●かんべえの不規則発言



2002年4月





<4月1日>(月)

○横浜市長選、ちょっと驚きました。というのは、さる筋から頂戴したデータによると、先週の金曜日夕方時点ではこんな情勢だったんです。

Sent: Friday, March 29, 2002 7:11 PM
Subject: 横浜市長選情勢

     NHK  読売   朝日   毎日   神新
高秀   48   28    55    33    46

中田   37   22    30    19    23

○最大で23%、最小で6%の差がついていた。これが土日で逆転したことになる。これはもう永田町は激震ですね。その一方で、民主党内には「勝って当然」との声があるんだそうだ。なぜなら、「中田は選挙の天才。彼が負ける選挙に出るはずがない」からだと。93年の衆議院選挙で日本新党から出て当選し、30代にしてすでに3選。これまでにないタイプの政治家ですな。何年かのちに、国政に戻ってくると面白い存在になるかもしれない。

○選挙の天才がどんな計算をしていたのかは分かりませんが、終わってみれば千葉県知事選挙とまったく同じパターン。@いかなる政党の後押しも受けず、A公示の直前に名乗りをあげ、B個別の政策は細かく主張せず、C相乗り候補を批判して、Dボランティア選挙を展開。考えてみれば、都市部の首長選挙では、この作戦が非常に有効なんです。というより、既成政党の勝率が非常に低下している。自民党の勝率が低いのはともかく、民主党も完全に負けグセがついている。

○既成政党がいかにダメか、ということは、最近の社民党のゴタゴタが如実に示している。辻元さんに政策秘書を「指南」したのは誰か。もうあちこちの雑誌などで書かれちゃっているみたいですが、要するに下記のような次第らしい。有田さんのHPに書いてある。

朝の「サンデープロジェクト」。田原総一朗さんがふと言っていた。辻元清美さんから政策秘書の「指南役」を聞いてしまった、と。「もしかしたら土井さんの責任になって、社民党は壊滅するかもしれない」というのだ。そうだろう。その当事者とは土井たか子党首の秘書である五島昌子さん。

辻元さんが国会に参考人招致されれば、いずれ名前が出るだろう。土井党首の辞任は時間の問題だというのが永田町情報。そうなれば社民党は本当に解党の危機だ。「55年体制」がこうして去っていく。

○この調子では、無党派旋風はまだまだ続きそうだ。かんべえの個人的見解としては、これはあんまりいいことじゃない。政党は民主政治においては不可欠なインフラであって、政策を作る、候補者を発掘する、政治家を育てるといった重要な仕事の受け皿となっている。ゆえに政党が衰退することは、民主政治の衰退を意味する。だったらどうすればいいか。既成政党が自己改革をするか、まったく新しい政党を作るか、どっちかしかない。

○「新党」はゲップが出るほどたくさん見てきたが、そのほとんどは既存の政治家の離合集散に過ぎなかった。となれば、既成政党の自己改革に期待するしかない。「自民党をぶっ潰す」と1年前に言っていた小泉さん、あなたしかいないんですよ。甘いかな。


<4月2日>(火)

○4月1日をもって文芸春秋の月刊誌編集部に異動した田中さんが、HPの更新が滞っている。忙しいのか、書きにくいのか。おそらくは両方なんだろう。とにかくご本人はやる気満々なんだから。以下は先日の田中さんとの会話。

田中「一緒にネタ考えてくださいよ。じきに編集会議なんだから」
かんべえ「よし、これでいきましょう。大型新企画、『オケラ街道をゆく』」
田中「なんですか、それ」
かんべえ「武蔵野線を1周するんですよ。最初は南船橋のオートレース。次に中山競馬場。続いて松戸競輪、大宮競輪、戸田ボート場、府中競馬場、最後は南武線を下って平和島競艇。で、連戦連敗」(あらためて地図を見るとかなり怪しいが、まぁ、堅いことは言わない)。

田中(かなり呆れて)「誰がそんなことするんですか」
かんべえ「西原理恵子に決まってるじゃないですか」
田中「文春の読者はチャイバラさんは知りませんよ・・・・お、でも、浅田次郎先生ならアリかな」
かんべえ「浅田次郎だと、勝っちゃうかもしれないからつまんない。そうだ、伊集院静先生でどうよ。でもって、文芸春秋社の屋台骨が揺らぐくらいに負けちゃうの」

○この企画が通ることは絶対にあるまい。でもさ、これに中村うさぎ先生もつけたら、かなり面白い読み物になるでしょうな。『SPA!』あたりでやってみたらどうかしらん。


<4月3日>(水)

○阪神タイガース、ついに開幕4連勝!勝率10割で単独トップだぜぃ。今宵は5本のホームランが飛び出したというのだから、去年までとは様変わり。こうなりゃ早くセンバツなんて終わらせて、甲子園で戦って欲しいものです。

○ということで、今年は野球が面白くてしょうがないんですが、FIFAワールドカップに対抗しなければならない今年のプロ野球界にとって、星野阪神の快進撃は意外な救いの神になるかもしれません。とまあ、そういう身びいきはさておいて、久々に野球を見ながら、「な〜んだ、野球ってもっと面白くできるじゃないか」と感じています。以下は日本プロ野球改革試案。

●試合の開始時間を午後7時とし、午後9時半には終わるようにスピードアップを心がける。
――野球がいちばん面白いのはゲーム開始直後。その時間帯をTV中継できないのは、実にもったいない。また1試合に3時間以上もかかるのは長過ぎ。なんならストライクゾーンをもっと広げてもいい。

●1年に限って1リーグ制にして、12球団で総当たり戦をやる。そして上位6チームと下位6チームに分けて、翌年から再び2リーグ制にする。その後は毎年1チームが入れ替え。
――つまりサッカーのJ1とJ2のようにしてしまう。今の状態だと、2リーグに分けておく理由がない。

●フランチャイズをもっと全国に散らせる。日ハムファイターズが札幌に移転するのはいい兆候。
――なにしろ日本の人口移動は、どんどん少なくなっている。横浜(神奈川)、西武(埼玉)、ロッテ(千葉)などもローカル色がでてきた。野球チームはもっと地域密着型にしちゃおう。

●日本、韓国、台湾の3カ国の優勝チームが戦う、アジアリーグ杯を創設する。
――有望選手がメジャーリーグに行く、と悔やんでも仕方がない。グローバル化をもっと進めてしまおう。

○サッカーはグローバルなスポーツだから、「FIFA―日本サッカー協会―Jリーグ」という秩序がある。ところが野球はこの辺がムチャクチャで、プロ野球機構よりも巨人軍の方が歴史が古かったりする。画期的な改革は難しいのでしょうが、「このままではサッカーに負ける」という危機感をテコに、できる限りのことはやった方がいいと思う。


<4月4日>(木)

○岡崎研究所の「小川彰さん、追悼の会」へ。昨年11月11日に47歳の若さで逝去されてからもう半年。今宵は約150人が集まって故人を偲びました。岡崎久彦所長、安倍晋三官房副長官、金美齢さんなどがご挨拶。司会進行は新事務局長の阿久津博康さん。まだ慣れてはいないけど、いい味を出していましたね。

○会場には小川さんを通して知り合った方が大勢。間もなく新著を発表する長島昭久さん、意外な転職を遂げた加藤周二さん、互いにホームページをチェックしている宝珠山昇さん、共同通信の春名幹男さん、国際開発センターに移った田中浩一郎さん、沖縄から出てきた恵隆之介さん、いつも飄々としている潮匡人さん、いきなり「読んでますよ」と驚かす畠山圭一さん、そういえば結婚していた鈴木理恵子さん、いつもダンディな平間洋一先生、物静かな武貞秀士先生、話が止まらない神谷万丈先生、などなど。話し込むうちに、あっという間に名刺を切らしてしまう。

○もしも岡崎久彦氏が、外務省退官後に勤められたのが博報堂以外の会社だったら。あるいは小川さんが博報堂の違うセクションにいたら。もしもお二人が出会わなかったら。岡崎研究所というユニークなシンクタンクが、これほどまでに成功を収めることはなかったでしょう。そうだとしたら1995年からこの方の日米関係、日韓関係、日台関係までもが、いくばくかは変わっていたはずです。あらためて、必要なときに必要な人と出会えることの幸福、ということを感じました。小川さんが亡くなられたのはとても残念なことだけど、小川さんのお陰でこんなにたくさんの人と知り合えたことに感謝したいと思います。

○中東情勢、インドパキスタン情勢、北朝鮮問題などなど、いろんな話が飛び交ってました。国際情勢は多事多難。とくにパレスチナ問題は深刻。いずれ米国の介入は必至でしょうが、どういう形で、というところが注目点。


<4月5日>(金)

○昼から某紙政治部記者と密談。永田町、当面の最大の焦点は、週末に行われる京都府知事選挙。共産党以外オール相乗り候補VS共産党候補の戦いだが、先週のヨコハマ・ショックで、自公保に民主、自由、社民までもが震え上がってしまった。風が吹いたらかなわんと、辻元清美、加藤紘一両氏の参考人招致を来週に先送り。同士討ちをするのは京都が済んでから、という思惑だ。加えて、今度の戦いには「京都ド迫力御膳」さんの命運がかかっている。お膝元で失態を招くようなら、闇将軍の力もここまでということになる。ということで、選挙の結果次第で、来週以降の政治動向はまったく違うシナリオが書けてしまうのだ。

○さらにここへ来て、週刊文春と週刊新潮がツープラトン攻撃。狙われたのは田中真紀子前外相。ネタは秘書給与のピンはね疑惑。『田中眞紀子の恩讐』(上杉隆/小学館文庫)なんぞを読んでいる人にとっては、「何を今さら」であろう。それでもVote ジャパンが行っている投票、「真紀子議員にも秘書給与ピンはね疑惑!事実だったら辞職は必須? 」では、イエスの答えが圧倒的なようだ。辻元、土井、真紀子とつぶれると、女性有権者の怒りも深そう。こりゃもう、永田町はしばらく経済や外交どころではないですな。

○そこから『ルック@マーケット』へ。本日のワタクシめの役回りは「3分で分かる中東情勢」(無茶です)。現在のパレスチナ情勢は本当に深刻。それでもここまで悪化してしまうと、どんな形になるかはさておき、アメリカが出ていかざるを得ない。イスラエルがヨルダン川西岸を侵攻しているのは「火事場泥棒」そのものだが、これは今のうちに領土を広げておけば、あとで撤退を小出しにできるという計算が働いているからだろう。逆にパレスチナは世界の同情を集めるのが最大の武器。アラファトさんもイジメに遭うと元気が出てくるようだ。サディストとマゾヒストの絡み合い。なんとも面妖な構図。

○生放送終了後、『ルック@マーケット』の出演者で花見。といっても、とっくに散ってしまっているけど。そこへ明日から始まる新番組収録のために、伊藤洋一さんがスタジオに到来。「伊藤さーん、番組なんかいいから、ビール飲みましょうよ」。誘う方も誘う方だが、本当に来ちゃうからなあ。もちろんすぐに席を立ちましたが、どうせなら葉桜の下から番組を放映した方が面白かったかも。


<4月6日>(土)

○冗談みたいに聞こえるかもしれませんが、先週の横浜市長選挙では、その直前の日本サッカー対ポーランド戦で、中田選手が1ゴールを決めるなど、いい仕事をしたのが結果に絡んでいたような気がする。「さすがはナカタ」みたいな会話をした後だけに、つい選挙でも「中田宏」と書いたという人が、少なからずいたんじゃないか。接戦だったから、これは効いたと思う。もちろん証明することは不可能だけど、この手の「なんとなく」の気分が物事を左右することは意外と多い。

○その線で行くと、明日の京都府知事選で影響しそうなのが阪神タイガースの試合。とうとう今日も勝ったから開幕7連勝。これによって関西地区では、選挙に対する関心が確実に低下していると思う。天気も悪いらしいし、投票率は上がらないでしょうね。これがどう結果に影響するか。京都新聞の報道では、投票日前夜の状況を以下のように描いている。

森川明候補は昼前、JR京都駅前で共産党の佐々木憲昭衆院議員と並んで「汚れた国の政治を京都から変え、新しい政治の流れを生み出そう。府政を転換し、住民の声が届く京都府をつくる」とこぶしを振り上げた

さらに市内十一区すべてを選挙車で駆け巡り、十七カ所で街頭演説をした。運動員らは、演説と連動させてビラを配り、地域では支持者が「ラスト三日で百万本電話作戦」を展開。「森川明をお願いします」と繰り返した。午後八時、東山区・祇園石段下での締めくくりの演説会では雨の中、支持者が「今度こそ勝つぞ」と声を合わせた。

山田啓二候補は市内を走りながら、午後から行政区ごとに十三カ所で街頭演説を行った。駅前などに府議や京都市議の後援会が張り付き、メガホンを手に道行く人に「山田啓二を知事に」と訴えた。

山田候補は「相手候補に京都府政を渡すわけにはいかない。国や京都市と協調しながら、府政を改革できるのは私しかいない」とマイクを握りしめた

午後五時過ぎ、四条河原町に各区の運動員が集結。応援に駆けつけた太田房江大阪府知事らが「投票箱が閉まるまで気を緩めないで」と声を張り上げた。

○「17ヶ所」と「13ヶ所」、「佐々木憲昭衆院議員」と「太田房江大阪府知事」、「こぶしを振り上げた」と「マイクを握りしめた」。文面から察するに、森川候補の方にやや勢いがありそうですね。

○まっ、明日の夜には分かる話です。あいにく筆者もこれ以上の関心が沸かないのです。明日は阪神の8連勝がかかっているし、桜花賞もある。フルゲート18頭立てのレースで、どの新聞を見ても5頭以上の馬に二重丸がついている。こっちの方が力が入りますぜ。


<4月7日>(日)

○今日の中山競馬場は好天に恵まれ、芝生の上はお花見気分の車座があっちにもこっちにも。気持ち良くビールでも飲んでたら、勝負なんかどうでもよくなりそう。でも、そこをいつもの「紅芋アイス」いっちょで我慢するストイックな私。目指すは阪神11レースの桜花賞。毎年荒れるこのレース。今年は伏兵アローキャリーが制覇し、馬連は3万4440円という大穴馬券となった。しかるに当方、実績重視でオースミコスモから流したもんだから、じぇんじぇん当たらない。今日もノーホーラでぐやじい。

○阪神タイガースの連勝は7でストップ。これも悔しい。というよりコワイのだ。連勝のあとの連敗、というのをこれまで何回目撃したことか。これで甲子園球場に戻って、期待感にあふれる地元の大観衆を前に・・・・ああ、いや〜な予感。

○懸案の京都府知事選は、京都新聞の報道によれば午後11時ごろ大勢が判明とのこと。明日のJ−WAVE“JAM THE WORLD”では角谷さんがまた大忙しですな。このところの政局は、日曜日に何かあって、月曜日に大騒ぎということの繰り返し。及ばずながら、当方も午後8時45分頃に登場して、肩の凝らないお話しをする予定です。よかったら聞いてちょ。


<4月8日>(月)

○加藤紘一氏が辞職表明、だそうで。

○しみじみ月曜日にならないと決断が下せない人のようですね。(金曜日の方がいい、という話をたしか、先々週号で書いたと思う)。どうも日曜日の京都府知事選挙で、共産党候補が勝てば与野党ともに大騒ぎになるだろうし、コワイ野中さんも「死に体」になっちゃうだろう、ということを祈って、日曜日が終わるのを待ってたんじゃないかと思う。お気持ちは分かりますが、男らしくはないですな。

○かんべえは地方出身者(富山県)なので、田舎の人の気持ちがよく分かります。地方の人は、「おらが代議士」が悪い事をしても、大概の事は許してくれます。とくに中央のお金を分捕ってきて、地方でばら撒いたなどという場合には、それがたとえ法に触れることであっても、「郷里のためにやってくれたことだ」と思えば、少なくとも心の底では許してくれます。ましてそれでいい目をみた人が近くにいる場合には、とても悪し様に言えたものではない。そういう意味では、地元の人が鈴木宗男さんをかばうことには、個人的にはまったく違和感がありません。

○ところが加藤紘一さんがやったことは、地元のお金を吸い上げて、それも脅迫まがいのやり方も使って、そのお金を東京へ持っていった挙句、秘書が脱税して私服を肥やしたり、加藤さん本人の生活費に当ててしまっていた。これはとても許せるものではない。単なる「秘書の監督不行き届き」ではありません。小さい頃から東京で育った加藤氏に、郷里・山形の人々の気持ちが通じているのかどうか。

○故郷というのはありがたいもので、そんなヒドイことをしていても、加藤紘一さんがいつの日か総理大臣になることがあれば、それでさえ許してくれるかもしれません。しかしさすがにその目はもうありませんな。地方出身者の一人として、「裏切られた!」という山形県民の気持ちが分かるような気がしています。


<4月9日>(火)

○多くの人を怒らせている、みずほ銀行のシステム障害。あれは最初から分かっていた話なのですな。以下は3月28日時点の報道から。

http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf?CID=onair/biztech/gen/177041

●みずほ銀、システム未統合のまま見切り発進へ

 第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行は2002年4月1日に合併するが、コンピュータシステムが一部未統合のまま、みずほ銀行が見切り発進する。富士銀行関係者が明らかにした。

 少なくとも、口座振替業務のコンピュータシステムが3銀行間で統合できていない。つまり、銀行振替口座に3銀行の互換性がない。従来から口座振り替えできた銀行口座からは引き落としできても、他の2銀行からは4月1日以降も口座引き落としできない。コンピュータシステムが完全に統合される目途は「まったくたっていない」(富士銀行関係者)と明かす。4月1日に間に合わせることが絶望的であることは「3月25日の週になって判明した」(同)という。

 なお、この件は、3月25日に起きた第一勧銀のATMのトラブルとは「無関係」(同)としている。(篠原 司=IP開発部)

○早い話が人災だったわけです。それにしても、3月25日時点で間に合わないと分かっていたなら、あらかじめ「うちのシステムは危ないですよ!」と宣言しておくべきじゃないか。たしかにカッコ悪いけど、「年度末が思ったよりたて込みまして、皆さんお気をつけください」とでも言っておけば、少なくとも事後に賠償訴訟を受けるリスクは格段に減るはず。

○おそらくは顧客が受ける迷惑よりも、自分たちの体面の方が大切だったのだろう。しかしそれで信用を落として自爆されたら、顧客も預金者も株主も困るんですけど。ま、監督官庁である金融庁も、自分の体面を守るために「公的資金は必要ない」と言い続けているのですから、皆さん似たもの同士というか。困ったもんです。


<4月10日>(水)

○いやあ、昨日書いた内容への反響が大きい。というより、今回のみずほのシステム障害には、多くの人が怒ったり、呆れたり、嘆いたりしている。いろんな形で寄せられた話の一端をご紹介しちゃいます。

「3行のシステムはDKBは富士通、富士銀行はIBM、興銀は日立だった。これらの会社の協力なしに、行内のシステム部隊が統合を担当したのが、間違いの始まり」
「最初からDKBと富士、どっちを取るかという問題だった。システムとしては富士の方が進んでいたのに、預金者の数からDKBを選んだ」
「ところが後から富士が押し返して、『最初の1年はDKB・富士のシステムを共存させ、1年後にDKBシステムに統合する』という中途半端な結論にしてしまった」
「間に入った興銀も、ATMのことなんて知らないのだからしょうがない」

「そもそもなんで4月1日にこだわったのか分からない。『銀行は統合するけど、システムは後日統合します』といえば、それで済んだものを」
「そりゃそうだ。預金者はちっとも困らない」
「みずほの行員の口座からも二重引き落としをするようじゃ、洒落にならない」
「3行は、『一日中打ち合わせをしても何もきまらない』を延々とやっていたらしい」
「それぞれ合併の破綻を夢見てたんじゃないか?」
「UFJの統合は、昨年12月には余裕の追い込みだった。2行の統合は、それぞれの部署で強い方が主導権を取るから話が早い。ところが3行になると、2位、3位連合ができたりするから難しい」

「一方で、ノーミスというのは一種の異常値だ。銀行も間違うという認識が広がることは、一概に悪い話ではないかもしれない」
「とはいえ決済システムを守れないのでは話にならない。自動車メーカーに製造物責任があるように、銀行には社会インフラを守る責任がある」
「そうそう、他人の決済ができるのは銀行だけ。だから免許業になっている。公的資金を入れたときの理由にもなっているはず」

○今回のトラブルは、広い意味での「統合コスト」ということになるのでしょう。「みずほ」はイコール日本経済みたいな金融機関です。私だって口座も株も持っている。頑張ってほしいです。

○さて、当HPの古いファンはご記憶かもしれませんが、1年前の不規則発言で「自民党食堂」という馬鹿話を書きました。その続編が今宵の夕刊フジに載っているんです。詳しくはここをご覧ください。それにしてもお見事なセンス。渡辺先生に脱帽です。


<4月11日>(木)

○「最近は物価が下がりましたねえ」という話がよく出る。先日は台湾から来た人に、「日本の物価はどう思いますか」と聞いたら、リーズナブルな水準だと言っていた。アメリカを旅行すると、「これは安いから買いたい、という商品がほとんどなくなった」という話も聞いた。デフレさまさまということでしょう。

○たまたま今日のお昼、脱サラした友人2人が訪ねてきてくれたので、お台場で人気のSという店に行きました。気がついたら、さりげなくデザートのメニューを簡略化してありました。これでは実質値上げではないか。それから気になっているのは、先日まで100円で売っていた「たらみ」のゼリーが商品棚から消え、代わりに150円の新商品がでていること。さすがに5割も上がると買いませんけどね。この手の値上げが、ちょっとずつ見られるようになってきたのかも。

○卸売物価、消費者物価はたしかにマイナスゾーンである。これが2000年くらいからずっと続いている。その一方、マネーサプライは、もう丸2年も増え続けている。そろそろデフレが止まっても不思議ではない。しばらく、モノの値段にもっと注意してみることにしましょう。


<4月12日>(金)

○またまたこんなネタを頂戴しましたよ。ワシントン直輸入。

TO BE A GOOD LIBERAL

1. You have to believe the AIDS virus is spread by a lack of federal funding.

2. You have to believe that the same teacher who can't teach 4th graders how to read is somehow qualified to teach them about sex.

3. You have to believe that guns in the hands of law-abiding Americans are more of a threat than U.S. nuclear weapons technology in the hands of Chinese communists.

4. You have to believe that there was no art before Federal funding.

5. You have to believe that global temperatures are less affected by cyclical, documented changes in the earth's climate, and more affected by yuppies driving SUVs.

6. You have to believe that gender roles are artificial but being homosexual is natural.

7. You have to be against capital punishment but support abortion on demand.

8. You have to believe that businesses create oppression and governments create prosperity.

9. You have to believe that hunters don't care about nature, but loony activists who've never been outside of Seattle do.

10. You have to believe that self-esteem is more important than actually doing something to earn it.

11. You have to believe the military, not corrupt politicians, start wars.

12. You have to believe the NRA is bad, because it supports certain parts of the Constitution, while the ACLU is good, because it supports certain parts of the Constitution.

13. You have to believe that taxes are too low, but ATM fees are too high.

14. You have to believe that Margaret Sanger and Gloria Steinem are more important to American history than Thomas Jefferson, General Robert E. Lee or Thomas Edison.

15. You have to believe that standardized tests are racist, but racial quotas and set-asides aren't.

16. You have to believe Hillary Clinton is really a lady.

17. You have to believe that the only reason socialism hasn't worked anywhere it's been tried, is because the right people haven't been in charge.

18. You have to believe conservatives telling the truth belong in jail, but a liar and sex offender belongs in the White House.

19. You have to believe that parades displaying drag, transvestites and bestiality should be constitutionally protected and manger scenes at Christmas should be illegal.

20. You have to believe that illegal Democratic party funding by the Chinese is somehow in the best interest of the United States.

21. You have to believe that this letter is part of a vast right wing conspiracy.

○アメリカにおける保守とリベラルの概念の対立は、慣れないとなかなか理解できません。上記は保守がリベラルを嘲笑していて、税制や銃規制から人口中絶、環境問題など、ほとんどすべてのポイントを押さえているので、アメリカ政治を理解する格好の教材かもしれません。あなたは全部分かりましたか?


<4月13日>(土)

○お昼に富山から送ってきた「鱒の寿し」を食べました。うまいっす。単純な味なのに飽きない。私なんぞ、ほかに何もなくても、これだけで幸せな気分になれる。思えば子供の頃から、通算で何個食べたことだろう。

○「富山の鱒の寿し」は、知ってる人が多いと思うけど、横川の釜飯や北海道のいかめしと並ぶ駅弁の名門である。この手の名物は好き嫌いがつきものだが、鱒の寿しは不思議と万人に受けるらしく、「私はあれだけはどうも・・・」という人を見たことがない。

○今日、あらためて「能書き」を読んでみたら、この鱒の寿し、享保2年に料理好きの前田藩士が作ったものだという。藩主が気に入って将軍、徳川吉宗に献上し、激賞されて以後、名物となったとある。ありがちな話なので真偽の程は怪しいが、とにかく誕生が古くて、製法はほとんど変わらないままで今日に至っているらしい。

○全国的には「M」というブランドのものが有名で、百貨店の駅弁大会などで売っているのはほとんどが「M」である。しかし地元にはかなりの数の「鱒寿し屋」があって、店の流行り廃りがあったり、家ごとにひいきがあったりする。ということで、全国に普及しているMブランドは、地元の人間は「あれは県外の人が食べるもの」と思っていたりする。

○富山では、誰かの家に遊びに行くときに、鱒の寿しを手土産にすることが多い。だから駅弁という意識は薄い。思えば電車の中で鱒の寿しを買ったことはほとんどない。旅行のときは、なるべくよその土地のものを買いますからね。その昔は予算編成の時期になると、大蔵省主計局には大量の鱒の寿しが出まわったのだそうだ。大蔵省接待疑惑がやかましくなって、鱒寿し屋が打撃を受けたというニュースを聞いたことがある。

○ちなみに今日食べたものは「高芳」という店のもの。「地方発送承ります」とあるので、電話番号を書いておきましょう。076-441-2724。別に宣伝じゃないですよ。ここに書いておけば、あとで自分が探すときに便利だからなんです。


<4月14日>(日)

○先週の桜花賞、アローキャリーなどという伏兵にしてやられたと書いたら、読者から届いたキツ〜イご指摘。「黒に黄色の勝負服、阪神ファンなら取れたはず」。ぎゃあ〜、それは気がつかなかった。私としたことが。それで今日の皐月賞の作戦は自動的に決まった。Hタイガーカフェ、これ一点。一部のスポーツ紙が冷やかし半分に、「強い阪神にあやかってタイガーカフェ」などと書いていたが、実際、調教の調子もいいらしい。加えてオーガスタでは、タイガー・ウッズが鋭いショットを見せているではないか。こりゃもう、タイガーに賭けるしかない。

○それはさておき、今日の皐月賞は強い馬が揃っている。Jタニノギムレット、Kモノポライザー、Iローマンエンパイア、Qチアズシュタルク、それにGアドマイヤドン。G1クラシックはかくあれかし、という見本のようなフルゲート18頭立て。かんべえは今年、京成杯と弥生賞でIローマンエンパイアの鋭い差し足を見ているので、何もなければここから行くところだけれど、強い意志でHの単勝と複勝、それに馬連を薄めに8点流す。

結果は、あっと驚くAノーリーズン。強い馬を尻目にぶっち切り、単勝11,590円というお化け馬券の誕生である。やれやれとんでもないものを見てしまったぜ、と思ったら、続いてなだれ込んだ3頭のうち、2着となったのがHタイガーカフェであった。おっ複勝が取れた、と思うより早く、馬連がAノーリーズンまで届いていなかったことに気づいて愕然。だってA―Hは53,090円ですぜ。200円で10万円!「タイヤキのしっぽはマーケットにくれてやる」と言った人がいたが、これではタイヤキのしっぽの先だけかじったようなものである。ああ、悔しい!

○今日の馬連A―Hを取った人は、高い確率でかんべえと同じ思考経路をたどった阪神ファンでしょうね。つまり、「ノーリーズンでタイガーカフェ」。・・・・って、こんなこと考えてる私は大馬鹿者でしょうか。わが阪神タイガースは、今日は矢野捕手を怪我で欠いても横浜相手に1−0で勝利。本当に強いです。


<4月15日>(月)

○ふふふ、狙い通り、というのは、この前の溜池通信、「中国経済への素朴な疑問」に反応して、通貨のプロである「Just for the Record」さんが中国の国際収支統計を調べてくれたのです。英語版がなかったそうで、ご苦労があったことと思います。成果は以下の通り。

http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/5466/chinabalance2.htm 

○案の定、中国の1998〜2000年の統計には不審な点がある、という結論になった。たまたま、本日は日本貿易会の「中国ビジネスと商社」研究会の第1回会合があり、そこでこの話を持ち出してみた。すると主査を務める関志雄さんがニッコリ笑って、「私は外貨準備の増加額だけしか信じません」とのこと。そもそも中国経済は、あれだけ高度成長しているのに、一人あたりGDPが増えてない(今でも1000ドル以下)、というのは変だと思いませんか?と言う。でも中国の生活水準が向上していることは間違いない。どういうことなのか。謎は尽きません。

○香港生まれの関さんの中国経済への見方は非常に奥行きがあって、説得力があります。経済産業研究所のホームページに寄稿されている文章をご紹介しておきます。わが意を得たり、の感あり。とくに中国脅威論者にお勧めしたい。

http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/020412ssqs.htm 

○夜、久々に円より子参議院議員の研究会へ。このたび、日経のアナリストランキング第1位になった北野一さんが講師。今日の話のキモは、「デフレはもう終わったのではないか」。かんべえ、同じことを考えていたのだけれど、北野さんのように説得力のある議論ができないので、歯がゆい思いをしていたところ。ここでもわが意を得たり、の収穫。

○終わってから参議院宿舎を出ると、目の前にそびえているのは文芸春秋社のビル。ついつい田中さんに電話してみた。案の定、残業途中のところで、15分後に赤坂で合流。「いやあ、HP復活してよかったね。やっぱりADSLはリスクが高いよね」みたいな話をひとくさり。そうそう、四酔人の岡本呻也氏は、間もなくとんでもない馬鹿なことをやらかします。詳しくは4月17日、水曜日の毎日新聞朝刊をご参照あれ。

○田中氏、「また次の号の企画がありますからね。ちゃんとアイデア出してくださいよ。この間みたいに、ネタをHPでばらしちゃダメですよ」とおっしゃる。弱った。今宵は奢られてしまったから、逆らうわけにはいかないのである。まあ、天下の文芸春秋社、走狗となってももって瞑すべし。

○明日は仕事で出張しますので、更新をお休みします。あしからず。


<4月16〜17日>(火〜水)

○昨日は関係会社が企画した業界内の会合で、講演会の講師役を務めました。日本経済について1時間少々話して、伊香保温泉泊。いいなあ、こういう出張。こたえられません。

○のんびり朝風呂に浸かり、さて飯でも、と思ったら、福一旅館が部屋に届けてくれるのは偶然にも毎日新聞でした。ということで、岡本呻也氏の「出版社求む」広告を確認しました。そう、岡本さんは自分の出版企画を取り上げてくれる相手を求め、自腹を切って新聞広告という形で世に問うたのです。伊香保ではワタシのPHSは通じなかったので、渋川の駅から岡本さんに電話を入れました。

「ちゃんと群馬県でも掲載されてるよ」
「よかったっす。まだ自分では見てないんです」
「駄目じゃん。ちゃんとコンビニかキオスクに買いに行かなくちゃ」
「あとで新聞社が大量にくれるからいいっす」

と、あいかわらず横着を決め込んでいる様子なので、かんべえ、ついつい「岡本イジメ」を始めてしまう。

「まあ、これでHPのアクセスが伸びなかったら、毎日新聞は詐欺だね」
「いえ、もう朝から100件は来てます。さすがです」
「そうかあ、パブリシティとしては成功だね」
「やっぱりサイトをやってて良かったっす」

「でもさ、クルマ1台買えるお金を広告につぎ込んだんでしょ。印税では回収できないから、ビジネスモデルとしては破綻しているね」
「そんなことないっす。新聞社も、出版社も、私も、ベストな選択になってますよ。反応は多いっす」
「だって、岡本さんの意見を知りたかったら、サイトを見ればいいんでしょ。なんでわざわざ本にするの」
「う〜ん、それもそうですけど・・・・」

○毎日サイトを運営していても、やっぱり本というスタイルにこだわりたい、という岡本さんの気持ちはなんとなく分かる。聞けば、出版界やフリーライターの間の反響が大きいらしい。モノ書きにこんなことを言われてしまうのは、出版界が沈滞しているからではないか。あるいは、文句を言ってるだけじゃ駄目だ、こんな形のアピールもあるんだ。などなど。とにかく画期的な冒険であることには変わりはないようです。

○とまあ、心意気は多いに買うのですけど、本当に面白い本になるのかな、というところがチョット心配なのである。これは伊藤さんも言ってることなんですが、かんべえは「新日本人」のコンセプトにはあんまり感心しない。というか、「その話なら、もう分かってるからいいよ」と思う。岡本さんのサイトが立ちあがったときに、かんべえが寄稿した文章がここに残っている。

出版の力はテレビの10分の1。ノンフィクションの力はフィクションの10分の1。「日本の組織をこう変えよう」という本を書いて、どんなに評判になってもいいとこ10万部でしょう。それじゃあ、書いた側の自己満足で終りまっせ。HPとしたってそんなにアクセス件数は増えないよ。怒りをこめたペンの力だけで、たいしたことはできないのだ。

○とまあ、ついつい岡本イジメを続けたくなるのだけど、それを言っちゃおしめえよ、といわれそうなのでこの辺で止めておく。

○今回のチャレンジで、岡本さんが舞台裏を説明しているFAQが妙に面白い。どんな本ができるかはさておき、これだけは本当に一読の価値があると思う。皆さんに知ってもらいたい。岡本呻也って、こんな馬鹿をやる、ムチャクチャ面白い男なんです。


<4月18日>(木)

○現在、この溜池通信では、ニフティ・メンバーズページの旧ドメインとtameike.netの新ドメインに同じコンテンツを並走させています。これは結構、手間な作業でして、まずCドライブに作ったコンテンツをFFFTPでtameike.netにアップし、次にDドライブに入れたコピーをMatu FTPを使ってニフティにアップする。もっといい方法があるのかもしれないけど、自分が確実に分かる方法を使っています。

○ニフティの旧ドメインは、適当なところで打ち切ればいいようなものですが、新しい方のホスティング・サービスに不都合が発生しても困るので、しばらくは両方続けるつもりです。危機管理のために、リダンダンシーを用意しておこうという心がけですな。気になるのは、読者の側から見て、新ドメインに問題がないかということ。つながらないとか、重いとか、問題があったらぜひ教えてください。

○これまでのところ、新ドメインに文句はありません。アクセスログの解析もしてくれるので、見ていてなかなか楽しい。「お、これはXXさんだな」とか、「へえ、XX大学で読んでる人がいるのか」などと一人でニヤニヤしています。データが蓄積されてくると、いろいろ参考になることが出てくると思います。たとえばいちばんアクセスが多い時間帯は、午前8時から10時ごろまで。朝の職場でこのHPを確認している人が多いということでしょう。曜日による変化や、どこが読まれているか、ということも興味が尽きません。

○それにしても3年近くHPを運営していて、初めての引越しです。自慢じゃないが、ワタシは技術的なことはまるで自信がないので、運営へのご助言をいただければ幸いです。


<4月19日>(金)

○朝から経団連で米国のエコノミスト、アレン・サイナイ氏の講演会へ。示唆に富む点多し。ハイテク不況が"Defence Electronics"の需要に救われている、という指摘がありました。現代兵器は半導体の塊みたいなものですから、アフガンで在庫を減らすとさっそく追加生産が必要になる。IT産業復活のためには、軍需が盛り上がっている間に民需が持ち直すことが必要でしょう。米国経済の回復が力強いものになるかどうかは、そこにかかっているという気がしますね。

○大手町に来るのはなんだか久しぶり。旧富士銀行と旧興銀のビルの両方に「みずほ」の看板が出ている。今この瞬間も、寝ないで仕事している人が大勢いるのかも。みずほのシステム麻痺は深刻で、最近は「オペレーショナル・リスク」という呼ばれ方をしている。でも、「人災」という表現の方がぴったりするんじゃないか。らくちんさんいわく、「人災とは人事の災害」。"Wrong person in the wrong post at the wrong time."が事故を起こす。

○最近の話題のもうひとつの焦点、「機密費リスト」をなぜか大手町でゲット。内容については、すでに週刊文春などで報道されている通りですが、コクヨのノートに無造作に書き込まれている数字が生々しい。全体を一人の筆跡で書かれている。おそらく官房長官の政務秘書官あたりが、「私はネコババしてませんよ」ということを立証するために、せっせと記入していたのでしょう。収入と支出の数字が全然合ってないところがご愛嬌。

○複数の読者の方から、今日の人民日報に「罰当たりどもめ、中国の統計データを疑うべきではない」という記事が出てますよ、というお知らせを頂戴しました。ありがとうございます。ひょっとして中国政府は、わが溜池通信もチェックされたのでしょうか。これでは好ましからぬ要注意人物となり、永久にメインランドチャイナには足を踏み入れられない人間になりそうです。

http://j.people.ne.jp/2002/04/19/jp20020419_16361.html 

○そうそう、中国の国際収支統計を検証していただいたJust For the Recordさんは、最近、「アジア通貨危機を振り返る」というネット上座談会を展開されています。これがムチャクチャ面白い。勉強になります。


<4月20日>(土)

○おととい流れていたニュースです。

●邦人カップル、ヨルダン川西岸で“救出”騒ぎ<http://www.yomiuri.co.jp/00/20020418i104.htm

 【エルサレム18日=久保健一】当地の報道によると、ヨルダン川西岸ベツレヘムで17日、日本人旅行者の若者カップルが、イスラエル軍による侵攻作戦の最中と知らずにキリスト教聖地「聖誕教会」を探し回り、取材中の報道陣に“救出”される騒ぎがあった。

 2人は、タクシーでたどり着いたベツレヘムの入り口検問所から、徒歩で市中心部の教会を目指したが、ガイドブックを読むのに夢中になっていたため、外出禁止令で無人になった街の異変には、全く気づかなかったという。

 そこに、防弾チョッキにヘルメット姿の装備で撮影中の報道カメラマンの集団が通りかかり、2人を発見、カメラマンの1人が銃弾で穴だらけのビルを指さすと、2人は教会行きを中止した。2人は6か月間の旅行中で、その間テレビ、新聞のニュースは知らず、自治区で何が起きているか分からない状況だった。戦場に突然現れた観光客に、パレスチナ住民も困惑を隠さなかったという。(4月18日12:41)

○年間1600万人も海外に出かけるようになると、こういう人たちも出てくるのですな。おそらく上記の「ガイドブック」というのは、『地球の歩き方』でしょう。

○世界中、どこへ行っても日本人がいる時代です。以前、中東問題のシンポジウムで、「日本人のイラクへの入国を早く認めろ」と食ってかかっている考古学者を見たことがあります。対応している外務省の人が、「このオッサン、またか」という表情だったのが印象的でした。中東に関心を持つのに、いろんな理由があるのは分かりますけど、世界の常識とあんまりかけ離れるのは困りものです。

○その昔、テルアビブ乱射事件というのがあって、日本人も立派なテロリストを輩出した時代がありました。当時はパレスチナ同情論が強かったはずなのに、最近ではこんな「トンデモ旅行客」が出てしまう。パレスチナ人にとってはちょっとショッキングだったんじゃないでしょうか。


<4月21日>(日)

○今日は町内会の年次総会。出かけてみたところ、今期の防犯部長にされてしまっていた。以前の防犯部長さんが、「俺はもう年だから、次は頼むよ」というのを、適当に聞き流していたが、本当になってしまうとは。これでは「火の用心」から永遠に開放されそうにない。やれやれ。

○あらためて聞いてみると、町内会の決算報告が面白い。繰越金として定期預金が227万円、普通預金が40万円ほどあって、ペイオフ解禁を心配しなくても大丈夫なくらいのささやかな規模である。約150戸から町会費を42万円くらい集めて、これに若干の補助金が主な収入となる。使い道はそれほど多くはない。春と秋には町内の掃除をやって、夏にはお祭りをやって、冬には「火の用心」をやって、忘年会や新年会や懇親会をやる。そんなにお金はかからない。

○この中に「雑収入(母体団体還元額及び利子)」という項目がある。6万5000円くらいだから、予算規模から考えると小さくない。これって何よ、という質問が飛ぶ。会計の人が答えられず、会場から「ああ、あれはですね・・・」という声が飛ぶ。なんと郵便局の簡易保険が、契約者の多い町内会に対し、毎年徴収したお金の一部を払い戻してくれる制度があるんだそうだ。使い道は何でもいいのだという。なんと寛大な。やはり郵便局というのは恐ろしい組織である。

○さて、本日は小泉さんが電撃的に靖国神社を参拝しました。今日は春季例大祭だった、と聞いてなるほどと納得しました。靖国神社の年中行事には、「8・15」は何の予定もないのです。靖国神社は「外国との戦争で日本の国を守るために、斃れた人達を祀ることになった神社」なのだから、太平洋戦争だけにこだわる理由はない。むしろ神社の側からすれば、首相が参拝してくれるとしたら、春と秋の例大祭の方がふさわしいといえる。

○去年の8月、この不規則発言で靖国神社問題を延々と取り上げました。溜池通信の臨時増刊号(2001年8月13日)も出しました。その最後の部分で、筆者はこんなことを書いています。

 考えてみたら、靖国神社=大東亜戦争、ではないのです。おそらく50年後には、(この間に大きな戦争がありませんように!)、今とは相当に違う認識になっているでしょう。明治維新によって日本は近代国家となり、その後はさまざまな戦争によって「お国のために」命を捧げる人々が出るようになりました。平和になった今日といえども、自衛隊の訓練活動やPKOなどで殉職される人はいるだろう。そういう人々を祭るのが靖国神社の役割だと考えれば、8月15日にこだわるのも妙な話であり、首相が参拝するとしたらむしろ春秋の例大祭のようなときの方が自然ではないかと思います。

○靖国参拝が政教分離の原則に反するという議論は、たぶんに形式的な議論であって、「だったら教会にも行っちゃいかんのか」てな話になる。反対する人の多くは、国家神道への違和感やA級戦犯の合祀を問題にしているので、その点をクリアするには終戦記念日と切り離せばいい。もっとも、8月15日に首相が日本武道館で行われる全国戦没者慰霊式に出席した後、道路一本隔てた靖国神社には参拝しない、という不自然さは残りますが。

○惜しむらくは、今回の小泉さんの参拝はあまりに唐突で、ご都合主義的に見えてしまうことです。それでも、直前に野中&古賀コンビが訪中していたことを考えれば、事前に日中間で申し合わせが行われたのでしょう。野中さんは中国がもっとも重視している政治家、古賀さんは日本遺族会会長です。日中国交回復30周年に、日中間のトゲが取れるのは、中国にとっても悪い話ではないはず。あんまり大騒ぎしない方がいい話題かな、と考えています。


<4月22日>(月)

○今日のお昼は中東問題に関する研究会に出席しました。せっかくの機会だったので、長年の疑問をぶつけてみました。すなわち、「パレスチナ人というのは、どう定義すればいいのですか?」

○案の定、「それは結構、難しい問題なんです」だそうだ。聖書には地中海民族のペリシテ人というのが出てくるので、公式にはそれが祖先だということになっている。しかし、現在のパレスチナ人は、7世紀頃にやってきたアラブ人の子孫と見られている。爾来、パレスチナ国家というものはついぞできなかった。この辺は、プトレマイオス朝エジプトとか、セレウコス朝シリアとか、ちゃんとしたご先祖様を持つ近隣国と違う点である。つまり、歴史上に民族的なアイデンティティを求めることができないのである。

○第一次世界大戦前には、パレスチナ地域は英国の委任統治下にあり、アラブ人とユダヤ人が共存していた。オスマントルコの勢力は退潮しつつあり、本来ならば彼らにも独立のチャンスがあった。しかし英国の二枚舌外交が話を複雑にする。第二次世界大戦後はイスラエルが建国され、アラブ人は追い払われた。「うべかりし独立」を失い、迫害を受け、難民となったことで、彼らには「パレスチナ人」という強烈な自覚ができたわけである。

○英国の二枚舌外交、というのは「フセイン・マクマホン書簡」と「バルフォア宣言」という形で明確に残っている。世界史の教科書に出ていたこの2つの文書、実物は以下のとおりです。かんべえも初めて見ました。意外と短くて、あっさりしたものですな。

●フセイン・マクマホン書簡(1915年10月24日) http://www.meij.or.jp/text/PeaceProcess/husayn.htm 

●バルフォア宣言(1917年11月2日) http://www.meij.or.jp/text/PeaceProcess/balfour.htm 

○前者は実に狡猾な感じのする文書である。私には英国政府のお墨付きがあります。この地域におけるアラブ人の独立を承認し、支援してあげましょう。聖地も保証してあげます。政府を作られるのも大いに結構。その代わり、わが大英帝国だけを信じて、ほかの国の言うことなどは聞いちゃ駄目ですよ。天下の大英帝国、悪いようにはしませんからね、という甘言である。

○でもって、後者はまことに卑屈な文面となっている。シオニズムはまことに結構なことでございます。わが国政府はこれを支援いたします、という短い文書である。おそらくロスチャイルド財閥から、「こういう文面で手紙を書け。さすれば、力になってやろう」とか言われて、仕方なしに書いたんじゃないだろうか。

○前者と後者の間には2年のタイムラグがある。この間、欧州大陸は第一次世界大戦のさなかにあった。被害はどんどん拡大し、英国政府はとにかく戦争に勝つためなら何でもあり、という心理状況になっていたんだと思う。そこでアラブ人に対する約束を破り、ユダヤ人に媚を売った。これがパレスチナ問題の発端である。ケシカランと言えば本当に英国はケシカラン。でも、そこは帝国主義まっさかりの時代の出来事ゆえ、あんまり責めても意味はないような気がする。

○かんべえは世界史の授業が好きだったんですが、あの頃はとにかく「マクマホン」と「バルフォア」を覚えりゃOK、というのが高校時代の勉強法でした。この年になって現物を見ると、なんとも感慨深いものがあります。こういっちゃ何ですが、とにかく面白い。国際政治の厳しさみたいなものを骨身に染みて感じさせてくれる両文書です。

○さて、この機会に、わが国における中東に関する3つの研究所のサイトをご紹介しておきましょう。上記2文書は中東調査会のサイトで発見しました。

●中東経済研究所 http://www.jime.or.jp/ 

●中東調査会 http://www.meij.or.jp/ 

●中東協力センター http://www.jccme.or.jp/japanese/ 

○財政的にはどれも苦戦しているらしく、なんで3つに分かれているのか理解に苦しむのですが、たしかそれぞれ経企庁と外務省と通産省の外郭団体になっていて、典型的な縦割りになっているからだと聞いたことがある。日本らしい話ですな。


<4月23日>(火)

○不確かなことを書くと、さっそくご指摘を頂戴いたしまする。レベルの高い読者はありがたし。まずは中東に詳しい大礒正美先生から。パレスチナ人の定義について。

多少混乱があると思います。
パレスチナ民族評議会(PNC)のいわば憲法に当たるものでは、「分割当時にパレスチナに住んでいた住民、及びそれらを父とする者」というような定義があるはずです。したがってユダヤ教徒も含むとされます。
イスラエルの帰還法では「逆にユダヤ教徒またはユダヤ教徒の母から生まれた者」と限定しているはずです。

○なるほど。おそらくシオニズムが生まれる以前は、パレスチナでアラブ人とユダヤ人が適当に混ざり合って暮らしていても、とくに問題はなかったのでしょう。国土を失ったことが契機となって、「パレスチナ人」という集団が成立した。他方、ユダヤ人の側も、はるか昔にディアスポラを体験したことで、みずからをユダヤ人であると強烈に自覚するようになった。先祖伝来の土地を失うということは、それだけキツイ体験だということなのでしょう。(当たり前か)。

○さらに大礒先生を含む複数の方から、「英国は二枚じゃなくて、三枚舌だろう」とのご指摘。サイクス・ピコ協定(1916年5月16-17日)のことを言っておられるのだと思います。これまた流麗な文章で、赤子の手をひねるようにフランス政府をダマしているわけであります。

○さらに、「これこれ、簡単に英国を許すな。お前はアングロサクソンに甘すぎるんじゃないか」とのご指摘もありました。まあ、もちろん誉められたことではないでしょうけど、英国はやむにやまれず二枚舌、三枚舌を使っていたわけで、けっして腹の底で「あっかんべ〜」という感じではなかったんだな、というところにかんべえの関心があったわけです。「誠心誠意、嘘をつく」と大見得を切った三木武吉の精神を感じる、といったらやっぱり変ですかね。

○さて、本日は長島昭久氏の出版記念パーティーへ。『日米同盟の新しい設計図』(日本評論社)。あんまり横文字や資料や脚注が多いので、左とじ横書きになっている。政治家を目指す人の本としては、稀有の存在かもしれませんね。元CFR研究員が書いた本、といわれれば、なるほどなと思う。東京財団のプロジェクトでした、と聞けばさらに違和感はない。そのくらい専門的な、しかも中味のある本です。

○ジム・アワーさん、岡崎久彦さんなどの安全保障人脈があいさつ。長島さんは慶応出身なので、池井優名誉教授、小林節教授なども登場。しかし、これは何より民主党による長島昭久を育てるパーティーなので、鳩山代表、菅幹事長などにもマイクは回る。観察していると、民主党のパーティーというのは、自民党のパーティーとはずいぶん違うものである。

@学生風の若い人が多い。(なおかつ、よくよく見たら議員バッジをつけていたりする)
A女性が多い。(これがいかにも中央線沿線に多そうなタイプ)
B議員バッジをつけた人が、なかなか帰らない。(これが自民党の場合は、議員はすぐに中座する)
Cマイクを持った政治家の口から、自虐的な発言が平気で飛び出す。(例:「民主党もどうなるかわかりませんが、」など)
D段取りも素人くさく、良い意味で政治家のパーティーらしくない。

○知り合いを見つけては話し込んだものの、7時半で会場をあとにして、中央大学の中国研究会へ。テーマは中国の財政事情。これが面白かった。このところ中国づいていて、今日の昼間も中国関連で面白い発見をたくさんしたんですが、その辺の話はまた明日にしましょう。長くなりすぎるので。


<4月24日>(水)

○お待たせしました。中国談義を再開します。4月19日付けの人民日報にいわく。「中国の統計データを疑うべきではない。・・・・・・・中国が国際通貨基金(IMF)が提唱する一般データ公表システムに加入すれば、さらに正確かつ適時に統計を発表することができるようになる」。はて、これは何のことじゃろう。気になるじゃありませんか。

○実はIMFには、"Dissemination Standards Bulletin Board"というものがあるのです。IMF加盟国は、それぞれに経済・金融データを公表するわけですが、めいめいが勝手な方法で数字を発表されたのでは困る。そこでIMFが基準を作り、「統計を発表するときはこんなふうにしてね」と声をかけているのが、このDSBBなんです。国際金融市場へのアクセスを目指す国は、上級者編というべきSDDS(Special Data Dissemination Standard"を、普通のメンバー国は初心者編というべきGDDS(General Data Dissemination System)にトライするようになっています。

○OECDに加盟しているような先進国は、ほとんどがSDDSのメンバーとなっています。日本も当然入っていて、日本の統計はここでアクセスすることができる。さらにメンバー表を見ると、アルゼンチンやブラジルといった国際金融界の問題児(?)も含まれている。アジアからは韓国、香港、シンガポール、タイなどが入っていますね。これらSDDSのメンバー国は、「包括的で、タイムリーで、アクセスが容易で、信用に足る統計を出せる」というIMFのお墨付きがあるということです。仮に基準を満たさないと、"Iceland has not yet completed all transition plans."などと失格を宣告されてしまう。きびしい世界なんですね。

○ではGDDSはどうか。こっちのメンバー表を見ると、あったあった、中国が4月15日に加入したことになっている。人民日報はこのことを言っていたのですね。中国はGDDSのピッカピカの1年生、ということになります。しかし、カメルーンとコートジボアールの間に挟まれているところを見ると、中国の統計の水準はお世辞にも威張れた水準ではないことが窺える。そもそもGDDSについての説明を見ると、こんなふうに書いてある。

The design and implementation of the GDDS has benefited from close collaboration with member countries, especially pilot countries, and other international organizations, notably the World Bank in regards to socio-demographic data. The Statistics Department of the IMF, in collaboration with the World Bank and other providers of technical assistance, and with generous financial support from Japan and the United Kingdom, continues to assist member countries wishing to participate in the GDDS to prepare metadata and to implement the plans for improvement identified therein.

○GDDSの制度は、途上国が国際的に通用する統計を作れるように、という親心のもとにIMFと世銀が技術協力を行っている。その資金は寛大なる日本と英国が出している。――と聞くと、思わず複雑な心境になる人がいるかもしれませんが、なにしろ統計は国家発展のためには重要なインフラ。ODAで道路を作るより、よっぽど立派なお金の使い道といえましょう。

○もっとも中国のように広大な国が、ちゃんとした統計を作るというのはそれだけで難事業でありましょう。現にロシアは、SDDSにもGDDSにも入っていない。個人的にはインドがSDDSに入っているというのが多いに疑問である。あの国の人口データは当てになるんだろうか?そもそも10億を超える人数というのは、どうやって数えるんだろう?

○中国の経済統計が信用できない、という話は、そのほかいろんなところで聞くことができます。

・中国では12月末に、その年のGDP速報値が発表される。それが翌年2月末から3月上旬に発表される確報値とほとんど一致する。

・92年1月、国家統計局は91年GDPとして1兆9580億元と発表したが、これは2月に同じく国家統計局が発表したGNPと一致していた。すなわち、中国ではGNPとGDPをほとんど同じとみている。

・中国経済は98年からデフレに陥っている。それが実質成長率では連続で7%成長というのは奇妙。

○その一方で、こういう指摘もある。

・中国には、1950年代に地方から上がってくる間違った統計を中央が信じ、誤りをさらに拡大してしまった「大躍進」時代の苦い経験がある。統計の重要性を政府はよく知っているはず。

○統計を取る、ということに関しては、中国はまだまだ歴史が浅いのです。なにしろ最初はソ連の方式を丸写しするところから始めていたのですから。考えてみれば、元共産主義体制の発展途上国が、グローバル経済の一員になるというのは並大抵のことではないのです。中国の指導者が背負っている重荷が、ちょっとだけ分ったような気がします。




<4月25日>(木)

○昨晩、六本木のこの店で飲み会を催したら、なんと19人も集まってしまった。多士済済、大いに盛りあがって、最後に会計してもらって、一人おいくらになったかを計算しようとしていたら、小林さんが意地悪な視線で、後ろから声をかけるんです。

「吉崎さん、実は数字に弱いでしょ」
「ぎくっ。なんで分かるの」
「商社マンだけど商売したことないし、エコノミストだけど書くものにほとんど数字が出て来ない」

○なんという鋭いご指摘。私はそもそも暗算も筆算も苦手だし、とくに千円前後の単位の計算はよく間違えるのだ。これが不思議なくらいに、自分が損をする方に間違えるので、ときどき参加者からは名幹事などといわれることがある。困ったものである。

○とはいうものの、別に数字が苦手というわけではない。数字を使ったパズルを解くのは好きだし、歴史上の年号とかはおそらく普通の人以上によく覚えているはずだ。要するに計算が苦手なのである。麻雀でいえば、符計算はちゃんとできる。だが、サシ馬やヤキトリをつけて集計をし、タテヨコをきっちり合わせる、なんてのはその任にあらずで、いつも他の人にお願いしてしまう。予算をチェックする、なんて仕事もできればやりたくない。Excelの表を見ていると憂鬱になってくることが多い。

○商社マンにせよエコノミストにせよ、計算に弱いというのはあんまり威張れた話ではない。気がつけば、われながら変な道を選んでしまったものである。今週号の溜池通信では、最近の日本経済を取り上げていて、それこそExcelで作ったグラフを何枚も使いながら書いている。ふと、永田町の滑った転んだ話や、外交・安全保障論の方が自分には向いているなあ、と感じる。でもまあ、「あんたが書くモノは分かりやすい」と言ってくれる人もいるのだから、存外捨てたものではないのかもしれない。計算は得意な人よりも、不得意な人の方がきっと多いはずだし。


<4月26日>(金)

○この「溜池通信」を書いているのは、いかなる人ならむ。――と思われたかどうか知りませんが、今日はかんべえに会いに会社までお越しいただいた方がおられました。白鴎大学教授で、マネードクターこと今井澂(きよし)さんです。あんまり便利じゃないお台場まで、わざわざ「ゆりかもめ」で訪ねてきていただきましたから感動モノです。当方の両親と同じ世代の方ですが、このフットワークの軽さは恐れ入りました。自分がこの年代になったときに、同じようなことができるかどうか、ちょっと考えてしまいましたね。

○いろいろお話ししてみて、勉強になることは多かったのですが、「やっぱり」と思ったのは、今井さんも「デフレの終わりが近い」という意見だったこと。この議論は「皮膚感覚」に近い部分があって、なかなか証明が難しい。今後の検討課題ですね。

○明日から連休の前半戦。というところで今朝から風邪気味です。連休明けの7日までに、仕上げなければならない雑誌の原稿が2本、社内向けの原稿が1本、講演の資料作りが1本、それに夕刊フジの書評、などなど。あんまり遊んじゃいられない今年の連休です。


<4月27〜28日>(土〜日)

○結局、昨日は一度もパソコンにスイッチを入れることなく終わりました。午後からはほとんど寝込んでましたからね。おかげで仕事は進まず、今日は予定していたバザーのお手伝いもキャンセルしちゃいました。

○春の天皇賞にも出かけられないので、ここで書いておこう。一番人気はDナリタトップロード。「ゴールデンウィークはナリタから」などという駄洒落を言ってるそこのアナタ、だったらなぜ去年は来なかったんですか。何度も買って裏切られたワタシはよ〜く知っている。ナリタはこんなときに来るような馬じゃありません。だったら去年の年度代表馬、Fジャングルポケットか。久々に帰ってきた武豊が騎乗して、いきなり天下が取れたんじゃ世の中が甘すぎます。

○そもそもナリタは去年の有馬記念で、ジャングルポケットは菊花賞で、Cマンハッタンカフェに負けておるじゃありませんか。なんでこの馬が3番人気かというと、先の日経杯でボロ負けしたからである。ではなぜ負けたかというと、この不規則発言の3月23日分をご覧いただければ分かる。スタート直前の雷鳴で調子が狂っちゃったのだ。ところが今日は全国的に好天。もとより長距離は大得意の馬ですから、これはもう、落ちてるお金を拾ってくるようなレースですがな。マヤノトップガンが作ったレコードを破るかもしれん、とまでいっておこう。

○というわけで、今日はひとり仕事に精を出すつもりですが、果たしてどうなることやら。暇つぶしにこんなゲームはいかがでしょう。結構、飽きませんよ。

http://jp.shockwave.com/animations/joecartoon/torpede/torpede.html 


<4月29日>(月)

○春の天皇賞、めでたくCマンハッタンカフェが来た。配当は低いけど、とにかく取れば勝ちである。これで菊花賞、有馬記念、天皇賞とG1レースの3レンチャン。ただ、これで実力は知られてしまったので、次からはもう馬券としての旨みはなくなるでしょうね。

○風邪の療養をいいことに、司馬遼太郎の『項羽と劉邦』を読み始める。ワタシは司馬遷の『史記』に出てくる世界が大好きで、高校の漢文の参考書で「鴻門の会」の場面を初めて読んだときは、あまりの面白さに文字通り体が凍りついたことを覚えている。司馬遷が執筆活動を行ったのは、項羽と劉邦の時代から半世紀は下っているので、「鴻門の会」のシーンは取材を元に書かれたはずである。「壮士ナリ、マタヨク飲ムカ」なんていうセリフも、イマジネーションの産物であろう。よくもまあ、こんなスリルとサスペンスを見てきたように書けたものである。

○「鴻門の会」は、「項羽本紀第七」に含まれている。とにかく司馬遷の筆が冴えまくった部分である。文庫本でわずか40頁ほどの間に、有名な文句がいくつ出てくるか。「富貴にして故郷に帰らざるは錦着て夜行くがごとし」とか、「四面楚歌」になって「虞や虞やなんじを如何せん」とか、「天のわれを滅ぼすにあって、戦いの罪にあらざるなり」など、これすべて項羽が吐いたとされる名文句である。ひとことで言ってしまうと、「キャラが立っている」。ここまで来ると、何割が実物の項羽で、何割が司馬遷の創作かなどということはどうでもよくなる。

○この司馬遷という人、歴史家というよりも、世界最古のジャーナリストかもしれない。若い頃に中国の各地をくまなく旅行しているので、取材に厚みがある。「五帝本紀第一」は黄帝から始まる。「鼓腹撃壌」で有名な尭舜よりも、こっちの方が古いことになっているからだ。あんまり古いから、実在しなかったという説も当時からあったらしい。しかし司馬遷は、自分が中国のどこへ行っても黄帝のことを語る古老がいた、ゆえに黄帝は実在したはずだと結論している。なんというか、実証的な精神の持ち主なのである。

○秦の名将、「蒙恬列伝第二十八」というのが印象に残っている。蒙恬は謀略に引っかかって自害させられるのだが、その際に「自分の罪は思い当たらないが、かつて長城を築くこと万里、その中間で地脈を断ったかもしれない。それこそが自分の罪である」といって死ぬ。これに対し、司馬遷は容赦ないコメントを浴びせ掛けるのだ。「わたしは北方辺境に行って長城の要塞を見た。まことに民の労苦を顧みないものである。名将の蒙恬としては、人民の苦難を救うべきところ、ひたすら上意におもねって自分の功労を立てることに務めた。どうして罪を地脈ごときに帰することができよう」。風水のせいなどにするな、というのである。こういうセンス、ワタシは好きだ。

○さてさて、現実のワタシは現代の中国経済に関する小論を書かねばならず、そのために昨今は時間を費やしたりしているのですが、なんか急にあほらしくなったりもする。だって経済に関して何を書いたところで、ひどいときで半年、最高でも10年も経ったら確実に無価値になってしまうのだから。でも『史記』は、2000年後の人が読んでも面白いと思うだろう。


<4月30日>(火)

○小泉首相の靖国神社訪問に対して江沢民が猛クレームをつけています。4月21日の当欄でもちょっと述べましたが、筆者はあれは日中間に暗黙の合意があったと思っていたので、ちょっと意外な印象を受けていました。そしたら今日、ある中国通の人から「江沢民は何かあるんでしょう」という解釈を教わりました。これが腑に落ちる話なので紹介します。

○中国最大の反日集団といえば人民解放軍。彼らのルーツは反日戦線ですから、これは当然ですよね。ここへきて江沢民が反日の姿勢をアピールしているのは、軍の支持を確実なものにしておく思惑があるのではないかというのです。秋の党大会で、江沢民は総書記の座を明け渡します。そして来年3月の全人大で国家主席をリタイアする。ただし、軍事中央委員会だけはしっかり抑えておきたい。これはケ小平が院政を敷いたときと同じパターン。この地位を失うと、いよいよ一丁上がりになってしまうから、というわけ。

○とはいえ、ここへ来て江沢民がそんな心配をしなくてはならないというのは、次世代への政権交代がスムーズにいっていない証拠ということになる。というか、社会主義体制下でスムーズな政権交代などということは、そもそもがあり得ない話で、新旧の対立がそこここに影響を及ぼしているのだと思う。この先も世代交代を控えて中国の体制は、ガタガタするだろう。

○もうひとつ、これはまだ自信がないのだけれど、ブッシュ政権もちょっと嫌な感じがしてきた。先日、カレン・ヒューズ広報担当補佐官が辞めた。テキサス時代からブッシュを支えてきた重要人物である。ホワイトハウスでは、トーケル・パターソン・NSCアジア部長に次ぐリタイア。あいかわらず、「なぜ辞めたか」の理由が伝わってこない。あれだけゴシップの好きなワシントンで、彼らの裏情報が飛び交わないのは不思議としかいいようがない。

○ブッシュ政権の内側で何が起きているのか。筆者にはさっぱり読めませんが、こんな最悪のコースもありそうですな。それはつまり、辞意の連鎖がパウエル国務長官に飛び火するケース。これはマズイだろうな。いろんな前提が一気に崩れてしまうので、そうなったらとりあえず株は売りでしょう。先週号でチラッと"Geo Political Uncertainity"という話を紹介しましたが、この手の落とし穴がいっぱいあるというのが、2002年の現実といえましょう。






編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki