●かんべえの不規則発言



2024年7月






<7月1日>(月)

〇本日発表された日経&テレ東の世論調査では、岸田内閣の支持率は前月比▲3pの25%となりました。不支持率は67%(±0p)である。

〇たぶん官邸はこの調査をとっても気にしていたはずである。日経の調査は「2度聞き」(強いて言えば・・・と聞いてくれる)なので、他よりも高めに出る、というのはさておいて、調査時期が6月28〜30日と他社と比べて一番遅いからである。つまり「定額減税」の効果を見るには、この調査が一番適しているからだ。

〇ところが、定額減税は効果が見られなかったばかりか、今回の日経調査は通常国会の終わり際にバタバタと決めた「電気ガス料金の補助」についてまで、意見を聞いてくれている。その回答は、「有効だと思う25%」「有効だと思わない68%」とあいなった。いかんですねえ。完全に岸田首相は裏目っている感じです。定額減税に関しても、きわめて冷たい反応しかありません。

〇この調子でいくと、来週8日に出るNHKや時事通信の調査も似たような感じでしょう。やっぱり普通の政治家が、ポピュリストのまねごとをしちゃいかんのです。ここまで約3年、通算で1000日を超えた岸田内閣ですが、一番の悪手が定額減税だったのではないでしょうか。それ以外のことで言えば、かなり威張れる成果を挙げていると思うのですけどねえ。

〇ということで、アメリカはバイデン降ろし、日本では岸田おろし。どっちかは生き残るような気がしますけど、さて、どっちでしょうねえ。


<7月2日>(火)

〇本日は四国スミリン会さんに呼んでいただいて高松市へ。四国地域における住友林業さんのお取引先企業の会である。住宅や建材業界は割と昔からなじみがあるのだが、おそらくは円安で困っておられるはず。ということで、本日の講演会は「もしトラ」話から始めて、「シン・産業政策」、そして為替の話へとつないでみる。

〇そういえば本日は、神田財務官の置き土産とも言うべき「国際収支懇談会」の報告書が出たんですな。あとでしっかり読みましょう。たぶん円安対策のポイントは、「対内直接投資を増やすこと」と「国内の電力供給を強めること」(再エネと原発)、あとは海外に滞留している日本のおカネを、どうやって還流させるかに尽きるのだと思います。

〇向こうに着いてから聞いて驚いたのだが、東京から光吉敏郎社長が来るとのこと。実は光吉さんは日本ニュージーランド経済審会議の事務方同士で、若い頃から何度も一緒にニュージーランドで仕事した間柄である。お互いが課長代理くらいからの知り合いだが、30年近くたったらなんと向こうは社長さんである。

〇こちらは2010年のタウランガ会議に出たのを最後に、NZにはずっとご無沙汰しているのだが、光吉さんによればタウランガには今度、8階建ての木造市庁舎が建つのだそうだ。しかもその材料が、NZで植林されているラジアタパインと聞いて感動する。なるほど、今の木造建築ブームというのは隈研吾さんだけではないのですな。

〇わが国においても、木材の輸入量は貿易品目としてはかならずしも多くはないのだが、それでも2020年のウッドショック以降は国産材の使用が広がっている。変な話だが、スギ花粉問題を解決するためにも、国産のスギを切って建材として使い、代わりに花粉が出ないスギを植えていく、みたいなリサイクルをやっていくことが望ましい。

〇などと、この業界における最新情勢を伺う。あんまり感心したので、帰りの途中で双日建材のS君に電話をして、「住林さんの会合はレベルが違うぞ」などとお節介なことを言ってしまう。まあ、本当のことなんでしょうがない。

〇懇親会の立食パーティーでは、遠慮なく飲み食いさせていただいたのであるが、帰りに高松空港に着いたらANA便の到着が遅れている。この空港は梅雨の季節は霧が出るので、ときどきこうなるのである。これは仕方あるまい、ということを口実に、空港内のお店でさぬきうどんを注文する。また太ってしまうけど、高松に来たらやっぱりこれがないとねえ。


<7月3日>(水)

〇別に急ぐわけでもないのに、銀行のATMに寄って中途半端な金額を引き出してみた。が、なんと出てきたのは福沢諭吉と野口英世であった。なーんだ、つまらん。

〇今朝は新聞の号外(新紙幣20年ぶり発行)が出ていたというのに、ワシの手元に新札が来るのはいつになるのだろう。まあ、特段に急ぐ必要はないのだけれどね。

〇お札の肖像画を換えて気分を新たにする、というのは、極めてこの国に似合ったメンタリティなのだと思います。木造建築を繰り返して使い、ときどき畳を表替えする。天皇陛下の御代が変わり、元号も変わる。そうやって時間はぐるぐると同じところを回っている。

〇「脱・炭素」だとか「カーボンニュートラル」だとかいうのは、こういう循環型の世界観に比べれば、所詮は小賢しい人間の知恵よのう、とワシには思えてならぬ。資源が無駄になる、などと考えるべきではない。気分が新しくなることは、それ自体に大きな価値があるのだ。


<7月4日>(木)

〇先週のNYT紙に続き、今週はWP紙がエディトリアルで「バイデンは撤退せよ」と社説に掲げました(7月2日付)。


●Biden needs to be clear-eyed about the election. France and the U.K. show why.

(バイデンは選挙に刮目せよ〜フランスと英国を見れば理由がわかる)


〇英国のスナーク首相もフランスのマクロン大統領も、おそらくは「良かれ」と思って早期解散に踏み切ったのだろう。ただし、どちらも悲惨な結果に終わりそうである。その結果は近々判明するが、スナークは下野することになり(下手をすれば議席も失う)、マクロンはレイムダックの一丁上がりとなるだろう。バイデンよ、お前もその後を追うのでいいのか!というのである。

〇今日は独立記念日でありますが、果たしてバイデン氏の言動やいかに。ワシ的にはやっぱり「替えないで後悔するくらいなら、替えて後悔する方がいい」と思います。アメリカ人なら、そっちでしょ。ともあれ、来週になって英仏の選挙結果を確認した後では、「アメリカよ、お前もな〜」になるのかもしれませぬ。


<7月5日>(金)

〇しかしこのところ、なんでこんなに暑いんでしょうな。しかも忙しい。本来であれば、先週に仕事が集中していたので、今週は軽く流せば良いはずであったのだが。それがいかなことか、連日の仕事量である。

〇実は現在、弊社ではWindows10の会社貸与PCを、Win11マシンに交換中なのである。いや、来年秋にはサポートが終了するので、今やっておくのが得策であるのはわかる。が、新しいマシンはホントわからん。マイクロソフト社の苛斂誅求は、オジン世代には辛過ぎます。

〇しかもデータの移し替えには時間がかかる。ワシの場合、今の仕事を始めてから約25年くらいに溜めに溜めたデータが、全部PCの中に入っておる。これの移し替えに失敗したら、あまりにも痛過ぎるのである。

〇しかもこのデータは、将来、ワシが会社を辞める時には持ち出せないのである。幸いなことに、ワシの大事なデータのほとんどは溜池通信という形でこのサイトの上に乗っかっている。だからまあ、何とかなるだろう。しかるに普通の企業エコノミストの場合、今後は「大事なデータが会社のPCにあるから、会社を離れたくても離れられない」みたいなことが起こり得るのではないだろうか。

〇ホントに皆さん、どうしているのでしょうか。昔はこんなことを考えなくてもよかったのですが、人間がAIやPCに使われるような時代になりますと、なかなかに大変なことであります。


<7月7日>(日)

〇本日は七夕。事前には雨の予報でありましたが、関東では土曜日の夕方に雨が降った(柏近辺は特にすごかった)せいか、めでたく晴れてくれました。織姫と牽牛も無事に逢瀬を遂げることができたかと存じます。

〇で、不肖かんべえは、東京都知事選を横目に、総勢7人の仲間(含む:上海馬券王先生)と共に福島競馬場に向かうのである。福島駅では本日の「福島民報」を購入。早速スポーツ欄を開けてみると、「七夕賞 田辺今週も決める ルシェルブル勝機」とある。高橋利明記者がこんな風に書いている。


「7日の2回福島4日目のメインは夏の福島の大一番となるハンデGV第60回七夕賞(2000M芝)。(福島県)二本松市出身 田辺裕信騎手がカレンルシェルブルで、福島では初の2週連続重賞制覇を狙う。勝てば2014年メイショウナルト以来の七夕賞2勝目となる」


〇これはさすがに競馬予想ではなくて、贔屓の引き倒しというものではないのか。いや、福島民報は、あくまでも福島県内の読者向けの「県紙」である。となればカレンルシェルブルが6番人気であっても、ここは地元出身・田辺騎手の福島開催重賞レースの連勝を予想するのは、正しいことであると考えるべきであろう。

〇そうかと思うと、本日発売の東スポ「まりえのニッコニコ馬券」にはこんなことが書いてある。(虎石さんのあとにテレ東「ウィニング競馬」に出ている、あのまりえさんです)


「福島会最終の重賞、ラジオNikkei賞は福島出身・田辺騎手が勝利。地元紙記者のニンマリ顔、そして福島の皆さんが喜んでいるのを見ると、馬券は散々でも思わず笑顔になってしまいます。

実は、福島競馬場に向かうタクシーの中で「田辺は福島で乗るといつも以上にうまいんだよ。さすが地元だよな。ねえちゃん、今日は田辺を勝った方がいいぞ」と田辺さんの重賞Vを”予言”されていたんです」


〇これぞまさしく福島競馬。地元の熱さが競馬を支えている。そのことをワシはよく知っている。しかし地元紙記者って、誰のことだかバレバレじゃあないですか。ちなみにユーチューブの「高橋利明競馬のはなし」には、こんな風に説明されています。


「地方新聞では唯一の競馬専門記者である福島県の新聞社・福島民報の高橋利明記者が、ますます盛り上がる中央競馬の注目レースの話題や競馬記者の裏話などをあれこれ好き勝手に話します」


〇まあ、それでもまりえさんの予想は、「リフレーミング丸田騎手は七夕賞男」ということで、先週末の拙稿と同じ予想になっているのである。いや、残念でした。本日のリフレーミングは5着。今日の丸田騎手は仕掛けがちょっとだけ遅かったようです。

〇終わってみれば、戸崎騎手騎乗の2番人気レッドラディエンスが1着。1番人気のキングズパレスが2着。福島競馬にしては、意外と堅い結果でありました。馬券王先生もしっかり3連複をゲットされていたようです。まあねえ、福島競馬場では戸崎はよく勝ちますわな。田辺騎手も、本日は第4レースと第12レースでは来てくれたんですが。

〇東日本大震災の翌年から始まった不肖かんべえの福島競馬場通いは、今年で10回目(新型コロナによる3回の中断を挟む)。どんなことでも、長くやることにはご利益があって、人の輪が広がり、楽しい記憶が積み重なっていくものであります。さて、ワシらの七夕賞通いはいつまで続くのか。夏は旅打ちに限りますですぞ、ご同輩。


<7月8日>(月)

〇東京都知事選挙は小池都知事の再選(291.8万票)には何の驚きもないのだが、2位石丸(165.8万票)、3位蓮舫(128.3万票)という結果には絶句しましたな。立憲民主党が共産党と組むと、こんなにも無党派層に嫌われてしまう、というお手本のような選挙でありました。

〇ただし個々の立憲民主の議員さんたちの立場としては、このまま共産党と協力していく方が、とりあえず自分の選挙には有利になるので、このままズルズルべったりと行くのでしょう。その結果として、立民には若い候補者が登場しない。まだしも自民党にはコバホークみたいな「ニュースター」が登場しているのに、いまだに民主党政権時代の面々が「昔の名前で出ています」。これでは演歌のように、長期衰退の道を歩むのみではありますまいか。

〇自民党としては、この都知事選に大いに救われた。注目の都議補選では2勝6敗なのだから、「やーい、自民党が負けた、まけた」となっても不思議はないところ、野党第1党の方がダメージが深そうに見えるのだから。朝日新聞が困っているではないか。ああ、痛い。


●蓮舫氏、まさかの3位に涙も…選対幹部「何が原因かよくわからない」


〇この間に本日発表のNHK世論調査では、内閣支持率が前月比4p増加の25%、自民党支持率が28.4%(+2.9%)となって、青木率も5割を超えました。逆に立民支持率は前月比▲4.3Pの5.2%とほぼ半減しました。

〇ちなみに本日は6月の景気ウォッチャー調査も発表されました。6月の現状判断DI(季節調整値)は、前月差1.3ポイント上昇の47.0となり、先行き判断DIも前月差1.6ポイント上昇の47.9となりました。これは定額減税の効果でありましょうか。そうだとしたら、岸田内閣としては「してやったり」となる。

〇とりあえず今回の都知事選挙の教訓は、@SNS選挙は効く(逆に今まで通りの街角大量動員作戦は効果が薄い)、A若い有権者はかな〜り政党離れしていて、何を考えているのかわからない、B供託金を上げるとか、選挙の公費助成を減らすとかしないと、ますます今回のように候補者多数のあほらしい選挙が続くぞ、あたりでしょうか。

〇まあ、しかしフランスの総選挙でも意外な結果が出ておるようですな。やはり選挙は蓋を開けてみないとわからない。こういうことがあるから、政治は面白い。自民党にとっては「勝ちに不思議の勝ちあり」、立憲民主党にとっては「負けに不思議の負けなし」といったところでありますなあ。


<7月9日>(火)

〇最近、立て続けに、「予定しておりました××の会合は、〇〇さんが体調不良により急きょ延期に・・・」ということがあった。どうも状況証拠的にみて、〇〇さんのコロナ感染が原因のようなのだが、まあ、その辺は深く追求しないのが大人の対応というものである。どんな原因であるにせよ、予定が急に空くのはワシ的にはありがたい。とはいうものの、ご本人におかれましては、どうぞ大事になりませぬように。

〇まあ、あれだ。いくら二類から五類になったとはいえ、油断をするとまだまだ危ないよ、ということだ。と思ったら、本日、日本将棋連盟から下記の2件の報告がありました。新旧の会長が相次いでこんなことになるとは、やっぱりちょっと心配であります。


●佐藤康光九段 新型コロナウイルス感染のご報告

●羽生善治九段 新型コロナウイルス感染のご報告


〇お二人は6月20日にも順位戦で戦っていたはずなのだが、さすがにそれが原因ではないでしょうな。しかし日本将棋連盟、いくら公益社団法人とはいえ、何とも義理堅いアナウンスメントをしているものである。

〇ワシは2年前のこの時期に感染して、そのときはモーサテの出演も急きょリモートにしてもらったりしたのであるが、基本的に軽症であったのでまるで懲りていない。熱が出たのが1日、咳が出たのが2日ほど。その週は在宅勤務を続けて、ちゃんと溜池通信も出ているのである。とにかく家の外に出られないのが辛かった、という記憶しかない。

〇最近は「2度目の感染」という話もちょくちょく聞きます。暑い日が続きますが、読者諸兄もどうぞご自愛を。不肖かんべえは明日は札幌に出没いたしますが、たぶんそんなに涼しくはないだろうな、と予防線を張っているところである。


<7月10〜11日>(水〜木)

〇首都圏が連日、うだるような暑さになる中で、当社のご関係先である北海道の北海鋼機さんの講演会に呼ばれて、いそいそと札幌に行くわけであります。個人的には、もう「大ラッキー!」であります。

〇新千歳空港に降りた瞬間には、「なんだ、こっちも結構暑いじゃないか」と思うのでありますが、夜になるとスッキリ涼しくて助かります。というより、上着がないと寒いくらい。いやあ、身体が楽です。首都圏の皆様に申し訳ない。

〇そしてまたいつものことながら、地元民に連れられて2次会で入った居酒屋で注文した、何の変哲もないフライドポテトが妙に旨かったりする。いつものことながら、「ずるいぞ、北海道」と言いたくなる。

〇さらに今回泊まった札幌プリンスホテルでは、朝食会場に海鮮丼が用意してある。朝から白飯を盛って、いくらと鮭とイカそうめんを乗せてご機嫌なのである。いや、そもそも今はいくらの時期ではないはずなのだが、季節外れでも旨いものは旨い。これが秋になったらどれだけ旨いのか。ずるいぞ、北海道。

〇ところが6月の景気ウォッチャー調査を見ると、現状判断DIの全国平均が47.0(前月比+1.3)となる中で、北海道は42.5(▲2.0)と最下位なのである。インバウンドによる観光需要が活況で、ラピダスの大型プロジェクトが進行中なのに、なぜそんなことになるのか。

〇観光需要については簡単で、おそらくは去年が良過ぎたから、今年の伸び代が少ないということであろう。ラピダスについては工事が活況を呈しているものの、とにかく納期を守らねばならないので、それ以外の北海道新幹線の整備などが遅れまくっているとのこと。そういえば札幌冬季五輪の誘致も、見通しが立たなくなりました。これは北海道民的には、寂しいことなのではあるまいかと。 

〇それから統計を調べて愕然とするのは、北海道の人口(509.1万人)は福岡県(510.7万人)に抜かれて全国9位に転落しておるのです。北海道はあれだけ広いというのに! ううむ、こんな風に少子化が進むと、家が売れなくなるのが建設関係では辛い。ちなみに順序は@東京、A神奈川、B大阪、C愛知、D埼玉、E千葉、F兵庫の順である。

〇それにしても今年3月に札幌に来たときとはまるで別世界で、あのときはまだ雪が残っていた。梅雨のない北海道はいいよねえ。本当にズルいんだから。年内にもう1回くらいは来たいものである。


<7月12日>(金)

〇今朝は為替が大きく円高に振れて驚きましたな。昨晩公表の米6月CPIが前月比▲0.1%だったから、ということで、これはやっぱりFRBの9月利下げは当確ですな。日米金利差は縮小するから、円が買われることに違和感はない。

〇とはいえ、一晩に4円の円高は行き過ぎだろう。これはやっぱり当局による為替介入があったのではないか。これはあったと考える方が自然であると思います。


(1)本来は7月1日に退任するはずの神田財務官が、今月末まで任期延長となっている。それは月末にG20財務相・中央銀行総裁会議が予定されているから(リオデジャネイロ、7/25-26)という大義名分はある。が、いかにも「最後っ屁」がありそうな状況である。

(2)神田財務官が狙うのは連休で市場が寂しくなった時である。今週末は3連休。ここは一発、かましを入れておくにしくはない。なあに、円安で儲けようなどという不届きな輩に遠慮はいらない。とりあえず投機筋は「沈黙の3連休」となるはずだ。

(3)そこへ来て今週の米CPIは、いよいよ米国経済の潮目の変化を示していそうである。逆に雇用統計は、じりじりと悪化を続けているではないか。古来、夏場が為替の転換点になった事例は枚挙にいとまがない。ふっふっふ。161円を当面の天井にしてやるわ!


〇ということで、当溜池通信としては「為替介入あった説」に一票を投じたいと思います。神田財務官、たぶん今ごろは高笑いではありますまいか。


<7月14日>(日)

〇トランプ前大統領、演説中に撃たれる。いや、驚きました。ますます「悪夢の1968年シナリオ」に近づいてきたような・・・。流れ弾で死者1人、負傷者2人もでているとのこと。とにかくテロはいかんです。「憎悪の連鎖」が起きないことを祈るばかりです。

〇明日15日(日本時間では明後日)からは、ウィスコンシン州ミルウォーキーで共和党全国大会が始まる。副大統領もまだ発表されていません。トランプさんの身にもしものことがあれば、その後をどうしたらいいのか、一同で完全にお手上げ状態になるところでした。

〇今週の共和党大会の日程をメモしておきましょう。


July 15 "Make America Wealthy Once Again," 経済問題

July 16 "Make America Safe Again," 犯罪と移民問題

July 17 "Make America Strong Again," 国家安全保障と外交政策

July 18 "Make America Great Once Again," 大会の総括


〇ちなみにスピーカーのリストは以下の通り。


●Trump Campaign & RNC Announce Republican Convention Headliners (July 13, 2024)


〇党の政策綱領は以下の通り。今の共和党はこんな感じなんですね。


●President Trump’s 20 CORE PROMISES TO MAKE AMERICA GREAT AGAIN!


(1)SEAL THE BORDER AND STOP THE MIGRANT INVASION

国境を封鎖し、移民の侵入を阻止する。

(2)CARRY OUT THE LARGEST DEPORTATION OPERATION IN AMERICAN HISTORY

アメリカ史上最大の強制送還作戦を実行する。

(3)END INFLATION, AND MAKE AMERICA AFFORDABLE AGAIN

インフレに終止符を打ち、米国を再び手ごろな価格にする。

(4)MAKE AMERICA THE DOMINANT ENERGY PRODUCER IN THE WORLD, BY FAR!

米国を世界有数のエネルギー生産国にする!

(5)STOP OUTSOURCING, AND TURN THE UNITED STATES INTO MANUFACTURING SUPERPOWER

アウトソーシングをやめて、米国を製造超大国にする。

(6)LARGE TAX CUTS FOR WORKERS, AND NO TAX ON TIPS!

労働者への大幅減税と、チップは非課税に!

(7)DEFEND OUR CONSTITUTION, OUR BILL OF RIGHTS, AND OUR FUNDAMENTAL FREEDOMS, INCLUDING FREEDOM OF SPEECH, FREEDOM OF RELIGION, AND THE RIGHT TO KEEP AND BEAR ARMS

憲法、権利章典、そして言論の自由、信教の自由、武器を所持する権利などの基本的自由を守ろう。

(8)PREVENT WORLD WAR THREE, RESTORE PEACE IN EUROPE AND IN THE MIDDLE EAST, AND BUILD A GREAT IRON DOME MISSILE DEFENSE SHIELD OVER OUR ENTIRE COUNTRY -- ALL MADE IN AMERICA

第三次世界大戦を阻止し、ヨーロッパと中東の平和を回復し、わが国全土を覆う巨大なアイアンドーム・ミサイル防衛シールドを全て米国製で構築する。

(9)END THE WEAPONIZATION OF GOVERNMENT AGAINST THE AMERICAN PEOPLE

アメリカ国民に対する政府の兵器化に終止符を打つ。

(10)STOP THE MIGRANT CRIME EPIDEMIC, DEMOLISH THE FOREIGN DRUG CARTELS, CRUSH GANG VIOLENCE, AND LOCK UP VIOLET OFFENDERS

移民犯罪の蔓延を食い止め、外国の麻薬カルテルを解体し、ギャングの暴力を粉砕し、凶悪犯罪者を監禁する。

(11)REBUILD OUR CITIES, INCLUDING WASHINGTON DC, MAKING THEM SAFE, CLEAN, AND BEAUTIFUL AGAIN.

ワシントンDCを含む都市を再建し、安全で清潔で美しい都市を取り戻す。

(12)STRENGTHEN AND MODERNIZE OUR MILITARY, MAKING IT, WITHOUT QUESTION, THE STRONGEST AND MOST POWERFUL IN THE WORLD

軍隊を強化・近代化し、間違いなく世界最強・最強の軍隊にする。

(13)KEEP THE U.S. DOLLAR AS THE WORLD'S RESERVE CURRENCY

米ドルを世界の基軸通貨として維持する。

(14)FIGHT FOR AND PROTECT SOCIAL SECURITY AND MEDICARE WITH NO CUTS, INCLUDING NO CHANGES TO THE RETIREMENT AGE

定年年齢を変更することなく、社会保障と高齢者向け医療保険を削減することなく守り抜く。

(15)CANCEL THE ELECTRIC VEHICLE MANDATE AND CUT COSTLY AND BURDENSOME REGULATIONS

電気自動車の義務化を中止し、高価で負担の大きい規制を削減する。

(16)CUT FEDERAL FUNDING FOR ANY SCHOOL PUSHING CRITICAL RACE THEORY, RADICAL GENDER IDEOLOGY, AND OTHER INAPPRORIATE RACIAL, SEXUAL, OR POLITICAL CONTENT ON OUR CHILDREN

批判的人種論、急進的ジェンダー・イデオロギー、その他の不適切な人種的、性的、政治的内容を子どもたちに押し付ける学校への連邦政府資金を削減する。

(17)KEEP MEN OUT OF WOMEN'S SPORTS

女性スポーツからトランスジェンダーの男性を締め出す。

(18)DEPORT PRO-HAMAS RADICALS AND MAKE OUR COLLEGE CAMPUSES SAFE AND PATRIOTIC AGAIN

親ハマス過激派を追放し、大学キャンパスを再び安全で愛国的なものにする。

(19)SECURE OUR ELECTIONS, INCLUDING SAME DAY VOTING, VOTER IDENTIFICATION, PAPER BALLOTS, AND PROOF OF CITIZENSHIP

同日投票、有権者の身分証明、紙の投票用紙、市民権の証明など、選挙の安全を確保する。

(20)UNITE OUR COUNTRY BY BRINGING IT TO NEW AND RECORD LEVELS OF SUCCESS

新記録となる成功のレベルをもたらすことで、わが国を団結させる。


<7月15日>(月)

〇考えてみれば、来週末にはパリ五輪大会が始まるわけですが、開会式はセーヌ川で行われるのだとか。先日、ある警備関係の方が、「オープンスペースの警備は大変だと思いますよ」と言っておられました。

〇トランプさんの暗殺未遂現場もそうですが、やっぱりテロリストの側になってみると、オープンスペースは狙いやすいのです。だから警備関係者としては、なるべくイベントは屋根のある会場内でやってもらいたい。入り口で持ち物のチェックができますからね。少なくとも隣の建物の屋上からライフルで狙う、なんてことは不可能になります。

〇「でも去年のG7広島会合は、平和記念公園で各国首脳の皆さんが献花されましたよね」と尋ねてみましたところ、「ああ、あのときは広島市内が会社も学校も全部休みにしてくれましたから」と。なんと広島名物の市内電車まで止めたんだそうです。まあ、そこまでやったから、ゼレンスキー大統領も呼べたわけですよね。

〇そしてまあ、オープンスペースは「絵」になる。あのときは「原爆を落とした国の大統領と、落とされた国の首相が並んで献花する」というすごい写真が撮れました。あれが建物の中であったなら、それほど感動的な「絵柄」にはならなかったことでしょう。

〇実際、今回のトランプさんの襲撃現場からは、見事な写真と映像が残った。シークレットサービスに囲まれながら、血まみれのトランプさんが右手を挙げて「ファイト、ファイト!」と叫んだ映像は、多くの人の記憶に残った。良くも悪くもトランプさんは、このビジュアルをこれからとことん使うでしょう。

〇そういえば岸田首相は、和歌山県で爆弾テロに遭った経験があるのだけれど、そのことはまったく「使って」おられませんな。みんなすっかり忘れてるんじゃないかなあ。ちょっと政治家らしくない。まあ、そういう「ゆるい」ところが、キッシーの良さなのかもしれませんが。

〇さて、米大統領選である。いくら「絵になる」からと言って、今後は警備は厳しくなることでしょう。警備体制としては、大統領候補に対して発砲を許したこと自体がとんでもない「失態」ですからね。とはいうものの、トランプさんはああいう派手好きな方ですから、オープンスペースで選挙運動をやりたがるでしょうね。とりあえずこの後の党大会がどんなことになるのか。

〇4年前のコロナ騒動の時の大統領選挙もそうでしたが、民主党は地味好みで党大会もリモート優先でした。共和党は派手好みで、ホワイトハウスにオペラ歌手を呼んだり、盛大に花火を打ち上げたりしたものです。しかるにその際の警備体制をどうするのか。明日からの共和党全国大会は、ミルウォーキーの屋根のある空間で行われるようですが。

〇これから夏季五輪大会もありますし、世の中全体が「1968年」的に物騒な感じになりそうです。自民党総裁選挙だって気を引き締めてやらねばなりませぬぞ。とりあえずオープンスペースにご用心、と申し上げておきたいと思います。


<7月16日>(火)

〇思えばずっとアメリカ大統領選挙を追いかけてきて、「銃弾」や「流血」を目にすることは先週末まではなかった。もちろん「ブラックライブズマター」とか、「1月6日」とか、アメリカ政治に暴力はつきものである。ただし大統領が公衆の目の前で狙われる、というシーンはここしばらくはなかった。それは幸運なことだったのかもしれない。あまり考えたくないけど、これから先はそれが当たり前になってしまうのかも。

〇思えばここまで、@6月27日のテレビ討論会、A7月1日の最高裁判断、B7月13日の暗殺未遂事件、と驚天動地のドラマが半月の間に3件もあって、今やどう考えてもトランプさんの勝率は5割を超えている。もう「もしトラ」では失礼であろう。かといって、投票日までは4か月弱もあるのだから、「ほぼトラ」もまた不正確である。「まじトラ」くらいでしょうかねえ。とりあえずNY株が最高値を更新し、暗号資産やエネルギー株が買われるくらいには、市場は「トランプ大統領」を折り込み始めている。

〇今日からは共和党全国大会である。副大統領に指名されたのはJ.D.ヴァンス上院議員であった。正直、ワシ的には意表を突かれたが、トランプさんの胸の内はいかばかりであったか。たぶん以下のようなことを考えたのではないかなあ。


(1)2016年に大統領候補になったとき、トランプさんはまだ共和党にとって「他所者」だった。そこで副大統領に指名したのは、@下院議員として長いキャリアを持ち、A宗教的右派に推されているマイク・ペンス州知事(インディアナ州)であった。つまりペンス氏を通じて、トランプさんは共和党エスタブリッシュメントと福音派にアクセスを得た。これはいいチョイスであった。

(2)それから8年が過ぎ、今や共和党はすっかり「トランプ私党」になった。福音派もすっかりトランプさんに「なついて」いる。今となっては、トランプさんが必要とするのは、自らが大義名分としていた「忘れられた人々」へのアクセスである。ラストベルトの白人ブルーカラー層が、「トランプはもう俺たちのことを忘れてしまった」と思い始めたら、そこから没落が始まるはずである。

(3)その点、『ヒルビリー・エレジー』の著者であるJ.D.ヴァンスは、もともとが「中西部のダメな白人社会」で育った。たまたま海兵隊に入って、イェール大学を卒業して、ベストセラー作家になって、ピーター・ティールに見込まれてシリコンバレーで一旗揚げ、そしてオハイオ州の上院議員となった。そういう人物をラニングメートにするのは、「俺はお前たちのことをけっして忘れない」という意思表示になる。

(4)ヴァンスは、途中でトランプさんに楯突いていた時期もあったが、そこは許してもらった。そういうヤツならけっして裏切らないだろう、という計算があるのだろう。最悪、自分が大統領を任期中に辞めて、昇格したヴァンス大統領に恩赦させる、みたいなシナリオも、けっしてないとは言えませんからな(ニクソン大統領の前例あり)。

(5)「忘れられた人々」を救済するという計画には、長い時間を必要とするだろう。トランプさんの次の4年だけでは足りないかもしれない。そこは自分とそっくりな考え方のヴァンスに、しっかり後を継がせる、というメッセージにもなる。MAGA層はきっと喜んでくれるだろう。


〇ついでに言うと、今回の党大会にはニッキー・ヘイリーは呼ばれていない。が、きっと最終日までには呼ばれるだろうし、それで党の団結を示すという演出になるのだと思います。彼女としても、ここでミルウォーキーに行かないようでは未来が閉ざされてしまう。2028年に向けて、彼女の強力なライバルが誕生してしまったのだから。それに銃撃事件の後だけに、気分的にも行きやすいという面もあるはずだ。

〇ということで、共和党が圧倒的な優勢を築いた感もあるのですが、そこは米大統領選挙である。まだまだ先は長いし、波乱があって不思議はない。なにしろ2000年以降の米大統領選挙において、一番大差がついた2008年でも、オバマとマッケインの一般投票数の差は7%に過ぎなかったのだ。最後は必ず僅差の戦いになる。

〇民主党は反撃に出なければならない。このままホワイトハウスを奪われ、上下両院でも多数を取られ、しかも最高裁は6対3のままで、なんて状態を招いては危機的な状況になってしまう。やはり「バイデン降ろし」は避けられないのではないかなあ。


<7月17日>(水)

〇共和党大会は今日が2日目。案の定、ニッキー・ヘイリーさんはミルウォーキーに登場しました。ロン・デサンティス州知事もやってきて、党の団結を訴えました。まあ、こういうときの定番です。驚くべきことではありません。

〇JDヴァンスの副大統領の指名は、直前に「差し替え」があったようですね。もともとのトランプさんは、(不肖かんべえの読み通り)ダグ・バーガム州知事(ND)に傾いていた。この人、古い表現だが「いぶし銀」で、何があっても任せて安全というタイプ。JDヴァンスはもっと危なっかしい。が、若さも魅力である。トランプ・ジュニアとエリック・トランプの息子二人が、最終局面で強力に推したらしい。さて、この予定変更は今後、どう出るのか。

〇トランプ氏の影響力は市場に及び始めた。というよりは、マーケットが勝手に材料視して動き始めた。NY株価は2日連続で最高値を更新し、為替市場では1ドル156円まで円高が進行した。トランプさんの「円と人民元安批判」発言が効いてくれた模様。もっともこういう「口先介入」は、ファンダメンタルズがあるからこそ動くものである。この先、FRBは利下げに動き、日銀は引き締めに向かう。日米金利差は確実に縮小する。

〇面白いことに暗号資産が値を上げている。これは共和党のプラットフォームにちゃんと書いてあるからだ。こういうときは、キチンと原典に当たることをお勧めいたします。


Crypto

Republicans will end Democrats’ unlawful and unAmerican Crypto crackdown and oppose the creation of a Central Bank
Digital Currency. We will defend the right to mine Bitcoin, and ensure every American has the right to self-custody of their
Digital Assets, and transact free from Government Surveillance and Control.


〇トランプさんの当選確率が急上昇したことで、この手の「仕掛け」が増えてくる。いつものことながら、マーケットの反応は面白いね。

〇てなことで、不肖かんべえは明日はWBSに出没いたします。


<7月18日>(木)

〇本日夕刻、明治大学のOB会である連合駿台会の会合に呼ばれて、新御茶ノ水駅に降り立ったのです。するとホームには、なぜかオバゼキ先生がいらっしゃるではないですか。なにしろ最近は、交互に「市場深読み劇場」を書いているものだから、毎週のようにお互いの書き物を読みあう間柄なのですが、リアルに会うのは結構、お久しぶりだったりする。

〇「明治大学の紫紺館ってところに行くんですけど、どこかわかりますかね?」と聞いてみると、「お茶の水は割と得意なんです」と道案内役を買って出てくれました。小幡先生、実はとっても気さくで優しい人なんです。文章だけ読まれると、きっと気難しい天才肌の人だと思われるかもしれませんが。

〇で、2人で神田駿河台界隈をしばし珍道中するのでありますが、ややあってハッと気がつくのは、「紫紺館って、その昔、明治大学の師弟食堂があったところじゃん!」ということである。いやあ、懐かしい。

〇浪人して駿台予備校に通っていた頃に、よくここへ来て安い定食を食べさせてもらったものである。おカネがない時期であったから、あれはまことにありがたかった・・・てな話をしたら、オバゼキ先生も、「チーズメンチカツ定食とかありましたよねえ・・・」と。あっ、そうか。お互いにここで浪人生活をしていたんだ。

〇ワシが神田駿河台に通っていたのは10代最後の時期であるから、とにかく古い話である。1979年のことである。イラン革命があって、朴正煕が暗殺されて、ソ連がアフガニスタンに侵攻した年である。ソニーがウォークマンを新発売し、名古屋テレビが『機動戦士ガンダム』を放送し、初めての東京サミットが行われて議長は大平正芳だった。夏の甲子園で「簑島対星稜」の死闘があり、日本シリーズでは「江夏の21球」があった。それくらいド古い。

〇当時の総武線は冷房化率10%で、エアコンの効いた車両に当たるとその日は「大当たり!」であった。なんかもう、次から次へと記憶が蘇ってきて、うるうるしてしまう。その後の講演会やら、WBS出演などが、ほとんどどうでもよくなってしまう。お茶の水はそれくらい危険な街なのである。


<7月20日>(土)

〇連日の共和党大会ウォッチングに疲れて、昨日は寝落ちしてしまったのである。

〇トランプさんの指名受諾演説は、最初の30分間は銃撃後の「心を入れ替えたバージョン」であったのだが、後半の1時間は「いつものトランプ節」に戻っておりましたな。まあ、聴衆はそっちを望んでいたのかも。しかるにトータル1時間半はあまりにも長すぎる。テレプロンプターを使うと、演説が長くなり過ぎるのはトランプさんの悪い癖である。

〇世間では「もしトラ」ではなくて「ほぼトラ」だ、などと言っているのに、わが阪神タイガースは昨晩も広島カープを打ちあぐねて4位のままである。まあ、首位へはわずかの2.5ゲーム差なのでありますが。

〇とりあえず今日のところは、こんな物でも読んでいただけるとありがたし。


●今のアメリカは「ほぼトラ」ではなくて「まじトラ」だ


〇今週末の競馬予想は難し過ぎるので、冗談路線にしてあります。でも、こういうのが意外と来たりして。


<7月21日>(日)

〇共和党大会が終わりました。個人的な印象をひとことでまとめると、「トランプさんは相変わらずだったが、共和党は変わってしまった」ということですな。

〇今でもイーロン・マスクなんかがトランプさんを支持しているところを見ると、「お金持ちの政党」という色合いはまだ残っているけれども、共和党はハッキリと「お金持ちよりも労働者の方を向いている政党」になっているようだ。

〇今年のプラットフォームを見ると、税制についてはこんな風に書いてある。


2. Make Trump Tax Cuts Permanent and No Tax on Tips

Republicans will make permanent the provisions of the Trump Tax Cuts and Jobs Act that doubled the standard deduction, expanded the Child Tax Credit, and spurred Economic Growth for all Americans. We will eliminate Taxes on Tips for millions of Restaurant and Hospitality Workers, and pursue additional Tax Cuts.


〇トランプ減税を恒久化することは、バイデン大統領も反対ではない。ただし「年収40万ドル以上の人には増税する」という点が違いである。増税になるのは超大金持ちだけなんですよね。他方、「えっ?」と驚くのは、「チップは非課税」という共和党の公約である。チップって、今まで課税されていたのか?

〇実はアメリカでは、月20ドルを超えるチップを受け取った店員さんなどは、雇用主に申告する義務がある。雇用主はチップを含む給与所得から、連邦所得税と社会保障税を源泉徴収して代わりに納税する仕組みである。

〇ただし容易に想像がつくことであるが、チップが現金でやり取りされている場合、第三者がそれを把握することは容易ではあるまい。当の店員が少なめに申告しても、店の側にはわからないだろう。というか、こういうときは「魚心あれば水心」になる公算が大である。つまりは店と店員が、互いに「なあなあ」で済ましていることが多いものと拝察する。

〇しかるにコロナ期を経て、メニューの注文はスマホで行うとか、チップの支払いもデジタルで行われることが普通になってきた。となれば、チップの額も店側に正確に補足されるようになってしまった。これで「事実上の減収になった!」という働き手は少なくないのであろう。

〇ということは、「チップは非課税!」という公約は、実に鋭いところをついている。店員さん、タクシー運転手、理髪店さんなど、チップが収入の欠かせない一部という職種の人たちが、その点に不満を持っていた。「チップは非課税!」という公約は効くんじゃないだろうか。とくにカジノの雇用が大きいネバダ州あたりでは。

〇民主党側はそういう問題意識があるのだろうか。「ホスピタリティワーカーは共和党」みたいなことになると、まずいのではないかなあ。


<7月22日>(月)

〇アメリカ大統領選挙の長い歴史を紐解いても、この2024年7月くらいサプライズが続いた月はなかったことでしょう。いやもう、ちょっと凄過ぎです。


6月27日(木) 第1回のテレビ討論会(アトランタ)→バイデン大統領のパフォーマンスが悪過ぎて撤退論生じる。

7月1日(月) 米最高裁が「大統領免責特権」に関する判断を提示→「口止め料事件」の量刑申し渡しは9月に延期され、「1月6日事件」の初公判は無期延期に。

7月13日(土) トランプ前大統領、ペンシルベニア州で狙撃される→「奇跡の写真」まで残って、大統領選挙は一気に優勢に。

7月15日(月) 副大統領候補にJDヴァンス上院議員を指名→トランプ次期大統領の跡継ぎ指名に近い。

7月15日(月) フロリダ州連邦地裁のアイリーン・キヤノン判事が「機密文書事件」の起訴を却下。特別検察官の選定過程に瑕疵があったから→これで「1月6日事件」の起訴も難しくなった。

7月17日(水) バイデン大統領が新型コロナで陽性に→いや、もうタイミングが悪過ぎ。これでさすがに心が折れたか。

7月18日(木) トランプ氏が大統領候補受諾演説→最初の28分間は「まとも」だったけど、後半の1時間はいつものトランプ節だった。撃たれても人は変わらない。

7月21日(日) バイデン大統領が出馬辞退を宣言。代わりにカーマラ・ハリス副大統領を推薦。


〇まだ「出尽くし」感がないような気がします。今週はネタニヤフ・イスラエル首相の訪米もあります。もうひと荒れあっても不思議はありません。今週末からはパリ五輪が始まる。そこで一種の「あく抜け」感が出るでしょう。バイデン氏は撤退宣言を、五輪の前に済ませておく必要がったことになる。

〇ここまで来てみると、そもそも最初の「なぜ6月27日にテレビ討論会をセットしたのか」→「ホワイトハウスのスタッフが『バイデン大統領を試す』ため」という仮説(当欄の6月27日付でご紹介ずみ)は、やはり当たっていたのではないか。バイデン氏は、キャンプデービッドに1週間泊まり込んで準備をしていた。それであの結果である。一緒に討論会の準備をしていた人たちは、「この爺さんはもう使いものにならない」ということが分かっていたはずである。

〇そうなると民主党支持者の中には、「なぜ今まで隠していたのか」という疑念が生じることになる。それは多分に、皆が「見て見ぬ振り」をしていたからでもあるが、ホワイトハウスの中の人たちに対する批判は起きるだろう。ブリンケン国務長官やサリバンNSAなどは、一気に立場が悪くなるんじゃないだろうか。しかるにその中には、カーマラ・ハリス副大統領も含まれることになる。

〇あらためて注意を喚起しておきたいのは、「大統領と副大統領の関係はとってもビミョー」だということだ。トランプさんは好き嫌いでヴァンスを選んだかもしれないが、自分が好きな人を副大統領に選ぶ、なんてことは滅多にできることではない。いろんな都合が積もり積もって、仕方なしに選ぶのが「ラニングメイト」というものである。互いに貸し借りが積もって、身動きが取れなくなってしまう。だからオバマ一家とバイデン一家がとってもビミョーであるように、バイデン氏とハリス氏も容易ならざる関係であるものと拝察いたします。

〇こんな風になると、いろんな人に聞かれるのは「ハリスはトランプに勝てるのか?」です。そりゃあ、やってみないとわかりませんよ。選挙なんだから。でも、バイデンが出ていたら、確実に負けていただろうし、民主党は下院の多数も取れずに、向こう2年間は共和党のやりたい放題になっていた公算が高い。ハリスが出れば、それはわからなくなった。もっともこれから先、民主党大会までの日々はきっとイバラの道ですぞ。早速、ジョー・マンチンが手を挙げると言ってますし。(→その後、不出馬を決定)

〇共和党はすっかり変身して「トランプ党」になったけど、つくづく民主党はあいかわらずなんです。右派と左派はまるで違うことを考えているし、中高年と若年層でも違いが大き過ぎる。「反トランプ」という旗印がなかったら、そもそも政党の体をなしていないのかもしれませぬ。つくづくアメリカは多様性の国なので、「国を二分するような対立」が一種の必要悪なのですな。4年に1度の大統領選挙があるからこそ、「小異を捨てて大同につく」ことができる。もしもトランプさんが居なかったら、彼らはどうしていたんでしょう?


<7月23日>(火)

〇バイデン氏が出馬を辞退して、ハリス副大統領の出馬に注目が集まると、アメリカの雰囲気はずいぶん変わりましたな。トランプ氏が元検察長官と対峙することを恐れている、なんていう政治マンガがいっぱい出来ている。ほかにもこれとかこれとか。政治の世界で三日は長い、という典型です。

〇もちろん彼女がこのまま順調に行く保証はなくて、11月5日の投票日までは山あり谷ありということになるでしょう。それでもとにかく民主党支持者が今はホッとしていて、「バイデンさん、よくぞ決断してくれました」というモードになっている。いやもう、もうちょっと早く決めてくれた方がよかったんですけどね。

〇今後の注目は民主党の重鎮たちの動きである。クリントン夫妻は、早々とハリス副大統領の挑戦を支持。特にヒラリーさんの気持ちはよくわかる。トランプを打倒するのは、できれば女性であってほしい。私、セコンド役を務めてもいいですよ、何しろトランプさんとは骨肉の戦いを演じましたからね、てな感じでありましょう。

〇ギャビン・ニューサムやグレチェン・ホイットマーという有力州知事が、ハリス支持に回るのも自然な流れです。トランプが勝てば、彼らは2028年の最有力ランナーになれる。ここで躊躇して評判を下げるのはよろしくありません。

〇問題はオバマ夫妻が沈黙を保っていること。バラク・オバマは「バイデンさんお疲れ様」のツィートを発信したが、ハリス支持とは言っていない。きっとビミョーな問題があるからでしょう。しかしまあ、こんな風に党の重鎮が発言力を競い合っている様子は、わが国自民党の総裁選びとやや似ています。

〇とはいうものの、民主党支持者の間には「ブローカード・コンベンション」(裏取引ありの党大会)に対する嫌悪感が強い。ちゃんと競争しろよ、「コンテステッド・コンベンション」でなければいけない、という思いは強い。

〇ワシ的には、そんなのは全然OKであって、候補者選びはもっと融通無碍であっていい。そういう意味では、自民党総裁選挙はとっても「オトナの世界」であると思います。問題は変に潔癖な民主党支持者が、そういうのに我慢できないことが問題でありまして、こうなると今年、キチンと予備選挙をやっていなかったことが祟るかもしれません。


<7月24日>(水)

〇なんなんだこれは。カーマラ・ハリスがトランプさんを圧倒しかねない勢いである。先週時点で、「ほぼトラ」とか「確トラ」と言っていた人たちは反省してください。そんな生易しい戦いじゃないんです。最後は必ず僅差の戦いになるんだから。だから「まじトラ」くらいがちょうどいいんですって。

〇お陰さまで今日の日経平均は439円安。先週、トランプラリーで上げた分をキレイに吐き出しました。不肖かんべえの持ち株も、1日で約50万円も下げました。勘弁してくれえ〜。同様な方は少なくないものと思われます。

〇ところで今日はこの漫画が面白いっす。トランプさんがおもちゃ屋さんにやってきて、「ヴァンス人形」を取り出して、「30日以内だから返品できるだろ?」ってやつ。そんなのダメに決まっているじゃないですかあ。彼を指名した7月15日時点では、もう何があっても勝てる、と思っていたんでしょうなあ。

〇そういう意味では、この週末のバイデンさんの不出馬宣言が思わぬリバウンド効果を呼んだ。しかるにバイデンさんが諦めてくれたのは、7月17日に3度目のコロナ感染したことと、周囲が持ち込んだ絶望的なデータと、「7月26日にはパリ・オリンピックが始まってしまう!」という締め切りのお陰である。日本時間の明日午前9時には、バイデンさんはホワイトハウスから正式な不出馬宣言を行う予定だが、これ以上遅くはできなかったのだ。

〇とはいうものの、先週までの民主党関係者は「バイデンはなかなか選挙戦を止めてくれないし、変えるにしてもハリスしかいないし、2024年の民主党は『1回休み』かなあ」と嘆いていたのである。今週起きているのは、一種のポジティブサプライズであって、永続するものではないと思います。

〇おそらく投票日までには民主党内のどこかから、「あんなのがアメリカ初の女性大統領でいいのかあ!」という非難が聞こえてくるはずである。ハリスさん自身も、かならずどこかでドジを踏むでしょうし。そういうアップダウンレースがこれからも続くと考えておく方がいいです。それにしても今月は、アメリカ大統領選挙の歴史に残るどんでん返しの連続であります。


<7月25日>(木)

〇バイデンさんが正式に撤退宣言をしたことで、2024年大統領選挙は「元職対新人」というちょっと珍しいパターンとなりました。たぶん史上初めでなのではないかなあ。普通は「現職対新人」「新人対新人」のどちらかなんですけどね。

〇しかもその新人は、現役の副大統領である。現役の副大統領が大統領になることは意外と難しい。第2次大戦後の歴史でいうと、「事故による昇格」は3人もいて、ハリー・トルーマン(33代)、リンドン・ジョンソン(36代)、ジェラルド・フォード(38代)である。それぞれ大統領の「任期中の死亡」「暗殺」「辞任」が原因であった

〇現役の副大統領がそのまま選挙に挑んで勝った、という例はひとりしかいない。ジョージ・H・W・ブッシュ(41代)=ブッシュパパである。失敗例は3件あって、1960年のリチャード・ニクソン、1968年のヒューバート・ハンフリー、2000年のアル・ゴアである。つまり副大統領がそのまま大統領選に挑戦すると、1勝3敗となって意外と確率が低いのである。

〇その代わり、副大統領経験者が後に大統領選挙に勝って就任したという例は2例あって、それがリチャード・ニクソン(37代)とほかならぬジョー・バイデン(46代)である。いずれも副大統領を2期8年も務めている。

〇カーマラ・ハリスの場合はどうか。副大統領の勝率が低いのは、その時の大統領が長く務めていて、政権交代が起きる確率が高まっているからであろう。1960年のニクソンはその前の2期8年がアイゼンハワー(34代)の共和党政権であり、1968年のハンフリーはその前がJFK&ジョンソンで2期8年の民主党政権であり、2000年のゴアはその前がクリントン政権(42代)の2期8年の民主党政権であった。

〇要するに3期連続で同じ政党がホワイトハウスを制するのは、とっても難しいのである。たまたま1988年選挙では、共和党が3期連続で勝ってブッシュパパが大統領になれた。これは1980年代が特殊な時代であって、レーガン大統領(40代)の下で新保守主義が広がったことと、1984年選挙でウォルター・モンデール(彼もカーター政権の副大統領であった)が、あまりにもコテンパンに負けた余波があったからだろう。

〇ということで、カーマラ・ハリスさんの勝率はどうかというと、「副大統領の挑戦は意外と分が悪い」という面では心細い感があるが、「民主党政権はまだ4年で、飽きられるほど長くはなっていない」と考えれば、十分に勝ち目はある、ということになるだろう。

〇まあね、どっちが勝つにしろ僅差の戦いになると思いますよ。2000年以降の大統領選挙は全部そうなんだもん。そういう風に考えるのが良いと思います。


<7月26日>(金)

〇さすがに米大統領選挙も疲れてきました。そろそろ五輪モードに切り替えましょうよ。と言っても、開会式は午前1時からなんですって。うーむ、起きていられそうにない。

〇それでも五輪が始まってしまうと、世間の雰囲気は変わってくるのであります。まして今年は無観客じゃないし、堂々と応援していいオリンピックである。それにしても3年前の東京五輪は、あれはとっても苦しい大会でありましたなあ。

〇とりあえず柔道の阿部兄妹が気になるぞ。まあ、いいじゃないですか、日本中が一気に「にわか」ファンになるわけでしで。たぶん自民党総裁選も、五輪が終わるまでは無風なんでしょうな。アメリカ大統領選挙は、五輪閉会後の「シカゴ民主党大会」の「仕込み」をしなきゃいかんでしょうが。

〇新聞のスポーツ欄には人間の偉業が描かれているが、政治欄は愚行が書かれているものであります。どっちを重視すべきかは、言うまでもないじゃないですか。


<7月27日>(土)

〇オリンピック、始まりましたねえ。

〇まあ、いかにもフランスらしい、独創的で、とんがっていて、「これで(が)いいんだ!」という開会式でした。でも、そういうときに雨が降ったり、TGVで放火があったりという点に、いかにも今のフランスの国運のなさみたいなものを感じてしまいます。マクロンが勝負した直前の総選挙も負けたしねえ。

〇一方で、「それがどうした!」と、空気を読まずに野党に投票したり、五輪期間中にバカンスに出かけていくパリ市民というのも、なかなかにオトナでカッコいい態度だと思うのである。いやまあ、ワシ的には五輪開会式であれば、2012年ロンドン大会のような、誰にでもわかってもらえるエンタメ性が好きなんだけどね。

〇男子バレーボールを見てましたけど、昔の競技とはまるで別物ですな。昔は「ソーレ!」とか「チャチャチャ」と声をかけることができたものです。今のスピードじゃあ、まるで間に合わない。ドイツがド迫力で強い。なんで日本男子が世界ランキング2位なのか、皆目不明なり。でも西田ってすごい。あの気迫、ほとんどアニマル。

〇柔道もやっているから、つい気になるではないか。角田夏実って、とてつもなく強くね? 巴投げって、あんなに簡単に決まるものなの?痺れます。

〇この調子ではあっという間にアスリートたちの世界に引きずり込まれてしまいそうである。困ったものである。明日からはちょっくら出かけてきますけど。


<7月28日>(日)

〇ということで、羽田空港のラウンジに居るのである。ごく短期間ですが、ワシントンDCの空気を吸ってこようかと。短期間にいろんなことが集中して起きた後ですから、いろいろ発見があるのではないかと期待しております。まあ、アメリカ人も五輪に熱中しているかもしれませんが。

〇案の定、日曜朝の羽田は大混雑である。搭乗手続きも手荷物検査も、かなりの忍耐心を必要とする。ただし「快適な空の旅」となるためには、世界全体が相当な不景気になるとか、旅先としての日本の評判が急速に悪化するとか、要するに好ましからざることが起きないと難しいようである。

〇ところで行きの電車の中で、「『RRR』で知るインド近現代史」(笠井亮平/文春新書)を読み始めたら、面白くて熱中してしまった。思えば昨年2月の渡米の際には、飛行機の中で『RRR』を見たのであった。あんな超大作は、機内で見るに限りますな。

〇そうそう、前回は米国内でFFFTPソフトが立ち上がらず、更新がしばし滞ってご心配をおかけしました。あれはたぶんノートンのせいだったと思うんですよね。今回はどうなるか。とりあえず更新がしばし途絶えても、たぶんご心配には及びませぬので念のため。(9:33)

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〇機中にてリドリー・スコット監督作品『ナポレオン』を見る。どうだ、158分もあるぞ。映画が始まって早々に、マリー・アントワネットの首が飛ぶ。つい先日も、そういうシーンを見たばかりだったような気がするが。

〇ジョセフィーヌとのただならぬ関係が面白いが、多少、盛っている感がある。あとは粛々とナポレオンの生涯を流しているが、これは『1492年』ほどではないにせよ、リドリー・スコット監督作品としてはやや不本意な出来ではなかったか。戦闘シーンはさすがによくできているが、この辺のことはいまどき、誰も驚かなくなっておりますので。

〇どうしても気になったので、3時間17ドルの料金を払って機内にてWiFiをつなぎ、札幌と新潟のメインレースに手を出す。クイーンSは外したが、アイビスSDはバッチリ三連複をゲットすることができた。こないだの韋駄天Sも万馬券を当てているので、ワシは新潟1000直レースの当て方を会得したかもしれない。わはは。

〇機中にて、会田弘継氏の『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』(東洋経済新報社)を読む。トランプ現象をアメリカ保守思想史から読み解く、という試み。思想というものはそれだけで変化するものではなくて、常に現実の事象と連動しているのだ、というのが会田氏の持論である。「思想は裸では街を歩かない」(P091)というセリフがカッコいい。JDヴァンス氏の「ポストリベラリズム」に関しても解説があるのがありがたい。

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〇13時間の飛行を経て、ダレス空港に到着。『ダイハード2』の舞台になった、と言っても覚えている人は少ないか。なにより「アイゼンハワー政権のダレス国務長官」なんて、皆さんもう忘却の彼方であろうから、この次来るときには「トランプ空港」になっているかもしれない。あな、恐ろしや。

〇久しぶりにこの空港に来てみたら、なんとメトロがダウンタウンまで延伸しているのである。シルバーライン、なんてワシが居た頃には存在しない路線が誕生しているから、恐る恐る乗ってみる。ちゃんとメトロカードは持っているので。ファラガットウエスト駅まで乗って降りる。かなりの距離はあるのだが、わずか2ドル50セントであった。いくら日曜の午後とはいえ、タクシー代に比べれば格安の感あり。すばらしい。

〇こちらは日曜の午後である。体内時計は深夜である。これはもう魔の時間帯。ワシントンDCも暑くはあるのだが、外を歩いて身体を動かし、寝てしまわないことが大事。ホワイトハウスの回りなどは、昨今の政治対立はさておいて、観光の善男善女が大勢いらしてましたなあ。それでも午後5時にはダウンするのであった。


<7月29日>(月)

〇ということで、ワシントンDCに来ている。そこそこに暑いのだが、東京の暑さに比べれば少しはしのぎやすい。特に今日の関東地方はすごい暑さだったらしいですな。

〇着いた当初はホテルのエアコンが効きすぎていて、設定温度を見たら66度とあった。華氏66度はどれくらいだっけとネットで調べてみたら、摂氏19度とある。いかんいかん、身体に悪いです。華氏76度に設定して、やっと摂氏23度である。

〇テレビをつけてみると、パリ五輪のニュースの扱いは思ったほど大きくはない。やっぱり大統領選挙の動きが冒頭に来る。カーマラ・ハリスの勢いはまだまだ続いていて、おカネの集まりもよく、ボランティアの登録も全米各地で進んでいる。彼女が居ないところで物事が進んでいる、という点がポイントで、要は民主党の組織と支持者がやっと本気になってきた。誰が偉かったかと言えば、身を引いてくれたバイデンが偉かった、どうもありがとう!ということになる。

〇その一方で、V.D.ヴァンスの"Childless Cat Ladies"(子どもが居なくて猫を飼っている先のない女性)という3年前の発言が猛烈に叩かれている。いやあ、昭和の親父ならともかく、39歳(彼は8月2日が誕生日でじきに40歳だが)のミレニアム世代の発言としては、ちょっとマズいだろう。とはいえ、本人は全く恥じる様子はない。「ポストリベラリズム」は頑強なのである。

AEIの"Election Watch"というパネルディスカッションがあるので出かけてみる。1982年から続いているという由緒あるプログラムだが、今日は投票日まであと100日というタイミングで、大統領選挙の情勢を語ってくれる。5人の登壇者の発言から、印象に残った言葉を下記しておこう。


*ほとんどのアメリカ人が党派色(Partisanship)を帯び、二極化(Polarization)し、しかもほぼ均等(Parity)に割れている。

*これまではトランプよりもバイデンが目立っていた。それが今ではJDヴァンスとトランプが目立っている。ハリスは実は政権内で重きをなしていたのだが、目立たなかった。

*7月は「もっとも荒れた月」であり、全てが変わったのに、ほとんど何も変わらなかった。この先のカギを握るのは、無党派層、ダブルヘイター、そして伝統的共和党支持層だろう。

*バイデンが降りてくれたことで、民主党のチャンスが広がった。ただしカマラ連合はワーキングクラスの支持を欠いている。これはワーキングクラスをめぐる選挙だ。

*民主党は上院を失うだろう。WVの1議席は確実に共和党に移る。あとはMT、OH、NVの選挙区が危うい。共和党は2022年と違って「候補者の質」問題がない。

*下院は接戦になるだろう。大統領選挙の勢いが大事。共和党が少しリードしているとはいえ、CAとNYに危ない議員が多い。


〇パネリストはそれぞれにお立場があって、共和党系と民主党系にくっきりと分かれている。こういうところがいかにもアメリカ政治である。ホテルでテレビをつけていても、CNNとFOXはまるで別世界なんだもん。「お前ら、ホントに同じ日のニュースを流しているのか!?」と突っ込みを入れたくなる。これに比べると日本のTVはまことに安心というか、それとも個性が乏しいというべきなのか。

〇こちらでは「夜にモーサテを見て」、「朝にWBSを見る」ことになる。本当に日米の時間差が実感されてくる。明日からは日米の中央銀行による金融政策決定会合である。この時間差攻撃はややこしい。いや、現地に来て初めて実感できることは、少なくないのである。


<7月30日>(火)

〇今月はまさか日銀は動かないだろう、と思っていたら、こちらの午後1時ちょうどに日経電子版がこんな報道を流している。これは日本における朝刊の最終版が確定する時刻であって、それと同時に電子版も流れる。そういえば以前にも、「前日午前2時の日経報道」が評判になったことがありましたなあ。


●日銀が追加利上げ検討、0.25%に 量的引き締めも決定へ<日経スクープ>

2024年7月31日 2:00

日銀は31日の金融政策決定会合で追加利上げを検討する。現在は0?0.1%の政策金利を0.25%に引き上げる案が有力だ。3月にマイナス金利政策を解除したが、賃金上昇などで物価と景気はなお上向き基調にあると判断した。国債買い入れを減額する量的引き締めの具体策も決め、日本経済は「金利ある世界」へさらに一歩踏み込む。

日銀はマイナス金利の解除後も、短期金利を0%近辺と極めて低めに誘導してきた。政策金利を0.25%に引き上げれば、リーマン・ショック直後の2008年12月(0.3%前後)以来、15年7カ月ぶりの水準に戻る。会合に参加する財務省と内閣府も議決延期請求権は行使せず、容認する構えだ。

日銀が3月に続いて追加利上げに動くのは、インフレ率が目標とする2%を上回ってなお上昇基調にあるからだ。6月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品除く)は前年同月比2.6%上昇し、27カ月連続で2%を上回った。政策委員の一部は早期の追加利上げが必要と主張しており、31日の会合で最終判断する。


〇それにしても「利上げ検討」という見出しの中途半端さはいかがなものか。ひょっとすると日銀内が完全に割れていて、どっちに転ぶか記者も測りかねているのだろうか。ともあれ、これで少しでも円高が進んでくれれば、ワシの旅費も少しは軽くなるというものである。ありがたし。

〇今週は中央銀行ウィークであるが、案の定、日米の金融政策についても当地にはネタが落ちていた。これだからワシントンは面白い。


<7月31日>(水)

〇こちらでメディア関係者に会うと、最前線で活躍されている方々がだいたいワシよりもひと回りくらい若い。支局長クラスはもう団塊ジュニア世代なのですな。それもそのはずで、彼らが若いのではなくて、ワシが古くなったのだ。そんな不肖かんべえに対して、彼らが妙に敬意を表してくれたりするので、ますます恐縮してしまう。ワシなどは遠からず、バイデン大統領のように迷惑な存在になるんじゃないのかと。

〇そんな彼らから、テレビ討論会からトランプ銃撃事件、共和党大会からバイデン出馬辞退までという今月の取材談を伺うとまことに面白い。銃撃事件直後とあの「奇跡の1枚」を見た瞬間に、「今年の大統領選挙は終わった!」と誰もが感じたようだ。ところが当のバイデン氏は、「全能の神が降りてきて、ジョー、お前はもう去るべきだ、と言わない限り選挙戦を降りない」と言っていた。そのバイデン氏が3度目のコロナ感染となり、これはやはり神様が降りてきたのだと観念したのであろう。

〇面白いもので、バイデン氏が降りるという決断をした瞬間に、局面が一変した。今までくすぶっていたカーマラ・ハリスが急に輝き始めた。かつては顰蹙を買っていた馬鹿笑い癖までもが、今では高評価になっている。これまで選挙に熱意がなかった若者とマイノリティ層に「やる気スイッチ」が入った。逆に共和党の副大統領候補に指名されたJ.D.ヴァンスが、過去の失言問題で袋叩き状態になっている。局面が一変すると、妙手にみえていたものが一気に悪手になってしまう。バイデン氏の事態宣言は、「詰めろ逃れの詰めろ」みたいな感じであった。

〇ともあれ米大統領選挙の歴史においても、2024年7月は「奇跡の1か月」として長く歴史に刻まれることであろう。これまで「トランプ対バイデン」の図式があまりにも長く続き、「またあの二人か」「他に居ないのか」「若い者は何をしているのだ・・・」という鬱憤が閉塞感を生み、「ダブルヘイター」を生み出すに至っていた。その枠組みが取り払われた瞬間に、一気に局面が変わった。政治の世界において、1週間はしみじみ長いのである。

〇さて、こちらに来て4日目ともなると、自分の意識がどんどん「ガキ」に戻っているような気がする。かつてこの街の住人だった頃はまだ30代だったので、その頃の習性が戻ってきているのかもしれない。しかるに今やワシは60代であって、鏡に映るわが身は老けているし、老眼鏡は手放せないし、そもそも孫だって2人もいる。立派なジジイなのである。まあ、気分が若返っていると考えれば、それは由とすべきなのかもしれないが。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki