●かんべえの不規則発言



2004年10月



<10月1日>(金)

○いよいよ大統領選挙投票日まで残り1ヶ月。参考サイトの一覧表を作っておきましょう。

○CNN選挙報道(イベント情報が早い)

http://edition.cnn.com/ELECTION/2004/index.html

○ヤフー選挙報道(きめ細かな更新)

http://news.yahoo.com/elections/

○ギャラップ(世論調査の名門)

http://www.gallup.com/

○選挙動静(日代わりで激戦州の動向がわかる)

http://www.electoral-vote.com/index.html

○Race2004 (これも同上)

http://www.race2004.net/

○激戦州に対するゾグビー社調査(ケリー寄りの結果が出ると評判)

http://online.wsj.com/public/resources/documents/info-battleground04-frameset.html

○アイオワ州電子市場(ブッシュかケリーかで賭けが日々進行中)

http://128.255.244.60/graphs/graph_Pres04_WTA.cfm

○クック・ポリティカル・レポート(プロが薦める政治分析)

http://www.cookpolitical.com/

○マイケル・ムーアのサイト(くたばれブッシュ!)

http://www.michaelmoore.com/

○Swiftvet(ベトナム軍人OBによるケリー非難広告サイト)

http://www.swiftvets.com/

○リアル・クリア・ポリティクス(最新世論調査が一目瞭然)

http://www.realclearpolitics.com/bush_vs_kerry.html

○ポリティクス・ワン(選挙オタクのブログ)

http://www.politics1.com/index.htm

○選挙資金の集まり具合ウォッチ

http://www.opensecrets.org/presidential/index.asp

○ドラッジレポート(アメリカ版の「噂の真相」)

http://www.drudgereport.com/

○ホワイトハウス(ブッシュ大統領の動静を見る)

http://www.whitehouse.gov/index.html

○政治マンガ(いちばん分かりやすい)

http://cagle.slate.msn.com/

○This Land(ブッシュ対ケリーの冗談サイト)

http://atomfilms.shockwave.com/af/content/this_land_af

○米国大使館(大統領選挙について解説)

http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-elec2004preface.html


<10月2日>(土)

○投票日はちょうど1ヵ月後。そして9月30日のテレビ討論会は、「ケリーの勝ち」という評価が定まっています。さあ、面白くなってきた。このところ、一方的な動きになっていたアイオワ電子市場では、ブッシュ売りケリー買いが進んでいます。まだブッシュ60セント対ケリー40セントくらいですが。

○世論調査の数字の方は、すぐには動かないでしょう。共和党大会が成功を収めたとき、世論調査の数字がもっとも反応したのは半月後の9月中旬になってからでした。アメリカは日本ほど情報の動く速度が早くない。国土は広いし、メディアも多いし、人口は分散している。「テレビ討論会の効果」が数字になって表れるのは、10月中旬くらいになってからであろうと思います。

○その昔、大学時代にマーケティングの授業で、「情報二段階流れ説」というものを教わった。IT時代の今日も有効かどうかはわからないけれど、この説が教えることは、「人はマスコミ情報を鵜呑みにしない」ということである。この理論は、アメリカで画期的な新種の肥料が誕生したときに、どういう手順で農村に普及していくかを調査することで発見された。新しい肥料が本当に有効かどうか、農民たちはテレビCMを鵜呑みにするわけではなく、「周囲の誰が最初に受け入れるか」を見ているのである。

○新製品が登場したとき、すぐに反応するのは、「イノベーター」と呼ばれる人たちである。彼らは肥料について一家言持っている。今風に言えば、「2ちゃん」にカキコするようなオタクたちなのである。なおかつ、彼らは行動的なので、新製品にはすぐに飛びつく。が、周囲の人たちは彼らをあまり信用しない。彼らは情報感度は高いけれども、あまり影響力を持たないのである。

○その次に反応するのが「オピニオン・リーダー」と呼ばれる人たちである。彼らはそれなりに村では一目置かれている人たちなので、すぐに新製品に飛びついたりはしない。それでも、「この新製品はいいぞ」と思ったら、ちゃんと使いはじめる。周囲の人たちは、「あの人が使うなら、間違いないだろう」ということで追従する。この時点で新製品は爆発的に普及し始める。新しい情報の伝達には、このような手順をたどるものなのだそうだ。

○てなわけで、大統領選挙関連のニュースも、テレビがどんな報道をしているかではなく、「ご近所の誰それさんがこう言っている」というのが重要なのだと思う。政治情報における「イノベーター」や「オピニオン・リーダー」は、あなたの周囲にもいるんじゃありませんか?

○だいたいテレビ討論会を見る人はかならずしも多くはないし、見た人も速やかに忘れていくものである。残るのは、「XXはこんなことを言った(やった)」という伝説である。「ブッシュ父は討論中に腕時計を見た」「ゴアはわざとらしいため息をついた」などというシーンは、誰もが見ているわけではないし、中には気づかない人もいる。が、噂話ができて流れ始めると、大きな影響力を持つ。今度の討論会には、そういう決定的なシーンはなかったような気がするが、少し時間がたってから「作られる」こともある。大事なのは「見た人がどう感じたか」である。

○ところでイチロー選手、大記録達成おめでとう。彼が笑ったのは最初にオリックスで首位打者を取ったときだけで、あとは何があっても笑わない選手でしたが、今日は笑顔でした。よかった、よかった。


<10月3日>(日)

○昨日は次女Tの運動会。今日は長女Kの文化祭。学校行事はこの季節に集中するし、子供の成長を見届けるのは親の務めである。ゆえに親は出て行ったり、使われたりする。いえね、実は昨日の父親競技で全力疾走してしまって、筋肉痛がひどくって。(最初のランナーならいいかと思ったら、人数が足りなくて、最後にもう1回走らされてしまった。ががーん)

○それにしても、先週から今週にかけてはニュースが多いですね。当サイト的には大統領選挙のテレビ討論会が一番の注目点ですが、「9月の日銀短観」、「G7会合」、「京都議定書発効へ」と来る。これに「イチローの新記録」、「中日の優勝」、「パ・リーグのプレーオフ」という三大野球ニュースが加わる。大賑わいですな。

○ここでちょっとベタ記事にこだわってみよう。

◆日本の成長予測4・4%増、13年ぶり米を逆転 (9月30日、読売新聞)

 国際通貨基金(IMF)は29日、2004年秋の「世界経済見通し」報告を発表した。

 日本経済について、国内外の旺盛な需要などが「持続的で広範囲にわたる経済拡大」をもたらすとして、2004年の国内総生産(GDP)実質伸び率の予測を4月時点から1・1ポイント上方修正し、前年比4・4%増とした。

 一方、米国のGDP伸び率を0・3ポイント下方修正して同4・3%増と予測した結果、暦年ベースで1991年以来、13年ぶりに日米の成長率が逆転する見通しが示された。

○IMFのWorld Economic Outlookは、エコノミストの間では非常に応用頻度が高い。とくに第1章に出てくる地域別の成長予測。かんべえなどは、秋の改訂が行われると、いつも3P目だけをプリントアウトして手元に置いておく。これから年末にかけて、海外の成長率予測の問い合わせが増えるからだ。思い切り単純化すると、2004〜2005年の成長率予測は下記のようになる。

  2002 2003 2004 2005
アメリカ 1.9 3.0 4.3 3.5
EU圏 0.8 0.5 2.2 2.2
日本 -0.3 2.5 4.4 2.3


○こうして見ると、今年の日本経済はまさにサプライズである。今年のアメリカ経済は、大方のエコノミストの予想を上回って好調だ。(かんべえは強気派だったが、4%台乗せとまでは思わなかった)。日本経済は、それを上回ってしまいそうなのだから。ちなみに、上の数字は、「暦年ベース」であることにご用心。日本国内では、成長率を語るときは「年度ベース」が多いので、何だか見たことのない数字が並んでいるような気がするかもしれない。

○でも、来年の日本経済は、2%台に減速することになっている。同感ですね。日銀短観を見ても、その辺の感じがひしひしと伝わってくるもの。デジタル家電は値崩れ気味、原油高の影響も出てくるし、今月からは年金負担も増えるからね。これで金利が上がるとか、円高が進行するという感じではなさそうです。

○もうひとつ、注目したいベタ記事はコレだ。

■米イージス艦を日本海に配備 北ミサイル警戒(10月3日、産経新聞)

 イングランド米海軍長官は一日、ミサイル防衛の一環として、日本海で北朝鮮の弾道ミサイルの警戒任務につく、イージス機能を持つミサイル駆逐艦を配備したことを明らかにした。

 イージス艦は、発射された弾道ミサイルを捕捉・追跡する情報収集能力を持ち、迎撃能力を搭載することができる。

 今回、配備されたのは、米海軍横須賀基地に司令部がある米第七艦隊の「カーティス・ウィルバー」とみられる。イングランド長官は、同艦が「年末までの警戒任務につく」と説明していることから、複数のイージス艦が一定期間ごとに交代で警戒にあたる予定とみられる。

 米海軍は、今年末までに日本海や太平洋に計五隻のイージス艦を配備し、二〇〇六年末までにイージス艦やミサイル巡洋艦計十八隻を展開する方針だという。

○先のミサイル発射騒動といい、不気味な爆発といい、この秋の北朝鮮はちょっときな臭い。ひょっとしたら、「6者」とか「2者」とか言ってられなくなったりして?


<10月4日>(月)

○今日は内外情勢調査会の仕事で愛知県春日井市へ。東京は雨だけど、静岡から西は天候は晴れ。「のぞみ」だとあっという間だけど、やっぱり日本は広いです。かんべえは、なぜか愛知県にはご縁があって、この仕事では岡崎市、西尾市、刈谷市に続いて4つ目。今日の話は、なんだか出来が良かったような気がする。相性みたいなものがあるんでしょうかね。

○愛知県は今、ちょっとした興奮状態である。まずイチローの出身地であること。そして中日ドラゴンズが優勝したこと。さらに都市対抗野球で優勝した王子製紙のチームは、この愛知県の工場なのだそうだ。野球は愛知県、なのである。そうでなくても経済は好調だし、来年は愛知万博だし、空港もできるし、ちょっとした勢いがある。

○野球といえば、イチローがドラゴンズ優勝を目立たなくしているさらにその陰で、パ・リーグのプレーオフ、第1ステージは見応えのある試合続きだったようですね。全部中継されないのはもったいない。今年は話題の多いパ・リーグでしたが、とくに新庄選手の貢献度は大であったと思います。イチローの努力を真似ることはなかなかできませんが、新庄の明るさがどれだけ多くのファンを魅了したことでしょう。今年のMVPは三冠王の松中で決まりでしょうが、新庄にも何かあげたいですね。


<10月5日>(火)

○今日、首相の私的諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」が報告書を発表した。全文を読んだわけではないのだけれど、頑張ったな、という印象である。前回、1994年の樋口リポートがその後の日米関係に大きく影響したように、今回の報告は冷戦後、9・11後の国際情勢における新たな安全保障政策論議の発端になるだろう。あいにく小泉さん自身は、報告書に気乗り薄な様子なのだけど、世界中の戦略家が関心を持っているであろうことは容易に想像がつく。

○日本はつくづく変な国であって、「防衛大綱」という兵器のお買い物リストを決めるような議論はできるけれども、「防衛政策」、すなわち北朝鮮の脅威はいかほどかとか、中国の軍事力をどう見るかといった本質的な議論をすることは、非常に憚られる雰囲気がある。そうして裏口から入っていくような意思決定を繰り返している。これじゃあ外から見ていて不安なことこの上ない。本当であれば、与野党が「防衛政策」を作って、互いに議論するようであってほしいのだけど。

○かんべえが東京財団で行っているプロジェクトの仲間は、この夏、同懇談会に対して18か条の提言を行った。概要はここを参照。われわれの提案がどの程度、検討してもらえたのかはよく分からないのだけれど、とにかく大筋では近い認識になっているようだ。提言が無駄ではなかったとすれば、こんなにうれしいことはない。そんなこともあって、10月5日付の朝日新聞社説が、「防衛懇報告―期待はずれだった」と書いているのを見たとき、「やったぜ!」と思ってしまった。この辺、いささか倒錯が過ぎているかもしれない。

○ところで今宵は政治オタクの研究会で、「第2次小泉改造内閣をどう見るか」の議論。こんな意見が出ておりましたな。

「郵政民営化ぶりっこ内閣」(郵政民営化に熱心な人ばかりを集めたという評判だが、党内事情を見る限りそんなに難しい課題ではなくて、来年4月頃には楽勝で法案が通っているだろう、という見方も)

「拉致問題幕引き内閣」(ご主人を大臣に登用して中山参与を引っ込めるなど、この問題を穏便に済ませることにして、とにかく日朝国交正常化を、という思惑があるんじゃないか、との見方)

「BSE黙認内閣」(武部幹事長が入っているから、11月2日の米大統領選前の米国牛の輸入解禁ができるんじゃないか、という観測。そろそろ吉野家の牛丼が恋しくはあるが、「パブリック・コメントだけでも3週間かかる」という説もあり、こればっかりは先行き不透明)

「年金問題ごまかし内閣」(サラリーマンのご同輩、気がついたら今月のお給料から負担増ですぞ)

「山拓さん、がんばって内閣」(来年4月の補選で勝って、元気に国会に帰ってきてください。そうしたら幹事長への返り咲きもありますぞ。補選ならばおそらく投票率も低いから、大丈夫、アンタでも勝てるはず。でも万が一、負けた場合には山崎派は総崩れだったりして)

「史上最強の反中内閣」(8月15日にはかならず靖国神社に参拝する外相、タカ派体質で中国に噛みつきたい経済産業相など強力ラインナップを揃え、逆に親中派はほとんど見当たらない。胡錦濤政権としては、さじを投げたくなるかもしれませんぞ)。

○こんな内閣ではあるのですが、支持率調査は以下の通り。さすがに、当不規則発言の9月28日分で書いたような「5割」には届かず、「微増」といったところでした。

朝日:45%(前回39%)+6%
毎日:46%(前回40%)+6%
読売:42%(前回41%)+1%
日経:44%(前回42%)+2%
共同:49%(前回45%)+4%
TBS:45%(前回50%)−5%
フジ:42%(前回41%)+1%


<10月6日>(水)

○午前中、日本貿易会の貿易動向調査会の会合。来年の世界経済に関する方向性を定める議論をする。またこの季節がやってきたなあ、という感じ。米国経済絶対強気派のH氏が欠席なので、全体的に悲観論が多くなる。米国経済相対強気派のかんべえとしても、そんなに頑張る気はしない。どう考えたって、2005年が2004年より良くなるような気はしないものね。ともかく、商社業界の「毎度お馴染み」の顔ぶれが集まって、1時間半かけて頭の整理をする。

○というわけで、副大統領候補同士のテレビ討論会は見てません。チェイニー・ダースベイダー卿と、エドワーズ・ルーク・スカイウォーカーの戦いは、予想通りの好勝負だったようです。ここを読むと、以下のくだりなどは丁丁発止としていて、実によろしい。


The vice president touched on Edwards' relative political inexperience as a one-term senator.

"Your rhetoric, senator, would be a lot more credible if there was a record to back it up," Cheney said. "There isn't."

Cheney accused Edwards of poor attendance in the Senate.

"Frankly, senator, you have a record that's not very distinguished."

Edwards, in response, defended his short tenure in the Senate.

"One thing that's very clear is that a long resume does not equal good judgment," Edwards said. "I mean, we've seen over and over and over the misjudgments made by this administration."


○いずれ劣らぬ弁達者ですから、この辺はお互いにエンジョイしていたかもしれません。少なくとも、大差がつくような論議にはならない。というか、そもそも副大統領候補同士の論戦が決定打になることは考えにくい。1988年のダン・クエール対ベンツェンなど、「君はケネディじゃない」とバッサリやられて、クエールは大負けだったけれども、選挙の大勢には影響がなかった。副大統領は、あくまで「添え物」なのです。

○今日はなぜかゲラチェックが重なりました。「フォーサイト」「日経マネー」「金融FAX新聞」それに「SPA!」。これだけ重なると、いちいち時間をかけておれませんな。何を書いたかは、おいおいご紹介いたします。


<10月7日>(木)

○戦う人たちは皆美しい。ということで、こちらをご覧ください。


<10月8日>(金)

○読者から、「昨日のようなブラクラを張るのはいかがなものか」とのお叱り2通。ははー。

○読者から、「お誕生日おめでとう」のメッセージ2通。覚えててくれてどうもありがとう。とってもうれしいです。

○と、今日も手抜きモード。明日こそはニュージーランド出張の準備をしよう。


<10月9日>(土)

○午前中は台風準備のために買出し。昼からNHKのBSでテレビ討論会の再放送を視聴。感想は特になし。ま、あんなもんでしょう。

○ああいうのを見ていると、「ここで勝敗が決する」などという錯覚にとらわれるのだけど、よっぽど致命的な失言をしない限り、2回目のテレビ討論会が大勢を決するなんてことは考えにくいと思う。まあ、でも米大統領選オタクとしては、こんなものを作って遊んでみたりして。

http://2style.net/maido/R3_temp.swf?inputStr=%83u%83b%83V%83%85%91%CE%83P%83%8A%81%5B%81A2%93x%96%DA%82%CC%8C%88%90%ED

○上は別段、ショッキングな映像というわけではございません。なるべく音を大きくしてクリックされることをお薦めします。


<10月10〜11>(日〜月)

○10月9日にはオーストラリアで総選挙が行われ、与党保守連合が圧勝した。以下の記事は昨日の産経新聞から。

■豪州総選挙 与党・保守連合が圧勝 イラク駐留は継続へ

 オーストラリアで九日、総選挙が実施され、即日開票の結果、部隊のイラク駐留継続やテロ対策強化を訴えたハワード首相(六五)の与党・保守連合(自由党、国民党)が、下院(定数一五〇)の過半数を占める議席を確保し大勝した。イラク戦争とブッシュ米政権に批判的だった最大野党・労働党の約八年ぶりの政権奪還は成らず、イラクやアジア太平洋地域の安全保障問題への影響は生じない格好となった。

(中略)

 公共放送ABCテレビによる議席獲得予想では、保守連合八十七(現有議席八十二)、労働党六十(同六十四)、その他三(同四)。保守連合が激戦区で相次いで当選を決めており、接戦という事前予想を大きく上回る差を付けて圧勝した。

 ハワード政権の続投により、イラクとその周辺の豪州部隊約八百五十人の駐留は継続される。イラク戦争に最初から参戦した主要国の大型選挙での与党勝利は、十一月に大統領選を控えるブッシュ米大統領、来年に総選挙に打って出るとみられるブレア英首相にとって好材料となりそうだ。

○圧勝とは拍子抜けしました。なにしろ総選挙を10月に構えたのは、ハワード首相が「11月にケリーが当選してしまったら、自分の勝ち目がなくなる」と怖れて、前倒ししたとまでいわれていた。ハワード首相は1996年以来の長期政権だが、「豪州のサッチャー」という見方がある。サッチャーはピンチになると、フォークランド紛争や北アイルランド・テロ事件などがタイミングよく起きて、そのたびに人気を浮上させてよみがえった。ハワード首相も、ピンチになると不思議と事件が起きて追い風が吹く。今回の場合は、9月にジャカルタの豪大使館で起きた爆弾テロ事件が「天佑」になったように思える。

○と、いうところについつい目が行くのだけれど、実はもうひとつ理由があって、豪州経済は目下のところ絶好調なのだ。失業率の5.6%は20年ぶりの低水準だという。へえー、ですね。察するに中国の需要拡大によって、一次産品価格が上がったことで、豪州経済には神風が吹いているのだ。

○かんべえは明日の夜からニュージーランドに旅立つのだけれども、こちらも経済は好調のようだ。2003年度の成長率が3.6%、物価上昇率は1.5%、失業率は実に4.3%というから結構毛だらけである。この国の場合、これだけ調子がよくなると為替が上昇する。8月のレートが対米ドルで0.6534というから驚いた。円にすると72円である。2000年には1NZDが0.39USDにまで下落し、この年のかんべえは、「1ドル40円」のお買い物をエンジョイできた。なにせクリントンが泊まったホテルが1泊1万円だったんだもの。今はそれに比べると2倍近いレートである。

○こんな風に為替が強くなると、ニュージーランド経済は減速する。これまでもそういうことの繰り返しだった。非常に分かりやすい。でも目下のところ、豪州やニュージーのように一次産品輸出国は強いのだ。


<10月12日>(火)

○午前中、会社に出たら電話が多い。状況混沌を面白がっている人、ブッシュの劣勢を嘆く人、ホントにケリーになったらどうするんだという人などなど。当方は「ホント、分かんなくなりましたねえ」と無責任なことを言っている。だって本当に分からないんだもの。それにしても、見ていてこれだけハラハラするものを、当事者はどれだけハラハラしていることだろう。

○一点だけ、「ブッシュのイヤホーン疑惑」について。あんな細工で、討論中に誰かのアドバイスが聞けるはずがないと思うが、そういう観測が出てしまうこと、選挙戦の材料になってしまうこと、そしてそれを信じてしまう人が少なくないこと自体が、ブッシュに対する信頼性の揺らぎを示している。9月までの共和党陣営は、本来は「ブッシュ大統領に対する信任投票」である2004年選挙を、「挑戦者であるケリーに対する信任投票」に上手に置き換えてきた。現在、有権者の視線は再びブッシュに向かっている。ここで踏みとどまれるかどうか。ボールはブッシュ側にある。

○午後から成田空港へ。成田エクスプレスの中で、社内のK君と一緒になる。彼はベトナムへ、ワシはニュージーランドへ。両方の国の植林の違いやら、豪州経済の話などしているうちに、あっという間に成田に着く。

○と、以上ここまでを成田空港のラウンジで書きました。明日はニュージーランドの南端の街、クイーンズタウンからお送りする予定。


<10月13日>(水)

○飛行機の中で、The Economist誌の米大統領選挙特集26Pと、『憲法で読むアメリカ史』(上)阿川尚之、PHP新書を読む。両方とも有益。こういう時間が持てるのも出張のありがたみかもしれない。後者は「米国憲法と最高裁」という視点からアメリカ史に光を当てたもので、知らない話がたくさん出てきて面白い。上巻はちょうど南北戦争が終わったところ。下巻が待たれる。

○と言いつつ、ニュージーランドまでの11時間の飛行は長い。時差だって4時間も向こうが早い。しかし頭の中は米大統領選モードが続いている。明日朝の3度目のテレビ討論会では、ブッシュが登場するなり、いきなり上着を脱いでみせる。ワイシャツの上にくくりつけられていたのは、イヤホーンではなく太いバネであった。「どうだ、見ろ、これが大統領討論養成ギブスだあ」・・・・・。はい、もう止めましょう。ワシが向かっているのはニュージーランドなのだ。

○クライストチャーチに到着。南島のカンタベリー平野の中心に位置する風光明媚な都市である。かくしてワシのパスポートには、5個めのニュージーランドのスタンプが押された。1996年から2年おきに規則正しく、季節は全部10月である。すべてこれ、日本ニュージーランド経済人会議用である。なんというマンネリズム。でも今年は初めてクイーンズタウンで開催されるのだ。

○空港で小型のプロペラ機に乗り換え、南方を目指す。よくよく考えてみれば、「キリストの教会」(Christchurch)から「女王の町」(Queentown)へ向かうというのは、両方ともスゴイ名前ですな。眼下は3000メートル級の山々が聳え立ち、頂は白い雪に覆われている。まことに結構な眺めなるも、高度が下がるにつれて、プロペラ機が揺れる揺れる。しまいには後方の座席に陣取っている高齢の団体さんたちが、きゃあきゃあとスペイン語で騒ぎ出す。ラテンの乗りではしゃいでいるのだが、フライト・アテンダントがニコニコしているところを見ると、この便はこれがデフォルトであると見える。でも、せめて「あとX分で到着予定」くらい言ってほしいなあ。

○クイーンズタウン国際空港に降り立ってみると、なるほど絶景の土地である。フィヨルドのような地形の中に、Lake Wakatipuという細長い湖がある。長さ19キロとタクシーの運転手は言っていたが、ワシのことゆえ聞き違えているかも知れぬ。この湖が折れ曲がったところにクイーンズタウンの町がある。とても小さな町だ。「南だから寒いですよ」と一杯脅かされてきたわりには暖かい。ミレニアム・ホテルにチェックインする。

○午後1時の到着に部屋が整っていなくても、慌ててはいけない。1時半には大丈夫ですよ、といわれて、行儀よくロビーで待つ。1時40分くらいに遠慮がちに催促をすると、ああそうでしたよね、といって鍵が出てくる。部屋にPC用のアダプターを届けてくれ、と言うといつまでたっても来ない。再び遠慮がちに催促をすると、フロントまで取りに来てくれといわれる。これ、すべて当地のペースゆえ、怒ったり、イライラしてはならない。ホントはアダプターの貸し出しはデポジットが必要なのだけど、大目に見てくれていたりするし、そもそもアクセクするような人が来るところじゃないのである。

○が、ここでインターネットへの接続が出来ず、心底焦る。いろいろ試したけど、部屋の電話機から海外ローミングができず、ホテルが勧めているブロードバンド回線(もちろん有料)もつなぎ方が分からない。最後は心優しき商工会議所のSさんの力でソリューションを発見。ああ良かったと思ったところ、来ていたメールのほとんどはSPAMとウイルスである。それでもこうして、溜池通信の更新が途絶えなくてよかった。

○このあとは正副委員長会議、そして歓迎レセプション。なんか今夜は遅くなりそうな予感。


<10月14日>(木)

○人口2万人の小さな町に、常時1万人の観光客がいるというのがクイーンズタウン。この地の景色の美しさは、短い期間ではとても見飽きることがないでしょう。ホテルなどの施設も派手でなく、人々には観光地に特有の嫌らしさがない。秘境、というほどのことはないのだけれど、ホテルの前に葉桜が残っている春先の風景は格別です。

○当地の唯一の弱点はインターネット環境で、メールをチェックするだけでストレスが溜まります。こんな私に向かって、誰それの連絡先を教えろなどというメールを送ってくるアホウが居る。ワシはニュージーランドに居るのだっつうの。米大統領選挙のテレビ討論会ももちろん見てないぞ。意見を求められても何もないからね。と、ワシは少しずつ観光地モードに染まりつつある。

○さて、こちらで目撃しためずらしいものを以下、ご案内します。

●ゴンドラ。昨夜の歓迎レセプションは、クイーンズタウンを一望できる高台のレストランで行われた。そこに行くためには、急斜面を急速度で登る4人乗りのゴンドラに乗らねばならない。冬場のスキーシーズンには特に活躍する模様。で、このゴンドラがとっても怖い。管理人も上と下で1人ずつしかいない。止まったらどうするんだろう。降りるときに気がついたんだけど、座席の下にポリタンクがあった。あれはきっと、万が一のときのための飲み水が入っているのだと思う。

●マオリ族の戦士のダンス。「オールブラックス」の試合前の儀式で有名なやつです。マオリのダンスは北島のロトルアが「本場」で、南島はめずらしいのだそうだ。見ていると、四股を踏むところなど、きっと日本人の祖先と重なっているのだろうと思う。

●ディア・パーク。1500頭の鹿を、800ヘクタールの土地で飼っているという、信じられないほど贅沢な牧場がある。鹿の肉を取るのかと思ったら、鹿のツノが漢方薬の原料として高く売れるので、そっちの方が目当てなんだとか。ユンケル黄帝液の原料はここにあった?

●ディア・パークその2。この園内はとっても景色が美しいので、『ロード・オブ・ザ・リング』の撮影に使われた場所が多数ある。その名の通り見事な「リマーカブルズ」という山並みは、確かに予告編で見た覚えがあるような。ただし実際の撮影は、相当なデジタル処理がされているらしく、要らないものを消したり、右左を変えたりするのは序の口であったよし。

●ディア・パークその3。この園内には何と、金日成の肖像を描いた砦がある。1987年にディズニーがこの場所で「朝鮮戦争で捕虜になったパイロットを子供たちが救出する」というお馬鹿な映画を撮影し、そのときのセットが取り壊されずに残っているのである。とっても目障りで、ガイドのおじさんも忌み嫌っていたが、そりゃあそうだろう。『ロード・オブ・ザ・リング』の撮影時には、すべてデジタル処理された。

●バンジー・ジャンプの飛び込みの瞬間。意外とあっけないものですね。ちなみに現地の経験者の話によると、体重の計量を間違えると、水面に激突してしまうこともあるのだそうだ。その人は水中に入ってしまい、一瞬後に空中に戻ったのだそうだが、あんな怖い目はもう御免と、2度とバンジーは試さないと言ってました。ご用心。

●ギブストン・バレー。ブドウ畑とワインの醸造所がある。ここはおそらく、世界でもっとも南にあるワイナリーであろうとのこと。常識的には成功するはずのない条件なのだけれど、ここで作られる「モンタナ」というブランドのピノ・ノワールやシャルドネは、目下、世界的な注目を集めつつある。20年前に、この地にブドウを植えた人の度胸の良さに感心しました。

●今宵のディナー。午後6時半に集合。7時に現地到着。以下、歌あり、挨拶あり、演説あり、段取りの悪さあり、メインディッシュにたどり着いたのが10時。お開きになったのが11時。それからバスに乗ってホテルに帰還。食事に時間がかかるのはありがちなことなんですが、ここまで時間がかかったのは初めてでした。これも観光地モードということでしょうか。

○明日は自分の発表の番なので、原稿の後半部分を全部書き直すつもりでいたのですが、別にそこまでしなくてもいいかあ、という気になってきた。とりあえず明日起きてから考えるとするか・・・・


<10月15日>(金)

○「日本ニュージーランド経済人会議」に携わっているために、2年おきに5回もこの国を訪れている。大概のことは知っているような錯覚に陥るのだけれど、毎度の事ながら「ええっ、そうだったの?」と驚くことにたくさん出会う。2年前とは、すっかり事情が変わっていることもある。たとえばこの2年間で、NZドルが強くなって、海上運賃が上がった。それでも景気が強いので、中央銀行は利上げを決断している。輸出商品の国際競争力は下がるので、景気の先行きは調整が必至だが、失業率が下がっているので、悲観ムードは薄い。「観光による外貨収入が、輸出による外貨収入を上回った」などという話も、ちょっとした驚きだったりする。

○「日本からの留学生が常時年間1万人を超える」とか、「日本語学習者が約4万人(人口の1%)」とか、「日本ラグビーのトップリーグに所属するNZ出身者は23人」など、両国間の結びつきの強さに驚くことも多い。しみじみ両国関係は良好で、深刻な問題がない。それは結構なことなのだけれど、問題がないがために日本におけるニュージーランドの存在が目立たなくなっていることも否めない。たとえば二国間FTAの問題も、NZ側は切望しているのだけれど、日本側から見るとまずは東アジアの国々が先であって、NZのように農業で大差のある国は、優先順位は思い切り低くなってしまう。片思いなのである。

○たとえばニュージーランドは、来年の愛知万博に参加する。この国としては、「乾坤一擲の大勝負」といった色合いがある。なにしろ92年のセビリア博は費用対効果が悪かったということで、2000年のハノーバー博はパスしてしまった国である。でも対日関係は重要だからと、現クラーク政権が一部の反対を押し切って850万ドルを投下することを決めた。「なんだその程度」などと言うなかれ。「自然の叡智」をテーマにした環境万博、というお題目に本気で賛同してくれている国は、そんなに多くはないはずである。

○この国にとって、対日貿易は非常に重要である。日本経済が立ち直りつつある、というのは、この国にとって文句なしにいいニュースである。他方、日本の少子・高齢化問題などもよく知れ渡っており、将来的に大丈夫だろうかという点については、そこはかとない疑念を持っている。そんな中で、対中貿易の伸びは目覚しいものがあり、そっちに対する関心も急激に高まっている。

○個人的な思い込みが修正されたこともある。この国は主に英国からの移民が開発したわけだけれど、その中にはゴールドラッシュの歴史があった。クイーンズタウンの近くに金鉱が発見され、そこにやってきたのは当時、米国のカリフォルニアで一攫千金に乗り遅れた連中であった。だからこの南島には、もろ西部劇のような風俗が残っている。昨晩の晩餐会では、牧場を改造して作ったパーティー会場に、ハリソン・フォードの「インディアナ・ジョーンズ」をまんま地で行くようなタレントが現れ、やんやの喝采を博していた。西部の男ならぬ「南島の男」というわけだ。馬を愛し、ビールを愛し、女なんて知らねえよ、てな感じである。ゴールドラッシュの最中には、中国系移民労働も使われたらしく、その手の使役がほとんどなかったこの国の歴史にとっては、ささやかな汚点となっているらしい。

○これも個人的には「へぇ〜」な話は、ACCという独自の制度がある。この国では事故に遭った際に、政府が保護・補償をしてくれるという制度がある。その代わり、事故の加害者に対して賠償責任を求めることができない。普通の国であれば、加害者は刑事罰と民事訴訟を起こされても文句は言えないところ、この国においては「恨みっこなし」なのである。そこで生じる問題として、日本人が旅行中に事故に遭った場合、賠償責任を求めることができない。ACCによる救済はもちろんあるのだけれど、日本人から見れば「スズメの涙」ということもあるわけで、NZを旅行する場合は旅行傷害保険に入っておく方が無難、という結論になる。

○NZは島国で、手付かずの広い大地に少ない人口で仲良くやって来た国である。長い開拓の歴史においては、「事故に遭ったらしょうがない」という感覚ができたのかもしれない。それにこの国は、ある時期まではほとんど社会主義的な福祉国家であった。それが1980年代から、有名な「改革路線」で大胆に方向を変えたわけなのだが、ACCは古き良き時代の名残りといった風情がある。

○それから、今回の発表の中で、『ロード・オブ・ザ・リングス』のコンピュータ処理の話が出てきた。この映画、とくに最終作「王の帰還」のデジタル処理は映画の歴史上、画期的なものがあるわけだが、当地にはそのために公的助成も得て作られた巨大なスーパーコンピュータがある。ところが映画製作が終わってから、スパコンの使い道に困っているらしく、「世界最大級のスパコン、いかがっすか?」というプレゼンがあった。まことに豪快な話である。ご関心のある方は、Weta Digitalという会社を探してみてください。


<10月16日>(土)

○当地には"SPEIGHTS"というビールがある。色は茶褐色で、味は日本でいうとお台場などで作っている地ビールと似ている。ビールのような装置産業を、人口400万人の国で作ってもコストがかかってしょうがないと思うのだが、それでもこの国の人たちはビールとワインが大好きなのだろう。南島のワイルドな男たちは、ことのほか"SPEIGHTS"がお気に入りのようだ。

○で、このビールのビンを2本、お土産にもらった。ホテルの冷蔵庫で冷やしておいて、深夜に飲もうと思ったら、なんと部屋には栓抜きがない。ずいぶん時間をかけて探したが、見つからないのでフロントに電話した。7回鳴らして、誰も出ない。なんちゅう駄目なホテルだ、と唖然とする。結局、ビールは飲めなかった。

○が、これは単純な誤解であった。今日の昼食会でこのビールを頼んだら、ウェイターのお兄ちゃんは軽く手でひねって栓を開けてくれた。あらら、そういえばバドワイザーのビンと同じではないか。よくよく見たら、"SPEIGHTS"の栓には"TWIST OFF ONLY"と書いてある。これでは栓抜きがないのも当然だ。とってもお馬鹿な私。

○それはそれとして、フロントが夜中に電話に出ないのでは、モーニングコールも頼めない。ホテルの目覚ましは使い方がよく分からず、初日は見事に寝過ごしてしまった。こちらに来ると、日本より4時間早いという時差が致命的なのだ。最終日は寝過ごすわけには行かぬ。そして目覚し時計は今日も鳴らなかった。今朝、ちゃんと起きられたのは、われながら根性としかいいようがない。

○かんべえが泊まったミレニアム・ホテルは、当地では「プレミアム・ホテル」に分類される。といってもゴージャスなホテルではない。1泊180ドルであるから、そんなワガママを言ってはならぬ。ちなみに180ドルはNZドルなので、米ドルに換算するときは7掛けくらいになるのだが、生活実感としては「1NZD=1USD=100円」である。だからこのホテルは「180米ドル、1万8000円」くらいだとお考え願いたい。

○会議に参加しているT社長は、長年にわたってニュージーランドから食品輸入をしている人だが、この国のこういうところが歯がゆくて仕方がないと言う。「この国とオーストラリアは、絶対に良くなるよ。だって、どうすれば良くなるかは分かっているのだから」。とくにホテルのようなサービス業においては、ニュージーランドははっきり言ってレベルが低い。同じ値段でバンコクのオリエンタルホテルに泊まれるとしたら、観光客がどっちを取るかは自明であろう。ちゃんとした経営のプロを送り込んで、サービスを良くすれば、もっと大勢の客が来るし、もっとお金を落としてくれるはずなのだ。

○が、周囲を見渡してみると、観光地としてのクイーンズタウンを楽しんでいる人たちは、こんな風に分かれるらしい。

(1)バックパッカーたち:宿泊場所=B&B、予算=一泊50ドル
(2)家族連れ:宿泊場所=モーテル、予算=一泊100ドル
(3)海外からの観光客:宿泊場所=プレミアムホテル、予算=一泊200ドル

○察するに、日本人観光客がとってもゼイタクなので、彼らのレーダーサイトに入っていないようである。みすみす営業機会を逃しているとはワシも思うのだが、その一方で「プロのサービス」を見せるようになったら、それはもうキウイたちではないような気もしたりする。

○ところで、なぜこんな無駄話を書いているかというと、シドニー行きのAir New Zealandが気流のせいで飛んでくれず、クイーンズタウンの空港で待ちぼうけを食らっているからだ。この調子では、シドニー発のカンタス航空に乗り継げず、日曜日の午後4時に予定されている『諸君』の座談会には間に合わないことになる。大丈夫だろうか。ここには連絡方法もないのだが・・・・。

○と、考えたところでしょうがないので、無駄話を続ける。情報通信技術のことを「IT」と呼ぶか、「ICT」と呼ぶか。日本とアメリカは「IT」が定着しているが、欧州では「ICT」が定着している。ニュージーランドでは、「IT」の方が多いけれども、たまに「ICT」を使う人もいる。The Economist誌がいつも「IT」なので、どうやら「アングロサクソン=IT」、「大陸=ICT」のような気がする。と思って、会議の通訳の人に聞いてみたところ、アジアでは意外と「ICT」が多いという。どっちが定着するのだろう。インドと中国ではどっちを使うのか、知ってる人は教えてください。

(その後、奇跡的に飛行機は飛んだ。現在、思い切り遅れて到着したシドニーの空港から接続しております。あーよかった。これでカンタスに間に合う。いえね、本気で焦ったんですぜ)。


<10月17日>(日)

○やれやれ、帰ってきました。細かい話はまた後で書きますが、ニュージーランドの四方山話をあとひとつだけ。

○The Economist誌が世界経済のリスクとして、「米国」、「中国」、「原油高」と合わせ、世界的な住宅バブルを挙げていた。日本にいると気づきにくいが、ニュージーランドでは明らかにその兆候がある。地元の人が「こんな値段で誰が買うのやら」とあきれるような値段で、新しい家がドンドン建っている。クイーンズタウンの周辺なども、ちょうど地価上昇の最終段階にあるような感じである。というか、お隣の豪州などでは、すでに下落が始まっているらしい。

○米国発の低金利が全世界に波及し、低利の資金が住宅価格を押し上げた。それが今年から利上げが始まったわけで、住宅バブルははじけるべくしてはじけるはずだ。日本の経験からいっても、首都圏で地価の下落が始まったときは、地方ではまだ上昇が続いていた。そしてその後の落ち方は、地方の方がヒドイ。クイーンズタウン周辺のにわか高級住宅地も、これからどうなることやら。日本でキャッシュをたんと持っているお方は、いい出物を拾うチャンスかもしれません。

○クイーンズタウンからシドニー行きの便の中で、『ドルリスク』(吉川雅幸/日本経済新聞社)を読む。いい本である。ワシは自分がいい加減な人間なので、こういうキッチリした仕事は好きだ。この本の中に、住宅バブルの話も出てくる。ドルに関するリスクを、きちんと整理してある。短い本だが、読み応えがある。結論部分はあんまり同意しないのだけど。


<10月18日>(月)

○昨日は続きを書こうとしたが、眠くてギブアップしてしまった。そして今朝は早く目がさめた。NZとの4時間の時差が残っているようだ。まあ、そのくらいはいいのだけれど、向こうが春だったせいか、花粉症が復活してしまったのは困ったものだ。今日もくしゃみが止まらない。くしゅん。

○NZに行ったのはこれで5回目だが、空いた時間にカジノに行かなかったのは今回が初めてである。これは特筆大書すべき事件である。昔は午前0時に仕事が終わってから、ホテルの近くのカジノに出陣したりしたものである。今回、金曜日は午後9時に仕事が終わり、ホテルから徒歩3分の場所にカジノがあると聞いていたのに、部屋に戻ってそのまま出かけなかった。思えば最初にNZに行ったのは36歳のときであった。当時はまだ若かったのう・・・・。

○などと悔やまれることは多いのだが、特にシドニーの空港の件については、長くみずからの記憶に留めるべく、以下に特に記しておくものである。

○土曜日の夕方、クイーンズタウン発の飛行機が遅れに遅れ、これはもう予定通りに帰国はできないと、日本側のVIPも含めた多くの関係者はいったん諦めかけた。もう一泊すると、えらいことになるなあ、と暗澹たる気持ちになったところで、逆転ホームランのようにAir New Zealandは飛んでくれた。お陰でシドニーに着いたときには、カンタスの乗り継ぎ便の出発時刻までは、ほぼ3時間程度の余裕があった。エスカレーターに乗ったところで、さて、乗り換えの手続き(本来ならば、豪州への入国と出国の両方が必要)はどこじゃらほい、と周囲を見渡しておりました。

○そこに会議でお世話になっていたサイマルの通訳のお二人がやって来た。毎年NZ会議ではご一緒しているので、少しは気心の知れた間柄である。ましてその場は、「間に合って、良かったですねえ」と、気分はほとんど戦友状態。そのまま3人で、おしゃべりしながら空港内を移動し始めたのである。が、乗り継ぎのデスクには誰もいない。さて、どうしよう。そこで畏れ多くも、通訳界の巨匠、長井鞠子さんが右代表でカンタスのデスクに電話をし、ボーディングパスはどこで発行されるのかと聞いてくれた。すると、「あんたたちは今、まったく違う場所にいる」という返事。どうやら全員、迷子になってしまったらしい。

○いくら広いとはいえ、所詮は空港である。時間はあるので、さすがに乗り遅れる心配はない。が、自分ひとりでいたら、さぞかし迷っただろうし、心細かったはずである。その点、日本最高峰の通訳とご一緒というのは心強い。とはいうものの、こういうことで当てにしてしまうのも、われながら心苦しいことである。ふと気がつくと、長井さんが重そうな荷物を持っておられたので、「お持ちしましょう」と申し出た。「いえ、そんな」などと遠慮されるのを、「いやいや、会議でお世話になってますから」。

○言ってから思い出したのだが、実はお世話になっているどころか、ご迷惑をおかけしているのである。自分の発表のときの原稿が、どうしても最後の部分が気に入らず、直前になって書き直した。手書きのドラフトのコピーを取り、事前に同時通訳のブースに届けたつもりが、実は届いていなかった。かくして、私の発表は事前に渡したものと違う内容になってしまい、長井さんは途中から「あれ?変えたのかな?」と思いつつ、即興で訳してくれていたのであった。

○特にスピーカーが偉い人である場合は、話が事前の原稿と違うのはよくあることだし、通訳はそういうときでもキッチリ仕事をするものだ。が、私の場合は偉くもないし、そもそもが単なるボーンヘッドである。それに、最近はさすがに縁遠くなっているのだけれど、私は経済団体の国際会議の裏方役としては結構な場数を踏んでいる。スピーカーの原稿を事前に通訳に届けるのは、基本中の基本である。それを自分の発言のときにミスったというのは、元ベテランのスタッフとしてかなり恥ずかしい。

○「そうそう吉崎さん、スピーチの中で『コンテンツ産業は、感動を売る仕事です』って言ったでしょ。あれをどう訳すか、ちょっと考えましたよ」と長井さん。なるほど、普通に「感動する」はmoved とかtouchedとかimpressedくらいだけれど、「感動を売る」を表現するときはどうするんだろう。もちろん、ノーアイデアである。長井さんがその場で使ったのは、"sell an emotional experience"だったそうだ。「もっといい言い方があるような気がするんですけどねえ」

○毎年、この会議では長井さんの名人芸を目撃している。そういうとき、「先ほどのXXXXの部分の訳は、さすがですねえ」みたいなことを言って感心してみせると、大概の場合は「いえ、あれは定訳がありまして」という答えが返ってくる。ところが「感動を売る」には、さすがに定訳はないものだから、いろいろ迷ったのだそうだ。「申し訳ないですねえ」と言ったら、「いえいえ、難しかったけれども、楽しい仕事でしたよ」

○こういう人の荷物を持たせていただくのは、とても光栄なことだと思った次第であります。


<10月19日>(火)

○お昼に内外情勢調査会の仕事で水戸市へ。そういえば米大統領選挙までもう2週間しかない。2週間後の火曜日には、どういうことになっているのでしょうか。下の2つのグラフを見比べると、ブッシュがやや盛り返しているように見えます。

http://128.255.244.60/graphs/graph_Pres04_WTA.cfm

http://www.realclearpolitics.com/Presidential_04/chart3way.html

○テレビ討論会の効果が一巡し、ケリー支持の嵩上げ効果が途切れてきたのかもしれません。米共和党大会もそうでしたが、イベントが終わってから2週間ほどのタイムラグがあって、それから支持率に効果が表れる。いつも言っていることですが、アメリカは日本に比べて情報伝達速度が遅いのです。ということは、2週間後に投票日を控えている現在は、「オクトーバー・サプライズ」を仕掛けるには絶好のタイミングということになりますね。

○今日、講演をしたのと同じ会場で、明日も米大統領選をテーマにした講演会があり、講師は共同通信の春名幹男さんだとか。どっひゃー、こっちが先で良かった。春名さんの講演を聞いてみたい気がしますが、明日はまた同じ用事で静岡の焼津にいく予定です。ところで台風は大丈夫かな。

○夜は東京財団の安全保障研究会。米軍のトランスフォーメーション、米大統領選挙、北朝鮮情勢、イラク情勢などについて。ちょうど昨日で北朝鮮人権法が成立したところですが、このところ「金正日体制が危ないんじゃないか」という声が出始めている。その理由として、「拉致被害者を日本に返したのに、何も見返りがないではないか」という不満が軍にあるから、という観測がある。ホントにそれで体制が崩れるとしたら、止めを刺したのは小泉さんということになる。

○というわけで、今週は何かヤバイことが起きるんじゃないか。と思ったら、ん?ミャンマーでクーデターですか?


<10月20日>(水)

○これだけたくさんの台風が日本列島を直撃しているのに、今日行った静岡市周辺は今年、ほとんど無傷であったのだそうだ。というわけで、現地は台風を非常に警戒しており、当方も念のため少し早い新幹線に乗り換えて静岡駅に到着した。そこから会場の焼津市までは、タクシーで移動したのだけれど、なるほどこの雨風はすごい。「今日はたぶん、新幹線が止まるでしょう」と現地のK氏は力強く断言する。「そのときは駅前のホテルを取りますから、どうぞ静岡に一泊していってください」。ちょっとちょっと、なんで、そこでニコニコしてるんですか。

○ひょっとすると新幹線の中に閉じ込められることもあろうかな、と思い、今日は念のためパソコン持参である。そのときは仕事でもしてやろうかと。でも、着替えも何にも持っていないのです。会社には仕事もいっぱい溜まっているんです。そもそも海外出張の後に、こんな講演を2日連荘で入れるのが間違っている。誰がそんな馬鹿な日程を作ったかといえば、ほかの誰でもないワシ自身である。馬鹿ですねえ。

○講演会は無事に終了し、静岡駅に戻ってみると、ありがたや新幹線はまだ動いている。午後3時10分のひかりに乗り込む。とたんに寝てしまう。目が醒めたら4時半で、17分遅れとはいうものの、めでたく東京駅に到着した。やれやれ、良かった。後で聞いたら、4時半で後続の新幹線は止まったらしく、ホントに滑り込みセーフだったようだ。

○家に着いたら、ますます雨風は強い。明日になったら、きっとカラリと晴れ上げっていると思うんだけど。


<10月21〜22日>(木〜金)

○電話を取ったら、「こんにちは!うしおまさとです!」。はて、そんな名前の芸能人がおったかいのう、としばし考えてから、声の主が潮匡人氏であることに気がついた。なーんだ、である。

○今宵はその潮氏がキャスターを勤める自衛隊専門情報番組、「防人の道、今日の自衛隊」にゲスト出演しました。「日本文化チャンネル桜」の番組で、放映時間は夜の11時から12時。当日の午後7時から収録。とにかく見てビックリの番組である。今日の放送で使われた、4人の航空自衛隊隊員がF15のパイロットを目指す映像など、自衛隊ファンにとっては涙モノの番組といえよう。

○米大統領選について、ということでお話したんですが、とにかく投票日は10日後に迫っている。下手に「どっちが勝つか」などという予想はできない状況なので、「3通りの可能性があります」という説明をしています。

○その1。ブッシュがきれいに勝つ場合。基本的に現状維持なので、大きな混乱はない。ただし「もう遠慮は要らないぞ」とイラクで大規模な掃討戦が始まってしまう可能性があり、その点は要注意。

○その2。ケリーがきれいに勝つ場合。ちゃんと政権の引継ぎができるかどうかが心配。とくに国防総省と国土保安省の仕事は、空白が許されない。Friendly Transitionは無理であったとしても、せめてOrderly Transitionができるかどうか。もうひとつの焦点は、先のシミュレーション小説でも書いた通り、12月11日に行われる台湾の立法院選挙。中国側は何かちょっかいを出してくる。そのときにケリー新大統領はどんな反応を示すのか。アジア政策に死角のある民主党政権なので、そこが要注意。

○その3。すぐに勝負が決まらない場合。現時点では、この可能性がいちばん高いかもしれない。2000年のフロリダのような騒ぎを、あっちこっちで繰り返す可能性が大。それでも最後は司法が何とかしてくれる、というのが2000年の教訓で、選挙人の投票日となる12月13日までに、どちらかが敗北宣言を余儀なくされるのでしょう。もし、その日を超えて混乱が続くようなら、合衆国憲法が危うくなります。

○番組の収録が終わってから、昔の仲間の勉強会「ロビンソン・クラブ」の会合に合流。楽しく談笑していましたが、そのまま爆睡してしまいました。あー、やっぱり疲れが残っております。


<10月23〜24日>(土〜日)

○新潟の地震はビックリしました。起きた直後からNHKを見ていましたが、その後の公共放送ぶりはまことに「スゴイ」。教育放送などは、見事に被災情報の交換所にしてしまった。新幹線も、震度6を感じてブレーキをかけたから、脱線はしたものの死傷者を出さなかった。台風といい、地震といい、天災続きの日本ですが、なかなかやるじゃないか、と感心させられることもある。あとは小泉さん、こんなところでボロを出さないでね。

○かんべえは昨日から風邪気味。夜に12時間寝ても、昼間はウトウトしてしまいます。そんな日に限って、町内会の防犯灯の整備があったりして。午後は少し静養することにして、菊花賞をテレビ観戦。コスモバルクは案の定来なかったけれど、無印のデルタブルースとは。

○寝たり起きたりしながら、『自民党幹事長室の30年』(奥島貞雄)をパラパラと。過去、偶然になった首相はいるけれども、幹事長は実力者ぞろいである。「神輿(総理)は軽い方がいい」と言ってのけた豪腕幹事長もいた。今日のような「強い総理と弱い幹事長」の方がめずらしいのである。本書は自民党のベテラン職員が、田中角栄からの歴代幹事長の生身の姿を伝えている。

○「一瞬が意味のあるときもあるが、10年が何の意味を持たないこともある。歴史とはまことに奇妙なものだ」。これは大福戦争のとき、勝った大平正芳が残した言葉だそうだ。敗者である福田赳夫は「天の声にも変な声がある」という名(迷)文句を残したが、こちらも勝者の孤独を伝えるようで、いい味を出していると思う。

○40日戦争のとき、大平首相不信任案が通るかどうかという瀬戸際の際、中曽根康弘は議場に戻って反対票を投じ、安倍晋太郎は議場から去って派閥の意図に殉じた。これが両者のその後の運命を分け隔てることになった、と著者は語る。すなわち、中曽根は首相として大成し、安倍は悲運に終わったのだと。では、なぜそのとき中曽根が戻ったかといえば、ときの幹事長が自派の桜内義雄であり、議場閉鎖寸前の「要請」を断りきれなかったからだという。

○なるほど、寸前暗黒。やはり自民党は、歴代総裁よりも幹事長の話の方が面白い。


<10月25日>(月)

○今日は大阪茨木市で大谷信盛さんのパーティー(第三回大谷信盛君と未来を拓く会)があり、講師として呼んでもらいました。当初は米大統領選と日本経済、みたいな話の予定だったんですが、「遠くの選挙よりも近くの地震」と思い、中越地震のことを中心にお話してきました。概ね、こんな内容です。

●地震の報道映像を見ていると、非常に高齢者が多い。実際、地方の過疎地というのは、全国どこでもこんな風景になっている。そんなところで直下型の地震が起き、インフラとライフラインが途絶すると、本当に大変なことになる。

●他方、心強く感じることもある。たとえば、@NHKは地震発生から、あらゆる手段を尽くして災害報道に徹している。A自衛隊も、神戸の教訓を生かして災害発生の30分後に出動していた。新潟県は県知事がちょうど交代したところだったので、出動要請は土曜日の午後9時ごろになってしまったそうだ。B新幹線は、時速200キロで走っていても死者ゼロであった。こんな風に、地震報道は今の日本の「心配な部分」と「さすがな部分」の両方を伝えている。

●新潟県の中越地区は、新幹線といい高速道路といい、非常によく整備されている地域である。関越トンネルなど、20キロもある距離をあの当時によくぞぶち抜いたものだと感じる。それもこれも、田中角栄の政治力の賜物であり、良くも悪くも従来の日本政治を代表するような地域。ところが今は公共投資を減らしている。治山・治水事業も以前に比べれば減っているので、そのことによって、本来は守れるべき命が守れなくなっていたかもしれない。間もなく、国会ではその手の議論が始まるのではないだろうか。

●人の命を守るために、もっとお金をかけよう、というのは反対しにくい議論である。だからといって、無制限に支出を拡大するわけにも行かない。今月、ニュージーランドに行ったのだが、あの国では今、渇水による水力発電の危機が生じている。そこでエネルギー委員会の人が、「われわれの仕事は、60年に1度の災害に対応できるようにすることだ」と言っていたことが印象に残っている。

●「60年に1度の災害」は、うまくゆけば一生の間、無縁に過ごせるけれども、運が悪ければ今年起きるかもしれない。そういうタイプの災害にコストをかけて対処しましょう、ということであれば、大方の賛同は得られるだろう。その一方で、「120年に1度の災害」が起きた場合には、これはもう「ごめんなさい」と言ってあきらめるしかない。

●結局、リスクとコストを考えて、「ここまではやります、これ以上はやりません」という線引きをするしかない。そういう仕事は役人にはできない。有権者の負託を得た政治家が決めるしかない。国土交通委員会の理事になった大谷さん、頑張ってね。

○何度かここで宣伝している『官邸外交』の著者、信田智人さんも、家が国際大学の近くにあるために、土曜の夜は大変だったようです。国際大学は上越新幹線で行くと、越後湯沢の次の浦佐駅にある。電気はもう復旧したそうですが、交通の回復には時間がかかりそうです。


<10月26日>(火)

○ある人からのメールにいわく。「今度の地震は、阪神・淡路に比べれば被害が小さくてよかったですね」という当たり前のことを、誰も言わないように見えるのはなぜでしょう、と。

○私なんぞも、テレビの映像を見て真っ先に感じたのは、「ああ、稲刈りが済んだあとで良かったな」でした。もっとも交通機関の復旧が遅れそうなので、日本で一番高価な「南魚沼コシヒカリ」が今年は流通しない、ということがあるのかもしれません。また、これは私が知らないだけで、その前の台風の被害が大きくて、稲の生育も悪かったのかもしれませんが。とにかく、これが稲刈り前でなくて良かった。という感覚は、都会に住んでいる報道陣にはないんだろうなあ。

○想像以上に現地の状況は悲惨なようです。こういうときの報道が妙に刺々しくなるのは無理もないことですが、「ほら、これは人災だ」と言いたげに見えてしまうメディアとか批評家というのは感心しません。被災地に先に入るのが野党が先か、与党が先か、という妙な先陣争いも繰り広げられているようですが、そんなのは本質的な問題ではありますまい。

○昨日から同じことにこだわっているのですが、台風23号+中越地震という事態は、「過疎の地方はこれからどうなるのか」という問題を投げかけていると思います。高齢化が進んだ過疎地などでは、今後は復旧をあきらめて、このまま棄村してしまうところも出てくるかもしれません。過疎の村が大規模災害に襲われると実にもろい。ほかのケースで言えば、三宅島は全島避難から4年もたってしまい、本当に帰島できるのか、更にはその後の生活が成り立つのかが危ぶまれている状態です。

○神戸の復興の際は「がんばろう、KOBE」という声が自然発生的に出てきた。だからこそ、立派に立ち直った今日の神戸がある。今回のケースはどうか。さあやるぞ、という人がいなかったら、いくら予算をつけたところで村の復興は不可能だろう。少子・高齢化のニッポン、これから地方をどうするんだ。これは結構、重たい問題だと思いますぞ。


<10月27日>(水)

○午後、アメリカンセンターでジョン・ボルトン国務次官の講演会へ。テーマはPSI(拡散安全保障イニシアティブ)。ボルトン氏、「PSIは活動であって組織ではないのです」と繰り返す。面白し。ネオコンが考える多国間主義というものは、やはり効率性を重視する。だからPSIには事務局長も居なければ予算もない。欧州によくあるような、「おしゃべりばっかり」の機構を作ることは我慢がならないものとお見受けした。

○質疑応答も充実していた。真面目な質問には真面目に返すし、ハズレの質問にも丁寧に答えていた。「イランが核兵器を持ちたいと考えるのは、無理もないのではないか?」という質問に対し、「WMDをすべて内製できる国は少ない。貿易を管理することで、供給を未然に防ぐのがPSIだ」と現実的な思考を示した点が印象に残った。「アメリカはなぜエルバラダイの再任に反対するのか?」という質問に対し、「国際機関の長は2期までと決まっている。合衆国大統領だってそうではないか」と笑いを取ってかわすなど、なかなかにお上手であった。

○最後の方になって挙手し、「PSIが重要なことはよく分かった。では仮に来週の選挙で政権交代があったとして、この仕事は新政権に引き継ぎされるだろうか。そのときは後任にどんなアドバイスをするか?」と聞いてみた。すると、「PSIは議会でも超党派の支持を得ているし、国際的な評価も高い。かならず引き継がれるだろう。だが、ブッシュ政権が引き続き担当した方がうまく行くと思う」という、これまた優等生のような答えが返ってきた。

○司会の吹浦・東京財団常務理事は、「ニューヨーク・タイムズの記事によれば、ボルトンさんはブッシュ2期目の国家安全保障担当補佐官の候補者となっている。引き継ぎなどといわず、ぜひご自分でPSIを続けてください」と、こちらも綺麗に締めくくって講演会を終えた。それにしてもボルトン氏、イエール大学首席は伊達ではない。ん、イエール首席ということは、彼もひょっとしてスカル・アンド・ボーンズかしらん?

○客席を見渡すと、こういうときに居るべき人はほとんど揃っていた感あり。おなじみのI記者、「あんなこと聞いてたけど、やっぱりケリーが勝つと思ってるの?」と言うから、「いや、もう予想はあきらめました」と素直にギブアップ宣言をする。同氏によれば、これまた来日中のブルース・ストークス氏が、今日の午前中に「ケリーが勝つよ」と言ってたとか。でも、こればっかりは分かりませぬ。分かりませんぞ。


<10月28日>(木)

○米国在住の保守派日本人から頂戴したメール。あんまり面白いので、転載しちゃいます。

> ケリーは吉崎さん、あれは絶対いけません。
> 何がいけないったって、英雄でしょ。
> 正義の味方月光仮面でしょ。
> ベトナム戦争は汚い戦争だった。
> 南京に入った日本兵のことを、ちったあ想像してほしいってなもんで。
> だからあれを反省するのは結構。
>
> しかし冷戦の文脈から全く切り離してよくもああ難詰できた、と。
> あれは朝日岩波暮らしの手帖よりひどい。
> ベトナムにアメリカが介入してなきゃどうなったんですか。
> トンキン湾には早くからソ連が基地をつくってシーレーンはソ連のお池ですか。
>
> 僕は日本人もいけないと思うんです。
> ベトナム戦争のこと、感謝すべきですよ。
> あのジャングルに流したアメリカ人の血と汗と涙、だれのためよ、まったく。
>
> そういう歴史に垂涎をたらすような感覚が、ケリーには皆無。
> そのくせ鉄砲うってみたりアメフト蹴ってみたり。
> 安っぽいスタンドプレーと、よくとおる太い声だけで勝負しようとしてて。
>
> 大体奥さんみりゃ夫がわかるわさな。
> ローラ・ブッシュはいいじゃないの。
> ハインツの即席スープはあれはなに。
>
> しかもケリーになったら中国政策もむちゃくちゃですよお。
> 議会の手前、大見得切って、裏ではいやいやあれは演技演技、なんて。
> 日本なんてもうあっちにいってもらいましょ、なんてケリーは言うよう。
>
> ああいやだいやだ、とこれ、このメール、変ですか?

○変じゃないっす。面白いっす。でもこの文体、読む人が読めば誰が書いたか、すぐに分かっちゃったりして。


<10月29日>(金)

○大統領選挙がらみで、ホントに電話が鳴る鳴る。知ってる人からはもちろん、知らない人からもガンガンかかってくる。こんな多忙な日に、こんな心温まるサイトを教えてくださるメールをいただきました。Yさん、ありがとう。

●ご当地の踏み絵 http://www.linkclub.or.jp/~keiko-n/gototi.html 

○他県の分はいざ知らず、富山県の分の正確さはこの私めが保証します。上海馬券王先生をはじめとする富山県民よ、このページをご覧あれ。私なぞは、おそらく3分の2は当てはまってしまうぞよ。

●富山県人チェック http://www.linkclub.or.jp/~keiko-n/toyama.html 

○蒲鉾にYKKに雷鳥に「弁当忘れても傘忘れるな」。強いて付け加えるとしたら、「口動かさんと、手動かされ」という富山県には定番のお小言を追加したい。田中耕一さんも木村剛も、きっと同じことを何度も言われて育ったはずである。


<10月30〜31日>(土〜日)

○この季節になると、米大統領選挙がらみの冗談サイトも増えてきます。下記などは「いかにも」といった作品であります。

http://gprime.net/video.php/2004votingmachine 

○これを見ていて、ふと思い出したのが、2000年のフロリダ再集計のときの冗談サイトです。

http://learningisin.com/floridaballot/floridaballot.htm

○つまり同工異曲。アイデアはそのまんまで、今回は静止画が動画になったわけ。これが4年間の進歩というものだとしたら、ちょっと悲しいよね。

○さてさて、11月2日の投票日まで残りわずか。有権者はそろそろ決心しなければなりません。投票権のない外野でも、態度表明が相次いでいます。The Economist誌は、悩んだ挙句にケリー支持という結論を出しました。「incompetent(役立たず)のブッシュよりは、incoherent(一貫性のない)ケリーの方がマシだ」というのがその理由です。

http://www.economist.com/agenda/displayStory.cfm?Story_id=3329802 

○両陣営は、残り少ない時間を、残り少ないUndecided Votersを説得することに懸けています。その辺の事情を表すのが下記のマンガ群ですが、これらを見ていると、「ここまで来たのに、ま〜だ決めてねえのかよ、お前ら」と揶揄する感じが受け取れます。

http://www.cagle.com/news/Voters/main.asp 

この人が書いているように、アメリカ人は物事をスパッと決めて、自分の態度を明らかにすることを良しとするところがあります。大方の日本人にとって、「何もそこまで」と感じられるようなことが少なくない。ホラ、初めてアメリカのレストランに入ったときに、「肉か、魚か」「レアか、ミディアムか、ウェルダンか」「フレンチか、イタリアンか、サザンアイランドか」という質問攻めに往生しちゃうでしょ。「本日のランチ」や「板さんのお任せ」に慣れた文化には、あれがちょっとした苦痛であったりするのだけれどね。



○追加です。The Economistのエンドースメントの要約を作りました。例によって難解な文章なんで、ところどころ誤訳があるかもしれませんけれど、こんなもの、選挙前に読まなかったら、意味ないですもんね。ということで、以下の通りっす。


America's next president

The incompetent or the incoherent?

米大統領選〜無能と無節操の選択

 今年の大統領選挙は欠点だらけの対決である。ジョージ・ブッシュは急進的な改革を進めてきたが、その任にはたえぬ大統領である。ジョン・ケリーは本当に決断したのは人生で1回切りで、それは30年前であったと見える男である。しかるに11月2日、米国人は選択しなければならない。この危険な世界において、容易ならざる決定となるが、本誌は継続よりも変化を、ブッシュではなくケリーを選択する。
 ロンドンに本拠を置く本誌が、なぜに他国の政治に口を出すのか。本誌の読者は米国で45万部と英国内の販売の3倍になり、全世界の45%を占める。かくして1980年以後のあらゆる大統領選と同様に、われわれの思考を示して読者の参考に資す次第である。

●なぜブッシュでないのか

 今回の決定は9/11の惨劇と無縁ではいられない。そしてブッシュ政権が採ったその後の対応とも。過去3年のブッシュの記録は素晴らしくもあり、邪魔者でもあった。
 初動は素晴らしかった。アフガンでの戦闘は1998年のクリントンとは違い、徹底し、計算された試みであり、ビンラディンとの長き戦いにふさわしく、また勝利の名に値するものであった。その後のアフガン建国への支援は不十分であったが、タリバンは除去され、アルカイダは拠点を失い、アフガニスタンは選挙を実施するなど、達成された目標は多い。
 最大の失敗は、今後何年もかけて米国を呪うであろうものである。戦時捕虜をグアンタナモ湾に収容し、ジュネーブ協定と米国法の埒外に置いたことだ。少なくともこれは政治的に物議をかもす仕打ちである。今日のグアンタナモは偽善の証拠であり、米国への同情を減らし、憎しみを増幅している。正義と法と自由のために戦っていると標榜する現政権が、数百人を裁判や法的手続きと無縁に投獄しているのだから。
 ブッシュが自らの外交を、ウィルソンやケネディ、レーガンと比肩しようとするならば、懐疑の目は覚悟せねばならない。ブッシュは「テロとその原因に対して強い態度で臨む」と約束した。テロの原因は、世界、特に中東における民主主義と人権の欠如に帰せられる。これを正そうとすることはまさに正しい。アフガンやイラクにおける選挙はその証拠となろう。しかしブッシュへの信頼性は2つの理由で傷つけられた。ひとつはフセイン体制が除去された後に、イラク再建に関するブッシュチームの無能さと傲慢さで。そしてもうひとつは、アブグレイブ収容所の蛮行によって裏付けられた拷問への疑惑である。
 イラク戦争は間違っていない。大量破壊兵器への諜報は間違っていたものの、12年にわたるサダムの欺瞞はこれ以上許すべきではなかった。封じ込め作戦は持続不可能であった。だが体制転換が不徹底であったのは大きな失敗である。兵力が少なすぎて安全をもたらせず、旧イラク軍を維持できず解散させ、仕事を難しくしてしまった。それで数千のイラク人と数百の米国兵士が死んだのである。最終的な成功は不可能ではないものの、不必要な危険にさらされている。かくしてイスラム世界での米国の評判は地に落ちたのである。
 せめてほかに前進があれば良かったのに、中東でのブッシュは失敗続きだった。パレスチナは紛争ばかり、イランでは保守派が強まって核を目指している。エジプト、シリア、サウジは旧態依然。リビアが大量破壊兵器を破棄したのだけが唯一の成功例だ。
 ここから成功するためには、米国は失敗を認め、そこから学ぶことができる大統領が必要だ。アブグレイブの後は、ラムズフェルド国防長官を解任し、新規にやり直す機会だったが、そうはしなかった。現在、イラク軍を訓練し、イラク政府を樹立するための選挙の準備をしているのは改善というべきだ。結局のところ、誰にもわからない。ブッシュは2期目になれば少しはマシになるのだろうか。

●ケリーを選ぶべき理由

 これに比べるべきケリーはいかがな人ならむか。選挙戦中の発言は、あまり参考にならない。2000年のブッシュ、1992年のクリントンしかりである。
 ケリーは自らを現職と対照させようと努めた。それは定跡どおり。だが状況は変わらないのに、彼の位置取りは動揺し続けた。米国のシステムでは、大統領は主に性格と指導者としての資質、危機への対応能力で選ばれるべきである。彼の動揺は憂うべき兆候である。
 国内問題、特に経済についてはケリーは許容範囲である。彼は財政保守派であり、財政赤字は脅威だと正しく認識している。あのルービン元財務長官も顧問についている。健康保険問題では金のかかる計画を有しているが、これは共和党議会につぶされるだろう。通商問題では疑問があって、投票記録は自由貿易だが、選挙戦では副大統領候補とともに保護主義者で通した。社会政策では明らかに有利である。彼は宗教的右派とは無縁だし、人工中絶や同性愛結婚では、より穏健で不平の少ない路線を取ることができる。
 問題は外交、特に中東政策だ。かつて賛成投票をし、今年前半には支持していた戦争を、今になって失敗と評している。彼は9/11で考えを変え、テロリストは退治しなければならない、クリントン時代のようでは駄目だと述べた。ブッシュの方針に反対できず、外交目標を立てることに失敗した。代わりに、熟慮の上で、同盟国と相談して、などと言う。
 ケリーはいかなる性格の持ち主か。投票記録はたしかにブレているが、これは上院の特殊性を考慮すべきだろう。選挙戦中のブレは、彼が抜け目のないオポチュニストであることを示している。軍隊経験とベトナム後の活動は、いざというときの彼の決断力を示している。政治的な復活力と選挙終盤での粘り腰への定評は、彼の闘志の強さを物語っている。

●これからの任務とそれにふさわしい人物

 つまるところこの選択は、向こう4年間に米国が直面するであろう問題に対し、より適しているのは誰かの判断である。たとえば米国や西欧への次なるテロ攻撃。あるいは経済政策の秩序や、国家の分裂を防ぐような社会政策の妥協。なかでもイラクの再建は、中東の安定化、近代化、そして民主化に欠かせない。
 ブッシュは失敗したとはいえ、正しいビジョンを持ち、彼がやりかけた仕事を終えさせるのが無難だと感じる読者は多いだろう。もしもブッシュが再選され、新たなチームを率いて新たなアプローチを採り、極右勢力と手を切るのであれば、本誌も多幸を祈る。が、彼に対する本誌の信頼は失墜した。そのビジョンには賛同するものの、ブッシュがイスラム社会を変え、信頼を維持することができるとは思えない。生まれて間もないイラクの民主主義が育つためには、中東の近隣諸国の支援が必要だ。なかでもイスラエルとイランの。
 ケリーは戦争が間違いだったと言う。彼が最高司令官になれば、兵士たちにとっては気の毒なことだ。だが、彼のイラクでの計画はブッシュのそれと大差ない。イラクから逃げ出すことよりも、勝つことが必要だ。パレスチナ問題やイランとの関係でも新たなスタートを切れる。興奮と変動の3年間の末に、ようやく結合のときが来た。米国の道徳的、現実的威信を再生するときだ。ブッシュがよく言うように、人生には説明責任がある。彼自身はそれを拒否しているが、有権者こそが代案を提示することでそれを強いるべきだ。ジョン・ケリーは、疑問は尽きぬものの、米国の仕事を継続するにより適した地位にいる。












編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki