●かんべえの不規則発言



2006年10月







<9月30日〜10月1日>(土〜日)

〇先週、会社のOBの話を聞く機会がありました。この人はロシアビジネスをやっていて、退社後は「田舎に住みたい」という思いがつのり、縁もゆかりもない札幌に移り住んだ。現在はロシア関連のコンサルタントをやりながら、自治体を含めてクライアントも増え、理想の第2の人生をエンジョイしているとのこと。久しぶりに東京に出てくると、人は多いし、物価は高いし、とっても落ち着かないとのことでありました。

〇逆に北海道に移り住んで、大変だったことは?と聞いたら、こんな答えが返ってきた。「最初はアパートが借りられなかった」。つまり退職してしまったフリーの中年男性というのは、不動産屋さんから見て信用度はゼロなのです。「保証人を見つけて来い」といわれ、たまたま娘が北海道内に住んでいたので「それでいいか?」と聞いたら、「あと1人見つけて来い」となった。結論として、地方に移り住むのであれば、「会社を辞める前に家を借りておけ」ということであった。

〇結局、この人は札幌で家を買うことにしたのだけれども、その場合もローンを組む際が大変であったという。おそらく北海道というのは、よそ者に対して日本でももっともオープンな場所だと思うのだが、それでも地縁のない人が都会から地方に移り住むというのは厄介なことであるらしい。こういう点は何とかならないものでしょうか。

〇対ロシアビジネスというと、今は中古車輸出が非常に伸びているのだけれど、これが何と「現金商売」なのだそうだ。国内に手形決済ができるほどの信認がないために、いつも現ナマで商売をする必要がある。信用創造が起きないから、これじゃあロシア経済はダメだよね、と思う一方で、輸出する側にとっては前金で払ってもらえる、つまり零細業者でもオッケーというありがたい世界なのである。逆にいえば輸入はダメなわけだが、それこそロシアからモノを買うといえば木材やら水産物やら、大企業でないと手におえない世界である。

〇おそらくロシアビジネス以外にも、地方でできる商売のネタは一杯転がっていて、そういうノウハウを持った人たちが、これから大量に定年を迎える。そういう人たちを上手に集めた地方が得をする。たとえば新庄が北海道に来てくれなかったら、日ハムの人気や優勝は可能だっただろうか?地方活性化というのは、まず人材の移動から始まると思うのですがどうでしょう。


<10月2日>(月)

〇ディープインパクト、ロンシャン競馬場で3位に敗れる。でも、これで良かったんじゃないでしょうか。

〇だって、ここで凱旋門賞を取ってしまったら、もう次の目標はありませんから、馬主としては「怪我をさせないように早めに引退させ、後は種牡馬に」という誘惑に駆られたかもしれません。が、それではファンとしては寂しい。シンボリクリスエスのような早過ぎる引退は困ります。なにせディープという馬は、かんべえが今後、死ぬまで競馬ファンを続けたとして、これを越える馬に出会える可能性はそんなに高くないと思います。「ディープが飛ぶ」姿をできれば何度も見たい。さらに贅沢を言えば、ディープを倒す馬が出てくるのを見てみたい。いわば朝青龍みたいなものですな。

〇おそらく今回の失敗は、ローテーションが空き過ぎたことにあるのだと思います。馬場にも慣れなかった。ロンシャン競馬場は、第4コーナーを回ってからが長い。つまり仕掛けるのが早過ぎた。この馬、なにしろ強過ぎるために、勝負の駆け引きをおぼえる機会が少ない。武豊騎手としても、そこに悩みがあって、「今日は飛びました」で勝ち、「今日は飛ばなかった」で負ける。それでも、負けた後にはしっかり学習効果を見せてくれるのもこの馬の良さであって、昨年の有馬記念が2位になった後、しっかり成長して春の天皇賞、宝塚記念としっかり魅せてくれた。

〇今回の凱旋門賞の3位は、ディープをさらに成長させてくれるでしょう。なにしろまだ4歳馬ですから。まあ、世界の壁ったって、せいぜいあの程度。来年も再来年も、挑戦の機会はあると思います。

〇ところで今日のお昼は吉野家赤坂店へ。やっぱり行列が出来ておりました。12時10分に並んで、店を出たのが12時30分。(早い!)並盛に半熟卵とみそ汁をつけて、500円でお釣りが来る。(安い!)久しぶりに食べてみて、大き目に切った玉ねぎの甘さがしみじみ吉野家であると痛感。(うまい!) まあ、しかし、あれだ。吉野家の牛丼は、できれば新橋で食べたいものである。

〇真昼間にもかかわらず、ふと中島みゆきの『狼になりたい』という唄を思い出してしまう。若い人は知らんだろうが、70年代の彼女はこんな強烈な唄を歌っていたのである。ちなみにアルバム『親愛なる者に』には、もうひとつ『タクシードライバー』という名作があって、まだ高校生であった不肖かんべえは、こんな唄を聞きながら「人生ってどうやらこんなものらしい」てなことを学習したのであった。遠い昔のことであります。


<10月3日>(火)

〇かんべえ、昨夜はめずらしくも会社の同僚を連れて飲みに行く。こういう汚い店は、若いもんにはマズイかなあ、と思いつつ、赤坂の「かっぱ亭」を選ぶ。でもって、サバのたたきやら、クジラの刺身やら、天然鰻の白焼きやら、この店特有の凝ったものを食す。よく行く「和喜」と並び、ここも20代の頃からの古い付き合いの店である。そういや昔、『下流社会』の三浦さんを連れてきたら、「気に入った」と言っていたような記憶がある。

〇最後はジャコ飯で仕上げて、店を出た瞬間に部下いわく。「すごい店ですね、最後に入ってきたのは田崎真也さんでしたよ」。あー、ワシは全然気がつかなかった。そういや、「もう来ないかと思いましたよ〜」とか言われながら入ってきた男の横顔に、確かに見た覚えがあった。あの田崎さんが来る店とあれば、これはちょっとは自慢しても良いのであろう。

〇そこでまたまたハッと気がついた。そうか、久々に行った「かっぱ亭」で、「ワイン」などという妙な札が下がっていたのはそーゆーわけだったのか。この次に行ったら、是非ワインを出してもらわねばなるまい。


<10月4日>(水)

〇シンクタンク業についてふと考える。

(1)知恵を売る仕事というものは、つまるところ人間を売る商売である。

−−知恵は人間につくものである。知恵を高く売るためには、人間に付加価値をつけるしかない。

(2)知恵を売るときは、なるべく丼勘定で売ったほうがいい。

−−知恵は値決めが難しい。1万円であろうが1億円であろうが、払う側の満足度はそんなに違わない。

(3)知恵を高く売るためには、美しさや単純さやサプライズが必要である。

−−知恵はネクタイに似ている。ブランド物は高い。そうでないと安い。でも「いいか、悪いか」を聞くと、多くの人の意見は意外と一致する。


<10月5日>(木)

〇今月は15日から豪州、ニュージーランドに出張します。日豪経済合同会議、日NZ経済人会議をハシゴすることになっていて、後者は毎年参加しているのだけれど、前者は今回が初めてとなります。今日はその結団式があって、豪州の諸事情などを拝聴してきました。ははー、と感心することしきり。

〇豪州にとっての安全保障上の脅威とは、かつては「日本軍が南下してくること」でありました。実際に日豪は戦争していたわけなので、これは洒落でも冗談でもありません。それがさすがに現実味がなくなってきた現在、かの国にとって現下のシリアスな脅威とは、隣国インドネシアで急浮上してきたイスラム原理主義と鳥インフルエンザである。なにしろバリ島でのテロ事件では、豪州人が実際に犠牲になっているので、怖さが身に沁みている。そしてそれらを除けば、南半球のこの国にはさしたる脅威なんぞあるはずもないのであります。

〇近年、豪州の外交は非常に積極的です。イラクにおける日本の自衛隊の防衛を買って出てくれたり、北朝鮮の核開発問題でも日本に同調してくれたりと、日本に対しても非常に好意的です。親米姿勢も非常にハッキリしていて、対テロ戦争でもしっかり協力し、米豪FTAを締結したりしている。結果として3ヶ国の間で、「日米豪戦略対話」なんぞも行なわれているわけなのですが、そういう路線が国民の支持を得ているのは、「9/11」以降の安全保障上の脅威をひしひしと感じているからなのでありましょう。

〇ちなみにイスラム原理主義と鳥インフルエンザに対し、ニュージーランドはほとんど脅威を感じていません。なんとなれば、豪州とニュージーは実はとっても遠いのです。このことに気づいていない人が多いのですが、今度、暇なときに地球儀をしげしげとご覧になれば、両国の距離の遠さにあっと驚かれることと思います。朝7時10分発のカンタス航空シドニー発の便が、オークランド空港に着陸するのは午後1時10分なんです。もちろん時差もあります。

〇かくしてニュージーランドでは、ほとんど空想的なまでの平和主義が健在であって、「空軍なんてもうイラネ」みたいなことが実現してしまう。もともと独自の非核政策のために、アメリカとの関係はあまりよろしくない。外交の軸に据えているのは環境や反核運動などの理念である。その昔、「小さくてもキラリと光る国」という言葉があったけれども、この言葉はニュージーにこそふさわしい。

〇こんな風に、南半球の2つの国はどんどん生き方が変わってきている。そうなると日本としては難しいところで、日豪FTAはなんとか実現したい。もちろん農業問題は難しいのだけれど、自衛隊のご恩は深いし、資源国を大事にしたいという思惑もある。これに対し、ニュージーランドは若干、粗略に扱われている気配がある。「悪いけど、ウチにとってお宅の重要度は豪州ほど高くはないのよ」ということを、やんわりと伝えなければならない。悩ましいところである。

〇豪州とニュージーランド、どんな風に違うのか、実際に行ってみるのがちょっと楽しみです。


<10月6日>(金)

〇北朝鮮の核実験発言について少々述べておきましょう。

〇核実験声明は7月3日から4日にかけて、6回に分けて、国内向けにも実施されました。つまり北朝鮮の国民向けにも念入りに宣言してしまったわけで、これでは「やっぱり止めた」とはなかなか言いにくい。さらにいえば、これだけ言明したからには、核実験の能力があると考えるのが自然でしょう。「北のブラフだ、ハッタリだ」と解釈することはもう難しくなりました。おそらく5〜6発程度の爆弾は用意できているのでしょう。とはいえ、その程度であれば実用に耐える(たとえば日本に向けて使用することができる?)かといえば、大いに疑わしいわけですが。

〇いつものことですが、今回の声明も一筋縄ではいきません。(以下はラヂオプレスより)

 朝鮮民主主義人民共和国外務省は委任により、自衛的戦争抑止力を強化する新たな措置をとることになることに関し、次のように厳粛に明らかにする。

 第1に、朝鮮民主主義人民共和国科学研究部門では今後、安全性が徹底的に保証された核実験をすることになる。

 第2に、朝鮮民主主義人民共和国は、絶対に核兵器を先に使わないであろうし、核兵器を通じた脅威と核の移転を徹底的に許可しないであろう。

 第3に、朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島の非核化を実現し、世界的な核軍縮と終局的な核兵器の撤廃を推進するためにあらゆる方面で努力するであろう。

 わが方の最終目標は、朝鮮半島でわが方の一方的な武装解除へとつながる「非核化」ではなく、朝米の敵対関係を清算し、朝鮮半島とその周辺で全ての核の脅威を根源から除去する非核化である。

 対話と協商(協議)を通じて朝鮮半島の非核化を実現するというわが方の原則的な立場には変わりがない。

 わが方は、あらゆる挑戦と難関を果敢に克服し、われわれ式に朝鮮半島非核化を必ず実現するために積極的に努力するであろう。


〇彼らが主張する「朝鮮半島の非核化」とは、「アメリカの核も使えない状態」を指します。この点はずっと昔から一貫していて、たとえば韓国の米軍基地に核があったら、北朝鮮は安心できない。だから自分たちも核開発を行なう権利がある。自分たちは朝鮮半島の非核化のために、核開発をしているのだ、という面妖な理屈なのです。

〇この理屈を通すために、彼らはアメリカに対するストーカー行為をやめません。いくら本気になっても、中東情勢に夢中のブッシュ政権は振り向いてくれないのですけど、こういうときに本物のストーカーが取る行動と同様に、彼らの行為はエスカレートしてしまいます。ミサイル発射でダメなら核実験。これはもう必然的な動きといえます。やってることは狂っているにしても、ストーカーの気持ちというものは、案外とピュアなものなのかもしれません。

〇ところで、安倍首相の訪中にあわせてこの声明が行なわれたことから、「中朝で示し合わせたか」といった声も一部に出ています。が、実は日本のことなど全く眼中にない、という方が当たっているような気がします。9月12日付の当欄でも取り上げた通り、金融制裁後の北朝鮮は、おそらく米国と同様に中国のことも恨んでいる。中朝間の政治のパイプは、かなり壊れているのではないでしょうか。


<10月7〜8日>(土〜日)

〇10月8日で46歳になりました。まだ40前だった頃に、「勉強して頭に入るのは45まで」と誰かが言っていたのが印象に残っていて、実際に昨今はそれが正しいことを痛感し続けています。要するに、年とって頭がボケてきた、ということで、昨今はあまり締め切り前の頑張りが効かない。そのわりに仕事は増えてしまっているので、せめて今後は無理をしないように、適当に義理を欠きつつやっていこうと思います。だって、今週末もちょっと風邪気味だし。

〇長女が以前、お世話になった「こばと共同保育所」の臨時総会がありました。ここ数年、ずっと財政難で存亡の危機だったのですが、今回、とうとう定款第5章第7条にある「本会の解散」を選択することになりました。10年程前に引退した元「こばと」理事としては非常に残念なのですが、最近の内情を聞けば聞くほど、まあ、しょうがないなあ、と感じることしきり。結局、出席者の全会一致により、来年3月末の閉園と解散が決まりました。

〇無認可の共同保育所に子供が集まらなくなったのは、皮肉なことに保育をめぐる状況が改善されたからでもある。まず、公立保育園の空き待ちが短くなったこと。次に近所の病院が「病児保育」を始めたこと。逆に「こばと共同保育所」では、裏の空き地に家が建ったことで、日当たりが悪くなり、外遊びの回数も減った。通園する子供の数が減ると、運営に携わる父母の負担がその分増える。来年3月には、またまた数軒の子供が卒園してしまう。最後は保育園の大家さんの事情が駄目押しになって、今回いよいよ万策が尽きた。

〇少子・高齢化問題について、「保育園の充実を」みたいなことを言う人は多いのですが、実は共働き世帯の子育て事情というのは、1990年代の「エンゼルプラン」以後は、そこそこ改善されているのです。というか、その前がひどすぎたわけで、柏市近辺でいうと公立に入れなかったら、2つある無認可の共同保育所以外にはほとんど選択肢がありませんでした。そして公立の評判も、当時は有体に言って悪かったのです。

〇そんな中で「こばと」の保育は、公立ではとても望めないようなアットホームなもので、保育者も保育方針も立派なものでした。そうなると公立に移れるようになっても、「こばと」を選ぶ親がいた。ウチの場合も、そうやって「こばと」との長い付き合いが始まったのでした。要するにNPO法人みたいなものを経営するわけですから、父母としては負担は非常に大きい。とにかく年がら年中、金策の心配ばかりしていたという記憶があります。とはいえ個人的には、ここでの学習は貴重な経験値になったと思っています。

〇共働きの子育てはあいかわらず大変ですし、少子化現象もあいかわらずです。それでもかんべえが知る限り、事態はちょっとだけマシになっている。厚生省も、何もしてなかったわけではないのです。その代わりといってはなんですが、「こばと」のような保育モデルはしんどくて続けられないということになってしまった。

〇どんなものでも、終わるときは寂しい。1972年に「こばと」を創設した人が、「これまで事故がなくて良かったじゃない」と明るく言っていたのに、ちょっとだけ救われました。来年3月末の閉園まで、何も事故がありませんように。


<10月9日>(月)

〇あ〜あ、やっちゃった。でも、なんで今日だったんでしょう。明日であれば朝鮮労働党の創設記念日だし、日韓首脳会談の最中になって盧武鉉大統領の顔をつぶさなくて済んだはずなのに。まあ、この辺のちぐはぐなところは、北朝鮮の行動にはよくあることなので、「なぜ1日待てなかったのか」は、これも謎として残るのでありましょう。

〇ともあれ、これで安倍首相の立場から行くと、日中首脳会談、日韓首脳会談が「滑り込みセーフ」となった上に、歴史問題の比重が軽くなったわけなので、大ラッキーといえましょう。しかも今月は日本が安保理の議長国です。シミュレーションは済んでいるはずですから、「安倍首相=麻生外相=久間防衛庁長官(もうじき防衛相)」という黄金のトライアングルは腕の見せ所です。かねがね言われてきたことですが、「安倍さんの最大の応援団は金正日」という法則は今回も生きているようです。

〇問題はこの先です。10月6日にも書きましたが、彼らのロジックは「朝鮮半島の非核化のための核保有」という妙なものです。「核実験するぞ」→「だからアメリカは直接交渉に応じろ」という構えではアメリカは動いてくれない。そこで「俺たちもう核持っちゃったからね〜」→「だからアメリカは直接交渉に応じろ」に賭け金をレイズしたつもりなのでしょう。

〇だったらアメリカは動いてくれるか。中間選挙前ですからねえ。ブッシュさんとしても、今までの路線を即転換することはできないでしょう。少し前に、ジェームズ・ベーカー氏が「対北朝鮮、路線の転換も」と言っていたのが、ちょっと気になります。彼をラムズフェルドの後釜にという声がありましたから。

〇問題はねえ、中間選挙の情勢でありまして、10月9日付けの世論調査だと上院は民主50、共和49、不明1、下院は民主219、共和215、不明1となっている。ブッシュさん、どうするの、これ?

http://www.electoral-vote.com/ 


<10月10日>(火)

〇かねがね溜池通信で指摘してきた通り、六ヶ国協議とは「時間稼ぎ」の枠組みでありました。たとえば、今からちょうど3年前の2003年10月10日号をご参照。6カ国は皆、「現状維持」が最善とは言わないまでも次善の策であるために、とりあえず交渉をする振りをして、時間を稼いでいたのだと思います。ところが時間の経過と共に、朝鮮半島情勢はどんどん手詰まりとなり、「時間稼ぎのコスト」を痛感するような状態になっていった。だいたい朝鮮半島においては、現状維持はサステナブルではないのである。

〇関係国が時間稼ぎをしている間、北朝鮮はせっせと核開発を急いでいた。この間、アメリカは何をしていたかというと、実は何もしていなくて、「その間にイラクが治まって、北朝鮮に手が回る余裕ができればいいなあ」「その前に、金正日の体制が勝手に瓦解してくれないかなあ」と虫の好いことを考えていた。どうやらどっちも望み薄だということに気がついて、去年ぐらいから「おい、あそこはお前の縄張りだろうが。しっかり面倒みんかい」と中国に責任を押し付けるようになった。そんなこと言われても、実は中国にもあんまりできることはない。食料とエネルギー援助をぶった切れば、それで金正日体制は崩れるかもしれないけど、後の始末も引き受けろなんて、そんなの勘弁ですわね。

〇それにしても、結果として北朝鮮に核実験を成功させてしまったわけですから、時間稼ぎは「凶」と出たわけです。アメリカの場合は、「これまでの対北朝鮮政策は失敗だった」ということになりますから、中間選挙を前にブッシュ大統領には新たな失点ということになる。中国の場合も「やっぱり北朝鮮をコントロールできない」という形で面子を失った。しかし何といっても、最大の敗者は韓国でしょう。あれだけ不評を我慢して続けてきた「太陽政策」が、まるで無意味だったと知らされたわけですから。

〇では日本はどうだったか。これは「小吉」くらいで済んだ感があります。拉致問題の解決を急ぐという立場から行くと、時間稼ぎはいけないわけなんだけど、日本外交はそこんとこに目をつぶって、次善の策として六カ国協議に付き合ってきた。本当は、この間に集団的自衛権の問題くらいはクリアしておけば、今後に予想される難局を迎えるのに役立ったことでしょう。でも、やったことといえば、経済制裁のシミュレーションくらいでしたから。それでも、この間に一部の拉致被害者と家族を取り返せたことは、それなりに評価できるのではないでしょうか。

〇次にこれから先の展開について。これは2005年6月3日号に書いたことですが、アメリカの立場に立つと以下のオプションがある。

(1)黙認する

(2)海上封鎖

(3)経済制裁

(4)直接交渉

〇どれも考えにくいことばかりですが、いちばん確実なのは(4)になりますでしょう。中間選挙後にラムズフェルド国防長官のクビを切って、ハト派路線で交渉に臨む。ブッシュ大統領にとっては気乗りしないシナリオでしょうけれども。(2)は現実的に難しいし、(3)は実効性に疑問符がつく。(1)があったら困るけど、うーん、これはないと思いたい。

〇他方、これで北朝鮮の体制瓦解が早まるというリスク・シナリオもあって、その場合、強大な権力が空白になったときは、すぐに他の権力で埋める必要が生じます。(これをやらないと、イラクみたいになります) 現時点でそれが務まるのは、人民解放軍くらいでありましょう。例えば年末くらいには、北朝鮮の領土が中国に呑み込まれている、なんてことがあるかもしれません。でもって、皆でそれを認めたりしてね。

〇よく聞かれるのですが、本件の経済への影響について。今日の株価が上がったのは「うふ、やっぱりね」てな感じでした。目先はとりあえず円安で、だったら輸出関連株を買っておけ、みたいな発想が出てくるから頼もしい。いつも思うことですが、「地政学的リスク」は先が見えないときこそ怖い。でも、北朝鮮の出方はかなり見えてきているし、保有する核の量もたいした事はない。安全保障の世界の住人にとっては、核実験は天下の一大事で、江畑謙介さんの目が光って見えるけど、経済の世界の住人は鈍感だ。でも、後者の方が健全かもしれない。

〇ところでSF小説で核戦争が始まると、人類は南半球に逃げることになっています。かんべえは来週が豪州とニュージーランド出張なので、非常に良いタイミングである。ちなみに豪州では「日本経済とICT」、ニュージーでは「東アジア経済統合」についてというお題を頂戴している。今日でやっと前者が片付く。後者はまだ全然考えてない。


<10月11日>(水)

〇北朝鮮の核実験は、本当は放射性物質が出ていないとか、ひょっとしたらTNT火薬だったんじゃないかとか、あるいは連鎖的な核分裂が起きなかったんじゃないかとか、その手の話が依然として残っています。だいたい核実験をするときは、「この兵器が本当に使えるかどうか」は使う当人が一番怖いわけですから、あらゆる手法で安全性を試すはずです。そういう意味では1回だけで事足れりとするわけにはいかず、できれば2度3度と繰り返さなければなりません。とはいえ、北朝鮮が保有する核はせいぜい5〜6発というのが衆目の一致するところですから、気前よく実験をするのも難しい。ただ1回の実験で全世界がビビってくれれば、それがいちばん望ましいということになります。

〇しかるに世界の側は結構、スレていますから、素直に8ヶ国目の核クラブ会員おめでとうございます、とは行きません。これがブラフだったという結論になったら最後、ふざけんじゃねえ、ということになりますね。それこそ物理的な制裁を、てなことになっても不思議はありません。あるいは国内的な事情からレジーム・チェンジに至るかもしれない。いずれにせよ、今後の展開はおそらく風雲急を告げるのではありますまいか。

〇この場合、たとえば中国人民解放軍を国連軍に認定し、核施設撤去を大義名分に、北朝鮮に駐留させちゃうなんていうアイデアはどうでしょう。要するに中国に汚れ役を押し付けてしまうというシナリオですが、韓国は嫌がるでしょうけれども、それ以外は誰も困らない。アメリカは楽ちん、中国は"Responsible Stakeholder"であることを示すことができ、日本とロシアは高みの見物でいることができる。その結果として、北朝鮮の版図が中国領になってしまい、「東北3省の4番目」になるとして、いったい誰がそれを惜しむでしょうか。

〇そうなった場合、中国は大量難民発生のリスクを回避でき、国内の朝鮮族対策も悩まなくて済む。もっともその先はやっぱり心配で、古来、中国の王朝が朝鮮半島を統治すると碌なことがないというのが歴史の教訓です。思うに北朝鮮はジョーカーみたいな国であるから、さりげなく中国に押し付けちゃえ、みたいな発想を日米で一緒に考えるというのも一興ではないでしょうか。

〇こんな風に、この問題を考えているとどんどん性格が悪くなりますね。日本は朱に交わって赤くなってしまうのでしょうか。


<10月12日>(木)

〇設備投資をめぐるデータが、この夏あたりからちょっとおかしい。機械受注とかね。それについて、面白い話を聞いたのだけど、昨年から今年にかけて、設備投資を上ぶれさせた要因に@ナンバーポータビリティに向けた携帯電話の基地局の増設、A2005年に巨大交通事故が発生したことによる整備事業、があるというんですね。で、どちらもそろそろ息切れするんじゃないかと。

〇どちらもすご〜く納得の行く話です。というのは、こないだドコモショップに行ったら、FOMAがズラリと勢揃いしていて、MOVAはほとんど投売り状態なんです。通信状況が悪いといわれるFOMAをこれだけ売るからには、ドコモは相当な基地局増設をやったに違いありません。でもね、そんなもんじゃ全然足りない。FOMAはデータファイル通信もあるはずですけど、これって東京都区内がまだまだ関の山なんですよね。柏市在住者としては、もっともっと基地局作れええ、と申し上げたい。

〇交通事故といえば、そうですよね、JR西日本でもJALでもありましたよね。しかしこちらも1年やそこらでは収拾がつかない事態である可能性が高い。最近、JR東日本でも事故や遅延が多いですよね。そもそもインフラとして、老朽化しているんだと思います。これも相当に根の深い問題であって、1年やそこらで片のつく問題ではないと思うのです。

〇ケータイの基地局整備はこれからのインフラ投資、交通関連の整備は過去のインフラの更新事業。どちらも欠かすことの出来ない仕事だと思います。ということで、設備投資はまだまだ続くというのがとりあえずの仮説。設備投資が急落して景気腰折れ、てなことにはならないと思います。

〇ところで、「NTTパーソナル」の時代以来、長年にわたってPHSを使ってきたかんべえも、ドコモがこの事業を見捨てるとあっては、そろそろ普通のケータイへの移行を検討せざるを得ません。ナンバーポータビリティはPHSには適用されませんので。でもね、PHSをFOMAに切り替えるとご褒美に2万円割り引いてくれるのですけど、それだと古い番号にかけて来た人は即座につながらないことになってしまう。かんべえの場合、おそらく2〜3ヶ月は2つの電話を持ち歩く並走期間を作らねばならず、それだと割引のメリットがないのであります。

〇これってドコモがけしからんと思うのですけど、しょうがないんですかねえ。まあいいや、海外出張から戻ってから考えるとしよう。


<10月13日>(金)

〇そういや昨日、日ハムがソフトバンクを破って優勝を決めたのは実にいい試合でしたね。野球ファンであれば、誰でも贔屓のチームがあるものですが、そのチームが胴上げ試合をするとしたら、きっとあんな風に緊張感があって、なおかつ劇的な幕切れになる試合を望むことでしょう。「信じられな〜い」「北海道のファンは、世界で一番デース」のヒルマン監督も良かった。

〇プレーオフの是非についてはいろんな意見がありますが、とにかく「北海道対九州」という組み合わせで決勝戦ができたことが素晴らしいと思いました。大都市中心のセ・リーグではこうはいきません。さらにいえば、ソフトバンクには「病床の王さん」「プレーオフ苦節2連敗」というプレッシャーがあり、日ハムには「新庄の引退試合」「惜しくも準優勝だった駒苫」などのドラマがあった。これは盛り上がりますわな。今年はワールドカップの年という触れ込みでしたが、WBCで盛り上がり、プレーオフでも盛り上がって、しみじみ野球の面白さを味わうことができる年のようです。

〇ところで先日、札幌在住の人に「日ハムが強くなって良かったですね」と声をかけたら、即座に「新庄のお陰です。新庄がよく北海道に来てくれました」という返事が戻ってきた。そんな風に言われるとは、阪神に居た頃のあのアホガキが偉くなったものだと思うけれども、素直にこんな風に言えるファンも偉いもんだと思う。おそらく、これが北海道の「世論」なんじゃないだろうか。

〇そんなに長くない歴史の中で、北海道を作ったのは外から来た人たちである。だから北海道はよそ者に優しい。江戸っ子は三代住まなきゃ江戸っ子じゃないらしいが、北海道は三日居たら道産子を名乗っても良いのだそうだ。だからもう日ハムは、まごうことなき道産子チームである。地域密着というのは、こんな風でなければならない。

〇ということで、かんべえは日本シリーズでは断乎、日ハムを応援する。是非、中日を倒してもらいたい。特に山本昌は念入りに叩いてもらいたい。・・・・・・ああ、それにしても新庄が甲子園でプレーする姿を見たかったなァ。


<10月14〜15日>(土〜日)

〇かんべえは今夜のJAL便で豪州に出発して、1週間後に戻ります。この先はいろんな面でしんどい1週間になりそうですね。

〇今朝成立したばかりの北朝鮮制裁法案は、今後どのような形で実施されるのか。この問題で米中がどんなディールをしているか。おそらくはあまり表に情報が出てこない形で、もやーっと物事が動きそうです。

〇国内では10月22日に行なわれる補欠選挙の行方が焦点。個人的なことになりますが、大阪九区の大谷信盛氏は、今年春に千葉七区で挑戦した斎藤健氏と同じく、かんべえのワシントン時代からの友人。なにしろ元職ですから、当初は楽勝と思っていましたが、北朝鮮の核実験がワイルドカードになって、現在は優劣不明とのこと。気になります。

〇アメリカの中間選挙も形勢不明になってしまいました。このページを見ると、ここ1週間で大きく支持率が動いたことが分かると思います。いつもの地図を見ても、上院が民主50対共和49(不明1)、下院が民主226対共和205(不明4)です。つまり共和党が大敗という見通しです。例のフォーレ―下院議員のスキャンダルが「オクトーバーサプライズ」的な打撃を与えています。

〇などと、いろいろ気がかりはあるのですが、頭を南半球モードに切り替えて、行ってまいります。


<10月16日>(月)

〇飛行機の中で、「はて、会議におけるワシの出番は何時だったっけ?」と確認してみて驚いた。午前10時半とあるではないか。シドニー着は午前7時の予定である。空港からシドニーのホテルまではどれだけかかるんだろう。あるいはJALが遅れたらどうしよう。冷や汗たらり。

〇幸いなことに、JALは定刻にランディングしてくれた。しかし案の定、バゲージからなかなかカバンが出てこない。でもって、検疫は長蛇の列である。この国はテロリストは恐れていないが、外地の動植物が入ってくることを真剣に怖れている。どんなに荷物が多くても、全部厳重にXレイを通してチェックされる。ワシももちろんチェックされたのだけど、手荷物のほうは「ああ、パソコンだろ?いいよ」と言って見られなかった。普通、パソコンの方こそ警戒するんではないのか。どうなっとるんだ、この国は。

〇そこを潜り抜けたら、今度はタクシーが長蛇の列である。タクシーに乗ったら、後部座席もシートベルトをせよ、さもなくば罰金であるぞよ、と言われる。なんとも過保護な国である。でもって、今日は連休明けなので道路が混んでいるという。あわわわわ。しかし、強運なるかんべえは、ちゃんと日豪合同会議の開会式の最中に、滑り込みでホテルに到着したのであった。

〇ということで、初めて参加する日豪合同会議に虚心坦懐に参加してみると、うううう、これって日本ニュージーランド経済人会議の春風駘蕩、ほんわかムードとはえらい違いである。豪州って、日本にとってこんなに大事な国なのね。いささか蒙を啓かれた思いがいたしました。

〇日豪合同会議、日本側の委員長会社は「鉄は国家なり」の新日鐵である。それでは鉄の原材料はと言えば、日本は鉄鉱石も原料炭も6割以上を豪州に頼っている。ということは、日本の産業の生命線を握っているのは豪州であるということになる。しかも豪州が有するのはそれだけではない。天然ガス、石油、ボーキサイト、ウラン、金鉱、はては工業用ダイヤモンドまで。あっとおどろくMining Industry(名通訳、長井鞠子さんはこの言葉を「カネヘン鉱業」と訳していた。そりゃそうだ、「鉱業」じゃ耳で聞いたときに「工業」と区別がつかないものね)の宝庫なのである。

〇オーストラリアを人呼んで「ラッキーカントリー」。欧州を追い出されたはずの人たちが、気づいてみれば自分たちは鉱山資源の宝庫の上に住んでいることに気がついた。しかも人口は2000万人と少ないので、国内需要は微々たるものである。資源を輸出すればカネは入ってくる。そしてこの国が有する資源は、石油のように「あと●十年」というものもあるけれども、それこそ「どんと来い」といえるほど埋蔵量が豊富なものが多いのである。

〇ところがよくよく聞いてみると、どんな世界でもそうですけれども、「生涯ラッキー」という立場を貫くことはけっして容易ではない。資源というものは、常に探査して開発していなければならず、そのためには常に金がかかる。資源が売れなかったら、資源は掘れない。下手をすれば、中東のように外資の奴隷にならざるを得ない。

〇豪州にとってしみじみ幸運だったことは、1950年代から日本が本格的な工業化に成功し、豪州産の資源を気前良く倍々ゲームで買い続けてくれたことであった。さもなくば、今日の鉱山のかなりの部分が開発できなかったかもしれない。「私が掘るから、あなたが買って」という日本と豪州の幸運な関係は、長期的に続いた。そういう意味では、日本もまた天然資源を頼れる友好国に恵まれたという意味で、「ラッキーカントリー」であったのだということに気づく。

〇しかし1990年代になって、日本経済は斜陽になる。豪州人は「こりゃヤバイ」と思ったはずである。そこへ神風が吹いた。中国需要である。鉄鉱石も石炭も、2004年頃からぐんぐん値上がりした。そして今や中国の粗鋼生産量は4億トンに達する勢いである。こんな風になったら、古いお客が見捨てられても文句は言いにくいところである。

〇とはいえ、そこは長年のお付き合いのありがたさ。日本は安定的な顧客であるから、やっぱり大事にしなきゃいかんと思ってくれている人も居る。ありがたいことです。こういう人たちを裏切ってはいけません。ということで、豪州の重要性を痛感した今日一日でした。


<10月17日>(火)

〇ここシドニーのSofitel Wentworth Hotel では、今日で終わったばかりの日豪合同委員会に引き続き、石炭会議というのも行なわれる。だからロビーは資源関係のジャパニーズビジネスマンで賑わっている。去年くらいまでは、まだまだ不況の影を引きずっていた日本企業も、2004年以来の資源ブームがいよいよ浸透して、ようやく豪州企業の元気さに追いついた。今年は日豪交流年でもあり、まことにめでたいということになる。

〇もっとも、万事ハッピーかと言えば、もちろんそんなことはない。ここ豪州で現在、不遇をかこっているのは「観光産業」である。日本人の豪州観光客は、1986年に14万人、1990年に48万人、1997年に81万4000人とすごい勢いで増え、その後は伸び悩みが続いている。2005年は68万5000人で、今年はさらに4%くらい下がる見通しであると言う。

〇言われてみれば、かんべえが初めて豪州に来た1996年には、「HANAKO」という雑誌(そういや、どこへ行ったんだろう?)の表紙に使われていたケン・ドーンのイラストがブームであったし、シドニー五輪の話題もあった。今はあんまり、豪州は話題にならない。なおかつ、豪州ドルが1ドル60円から90円くらいにまで上昇しているので、最近はなかなか手が出ないという面もある。でも、それって資源高で豪州経済が潤っているからにほかならず、観光産業が思わぬところで返り討ちになっているわけだ。

〇原油高によるサーチャージ(航空保険燃油特別運賃)も、客足に追い打ちをかけているらしい。今回、かんべえが買った航空券(エコノミー)は22万4500円だが、これに2万7800円のサーチャージが上乗せされる。この制度のお陰で、航空産業は航空燃料の高騰を価格転嫁できる。(結構な商売だ)。ところが旅行代理店は困る。なんとなれば修学旅行の場合など、子供たちは3年前から積立金をして豪州旅行に備えている。この料金にサーチャージを上乗せするのは心苦しいし、ときには教育委員会から怒られる。挙句の果てに、やっぱり航空運賃の高いオセアニアは止めておこう、などということになるらしい。

〇もっとも、修学旅行先としてのオセアニアは実に好条件が揃っているのである。いつも思うことですが、最初に訪れる外国はとしては豪州、ニュージーランドがホントにお薦めです。

(1)安全、治安よし。
(2)英語の勉強になる。
(3)時差ほとんどなし。(シドニーは-1時間)
(4)水道の水が飲める。
(5)日本と同じ右側通行。(クルマは左側、右ハンドル)
(6)自然が豊か。
(7)日本語ができる人が多い。
(8)食事も悪くない。
(9)人々がフレンドリー。
(10)四季がはっきりしている。

〇他方、「豪州旅行はリピーターが少ない」という耳の痛い批判もある。確かに名所旧跡が多いわけではないし、オタク的な興趣を求めるような土地柄ではない。エアーズロックも、かんべえは行ったことはないけれど、あれもグランドキャニオンと一緒で、何度も行きたくなるような場所ではないだろう。ともあれ、豪州への観光客を増やすにはどうしたらいいか、悩みはなかなか深いようである。

〇ちなみにこの統計、ちょっと面白いのでメモしておこう。少し前に見たときから、随分変動があるようだ。

●日本人の海外旅行行き先(2005年暦年)

(1)中国 339万人 (急上昇。そういえば上海馬券王先生など、しょっちゅう行き来しているぞ)
(2)韓国 224万人 (韓流ブームで一気に増加。安倍首相夫人も行っている?)
(3)ハワイ 152.2万人 (リピーター率が7割を越える観光旅行の王様)
(4)米国本土 140.6万人 (入国手続きが、もう少し緩やかになってくれれば・・・・)
(5)香港 121.1万人 (なおも百万人の大台維持はお見事)
(6)台湾 112.7万人 (台湾から日本への入国は127.4万人。何と!日台の人の流れは入超なのです)
(7)グァム 95.5万人 (3時間で行けるリゾート。健闘しています)
(8)豪州 68.5万人 (「行きたい外国」では常に人気上位なのに・・・・)
(9)シンガポール 58.8万人 (村上ファンドも御用達)
(10)タイ 53.9万人 (減りましたねえ。でもバンコクのリピーター率は驚異の80%とか。気持ちはよく分かります)

〇ところで、こんなニュースは皆さま、ご存知でしょうか。

●北朝鮮船舶の入港禁止 豪が独自制裁 2006年10月16日22時34分

 オーストラリア政府は16日、核実験実施を発表した北朝鮮に対する独自の制裁として、北朝鮮船舶の豪州への入港を禁止すると発表した。国連安保理が14日に採択した北朝鮮への制裁決議に追加して実施される。

 ダウナー外相は議会での答弁で、「入港禁止措置は豪州が国連の制裁に貢献することを明確にするものだ」と述べた。豪州は北朝鮮に出入りする貨物船に対する検査への参加も検討している。

〇イラクで自衛隊を守ってくれただけではありません。拉致問題でも、ミサイル問題でもそうでしたが、豪州政府はとっても日本に対して付き合いがいいんです。上記措置は大勢には影響ないでしょうけど、南半球にこんな国があることを知っておいてくださいね。


<10月18日>(水)

〇豪州の新聞を連日のように賑わせている言葉、それは"DROUGHT"(旱魃)だ。もともと乾燥した大陸であるこの国においては、水資源の確保が重要な課題である。それが水不足により、農家の被害をどう救済するかが政治問題になっている。10月はこれからが春本番で、20度台前半の心地よい天候が続いているのだが、土曜日には37度の暑さであったという。ちょっとした異常気象である。

〇石炭の輸出国である豪州は、アメリカと並んで京都議定書にサインしていない先進国では唯二の国である。それでも、こんな風になると、やっぱり環境問題への関心が高まってくる。世界的な資源高というのは、「このままじゃダメですよ」と市場メカニズムが人間に教えてくれているのだと思うのだが、最近になって、ようやくそのシグナルを受け止める動きが増えてきた。例えば米国経済の減速。あるいは中国における環境問題重視への移行。豪州でも、それに近い動きが始まっている。それとほぼ同時に、石油価格の下落が始まっている。2006年夏は、ひょっとすると資源高の転換点になるのかもしれない。

〇さて、今朝は午前4時半に起きて、5時にチェックアウトして空港へ。7時15分のカンタスで一路、オークランドに向かう。両替所で財布の中に残っていた100豪州ドルを渡し、「キウイに替えてくれ」と頼むと、2枚の50NZドル札と若干の小銭になった。かくしてかんべえは、好況に沸き立つ「カネ偏鉱業の国」を離れ、馴染み深い「グリーン産業の国」ニュージーランドに向かったのでありました。

〇ニュージーランドというと、よく「人間より羊のほうが多い」などといわれる。実はこの国の羊の数は、以前に比べて半減に近い状態になっている。値段の安い羊をあきらめて、付加価値の高い鹿などを飼う牧場が増えているらしい。それでも羊は今も全国で4000万頭も居る。人間の数の実に約10倍である。これだけいると、経済学の法則が見事に当てはまり、「羊一頭よりも、ウールのカーディガンの方が高い」みたいな現象が起きる。この国では人手は貴重だが、羊はいくらでもいるのである。

〇しかし、いくらなんでも1人の人間が10頭の羊の面倒を見られるのであろうか。実はこれが簡単にできちゃうんですね。今年の日本NZ経済人会議が行なわれるのは、北島にある観光地のロトルアである。オークランドからはクルマで3時間。道の両側に延々と牧場の風景が広がっていて、牛や羊はあくびが出るほど見たが、人間の姿は一人も見なかった。この牧場システムがすごい。以下、観光ガイドの方から聞いた話の受け売りです。

〇最近はニュージーランドにやって来て、「牧場をやってみたいんですが、坪あたりいくらくらいでしょうか?」などと聞く日本人がいるらしい。でも、発想が全然違うのです。まず、牧場の切り売りはやっておりません。牧場は丸ごと買わなければならない。牧場は30くらいのパドックに分かれていて、牛や羊は一つの区画の中に入れておきます。一日たって草が減ったら、別の区画に移します。こんな風にして順々にパドックを移していき、1ヵ月後には元の区画の草が伸びているという仕組み。つまり広大な牧場の中で、使っている土地はほんのわずかです。

〇牛や羊の見張りは、優秀な犬が担当します。人間は牛の乳絞りとか、羊の毛を刈るといった面倒な作業を担当します。それにしたって、牛も羊もおとなしい生きものですから、人間は2人も居れば十分であるとのこと。つまり、この国の牧畜業は恐ろしく労働生産性が高いのです。とはいえ、この国の牧場で暮らすということは、おそらくは非常に孤独な生活ということになるでしょう。

〇不思議なことに、全世界どこへ行っても農業はファミリービジネスである。逆に大組織が農業をやろうとすると、旧ソ連のコルホーズであるとか、中国における人民公社とか、盛大な失敗をするのが関の山である。ということで、第2の人生をニュージーランドで牧場経営に賭けてみるというのも、悪くはないかもしれません。もっとも牧場の値段は上昇傾向にあるようですが。

〇夕方になって到着したロトルアは、人口6万5000人。湖がとても美しい小さな街です。歓迎レセプションも終わり、さて、問題は明日の朝、ちゃんと起きられるかどうか。当地はシドニーから比べて時差3時間、東京時間に比べて4時間も早い。ということは、朝7時からの朝食会に参加するためには、朝3時以前に起きなければなりません。大丈夫でしょうか?


<10月19日>(木)

〇ニュージーランドの北島と南島は、もともと無人島であった。1000年程前に、ポリネシアの部族がカヌーに乗って移り住んだのが、マオリであったと伝えられている。だからマオリは、豪州のアボリジニ(=原住民)とは違って「先住民」と呼ぶのが正しい。

〇マオリといえば、あの戦闘的な踊りを思い出す人が多いでしょう。今日、実物を見ましたが(多分にエンタテイメントの味付けになってはおりましたが)、なかなかの迫力でありまして、ポリネシアやハワイで見られるようなのどかなダンスとはえらい違いです。おそらく、複数の部族がこの島に渡ってきて、激しい抗争を繰り返した歴史があるのでしょう。

〇祖先が一緒であるだけに、ポリネシアの言語とマオリの言葉には共通点が多い。LとRが逆転するとか、VとWが入れ替わるといった現象があるのだそうだ。彼らの故郷には丸っこく、小さな鳥がいて、Kiviと呼ばれていた。ところが、移り住んだニュージーランドにもそっくりな鳥がいた。鳥はKiwiと呼ばれるようになった。この鳥が国鳥となり、やがては国民やこの国の通貨の通り名となっていくわけである。

〇人間が住んでいなかったニュージーランドには、そもそも鳥の外敵になるようなものが存在しなかった。そんな環境に慣れていたKiwiは、いつしか丸々と太り、飛べない鳥になってしまった。ところが島に人間が住むようになり、外来種の動物が増えるようになると、彼らの環境は急速に悪化した。現在では天然記念物とはいわないまでも、「現在4万8000羽となり、なおも年率8%で減少中」という。なんでも一夫一婦制を守る鳥であって、卵も1回に1個しか生まず、しかも非常に大きいから、他の生き物に狙われやすい。生存競争には向いていないのだ。ということで、学名「ニッポニア・ニッポン」こと朱鷺よりはマシであるが、いわゆるEndangered speciesということになっている。

〇ちなみに、日本人がキウイと呼んでいる果物は、「キウイフルーツ」と呼ぶのが正しい。原産地は中国であり、この国の農民が手塩にかけて現在の形に改良した。「キウイに似ているから」この名がついたわけで、間違っても当国で「キウイが食べたい」などとは言ってはなりませぬ。かんべえは、日本に居るときはゴールデンキウイを毎朝1個ずつ食べているのだけれど、あれは日本向け輸出用であって、この国で見かけるのはグリーンのキウイばかりである。あの甘い味は、アジア向け輸出を念頭に品種改良されているのだそうだ。

〇さて、18世紀になって英国人が渡って来るようになり、マオリとどうやって共存するかが問題になる。1840年(日本でいえば天保11年)にワイタンギ条約が締結され、ここにニュージーランドの歴史が始まる。ところが、今だにこの法律の解釈が政治問題になっていたりする。とにかく、現在も人口の15%を占めるマオリが、この国の存在の根幹にある。なおかつ、数年後にはアジア系移民の人口が15%を超えると見られており、逆転現象が起こる。なんだかアメリカにおける黒人とヒスパニックの関係に近い。ともあれ、本格的な多民族国家化が近いといえそうだ。

〇とはいえ、マオリも英国人もアジア系移民も、皆さんつまるところは「旅の人たち」であった。この辺に、この国の人たちの慎ましさというか、おくゆかしさみたいなものの理由があるような気がする。なんというかニュージーランド人は、「西洋人らしくない白人」なのである。心理の原点に、「俺たち、ここに住んでいるけど、本当にいいんだろうか?」みたいな遠慮があるからではないかと思う。キウイたちは異文化に対して寛容であり、海外放浪を好み、この国を訪れる人たちに対しても変に押し付けがましいことがない。

〇今日一日を過ごしたロトルアは、この国におけるマオリ文化の中心地であるために、日本NZ経済人会議ではマオリブームが発生している。誰かが壇上に上るたびに「キオラ」(ごきげんよう)とか、「テナコト」(ようこそ)という言葉が飛び交う。挨拶はきちんと返さなければならないので、どこか一箇所で「キオラ」の声が上がると、文字通りそこら中で「キオラ」「キオラ」が広がる。「キァオラ」と聞こえるときもある。仮に「清浦さん」という人が一行に居たら、始終、「ギョッ」としなければならないだろう。


<10月20日>(金)

〇2日間にわたる会議が終了した。「水産養殖事業の将来性」とか、「日本の中古車のネット販売」など、面白い話はたくさんあるのだけれど、とりあえず一番の懸案であるところの「FTA問題」について少々。

〇日豪FTAはすでに共同研究が始まっている。だから日豪合同委員会は、「この機会を逃すな!」「日本政府は農業問題を言い訳にするな!」というムードに満ちている。一応、食品関連の会社も参加していて、それらには農水省からのキツイご指導が行き渡っているらしいのだが、なにしろ「カネヘン鉱業」の大企業が勢揃いしていて、政治的な腕力もありそうである。かくして日本側も、「目指せFTA」で意思統一ができている。

〇実際、日豪の貿易関係であれば、酪農関係などのセンシティブ品目が占める比率はかならずしも大きくはない。一部を例外品目として、何とかごまかせる可能性もある。霞ヶ関方面からは、しきりと「難しい」という声が漏れてくるのだが、それにしても可能性がゼロではないことはもちろんである。

〇ところが日NZになると、FTAの話はまだ研究段階にも達していない。そもそも日NZ間の貿易は、量がそれほど大きくないこともあり、日本側では二国間FTAを検討しようという声は小さい。それに日NZ間の主要な貿易品目は、木材、乳製品、水産物、羊毛など、センシティブな品目が半分くらいを占めている。かくして、豪州とNZの間には、はっきりとした温度差が生じている。

〇当然のことながら、NZ側としては面白くない。日本が豪州とFTAを結んで、自分たちが相手にされないとなったら、怒っても拗ねても不思議ではない。そもそも日本にとってNZは30番目くらいの貿易相手国だが、NZにとって日本は第3位の貿易相手国である。この非対称性が、日NZ関係の難しいところである。

〇しかも当国の酪農・牧畜関係者にとっての利害は切実だ。日豪FTAが成立したら、関税の安い豪州製品がNZ製品に対して競争力を持ってしまう。こんな不利な条件を飲まされるくらいなら、「日豪FTAなんてつぶれてしまえ!」と彼らが願ったとしても不思議はない。いや、そこはもちろん、「われわれともFTAを検討してくださいね」と柔らかく言ってくるのですけれども。

〇しかし日本政府の立場になってみると、仮に日豪と日NZのFTAを締結して、豪州牛とNZ牛を安く輸入するようになったとして、そのときアメリカやカナダは何というであろうか。とりあえずBSE問題でフラストレーションが溜まっているアメリカは、怒るだろうなあ。やっぱり貿易自由化はWTOでやるのがいちばんいいんだなあ、ということにあらためて思いが至る。ドーハラウンド、ほとんど死んじゃってますけど。

〇ともあれ、豪州とNZの間にある「FTAギャップ」はかなり扱いにくい状態になっている。今回の出張における最大の発見がこれであります。


<10月21日>(土)

〇オークランドに移動し、この日くらいはのんびりできるかと思ったら、結局、ホテルにこもって帰国後に押し寄せるはずの締め切りを片付ける。とりあえず月末の日中安保対話の発表、経済羅針盤の原稿、SPA!のニュースコンビニ。「論座」はもうちょっと待ってね、であります。しかし溜池通信の更新が出来ない。

〇いつも海外でのネット接続には、ダイヤルアップによる海外ローミングサービスというローテクを使っている。これで過去、アメリカ、中国、台湾からタイ、ベトナムまで、ほとんどの国で大丈夫だった。ましてニュージーランドでは2000年2002年2004年と来て更新しているので、大丈夫だろうとたかをくくっていたのだが、なぜかロトルアでもオークランドでも、電話機の差込口の形状が変わってしまっていた。そこでちゃんと部屋についているLAN回線を使うことになる。これが一筋縄では行かない。ロトルアは簡単であったが、オークランドは一仕事であった。

〇フロントにかけた電話は、すぐにサポートデスクに回され、たぶんインドかどこかに居る日本語の上手なお兄ちゃんを相手に延々1時間。結局、工事の人が部屋のモデムを替えに来たりして、2時間後くらいにインターネット開通。これでやっとメールが読めるようになったのだが、FTPソフトがダイヤルアップ専用になっているので、結局HPの更新は出来ないのである。溜池通信としては創設以来の事態なるも、水曜日から帰国の日曜日まで、5日間の停止を余儀なくされることになる。

〇夕方になってから外出。巨泉のOKギフトショップ、日本料理店「有明」、そして最後はスカイシティのカジノ。これぞオークランドにおける「黄金の三角地帯」であって、日本人出張者の典型パターンである。われながら進歩がないことが情けない。あ、そういえばカラオケの「迎賓館」に行っていない。


<10月22日>(日)

〇とりあえず日本に帰ってきたぞ、ということで久々にHPを更新する。皆さま、ご心配をおかけしました、と言いたいところながら、誰も心配なんぞしていないのがちょっと悔しい。あらためてニュージーランド編をご覧になりたい方は、10月18日に遡ってどうぞ。


<10月23日>(月)

〇補欠選挙がまとめて春秋の2回に同時に行われるようになったのは、たしか90年代の終わり頃からであったか。「統一補欠選挙」というものは、多いときには衆参あわせて7箇所くらいで行われる。が、なぜか今年の場合は、春秋あわせて全部で3つしかなかった。そして偶然なことに、春に行われた千葉7区で敗退した斎藤健、昨日行われた大阪9区で負けた大谷信盛は、ワシントン時代からのかんべえの旧友である。さらに言うと、神奈川16区で届かなかった実現男も、さる勉強会で2〜3度会ったことがある。そして勝った側の3人のことは、まったく知らない。今年の3つの補欠選挙は、全部かんべえの知っている方が負けた。

〇贔屓の引き倒しではあるが、3人とも国会に送るべき価値のある人間であるとワシは思っている。彼らの代わりに衆議院議員に選ばれた3人が、彼ら以上の人物であるかどうかは知らん。が、とりあえず今日のところは、大谷信盛が負けたのがワシは悔しい。なんであそこで共産党が候補を立てるのか。あるいは不倫騒動で足を引っ張った細野は懺悔しろ。などと、いろんなものに八つ当たりしたくなる。

〇あらためて感じるのは、補欠選挙は非常に特殊な選挙であるということ。今年のように数が少ない場合、補欠選挙は党と党が正面からぶつかり合う決戦の場となる。こういうとき、斎藤候補はこういう人です、大谷候補の主張はこうです、選挙区にはこんな問題があります、みたいな話が全部吹っ飛んでしまう。党首や幹事長や、ありとあらゆる応援団が外からやって来る。今年の春には「小泉自民党対小沢民主党」の図式になり、「オザワもちょっと新鮮じゃん」ということで民主党が勝った。そして今年の秋は「安倍新政権対小沢民主党」の図式になり、「安倍さんて意外といいかも」に、「北朝鮮の暴挙許すまじ」が加わって、自民党の2勝0敗となった。

〇要するに、統一補欠選挙が「年に2回の国民投票」みたいな位置付けになりつつある。そうすると、ますます党としては総力戦にならざるを得ないので、個々の候補者の事情などはすっ飛んでしまう。今回の選挙の場合、たとえば大阪9区で亀井静香や辻元清美を応援に呼んだのは、大谷氏の票を減らしたとしか思えない。ところが事実上の党営選挙であるから、候補者の都合や主張は顧みられない。まあ、候補者が身銭を切る機会は減るわけですが、補欠選挙だと比例復活もないわけで、非常に気の毒な立場に見えてしまう。

〇今日、電話で話したところ、大谷氏はわりに元気であった。思えば、徒手空拳で大阪9区にやって来て、最初の選挙から今年でもう10年になる。最初の失敗の後、2000年に初当選。衆院を2期務めた後、昨年の「9・11」選挙で苦杯。そこで勝った西田議員が突然、死去したときには、申し訳ないが「なんとラッキーな」と思ったものである。これではまるで、落ちているまんじゅうを拾うような戦いではないかと。しかるに選挙はつくづくおそろしい。結局、大谷氏の通算成績は2勝3敗となった。

〇大谷氏の負けパターンは、そのまんま春の千葉7区における斎藤氏の選挙に重なって見える。一度は楽勝に見えたのに、摩訶不思議な展開により僅差で敗れた。そういえば、どちらも通勤路線沿いの新興住宅街で、自民と民主の勢力が拮抗しているところも似ている。ここまで来ると、もう人智を超えた世界としか思えない。タイプも政党も違いますが、二人とも本当にいい男なんですけどねえ。


<10月24日>(火)

〇アメリカの中間選挙まであと2週間。どこをどう見ても、共和党が不利である。上下両院ともに多数派を逆転されそうな感じになってきた。この問題に関するお薦めサイトを下記しておこう。

●Real Clear Politics:いろんな世論調査が集約されている。

http://time-blog.com/real_clear_politics/ 

●Electoral Vote:各州の状況がひと目でわかる。

http://www.electoral-vote.com/ 

●Intrade --2006 Mid Term Election:博打で分かるアメリカ政治

http://www.intrade.com/jsp/intrade/contractSearch/

●The Cook Political Report:アメリカの選挙予想の大家のサイト。

http://www.cookpolitical.com/ 

●みずほ米州インサイト:安井明彦さんの分析が分かりやすい。

http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/insight.html#us-insight 

〇9月末くらいまでは、9/11五周年効果と石油価格の下落もあって共和党が盛り返していたのです。ところが10月になって流れが変わった。国内では、マーク・フォーレー元下院議員のスキャンダル(議会の使い走りの少年相手に、ワイセツメールを送っていた)が効いた。これで宗教右派があきれ返って見放した。国外では、言うまでもなくイラク情勢。10月16日には「一日に米兵11人」が死亡し、これで一気に厭戦気分が高まった。

〇アメリカにとってのイラク情勢は、1930年代の日中戦争に状況が似てきたと思う。@最初は鎧袖一触で終わると思っていたが、A図らずも長引いてしまい、B傀儡政権を作ってみたけど政情は安定せず、C途中からは戦争目的がわからなくなってしまい、D後付けで戦争目的を考案してみた(大東亜共栄圏/中東の民主化)が、とても現実的とは言い難く、E全面撤退か現状維持という2つしか方策がなくなってしまった。

〇長らく、「そうはいっても共和党は強い」という予測を続けてきた不肖かんべえとしても、なるほど城が落ちるときというのはこんなものか、というような醒めた気分で今の米国政治を眺めている。詳しくは、明日の朝日ニュースター「ニュースの深層」でお話しする予定です。


<10月25日>(水)

〇日ハムは強いですね。というか、中日が元気なさ過ぎ。でも、これで日本シリーズは3勝1敗で王手。今日だって、「ワケあり」の金村投手で勝っちゃうんだから、チームのムードは最高でしょう。逆に、テレビに映る落合監督の暗さはちょっといけません。明日は川上憲伸くんが出てくるけど、ファイターズはこの調子で一気に決められるといいですな。上海馬券王先生には申し訳ないですが、景気のいい名古屋と景気の悪い北海道の戦いですから、これはもう日本中が北海道の味方でしょう。

〇ビデオリサーチ社のこのページを見ると、札幌の視聴率が4割前後と馬鹿高いのは当然として、また名古屋の視聴率が3割前後なのも想定の範囲内として、どちらのチームにもゆかりのない関東圏で17〜18%という健闘ぶりは見事なものではないでしょうか。ウチみたいにBSで見ている世帯も加えると、かなりの数字なるはず。

〇念のために言っておきますが、かんべえは「アンチ中日」で言ってるわけじゃないですよ。そらま、阪神が中日に負けまくったのは腹立たしい限りですが、「北海道びいき」もちょっとはあるわけでありまして。このページは、ワシントン在住の北海道出身者のエッセイ集。こういうのを見てると、北海道はいいなと思います。


<10月26日>(木)

〇先週、日豪合同経済会議で、かんべえがパネリストを務めた際に、壇上でお隣に座られたのが日ハムの藤井社長でした。名刺交換をしながら、「このたびはリーグ優勝、おめでとうございます」と申し上げたら、「私たちも信じられないんです」と応じられました。失礼ながら、それはご謙遜ではないと見ました。てゆうか、みんなそうですよね。

〇ファイターズ優勝、おめでとうございます。北海道の大地は、今宵、日本一の球団を得ました。初めて日ハムが北海道に渡ったとき、誰がそんなことを予想したことでしょう。札幌ドームは今日も揺れて、新庄は大泣きしました。片想いが成就する瞬間というのはいいものですね。プロ野球はやっぱり面白いと思いました。


<10月27日>(金)

〇最近、よく人から聞かれることですが、「サンプロって、事前の打ち合わせってないんですか?」 --答え、全くありません。かんべえがどうやっているかというと、出番の前の金曜夜あたりこのページをチェックします。そうすると、当日のテーマが分かります。

●サンデープロジェクト http://www.tv-asahi.co.jp/sunpro/ 

〇いちおう、土曜の夜になると、「台本」と称する30ページほどのFAXが自宅に送られてきます。深夜か早朝にこれを読んで、質問を5〜6個考えておくようにしていますが、準備した通りになることは、そうそうあるもんじゃございません。田原総一朗さんが、正面からゲストに集中砲火を浴びせる。その切れ目を待って、斜め上の方角から「ドキッ」とさせるような一言を放り込む狙撃兵、というのがコメンテーターの役割であります。これ、難しいです。しかもときどき、こっちに矢が飛んできて自爆します。あるいは沈黙したままで1時間45分が過ぎていきます。

〇で、今、上記HPにアクセスして、明後日のゲストが誰かをチェックしたところ。なかなか楽しそうなメンツではないでしょうか。考えてみたら、今年5月にこの仕事を始めてから、今月でちょうど半年になります。さすがに慣れました、と言わなければならない頃ですね。ということで、よかったら見てやってください。


<10月28日>(土)

〇先週の豪州、ニュージーランド出張でお世話になった長井鞠子さんから、以下のメールを頂戴いたしました。すいません、溜池通信は今だにブログ化してないもので、コメント欄がありませんで。でも、あまりにおかしいので、早速ご紹介。


言いたかったのは、今回オーストラリアでこれぞストラーリアン!と言えるある
、なんて言うか、システムと言うか、しきたりというか、があったのですよ。
それを御紹介したくて。おそらくかんべえサマも夕食会のときに経験
なさったはずですけど。

私が住んでいた83〜86年にはなかったので、
M豪側会長も言っている様に、この5〜10年で「はびこった」やり方
みたいです。

このシステムとは:
ホテルとかレストランで、会食がある場合、
オードブル二種、メイン二種あったとする。
出席者にいちいちあなたは魚?肉?と聞かずにとにかくテキトーに皿を
配っちゃう!

あとはそのテーブルにいる人で、あたしは魚が苦手。オレは肉喰いてぇ〜〜!
とか融通し合って、好みのものを食べる。
題してalternate drop!!代りばんこに皿に落っことしていく?

目上の人がいたらどうする?引っ込み思案で知らない人に、
あのぉ〜〜〜スモーク鴨でなくサーモン回して頂けますか?なんて言える?
アレルギーがあったらどうする?

な〜〜んていう疑問はすべからくストラーリアン人には意味
がないのでしょうね。

あくまでイギリス紳士的M会長は『一流ホテルでこんな事が堂々とまかり通
るなんて!』
と、頭抱えてましたよ。


〇ホント、この通りなのです。かんべえが座っていたのは末端の方のテーブルだったのですが、ウェイターがメイン料理を「肉っ!」「魚っ!」と勝手に置いていくのです。当然のことながらテーブルでは、「なんだこりゃ、選べないのか」「まるで機内食みたいだな」などという声が漏れておりました。かんべえは、「んー、ラムはニュージーランドでも食べられるから、ここはサーモンでよしとするか」と妥協したのでありますが、中には日本人同士でトレードしていた人もいましたな。(今から思うと、上下関係を利用した「職圧」であったかもしれません)。

〇まあ、肉と魚はどっちもいい勝負であったから良かったのです。デザートの2種類は、あきらかに「こっちの方が良かった」と食後の評価が一致し、テーブルの中でラッキーとアンラッキーが分かれてしまいました。英国紳士でなくても、これは不満が漏れるサービスであります。

〇豪州やニュージーランドは、基本的に労働力が少ない経済なので、数百人が集まるホテルの宴席では、サーブするときの人手確保に苦労するようです。ですから、「緊急措置なんだろう」と勝手に解釈しておりました。しかし長井さんの話では、"Alternate Drop"というれっきとした名前のある、オーストラリアでは確立されたシステム(or はびこったやり方)であったとは!

〇ちなみにこのシステム、ニュージーランドでは見たことがありません。おそらくサービスを受ける側が、豪州特有の「マイトシップ」を共有していることを前提にしているのでしょう。でもねえ、国際会議の晩餐会くらいは、(少なくとも長井さんが同席されるようなメインテーブルくらいは)、注文を聞いてあげれば良いと思うのですが。

〇その一方で、「肉、魚の注文を聞かずに勝手に置いていく」というのは、いかにも豪州らしさを感じさせる、豪快なサービスであります。これぞ異文化という感じですね。分かってしまえば、腹も立たない。ちなみにかんべえは、南半球出張で腹が出てしまい、和食中心で過ごしたこの一週間でありました。


<10月29〜30日>(日〜月)

〇日中安全保障対話が始まりました。いやはや、疲れたでござるよ。

〇昨年秋、岡崎研究所ご一行様で訪中し、日中関係の厳しき折に激論を交わしてまいりましたが、今回は東京で行っております。で、今年は日中首脳会談が終わった直後ということもあり、「いやはや、良かったですね」というムードで開会するわけです。なにしろ先方は中国における日本研究者たちですから、日本に対する風当たりが強いと彼ら自身が身の置き所がない状態になってしまう。それが日中雪解けとなると、彼らも脚光を浴びる。というわけで、首脳会談は理屈抜きに結構なことなのであります。

〇が、先方は日本の現状を見ていると、だんだん不安に駆られるらしいです。なんとなれば、今の日本においては、「やっと中国もあきらめてくれたらしい」「靖国問題はもうカードにはならないからね」「これ以上の謝罪外交はもうウンザリだ」ということで、「日中首脳会談は日本側の勝利」という認識になっている。これは困る、というのですな。というか、この状態が中国国内に知れ渡ったら、中国人民の怒りに火がつくんじゃないか、とのこと。

〇中国側のストーリーとしては、「タカ派の安倍新総理が敢えて持論を曲げ、初の外遊先として中国を選んでくれた」「それはまことに結構な話である」「そういう路線変更は非難しないのが大人の態度である」「よって中日友好である」というラインで組み立てられている。したがって、新総理は靖国参拝はしないのが当然、と思っている。これで来年、安倍首相の靖国参拝があったら、その時点で問題が再燃することになる。まあ、それは最初から分かっていることなのですが。

〇こういうものは両方の面子を立てて、「双方が譲歩した結果、難局が収拾されて、首脳会談にこぎつけた」という形にしなければうまくいかないものだ。安倍首相としても、「曖昧戦略」に立っていること自体が譲歩なのであるし、胡錦濤主席も「とにかく会う」という形で妥協しているのである。外交の世界で「勝ったかった」と騒ぐのは、あんまり褒められたことではない。

〇とはいうものの、小泉さんや安倍さんがヘタレになって、「日本は謝れ」「靖国参拝に反対」路線のどっかの新聞社の言いなりになっていれば、日本外交は「負けたまけた」になっていたわけで、そうならなかったことはつくづく良かったと思う。これは大多数の国民のいつわらざる感情であっただろうし、だからこそ8月15日の参拝後に小泉首相の支持率が上昇したのではないか。つくづく大新聞を信用してはなりませぬ。

〇ということで、会議は出だしこそ友好ムードで始まったものの、午後になったら「靖国」「A級戦犯」「歴史認識」などのお決まりのコースに逆戻りとなった。こうなると互いに公式論の繰り返しである。まあ、こちらも慣れて来ており、ゲームだと割り切っているから腹も立たないけど、なかには「マジですか」と言いたくなるようなところがある。

●例1

(中)北朝鮮の核実験を受けて、日本で核武装の議論が起きていることが心配である。

(日)日本は核保有の議論を始めようとしているだけヴァーチャルな核である。それに比べて北朝鮮の核はリアルな核である。中国はどっちを警戒すべきなのか。

(中)北朝鮮の核はまだ地域の不安定要因ではない。日本は解釈が柔軟すぎるので、非核三原則もいつ変わるか分からない。

●例2

(中)日米同盟は冷戦時代の産物である。これを強化することで、日本が失うものも大きい。

(日)北が核をもって日本を脅しているときに、アメリカの核の傘を失うわけには行かない。日米同盟を失えば、日本は自主防衛で核武装するしかない。それとも中国が核の傘を貸してくれますか?

(中)日米同盟には肯定的な評価もできる。だが、中国の核心的利益である台湾問題に関与するとなると許せない。

●例3

(中)歴史認識は中日関係の基礎である。中国側の態度は一貫しているが、日本側は揺れ動いている。村山談話も風前の灯だ。首相が変わるたびに認識が変わるのでは困る。

(日)首相が変わって見解が変わることは、民主主義国ではめずらしいことではない。アメリカや韓国だって、大統領が変われば一変するではないか。なぜ日本だけが変わってはならないのか。

〇こんな風にして、ホンネがぽろりと出る瞬間を待つ。こういうゲームが明日も続く。とても面白い。疲れるけど。


<10月31日>(火)

〇今回の日中安保対話、こちら側の注目点は、北朝鮮の核実験に対して中国側がどんな見方をしているかでした。結論を先に言いますと、拍子抜けしましたな。中国側、まるでやる気なし、というのがかんべえの印象です。

〇かんべえも10月11日付けの当欄で妄言していますが、「北朝鮮の核施設を人民解放軍に解除してもらおう」てなアイデアは、すでに日曜夜の前夜祭の時点で話題になっていたそうです。このアイデアの優秀さは、米国がサージカルアタックを行うと、38度線沿いの北朝鮮側の火砲が一斉に火を噴いて、韓国側に膨大な被害が出るのだけれど、中国が北側から攻める分には、この手の被害は出ないのではないか、という点にあります。北朝鮮の国土は、結構地下資源が豊富であったりするらしいので、「これ、中国が取っていいよ」といえば、結構魅力的な提案かなと思ったわけです。

〇が、中国は自分の軍事力を使うつもりはサラサラないみたいでした。「リビア・モデルではどうか」みたいなことを言い出すんですもの。ああた、金正日がカダフィのような好々爺になって改心するとでも? ましてリビアは「核開発」の段階であって、「核保有」していたわけではないというのに。もっとも、ライス国務長官あたりも、考えているのはその程度のことでしょう。

〇ぶっちゃけ、「止めやめ、貧乏人と喧嘩すると服が汚れるざんす」てな感じでしたな。まあ、お気持ちは分かります。一人っ子政策で育った大事なご子息たちを集めた軍隊が、あんな場所で使って被害が出た日には、政権転覆まであるかもしれない。今度の核実験では、中国のメンツはとっても傷ついたわけですけど、「どうしようもない」から「どうってことない」という振りをしている。でも、ある程度のコストを支払う心の準備はできている、とお見受けしました。

〇ところがですな、話が台湾問題になると、これは中国の「核心的利益」であり、「これだけは譲れない。それ以外のことなら話してもいい」みたいなモードになってしまうのです。岡崎久彦氏は、「絶対に譲れないものがあるときは、戦争になる危険性がありますね」とサラリと言ってのける。「昔の日本もそうだったんです。後から考えると、なぜ譲れなかったのか分からないのだけど、そのときは絶対に譲れないと思うものなのですよ」と。なーんて言いつつ、手元の紙に筆ペンでサラサラと「望蜀」と書いちゃっている岡崎大使はとってもお茶目でありました。

〇中国側のホンネは、「台湾のために命を落とすのはいいけれども、朝鮮半島のために犠牲を払うのは嫌だ」ということのようです。いつも思うことですが、中国にとって台湾は「善きもの」、朝鮮半島は「悪しきもの」という風に映っているような気がします。今回の会議では「靖国問題」が少し後方に退いたので、台湾に関する中国側の強い思いが目立ったような気がしました。

〇それにしても、丸二日間にわたって討議してみると、昨年に比べればやはり前進は大きい。最後の頃に、「日中で初めて戦略を語れるようになった」という声があがっていましたが、安倍首相訪中の成果は歴然という感じですね。外から見れば、「日中が急接近している!」と見えるかもしれません。これは台湾にとっては、バッドニュースでしょう。日中接近は彼らにとっての悪夢であります。

〇で、かんべえは明日からは、今度は東京財団で「日台次世代対話」の日本側コーディネーターを務めるのであります。われながら何と節操のない・・・・。得難い機会でありますので、さて、明日と明後日、もうひと頑張りいたしましょう。







編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki