<12月1日>(金)
○モーレツに忙しいある大学教授の話。いつもスケジュールが自分の意思とは無関係にうまっていくので、先手を打って手帳にところどころ「MM」と書きこんでおくのだそうだ。要するに時間をブロックしておくのである。そうやって自由な時間を確保しておく。MMとはMeeting
Myselfの意味。かんべえさんは重要人物でも忙しいわけでもありませんが、さすがに40歳ともなると疲れてくるし、思い通りにならないことも増えてくるので、今日はMMの日としました。だから会社もお休み、溜池通信本誌もお休みです。
○スターバックスには有名なコンセプトがあるのだそうで。CEOであるハワード・シュルツ氏によれば、同社が目指すのは「職場でも家庭でもない、第三の場所(The
third place)を提供すること」。なんとなれば、現代人にとっては職場も家庭も、あまり憩いの場ではないことが多い。だから自分が自分にかえってホッとする場所が必要なのだという。おいしいコーヒーや暖かいコミュニティ空間を提供することで、第三の場所を演出するのがスターバックスの使命なんだそうだ。
○とはいっても、"Meeting Myself"するための時間と空間は、だれかが気を効かせて作ってくれるものではない。自分で苦労して作らなければいけない。取り合えず時間だけでも押さえておく。するとまあ、午前中のんびり家で寝ていられるだけでも、ずいぶん気分が変わったりする。ときどきはこういうお休みがあるといいですな。
○夜はこんな場所に出かけたりして。毎月1日に集まる会合なので、お別れの際には「良いお年を」「来世紀もよろしくね」という挨拶が飛び交った。本当に早いものですね。風邪気味だから早めに失礼しようと思っていたのに、またも最後(午後11時)まで残ってしまった。こちらは"Meeting
Many persons"の時間でした。
<12月2日>(土)
○ひとから指摘されて「あっ」と驚いたのですが、実は溜池通信の99年6月4日号「小渕政権の選択肢」で筆者はこんなことを書いているのです。なにしろ2年前のことなので、自分でも書いた内容をすっかり忘れていた。初期に試行錯誤しながら書いていた頃のものなので、このHPでも掲示していない。あらためてここで紹介します。それでは永田町小噺のはじまりはじまり〜。
小渕首相の夢枕に神様が現れた。神様は、
「小渕よ、最近のお前の働きは殊勝である。わしはお前を見直した。ご褒美に、何でもいいから願い事を3つかなえてやろう。好きなことを望むが良いぞ」
そこで小渕首相は、
「はい、それでは次の3つをお願いします。
@
まず、景気が悪くなりそうなので、できるだけ早く解散・総選挙をやりたいのです。
A
次に、この夏の自民党総裁選挙は、できれば無投票で再選されたいと思います。
B
最後に、自自公の枠組みが、このまま安泰で続きますようにお願いします」
「小渕よ、こういうときは普通、景気の回復とかコソボの停戦とか、もう少し人々の役に立つことを願うものではないのか?」
「いえいえ神様、私は小人物ですから、目の前のことで手いっぱいです。ぜひ今の3つをかなえてくださいませ」
「よろしい。それならば安心するがよい」といって神様は消えた。
さすがは神様で、3つの願いはすべて実現した。
@ まず、会期切れ寸前の通常国会で、民主党が内閣不信任案を出すと、自民党加藤派がこれに同調し、賛成多数で成立してしまった。かくして7月には解散・総選挙となった。
A 次に総選挙の結果は自民党の大敗で、領袖クラスも軒並み総討死にとなり、自民党総裁選挙を行っても対立候補は出なかった。おかげで小渕は無投票で再選された。
B
首班指名選挙を行うと、加藤首相、菅副首相による連立政権が誕生し、自自公は野党に転落した。苦境に立ったことで、自自公の結束はますます強くなった・・・・。
○なんとも示唆に富む予言になっております。ご丁寧なことに、筆者はこの小噺のあとにこんなコメントを追加している。「この小噺のようなシナリオは、まず実現する可能性はないといっていい。・・・・池田首相以来、保守本流を自認する宏池会の加藤派が、自民党を離脱するはずがない」。ホントにそうですよね。
○その一方、こんな小噺(長すぎるのが欠点)をちゃんと覚えている人がいるから恐ろしい。99年6月9日に伊藤洋一さんのHPでこの小噺が載り、それをこの方が読んで覚えておられた様子。なんと現職の国会議員の方です。
○野中さんが幹事長を辞任。辞意表明は11月21日午前だったというから、加藤政局に大勝利を収めた翌日。出る引くの感覚がお見事で、まるでビスマルクのようですな。「森降ろし」はまだあきらめていないという気がします。その場合、次の総理は神奈川県選出のKさんでしょう。どっちって?さあ・・・・
<12月3日>(日)
○テレビ局の人に聞いた話ですが、BSデジタル放送は2007年までは採算が取れないのだとか。家電製品が普及するには、それくらいの期間が必要らしい。たしかにうちもBS受像機を買う予定はない。だってCS放送もあるのに全然見てないんだから。1日に24時間しかないのに、よっぽどのキラーコンテンツがなかったら、新しい放送番組に手を出そうという気にはならない。
○そこでさる民放では、BS放送には露骨に手抜きの番組を並べている。受像機が普及してから本気を出せばいい、という考えらしい。これはひとつの見識というものであろう。真面目に作っている民放もあり、こちらは毎年100億円程度の赤字を覚悟しているのだそうだ。横並びの競争だけは止めた方がいい。「BSデジタル放送なんてどのチャンネルも同じ」という印象を与えてしまうから。
○しかしこのご時勢に7年待つとはいかにも気が長い。ブロードバンドの普及は意外と早そうだから、インターネットを使った放送事業がBSより早く普及するかもしれない。米国生まれのフォーリンTVは日本でも放送メニューを拡大しようとしている。日本ビデオニュースドットコムなんてのもある。これらが提供する動画サービスは、CATVなどの回線を使えば十分に見ることができる。
○こうしたネット上の新興勢力は、コンテンツの制作コストが安い。郵政省の規制から自由なのも強みである。記者クラブに入ったり、自主規制する必要もない。その一方で、不利な条件も少なくない。たとえば報道番組を作るときには、膨大な資料映像を必要とする。民放など既存のメディアはその点で安心しているのだろう。いわばBSデジタル放送が正規軍だとすれば、インターネット放送はゲリラ軍というところか。
○これと同じ図式になっているのが、既存の出版社とインターネット上の活字情報である。「毎晩寝る前に不規則発言を読んでます」などという読者の出現は、出版社にとっては非常事態というべきであろう。なにしろネット上の活字コンテンツは、読むときに金を払えとはいわない。一昨日、八重洲ブックセンターで長時間過ごしてみたが、「本になっている情報は、ほとんどが無駄な上に高い」としみじみ思った。「IT」と題名に入っている本など、ほとんどがクズのようなもんですがな。(唯一、買おうかなあと思ったのはリー・クアン・ユーの回顧録でした。でも、どう考えても読みとおす時間がない。今度図書館にあるかどうか見てこよう)。
○電波でも紙でも新旧のメディアが競争している。こういう戦いは、最後には給料の安い連中が勝つものだと思う。
<12月4日>(月)
○『シックス・デイ』という映画があるのだそうです。「またか」という気がします。察するに原題名は、"Six
days"ないしは"The Sixth day"なんでしょうけど。その一方で『13デイズ』という映画も封切られる。こっちはちゃんと複数形になっている。わざわざ変な英語を教えているようで、ちょっと抵抗を感じるな。
○少し前には『シックス・センス』(The sixth sense)という映画があった。これは「はあ、第六感の事をいいたいわけね」とすぐ分かったけど、これも中学生レベルの間違い。さらに前には『フォー・ウェディング』という邦題名があった。これもひどい。原題名は"Four
weddings and one funeral"。単数系、複数形は初歩の間違い。「英語公用語論」という勇ましい議論があったが、まず手始めにこの手の間違い英語を身近から根絶することから始めてはどうだろう。
○わざわざ文法の間違いをするくらいなら、ちゃんと翻訳して『六日間』とか『四つの結婚式』にすればいいのである。無理して英語をカタカナにするからおかしなことになる。『ホワット・ライズ・ビニース』という映画もあるんですって?これが何を意味するか、しばらく真剣に考えこんでしまいました。「ライズ」はお日様が上がるのか、嘘をつくのか、「ビニース」なんて英単語があったっけ、など。要は"What
lies benearth"なんですって。だったら『その陰に潜みしもの』とでも訳せばいいじゃないか。
○原題名は、もし可能であるならばそのままにしておいてくれた方がいい。しかし日本語に訳すべきタイトルもある。『ホワット・ライズ・ビニース』はあんまりだよ。コピーライターや映画会社の重役さんは、ぜひ『フィクションはタイトルで泣け』を読んで勉強してもらいたい。映画の邦題といえば、昔は名訳が多かったけど、最近はあまり思いつかない。かろうじて"Clear
and present danger"を「いまそこにある危機」と訳したのが思い浮かぶけど。
○そういえば『6デイズ、7ナイツ』という映画もありました。これは旅行先での冒険談なのだが、こういうときの数え方が日本語と英語では違う。日本では旅行のときに出発日と帰宅日を計算に入れるので「三泊四日」といったいい方をする。英語表現の場合は入れないから、同じ日程が"2
days and 3 nights"になる。だから"6 days and 7
nights"という映画は『七泊八日』と訳すのが正しい。・・・・ま、その辺は適当でいいと思いますけど、とにかく変な邦題名をつけるな!と声を大にして言いたいぞ。わしは。
<12月5日>(火)
○今夜は勉強会にて年忘れ放談会を実施。加藤政局から2001年の経済動向などを語りましたが、なんとまあ悲観論者の多いことよ。つい最近、悲観に転向したかんべえさんなどは、相対的な楽観論者であることが判明しました。どうもエコノミストや民間人に比べ、官僚やジャーナリストの方が一段と悲観的です。
○期せずして意見が一致したのは、「向こう1〜2年間、日本経済にハードランディングはない」ということです。矛盾していると思います?まあお聞きなさい。目下のところ最大のリスクが、財政赤字拡大による長期金利の上昇であることは衆目の一致するところでしょう。今日の日本政府の財政赤字は、平時としては世界史上でも最大の規模になります。普通、借金がこれだけの規模になれば、金融市場は「これはもう返せない」と踏んで金利は上昇する。そういう脅しがあるから、政府には財政を健全化しようというインセンティブが働く。
○ところがそうはならない。日本国債は外国人の保有率がわずか6%だから、きわめてドメスティックな市場。なかには農林中央金庫のように、「うちは外貨も株も駄目」というような参加者がいて、せっせと国債を買ってくれる。ムーディーズが日本国債を格下げすると、外国人が売るから安い価格で国債が買え、「おかげで高い金利で買えた」と喜んでいるセイホがいたりする。サラリーマン意識の投資家としては、怖くて円債以外は手が出せないのだ。サムライ債がぼちぼち出始めているが、衆寡敵せずといったところか。要するに「政府の赤字がインフレを招く」といった古典的なシナリオは考えにくいのである。
○そうでなくても市場は金余り。資金需要の強い産業であるゼネコン、不動産、流通、商社などは、むしろせっせと借金を返している。製造業の設備投資はほとんどキャッシュフローの範囲内でやっている。家計も法人も資金余剰である。起業家がアニマル・スピリッツを失っている状態では、金の借り手が見当たらない。借りてくれるのは政府しかない。むしろ金利の低下を心配しなければならないほどである。
○そうなると当面考えられるのは、今のままの状態がぐずぐずと続くこと。ぬるま湯というか、先送りというか、日本国としては衰退シナリオとなろう。「投資家の世代交代があれば、もっと市場原理が働くようになるだろう」という声もあったが、「今のシステムを続けている限り無理なんじゃない?」という意見の方が説得力があった。面白いな、と思ったのは、「2つの直間比率を変えれば日本は変わる」という意見。つまり直接税から間接税へ、間接金融から直接金融へという改革が進めば、本当の意味の金持ちが誕生するから、投資にも市場メカニズムが働くというわけ。
○衰退シナリオというものをどう考えるか。大英帝国は19世紀から延々と時間をかけて衰退し、サッチャーの登場でやっと歯止めがかかった。日本の場合もひと世代かふた世代をかけて、ゆっくりと衰退するのではないだろうか。これはそんなに悪い話ではなくて、「アメリカに戦争をふっかける」ような馬鹿をやらかさない限り、ハードランディングにはならない。なにしろ「不況で滅んだ国はない」のである。日本経済にはまだまだ強い部分が残っているし、貯金もあるから食いつぶすのに時間がかかる。また、国境が無意味化する「帝国の時代」にあっては、「日本は駄目でも俺はハッピー」という人もいるだろう。
○ということで、「改革しよう」という民意は生じない。過去の例を調べると、本格的な財政改革が実現するときはハイパーインフレか戦争があったときがほとんどなのだそうだ。今の日本はどっちも考えにくい。これが閉塞感となって、冒頭の悲観論につながる。外圧があるときだけは変わるけど、それがないときは変われない。21世紀になっても、そんな状態が続くのでしょうか。
○「今の自民党は現状維持が精一杯。改革なんて出来ない」というのは、加藤政局からこの方の国民のコンセンサスでしょう。その反面、いわゆるリベラル勢力の中から、今の日本に必要な改革へのモメンタムが生まれてくるとも思われない。鳩山さんが「課税最低限の引き上げ」という勇気ある発言をしても、民主党内の労組勢力につぶされてしまう。そんなことで痛みを伴う改革ができるはずがない。
○迂遠なように思われるかもしれないけど、「保守主義の概念」というものの整理が必要だなと感じています。戦後政治をリードしてきた自由民主党には「伝統回帰型」の保守(岸―福田―中曽根)と、「経済重視型」(吉田―池田―宮沢)の2つの潮流がありました。市場メカニズムを重視し、小さな政府を志向するような「新保守」の発想はなかった。だから「2つの直間比率の是正」のようなことができない。必要なのは改革のバックボーンとなるような理念であって、それを抜きにして「リーダーよ出でよ」といっても始まらない。・・・・てなことを考える深夜の自宅。
<12月6日>(水)
○昨日の長文に対してHさんから質問あり。余談ながら先日、当欄でHさんについて触れたときに、間違えてSさんにしてしまった。あとで理由に気づいた。Hさんの本名は「ヒ」で始まるんだけど、なぜか江戸っ子風になまって頭の中で「シ」にしてしまったのだ。シドイ話だよね。ゴメンねHさん。
○Hさんの質問の大意はこう。「株が上がるなり、景気がよくなるなり、とにかく資金需要が出てきさえすれば、これまで国債に向かっていた資金の流れは止まるはずである。そうなればやはり長期金利は上昇し、インフレになって、円安になって、庶民が困ることになるのではないか」。ご本人は「素人の意見」と謙遜されていますが、まったくそんなことはなくて、妥当かつ鋭いご質問だと思います。というより、それが正論なんです。
○「財政赤字が増えると、長期金利は上昇する」。こんな簡単な法則を疑っているようでは、常識を疑われます。ところが「長期金利が上がる」と言っている人は、実は何年も前から同じことを言い続けている。ストラテジストの場合は、ほとんどオオカミ少年状態になってしまい、信用はとうに地に落ちている。昨日などは10年もの国債が1.6%ちょうどまで下がったらしい。要は投資家が「株も上がらないし、景気もよくならない」と信じている証拠である。残念ながら今の日本経済は、普通の常識が通じない変な状態になってしまっているのだ。
○「なぜ?」という問いに対し、筆者が知る限りもっとも説得力がある議論を展開しているのはリチャード・クーで、彼は原因を「バランスシート問題」に帰している。銀行も企業も家計も、そろって借金を返すことに夢中になっている経済では、金を借りてくれる人がいないから金利がどんどん低下してしまう。この前提に立つと、政府はむしろどんどん国債を発行して金を借りて使わないと、経済は縮小均衡に陥ってしまうという、実に不健全な結論に達する。この考え方はエコノミストの間では理解されているが、霞ヶ関や本石町やジャーナリストの間では不評である。無理のない話だと思う。
○官僚たちが長期金利上昇という事態を警戒するのは当然です。財政の規律を守るべし、というのは正しい。それにインフレになったら、庶民が苦しむ。それこそ責任感のある態度というもの。反対に堺屋前経企庁長官などが、「あんまり財政再建を急ぐと景気失速を招く」と発言すると、なんだか無責任に聞こえてしまう。でも現状は堺屋説に近いと筆者は考えている。
○以前に「ハードランディング待望論者が増えている」という話を書きました。そういう論者に対し、「じゃあハードランディングってどんな状態ですか?」と聞くと、「ハイパーインフレでしょう」という答えが返ってくる。「本気でそうなると思いますか?」と畳み掛けると、そこで普通の相手は沈黙する。次に「仮にインフレになったとしますよね。そうなるとゼネコンや私が勤めている会社のように、借金の多い会社は息を吹き返しますよ。住宅ローンの担保割れで苦しんでいる人も助かりますよね。本当にハードランディングってあるんですかね?」・・・・ここまで言うと、周囲で笑いが生じる。とにかく、筆者に対して説得力のある「日本経済地獄絵図」を説明できた人は、今のところ会ったことがない。
○結局、筆者が想定する日本経済の未来は、奈落の底に落ちていくといったものではなく、今のような状態がずるずると続くことになる。もしも長期金利が上がるようなら話は別である。そうなったら急いで仕事にかからねばならない。既得権を失うからと文句を言う人がいても、「だってこのままじゃハードランディングしますよ」と言って黙らせればいい。でも、おそらくそうはならない。銀行や企業や家計がせっせと借金を返済し、それぞれのバランスシートをきれいにするときまで、このズルズル状態が続くと思う。おそらくあと2〜3年。大事なのは、その間に景気の腰折れを招かないことだ。いつまで続くぬかるみぞ。
<12月7日>(木)
○そろそろこのシンドイ話題を変えようと思っていたところに、「先崎君に次ぐ2番目のかんべえの弟子」を自称する山根君から、以下のような豪速球のコメントをもらってしまったので、一昨日からの話題を続けます。山根君は関西の某有力大学の経済学部大学院生につき、師匠よりもはるかにオーセンティックな知識の持ち主なので、当方としても居住まいを正してお返事を書かねばなりません。といいつつ、体内のアルコール濃度が高い午前1時の執筆作業につき、多少ヨレヨレになるのは覚悟の上で以下のお答えをしてみます。
○その@。「民間セクターは全体としてリスクをとりにくくなっている。かわりに政府が借金をしてお金を使わないと,有効需要が減少してしまう。『じゃ、どうすればよいの?』と言われると困るけど、リスクをとったらいいことがあるかもしれないという期待が、民間セクターに生まれないとどうにもならないと思います」
○同感です。要は政官財のあらゆるセクターでことなかれ主義がはびこっており、預金者さえも「確定利回りでないと嫌だ」などというワガママを言っている。ところがリスクテイカーがいないことには、本来の市場が持つダイナミズムは発揮できない。そこでリップルウッドなりソフトバンクなりが勝負をかけてくると、そういう手合いは胡散臭いからいかがなものかという話になってしまう。私利私欲を否定してしまったら、資本主義なんて成立しないはずなんだけど、変な倫理観(これは自分の根性のなさを正当化するための方便だと思うのだけど)が幅を利かせているために、民間セクターが変にお行儀良くなってしまっている。
○そのA。「景気が本格的に回復したら、たしかに財政赤字の問題が深刻化するかもしれない。でも、景気が回復すれば、解決の手段も増えるわけで、無責任なようですが、それは景気が回復してから考えても遅くはないと思います」
○問題はまさに、この議論が不謹慎に聞こえてしまうことです。企業、家計、金融機関など、あらゆる場所におけるバランスシート問題が解決しないことには、今の異常な状態は解消できない。それには少なくとも2〜3年はかかるだろう。そこで重要なことは、とにかく景気の失速を避けることである。ここで1997年の失敗を繰り返したら最後、「あと10年の空白」を覚悟しなければならないでしょう。しかるにこういう意見が世の中のコンセンサスを得ることは非常に難しいに違いない。「財政赤字の拡大は将来の大増税を意味するから、ますます消費マインドを冷やしてしまう」(朝日新聞)という意見の方が、説得力があるに違いない。
○そのB。「ハードランディングの具体的なイメージが、ハイパーインフレだというのは意外でした。やっぱり相変わらず懸念すべきなのはデフレのほうであって、インフレのほうを心配するのは時期尚早だと思います」。
○ゼロ金利政策をあれだけ続けてもインフレにならないという現状は、いかに貨幣の流通速度が低下しているかという証左です。なぜならバランスシート問題を引きずっている限り、流通速度が上昇することは考えにくい。「日本経済は乾いた薪の上に寝そべっているようなもの」といえばいえるけど、実際には火の気があるとはとても思えない。まして世界経済はグローバル化されている。仮にユニクロのフリースが1万円するような世の中になったとしたら、すぐに中国やベトナムから似たような商品がわんさか入ってくるでしょう。ということで、物価上昇の可能性は限りなく低い。
○2001年の日本経済を展望する上で、本当に懸念すべきは「日本売り」によって円安が加速することでしょう。円高による競争力低下に比べても、そっちの方がはるかに怖い。外国人投資家が日本株の投げ売りを始めたら、株価は暴落、為替も暴落、交易条件は悪化と、それこそ困ったことになる。1998年の円安局面は、そういう恐怖を感じさせた局面だったのだけど、あのときクリントン政権が「協調介入」の助け舟を出してくれたことを、どれだけの人々が覚えているでしょう。当時は米国経済が絶好調だったから、そういう温情が可能だった。2001年以降もそんな状態が続くかどうかは、保証の限りではありません。
<12月8日>(金)
○1週間休刊したおかげで、今週号は余裕で書けました。なかなか評判も悪くないみたいで、一部の方に送ったらすぐにメールや電話をもらいました。とくに「今週の怪文書」は楽しいでしょ。せっかくなので原文をここに残しておきましょう。
To the citizens of the United States of America (henceforth
"the Colonies"),
In the light of your failure to elect a president of the US of A
and thus to govern yourselves, we hereby give notice of the
revocation of your independence, effective immediately today,
November 8.
Her Sovereign Majesty Queen Elizabeth II will resume monarchical
duties over all states, commonwealths, and other territories.
Except Utah, which she does not fancy. Your new Prime
Minister--the Rt. Hon. Tony Blair, MP (for the 97.85 percent of
you who have until now been unaware that there is a world outside
your borders)--will appoint a minister for America without the
need for further elections. Congress and the Senate will be
disbanded. A questionnaire will be circulated next year to
determine whether any of you noticed.
To aid in the transition to a British Crown Dependency, the
following rules are introduced with immediate effect:
(1) -- You should look up "revocation" in the Oxford
English Dictionary. Then look up "aluminium." Check the
pronunciation guide. You will be amazed at how wrongly you have
been pronouncing it. Generally, you should raise your vocabulary
to acceptable levels. Look up "vocabulary." Using the
same twenty-seven words interspersed with filler noises such as
"like" and "you know" is an unacceptable and
inefficient form of communication. Look up
"interspersed." Learn how to spell "colour."
(2) -- There is no such thing as "U.S. English." We
will let Microsoft know on your behalf.
(3) -- You should learn to distinguish the English and Australian
accents. It really isn't that hard.
(4) -- Hollywood will be required occasionally to cast English
actors as the good guys. Also, Hollywood must hire some script
writers. ("Writers" are people who can write actual
stories that involve more than just swearing, actors gasping at
computer-generated effects, and blowing things up every 40
seconds.)
(5) -- You should relearn your original national anthem,
"God Save the Queen," but only after fully carrying out
Task 1. We would not want you to get confused and give up halfway
through.
(6) -- You should immediately stop playing "American
football." There is only one kind of football. What you
refer to as "American football" is not a very good
game. The 2.15 percent of you who are aware that there is a world
outside your borders and know what a passport is may have noticed
that no one else in the world plays "American
football." You will no longer be allowed to play it, and
should instead play proper football. Initially, it would be best
if you played with the girls. It is a difficult game. Those of
you brave enough will, in time, be allowed to play rugby (which
is similar to "American football," but does not involve
stopping for a rest every twenty seconds or wearing full-Kevlar
body armour like nancies). We are hoping to get together at least
a U.S. rugby sevens side by the year 2005.)
(7) -- You should forthwith declare war on Quebec and France,
using nuclear weapons if they give you any merde. The 97.85
percent of you who were not aware that there is a world outside
your borders should count yourselves lucky. The Russians have
never been the bad guys. (For the 99.9% of you who have no
foreign language, please look up "merde" in a
French/English dictionary.)
(8) -- Hereafter, July Fourth will no longer be a public holiday.
November 8th will be a new national holiday, to be celebrated
only in England. It will be called "Indecision Day."
(9) -- All American automobiles are hereby banned. They are worth
no more than "merde" and this step is for your own
good. When we show you German cars, you will understand what we
mean.
(10) -- There is no such thing as "American food."
"Hamburg-ers" and "Frankfurt-ers" are places
in Germany. "French" fries taste like
"merde." Incidentally, a single portion does NOT weigh
in at two kilos.
(11) -- You should be aware that you did not single-handedly win
World War II. If you are confused by this, please read a history
book. Even if you are not confused by this, please read a history
book.
(12) -- In exchange for our actions, we ask only that you tell us
who killed JFK. It has been driving us crazy for nearly 40 years,
Thank you for your cooperation.
○森首相の"Me, too"と「みずほはフロリダを救う」は今年の2大ヒット・ジョークだと思います。前者は当不規則発言が7月14日に、後者は伊藤洋一さんのDay by Dayが11月27日に掲載しました。インターネットの登場によって、こういうものの伝播速度は非常に速くなったようです。そういえばこんなページもあるくらいですからね。いずれにせよ、新鮮なネタがあればどんどん紹介していきます。タレコミも大歓迎ですよ。
○そうかと思うと、筆者のところに更衣室の盗撮映像を送ってくれた人がいます。Real
Playerで3800KB。映っているのは国民的英雄のあの人です。たぶん本人に間違いないでしょう。ヒントは、キーボードの左上隅のアルファベット・・・・って、もろバレじゃないか。腹がたったので最後まで見てませんが、そーゆー公序良俗に反するものは送くらんでくださいよ。ホントに困ったもんだ。
<12月9日>(土)
○「ソニーのプレステ2って大失敗ですよ」という話をすると、大概の人が「え?」てな反応を示します。ゲームやらない人には分かりにくいのかも。昨年の3月4日に発売になってから、どれひとつソフトのヒット作が出ていない。あんな大容量で今さらマージャンソフトでもあるまいし。この商売のうまみはゲーム機を作って売ることではなく、ソフトの販売会社からロイヤルティー収入を得ることにあります。いってみれば農園経営のような仕事。どんなに立派な農地を用意しても、実際に農民が集まって作物を生産してくれないことには金にならない。プレステ2という農園は、未来型のすごい農地を作ったものの、料金が高すぎて中はガラガラ、という印象です。
○ところがプレステ2は、この年末から新作ソフト『機動戦士ガンダム』を売り出すんですね。「認めたくないものだな。若さゆえの過ちなど。―シャア・アズナブル」という宣伝広告を見かけて、一気に20年前の記憶が蘇ってしまいました。でまあ、プレステ2なんてどうでもよくなってしまった。赤い彗星のシャア。気障でニヒルで、理想家で行動派で、ナルシストで臆病で、むちゃくちゃカッコイイ男。
酒場でテレビを見るシャア。「われわれの愛したガルマは死んだ。なぜだ?」「ぼうやだからさ」
ザンジバルの中で。「意外と当たらんものだ。私が保証する」
妹セイラとの再会と別れ。「いい女になるのだな」
裏切りのシャア。「真に許せないのはザビ家の人間だと悟った」
アムロとの最後の戦い。「しかし私もニュータイプのはずだ!」
○ウルトラマンなどの他の番組と違い、ガンダムはセリフで覚えている。それくらい名セリフが多かった。「させるかァ」「スタンバっておけ」「早い、シャアなのか」など、ガンダム発の用語がたくさん誕生した。「手の空いているものは右舷を見ろ。フラミンゴの群れだ」。これは映画版第1部の最後のブライト・ノアのセリフ。つかの間の平和のシーンに、かぶせるようにして字幕が流れ始める。話の途中で字幕を流すという手法は、これをもって嚆矢となす。・・・・言っておきますけど、これらはすべて記憶をもとに書いてますから、間違えていたらゴメンナサイ。ガンダムのファンはこういうことにうるさいからなぁ。
○恥をしのんで告白するが、大学生時代(1980‐1983)にいちばん面白いと感じたのは、阿佐田哲也の『麻雀放浪記』と『機動戦士ガンダム』であった。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』のブームが一段落したあと、地方のテレビ局で制作された低予算SFアニメがガンダムだった。当初は不人気であったために、ストーリーの最後の部分はカットされてしまった。地球連邦とジオン公国の戦いは、当初の予定ではジオンで本土決戦をやるはずだったと聞いている。だが、ア・バオア・クーの戦いで終わることになって、かえってラストに締まりがでた。
○熱烈なファンができたため、ガンダムは何度も再放送され、映画化された。第3部『めぐりあい宇宙』ができたときには、ユーミンがテーマ曲を作るまでになった。立川の映画館でガンダムVを見た。そのまま座っていたら第1部が始まり、ついでに第2部も見てしまった。席を立てなくなってしまい、さらにそもままもう一度第3部を見た。全部で11時間くらいかかったと思う。最後は空腹で疲れきって、這うように小平の下宿に帰ったなあ。数年前に、CSテレビでガンダム3本立てをやっていたときには、家族の顰蹙を背に受けながらひとりで見た。その後、たくさんの続編が作られたが、初期のガンダムの熱気は戻らなかったようだ。
○ときは流れ、1998年、「A50」という運動のボランティアを始めた。事務局ができたのは赤坂のマカベビルの6階。何度も通ううちに、ここの3〜5階には「サンライズ」という会社が入っていることに気づいた。これがどうも、ガンダムを作っていたサンライズらしいのだ。こちらはもう年季の入ったサラリーマンになってしまっていたが、子供から大人になりかける頃に見たあの番組の世界観は、確実に現在の自分に影響を残していると思う。
○「かんべえさんってオタクだったんですね」――ハイ、何というか、極度のオタク体質であることは間違いありません。そのときどきで関心が向かう方向が変わるだけで、今もそのへんはじぇんじぇん変わっていない・・・・
<12月10日>(日)
○この年になると映画を見るのが一苦労である。それでも一念発起して、家族や電話や来客の邪魔を跳ね除けつつ、1日にWOWOWで映画を2本。『マトリックス』(1999)と『エントラップメント』(1999)。最近は上映してから1年たつと、もうテレビに流れたり、DVDが出たりするんですね。いいのか悪いのか。民放と違って、WOWOWやCSはレターサイズで放送してくれるからありがたい。どちらも最近のハリウッド映画を代表するような作品で、前者は成功し、後者は失敗していると思う。
○『マトリックス』は、「人間が機械に支配されている未来」という古いテーマのSF映画である。人間がコクーンの中で夢を見させられているという設定は、今じゃ誰も覚えてないかもしれないが、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』にもあった設定だ。そこをバーチャル・リアリティという当世風の仕掛けを掛け合わせたのがミソ。特撮と独自の様式美で、SF映画の新境地を切り開いたことは間違いあるまい。でもそんな大騒ぎするほどのことはないわな。キアヌ・リーブスはいい俳優だが、最後のシーンでもう少し凄みを出ないものか。星3つ。
○『エントラップメント』は、「いい男といい女が組む犯罪ドラマ」という古いテーマのピカレスク映画である。ルパン3世と峰不二子のように、丁々発止をやってくれればいいのだが、心理面の葛藤に乏しく、緊張感のないシーンが続く。キャサリン・ゼタ・ジョーンズが、脱がずにセクシーなところを見せているところが売り。ただし彼女があんなにいい女でなければ、もうちょっとなんとかなったかもしれぬ。最後の舞台となるクアラルンプルのツインタワーは、今年2月の出張で行ったので懐かしい。なんでこの映画がマレーシアで非難されたのか、皆目見当つかず。星2つ。
○最後に映画館に行ったのはいつだったかな。本数が激減しているので、最近ではオタク魂が泣いています。『財界』の書評は来年もやることになったけど、どうせなら映画評を書きたいなあ。かんべえの採点は星4つが最高点ですけど、文句なしの星4つは近年ではあんまり記憶がありません。『LAコンフィデンシャル』と『デッドマン・ウォーキング』くらいかな。まずは映画を見る時間を作るのが課題か。
<12月11日>(月)
○師走です。今年も残り3週間。いろいろありましたねー、と語り合う季節になったようです。2000年を振りかえって、どんなことがあったんだっけ、と思い出したい人のために便利なものを紹介しておきます。
日本のニュース
海外のニュース
○今年の10大ニュースに入っても少しも不思議ではなかったんだけど、たぶん入りそうにないのが「2000円札の登場」です。今日、株の配当を受け取りに郵便局に行った際に、「2000円札で受け取りたいんですが」と言ってみた。窓口の人は「ハイ、結構ですよ」と言ってくれたけど、2000円札は手元のキャッシャーには入っていなくて、わざわざ壁際の金庫まで取りに行ったというところが、「ああ、やっぱりね」。2000年だから2000円札、という発想はかならずしも悪くはなかったと思うのですけどね。
○今年もお世話になった方に心からの感謝を送りたいと思います。各方面からの当HPへの声援にも感謝。
<12月12日>(火)
○いつも永田町情報を聞かせてもらうEさんと話していて、「そういや、赤坂も変わったねえ」という話題になった。どこがどう変わったか。「チェーン店が増えた」。なるほど。
○大手町や丸の内は、昔から選択肢の少ない街でした。とんかつは和幸、そばはそじ坊、ビールはライオンかニュートーキョー、いずこのビルの地下も同じ風景なわけです。筆者も2年ほど大手町勤務を体験したことがありますが、あれはなんとも味気ないものでした。その点、赤坂はもとが飲食街ですから、和・洋・中から韓国、インド、エスニックまで、ありとあらゆる店が揃っている。OLの間では「グルメ天国、ダイエット地獄」と呼ばれているとか。赤坂のサラリーマンは他のビジネス街に比べて確実にエンゲル係数が高いと思う。
○ところがそんな赤坂でも、全国的な有名チェーン店が勢力を拡大している。寿司は寿司清、焼肉は叙々苑、コーヒーはもちろんスターバックスだ。代わって昔ながらの独立系の店が少しずつ消えている。地元でも有名な銘店といわれるようなところは、むしろ以前にもまして繁栄している。消えていったのは二番手、三番手の特色のないところ。つまり一番人気の店に入れないときに、「しょうがねえこっちにするか」といった消極的選択をしていた場所である。
○気がついたら、外食産業の系列化がすごい勢いで進んでいるのですね。なにしろチェーン店は仕入れで規模のメリットが働く。1ヶ所で大々的に食材を加工して、全国に送るから無駄がない上に安くできる。もっとも典型的なのがマクドナルドだろう。昔、初めて100円バーガーを売り出したときは、かなりコスト的に無理をしていたはずだが、今ではe-businessで食材の全世界最適調達をしているらしいから、60円でも利益が出てるんじゃないだろうか。これでは普通にやってたら勝ち目がない。飲食店が系列化すると、仕事が標準化されることで合理化が進む。外食の価格破壊はますます加速するだろう。内外価格差が消えるときまで、デフレ圧力は続くんでしょうなあ。
○例外になりそうなのがラーメンの世界である。たとえばここなどを見ると、ラーメンを取り上げているHPがたくさんあることにびっくりする。あの世界ではチェーン店をあまり評価しない。やはりガンコ親父がひとつの店で頑張っているのじゃないと、食べ歩きをする値打ちが感じられないからだろう。「じゃんがら」や「赤坂ラーメン」のように、有名になったから店を増やすというのも考え物かもしれない。
○食べることを経済行為だと考えたら、値段は安いほうがいい。全国チェーンの店で1杯500円のラーメンを食えばいい。食は文化なりと考えたら、たとえ1000円近くかかっても、あるいは1時間行列をついてでも、雑誌に載ってるあの店で食べたいということになる。中途半端は駄目。赤坂の飲食街も、その両方に二極分化しつつあるのかもしれない。
<12月13日>(水)
○某新聞社政治部の重鎮から話を聞いたり、大統領選挙の最高裁判決をめぐる議論がMLで飛び交ったり、夜は金融界の皆さんの忘年会に出たり、ネタは非常に豊富な一日だったのですが、家に帰ってから事故が発生。パソコンのキーの一部が打てなくなってしまうトホホな事故が生じてしまいました。ああ、どうすればいいのでしょう。私は悲しい・・・・。しばらく執筆活動は制限を余儀なくされそう。あーあ。
<12月14日>(木)
○パソコンは明日、IBMのサポートサービスに引き取られることになりました。修理に1週間くらいはかかるでしょうね。ということで、しばらくは家ではまともな仕事ができないということです。いやはや、困ったもんだ。
○仕方がないから、今日は久々に会社で残業して、会社のPCで明日発行予定の溜池通信を書きました。いつもは家で書いているからちょっと新鮮な感じ。3時間ほど頑張って、あらかた書き終えてから、赤坂ラーメンに立ち寄って帰りました。うーん、こんな感覚は久しぶりだなあ。
○ゴアが敗北宣言をして、ブッシュ政権の誕生が決まりました。この問題については、しばらく発言を控えておりましたが、とにかく決まって良かったね、というのがホンネです。12月18日の選挙人投票で、造反が出るという可能性がまだ残ってはいるものの、これで既成事実になるでしょう。詳細は明日発行予定の本誌をご覧ください。
○家に帰って、古いB5版のノート型でこれを書いています。すいません、今日はここまで。
<12月15日>(金)
○ということで、今週号では心置きなく米国大統領選について書かせてもらいました。ブッシュが減税プランにこだわるか、それとも民主党の路線に歩み寄るかという問題について、国際大学の信田助教授からは「前者でしょうね」という指摘をもらいました。私もそう思うんですよ。つまり悪い方を選ぶのではないかと。結果として米国経済のリスクが高まる、ということになるような気がしています。
○書いていて気づいたのですが、私もどちらかといえば民主党びいきなので、この問題を書いているといつの間にかpartisanになってしまうのですね。外交・安保政策では共和党の方がしっかりした考え方をしていると思うのですけども。目下のところ、ジョージ・W・ブッシュという人をあんまり買っていません。別に深い根拠があるわけじゃなくて、単なる好き嫌いのレベルなんですが。
○いつも使っているThink Padは、今日、日通さんが持っていってくれました。IBMの見積もりが届くのは来週になるでしょう。早く帰ってきてほしいなあ。久しぶりのLet's
noteは使いにくいよ。
<12月16日>(土)
○先週に続き、WOWOWで『ジャンヌダルク』(1999)なんぞを拝見。リュック・ベッソン監督は当たりはずれが大きい人で、総じて低予算のときは『ニキータ』『レオン』と冴えわたり、ふんだんに金をつかえるときは『フィフス・エレメント』みたいに壮大な駄作を撮る。ちなみに『TAXI2』はまだ見ていないのだが、たぶんあれは成功しているのだと思う。
○『ジャンヌダルク』は金がかかっているので警戒警報なのだが、成功しているとも失敗しているとも言い難い変な映画である。ジャンヌを演じるミラ・ジョボヴィッチは、予告編で見たときの印象とは違い、戦闘中にいつも口を開けているしまりのない女優である。最後のへんはさすがに見せましたけどね。この映画、ベッソン自身はきっと満足していないと思う。星3つ。
○この映画のキモは、「神のお告げで国を救うために立ちあがった少女が、戦争という神の摂理に反した行為を取る矛盾」である。べつにいちゃもんをつけるわけではないが、中世の戦争はこの映画に出てくるほど悲惨なものではなかったはずだ、という気がする。戦争が悲惨になったのは、ナポレオンが国民国家を率いて欧州を制覇してからで、それまでは国王の常備軍同士の戦いである。だから戦争といっても、そんなに真剣にやりあうはずがない。
○これも史劇の傑作であるスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』では、まるでスポーツだかゲームだか分からんような戦闘シーンが出てくる。国王に雇われているもの同士が闘うわけだから、実利がなかったら危ない橋は渡らないはずである。プロはアマチュアのような無茶はやらないものなのだ。戦争が非戦闘員を巻き込むようになったのは、たかだかここ1世紀の現象である。まして英仏百年戦争の当時は、ナショナリズムなんてものも存在しない。したがって、当時の戦争はかなりのんびりしたものだったと想像する。
○それだけに「自分は神の使いである」なんて人が現われたら、それまで手抜きで戦争してた人たちが本気になり、あっけなく形勢が逆転することは大いにありそうな話である。ましてそれが美少女だったりしたら・・・・。でも、プロはあくまで打算で戦争をやっているわけで、いつもいつも神様を引き合いに出して指揮を執られた日にはかなわない。だから最後には八百長戦争に戻りたくなって、彼女を処分してしまう。こういうふうに読めば、ジャンヌ・ダルクの物語も分かりやすいと思う。
○それでもフランスの英雄を美しく描きたいのが、フランス人リュック・ベッソンの心意気なのであろう。でもこの映画、アメリカ資本で作られている上に、登場人物はみな英語を話している。原題名も"Joan
of Ark"にされてしまっている。これはこれで、フランス人が見るとナショナリズムがきりきりと痛む映画であるに違いないと思うぞ。あはは。
<12月17日>(日)
○そういえば大島渚の『愛のコリーダ』を上映中だとか。かんべえは米国滞在中に、この映画のノーカット版を見たことがあります。いやもう、とんでもない映画でしたな。たしか"Realm
of the senses"とかいうタイトルになってました。『官能の王国』とでも訳すんでしょうか。はっきり言いますが、ゲテモノの世界です。見終わってからしばらく(というより、見ている最中も)、その手のものは見たくないという気分でした。
○何かの世界を極めようとするとき、人は得てして常軌を逸した行動に突入してしまうものなのですな。吉蔵とお定の世界には、いってみればグルメを極めようとした美食家が人肉に手を出す、みたいな倒錯がある。そういう極限の世界が美しいという人もいる。でも、かんべえは小市民ですから、ドロドロの情痴の世界はちょっとゴメンです。
○『愛のコリーダ』を見たことが原因だと思うのだけど、日経新聞で渡辺淳一の『失楽園』の連載が始まったとき、すぐに「あ、この小説はラストで二人が幸せな心中を遂げるんだな」と分かってしまった。二二六事件の当時の閉塞状況と今日を重ねあわせ、「現代の阿部定事件を書けば当たる」というマーケティングをしたのだと思う。中年男性のリストラや、シャトー・マルゴーなど現代風の小道具も気が利いていた。というわけで天下の日経が、連載小説だけ東スポみたいになってしまったのである。途中で飽きたけど。
○『失楽園』がヒットしたのだから、復刻された『愛のコリーダ』も当たるかというと、おそらくはそうではないと思う。だって『愛のコリーダ』は行為そのものをモロに撮ってしまっているから、ちっともセクシーではないんだもの。大島渚は少なくともエロチックな映画を撮ろうとしたのではない。では、何を見せたかったのかというと、これはかんべえの理解を遠く超えた世界だとしかいいようがありません。よって星表示不能。
<12月18日>(月)
○フロリダの再集計問題を取り上げた秀逸なページがあります。ここをご覧ください。笑えます。
○というちゃかしはさておいて、ブッシュ新政権が動き始めています。まずは国務長官にコリン・パウエル氏、安全保障担当補佐官にコントリーザ・ライス教授が指名されました。日本の場合、組閣はまとめて一度にやりますが、米国は五月雨式にやります。パウエル、ライスはどちらも大本命の人事ですから意外性はまったくないですが、「最初に黒人のスタッフを指名する」というのは一種のパフォーマンスですね。
○筆者は昔、経団連で講演するパウエル氏を見たことがありますが、そのプレゼンテーションには深い感銘を受けました。入神の域とはあのようなのを指すのでしょう。名国務長官になることは間違いないと思います。ところでパウエルは湾岸戦争の英雄ですが、軍事力の行使には非常に慎重な人として知られています。パウエルの4原則というのがあって、これらすべてを満たしたときのみ、米国は軍事力を行使してよい。これがなかなかに参考になるアイデアなのです。
@Vital Interest:米国の死活的利益がなかったら、介入してはならない。
AClear Objective:具体的に何を成し遂げるか、目的が定まっていることが必要。
BMassive Forces:わが方が圧倒的に軍事力で優勢でなければならない。
CExit Policy:どういうところで戦争を止めるか見極めをつけておくこと。
○ちなみに湾岸戦争のときは、@中東の石油という米国の死活的利益がかかっていた、Aクウェートの解放を軍事行動の目的とした、B多国籍軍を組織して軍事的優位を確保した、Cサダム・フセインを最後まで追いつめることなく、人道的に許される範囲で停戦した、わけです。なるほどお見事、と思いませんか?
○パウエルの4原則は、クラウゼヴィッツの『戦争論』を起源とする、非常にすぐれた外交・安全保障の思想だと思います。これを知っていれば、太平洋戦争の日本軍ももう少し賢明な判断ができたはずなのですが。戦争に限らず、企業が大型投資の決定をするときなんかにも当てはまる、応用範囲の広いルールだといえるでしょう。でも言うは易く、行うは難いんですよね。こういうことは。
<12月19日>(火)
○今年は「経済ってそういうことだったのか会議」という本が評判になりました。私めは読んではおりませんが、「非常にいい加減な本で、とにかくタイトルに騙された」という声をよく聞きます。「バザールでござーる」や「だんご三兄弟」の作者が仕掛けただけあって、たしかに見事な題名ですな。この「そうだったのか」が今年のキーワードだったと感じています。
○今年は、今まで信じていた経済の常識に何度も騙されました。たとえばGDP統計。93SNA方式だと、昨年度の日本経済は+1.4%成長なんですって。新基準になると、経済を見る景色がまったく違って見える。今年の春頃にやっていた「99年度成長率は0.6%か0.5%か」という辛気臭い議論はいったいなんだったのか。「経済統計ってそうだったのか」とあきれるしかありません。
○同様に「そうだったのか」とうめいてしまったのは日経平均です。225種の銘柄を、4月に突然大量に入れ替えたら、ものの見事に2000円ほど下がってしまった。論より証拠、日経平均の罫線を見るのであれば、なんといっても
ここがお勧めです。すごいでしょ。こんなものがタダで見られるのだから、インターネットってすごい。で、このグラフ(週足)を見ていると、やっぱり4月の銘柄入れ替えによって、連続性は失われたといわざるを得ません。何度も書いてることですが、日経平均株価225種は死んだ、と強調しておきましょう。
○それでも日本経済新聞社としては、日経平均の市場価値を守らなければなりません。そこで日経のHPでは、20世紀最後の「大納会」の日経平均終値はいくらになるのか?!という企画をやっています。「1万3500円」くらいでエントリーしようかと思ったところで、ふと年初の頃は「今年の年末は2万2000円」などと言っていたことを思い出し、密かに赤面しました。
○年初の株高予想がなぜはずれたか。そのへんは今週号でじっくり取り上げたいと思っています。それよりも目先はどうなるのか。TOPIX指数を見てみましょう。グラフの形を見ているだけで、今しばらく下落が続きそうに思えます。でも「山より大きな猪は出ない」のたとえ通り、98年秋の底値を下回るとは思われない。来年の2〜3月あたりに底値を形成するんじゃないか。お金と勇気のある人にとっては買い場です。
○こういう日記を残しておくと、あとで外れたときがカッコ悪いんだなあ。たとえば3月19日の不規則発言では「今年はテイエムオペラオーの年か」と書いているのに、その後は何度も「今度はテイエムは来ない」と書いては外している(本人が忘れているんだから仕方がない)。で、今週末の有馬記念なんですが、筆者が年に1度だけ馬券を買うレースですけど、こうなったら意地でもテイエムははずします。あの馬のどこが史上最強じゃ。今年の暮れは、「JRAってそうだったのか」という結論になるに決まってる!
<12月20日>(水)
○今日のように株価が下がった日は、当HPのカウンターがよく回る。筆者も覚えがありますが、なにか事件があると、その件について詳しそうな人のHPをチェックしたくなる。「あの人はなんて言ってるんだろう」が気になるのです。「溜池通信は選挙と株に強い」と思われているのでしょうか。
○今日は日経平均が1万4000円台を割りました。TOPIX指数も1300割れ。こういうときにありがちなのが、日本経済の底が抜けるような悲観論。今週の週刊文春と週刊新潮が競って展開しているようですね。しかし現在言われているような危機説の理由は、われわれがこれまでに体験済みのことばかり。こちらの感覚が麻痺しているせいもあるのでしょうが、今回の株安にはそれほど意外性のある材料がない、というのが筆者の実感です。
○ところで昨日ここで書いた「山より大きな猪は出ない」という物言いは、会社でも好評でしたのでちょっと解説を。このセリフ、将棋の升田幸三九段(正式には実力制第4代名人)の口癖だったそうです。木村十四世名人との「ゴミ=ハエ論争」など、名セリフの多い人でした。(升田「名人なんてゴミみたいなもんだ」木村「名人がゴミなら君は何だ」升田「ゴミにたかるハエさ」)
○ヒゲの先生こと升田九段は、苦労人でインテリで、豪放らい落に見えて繊細で、人生の達人に見える一方でくだらない失敗もやる、という魅力的な将棋指しでした。今でいうと北野武なんぞにその片鱗があるのかな。最近はこの手の粋な大人がいなくなりましたね。升田先生なら今の状況をなんといって叱るのでしょうか。
<12月21日>(木)
○IBMのThink Padが修理されて戻ってまいりました。2万4000円なりの修理費は、笑って払いましょう。筆者が得た貴重な教訓は、「パソコンは水分に弱いこと」と、「ミルクを飲んでいる子供をひざの上に乗せないこと」です。
○今夜は約20人の仲間が集まっての忘年会。ご懐妊あり、米国への留学あり、次期参院選における自民党からの公認決定あり、めでたい報告が相次ぎました。「アメリカへの興味」という一点だけで結ばれたグループが、何年も続いて、しかも拡大しています。ということで、今夜も楽しいお酒でした。
○問題は今週号の溜池通信がほとんど手がつけてないこと。明日はどうしようかと思いつつ、忘年会の余韻があることと、PCが戻ってきたのがうれしくて、つい夜更かししてしまっています。困ったもんだ。
<12月22日>(金)
○ということで、今年最後の本誌をお送りしました。今年は42本ですか。われながらよく書きましたな。振りかえってみると、国内政治、日本経済、ITビジネス、米国情勢、アジア経済の5つが主なテーマのようです。守備範囲はあんまり広げずに、来年もこれらのテーマを追っていきたいと思います。
○ところで本誌だけではなく、生まれてこの方、日記が続いたことが一度もないこのワタクシが、当不規則発言は三日坊主にならずに丸1年も続いたことになります。読んでいる人がいるから続くんで、自分だけのためだったら続いていないでしょう。昨晩も、「最近は愛のコリーダの話なんか書いて、どうしたんですか」などと言われてドキリとしてしまいました。意外な人が読んでいて意外な感想を持っているもんですね。まったく油断がならない。
○年末年始の当欄は何を書こうかな。いろいろ考え始めています。ご期待ください。
<12月23日>(土)
○12月19日に「意地でもテイエムははずす」と口走ってしまったが、どう考えてもそれ以外の可能性が見えません。去年の有馬記念は二強対決の素晴らしいレースでしたが、今年は明らかにテイエムオペラオーの実力が一頭地を抜いている。馬柱を見ると、@が縦に7つも並んでいる。その中に宝塚記念と天皇賞とジャパンカップが並ぶ。こんなすごい戦績は見たことないぞ。
○競馬の師匠、Aさんのご意見に耳を傾ける。
●今年の有馬は、アイデアが浮かびません。毎年、強豪が集まるレースですが、よくよく出走予定馬を見ると、G1クラスの馬って、あんまりいないんですね。老雄ステイゴールドの単を買って、眺めるのがよいのかも。個人的には、ツルマルツヨシに頑張ってほしいと、思っています。
○うう、ステイゴールドかキングヘイローの単か複を買って、枯淡の境地でレースを見物するというのは、たしかに私好みの選択かも。あるいはこの2頭にツルマルツヨシとアドマイヤボスあたりを加えてボックス買い、というのも楽しいかも。当たればデカイだろうし。
●テイエムは、JCの勝ち方を見たら、国内に敵ナシという感じですね。負けるとしたら、連戦の疲れでしょうか?でも、有馬までは頑張りそうな気がします。 (テイエムに関しては、来年、いったい、どうしたいのか、関係者がはっきり言わないのが、気に入りません。ここを勝って、たとえば来年は海外遠征に行くというのでしたら、応援したいと思うのですが、そこのところがはっきりしないのが、この馬を今ひとつ押せない点ですね)
○そうですよねー、テイエムなんて、海外遠征したらボロ負けするかもしれない馬じゃないですか。でも国内には敵がいないんですよね。このテイエムを消して、どんな可能性があるというのか。・・・・・・いろいろ考えた結果、「有馬記念はその年を象徴するような結果が出る」と考え、無理やり以下のようなシナリオをひねくり出した。
○「2000年は米国経済ひとり勝ちの時代の終焉を告げる年であった。力はみつれば欠けるもの。破竹の連勝をとげ、ダントツに見えるテイエムオペラオーは、年の瀬の中山で限界が見えた。代わりに古いものが復活する。かつてはライバルとみなされていたが、このところ負けグセがついていたあの馬が、劇的な復活を遂げる。それはナリタトップロード。90年のオグリキャップか、93年のトウカイテイオーか。劇的なナリタの勝利にアナウンサーは絶叫する。『ナリタがオペラオーを引き離した。競馬界のON決戦も、最後にはNが笑った』
○でもって2001年は日本経済が奇跡の再生を遂げる。ここまでいうと、虫が良すぎるか。
<12月24日>(日)
○競馬の予想紙を買うとき、筆者は『一馬』に決めています。一面左上の清水成駿のコメントが好きなのだ。記憶にある限り、あんまり当たったという覚えはないけども、いつ読んでも達意の名文です。これが楽しい。400円払っても惜しいとは思わない。今日のもいい文章でした。以下、冒頭部分を書き写します。
●真冬に会社を辞めることはない。恋人とも別れない方がいい。冬は寒いからだ。寒いと筋肉が萎縮し、心も脳ミソも凍る。凍った頭でどんな知恵が浮かぼうか。土筆(つくし)が頭をのぞかせ、冬篭りの地虫がそろそろ起きようかという頃でいい。早ければ桜満開の頃、遅くとも麦が金色の波を打つ頃には、きっと新たな希望と生きがいが見えてくる。
○ということで、冬はじっと我慢するほかはなく、有馬記念といえども1年間付き合ったナリタトップロードを袖にはできない、というのが清水の結論。今日もはずしたね。ワシもはずした。ナリタは来なかった。単勝だけならともかく、ナリタからステイゴールドなんて、そんな万馬券が来るわけなかったよね。鼻血も出ないような負け方をしちまったよ。テイエムさんには恐れ入りました。あははー、でも面白かった。こうなったら年末ジャンボで「今年最後のお願い」をするしかありませんかな。
○今世紀最後のG1レースは見事に外れました。そして今夜は20世紀最後のクリスマス・イブ。でもG1レースもクリスマスも来年になれば繰り返される。ありがたいことです。メリークリスマス。
<12月25日>(月)
○2000年もあと1週間で終わり。あらためて振り返ってみると、今年の世界最大のニュースは米国大統領選挙をめぐるドタバタであったことは間違いないところだと思います。"TIME"誌が今年のPerson
of the yearにGeorge W. Bushを選んだ。彼が次期大統領になることに違いはないし、今後の期待を込めて選んだのなら、それはそれで意味がないではないが、むしろゴアを選んだ方が気が利いていた、と思う。"TIME"のこの企画は、去年のベゾス(アマゾン・ドットコムのCEO)もそうだったけど、どうも腑に落ちない。
○ブッシュがうまく立ち回るか、それともドジを踏むかで2001年の米国経済が浮くか沈むかが決まる。それでもって、われらが暮らしにも影響があるはずなのだが、どうやら後者になるような感じになっている。ブッシュが「減税」にこだわる限り、党派色の強い対立は解けない。議会は冒頭から対立を深める。減税に反対しているグリーンスパン議長との溝も深まる。政府が大規模減税を目指すと、FRBは利下げしにくくなる。結果として株価は下がり、米国経済の成長率は低下し、財政黒字の規模は縮小する。そうなれば減税の規模自体が縮小せざるを得ない。財政黒字の使い道に関しては、ゴアが掲げていたプラン(過去の赤字の返済と社会保障の充実)の方が優れていたと思う。
○ところがブッシュは、みずからの公約である大規模減税の看板を下ろせない。なんとなれば彼の父、先代ブッシュは88年に「増税はしません(Read
my rips. No new taxes!)」と公約して当選したのに、90年に増税に追い込まれた。92年にクリントンなどという若造に負けたのはそれが原因であると、ゴチゴチの共和党員たちは信じて疑わない。今この瞬間にブッシュ一家が考えていることは、「息子には父親の失敗を繰り返させたくない」であろう。減税ができない、と思われたら最後、彼は共和党本流の連中の支持を失ってしまうのだ。だから彼は減税という看板にこだわらざるを得ない。
○本当のところは、90年の増税(OBRA90)は正しい決断で、さらにクリントンが就任早々にやった増税(OBRA93)がいい判断だったのだと思う。これで長期金利が低下し、じわじわと米国経済が良くなった。ところが先代ブッシュ自身が、「90年の増税は失敗だった。あれで自分は負けた」という認識である。過去8年の間に、そういう話を何度も何度も家族にしただろう。そういう人の息子が次期大統領である。
○2001年の米国経済は、ソフトランディングする(2〜3%の成長率に落ち着く)というのが大方の見通しだ。しかし筆者はハードランディングする(景気後退局面まで落ち込む)可能性が5割程度あると思う。なぜなら上のような理由で、ブッシュ次期大統領は判断を間違うだろうから。というわけで、悲観シナリオを本線に考えています。政権についてからのブッシュが、意外な柔軟性を発揮して政策の軌道修正をするようならもっけの幸いというもの。いわゆるポジティブサプライズになる。
○ということで、米国経済のいちばんいい時期は去ったと思います。問題は、「米国経済は下降するけど、日本は上昇する」というシナリオを描ききれないこと。悩ましいよねえ。
<12月26日>(火)
○毎年、クリスマスが過ぎた頃に日経流通新聞で発表されるのが、その年の「ヒット商品番付」です。今年はユニクロと平日半額バーガーが東と西の横綱に輝きました。以下、スターバックス、プレステ2、御殿場プレミアム・アウトレット、明治製菓のフラン、DVDなどが並びます。去年のi-modeほどのヒットはありませんね。低額商品が多いのが今年の特徴のようです。
○目を引いたのは「残念賞」に取り上げられた商品。「加藤紘一」「二千円札」「介護サービス」「ネットバブル」の4点です。いずれも爆発的なヒット商品になる可能性を秘めていた。なにせ4点とも着眼点は良かったのですから。何がヒット商品になったかより、なぜこれらがヒットしなかったかを考える方が、2000年の日本経済を振り返る上で有益なような気がします。
○これら4点に共通しているのは「足腰の弱さ」。アイデアは良かった。マスコミもバンバン取り上げた。しかし加藤政局の顛末はご存知の通り。2000円札はとんだ希少価値で、最近は神田界隈の飲み屋で2000円札を出すと、「お客さん、日銀の人?」と聞かれるそうです。介護サービスではコムスンが劇的な失敗を演じた。ネットバブルについては光通信とソフトバンクの株価がすべてを物語っている。そろいも揃って具体化を安直に考えていた節がある。ビジネスモデルがいいだけでは成功はおぼつかない。
○ユニクロやマックの半額バーガーは、ITを使った全世界最適調達によってぎりぎりまでのコスト削減に挑戦した。この努力、半端なものではない。カッコつけずに地道な努力をした人が報われたのが2000年の特色ではないでしょうか。
○前頭の下のほうに取り上げられていた「ドラクエZ」と「FF\」は、もう少し注目を集めても良かったような気がする。390万本と282万本ですよ。本や映画で同じ数を売ることは滅多にできるもんじゃない。まして単価はゲームソフトの方が高いんだから。今回のドラクエはあまりに難しく、「石版が見つからない」という声を方々で聞いた。何十時間もかけて終わらないという人は掃いて捨てるほどいた。ジャーナリストは忙しくてゲームをやらないのかな。当欄が以前から主張している「プレステ2大失敗説」は、先日のニューズウィーク日本版にやっと1ページだけ出ていた。もっと大騒ぎしなきゃ駄目ですぜ。ソニーが怖いのかな。
<12月27日>(水)
○今日のお昼、面白い光景を見てしまいました。外堀通りにたくさんの右翼の街宣車が並んで、抗議行動を行っている。批判されているのはウチの会社かと思ったらそうではなく、お迎えの山王タワーに入っているNTTドコモさん。「みずからの利益だけを考え、消費者の利益を損なう携帯電話会社はけしからん!」と言っている。思わず、「いいぞ!」と応援したくなるような不思議な光景。儲かっている会社はいろいろ大変ですな。
○「溜池にある会社」といえば、昔は文句無しにウチの会社かコマツさんあたりだったのですが、今年春に山王タワーができてからというもの、風景も人々の認識も変わってしまった。山王タワーには、ドコモさんやドイチェバンクなどの外資系金融など、今が旬の会社が勢ぞろいしている。オフィスも近代的だし、中に入るとちょっと背筋が伸びるような感じ。一例を挙げれば、山王タワー下の街路樹の一角には、オートバイや自転車が並んでいる。高給を得ている人が多いから、都内のいい場所に住んでいる人が多く、自宅からバイクで通っているものと推測される。なかなか魅力的なライフスタイルでしょ。
○最近の筆者に対するFAQのナンバーワンは、「御社はいつになったら引っ越すの?」です。答え「2001年3月の連休に、お台場の新本社ビルに引っ越します」。そうなんです。溜池で仕事するのもあと3ヶ月なんですよ。そういうと次に来る質問は、「溜池通信の名前は変えるの?」。答え「変えません」。だってお台場通信じゃカッコつかないでしょう。
○及ばずながら、「溜池通信」は一種のブランドとして育てたいと思っております。それにインターネット上では、いろんな検索エンジンにも乗っているから変えたくない。そういう意味では溜池を離れるのは寂しいですね。明日は今年最後の出社。今世紀最後の溜池の昼ご飯はどこで食べようかなあ、と思い悩む今夜の私。
<12月28日>(木)
○本日は仕事納めの日。毎年この日にはこんなものを作ります。皆さんも良かったら参加してみてください。答えを1月5日までに答えをメールで送ってください。賞品は何も出ませんけど、結果は1年後の仕事納めの日にこの欄で発表します。
○ちなみに「2000年大予測」は、12問中10問正解の人がトップ賞でした。出題する筆者自身があんまり当たらないから、偉そうなことは言えませんけど、この時期の酒の肴にはちょうどいいと思います。さすがに12問もあると、多種多様な意見が出るので面白い。メールをお待ちしております。
<12月29日>(金)
○今年も残るところあとわずか。21世紀が始まるからといって、とりたてて騒ぐつもりはありませんが、来年から始めることをひとつだけ決めました。3年ぶりの株式投資です。いくばくかの資金を証券会社に入れました。とりあえず半分は中国ファンドね。実際に何を買うかはただいま検討中。久々の銘柄研究は面白いなあ。
○株式投資を休んでいたこの3年、98年は下げ相場、99年は上げ相場、2000年は下げ相場でした。それで来年は上げるのか、といえば、そんなに簡単な話ではないはず。正直なところ、上げる理由は思いつきません。この先に控えているのは弱々しい日本経済、相も変らぬ金融機関の不良債権、持ち合いの解消、買い手の不在、加えて米国経済の減速など。強いて言えば、この先の悪材料は、かねてから百も承知のことばかり。勝負を始めるにはいい頃合ではないかと思います。
○今日は大納会。日経平均は1万3785円という水準で引けました。たいした理由はありませんが、来年は2〜3月に底値を形成して、そこから上昇軌道に乗るのではないかと思います。いい年になるといいなあ。
<12月30日>(土)
○年賀状を書く。例年は200枚は書くのだが、今年はそんな元気がない。午前中だけで約100枚書いておしまいにした。しょっちゅうメールを交換している先はもういいだろうということで省略。最近はメールの年賀状もこんな便利なものがある。そうなると年賀状を送る先というのは、田舎にいる親戚とか、昔お世話になった方々とか、ここ数年1度も会っていない人ばかりになってしまう。ま、それもいいかな、と思う。オールドエコノミーは年賀状で、ニューエコノミーはメールで、という使い分けをしているようだ。
○年賀状の書き方は毎年アナログ式。住所録はいまどき手書きのノートを使っている。もう3年目。訂正があるたびにノートに訂正を書きこんでいる。住所変更や喪中欠礼などに対応するためには、パソコンよりもこの方が楽だと思う。宛名書きは自筆で。表も裏も印刷、というのはちょっとイヤなので。古いタイプかしら。
○年賀状って考えてみたらとっても高い。1枚50円もする上に、手間もこんなにかかる。その一方で、電子空間を使ったコミュニケーションはどんどん質も量も高まっている。後者がどんどん深まるのは無理がない。今年当たりから、年賀状の売り上げは下がるんじゃないだろうか。
○このHPを毎日更新しているということは、年がら年中メールを送っているようなもの。去年の今ごろはアクセス件数が5000に届くかどうかという話を書いている。ということは1年で3万件以上の訪問があったということになる。別に威張るほどの数字じゃないんですが、こうやって書いていることが、1日100人の目に触れるということにはちょっとした緊張感を感じてしまう。
○そうそう、おとといここで掲示した2000年大予測にも、ちょっとずつエントリーのメールが到着中。エクセルファイルでチェックリストを作りましたから、1年後には正解を発表します。挑戦者をお待ちしています。
<12月31日>(日)
○今年最後の更新です。生まれてこの方、日記はいつも三日坊主でしたが、これに限って1年続きました。
○来年もよろしくお付き合いください。皆さん、良いお年を。
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編集者敬白
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by Tatsuhiko Yoshizaki