●かんべえの不規則発言



2014年5月






<5月1日>(木)

○不肖かんべえは、連休中もちゃんと仕事しております。ということで、今週末の番宣です。


●BS朝日 「激論!クロスファイア」 


5月3日(土曜) 午前10:00〜10:55放送

竹中平蔵氏直言!
正念場!アベノミクスの真価


○どうやって竹中さんを「いじる」か、あまり知恵はないのでありますが、例によって田原さんの尻馬に乗って、いろいろ疑問をぶつけてみようと思います。よかったら、見てやってくださいまし。


<5月2日>(金)

このページはちょっと面白いと思ったな。ここからデータを取って、ちょっと工夫したのが下記の表である。世界主要国の株式市場を、PER(株価収益率)の順に並べたものである。

PER PBR 配当利回り 時価総額
南アフリカ 24.3 2.8 2.78% 3183億ドル
カナダ 24.3 2 2.86% 1.2兆ドル
日本 22.9 1.4 1.84% 2.9兆ドル
フランス 20.6 1.6 3.02% 1.3兆ドル
オーストラリア 19.8 2.1 4.24% 1.1兆ドル
台湾 19.1 1.9 2.38% 4458億ドル
イタリア 18.9 1.1 2.85% 3608億ドル
英国 18.7 2 3.64% 2.9兆ドル
インド 17.5 2.7 1.54% 3262億ドル
全世界 17.2 2.1 2.45% 36.6兆ドル
米国 17.2 2.7 1.96% 17.7兆ドル
インドネシア 16.9 3.7 2.50% 940億ドル
ドイツ 14 1.8 2.79% 1.3兆ドル
ブラジル 13.9 1.3 3.96% 4359億ドル
エマージング国 13.2 1.7 2.94% 3.3兆ドル
韓国 10.3 1.1 1.16% 5873億ドル
BRICs 10.3 1.4 3.19% 1.6兆ドル
中国 9.8 1.4 3.28% 6923億ドル
トルコ 9.5 1.5 2.51% 590億ドル
ロシア 4.7 0.6 3.96% 1880億ドル


○上記から得られる発見は以下の通り。

(1)米欧のほとんどの国は、PER17倍前後に収れんしている。やっぱりPERという尺度はグローバルなのである。

(2)日経平均1万4000円台の日本は、実はかなり高い水準になっている。あんまり上値はなさそうだよねえ。

(3)先進国よりも新興国は割安であり、BRICsはさらに割安である。これはまあ、財務諸表などが信用されていないから仕方がないね。

(4)それにしてもロシアの株価はほとんど「懲罰的」な水準をさまよっていることになる。やっぱり制裁なんて要らないんじゃないの?

○もちろん、PERは計算次第という面もある。先日、某外銀で見せてもらった予想PERでいくと、ものの見事に日米欧が14倍程度で並んでいた。つまりグローバル投資家は、同じ基準で株を買っているということになるのです。


<5月5日>(月)

○最近、ちょくちょくヤフーニュースの「アクセスランキング」をチェックして、世間の人たちはどういうことに関心を持っているかを確認している。さすがに韓国の沈没船の話題も沈静化し、小保方さんの話もどうでもよくなってきたようであるが、そうなると連休中のニュースというのはまことに平和というか、のどかというか、芸能ネタばかりである。


(1) 草野仁 アルバイトのツイッターに激怒「帰宅中なんだけど!あのじじい恨む!」 デイリースポーツ 5月4日(日)22時6分

(2) DAIGO「許せない」…絶交の狩野英孝と1年ぶり対面、謝罪される スポニチアネックス 5月4日(日)22時16分

(3) 日本と中国はレベルが違う!それぞれの農村を見れば国力の差は明らかだ―中国ネット Record China 5月5日(月)4時30分

(4) 春日ムキムキ!ボディビルダーデビュー 直前に体重不足…失格危機も乗り越えた デイリースポーツ 5月5日(月)6時58分

(5) マー君活躍余波…元巨人キャプラー氏が新人王資格見直し提言 スポニチアネックス 5月5日(月)9時17分

(6) 元テレ朝アナ・前田有紀さん破局…バスケ田臥と“結婚観の相違” サンケイスポーツ 5月5日(月)5時0分

(7) 韓国人のモラルも地に落ちた!?コンビニが店員の「盗み食い」横行で経営難に―韓国紙 Record China 5月5日(月)2時50分

(8) 世界の経済史に奇跡と輝きを残した民族・・視点を変えたら見えてきた、日本の真の姿とは?―中国ネット XINHUA.JP 5月5日(月)3時20分

(9) 出番なしの本田、試合後は悔しさぶつける“1人ダッシュ”繰り返す ゲキサカ 5月5日(月)6時14分

(10) シブがき隊の記念日に…渦中のふっくん「涙があふれてきました」 スポニチアネックス 5月5日(月)11時22分


○以上はつい先ほど摂取したものであるが、ううむ、ワシにはまったく関心が持てない記事ばかりである。でも、こういうニュースが日々消費されているのであろう。そんなの、どうだっていいのにねえ。でも、それを言い出したら、当溜池通信が取り上げるネタというのも、別段、どうだっていいといえばその通りかもしれぬ。

○ちなみにこの連休、ご近所さんがお亡くなりになったので、昨日はお通夜に出かけてきた。すると町内会のいつものメンバーが集まっていて、お焼香を済ませた後は、しばしビールを注ぎあいながら、故人のことやご近所の噂話など。考えてみれば、こんな風にマスメディアやネットができるまでは、人々はご近所の噂話を消費していたはずであって、別に芸能人やスポーツマンが何をしてようが関係はなかったはずなのである。その分だけ、昔の人たちは「リア充」であったわけで、考えてみれば今のワシは古風な生き方をしているともいえる。

○ところが古風な生き方をしていると、「今日の天皇賞、当てたでしょ」などと図星をつかれてしまい、あやうく二次会に拉致されそうになってしまった。ダメですよ、日曜の夜はちゃんと家で『軍師官兵衛』を見なければ。特に昨今は、荒木村重の心理描写が切羽詰ってきているのですから。


<5月6日>(火)

○こんなことをいまさら言うのも変なのだが、最近の経済活動というのは、「人を遊ばせること」の比重がどんどん高まっていると思う。例えば、電車の中で目立つ広告といったら、雑誌、小説、映画、ゲーム、TVの番宣、オタク関連、それに観光(ディズニーランドが目立つ)など、エンタメ関係が占めている比率がとっても高い。もう少しカッコよく言えば「感動を売る仕事」というべきか。まあ、そういう時代になりつつあるのであろう。

(と、書いていたら、テレビでUSJの「ハリー・ポッター」テーマパークのCMが流れた。7月15日オープンだそうで、450億円も投資したそうである。やはり今の日本で元気なのはこの手の産業である。てゆうか、DeNAちょっとは勝てよ。12球団中、唯一のエンタメ企業なんだからさ)

○新しくできる企業やサービスなんていうと、これはもうほとんどが「遊ぶこと」関係である。ベンチャー企業を興そうと思ったら、これからはもうエンタメ関係しかない。「世のため人のため国家のため」などと考えてはならない。ワシが若かったころには、「ニーズからウォンツヘ」などという言葉があったものだが、今ではまったく死語ですな。ニーズもウォンツもほとんどが実現してしまっている今日、後は他人の暇つぶしを手伝うのが「出世の近道」ということになる。

(差し当たって、通常国会の終盤戦の注目点は、通称「カジノ法案」ことIR法案の扱いがどうなるかですな。実現すれば、巨額の投資案件となりますぞ)

○こんな世の中に、第一次産業(農林水産業)、第二次産業(鉱工業)、第三次産業(サービス)、という分類はどこまで通用するのだろうか。そろそろ第三次産業を、エンタメ関係とそうでないものに分類してみてはどうか。つまり嫌々やらなきゃいけないサービス業と、お客がニコニコしているサービス業に。

(落語に「ぜんざい公社」というネタがあって、最後は「うまい汁は全部こっちがいただきました」ということになるのであるが、お役所仕事というのはお客様を楽しませない典型的なサービス業といえましょう)。

○しかるに遊びを仕事とすることは、なかなかにしんどいことではないかと思います。なにしろ、自分が楽しんではいけないのですから。某玩具会社の採用方針には、「オタクは明るくてもダメ」と書いてあるのだそうだ。そういえばJRAの職員は、現役の間は当然、馬券を買ってはならず、退職後になってようやく買えるようになるのだが、「しかし、当たりませんなあ」と嘆くのだそうである。お気の毒様である。

○思えば、人が「遊びをせんとや生まれけむ」というのは、なにも今に始まったことではない。古くからホイジンガやロジェ・カイヨワが書いている通り、遊びにこそ人間の本質がある。遊びが尊い行為であるのは、@それ自体が目的であって、何か「ためにする」ものではない。A常に相手を尊重する、かといって、手加減は競争相手に失礼である。Bルールを順守する、などの決まりごとがあるからである。つまり遊びはいつも真剣勝負。真剣でない遊びは面白くないのである。

○などと言っても、大丈夫、この世の中に生きているのは、遊びが下手な人たちばかりである。その証拠に、せっかく大型連休だったというのに、どこへも行かずに明日からは仕事に戻るという人のなんと多いことか。ワシなんぞ、今日はくにまるジャパンがあったものだから、浜松町の文化放送まで行った「ついで」で出社したところ、あさってが締め切りの仕事を思い出してしまったぞ。泣きながら終わらせたけど、さて、これを喜ぶべきか、哀しむべきか。

(かねて買いおきたるニュージーランドワイン=ホークスベイ、赤、2009年=を開けて、連休の終わりを祝う今宵なのであった)。


<5月7日>(水)

○とっても久しぶりに、渋谷のbedにて痛飲。ここに書いてある新着ワインやら、サザエ料理やらいろんなものを堪能。トリュフをいっぱいかけたパスタはいつもながら絶品。

○で、馬主になった先輩に伺いました。

「馬というものは、どこを見ればいいんでしょうか?」

「人と同じだよ。顔だね」

――ははあ、やっぱり「面構え」なんだそうです。馬という生き物は、人間と同様にパスポートを持っていたりするんだそうです。なるほど。競馬の世界のヴェールがひとつめくれたような気がします。

○続いて、コンテンツ流通業をやっている先輩に聞きました。

「AVの仕事をやっていると、どんな役得があるんでしょうか」

「わしな、AVはいちいち見てない。見てたらあかん。おでん好きがおでん屋やったら、失敗するやろ」

――ははあ、AVには3つの大手があって、あとはインディーズであって、その中でも某社はヤバいから近寄っちゃいかんとか、これまた奥の深そうな業界であることが窺い知れました。

○てな話を拝聴しながら、とうとう午後7時から午前12時半まで。bedというのは、"Bar Et Dinning"の略なんだそうだ。初めて知りましたがな。今年で7年目になるんだそうですが、ますますの繁栄をお祈り申し上げます。


<5月8日>(木)

○大阪に来ております。池田泉州銀行のビジネス交流会へ。

○夜は同期入社と飲み会。互いに入社から30年目の春という微妙な年代に差し掛かっているので、「このままで終われるか」てな発言が飛び出す。で、何をやるのかというと、別にクーデターを起こすわけではなく、意外に殊勝な意見が多い。

●英会話

●ゴルフ

●座禅と精神生活

○今日は奈良の「正論懇話会」へ。奈良へ行くのは2年ぶりですね。連休が終わったら、とたんにあっちこっちへ飛び回っております。

○そういえば来週の金曜日には、こういうイベントもありますぞ。インターネット配信されますんで、よかったら登録をどうぞ。

▼セミナータイトル:
 M2Jプレミアムナイツ 吉崎達彦氏が、リスクオフの真相を斬る!

 http://www.m2j.co.jp/seminar/seminardetail.php?semi_seq=2152

 開催日時 5月16日(金) 18時30分〜20時00分


<5月9日>(金)

○今日は大阪の中之島で取材をして、JR環状線福島駅から大和路快速に乗る。すると1時間弱、800円で奈良についてしまうのである。これって関東在住の人間としては「へえ〜」の感覚である。奈良へ行くには、ほかにもいろんな選択肢があって、この辺は私鉄が発達している関西圏ならではである。

○2年前にも同じ正論懇話会で呼んでもらったのだが、今回も会場は奈良ホテルである。新緑の季節でもあるから、カフェは奥様方でいっぱいである。天井の高い木造建築で、風に吹かれて、おしゃべりしながら、紅茶とケーキを楽しむ。まことに結構な世界であります。案の定、男性は少ないです。

○「観光立国とは言うけれど、奈良は泊まってもらえないんですよねえ」などという声を聞く。黙っていても、修学旅行は来てくれる、という条件に観光業が甘えている、てな批判もあって、これを「大仏商法」というのだそうだ。動かざること山の如し、ってことか。

○一方で、大阪があって京都があって神戸があって奈良がある、という関西圏の観光資源の集積は、掛け値なしにすごいものではないかと思う。世界遺産がいったいいくつあるんだろう。ついでにカジノも作ったらいいと思うんだけどな。あ、そうそう、今回は立ち寄る暇がなかったんだけど、あべのハルカスは好調で、ホテルも稼働率が高いのだそうだ。

○ということで、奈良ホテルに投宿しながら、優雅に読売テレビの「お家さん」を見るつもりなのであるが、明日は早起きしてまた遠出しなければならない。われながら、毎日のようにまことに妙なことをしているのである。


<5月10日>(土)

○朝6時20分に奈良ホテルをチェックアウトしたら、なんと午前7時半には関西空港に着いてしまった。いくら土曜日の朝で高速が空いているにしても、関西って意外と狭いんじゃないだろうか。関空は出国手続きも簡単で、それで午前9時発の飛行機に乗ると、時差1時間を合わせて午前10時過ぎには上海に到着してしまう。ああ、そうか、大阪から飛ぶと東京よりも1時間短くて済むのであった。

○もっとも到着した浦東空港からは、上海の中心部までさらに1時間くらいかかってしまうのであるが、ともあれ、上海国際問題研究院で行われている「日中シンクタンクフォーラム」に参加する。会場にコソコソと忍び込んだのは、ちょうど午前の部の報告と質問・コメントの応酬が済みかけた午前11時半。尖閣問題と歴史問題で、日中の議論が「煮え煮え」になっている魔の時間帯である。

○ああ、この雰囲気、私はとってもよく知っている。最初に岡崎研究所で日中安保対話に出たのは、もう10年位前のことだもの。そして今では日中の双方に、親しい人やら懐かしい人たちがいる。その都度、議論の中身は変わるけど、基本的なパターンは一緒なんだなあ。話が険悪になった時の空気の重さは、格別の味わいがあるというもの。

○この5月上旬に、日中友好議連(高村正彦会長)やら、自民党AA研(野田毅会長)やらが訪中したので、少し対日関係が緩んだのかと思っていたら、同じ時期に安倍さんが欧州外遊で中国警戒論を繰り返していたものだから、差引はむしろマイナス印象であった様子。こうなると、今月末のシャングリラ会議において、安倍さんが基調講演で何を語るのか、ちょっと気になります。

○日中両国間の互いの印象が悪化していること、首脳間の交流が途絶えていることから、「日中関係は今が谷底」といった発言が多い。もっとも民間に居るものからすると、「政冷経熱が政冷経冷になった」などというのはかなり大袈裟で、2013年度の日中貿易は前年比で伸びているし(輸出+9.7%、輸入+17.9%)、投資額が減ったと言っても、73.8億ドル(2012年)が70.6億ドルに減っただけである。今でも対中投資額では世界第3位。「日本企業が中国市場を見放し始めた」などというのは、あまり実態を反映した表現とは言えません。

○ついでもっていうと、日中関係が良かったと言われる1980年代に、日中間で今と同じくらいの人の行き来があったかというと、もちろんそうではなかった。それが今では中国にはAKB48や渡辺淳一のブームがあり、日本ではどこに行って中国人観光客がいるようになった。国際結婚の数も膨大なものだろう。でも、日中関係は悪化したと言われる。つまるところ、関係悪化の真の原因は、双方が抱えている国内的な不安の反映なのではないかなあ。

○午後の部で、TPP交渉をめぐる近況を報告し(案の定、この話題は中国では関心が深い)、夜はいつも通り宴会となって和やかに会議が終了。ただし最近の上海では、夜の会合はとってもお洒落な中華料理なんです。なにしろ赤ワインとフランスパンが出てくるコースなんですから。健康的なのはいいですけど、白酒を繰り出す戦闘モードの宴会がちょっと懐かしかったりする。


<5月11日>(日)

○どうも上海に来ると「雨男」なのである。土曜も日曜も雨。(ちなみに月曜は快晴だった)PM2.5を考えると、これは結構なことなのかもしれない。が、雨ともなると外に出るのは億劫である。K氏が誘い出してくれて、やっとホテルの外へ出る。

○品のいいホテルの広東料理で飲茶。たいへん賑わっている。考えてみたら今日は母の日。お母さんを慰労する食事会が多いのではないかと勝手に推察する。昨日の会議でもご一緒した陳小雷先生もご一緒してもらい、昨日の会議の反省会。

○その後、K氏のご案内で浦東の地下商店街を視察。どう見ても本物にしか見えない商品が、どう見ても本物ではない価格で売っている。電卓を片手にした価格交渉もあちこちで行われている。「お客さん、カバン、時計、安いよ」などと声をかけられる。こういう世界、もう消えたのかと思っていたら、しっかり健在であった。当方はカバンも時計も用がないので、小さな双眼鏡(もちろん競馬場用だ)と、i-Pad miniのケースを購入する。もちろん、大変お安い価格である。

○夜は会社の皆様と四川料理に繰り出す。ところが日曜の夜というのに、帰りのタクシーがつかまらない。昔はタクシーなどというものは、外国人くらいしか使わなかったのだそうだが、今では上海市民の所得が向上し、皆が普通に使うようになったので需給がタイトになっているらしい。「人件費は5年で2倍」という経済なのだから、これは当地で経営をしていくのも大変である。あらためて日中のリズムの違いというものを痛感する。

○月曜は上海日本商工クラブへ。ここでもう一仕事して帰国の予定です。


<5月12日>(月)

○午前中に上海日本商工クラブの仕事を終えて、どれお昼でも、と花園飯店の最上階に行く。白ワインを一服所望すると、ワインリストがやたらと豪華である。なんとニュージーランドワインまで置いているではないか。これは怪しからん、ということでNZワインのシャルドネを注文。ちなみに上海商工クラブの事務局長のN氏は、東商国際部からの出向者で、元日本NZ経済人会議のご担当なのであって、昔はよく一緒にニュージーへ出張したものである。

○最近の上海におけるワインブームはまことに奥が深く、どう考えてもこれは30ドル以下ではあるまい、と思われる品が簡単に出てきたりする。中華料理もワインで楽しむことがお洒落ということになり、さるところで「紹興酒を頼む」と言ったら「ない」と言われた、という都市伝説みたいな話まである。これでは日本でワインが品薄になるのも当然で、しょうがないからチリや南アのワインを開拓するわけであるが、ニュージーワインにも手が回っているとあっては困るではないか。

○一杯機嫌で浦東空港へ。ふと気が付くとやたらと警戒が厳重になっている。なんと当地では、5月20−21日にCICAという重要会議が行われ、プーチン大統領が訪中するので、当日は行政や学校がお休みになるだとか、習近平総書記が上海に来るから、きっと自由貿易試験区を視察するだろうとか、それは李克強のプロジェクトを簒奪する意味があるのだとか、いろんな話が飛び交っている。

○他方、ロシアのプーチン大統領としては、5月25日のウクライナ大統領選挙を控えて、直前に中国との協調を打ち出すことは面白い「次の一手」であろう。同時期には、揚子江近くで中ロ合同軍事演習が行われるとのうわさもあり、西側先進国側としては看過できない動きとなる。

○察するにこれは6月のソチG8がボイコットされ、代わりにブラッセルでG7会合が行われるようになったことへの腹いせ、もしくはカウンター攻撃なのであろう。本当なら、ここでBRICS会議を開ければ、「ウクライナを支援するG7と、クリミア併合を支持する新興国」という図式になって、プーチンさんの思うつぼ、となるのであるが、今年のBRICS会議はブラジルが議長国であり、ブラジルはW杯を控えてそれどころではないのである。

○ということで、5月下旬の政治日程はまことにいろいろあって面白い。TPP交渉も、インドやエジプトの選挙もあって、果たしてどんなことになるのやら。

●直近の内外政治日程

5月12〜15日   TPP首席交渉官会合(ホーチミン)
5月15日      内閣府が1-3月期GDP速報値を発表
5月16日      インド総選挙開票
5月19〜20日   TPP閣僚会合(シンガポール)
5月20〜21日   CICAアジア相互協力信頼醸成措置会議(上海)〜中露首脳会議?
5月22〜25日   欧州議会選挙
5月25日      ウクライナ大統領選挙
5月26〜27日   エジプト大統領選挙
5月30〜6月1日  シャングリラ会議(シンガポール)〜安倍首相が出席、基調講演
6月4〜5日    G7首脳会議(ブラッセル)


<5月14日>(水)

○帰ってきたら案の定、忙しい。困ったものである。帰国を待ち構えていたような電話もあれば、そんなことを斟酌しないご依頼もある。なかでも、突然に「締め切りは3日後」と言ってくる編集者は呪われるべきであろう。

○今週出た「景気ウォッチャー調査4月調査」を見る限り、消費増税は何とか乗り越えられそうである。明日は「安保法制懇」が答申を行う。集団的自衛権の解釈変更は、公明党の出方次第だけれども、何とかなっちゃうんじゃないかという気がする。問題は来週のTPP閣僚会議だが、これだってアメリカが期待値を下げてくれさえすれば、夏ごろまでには合意ができるかもしれない。「消費税と集団的自衛権とTPP」を全部乗り越えてしまうと、さすがに安倍さんすごい、となるんじゃないだろうか。

○問題は成長戦略第2弾の方である。これについては、霞が関が困っているらしい。というのは、「今までは毎年、去年と同じものを出していれば、政権の方が変わっていたから良かったけれど、今年は首相が去年と同じだからごまかしがきかない!」のである。いやあ、バカみたいな話ですけど、そういう異常なことを何年も繰り返してきたのであります。わが国は。

○おそらく6月になると、「目玉商品がない!」と言って慌てることになりそうだ。そんな中で、昨年の臨時国会で提出された「IR法案」ことカジノ法案はどうなっているのだろう。そろそろ議論を始めないと、通常国会の会期中に間に合わないではないか。これってデカい話であるし、「日本が変わった!」ということを示すいい事例になると思うのだが。


<5月16日>(金)

○いささか旧聞に属することなれど、先週のこの時間にやっていた読売テレビの特別ドラマ『お家さん』について一言。

○鈴木商店焼き討ちの経緯に関しては、一通りのことは理解していたつもりです。大正の初期は、それまで長らく日本人が繰り返してきた江戸時代の「人は自分が生まれた場所で死ぬ」というパターンが変わり、「田舎で生まれて都市で死ぬ」という新しいライフスタイルを経験するようになった時代です。となると、都市住民の労働者は故郷喪失者となるわけで、非常なる不安を抱えることとなる。そのことは、都市のライフスタイルをエンジョイしている者たちに向けられるわけで、「急成長する神戸の商社・鈴木商店」が狙われたのは、それなりの必然性があったと思うのです。

○鈴木商店の生き残りの人たちは、「あれは朝日新聞の扇動によるものだ」と言うわけです。それは一面の真理なのかもしれませんが、おそらくは当時の関西における大阪朝日新聞は、それこそ出来星のニューメディアであって、それほどの権威を持っていたわけではない。逆にみずからが世論を扇動できることに、大いなる喜びを見出していたような感じがあって、それは今日のネットの世界と何ら変わるところがない。新しいメディアが勃興するときは、すべからく夜郎自大になって、後から考えると馬鹿みたいなことをするものなのでしょう。

(とまあ、その辺のことは、城山三郎の『鼠』を読めばわかる話である)

○今回、テレビドラマの『お家さん』を見て、初めて気づいたことがある。それは、黎明時代は「丁稚どん」の服装をしていた鈴木商店の社員たちが、焼き討ちのシーンでは洋装していたことである。つまり新しい時代というものは、真っ先にファッションに現れるものであって、神戸のエリートたる商社マンたちは、競ってカッコいいスーツを新調したのでしょう。が、そういう姿は、平均的な日本人から反感を買うのが当然であって、「和装の暴徒が洋装の鈴木商店社員を襲う」という形で現れるわけである。

○この辺のファッションの重要性というものは、活字の世界では十分に表せない。映像になって、時代考証をしたうえで、初めて理解できる世界なのである。ということで、テレビドラマには小説にない発見があったというお話でありました。

(オタクな話題にて恐縮です)


<5月18日>(日)

○総務省が2013年の家計調査を発表しています。これ、じっくり読み込む必要がありそうですね。

○平均的な反応としては、「平均貯蓄1739万円ってホント?実は100万円未満が多かった」ってところでしょう。実はこの統計、ずっとあんまり変わってないんです。が、じっくり見ていると、この国の貯蓄がいかに変なことになっているかが浮かび上がってくる。以下は「貯蓄の状況」から。


●(P2) 100万円未満が10%、貯蓄保有世帯の中央値が1023万円、平均値が1739万円、4000万円以上が11.1%。

●(P4) 有価証券の比率がとっても低い。おかげで2008年のリーマンショックの後、あまり貯蓄が減らなくて済んだ。(2008年、270万円→09年、222万円)。そして2013年になると、アベノミクスの株高効果が浸透した。(2012年、193万円→2013年、240万円)。

●(P4) 逆に定期性預貯金はじっくりと増え続けてきた。(2008年、696万円→2013年、724万円) でも、これって銀行が国債を買っていただけかも。しみじみ家計が保守的な運用方針を取っている国である。

●(P6) なんと3000万円以上の貯金を持っている人でも、平均で16.9%は通貨性預貯金、42.9%は定期性預貯金である。6割が銀行、2割が保険、そして2割弱が証券ということなんですね。


○GPIFの運用改革が話題になっておりますが、家計部門はそれに負けず劣らず保守的になっている。さて、これからどうなるのか。物価上昇が始まるということは、預金にしておいちゃいけないということだと思うのですが。って、その前に自分のことを考えるべきですな。


<5月19日>(月)

○ううむ、世の中にはワシの関心がないニュースがなんと多いのだろう。以下のような話題は、「関心を持ったら負け」だと思う。ということで、ニュースを読まずにコメントしているので、そこんとこよろしく。


「美味しんぼ」の最新号、反応は様々

(最初から連載を打ち切るために描かせたんじゃないんですか? いわゆる炎上商法ということで。でも読んではあげないよ)

ASKA容疑者、自宅で薬物常用か

(警察は全部知っているのに、わざと材料小出しにしているよね。芸能人は見せしめだもんなあ)

ポール、2日連続公演中止

(みんな、71歳の老人に何を期待していたの? 私にはまったく理解できません)

真央が休養表明、引退はまだ

(あいかわらずはっきりしない子だねえ。だから大事な時には・・・・てなことを、森喜朗さんに話題を振ってみたい)

朴大統領、「救助失敗」と謝罪

(そうか、来月が地方選挙なんですね。さすがは計算高い貴女のことです。ところで6月4日というのは、ちょうど事故から四十九日にあたるんですね。どうかなあ、日本人なら忘れていると思うけど・・・)


<5月20日>(火)

○今朝の東京新聞の一面記事には驚きました。渾身のスクープ、ってやつじゃないでしょうか。

TPP すし会食で首相譲歩 豚肉の差額関税 撤廃検討

○日米は「実質合意」しているのか、そうでないのか、というのはずっと報道が乱れ飛んでいたところです。4月のオバマ大統領訪日時には、単独の「書面インタビュー」をゲットして「日米関係に強い」ところを見せた読売新聞は、「実質合意」と報道していました。それも牛肉は最終的に関税9%だとか、豚肉の差額関税は50円だとか、かなり細かな内容を報じている。火のないところに煙が立つはずもなく、しかるべき筋から「これ、書いていいから」と言われているとしか思えない。ところが政府と自民党は、これを否定するという構図になっている。でも、今日の東京新聞の報道が正しいならば、やはり日米は「実質合意」とまではいかなくとも、ほぼ落としどころは見えていると言っても過言ではないでしょう。

○豚肉の差額関税という制度、とにかく日本国内ではブタ肉の値段を1キロ500円以下にはしないぞ、という仕組みでありまして、安い豚肉ほど関税が高くなるという企業努力を否定するような制度です。もちろん消費者の利益にもならない。対外的には、あんまり堂々と説明できるようなことではないので、この機会に廃止できるのならやった方がいいと思います。もちろんそのことが、国内政治的にどんな反発を招くかというかは未知数でありますけど。

○逆に感心するのは、4月23日の「すし会談」から1か月近くもたつのに、よくまあこんな秘密を守ってこれたな、ということであります。民主党時代だったら、考えられない話ですな。逆にこれ以上秘密を引っ張ると、いざ種明かしをする瞬間に衝撃が強すぎるかもしれないから、「実は合意している」「いやいや、そんなことはない」と適度に疑心暗鬼の状態にしてあったというのが本当のところなのかもしれません。

○余計な話ですが、最近の東京新聞はとっても旗幟鮮明で、「反原発」「反集団的自衛権」「とにかく安倍内閣に反対」という論調になっていて、そのおかげで朝日や毎日の読者を横取りしている、というもっぱらの評判です。だったら彼らは本気でリベラル派なのかというと、その実態は「ウチは反・読売新聞です」という説明が一番腑に落ちる。つまり中日ドラゴンズのオーナー会社としては、「打倒ジャイアンツ」でなければ話が始まらない。そして読売グループは社を上げて安倍内閣を支援している、と考えると、とってもわかりやすい構図が出来上がります。

○さて、シンガポールで行われていたTPP閣僚会合は、今日で終了したわけでありますが、それについては以下のような報道が飛び交っております。

TPP閣僚会合、一定の前進みられたが合意に至らず(ロイター)=悲観的

TPP閣僚会合閉幕 対立解消に努める(NHK)=中立的

TPP大筋合意へ大きく前進…閣僚会合閉幕(読売)=前向き

○どれが正しいのか。先週、ここ(東洋経済オンライン)で書いた通り、筆者はTPP交渉は意外とうまくいっているという見方をしております。そもそも中間選挙の得点にしたいと思っているオバマ政権としては、TPPは夏までにまとめなければ意味がないわけでありまして、その見込みが立たないくらいなら、むしろダメージコントロールに取り掛かる方がマシということになる。例えば「日本が悪い!」などと言って、幕引きを図るという手だって、ないわけではない。ところがこのタイミングで閣僚会議を仕掛けてくるということは、もちろん脈があると思っているからやっているからでありましょう。

○それにしても「秘密交渉」を原則とするTPPも、これだけ状況が煮詰まってくると、いろんな内情が見えてくるものでありますね。いろんな意味で感心いたします。


<5月21日>(水)

○今日はDHA・EPA協議会というところの通常総会へ。青魚に含まれている成分で、以前には「頭のよくなるDHA」てな話がブームになったこともある。商社に居ると、こんな業界とも接点ができてしまうから面白い。

○ということで、にわか勉強でサプリメント業界について感じたことのメモ。

(1)サプリメントを使って健康な人が増えて、医療費を軽減するような効果があればまことに結構。でも、国の支援はあまり得られない。

(2)何を服用するかは趣味の問題だし、どの程度効くかも個人差がある。他方、「人の不安につけ込む商品」との批判があったりする。

(3)それにしても信じられないくらい膨大な種類がある。「コンドロイチン」てのは、最近よくCMでやってますよね。理屈からいうと「コラーゲン」なんて効くはずないのだが、それでも女性には人気があるんですなあ。

(4)やはり本場はアメリカで、「効く、効かない」の論争なども膨大な裏付けがあるのだそうだ。あの人たち、そういうの好きだからなあ。

(5)SNSだとかゲームだとか旅行だとか、「必要性が不確かなもの」ほど需要がある、という今の時代においては、こういう商品は将来性があるのかもしれない。

○そういえば、ワシは全然その手のものを摂取していない。青みの魚は好物なんですけどねえ。


<5月22日>(木)

○愛媛日経懇話会の講師として日帰りで松山市へ。いい街であります。で、飛行機を待つ時間にちょこっと観光。

○道後温泉本館は今年で120周年。大還暦ということで、間もなく大改修を行うとのこと。夏目漱石が『坊ちゃん』描いた世界はなおも健在で、江戸っ子の夏目漱石は、伊予の人たちの悪口を書いてその名を遺したのだけれども、松山に来なかったならば果たしでどうだったか。逆に『坊ちゃん』で悪く書かれた松山市は、今でも道後温泉にやってくる人が絶えない。

○その道後温泉は、現在、「道後オンセナート」を開催中である。すなわち、温泉とアートの幸せな結合というやつで、いろんなアーチストが参加している。何と言っても、目玉は草間弥生が登場する宝荘ホテルでありますね。草間ワールドに浸れるお部屋は、なんと一泊7万8000円。これに世界中からお客さんがやってくるというのだから大変なものであります。「必要性が不確かなものほど需要がある」の法則を如実に裏付けるものであります。

○そこから今度は松山出身の俳優、監督、エッセイスト、デザイナー、その他もろもろの伊丹十三記念館へ。まことに才能豊かな人でありまして、私は彼が責任編集で出していた雑誌「モノンクル」(精神分析学をテーマにしている)を学生時代にずっと買っていた。まあ、いかにも一橋大学社会学部、といった世界でありました。映画監督としてもたくさん名作を残していますが、そういえば「タンポポ」をまだ見ていなかったことを思い出して、DVDを買ってきました。

○伊丹十三は、地元のお菓子「一六タルト」のCMに出ていて、ここでは完璧な伊予弁を語っている。都会的な印象の強い人ですが、意外な側面があったのですね。わずかな時間でありましたが、松山市は本当に深いです。「坂の上の雲」だけではありませぬ。


<5月23日>(金)

○ううむ、今週は仕事をし過ぎた。大消耗である。まとまった話を書く気力がないので、断片的な噂話をメモしておく。もちろん内容は保証しない。

○モスクワ駐在員が語りて曰く。

「ウクライナ大統領選挙で有力なボロシェンコ。政治家としては今ひとつですが、彼の会社のチョコレートは美味です。モスクワからキエフに出張するときは、チョコレートを買って帰れと言われるくらいです」

――まあ、不味いよりはいいですわなあ。ちなみに元ボクサーのクリチコ候補は勝ち目がないみたいです。

○アメリカウォッチャーが語りて曰く。

「オバマはアジア重視政策に回帰しなければならない。だってリバランシングはヒラリーのSignature Policyだもの。2016年に彼女を勝たせるためには、オバマはそれを継承する責任があるんです」

――確かに民主党は、彼女がコケたらもうほかにタマが居ないですものねえ。ケリー国務長官にも、その旨ちゃんと言っといてくださいよ。

○チャイナウォッチャーが語りて曰く。

「中国が西沙諸島近くで石油を採掘してベトナムに喧嘩を売った件。あれは習近平に追い詰められた石油閥が、わが身を守るためにやったんじゃないか。戦争になれば、国内が団結しないわけにいかないもの」

――中国における不可解な点は、なんでも共産党内部の闘争であると考えると、ちゃんと辻褄が合っているような解釈が見つかってしまうものである。

○コリアウォッチャーが語りて曰く。

「安倍さんとパククネさんは実は仲がいい。でも、人前ではそういうところを見せちゃいけないと、堅く言い渡されている。だから安倍さんは、日韓関係が問題だとは全く思っていない」

――遠くて近きは男女の仲。近くて遠い日韓関係。

○タイのベテラン駐在員が語りて曰く。

「クーデターが怖いだなどと、まったく情けない。昔のバンコク駐在員は、通貨の切り下げと、洪水と、クーデターを全部体験して一人前と言われたものだ」

――そうですねえ、私も何となく、あの国が恋しくなってきました。不要不急の出張、ないかなあ。


○最後にCM。今週は、世界経済研究協会の理事会と総会という仕事があった。個人会員募集中です。ご検討いただければ幸いです。


<5月25日>(日)

○さて、本日はウクライナ大統領選挙。プーチン大統領は「選挙結果を尊重する」と言っているけど、東ウクライナでは選挙の妨害工作が行われていて、死者も出ているという。できればキチンとした形で選挙が行われ、正統性を持った政権ができてくれるといいのですが。

○問題は先週の中ロ首脳会談である。欧米がウクライナ問題でロシアを批判し、日本や東南アジアが東シナ海&南シナ海問題で中国を批判していたら、中ロが接近してしまった。たぶん口先だけだろうと思っていたら、なんと長年の懸案であったパイプラインによる天然ガス供給で、両国が妥結したというから驚いてしまった。2018年から30年間にわたって、4000億ドル分のガスを供給するとのこと。この結果、ロシアがカネで困らなくなり、中国がエネルギー資源で困らなくなる。それで中ロに「どや」と言われるのでは、西側先進国としてはあんまりおもしろくはないのである。

○もっとも今週のThe Economist誌は、中ロはそんなに仲良くなるはずがない、と結論している。ガスの契約については、10年がかりの交渉が土壇場で決まったというのも、プーチンが手ぶらでは帰れない事を見越して、中国側が思い切り条件を付けたのではないか、とのこと。いつものことながら、中国の方が一枚上手なのである。そもそも中ロは、アメリカに対しては団結できるが、その他のことに対しては影響力を競いあっている。特に中央アジアに対して。しかも国境線が長すぎて、ロシア側は人口が希薄で、中国側が濃密ときている。ゆえにロシアの戦術核の多くは中国に向けられているのだという。

○つくづく、長い国境線を持つ国同士の関係、というのは島国の民には想像しがたいところがある。まあ、ロシアとウクライナもそうですな。せめて両国の間に山脈でもあればいいのですが、どちらも国土は広いけれども、強力な陸軍に攻められたらひとたまりもない、という地域特性がある。だから猜疑心が強くなるのでありましょう。あ、そういえば中国も同じでありますな。

○もうひとつ、中ロ首脳会談ではケルチ海峡に架ける橋の国際商談があるのかと思ったのですが、出ませんでしたねえ。ホンネを言えば、日本のゼネコンが受注したいところであります。これがないと、せっかくクリミア半島が戻ってきたと言っても、ロシアとは地続きになってないわけだし、電気も送ることができない(現在はウクライナとしかつながっていない)。この点、プーチンがどんな風に考えているかはちょっと気になりますね。

○つくづくロシアとウクライナの関係というものは、よその家の兄弟喧嘩みたいなところがあって、他人がどこまで口を出せばいいのか、ちょっと悩ましいものがある。兄弟は他人の始まりとも言うくらいだから、ときには引き離した方がいいこともあるのだろうけれど、遠方の島国としてはその辺の見極めが良くわからない。とりあえず、兄弟ともにお達者で、とだけ言っておこう。


<5月26日>(月)

○不肖かんべえはゴルフをしないので、ゴルフには全く疎いのであるが、それでも今月の日経新聞「私の履歴書」に出てくるトム・ワトソンの語り口は素晴らしいと思う。ほとんど毎朝、感動しながら読んでいる次第である。

○スポーツ選手で功成り名遂げた人は、だいたいにおいて臭みがつくものである。つまりは能書きが長くなる。ライバルをくさし、自分を持ち上げる上手な決まり文句を持っていたりする。ところがトム・ワトソンにはまったくそういうところがない。FrankでHonestでFriendlyで、とってもDecentな良きアメリカ人である。そんなことは彼は一言も言っていないが、きっと希望とともに目覚めて、感謝とともに就寝する人なんじゃないかと思う。

○ゴルフに関する発言も、ほとんどが技術論に終始しているところが素晴らしい。スポーツは技術がすべて、と言えるのは本当に強い人の証拠である。中途半端な人に限って、高邁な精神論が出てきたり、他人のマナーをくさしたり、自己を正当化する怪しげな理屈が顔を出したりする。将棋でいえば、名人位に復帰したばかりの羽生四冠王がそうであって、真の強者は技術のみを語るものである。

○さらにすばらしいのは、80年代後半に勝てなくなってからも、ワトソンが淡々と日々を過ごしているところである。特に盟友たるキャディーのブルース・エドワーズに対し、自分の下を去るように勧めるエピソードは感動ものである。スポーツマンやアーチストは、絶頂期を少し過ぎたところに落とし穴がある。信仰に救いを求めるのはまだいい方で、ひどいのになると薬物を頼る。そして家族や友人を巻き込んでしまう。そういう例はいくらでもあるではないか。嫌になるほど。

○さらには連載中に登場する、ゴルフ界のスタープレイヤーたちとの交流の描写がまたすばらしい。ジャック・ニコラウスが敗者となったときに、勝者に対してどんな言葉を贈ったか。不調で悩んでいる若いゴルファーに、先輩がどんなふうにアドバイスを送ったか。週末といえば競馬ばっかりの不肖かんべえには、こういう世界がまぶしく見える。

○そしてまた、今日の回がそうであったように、トム・ワトソンは究極の浪花節の人である。勝負の鬼となって非情に生きるよりも、友のために泣けることが重要であると考える人である。こういう世界を、「アイツはええかっこしいや」と呼ばわるのは、人として心さびしき行為ではないかと思う。

○だからと言って、これからゴルフを始めることを決意したわけではありませぬ。思うにゴルフほど家族に迷惑をかける遊びはない。カネはかかるし、早起きしなきゃいけないし、出かけたら最後、晩御飯までにはめったに帰ってこられない。その点、競馬は大きく負けさえしなければ、あまり迷惑をかけないで済む結構な趣味であります。それに今週末は、ダービーではありませぬか。

○思うに競馬界にも、ちょっといい話はたくさんある。問題はそれが馬が絡むということであって、人間模様の深さではゴルフにかなわない。いやはや、私の履歴書の連載を、あと5回分楽しみにしたいと思います。


<5月27日>(火)

○とっても久しぶりに浅野和生先生から、最近の台湾政治情勢について話を伺う。とっても面白い。しばらくご無沙汰している話題につき、ご無沙汰していた間にずいぶん変わっているところもあるのだが、総じて「ああ、やっぱりなあ」と感じるところが多い。考えてみれば、台湾政治とはこれで結構、長いおつきあいである。

○台湾の学生たちによる立法院占拠事件は、3月18日から4月10日という「世界中がとってもにぎやかな時期」だっただけに、国際的にはあまり目立たなかったけれども、台湾国内では大きなインパクトがあった。いまどき世界中を見渡しても、「スチューデントパワーがときの政権に楯突いて、最後は要求を通して平和的に退去した」なんてことは、稀有な例と言ってもいいでしょう。

○これで馬英九総統の支持率は、1割程度にまで落ちてしまった。なにしろ学生たちは、馬英九がなかなか面談に応じないものだから、頭に「鹿のツノ」をはやした馬総統の漫画をあちこちに貼って、「このおじさんがどこへ行ったか教えてください」などとやったんだそうだ。オバマさんも相当なレイムダックだが、さすがに「馬に鹿」とまではやられない。まことに厳しい。

○事の起こりは、中台間のFTAであるECFA(経済協力枠組み協定)の一環として、新たにサービス貿易協定を締結することへの異議申し立てである。法案の中身が悪かったというよりは、まあ、どこの国でもFTAは評判が良くはならないものであって、むしろ最近の中国の高ビーな姿勢が警戒されたというか、あるいは馬英九の前のめりな姿勢が民心の不安を誘ったというか、ともあれ政治問題化してしまったということのようである。

○ところで、台湾の学生たちによる「サービス協定から撤退せよ!」というシュプレヒコールは、空耳で「ほえほえくまー」と聞こえるんだそうだ。そこでこんなゆるきゃらが誕生した。試しに「ほえほえくまー」で検索してみてください。山のように出てきますから。こんな顔文字もありますよ→。(・(ェ)・) やっぱり日本と台湾のセンスは近いよねえ。

○さて、今年の11月には、台湾の6大都市の市長選挙が行われる。これが2016年の総統選挙の前哨戦となる。国民党が新北市と桃園市で優勢であり、台中市と台南市と高雄市では民進党が優勢である。そして肝心の台北市が、わけのわからんことになっている。いやあ、これぞ台湾政治。また喧噪の季節がやってくる。何だかワクワクしちゃいますね。


<5月28日>(水)

○ミャンマーから帰ってきた人に聞いた、最近の同国情勢についてのメモ。

●ヤンゴンのちゃんとしたホテルは一泊250ドルくらいから。海外からの訪問客が多過ぎて大変。

――これがバンコクなら、オリエンタルとかスコタイとか、いいホテルに泊まれるんだけどねえ。

●首都ネピドーはホテルの建設ラッシュ。なにしろ今年はASEANの議長国。各国首脳とそのお付きの人たちを泊めるべく、あっちこっちで「プレジデンシャル・スイーツ」ルームができている。

――確かにASEANだけでも10か国ありますからね。さらに日中韓などのオブザーバーもおりますし。

●もっとも、11月に予定されている東アジアサミットまでに、完工が間に合うかどうかは保証の限りではない。

――11月の東アジアサミットが終わったら、さぞかし値段が下がることでしょう。日本企業としては、それまで待つにしくはなし。

●官僚たちの関心事は、すでに来年行われるという選挙後の政体がどうなるかに移っている。

――途上国は民主化をそんなに急がない方がいいんじゃないかなあ。だってお隣のタイだって、今でも「最初は軍(グン!)」をやってるくらいですからね。

●アウンサン・スーチー女史も大統領選を目指している。でも、周囲に良い政策スタッフが居ないので、現実的には難しいだろう。ご本人は、「政権を取りさえすれば、スタッフなんていくらでも集まる」と思っているみたいだけど。

――われらが鳩山由紀夫さんを顧問に派遣してはどうでしょう。いくら民主主義でも、「政権交代。」だけを目標にしちゃあいけないんです。


<5月29〜30日>(木〜金)

○29日夜は岡崎研究所の理事会とフォーラム。

○金美麗さん「ひまわり運動(=ほえほえくま〜)のおかげで、台湾政治が面白くなってきました」、長島昭久さん「安全保障政策には右も左もありません。国益あるのみ」など、毎年おなじみの顔ぶれによるご挨拶あり。いちいちごもっともであります。

○岡崎大使の情勢分析では、「中国人民解放軍による第4世代戦闘機の保有数が、日米を合計した数に近づきつつある」との指摘がありました。するということは、「日本が共に戦おうと言わない限り、アメリカは怖くて勝負に出られない」――集団的自衛権行使が必要な理由には、そんな切羽詰った情勢もあるのだ、というお話でした。

○明日からシンガポールで行われるシャングリラ会議に出る、という某氏と立ち話。あの会議の焦点は、毎年、中国からの参加者が何を言うか。この半月くらい、南シナ海をめぐるベトナムとの衝突など、中国の動きが先鋭化している。果たしてどんな反応となるのか。安倍首相のメッセージはどんな反響があるのか。要注目です。

○30日夜は、表参道のアートギャラリー、サロンドフルールへ。イラストレーターの種村国夫さんの「海・・・展」を開催中である。種村さんとは、その昔、広報室で雑誌の編集をやっていた時代に、イラストを発注していた間柄。まだメールも携帯電話もない時代に、よくご自宅までイラストを取りに伺う、という仕事をやっておりました。今から思えば、『サザエさん』に出てくるノリスケさんが、伊佐坂先生のところへ原稿を取りに行く、というのと同じ世界でありました。

○その種村さんは、最近は豪華客船に乗って、船内で「絵画教室」などを開きつつ、世界の港を描くという仕事を続けている。「もう世界を4周くらいしちゃったよ」とのこと。何日も海原を見ながら過ごしていると、ある日とうとう港が見えてくるときの瞬間の感動は何物にも代えがたく、そういう気持ちが絵心を刺激するとのことでした。若いっ!

○少し遅い時間から、「オーバカナル」に参集して、ぐっちーさんやじゅんさんと久しぶりに邂逅。仕事の相談やら恋の相談(それとも、あれは見せつけというのか?)などを語りつつ、ワインを何杯も。お二人とも、現在、セ・リーグ首位を独走する広島カープのファン。仙台での次なる楽天戦の勝利を祈願いたしまする。









編集者敬白



不規則発言のバックナンバー

***2014年6月へ進む

***2014年4月へ戻る

***最新日記へ


溜池通信トップページへ


by Tatsuhiko Yoshizaki