●かんべえの不規則発言



2010年11月






<11月1日>(月)

○かねてから何度かこのページで紹介しておりました「リアル・ポリティクス・ジャパン」が、今日からとうとう本格オープンです。わざわざ本名ではなく、ペンネーム(?)で駄文を寄せたくせに、なぜか写真入りで出ているお馬鹿さんがいらっしゃいますが、まあ軽くスルーしてくださいまし。

○このサイト、志は日本版の「Real Clear Politics」を目指しております。目の前の米中間選挙も、世論調査はここが最大の情報源となっています。最近、何かと世論調査に対しては、「やり過ぎだ」とか「弊害が目立つ」とか「信用できない」といった声があるのですが、私はそんなことは全然なくて、世論調査は健全な政治のためのインフラだと思っています。統計抜きに経済予測ができないのと同様に、世論調査なき政治評論は危険だとさえ思います。問題はあくまでも「使い方」。そのためにも、使い勝手のいい情報ポータルが必要だと思います。

○そんなわけで、あんまりお金にはなりそうもないのですが、こんな酔狂なサイトを運営している人たちがおりまして、ご協力を賜れれば幸いであります。広告を付けてみたいとか、いっそのこと買い取ってやろうとかいうお金持ちがいらっしゃいましたら、是非、ご相談ください。

○で、いろんな人がこのページに陰ながら協力しているのですが、その中には実は「脱力さん」も含まれているのですね。ご本人は現在、フロリダにご出張中のようですが。だからというわけではないと思うのですが、「リアル・ポリティクス・ジャパン」の中には書評ページが出来ていて、『上杉隆の40字で答えなさい』が取り上げられております。これ、ムチャな企画だと思いますけど、言い切りが歯切れ良くて、かなり売れているみたいですね。

○脱力さんには『小鳥と柴犬と小沢イチローと』(ビジネス社)という近著もあって、この本を開いてみたら、冒頭に「メルマガ界のカリスマ、溜池通信の『かんべえ』(吉崎達彦氏)が『脱力さん』と呼び出したのもこの頃である」という記述があって、ぶっ飛んでしまいました。そんなの覚えてませんがな。こちらは週刊プレイボーイで連載されていた「新・東京脱力新聞」の書籍化で、くだけた文体がほどよく脱力していて読ませます。

○うーむ、今日はあれこれと宣伝し過ぎてしまったかな。


<11月2日>(火)

○いよいよ米中間選挙の本番です。で、民主党の大敗はほぼ見えている。となると、結果を見た後に出てくるのは「敗因は何だったか」「民意のメッセージは何か」という議論でありましょう。「オバマ大統領への不信任」という声も出るはずです。さて、敗因は何だったか。

(1)最初に出てくるのは、とにかく景気が悪かった、という理由でしょう。もしそれが正しいのなら、景気さえ良くなればオバマ人気は戻る、ということになる。ただし、それはちょっと「???」であって、そもそも景気回復はそんなに簡単じゃないし、現在の有権者の怒りはそんな生易しいものではないように思える。

(2)次に出てくるのは、政策の方向が悪かったという話で、「やはり大きな政府路線が拒絶された」というロジックです。ティーパーティー候補が躍進する予定なので、これは納得の議論となる。リベラル派の意見を受け入れ過ぎて、当選の原動力であった無党派層が逃げてしまった、というのは明らかな作戦ミスであったと考えます。

(3)もうひとつは、「オバマの人間性に問題あり」という議論で、これもなかなかに有力ではないかと思う。特に今週のThe Economist誌がカバーストーリーで掲げている記事(The Mid-terms : Angry America)の中で、以下のような痛烈な指摘がある。


Mr. Obama seems curiously unable to perceive, let alone respond to, the grievances of middle America, and has a dangerous habit of dismissing tea-partiers and others who disagree with him as deluded, e vil or just bitter. The silver tongue that charmed America during the campaign has been replaced by a tin ear. Some blame this on an emotional detachment his difficult upbringing forced on him, others on the fact that he has lived all his life among tribal Democrats. Whatever the reason, he does not seem to feel America's pain, and looks unable either to capitalize on his administration's achievement or to project an optimistic vision for the future.


○はい、こんなの読むの面倒だと思った方のために、JBpress訳文をご紹介しましょう。


 オバマ大統領は、奇妙なほど中間層の不満に気づいていないように見えるし、ましてや、こうした不満に対応できていない。また、ティーパーティー運動の参加者など自分と意見の異なる人々を、勘違いしている、有害だ、あるいは単に不機嫌だなどと一言で片づけてしまう危険な癖がある。

 大統領選挙で全米を魅了したさわやかな弁舌は、鈍感な耳に取って代わられた。オバマ大統領の中間層への理解不足を、困難な環境に育ったがゆえに身につけざるを得なかった情緒的冷淡さのせいだと指摘する者もいれば、集団主義の民主党員に囲まれて生きてきたためだと指摘する者もいる。

 理由はどうあれ、オバマ大統領は米国の痛みを実感しておらず、自身の政権の実績を資本として利用することも、楽観的な将来の展望を描き出すこともできずにいるように見える。



○あらためてオバマさんの人生を振り返ってみれば、彼はハワイで育った呑気な若者であり、それが本土に渡ってアイビーリーグの大学で純粋培養され、社会経験と言えばコミュニティ・オルガナイザーとシカゴ大学の講師と、イリノイ州の州会議員であった。おそらく彼は、「アメリカのハートランド」を体感できていない。選挙戦では南部や中西部を回っただろうけれども、普通のアメリカ人のことが分からないのだと思う。

○日本人に置き換えてみれば、「演歌は嫌いです、日本酒も飲みません、相撲も笑点もサザエさんも見たことないです」というタイプでしょうか。そういう人が、会社のトップに立つことになったら、それはいろいろと弊害があるでしょう。少なくとも、そういう個性は隠しておいた方がいい。その上でときどきは、労働組合の委員長と日本酒を酌み交わしたり、取引先とカラオケに行ったりした方がいいでしょう。そうでないと、「あの人はエリートで、下々の気持ちが分からない人」ということになって、結果的に短命に終わってしまうのではないか。

○アメリカにも日本と同様に「反知性主義」の伝統がありますから、こういう点は上手にごまかさないとマズイと思います。


<11月3日>(水)

○中間選挙関連のニュースをネットで拾っていて、これを見つけました。「さあ、ティーパーティーだ!」と初めて呼びかけた映像です。すばらしい。ちゃんとユーチューブに出ている。

●CNBC's Rick Santelli's Chicago Tea Party  http://www.youtube.com/watch?v=zp-Jw-5Kx8k 

○ときはオバマ政権が発足し、大型景気刺激策が成立した直後の2009年2月19日。シカゴ商品先物取引所からの中継で、CNBCレポーターのリック・サンテリが、オバマの住宅ローン救済策を口を極めて罵る。「お前ら、エクストラ・バスルームがあるようなご近所さんの豪邸のローンを肩代わりしたいヤツはいるか?いたら手を挙げろ」(周囲のトレーダーたちは「ノー」と応える)。「オバマ大統領、今のを聞いたか」と調子に乗るサンテリ。メインキャスターの静止も聞かずに暴走。とってもファナティックで、言ってることはよくわかんないんだけど、とにかく面白い。

○で、ビデオのちょうど2分後くらいで、サンテリは「シカゴ・ティーパーティーをやろうじゃないか!」と呼びかける。これが記念すべき第一声であった。ということで、何度も言っていることですが、「ティーパーティー」を「茶会」と訳するのは誤解を招くと思います。日本語で一番近い語感は「一揆」じゃないですかね。「シカゴで一揆を起こそうじゃないか!」というわけ。しかも日本史における「一揆」は常に「お上」によって制圧されてきたわけですが、アメリカの「茶会一揆」は独立戦争の引き金になったわけですから、「造反有理」なんですね。

○ちなみにその翌日、ギブス報道官は「サンテリは何を言っているのか、分かってないんじゃないか」と軽く交わしている。しかしブログやツィッターやフェースブックによる呼びかけが始まり、早くも2月27日には"Nationwide Chicago Tea Party"が行なわれる。全米51の市で3万人がデモに参加した、というのがティーパーティーの夜明けであった。それから後は一瀉千里である。

2009年7月4日、ワシントンでティーパーティー運動家が行進。

2009年9月12日、ワシントンで納税者大行進。

2009年11月3日、Off Year選挙。知事選、補欠選挙などで共和党候補を応援。

2010年1月19日、マサチューセッツ州上院補欠選挙で、あっと驚くスコット・ブラウン候補が当選。

2010年2月6日、テネシー州ナッシュビルで初の全国大会。サラ・ペイリンが登場して話題を呼んだ。

・・・・・・・

○結局、今回の中間選挙でティーパーティー候補は何人当選したんだろう。これで政治はますます混乱するんだろうけれども、ひとつの政治運動がかくも急速に勢力を伸ばすとは。良くも悪くもアメリカ社会のダイナミズムを感じさせるような「事件」といえましょう。(18:27pm)

<追記>

○BS11の『IN side OUT』に出演して、米中間選挙について語ってきました。いつものことながら、小西克哉さんとお話しするといろいろなアイデアが浮かびます(一度、こっちが聞き手になって、番組中で小西さんのアメリカ論をじっくり聞いてみたい)。ということで、ティーパーティーについてもうちょっと加筆。


(1)ティーパーティーの本質は、「金融危機一揆」なんじゃないだろうか。怒りの根底にあるのは、金融危機の責任者が処罰されていないのに、巨額の資金が投入されていることであるらしい。だとしたら彼らの怒りとは、90年代中盤の住専問題や不良債権問題に対する日本人の怒りに似ている。われわれはもう慣れちゃっていて、「公的資金を入れないと金融不安は消えない」とか、「金融危機の後の景気回復は脆弱になる」ことを経験として知っているけれども、その免疫がないアメリカ人の不安や苛立ちは相当なものであるに違いない。

(2)もっともそういう怒りがちゃんと世の中で連帯を呼び、1年半もたつと立派な政治運動に発展し、とうとう議員まで作ってしまうことは、アメリカ以外の社会では考えにくい現象といえるだろう。もちろん、今日誕生した「ティーパーティー議員」は、たぶんに「困ったちゃん」たちであって、これから現実のアメリカ政治を振り回して、景気回復や外交の安定を損なう恐れが、少なからず存在する。でも、こんな風に民意がちゃんと議席数に反映されるところは、「さすがにアメリカ」と言っていいだろう。有権者が怒らなくなったら、民主主義は終わりである。

(3)ところがこの運動、いろんな形で共和党を利した。まず、彼らは第三勢力を目指さなかった。ティーパーティーがロス・ペローのような第三政党を作っていたら、議席はひとつも取れなかっただろうし、「ラルフ・ネーダーがいなければ、ゴアがブッシュに勝っていた」という事態の逆が起きて、民主党が大笑いしたかもしれない。ところがティーパーティーは対外的には「一揆」を叫びつつ、既成政党の中の右派勢力という位置づけに甘んじた。彼らのエネルギーを追い風にして戦えたことは、共和党にとっては大ラッキーであった。

(4)ティーパーティーは草の根の怒りを原動力にしている。彼らのテーマはシンプルで、"Limited Government""Tax Reduction""Balanced Budget"である。「政治のテーマはひとつだけでいい」という法則がキレイに当てはまり、こういう運動こそが力を持つ。ゆえに今回の選挙では、「同性愛結婚」や「人工妊娠中絶」といった社会問題がどこかへ行ってしまった。呆れたことに、「アフガン情勢」でさえも話題にならなかった。これが出てくると、共和党は内部分裂してしまうのだが、「テーマの一本絞り」のお陰で下手な喧嘩をしなくて済んだ。

(5)そのために民主党側はとてもやりにくかった。例えばこの2年間の業績として、「オバマ政権は医療保険改革をやったじゃないか」と言いたいところだが、それを言った瞬間に「そのお陰でますます財政赤字が増える」という反撃を受けてしまう。だから、この件について沈黙せざるを得なかった。なにしろこの件は、ティーパーティー運動の「怒りポイント」なのだから。

(6)さらにティーパーティーの飛躍によって、共和党の旧悪は速やかに忘れ去られた。ひとつにはブッシュ前大統領が、完全に人前から姿を消していることも大きい。この辺のことを考えると、ティーパーティーを組織した人たちは、相当に賢いのかもしれない。つまり「草の根運動」は意外と「人工芝」だったのかもしれない。そういえば、「水曜会」のノーキストの噂を最近聞かないが、彼はいったい何をしているんだろう?

(7)さて、この事態は日本政治にも確実に影響するだろう。さしあたって明日くらいから、自民党では「共和党の勝利に何を学べるか」という議論が始まることだろう。その場合、上のような分析が有用になるかもしれない。不肖かんべえでよろしければ、いつでもお相手いたしますぞ。・・・などと言いつつ、明日は民主党の会合で米中間選挙について語る予定であったりする。わはは。(0:31am)


<11月4日>(木)

○米中間選挙がらみの情報が飛び交っております。毎日新聞さんの筆者インタビュー記事はここ

○「これからオバマはどうするのか」という問いかけが多い中で、ほぼ確実に言えることのひとつが、お手軽な経済対策として「輸出拡大」の努力が続くだろう、ということです。その中でも、「中東向けの武器輸出」なんて生臭いのもありますが、「貿易自由化」という筋のいい目標もある。貿易障壁を少なくして、アジア向けに農産物などをじゃんじゃん売ろう、という算段です。

○おあつらえ向きなことに、アメリカは来年のAPEC主催国である。ハワイでの開催が決まっているので、ここはオバマが地元に錦を飾るとともに、「太平洋大統領」であることをアピールするチャンスである。ちなみに来年は東アジアサミットの開催地がインドネシアで、これまたオバマが幼年期を過ごした場所である。何だかとてもいいストーリーが描けそうじゃありませんか。ジョセフ・ナイ教授曰く、「情報化時代には、説話能力(Narrative Story)がときには軍事力以上の意味を持つ」。これぞソフトパワー、というわけです。

○さて、そこで武器となるのが、昨今話題の「TPP」である。「オバマ政権に通商政策なし」という手厳しい評価もあるのですけれども、とりあえず向こう1年間は真面目に取り組むでしょう。だって来年のハワイAPEC会議は、オバマ再選戦略の起点となるでしょうから。そこで今年のAPEC議長国の日本としては、「横浜からハワイへ」と美しくTPPというバトンを渡す必要がある。「ウチはTPPなんて無理でーす」といって日和るようでは、何のための議長国ぞ。

○ただし、FTAさえできない日本がTPPに参加するということは、日米と日豪と日ニュージーランドのFTAを一気に結ぶようなもの。走り高跳びが出来ない人に、棒高跳びをさせようというに等しい。普通に考えたら自殺行為なので、農業団体はそりゃ怒りますわな。でも、農業団体の言い分を聞いていたら、何も進まないことも間違いない。「○年待ってくれれば言うことを聞く」とか、「○兆円くれたら、ガマンしてやる」と言うならともかく、今のように「絶対ダメ、テコでも動かない」というのでは、とりつくしまがない。そもそも個別補償制度というのは、本来、農家に貿易自由化を呑ませるための取引材料だったのではなかったか。

○これは先月、ニュージーランドのクローザー貿易相が言ってたことですが、「FTAはコンバージョンが出来る」。つまり、志の高い国同士であれば、すでに出来ているFTA同士を擦り合せて、より高いレベルの貿易自由化を促進できる。そうすれば、いわゆる「スパゲティボウル現象」も回避できるのだ、と。つまりFTA先進国たちは、TPPのような場所を通じて、どんどん先へ進もうとしている。だとしたら、日本がここで置いてきぼりをくらうようでは、いよいよ明日が暗いわけであります。

○ということで、「ティーパーティー」の次の話題は「TPP」。何だか、ちょっと(語感が)似てますね。


<11月5日>(金)

○例の件についてですが、私のところに入ってくる情報を総合すると、だいたい以下のような次第なんじゃないかと思えるんですよね。まあ、間違っているかもしれませんし、未確認情報を元にした裏の取れてない話です。その点はくれぐれもご注意の上、お読みください。


「あの漁船の船長さん、日本じゃ軍人だとかスパイだとか言って騒いでますけど、そんなにたいした人じゃないですよ。衝突時点では、手ひどく酔っ払っていたらしいし。そもそもあの海域には入っちゃいけないと、漁師たちにはきつく言ってあるんです。ところが、最近のご時勢では『その筋』の威光が通じない。何よりも金儲けが優先する世の中だから。漁師たちは、少しでも魚が取れるところへと行ってしまう。そうでなくても重要な人事の季節を控えて、対日関係には慎重でなければならない時期だったのに、あんな事故が起きてしまって党は大迷惑ですよ」

「尖閣諸島についてはケ小平の遺訓があって、後世に委ねるってことになっている。だから党としても、日本の実効支配を暗黙のうちに認めてきた。とはいうものの、あそこは自国の領土だと言わなければならない。意外と知られてないことですが、尖閣諸島は自分のものだと最初に言い出したのは、中国ではなくて台湾なんです。だから台湾向けにも、そう言う必要がある。苦しい立場なんです。その点は日本側も分かっていて、中国の面子をつぶさないように気を使ってきた。あの小泉首相でさえ、強制送還だったんです。この辺は、日中の外交当局が『口伝』で伝えてきた門外不出のノウハウでした」

「ところが日本側の政権交代で、そのノウハウが途切れてしまった。民主党の政治家も、もうちょっと官僚の言うことに耳を傾けてくれればいいのにね。日本政府が『国内法に基づいて処理する』と言いだしたんで、中国側は大慌て。こんな状態で『918』を迎えたら、それこそ大変な騒ぎになってしまう。しかも今まで、ナアナアで尖閣諸島に対する日本の実効支配を認めてきたことが、国内向けにバレてしまう。そうなりゃ党の面目は丸つぶれです。だからこそ全力を挙げて、船長釈放に向けての努力が始まったんです」

「あらゆることを試しましたよ。しまいにはレアアースを禁輸し、フジタの社員を捕まえました。何より心配だったのは、船長が折れてしまうことでした。強いて言えば、日本側の失敗はあの船長を接見禁止にしなかったことですな。中国大使館の人間が会いに言ってネジを巻いたら、本人は英雄になれると思って頑張っちゃった。そして実際に釈放されたら、国内にはただちに英雄扱いですよ。でも、今では軟禁状態になってる。下手すると何を言うかわかんないから」

「とにかく理解してほしいのは、中国において対日問題は内政問題なんです。扱いを間違えたら、即座に失脚する。中国で失脚と言ったら、一族郎党の生命財産が危うくなるという、文字通りの命懸けですからね。選挙に落ちて、それで済む日本の政治家とは覚悟が違うんです。例えば温家宝首相は、今とってもビミョーな立場なので、対日問題にはどうしても腰が引けてしまう。だから日中首脳会談をドタキャンしたりする。本当であれば、ナンバーツーである首相は、国家主席の踏み台にならなければならないのに」

「正直に言うと、この件は早く忘れたい。粛々とG20とAPECを終わらせて、何事もなかったかのように日中首脳会談を終わらせてホッとしたい。ところが、胡錦濤主席が国際会議に出席する直前に、あのビデオが流出してしまった。これでは胡錦濤主席が、日中首脳会談に出るか出ないかで悩まなければならない。引退を2年後に控えて、どうやって権力基盤を維持するか腐心しているこのタイミングで・・・・」

「そもそもフジタの社員を解放したのは、あのビデオを公開しないことが交換条件だったんですよ。それが全部蒸し返しになってしまう。ホントにこれは故意ではないんですか。中国を困らせるために、練りに練った悪意でやってるんじゃないのですか。それにしても、日本とは何としたたかで悪辣な外交を仕掛けてくるんだろう・・・・」


<11月6日>(土)

○ついに老眼鏡を購入。3150円也。度はいちばん低い+1.00である。パソコンを見る際にはさほど困らないのだが、細かな活字が読めなくて困っていた。50歳までの人生を眼鏡と無縁に過ごしてきたので、とっても違和感があるのだけれど、こうでないともう長い本は読めません。

○ということで、最近の読書のご紹介。

『アメリカン・デモクラシーの逆説』 渡辺靖 岩波新書

――『ルポ・貧困大国アメリカ』を、まっとうな学者が書くとこうなる、という見本(それにしても「貧困大国」はひどい本であった)。文化人類学の調査を通して浮かび上がってくるアメリカの実像は、先日の中間選挙でなぜオバマが拒絶されたのか、という疑問に答えてくれるはず。良くも悪くも岩波らしい一冊。

『好好台湾』 青木由香 マーブルトロン

――ご無沙汰してます、青木さん。相変わらず元気に台湾一人観光局をやっておられます。ご著書買いました。今度の本は、写真のクオリティがとっても高いです。ああ、また台湾に行きたいなあ。

『バブルと金融危機の論点』 伊藤修 埼玉大学金融研究室 日本経済評論社

――執筆者のお1人から頂戴した研究書。今回の金融危機によって、「課題先進国・日本の経験」に注目が集まっている。最近の研究から浮かんでくるのは、「日本はそんなに馬鹿ではなかった」ということ。ただし、「こうすれば良かった」という解決策はなおも分からず、アメリカに同情は出来るけど、アドバイスは出来ない。バーナンキさんは、「日本のようにはならないぞ」とばかりに全力を尽くしているようですが、さて・・・・。


<11月8日>(月)

○久々にツィッターまがいのつぶやきを少々。


米民主党について。下院Minority Leader(院内総務)に、ナンシー・ペローシが出馬の意向。信じられない。あれだけの歴史的大敗を喫したのに、「医療保険改革や社会保障を守るために戦いたい」などとおっしゃる。アンタのその姿勢のせいで、民主党は大敗したんじゃなかったのか。

○今回の中間選挙の結果、2006年に大量当選した「ブルードッグ」と呼ばれる中道派議員は半減し、医療保険改革で反対票を投じた議員たちも軒並み総討ち死にした。他方、ブルーステーツに陣取るリベラル左派の議員たちは結構しぶとかった。結果として、ペローシは党のリーダーの座を維持してしまうかもしれない。なにしろ彼女は金集めは滅法強いし、リベラル派の受けは悪くないから。

○共和党側から見れば、こんなにオイシイ話はない。「あれだけ負けても変わらない、民意の届かない民主党」を象徴する人事だからだ。無党派層はますます民主党を見放す。オバマにとっても、頭が痛いだろう。本当は「アメリカを再統合する」のが、彼の公約の原点だったのだから。ダメになりはじめた組織は、こんな形でどんどん勝手にダメになっていくのでしょうか。


レアアースについて。市場規模1000億円の産業に、補助金1000億円が注ぎ込まれる。年明けには在庫が切れる品目があるかもしれないと聞くと、それもむべなるかな。ただし、使われるのは資源確保の鉱山権益などが中心で、リサイクルを推進する「都市鉱山」にはあまり手が回らない。そりゃそうだ。民間企業のリサイクルを手伝おうと思ったら、相当に長期の取り組みが必要だが、予算は単年度主義だもの。「都市鉱山」はできれば理想的だが、現実的にはなかなか大変らしいよ。


情報管理について。日本の組織は「全社一丸」であることが前提なので、セキュリティに特段の配慮をしなくても、情報は漏れないことが当たり前だった。ところが今や組織のタガが緩んでいる。「組織の恥」がどんどん外に漏れる。っていうか、今まではなかった「内部告発」が、ごく普通に行なわれるようになった。そろそろ情報管理のあり方を、考え直さなきゃいけない時期にさしかかっているのではないか。

○今回の「尖閣ビデオ」の漏洩も、そういう文脈で捉えるべきなんじゃないだろうか。かつての自民党時代は、与党と官僚機構の利害が一致していたから、情報が外へ漏れなかった。今は「政治主導」という名の下に、上司が部下に喧嘩を売ってくる。義憤に駆られた部下が情報をリークし、上司はそれを「倒閣運動だ」「クーデターだ」などと騒ぐ。でも今回のケースで言えば、仮に映像をリークした海保隊員が名乗り出たら、民意はそっちを支持しちゃうだろう。「隠した方がよっぽど問題だ」ということで・・・・。


<11月10日>(水)

○明日からソウルでG20、その後は横浜でAPEC。月末にはメキシコでCOP16が始まる。さてもさても、首脳会談の多いことよのう。

○昔の日本国首相は、せいぜい年に1度のG8先進国首脳会議が晴れ舞台で、外遊が多くて席の暖まる暇がない、なんてことはなかった。「国会の会期中に首相が外遊するのは国会軽視である」なんていう野党の理屈はその当時にできたもので、今では適合しないことは明らかである。それが今ではAPECがあり、ASEAN+3があり、東アジアサミットがあり、年に2回もG20がある。せっかくだから国連総会にも出て演説しましょうか、てなことになる。いやはや、忙しい。

○こうなると首相の仕事のうち、「首脳会談に出ること」がかなりの比重を占めるようになる。なにしろ首脳会談の出来が悪いと、一気に国の評判が落ちてしまう。最近、喧しい中国に対する批判も、昨年のCOP15が転換点であったというのは衆目の一致するところである。が、この手の会議ばかりは経験を積む以外に方法がない。野党の党首をいくらやっても、外交の経験値は高まらない。その辺は、先代の首相が身をもって示している。

○ということは、少しでも外交が得意そうな人を首相に選び、なおかつ長くやってもらう以外に方策はない。その点、G20は今回が5回目で、すでに日本の首相は3人目である。なんとも空しいものがありますが、菅さん、果たして外交問題でどの程度の伸び代があるでしょうか。


<11月11日>(木)

○若い頃からいろんな勉強会を作ったり、参加したり、運営したりしてきましたが、この可能性にはまったく気がつきませんでした。

●「まなびとプロジェクト」 http://www.jimin.jp/jimin/daigakuin/manabito/igyosyu.html 

○なんとですな、あなたがやっている非営利の異業種勉強会に、「講師と会議室」を無料で提供して差し上げましょう、というのである。それも政党が。つまり、あの自民党本部の中の会議室を使って、いつもの勉強会のメンバーが集まって、例えば政調会長殿を講師にお招きして、「あの〜ゲル先生、日本の安全保障はどうしたらいいのでありませうか」なんていう質問ができてしまうのである。期間限定で、申し込みは11月15日まで。詳しくは上記URLをご覧ください。

○勉強会を実施するときに、よく障害となるのが会議室なんですよ。特に昨今はセキュリティの厳しい建物が多くなり、迂闊に部外者が入れなくなっちゃったんですよね。不肖かんべえはその昔、経団連ビルや大蔵省の会議室を使った夜間の勉強会に出入りしていましたが、今ではまったく不可能になってしまいました。その点、今でも鷹揚に部外者を入れてくれるのは、意外と公的政党のビルなんです。

○他方、政党側としては、夜間に開いている会議室を無料で貸し出して、ついでに空いている議員を講師に仕立てて、お話を聞いてくれる人がいるなら勿怪の幸いというもの。なぜ、これを野党時代の民主党が思いつかなかったのか、不思議なほどです。コロンブスの卵ですな。「TPPで農水族の真の意見を聞く」とか、「尖閣問題の対応策を問う」なんて企画は、ちょっと面白いと思うのですが。


<11月12日>(金)

○最新号のForeign Affairsが大変に面白そうである。11-12月号です。"The World Ahead"という特集ですが、「国際政治におけるパワーとは何か」を問う本格的な論考が多いようです。もちろん、これだけの量を読みこなすことは並大抵ではありませんが、とりあえず「読んだ気」になって軽くコメントしてみましょう。

November/December 2010 Volume 89, Number 6



The Future of American Power
Joseph S. Nye Jr.


It is currently fashionable to predict a decline in the United States' power. But the United States is not in absolute decline, and in relative terms, there is a reasonable probability that it will remain more powerful than any other state in the coming decades.

(ご存知、ジョセフ・ナイ教授。私的には、アメリカは没落しているんじゃなくて、金融危機の後遺症に苦しんでいるんだと思うんですよね。だから集中治療期間が必要だと思うんですが、そういう認識を持ってる人が少ないようなので、ちょっと心配であります)



Leading Through Civilian Power
Hillary Rodham Clinton

To meet the range of challenges facing the United States and the world, Washington will have to strengthen and amplify its civilian power abroad. Diplomacy and development must work in tandem, offering countries the support to craft their own solutions.

(ヒラリーさん、頑張っておられるようです。写真がいいです。ほどよく皺の刻み込まれたいい顔になりましたね)



American Profligacy and American Power
Roger C. Altman and Richard N. Haass

The U.S. government is incurring debt at an unprecedented rate. If U.S. leaders do not act to curb their debt addiction, then the global capital markets will do so for them, forcing a sharp and punitive adjustment in fiscal policy. The result will be an age of American austerity.

(財政を何とかしなきゃ、マズイだろ、という論考。アメリカの現状は、ポール・ケネディが唱えた『オーバーストレッチ』ではなく、内政の失敗である。イラク・アフガンの戦費よりも、ブッシュ政権時に減税と支出拡大を同時にやったことが失敗だった。それをもたらしたのは、党派色の強い政治だった。これ、とても納得です。それにしても、「現在米財務省証券の50%は外国で保有されており、中国だけでその22%を保有している」という指摘はちょっと驚いた)。



Irresponsible Stakeholders?
Stewart Patrick

A major strategic challenge for the United States in the coming decades will be integrating emerging powers into international institutions. To hold the postwar order together, the United States will have to become a more consistent exemplar of multilateral cooperation.

(新興国を既存の国際体制に組み入れる、というのは誰もがおっしゃることですが、上手くいきませんなあ。特に中国は。何となく今はインドが「いい子」になってますが、それだって分かりませんぞ。そこから先のことを考えなけりゃいけません)



○てなわけで、こういう骨太な考え方をしなければいけません。特に今のような時期はね。


<11月14日>(日)

○ちょこっとアメリカに行ってきます。ただ今成田空港。APECで警戒厳重かと思って早めに家を出たのだけれど、どうということはなかったですな。

○ところでこれ、ちょっと面白いっす。オバマさん、まるでホンモノのラッパーみたい。

●US-Sino Currency Rap Battle

http://www.youtube.com/watch?v=IGYAhiMwd5E&feature=player_embedded 

○歌詞もよく練られていて、考えさせられますな。まさに「敵対」でもなければ「蜜月」でもない、「米中融合」の実態がよく表現されています。しかしまあ、こういう世の中とはいえ、凝ったものを作る人がおりますなあ。

○ということで、「パワーとは何ぞや」「米中関係はどうなるか」「日米同盟をどうするか」てなことを、アメリカで考えてきます。あー、しかしエリザベス女王杯を見られないのがまことに残念である。まあ、またサンテミリオンから買って玉砕しちゃいそうだけど。


<11月14日>(日)in USA

○エコノミークラスで、両側を挟まれた席で12時間。いやー、疲れた。足がしびれます。しかも東海岸行きは時差が辛いんですよねえ。結局、機中ではあまり眠れず、ワシントンに昼頃に着いたときには頭の中は深夜。そういえば隣の席の人は、ワインを7本飲んで見事に全部寝てました。あれは見事なものでありました。ちょっと真似できませんが。

○でも、こちらに来てみると、紅葉の季節のワシントンは良いものですね。ジョージタウンまで歩いて、ナベさんお奨めのベトナム料理でホーをすすり、バーンズアンドノーブルで書籍を探す。ブッシュ大統領の回顧録が出てますね。果て、買ったものかどうしようか、迷った挙句に辞めました。分厚いし、売り出し早々35%オフはないだろう。さて、あとしばらく寝ないで頑張って、明日はしっかり起きて頑張ろう。


<11月15日>(月)

○今日はボストンへ日帰り出張。シャトル便で1時間半飛ぶと、こちらの紅葉はまた一段と見事であります。今回の出張はJFIR研究プロジェクトで、有識者へのヒアリングを実施したり、ワークショップを開催して意見交換をしたりという日程です。

○で、ボストンでは畏れ多くも、ハーバード大学ケネディ・スクールのジョセフ・ナイ教授の研究室を訪問。1時間とっていただいて、「ソフトパワーとは何ぞや」のインタビューを実施いたしました。不肖かんべえも3つほど質問させてもらいましたが、久々に緊張いたしましたな。ということで、「ソフトパワー(あるいはスマートパワー)」に関するにわか権威となりつつあります。

○ボストンと言えば、元祖ティーパーティーが起きた場所である。こちらのテレビを見てますと、新しく誕生したティーパーティー議員たちを呼んでは、初々しい新人議員(ただし実際の任期は年明けから)たちの意見を聞いたり、からかったり、そうかと思えば「われらが代表」と持ち上げたりしている。いよいよ「レイムダック議会」が始まるということで、彼らの一挙手一投足に注目が集まっているようです。今後の予算の削減は、「仕分け」どころではない厳しさになるかもしれませんな。

○さて、先日はオバマさんのラップを紹介しましたが、日本の国会中継からも傑作なラップ作品が誕生したようです。いやー、新たな時代の雄弁術というべきか。ホントはこれ、笑っていられない内容なんですが・・・・。

●「言っちゃった」質問をラップにしてみた

http://www.youtube.com/watch?v=SlKtLbByWbg 


<11月16日>(火)

○今日のワシントンは雨。スマートパワーをめぐる旅はなおも続いております。

○そもそもハードパワーとソフトパワーの「区分け」自体がかなり難しくて、普通に「軍事がハードパワーで、外交がソフトパワー」とか、「軍事力や経済力などがハードパワーで、文化力や学術がソフトパワー」という分け方をすると、少なくとも学問的には誤りとなります。もともとの定義からいくと、「強制的に相手に言い分を利かせることがハードパワーで、知らず知らずのうちにこちらの思い通りにしてしまうことがソフトパワー」となります。だから軍事力であっても、「海軍さんはカッコいいなあ」という印象を与えることは、ソフトパワーだということになる。もちろん、「誤用」は枚挙に暇がないのですけれども。

○その上で、「ハードパワーとソフトパワーを賢く使うこと」が「スマートパワー」の定義となります。それだったら、スマートパワーという言葉は、「戦略」といったいどこが違うのか。実はあんまり変わらないらしいのですね。「スマートパワーの時代がやってきた」と宣言することは、「ちゃんと戦略を持ちましょうよ」と言っているに等しい。なんだかアホらしいですか? でも、「スマートパワーの時代だ」と言い切ってみると、なんだか新しい地平線が拓けてくるような気もする。まあ、Buzzwordの正体なんてそんなものかもしれません。

○言葉が変わると、実態も変わったように見える。ではなぜ言葉を換えるかと言えば、「ヒラリー・クリントン国務長官は、とにかくブッシュ時代とは変わった、ということを示したいんでしょう」という醒めた見方もある。「財政制約があるから、軍事力が使いにくくなった」ということもあるわけで、ただしそれをあからさまに言ってしまうと、アメリカに敵対する勢力の侮りを招いてしまうのもツライ。その一方で、「国家として物語を生み出す力が重要である」(J.ナイ)などと聞くと、おお、これは面白そうではないか、という気がしてくる。日本外交にとっては「使ってない筋肉」みたいなものですから。

○ということで、本日はCSISでワークショップを開催し、アメリカの知日派人脈の大物多数をお呼びしてディスカッション。自分の出番がとりあえず終わったのでちょっと脱力しました。しかしまあ、シンクタンク系の人たちというのは、なんであんなに話し方が早いんだろう。話についていくのが大変です。


<11月17日>(水)

○今日のワシントンは朝からほのかに暖かい。欧州系シンクタンク、元駐日公使、議会スタッフを訪ねて、最後はCSISのオープンセッションがあって、これで4日間の日程が終了。明日の飛行機で帰国であります。強行軍でありますが、本プロジェクトは外務省予算なので、ついつい過酷な内容になってしまうのであります。

○その割りには、結構いいものを食っていたような気がする。初日はイタリアン、2日目は中華、3日目はスペイン料理であった。それというのも、プロジェクトリーダーの神谷先生が健啖家であって、副将格にナベさんというワシントンの「ぬし」みたいな人がいて、どこへ行っても「この近所の○○にある××が旨いんですよ」と教えてくれてしまうものだから、ついつい食べてしまうのである。ああ、また出張すると太ってしまう。一方、中年男が3人揃って、食事制限のない身の上であるのは、めでたいことであるのかもしれない。

○最終日のディナーは、元国防省日本部長とご一緒にステーキ。巨大なリブ、盛りのいいサラダ、どでかいデザートが次々に登場。それらを遠慮なく制覇していくので、全員揃って「Responsible ステーキ・ホルダー」になってしまった。帰国したら、しばし地味に暮らそう。


<11月20日>(土)

○ということで、日曜に出かけて金曜に戻るという強行軍の米国出張が終わりました。戻ってきて皆が異口同音に言うのは、「このくらいの方がラクかもしれない」。いや、確かに時差に慣れないままに戻ってくると、戻ってきてからが楽なのである。ついでもって言うと、1週間以上留守にすると、日本国内の仕事が積みあがってしまって収拾がつかなくなる。年を取ると出張も大変なのだ。

○「スマートパワー外交」の話は、来年3月までにJFIRの提言としてまとめることになりますが、「パワーとは何ぞや」という議論はまことに深い。帰りの飛行機の中で、メンバーの宮岡先生(慶応大学)が、「安全保障論におけるパワーは、経済学における貨幣みたいなものかもしれません」とおっしゃるので、ははあ、なるほど、と感心いたしました。つまり基本中の基本というものは、定義が難しいのであります。

○まだまだ書きたいことは山ほどあるのですが、後は来週号の溜池通信でまとめることといたします。それでは。


<11月21日>(日)

○今頃になって、当家ではやっと地上波デジタル放送が見られるようになりました。いやー、やっぱ映像がきれいだわ。何といっても、千葉テレビで競馬中継が見られるのがありがたい。メトロポリタンテレビも見られるらしい。などと今頃言っているのは、我ながらかなりカッコ悪いのではないか。などと言いつつ、ついついテレビを見てしまう。大相撲もいつもよりキレイに見えるではないか。

○しばし日本を離れていると、日経平均が1万円台に戻っていたり(自力じゃないですよ、信じちゃダメよ)、白鵬の連勝が止まっていたり(残念だけど、止めたのが魁皇でなくて良かった)、作詞家の星野哲郎氏が亡くなっていたり(いやー、たくさん作ったんですねえ)、いろんなことがあったようです。これだけは向こうでも見ていたニュースは、英国のロイヤルウェディングでありまして、ああいうのはアメリカ人も好きなんですねえ。やっぱり絵になるニュースは、メディアは無視できないということのようです。

○日米ともに政治のニュースは眼を覆わんばかりのものが多いので、ついついスポーツや芸能モノが見たくなります。そんな私を誰が責められよう。


<11月23日>(火)

○昨日は菅原出さんが来訪。でもって、彼のウェブサイト用の対談を収録。そのうち掲載されると思いますので、後日、覗いてみてください。もちろん、話した内容なんぞはたいしたことないんですが、写真を撮ってくれたのが戦場カメラマンの横田徹氏なのである。こんなフツーの人物写真を撮るには、もったいないような気もするのだが。それとも撮る人次第では、こんなワシでも精悍に写ったりするんだろうか?(ない、ない)

○戦場カメラマンにもいろいろあるんだそうだ。横田さんはちゃんとアフガニスタンの危険地帯に何度も足を踏み入れ、ドンパチ撃ち合っている中で撮影しているんだけれども、世の中には難民キャンプの映像を撮って回って、「戦場カメラマン」を自称する人もいるらしい。ああ、最近よく見るあの人のことね、と言ったら、菅原さんが笑ってましたけど。(ちなみに横田さんの名刺の肩書きは、普通に「写真家」であった。そりゃそうだよな、自分で「戦場カメラマン」とはよう言わんよな)

○考えてみれば、2007年までは菅原さんと一緒に東京財団で若手安保研を運営していた。その頃は国際情勢ネタや安全保障問題をやっていたけれども、2008年のリーマン危機以来は経済問題が忙しくなって、当「溜池通信」も外交・安保ネタからずいぶん遠ざかっていたような気がする。実を言うと先週のアメリカ出張中も、久しぶりの安全保障問題に頭がついていかなくて、往生していたのである。

○などと書いていたら、朝鮮半島で本当にドンパチやっているらしい。大事にならなければいいけれども。なにしろ今の日本の政権は、そういうのの扱いがとっても下手でありますから。もっともメディアが「戦場カメラマン」をお笑いのネタにするあたり、世の中全体が平和ボケしている感があります。


<11月24日>(水)

○鉱工業生産や稼働率のデータを見ると、だいたい5月頃がピークであって、その後はズルズルと落ちている。いわゆる「足踏み状態」だけれども、そろそろ半年近くなるので、次の方向性が見え始める頃ではないかと思う。足下の10-12月期GDPはマイナス成長だろうが、年明け以降が上向くのか、それとも下降局面に入るのか。株価が上がっている、なんてのは典型的な金融相場(ご本尊はアメリカのQEU)なんで、そこはあんまり当てにならない。かといって、このまま果てしなく悪化していくようでもない。

○正直なところ、確率的には半々くらいじゃないかと思う。おそらく日本国内を見ていても答えはどこにもなくて、海外経済の動向いかんでありましょう。中国の物価上昇はどうなるのか、欧州の財政危機は抑えられるのか、そしてアメリカの雇用は回復するのか、などを見ていくほかはありません。さしあたっては、貿易統計ですかね。輸出が大事です。なにしろ他力本願の日本経済ですから。

○とはいうものの、昨今の国内経済はどんな感じなのか。今月の景気ウォッチャー調査を見てみると、相変わらず「家電エコポイント制の駆け込み需要」だの、「エコカー補助金の反動減」だの、「タバコ買いだめの反動」みたいな話が満載である。冴えませんのう。

○と言いつつ、よくよく見ると新しい話もあるではないか。以下はちょっとした話のネタなどに。明るい話もけっして少なくはないのであります。


* 中国人観光客は今年の夏と比べて少なくなっていない。一番の問題は日本人観光客の減少。(北海道・土産屋)

* 新幹線の延伸開業等で観光関連の受注を期待(東北・広告代理店)

* 中国がけん引する形で、油圧ショベルを中心とした建設機械需要が本格的に回復している(北関東・一般機械器具製造業)

* 羽田空港の国際線拡充効果に期待(南関東・旅行代理店)

* 自動車、半導体、流通などで派遣社員募集再開が出始めている。求人数は前年同月比118%と回復基調(東海・人材派遣業)

* 今まで低迷していた高級ブランドに復調の兆し(北陸・百貨店)

* 北米向けで注文が入るようになった(中国・一般機械器具製造業)

* ドラマの影響による四国ブームで上向き傾向である(四国・観光型旅館)

* 11〜1月の予約数が伸びている。大きなコンペが目立つ。客単価は伸び悩むが、見通しは明るい(九州・ゴルフ場)


<11月26日>(金)

○タクシーの運転手さんに、「吉崎さんでしょ」と話しかけられました。私もいちおう、「テレビに出てる人」ではあるのですが、こういう経験は過去を全部足しても3回目くらいです。たぶん目立たないタイプなんだと思います。そしたら運転手さん曰く、「私も吉崎という名前なんです」。ははあ、それで覚えてたのか。その運転手さんは福井県出身なんだそうで、ウチの先祖は浄土真宗のお寺さんだから、たぶん福井県の吉崎御坊がオリジンなんだと思います。やっぱり北陸の苗字なんですな。

○昼飯にいつもの和喜へ。かきフライを頂戴した後で、マスターの意見を拝聴する。「今週末はナカヤマフェスタとブエナビスタ、どっちを信頼しますか?」「うーん、エイシンフラッシュ」・・・・・なんという欲深な。でも、ワシも当日は、ペルーサから買って玉砕しそうな気がする。ここはやはり、小幡先生の思い切りの良さを信頼すべきではないだろうか。他方、馬券王先生はわけの分からない外国産馬を推奨するような気がする。いやあ、今年のジャパンカップは迷いがいがあります。


<11月28日>(日)

○この週末の土曜日、妙に柏市内はレイソルTシャツを着ている人が多いと思ったら、この日はホーム最終戦、しかもJ2優勝とJ1昇格を決めた直後で、日立台サッカー場の近くは、文字通りイエローに染まっておりました。相手がファジアーノ岡山と聞いて、「こりゃあもらったも同然」と思ったかどうか。でも、こういうときって難しいんですよね。結果は引き分け。来期はJ1で頑張ってほしいっす。

○黄海では米韓共同軍事演習を実施。北東アジアに緊張が走ります。先週末の溜池通信、From The Editorの欄で、「ジョージワシントンは核を積んでるんじゃないか」と書いたら、複数の方から「アメリカはもう戦術核は廃止してるんじゃないですか」とのご指摘あり。あらら、それはそっちが正しいはず。

○日曜はジャパンカップに出撃。あえなく轟沈。久しぶりだったせいか、マークシートをぬり間違えて、違う馬券を買ってしまうなど、平常心を失っていることはなはだし。でも、間違えなくても外れてた。間違えたときに、買い直しをしてはいけないというのは、これは鉄則でありますな。

○沖縄県知事選は仲井真さんが勝ちました。日米の安全保障関係者はホッと一息でしょう。でも、「ひと安心」ではない。マイナスがゼロに戻ったくらいで、普天間の問題はまだまだ続く。他方、先週来の北朝鮮の砲撃が、どの程度選挙に影響したのかは、ちょっと気になるところではあります。


<11月30日>(火)

○昨日、日本国際問題研究所の50周年記念パーティーがありました。吉田茂が作ったという伝統ある外務省傘下の外交専門シンクタンクなんですが、他方では「仕分け」の対象になっているということもあり、時節柄、注目材料には事欠きません。昨日は、ホテルオークラで多くの外交関係者、学者、在京公館の人々が呼ばれておりました。それ自体は慶賀すべきことなれど、ちょっと残念な会だったんですよね。

○何といっても、前原外相のご祝辞にガッカリしましたな。公務のために45分遅刻してきたのは仕方ないとして、まことに平板で通り一遍な内容で、要するに「お祝い申し上げます。今後ますますのご発展を」という定型的な挨拶でありました。いかにも秘書がやっつけ仕事で書いた原稿をそのまま読んだという感じで。そうでなくても朝鮮半島情勢が緊迫しているにもかかわらず、外務大臣としての言及はまったくなし。わざわざやって来た外国の大使たちからみれば、「なんじゃアレは?」という肩透かしであったかと思います。

○で、前原外相が到着するまでは、麻生元首相が講演されました。これがいつものべらんめえ調で、いささか漫談風で品位に欠けておりまして、当節あんまり民主党批判などはされない方がいいと思うんですよね。ご本人としては、政権を明け渡してしまった最後の自民党総裁としての無念さがあるのでしょうけれども。それでもこちらは、「自由と繁栄の弧」の話や、「財政難による防衛費縮小が進む中での日本の安全保障」などといった論点が盛り込まれていて、少しは戦略的な話が入っていただけマシであったかと思います。

○当日の引き出物(?)として配布されたのが「『国際問題』記念撰集」で、50年にわたって刊行されてきた『国際問題』の傑作選となっております。これがなかなかのスグレモノでありまして、過去半世紀にわたる主要な外交論考が盛り込まれている。編集の任に当たった渡邉昭夫先生が、最後に壇上に立って苦労話をされたれたんですが、その時点で時間は大幅に過ぎておりまして、時計を気にしながら席を立つ聴衆が後を立たず、皆さん気もそぞろ。結局、何が言いたかったのかよく分からないという結末で、まことに残念であったのでした。

○それにしても日本の外交関係者がこれだけ集まって、まことに魅力に欠ける会合に終わってしまったという点に、いろんな問題が凝縮されているように感じました。気の毒なのは外国の大使たちで、逐語訳で英語への翻訳が行なわれたとはいえ、「今日の会合は何だかよく分からなかったなあ」ということになったんじゃないでしょうか。これじゃソフトパワー外交なんてできません。もうちょっとサービス精神豊かじゃないと、外国人の関心を集めて日本の評価を上げるなんて不可能ではないかと思います。

○ひとつだけ感心したのは、「『国際問題』記念撰集」を編纂する費用は、麻生太郎さんのポケットマネーから出たのだそうです。なおかつ、本書の中のどこを見てもそんなことは言及されていない。おそらく麻生さんとしては、「ウチの爺さんが作った研究所なんだから、そのくらいはさせてもらうぜ」「でも、照れくさいから大きな声で言うんじゃねえよ」というのが彼なりのダンディズムなのでありましょう。この手のカッコよさは、最近の日本ではだんだん稀有の存在になりつつあるような気がします。










編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki