●かんべえの不規則発言



2016年6月






<6月1日>(水)

○安倍首相が増税の延期を宣言しました。霞が関方面では、こんな声が飛び交っているそうです。


「もう安倍さんの好きにやってもらっていい。7月の参議院選挙は与党が勝つでしょう。その後に(ひょっとしたら年後半に?)行われるであろう衆院選も盤石でしょう。そうなったら、自民党総裁としての任期延長も、たぶん誰も反対はしません。そうなったら2020年の東京五輪開催式出席もできるし、任期切れの瞬間には憲法改正の発議をやってもらってもいい。でも、お願いだからその前に、2019年10月の再増税だけはちゃんとやってくれ〜!」


○財務省、心の叫びでありました。そうかと思うと、こんな風に理解を示す声もある。


「消費税は呪われた税金なんです。最初に言い出した大平首相は憤死されました。制度を創設した竹下首相は、あっけないくらいの短命政権となりました。5%に増税した橋本首相も短命内閣となり、ご本人たちもあの世に逝ってしまわれました。それくらい大変な仕事なんです。安倍さんは消費税を8%に上げて、なおかつご本人が元気なんだから、それを多とすべきです。あと2%分は、どなたかほかの人にお任せた方がいいくらいじゃないでしょうか」


○日本政治において、なぜ消費税はかくも鬼門なのか。このテーマ、意外と議論が広がるような気がいたします。


<6月3日>(金)

消費増税延期の裏側、というお話を東洋経済オンラインに寄稿しましたのでご参考まで。


<6月4日>(土)

○最近聞いた話で印象に残ったもののメモ。


「イタリアだって北と南では民族が違います。ヨーロッパの歴史は民族大移動の繰り返しなんです。シリアの難民が入ってくるというのも、昔だったら普通のことなんです」(欧州暮らしの長い人の経験談)

――ゲルマン民族大移動の時代から、ずっとそれですものね。ちなみに日本も、縄文時代には大混血時代があったそうです。


「東京都知事選に出て、元議員さんが取れるのはいいとこ30万票くらいです。でも、都知事になるには100万票以上を取らなければいけなくて、そんなことができるのは普通の人じゃありません」(某政治記者)

――元大阪市長とか、元宮崎県知事とか、誰が来るかわかりませんわな。だからまともな人は出馬しません。ということで、舛添降ろしはおいそれとはできないんです。


「あのおばさんはたいしたことない、と皆が言い出してる。ミャンマーの未来もこれで一安心です」(某援助関係者)

――スーチーさんのいい評判を、初めて聞いた気がする。


「日本の中小企業のほとんどは赤字。つまり会社の利益を私的に流用している。その結果、中間投入量が増えて会社の付加価値が減ってしまう。税金をきっちり取ったら、日本のGDPは増えますね」(元統計関係者)

――そういえば「舛添に対して怒っているのはサラリーマンと主婦だけ」(自営業者は当たり前のことだと思っている)という声もあったりして。


「パナマペーパーで政治家本人の名前が出たのは、ウクライナのポロシェンコ大統領とサウジのサルマン国王だけ。このことにどんな意味があるのか」(某セミナーで飛び出した質問)

――どんな意味があるのか分かりませんが、プーチンも習近平もキャメロンも逃げ切って、あの事件はせいぜいここまでですな。


「原発の電気をいちばん使ってきたのは団塊の世代です。だったら核のゴミの処分場くらいは、自分たちが生きているうちに決めるのが筋でしょう」(エネルギー関係者)

――でもあの人たちの多くは、「マンションにトイレを作らせないことが正義だ」、と思っているんじゃないかなあ。


「浮世絵に描かれた江戸時代の山はほとんどが禿山です。日本の国土が緑になったのは戦後のことです」(林野政策関係者)

――畏れ多くも天皇陛下に、植樹祭で全国を回ってもらいましたからなあ。でも花粉症が増えるという副作用もありました。


<6月6日>(月)

○お昼に国会議員会館に行ったら、とっても閑散としてました。もう国会も終わって、後は1か月先の参院選モードなんですね。東京都選挙区の自民党2人目も、間もなくさるアスリートが出馬宣言をするのだとか。まあ、当方は千葉県民なので関係ないのでありますが。

○それにしても舛添都知事の記者会見は下手ですねえ。あんな感じでは、いつまでたっても「底打ち」感は出ませんですよ、謝罪するとき、値引きするとき、譲歩するときは、皆が「あっ」と思うほど踏み込まないと、「なーんだ」という反応を招くのが落ちであります。終わってから「ケチくさい会見だった」と思われることが最悪のシナリオです。

○今度の参院選、民進党にとっては新しい党名で臨む初めての選挙となりますね。かねてからの持論ですが、民主党という党名は鳩山家に献上してしまえばいい。そうしたら、「鳩山一郎と由紀夫が首相になるための足掛かりにした政党」という評価で歴史に残るでしょうから。

○問題は新しい民進党が、共産党と一緒になって「左の隅の3分の1」を取りに行っていること。3分の1以上を確保すれば、憲法改正が出来なくなるから、という動機づけがあるのでしょうが、たぶん自民党から見ればこんなに結構なことはない。与党にとっていちばん怖いのは、野党が中道に向かって2分の1を取りに来ることであります。

○夜は代官山で会合。とっても久しぶりに行きましたが、あいかわらずおしゃれな街ですね。でも、人はあんまり多くなかったような。帰りはちょっと遠かったです。


<6月7日>(火)

○どうやらヒラリー・クリントンさんが代議員数の半数を確保し、民主党候補者の座を固めた模様。どのみち、今日はカリフォルニア州、ニューメキシコ州、モンタナ州、サウスダコタ州、ニュージャージー州の5州で予備選挙が行われる。「カリフォルニア州が開いて勝負がつく」というのは、将棋で言えば王の頭に金が乗って、即詰みに打ち取るまでやる、ということに近い。プロ同士の対局では、普通はその前に負けている側が投げる。が、バーニー・サンダース候補は投了せず、この後も党大会まで戦いを続けると言っている。とはいえ、逆転はしないだろう。

○問題はその先である。よく世論調査の支持率を見て、「クリントン候補とトランプ候補の支持が接近している」から、いい勝負だという人が居る。ただし世論調査の数字をまともに受け止めるのは考えもので、あれは「今日は投票日だとしたら、誰に投票しますか」を聞いているに過ぎない。それよりも、(いつも言っていることで恐縮ですが)、ブックメーカーのオッズを見る方が信頼度は高い。今日現在の数値を見ると、ヒラリーが少し上がって1.4倍、トランプが少し下がって3.25倍となっている。まあ、先週末の安田記念のように、単勝1.7倍のモーリスが来なくて、35倍のロゴタイプが来ちゃうこともあるので、その辺が競馬、いや選挙の怖さではあります。

○しかるにもっとプロであれば、エレクトラルカレッジ方式で判断すべきです。米大統領選挙は各州ごとの選挙人の数の積み上げですから、全国規模のポピュラーボートはあんまり関係ないんです。いつもお世話になっているCook Political Reportの分析を見ると、驚くべき地殻変動が起きている。昨年8月時点の調査では、例によってレッドステーツが206人、ブルーステーツが217人とくっきりと分かれ、「今年もパープルステーツの9州、115人分の取り合いですなあ」という形であった。それが今月5月調査では、ブルーステーツの合計が304人。既に過半数をクリアしてしまっている。


Solid D Likely D Lean D Toss Up Lean R Likely R Solid R
16 STATES 1 STATES* 7 STATES 4 STATES* 2 STATES 2 STATES 19 STATES
California (55) Maine-02 (1) Colorado (9) Iowa (6) Arizona (11) Indiana (11) Alabama (9)
Connecticut (7) Minnesota (10) Florida (29) Nebraska-02 (1) Georgia (16) Missouri (10) Alaska (3)
Delaware (3)   Michigan (16) New Hampshire (4)     Arkansas (6)
District of Columbia (3)   Nevada (6) North Carolina (15)     Idaho (4)
Hawaii (4)   Pennsylvania (20) Ohio (18)     Kansas (6)
Illinois (20)   Virginia (13)       Kentucky (8)
Maine-AL (2)   Wisconsin (10)       Louisiana (8)
Maine-01 (1)           Mississippi (6)
Maryland (10)           Montana (3)
Massachusetts (11)           Nebraska-AL (2)
New Mexico (5)           Nebraska-01 (1)
New Jersey (14)           Nebraska-03 (1)
New York (29)           North Dakota (3)
Oregon (7)           Oklahoma (7)
Rhode Island (4)           South Carolina (9)
Vermont (3)           South Dakota (3)
Washington (12)           Tennessee (11)
            Texas (38)
            Utah (6)
            West Virginia (5)
            Wyoming (3)
190 votes 11 votes 103 votes 44 votes 27 votes 21 votes 142 votes
  304votes   44 votes   190 votes  


○例えばいつも激戦地となるフロリダ州やペンシルバニア州が、Toss upではなくLean Dに分類されている。これぞまさしく「トランプ効果」で、「赤から青へ」の地滑り現象が起きているのである。いつもならToss upのコラムに入る州が、ごっそりとLean Dに移動している感がある。

○ということで、このままいくと共和党に勝ち目はありません。ただしそこに一抹の不安があるのは、「民主党が一本化できるか」であります。つまりサンダース支持者がちゃんとクリントン支持に回ってくれるのか。下手をすれば、第三政党で出るぞ、みたいなことになって、共和党にあり得ない勝利をプレゼントしてしまうかもしれない。逆に共和党側は、「正直、やってられないけれども、俺たちは大人なんだから、ファンファーレが鳴ったらちゃんとゲートに入るんだ」とトランプ支持を確認しつつある。

○おそらく今週中に、オバマ大統領が「ヒラリー支持」を打ち出して党内融和を図るだろうと思います。アメリカも日本と同じで、右派政党よりも左派政党の方が団結しにくい。が、団結できれば安全に勝てる。2016年選挙はともすればトランプ候補の言動に注目が集まるのですが、むしろ勝敗のカギを握っているのは民主党内部の力学なのかもしれません。


<6月8日>(水)

○たまたま今日、長野県に行っておりました。そこでの会話から。

「田中康夫元知事が、参院東京選挙区から出馬するそうですが、何かご感想は?」

「あの人が県政に居る間は、碌なことはなかったですな。でも、今から思えば田中知事時代の業績として残っていることは、@県庁から記者クラブがなくなった、A教員中途採用の年齢制限がなくなった、Bワインと日本酒の産地表明が定着した、くらいでしょうかね」

○これをもって立派な業績だと考えるか、あれだけ大騒ぎしてたったそれだけかと呆れるか、「脱ダム宣言はどうなったんだ」と突っ込みを入れるかは、人それぞれでしょう。とりあえずワシ的な反応としては、田中知事が止めてしまった記者クラブ制度が、とうとう復活しなかった、という点が、いかにも理屈っぽい長野県民だな、という点に好感を持ちますな。(ちなみに長野県警は、今でも記者クラブがあるんだそうです)。

○ちょっと人の悪い発想をすると、元作家とか元タレントが生活をしていくためには、ときどき皆さまに存在を思い出してもらう必要がある。そのためには、選挙に出るのがもっとも手軽なパブリシティとなる。当選すればもちろんラッキーだし、落選しても今さら失うものはない。ところが参院選というのは、少々、供託金がお高いので、個人ではおいそれとは出られない。その点、おおさか維新の会が選挙に担いでくれる、という話は、田中氏にとってたぶん渡りに船であったことでしょう。東京で出られる、と言うことも併せてね。

○昔からの持論でありますが、選挙で投票するときの鉄則は、「知らないロクデナシよりは知っているロクデナシを」であります。とはいえ、それでスポーツ選手やらタレントやらを選びすぎちゃって、まともな人が少なくなって、いまさらどうにもならなくなっているのが参議院であります。今の東京都知事にもそういう感じがありますね。3年前の参院選では山本太郎を選んでしまったし、東京選挙区はとにかく変なところなんです。

○仮にですよ、舛添さんを引き摺り下ろして、その後に増田寛也さんとか片山善博さんあたりが都知事になってくれるのであれば、そういうのもいいんじゃないかと思います。でも、悲しいかな、そういう真っ当な人は勝てないんですよね。今、東京都知事選をやったら、やれ小池百合子だ、蓮舫だ、などという呼び声はありますが、ビートたけしさんが出てきたら、きっとそっちの方が勝ってしまうでしょう。それこそ魑魅魍魎、何が出てくるかわからない。

○いやもう、危なっかしくて見ていられない。とまあ、ワシが住んでいる千葉県も、知事は森田健作さんなんで、他所のことはあんまり言えないんですけどねえ。


<6月10日>(金)

○早起きしてテレビ東京「モーサテ」へ。いつも月曜日に出ることが多いのですが、今日は金曜日。番組関係者一同は、「今週はこれでお終いっ!」というモードになっているのが、ちょっと新鮮である。森田京之介アナ、伊藤京子アナはお久しぶりでしたね。

○本日の「プロの眼」は、「どちらが抜け出す?大統領選の行方」でした。それから今日の経済視点は、「ミレニアル世代」といたしました。今年の選挙は世代論が重要になってくるように思います。

○その辺の話をしたら、番組の時間切れ間際になって、佐々木キャスターが森田アナに向かって、「生活苦しい?」などと振ってました。それじゃあテレ東は若手社員に給料払ってないのか!というツッコミが入ったかもしれません。ということで、「今日のオマケ」では若い世代の切なる声をたくさん聞いてしまいました。

○会社に立ち寄って、今週の溜池通信をバタバタと仕上げる。そこから新幹線に乗って大阪へ。

○新横浜駅に着く直前、なんだかワシの周囲に席を立ちあがってそわそわしだした客が3人ほどいる。どうやらVIPが乗り込んでくるのを待ち構えている様子。はて、これはどんな人が来るんだろう、と思ったら、北野武さんでした。それにしても、ご本人がレインコートを着てこそこそと乗り込んでくるのに、付き人が持っているトートバッグに「北野酒店」と書いてあったのは、ありゃあなんなんでしょうな。ちなみにご一行は終始静かで、名古屋駅でそっと降りて行かれました。

○今日は大阪で全国鉄鋼販売業連合会さんの定時総会。そこで講演の機会を頂戴いたしました。鉄鋼販売の世界は中国の過剰生産あり、国内の需要不振ありで、なかなか大変なようではありますが、それでも「鉄の男たち」は陽気で元気であります。懇親会の席でリオのカーニバルが飛び出したのには驚きましたですな。

○できれば泊まって飲み明かしたい気分でしたが、新大阪の駅で「551」を買って帰宅。いやはや、長い一日でありました。


<6月12日>(日)

○Brexitの確率は意外と高いらしい。若い世代は「イギリスはEUの一部」であることが当たり前で、残留支持が多いとのことだが、中高年以上は離脱志向が強い。このままでは、「自分たちのことが自分たちで決められなくなる」との恐怖感があるのだろう。移民の増加も含めて、それくらい世の中の変化が急であるから。でも、離脱した後は、英国もEUもともに大変なことになりそうである。

○この構図、どうもアメリカの大統領選挙に重なって見える。つまり若者は「マイノリティの集合体としてのアメリカ」が当たり前だと思っているが、白人の中高年層はそういう変化についていけないと感じている。昔はよかった、と思っているから、「アメリカを再び偉大な国に」というトランプ候補の訴えに惹かれている。でもトランプ大統領が誕生してしまったら、以下同文。

○それらに比べると、わが国の変化はわりと遅々としているせいか、お年寄りがあんまり焦っていないように見える。せいぜいご近所の保育所の建設に反対するくらいである。なにしろシルバーデモクラシーの先進国でありますからな。その実態は、「若肉老食」であるのかもしれませんけれども・・・。


<6月13日>(月)

○本日は名古屋財界の集まりである「丸八会」へ。ここは地元企業経営者と、大企業の支店長と、官庁の出先機関の長などによる異業種交流会、もしくは親睦会である。

○名古屋は今ではあれだけの大都市であるのに、政官財の人脈の間には、「まるで人口50万人以下の都市のような、濃密なコミュニケーションがある」とのこと。なにしろ丸八会の野球チームは、ナゴヤドームを借り切って、中日ドラゴンズのOBチームと試合をやるというのだから今どきすごい。不肖かんべえも、1打席でいいから参加させてもらって、山本昌投手のナックルボールを打ってみたいものである。(←打てるはずないけどね。念のために言っておきますが、軟球です)。

○丸八会が終わると、名古屋のVIPたちは市内に散開し、「夜の商工会議所」を何軒もハシゴするのが吉例であるらしい。その中でも有名な「なつめ」へ連れて行ってもらいました。なるほど聞きしに勝る高級クラブでした。というか、ワシ的には、かつて日銀名古屋支店長時代の速水優さんを覚えているママさんに話が聴けた、という点が感動ものでした。

○結論として、名古屋は深い。あ、そうそう今日生まれて初めて「天むす」を食べました。


<6月14日>(火)

○Brexitが洒落にならなくなってきました。投票日は23日だというのに、10日前から呪いが発動してしまっている。これではFOMCも日銀MPMも無意味に等しい。なおかつ、これで「離脱」が勝ってしまったら、向こう2年間、「英国とEUとの交渉がどうのこうの」ということで振り回されてしまうことになる。そんなこと、ホントはどうだっていいんだけどなあ。

○みんなの関心が高い舛添都知事の去就。もともと違法性はないんだし、8月のリオ五輪の閉会式ぐらい行かせてやれよ、辞任は9月でもいいでしょ?とワシ的には思っているのだが、ここまで人間的に見苦しいとさすがに弁護する気も萎える。この期に及んで、「不信任案の提出を猶予してくれ」とは情けない。「8月末には必ず辞めるから」となぜ言えないのか。やっぱりセコ過ぎる。

○ドナルド・トランプ氏はメディアの悪口を言うし、記者の締め出しもやったりする。でも、記者会見は毎週、受ける。だってナルシストだから。ヒラリー・クリントン氏はメディアを持ち上げる。でも、記者会見は滅多に受けない。だってナルシストだから。さて、メディアから見ておいしいのはどちらか。

○昨日行っていた名古屋のニュースから。名古屋城の天守閣を木造で復元するという計画。心意気は大いに荘とすべきなるも、河村市長殿、減税しながら地方債を出して、城を再建するってどうなのよ。何のために政治をしていたのか、忘れちゃったのではないのかな。


<6月15〜16日>(水〜木)

○日本政策金融公庫の中小企業懇話会の講師として釧路へ。たんちょう釧路空港に着いた瞬間に、空気がひんやりとしていて心地よい。梅雨の首都圏から来ると、この空気が何よりのご馳走である。あいにくなことに、土産に持って帰ることはできない。11年前の9月に釧路に降り立ったときも、この空気に感動したのであった。

○聞けば6月から9月にかけては、この冷涼な気候を利用して、各地の学校の体育部が釧路に合宿に来てくれるのだそうだ。泊まったホテルにも、ジャージ姿の女子高生などがいっぱい来ておりましたな。大いに結構なことでありまして、若い時に行った場所は大人になってからまた行きたくなるものである。釧路市としては、将来への投資をしているようなものですな。

○せっかく釧路まで行くのだから、根室まで足を延ばして納沙布岬で北方領土を見てこようか、などと事前に良からぬことを一瞬、考えました。しかるに北海道はやっぱり広くて、どう計算しても一泊旅行ではどえらい強行軍になってしまうのである。さらに今週は、舛添辞任とFOMCと日銀MPMとBrexitなどの行事が目白押し。これはもう、素直に帰れと言うことでありますな。

○ということで、15日夕方に釧路の経営者の方々を前に一席ぶつ。それにしても、間近に迫った参院選よりも、その先に行われる東京都知事選に関心が集まるのは、いかがなものならむ。夜は立食パーティー→2次会→3次会。釧路の夜の街で地元のものをいただきました。ホッケもいいけど、ニシンもいいですね。

○翌朝はモーサテで、鈴木敏之さんのFOMC解説をちゃんと見る。なるほど、こうなるのも無理からぬ感じで、後は9月に利上げが出来ればいいですね、って感じか。ちなみに北海道はほとんどの地域で、テレビ北海道を通じてテレ東番組が見られるとのこと。

○朝食はホテルで食べてはもったいない、ということで釧路の街を散策。駅の近くにある「和商市場」にて、名物の勝手丼を堪能。ここはご飯の上に、「あれを乗せろ、これを乗せろ」と注文ができてしまう。なんと、ホッケやシシャモまで生で食べられてしまうのである。花咲ガニも乗せて、しゃけとイクラも欠かせない、などと欲張っているうちに値段は跳ねる。でも、「イカも頼めば良かった!」と後悔するワシはとっても欲張り。

○帰ってきた直後に、函館で地震があったとか。どうしてこう続くのか。過去には、釧路沖や十勝沖でも大きな地震が起きている。できれば天災は、「忘れた頃に」起きてほしいもんです。


<6月17日>(金)

○このところ、東京都知事の騒ぎに隠れて、すっかり影が薄くなった参議院選挙ですが、こういうデータがありますのでご参考まで。

●第24回参院選挙 http://www.realpolitics.jp/senkyo/2016sangiin/senkyoku.php ちなみに比例区はこちらをご参照。

○うーん、あらためて候補者を見ていて、なるほどこれはひどいと思った。是非とも当選してほしい、一票を投じたい、と思える人がじぇんじぇん見当たらない。逆に「落としたい!」と切に思う人は何人かいるけれども。

○でも、これが国民が選ぶLaw Makersと呼ばれる人たちの候補者リストです。なおかつ、あんまり彼らをイジめると、まともな人がますます立候補してくれなくなります。政治資金規正法を糺せ!なんて言うのはタダですけど、たぶん直すと政治はもっと悪化するでしょう。なにしろ今政治家をやっている人たちは、現状を「そーゆーものだ」と思って今日に至っているわけですから。

○あらためて申し上げたい。東京都知事選挙も、「政治とカネ」の問題をうるさく言いだしたら、ポスト舛添に現職の国会議員は誰も立候補できなくなりますよ。政治資金報告書を精査したら、かならずどこか引っかかるに決まっているじゃないですか。だったら政治家以外から探すしかない。でも、桜井パパが引き受けてくれますかねえ。だって飽きっぽい東京都民が、いつ引き摺り下ろしてしまうかわからんのですよ。

○あの人は知っている、ちょっと感じがいいじゃない、てなことで投票するから、こういうことになる。池上彰さんは出てくれないのかしら、国谷裕子さんはどうかしら、とか言っている時点で大きな間違いです。仮に都知事選にビートたけしが立候補したら、きっと当選してしまうでしょう。こんな調子では、地方自治に命を懸けたい、なんて人が選ばれるとはとても思えない。そして東京都の16万人の職員はますますプライドを喪失することになる。

○まあ、東京都知事はほっときましょう。それよりも国政にとって重要なのは参院選です。皆さん、18歳以上の人は現実を直視して、けっして投げやりになったりシニカルになったりせず、もちろんナイーブな幻想を持つこともなく、有権者としての権利を行使しましょう。絶望よりは妥協、棄権よりは投票です。


<6月18日>(土)

○舛添さんの辞職を最後に説得したのは、何と安倍首相であったという。第1次安倍内閣で「女は産む機械」発言で退陣した柳沢氏の後を受けて、厚生労働大臣に任命してくれた恩人である。爾来、舛添さんと官邸の関係は良かったのであるが、最後は「見るに見かねて」の説得工作となった。

○これは一種の奇観である。普通、舛添都知事の末期のような事態になれば、「地元の後援者」が反乱を起こす。「あなたねえ、今日という今日は言わせてもらうよ!」ときついお叱りを受ける。普通の政治家はそこで目が覚める。「あなたに怒られるくらいなら、やっぱり私が悪いと気がつきました」という人が、普通の政治家には居るものです。

○ところがあいにく舛添さんは、参議院の全国区で赫々たる戦果を挙げて当選してきた人であった。その次が、有権者1000万人超の東京都知事選だった。だから舛添さんには「地元」がない。叱ってくれる後援者も居ない。だから眼が覚めない。自分がどれだけ有権者から乖離しているか、誰も教えてくれなかったのである。

○これに比べれば、マスコミを通じた友人などは薄情なもので、誰も舛添さんに本当のことを耳打ちしてくれなかった様子である。「お前はもう身を引いた方がいい」と、果たして誰が言ってくれたのか。それも無理のない話であって、舛添さんが消えればそれでライバルが1人減る、というのがマスコミ界の「友人」たちなのだから。

○全国区という変な選挙区を除けば、普通の政治家は皆、地元に「怖い人」が居る。だからこそ、政治家はリアリティ・チェックができる。地元の後援者こそが、政治家にとって最大のガバナンス機関なのだ。それを持てなかった舛添さんは、実はかわいそうな人だったのかもしれぬ。

○そこでふと気がついたのだが、ドナルド・トランプ氏にも「地元の後援者」が居ない。従って彼には、耳に痛い忠告をしてくれる人が居ない。「昨日のアレは失言だよ。早く訂正した方がいい」などと言ってはもらえない。お金集めを手伝ってくれる人も居ないし、なおかつ自分が頭を下げるという習慣もない。これは結構、キツイ条件ですよ。

○これに比べれば、普通の政治家とはなんと偉大な存在であろうか。政治資金規正法がザル法だからといって、あんまり苛めちゃ気の毒である。政治資金団体なんてものは、いわば「地元の支持者」をつなぎとめておくために存在しているのだから。いわば民主主義のコストというものではないかと思います。性急な議論は、またも政治を悪くする近道でありますぞ。


<6月20日>(月)

○本日は貿易統計の5月分速報値が発表されました。昨年暮れぐらいから当溜池通信では、「貿易収支が黒字になるから、2016年は円高よ」と言い続けてきたのでありますが、5月は4カ月ぶりの赤字となりました。季節調整値でみても、4月には3970億円の黒字となっていたものが、5月は2698億円に減っています。ちょっとした潮目の変化を感じます。

○この1年くらいの貿易収支の改善は、ほとんど石油価格の下落だけで説明できてしまいます。ところがこの間、日本の輸出は増えていないんですよね。つまり輸出が減る以上の速さで輸入が減っているから、月次の貿易収支が改善しているわけ。エネルギー価格の値下がりは、日本製品の国際競争力を向上させているはずなのですが、だからといって輸出が増えているわけではない。それくらい、日本企業の現地生産は進んでいるし、海外の需要も強いわけではないのでありましょう。

○2013年には、「1か月に1兆円超」の貿易赤字を出していた日本経済が、2016年には黒字ベースに戻ったことは大ニュースでありました。ところがそれがグングン伸び続けるかというと、そういうわけでもないらしい。そうだとしたら、「貿易収支が改善するから円高」という本誌の議論も、あんまり長く続けるわけにはいかないようであります。

○ちなみに「日本は経常収支が黒字だから円高」という議論もありますが、経常収支の黒字の大部分は第一次所得収支の黒字によるものです。それはこの10年以上、ずっと続いていることであるし、日本人や日本企業が海外で稼いだ黒字はいちいち円に換えたりはしない。トヨタ自動車は、北米法人の利益を全額、日本に送金したりはしないし、外為特会が保有する米国債の金利を、わざわざ円転したりもしない。ゆえに、これらはあまり為替レートには影響しないものと考えます。大事なのは日々の取引である貿易収支の方であります。

○円高には、@貿易収支改善効果による円買い増加以外にも、いろんな理由が考えられます。A米利上げの遅れによる円高、BBrexitなどのリスクオフによる円高、Cアベノミクスに対する対外的評価低下に伴う円高、などが主なものでしょう。それに加えて、D日本は国全体が円高恐怖症である、という点も、投機筋に対して「円高に仕掛ける誘惑」を提供するという意味で、円高になる理由のひとつでありましょう。

○「なに、日本経済は円高の方が具合がいいんだ。可処分所得が増えるし、個人消費にもプラスだ。1ドル100円、結構なことじゃないですかあ」てなことをもっと多くの人が言うようになると、余計な円高要因がひとつ減るんじゃないかと思います。つまり日本経済は好き好んで、為替市場で「苛められっ子」になっているようなところがある。日本人は「痩せ我慢」をするのは得意なんですが、英国式の「ポーカーフェイス」はあんまり上手じゃないですね。「円安結構、円高も結構」と涼しい顔ができるようになると、いろんなことが楽になると思うのですが。


<6月22日>(水)

○参院選は本日公示されました。さて、どんなことになるのやら。本日時点でいくつか気づいたことをメモしておきましょう。


*有権者の関心はとっても低い。大阪でも名古屋でも釧路でもそんな感じでした。投票率は5割行くかなあ。後に東京都知事選という絶大なエンタテイメントが控えていることもあるしねえ。

*1989年のリクルート選挙、1998年の金融危機選挙、2007年の「消えた年金」選挙。参院選で自民党は、9年ごとに大敗を喫している。今年はそのジンクスが当てはまるのかどうか。

*5月時点に比べると、「マスゾエ効果」で自民党支持が低下した。問題はこれがどれだけ続くかで、速やかに忘れられていくような気も。最後の頃はさすがに苛め過ぎたからなあ。

*一人区が問題。東北は自民党が苦戦してますね。特に「2人区から1人区に減った」選挙区が絶妙のバロメーター。宮城、新潟、長野の選挙区に注目です。でも「合区」となった鳥取・島根と徳島・高知は波乱がなさそう。

*複数区では、2人区は自民・民進が分け合うので面白くないですが(茨城、静岡、京都、広島)、3人区以上になると自民と公明、民進と共産が互いに争っていたりするから面白い。選挙協力って、口で言うほど簡単じゃないです。

*比例代表で、「みんなの党」に向かっていた票はどこへ行くのか。あれは都市住民には受けやすい政策パッケージだった。似たような路線で、「おおさか維新」が意外といい線行くのかもしれない。

*今度の選挙で政党要件を失いそうな政党がありますな。慶賀に耐えず。国会議員5人とか直近の選挙で得票率が2%以上というのは、政党助成金を配るにはいささか甘い基準ではありますまいか。


○7月10日の投票日までには、いろんなことが起きることでしょう。政治オタとしては、あと2週間半、楽しませてもらうことにいたします。

○本日、鳩山邦夫さんが亡くなられたとのこと。田中角栄氏の薫陶を直接、受けただけあって、多くの政治家と秘書を育て上げられた方でした。「邦夫スクール」は永田町の一大勢力です。そのなかにはこんな人もいらっしゃいますよ。惜しまれる人は早く行かれます。合掌。


<6月23日>(木)

○今日はひろぎん経済研究所の皆さんがご来訪。たまたまこの本を読んでいたので、「知ってますか?」と聞いたら、「もちろん、知ってますよ」。

○同工異曲の企画はいくらでも成立すると思うんですよね。『福岡は熱い』とか、『札幌は旨い』とか、『金沢はキレイ』とか。でも、今はこれがいちばんしっくりくる。『広島はすごい』

○本書は、マツダにカープにダイソーやカルビーまで、「これぞ元気な広島」という話をことごとく網羅している。歴史のうんちくが深く、芸能人の話まで手広い。強いて言えば、「お好み焼き」が出てこないのが、ちょっとさびしいかな。

「オバマさんが来てくれて、良かったですわ。なんか、ケジメがついたような感じで」

と言ってらしたのが印象的でした。


<6月24日>(金)

○人生には3つの坂があって、「上り坂」、「下り坂」、もうひとつは「まさか」・・・・。これは結婚式のご祝辞などにおける、小泉純一郎元首相の定番ネタであったそうですが、今日はその「まさか」を真っ逆さまに味わった一日でした。Brexitがホントにそうなっちゃうとはねえ・・・。

○いろんな複雑な思いは、溜池通信の本日号に書いた通りでありまして、まあ、後の話はおいおい書いていきたいと思います。いやはや、忘れがたい1日となってしまいました。ちなみに昨日時点では、こんなことを書いておりました。今となっては、遠い昔のことのように思われます。


<6月25日>(土)

○今宵はBS-TBSの『Biz Street』に出演。テーマはもちろんBrexitである。第一生命経済研究所の田中理さんがゲスト。実は今まで、田中さんのレポートなどは結構読んだことがあるのだけれども、直接会うのは今日が初めてなのである。

○今日聞いた話で面白かったポイントをいくつかご紹介。以下は放送中に出なかった話も含んでおりますので、そこは念のため。

○その1。英国はこれからEUと離脱の条件を交渉しなければならないが、その後はEU各国と個別に通商交渉をしなければならない。もちろん、EU域外の日本やアメリカなどとも個別に交渉をやらなければならない。今まではEUということで一括りにされていたのだが、ひとつひとつやり直しと言うことになる。そこで問題は、「交渉官が足りない」ということである。

○そもそも英国の外交官は過去30年間、通商交渉を経験していない。もちろんブリュッセルのEU本部に出向して、EUの対外交渉を担当した官僚たちが居るから、ネゴシエイターが不在というわけではない。それでも、「自国の国益を背負って、農業やら知的財産権やら、細かな問題を辛抱強く交渉できる人」といったら、少々心もとない。そういう状態で、例えば日英間の通商交渉はどうなるのだろうか。

○たとえば日立製作所さんは、英国政府から鉄道や原子力発電所の建設を請け負っている。「英国に部品を持ち込む際の関税がどうなるか、早く決めてくれ〜!」というのが心の叫びであろう。とはいえ、英国政府から見て対日交渉の優先順位はけっして高くはない。というか、それどころではあるまい。なにしろEU各国は、「英国にだけはいい目をさせたくない」と虎視眈々としているだろう。日本側としては、交渉官はいっぱいいるのですけどねえ。

○その2。キャメロン首相が辞意を表明したので、英国保守党は早々に次の船長を決めなければならない。秋に党大会を実施して、そこで決めることになるらしいのだが、最初に現職の保守党議員たちで2人の候補者を選び、それから党員投票で党首を選ぶというプロセスとなる。ここでポイントは、「党員投票になったら、人気のあるボリス・ジョンソン元ロンドン市長で決まり」と見られていることである。

○ただしどうなんだろう。ここはボリスにやらせちゃいけないような気がする。なにしろ英国議会内も、現状では離脱派よりも残留派の方が多いのだ。保守党内でも「お前が余計なことをするから!」と言って怒っている議員は少なくないはずだ。そこでキャメロン首相の後継者をどうするか。腹心のオズボーン財務相は、バリバリの残留派なのでこれまたちょっと具合が悪いだろう。

○そこでダークホースとして急浮上するのが、テリーザ・メイ内相である。サッチャー2世の呼び声もあるとのことだが、国が窮地に陥った場合に女性をリーダーに引っ張り出すのが英国の美風(?)である。メイ内相は、移民問題で強硬姿勢をとってきたこともあり、面白い存在であることは間違いない。ただしその場合は、ボリスを次期党首候補の2位以内に入れないことが条件となる。

○その3。6月23日の国民投票には、法律上の縛りがあるわけではない。そして実際問題として、EU離脱への作業は障害が少なくない。EUとの交渉をいろいろやってみて、「これって思った以上に大変じゃないか!」ということに英国民が気がついて、「あの国民投票はなかったことにして・・・」ということはできないのだろうか。

○あいにくなことに、できないらしい。これについては、播摩キャスターのひとこと(ただしリハーサル中)が奮ってました。「だってイギリスは民主主義を生み出した国ですよ!」。失礼いたしました。間接民主主義は、直接民主主義を代替する手段として生み出されたわけでした。そして英国人とは、名誉を重んじるとともに、痩せ我慢がとっても得意な人たちなのです。でもねえ、こんな複雑な問題を国民投票で決めちゃいけないと、ワシ的には思うわけであります。

○ということで、英国はルビコン川を渡ってしまいました。6月23日の決定を覆すためには、新しい国民投票が必要になります。前回、1975年にEC残留を問う国民投票が行われ、そのときは67%対33%で残留が決まったわけですが、今回は52%対48%であります。僅差の決定は、後を引くんだよなあ。


<6月26日>(日)

○いささか直前になってのご案内となりますが、今週水曜日にこんな講演をいたします。有料にて恐縮ですが、よろしければお出かけください。

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一橋フォーラム21『中国向何処去?』

第4回「2016米中関係を読む」

■参加費 如水会員:2,000円 蔵前工業会員:2,000円 一般3,000円 学生会員無料
*各回とも、当日受付にて現金でお支払ください。

■時間  18:30〜20:00

■場所  如水会館2F「オリオンルーム」

■プログラム
[第4回] 6月29日(水)「2016米中関係を読む」
吉崎達彦(双日総研チーフエコノミスト)

■申込サイト
https://www.supportyou.jp/josui/form/95/ 

*会場のお席によっては、冷房が強くあたるところがございます。
 お手数をおかけしますが、上着での調節をお願い申し上げる
 次第でございます。

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○主催者からは、「米国の対中戦略を問う」というテーマで依頼を受けたのですが、そんなこといって、ドナルド・トランプを大統領にするかもしれない国に、戦略なんてあるわけないでしょう、と言って変えてもらった経緯があります。さて、これをどう語ったらいいのか。本番は近づいているのに、まだ悩んでおります。


<6月27日>(月)

○週末が明けると、月曜日はいろんなレポートが飛び交う。いちばん感心したのは、岡三証券の「マクロ経済アングル」だったな。タイトルが素晴らしい。「おい! 離脱かよ!」。副題が「当面の日本経済に及ぼす影響について」である。このセンス、好きだな。愛宕さん、お見事。でも、「出落ち」って気もするけどね。

○いろんな場所で同業者に会うのだが、皆さんお疲れ気味という感は否めない。休まらない週末を過ごされたものとお見受けする。その点、ワシなんぞは昨日の宝塚記念で、余計な手傷を心と財布に受けておるしのう。それでも今日の株式市場と為替市場はほどほどの反発で引けました。まあ、先週が悪過ぎましたからね。できれば、この辺で落ち着いてほしいですなあ。

○いろんな場所で似たような話になるのだが、この疑問はなかなか答えにくい。それは「イギリスとアメリカの白人中高年は滅茶苦茶怒っているみたいなのだが、日本国内にはそんなに怒っている人が見当たらない。なぜか?」

仮説その1:日本の年寄りは恵まれているから。

――移民に仕事を奪われるとか、医療機関が長蛇の列になるとか、そこまで辛い目に遭ってない。せいぜい「近所に保育園ができる」ことに反対する程度である。

仮説その2:社会の変化が遅れているから。

――ロンドンの黒キャブの運転手は皆が「離脱派」だったとか。それは移民が運転するUberに客を奪われているから。この手のサービス、日本は既得権が強いから入ってきませんよね。

仮説その3:日本人はそもそも大きなことでは怒れない人たちだから。

――都知事の公私混同、みたいな「せこい」話では怒るのですが・・・・。まあ、正直なところ、「大きな怒り」を抱えている人はつきあいにくいので、私もそういう手合いは苦手でありますな。

○そういえば参院選もやっているようです。そこへ飛び出したのが、「中国がAIIBの諮問委員を鳩山元首相に依頼」の報道。記事には「日本の首相経験者を迎え入れることで、日米を切り崩す狙いがありそうだ」とあるが、馬鹿も休み休み言えといいたい。鳩山さんが受けてしまったら、ますます日本は入れなくなってしまうじゃないですか。それこそ「国民投票を実施してAIIBを離脱せよ!」という世論が澎湃として巻き起こることになるぞ。

○これでまた民進党の票が減りますなあ。ある議員さんが言ってましたけど、「僕らが一生懸命がんばって、少し支持率が上向いてくると、かならず鳩山さんがスゴイことをやって、努力が全部無駄になるんだよなあ」。せっかく名前も変えたことだし、他人の振りをするしかありません。それにしても、国民はなかなか忘れてくれないんですよね。民主党政権時代への怒りを。


<6月28日>(火)

○Brexitから5日目ともなると、いろいろな事情が呑み込めて参ります。さすがにこれだけの悲劇となると、誰か1人の責任に帰せるような単純な問題ではなくて、偶然にもいくつもの要素が重なり合って発生しているのですね。

●第1の罪:もともと「保険のかかっていないギャンブルを平気でする」性癖があるデービッド・キャメロン首相が、必要もないのに国民投票をやると言い出した軽率の罪。

●第2の罪:そのキャメロンの盟友かつ腹心であるジョージ・オズボーン財務相が、急激な緊縮政策によって国民の分裂と離反と、移民への反感をもたらした吝嗇の罪。

●第3の罪:首相になりたいという政治的野心のために、途中から離脱派に転じたボリス・ジョンソン元ロンドン市長が、私利私欲に走って国策を誤った不誠実の罪。

●第4の罪:あることないことを笑顔で言いふらす「にやけた堺雅人」ことナイジェル・ファラージ英国独立党党首が、哀れな有権者を扇動し、脅迫し、騙した虚偽の罪。

●第5の罪:残留を目指す党の方針に沿って努力すべきところを、ふん、俺はEUなんて嫌いさ、とサボタージュを決め込んでいたジェレミー・コービン労働党党首の不作為の罪。

○あと2人こじつけると「7つの大罪」が出来上がります。まあ、それ以外にもタブロイド紙とか、ユーロクラットの鈍感さとか、ほかにもいっぱい問題はありますからね。

○つくづく政治の世界は怖いです。他山の石とせねばなりますまい。とりあえず安倍首相は、「おー、危ないあぶない。国民投票って怖いんだあ」と受け止めているのではないでしょうか。


<6月29日>(水)

○Brexitで忘れていたけれども、参議院選挙はちゃんと行われています。忘れちゃいけません。

○選挙情報と言えばRPJ(リアル・ポリティクス・ジャパン)です。これはアメリカの政治サイトRCP(リアル・クリア・ポリティクス)と名前はそっくりですが、特に資本関係などがあるわけではありません。アメリカ政治をすこしでも知っている人なら、この名前にピンと来るはずだということで、日米の政治オタク(つまり当溜池通信読者とよく似た性向を持つ人たち)をターゲットにしている、というのが正直なところです。

○このサイトの中で、「世論調査研究会、参院選序盤座談会」が本日、掲載されました。不肖かんべえも協力しております。この中では特に、「こんなにも違う一人区の調査結果」(いちばん下の方)の指摘が面白いと思います。つまり読売と日経が与党を引き締めるような書き方をしていて、毎日新聞は「野党不利」と書くことでアンダードッグ効果を期待しているように見える。

○とまあ、ネット時代のありがたさで、マスコミ各紙の「魂胆」が簡単に見透かせるような世の中になっております。その手は桑名の焼きハマグリ。今週末あたりには、各紙の中盤戦情勢が伝わることでしょう。Brexitがあったので、これまた与党に追い風になるんじゃないかなあ、などと考えております。


<6月30日>(木)

○昨日は如水会館「一橋フォーラム」の講師を務めました。このセミナー、何と今回で91回目である。若い頃にはよくワシも通っておったのである。

○1980年代後半の社団法人如水会は気前が良くて、1シリーズ12コマくらいの講義を1万5000円くらいの料金で提供してくれていた。おカネのなかった当時はありがたい存在であった。大学時代にはちっとも面白いとは思えなかった講義が、社会人になったら急に面白く感じられるようになったので、毎週火曜日、午後7時から1時間半の会合によく通っていたものである。そして当時の一橋大教授は、確かに偉い先生が多かったように思う。

○細谷千尋先生の日米関係史の講義を聞いたときのことは、今でも詳細に思い出すことができる。おそるおそる手を挙げて、「日米開戦はどうやったら避けられたか」というありがちな質問をした。「1931年の満州事変以降は難しいように思うのですが、いかがでしょうか」と尋ねたところ、「歴史とはそういうものではない。真珠湾攻撃の直前でも、いくらでも避ける手段はあった。ただしそれ以前に、日本がハリマン提案を受けていたら、そもそも開戦などということにはならなかっただろう」といった答えだった。その後、細谷先生にはいろんな場所でお目にかかることとなり、亡くなられる直前まで年賀状を交換していた。こういうのも学恩の一種であろう。

○そんな風にして、如水会館に通っていたら、S総務部長に顔を覚えられた。「君はよく来ているねえ」と声をかけられ、「ところで、次の企画は何がいいと思うかね」などと意見を求められた。こちらも調子に乗って、「ネットワーキング論はどうでしょう」などと当時の流行を軽薄に答えたところ、ホントにその通りになってしまった。お蔭で今井賢一、金子郁容、松岡正剛といった人たちの講義を聴くことができた。今から考えても、あれは儲けものであった。若い時期に聞いた話は、いろんな形で体内に残っているものである。

○最近のワシはもうてんでダメダメで、昨日会った人に聴いた話も思い出せないくらいである。まあ、年を取るというのはそういうもので、新しい知識が入りにくくなる。残念なことではあるが、人は老いるし、いつかは死んでしまう。S総務部長も、惜しいことに鬼籍に入られた。人望のある人であったから、如水会にとってもまことに大きな損失である。

○今日は米中関係をテーマにいろんなことをお話ししたのだが、それを誰かが覚えてくれていたらまことに幸いなことである。なにしろ大学に居た4年間、ちっとも勉強しなかった生徒の成れの果てが、壇上に立っていたわけなので。









編集者敬白



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by Tatsuhiko Yoshizaki