうえで、とうとう年を超えて5月になってしまった。別にこっちも期待していないからいいのだけれど、この段取りの悪さは単純に「カッコ悪い」のではないだろうか。
〇この後、6月15日には通常国会が閉会となり、6月22日には参議院選挙の公示日となる。その間くらいに、「骨太方針2022」と「成長戦略」と「新しい資本主義 ビジョンと実行計画」が出揃うことになる。そしてこれらが、与党の参議院選公約となるはずである。もうあと1か月くらいしかないぞ。大丈夫なのか。
〇それでも政権支持率は高いので、あんまり危機感はないようである。これは先日、歳川隆雄さんから教わったネタだが、「おニャン子来たぞ自民党、モー娘。逃げたぞ立憲民主」と言うんだそうで、参院選はどう考えても与党が負けそうにない。その後には「黄金の3年間」が控えているのだが、こんなことでいいのかよ。まことに生ぬるく思える昨今の永田町である。
<5月12日>(木)
〇大型連休が明けたら、今週は急に夏場にかけての講演依頼が増えた。なんだか凄い数の受注残になっている。とりあえずコロナが遠ざかったようなので、人が集まる企画がやりやすくなったようである。商売繁盛はまことにありがたいことである。
〇とはいうものの、これで来月くらいからコロナ第7波が来たらどうするのだろう。中には律義に、「そのときはリモートでお願いすることになりますが、よろしいでしょうか?」と念を押してくる主催者さんもいらっしゃる。もちろん構いませんがな。この2年間で、そういうのはひと通り経験しましたので。いかようにでも対応いたしまするぞ。そういうの得意ですから。
〇とりあえず今から楽しみで仕方がないのは、週明けに内外情勢調査会の仕事で山口支部と宇部支部に行く機会があることだ。あの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の聖地、宇部新川駅に行けるではありませぬか。昔から、こういうことが楽しくてこの仕事をやっておるのである。
〇山口宇部空港からわずか10分、190円の電車賃で宇部新川駅に着くらしい。待てよ、すると飛行機の時間からいって、ちょうどワシが到着する頃にはヴィクトリアマイルが行われている時間帯となる。シンジとマリが再会したベンチで、グリーンチャンネルウェブサイトでG1レースを見る。それはそれで一興かもしれない。いまから週末が楽しみで仕方がないのである。
<5月13日>(金)
〇今日は13日の金曜日で仏滅。天気は雨。ということで、今日は在宅勤務でせっせと原稿を書いてました。ちょっくら毒を吐かせていただきましょう。
〇中国のゼロ・コロナ政策が問題になっているが、あれは要するに「中国製のワクチンはオミクロン株には効かない」というだけの話ではないのか。だとしたら解決策は簡単で、海外からちゃんとしたmRNA方式のワクチンを買えばいいのである。
〇もっともそれをやると、中国共産党のメンツが丸つぶれになってしまう。秋の党大会を控えて、とてもできませんわなあ。ちなみに本当にやろうとした場合、日本は1億2000万人分のワクチンを買ってざっくり1兆円でしたから、14億人分のワクチンを買おうとしたら、うん、やっぱりこれはできませんわなあ。
〇イーロン・マスクが「日本は消滅する」と言ったら、世間が大騒ぎしている。駄目です。日本の少子化は、みんなが知っている話です。それにアジアのほとんどの国で起きていることです。日本のことが大好きで、心配してくれるのはありがたいですけど。たぶん彼が好きなアニメやラーメン二郎は、日本が亡くなっても生き延びるでしょうな。
〇今日は久々に日経平均が上げて、為替が128円に戻った。今朝のモーサテの出演陣が、あまりに暗い感じだったので心配していたけど、こういうところがマーケットの「らしい」ところだよね。と思ったら、今日はとっても久しぶりに証券会社から電話もかかってきた。13日の金曜日だと言っても、悪い話ばかりじゃないんです。
<5月14日>(土)
〇昨日が封切りだったのですが、もう見て参りましたですよ。『シン・ウルトラマン』を。
〇怪獣は「禍威獣」になり、科特隊は「禍特隊」になっておりました。「禍特隊」のメンバーは、防衛省と警察庁と某大学と文科省と公安調査庁からの出向者の集まりなんですって。しかもハヤタ隊員の名前は「シンジ」なんです。逃げちゃダメだ、にげちゃだめだ・・・。音楽なんかはまんま「エヴァ」であります。電信柱や鉄道のヴィジュアルが効果的に使われてます。これって庵野ワールドですよね。
〇「禍特隊」の本質は、「巨災対」と似ています。リアリティはむしろ消そうとしていた感がありますが、いろんな意味で本作は、『シン・ゴジラ』を継承しています。それが現代ニッポンの姿そのものだから。竹野内豊が出てくると、急に思い出すところがありますよね。
〇就学前に「ウルトラマン」を楽しんだ世代としては、よくぞここまであの世界を21世紀バージョンで再現してくれた、ということで感謝にたえません。それと同時に感じるのは、半世紀前にこの世界観を作った先人たちの偉業であります。特にウルトラマンの造形を担当した成田亨の仕事は、いまから考えると圧巻としか言いようがありません。なにしろ半世紀の時を経て、まったく古さが感じられないのですから。
〇あらためてこの年になって分かるのは、幼少期に見たウルトラマンはエロチックだったんだなあ、ということ。あんまり書くとネタバレになるので、とりあえず「あー、楽しかった」とだけ言っておこう。今日の映画館は満杯で、家族連れが多いことが新鮮に感じました。
<5月15日>(日)
〇ということで、聖地巡礼に行ってきました。宇部新川駅であります。これがねえ、ひどいんですよ。
〇JAL便で山口宇部空港に降り立ったのが午後2時ですわ。そこからタクシーもあり、バスもあり、交通手段はいろいろあるのですが、ここはやはり電車で行くしかありません。駅のすぐ近くに草江駅というのがあって、すぐ近くにあるように見えるのだが、1キロくらい歩かなければならない。
〇なおかつ草江駅、予想はしていたが無人駅であり、次の電車が来るのは15:22PMなのである。なんと1時間以上待たねばならない。まあ、いい。こういうこともあろうかと思って競馬新聞を持ってきている。モバイルWiFiも持ってきたから、グリーンチャンネルもネット競馬もちゃんとつながるのである。
〇本当に1時間待って、電車到来。2両編成。ワンマン運航なので、自動扉が開かない。「ドアランプ点灯中、左横のボタンを押せばドアが開きます」という表示がついている。確か劇中にもそんな表示を見かけたような。
〇善男善女とともに宇部線に乗る。さすがに競馬中継を聞いているのはワシだけである。宇部岬、東新川、琴芝と3つ駅があって、次がいよいよ宇部新川駅である。と言っても、降りる間もなくヴィクトリアマイルである。ただ一人、駅のベンチに陣取って一瞬の興奮。ホームの向こう側にもベンチがあって、もちろんそこにアスカや綾波やカヲルの姿はない。
〇そしてシンジとマリが駆け抜けた陸橋はとっても地味である。アニメの世界を抜けて、現実に帰れというのが『エヴァ劇場版』のラストのメッセージであった。そこから先は実写の宇部市街地を上空から映し出し、宇多田ヒカルの声がかぶさってくるのである。ああ、何べん見たか。
〇「宇部はねえ、観光資源がないんですよ」とタクシーの運転手さんが言っていた。いや、私はそのためにわざわざ来たんですけど。明日は内外情勢調査会の山口支部と宇部支部をダブルヘッダーで訪れます。
<5月16日>(月)
〇日曜日は湯田温泉に宿泊である。これは山口市近郊の温泉街。2005年6月にも同じ仕事で来たことがある。
〇でも、それって今から17年前のことではないか。思えば内外情勢調査会さんの仕事を初めて引き受けたのが2003年2月であったから、今年は既に20年目に入っている。通算してみたら、今日の山口支部は147番目、宇部支部は148番目のお勤めであった。われながら、よくまあ飽きもせず懲りもせず。
〇今回宿泊したのはホテルニュータナカである。ここの裏手が井上公園といって、維新の群像の一人、井上(聞多)馨の出生地である。ところが17年前に当地を訪れた時には、なぜか「高田公園」という名称になっていて、いくらなんでも変だろうと思った覚えがある。それが2022年に再訪してみたら、本来あるべき「井上公園」になっていた。まことに結構なことである。
〇とはいうものの、湯田温泉はさすがに17年前に比べると寂れている感がある。なにしろ人口減少が続いているし、何せこの3年間はコロナである。人は動いてくれないし、インバウンドも消え去ってしまった。温泉地にとっては、大凶のおみくじみを引いたようなものである。ちなみに17年前に訪れた中原中也記念館は、本日は月曜日で休館日でありました。
〇思えば不肖かんべえが、内外情勢調査会の講師を初めて務めた2003年当時は、大問題といえばイラク戦争であった。それが20年たつと今度はウクライナ戦争の話をすることになるのであるが、この差はあまりにも大きい。というか、今から考えればイラク戦争などは全然大したことなくて、まあ、対岸の火事みたいなもんでしたなあ、と思えてしまう。
〇たしかにウクライナはイラクと同じくらい遠い場所にあるのだが、以下のような理由で我々にとっては、20年前よりも切羽詰まった事態になっていると言わざるを得ない。
@ウクライナもイラクと同じくらい遠い場所にあるけれども、戦っている相手のロシアは日本海の向こう側にある隣国である。しかも日露間には北方領土問題を抱えている。とても他人事では思えない。
Aいずれも場合も原油価格が上がったけれども、イラク戦争当時は1バレル60ドル程度に上昇したものが、開戦直前にいきなり30ドルまで下げた。1バレル100ドルを超えている今から思えば、嘘のように安い値段であった。
B何よりこの間に中国の脅威が増大した。2003年当時の中国は、まだまだGDPでは日本よりはるかに小さかったし、軍事力もさほどの脅威ではなかった。それが今では日米同盟を上回るかもしれず、さらにウクライナ情勢は台湾有事にも直結している。
Cいちばん大きな違いはアメリカの態度である。イラク戦争のときは「ネオコン」と呼ばれる人たちが「やり過ぎる」ことが世界の恐怖の的であった。それに引き換え、現在はバイデン政権がどこまでちゃんとやってくれるのか、日本が他所の国に襲われたときにちゃんと助けに来てくれるのかどうか、不安に感じることが増えている。
〇ということで、20年の月日は長いのである。山口県に来て、しみじみと思い起こすところである。
〇お昼に山口支部の講師を務め、午後になって宇部市に移動する。あらためて聞いたところ、市内では先週まではスタンプラリーなどエヴァ関連のイベントが行われていたのだそうである。ちなみに宇部市関係者が町おこしへの協力を求めて庵野氏の元を尋ねたところ、「キャラやストーリーに対して、もっと敬意を払ってください」とクレームを受けたそうである。これはファンとしてはまことによくわかる。
〇一方で宇部市内を散策すると、庵野ワールドにしばしば登場する鉄道や電線、鉄塔といった人工物の美が、宇部市という産業都市で少年期を過ごした人ならではの感性であることが窺い知れる。「シン・ウルトラマン」の中では、メフィラス星人との対決シーンは化学プラント工場でしたよね。市内には「UBE」という看板が目立っています。そうなんです、宇部興産は4月からUBE(ユービーイー)に社名変更しておるのです。
〇夜はANAクラウンロイヤルホテルで宇部支部の講師を務める。終わってから、どれ寝酒を一杯、と思ったらなんとホテル内のバーがお休みである。コロナよ、憎むべし。仕方がないから夜の街にさまよい出て、えいやっと飛び込みで"Twenty
one"というバーに入ってみたら、これが大正解であった。バーテンダーとお話ししながら寝酒を3杯。いい気分で帰還してこのページを更新する。明日の朝には帰ります。
<5月17日>(火)
〇留守中に届いた書留を取りに行くために、郵便局を訪れた。「免許証を出してください」と言われてホイ、と出した。
〇皿の上に乗っかっているわが免許証を見たら、「平成34年×月×日まで有効」と書いてある。一瞬、身体が凍り付きそうになった。「これって、期限切れてない?」
〇しばらく考えて、やっとホッとした。こういうことである。
平成31年=令和元年=2019年
平成32年=令和2年=2020年
平成33年=令和3年=2021年
平成34年=令和4年=2022年
〇よかったよかった。今年の誕生日に更新すればいいのだ。それにしても、公文書はなるべく元号やめて西暦にしましょうや。せめて併記にしてほしい。間違えている人が絶対に居ると思うぞ。
(→追記:一晩で多くの人からご指摘をいただきましたが、ちゃんと令和になってからは併記になっているようです。私のように平成時代に更新したものは、単記になっているようですが。とりあえず、令和のひとケタと平成のひとケタは同じ、と気づいたことが本件の最大の発見点であります。
<5月18日>(水)
〇マリウポリがとうとう陥落。とはいうものの、2か月以上も1万人ものロシア軍兵士を釘付けにしていたのだから、この間の貢献は大なるものがある。後世、「ウクライナ軍かく戦えり」ということで、かの硫黄島の戦いのように戦史に残るものになるのではあるまいか。
〇前号の溜池通信で書いた通り、バイデン大統領のウクライナ戦略は「後の先」を取ることにある。プーチンが先に手を出してくれて、なおかつゼレンスキーが英雄になってくれちゃったものだから、笑いが止まらない状況である。これから先は物量の支援を続けながら、「ウクライナを負けさせない」ことで「ロシア軍を消耗させる」ことが目的となる。世論も「米軍を出さない」限りにおいて、この動きを支持してくれる。ウクライナの兵士は死ぬかもしれないが、それはアメリカにとってはノープロブレムである。
〇もっとも「ロシアに核を使わせちゃいけない」というルールもあるので、あんまりプーチンを追い詰めるべきではない。そこが難しいけれども、基本的に相手に乗っかかっていればいいので気分は楽である。一発逆転を狙わなければいけないのはロシア側である。時間はわが方にあり、長期化は全然オッケー、という状況である。
〇それではプーチン側はどうか。開戦前までは、どうやら異常な心理状況にあったと見えて、それはコロナで自己隔離したせいもあったのだろう。コミュニケートする相手も減ったし、現実よりも歴史の世界に逃避したのかもしれない。ところが5月9日の対独戦勝記念日以降の行動を見ると、彼は自分が置かれている状況を正確に理解しているように見える。フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟するのも「苦しゅうない」とのことである。正しい態度ですよね。
〇それではプーチンの次の一手はどうなのか。わかりまへんなあ。ロシア人が歴史的に得意とする「伸縮自在性」を発揮してほしいところですが、プーチンとしては自分が「損切り」に出た瞬間に彼の立場は終わってしまう。こうなると、「応仁の乱」みたいにグダグダな戦いが延々と続くというシナリオが現実味を帯びてくる。
〇こうなると民主主義政体は、つくづくありがたいものですな。菅義偉さんが辞めてくれたから、岸田文雄さんは高支持率で行けるんですもん。その点、権威主義体制は、@人は必ず死ぬ、A下手をすればボケる、Bそうなったときに修正手段がない、という欠陥がある。習近平さんや金正恩さんも心しておかれたし。
〇他方、バイデン大統領が変なことを言い出している。
●米主導の新経済枠組み、日本で発足 中国対抗へハードル(日本経済新聞)
〇これが5月23日の日米首脳会談の成果になるらしい。「新経済枠組み」と言っても、それは議会の承認を必要とする関税取り決めを含んでいない。まあ、所詮はその程度のものなんで、CPTPPに比べれば児戯に等しい。もっともそれを言い出したら、悪いのは議会内の民主党左派と共和党トランプ支持派である。すなわち、どうしようもないのである。アメリカも辛いよねえ。
〇おそらくは経済枠組みも「バイデン流儀」なんでしょうな。ASEAN軽視は前トランプ政権以来の傾向ですが、それでも何もしないよりはマシ。こういうとき、日本外交は付き合いがいいところです。
<5月19日>(木)
〇バイデン政権の「インド太平洋新経済枠組み」こと"IPEF"が注目を集めておりますが、ハッキリ言って良くないアイデアだと思います。日韓と豪州、ニュージーランドは参加するでしょう。東南アジアではシンガポールとタイは当確。で、ほかの国はどうするのか。これ、入るメリットがなさ過ぎると思うんですよね。とりあえずフィリピンの新政権はないでしょうなあ。
〇まずCPTPPのように、「アメリカ向けの輸出が増える」といった旨味がありません。なにしろバイデン政権は関税交渉をするつもりがないですから。貿易自由化交渉のためには、議会でTPA(貿易促進交渉権限)を取得する必要がありますが、これはまず通らない。だからアメリカのTPP復帰は当分は可能性ゼロです。今のワシントンでは、「自由貿易」(Free
Trade)はNGワードだそうですし。
〇だからIPEFには、議会の許可を得なくていい程度のことだけ入っています。@貿易、A供給網、Bインフラ、脱炭素、C税・反汚職の4点で交渉を始めるとのことですが、東南アジア諸国がこれに入っても、メリットはないでしょうな。それどころか「脱・炭素」や「反・汚職」で、たっぷりとアメリカ様からお説教を受けることでしょう。しかも参加したら、中国からは確実に嫌がらせを受ける。何が楽しくて、こんなものに入らねばならないのか。
〇アメリカの民主党政権って、こういうところが鈍感なんですよね。東南アジア諸国は、「アメリカか、中国か」と迫られたくないんです。彼らは中国は怖いし、アメリカのこともそんなに好きなわけじゃない。ついでに言えば、彼らはロシアがそんなに悪いとも思っていない。だって遠いし。ところがバイデン政権は、中国やロシアに対する包囲網ができるはずだと考えている。なぜならば、アイツらは悪い奴らだから。この辺のズレは深刻だと思います。
〇そもそも米民主党政権が、Frameworkという言葉を使うときには注意しなければなりません。1990年代の日米包括協議(Framework
talks)が典型的ですが、ホントに碌なことがないですから。それに2025年に共和党政権が発足した場合、IPEFは確実に有名無実になることでしょう。下手をすれば、秋の中間選挙後にも求心力を失いかねない。
〇たぶん日本は「アメリカとアジア」の間で板挟みになっちゃうのではないか。まあ、今に始まったことじゃないですし、岸田さんもそういうの似合いそうだし。考えてみれば、バイデンさんもこれくらいしかできることないのです。それからASEANは、「日本のお立場」をかなり正確に理解してくれると思います。
〇来週のバイデン訪日は、あんまり楽しいことがなさそうですなあ。3年前のトランプ訪日のときは、「令和初の国賓」ということで、大相撲だとかゴルフだとか、いろいろ面白かったんですけどね。ちなみにあのときは5月25日から28日の3泊4日でした。日本外交が大事なお客を呼ぶときは、5月下旬であることが多いです。
〇思えばクリントン政権のときは、日本の首相は7人代わった(宮沢ー細川ー羽田ー村山ー橋本ー小渕ー森)。オバマ政権のときは、5人代わった(麻生ー鳩山ー菅ー野田ー安倍)。逆に共和党政権のときは、レーガン=中曽根、小泉=ブッシュ、安倍=トランプといった感じで「蜜月」になりやすい。相性ってのはやっぱりあるのかねえ。
<5月20日>(金)
〇クルマを運転していて、突然流れてきたこの曲。背中に電流が流れました。先週見た『シン・ウルトラマン』の主題歌、「M八七」です。
〇恥ずかしながら小生、初めて米津玄師ってすげェと思いましたですよ。なんでこんな歌詞が書けてしまうんだろう。冷戦終了後に生まれた世代だというのに、ワシらウルトラマン世代が気づいていなかった何事かを教えてくれているような。
君が望むなら それは強く応えてくれるのだ
今は全てに恐れるな
痛みを知る ただ一人であれ
〇上海馬券王先生が、「シン・ゴジラに及ばない」と言っているのはまあその通りでしょう。今日の日経夕刊の「シネマ万華鏡」も、こんなことを書いている。
かなり複雑なはなしが、速度をつけて展開され、見ごたえはあるが、やや疲労感もあった。「シン・ゴジラ」も情報過多なはこびかただったが、怪獣の描写が圧倒的にすばらしかったので、それさえもカタルシスにつながった。
今回は、ことばのほうが先行してしまっている。映像的に文句なくおもしろかったのは、にせウルトラマンとの対決と長澤まさみの巨大化。
〇ちょっとだけ弁護したくなるのは、『シン・ゴジラ』はわれわれが「3/11」を乗り越えるために必要だった物語であった。『シン・ウルトラマン』にはそういう要素がない。コロナが始まる前にほとんど撮り終えていたみたいだし。安直に言葉だけで説明しようとしているきらいは確かにある。ただし、これはこれで評価してあげてよ、という気がしている。
〇日経の宇田川幸洋氏は2点だけに絞り込んでいるようですが、山本耕史演じるところのメフィラス星人も加えてあげて欲しいです。異常な存在感でした。「この店、割り勘で良いか?」「私の好きな言葉です」。
<5月22日>(日)
〇昨日行われた豪州総選挙は、案の定、野党・労働党の勝利となりました。新首相に就任するのはトニー・アルバニージー党首。岸田首相からは、既に祝辞が発せられている。
〇「9年ぶりの政権交代」とはいうものの、豪州の首相はしょっちゅう変わっている感がある。調べてみたら、こんな感じであった。
●トニー・アルバニージー(1963年生) 2022年5月〜
<自由党→労働党へ政権交代>
●スコット・モリソン(1968年生) 2018・8月〜
●マルコム・ターンブル(1954年生) 2015・9月〜
●トニー・アボット(1957年生) 2013年9月〜
<労働党→自由党へ政権交代>
●ケビン・ラッド(1957年生) 2013年6月〜
●ジュリア・ギラード(1961年生) 2010年6月〜
●ケビン・ラッド(1957年生) 2007年12月〜
<自由党→労働党へ政権交代>
●ジョン・ハワード(1937年生) 1996年〜
〇一時期の日本政治ほどというわけではないのだが、同じ政党の中で数年おきに首相を取り換えることが常態化している。その前はどうだったかというと、ハワード首相が10年以上もやっていて、それ以前の豪州では長期政権が普通であった。どうも今世紀になって、戦後世代が首相になるようになってから、落ち着きがなくなったようである。
〇ここが一番気になっていたところであるが、アルバニージー新首相は、さっそく今週のクワッド(日米豪印)首脳会議に出席するために訪日するらしい。まあ、アメリカと日本とインドの指導者と一発で顔合わせができるのだから、この機会を見送る手はないですわな。
〇幸いなことに、豪州における今回の政権交代は「外交では争わない」ことになっている。もっともAUKUSへの参加や原子力潜水艦の建造計画を、「アレは前の政権が決めたことですからっ!」などと言われた日には、同盟関係がえらいことになってしまう。豪州の外交方針には、国内にある程度のコンセンサスができているのであろう。
〇ほんの10年前まではケビン・ラッド首相のような親中派の首相が出ていたのに、これだけ対中強硬世論が根付いたということは、それだけ中国の「戦狼外交」が裏目に出ているということなのだろう。
〇日本という国は、非常に多くの資源を豪州からの輸入に負っている。石炭や鉄鉱石では全体6割を超えている。普通は「そんなことしちゃダメ」なんだけど、「あそこは大丈夫でしょう」ということになっている。というか、「豪州よりも安心な国」って地球上にはあまり存在しませんので。
〇今週24日にはクワッドはもちろんのこと、日豪首脳会談も行われることになるでしょう。本日は既にバイデン大統領も到着済み。今週は外交ウィークですな。そういえば明日はBSテレ東の「日経ニュースプラス9」に出没いたします。
<5月23日>(月)
〇本日は日米首脳会談。都内のアメリカ大使館周辺は、全国から警察官が集まってきている感じでした。たぶん今宵は八芳園周辺もすごい警備だったことでしょう。まあ、バイデンさんは明日にはお帰りになりますので、もちょっとの辛抱でありまする。
〇いろいろツッコミどころがあり過ぎるくらいですが、最初はやっぱりバイデンさんが記者会見で、「台湾が中国軍に攻撃されたら米軍は防衛するんですか?」と尋ねられて、"Yes,
it's a commitment we made."と答えてしまった件。
〇同じ失言を去年も2回やってしまったので、驚きも中くらいと言ったところがあるのですが、ここまでくるともう確信犯なんじゃないか、ひょっとすると尋ねた記者もグルだったんじゃないかなどと疑いたくなってくる。とりあえず中南海が眼を三角にしてくれるのなら、それだけで効果はあったと言ってよろしいでしょう。
〇ひょっとするとアメリカは、本当に対中戦略を変えちゃったのかもしれませんな。いよいよ覚悟を固めた時に、わざわざ「わが国はルビコン川を渡ったのであります」などと教えてあげる必要はないのです。「今まで通り、何も変わっておりません」とシラを切るのが、良き外交官の務めというものではないでしょうか。
〇次にIPEFが13か国でスタートしたという件。上出来と言っていいでしょう。なにしろASEAN10か国のうち、入らなかったのはミャンマー(軍政)とラオスとカンボジア(中国に近すぎる)だけ。のこり7か国が入ったということは、満額回答と言っていいのではありますまいか。
〇ひとつ考えられるのは、ちょうどAPEC貿易大臣会合がまとまらなかった直後で、「ロシアが入っているフォーラムは当分、機能しない」と判明したことが大きかったのではないか。G20も駄目っぽいですから、そうだったら新しい枠組みにはとりあえず手を挙げておかなければならない。
〇とはいうものの、ホワイトハウスのHPを見ると、「IPEF発足のオンレコ電話記者会見」が公表されていて、ブリンケン国務長官とレイモンド商務長官、タイSTR代表の3人がノリノリで答えているのが気にかかる。なんだか望外の成功に浮かれだっているような。
〇ということで、明日はクワッド、日米豪印首脳会談の番となります。これもいろいろありそうですが、不肖かんべえは神戸市に日帰り出張です。
<5月24日>(火)
〇神戸まで日帰り出張。場所はポートピアホテル。そういえば以前はジェトロ神戸さんのお招きで、2015年から18年まで毎年、ここへ来ておったのであった。ううむ、懐かしい。
〇今回の主催者は「神戸親交会」と言って、日本政策金融公庫の取引先の会。コロナで2回ほど延期になったけれども、今日になってちゃんとリアルで実現しました。よかったです。
〇しかも本日の演題は、「バイデン政権下のアメリカと日本の進路」。たまたまバイデン大統領が日本に来ているときに実現するというのは、まあ、なんというかお見事であります。
〇5月下旬のこの時期は、お客さんを招くにはいいんですよね。3年前には「令和初の国賓」でトランプさんを招いていますから(2019年5月25日〜28日)。だいたい大相撲春場所が終わって、日本ダービーが行われる時期の日本は良い季節です。クワッドも無事に終わったようですな。慶賀の至りであります。
<5月26日>(木)
〇えー、今週は電気新聞と東洋経済オンラインと溜池通信という3つの締め切りが重なっております。不規則発言は手抜きとなります。あしからずご了承ください。
<5月27日>(金)
〇今週もいろんなネタを仕込んでいるのだが、あらたまってここで書けるネタというと、そんなに多くはないのである。
〇とりあえず以下の話はあまりにも怪し過ぎるので、かえって遠慮なく書けてしまう。中国の内政に関する話であります。
〇このところ習近平のやっていることは、ことごとく裏目に出ている。@北京五輪の開会式にプーチンを呼んで持ち上げたところ、ウクライナ戦争でプーチン株が暴落してしまい、A「共同富裕」の名の下に、ハイテクや不動産叩きをしたら景気が落ち込んで、Bそして上海では悪名高くロックダウンが2か月近く続いている。お陰で最近は李克強総理の評価が上がり、突然「朱鎔基は偉かった」という話が出たりする。要するに遠回しな習近平批判が始まっている。
〇習近平の腹心たる上海市総書記の李強も非難を浴びており、来期の常務委員就任が危うくなっている。そうなると次の国務院総理は胡春華になってしまう。今頃になって共青団が復活するようでは、いよいよ習近平閥はヤバいのではないか。
〇ところが全然そうではないのだ、という解釈もある。すなわち、今の「ゼロ・コロナ政策」は、上海人脈を根絶やしにするために行われているのであって、そうでないと北京としては安心していられない。秋の共産党大会を前に、むしろ李強は良くやっている、その調子でガンバレ、てな説もあるのだそうだ。
〇いやー、怖いですねえ。上海在住の友人たちはからは、「もう勘弁してくれ〜!」みたいなメールをよく頂戴するのですが、上の方々の闘争は本当にどうなっているのやら。とりあえず国際情勢も世界経済も中台関係も、今の習近平体制にとってはアゲンストのように見えるんだけど、実態はもっとえげつないのかもしれませぬ。
<5月28日>(土)
〇今朝、アップされました。おなじみの「競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」であります。
●ボケているようで油断のならないバイデン大統領
〇幸いなことに、割りと読まれているようであります。こういうのはタイトル付けの妙もあって、皆が薄々感じているようなことを言語化すると、反応が良くなるみたいですね。
〇ちなみに台湾に対するアメリカの「曖昧戦略」の意味付けについては、少し古いですがこの記事が役に立ちます。察するにアメリカが台湾防衛の意図を明確にしたとしても、「どういう手法で守るのか」というフリーハンドは残るので、中国から見ればそこは「あいまい」なままである。それこそ直接参戦からウクライナ方式まで考えられるから、アメリカの対台湾姿勢は「新しいあいまい戦略」に移ったのかもしれませんね。
〇この記事は例によって競馬の予想もついております。この週末はいよいよダービーであります。ラジオ日経のサイトには、こんなのも出ております。
●私の日本ダービー注目馬
〇ワシ的には、明日朝更新予定の上海馬券王先生のご意見を確認したうえで最終決定しようと考えております。
<5月30日>(月)
〇本日付で公表された拙稿が2点あります。
〇ひとつは日立総合計画研究所の機関紙「日立総研」の5月号に掲載された「2025年の世界経済展望」という特集記事であります。拙稿は「米国政治の2025年を読むヒント」と申しまして、そんなもん、わかるわきゃあないじゃないかというホンネはさておいて、現時点におけるベストを尽くしたつもりの論文となっております。
〇もうひとつはPHP研究所の「Voice7月号」であります。こちらでは「経済制裁ではロシアを止められない」という寄稿をいたしております。
〇しみじみ思うのでありますが、経済制裁という手段は「抑止」として使う分にはいいのでありますが、「懲罰」の手段として使うのはかなり筋が悪い。それもアメリカみたいにエネルギーも食糧の自給できる国であれば、思う存分やっていただいてもいいのでありますが、日本みたいに全く自給できていない国が、「ウチは武器の提供もできないし・・・」などという罪悪感から「お付き合い」で制裁に参加するのは、ほとんどマゾヒズムに近いものがあると思います。
〇くれぐれもご注意をなさいますように。老婆心ながら申し上げる次第でござりまする。
<5月31日>(火)
〇本日は慶応大学SFCへ。故き中山俊宏教授の授業のヒトこまを埋めるべく、神保謙教授のクルマに乗せてもらって藤沢キャンパスへ。車中では中山さんの思い出話を延々と。
〇なにしろ中山先生の生徒さんたちが相手なので、昨今の米国政治についてはワシよりもはるかに詳しいかもしれない。ということで「2008年の米大統領選」という昔話を演じる。年寄りは、こういうことでマウントをとれるから便利だよね。もちろんワシ自身も14年前のことはあらかた忘れているのだが、ありがたいことに当時の溜池通信などを読み返せばちゃんと思い出せるのである。
〇2008年の米大統領選は、史上最高傑作ではないかと思う。予備選ではオバマとヒラリーが激突し、本選ではマッケインにペイリンまで登場した。なおかつ、9月にはリーマンショックが発生し、100年に1度の国際金融危機の中で選挙が行われた。政策も政局も選挙戦術のイノベーションもあった。なおかつ今日の多くの問題が発火点でもある。2008年がなければ、2016年のトランプ勝利もなかっただろう。
〇後で神保さんから、「楽しそうでしたねえ」と言われる。そうなのだ。ドナルド・トランプが出てこない米国政治ヲタ話は、語っていてまことに愉快なのである。今にして思えば、ヒラリーもマッケインもGood Loserだった。そんな伝統は失われたかもしれない。きっと2024年もたいへんだろうなあ。
〇明日で中山さんが亡くなられてからちょうど1か月。早いですなあ。先週は日米首脳会談が行われたのに、中山さんのツィートを読むことができなかった。当たり前だけど。ネタ元を失った当溜池通信としてはまことに痛いのであるが、こればかりは是非に及ばず。約20年に及ぶ楽しい思い出がたくさんあることに感謝するほかはない。
編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki