<11月1日>(火)
〇テレビ朝日「スーパーJチャンネル」から取材。テーマは株高について。いろいろ話したので、どの部分が使われるか分かりませんが、特に大きな予定変更がなければ、11月3日分の放送でワシがちょこっと出る予定。
〇例によって「1985年と2005年は似てますね」という話が出て、「これからバブルになるんでしょうか」という質問があった。この質問、非常に多いので、以下、模範解答を書いておきます。
(1)「1985年のプラザ合意はバブルの導火線だった」とはよく言われるところだけれど、その因果関係はそれほど明瞭ではない。
(2)少なくとも、1985年の後ですぐバブルになったわけではなく、1986年は円高不況、87年はブラックマンデー、88年は年後半から天皇陛下のご容態が悪化して「イベントの自粛」と続いた。ホントに株が派手に上昇した時期は意外と短い。
(3)「バブル期」はすでに10年以上前のことなので、半ば伝説化されている感あり。バブル期を懐かしむ人あり、罪悪感を持つ人あり、想像もつかないという人もいる。ただしバブル期といえど、すべての人が株で儲けていたわけではないし、バブルと無縁に過ごした人も少なくない。「タクシーが捕まらなくて困った」という記憶だけが残っている人もいる。要するに意識し過ぎ。
(4)どうも「バブル」という言葉がバブルなんじゃないのか。
〇それはさておいて、今の日経平均1万3000円台という水準をどう考えるべきか。1989年末の3万9000円に比べると3分の1であるが、2003年春の最安値から考えると倍近くになっている。ただし1989年と2005年の東京市場は全然違う。今のNTTドコモやライブドアといった銘柄は当時はなかったので、単純に時価総額を比べるとバブル期が600兆円で今が400兆円少々。けっして3分の1になったわけではない。
〇ちなみに、1989年当時のGDPは400兆円くらいなので、東証の時価総額はその1.5倍であった。こういうのって大丈夫なのかなあ、と思っていたら、次の年にぷしゅっと萎んでしまったわけだ。今は名目GDPが500兆円で時価総額が400兆円ということなので、まだそんなに過熱感があるとは思わない。バブルではない、と見ていいと思います。ちなみにアメリカ経済はといえば、GDPが10兆ドルでNYの時価総額が確か14兆ドルくらいであったから、こちらはややバブルっぽいかもしれない。
〇とまあ、株に対する関心が高まっているのは結構なことですし、ネットトレーディングが流行るのもいいのですが、今日の東証のシステムダウンはいただけませんな。与謝野金融担当大臣の初仕事は、東証を叱ることとあいなりました。野球で言えば、選手を替えたところに球が飛ぶといった感じかな。もっとも与謝野大臣は、中小金融機関のペイオフを早速行なうという観測もあって、その中にはいろいろお騒がせの銀行も入っているのだとか。しばらくは与謝野さんに注目ですな。
<11月2日>(水)
〇テレビの報道番組で、こんな企画はどうでしょう。
●新閣僚に聞く。「第三次小泉改造内閣、“参拝続行”を問う」
出演:
内閣官房長官 安倍晋三
外務大臣 麻生太郎
農林水産大臣 中川昭一
駐日中国大使 王毅
〇真面目な話、「サンデープロジェクト」あたりでやってくれないかしら。
〇さて、われらが外務大臣の記者会見を読んでみると、なかなかに楽しいやり取りがありますね。
●外務大臣会見記録(平成17年10月31日(月曜日)23時10分〜於:本省・会見室)
(問)外相として靖国神社に参拝されるお考えがあるのかどうか。
(麻生外務大臣)そういう質問は必ず出るだろうと思ってましたが、やっぱり出ましたね。どちらですか。
(問)朝日新聞です。
(麻生外務大臣)やっぱりね。基本的には個人的な信条というものと、国としてのというものは必ずしも一致するということは限らないとことも往々にしてあるというのは解りますので、適切に判断をしたいという総理の考えとほぼ同じことを申し上げなければいけないと思っています。
〇そうかと思うと、こんな風に答えていたりする。
(問)日中関係は政冷経熱といわれている中で、日中外相会談もキャンセルされましたが、今の状況をどのような場でどのように打開し、どのように中国に呼びかけるお考えですか。
(麻生外務大臣)今年1月に中国に行ったときに似たような質問を受け、歴史認識について問われたことがあります。正確ではないが、多分こんな具合に答えたと思います。
昨年重慶でサッカーの試合が行われているときに、極めてアンフェアな応援を行ったのが中国人、しかしほぼ同じ時期に谷村新司の野外コンサートで、コンサートの最後に谷村新司が歌った「昴」という歌を観客の9割がスタンディング・オーべーションで応えてほとんど日本語で「昴」を歌ったというのも中国人、ということが存在していることを我々は知っている。
昨年、中国の海軍の原子力潜水艦が日本の領海を侵犯したのも軍人ならば、戦前帝国陸軍が天皇陛下の意向を無視して中国でいろいろ不届きな行為があったのも軍人、軍人というのは政治家にとって常に扱いにくいというのが似たような話ではないかと。
歴史認識というけれども、なかなか歴史認識というのは難しい。南北戦争のことを、ジョージア、アラバマ、ミシシッピ、ミズーリ、いわゆる南部の地域においてはノーザン・インベージョン、北部の侵略と学校では教えている。英国では米国の独立戦争を植民地の反乱といっている。同じ国内、同じアングロサクソンであっても歴史認識はなかなか一致しないということを前提にして、日中の歴史認識を考えていかなければならないのではないかと、正確な一言一句全部は憶えてはいませんが、大体似たようなことを言ったと思いますが。
それ以降向こうから反論はなく、第3世代、3G、携帯電話の新しい機種のことですが、その話に戻ってという話になったので、なかなか歴史認識というのは一致しないものだということを知った上で、やはり今中国で日本語を歌ったり話したりする若い人が多い。ジャパン・アニメーション、Jファッション、J−POPの「3
J」がアジアのサブカルチャーを席巻しているというのが、2年か3年前のタイムの中で書かれた社説です。日本はハードだと思っているけれど、実はソフトでアジアの中でこれだけ日本のサブカルチャーが浸透していると、タイムマガジンという月刊誌に出ていたとおりです。現実問題として日中関係は多くの人たちが色んな形で深く交わって相互交流、経済交流はもちろんのこと観光、文化でいろいろ交わり合っているのが現実だと思います。
そういった中で政治だけ別というように政経を分離するという考え方を中国はしますかね。私はある意味では、そういったものを考えて国民がそこまでうまく色んな形で行っているという現実に立った上で話をするべきではないかと思っています。
〇南北戦争との比較は、昨年12月に一緒に「靖国神社ツァー」をしたクリス・ネルソン氏も言っていたことです。とまあ、いろいろなやり取りがありますが、いちばん良かったのは次の部分です。
(問)吉田茂も首相になる前に外務大臣をやっていますが、そのポストになられたということでご感想は。
(麻生外務大臣)吉田茂は外務大臣にならずに総理大臣と外務大臣を兼務したと記憶していますが、感想ですか。余り予期しなかった質問ですね。吉田茂がどういう感想を持つか、「大丈夫かあ」とそんなものですよ。こんな質問なんかされてね。多分そういう態度で、今その辺で聞いていますよ。
〇新外務大臣の健闘を祈りたいですね。なにしろ口が滑りそうな人ですから、国民の大半も「大丈夫かあ」って思ってると思いますよ。
<11月3日>(木)
〇中国と韓国がキムチで戦争、というのはイタイというか、香ばしいというか、まあその、アレだ。
●韓国産キムチからも寄生虫の卵。http://www.asahi.com/international/update/1103/010.html
キムチをめぐっては、韓国政府が先月下旬、中国産キムチから卵が見つかったとして輸入を規制。その後、中国側が韓国産キムチから卵を検出と公表したため、韓国世論は「報復措置だ」と反発し「キムチ戦争」の過熱が懸念されていた。中国の検査結果に疑問を示していた韓国側にとって今回の検査結果は痛い失点となりそうだ。
〇キムチといえば、最近食べていないのだけれど、赤坂の一龍という店のがいちばん旨いと思う。本場のキムチはあんまり食べたことがないけれども、なにしろ赤坂もリトル・ソウルというくらいですので、韓国料理の水準は高いと思いますぞ。11月9日から行われる六者協議では、日本から一龍のキムチをお土産に持っていく、というのはどうだろう。わざわざ喧嘩を売りに行くようなものですが。
〇さて、寄生虫くらいはいいのですが、鳥インフルエンザってのはシャレにならない事態であります。日本以外では結構、大騒ぎしておりますぞ。下手をするとSARS以来の騒ぎになるかもしれません。
〇そうかと思ったら、人民日報にこんな記事が。
●日本など鳥インフルエンザ発生国の家禽類輸入禁止。http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200511030178.html
公告によると、中国は鳥インフルエンザなど重大な動物疾患の感染拡大を防止し、人々の健康や国内畜産業の生産の安全を的確に守るため、「対外貿易法」と「貨物輸出入管理条例」の関連規定に基づき、鳥インフルエンザ発生国からの家きん類およびその製品の輸入を一時停止する。対象国はタイ、ベトナム、インドネシア、カンボジア、日本、朝鮮、ルーマニア、クロアチア、カザフスタン、南アフリカ、モンゴル、トルコ、ロシア、スウェーデンなど。
〇中国が鳥を輸入禁止って、何考えてんのよ。お宅がいちばん心配なんじゃないの。国務院で鳥インフルエンザ対策会議を開いたって聞いてるぞ。そうか、そのうち中国産の鳥が輸入禁止になるかもしれないから、今のうちに先手を取っておこうという狙いか。意外としたたかな危機管理なのかもしれません。
<11月4日>(金)
〇日経平均が1万4000円台に。別に株を買っているわけではないのだけれど、日本経済強気論を述べている立場からは、ああ良かったと胸をなでおろす展開であります。これで小泉政権発足時の水準に戻したことになる。てなことを書くと、「やっぱりバブルの再燃ですか」という声が聞こえてきそうである。その場合は、11月1日分の当欄をもう一度ご覧いただきたく。
〇今宵はおなじみの面々が集まってのオフ会。雪斎どの、やじゅんどの、さくらさん、ぐっちーさん、それに初対面の副会長さんと某誌の編集者で合計7人。本当は阪神タイガースの日本一を祝う会の予定だったのですが、武運つたなくロッテマリーンズを称える会となってしまいました。巨大なプライムリブをいただきつつ、話題は政治から格闘技まで幅広く展開したのであります。
〇なかでも、ぐっちーさんが語ったロバート・マンデル博士随行録が大人気でした。なんとマンデル博士は、競馬新聞の「馬柱」システムをわずか2時間で解読できるようになり、菊花賞を三連単3点買いでバッチリ当てたのだそうです。それも1点あたり、口にするのも憚られるような金額を張り、なおかつ儲けた金額はすべて日本国内で散財したというから、これはもうギャンブラーの鑑です。こんな架空小説を書きつつ、アドマイヤジャパンを自分では買わなかった誰かさんとは、えらい違いではありませんか。
〇いつも思うことですが、「式さえあっていれば、答えが違っていても気にかけない」のが経済学者。「式なんてどうでもいいから、答えがあっていればいい」のがエコノミスト。前者は退屈な人間であり、後者はギャンブラーとの差別化が非常に困難です。ところがさすがにノーベル賞受賞者ともなると、式も答えもバッチリあわせて、なおかつ大盤振る舞いもしてしまう。まったく、人間の格が違うとしか言いようがありません。
〇こうなったら、来たる有馬記念ではマンデル博士のご助言をいただきましょう。それでもって、三連単神社に公式参拝する。これで大勝負をかけて、年末年始をリッチに過ごしましょうというのが今宵の結論であります。
<11月5日>(土)
〇明治安田生命の事件を聞いていて、んー、こりゃヒドイなと。おそらく合併したために表沙汰になったわけで、合併がなければ延々と世間に知られずに続いていたのかもしれません。
〇生命保険というビジネスモデルについては、以前にも当欄で書いたことがあります。今探してみたら、2003年5月21日にあった。こういう説明です。
〇この話はどこで聞いたか忘れちゃったのですが、いわく生命保険とは同窓会の幹事のような仕事であると。同窓会の幹事は普通はボランティアですが、少々儲けたところで文句を言う人はいないはずである。では、どこで儲けるかというと以下の3通りが考えられる。
●徴収した会費よりも、経費を内輪に収める
●余った会費を翌年まで預かり、運用する
●会費は振り込んで来たものの、当日、来れない人が出る
○それぞれが、生命保険における「費差益」「利差益」「死差益」に該当するというわけ。分かりやすいでしょ?
〇明治安田生命の手口は、費差益と利差益は頭打ちだから、死差益で儲けようとした。つまり幹事さんは私腹を肥やすために、なるべく皆が同窓会に来られないような日を選び、当日のドタキャンを増やすような努力をしていた。これでは同窓会員としては、怒るしかありません。ほかの二つの努力は、いくらやっても問題はないんですけどね。
〇そういえばかんべえが入っている生命保険は、これで17年間払い込んでいるので、あと3年で満期になるはずである。そうなると延長しろとか、新しい保険に入れとか、いろんなことを言われそうだけれども、もうその予定はないですな。このビジネスも、いろいろ辛いですね。
<11月6日>(日)
〇日曜日朝のフジテレビ「報道2001」は最近はほとんど見ていないのですが、「今週の調査」だけはいつもチェックしています。とはいえ、今さら小泉首相の支持率を一喜一憂する必要はないわけで、せいぜい自民党と民主党の支持率の変化を見るくらいで十分となりました。そこでたまには設問の方を見ていたら、面白いことに気がつきました。
〇総選挙後、下記のような質問が4回繰り返して行なわれている。数値があまりにも一定していることに驚くほどです。
【問】あなたは、今後小泉政権にもっとも優先して取り組んでほしい政策課題は何ですか。
政策課題 調査実施日 | 11月3日 | 10月13日 | 9月22日 | 9月15日 |
景気・雇用対策 | 14.0% | 13.4% | 14.0% | 12.4% |
財政再建や税制改正 | 19.6% | 20.2% | 19.0% | 20.6% |
年金・少子化など社会保障政策 | 50.4% | 50.8% | 54.0% | 54.6% |
外交・安全保障政策 | 8.0% | 8.8% | 8.0% | 8.2% |
憲法改正問題 | 4.0% | 4.0% | 2.8% | 2.6% |
(その他・わからない) | 4.0% | 2.8% | 2.2% | 1.6% |
〇ざっくりいって「年金」が半分、「財政」が5分の1、「景気」が7分の1、そのほか「外交」や「憲法」はほとんど無視していいくらいに少ない。母集団は「首都圏の成人男女500人」ですから、地方の声はもう少し違う(たとえば「景気」がもっと多い)のかもしれません。それでも、有権者は身の回りの問題(Pocket
Book Issue)に関心が高く、それも社会保障政策が圧倒的である。政策担当者としては、これは肝に銘じておくべき現実でありましょう。
〇ただしこれを見ながら思うのです。景気回復がさらに進み、長期金利がさらに上昇するようになると、その瞬間に年金問題への関心を失う高齢者は少なくないのではないか。仮に金利が4%になったとすれば、金融資産が5000万円ある人は、税引き前で年間200万円の金利収入を得ることになる。今の低金利では、金融資産が1億円を超える人でも生涯安心とはいえないけれども、金利が上がれば「自分はいくら年金をもらえるのか」を気にする必要がなくなる。
〇もちろん金利が上昇すると、政府の財政赤字だとか企業収益の悪化だとか、別の問題を気にしなければならなくなる。そうなると、上記の数値はずいぶん変化するのでしょう。まだまだそういう認識は少ないけれども、景気回復に従って金利は確実に上昇する。おそらく年金を気にする人が減って、財政再建を気にする人が増えるのではないでしょうか。総選挙後の政策課題がどんな風に変わるかに注意が必要ですね。
<11月7日>(月)
〇今年は何でも勝負に大差がつくことが多い。総選挙は自民党の圧勝で、ポスト小泉を世論調査すると安倍人気がダントツである。日本シリーズもワールドシリーズも、最後は4勝0敗で勝負がついた。競馬の世界では21年ぶりに「無敗の三冠馬」が誕生した。この調子で行くと、九州場所ではおそらく、朝青龍によって「年間6場所完全優勝」の偉業が達成されるのではないか。
〇90年代後半から、「二極化現象」、「勝ち組と負け組」、「ウィナー・テイク・オール」なんて言葉が使われるようになった。しかるに今日の強者は中途半端じゃなくて、文字通り歴史に残るような強さである。普通の人からは隔絶した世界である。そんなわけで、最近では「格差社会」とか、そのものズバリ「下流社会」なんて言い方も出てきた。
(どうでもいいけど、三浦先輩、売れてますねえ、あの本。三浦さんはマーケット・プランナーとして、これまでにも「第四山の手」「ファスト風土」「かまやつ女」などの造語をしてきたのだけれど、今ひとつひねり過ぎというか、社会現象になるほどにはヒットしなかった。その点、「下流社会」という言葉は、まったく身も蓋もないけれども、確実に時代の関心事を捕らえている。あの本は、三浦さんのいつもの癖として、統計のサンプルは少な過ぎるのだけど、「ある、ある、ある!」と叫びたくなるようなイタイ話をいっぱい拾っている。あんなに身につまされる本はめずらしいですぞ。ということで宣伝ここまで)。
〇そんな中で、キラリと光るのが昨日伝えられた「瀬川晶司氏がプロ棋士編入決定」の報だと思う。プロ入りを賭けた6番勝負、最終戦を待つまでもなく、5戦目で3勝目を上げて瀬川さんのプロ入りが決まった。将棋連盟のHPを見ると、各対局者がひとことずつ実にいい談話を残しているのに感心しました。
(ちょっと意地悪な想像だが、この編入試験を決めた将棋連盟の米長会長は、本当は第6戦までもつれこんで、自分が立会人を務めるのを楽しみにしていたのではないか。最終局、終盤の形成不明のところで、「ちょっと待ったあ!この勝負、この米長が預かった!」などとやらかし、マスコミの詰め掛ける前で「瀬川君、君は強い。おじさんとフリークラスで勝負しよう」などとやらかすつもりだったのでは。なにしろ派手好きな人ですから)。
〇とまあ、そこまで行く前に、めでたく瀬川氏は3勝した。聞けば35歳とか。35歳と言えば、あの羽生四冠王、森内名人と同じ年、佐藤康光棋聖の一つ下に当たる。将棋界における「恐るべき子供たち世代」と重なってしまったのだ。おそらく瀬川氏は奨励会時代、この連中が驚異的な勝率で階段を駆け上がっていく間に、黒星をいっぱいもらってしまったのだろう。そして年齢制限の壁。この時点で彼は負け組だった。
〇ところがその後の瀬川氏は、プロアマ戦で並み居るプロを打ち破る。そしてもう一度プロに挑戦させてほしいという嘆願書は、多くのファンの心を捉えた。最後はヨネさんが粋な計らいを見せて、この編入試験が成立した。瀬川氏は敗者復活の機会を得たのである。たとえ勝者総取りの世界であっても、この敗者復活の道だけは閉ざしてはならないと思うのだ。
〇将棋界の頂点は、誰がなんと言おうが羽生四冠王である。近著『決断力』を読めば、現在35歳になった元アンファン・テリブルが、ほとんど老成の域に達しつつあることが窺える。そして羽生の将棋は文句なく面白い。一方で、瀬川氏は将棋界の裾野のほうにいるかもしれないけれども、プロ入りの夢を捨てず、その夢を実現させた。遠い先のことかもしれないけれど、いつの日か、公式戦で両者が対局することがあるかもしれない。そのとき、ファンは熱狂するだろう。
〇瀬川さん、本当におめでとう。
<11月8日>(火)
〇アメリカ出張から戻ったナベさんから、最近のブッシュ政権ってどうよ、という話を伺う。南米歴訪はひどかったっすねえ、と聞くと、いえいえ、レイムダック化の最中に外遊で目先を変えるのは、こういうときの常套手段ですから、という。とくにFTAAという通商問題に挑戦したことは、ブッシュが「新しい政治課題に取り組んでいる」姿勢を示せるので、イメージ的にもお得な作戦であろうとのこと。もう一人の安井さんは、「民主党が保護主義に傾いているから、それを叩くためにも都合がいいんでしょう」と言う。共和党戦略は、つくづく油断も隙もない。
〇来週からのアジア4ヶ国歴訪の旅も、同様な文脈で読み取る必要があるでしょう。六者協議については、胡錦濤訪朝の御土産が何かあるかもしれないし、APECについては「鳥インフルエンザ対策」という伏兵が浮上したし、目先を変える材料には事欠かない。日米関係については、「ほとんどの問題は牛に乗っている」そうですから、BSEさえ片がつけば後は楽勝であるらしい。まあ、せめて日本では、京都の紅葉をエンジョイして、ツキの流れを変えて帰ってもらいたいものです。
〇それにしてもブッシュの現況は惨憺たるものです。(A)「イラク情勢の悪化」と(B)「ブッシュチームの崩壊」と(C)「保守層の分裂・離反」という本質的な3つの現象が、それぞれに手を携えて同時進行している。「イラン・コントラ事件」や「モニカ・ルインスキー」といった特大スキャンダルがどかんとあるのと違い、細かな問題が網の目のように入り組んでいるので、どこから手をつけていいのか分からない。
(例)
(A)「イラク情勢の悪化」→CIA工作員秘密漏洩事件→(B)「ブッシュチームの崩壊」(リビー副大統領補佐官の起訴)
(A)「イラク情勢の悪化」→カトリーナ対策も含めて財政支出増大→(C)「保守層の分裂・離反」(財政タカ派の反逆)
(B)「ブッシュチームの崩壊」(カール・ローブ次席補佐官の不在)→最高裁判事の指名で混乱→(C)「保守層の分裂・離反」
(B)「ブッシュチームの崩壊」(ネオコン派の追放)→安全保障政策の混乱→(A)「イラク情勢の悪化」
(C)「保守層の分裂・離反」→政権支持率の下落→ホワイトハウスの能力低下→(A)「イラク情勢の悪化」&(B)「ブッシュチームの崩壊」
〇そういえば今日は「第1月曜日の次の火曜日」であり、アメリカでは選挙の日です。大統領選挙も中間選挙もありませんが、バージニア州知事選挙や、カリフォルニア州の住民投票などがある。これらの結果にも注目したいところです。
〇かくして、残り1年の任期の小泉さんが権勢の絶頂にあり、残り3年以上の任期を残したブッシュさんがレイムダック化の危機である。この対比はいったいいかなることならむ。研究会は、最後はこんな言葉でお開きとなりました。
「アメリカ大統領は辛いですねえ。その点、辞めたいときに辞められる議院内閣制は、優れたシステムなのかも」
〇ということで、アメリカ政治オタクの世界にずぶずぶと沈む快感に浸った一日でした。
<11月9日>(水)
〇日本ではあまり報道してくれないのだけれど、アメリカの選挙結果は以下のとおりでした。ソースは下記の通り。
http://www.cnn.com/2005/POLITICS/11/09/election.roundup/index.html
(1)NY市長選挙は順当に現職のブルームバーグ市長(共和党)が再選。
(2)ヴァージニアとニュージャージーの知事選挙ではともに民主党が勝利。
(3)同性愛結婚禁止の州民投票は、テキサス州では大差で成立、メイン州で不成立。
(4)カリフォルニア州で、シュワルツェネッガー知事が提出した4つの提案(財政支出に上限を設けることなど)はすべて不成立。
〇これらのうちで、注目点はヴァージニア州で民主党のケイン候補が共和党のキルゴア候補を破ったこと。選挙戦最終日に、南米歴訪からの帰途にあったブッシュ大統領が、わざわざパナマからヴァージニアに降りたって応援に入った。いわば政治的ギャンブルであったが、賭けは裏目に出た。
〇勝ったケイン候補は副知事出身。知事の再選を禁じている州法により、現職のワーナー知事の代わりに出馬したわけだが、ワーナー知事の人気に助けられて当選した。ヴァージニアは南部のレッド・ステーツ。民主党がここで勝てたことの意義は大きい。ワーナーは2008年大統領選挙の有力候補者の一人。
In Virginia, Democratic Lt. Gov. Tim Kaine
won the governor's race, defeating Republican Jerry Kilgore, a
former state attorney general, despite a late-minute appearance
on Kilgore's behalf Monday by President Bush.
"We did it," Kaine told supporters at a rally in
Richmond. "Tonight, the people of Virginia have sent a
message loud and clear that they like the path that we chose, and
they want to keep Virginia moving forward."
Though Virginia leans Republican, Kaine appeared to benefit from
the popularity of Democratic Gov. Mark Warner, who is being
mentioned as a possible 2008 presidential candidate. State law
didn't allow Warner to seek re-election to another term.
〇もうひとつ、気になるのはシュワちゃんの失速。支持率が6割から3割に急落し、こちらも指導力回復のための賭けに出たが、思ったような結果にはならなかった。これでは来年の州知事再選は難しそうだ。
〇こんな風に、ブッシュ人気の低落は他の共和党政治家にも及んでいる。その結果、共和党議員たちが大統領に距離を置き始め、ますますホワイトハウスの力量が低下する。
〇いちばんの問題は、こうした状況であるにもかかわらず、ブッシュ政権は2009年1月20日の正午まで続くということだ。ブッシュ政権の危機はアメリカ政治の空白を招く。それが3年以上続くと考えると、これはかなり深刻な事態といわざるを得ない。
<11月10日>(木)
〇今宵は「樽床伸二氏の再起を期す会」へ。樽床氏のパーティーは、これまでに何度もご案内をいただきつつも、1回も出たことがなかった。しかし「9・11」選挙で落選されたとあっては、これは出ないわけにはいかない。民主党内では、めずらしく政策よりも政務に強いタイプ。なぜかアメリカの共和党に強く、「水曜会」のノーキストと意気投合しちゃったとか、「人たらし」の上手さは伝説の域である。それだけに、今回民主党が失った議席の中でも、もっとも惜しいもののひとつだと思う。
〇民主党の主だった面々をはじめとする多数の来客により、全日空ホテルのプロミネンスが一杯になっていました。当方は黒岩キャスター、長島昭久さん、近藤洋介さんなどに挨拶をする。それにしても、発起人のうちで最初にスピーチしたのが村上ファンドというのはビックリしました。選挙の最中には、寝屋川市に何度も入って応援していた由。「実はそれが悪かったんじゃないか」なんて、自分で言ってどうするんですか。冗談になりませんぞ。あそこも阪神ファンは多いですからな。
〇余談ながら、かんべえは村上世彰氏のことはよく知りませんが、M&Aコンサルティングの副社長を務める滝沢さんのことは、かなり前から知っている。今月号の『選択』では変な記事が載っていて、村上氏は操り人形で滝沢氏が黒幕だ、などと書いてある。バッカでぇ。雑誌『選択』の凋落振りをひしひしと感じさせる記事でありました。書いた記者はともかく、アレを載せた編集部は反省するように。
〇さて、樽床氏、開票の翌朝午前7時には、もう駅頭で演説に立っていたという。あと2年続くか3年続くか(さすがに丸4年ということだけはない)不明なるも、捲土重来を期す日が続く。かんべえは、彼よりひとつだけ若い45歳なるも、この年になって、こういう試練はとてもじゃないが御免こうむりたい。それでも樽床氏は、いつも通り明るい。「自分は結果の平等じゃなくて機会の平等だと言ってきた。敗者復活のチャンスが必要だと主張してきた。それが口だけだったか、本当に自分ができるのか、これからそれを試されるのだと思う」
〇人間、ある一定の年齢を超えると、いつの間にか引き伸ばされた袋小路の中で生きている。今さらそこを去るわけには行かない。もっと楽な生き方があると知っていても、とことん頑張らざるを得なかったりする。そんな激しい人生は、自分にとっては分不相応である。せいぜい応援ぐらいはさせてもらうとしよう。村上ファンドほど目立ちませんけど。
<11月11日>(金)
〇7―9月期のGDP統計が発表。やはり市場予想よりも強いですね。今回の景気回復局面が、1996年や2000年よりも強いことが鮮明になったと思います。そして97年には消費税引き上げと金融不安で、01年にはハイテクバブル崩壊と9・11で景気は腰折れしたわけですが、今回はそういった大きな懸念材料がない。回復の勢いは減速しつつあるようにも見えますが、それでも2005年度の日本経済は潜在成長率を大きく上回って2%台後半まで行くんじゃないかと見ています。
〇一部には「2004年度の後半は短い調整期間だったのではないか」という見方もあるそうです。これは一理あって、シリコンサイクルは4年周期でオリンピックイヤーと重なることが知られている。アテネ五輪終了後に、デジタル家電を中心とした在庫調整があったのではないか。ところがIT業界は2000年の失敗に懲りていて、在庫の積み上がりが大きくならなかった。それで短期間で調整が一巡し、今年に入って「足踏み状態」を抜け出すことができた。2004年後半が「適度なお湿り」になったと考えれば、景気拡大の残り時間は意外と長いかもしれません。
〇さて、今日はインフルエンザの予防注射を受けました。だって、来週は中国出張だもの。そのせいか、夕方からちょっとだるくなってしまい、BSジャパン「マーケット・ウィナーズ」の収録終了後は、飲み会に出かけずに帰宅してしまいました。ドタキャン御免。
<11月12〜13日>(土〜日)
〇インフルエンザの予防注射で、本当に金曜夜はだるくなり、鼻水が出た。土曜朝に喉が痛くなり、夕方に咳が出た。日曜朝になってやっとおさまったが、なるほど風邪を引いた後のようにぼんやりしている。それでも火曜日からの出張に備えて、注文を受けた雑誌原稿を片付けておかなければならない。はてさて弱ったものである。
〇フランスの暴動について少々述べておこう。この暴動、大変なエネルギーである。昔、1991年にかんべえがワシントンにいた頃に、アダムス・モーガンという地区で暴動が1件あった。警官隊が催涙弾を発射し、わざわざ中継者が全国に放映する騒ぎになり、「首都でこんな騒ぎが起きるようでは、アメリカもいよいよ焼きが回った」という報道がされたものである。それでも、あっという間に沈静化した。そういうものなのである。それが何週間も続くと言うことは、かの国には、相当なルサンチマンが積もり積もっておるのであろう。
〇ティーンエイジャーが中心であるという説明に妙に納得するものがある。クルマが焼かれるというのは、暴動を起こしている若者たちにとって、クルマが自分たちに手が入らない自由や豊かさの象徴であるからなのだろう。その際に、どんなクルマが狙われやすいのか、てな視点の報道がないのがちょっとさびしい気がする。わが国における「下流社会」は、そんなに居心地が悪そうではないけれども、フランスの下流社会に身をおくのは相当な苦痛であろう。
〇本件、2007年の仏大統領選挙との文脈で語られることが多い。強硬策のサルコジ内務大臣か、それとも柔軟姿勢のド・ビルパン首相か、という対比である。昔のフランス映画にはアラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモンドの二大スターがいた。二枚目と二枚目半という役どころなのだが、もちろん日本では圧倒的にアラン・ドロンの人気が高く、フランス本国ではJ.P.ベルモンドの方が人気なのだと聞いたときには「へ〜」と思ったものだ。まあ、二枚目が負けるというのはよくある話なので、きっとこの勝負もサルコジの勝ちなんだろうな、などと勝手に思っている。
〇以上、まったく無責任な印象論。なにしろフランスは食わず嫌いなもので。もうひとつの食わず嫌い、中国へは生まれて初めて明後日から出かけます。いちおう、予定表だけ書いておこう。
〇岡崎研究所ご一行の一員として、北京社会科学院と上海国際問題研究所を訪問してくる予定です。現地での予定はあんまりよく分かってませんので、西も東も分からない私めが困っておりましたら、ぜひよろしくお助けのほどを。何しろ予習をする暇がないもので・・・・
<11月14日>(月)
〇某誌向け書評を1本と、某誌向け「ブッシュ政権は大丈夫かって、そんなわきゃあねえだろ」論文1本をドタバタと入稿する。でもって、明日から行く中国って、ワシは何をするんだ。蘇州に行くらしいんだけど、蘇州ってどんなところだっけ。寒山寺って何だ?って、そんなもの、ぐぐればいいんですよね、ハイ、蘇州。と、こんな風に、いつも土壇場で慌てる出張前夜である。
〇ところが出張前夜に岡崎研究所の秋のフォーラムである。いつもにも増して多士済済であった。佐々淳行氏、乾杯の発声で「岡崎研究所がまさかこんなに長持ちするとは思いませんでした」って、ずいぶんなお言葉ですけれども、正直、同感です。でもって、安倍官房長官、谷内外務次官などが続々と登壇。東京財団の若手安保研究会もあったんですが、明日の朝が早いのでこちらは失礼しました。
〇ソニーのTさんが来てました。すごいお久しぶり。まずいことに、先月末のヨミウリウィークリーの「経済現論」で、「気になるソニーの行方」なんて駄文を弄しているので、読まれてたらやだなと思ったら、「ちゃんと広報から回ってきました」と。ああ、天網恢恢疎にして漏らさず。やっぱり他所の会社の悪口なんて書くもんじゃない。ワシはソニーファンだって、ちゃんと最後に書いておいたじゃない。って、そりゃアリバイ工作見え見えですわな。
〇ところで、防衛研究所の武貞秀士さんが韓国から戻った直後で、面白い話をしてました。いわく、「中国経済の影響が急速に浸透し、北朝鮮は今や“東北3省の4番目の省”になりつつある。そのうち韓国は、北朝鮮を中国に取られてしまったと気づくだろう。彼らの面目は丸つぶれ。中韓対立が始まるかもしれないけど、今さらアメリカに泣きついても遅過ぎる」。――おお、これはなんとも香ばしい展開。そうなると、「北朝鮮を中国に取られたのは日本のせいだ」とか言われちゃいそうですが、日本としては「だから言ったじゃないの」と言うしかないですな。当欄をご覧になっている雑誌編集者の方に特報です。今すぐ、武貞先生に原稿依頼をしよう!
〇家に帰ったら、北京の中国社会科学院とのシンポジウムの日程表が到着してました。ということで、明日以降の日程は下記のとおりです。さあ、明日は5時起きだあ!
<11月15日>(火)
〇「北京は寒いぞ」に始まって、「風邪引くな」「鳥を食うな」「一人で出歩くな」、果ては「ホテルで夜中に部屋をノックする音がして、ドアを開けると妙齢の女性がいて(以下略)」など、さまざまな警告ないしはご心配をいただきつつ、中国への旅は始まったのでありました。それにしても世の中には、「かんべえは中国政府にとって好ましからざる人物ゆえに、きっと碌でもない目に遭うのではないか」などと思っている人が多いようである。そんな悪いこと、してないと思うんですが。ワシって甘いかな。
〇成田からCA422便で飛び立つ。チャイナエアーといえば中華航空であり、エアーチャイナといえば中国国際航空というのは、やっぱり紛らわしいことこの上ない。早いとこ台湾航空に社名変更してくれ、チャイナエアー。初めて乗るエアーチャイナは小型機である。座席の前のカードを見たらボーイング737だと書いてある。ところが隣の席のカードには757と書いてある。多数決を取ると、どうやら757であるらしい。どうにも適当な飛行機会社である。それでも機中の映画で『頭文字D』をやっていたのはモウケモノであった。80年代評論家としては、トヨタ・スプリンター・トレノがとっても懐かしいのである。
〇ということで3時間後、飛行機は中国のほこりっぽい大地に着陸する。空港では検疫と入管と税関と3箇所で、書類の提出が必要になる。そのたびにパスポートナンバーとホテルの名前を控えねばならず、結構手間である。でも、簡単に入国できてしまう。やはりかんべえは要注意人物ではないのである。
〇昼間の北京は驚くほど暖かい。コートは完全に不用。イチョウが黄色くなっている小道を歩いたりすると、見るからに北京好日といった風情である。犬を連れている人を見かけるが、これは最近の流行なのだそうだ。昔は犬は食べるものであって、そもそも街中で犬を見かけることなどあり得なかったのだが、今ではペットとして飼うことがステータスシンボルになっているという。ヴェブレンの『有閑階級の論理』という古典、そのまんまのお話である。
〇北京の市内はクルマがびゅんびゅん走っている。ほとんどが5年以内に買った新しいクルマであるようだ。人口1500万人にクルマが350万台だそうだ。この調子であれば、じきに倍ぐらいになるのではないか。日本車も多いが、タクシーはヒュンダイである。たまに古いクルマを見かけると、非常に高い確率でワーゲンのサンタナである。
〇ところで、中国では何人かの人の携帯電話番号を知らせてもらっているのだが、11桁もある。よくよく見ると上3桁は「13X」になっていて、これが局番であるらしい。3億人もがケータイを所有する国においては、番号の桁数もすぐに一杯になってしまうのではないか。この国においては何でも「13億でかけるととんでもない数字になり、13億で割るとごく小さな数になってしまう」のである。
〇夜は社会科学院日本研究所の方々による歓迎宴会。「乾杯」の繰り返しになるのかと思ったら、何の事はない普通の宴会であった。しかも日本語のできる人ばかり。いろいろ拍子抜けすることの多い中国初日である。さて、明日はどうなるのであろうか。
<11月16日>(水)
〇かんべえが泊まっているホテルは、社会科学院の近くで外国人が少ないところであるせいか、インターネット接続の条件が非常に悪い。電話回線接続で、更新にも時間がかかります。一緒に来ている阿久津さんは、わざわざADSRがあるホテルに変えてしまいましたが、「ウォール・ストリート・ジャーナルにアクセスできない」などと言ってました。さすがは中国。そう来なくては。
〇さて、今朝の北京はさすがに寒くて、コートがないとツライ気温である。ホテルのすぐ近くにある社会科学院まで歩いていくと、文字通り吐く息が白い。そして古い大学のような建物の中は、空気がひんやりと冷たい。歓迎挨拶があって、庭先で記念撮影を行い、いよいよ日中安全保障と協力対話の始まりである。
〇しかるに室温がとっても低い。見ると中国側の参加者は、皆さんスーツの下にベストやカーディガンがあって、ウォームビズ・モードである。全体に明かりも少なめであって、省エネモードである。ところが昼になったら、「やっぱり暖房を入れましょうか」などと言うではないか。なーんだ、暖房あるんなら、早く入れてよ〜と思ったけれども、どうやら体感温度がまるで違うらしい。今後は「中国人はエネルギーを無駄遣いしている」などと言ってはバチが当たるであろう。
〇国際会議といえば、朝からコーヒーを飲み続けるものと相場が決まっているのだが、ここでは机の上にカップとジャスミンっぽいお茶が置かれていて、何度もお湯を足してくれるサービスになっている。まあ、スターバックスの中毒患者としては、たまにコーヒーを抜いてみるのも悪くはない。本日の食事は朝昼晩と中華料理、それにお茶。しばらくこれが続きそうな雲行きである。ワシは若いからまだ平気。
〇会議の中身は朝から激論の応酬。午前中は軍事関係が中心なので、これはまあ予想の範囲内である。ところが午後、経済問題になっても、反日デモや春暁ガス田などをめぐってきわどい議論が続く。面白かったのは、「反日デモ」は中国では公式には「なかったこと」になっており、中国側が言及する際にはかならず「カッコつき」になるのである。それから「東シナ海」は中国では「東海」と呼んでおり、とっても紛らわしい。「南シナ海」は「南海」である。いっそのこと、日本海を東海と呼ばせようとしているどっかの国を、中国にたしなめてはもらえないだろうか。
〇結局、夕方の日本政局や日中関係をめぐるセッションまで、空気が凍りつくような瞬間が何度も繰り返されました。いやあ、楽しいね、ホント。日本側メンバーは別に打ち合わせなしで、それぞれが勝手な話をしているだけなのですが、先方は中国政府の公式見解という枠組みがあって、プレゼンテーション部分ではなかなかそこから出てこない。それでも、ディスカッションをしているうちに、矛盾点やホンネが垣間見える瞬間があり、そこを日本側がついてポイントを稼ぐ。それがないときは、公式論で中国側が攻める、とまあ、こういうゲームなのでありますね。
〇それでも終われば和やかな会話に終始するのは、さすがは大国外交というべきか。中国との国際会議は、建て前ばかりでつまらないという意見と、大人相手のやり取りだから面白いという意見の両方を聞きますが、どちらも実感ですね。
〇最後にどうでもいい話ですが、日本ではブッシュさんが来てますが、こちらにはアーノルド・シュワルツネッガーが来ているようです。カリフォルニア州と中国の経済関係について講演し、最後はもちろん"I'll
be back."と言って締めたとか。40チャンネルもあるテレビ局の中で、唯一英語のニュースがそう言ってました。
<11月17日>(木)
〇ちょっとみんな聞いてくれるぅ? 某社がワシ宛てに昨夕送ったゲラチェックのFAXがですな、今日の夕方になって届いたからとホテルのビジネスセンターから電話があったのである。どこの世界に、客にFAXを取りに来させるホテルがある、とブツブツ言いながら降りていくと、1枚3元だから9元をキャッシュで支払えと言う。隣の売店では缶ビールが3本買える値段である。ありえねえええ!
〇と、ホテルの「チャイナ・クオリティ」への文句はさておいて、日中安全保障と協力シンポジウムが終了しました。この会議、プレゼンターの発言を15分と区切っていて、12分たったところで司会者がベルを鳴らし、15分で再度鳴らすことにしている。このベルの効果たるや絶大、1度目のベルでプレゼンターは急にそわそわし始め、2度目のベルが鳴ると後は苦渋の決断で話を終えてくれる。特に日本人は、そういう点でまことに御しやすい。
〇ところが国際会議においては、ときにこういうベルを無視して、延々とその後も15分くらい話し続ける猛者がいるものである。特にインド人に多い。「空気読め」的な以心伝心を、彼らには期待してはいけない。その点、中国人はちゃんとベルに反応してくれる。これは得難い美質というものであって、日中間の会議には、あうんの呼吸が存在するのである。
〇最近は中国の工場をインドに移そうか、みたいな話はしょっちゅう出るが、「インドではサプライ・チェーン・マネジメントができない」というのが日本企業の間ではもっぱらの評判だ。距離も遠いし、時差もあるし、何よりきめ細かな対応が期待できない。日本企業のモノ作りとしては、以心伝心ができない相手は怖くて使えないのである。
〇日本企業のアジア進出は、雁行型の経済発展をもたらしたことで高く評価できると思うのだが、それでもアセアンあたりから見て物足りなかったのは、日本が輸入大国とはならなかったことだ。理由は簡単で、日本の消費者は世界で一番ワガママで要求水準が高く、なかなか外国製品を受け付けないのである。その点、日本企業が中国に進出して製造した商品であれば、家電でもユニクロでも食品関係でも百円ショップでも、ちゃんと受け入れられた。今では中国製品は日本の輸入の2割を占めるに至っている。日本の消費者は、「チャイナ・クオリティ・ウィズ・ジャパン」ならばOKなのである。
〇とまあ、こんな風に経済面での日中の補完性は疑うべくもないのであって、それが「政冷経熱」でどうしましょ、てな話がぐるぐる回っているわけだ。これはやはり、政冷の根源ともいうべき「抗日記念館」を見に行かねばならぬということになる。今回、お世話になっている通訳の王雅丹さんまでもが、「かんべえが抗日記念館を何て書くか読みたい」などという。しょうがねえ。受けて立とうではないか。
〇抗日記念館、正式名称は「中国人民抗日戦争記念館」(Museum
of the War of Chinese People's Resistance Against Japanese
Aggression)という。入場料は15元である。この夏に対日戦争勝利60周年を記念して改装された。その直後は入場無料であったために千客万来であったそうだが、今日はそれほどではない。おばさんたちが焼き芋を売っている。夕刻の慮構橋近くは冷え冷えとしているので、この焼き芋がすこぶる旨かったりする。ちなみにかつてマルコポーロが西洋に喧伝した橋は、今日も威容を残しているものの、川は干上がっていて水は流れていない。
〇記念館の中はビックリするほど広い。評判高いろう人形はすでになく、戦史中心の展示となっている。もちろん日本軍の残虐行為については、南京大虐殺、731部隊など一通りの写真は展示されている。それでも、想像したよりはずっとまともだなという印象でありました。ちょうど米軍関係者が見学にきており、解放軍兵士があんまり上手じゃない英語で展示を解説している。後ろで聞き耳を立てていたところ、南京大虐殺の「30万人」の掲示の前で、退屈そうな顔の米士官がつぶやいた。"How
much was the Cultural Revolution?" 心の中で、われらが同盟国に拍手してしまったワシを誰が責められよう。
〇一行の中には、「抗日記念館評論家」でもある潮匡人さんがいる。途中でニコニコしながら、「そろそろ終わりだと思ってるでしょ。まだ半分程度ですよ」と言うからギョッとなってしまう。潮さんの解説によると、この夏の改装で規模が拡大し、中身もかなり入れ替わった。入り口に毛沢東、ケ小平、江沢民と並び、胡錦濤の賛が入っているのも、その際に加わったらしい。ちなみに筆跡を比べると、毛沢東が斜めに傾いた独特の字体が、いかにも天才肌の文字だ。胡錦濤の文字はその点、秀才タイプで個性に乏しい。前者は一目見ればそれと分かるが、後者はすぐに忘れてしまうだろう。毛筆の文字は、それだけで本人の人柄が出てしまうから恐ろしい。
〇アメリカのボブ・ゼーリック国務副長官は、対中政策を述べた講演の中で、「918記念館ではアメリカの対日戦を紹介していない」と文句をつけているが、その辺もちゃんと改訂されている。中国に対し、連合国の支援があったことを強調している。国民党の役割も一応、紹介している。それから台湾同胞の対日抵抗(といっても、たいしたことはしてないのだが)も取り上げてあって、国共合作に向けて仕込みは万全と見えた。
〇展示はさらに「連合国の対ファシスト勝利」を強調して、日本のA級戦犯14人の肖像を掲げ、「これらが靖国神社に祭られている」という注釈がついている。なるほど、いかにも抗日記念館は2005年モードになっているようだ。「そこまでやるか」という感じもするが、「なるほど、これは本当に靖国問題で困っているんだろうなあ」という気もする。
〇中国は本当に変な国で、安全保障や経済よりも国民感情が優先されてしまう。ほかのどんなことも耐えられるけど、プライドが傷つくのが我慢できない。しかし「国民感情が傷つけられる」というのは、目に見えない問題であるだけに説明が難しい。「空気読め」と言われたって、日本人には中国の空気は読めませんからな。まして第三国の人たちにとっては、本件はチンプンカンプンであろう。中国が日本を責めれば責めるほど、西側メディアなどは日本に味方するようになる。その辺は分かっていながら、中国は日本叩き、靖国批判を続けてしまう。
〇彼らにとってはまことに気の毒なことに、日本には自分たちがアジアで孤立しているという切迫感はない。少なくとも、中国と韓国以外の国は、歴史問題を持ち出さないし、アセアンやインドはほとんどが親日国である。「政冷経熱」でも、別に困らない。そして中国が怒れば怒るほど、若い世代は反中になっていく。そして大多数の日本人は、「中国人はしょうがない」というお得意の我慢モードになりつつある。我慢する、ということは中国を無視するということだ。
〇ホンネの話、中国は自国の国民感情を制御できない。だから日本が行動を改めるべきだと言う。あほいえ、それならもっと低姿勢になれ、と日本側としては言いたいところである。でも中国としては、日本に対して低姿勢になるくらいなら、他のあらゆる資源を投入することも辞さない覚悟であるらしい。抗日記念館の大改装も、そういうことなのだろう。
〇どうでもいいことだが、記念館のトイレの洗面台は「TOTO」であった。いいのか、そんなことで。
〇夜は一行で北京の繁華街を散策。満月である。ふと、三笠の山に出でし月かも、という安倍仲麻呂の句が思い浮かぶが、上の句が出てこない。まあ、いっか。明日は上海に移動します。
(後記:天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも〜ちなみに仲麻呂が滞在したのは北京ではなくて長安です)
<11月18日>(金)
〇朝は天安門広場へ。毛沢東の肖像が飾ってある、アレだ。テレビなどで見慣れた光景とはいえ、不思議と思い出すのは1970年代のことばかり。人民解放軍がパレードを行い、それを天安門の上から閲兵する毛沢東や周恩来たちの姿、というやつだ。冷戦期の記憶は遠くなり、21世紀の中国はそんな過去を振り切りつつ前進しているように見える。
〇同行の王雅丹さんは、80年代には真面目な共産主義少女であり、学業優秀のご褒美として、全国の大学生から選抜されて天安門に登る栄誉を得た。それはもう、天にも昇る心地であったそうだが、今ではこの天安門、15元払えば誰でも登れてしまう。登って広場を見渡せば、毛沢東の気分をちょっとだけ味わえるが、土産物も売っているという単なる観光地である。それでも「荷物持ち込み禁止」と、やたらと多い警官の数が、かすかに仰々しい感じをかもし出している(私服警官も居たような気がする)。おそらくテロ行為を警戒しているのであろう。
〇天安門の向こう側には紫禁城が広がっている。明の永楽帝が建設し、以後の明と清の歴代皇帝がここで住み、執務を行なった。最後にこの城の主となったのは、言うまでもなく『ラストエンペラー』こと溥儀である。年老いたジョン・ローンがこの紫禁城に迷い入り、子供の頃に隠した宝物を拾い上げるというラストシーンを鮮明に思い出しました。
〇紫禁城の中を歩きながら、口さがない一行が言い出したのは、「後宮美女3000人というのは本当に居たのか?」である。たしかに紫禁城は広い。しかも一部は修復工事中で入れなくなっている。2008年の北京五輪に向けて完全修復を目指しているのであろう。(とにかく至るところで、「昔はここも汚かったけど、綺麗になったねえ」という言葉が出てくるのが今の北京である)。だから全部を見回ったわけではないのだが、「大奥」に当たるところはどうなっていたのか、ちょっと気になるじゃありませんか。
〇裏口まで出たところで結論が出た。たしかに紫禁城は広い。これだけ広いスペースをメンテナンスするためには、膨大な人力を必要としただろう。料理人やら掃除人やら庭師やら、それから今は台北に行っている膨大な宝物の維持管理など、それだけでも3000人くらいの常駐者がいたのではないか。となれば、後宮の貴妃たちもいいところ30人くらいであろう。そうそう、中国人はオーバーなんだから、ゼロを二つくらい足していても不思議ではない。ということは、例の「30万人」というのも本当は・・・・(以下略)。
〇紫禁城を出たところで、金田秀昭元海将がしみじみと言った。「この城の警備をまかされたら大変だろうな・・・・」。なるほど、周囲があまりにも長いので、人を張り付けて1日3交代させるだけで実に膨大な人手が必要になる。しかも「えー、第八方面に不審人物を発見。検問いたします」なーんて、近代的な通信器具も使ってはならないのである。それこそテロ対策も含めて、さまざまな手はずが取られていたはず。それにしても金田海将、さすがプロというか、餅屋には餅のことがよく分かるようだ。
〇何にでもいえることですが、物事はハードとソフトとシステムの3つが統合されてはじめて機能する。箱もの(ハード)の壮大さに気を取られると、それを動かしている人(ソフト)と運用方法(システム)が見えにくくなる。簡単にいってしまうと、「籠に載る人担ぐ人、そのまたわらじを作る人」という話であって、紫禁城を支えていたソフトとシステムは非常に精緻で複雑なものだったことだろう。得てしてハードは残るのだが、ソフトとシステムは歴史に残らない。だから想像するしかない。
〇空港に向かう途中で、双日の北京オフィスに立ち寄る。いつものことですが、現地商社マンこそは最良の情報源でありまして、国際会議で飛び交った情報のリアリティ・チェックを行なうにはこれがいちばんよろしい。それにしても、商社の海外オフィスというのは、どこの都市に行っても似たような条件を備えた場所にある。初めて来た場所なのに、人心地がつくから不思議である。1階には絵に描いたような日本料理店があり、ここで連日の中華三昧とコーヒー断ちに小休止を入れる。ああ、ほっとした。
〇そして飛行機に乗って一路上海へ。1400キロの距離というから、東京ー大阪間の3倍くらいである。でも1時間40分くらいで着いてしまう。おいおい、こんな距離に新幹線を作ってどうしようってんだ。とてもペイするとは思えないんだけど。
〇夕刻になって上海に着陸。北京とはうって変わって暖かくて、近代的で、空気には適度な湿り気がある。こんな感覚が以前にもあった。それは99年秋にベトナムに行ったときのこと。ハノイからホーチミンに着いた瞬間に気持ちがウキウキした。社会主義政権のある北の首都よりも、南の経済中心都市の方が心地よいのは自明の心理というものである。
〇ここで上海国際問題研究所の面々と合流する。若い女性に聞いた「最近の流行語」という話が面白かった。
(1)カワイイ(日本とまったく同じ)
(2)まぶしい(キムタクがまぶしい、てな使い方をする。少し前に流行った「マブイ」みたいな感じか)
(3)ユーウツ(深刻な「憂鬱」ではなく、気楽に何にでも使われる。例:「白いコートが汚れてしまってユーウツなの」)
〇これらの語感、まったく日本語的だと思いませんか? ユーウツ、なんていうのはきっと村上春樹ファンが乱用しているのではないだろうか。くだんの女性も、「一休さん」や「東京愛情物語」(東京ラブストーリー)を見て育ったということなので、日本文化の浸透が窺える。
〇さて、そこからが問題でありまして、バスで2時間半揺られて蘇州に到着である。ヘトヘトになってチェックインしたら、ダイヤルアップができない部屋である。どどどっと疲れが・・・・でも、明日は9時から会議が始まってしまいます。ああ、見かけは素晴らしいホテルなんだけど・・・。
〇ところで、上海から蘇州にかけての工業団地の巨大さには度肝を抜かれましたな。アセアンの工業団地はずいぶん見学しましたが、量でも質でもこれに匹敵するものは皆無でありましょう。明日に天安門を見て、夕べに長江の産業集積を見る。今日も中国を駆け足で見ております。
<11月19日>(土)
〇業務連絡です。ここ蘇州のホテルは、フロリダはオーランドにあるような豪奢かつ近代的なものですが、部屋からのダイヤルアップ回線でさえ半日苦労してやっとつながる状況。いただいたメールのお返事も出来ません。(ごくたまに発信できるときあり。どうなっとるんじゃ)
〇会議は午前中に始まったばかりですが、かかる事態によっていたずらに疲弊するかんべえであります。午後イチで自分の発表の番が来ます。後はまた今晩。(13:44)
〇今朝から、上海国際問題研究所とのセッションが始まりました。北京の社会科学院日本研究所とはかなりムードが違う。もちろん、中国側の意見というのは、公式見解がガッチリできているのだけれど、それでも上海ではジョークも出るし、スタンドプレー的な発言もあったりして楽しい。どんな厳しい意見を述べていても、表情にはゆとりがある。この辺は土地柄の違いも反映されているのだろう。こちらも笑いを取りつつ、キツイ発言を連発してみる。そしてメシ時は、円卓を囲んで和やかに他愛のない話で盛り上がる。
〇なんとなく思うのだが、日中間のコミュニケーションというのは、気持ちは簡単に通じるけれども、論理になるとダメということが多いようだ。半日、同じ会議室に居ると、互いに目で会話ができるようになったりするので、「ああ、通じた通じた」と思う。が、話す内容は隔絶している。たとえば、ある中国側参加者が「日本が中国に侵略されたことがあり、そのときの征服者を祭っているとしたら、日本人はどう感じるだろうか?」などと言っていた。おそらく日本人は何とも思わないんじゃないかと思う。日本に原爆を落とす決断をしたトルーマン大統領を、日本人は恨んでいるだろうか? この辺の感覚のズレは大きい。
〇抗日記念館の中で、14人の日本のA級戦犯は、そこだけ大きな柱の上に写真が展示されていた。たびたびお世話になっている王雅丹さんによると、中国には「歴史の恥ずべき柱に永遠に杭を打つ」(被永遠地釘在歴史的恥辱柱)という表現があって、それを表しているのだろうという。つまり、中国人であれば分かるような、そこはかとない「隠喩」が込められているのだと。
〇さらに深読みすると、A級戦犯の展示の次の部屋には天皇陛下とケ小平が並んでいる写真があり、日中友好を歌い上げるコーナーになっている。これはA級戦犯の処理さえしてくれれば、後はそれ以上いいですよ、というメッセージなのかもしれない。しかし、そんなコミュニケーション手段は、単なる中国側の自己満足に終わっているのではないか。あまりにもsophisticatedで、日本側には全然通じていない。たぶん、両者の間にはこんな葛藤がある。
中「空気読めよ」
日「読めねえよ」
中「俺にそこまで言わす気が」
日「言わんと分からんじゃないか」
中「ふん、野蛮人め」
〇なにしろ両国間にはいろんな問題がある。中国の軍拡、台湾問題、北朝鮮核開発、東アジアサミット、尖閣諸島、春暁ガス田、東シナ海、日本の憲法改正、日米安保協力などなど。それぞれに両国の溝は深く、なおかつ互いに相手の悪い情報ばかりが目に付いて仕方がない。そして、これだけ問題が山積している中で、中国側がいの一番に歴史認識を上げるというのが、日本側としてはわけがわからない。かつて日本軍が散々悪さをしたフィリピンでさえ、60年も立てばもう何も言わない。アメリカでさえ、真珠湾のことを言わなくなった。韓国だけは仕方がない。あそこは400年前の秀吉のことまで持ち出すから。でも何で中国が、ストーカーみたいに歴史にしつこいのか。
〇「歴史を鑑として」というのが中国人の発想は、なかなか理解しにくいものがある。だってわれわれ、歴史に学ぼうとしてないもの。日本人の場合は「外国を鑑として」であろう。金融改革でも行政改革でも、何かというと「アメリカはどうなっている、ヨーロッパは?」と他国の例を探すのが日本のやり方だ(なぜか、アジアの例は参考にならないと思っている)。なにしろ昔から、日本は外国を真似るのが得意中の得意である。そのことに対する心理的なバリアも少ない。逆に過去を振り返ることはあんまり得意じゃない。その点、おそらく中国人は外国の真似をするなんて思いもよらず、もっぱら歴史を参考にする。ここにまず大きな差異がありそうだ。
〇もうひとつ、中国は猛烈な産業化の過程にあって、信じられないほど外国の商品や経営や文化を取り入れ始めている。おそらく明治期に夏目漱石などが悩んだような葛藤が、今のこの国にもあるのだろう。マクドナルドから村上春樹まで、海外のモノが怒涛のように入ってくる。一種のアイデンティティ・クライシスのような状態に直面すると、ますます歴史を拠り所としたくなる。そして20世紀の屈辱を思うと身を焦がしてしまう。
〇などという精神分析まがいの比較文化論を口にしたところで、当たってるかどうかは定かではないし、何よりそれで日中関係がどうなるものでもない。まあ、何もしないよりはマシという程度か。具体的に日中関係を良くする提言、といってもあんまり思いつきませんな。
〇本来ならば、岡崎研究所の一行に参加していてもおかしくない谷口智彦さんは、今年7月に外務副報道官に就任した。今週、BBC放送に出演して、「胡錦濤さん、日本に来てください。あなたなら日本人の心をつかめる。日本に来て、男になりなはれ!(Be
a man!)」と述べたんだそうだ。この直截的なメッセージは、中南海に届いているだろうか。そうであることを望みたい。
〇谷口さんは、この上海国際問題研究所の客員研究員をしていたことがある。今日、この話を紹介して、「皆さんはどう思われますか?」と質問してみたが、誰からも返事は返ってこなかった。ひょっとしたら、率直過ぎるアプローチで、文化度の高い相手に対しては通じなかったかな。それとも、単に冗談だと思われたのか? 週末なのに、何て悩ましい。(23:10)
<11月20日>(日)
〇今日、ブッシュ大統領が北京に着いた。胡錦濤国家主席と会談し、中国に自由の拡大を要請し、六ヶ国協議の協力を確認したという。
http://www.asahi.com/international/update/1120/003.html
〇アメリカの対中戦略は、先のゼーリック演説に凝縮されていて、良くも悪くもあれが現状における米中関係のベストであるといえる。つまり、アメリカ側は「中国は国際社会におけるresponsible
stakeholderであれ」と言い、中国側はハイハイと適当に聞き流しつつ、面従腹背というか、まあこんな風に握っていればとりあえずは大丈夫だろうと思っている。アメリカ側の心境はさらに複雑で、政治的には中国を取り込むぞと思いつつ、軍事的にはおさおさ怠りはしないぞ、との思いがある。だからラムズフェルドが噛み付くのである。
〇中国との2つの国際対話を終えて感じるのは、なるほど日中関係の障壁は一に靖国神社、二に台湾問題であるということが実感できた。両方とも、中国人民の感情問題であって、これすなわち中国政府が妥協できない問題なのであると。それ以外の問題、たとえば春暁ガス田などは、所詮は末端に過ぎぬ。両国間のボタンの掛け違いはまことに深刻なるも、ここまでであればギリギリ事態は修復が可能なのであろう。
〇ところが中長期的に見た場合、中国がもっとも警戒するのは、仮想敵ナンバーワンのアメリカと日本が密接に組んでいること。「2+2」協議などは気になって仕方がない。なんとなれば、中国は今はアメリカと協調しているけれども、いつの日か覇を競ってやるぞという思いがある。そんな中で、アメリカの手代を務めている日本は困ったもんだと思っている。他方、日本側からすれば、海洋国家日本がアメリカと組むのはほとんど選択の余地がない。こればっかりは、いくら日中友好といえども曲げられない基本路線である。
〇さらに複雑なのは、ブッシュ政権がアジア政策に資源を割く余裕がなくなっているなかで、政権も安定し経済も復調している日本に対して「俺の分まで頑張ってくれ」というメッセージがあること。これは台湾でも感じたことだが、アメリカが退潮気味であるからこそ、日本に前に出て欲しいという気持ちがある。しかし、日本政府がそういう身を引き裂かれるような決断を下すかどうかは、なんとも難しいところです。
〇ということで、上海国際問題研究所との間の「東亜安全形成与中日関係」というセッションが終わりました。かんべえは4つのセッション全部で発言しました。政冷経熱というけれども、経済の熱が政治の冷却を許さないこともありうるのではないか、むしろ経済固有の事情によって、中国経済への熱が醒めることの方が心配なんじゃないか、というのが事前の仮説でした。でも、やっぱり政治の壁は厚いのかなあ。結局は日中間の文化論になってしまうのですけれども。
〇中国は戦略志向で、まずトップの大方針ありき。日本は戦術志向で、まず出来るところから手がけようとする。前者は川上から、後者は川下からというアプローチになるので、真ん中で出会うことが難しい。これは中国の政治指向(まず日中間の外交3文書の確認を)、日本の経済指向(具体的なプロジェクトを始めましょう)という交渉スタイルにも影響している。次に、中国側の時間軸指向(歴史を鑑とする)と、日本側の空間軸志向(外国を鏡とする)という違いがある。3点目に中国側のデジタル思考(善と悪を峻別する)と、日本側のアナログ思考(価値判断にはあまり興味がない)という対照性がある。
〇それでも、個人的にはワイワイと仲良くなれるのはありがたいものです。その後、蘇州市の名物をいくつか見せてもらいました。状元(科挙の試験で1番になった人に与えられる称号)になった人の実家は面白かったなあ。日本では国家公務員試験を1番で通ると、「これで次官は確実」などと思ったりする。しかるに3年に1度しか行われない科挙に通る努力は並大抵ではなく、状元になれば栄耀栄華+将来の宰相の座は認定されたも同然。ところが、地元第一号の状元氏は弱冠24歳で亡くなってしまった由。はかない話ではあるが、そのお陰で歴史に名を残したともいえる。はたしてどっちが幸せなんでしょうか。
〇夜は名物、上海蟹をつついての宴会。例のジョークを紹介してみる。
「東アジア各国の代表4人が集まって、互いに誰が一番存在感があるかを勝負しようという事になった。
北朝鮮の将軍は、大量の軍事予算を計上し、核ミサイルを配備した。
韓国の大統領は、北朝鮮にエネルギーと食料を大量に支援すると発表した。
中国の首席は、予算と人材を惜しげなく注ぎ込み有人宇宙船を打ち上げた。
日本の首相は、神社にコインを一枚投げ込んだ。」
〇大爆笑でありました。「いやあ、受けたので安心した」と言ったら、「北京はともかく、上海には言論の自由がありますからね」とのこと。たとえばこんなのもあるそうです。
中国で見たくないもの
李鵬の書
李瑞環の顔
朱鎔基の眉毛
江沢民の奥さん
〇李鵬の書は大変評判が悪いのだそうで、さる場所で揮毫した書はいつもは取り外されていて、本人が来訪するときにあわててかけ直すのだとか。また、落ちの具合からは、朱鎔基は人気があって、江沢民はそうでもない、という感じが窺えて興味深いものがあります。次に日本側から披露されたのが、自衛隊に関するアネクドート。
陸上自衛隊 用意周到 頑迷固陋
海上自衛隊 伝統墨守 唯我独尊
航空自衛隊 勇猛果敢 支離滅裂
統幕本部 高位高官 権限皆無
〇こんな調子で盛り上がっていたところに、メインの上海蟹が届くと、急にテーブルは静かになるのであります。蘇州には、湖面の上に船を並べた蟹専門店が、ネオン街を形成している場所がある。そのすぐ足下で蟹を養殖しており、ここで食べると上海よりも新鮮で安いのだそうだ。もちろん東京と比べてはなりませんぞ。オスとメス、1杯ずつに取り組みましたが、「オスの方が美味い」というのが皆さんの意見でした。
〇夜は上海に戻って投宿。遅い時間に上海馬券王先生と合流。先生、どうもお手間を取らせましてありがとうございました。ああ、よく飲んだ。
<11月21日>(月)
〇中国経済はこれからどうなるのか。それが分かれば苦労はないわけで、世界中の人が同じことを知りたがっている。そして、1週間ぐらいの出張で何かヒントがつかめるほど、ワシは賢くはないし、この国も甘くない。
〇一般論でいいのであれば、かんべえの元々の認識はこんなものだ。一人あたりGDPでいけば、今の中国は500ドルから5000ドルといったところだろう。一国の内部の所得格差はこれぐらいが限界である。できればこれを伸ばしていって、1000ドルから1万ドルくらいに持ち上げられれば、めでたく「和階社会」に移行できる。しかし、5000ドル地域が1万ドルになるのはいいとして、500ドル地域を1000ドルにするのはとっても難しい。その間に、政治的あるいは社会的な変動が起きるのではないか。それがチャイナリスクの最たるものであろう。
〇中国の最先端を行く上海は、これはもう自然な勢いに任せておけば、あっという間に5000ドルが1万ドルになりそうである。というより、すでに世界の最先端を走ってしまっている。これがいつまで続くかどうかはさておいて、この街で仕事をしていたら面白い体験がたくさんできそうだ。特に若い人にはお勧めのワンダーランドであろう。齢45歳となって、今さら新しい知識は入りにくくなり、新しい言語に挑戦する気力などさらさら起きない当方としては、ちょっと気になるとなりの芝生といった世界である。
〇今朝はまずマイクロバスに乗って、沖合いに建設中の洋山港を見学に向かう。これがとっても遠い。東京から横浜までよりも遠いような気がする。上海はかくも広大である。ところが、近くまで行ったところでトラブル発生。女性ばかり100人程度の集団が路上で抗議集会を行なっているではないか。その辺で布団を干したり、ミカンの皮を撒き散らしていたり、なんだか剣呑な雰囲気。公安が2〜3人で警戒に当たってはいるが、あんまりやる気はなさそう。かくしてバスの通行は妨げられ、しかも彼女たちがじりじりと歩み寄ってくる。あわわわ、とバスは方向を転換。
〇のちに判明したところによると、彼女たちは港湾建設によって漁場を奪われる漁師の家族であり、その不満を訴えるために路上でピケを張っているらしい。われわれが乗っていたバスは、いかにも偉いさんが乗っているように見えたので、さっそく直訴に及んだというわけ。察するに年間7万件とも噂される暴動には、こういうささやかなものも含まれているのだろう。結局、一行は港に到達できなかったが、めずらしいものを見ることができたということで満足する。
〇次は噂のリニアモーターカーを試してみる。浦東国際空港から料金50元を払って乗車。貴賓席は100元だそうだが、とりあえず自由席である普通の車両で何ら問題はない。なにしろ全部乗っても7分間ですから。最高速度は431キロ。世界最速。地上では滅多に味わうことが出来ない迅速感である。おそらくそれ以上はリミッターをかけているのだろう。リニア技術の最大の問題点は、どうやってブレーキをかけるかであるからだ。
〇リニアモーターカーは、はっきり言ってしまうと80年代までの技術である。愛・地球博で使われたHSSTは、実はつくば万博の中古品だったりする。人間を大量に、安全に、安価に運ぶべしという交通の鉄則を考えると、リニアは最初から割りに合わない技術なのだ。日本の場合も山梨県でのJRの実験は続いているものの、ポスト新幹線の役割を期待する声はもうほとんどなくなった。万博の際の足としてはいいんですけれども。
〇上海のリニアも採算が悪いので、、この際、延長して市内まで続けようか、あるいはそもそも失敗だったんじゃないかといった議論が当地でもあるらしい。かんべえの見るところ、リニアで採算を取るのは無理筋なので、この際、かかった費用はサンクコストだと見なし、世界に上海をアピールする広告宣伝費なんだと割り来るのが賢明ではないかと思う。リニアは朱鎔基さんの肝煎りで始めたプロジェクトであり、伸び行く上海の象徴である。ところが、中国全体が「これからは成長より和階だ」とハンドルを切りつつあるなかで、早くも見直されつつあるというのが、この国のスピード感をよく表していると思う。
〇上海都市計画展示館に行くと、ここでは2020年の上海の大模型が展示されている。なかなかに稀有壮大だ。都市計画を行なうには、行政の強い指導力が必要なので、日本よりも中国の方がうまくやれるチャンスがある。ただし、ハードの発展が急すぎて、ソフトが追いつかないという例を1週間の滞在で何度も見ているだけに、大丈夫かなあという気がする。とはいえ、これだけ大きな国がこんな急発展を遂げるということ自体が前代未聞なのである。そして、この街に住む人たちは、朝令暮改も全然オッケーと余裕を持っているようにも見える。
〇それでも、むしろ地下の海上で展示していた1920年代の上海の様子が面白いと思った。上海市にはGood
Old Daysの記憶がある。これは中国の他の都市にはない顕著な特色であろう。
〇夜、馬券王先生に連れてもらって、あらためて夜の上海を散策する。都市の中央を流れる黄浦江を挟んで、古い上海と新しい上海が聳え立っている。いい光景である。お前はなにを待っているのか。立て。歩き出せ。目の前にあるチャンスをつかめ。そんな声がどこからか聞こえてくるような風情である。もはやそんなエネルギーのない当方としては、上海よ、お前はどこへ行くのか、と力弱く尋ねるくらいしかない。そんな疲れた中年男を、「シェンシェイ、10コ、シェンエン」という声が追いかけまわすのである。参った、参った。
〇ということで、この中国出張も間もなく終わり。馬券王先生、きのこナベとカクテルをごちそうさまでした。奥様によろしくね。
<11月22日>(火)
〇行きと同じチャイナエアーで帰ってまいりました。成田に着いたら、団長を務めていた川村純彦提督が「静かでほっとするなあ」。そうなのである。日本は中国と違って、アナウンスも少ないし、声高に話す人もいないし、全体にテンションが低いのだ。
〇最近の成田は出国に時間がかからない。先月の台湾のときもそうだったけど、せいぜい20分程度ですね。昔はひどいものでしたけれども、空港が進化したのでしょう。やはりインフラはハードよりもソフトが重要です。たとえば山手線というインフラは、ハードである車両や線路は全然たいしたことがありませんが、2〜3分おきにセットされた時刻表や、いつも指差し確認を怠らない車掌さんたちといったソフトの力によって、信じられないほどの効率性を保っています。けれども、人々はそのありがたみを感じないし、国際的に注目を集めたり、歴史の本に載ったりすることはないでしょう。
〇中国を1週間旅してきて、紫禁城からリニアモーターカーまで、派手なハードをいっぱい見てきました。大きなものを作ることが大好きな国なのだと思いますが、ソフトが追いつかなくて困っている例も少なくない。逆に日本は、ハードにはところどころで老朽化が始まっているけれども、ふと気がつくと便利な暮らしを享受しており、それは長年培われてきたソフトの力なのでしょう。いつもながら、よその国を見てくると、自分の国のことを考えさせられます。
〇かんべえ初の中国出張はこれで完了です。明日は休養。といいたいところだけれども、出発前に提出した原稿の書き直しがあったりして、さてさて、どうなることでしょう。とりあえず、自分の家のお風呂はいいですなあ。
●中国出張スケジュール
11月15日(火) 成田発、北京着 済み
歓迎宴会
11月16日(水)
「日中安全保障と協力」シンポジウム初日 at
中国社会科学院 済み
開幕式 (会場:日本研究所会議室)
第1セッション 中日安全保障と戦略関係
第2セッション 中日経済関係と民間交流
第3セッション 日本政局と中日の政治関係
11月17日(木)
「日中安全保障と協力」シンポジウム二日目 at
中国社会科学院 済み
第4セッション
東アジアにおける“地域協力”問題
抗日記念館見学
11月18日(金)北京発、上海着 蘇州泊 済み
天安門、紫禁城見学
上海国際問題研究所 歓迎晩餐会
11月19日(土) 蘇州泊 済み
「東アジアの安全保障と日中関係」
第1セッション 北朝鮮核開発問題
第2セッション 台湾問題
第3セッション 日中関係
11月20日(日) 上海泊 済み
第4セッション 海上安全保障
蘇州見学
上海馬券王先生と合流
11月21日(月) 上海泊 済み
上海見学
再び馬券王先生と合流
11月22日(火) 帰国 済み
<11月23日>(水)
〇中国出張を終えて、ホッと一息。来週はこの団体で講演の機会があります。ネットでは書けなかった話を中心にしたいと思っておりますので、ご関心のある向きはどうぞお出かけください。
●霞山会 11月定例午餐会
中国にとって秋は外交のシーズンですが、とりわけ今年は米中関係が注目されます。ブッシュ政権は8月、米中定期戦略対話を開始して中国に対する協調姿勢を明確にしておりますが、経済面では中国の対米貿易黒字、知的財産権保護などの問題を抱え、安全保障では中国の増大する国防予算に懸念を示し、軍事面での透明性向上を訴えています。11月下旬のブッシュ大統領訪中を含め、メディアで活躍中の気鋭のエコノミストである講師に分析をお願いすることといたしました。
日 時 平成17年11月28日(月)12時30分〜14時30分
場 所 霞山会館「うめ・さくら」の間
演 題 経済と安全保障から見た米中関係
講 師 吉崎達彦 先生(双日総合研究所副所長)
会 費 3150円(消費税150円含む)
〇なーんて、話す内容はこれから考えるんですけどね。
<11月24日>(木)
〇今日は日本貿易会の会合がダブルヘッダー。「アジアのサステナブルな発展と商社」研究会があって、それから「貿易動向調査会」。2005年度と2006年度の見通しを作成するので、下手をすればエンドレス会議となる。座長はつらいよ、である。それでも、面白いネタがいっぱい拾えた3時間半でした。やはり貿易の現場はネタの宝庫である。などと思わせぶりなことを書いておいて、詳細は12月5日(月)発表。乞うご期待。
〇ところで、出張中に起きた事件について、少々のコメントを。驚いたことが少なくないのである。
●株価が好調で1万4000円台キープ――取り立てて株を買ってるわけじゃないけれども、強気論を吐いている立場上、ホッとした。今日は一時1万4800円台ですって。ゴーゴー!
●姉歯建築士による手抜き構造建築――みんな知らないのぉ?日本の建築法は、中小の建設業者を守ることばかり考えていて、住宅を買う人のことなんて全然考えてないんですよー。今回は大騒ぎになったからいいけれども、普通だったらこういうケースは訴えても負けるんですよー。
●紅白歌合戦司会にみのもんた――NHKの自信喪失は深刻ですな。みの氏を蛇蠍のごとく嫌う配偶者は、「絶対見ない」といっておりますぞ。
●高橋尚子が大復活――これぞビックリ仰天。さぞかし小出監督は困っているのでは?
〇一言で言ってしまうと、平和な世の中じゃのう。
<11月25日>(金)
〇今日は五百旗頭薫先生から、明治期の「条約改正」についての話を聞きました。かんべえは、中学高校の教科書程度の知識しかありませんでしたが、なるほど当時の日本政府の努力ぶりは頭が下がるもので、当時の西欧列強との不平等条約改正の交渉には、涙モノのエピソードがたくさん詰まっていたようです。
〇「なぜ日本はそこまで頑張れたのか」という点に議論が集中しました。当時、アジア・アフリカの独立国といえば、日本とエチオピアとタイくらいしかなく、そもそも西欧諸国にとっては、西欧以外の国と外交交渉をするという体験がほとんどなかったのだそうです。そんな中で頑張りとおしたわれらが祖先はまことに偉かったと思いますが、それを可能にしたものは何だったのか。さまざまな仮説が登場しました。
「江戸期の日本は西欧以上に豊かな国であったから」
・・・たとえば農民同士の暮らしを比べたら、日本の方が豊かだったかもしれません。当時の日本は知的水準も高く、海外の事情もかなり詳しかった。ただし、豊かであるがゆえに、西欧列強のカモにされてしまう可能性もあったわけで、それだけでは理由にならないでしょう。
「明治政府の担当者が頑張ったから」
・・・日本の官僚が惰性で頑張りとおす、というのは昔も今も変わらぬ風景でありまして、あまりのしつこさに相手側が音を上げた、というのもありそうな話です。ただし、当時の条約改正の困難さを考えると、それだけでは説明がつかないような気がする。
「日本は外国のものを受け入れるのが大好きな国だから」
・・・当時の中国は、戦争に負けて西欧諸国と条約を結ぶのですが、国際ルールを受け入れるのが我慢できなかった。ところが日本は鹿鳴館まで作って、西洋かぶれしちゃうのですから半端じゃありません。思えば日本人が「外国を鏡とする」のは今も変わりませんね。それから本性は保守的なくせに、しょっちゅう「新しくなった」「変わった」といって喜ぶという国民性もある。これもひとつの材料ではあったでしょう。
「小国ならではの有利さがあったから」
・・・日本が小国であるからこその危機感があり、「条約改正」を目指すコンセンサスを集約するにも便利であった。中国のような大きな国ではこうはいかなかったでしょう。
「日本にはもともとマキャベリズムの伝統があったから」
・・・西欧諸国の狡猾かつ陰険なやり方に対し、明治の日本はわりと簡単に順応していたように見える。リシュリューやマキャベリがいなくても、「国益のためなら何でもする」ことにためらいがなかった。おそらく明治の元勲たちには、戦国時代のDNAや幕末を生き抜いた智恵が残っていて、当時の国際情勢に対応できたのではないか。今の日本人は、そこまでできません。安保理の常任理事国入りだってできませんからね。
「明治政府には、攘夷をサボってしまったという原罪意識があったから」
・・・これも大きな理由だったような気がします。本当は尊皇攘夷のために維新を起こしたはずなのに、政権を取ったらコロリと開国してしまった。その結果が不平等条約だというのでは、明治政府の存在意義が問われてしまう。だから、嫌でも条約改正に熱中する必要があった。
〇などと、いろいろ考えられるところではありますが、とにかく細くて長い道を通り抜けたということは間違いなく、明治の日本人はやっぱり偉かったと思うのであります。そしてまた、国づくりの最中では「国際ルールの受け入れ」に苦しむ姿を思い描くと、それは今の中国政府の努力に重なって見えて仕方がないわけであります。つい3日前まで中国に居た身としては。
<11月26〜27日>(土〜日)
〇ご無沙汰している大礒先生が、こんなことを書いておられます。
●大礒正美のよむ地球きる世界 :「これは皇室のお家騒動なのか?」
ここまでの経過で見過ごされているのは、皇室のことなど何も知らない世界の人々はどう見るかという視点である。これをまず2点に絞って指摘してみよう。
第1は、有識者会議の結論なるものを見れば、これは明らかに「秋篠宮外し」が目的だなと感じるだろうという点である。
〇女系天皇の話は、かんべえはあんまりウォッチしてないのですが、これは多くの人にとってギョギョッという論点だと思います。詳しくは本文をどうぞ。
〇さて、上記とは別の問題点をひとつ提起してみたいのですが、日本政府はなぜ大事なことになると第三者機関や有識者会議に判断を預けてしまうんでしょうかね。BSE問題も、「アメリカ牛は安全です」という結論を出すことを、学者に丸投げしてしまいました。判断を委ねられた先生方としても、さぞかし困ったことでしょう。よく竹中さんを目の仇にする政治家が、「大事な問題は学者ではなく、政治家が判断すべきだ」などとと言いますけれど、本当に大事な問題を判断するのは怖いというのがホンネではないのかと思います。
〇もうひとつ、有識者会議が結論に至る道筋も、「歴史を鑑とする」のではなく、「他国を鑑とする」いつもの方式で、「イギリスはこうしている、オランダでは・・・」という情報がすぐに飛び交うあたり、いかにも日本的な意思決定であったように思います。金融改革や規制緩和について他国の例を参照するのは分かりますが、自国の歴史と伝統の問題で他国の例を調べるというのは、良くも悪くも日本人のこだわりのなさを示す顕著な事例といえるでしょう。
〇BSE問題でも皇室典範の改正でも、この方式で決めることの最大のメリットは、責任者が分かりにくくなることでしょう。こんなことをやっているから、日本は政治的意思がどこにあるのか分からん、などと言われるわけです。本来であれば、大事なことは政治家が腹をくくって決めればいいんです。「皇室問題を政争の具にしてはならない」というのであれば、与野党で協議してもいいじゃありませんか。それをしなかったということは、この決定も無責任体制で決まったということになるのでありましょう。
〇といって、かんべえは別に、有識者会議の結論に対して否定的なわけではないのであります。皇室の長い歴史の中でも、「側室制度」という安全弁を外してしまったのはごく最近のことでありましょう。そして今後、「側室制度」を復活させる見込みがないという前提で、皇室を維持していかなければならない。(復活させよ、という意見もあるでしょうが、それでなおかつ天皇家が「国民の象徴」であり続けることは難しいでしょう)。ということは、「男の後継ぎが居ない」という事態は、今後何度でも発生する可能性があるわけです。
〇「とにかく血統を絶やさないことが大事」と考えた場合、あんまりほかに選択肢はないのが道理というもので、「男系でないと皇室の値打ちが下がる」的な反論はいかがなものかと思うのであります。有識者会議は、そういう普通な結論を下したに過ぎない。だったら、それくらい政治家がきちんと決めろよ、と言いたいわけであります。とはいえ、そんな発想をすること自体、かんべえが皇室崇拝の念が乏しい人間であるからかもしれないのですが。
<11月28日>(月)
〇財団法人霞山会の午餐会で米中関係をテーマに講師を務めました。よく知らずに引き受けてしまったのですが、霞山会といえば日中関係のご本尊みたいな場所で、その源流は東亜同文書院であるというから恐れ入りましてございまする。このページの11月23日分の告知を見て参加してくれた愛読者もいたようで、出席者名簿には「会友」や「顧問」というジャンルのほかに、「ネット」という区分けができていました。ご参集、ありがとうございました。
〇内容は2つの日中対話と日米台三極対話の紹介が中心となりました。それとは別に、昨今の米中関係について雑駁な印象を述べてみたつもりです。最後の部分で、「米中間には親和性がある」という議論を紹介しました。これは米国人、中国人のいずれもがよく口にすることですし、アメリカ・ウォッチャーの中岡望さんなんかも、最近のエントリーで下記のように書いています。
私の個人的な経験から言えば、アメリカと中国には一種の“親和力”が存在するように思われます。気質も、考え方も非常に近いものがあります。日米の間にはそうした“親和力”は存在しないのではないでしょうか。そうした“親和力”が外交政策にどれだけ影響を及ぼすか判断するのは難しいですが、米中が将来“同盟国”になる可能性は非常に大きいと思います。小泉政権の外交政策は、アメリカとの同盟関係を強化することで、対中国政策を構築しようとしているようですが、アメリカの対中政策は将来大きく変わる可能性があります。そうした可能性を、少なくとも今の政府の外交担当者は外交政策の重要なファクターと考えていないようです。
〇逆にいえば、日本と米国、あるいは日本と中国の間には異質性がある。「日本という国は政治的意思があるのかないのか、サッパリ分からん」てなことがよく言われますが、政治的意思が常に明確である米中両大国から見ると、この点が特に目立つのであろうと思います。
〇米中の最大の共通点は、どちらも大国であり、自国が世界の中心であると思っており、外国に自国を合わせるという必要性を感じていないことだと思います。この点、昨日も書きました通り、自国の皇室のあり方についてまで他国の例を参照してしまう日本というのは、自国が世界の周縁部にあると自覚しており、いつも「隣は何をする人ぞ」を確認しないと不安であるという強迫観念がある。そういえば、こんな早口言葉がありましたっけ(余計なことですが、元演劇部のかんべえはこれがちゃんと言えます)。
周囲の諸情勢を参照し、終始草案再審査の実際の詳に精進せられし秀才諸氏の意思を重視し、小生は誠心誠意本成案即時実施に賛成す。
〇「周囲の諸情勢を参照し」というメンタリティーは、今日の会議で発言するかしないかから、お葬式のお香典をいくらにするかまで、この国の日常生活の中では非常によく見られるものです。こういう態度が外交に表れると、「何を考えているのか分からないけど、とりあえず無難な相手」という定評が立つ。それがめずらしく「安保理の常任理事国になりたい」と自分で言い出したりしたから、中国が慌ててしまったりするわけです。
〇そこへ行くと、米国や中国は外交政策を決めるときに、「周囲の諸情勢を参照」したりしない。あくまで自国の世論が最優先である。多少の損があっても、気にすることはない。決めたら、それなりの政治的資源を投入してでも、意地を通してしまう。通らないと面子がつぶれたといって、大騒ぎになる。こういう行動パターンは、なるほど親和性があるだろう。強いて言えば、米国の外交政策がオープンな議論の末に決まるために、どんな意思決定をするかが見えやすいことに比べ、中国のそれは外から見て分かりにくいという違いはあるけれども。
〇それでは、中岡さんが言うように米中が同盟国になるか、といえば、それは違うだろうとかんべえは思います。むしろ相手の考えていることが分かるだけに、かえって覇を競うような形になるのだろうと思います。現在の米中関係は、互いに休戦状況を求めているようなところがある。アメリカは中東に、中国は経済建設に専念したい。そのために人民元改革から六者協議まで、さまざまな懸案をひとまとめにして取引をしている。ただし、これはあくまで暫定的な措置であって、いつかは衝突すると考えた方が自然であると思う。
〇そのときに日本がどっちにつくのか、というのは大テーマであって、「日中同盟でアメリカと対抗する」というのも思考実験としては面白いかもしれませんが、あんまり現実的ではない。やはり海洋国家同士の連帯を優先すべきなのだろう。と、こんな風に「周囲の諸情勢を参照しつつ」外交政策を決めていくのが、良くも悪くも日本の進路なのであろうな、などと思うのであります。
<11月29日>(火)
〇米財務省の為替報告書って、そんなもんすっかり忘れておりましたがな。
●米財務省為替報告書「人民元変動幅、来春までに拡大を」
【ワシントン=小竹洋之】米財務省は28日、主要貿易相手国の為替政策に関する報告書を議会に提出した。中国が実施した人民元改革に一定の評価を示し、「為替操縦国」に認定するという強硬措置は見送った。ただ、人民元の変動がなお小幅だと批判し、次回の報告書をまとめる来年4月中旬までの早い時期に一段の改革に踏み切るよう求めた。
(以下略)
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20051129AT2M2900L29112005.html
〇ということで、スノウ財務長官は、中国の為替政策に落第点をつけるのを遠慮しました。感謝祭休みで議会が休会中のときを狙って発表するあたり、話を大袈裟にしたくないというブッシュ政権の意図が透けて見えます。問題は議会の対中強硬派がこれでどう反応するかですが、おそらくお騒がせのシューマー上院議員あたりは、本件で自分が脚光を浴びるのは大歓迎なるも、実際に対中制裁法案提出には踏み切らないのではないか、とみずほ総研の安井さんも言っていましたな。
〇かんべえの夏時点の予想は、「米中摩擦には秋の陣がある」というものでした。これがなぜ外れたかといえば、おそらく米中間で包括的な取引が成立したからでしょう。米側は対中貿易赤字と為替問題を大目に見る。中国側は六者協議で汗をかき、対米関係を良好に保つ。昨日の繰り返しになりますが、これはあくまでも暫定的な体制であって、互いに「いつの日か衝突する」ことは覚悟した上でのうるわしい妥協なのではないかと。でもって、ブッシュ政権としては中国の為替政策を大目に見るつもりなのだと思います。
〇現在の米中関係を、「ゼーリック体制」と呼ぶのも一興でしょう。というのは、9月21日に行われたゼーリック演説が重要な役割を果たしているから。中国ではあの演説がとっても受けているらしく、至る場所でそのことが紹介され、「米中関係はこんなに良好だ」という話になるのです。実際に読んでみると、たいしたことは書いてなくて、おそらく米中戦略対話で話されているような内容をまとめただけなのでしょう。それでも中国側は、"Responsible Stakeholder"という今風の英語表現も含めて、今の対米関係に満足している様子でした。
〇これは実際に中国で議論をしてみて気付いたことなのですが、彼らは文書をとても大切にします。何とかコミュニケとか、何とか三原則というのが、よく出てくるでしょう? あれは共産党体制の産物なのだと思うのです。彼らは組織内で意見をガチガチに固めてくる。そこを外れると、相互監視システムによるお咎めを受けてしまう。だから会議の場ではアドリブが利かない。事前に予定していない質問が出てくると答えられなかったりする。こういう体制にいると、何事も事前に文書にまとめておいて、組織の許可を得た上で発言するのが無難だということになります。おそらくゼーリック演説は、上層部のお墨付きを得ている「金科玉条」になっているのでしょう。
〇もちろん、中国側としても対米サービスを怠るわけにはいきません。おそらく第2弾の人民元切り上げの用意をしているんじゃないでしょうか。もちろん、それはまたしても2%程度のささやかなものでしょうけれども。こんな読みから、先週24日には香港のNDF市場で人民元先物が大相場になったのだそうです。そういえば、前回の7月21日も木曜日でしたしね。中国政府は、さすがにそこは外してきた。それでは次のチャンスはいつか。ひとつは来年の旧正月でしょう。さらに穿った観測としては、「ブッシュ政権が窮地に陥ったときに出す」という見方もあって、これは田代秀敏先生の受け売りです。いずれにせよ、市場が完全に警戒を失った瞬間を狙ってやってくるはず。
〇他方、ブッシュ政権としては、国内の手前、あんまり中国を甘やかしているような態度を見せることもできません。「アジアにも自由と民主主義を」てなことを少しは言わなければならない。台湾へのリップサービスも必要です。11月16日の京都演説(どうでもいいことですが、金閣寺を前にしたブッシュ&小泉の絵はバカ受けで、世界中のメディアが使ってますね)などは、その典型であったのだろうと思います。つまり実際の対中外交はゼーリック演説にあるような現実主義路線で、ときどきブッシュ演説にあるようなネオコン路線を表に出して、ガス抜きを図るという二段構えになっているのではないか。もちろんブッシュ政権としては、前者がタテマエで後者がホンネであるわけです。
〇ところで今日は、景気に関して重要なデータが発表されています。まずは10月の鉱工業生産が102.1と上方修正されたこと。鉱工業生産の指数は、1996年も2000年も「103」という水準を越えられなかった。これを「越すに越されぬ一〇三高地」と言って、日本経済の難所といわれている。おそらく今回の景気回復局面は一〇三高地を抜くでしょう。内需も外需も、製造業を取り巻く環境は良好です。
〇もうひとつ、10月の失業率も発表されました。0.3ポイント上昇して4.5%ですが、これも景気回復局面にはありがちな現象です。実際、就業者数は6407万人と増加が続いている。労働者が景気の良さを自覚し始めたために、売り手市場になりつつあるのですね。かんべえが勤めているシンクタンクでも、年度末を控えて派遣社員さんをお願いしようかと思ったところ、まるでつかまらないのに愕然としているところです。去年とはえらい違いです。いやはや、景気は強いですよ。
<11月30日>(水)
〇早くもそんな季節になりましたかね。つい、これが気になります。
●2005年新語流行語大賞 候補 http://www.jiyu.co.jp/singo/
愛・地球博 iPod
悪質住宅リフォーム
あざーす アスベスト(被害)
頭がいい人、悪い人の○○○ 圧勝
打ち水大作戦 鬼嫁 おひとりさま
かるくヤバイ!? 官製談合
寒天レシピ(または春雨ヌードル)
クール・ビズ くの一候補 小泉劇場
小泉チルドレン/小泉シスターズ
子育て支援
さおだけ屋はなぜ潰れないのか?
JFK(ウィリアムス、藤川、、久保田)
刺客 ジャンガ、ジャンガ♪ 食育
女性専用車両
スタンディング・バー(立ち飲み屋)
戦後60年 想定内(外) 第3のビール
○○タン ちょいモテ、ちょいワル
ディープインパクト 敵対的買収 電車男
NANA なまら/せんない
20××年問題(…6,7,8年など)
日勤教育 ネット心中 脳力 のまネコ
ハードゲイ ハイ×5♪あるある探検隊♪
ヒラリーマン ヒルズ族 フィッシング
フォーーー! 富裕層 ブログ
平成の大合併 ポスト小泉(麻垣康三)
ボビーマジック ホリエモン
ホワイトバンド ムシキング 村上ファンド
メイドカフェ 萌え○○
MOTTAINAI(精神、運動) 郵政民営化
ロハス
〇あれあれ、「想定の範囲内」がないじゃないですか。フジテレビ攻防戦が盛んだった頃に流行した「ポイズンピル」「クラウンジュエル」「ホワイトナイト」「プロキシーファイト」「パックマンディフェンス」などのM&A用語がひとつも残っていない。政治ネタでは、「ガリレオ解散」や「殺されてもいい」(小泉首相)、「寿司ぐらいとってくれるのかと思ったら(以下略)」(森前首相)、「偉大なるイエスマン」(武部幹事長)なんぞも資格があるような気がする。「あいるけ」も入ってないし、「下流社会」も間に合わなかった様子。ちょいと寂しいですね。
〇さて、最近の流行語大賞は、「受賞者として誰を呼べるか」で決まる傾向があるらしい。上の候補を見ていて思ったのですが、これはもう小池百合子環境大臣を呼ぶしかありませんね。なにしろ、上に掲げた60語のうち、「クールビズ」「くの一候補」「小泉シスターズ」「刺客」の4つの言葉に関連しているもの。「2005年流行語の女王」ですね。それでもって、「ポスト小泉」にも名を連ねたりして。
〇今宵は昔、経済同友会に出向していた仲間の同窓会でした。もう忘年会シーズンが始まってしまった感あり。11月も今日で終わりです。
編集者敬白
不規則発言のバックナンバー
***2005年12月へ進む
***2005年10月へ戻る
***最新日記へ
溜池通信トップページへ
by Tatsuhiko Yoshizaki